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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】抗菌材
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/02 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
A61L2/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020068107
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021164523
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100101948
【弁理士】
【氏名又は名称】柳澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】大楠 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】高井 靖拡
(72)【発明者】
【氏名】大西 賢治
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0361061(US,A1)
【文献】特開2008-230665(JP,A)
【文献】特開2020-019677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の一部あるいは全部に、研磨により所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が略1μmにおいて平均の波高対波長比が0.0001以上0.01以下の凹凸であることを特徴とする抗菌材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の発生、生育、増殖などを抑制することができる抗菌材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品分野や、医療分野、衛生関連の分野など、様々な分野で抗菌材が使用されている。例えば食品の分野においては、食品の腐敗を抑えて食中毒などの発生を抑止する役割を担っている。また、賞味期限を伸ばして食品の保存性を向上させている。近年問題となっている食品ロスの問題に対しても、保存性の向上により食品の廃棄を抑制することができ、食品のコスト低減にも寄与することができる。このほかにも、健康志向の高まりから個人が使用する様々な物品や、公共の場で多数の人々によって使用される物品などに対しても抗菌材が使用されている。
【0003】
一般的な抗菌材としては、基材の表面に薬剤を塗布したり、表面材料に薬剤を混合して抗菌性を実現している場合が多い。薬剤の場合、食品への溶出が懸念される場合がある。また、使用する薬剤に耐性を獲得した耐性菌の発生も懸念されている。抗菌材としてはこのほかにも、銀あるいは銀イオンを用いた抗菌材なども用いられている。
【0004】
2012年ころから、トンボやセミなどの羽に存在するナノ表面構造に抗菌作用があることが報告されており、特許文献1には、セミの羽根の形状を模した構造を形成して抗菌性を得ることが記載されている。この特許文献1における抗菌材は、シリコン基板をエッチングすることにより柱状突起を形成するものであり、特に、その柱状突起をAsp≧1.80exp(-0.00083p)を満たすように形成している。ここで、Aspは柱状突起の縦断面形状のアスペクト比、pは隣り合う2つの柱状突起の中心間距離である。この条件を満たす柱状突起を形成することにより、細菌の生存率を1%以下にすることができると記載されている。
【0005】
特許文献1において柱状突起を形成する具体的な方法としてポリスチレンビーズを敷き並べておいてプラズマを照射して炭化させ、炭化により収縮して開いた隙間についてシリコン基板上に金の薄膜を形成し、ウェットエッチングにより柱状突起を現出させた後に金の薄膜を除去し、さらに表面のシリコン酸化膜を除去して完成させている。このような加工を行うには大規模な装置が必要であり、多大な費用を要するとともに、製造工程で金などの貴金属を用いており、製造された抗菌材も非常に高価にならざるを得ない。さらに、基材として使用できる材料も、シリコン基板など、エッチングに適する限られた材料しか使用できず、そのため用途も限定されてしまう。
【0006】
一方、加工方法として研磨加工の技術は広く一般的に使用されており、上述のエッチングなどと比べれば格段に安価に加工することができる。技術分野としては全く異なるが、粉体の付着を防ぐ技術として特許文献2に「F研磨」として記載されている方法がある。従来、研磨加工は凹凸を減らすあるいはなくすために行われているが、特許文献2に記載されている方法を用いると、研磨加工でありながらも所定の凹凸を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-072475号公報
【文献】特許第4064438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、安価に、広い用途で使用することができる抗菌材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願請求項1に記載の発明は、基材の表面の一部あるいは全部に、研磨により所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が略1μmにおいて平均の波高対波長比が0.0001以上0.01以下の凹凸であることを特徴とする抗菌材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨加工を用いているので、従来のエッチング加工などに比べて非常に安価に加工できるとともに、基材として多くの種類の材料に対して加工することができ、広い用途で使用可能な抗菌材を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の抗菌材の第1の実施の形態を示す概略図である。
図2】F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。
図3】本発明の抗菌材の第1の実施の形態及び鏡面仕上げ品を使用した抗菌作用の試験結果の一例の説明図である。
図4】本発明の抗菌材の第2の実施の形態を示す概略図である。
図5】本発明の抗菌材の第2の実施の形態の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の抗菌材の第1の実施の形態を示す概略図である。図中、11は金属体、12は凹凸である。図1に示した例では、抗菌材の基材を金属体11としている。図1(A)に示した例における金属体11は板状であり、その表面(片面または両面)の一部または全部に、研磨により所定の凹凸12が形成されている。また図1(B)に示した例における金属体11は球体であり、その表面の一部または全部に、研磨により所定の凹凸12が形成されている。この凹凸12は、抗菌作用を得たい部分、あるいは、食品などの抗菌作用を得たい物品に接触する部分に形成しておくとよい。
【0014】
基材となる金属体11としてはステンレスなどを用いることができるが、これに限らず、アルミニウムやチタン合金など、様々な金属であってよいし、研磨により凹凸12を形成できれば金属に限られるものではない。また、金属体11の形状も図1(A)、(B)に示した例に限られるものではなく、薄いシート状や、棒状、4面体や6面体などのキューブ型、基部と直立部を有するようなスタンド型、櫛形、メッシュ状、容器の内蓋形などを含め、種々の形状でよいことは言うまでもない。
【0015】
所定の凹凸12としては、どのような凹凸であるかが分かっているものであるとよく、周波数特性がほぼ揃った凹凸であるとよい。例えば、波長が略1μmにおいて平均の波高対波長比が0.0001以上0.01以下となるような凹凸が形成されているとよい。この所定の凹凸12の一例については測定結果を用いて後述する。また、このような所定の凹凸12を形成した部分では、後述する実験例でも示しているように抗菌作用が確認できており、金属体11に所定の凹凸12を形成することによって抗菌材として使用することができる。
【0016】
形成する所定の凹凸12は、どのような方向のスジ状の凹凸でもよいし、あるいは、いくつかの方向の凹凸が交差するように形成されていてもよい。例えば図1(A)に示すような板状の金属体11であれば、長手方向に延在する凹凸でも、短手方向に延在する凹凸でもよい。また、図1(B)に示すような球状の金属体11であれば、略緯度方向と略経度方向に交差する凹凸であってもよい。もちろん、ランダムに形成される凹凸であっても、全体として上述の条件を満たすような凹凸であればよい。また、金属体11の表面の一部に、例えば帯状に設けたり、例えば図1(A)に示すような板状の金属体11であれば、片面のみに設け、両面に設ける場合でも異なる位置に設けたり、模様のように形成するなど、凹凸12の形成位置や形状は限られない。
【0017】
金属体11に所定の凹凸12を形成する加工方法として、研磨を用いている。一般的な研磨加工では表面に存在する凹凸を削り落として滑らかな面を形成する技術であるが、ここでは研磨加工を上述のような所定の凹凸12を形成するために用いる。以前から凹凸を残す研磨加工も行われているが、残った凹凸はどのような状態であるかがわからず、再現性は無い。本発明では、金属体11の表面に対して、どのような凹凸であるかが分かっている所定の凹凸12を形成する。この所定の凹凸12を形成するための一つの方法として、例えば上述の特許文献2に「F研磨」として記載されている方法を利用することができる。このF研磨加工を行うと、それまで存在していた凹凸は排除され、研磨による所定の凹凸が形成されることから、安定した状態で所定の凹凸12が形成されることになる。このF研磨の技術は、特許文献2においては金属面への粉体の付着を防止する技術として記載されているが、抗菌作用については考えられてこなかった。
【0018】
特許文献2に記載されているF研磨は、研磨作業を進めても鋭利さが失われないダイヤモンド等の硬質研磨粒子を紙または布に貼り付けた研磨材を使用して金属表面を研磨処理するものである。研磨粒子の公称精粗度に応じてランク分けしており、表面仕上げの状態が粗い順に「F-2」(#60)、「F-1」(#120)、「F0」(#240)、「F1」(#320)、「F2」(#400)、「F3」(#500)、「F4」(#600)、「F5」(#800)、「F6」(#1000)、「F7」(#2000)などと称することとする。
【0019】
上述のF研磨によって形成された所定の凹凸12について、フーリエ変換を用いた波数解析を試みた。この解析によって、凹凸12の特徴を定量化し、具体的に、どのような間隔の凹凸がどのくらい高低差があるのかを数値で表すことができる。F研磨のいくつかのランクのF研磨による鋼板表面の凹凸形状について、次式(1)
X(k)=Σn=0 N-1x(n)・exp(-2πknj/N) …(1)
に従い離散フーリエ変換を行い、凹凸の波長(凹凸ピッチ)成分Lと波高成分Hの関係を解析した。比較参考のために、鏡面仕上げを行った場合についてもフーリエ解析を行い、F研磨との比較を行った。なお(1)式において、x(n)は、鋼板表面を探針センサで所定の長さ(距離)方向に走査した場合に、所定のサンプリング間隔の点で探針センサにより計測される高さ方向の値(表面の凹凸を表す)、すなわち、総サンプリング数N中のn番目のディジタルサンプリング値である。また、kは、単位長当たりの波数(空間周波数)f[回/μm]に対応する値であり(k=0,1,2,…,N-1)、全計測距離をD[μm]とすると、k=fDで表される。
【0020】
つまり、X(k)は、単位長当たり波数対応値kに対するフーリエ変換後の信号強度を表すベクトルであり、このベクトルの絶対値(長さ)が波の凹凸に比例する。従って、値kに対する変換後信号強度X(k)に対して、凹凸形状の波高Hは2|X(k)|/Nで表され、波高Hと波長Lの比(「波高対波長比」あるいは「波高比」という)H/Lは
H/L=2|X(k)|/NL …(2)
で表される。
【0021】
図2は、F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。上述の波高対波長比を波長ごとに示すと、一例として図2に示すような結果が得られた。図2には、F研磨のランクがF-2、F-1、F0、F1、F5、F7の場合と、鏡面仕上げを行った場合(「鏡面」と記している)を示している。実際の計測では、100μm以上の計測距離について0.1μm以下のサンプリング間隔で計測するとともに、そのような計測を数カ所で行い、それらの解析結果を平均して示している。
【0022】
図2に示した解析結果を参照すると、波長Lが略1μmで各グラフに明確な違いが現れている。この波長Lが1μmで見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べて波高対波長比の値として大きな値を示している。より具体的には、波長Lが1μmにおける波高対波長比の値は、鏡面仕上げを行った場合には0.0001以下であるのに対して、F研磨を行った場合には、いずれも0.0001以上となっており、ランクがF7では0.0001から0.0003程度、F5では0.0002から0.0004程度、F1の場合には0.0006から0.001程度、F0の場合には0.001から0.002程度、F-1の場合には0.005から0.007程度、F-2の場合には0.008から0.01程度であった。
【0023】
また、図2に示した解析結果によれば、例えば波長Lが1μmで見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べてグラフの振幅が小さい。この振幅は、各波長における平均値から2~3割程度である。従って、F研磨によってほぼ揃った凹凸が安定して形成されていることが分かる。なお、鏡面仕上げを行った場合の波高対波長比は2桁程度のばらつきが存在しており、凹凸が安定して形成されていないことが分かる。また、未研磨の面や研磨前の凹凸を残した面においては、測定する箇所によって解析結果が異なっており、またばらつきが大きく、図2に示すような揃った凹凸が存在していないことが分かった。
【0024】
もちろん、F研磨の場合にも、それぞれの凹凸にはばらつきがあるものの、面として見ると周波数特性が揃った凹凸が形成されており、このようなほぼ揃った周波数特性の凹凸が安定して再現されている。このことは、金属体11の表面に所定の凹凸12が安定して再現されていることを示している。
【0025】
研磨により形成された凹凸は特許文献1に記載されているような柱状ではないと考えられることから、特許文献1に記載されている条件との比較を一概に行えるものではない。仮に波長Lを突起の中心間距離、波高対波長比をアスペクト比と対応付けすると、特許文献1ではアスペクト比が0.3程度以上となるのに対して本発明における波高対波長比は0.0001以上0.01以下であり、遙かに小さい値である。このように、本発明では特許文献1において示されている条件の範囲外で抗菌作用が得られていることが分かる。
【0026】
図3は、本発明の抗菌材の第1の実施の形態及び鏡面仕上げ品を使用した抗菌作用の試験結果の一例の説明図である。本発明の抗菌材が実際に抗菌作用を有することを確かめるため、次のような試験を行った。まず、図1(A)に示したような板状でステンレス製の金属体11に、上述したF研磨のランクがF-2、F0、F3、F7により表面を研磨して所定の凹凸12を形成したものをそれぞれ用意した。これらを「F-2品」、「F0品」、「F3品」、「F7品」として示している。また比較例として、表面を鏡面仕上げした金属体11を用意した。この場合を「鏡面品」として示している。
【0027】
用意した5種類の金属体11の表面に、大腸菌を105 個程度播種し、24時間、37℃で静置した。その後、10mlのリン酸緩衝液で大腸菌液を回収し、回収液中の菌数を計数した。計数した結果を図3に示している。図3(A)には計数結果を示し、図3(B)にはそれぞれの計数結果を棒グラフとして示している。
【0028】
この試験の結果、「鏡面品」では菌数が8.4×104 個であったが、「F-2品」では1.8×104 個、「F0品」では1.2×104 個、「F3品」では6.0×103 個、「F7品」では53個であった。全体として、「鏡面品」よりも所定の凹凸12を形成した場合の方が菌数が減少しており、抗菌作用があることが分かった。特に「F7品」では、菌数が0.1%以下に減少しており、非常に高い抗菌作用を示している。
【0029】
この試験の結果から、「鏡面品」のように表面にほとんど凹凸がない状態では抗菌作用はほとんどなく、表面に凹凸12を形成しておくことによって抗菌作用が得られていることがわかる。従って、図2より波長Lが1μmにおける波高対波長比の値は0.0001以上の凹凸12を設けておくとよい。また、F研磨によって形成された凹凸12の波高対波長比は0.01以下であることから、表面に形成する凹凸12の波高対波長比は、0.0001以上0.01以下であればよい。
【0030】
さらにF研磨のランクから、粗い凹凸よりも細かい凹凸の方が抗菌作用が高いことがわかった。例えば菌数を1/10程度に減少させるのであれば、「F0品」よりも波高対波長比を小さくしておけばよく、波高対波長比が0.001より小さい凹凸12を表面に形成しておけばよいであろう。さらに例えば菌数を1/1000程度に減少させるのであれば、「F7品」程度の波高対波長比、すなわち0.0001から0.0003程度の凹凸12を表面に形成しておけばよいであろう。
【0031】
このような所定の凹凸12は、F研磨技術を含め、研磨という一般的な加工方法により形成している。そのため、従来のエッチング加工などに比べて簡易な設備で加工でき、比較的安価に加工することができる。また、基材についても従来のSi基板に限られず様々な基材を使用することができ、広い用途において利用することができる。もちろん、基材に所定の凹凸12を形成しているだけであって薬剤を使用していないので、薬害を引き起こすことはなく、安全である。
【0032】
例えば食品の分野では雑菌の繁殖を防ぐことが要求される。もちろん、完全に滅菌でき、菌の侵入を完全に防止できれば、それに越したことはない。しかし、費用対効果を考えた場合、滅菌までは現実的でない場合もある。ある程度の除菌ができ、抗菌の作用により菌の生育、増殖などをある程度抑制することができるだけでも、食品の賞味期限を延ばして食品ロスを低減でき、食品のコスト低減にも寄与することができ、その効果は計り知れない。F研磨により所定の凹凸12を形成した金属体11を用いることによって、そのような効果を得ることができる。さらに、上述の試験では、「F7品」では、菌がほぼ死滅しており、その効果は非常に大きい。
【0033】
所定の凹凸12を形成することにより抗菌作用を得ることができる理由として、上述した関西大学のチームは凹凸の突起が細菌の細胞膜を破るとしている。しかし、金属体11に形成している所定の凹凸12は、波長が略1μmでの平均の波高対波長比が0.0001以上0.01以下程度である。このような所定の凹凸12の突起は小さく、突起が細菌に与える物理的なダメージは大きくはないであろう。一方、凹凸面では凸部に電荷が集まることが知られており、凸部における表面電位の変化が細菌に影響し、あるいは凸部に細菌が接触することにより表面電位の違いの影響を受け、細菌の繁殖や増殖を抑えたり細菌を死滅させていると発明者らは考えている。
【0034】
図4は、本発明の抗菌材の第2の実施の形態を示す概略図である。図中、21は容器、22は内側面、23は内底面、24は外面である。この第2の実施の形態では、内面が抗菌作用を有する容器21の例を示している。図4に示す例では、断面が内底面23に対して内側面22が略直立する形状であるが、このような形状に限らず、容器21の形状は任意であり、口広や口細形状でもよいし、枡形などのような平面方向の断面が円形以外の形状であってもよい。
【0035】
容器21の内側面22または内底面23あるいはその両方の、一部または全部には、所定の凹凸12が形成されている。この所定の凹凸12は、上述の第1の実施の形態と同様であり、研磨により形成される。例えば、波長が略1μmにおいて平均の波高対波長比が0.0001以上0.01以下の凹凸を研磨により形成するとよい。また、この所定の凹凸12は、形成されている箇所によらず略均一であって、面として見ると周波数特性がほぼ揃った凹凸が形成されているとよい。このような所定の凹凸12を容器21内に形成することによって、容器21に収容する内容物における細菌の発生、増殖などを抑制することができる。
【0036】
このような所定の凹凸12を形成する研磨方法の一例としては、第1の実施の形態と同様に上述のF研磨を用いることができる。形成する所定の凹凸12は、内側面22においては上下方向(容器21の開口部と内底面23を結ぶ方向)に延在する凹凸として形成したり、周方向に延在する凹凸としたり、スパイラル状の凹凸にするなど、どのような方向のスジ状の凹凸でもよい。また、内底面23についても、同心円状の凹凸や、放射状の凹凸など、種々のスジ状の凹凸であってよい。いずれの場合も、スジ状の凹凸に限らず、ランダムに形成される凹凸であってもよい。
【0037】
もちろん、所定の凹凸12は内側面22や内底面23の全体に施すほか、内側面22については収容物が触れやすい内底面23から所定の高さまでとしたり、内底面23についても一部のみに設けるなど、部分的に所定の凹凸12を施すものであってもよいことは上述の通りである。
【0038】
図5は、本発明の抗菌材の第2の実施の形態の変形例を示す概略図である。31は金属部である。この変形例では、容器21がガラスなどで形成されており、その容器21の内側面22の下部に異なる材料、ここでは金属部31を配した例を示している。図5に示した例では、容器21の内底面23及び内側面22の下部が金属部31となっている。図4に示した例では容器21を金属により構成した例を示したが、例えばこの変形例のように凹凸を形成する領域について金属部31で構成し、それ以外の部分について別の材質に変更してもよい。
【0039】
金属部31には、内底面23あるいは内側面22部分またはその両方の、一部または全部に対して所定の凹凸12が形成されている。この所定の凹凸12として、上述のようにF研磨など、種々の研磨加工により、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上0.01以下の凹凸が形成されているとよい。この金属部31は、周囲を容器21のガラス部に接合されている。接合方法は任意であるが、例えば接着や溶着などにより行えばよい。
【0040】
容器21のガラス部は透明である必要はなく、色ガラスや半透明、不透明なガラス、装飾が施されたガラスなどであってもよい。もちろん、容器21の材質はガラスに限られるものではなく、プラスチックやその他の材質を用いてもよい。また、金属部31についても所定の凹凸12が形成できる材料であれば種々の材料を用いてもよい。
【0041】
上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態及びこれらの変形例から分かるように、本発明によれば、上述のような所定の凹凸12を形成するという非常に簡単な構成でありながら、抗菌作用を得ることができる。これによって、薬剤などを用いずに安全で、かつ安価に、広い用途で使用することができる抗菌材を提供することができる。
【0042】
なお、第1の実施の形態で示した金属体11に所定の凹凸12を設ける構成と、第2の実施の形態で示した容器21の内面に所定の凹凸12を設ける構成とを組み合わせ、所定の凹凸12が設けられた容器21内に、所定の凹凸12が形成された金属体11を投入して用いてもよいことは言うまでもない。
【0043】
上述した第1,第2の実施の形態及びこれらの変形例において、金属体11や金属部31として用いられる材質としては、一般的に用いられるステンレスのほか、アルミニウムやチタン、銅、スズなど、種々の金属や、様々な合金などであってもよい。また、これらの実施の形態や変形例では基材として金属を用いる例を示しているが、これに限らず、金属以外の材料であってもよく、所定の凹凸12を研磨により形成できる材質であれば、種々の材質の部材を用いてよい。さらには、例えば研磨により凹凸12を型に形成しておき、その型を用いて樹脂などにより成形したり、型を用いて後加工を施してもよく、成形後の面に所定の凹凸12が形成されていればよい。
【符号の説明】
【0044】
11…金属体、12…凹凸、21…容器、22…内側面、23…内底面、24…外面、31…金属部。
図1
図2
図3
図4
図5