(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】コーティングされた電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240508BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240508BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240508BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020545318
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2019053926
(87)【国際公開番号】W WO2019166253
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-18
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】カロ,ベネディクト
(72)【発明者】
【氏名】モイラー,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲルザンク,レギーナ
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0179484(US,A1)
【文献】特開2015-228290(JP,A)
【文献】特開2017-084673(JP,A)
【文献】特開2017-117561(JP,A)
【文献】特開2009-016302(JP,A)
【文献】特表2011-519142(JP,A)
【文献】特開2011-146360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた電極活物質を製造する方法であって、1バッチの前記電極活物質における少なくとも80%の粒子がコーティングされ、そして各粒子の表面の少なくとも75%がコーティングされており、
その方法が、以下の工程:
(a)一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMは、Ni、Coと、場合によりMnと、場合によりMg、Al、Ba、Ti及びZrから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせであり、xは、0~0.2の範囲であり、遷移金属TMの少なくとも15モル%は、Niである)で表される粒子状電極活物質を提供する工程、
(b)前記電極活物質を粒子状化合物M
1で処理する工程であって、M
1は、溶媒の有無にかかわらず、Li、Al、B、Mg、Si、Snから及び遷移金属から選択されるか又はこれらのうちの少なくとも2種類の組み合わせから選択され、前記化合物M
1は、カソード活性物質それ自体として作用せずに、そして前記化合物M
1が、溶媒を含まないか又は溶媒10~100vol%で希釈されているM
1についての酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物から選択される、前記の処理する工程
、
(d
)ロータリーキルン又は揺動キルン内において300~800℃の温度で、前記工程(b
)の後に得られた物質を加熱することによって後処理を行う工程
を含み、前記の工程(b)による処理が、前記粒子状化合物M
1を前記粒子状電極活物質の各々に添加しその両方を混ぜ合わせることにより行われる、方法。
【請求項2】
TMが、一般式(I):
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、
aは、0.6~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.2の範囲であり、そして
dは、0~0.2の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ba、W、Ti、Zr、又はこれらのうちの少なくとも2種の組み合わせであり、そして
a+b+c=1である)
により表される遷移金属の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)が、溶媒を使用せずに、プラウ剪断ミキサー、タンブルミキサー、水平ミキサー、高速ミキサー、高剪断ミキサー、コニカルミキサー、アイリッヒミキサー、又は自由落下ミキサーにおいて行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記(b)の工程後に、(c)前記粒子状電極活物質上に堆積されていない化合物M
1
を除去する工程を行い、次いで、
(d)ロータリーキルン又は揺動キルン内において300~800℃の温度で、前記工程(c)の後に得られた物質を加熱することによって後処理を行う工程を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(d)が20分間~180分間の範囲で持続される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(d)が、間接加熱式ロータリーキルンで行われる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)が、ノッカーを有するロータリーキルン又はノッカーを有する揺動キルンにおいて行われる、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(d)が、内部構造物を有するロータリーキルン又は内部構造物を有する揺動キルンにおいて行われる、請求項1~
7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程(d)において、前記ロータリーキルンが、10
-5~10
-2の範囲のフルード数で操作される、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)が、少なくとも20vol%の酸素濃度を有する雰囲気中で行われる、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(c)と工程(d)との間で、工程(b)で使用された溶媒が0~300℃の温度で除去される、請求項
4~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(d)が、固相と気相との向流下で行われる、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされた電極活物質の製造方法を対象としており、その方法は、以下の工程を含む:
(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Ni、Coと、場合によりMnと、場合によりMg、Ba、Al、Ti及びZrから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせであり、xは、0~0.2の範囲であり、遷移金属TMの少なくとも15モル%は、Niである)で表される粒子状電極活物質を提供する工程、
(b)前記電極活物質を化合物M1で処理する工程であって、M1は、溶媒の有無にかかわらず、Li、Al、B、Mg、Si、Snから、及び遷移金属から選択されるか、又はこれらのうちの少なくとも2種の組み合わせから選択され、前記化合物M1は、カソード活性物質それ自体として作用しない、前記の処理する工程、
(c)場合により、前記粒子状電極活物質上に堆積されていない化合物M1を除去する工程、
(d)利用可能な場合にはロータリーキルン又は揺動キルン内において300~800℃の温度で、前記工程(b)又は(c)の後に得られた物質を加熱することによって後処理を行う工程。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための現代のデバイスである。携帯電話及びラップトップコンピューターなどの小さなデバイスから、自動車用バッテリー及びe-モビリティ用のその他のバッテリーまで、多くの応用分野で検討されている。電解質、電極物質、及びセパレーターなどのバッテリーの種々の部品は、バッテリーの性能に関して決定的な役割を有する。カソード材料には、特に、注意が払われている。リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどの種々の材料が提案されている。広範囲にわたる調査が行われてきているが、これまでに見つかった解決策には依然として改善の余地がある。
【0003】
リチウムイオン電池の1つの問題は、カソード活性物質の表面における望ましくない反応である。このような反応は、電解質又は溶媒又はその両方を分解することがある。したがって、充電中及び放電中においてリチウム交換を妨げないで、その表面を保護することが試みられている。例としては、カソード活性物質を例えば酸化アルミニウム又は酸化カルシウムでコーティングする試みである。例えば、米国特許第8,993,051号明細書を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、そのような保護されたカソード活性物質の製造を保護するための方法を効率的にすることは、依然として改善してもよいはずである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の目的は、粒子状電極活物質の表面における望ましくない反応に対して十分な安定性を有する粒子状電極活物質を製造することができる方法を提供することであった。
【発明の効果】
【0007】
このような方法の改善は、実行が容易であり、かつ均一な製品をもたらすはずである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
したがって、冒頭で定義された方法が発見され、この方法は、これ以降、本発明の方法又は(本)発明によるプロセスとも呼ばれる。本発明の方法は、コーティングされた電極活物質を製造するための方法である。
【0009】
本発明の一実施形態では、粒子状物質の電極活物質は、2~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法によって、決定することができる。粒子は、通常、一次粒子の凝集塊から構成され、上記の粒径は、二次粒径を意味する。
【0010】
本発明と関連させて使用される「コーティングされた」という用語は、粒子状物質の1バッチにおける粒子の少なくとも80%がコーティングされることを意味し、そして、各粒子の表面の少なくとも75%(例えば、75~99.99%、好ましくは80~95%)がコーティングされていることを意味する。
【0011】
このようなコーティングの厚さは、非常に薄く、例えば、0.1nm~2μmとすることができる。いくつかの実施形態では、その厚さは、6~150nmの範囲とすることができる。さらなる実施形態では、そのようなコーティングの厚さは、16~50nmの範囲である。この文脈における厚さは、m2の粒子表面あたりの化合物M1の量を計算すると共に100%変換と仮定することによって、数学的に決定される平均厚さを意味する。
【0012】
好ましくは、コーティングの平均厚さは、そのような粒子状物質の電極活物質の平均径(D50)の最大10%になる。
【0013】
本発明の方法は、本発明の文脈では、工程(a)、(b)、(c)、及び(d)を含み、それぞれ、工程(a)、工程(b)、工程(c)、及び工程(d)とも呼ばれる。
【0014】
工程(a)は、一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Ni、Coと、場合によりMnと、場合によりMg、Al、Ba、Ti及びZrから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせであり、xは、0~0.2の範囲であり、遷移金属TMの少なくとも15モル%、好ましくは少なくとも33モル%、さらにより好ましくは少なくとも50モル%がNiである)で表される粒子状電極活物質を提供することを含む。前記電極活物質は、リチウム化されたニッケルコバルトアルミニウム酸化物、及びリチウム化されたコバルトマンガン酸化物から選択される。
【0015】
本発明の一実施形態では、粒子状電極活物質は、0.1~10m2/g、好ましくは0.1~1.5m2/gの範囲の比表面積(「BET表面」)を有する。BET表面は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分以上及びこれを超えてサンプルから気体を抜いた後に、窒素吸着によって決定することができる。
【0016】
層状のニッケルコバルトマンガン酸化物の例としては、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、
aは、0.6~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.2の範囲であり、そして
dは、0~0.2の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ba、W、Ti、Zr、又はこれらのうちの2種以上の組み合わせであり、そして
a+b+c=1である)
で表される化合物が挙げられる。
【0017】
好ましいリチウム化ニッケルコバルト酸化アルミニウムの例としては、一般式Li[NihCoiAlj]O2+rの化合物が挙げられる。r、h、i、jの一般の値は下記の通りである:
hは、0.75~0.95の範囲であり、
iは、0.04~0.20の範囲であり、
jは、0.01~0.05の範囲であり、そして
rは、0~0.4の範囲である。
【0018】
Li(1+x)[Ni0.2Co0.1Mn0.7](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.1](1-x)O2、及びLi(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2(なお、それぞれのxは上記で定義されている)、及び、Li[Ni0.9Co05Al0.05]O2が、特に好ましい。
【0019】
前記粒子状電極活物質は、好ましくは、添加剤(例えば、導電性カーボン又はバインダー)なしで提供される。
【0020】
工程(a)において、粒子状電極活物質は、流動性粉末として、又は有機溶媒中もしくは水中でのスラリーとして提供することができる。流動性粉末が、好ましい。
【0021】
工程(b)は、前記電極活物質を化合物M1(このM1は、Al、B、Mg、及び遷移金属から、又はこれらのうちの少なくとも2種の組み合わせから、溶媒の有無にかかわらず選択される)で処理することが含まれる。このような処理は、例えば、コーティング、堆積、又は含浸、特に、機械での固体コーティングによって、又は化学蒸着によって、又は含浸法によって、1つの工程又は1以上のサブステップで行うことができる。
【0022】
本発明の方法での工程(b)及び(c)は、混合器又は容器又は少なくとも2つの容器のカスケードで行われ、その混合器又は容器又はカスケードは、利用可能な場合には、本発明との関連で反応器とも呼ばれる。
【0023】
本発明の方法の一実施形態では、工程(b)は、15~1000℃、好ましくは15~500℃、より好ましくは20~350℃、さらにより好ましくは20~50℃の範囲の温度で行われる。工程(b)において、化合物M1が場合によっては気相である温度を選択することが好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態において、工程(b)は、常圧で行われるが、工程(b)は、減圧又は高圧で行われてもよい。例えば、工程(b)は、常圧よりも5ミリバール~1バール高い範囲の圧力で、好ましくは常圧よりも10~150ミリバール高い範囲の圧力で行うことができる。本発明の文脈では、常圧は、1atm又は1013ミリバールである。他の実施形態では、工程(b)は、常圧よりも150ミリバール~560ミリバール高い範囲の圧力で行ってもよい。他の実施形態では、工程(b)は、減圧下(例えば1~550ミリバール)で行われる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、化合物M1は、Al、Ti、B、Mg、Co、Y、Ta、又はZrの化合物、及びこれらのうちの少なくとも2種の組み合わせから選択される。その化合物M1それ自体は、カソード活性物質として作用しない。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、化合物M1は、LiOR2、LiOH、LiX、M2(R1)2、M3(R1)3、M4(R1)4-yHy、M2(OR2)2、M2(OH)2、M3(OR2)3、M3(OH)3、M3OOH、M4(OR2)4、M4[NR2)2]4、M2X2、M3X3、M4X4及びM5X5、及び対イオンの組み合わせ(例えば、M2(R1)X、M3(R1)2X、M3R1X2、M4(R1)3X、M4(R1)2X2、M4R1X3)を有する化合物M1から選択され、及びメチルアルモキサンから選択され、上記の様々な可能性のある記号は次のように定義される:
R1は、異なるか又は等しく、直鎖又は分岐のC1~C8-アルキルから選択され、
R2は、異なるか又は等しく、直鎖又は分岐のC1~C4-アルキルから選択され、
Xは、同じであるか又は異なり、酢酸塩、ギ酸塩、硝酸塩又はハロゲン化物(特に、硝酸塩又は塩化物)から選択され、Xの2つのイオンを硫酸塩又は酸化物で置き換えることができ、
M2は、Mg、Zn、及びCoから選択され、
M3は、Al、B、Y、及びTiから選択され、
M4は、Si、Sn、Ti、Zr、及びHfから選択され、Sn及びTiが好ましく、
M5は、Nb及びTaから選択され、
変数yは、0~4(特に、0及び1)から選択される。
【0027】
LiXの例としては、LiNO3、LiOH、及びLiClが挙げられる。
【0028】
M2(R1)2の例としては、n-C4H9-Mg(n-オクチル)、Zn(CH3)2、及びZn(C2H5)2が挙げられる。M2(OR1)2の例としては、Zn(OCH3)2、Zn(OC2H5)2、Mg(OCH3)2、及びMg(OC2H5)2が挙げられる。
【0029】
M2X2の例としては、ZnCl2、ZnSO4、ZnO、Zn(NO3)2、MgCl2、MgSO4、MgO、Mg(NO3)2、CoCl2、CoO、CoSO4、及びCo(NO3)2が挙げられる。
【0030】
M3(OR2)3及びM4(OR2)4の好ましい例としては、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、Si(O-n-C3H7)4、Si(O-イソ-C3H7)4、Si(O-n-C4H9)4、Ti[OCH(CH3)2]4、Ti(OC4H9)4、Zn(OC3H7)2、Zr(OC4H9)4、Zr(OC2H5)4、B(OCH3)3、B(OC2H5)3、Al(OCH3)3、Al(OC2H5)3、Al(O-n-C3H7)3、Al(O-イソ-C3H7)3、Al(O-sec-C4H9)3、及びAl(OC2H5)(O-sec-C4H9)2が挙げられる。
【0031】
アルミニウムアルキル化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、及びメチルアルモキサンが挙げられる。
【0032】
金属アミドは、金属イミドとも呼ばれる。金属アミドの例としては、Ti[N(CH3)2]4及びZr[N(CH3)2]4である。
【0033】
M3X3、M4X4、M5X5、及び対イオンの組み合わせを有する化合物M1の例としては、Al(NO3)3、AlONO3、Al2(SO4)3、AlOOH、Al2O3、Al(OH)3、B2O3、B(OH)3、TiCl4、TiOCl2、TiO(NO3)2、Ti(SO4)2、TiO2、TiO(OH)2、TiOSO4、ZrCl4、ZrOCl2、ZrO2、ZrO(OH)2、Zr(SO4)2、ZrOSO4、ZrO(NO3)2、HfO2、HfO(OH)2、HfCl4、HfOCl2、Hf(SO4)2、HfOSO4、HfO(NO3)2、SiCl4、(CH3)3SiCl、SiO2、CH3SiCl3、SnCl4、SnO、及びSnO2が挙げられる。
【0034】
メチルアルモキサンの例としては、一般化学量論のAl(CH3)2OH及びAl(CH3)(OH)2の化合物を含む、部分的に加水分解されたトリメチルアルミニウムタイプが挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態において、工程(b)は、溶媒(例えば、有機溶媒)又は好ましくは水中で行われる。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、n-ヘプタン、n-デカン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、オルト-、メタ-及びパラ-キシレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、N、N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びシクロヘキサノンが挙げられる。
【0036】
好ましい実施形態では、工程(b)は、水性媒体中で前記粒子状電極活物質をスラリー化し、そのスラリー化したものをその水性媒体中において化合物M1と接触させることによって行われる。
【0037】
溶媒が使用される実施形態では、溶媒と粒子状電極活物質との体積比が、9:1~1:50の範囲内である場合が好ましい。水が溶媒として使用される実施形態では、溶媒と粒子状電極活物質との体積比が5:1~1:50の範囲内である場合が好ましい。
【0038】
一実施形態では、粒子状電極活物質に対して、0.1~20質量%の化合物M1を使用することが好ましく、より好ましくは10~20質量%である。
【0039】
このような溶媒又は水ベースの工程(b)を達成するために、粒子状電極活物質は、有機溶媒又は水中でスラリー化される。このようなスラリー化は、10~100℃、好ましくは20~60℃の範囲の温度でもたらすことができる。
【0040】
次に、前記有機溶媒又は水のそれぞれに溶解する化合物M1の前記有機溶媒又は好ましくは水中溶液が提供される。前記溶液は、次に、工程(a)からの粒子状電極活物質と接触される。このような接触は、粒子状電極活物質を化合物M1の溶液に加えることによって、又は化合物M1の溶液を粒子状電極活物質に加えることによって達成することができる。
【0041】
このような接触により、化合物M1は、粒子状電極活物質と相互作用することが可能となる。例えば、化合物M1は、粒子状電極活物質の細孔に移動し、そのままで表面に堆積するか又は(好ましくは)対イオンを放出して表面に堆積する。ハロゲン化物などの対イオンが可能な限り完全に除去されることが有利である。
【0042】
工程(b)は、1分間~10時間、好ましくは2分間~2時間、より好ましくは5分間~1時間の範囲の期間とすることができる。塊のないスラリーが得られるまで、粒子状電極活物質をスラリー化することが好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態では、工程(b)は、化学蒸気分解反応の形で行われる。これには、粒子状電極活物質が、蒸発させた化合物M1で処理するか又は化合物M1のエアロゲルで処理されることが含まれる。
【0044】
本発明のさらに別の実施形態では、工程(b)は、溶媒をほとんど使用しないか又は全く使用せずに行われ、そして、粒子状化合物M1、例えば、酸化物、水酸化物、又はオキシ水酸化物は、例えば、プラウ剪断ミキサー、タンブルミキサー、水平ミキサー、高速ミキサー、高剪断ミキサー、コニカルミキサー、アイリッヒミキサー、又は自由落下ミキサーにおいて、一般式Li1+xTM1-xO2で表される化合物と混合される。
【0045】
乾式混合は、溶媒なしであるか又は非常に少量で行われ、例えば、粒子状化合物M1は、10~100vol%の溶媒で希釈される。次いで、希釈されていないか又は希釈されている所望量の化合物M1が、それぞれの粒子状電極活物質に添加され、両方が混合される。
【0046】
混合は、攪拌槽、プラウ剪断ミキサー、パドルミキサー、及びショベルミキサーで行うことができる。好ましくは、本発明の方法は、ショベル混合ツール、パドル混合ツール、ベッカーブレード混合ツール、最も好ましくは、高剪断又は高速ミキサー又はプラウ剪断ミキサーで行われる。好ましいプラウ剪断ミキサーは水平に設置され、水平という用語は、混合要素が軸の周りを回転するその軸を意味する。
【0047】
好ましい実施形態では、工程(b)は、その水平軸の周りを回転するドラム又はパイプ状容器内で行われる。より好ましい実施形態では、工程(b)は、バッフルを有する回転型容器内で行われる。
【0048】
任意である工程(c)は、前記粒子状電極活物質上に堆積されていない化合物M1を除去することを含む。このような任意に選択される工程(c)は、溶媒ベース又は水ベースである実施形態では、処理された粒子状電極活物質を濾過することができる。未反応の化合物M1は、溶媒、又は利用可能な場合に水と一緒に、除去される。
【0049】
追加の任意の工程は、もしあれば、溶媒の除去を含むことができる。前記溶媒の除去は、例えば、濾過、抽出洗浄、前記溶媒を留去することによる溶媒の除去、乾燥、及び蒸発により達成することができる。好ましい実施形態では、すべての又はほとんどすべて(例えば、99質量%以上)の溶媒が、蒸発によって除去される。
【0050】
溶媒の蒸発による除去(「蒸発」)の実施形態では、そのような任意の除去工程は、0~300℃の範囲の温度で行ってもよい。濾過又は抽出洗浄の実施形態では、そのような任意の除去工程は、0~100℃、好ましくは15~90℃の範囲の温度で行ってもよい。
【0051】
そのような任意の除去工程が、溶媒の蒸留による又は溶媒の蒸発による除去として行われる実施形態では、1~500ミリバールの範囲の圧力が加えられてもよい。濾過又は抽出洗浄の実施形態では、そのような任意の除去工程は、周囲圧力でも行ってもよい。
【0052】
このような除去は、利用可能な場合には、工程(c)と(d)との間で行うのが最適である。
【0053】
揺動
工程(d)は、工程(b)又は(c)の後に得られた材料を、利用可能な場合にはロータリーキルン又は揺動キルン内において300~800℃、好ましくは405~800℃、より好ましくは450~750℃の温度で加熱することによって後処理を行うことを含む。
【0054】
揺動キルンそれ自体は既知であり、例えば、米国特許出願公開第2012/0319035号明細書を参照されたい。工程(d)が揺動キルンで行われる実施形態では、前記揺動キルンは、1つの軸(好ましくは、縦軸)の周りで不完全な回転運動を行う。このような不完全な動きは、360°未満の回転になるがなり、360°の回転にはならない。一実施形態では、このような不完全な回転運動の旋回領域は、40~300°、好ましくは60~250°、より好ましくは80~180°、さらにより好ましくは90~130°の範囲である。不完全な回転運動の旋回領域は、回転運動の両端部のたわみ(反転点)で決定することができる。
【0055】
工程(d)に適したロータリーキルン又は揺動キルンは、2~50m、好ましくは3~35m、さらにより好ましくは5~25mの範囲の長さを有していてもよい。長さが1.5メートル未満のロータリーキルンは、実験室での試験に役立つ。
【0056】
工程(d)に適したロータリーキルン及び揺動キルンの断面は、200~10,000mm、好ましくは300~5,000mm、さらにより好ましくは300~4,000mmの平均直径を有していてもよい。断面は、円形又は非円形であってもよく、例えば、プリズム状の円形が好ましい。
【0057】
ロータリーキルン及び揺動キルンには、内部構造物(例えば、バッフル、リフターフライト、スクリュー、らせん、越流堰、又は、混合を改善するか、気相と接触させるか、若しくは停滞を増加させるための内部チューブ表面での同様の変形物)を含むことがある。内部構造物は、例えば溶接によって、チューブに対して取り外し可能であるか又は取り付けられていてもよい。この意味での内部構造物は、純粋な円筒形とは異なる内部チューブ表面の任意の変更であってもよい。
【0058】
少なくとも部分的にコーティングされた粒子状電極活物質と接触させるチューブ又はレトルト材料は、金属、金属合金、セラミック、強化セラミック、又はこれらのいずれかから作られたライニングとすることができる。一実施形態では、合金は、ステンレス鋼及びニッケルベースの合金から選択される。別の実施形態では、セラミックは、酸化物セラミックであり、好ましくは、Al、Mg、Si、Zr、Yの酸化物及びこれらの混合物である。一実施形態では、セラミックは、非酸化物セラミック(例えば、炭化物セラミック又は窒化物セラミック(例えば、SiC、Si3N4)、又は炭化タングステン(WC))である。一実施形態では、強化セラミックは、セラミックマトリックス複合材であり、好ましくは、アルミナ繊維で強化されたアルミナ及び炭化ケイ素繊維で強化された炭化ケイ素である。一実施形態では、ライニングは、アルミナセラミックタイルライニングである。一実施形態では、ライニングは、炭化タングステンコーティングである。他の実施形態では、キルン材料は、アルマイト化合金、チタン化合金、純ニッケル及び白金被覆合金から選択される。
【0059】
一実施形態では、ロータリーキルン又は揺動キルンは、ノッカーを有する。ノッカーを使用することにより、粒子状電極活物質がチューブの壁に付着することが防止され、流動性が維持される。
【0060】
本発明の一実施形態では、工程(d)は、20分間~180分間の範囲、好ましくは30分間~150分間の範囲、さらにより好ましくは30分間~100分間の範囲で持続される。
【0061】
本発明の一実施形態では、工程(d)は、間接加熱式ロータリーキルンで行われる。熱がチューブの壁を介して製品に伝達されるために、間接加熱式ロータリーキルンがロータリーチューブ内のガス雰囲気を調整できるので好ましい。直接加熱式ロータリーキルンでは、ロータリーチューブ内の高温の煙道ガス又はチューブ内の燃焼プロセスによって熱が供給されるために、雰囲気の調整の自由度が制限される。
【0062】
工程(d)における本発明の一実施形態では、ロータリーキルンは、10-5~10-2の範囲のフルード数で運転される。本明細書で使用されるフルード数は、遠心力と重力との比として定義される。
【0063】
本発明の一実施形態において、工程(d)は、例えば空気中又は酸素と空気との混合物(例えば、空気:酸素の体積が1:1、又は80体積%の酸素、又は99体積%の酸素)中において、少なくとも20体積%の酸素濃度の雰囲気中において行われる。
【0064】
本発明の一実施形態では、工程(d)は、ロータリー又は揺動キルンにおける固相と気相との主な流れ方向については、向流で行われる。
【0065】
工程(d)を実行した後に、コーティングされた電極活物質は周囲温度まで冷却される。
【0066】
本発明の一実施形態では、前記冷却は、冷却されたロータリーチューブ内で行われる。冷却されたロータリーチューブは、熱処理に使用されるロータリーキルンチューブに直接取り付けられるか、又は別個のチューブとすることができる。本発明の一実施形態では、冷却チューブは水によって冷却される。本発明の一実施形態では、冷却用ロータリーチューブの外面は、水で連続して洗浄される。
【0067】
本発明の一実施形態では、冷却用ロータリーチューブの外面は、強制対流によって、送風機又はファン機で空気を除去することによって、連続して空気冷却される。前記冷却用ロータリーチューブの外面も、ファン機や送風機で冷却することができる。
【0068】
本発明の一実施形態では、冷却用ロータリーチューブの外面は、強制対流によって連続して空気冷却される。
【0069】
冷却後に、材料は、場合により、空気分級機で粉砕されてもよい。場合により行われる粉砕の前か又は後に、スクリーンを使用してその材料を場合により分類してもよい。さらに、材料を磁気分離機で処理して、粉末から磁気不純物を除去することができる。
【0070】
本発明の方法により得られたコーティングされた電極活物質は、優れた電気化学的挙動(例えば、インピーダンス成長の減少、ガス処理、速度能力、及びサイクル寿命)を示す。それは、二次粒子が凝集する傾向は非常に低いことを示す。
【実施例】
【0071】
本発明は、実施例によってさらに説明される。
【0072】
概要:
工程(d)では、次のロータリーキルンを使用した。内径300mmのレトルトを備えたロータリーキルン。レトルトの全長が4830mmであり、一方、レトルトの加熱長さが1800mmである。加熱長さは、個別に制御可能な5つの加熱ゾーンに分けられる。内部の取り外し可能なリフターフライトが利用された。このロータリーキルンは、「RK1」と呼ばれる。
【0073】
試験方法:
単層ポーチセルの電気化学サイクル実験用の正極は、連続ドクターナイフコーティングシステムを使用して、94質量%のカソード活性物質(C.CAM.1、CAM.2、CAM.3、又はCAM.4のいずれか)(94質量%)、1質量%の活性炭(Imerysから購入したSuper C65L)、2質量%のグラファイト(Imerysから購入したSFG6L)、及び3質量%のポリフッ化ビニリデン(PVdF)バインダーを含むN-メチル-2-ピロリジノン(NMP)中に懸濁させたスラリーでアルミホイル(厚さ=20μm)上にコーティングし、その後乾燥(Mathis,KTF-S)することによって調製された。通常、すべてのスラリーは、少なくとも30gのカソード活性物質に基づいて調製し、使用されたNMPの量は、総固形分(CAM+SuperC65L+SFG6L+PVdF)が約65%になるような量であった。セルを組み立てる前に、電極テープを120℃の熱風チャンバーで16時間かけて乾燥させ、最後にロールカレンダーを使用してプレスした。
【0074】
前駆体の製造:
攪拌タンク反応器を脱イオン水で満した。混合された遷移金属水酸化物の前駆体の沈殿は、遷移金属水溶液とアルカリ性沈殿剤とを1.9の流量比で同時に供給し、合計流量が8時間の滞留時間になることによって開始された。遷移金属水溶液は、モル比が6:2:2であるNi、Co、及びMnを硫酸塩としてそれぞれ含み、遷移金属濃度の合計は1.65mol/kgであった。アルカリ性沈殿剤は、25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液からなっており、それらの質量比は25であった。水酸化ナトリウム水溶液を別々に供給することによって、pH値を11.9に維持した。粒子サイズが安定した後に、得られた懸濁液を攪拌容器から連続的に取り出した。混合された遷移金属(TM)オキシ水酸化物の前駆体は、得られた懸濁液を濾過して、蒸留水で洗浄して、空気中の120℃で乾燥し、そしてふるい分けによって得られた。
【0075】
工程(a.1):
C-CAM.1(比較例):上記のようにして得られた混合された遷移金属オキシ水酸化物の前駆体を水酸化リチウム一水和物と混合して、モル比が1.02であるLi/TMを得た。混合物を885℃に加熱し、酸素の強制対流中において8時間保持して、粒子状電極活物質を得た。
【0076】
D50=9.4μmが、Malvern InstrumentsからのMastersize3000機器においてレーザー回折の手法を使用して決定された。残留水分は、250℃で、300ppmと測定された。
【0077】
工程(b.1):
工程(a.1)からの粒子状電極活物質を高剪断ミキサーにおいてナノ結晶アルミナと接触させて、カソード活性物質粒子上にアルミナナノ粒子のコーティングを形成した。アルミナの量を、Ni+Co+Mnの合計を基準にして、0.1モル%のAlに調整した。処理された電極活物質C-CAM.1を得た。
【0078】
工程(c)を行わなかった。
【0079】
工程(d.1)
C-CAM.1を、投入速度12kg/hでRK1に供給した。すべての加熱ゾーンの設定温度は670℃であった。レトルトの傾きは、1°に設定した。レトルトの回転速度は毎分1.1回転であり、加熱ゾーンでの滞留時間は約1.1時間であった。向流空気流を、標準状態で4m3/hの流量で使用した。本発明の電極活物質CAM.2を得た。
【0080】
単層ポーチセル及びパルス試験を使用して、CAM.2についての放電インピーダンスの成長率の分析を行った。1番目のサイクルでのインピーダンスに対する500番目のサイクルでのインピーダンスの増加は、159%であった。
【0081】
工程(d.2)
C-CAM.1を、15kg/hの投入速度でRK1に供給した。すべての加熱ゾーンの設定温度は、670℃であった。レトルトの傾きは、1°に設定した。レトルト回転速度は毎分1.1回転であり、加熱ゾーンでの滞留時間は約1.1時間であった。向流空気流を、標準状態で4m3/hの流量で使用した。本発明の電極活物質CAM.3を得た。
【0082】
単層ポーチセル及びパルス試験を使用して、CAM.3についての放電インピーダンスの成長率を分析した。1番目のサイクルでのインピーダンスに対する500番目のサイクルでのインピーダンスの増加は、163%であった。
【0083】
比較例1
C-CAM.1は、単層ポーチセル及びパルス試験を使用して、放電インピーダンスの成長率を分析した。1番目のサイクルでのインピーダンスに対する500番目のサイクルでのインピーダンスの増加は、180%であった。