(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、及び、リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240508BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240508BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240508BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240508BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
(21)【出願番号】P 2023090199
(22)【出願日】2023-05-31
【審査請求日】2023-11-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 和希
(72)【発明者】
【氏名】橘 信吾
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第115832231(CN,A)
【文献】特許第6947814(JP,B2)
【文献】特開2022-037814(JP,A)
【文献】国際公開第2020/130123(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135415(WO,A1)
【文献】特開2022-189427(JP,A)
【文献】特開2020-064878(JP,A)
【文献】特開2018-073800(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187953(WO,A1)
【文献】特開2021-141066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Ni、及び、元素Mを含み、前記元素Mが、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Al、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Ta、Ba、S、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
細孔を有する、
リチウム金属複合酸化物であって、
窒素吸着等温線からBarrett-Joyner-Halenda法によって算出される累積細孔容積分布曲線において、90%累積時の細孔径PD90、50%累積時の細孔径PD50、及び10%累積時の細孔径PD10は、下記の(式A)に示す関係を満たす、
リチウム金属複合酸化物。
(PD90-PD10)/PD50≦2.5 …(式A)
【請求項2】
(組成式I)で表され、
M1は、Mn、Al、及び、Coからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
M2は、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Ta、Ba、S、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
下記(式Ia)から(式Id)に示す関係を満たす、
請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物。
Li[Li
α(Ni
(1-x-y)M1
xM2
y)
1-α]O
2 ・・・(組成式I)
-0.1≦α≦0.2 ・・・(式Ia)
0≦x≦0.5 ・・・(式Ib)
0≦y≦0.7 ・・・(式Ic)
0<x+y<1 ・・・(式Id)
【請求項3】
前記PD10は、下記の(式B1)に示す関係を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
5nm≦PD10 ・・・(式B1)
【請求項4】
前記PD50は、下記の(式B2)に示す関係を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
35nm≦PD50 ・・・(式B2)
【請求項5】
前記PD90は、下記の(式B3)に示す関係を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
PD90≦150nm ・・・(式B3)
【請求項6】
前記累積細孔容積分布曲線において、最大細孔径dpmaxは、下記の(式C)に示す関係を満たす。
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
dpmax≦170nm …(式C)
【請求項7】
リートベルト解析から得られるメタル席占有率SRが、下記の(式D)に示す関係を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
SR≦4.0% ・・・(式D)
【請求項8】
リートベルト解析から得られる平均結晶子サイズAKが、下記の(式E)に示す関係を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
80nm≦AK≦200nm …(式E)
【請求項9】
BET比表面積BSが下記の(式F)に示す関係を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
0.2m
2/g≦BS≦2.0m
2/g …(式F)
【請求項10】
中和滴定法により測定される残留リチウム量MSが、下記の(式G)を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
MS≦0.2質量% ・・・(式G)
【請求項11】
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物
を有する、
リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウム二次電池用正極活物質
を有する、
リチウム二次電池用正極。
【請求項13】
請求項12に記載のリチウム二次電池用正極
を有する、
リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、及び、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池において、正極は、例えば、リチウム金属複合酸化物を含む正極活物質を用いて作製される。
【0003】
従来、リチウム二次電池の性能を向上させるために、様々なリチウム金属複合酸化物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池においては、サイクル維持率の向上が要求されている。
【0006】
本発明は、サイクル維持率を向上させることが可能な、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、及び、リチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]
Li、Ni、及び、元素Mを含み、上記元素Mが、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Al、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Ta、Ba、S、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
細孔を有する、
リチウム金属複合酸化物であって、
窒素吸着等温線からBarrett-Joyner-Halenda法によって算出される累積細孔容積分布曲線において、90%累積時の細孔径PD90、50%累積時の細孔径PD50、及び10%累積時の細孔径PD10は、下記の(式A)に示す関係を満たす、
リチウム金属複合酸化物。
(PD90-PD10)/PD50≦2.5 …(式A)
[2]
(組成式I)で表され、
M1は、Mn、Al、及び、Coからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
M2は、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Ta、Ba、S、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
下記(式Ia)から(式Id)に示す関係を満たす、
[1]に記載のリチウム金属複合酸化物。
Li[Liα(Ni(1-x-y)M1xM2y)1-α]O2 ・・・(組成式I)
-0.1≦α≦0.2 ・・・(式Ia)
0≦x≦0.5 ・・・(式Ib)
0≦y≦0.7 ・・・(式Ic)
0<x+y<1 ・・・(式Id)
[3]
上記PD10は、下記の(式B1)に示す関係を満たす、
[1]又は[2]に記載のリチウム金属複合酸化物。
5nm≦PD10 ・・・(式B1)
[4]
上記PD50は、下記の(式B2)に示す関係を満たす、
[1]ないし[3]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物。
35nm≦PD50 ・・・(式B2)
[5]
上記PD90は、下記の(式B3)に示す関係を満たす、
[1]ないし[4]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物。
PD90≦150nm ・・・(式B3)
[6]
上記累積細孔容積分布曲線において、最大細孔径dpmaxは、下記の(式C)に示す関係を満たす。
[1]ないし[5]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物。
dpmax≦170nm …(式C)
[7]
リートベルト解析から得られるメタル席占有率SRが、下記の(式D)に示す関係を満たす、
[1]ないし[6]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物。
SR≦4.0% ・・・(式D)
[8]
リートベルト解析から得られる平均結晶子サイズAKが、下記の(式E)に示す関係を満たす、
[1]ないし[7]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物。
80nm≦AK≦200nm …(式E)
[9]
BET比表面積BSが下記の(式F)に示す関係を満たす、
[1]ないし[8]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物。
0.2m2/g≦BS≦2.0m2/g …(式F)
[10]
中和滴定法により測定される残留リチウム量MSが、下記の(式G)を満たす、
[1]ないし[9]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物。
MS≦0.2質量% ・・・(式G)
[11]
[1]ないし[10]のいずれか一つに記載のリチウム金属複合酸化物
を有する、
リチウム二次電池用正極活物質。
[12]
[11]に記載のリチウム二次電池用正極活物質
を有する、
リチウム二次電池用正極。
[13]
[12]に記載のリチウム二次電池用正極
を有する、
リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サイクル維持率を向上させることが可能な、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、及び、リチウム二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】リチウム金属複合酸化物の累積細孔容積分布曲線の一例を示す図である。
【
図1B】
図1Aに示す累積細孔容積分布曲線からPD50を算出する例を示す図である。
【
図2】リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
【
図3】全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下より、本発明の実施形態の一例について説明する。
【0011】
本明細書では、金属複合化合物は、略語「MCC」(Metal Composite Compound)を用いて示している。リチウム金属複合酸化物は、略語「LiMO」(Lithium Metal composite Oxide)を用いて示している。リチウム二次電池用正極活物質については、略語「CAM」(Cathode Active Material for lithium secondary batteries)を用いて示している。また、「Ni」や「Li」とは、ニッケル金属単体やリチウム金属単体ではなく、ニッケル元素やリチウム元素であることを示す。CoやMn等の他の元素の表記も同様である。リチウム二次電池は、正極と負極との間に配置された、非水電解質や固体電解質などの電解質を有し、リチウムイオンが電解質を介して正極と負極との間を移動することで、充電および放電を行うものを意味する。
【0012】
本明細書において、数値範囲を表す「-」は、上限値及び下限値を含む範囲を意味する。
【0013】
[A]LiMO
[A-1]結晶構造
本実施形態において、LiMOは、CAMとして用いられる物質であって、層状構造を有する。
【0014】
LiMOの結晶構造は、六方晶型又は単斜晶型であることが好ましい。六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm、及びP63/mmcからなる群から選ばれる一つの空間群に帰属される。また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c、及びC2/cからなる群から選ばれる一つの空間群に帰属される。上記のうち、LiMOの結晶構造は、放電容量が高いリチウム二次電池を得るために、空間群R-3mに帰属される六方晶型、又は、C2/mに帰属される単斜晶型であることがより好ましい。
【0015】
LiMOの結晶構造は、粉末X線回折測定装置を用いて観察することにより確認できる。粉末X線回折測定は、X線回折装置、例えば、株式会社リガク製UltimaIVを使用できる。
【0016】
[A-2]組成
上記LiMOの組成は、少なくとも、Li、Ni、及び、元素Mを含む。
【0017】
元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Al、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Ta、Ba、S、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
【0018】
LiMOは、Li、Ni、並びに、Co、Mn、及び、Alからなる群から選択される少なくとも1種の元素M1を含むことが好ましい。
【0019】
上記LiMOは、(組成式I)で表されることが好ましい。
Li[Liα(Ni(1-x-y)M1xM2y)1-α]O2 ・・・(組成式I)
【0020】
(組成式I)において、M1は、Mn、Al、及び、Coからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。M2は、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Ta、Ba、S、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
【0021】
(組成式I)において、α、x、yは、下記(式Ia)から(式Id)に示す関係を満たすことが好ましい。
-0.1≦α≦0.2 ・・・(式Ia)
0≦x≦0.5 ・・・(式Ib)
0≦y≦0.7 ・・・(式Ic)
0<x+y<1 ・・・(式Id)
【0022】
(組成式I)において、αの値が(式Ia)に示す範囲の下限値以上であることによって、リチウム二次電池の内部抵抗を低減させ、容量を増加させ、レート特性を向上させることができる。また、(組成式I)において、αの値が(式Ia)に示す範囲の上限値以下であることによって、Liを含有する副生成物の発生を抑制することにより、Liを含有する副生成物と電解液との反応を抑制し、サイクル維持率を向上させることができる。また、(組成式I)において、αは-0.03以上であることがより好ましく、-0.02以上であることがさらに好ましい。さらに、αは0.1以下がより好ましく、0.07以下がさらに好ましい。αの範囲としては、-0.03≦α≦0.1がより好ましく、-0.02≦α≦0.07がさらに好ましい。
【0023】
(組成式I)において、xの値が(式Ib)に示す関係を満たすことによって、リチウム二次電池の内部抵抗を低減させ、容量を増加させ、サイクル維持率及びレート特性を向上させることができる。また、(組成式I)において、xは0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。さらに、xは0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。xの範囲としては、0.01≦x≦0.4がより好ましく、0.02≦x≦0.3がさらに好ましい。
【0024】
(組成式I)において、yの値が(式Ic)に示す関係を満足することによって、リチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。また、LiMOがM2を含む場合、(組成式I)において、yは0.0002以上であることがより好ましく、0.0005以上であることがさらに好ましい。さらに、yは0.6以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。yの範囲は、0≦y≦0.6がより好ましく、0.0002≦y≦0.6がさらに好ましく、0.0005≦y≦0.5が特に好ましい。
【0025】
(組成式I)において、xの値とyの値との加算値(x+y)が(式Id)に示す関係を満足することによって、リチウム二次電池の初期容量及びサイクル維持率を向上させることができる。また、(組成式I)において、(x+y)は0.6未満が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましく、0.15以下が特に好ましい。(x+y)は0.01以上が好ましい。(x+y)の範囲は、例えば、0.01≦x+y<0.6、0.01≦x+y≦0.5、0.01≦x+y≦0.3、0.01≦x+y≦0.15が挙げられ、0<x+y≦0.15がより好ましい。
【0026】
M2は、Ti、Mg、Zr、B、Nb、及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素が好ましい。
【0027】
上記LiMOは、Li以外の金属元素の総物質量に対するCoの物質量が10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下がより好ましく、3モル%以下がさらに好ましく、1モル%以下が特に好ましく、0であってもよい。Li以外の金属元素としては、Ni及び元素Mが挙げられる。LiMOが(組成式I)で表される場合、Coの物質量は、Niの物質量[Ni]と、M1の物質量[M1]と、M2の物質量[M2]と、Coの物質量[Co]を用いて、下記の(式II)で算出できる。Coの物質量が上記範囲である場合には、リチウム二次電池の作動電圧が上昇し、リチウム二次電池の容量及びサイクル維持率の低下を抑制する場合がある。
100・[Co]/([Ni]+[M1]+[M2]) …(式II)
【0028】
(組成の測定方法)
LiMOの組成は、例えば、ICP発光分光分析装置(Optima7300(株式会社パーキンエルマー製)等)を用いて測定される。組成の測定前に、測定元素に応じて試料を酸又はアルカリに溶解させる処理を行う。
【0029】
[A-3]LiMOの細孔について
上記LiMOは、粉体である。LiMOは、一次粒子が凝集した二次粒子のみで構成されていてもよく、一次粒子と二次粒子との混合物であってもよい。例えば、LiMOは、複数の一次粒子と、その複数の一次粒子が凝集した二次粒子とを含んでいてもよい。
【0030】
上記の「一次粒子」は、顕微鏡(走査型電子顕微鏡など)を用いて1000倍以上30000倍以下の視野でLiMOを観察した際に、外観上、粒界が存在しない粒子である。そして、上記の「二次粒子」は、その一次粒子の凝集体である。
【0031】
LiMOは細孔を有する。具体的には、LiMOを構成する二次粒子は、複数の一次粒子の間に細孔を有する。
【0032】
(細孔特性の評価方法)
LiMOの細孔について、窒素吸着等温線からBarrett-Joyner-Halenda法(BJH法)によって、累積細孔容積分布曲線が求められる。
【0033】
図1Aは、上記LiMOの累積細孔容積分布曲線の一例を示す図である。
【0034】
図1Aにおいて、横軸は、細孔径(細孔直径)dpを示し、縦軸は、細孔容積を順次累積した累積細孔容積VPの百分率(%)を示している。
【0035】
上記LiMOの細孔は、累積細孔容積分布曲線において、90%累積時の細孔径PD90、50%累積時の細孔径PD50、及び10%累積時の細孔径PD10が、下記の(式A)を満たす。
(PD90-PD10)/PD50≦2.5 …(式A)
【0036】
((PD90-PD10)/PD50)は、細孔径スパンを表す。細孔径スパンが小さいほど、細孔径のばらつきが小さいことを示す。細孔径のばらつきが小さいと、例えばリチウム二次電池に用いる場合に電極反応や充放電特性のばらつきが低減し、サイクル維持率が向上する。
【0037】
LiMOが上記(式A)を満たすことにより、サイクル維持率を向上させることができる。(PD90-PD10)/PD50は、2.3以下であることが好ましく、2.2以下であることがより好ましい。(PD90-PD10)/PD50の下限値は、例えば、0を超え、0.1以上、又は0.3以上である。(PD90-PD10)/PD50の範囲は、0<(PD90-PD10)/PD50≦2.3が好ましく、0.1≦(PD90-PD10)/PD50≦2.3がより好ましく、0.3≦(PD90-PD10)/PD50≦2.2がさらに好ましい。
【0038】
窒素吸着等温線は、真空加熱処理装置(例えば、BELSORP-vacII(マイクロトラック・ベル株式会社製))を用いて、LiMOの試料について真空脱気処理を施した後に、吸着等温線の測定装置(例えば、BELSORP-mini(マイクロトラック・ベル株式会社製))を用いて、液体窒素雰囲気(温度77K)において試料を測定することで求められる。窒素吸着等温線において、単位重量のLiMOが窒素を吸着する窒素吸着量は、標準状態(STP;Standard Temperature and Pressure)の気体窒素の体積で表される。BJH法によって、その得られた窒素吸着等温線を解析する。BJH法は、細孔の形状を円柱状と仮定し、毛管凝縮を生じる細孔径と窒素の相対圧との関係式(ケルビン式)に基づいて解析する手法であって、細孔径dpが2~200nm程度である細孔(メソ孔等)の評価で用いられる。
【0039】
相対圧力であるp/p0が0~1に至る過程において、複数の細孔径dpに対する累積細孔容積のデータを抽出し、横軸が細孔径dp、縦軸が累積細孔容積である累積細孔容積分布曲線を得る。得られた累積細孔容積分布曲線から、PD10、PD50、及びPD90を算出する。PD10は、累積細孔容積が10%の第1の直線(
図1AのL10)を挟む2点のデータ値を通る第2の直線と第1の直線との交点から算出される。PD50は、累積細孔容積が50%の第3の直線(
図1AのL50)を挟む2点のデータ値を通る第4の直線と第3の直線との交点から算出される。PD90は、累積細孔容積が90%の第5の直線(
図1AのL90)を挟む2点のデータ値を通る第6の直線と第5の直線との交点から算出される。
【0040】
図1Bは、
図1Aに示す累積細孔容積分布曲線からPD50を算出する例を示す図である。
図1Bにおいて、PD50は、累積細孔容積が50%の直線L50を挟む2点のデータ値(点PDA、点PDB)を通る直線LX50と直線L50との交点から算出される。
【0041】
PD10は、下記の(式B1)に示す関係を満たすことが好ましい。
5nm≦PD10 ・・・(式B1)
PD10が5nm以上であると、電解液が電極内に保持されやすくなり、均一な電気化学反応が可能なため、局所的な劣化を抑制できる。その結果、サイクル維持率の低下を抑制できる。PD10は、6nm以上がより好ましく、8nm以上がさらに好ましく、10nm以上が特に好ましい。PD10の上限値は、例えば30nmである。PD10の範囲は、5nm≦PD10≦30nmがより好ましく、6nm≦PD10≦30nmがさらに好ましく、8nm≦PD10≦30nmが特に好ましい。
【0042】
PD50は、下記の(式B2)に示す関係を満たすことが好ましい。
35nm≦PD50 ・・・(式B2)
PD50が35nm以上であると、電解液が電極内に保持されやすくなり、均一な電気化学反応が可能なため、局所的な劣化を抑制できる。その結果、サイクル維持率の低下を抑制できる。PD50は、38nm以上がより好ましく、40nm以上がさらに好ましい。PD50は60nm以下が好ましく、58nm以下がより好ましい。PD50が上記上限値以下であると、電解液と接する面積が大きくなりすぎず、電解液との反応性の悪化を抑制し、電池容量の減少を抑制できる。PD50の範囲は、35nm≦PD50≦60nmがより好ましく、38nm≦PD50≦60nmがさらに好ましく、40nm≦PD50≦58nmが特に好ましい。
【0043】
PD90は、下記の(式B3)に示す関係を満たすことが好ましい。
PD90≦150nm ・・・(式B3)
PD90が150nm以下であると、LiMO中の粒子が割れにくいため、サイクル維持率の低下を抑制できる。PD90は、140nm以下がより好ましく、135nm以下がさらに好ましい。PD90の下限値は、例えば70nmである。PD90の範囲は、70nm≦PD90≦150nmがより好ましく、70nm≦PD90≦140nmがさらに好ましく、70nm≦PD90≦135nmが特に好ましい。
【0044】
(最大細孔径dpmax)
LiMOの最大細孔径dpmaxは、下記の(式C)に示す関係を満たすことが好ましい。dpmaxは、累積細孔容積分布曲線における100%累積時の細孔径に相当する。
dpmax≦170nm …(式C)
dpmaxを170nm以下に制御することにより、サイクル維持率を向上させることができる。dpmaxの下限値は、例えば、100nm、又は160nmである。dpmaxの範囲は、100nm≦dpmax≦170nmがより好ましく、160nm≦dpmax≦170nmがさらに好ましい。
【0045】
[A-4]その他の特性について
(メタル席占有率SR)
LiMOは、リートベルト解析から得られるメタル席占有率SRが、下記の(式D)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0046】
SR≦4.0% …(式D)
【0047】
SRは、層状構造のLiMOを構成するLi層(Li席)中において、Li以外の金属元素(例えば、Ni、元素M)が存在する割合である。SRが上記の上限値以下である場合には、リチウム二次電池において固相内の拡散抵抗が上昇しにくく、サイクル維持率の低下を抑制できる。SRが上記の下限値以上である場合には、リチウム二次電池の体積変化率が上昇しにくく、破損等が生じにくい。
SRは、3.5%以下がより好ましく、3.3%以下がさらに好ましい。また、SRは、1.0%以上がより好ましく、1.1%以上がさらに好ましく、1.2%以上が特に好ましい。SRの範囲としては、1.0%≦SR≦4.0がより好ましく、1.1%≦SR≦3.5%がさらに好ましく、1.2%≦SR≦3.3%が特に好ましい。
【0048】
(平均結晶子サイズAK)
LiMOの平均結晶子サイズAKは、下記の(式E)に示す関係を満たすことが好ましい。
80nm≦AK≦200nm …(式E)
【0049】
AKは170nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、130nm以下が特に好ましい。また、AKは90nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましく、105nm以上が特に好ましい。AKの範囲としては、90nm≦AK≦170nmがより好ましく、100nm≦AK≦150nmがさらに好ましく、105nm≦AK≦130nmが特に好ましい。
【0050】
AKが上記上限値以下である場合には、LiMOが適度に結晶成長しているため、サイクル維持率の低下を抑制できる。一方、AKが上記下限値以上である場合には、抵抗が高い箇所が生じ、劣化が局所的に生じることを抑制できるため、サイクル維持率の低下を抑制できる。
【0051】
(メタル席占有率及び平均結晶子サイズの測定方法)
SRとAKは、粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折パターンについてリートベルト解析を行うことにより算出される。リートベルト解析は、実測された粉末X線回折パターンと、結晶構造モデルから得たシミュレーションパターンとを比較し、両者の差が最小となるように、結晶構造モデルにおける結晶構造パラメータを最適化するための手法である。粉末X線回折測定は、X線回折装置を用いて行う。X線回折装置としては、例えば、D8 Advance(Bruker社製)を用いることができる。具体的には、LiMOの粉末を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°-90°、サンプリング幅0.02°の条件にて測定を行い、粉末X線回折パターンを得る。得られた粉末X線回折パターンをリートベルト解析する。リートベルト解析ソフトは、Bruker社製TOPAS ver.4.2を用いる。このとき、初期結晶構造モデルとして層状岩塩型結晶構造(Li1-nMen)(Me1-nLin)O2を用い、Liサイト中のメタル席占有率nの最適化を行う。これにより、SRとAKを算出できる。
【0052】
(BET比表面積BS)
LiMOのBET比表面積BSは、下記の(式F)に示す関係を満たすことが好ましい。
0.2m2/g≦BS≦2.0m2/g …(式F)
【0053】
BSが上記の上限値以下である場合、Liを含有する副生成物の発生を抑制することにより、Liを含有する副生成物と電解液との反応を抑制できる。BSが上記の下限値以上である場合には、リチウム二次電池における反応場が減少しにくく、リチウム二次電池のサイクル維持率の低下を抑制できる。
【0054】
(式F)において、BSは1.9m2/g以下がより好ましく、1.8m2/g以下さらに好ましく、1.5m2/g以下が特に好ましい。また、BSは0.4m2/g以上がより好ましく、0.6m2/g以上がさらに好ましく、0.8m2/g以上が特に好ましい。BSの範囲としては、0.4m2/g≦BS≦1.9m2/gがより好ましく、0.6m2/g≦BS≦1.8m2/gがさらに好ましく、0.6m2/g≦BS≦1.5m2/gが特に好ましい。
【0055】
(BET比表面積の測定方法)
BSは、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法によって測定される値である。BSの測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。BS(単位:m2/g)は、例えば、窒素雰囲気において、1gのLiMO又は後述の一次焼成物を105℃の温度条件で30分間乾燥させた後に、BET比表面積計(例えば、Macsorb(マウンテック社製))を用いて測定される。
【0056】
(残留リチウム量の測定方法)
LiMOに含まれる残留リチウムは、LiMOの作製の際にLiMOに残留するリチウム化合物であって、水酸化リチウム及び炭酸リチウムを含む。
【0057】
具体的には、LiMOに残留するリチウム化合物は、原料である水酸化リチウムの未反応物、原料である水酸化リチウムに不純物として含まれる炭酸リチウム、焼成の際に副生成物として生成された炭酸リチウム等である。
【0058】
残留リチウム量MSは、例えば中和滴定法を用いて測定可能である。水酸化リチウム及び炭酸リチウム等の残留リチウムの総量を測定する際には、まず、5gのLiMOと100gの純水とを100mLのポリプロピレン製容器に入れることで、スラリーを作製する。そして、スラリーを収容する容器の内部に撹拌子を入れた後に、その容器を密閉した状態で、5分間、スラリーを撹拌する。撹拌完了後、スラリーを濾過する。
【0059】
そして、スラリーの濾過により得られた60gの濾液に、濃度が0.1mol/Lである塩酸を連続的に滴下する。塩酸の滴下は、自動滴定装置(京都電子工業社製、AT-610)を用いて、pHが4.0となるまで実施する。このとき、塩酸が滴下された濾液において、pHが8.3±0.1になる時の塩酸の滴定量A[mL]と、pHが4.5±0.1になる時の塩酸の滴定量B[mL]を求める。
【0060】
その後、下記の(式b)と(式c)を用いて、水酸化リチウムの質量割合W1及び炭酸リチウムの質量割合W2を算出する。なお、(式b)と(式c)とにおいて、水酸化リチウムの分子量及び炭酸リチウムの分子量は、各原子量を、H:1.000、Li:6.941、C:12、O:16として算出する(つまり、水酸化リチウムの分子量:23.941、炭酸リチウムの分子量:73.882)。
【0061】
W1[質量%]={0.1×(2A-B)/1000}×{23.941/(20×60/100)}×100 ・・・(式b)
W2[質量%]={0.1×(B-A)/1000}×{73.882/(20×60/100)}×100 ・・・(式c)
【0062】
そして、上記によって算出したW1及びW2の結果から、(式d)を用いて、MSを求めることができる。
【0063】
MS[質量%]=W2×(2×6.941/73.882)+W1×(6.941/23.941) ・・・(式d)
【0064】
LiMOのMSは、下記の(式G)に示す関係を満たすことが好ましい。MSが上記範囲であると、残留リチウムと電解液との反応を抑制でき、サイクル維持率の低下を抑制できる。
MS≦0.2質量% ・・・(式G)
【0065】
MSは、0.1質量%以下がより好ましい。MSの下限値は例えば0質量%である。MSは、0-0.2質量%がより好ましく、0-0.1質量%がさらに好ましい。
【0066】
[B]LiMOの製造方法
上記LiMOの製造方法について説明する。
【0067】
上記LiMOの製造方法は、混合工程と焼成工程とを順に有する。
【0068】
[B-1]混合工程
混合工程では、LiMOの前駆体であるMCCとリチウム化合物とを含む混合物を準備する。
【0069】
[B-1-1]MCC
MCCは、LiMOを構成するNi及び元素Mを含む物質であって、例えば、金属複合水酸化物、金属複合酸化物、又は、これらの混合物である。
【0070】
MCCとして用いられる金属複合水酸化物は、例えば、公知のバッチ式共沈殿法又は連続式共沈殿法により製造される。
【0071】
以下、金属元素として、Ni及び元素Mを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0072】
具体的には、JP-A-2002-201028に記載された連続式共沈殿法によって、ニッケル塩溶液と元素Mの金属塩溶液と錯化剤とを反応させる。これにより、Ni及び元素Mを含む金属複合水酸化物(Ni(1-a)Ma(OH)2(0<a<1))が製造される。
【0073】
ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩は、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの少なくとも1種である。
【0074】
元素Mの金属塩溶液の溶質である金属塩は、例えば、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、及び酢酸アルミニウムのうちの少なくとも1種である。
【0075】
上記の金属塩は、Ni(1-a)Ma(OH)2に対応する割合で混合される。そして、ここでは、溶媒として、水が使用される。
【0076】
具体的には、ニッケル塩溶液を含む第1の原料液と、元素Mの金属塩溶液を含む第2の原料液を準備する。第1の原料液は、ニッケル塩溶液以外の金属塩溶液、例えば、元素Mの金属塩溶液を含んでいてもよい。第2の原料液は、元素Mの金属塩溶液以外の金属塩溶液を含んでいてもよく、複数種の元素Mの金属塩溶液を含んでいてもよい。
例えば、ニッケル塩溶液、マンガン塩溶液、コバルト塩溶液の少なくとも2つの溶液と、アルミニウム塩溶液と、を用いる場合、ニッケル塩溶液、マンガン塩溶液、コバルト塩溶液を混合して第1の原料液を調製し、第2の原料液としてアルミニウム塩溶液を調製する。
【0077】
なお、第1の原料液とは、反応槽に供給される原料液の中で、流量が最大である原料液である。また、第2の原料液は、第1の原料液の次に流量が大きい原料液である。
【0078】
第1の原料液及び第2の原料液は、第1の原料液に含まれる金属元素(例えば、Ni、Mn、Co)の合計濃度S1(単位:g/L)と、第2の原料液に含まれる金属元素(例えばAl)の合計濃度S2(単位:g/L)との比S1/S2が61.2未満になるように、混合されることが好ましい。S1/S2を制御することにより、金属複合水酸化物の核発生及び核成長を適度に調整できるため、金属複合水酸化物のBET比表面積を大きくできる。そして、BET比表面積BS0及びD50が後述の範囲である一次焼成物の粉体を得ることができる。S1/S2は、1.0-60.0がより好ましい。
【0079】
金属複合水酸化物の製造工程では、錯化剤を使用してもよい。この場合、錯化剤の量は、例えば、金属塩(ニッケル塩及び元素Mの金属塩)のモル数の合計に対するモル比が、0より大きく2以下である。
【0080】
錯化剤は、水溶液中で、ニッケルイオン、元素Mのイオンと錯体を形成可能な材料である。錯化剤は、例えば、アンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、又は弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンのうちの少なくとも1種である。
【0081】
共沈殿法では、ニッケル塩溶液、元素Mの金属塩溶液、及び錯化剤を含む混合液について、pH値を調整する。このため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ金属水酸化物を添加する。アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0082】
なお、ここでは、pHの値は、混合液の温度が40℃である時に測定される。反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃でない場合には、混合液を40℃になるまで加温又は冷却した後に、pHを測定する。
【0083】
上記ニッケル塩溶液、元素Mの金属塩溶液の他に、錯化剤を反応槽に連続して供給することによって、反応が生じ、Ni(1-a)Ma(OH)2が生成される。
【0084】
反応槽の温度は、例えば、20-80℃の範囲内、好ましくは、30-70℃の範囲内で制御される。
【0085】
また、反応に際しては、反応槽内の混合液のpH値は、例えば、9-13の範囲内で制御される。混合液のpH値を調整することで、BS0及びD50が後述の範囲である一次焼成物の粉体を得ることができる。
【0086】
そして、反応槽内で形成された反応沈殿物を撹拌した状態で中和させる。反応沈殿物を中和させる時間は、例えば、1-20時間の範囲である。
【0087】
連続式共沈殿法で用いる反応槽としては、形成された反応沈殿物を分離するために、オーバーフローが生ずるタイプの反応槽を使用できる。
【0088】
バッチ式共沈殿法により金属複合水酸化物を製造する場合、オーバーフローパイプを備えない反応槽や、オーバーフローした反応沈殿物を、オーバーフローパイプに連結された濃縮槽で濃縮し、再び反応槽へ循環させる機構を有する装置等が使用される。
【0089】
ここでは、各種気体(例えば、窒素、アルゴン又は二酸化炭素等の不活性ガス、空気又は酸素等の酸化性ガス、又はそれらの混合ガス)を反応槽内に供給してもよい。
【0090】
上記の反応が完了後、中和された反応沈殿物を単離する。単離は、例えば、反応沈殿物を含むスラリーを遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法で行われる。また、単離前に反応沈殿物を洗浄してもよい。
【0091】
そして、単離された反応沈殿物について、必要に応じて乾燥及び篩別することで、金属複合水酸化物が得られる。
【0092】
反応沈殿物は、水又はアルカリ性洗浄液を用いて洗浄されることが好ましい。反応沈殿物は、アルカリ性洗浄液を用いて洗浄されることが好ましく、特に、水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ性洗浄液として用いることが好ましい。また、硫黄元素を含有する洗浄液を用いて洗浄してもよい。硫黄元素を含有する洗浄液は、例えば、カリウムやナトリウムの硫酸塩水溶液等である。
【0093】
なお、上記の例では、MCCとして、金属複合水酸化物を製造しているが、金属複合酸化物を調製してもよい。
【0094】
金属複合酸化物は、例えば、金属複合水酸化物を酸化すること(酸化工程)によって製造される。酸化工程は、必要に応じて、複数回、実施してもよい。複数の酸化工程を行う場合、酸化温度は、複数の酸化工程のうち、最も高い温度で酸化した工程の温度を意味する。
【0095】
酸化温度は、400-700℃の範囲であることが好ましく、450-680℃の範囲であることがより好ましい。なお、酸化温度は、酸化のために使用される装置の設定温度を意味する。
【0096】
酸化工程において酸化温度を保持する時間は、0.1-20時間の範囲であることが好ましく、0.5-10時間の範囲であることがより好ましい。上記酸化温度まで温度が上昇する際の昇温速度は、例えば、50-400℃/時間の範囲である。また、酸化工程は、例えば、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを含む雰囲気で実施される。
【0097】
酸化のために使用される装置の内部は、適度に酸素を含有する酸素含有雰囲気でもよい。酸素含有雰囲気は、不活性ガスと酸素との混合ガス雰囲気でもよく、不活性ガス雰囲気下で酸化剤を存在させた状態でもよい。
【0098】
酸素含有雰囲気は、遷移金属を酸化させるために十分な量の酸素原子が存在すればよい。
【0099】
酸素含有雰囲気が不活性ガスと酸素との混合ガス雰囲気である場合、装置内の雰囲気の制御は、装置内に酸素を通気させる方法、又は、混合液に酸素をバブリングする方法などによって、実行される。
【0100】
酸素含有雰囲気に存在させる酸化剤は、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン又はオゾンなどである。
【0101】
[B-1-2]リチウム化合物
LiMOの製造で使用するリチウム化合物は、例えば、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウム、塩化リチウム、及びフッ化リチウムの少なくとも一つである。これらのうち、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、及び炭酸リチウムの少なくとも一つをリチウム化合物として用いることが好ましい。
【0102】
リチウム化合物とMCCとを、最終目的物の組成比を勘案して混合し、リチウム化合物とMCCとの混合物を得る。MCCに含まれる金属元素の合計量1に対するLiの量(モル比)は、0.90~1.10が好ましく、0.91~1.10がより好ましく、0.92~1.10がさらに好ましい。
【0103】
[B-2]焼成工程
焼成工程では、混合工程で準備された混合物を焼成することによって、焼成物を作製する。
【0104】
焼成工程では、一次焼成と二次焼成とを順次実行する。
【0105】
一次焼成は、例えば、下記に示す焼成条件で実行される。
・一次焼成温度(保持温度):400-700℃
・一次焼成時間(保持時間):1-10時間
【0106】
二次焼成は、例えば、下記に示す焼成条件で実行される。
・二次焼成昇温速度:100-400℃/時間
・二次焼成温度(保持温度):700-900℃
・二次焼成時間(保持時間):1-10時間
【0107】
二次焼成は、酸素ガスを供給した状態で実行される。具体的には、一次焼成で得られた一次焼成物の粉体のBET比表面積BS0を一次焼成物の粉体のD50で割った値FS1((m2/g)/μm)と、二次焼成時(昇温時及び保持時)の酸素流量FS2(L/min)とが、下記(式X)に示す関係を満たすように、二次焼成が実行される。
10(L・g・μm/min/m2)≦FS2/FS1≦80(L・g・μm/min/m2) ・・・(式X)
【0108】
FS2/FS1は、10-75(L・g・μm/min/m2)であることがより好ましく、15-70(L・g・μm/min/m2)であることがさらに好ましい。
上記(式X)に示す関係を満たすことによって、(式A)に示す関係を満たすLiMOを効率的に作製可能である。また、LiMOのPD10、PD50、PD90、dpmax、SR、AK、MS及びBSを上述の範囲に調整できる。
【0109】
(一次焼成物のD50の測定方法)
一次焼成物のD50(単位:μm)は、レーザー回折散乱法によって測定される一次焼成物の粒度分布から求めることができる。具体的には、一次焼成物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、上記粉末を分散させた分散液を得る。次に、得られた分散液についてレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マルバーン社製、マスターサイザー2000)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値がD50である。
【0110】
一次焼成物のBS0は、0.8-1.3m2/gが好ましい。また、上記酸素流量FS2は、0.1-10L/minが好ましい。
【0111】
なお、焼成は、連続静置式焼成炉、流動式焼成炉などの焼成装置を用いて実行される。連続静置式焼成炉は、例えば、トンネル炉、又は、ローラーハースキルンである。流動式焼成炉は、例えば、ロータリーキルンである。
【0112】
焼成は、組成に応じて、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス等を含む焼成雰囲気で実行される。焼成は酸素雰囲気で実行することが好ましい。
【0113】
焼成は、不活性溶融剤の存在下で実行してもよい。不活性溶融剤は、LiMOを使用した電池の初期容量が損なわれない程度に添加され、焼成物に残留してもよい。不活性溶融剤としては、例えばWO2019/177032A1に記載のものを使用できる。
【0114】
二次焼成の昇温速度は150℃/時間以上がより好ましく、200℃/時間以上がさらに好ましく、(式X)を満たす範囲で制御すればよい。
【0115】
二次焼成温度は一次焼成温度よりも高い温度で設定する。二次焼成温度は700-800℃であることがより好ましい。焼成温度が上記範囲の下限値以上であると、強固な結晶構造を有するLiMOを得ることができる。また、過度な焼結を抑制できる。なお、一次焼成温度または二次焼成温度は、焼成装置の設定温度を意味する。一次焼成を複数回行う場合、または二次焼成を複数回行う場合、一次焼成温度、または二次焼成温度は、複数の一次焼成段階、または複数の二次焼成段階のうち、最も高い温度で焼成した段階の温度を意味する。
【0116】
二次焼成時間は2-8時間がより好ましい。焼成における保持時間が上記範囲の上限値以下であると、リチウムイオンの揮発を抑制でき、電池性能の低下を抑制できる。焼成における保持時間が前記範囲の下限値以上であると、結晶の発達を促進でき、電池性能の低下を抑制できる。
【0117】
焼成工程後に適宜解砕を行ってもよい。
【0118】
焼成工程で得られた焼成物は、適宜、後処理工程及び乾燥工程を実施してもよく、解砕及び篩別してもよい。
【0119】
[B-3]後処理工程
後処理工程では、焼成工程で作製された焼成物について後処理を実行する。後処理として、例えば、水、イオン交換水、アルカリ性水溶液、硫酸塩水溶液などの洗浄液を用いて、焼成物から不純物が除かれるように洗浄する処理が挙げられる。このとき、スラリー濃度は40%以上が好ましい。洗浄時間としては、例えば、5-20分が挙げられる。なお、スラリー濃度は、焼成物の重量(WS)と洗浄液(WL)とを合計した重量(WS+WL)に対する、焼成物の重量(WS)の割合(つまり、100*WS/(WS+WL)(%))を意味する。
【0120】
洗浄工程において、洗浄液と焼成物とを接触させる方法の例は、各洗浄液中に、焼成物を投入して撹拌する方法や、各洗浄液をシャワー水として、焼成物にかける方法、洗浄液中に、焼成物を投入して撹拌した後、各洗浄液から焼成物を分離し、次いで、各洗浄液をシャワー水として、分離後の焼成物にかける方法が挙げられる。
【0121】
洗浄に用いる洗浄液の温度は、15℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、8℃以下がさらに好ましい。洗浄液の温度を上記範囲に制御することで、洗浄時に焼成物の結晶構造中から洗浄液中へのリチウムイオンの過度な溶出を抑制できる。
【0122】
[B-4]乾燥工程
乾燥工程では、後処理工程において後処理が施された焼成物を乾燥させる。
【0123】
乾燥工程では、例えば、100-400℃の温度である雰囲気において、焼成物を乾燥する。
【0124】
なお、乾燥は、例えば、減圧乾燥、真空乾燥、送風、加熱、及び、これらの組み合わせによって実行される。
【0125】
以上の工程により、LiMOを製造できる。
【0126】
[C]リチウム二次電池
本実施形態のLiMOをCAMとして用いるリチウム二次電池用正極、及び、そのリチウム二次電池用正極を備えるリチウム二次電池の一例について説明する。以下、リチウム二次電池用正極を正極と称することがある。
【0127】
本実施形態の製造方法により製造されるLiMOを用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0128】
図2は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。例えば円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0129】
まず、
図2の部分拡大図に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1と、一端に正極リード21が設置された帯状の正極2と、一端に負極リード31が設置された帯状の負極3とを準備する。そして、セパレータ1、正極2、セパレータ1、及び負極3の順に積層した積層体を巻回することによって、電極群4を作製する。
【0130】
正極2は、一例として、LiMOを含む正極活物質層2aと、正極活物質層2aが一面に形成された正極集電体2bとを有する。このような正極2は、まずLiMO、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体2bの一面に担持させて正極活物質層2aを形成することで製造できる。
【0131】
負極3は、一例として、不図示の負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができ、正極2と同様の方法で製造できる。
【0132】
次いで、電極群4及びインシュレーター(図示省略)を電池缶5に収容した後に電池缶5の缶底を封止する。そして、電池缶5において電極群4に電解液6を含浸させることで、正極2と負極3との間に電解質(図示省略)を介在させる。その後、トップインシュレーター7及び封口体8で電池缶5の上部を封止する。これにより、リチウム二次電池10を完成させる。
【0133】
電極群4の形状としては、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、例えば、円、楕円、長方形、又は、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0134】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた規格であるIEC60086、又は、JIS C 8500で定められる形状を採用できる。例えば、円筒型又は角型等の形状を挙げることができる。
【0135】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、及びセパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示できる。
【0136】
リチウム二次電池を構成する正極、セパレータ、負極及び電解液については、例えば、WO2022/113904A1の[0113]~[0140]に記載の構成、材料及び製造方法を用いることが出来る。
【0137】
[D]全固体リチウム二次電池
本実施形態のLiMOを用いて形成されるリチウム二次電池用正極を備えるリチウム二次電池の一例として、全固体リチウム二次電池について説明する。
【0138】
図3は、全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
【0139】
図3に示すように、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120と固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200とを備える。全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側にLiMOと負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例は、例えば、JP-A-2004-95400に記載されている構造が挙げられる。
【0140】
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。正極活物質層111は、上述したLiMO及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0141】
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。
【0142】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123とを有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0143】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに、積層体100と外装体200とを絶縁するインシュレーター(図示無し)、及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0144】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器である。また、外装体200は、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器でもよい。
【0145】
全固体リチウム二次電池1000の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(又はシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)等が挙げられる。
【0146】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として、積層体100を1つ有する形態であるが、これに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成でもよい。
【0147】
全固体リチウム二次電池については、例えば、WO2022/113904A1の[0151]~[0181]に記載の構成、材料及び製造方法を用いることができる。
【0148】
(電池評価)
電池を評価する際には、LiMOから正極を作製した後に、その作製した正極を用いてリチウム二次電池を作製する。その後、その作製したリチウム二次電池に関して、電池評価として「サイクル維持率」を測定する。
【0149】
以下より、上記の詳細に関して説明する。
【0150】
[リチウム二次電池用正極の作製]
リチウム二次電池用正極の作製では、まず、ペースト状の正極合剤を調製する。正極合剤は、LiMOと導電材とバインダーとの混合物を混練することで調製できる。導電材は、アセチレンブラックである。バインダーは、PVdFである。各材料は、下記の割合で混合される。正極合剤の調製の際に用いられる有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンである。
【0151】
・LiMO:92質量部
・導電材:5質量部
・バインダー:3質量部
【0152】
そして、上記のように調製したペースト状の正極合剤を、集電体(厚さが40μmであるアルミニウム箔)に塗布する。その後、正極合剤が塗布された集電体について、温度が150℃である雰囲気において、8時間、真空乾燥を行うことで、リチウム二次電池用正極を形成する。リチウム二次電池用正極の電極面積は、1.65cm2である。
【0153】
[リチウム二次電池の作製]
リチウム二次電池を作製する際には、まず、上記のように作製した正極を、コイン型電池CR2032用パーツ(宝泉株式会社製)の下蓋の上面に置く。下蓋への設置では、リチウム二次電池用正極のアルミニウム箔面を下方に向ける。そして、正極が設置された下蓋の上面に、積層フィルムセパレータを設置する。積層フィルムセパレータは、16μmの厚みを有し、ポリエチレン製多孔質フィルムの上に耐熱多孔層を有する積層体である。
【0154】
つぎに、上記パーツの内部に300μlの電解液を注入する。電解液は、下記の割合で各物質が混合した混合液に、ビニレンカーボネートを1体積%加え、更に、LiPF6が溶解した溶液である。電解液は、LiPF6の濃度が1mol/lになるように調製される。
【0155】
・エチレンカーボネート:30体積部
・ジメチルカーボネート:35体積部
・エチルメチルカーボネート:35体積部
【0156】
つぎに、負極をセパレータの上側に設置する。負極は、金属リチウムである。そして、ガスケットを介して、上蓋の設置を行い、かしめ機を用いて上蓋をかしめる。これにより、リチウム二次電池を作製する。
【0157】
[サイクル維持率の測定]
リチウム二次電池を室温で12時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させる。
次に、試験温度25℃において、充電及び放電ともに電流設定値0.2CAとし、それぞれ定電流定電圧充電と定電流放電を行う。充電最大電圧は、4.3V、放電最小電圧は2.5Vとする。充電時間は6時間、放電時間は5時間とする。次いで、試験温度25℃において、以下の条件で定電流定電圧充電と定電流放電を繰り返す。充放電サイクルの繰り返し回数は50回である。
充電:電流設定値0.5CA、最大電圧4.3V、定電圧定電流充電
放電:電池設定値1CA、最小電圧2.5V、定電流放電
1サイクル目の放電容量と50サイクル目の放電容量から、下記の式でサイクル維持率を算出する。
サイクル維持率(%)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)/1サイクル目の放電容量(mAh/g)×100
【0158】
さらに本発明は、以下の態様を包含してもよい。
[21]
Li、Ni、及び、上記元素Mを含み、上記PD90、上記PD50、及び上記PD10は、下記の(式A-1)に示す関係を満たす、LiMO。
0.3≦(PD90-PD10)/PD50≦2.2 …(式A-1)
[22]
上記(組成式I)で表される、[21]に記載のLiMO。
[23]上記PD10は、下記の(式B1-1)に示す関係を満たす、[21]又は[22]に記載のLiMO。
5nm≦PD10≦30nm ・・・(式B1-1)
[24]
上記PD50は、下記の(式B2-1)に示す関係を満たす、[21]ないし[23]のいずれか一つに記載のLiMO。
40nm≦PD50≦58nm ・・・(式B2-1)
[25]
上記PD90は、下記の(式B3-1)に示す関係を満たす、[21]ないし[24]のいずれか一つに記載のLiMO。
70nm≦PD90≦135nm ・・・(式B3-1)
[26]
上記dpmaxは、下記の(式C-1)に示す関係を満たす、[21]ないし[25]のいずれか一つに記載のLiMO。
100nm≦dpmax≦170nm …(式C-1)
[27]
上記SRが、下記の(式D-1)に示す関係を満たす、[21]ないし[26]のいずれか一つに記載のLiMO。
1.1%≦SR≦3.5% ・・・(式D-1)
[28]
上記AKが、下記の(式E-1)に示す関係を満たす、[21]ないし[27]のいずれか一つに記載のLiMO。
100nm≦AK≦150nm …(式E-1)
[29]
上記BSが下記の(式F-1)に示す関係を満たす、[21]ないし[28]のいずれか一つに記載のLiMO。
0.6m2/g≦BS≦1.5m2/g …(式F-1)
[30]
上記MSが、下記の(式G-1)を満たす、
[21]ないし[29]のいずれか一つに記載のLiMO。
0質量%≦MS≦0.1質量% ・・・(式G-1)
[31]
上記SRが、下記の(式D-2)に示す関係を満たす、[21]ないし[30]のいずれか一つに記載のLiMO。
1.2%≦SR≦3.3% ・・・(式D-2)
[32]
上記AKが、下記の(式E-2)に示す関係を満たす、[21]ないし[31]のいずれか一つに記載のLiMO。
105nm≦AK≦130nm …(式E-2)
[33]
[21]ないし[32]のいずれか一つに記載のLiMOを有する、CAM。
[34]
[33]に記載のCAMを有する、リチウム二次電池用正極。
[35]
[34]に記載のリチウム二次電池用正極を有する、リチウム二次電池。
【実施例】
【0159】
以下より、実施例及び比較例について表1を用いて説明する。表1において、(例1)及び(例2)は、実施例に相当し、(例C1)から(例C3)は、比較例に相当する。
【0160】
【0161】
[1]試料作製
各例に係るLiMOの試料を作製した手順について、順次、説明する。
【0162】
(例1)
まず、撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃(反応槽の温度)に保持した。硫酸ニッケル水溶液と硫酸マンガン水溶液とを混合して第1の原料液を調製し、第2の原料液として硫酸アルミニウム水溶液を調製した。反応槽内において、窒素ガスを流通し、撹拌させた状態で、第1の原料液と、第2の原料液と、を、[Ni]:[Mn]:[Al]が表1に示す値((例1)では、93:1:6)になるように連続的に添加するとともに、硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の混合液のpHが11.4(測定温度:40℃)になるまで、水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下することによって、反応沈殿物を得た。このとき、第1の原料液の流量が第2の原料液の流量よりも大きくなる条件で、第1の原料液のNi及びMnの合計濃度S1(単位:g/L)と、第2の原料液のAlの濃度S2(単位:g/L)との比S1/S2が34.2になるように、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、第1の原料液、及び第2の原料液を反応槽に添加した。
5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応沈殿物を洗浄した。反応沈殿物の洗浄では、反応沈殿物の質量に対して20倍の水酸化ナトリウム水溶液を用いた。遠心分離機を用いて、その洗浄された反応沈殿物を脱水した後に、水で洗浄し、更に脱水することにより、反応沈殿物を単離した。単離された反応沈殿物を、105℃、20時間の条件で乾燥することにより、Ni、Mn、及びAlを含む金属複合水酸化物を得た。
金属複合水酸化物を、大気雰囲気下において、650℃、5時間の条件で酸化し、金属複合酸化物であるMCCを得た。
【0163】
つぎに、リチウム化合物として準備した水酸化リチウム一水和物の粉末と、MCCの粉末とを混合し、混合物を得た。ここでは、MCCに含まれるNi、Mn及びAlの合計量に対するLiの量(モル比、Li/Me比)が1.05となる割合で混合し、混合物を得た。
【0164】
混合物を、酸素雰囲気下、保持温度650℃,保持時間5時間で焼成し、一次焼成物を得た。このとき、一次焼成物のBET比表面積BS0をD50で割った値FS1(BS0/D50)は、0.071m2/(g・μm)であった。
【0165】
次に、酸素雰囲気下、昇温速度300℃/時間、保持温度750℃,保持時間5時間で、一次焼成物を二次焼成して焼成物を得た。二次焼成は、酸素ガスを供給した状態で実行された。このとき、二次焼成時(昇温時および保持時)の酸素流量F2は、3.0L/minであった。酸素流量FS2を、上記FS1で割った値は42(L・g・μm/min/m2)であった。
【0166】
得られた焼成物1と純水(液温5℃)とを混合することでスラリーを作製した。スラリーは、50質量%の上記焼成物を含むように作製された。そして、そのスラリーを20分間、撹拌後、脱水した。そして、窒素雰囲気下、210℃、10時間の条件で、焼成物1を乾燥させた。
【0167】
これにより、表1に示す組成(α,x,y)で構成されたLiMO-1を得た。
【0168】
(例2)
S1/S2を表1に示す条件とし、Li/Me比を1.03とし、BS0、D50、及びFS1が表1に示す値になるように、反応槽内の混合液のpH値を調整し、FS2/FS1を表1に示す条件に変更した以外は、(例1)と同様に、試料を作製した。これにより、表1に示す組成(α,x,y)で構成されたLiMO-2を得た。
【0169】
(例C1)
[Ni]:[Mn]:[Al]、及びS1/S2を表1に示す条件とし、Li/Me比を1.05とし、BS0、D50、及びFS1が表1に示す値になるように、反応槽内の混合液のpH値を調整し、FS2/FS1を表1に示す条件に変更した以外は、(例1)と同様に、試料を作製した。これにより、表1に示す組成(α,x,y)で構成されたLiMO-3を得た。
【0170】
(例C2)
[Ni]:[Mn]:[Al]及びS1/S2を表1に示す条件とし、Li/Me比を1.03とし、BS0、D50、及びFS1が表1に示す値になるように、反応槽内の混合液のpH値を調整し、FS2/FS1を表1に示す条件に変更したこと以外は、(例1)と同様に、試料を作製した。これにより、表1に示す組成(α,x,y)で構成されたLiMO-4を得た。
【0171】
(例C3)
[Ni]:[Mn]:[Al]及びS1/S2を表1に示す条件とし、Li/Me比を1.03とし、BS0、D50、及びFS1が表1に示す値になるように、反応槽内の混合液のpH値を調整し、FS2/FS1を表1に示す条件に変更した以外は、(例1)と同様に、試料を作製した。これにより、表1に示す組成(α,x,y)で構成されたLiMO-5を得た。
【0172】
[2]試料の特性
上記のように各例について作製したLiMOの試料の各特性に関して求めた。その結果を表1に示す。
【0173】
[2-1]LiMOの組成
LiMOの組成は、上記(組成の測定方法)に記載の方法に従って測定した。また、Li以外の金属元素の総物質量に対するCoの物質量は、上記(式II)により算出した。
【0174】
[2-2]LiMOの細孔特性
表1に示すように、LiMOの細孔特性として、上記(細孔特性の評価方法)に記載の方法に従って、PD10、PD50、PD90、dpmax、(PD90-PD10)/PD50をそれぞれ求めた。
【0175】
[2-3]LiMOのその他特性
表1に示すように、各例のLiMOのその他特性として、上記(メタル席占有率及び平均結晶子サイズの測定方法)に記載の方法に従って、SRとAKを求めた。また、上記(BET比表面積の測定方法)に記載の方法に従って、BSを求めた。上記(残留リチウム量の測定方法)に記載の方法に従って、MSを求めた。
【0176】
[3]電池評価
上記のように、各例において作製したLiMOの試料の電池評価は、上記(電池評価)に記載の方法に従って実施した。
【0177】
[4]まとめ
各例の結果に関して説明する。
【0178】
[4-1](例1)及び(例2)について
(例1)及び(例2)は、表1に示すように、LiMOの組成が、上記の(式Ia)、(式Ib)、(式Ic)、及び(式Id)に示す関係を満たす。
【0179】
また、(例1)及び(例2)におけるLiMOは、(式A)、(式B1~B3)、(式C)、(式D)、(式E)、(式F)、及び、(式G)に示す関係を満たす。これにより、(例1)及び(例2)のリチウム二次電池は、表1に示すように、サイクル維持率が81.2%よりも高かった。
【0180】
[4-2](例C1)から(例C3)の結果について
(例C1)から(例C3)は、表1に示すように、LiMOの組成が、上記の(式Ia)、(式Ib)、(式Ic)、及び(式Id)に示す関係を満たす。また、(例C1)から(例C3)のLiMOは、(式B1)、(式B3)、(式E)、(式F)、及び、(式G)に示す関係を満たす。
【0181】
しかし、(例C1)から(例C3)のLiMOは、(式A)に示す関係を少なくとも満たさない。このため、(例C1)から(例C3)のリチウム二次電池は、表1に示すように、サイクル維持率が81.2%以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明によれば、サイクル維持率を向上させることが可能な、LiMO、CAM、リチウム二次電池用正極、及び、リチウム二次電池を提供できる。
【符号の説明】
【0183】
1…セパレータ、2…正極、2a…正極活物質層、2b…正極集電体、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、100…積層体、110…正極、111…正極活物質層、112…正極集電体、113…外部端子、120…負極、121…負極活物質層、122…負極集電体、123…外部端子、130…固体電解質層、200…外装体、200a…開口部、1000…全固体リチウム二次電池
【要約】
【課題】サイクル維持率を向上させることが可能なリチウム金属複合酸化物等を提供する。
【解決手段】リチウム金属複合酸化物は、累積細孔容積分布曲線において、90%累積時の細孔径PD90、50%累積時の細孔径PD50、及び10%累積時の細孔径PD10が「(PD90-PD10)/PD50≦2.5」に示す関係を満たす。
【選択図】なし