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特許7483999スパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲット組立品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲット組立品
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240508BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C38/00 303Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023159119
(22)【出願日】2023-09-22
【審査請求日】2023-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 靖幸
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/029498(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/102359(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175392(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/133163(WO,A1)
【文献】SAYAMA Junichi、ほか4名,Microstructure and Crystalline Texture Quality of L10 Ordered Fe-Pt-Ag-C Alloy Recording Media,IEEE Transactions on Magnetics,英国,2011年11月,Vol.47 No.10,Page.2383-2386
【文献】SEKI T. O.、ほか2名,Microstructure and magnetic properties of FePt-SiO2 granular films with Ag addition,Journal of Applied Physics,米国,2008年01月15日,Vol.103 No.2 ,Page.023910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 38/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)Feと、(2)Ptと、(3)Ag、Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Si、Sn、Ta、W、V、Znから選択されるいずれか一種以上の元素と、(4)残部と、を有し、
前記(1)Feと前記(2)Ptとの原子数比が34~55at%であり、
前記(1)Feと前記(2)Ptとの合計濃度が50mol%以上であり、
前記(3)の元素の含有率が合計で0.5~15mol%であり、
前記(4)の残部が酸化物であり、不純物を選択的に含んでもよく、前記酸化物の体積率が40vol.%以上であり、
視野倍率3000倍のSEM画像を使用してImageJを用いて算出した酸化物相の平均粒子面積(Average size)が4.0μm2以下である、スパッタリングターゲット。
【請求項2】
曲げ強度が300MPa以上である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化物がSiの酸化物を含有する、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記酸化物が更にAl、B、Ba、Be、Ca、Ce、Cr、Dy、Er、Eu、Ga、Gd、Ho、Li、Mg、Mn、Nb、Nd、Pr、Sc、Sm、Sr、Ta、Tb、Ti、V、Y、Zn、Zrから選択される元素の酸化物をいずれか一種以上含有する、請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットと、
前記スパッタリングターゲットに接合されたバッキングプレートと、
を備えた、スパッタリングターゲット組立品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲット組立品に関するものであり、主に、HDDの膜の製造向けのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録方式を採用するハードディスクドライブ(HDD)を構成する層には、例えば、強磁性金属であるCo、Fe、Niをベースとした材料が用いられており、記録層には、CoやFeを主成分とするCo-Cr系、Co-Pt系、Co-Cr-Pt系、Fe-Pt系などの強磁性合金と非磁性の無機材料からなる複合材料が多く用いられている。このようなハードディスクドライブなどの磁気記録媒体の薄膜は、生産性の高さから、上記の材料を成分とするスパッタリングターゲットをスパッタリングして作製されることが多い。
【0003】
スパッタリングターゲットの製造は、一般に、まず、原材料の粉末を粉砕し混合して得られた混合物を、ホットプレスすることにより焼結体を得る。この後、焼結体の密度向上のために、HIP(Hot Isostatic Pressing:熱間等方圧加圧)加工を施すことがある。このようにして得られた焼結体を旋盤により加工し、所定の形状のターゲットを製造している(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6030271号公報
【文献】特許第6305881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、HDDの記録層としてFe-Pt系などの強磁性合金と非磁性の無機材料からなる複合材料が有用であることは上述した通りである。しかしながら、このような記録層の作製のために、スパッタリングターゲットとして、Fe及びPtを含む母材金属に酸化物が分散した組織を有する焼結体を製造する際、当該組成を有する焼結体は比較的脆く、製造工程でクラックや割れが発生する問題がある。
【0006】
そこで、本発明の実施形態は、製造工程におけるクラックや割れの発生を良好に抑制することができるスパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲット組立品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下のように特定される本発明によって解決される。
1.(1)Feと、(2)Ptと、(3)Ag、Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Si、Sn、Ta、W、V、Znから選択されるいずれか一種以上の元素と、(4)残部と、を有し、
前記(1)Feと前記(2)Ptとの原子数比が34~55at%であり、
前記(1)Feと前記(2)Ptとの合計濃度が50mol%以上であり、
前記(3)の元素の含有率が合計で0.5~15mol%であり、
前記(4)の残部が酸化物であり、不純物を選択的に含んでもよく、前記酸化物の体積率が40vol.%以上であり、
視野倍率3000倍のSEM画像を使用してImageJを用いて算出した酸化物相の平均粒子面積(Average size)が4.0μm2以下である、スパッタリングターゲット。
2.曲げ強度が300MPa以上である、前記1に記載のスパッタリングターゲット。
3.前記酸化物がSiの酸化物を含有する、前記1または2に記載のスパッタリングターゲット。
4.前記酸化物が更にAl、B、Ba、Be、Ca、Ce、Cr、Dy、Er、Eu、Ga、Gd、Ho、Li、Mg、Mn、Nb、Nd、Pr、Sc、Sm、Sr、Ta、Tb、Ti、V、Y、Zn、Zrから選択される元素の酸化物をいずれか一種以上含有する、前記3に記載のスパッタリングターゲット。
5.前記1~4のいずれかに記載のスパッタリングターゲットと、
前記スパッタリングターゲットに接合されたバッキングプレートと、
を備えた、スパッタリングターゲット組立品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、製造工程におけるクラックや割れの発生を良好に抑制することができるスパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲット組立品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ImageJを用いた画像解析における、二値化処理された画像と元画像との例を示す。
図2】ImageJを用いた二値化処理の設定条件のスクリーンショットである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0011】
<スパッタリングターゲット>
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの形状としては特に限定されないが、平板状(円盤状や矩形板状を含む)、円筒状であってもよく、その他、任意の形状であってもよい。
【0012】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、(1)Feと、(2)Ptと、(3)Ag、Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Si、Sn、Ta、W、V、Znから選択されるいずれか一種以上の元素と、(4)残部と、を有する。(4)の残部は酸化物であり、不純物を選択的に含んでもよい。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、強磁性材料であるFe及びPtを含む金属相と、金属相以外の酸化物を含む相を有しており、磁性薄膜としての機能を付与することができる。
【0013】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、FeとPtとの原子数比が34~55at%である。すなわち、当該スパッタリングターゲットにおけるFeとPtは、原子数比で、Fe100-XPtXにおいてXが34≦X≦55を満たしている。スパッタリングターゲットにおけるFeとPtがこのような原子数比を満たすことで、磁性薄膜としての機能が向上する。当該FeとPtとの原子数比は、40≦X≦53であるのが好ましく、44≦X≦51であるのがより好ましい。
【0014】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、FeとPtとの合計濃度が50mol%以上である。スパッタリングターゲットにおけるFeとPtとの合計濃度が50mol%以上であると、磁気特性が向上する。FeとPtとの合計濃度の上限は特に限定されないが、粒界材料を確保するという観点から、80mol%以下が好ましい。また、FeとPtとの合計濃度は、50~75mol%であるのがより好ましく、50~70mol%であるのが更により好ましい。
【0015】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、Ag、Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Si、Sn、Ta、W、V、Znから選択されるいずれか一種以上の元素の含有率が合計で0.5~15mol%である。これらの元素は、Fe及びPtとともに金属相の成分であり、0.5~15mol%含有することで、Fe及びPtを基本成分とするスパッタリングターゲットの磁気特性が更に向上する。当該元素の含有率は、2~13mol%であるのがより好ましく、4~11mol%であるのが更により好ましい。
【0016】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、残部が酸化物であり、不純物を選択的に含んでもよい。当該酸化物としては、SiO2を用いると、特に好ましい磁性薄膜を得ることができる。また、当該酸化物は、SiO2の他に、磁気特性を更に向上させるために、更にAl、B、Ba、Be、Ca、Ce、Cr、Dy、Er、Eu、Ga、Gd、Ho、Li、Mg、Mn、Nb、Nd、Pr、Sc、Sm、Sr、Ta、Tb、Ti、V、Y、Zn、Zrから選択される元素の酸化物をいずれか一種以上含有してもよい。
【0017】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、酸化物の体積率が40vol.%以上である。スパッタリングターゲットにおける酸化物の体積率が40vol.%以上であると、磁気特性が更に向上する。スパッタリングターゲットにおける酸化物の体積率の上限は特に限定されないが、酸化物が多すぎる場合磁気特性が悪化してしまうという観点から、60vol.%以下が好ましい。また、スパッタリングターゲットにおける酸化物の体積率は、40~55vol.%であるのがより好ましく、40~50vol.%であるのが更により好ましい。酸化物の体積率は、ターゲットの組成から計算することができ、ターゲットに含まれる各成分の体積を、(各材料の含有量:mol)×(各材料の分子量:g/mol)×(各材料の密度の逆数:cm3/g)により計算して求める。続いて、成分のうち酸化物だけの体積の合計を全成分の体積の合計で割ることで酸化物の体積率を算出することができる。
【0018】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの残部に選択的に含まれる不純物としては、上記(1)~(3)の元素に含まれない金属元素や、大気中の二酸化炭素、窒素等のガス成分からのCまたはNのような元素の単体または化合物が挙げられる。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの残部に選択的に含まれる不純物の含有率は、0.5mol%以下であってもよく、0.15mol%以下であってもよい。また、不純物はスパッタリングターゲットから分析サンプルを採取し、赤外吸光法、ICP発光分光分析装置、及びGDMS(グロー放電質量分析)等を用いて分析することができる。分析サンプルの量や形状は採用する分析方法により異なり、各方法の最適な量や形状を選択することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、視野倍率3000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を使用してImageJ(画像処理ソフトウエア)を用いて算出した酸化物相の平均粒子面積(Average size)が4.0μm2以下である。ImageJを用いて算出したスパッタリングターゲットの酸化物相の平均粒子面積が4.0μm2以下であると、酸化物の組織が微細化しており、スパッタリングターゲットが良好な強度を有する。酸化物の組織が微細化して、分散して存在することで、酸化物相とFe及びPtを含む相が入り組んだ構造となり、もし仮にクラックに進展し得る微小な欠陥が発生したとしても、酸化物相とFe及びPtを含む相との境界が障壁となって欠陥が進展せず、欠陥がクラックや割れとなることが抑制されると推測している。このため、スパッタリングターゲットの製造工程において、原材料の粉末を粉砕し混合して得られた混合物のホットプレス、さらにはその後の焼結体の密度向上のためのHIP加工などにおいて、クラックや割れが発生することを良好に抑制することができる。ImageJを用いて算出したスパッタリングターゲットの酸化物相の平均粒子面積は、3.0μm2以下であるのが好ましく、2.6μm2以下であるのがより好ましく、2.5μm2以下であるのがより好ましく、2.0μm2以下であるのがより好ましく、1.7μm2以下であるのがより好ましく、1.5μm2以下であるのがより好ましく、1.0μm2以下であるのがより好ましい。ImageJを用いて算出したスパッタリングターゲットの酸化物相の平均粒子面積の下限は特に限定する必要は無いが、例えば、0.1μm2以上であってもよく、例えば、0.2μm2以上であってもよく、例えば、0.3μm2以上であってもよく、例えば、0.4μm2以上であってもよく、例えば、0.5μm2以上であってもよく、例えば、0.6μm2以上であってもよい。
【0020】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの酸化物相の平均粒子面積(Average size)の測定方法について詳述する。
まず、スパッタリングターゲットを切断し、その断面を鏡面研磨することでSEM観察試料とする。次に、SEM観察試料を、例えば、SEM(S-3700N、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて観察する。観察時の設定は、次の通り行う。
撮影像:二次電子像、視野倍率:3000倍、加速電圧:10~15kV
酸化物相の平均粒子面積は、画像解析ソフトであるImageJを用いて、以下の手順(1)~(7)によって上述の撮影で得られた二次電子像の二値化を行うことで評価することができる。
(1)ImageJツールバーのFile→Openから視野倍率3000倍のSEM画像を読み込む。
(2)Image→Typeから8-bitを選択する。スケールバーに合わせて直線を引き、Analyze→Set scaleを選択しスケールサイズを設定する。
(3)画像のスケールを除いた部分を選択し、Image→Cropでスケール部分を切り取る。
(4)Process→Filters→Gaussian Blurを選択し、Sigmaに2を入力し、OKをクリックする。
(5)Process→Binary→Make Binaryを選択する。これにより画像の二値化が完了する。
(6)Analyze→Set measurementを選択し、Areaにチェックを入れる。
(7)Analyze→Analyze Particleを選択し、表示される解析条件をSize:0-infinity Circularity:0.00-1.00 Show:nothingとしてSummarizeにチェックを入れてOKを選択する。これにより、結果が表示され、そこでAverage Sizeの値を読み取る。
上述のように、ImageJによって、取り込んだSEM画像に対し、二値化処理を行ってSEM画像上で黒色粒子部分を黒色に変換し、当該黒色の粒子を酸化物相の粒子とし、その平均粒子面積を算出する。なお、二値化処理の閾値は、画像中の色彩ヒストグラムから自動で設定される。図1に、当該二値化処理された画像と元画像との例を示す。
【0021】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、曲げ強度が300MPa以上であるのが好ましい。曲げ強度が300MPa以上であると、製造工程におけるクラックや割れが発生することをさらに良好に抑制することができる。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、曲げ強度が350MPa以上であるのがより好ましい。
【0022】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの曲げ強度は、以下のようにして測定することができる。
まず、スパッタリングターゲットを切り出して7個の試験片を用意する。当該切り出し方法の具体例としては、旋盤加工でスパッタリングターゲットを厚み3mmまで加工した後、放電ワイヤー加工で4mm×35mmのサイズに切り出す。表面が酸化しているため、#120の研磨紙で表面を研磨して酸化膜を除去してサンプルを準備する。
次に、試験片について、下記測定条件にて3点曲げ強度を測定し、その平均値をスパッタリングターゲットの曲げ強度とする。
<測定条件>
エー・アンド・デイ社製卓上型材料試験機(STB-1225S)を測定装置として使用することができる。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの曲げ強度の測定は、JIS R 1601:2008「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」を参考にして行うことができる。表1に、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの曲げ強度の測定条件と、JIS R 1601:2008に記載の曲げ強度の測定条件とを示す。表1に示す通り、「支持具の曲率半径」、「試験片長さ」、「並行度」、「試験片の稜」、「試験片の粗さRa」、「試験片の数」についてのみ、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの曲げ強度の測定条件がJIS R 1601:2008に記載の曲げ強度の測定条件と異なっている。
【0023】
【表1】
【0024】
<スパッタリングターゲット組立品>
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、必要に応じて、バッキングプレートと接合させて、スパッタリングターゲット組立品としてもよい。当該スパッタリングターゲット組立品はスパッタリング装置に装着して使用することができる。ロウ材としては、インジウムやインジウムスズを用いることができる。なお、バッキングプレートを使用せず、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットをそのままスパッタリング装置に装着して使用してもよい。バッキングプレートの材料は特に限定されず、Cu、Ti、Mo、及びこれらの少なくとも一種を含有する合金(例えば、Cu-Ni-Si合金(例えば、C18000など)、CuZn合金、CuCr合金)等が挙げられる。バッキングプレートの材料は、熱伝導率が高いことが好ましく、この観点から、Cuが好適である。
【0025】
<スパッタリングターゲットの製造方法>
以下、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法について詳述する。
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、粉末焼結法によって作製することができる。まず、各金属元素の粉末を用意する。また、各金属元素の粉末の代わりにこれら金属の合金粉末(例えば、Fe-Pt粉)を用いてもよい。これらの原材料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、さらに好ましくは4N(99.99質量%)以上であるとよい。純度が2Nより低いと焼結体に不純物が多く含まれてしまうため、所望の物性を得られなくなる(例えば、アーキングに伴うパーティクルの発生)という問題が生じ得る。これらの原材料は、所望の焼結体の組成及び純度から適宜調製することができる。
【0026】
そして、これらの金属粉末を所望の組成になるように秤量し、混合装置を用いて粉砕を兼ねて混合する。また、非磁性粒子はこの段階で金属粉末と混合してもよい。混合装置としては、ボールミル、乳鉢等を使用することができるが、ボールミル等の強力な混合方法を用いることが望ましい。また、混合中の酸化の問題を考慮すると、不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で混合することが好ましい。また、混合時間は、0.1~48時間とする。原料の混合時間を長くすることで酸化物相の平均粒子面積を小さくすることができる。一方、原料の混合時間を短くすることで酸化物相の平均粒子面積を大きくすることができる。このような観点から、原料の混合時間を調整することで、酸化物相の平均粒子面積を制御する。
【0027】
このようにして得られた混合粉末を、ホットプレス装置を用いて成形・焼結して、焼結体を作成する。成形・焼結は、ホットプレスに限らず、プラズマ放電焼結法、熱間静水圧焼結法を使用することもできる。焼結条件は、650~1400℃で0.5~12時間とする。焼結温度を高く、及び/又は、焼結時間を長くすれば、酸化物相の平均粒子面積を大きくすることができる。一方、焼結温度を低く、及び/又は、焼結時間を短くすれば、酸化物相の平均粒子面積を小さくすることができる。このような観点から、焼結温度及び焼結時間を調整することで、酸化物相の平均粒子面積を制御する。
【0028】
その後、ホットプレス装置から取り出した焼結体にHIP(Hot Isostatic Pressing:熱間等方圧加圧)加工を施す。HIP加工は焼結体の密度を向上させるために有効な手段である。HIP加工時の保持温度は650~1100℃、保持時間は0.5~12時間とし、加圧力は100MPa以上とする。そして、このようにして得られた焼結体を旋盤で所望の形状となるように加工することで、スパッタリングターゲットを作製する。
【0029】
<スパッタリングターゲットを用いた成膜方法>
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて、主に、磁気記録媒体を構成する薄膜を形成することができる。具体的には、スパッタ装置を用いてスパッタリングターゲットの表面を加速されたアルゴンイオンによってスパッタし、スパッタリングターゲットから粒子(スパッタ粒子)を放出させて、あらかじめ対向する位置に配置した基板の表面にスパッタ粒子を堆積させることで、基板の表面に薄膜を形成することができる。スパッタリング条件は、所望する膜厚や組成などによって、適宜設定することができる。
【実施例
【0030】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0031】
<実施例1>
以下の製造方法によって、実施例1に係るスパッタリングターゲットを製造した。
原料粉末として、Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、SiO2粉末を用意し、組成が(30~45)Fe-(30~45)Pt-(5~15)Ag-(5~25)SiO2(mol%)となるように秤量した。原料粉末は組成の合計で100mol%となるように調製した。このときSiO2粉末には非晶質粉末を使用した。次に、秤量したFe粉末、Pt粉末、Ag粉末、SiO2粉末をジルコニアボールとともに5Lのボールミルポットに投入し、4時間混合した。
【0032】
次に、ボールミルポットから取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度(焼結温度)900℃、保持時間(焼結時間)2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。その後、ホットプレスの型から取り出した焼結体にHIP加工を施した。HIP加工の条件は、昇温速度300℃/時間、保持温度850℃、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。これにより、実施例1に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0033】
<実施例2~8、比較例1>
実施例2~8、比較例1に係るスパッタリングターゲットは、実施例1と同様にして作製した。なお、原料粉末の混合時間、ホットプレス温度、HIP保持温度については、それぞれ表2に示す条件で実施した。
【0034】
・酸化物相の平均粒子面積
まず、スパッタリングターゲットを切断し、その断面を鏡面研磨することでSEM観察試料とした。次に、SEM観察試料を、SEM(S-3700N、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて観察した。観察時の設定は、次の通り行った。
撮影像:二次電子像、視野倍率:3000倍、加速電圧:10~15kV
酸化物相の平均粒子面積は、画像解析ソフトであるImageJを用いて、以下の手順(1)~(7)によって上述の撮影で得られた二次電子像の二値化を行うことで評価した。
(1)ImageJツールバーのFile→Openから視野倍率3000倍のSEM画像を読み込む。
(2)Image→Typeから8-bitを選択する。スケールバーに合わせて直線を引き、Analyze→Set scaleを選択しスケールサイズを設定する。
(3)画像のスケールを除いた部分を選択し、Image→Cropでスケール部分を切り取る。
(4)Process→Filters→Gaussian Blurを選択し、Sigmaに2を入力し、OKをクリックする。
(5)Process→Binary→Make Binaryを選択する。これにより画像の二値化が完了する。
また、当該設定条件のスクリーンショットを図2に示す。
(6)Analyze→Set measurementを選択し、Areaにチェックを入れる。
(7)Analyze→Analyze Particleを選択し、表示される解析条件をSize:0-infinity Circularity:0.00-1.00 Show:nothingとしてSummarizeにチェックを入れてOKを選択する。これにより、結果が表示され、そこでAverage Sizeの値を読み取る。
上述のようにして、ImageJでSEM画像を取り込んだ後、二値化処理を行ってSEM画像上で黒色粒子部分を黒色に変換し、当該黒色の粒子を酸化物相の粒子とし、その平均粒子面積を算出した。なお、二値化処理の閾値は、画像中の色彩ヒストグラムから自動で設定される。
【0035】
・酸化物の体積率
酸化物の体積率の評価は、ターゲットに含まれる各成分の体積を、(各材料の含有量:mol)×(各材料の分子量:g/mol)×(各材料の密度の逆数:cm3/g)により計算して求めた。続いて、成分のうち酸化物だけの体積の合計を全成分の体積の合計で割ることで酸化物の体積率を算出した。
【0036】
・曲げ強度
スパッタリングターゲットのサンプルを切り出して7個の試験片を用意した。当該切り出し方法としては、旋盤加工でスパッタリングターゲットを厚み3mmまで加工した後、放電ワイヤー加工で4mm×35mmのサイズに切り出した。続いて、表面が酸化しているため、#120の研磨紙で表面を研磨して酸化膜を除去してサンプルを準備した。
次に、下記測定条件にて3点曲げ強度を測定し、その平均値をスパッタリングターゲットの曲げ強度とした。なお、実施例3~8についての曲げ強度試験は実施しなかった。
<測定条件>
エー・アンド・デイ社製卓上型材料試験機(STB-1225S)を測定装置として使用した。本試験例に係るスパッタリングターゲットの曲げ強度の測定は、JIS R 1601:2008「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」を参考にして行い、上述の表1に示した「本実施形態の測定条件」によって実施した。すなわち、上述の表1に示す通り、「支持具の曲率半径」、「試験片長さ」、「並行度」、「試験片の稜」、「試験片の粗さRa」、「試験片の数」についてのみ、本試験例に係るスパッタリングターゲットの曲げ強度の測定条件がJIS R 1601:2008に記載の曲げ強度の測定条件と異なっている。
【0037】
・割れ
各実施例及び比較例のスパッタリングターゲットについて、目視で表面を確認し、割れが少しでも生じているか、割れが生じていないかを評価した。当該評価によって、製造工程におけるクラックや割れの発生が抑制されたか否かを判定した。
【0038】
【表2】
【0039】
<考察>
表2によれば、実施例1~8に係るスパッタリングターゲットは、それぞれ(1)Feと、(2)Ptと、(3)Ag、Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Si、Sn、Ta、W、V、Znから選択されるいずれか一種以上の元素と、(4)残部と、を有し、(1)Feと(2)Ptとの原子数比が34~55at%であり、(1)Feと(2)Ptとの合計濃度が50mol%以上であり、(3)の元素の含有率が合計で0.5~15mol%であり、(4)の残部が酸化物であり、酸化物の体積率が40vol.%以上であり、視野倍率3000倍のSEM画像を使用してImageJを用いて算出した酸化物相の平均粒子面積(Average size)が4.0μm2以下であった。このため、曲げ強度が良好であり、製造工程におけるクラックや割れの発生が抑制されていた。
これに対し、比較例1は、視野倍率3000倍のSEM画像を使用してImageJを用いて算出した酸化物相の平均粒子面積(Average size)が4.0μm2を超えていた。このため、曲げ強度が不良であり、製造工程においてクラックや割れが発生した。
【要約】      (修正有)
【課題】製造工程におけるクラックや割れの発生を良好に抑制することができるスパッタリングターゲット及び組立品を提供する。
【解決手段】(1)Feと、(2)Ptと、(3)Ag、Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Si、Sn、Ta、W、V、Znから選択されるいずれか一種以上の元素と、(4)残部と、を有し、(1)Feと(2)Ptとの原子数比が34~55at%であり、(1)Feと(2)Ptとの合計濃度が50mol%以上であり、(3)の元素の含有率が合計で0.5~15mol%であり、(4)の残部が酸化物であり、不純物を選択的に含んでもよく、前記酸化物の体積率が40vol.%以上であり、視野倍率3000倍のSEM画像を使用してImageJを用いて算出した酸化物相の平均粒子面積(Average size)が4.0μm2以下である、スパッタリングターゲット。
【選択図】図1
図1
図2