IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日本無線株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-圧電素子の製造方法 図1
  • 特許-圧電素子の製造方法 図2
  • 特許-圧電素子の製造方法 図3
  • 特許-圧電素子の製造方法 図4
  • 特許-圧電素子の製造方法 図5
  • 特許-圧電素子の製造方法 図6
  • 特許-圧電素子の製造方法 図7
  • 特許-圧電素子の製造方法 図8
  • 特許-圧電素子の製造方法 図9
  • 特許-圧電素子の製造方法 図10
  • 特許-圧電素子の製造方法 図11
  • 特許-圧電素子の製造方法 図12
  • 特許-圧電素子の製造方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】圧電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/02 20230101AFI20240509BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240509BHJP
   H04R 17/02 20060101ALI20240509BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H10N30/02
H10N30/30
H04R17/02
B81C1/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020091513
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021190467
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137297(JP,A)
【文献】特開2018-048925(JP,A)
【文献】特開2017-210000(JP,A)
【文献】特開2015-047726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0021410(US,A1)
【文献】特開2020-136385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/02
H10N 30/30
H04R 17/02
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットにより分離された振動板と、前記スリットに沿い前記振動板上に積層した被覆膜とを備えた圧電素子の製造方法において、
前記振動板を構成する圧電膜と該圧電膜を挟んで配置される一対の電極とを積層した支持基板を用意する工程と、
前記圧電膜に前記スリットを形成する工程と、
前記圧電膜上に、前記被覆膜を形成する工程と、
前記支持基板の一部を除去してキャビティを形成し、前記振動板を形成する工程と、
該キャビティ内に露出する前記振動板をマスク膜として使用し、前記被覆膜の一部を除去して前記スリットに連続する開口部を形成する工程と、を含むことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子の製造方法において、
前記被覆膜としてポジ型の感光性膜を形成し、
前記振動板を露光マスク膜として使用し前記被覆膜を露光し、現像することで、前記被覆膜の一部を除去して前記開口部を形成することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の圧電素子の製造方法において、
前記振動板をエッチングマスク膜として使用し前記被覆膜をドライエッチングすることで、前記被覆膜の一部を除去して前記開口部を形成することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子の製造方法に関し、特に高感度、低雑音となる圧電型MEMSマイクロフォン等に利用可能な圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に需要が拡大しているスマートフォンには、小型、薄型で、組立のハンダリフロー工程の高温処理耐性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。さらにMEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の変位を、対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。そこで、圧電材料からなる薄膜(圧電膜)で構成される単一の振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0004】
従来の圧電素子は、圧電膜に図11に示すような所望の形状のスリット1を形成して片持ち梁構造の振動板2を形成している。図11(a)では四角形の2枚の振動板2が、図11(b)では三角形の4枚の振動板2がそれぞれ形成されている。この種の圧電素子は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
図12は圧電素子の断面図である。図12に示すようにシリコン基板からなる支持基板3上に絶縁膜4を介して多層構造の圧電膜5a、5bが支持固定され、圧電膜5aは電極6aと電極6bにより、圧電膜5bは電極6bと電極6cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。支持基板3にはキャビティ7が形成されており、スリット1により区画された圧電膜および電極は、一端が支持基板3に固定され、他端が開放端となる振動板2を構成している。
【0006】
このような圧電素子では、振動板2が音響圧力等を受けると圧電膜5aが歪み、その内部に分極が起こり、電極6aに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線金属8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜5bが歪むとその内部に分極が起こり、電極6cに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線金属8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【0007】
ところで、このような片持ち梁構造の圧電膜5a、5bは、スリット1を形成することで残留応力が解放されて反りが生じ、スリット1の開口幅が広がってしまう。スリット1の開口幅が設計値以上となった圧電素子をマイクロフォンとして使用すると、音響抵抗が低下し、低周波領域の感度低下等の特性劣化を招いてしまう。
【0008】
そこで、本願出願人は図13に示すように圧電膜5b上に薄膜9を積層形成した圧電素子を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5936154号公報
【文献】特開2018-137297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願出願人が先に提案した圧電素子は、薄膜9を備える構造とすることで圧電膜の残留応力に起因するスリット1の開口幅の広がりを抑制することができ、それに伴う特性劣化も抑制することができる。しかしながらその製造工程において、スリット1を形成した後、そのスリット1に連通するように薄膜9に開口部を形成するため、製造工程のばらつき(位置合わせのずれ等)を考慮し、薄膜9の開口幅をスリット1の開口幅より広く形成する必要があった。そのため薄膜9は振動板の弾性係数を大きくすることにより振動板の変形を抑制するという効果は得られるものの、薄膜9を形成しても振動板の変形が完全に抑えられない場合には、スリット1の開口幅が設計値以上となってしまい、圧電素子をマイクロフォンとして使用した場合、音響抵抗を低下させ、低周波領域の感度低下等の特性劣化を抑制することができなかった。本発明はこのような課題を解決し、圧電膜の残留応力の影響を抑制するとともに、特性劣化を抑制することができる圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、スリットにより分離された振動板と、前記スリットに沿い前記振動板上に積層した被覆膜とを備えた圧電素子の製造方法において、前記振動板を構成する圧電膜と該圧電膜を挟んで配置される一対の電極とを積層した支持基板を用意する工程と、前記圧電膜に前記スリットを形成する工程と、前記圧電膜上に、前記被覆膜を形成する工程と、前記支持基板の一部を除去してキャビティを形成し、前記振動板を形成する工程と、該キャビティ内に露出する前記振動板をマスク膜として使用し、前記被覆膜の一部を除去して前記スリットに連続する開口部を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の圧電素子の製造方法において、前記被覆膜としてポジ型の感光性膜を形成し、前記振動板を露光マスク膜として使用し前記被覆膜を露光し、現像することで、前記被覆膜の一部を除去して前記開口部を形成することを特徴とする。
【0013】
本願請求項3に係る発明は、請求項1記載の圧電素子の製造方法において、前記振動板をエッチングマスク膜として使用し前記被覆膜をドライエッチングすることで、前記被覆膜の一部を除去して前記開口部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧電素子の製造方法は、キャビティ内に露出する振動板をマスク膜として使用し被覆膜の一部を除去することで、スリットに沿った開口部を自己整合的に形成することができる。特に、振動板を露光マスクとして使用し、あるいはドライエッチングマスクとして使用して被覆膜の一部を除去することで開口部を形成する方法は、制御性がよく、簡便に圧電素子を形成することができる。
【0015】
また被覆膜をポジ型の感光性膜で形成すると、被覆膜のパターニングと開口部の形成を一回の現像工程で同時に行うことができ、簡便な方法となる。被覆膜をドライエッチング除去する場合も、圧電膜上の被覆膜形成予定領域以外のポジ型あるいはネガ型の感光性膜を露光、現像することで除去することができ、容易に被覆膜をパターニングすることができ好ましい。
【0016】
本発明の圧電素子の製造方法では、キャビティを形成するため厚い支持基板をエッチングする必要があるが、圧電膜等の表面前面を被覆膜で覆った状態でエッチングすると、圧電膜にクラック等が発生することを防止できるという利点もある。この際、被覆膜としてポリイミド前駆体を含む樹脂膜を使用すると、耐熱性に優れ、その後の被覆膜のパターニングや開口部の形成を支障なく行うことができ好ましい。
【0017】
またポリイミド前駆体を含む樹脂膜により数μm程度の開口幅を形成する製造方法は、通常の電子機器の製造工程で広く採用されており、制御性の良い、簡便な方法である。
【0018】
本発明の製造方法により形成した圧電素子を音響トランスデューサとして使用した場合、残留応力による悪影響を緩和し、音響抵抗を高く維持することができるため、低周波領域の感度低下や信号雑音比の低減を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図2】本発明の第1の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図3】本発明の第1の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図4】本発明の第1の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図5】本発明の第1の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図6】本発明の第1の実施例の被覆膜の配置を説明する図である。
図7】本発明の第2の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図8】本発明の第2の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図9】本発明の第2の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図10】本発明の第3の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図11】従来の圧電素子の説明図である。
図12】従来の圧電素子の説明図である。
図13】従来の別の圧電素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、キャビティ内に露出する振動板をマスク膜として使用し、振動板のスリットに沿った開口部を有する被覆膜を形成する製造方法である。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の第1の実施例について説明する。本発明の圧電素子は、図11に示すような所望の形状のスリット1を形成した片持ち梁構造の振動板を備えた圧電素子の製造方法となる。
【0022】
シリコン基板からなる支持基板3上に、絶縁膜4を介して多層構造の圧電膜5a、5bと、圧電膜5aを挟み込むように電極6aと電極6b、圧電膜5bを挟み込むように電極6bと電極6cを積層形成する。圧電膜5a、5bには、所望の形状のスリット1を形成する。後述するように支持基板3にキャビティが形成されると、スリット1により区画される圧電膜と電極は、一端が支持基板3に固定され、他端が開放端となる振動板2を構成する。それぞれの振動板2の電極6aと電極6cを接続するように配線金属8aを形成し、電極6bを接続するように配線金属8bを形成する(図1)。
【0023】
全面にポリイミド前駆体を含む感光性樹脂からなる被覆膜10を塗布する。被覆膜10はスリット1内にも充填される。プリベーク等の熱処理を行った後、被覆膜10のパターニングのため露光する。ここで使用する被覆膜10はポジ型を使用し、スリット1の開口部に沿って残す被覆膜形成予定領域以外の領域(除去する領域)に所望の波長の光を照射して露光領域10aとする。被覆膜形成予定領域は未露光領域10bとなる(図2)。
【0024】
その後、支持基板3をドライエッチング法により除去し、その後、絶縁膜4をウエットエッチング法により除去して、スリット1に充填された被覆膜10を露出するキャビティ7を形成する(図3)。図3に示すように、キャビティ7内には、振動板2となる圧電膜5aおよび電極6aと、スリット1内に被覆膜10の未露光領域10bの一部が露出した状態となる。ここで被覆膜10のパターニングを行わず、厚い支持基板3のエッチングや絶縁膜4のエッチングを行うと、被覆膜10が表面保護膜となり好ましい。
【0025】
次に振動板2を露光マスク膜として使用して被覆膜10の未露光領域10bをキャビティ7側から露光する。その結果、未露光領域10bが露光され、露光領域10aとなる(図4)。
【0026】
その後、被覆膜10の露光領域10aを現像処理により除去する。必要な加熱処理を加えることで、ポリイミド前駆体がイミド化し、ポリイミドからなる被覆膜10が形成される。加熱処理を行う場合は、被覆膜10の開口部11が大きく広がらない温度範囲に設定するのが好ましい。
【0027】
図5は、完成した圧電素子の断面図である。図6は、スリット1と被覆膜10の位置関係を説明する図である。図6(a)に示す例では、対向する2枚の振動板2間のスリット1に沿って被覆膜10を配置している。この場合、図面左右方向に延出するスリット1に被覆膜10を形成していないが、これは振動板2の残留応力が開放され振動板2が変形した場合であっても、このスリットの開口幅が大きく変わることがないからである。当然ながら、被覆膜10を形成してもよい。図6(b)に示す例では、対向する4枚の振動板2のスリット1に沿って被覆膜10を配置している。この場合、振動板2の反りは三角形の振動板2の頂点付近が最も大きく、底辺付近は小さくなるため、反りの大きい振動板2上のみに被覆膜10を形成している。
【0028】
このように被覆膜10を備える構成とすると、振動板2がキャビティ7と逆側に反った場合、スリット1の開口幅が広がるものの、スリット1から連続する被覆膜10の開口部11の音響抵抗等は被覆膜10がない場合より大きくなり、特性劣化を抑える効果が大きくなる。
【0029】
被覆膜10の開口部11の断面形状は、露光条件あるいはさらに現像条件を適宜調整することで変更することが可能である。具体的には、開口部11の開口幅をスリット1の開口幅と等しくしたり、開口部11の開口幅をスリット1の開口幅より狭くすることもできる。後者の場合、開口部11の音響抵抗等が大きくなり、特性劣化を抑える効果が大きくなることが期待される。
【0030】
一方、振動板2がキャビティ7側に反った場合、スリット1の開口幅が広がるものの、被覆膜10の開口幅が狭くなるため、特性劣化を抑えることができる。
【実施例2】
【0031】
次に第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では、ポジ型のポリイミド前駆体を含む感光性樹脂からなる被覆膜10を用いる場合について説明したが、ネガ型のポリイミド前駆体を含む感光性樹脂からなる被覆膜10Aを用いることも可能である。その場合、被覆膜10Aの開口部11を形成する方法が相違する。
【0032】
まず実施例1同様、シリコン基板からなる支持基板3上に、絶縁膜4を介して多層構造の圧電膜5a、5bと、圧電膜5aを挟み込むように電極6aと電極6b、圧電膜5bを挟み込むように電極6bと電極6cを積層形成する。圧電膜5a、5bには、所望の形状のスリット1を形成する。スリット1により区画されたそれぞれの振動板2の電極6aと電極6cを接続するように配線金属8aを形成し、電極6bを接続するように配線金属8bを形成する(図1)。
【0033】
全面にネガ型のポリイミド前駆体を含む感光性樹脂からなる被覆膜10Aを塗布する。被覆膜10Aはスリット1内にも充填される。プリベーク等の熱処理を行った後、被覆膜10Aのパターニングのため露光する。ここで使用する被覆膜10Aはネガ型を使用し、スリット1の開口部に沿って残す被覆膜形成予定領域に所望の波長の光を照射して露光領域10aとする。被覆膜形成予定領域以外の領域(除去する領域)は未露光領域10bとなる(図7)。
【0034】
その後、支持基板3をドライエッチング法により除去し、その後、絶縁膜4をウエットエッチング法により除去して、スリット1に充填された被覆膜10Aを露出するキャビティ7を形成する(図8)。図8に示すように、キャビティ7内には、振動板2となる圧電膜5aおよび電極6aと、スリット1内に被覆膜10Aの露光領域10aの一部が露出した状態となる。
【0035】
次に振動板2をエッチングマスク膜として使用して被覆膜10Aの露光領域10aの一部をキャビティ7側からドライエッチングし、開口部11を形成する(図9)。被覆膜10Aの開口部11の断面形状は、エッチング条件を適宜調整することで変更することが可能となる。具体的には、開口部11の開口幅をスリット1の開口幅と等しくしたり、開口部11の開口幅をスリット1の開口幅より狭くすることもできる。
【0036】
その後、被覆膜10Aの未露光領域10bを現像処理により除去する。必要な加熱処理を加えることで、ポリイミド前駆体がイミド化し、ポリイミドからなる被覆膜10Aが形成される。この加熱処理は、被覆膜10Aの開口部11が大きく広がらない温度範囲に設定するのが好ましい。
【0037】
本実施例においても、上記第1の実施例同様、図5に示す構造の圧電素子と同様の圧電素子を完成させることができる。スリット1と被覆膜10Aの位置関係も図6に示すように配置することが可能である。
【実施例3】
【0038】
次に第3の実施例について説明する。上記第2の実施例では、被覆膜10Aの開口部11を形成する際、振動板2をエッチングマスク膜として使用する場合について説明したが、上記第1の実施例において、振動板2をエッチングマスク膜として使用することも可能である。即ち、上記第2の実施例ではネガ型のポリイミド前駆体を含む感光性樹脂からなる被覆膜10Aを用いる場合について説明したが、ポジ型のポリイミド前駆体を含む感光性樹脂からなる被覆膜10を用いることも可能である。
【0039】
この場合上記第1の実施例において、図4に示す振動板2を露光マスク膜として使用する代わりに、エッチングマスク膜とすれば良い。
【0040】
まず実施例1同様、シリコン基板からなる支持基板3上に、絶縁膜4を介して多層構造の圧電膜5a、5bと、圧電膜5aを挟み込むように電極6aと電極6b、圧電膜5bを挟み込むように電極6bと電極6cを積層形成する。圧電膜5a、5bには、所望の形状のスリット1を形成する。スリット1により区画されたそれぞれの振動板2の電極6aと電極6cを接続するように配線金属8aを形成し、電極6bを接続するように配線金属8bを形成する(図1)。
【0041】
全面にポリイミド前駆体を含む感光性樹脂からなる被覆膜10を塗布する。被覆膜10はスリット1内にも充填される。プリベーク等の熱処理を行った後、被覆膜10のパターニングのため露光する。ここで使用する被覆膜10はポジ型を使用し、スリット1の開口部に沿って残す被覆膜形成予定領域以外の領域(除去する領域)に所望の波長の光を照射して露光領域10aとする。また被覆膜形成予定領域は未露光領域10bとなる(図2)。
【0042】
その後、支持基板3をドライエッチング法により除去し、その後、絶縁膜4をウエットエッチング法により除去して、スリット1に充填された被覆膜10を露出するキャビティ7を形成する(図3)。図3に示すように、キャビティ7内には、振動板2となる圧電膜5aおよび電極6aと、スリット1内に被覆膜10の未露光領域10bの一部が露出した状態となる。
【0043】
次に振動板2をエッチングマスク膜として使用して被覆膜10の未露光領域10bの一部をキャビティ7側からドライエッチングし、開口部11を形成する(図10)。被覆膜10の開口部11の断面形状は、エッチング条件を適宜調整することで変更することが可能である。具体的には、開口部11の開口幅をスリット1の開口幅と等しくしたり、開口部11の開口幅をスリット1の開口幅より狭くすることもできる。
【0044】
その後、被覆膜10の露光領域10aを現像処理により除去する。必要な加熱処理を加えることで、ポリイミド前駆体がイミド化し、ポリイミドからなる被覆膜10が形成される。この加熱処理は、被覆膜10の開口部11が大きく広がらない温度範囲に設定するのが好ましい。
【0045】
本実施例においても、上記第1の実施例同様、図5に示す構造の圧電素子を完成させることができる。スリット1と被覆膜10の位置関係も図6に示すように配置することが可能である。
【0046】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、上記実施例では被覆膜10、10Aを感光性のポリイミド膜で形成する場合について説明したが、振動板2をエッチングマスクとして開口部11を形成することが可能で、振動板2上で所望の形状にパターニング可能であれば、非感光性膜であっても良いし、ポリイミド膜以外の有機膜あるいは無機膜であっても問題ない。また、被覆膜10、10Aをスリット1の延出方向に沿った細い幅で形成する場合について説明したが、被覆膜10、10Aの面積を広くし配置する位置を調整することで圧電膜の変形を制御することもでき、特性の優れた圧電素子を形成することが可能となる。また、被覆膜10を複数個に分割して配置することも可能である。さらに多層構造の圧電膜に限るものでもない。
【0047】
また、上記実施例では被覆膜10、10Aを保護膜として使用するため、開口部11を形成した後、被覆膜10、10Aのパターニングを行う例について説明したが、実施例2あるいは実施例3においては、被覆膜10、10Aを露光し、現像した後、キャビティ7の形成、開口部11の形成を行うことが可能である。あるいは、実施例1において開口部を形成するための露光の後に、実施例2および実施例3においては開口部11を形成した後に、被覆膜10、10Aをパターニングするための露光、現像を行うことも可能である。
【0048】
さらにまた、スリット1を形成する工程は、キャビティ7を形成した後、圧電膜5a、5bの一部を除去してスリット1を形成しても良い。この場合、被覆膜10、10Aの形成はスリットのない圧電膜5b等上に行うことになる。
【符号の説明】
【0049】
1: スリット、2:振動板、3:支持基板、4:絶縁膜、5a、5b:圧電膜、6a、6b、6c:電極、7:キャビティ、8a、8b:配線金属、9:薄膜、10、10A:被覆膜、10a:露光領域、10b:未露光領域、11:開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13