(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、コーティング剤、粘接着剤、樹脂組成物、インキ、ポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/123 20060101AFI20240509BHJP
C08G 63/85 20060101ALI20240509BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240509BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20240509BHJP
C09D 11/104 20140101ALI20240509BHJP
【FI】
C08G63/123
C08G63/85
C09D167/00
C09J167/00
C09D11/104
(21)【出願番号】P 2019565970
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2019044113
(87)【国際公開番号】W WO2020110683
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018224336
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】立花 優香
(72)【発明者】
【氏名】小澤 匡弘
(72)【発明者】
【氏名】金子 朝子
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209564(JP,A)
【文献】特開2018-150453(JP,A)
【文献】特開2008-045117(JP,A)
【文献】特開2000-351837(JP,A)
【文献】特開昭53-000292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 63/00-64/42
C09D 101/00-201/10
C09J 9/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位Aと、
ジカルボン酸由来の構成単位と
、
多価アルコール由来の構成単位とを含むポリエステル樹脂であって、
前記ジカルボン酸由来の構成単位が、テレフタル酸由来の構成単位及びイソフタル酸由来の構成単位を含み、
かつ前記ジカルボン酸由来の構成単位が、テレフタル酸由来の構成単位及びイソフタル酸由来の構成単位からなり、
前記多価アルコール由来の構成単位が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロピレングリコール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群より選択される一つ以上の2価のアルコール由来の構成単位からなり、
前記ジカルボン酸由来の構成単位100モル部に対する前記構成単位Aの含有率が0.01モル部以上5モル部以下であるポリエステル樹脂。
【請求項2】
GPC法で測定した重量平均分子量(Mw)が10000以上である請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸が、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸及びメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
分光測色法で測定したカラーb値が2以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記ジカルボン酸由来の構成単位100モル部に対する前記構成単位Aの含有率が0.01モル部以上2モル部以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含むコーティング剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含む粘接着剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂と顔料を含む樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物を含むインキ。
【請求項10】
カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸とジカルボン酸と多価アルコールを含む単量体混合物を、重合用触媒Aの存在下に重合する、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<重合用触媒A>
チタン原子、アルカリ土類金属原子、リン原子、及び炭素原子を含有し、前記炭素原子の少なくとも一部が有機酸及びカルボキシラートから選ばれる少なくとも1種に由来している化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ用バインダー、トナー用バインダー、コーティング剤及び粘接着剤などに用いられるポリエステル樹脂、並びにコーティング剤、粘接着剤、樹脂組成物、インキ、ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
本願は、2018年11月30日に、日本に出願された特願2018-224336号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、成型材料、コーティング剤、フィルム、粘接着剤、トナー用のバインダー樹脂、熱転写フィルム用のバインダー樹脂、インキ用のバインダー樹脂等に使用されている。
【0003】
例えば、ポリエステル樹脂をコーティング剤、インキ用のバインダー樹脂やトナー用のバインダー樹脂として使用するためには、溶剤に対する溶解性に優れることが求められる。また、粉砕トナー用のバインダー樹脂として使用するためには、粉砕性に優れることが求められる。
【0004】
また、コーティング、印刷、粘接着の対象となる基材には、紙以外にも、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の樹脂の成形物が挙げられる。したがって、コーティング剤、インキ用のバインダー樹脂、トナー用のバインダー樹脂、粘接着材等として使用するためには、これらの基材に対する密着性に優れることが求められる。
【0005】
特許文献1には、3官能の単量体を共重合させることで、樹脂の粉砕性を向上させたポリエステル樹脂が開示されている。
特許文献2には、衝撃安定性に優れ、基材への密着性が良好な樹脂被膜を形成することができる低酸価のポリエステル樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2005-250443号公報
【文献】日本国特開2007-31509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1、2のポリエステル樹脂は密着性や粉砕性が十分ではないという課題があった。
【0008】
本発明は、優れた密着性及び優れた粉砕性を有するポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
【0010】
[1]カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位Aと、
ジカルボン酸由来の構成単位とを含むポリエステル樹脂であって、
前記ジカルボン酸由来の構成単位100モル部に対する前記構成単位Aの含有率が0.01モル部以上45モル部以下であるポリエステル樹脂。
[2]GPC法で測定した重量平均分子量(Mw)が10000以上である[1]に記載のポリエステル樹脂。
[3]前記カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸が、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸及びメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載のポリエステル樹脂。
[4]分光測色法で測定したカラーb値が2以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
[5]カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位Aとジカルボン酸由来の構成単位とを含むポリエステル樹脂であって、分光測色法で測定したカラーb値が2以下であるポリエステル樹脂。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含むコーティング剤。
[7][1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含む粘接着剤。
[8]カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位Aとジカルボン酸由来の構成単位とを含むポリエステル樹脂と顔料を含む樹脂組成物。
[9][8]に記載の樹脂組成物を含むインキ。
[10]カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸と多価アルコールを含む単量体混合物を、重合用触媒Aの存在下に重合するポリエステル樹脂の製造方法。
<重合用触媒A>
チタン原子、アルカリ土類金属原子、リン原子、及び炭素原子を含有し、前記炭素原子の少なくとも一部が有機酸及びカルボキシラートから選ばれる少なくとも1種に由来している化合物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル樹脂は優れた密着性及び優れた粉砕性を有する。
本発明のポリエステル樹脂を含むコーティング剤及び本発明のポリエステル樹脂を含む粘接着剤は、優れた密着性及び優れた粉砕性を有する。
本発明の樹脂組成物は優れた密着性及び優れた粉砕性を有し、本発明の樹脂組成物を含むインキは、優れた密着性及び優れた粉砕性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂は、カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位Aとジカルボン酸由来の構成単位とを含む。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂の一態様(第一態様)は、ポリエステル樹脂に含まれるジカルボン酸由来の構成単位100モル部に対する構成単位Aの含有率が、0.01モル部以上45モル部以下であり、0.02モル部以上10モル部以下が好ましく、0.02モル部以上5モル部以下がより好ましく、0.02モル部以上2モル部以下がさらに好ましい。ポリエステル樹脂の溶剤不溶解分を低減する観点から、本態様のポリエステル樹脂において、重合に用いられるジカルボン酸全体を100モル部としたときに、構成単位Aの量が0.01モル部以上45モル部以下であることが好ましく、0.02モル部以上10モル部以下がより好ましく、0.02モル部以上5モル部以下がさらに好ましく、0.02モル部以上2モル部以下が特に好ましい。
また、粉砕性の点からは、本態様のポリエステル樹脂において、ポリエステル樹脂に含まれるジカルボン酸由来の構成単位100モル部に対する構成単位Aの含有率は、0.15モル部以上が好ましく、0.5モル部以上がより好ましい。
【0014】
また、本発明のポリエステル樹脂の別の一態様(第二態様)は、分光測色法で測定したカラーb値が2以下である。基材に塗布した際の塗膜の透明性の観点から、本態様のポリエステル樹脂において、分光測色法で測定したカラーb値は0以上2以下がより好ましい。
【0015】
なお、本発明の第二態様のポリエステル樹脂において、ポリエステル樹脂に含まれるジカルボン酸由来の構成単位100モル部に対する構成単位Aの含有率は、0.01モル部以上45モル部以下であることが好ましく、0.02モル部以上10モル部以下であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の溶剤不溶解分を低減する観点から、本態様のポリエステル樹脂において、重合に用いられるジカルボン酸全体を100モル部としたときに、構成単位Aの量が0.01モル部以上45モル部以下であることが好ましく、0.02モル部以上10モル部以下がより好ましい。
また、粉砕性の点からは、本態様のポリエステル樹脂において、ポリエステル樹脂に含まれるジカルボン酸由来の構成単位100モル部に対する構成単位Aの含有率は、0.15モル部以上が好ましく、0.5モル部以上がより好ましい。
【0016】
本発明においては、ポリエステル樹脂が構成単位Aを含むことにより粉砕性が向上する。
【0017】
カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸としては、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、メリット酸などが挙げられる。
カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸はエステル化物や酸無水物であってもよい。なお、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フランジカルボン酸などの芳香族カルボン酸、フタル酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸、又はそれらの酸無水物、又はそれらの低級アルキルエステル等を適宜に使用することができる。なお、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、作業性及びコストの点でテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0019】
さらに本発明のポリエステル樹脂は、カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位Aとジカルボン酸由来の構成単位以外に、3価以上のカルボン酸(ただし、5価以上のカルボン酸を除く。)に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0020】
3価以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、トリメシン酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-シクロヘキサントリカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、メチルシクロヘキサンテトラカルボン酸又はそれらの酸無水物、又はそれらの低級アルキルエステル等が挙げられる。なお、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
また本発明のポリエステル樹脂は、多価アルコール由来の構成単位を含む。
前記多価アルコールとしては、2価のアルコール、3価以上のアルコールが挙げられる。
2価のアルコールとしては、例えばエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。
ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)-ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。なお、括弧内の数値はアルキレンオキサイドの付加モル数を表す。これらの中でも、ポリエステル樹脂の保存性が向上する観点では、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物が好ましく、その中でも、常温でのスラリーの低粘度化の観点から、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
また、重合反応性や樹脂のガラス転移温度(Tg)を40℃以上に設計しやすい観点では、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましく、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコールが特に好ましい。
【0022】
3価以上のアルコールとしては、例えばソルビトール、イノシトール、マンニトール、キシリトール、クエルシトール、マルチトール、グルコース、マルトース、スクラロース、ラクトース、ラクチトール、トレハロース、イソマルト、1,2,3,6-ヘキサテトラロール、1,4-ソルビタン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン、などが挙げられる。これらの中でも、作業性及びコストの点でトリメチロールプロパンが好ましい。
【0023】
なお、これらの多価アルコールは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
[ポリエステル樹脂の物性]
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ポリエステル樹脂のブロッキングを抑制する点から45℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。
ポリエステル樹脂のTgは、JIS K7121-1987に準拠して、示差走差熱量計の測定により求めたものである。具体的には、100℃で10分間加熱してメルトクエンチを行った後、昇温速度5℃/minで測定したときのチャートの低温側のベースラインと、Tg近傍にある吸熱カーブの接線との交点の温度を求め、これをTgとする。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂の軟化温度(T4)は、100~200℃が好ましい。ポリエステル樹脂のT4が、100℃以上であればバインダー樹脂として使用した際に耐久性を良好に維持でき、200℃以下であれば低温流動性を良好に維持できる。
ポリエステル樹脂のT4は、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重294N(30Kgf)、昇温速度3℃/minの等速昇温下の条件で測定し、サンプル1.0g中の4mmが流出したときの温度である。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂の酸価(AV)は、樹脂の耐湿性の観点から、0.1~100mgKOH/gであることが好ましい。
酸価は、以下のようにして求められる。測定サンプル約0.2gを枝付き三角フラスコ内に秤量し(A(g))、ベンジルアルコール10mlを加え、窒素雰囲気下として230℃のヒーターにて15分加熱し測定サンプルを溶解する。室温まで放冷後、ベンジルアルコール10ml、クロロホルム20ml、フェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定する(滴定量=B(ml)、KOH溶液の力価=p)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(ml))、以下の式に従って酸価を算出する。
酸価(mgKOH/g)={(B-C)×0.02×56.11×p}/A
【0027】
本発明のポリエステル樹脂のゲル分率は、樹脂の溶剤溶解性及び塗膜外観の観点から、0~10質量%であることが好ましく、0~4質量%がより好ましい。
ゲル分率は、以下のようにして求められる。100mL三角フラスコにポリエステル樹脂0.5gを精秤し(A(g))、テトラヒドロフラン(THF)を50mL加え、70℃に設定したウォーターバスに3時間浸けて樹脂を溶解する。ガラスフィルター1GP100に6~7分目までセライト545をきつく充填し、105℃の真空乾燥機で3時間以上乾燥して秤量する(B(g))。続いて、乾燥したガラスフィルター内に、ポリエステル樹脂を溶解したTHF溶液を移して吸引濾過する。アセトンを用いて三角フラスコの壁に残存した内容物すべてをガラスフィルター内に移し、ガラスフィルター内はアセトンを流して可溶解分は吸引瓶に落とし、フィルター内に溶剤が残らないように吸引を続けた後に、80℃の真空乾燥機で1時間以上乾燥して秤量し(C(g))、以下の式に従って算出する。
ゲル分率(質量%)=(C-B)/A×100
【0028】
本発明のポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000以上が好ましく、20000以上がさらに好ましい。ポリエステル樹脂のMwが上記範囲内であれば、基材密着後の耐久性や定着性がより向上する。
ポリエステル樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、THF等の溶媒を溶離液とし、ポリスチレン換算分子量として求めることができる。
【0029】
本発明の第一態様のポリエステル樹脂は、分光測色法で測定したカラーb値が5以下であることが好ましい。カラーb値は、基材に塗布した際の塗膜の透明性の観点から0以上5以下が好ましく、0以上2以下がさらに好ましい。
【0030】
[ポリエステル樹脂の製造方法]
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、上述したカルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸と多価アルコールを含む単量体混合物を、ポリエステル重合用触媒の存在下に重合する方法である。具体的には単量体混合物を、ポリエステル重合用触媒の存在下に、エステル化反応又はエステル交換反応を行った後に重縮合反応を行う公知の方法を採用できる。
エステル化反応、又はエステル交換反応は、反応系から水の留出がなくなるまで行う。その後重縮合反応を実施するが、このとき反応装置内を徐々に減圧し、好ましくは150mmHg(20kPa)以下、より好ましくは15mmHg(2kPa)以下の真空下で揮発性のモノマー成分を留出除去させながら重縮合反応を行う。重縮合反応は、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで行い、その後反応を終了させる。
なお、反応を終了させるとは、重合装置の攪拌を停止し、重合装置内部を常圧とした後、窒素等の不活性ガスにより重合装置内部を加圧して重合装置下部より反応物(ポリエステル樹脂)を取り出して100℃以下に冷却することをいう。
【0031】
なお、本発明のポリエステル樹脂も、本発明のポリエステル樹脂の製造方法に従って、単量体混合物として、カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸とジカルボン酸と多価アルコールとを含む単量体混合物を用いることにより製造することができる。特に、本発明の第一態様のポリエステル樹脂は、単量体混合物において、ジカルボン酸を100モル部としたときに、カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸の量を0.01モル部以上45モル部以下とすることにより製造することができる。
【0032】
反応温度は、180~280℃の範囲が好ましい。反応温度が、180℃以上であれば生産性が良好となる傾向にあり、280℃以下であればポリエステル樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の生成を抑制できる傾向にある。反応温度の下限値は200℃以上がより好ましく、上限値は270℃以下がより好ましい。
【0033】
ポリエステル樹脂の重合に際しては、例えば、チタンテトラアルコキシド、酸化チタン、ジブチルスズオキシド、酸化スズ、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、酢酸マグネシウム等の重合触媒を用いることができる。反応性に優れ、得られるポリエステルの色調が良好となる点で下記の重合用触媒Aが好ましく、本発明のポリエステル樹脂の製造方法においては下記の重合用触媒Aが用いられる。
【0034】
[重合用触媒A]
ポリエステルの重合に用いられる重合用触媒Aは、チタン原子、アルカリ土類金属原子、リン原子、及び炭素原子を含有し、前記炭素原子の少なくとも一部が有機酸及びカルボキシラートから選ばれる少なくとも一種に由来している。好ましくは、重合用触媒A(100質量%)において、チタン原子の含有量T(質量基準)が4~20質量%であり、下記式(1)、(2)、及び(3)を満足することが好ましい。
0.8≦L/M(モル比)≦1.8・・・(1)
0.05≦T/C(質量比)≦0.50・・・(2)
0.5≦M/P(モル比)≦3.0・・・(3)
(式中、Lは有機酸及びカルボキシラートから選ばれる少なくとも一種の化合物の含有量(モル基準)、Mはアルカリ土類金属原子の含有量(モル基準)、Tはチタン原子の含有量(質量基準)、Cは炭素原子の含有量(質量基準)、Pはリン原子の含有量(モル基準)を示す。)
【0035】
重合用触媒Aが含有する炭素原子の少なくとも一部を構成する有機酸及びカルボキシラートから選ばれる少なくとも一種の化合物としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボキシラートが挙げられる。中でも炭素数1~4の脂肪族カルボン酸、炭素数1~4の脂肪族カルボキシラートが好ましく、とりわけエチレングリコールや1,4-ブタンジオールなどの2価アルコールをポリエステル樹脂の原料として使用した場合、前記2価アルコール中への触媒の溶解性が優れたものとなることから、酢酸(CH3COOH)、酢酸イオン(CH3COO-)が特に好ましい。
【0036】
重合用触媒A中のチタン原子の含有量T(質量基準)が上記下限以上であれば、重縮合反応時の重縮合反応速度が低下せず、工業的に十分な重縮合反応速度が得られやすい。また、上記上限以下であれば、十分な重縮合反応速度が得られつつ、得られるポリエステル樹脂の色調と熱安定性が低下しづらい。
重合用触媒A中のチタン原子の含有量Tは、好ましくは4.5質量%以上、より好ましくは5.5質量%以上で、好ましくは16質量%以下、より好ましくは14質量%以下である。例えば、4.5~16質量%が好ましく、5.5~14質量%がより好ましい。
【0037】
式(1)において、L/Mが上記上限値以下であれば、触媒活性は低下しづらい。L/Mが上記下限値以上であれば、2価アルコールに対する十分な触媒の溶解性が得られる。L/Mの上限は好ましくは1.7、より好ましくは1.6であり、下限は好ましくは0.8、より好ましくは1.0である。例えば、0.8≦L/M(モル比)≦1.7が好ましく、1.0≦L/M(モル比)≦1.6がより好ましい。
【0038】
式(2)において、前記2価アルコールに対する触媒の溶解度の点からT/Cの上限は好ましくは0.40、より好ましくは0.30であり、下限は好ましくは0.15、より好ましくは0.20である。例えば、0.15≦T/C(質量比)≦0.40が好ましく、0.20≦T/C(質量比)≦0.30がより好ましい。
【0039】
式(3)において、M/Pは、この触媒を用いて得られるポリエステル樹脂の熱安定性、前記2価アルコール中での触媒安定性の点から、M/Pの上限は好ましくは1.8、より好ましくは1.5であり、下限は好ましくは0.9、より好ましくは1.1である。例えば、0.9≦M/P(モル比)≦1.8が好ましく、1.1≦M/P(モル比)≦1.5がより好ましい。
【0040】
[重合用触媒Aの製造方法]
重合用触媒Aはアルコール、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物を混合し、濃縮することによって製造することができる。より詳しくは、
(i)アルコール、チタン化合物、アルカリ金属化合物及び酸性リン酸エステル化合物を混合、溶解、反応させる工程
(ii)工程(i)で得た反応溶液からアルコールなどを留去することにより濃縮を行うと同時にさらに反応を行う工程
により製造される。
【0041】
重合用触媒Aの製造に使用されるアルコールは、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物を混合して均一溶液になるアルコールであればよく、中でも、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、2-エチルヘキサノール等の1価アルコールが、化合物の溶解性や取り扱いの容易さから、好ましく用いられる。これらのアルコールは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
特にチタン化合物、アルカリ土類金属化合物、酸性リン酸エステル化合物の溶解性が高く、反応溶液を濃縮するときに、沸点が低く、除去しやすいことから、エタノールが好ましい。
【0042】
チタン化合物としては、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートテトラマー、テトラ-t-ブチルチタネート、アセチル-トリ-i-プロピルチタネートなどのテトラアルコキシチタネート、酢酸チタン等が挙げられ、中でも、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートが好ましく、テトラ-n-ブチルチタネートが特に好ましい。これらのチタン化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の有機酸塩又はその水和物が好ましく用いられる。中でも好ましい化合物としてはマグネシウム、カルシウム等の有機酸塩、又はその水和物が挙げられるが、マグネシウム化合物が触媒活性の点で好ましい。マグネシウム化合物としては、例えば、酢酸マグネシウム、ラク酸マグネシウムなどの有機酸塩等が挙げられるが、特に酢酸マグネシウム又はその水和物が、アルコールに対する溶解度が高く、触媒の調製がし易いため好ましい。これらのアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、マグネシウム化合物とカルシウム化合物のような、異なった金属の化合物を併用することもできる。
【0044】
酸性リン酸エステル化合物としては、下記一般式(I)又は(II)で表される少なくとも1個の水酸基を有するリン酸のエステル構造を有するものが好ましく用いられる。
【0045】
【0046】
(式中、R、R’、R’’は各々炭素数1以上6以下のアルキル基、シクロヘキシル基、アリール基又は2-ヒドロキシエチル基を表し、式(I)において、RとR’は同一であっても異なっていてもよい。)
【0047】
このような酸性リン酸エステル化合物の具体例としては、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェートなどが挙げられ、なかでもエチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェートが好ましい。これらの酸性リン酸エステル化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
酸性リン酸エステル化合物にはモノエステル体(II)とジエステル体(I)があるが、酸性リン酸エステル化合物としてモノエステル体を用いること、又はモノエステル体とジエステル体の合計量100質量%中にモノエステル体を30質量%以上、好ましくは40質量%以上含むモノエステル体とジエステル体の混合物を用いることが好ましい。モノエステル体、又はモノエステル体とジエステル体の混合物におけるモノエステル体としては、モノエチルエステル体又はモノブチルエステル体が好ましく用いられる。
また、不純物として、酸性リン酸エステル化合物の100質量%中にモノエステル体(II)とジエステル体(I)の他、正リン酸を5~20質量%含んでいてもよい。
【0049】
[用途]
本発明のポリエステル樹脂は、コーティング剤、粘接着剤、インキ用バインダー、トナー用バインダー及びフィルム等の用途に用いることができる。
【0050】
また、本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の粘度、弾性率、熱特性等を改良するために、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等と混練して使用することができる。
【0051】
[コーティング剤]
本発明のコーティング剤は、本発明のポリエステル樹脂を含む。本発明のコーティング剤は、本発明のポリエステル樹脂単独で構成されてもよく、必要に応じて他の成分を含んでもよい。本発明のコーティング剤は、金属や樹脂等の成形品やフィルム等の基材に塗工し、硬化させることにより、基材上に硬化膜を形成できる。形成された硬化膜は、耐擦傷性や耐薬品性を有するため、樹脂成形品や樹脂フィルム等のトップコートとして有用である。
【0052】
[粘接着剤]
本発明の粘接着剤は、本発明のポリエステル樹脂を含む。本発明の粘接着剤は、本発明のポリエステル樹脂単独で構成されてもよく、必要に応じて他の成分を含んでもよい。例えば、耐熱性、熱伝導性、難燃性、電気伝導性等を付与するために充填剤を添加することもできる。充填剤としては、例えば、酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末などの金属系粉末、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、タルク、ガラスパウダー、シリカ粉末、導電性粒子、ガラス粉末などの無機充填剤;ポリエチレン粉末、ポリエステル粉末、ポリアミド粉末、フッ素樹脂粉末、ポリ塩化ビニル粉末、エポキシ樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末などの有機充填剤などが挙げられる。これらの充填剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の粘接着剤は、種々の基材への密着性に優れる。
【0053】
[トナー用バインダー]
本発明のポリエステル樹脂は、単独、又は他のトナー用バインダー樹脂と併用して、トナー用バインダー樹脂として使用することができる。
【0054】
本発明のポリエステル樹脂以外のトナー用バインダー樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、スチレン系樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン―アクリル樹脂、オレフィンーアクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明のポリエステル樹脂を含むトナー用バインダーは、種々の基材への密着性に優れる。
【0055】
[インキ]
本発明の樹脂組成物は、カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位Aとジカルボン酸由来の構成単位とを含むポリエステル樹脂と顔料を含む。
本発明の樹脂組成物に含まれる顔料としては、通常この分野で使用される若しくは使用されうる顔料を使用することができる。
【0056】
本発明のインキは、本発明の樹脂組成物を含む。
本発明のインキは、本発明の樹脂組成物を必要に応じ、溶剤に溶解してもよい。溶剤としては、本発明の樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂を希釈可能な溶剤であれば何ら制限はなく使用できる。
なお、本発明の樹脂組成物及び本発明のインキに含まれるポリエステル樹脂は、本発明のポリエステル樹脂であってもよい。
【0057】
本発明のインキにおける溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル、二塩基酸エステルDBE(シグマアルドリッチジャパン合同会社製品名)等のエステル系、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系、ジオキサン、ジエチルエーテル、THF等のエーテル系、セロソルブアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のセロソルブ系、混合溶剤:二塩基酸エステルDBE(シグマアルドリッチジャパン合同会社製品名)/ソルベント#100/ソルベント#150(三共化学株式会社製品名)=38/6/56(質量比)等の各種溶剤があげられる。
【0058】
本発明のインキにおいてポリエステル樹脂を溶剤で希釈する場合の濃度は、20~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。また、評価は以下の方法で行った。
【0060】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121-1987に準拠して、示差走差熱量計(島津製作所社製、「DSC-60」)を用いて、昇温速度5℃/分におけるチャートのベースラインと吸熱カーブの接線との交点から測定した。測定試料は10mg±0.5mgをアルミパン内に計量し、100℃で10分融解後、ドライアイスを用いて急冷却処理したサンプルを用いた。
【0061】
<軟化温度(T4)の測定>
ポリエステル樹脂の軟化温度は、樹脂サンプル1.0gを、フローテスター(島津製作所社製、「CFT-500D」)を用いて、1mmφ×10mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/分の等速昇温下で押し出し、ノズルから4mmが流出したときの温度を測定し、これを軟化温度とした。
【0062】
<酸価(AV)の測定>
ポリエステル樹脂の酸価は、以下のようにして測定した。測定サンプル約0.2gを枝付き三角フラスコ内に秤量し(A(g))、ベンジルアルコール10mlを加え、窒素雰囲気下で230℃のヒーターにて15分加熱し測定サンプルを溶解した。室温まで放冷後、ベンジルアルコール10ml、クロロホルム20ml、フェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(ml)、KOH溶液の力価=p)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(ml))、以下の式に従って酸価を算出した。
酸価(mgKOH/g)={(B-C)×0.02×56.11×p}/A
【0063】
<水酸基価(OHV)>
ポリエステル樹脂約5.0gを三角フラスコ内に精秤し(A(g))、THF50mL加え、完全に溶解させた。ジメチルアミノピリジン/THF溶液30mLを加え、無水酢酸/THF溶液10mLを加えた後、15分撹拌した。さらに蒸留水3mLを加え、15分撹拌した後、THF50mL及び0.5規定のKOH溶液25mLを加えた。指示薬としてフェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.5規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(mL)、KOH溶液の力価=f)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(mL))、以下の式に従って算出した。
水酸基価(mgKOH/g)=(C-B)×56.11×f÷A+酸価
【0064】
<ゲル分率(THF不溶解分)>
100mL三角フラスコにポリエステル樹脂0.5gを精秤し(A(g))、THF50mL加え、70℃に設定したウォーターバスに3時間浸けて樹脂を溶解した。一方、ガラスフィルター1GP100に6~7分目までセライト545をきつく充填し、105℃の真空乾燥機で3時間以上乾燥して秤量した(B(g))。続いて、乾燥したガラスフィルター内に、ポリエステル樹脂を溶解したTHF溶液を移して吸引濾過した。アセトンを用いて三角フラスコの壁に残存した内容物すべてをガラスフィルター内に移し、ガラスフィルター内はアセトンを流して可溶解分は吸引瓶に落とし、フィルター内に溶剤が残らないように吸引を続けた後に、80℃の真空乾燥機で1時間以上乾燥して秤量し(C(g))、以下の式に従って算出した。
ゲル分率(質量%)=(C-B)/A×100
【0065】
<分子量(質量平均分子量(Mw)、ピーク分子量(Mp)、数平均分子量(Mn))>
GPC法により、得られた溶出曲線のピーク値に相当する保持時間から、質量平均分子量(Mw)、ピーク分子量(Mp)、数平均分子量(Mn)を標準ポリスチレン換算により求めた。なお、溶出曲線のピーク値とは、溶出曲線が極大値を示す点であり、極大値が2点以上ある場合は、溶出曲線が最大値を与える点のことである。
装置:東ソー製、HLC8020
カラム:東ソー製、TSKgelGMHXL(カラムサイズ:7.8mm(ID)×30.0cm(L))を3本直列に連結
オーブン温度:40℃
溶離液:THF
試料濃度:4mg/10mL
濾過条件:0.45μmテフロン(登録商標)メンブレンフィルターで試料溶液を濾過
流速:1mL/分
注入量:0.1mL
検出器:RI
検量線作成用標準ポリスチレン試料:東洋ソーダ工業製TSK standard、A-500(分子量5.0×102)、A-2500(分子量2.74×103)、F-2(分子量1.96×104)、F-20(分子量1.9×105)、F-40(分子量3.55×105)、F-80(分子量7.06×105)、F-128(分子量1.09×106)、F-288(分子量2.89×106)、F-700(分子量6.77×106)、F-2000(分子量2.0×107)。
【0066】
<着色性:カラーLab値>
ポリエステル樹脂を、微小シャーレCM-A157(コニカミノルタ製)に充填し、微小シャーレ用ターゲットマスクCM-A158(コニカミノルタ製)を設置した分光測色計CM-5(コニカミノルタ製)を用いて、JIS Z8730に記載されるLab表示系におけるハンターの色差式の色座標によるカラーLab値を、シャーレ法により測定シャーレを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0067】
<粉砕性>
JIS規格試料縮分器を用いて粒径710μm~1mmに篩別したポリエステル樹脂約2.0gを、トリオブレンダー(TRIO SCIENCE製)に入れ、回転速度5で30秒間粉砕した。JIS規格試料縮分器をミクロ形電磁振動篩器(筒井理化学器械製)に設置し、粉砕したポリエステル樹脂を縮分器に入れ、強度10で30秒間振動させた。500μmの縮分器上に残存するポリエステル樹脂を秤量した。得られた樹脂残存率から粉砕性を以下のように評価した。
A(極めて良好):樹脂残存率が70質量%未満
B(良好):樹脂残存率が70質量%~79質量%
C(劣る):樹脂残存率が80質量%~89質量%
D(非常に劣る):樹脂残存率が90質量%以上
【0068】
<樹脂塗膜の追従性>
樹脂塗膜を形成した未処理PETフィルムを半分に折り曲げ、その上から1.2kgのローラーで10回こすって十分に折り目を付けた後に、フィルムを広げたときの、樹脂塗膜が基材から剥離する度合から追従性を評価した。
A(良好):樹脂塗膜が基材から全く剥離しないもの
B(劣る):樹脂塗膜の面積比率として、10%以上基材から剥離するもの
【0069】
<樹脂塗膜の密着性>
樹脂塗膜上にセロテープ(登録商標)の端部を残して貼付け、その上から1.2kgのローラーで10回こすって十分に接着させた後に、セロテープ(登録商標)の端部を基材に対して直角としてから瞬間的に引き剥がしたときの、樹脂塗膜が基材から剥離する度合から密着性を評価した。なお、基材としては、未処理PETフィルム(コスモシャインA4100、厚さ125μm、東洋紡製)、ガラス板、銅板(CCL-HL832、厚さ0.4mm、三菱ガス化学製)を使用した。
A(良好):樹脂塗膜が基材から全く剥離しないもの
B(劣る):樹脂塗膜の面積比率として、10%以上基材から剥離するもの
【0070】
[ポリエステル重合用触媒の調製方法]
撹拌装置付き500mLのガラス製ナス型フラスコに酢酸マグネシウム・4水和物を116.6g入れ、さらに250gの無水エタノール(純度99質量%以上)を加えた。さらにエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合質量比は1:1.22)を71.6g加え、23℃で撹拌を行った。20分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ-n-ブチルチタネートを75.0g添加した。さらに10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。この混合溶液を、1Lのナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。約2時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体が残った。次に、内容量が422gとなるようにエチレングリコールを205.5g添加して、80℃、相対圧力0.050kPaGにて、さらに低沸点物を2時間かけて留去し、重合用触媒Aとした。
【0071】
(実施例1~6、比較例1~4)
[ポリエステル樹脂の製造方法]
表1に示す仕込み組成の多価カルボン酸(単位:モル部)、多価アルコール(単位:モル部)、及び触媒A(120ppm;Ti:4ppm、Mg:5ppm、P:6ppm)を蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。次いで昇温開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。次いで、反応系内の温度を265℃に保持したまま、反応容器内を0.5kPa・absまで減圧し200rpmで撹拌させて、反応系から多価アルコールを留出させながら重縮合反応を実施した。重合終点は、表1記載の重縮合反応時間経過したところで反応装置の撹拌を停止し、装置内部を常圧とし、窒素により装置内部を加圧して装置下部より反応物を取り出して100℃以下に冷却し、ポリエステル樹脂を得た。
得られた樹脂の特性値を表2に示す。
【0072】
なお、表1中の略号は、以下の意味を示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
CHHA:シクロヘキサンヘキサカルボン酸
MLA:メリット酸
BPA:ベンゼンペンタカルボン酸
TMA:トリメリット酸
BPDA:ビフェニルテトラカルボン酸
INO:イノシトール
N.A.:ゲル化のため重合不可
【0073】
[樹脂塗膜の作製]
得られたポリエステル樹脂及びMEKを、固形分30質量%となるようにガラス製容器に秤量し、マグネティックスターラーで完全に溶解させた。バーコーター(20番)を用いて、調製した樹脂溶液を基材上にコーティングし、25℃で30分間静置することにより、基材上に厚み約8μmの樹脂塗膜を形成した。なお、基材としては、未処理PETフィルム(コスモシャインA4100、厚さ125μm、東洋紡製)、ガラス板(糸面加工品、厚さ2.0mm、大島硝子製)を使用した。
得られた樹脂塗膜の特性値を表2に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
表1~2に示す結果から、カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位を含まない比較例1~3は表2に示す結果から粉砕性が劣っていた。
比較例4は、カルボキシル基を5個以上有する環構造のカルボン酸由来の構成単位の量が多いため、反応途中で溶剤不溶解成分であるゲルが多量に生成したため重合不可となった。