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特許7484256シート供給装置、画像形成装置及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】シート供給装置、画像形成装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 3/52 20060101AFI20240509BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20240509BHJP
   B65H 7/12 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B65H3/52 330H
G03G15/00 481
B65H7/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020044978
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021147110
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】川原田 雅也
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-073844(JP,A)
【文献】特開2007-153560(JP,A)
【文献】特開平11-193141(JP,A)
【文献】特開2001-213539(JP,A)
【文献】特開2007-137645(JP,A)
【文献】特開平08-225173(JP,A)
【文献】中国実用新案第201358091(CN,Y)
【文献】米国特許出願公開第2010/0140866(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00- 3/68
B65H 7/00- 7/20
B65H 43/00-43/08
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート供給方向へシートを搬送する搬送用回転体と、
前記搬送用回転体との間にシートを挟持する分離用回転体と、
前記分離用回転体にシートを戻す方向への戻しトルクを付与するトルク付与手段と、
前記分離用回転体に付与される戻しトルクが所定値以下となるように制御するトルク制御手段とを有するシート供給装置であって、
前記トルク付与手段と前記分離用回転体との間のトルク伝達経路の状態をトルクの伝達状態と非伝達状態とに切り替えるトルク伝達切替手段と、
前記搬送用回転体と前記分離用回転体との間に送られる2枚以上のシートを分離可能な所定のタイミングに、前記非伝達状態から前記伝達状態への切り替えが行われるように、前記トルク伝達切替手段を制御する制御手段と、
前記分離用回転体の回転情報を取得する回転情報取得手段とを有し、
前記制御手段は、前記切り替えの後、前記回転情報取得手段が取得する前記回転情報に基づき前記分離用回転体が前記搬送用回転体の回転に連れ回り回転したと判断した場合、前記伝達状態から前記非伝達状態へ切り替わるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とするシート供給装置。
【請求項2】
請求項に記載のシート供給装置において、
前記制御手段は、前記切り替えの後、シート供給方向におけるシートの長さを含むシートの種類に基づいて、前記伝達状態から前記非伝達状態へ切り替わるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とするシート供給装置。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれか1項に記載のシート供給装置において、
前記分離用回転体のシート供給方向下流側でシートの重送を検知する重送検知手段を有し、
前記制御手段は、前記重送検知手段により重送が検知されないときには、前記切り替えを行わないことを特徴とするシート供給装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート供給装置において、
前記トルク制御手段は、前記非伝達状態と前記伝達状態との切り替えに応じて、前記トルク付与手段が付与する戻しトルクの大きさを変更することを特徴とするシート供給装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のシート供給装置において、
前記トルク制御手段は、シートの種類に応じて、前記トルク付与手段が付与する戻しトルクの大きさを変更することを特徴とするシート供給装置。
【請求項6】
請求項2又は5に記載のシート供給装置において、
前記シートの種類の入力を受け付ける入力受付手段を有することを特徴とするシート供給装置。
【請求項7】
シートに画像を形成する画像形成装置であって、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のシート供給装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
シート供給方向へシートを搬送する搬送用回転体と、前記搬送用回転体との間にシートを挟持する分離用回転体と、前記分離用回転体にシートを戻す方向への戻しトルクを付与するトルク付与手段と、前記分離用回転体に付与される戻しトルクが所定値以下となるように制御するトルク制御手段とを有するシート供給装置に設けられた、前記トルク付与手段と前記分離用回転体との間のトルク伝達経路の状態をトルクの伝達状態と非伝達状態とに切り替えるトルク伝達切替手段と、前記搬送用回転体と前記分離用回転体との間に送られる2枚以上のシートを分離可能な所定のタイミングに、前記非伝達状態から前記伝達状態への切り替えが行われるように、前記トルク伝達切替手段を制御する制御手段と、前記分離用回転体の回転情報を取得する回転情報取得手段を制御する制御方法であって、
前記搬送用回転体と前記分離用回転体との間に送られる2枚以上のシートを分離可能な所定のタイミングに、前記非伝達状態から前記伝達状態への切り替えが行われるように、前記トルク伝達切替手段を制御し、
前記制御手段は、前記切り替えの後、前記回転情報取得手段が取得する前記回転情報に基づきリバースローラ56がフィードローラ55の回転に連れ回り回転したと判断した場合、前記伝達状態から前記非伝達状態へ切り替わるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート供給装置、画像形成装置及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シート供給方向へシートを搬送する搬送用回転体と、前記搬送用回転体との間にシートを挟持する分離用回転体と、前記分離用回転体にシートを戻す方向への戻しトルクを付与するトルク付与手段と、前記分離用回転体に付与される戻しトルクが所定値以下となるように制御するトルク制御手段とを有するシート供給装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シートの分離方式としてMRR方式(Motored Reverse Roller方式)を採用するシート供給装置が開示されている。この装置は、分離ロール(分離用回転体)にDCモータ(トルク付与手段)が直結され、DCモータへ入力する駆動電流値を、電流制限回路(トルク制御手段)により制限電流値を超えないように制御する。この装置では、シートが1枚だけ搬送されてきた場合には、DCモータから伝達される戻しトルクに抗して分離ロールがシートを介して搬送ロール(搬送用回転体)に連れまわって回転し、当該シートがシート供給方向へ供給される。一方、2枚以上のシートが搬送されてきた場合には、DCモータから伝達されるトルクにより分離ロールがシートを戻す方向へ回転駆動して、搬送ロールに接する1枚のシートから余剰分のシートを分離して戻し、1枚のシートだけがシート供給方向へ供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のシート供給装置では、搬送用回転体と分離用回転体との間に2枚以上のシートが送られてきた時に、分離用回転体によってシートを適切に分離することができないおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、シート供給方向へシートを搬送する搬送用回転体と、前記搬送用回転体との間にシートを挟持する分離用回転体と、前記分離用回転体にシートを戻す方向への戻しトルクを付与するトルク付与手段と、前記分離用回転体に付与される戻しトルクが所定値以下となるように制御するトルク制御手段とを有するシート供給装置であって、前記トルク付与手段と前記分離用回転体との間のトルク伝達経路の状態をトルクの伝達状態と非伝達状態とに切り替えるトルク伝達切替手段と、前記搬送用回転体と前記分離用回転体との間に送られる2枚以上のシートを分離可能な所定のタイミングに、前記非伝達状態から前記伝達状態への切り替えが行われるように、前記トルク伝達切替手段を制御する制御手段と、前記分離用回転体の回転情報を取得する回転情報取得手段とを有し、前記制御手段は、前記切り替えの後、前記回転情報取得手段が取得する前記回転情報に基づき前記分離用回転体が前記搬送用回転体の回転に連れ回り回転したと判断した場合、前記伝達状態から前記非伝達状態へ切り替わるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とする。

【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、分離用回転体によってシートを適切に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るプリンタの概略構成図。
図2】4つの作像部のうちのイエロー用の作像部の概略説明図。
図3】実施形態における給紙装置の概略構成図。
図4】同給紙装置のフィードローラ及びリバースローラの駆動機構を示す模式図。
図5】同給紙装置の制御部におけるクラッチの制御の概要を示すフローチャート。
図6】(a)は、従来構成において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラの回転速度の時間変化を示すグラフ。(b)は、従来構成において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータの回転速度の時間変化を示すグラフ。(c)は、従来構成において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータに入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフ。
図7】(a)は、実施形態において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラの回転速度の時間変化を示すグラフ。(b)は、実施形態において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータの回転速度の時間変化を示すグラフ。(c)は、実施形態において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータに入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフ。
図8】変形例1におけるクラッチの制御の流れを示すフローチャート。
図9】(a)は、変形例1において、分離ニップに1枚のシートが送られた場合のリバースローラの回転速度の時間変化を示すグラフ。(b)は、変形例1において、分離ニップに1枚のシートが送られた場合のリバースモータの回転速度の時間変化を示すグラフ。(c)は、変形例1において、分離ニップに1枚のシートが送られた場合のリバースモータに入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフ。
図10】(a)は、変形例1において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラの回転速度の時間変化を示すグラフ。(b)は、変形例1において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータの回転速度の時間変化を示すグラフ。(c)は、変形例1において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータに入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフ。
図11】変形例2における給紙装置の概略構成図。
図12】変形例2におけるクラッチの制御の流れを示すフローチャート。
図13】(a)は、変形例2において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラの回転速度の時間変化を示すグラフ。(b)は、変形例2において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59の回転速度の時間変化を示すグラフ。(c)は、変形例2において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータに入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のシート供給装置を、複数の感光体が並行配設されたタンデム型の画像形成装置であるカラーレーザープリンタ(以下、単に「プリンタ500」という。)に適用した一実施形態について、図1及び図2を用いて説明する。
なお、本発明は、カラーレーザープリンタ以外の複写機、ファクシミリ、あるいは複写機、ファクシミリ、プリンタのいずれか2つ又は3つの機能を備えた複合機等の画像形成装置にも適用可能である。また、画像形成方式が、電子写真方式に限られず、インクジェット方式や孔版印刷方式等の画像形成装置にも適用可能である。また、画像形成装置を有しない画像読取装置にも適用可能である。また、駆動対象を駆動する駆動装置を備えた装置であれば、画像形成装置や画像読取装置以外のあらゆる装置に適用可能である。
【0009】
図1は、本実施形態に係るプリンタ500の概略構成図である。
プリンタ500は画像形成部200、及び、これらの下に配設されたシート供給装置としての給紙部300などを備えている。プリンタ500の装置の内部には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色の画像を形成するための画像形成部として、4つの作像部1(1Y,1M,1C、1Bk)を備えている。作像部1(1Y,1M,1C、1Bk)はそれぞれドラム状の感光体2(2Y,2M,2C、2Bk)を備え、4個の感光体2(2Y,2M,2C、2Bk)は、画像形成部200内の図中左右方向に等間隔で離間させて並列に配設されている。各感光体2(2Y,2M,2C、2Bk)はプリンタ500の動作時に、駆動源から駆動が伝達されることにより、矢印方向に回転する。
【0010】
各感光体2(2Y,2M,2C、2Bk)の周囲には、現像装置など、電子写真方式の作像に必要な部材、装置が配備され、4つの作像部1(1Y,1M,1C、1Bk)を構成されている。本実施形態の説明では、作像する画像のトナー色に対応させるよう、便宜上各作像部1の構成部材を示す番号の後ろに、その色を表わすY(イエロー)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Bk(ブラック)を添え字として附すことにする。特に一般的説明では、これらの添え字を省略する場合もある。
【0011】
プリンタ500では、用いるトナーの色が異なる点以外は、4つの作像部1(1Y,1M,1C、1Bk)は、いずれもほぼ同じ構成となっている。
【0012】
図2は、4つの作像部1(1Y,1M,1C、1Bk)のうちのイエロー用の作像部1Yの概略説明図である。
図2に示すように、作像部1Yには、感光体2Yの周囲に静電写真プロセスに従い帯電装置4Y、現像装置5Y、クリーニング装置3Yなど作像部材が順に配設されている。帯電装置4Yは感光体2Yと対向する帯電ローラ4aYを備え、現像装置5Yは、現像ローラ5aY、現像ブレード5bY、スクリュー5cY等を有する。また、クリーニング装置3Yは、クリーニングブラシ3aY、クリーニングブレード3bY、回収スクリュー3cY等を備える。
【0013】
感光体2Yとして、例えば直径30~120[mm]程度のアルミニウム円筒表面に光導電性物質である有機半導体層を設けた層構造よりなるものを用いることができる。なお、感光体としてはベルト状のものを用いることも可能である。
【0014】
図1に示すように、感光体2(2Y,2C,2M,2Bk)の下方には各色の画像データ対応のレーザ光8を、各帯電装置4で一様に帯電済みの各感光体2の表面に走査し、静電潜像を形成するための潜像形成手段としての露光装置80が設けられている。各帯電装置4と各現像装置5との間には、この露光装置80により照射するレーザ光8が感光体2に向けて入り込むように、細長いスペースが感光体2の回転軸の方向に確保されている。
【0015】
図1に示す露光装置80は、レーザ光源、ポリゴンミラー等を用いたレーザスキャン方式の露光装置で、4個の半導体レーザから、形成すべき画像データに応じて変調したレーザ光8(8Y,8C,8M,8Bk)を発する。露光装置80は金属あるいは樹脂製の筐体により、光学部品、制御用部品を収納し、上面の出射口には、透光性の防塵部材を備えている。図1に示すプリンタ500では1個の筐体で構成されているが、複数の露光装置を、各作像部に個別に設けることもできる。また、レーザ光を採用する露光装置のほかに、公知のLEDアレイと結像手段とを組合せた露光装置も採用できる。
【0016】
イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色トナーは、各色を扱う現像装置5(5Y,5C,5M,5Bk)で消費されると、トナー検知手段により検知される。そして、プリンタ500の上部に備える各色のトナーを収納している4つのトナーカートリッジ40(40Y,40C,40M,40Bk)から、トナー補給手段により、各現像装置5に供給される。
【0017】
各トナーカートリッジ40の外殻は、樹脂や紙等からなる容器で、一部に排出口を備え、プリンタ500の装着部400に容易に着脱できる。装着したとき、この排出口がプリンタ500本体に設けた個別のトナー補給手段と結合する。また、プリンタ500では、各色のトナーカートリッジ40が誤って装着されて別の色を扱う現像装置にトナーが補給されないよう、装着部400とトナーカートリッジ40の形状が対をなすようにするなど、誤装着防止手段が設けてある。
【0018】
現像装置5には、図2のイエロー用の作像部1Yで代表的に示すように、トナーとキャリヤの攪拌、搬送用のスクリュー5cYが2本備えてある。現像装置5Yがプリンタ500に装着されているとき、上述のトナー補給手段の一端が、図2で左側のスクリュー5cYの上部に接続される。スクリュー5cYによりトナーは、矢印方向に回転する現像ローラ5aYに供給されるが、現像ブレード5bYにより、現像ローラ5aY表面のトナー層の厚みが所定の厚みになるよう規制される。
【0019】
現像ローラ5aYは、ステンレスやアルミニュウム製の円筒で、回転可能にかつ感光体2Yとの距離が正規に確保されるように現像装置5Yのフレームに支持され、内部には所定の磁力線が構成されるようにマグネットが備えてある。レーザ光8により各感光体2の表面に形成された色毎の静電潜像は、所定の色のトナーを扱う現像装置5により現像され、顕像となる。
【0020】
感光体2(2Y,2C,2M,2Bk)の上部には、中間転写ユニット6が配備されている。複数のローラ6b,6c,6d,6eに掛け渡された像担持体としての中間転写ベルト6aを備え、駆動源によって駆動が伝達されるローラ6bが回転することにより中間転写ベルト6aが矢印方向に走行する。この中間転写ベルト6aは無端状で、現像装置5との対向部を通過したあとの各感光体2の表面が接触するように掛け渡されている。ベルト内周部には各感光体2に対向させて4つの一次転写ローラ7(7Y,7C,7M,7Bk)が設けられている。
【0021】
中間転写ベルト6aの外周部には、クリーニング対向ローラ6eに対向する位置にベルトクリーニング装置6hが設けられている。このベルトクリーニング装置6hは中間転写ベルト6aの表面に残留する不要なトナーや、紙粉などの異物を拭い去る。このベルトクリーニング装置6hに対向するクリーニング対向ローラ6eは、中間転写ベルト6aにテンションを与える機構を備える。常に適切なベルトテンションを確保するため移動するが、クリーニング対向ローラ6eの中間転写ベルト6aを挟んで対向するベルトクリーニング装置6hも連動して移動が可能となっている。
【0022】
この中間転写ベルト6aとしては、例えば、基体の厚さが50~600[μm]の樹脂フィルム或いはゴムを基体とするベルトが好適である。当該ベルトは、各感光体2が担持するトナー像を、各一次転写ローラ7に印加するバイアスにより静電的にベルト表面に転写を可能とする抵抗値を有する。なおプリンタ500が備える中間転写ベルト6aに関連する各部材は、中間転写ベルト6aと一体的に支持され中間転写ユニット6として構成してあり、プリンタ500に対して着脱が可能となっている。
【0023】
中間転写ベルト一例として、中間転写ベルト6aは、ポリアミドにカーボンを分散し、その体積抵抗値は、10~1012[Ωcm]程度に抵抗が調整されたものである。また、中間転写ベルト6aはベルトの走行を安定させるためのベルト寄り止めリブを、ベルト片側あるいは両側端部に設けてある。
【0024】
一次転写ローラの一例として、プリンタ500の一次転写ローラ7は芯金たる金属ローラの表面に、導電性ゴム材料を被覆したもので、芯金部に、電源からバイアスが印加される。導電性ゴム材料はウレタンゴムにカーボンが分散され、体積抵抗10[Ωcm]程度に抵抗が調整されている。なお、一次転写ローラとしては、ゴム層を有さない金属ローラも採用が可能である。中間転写ベルト6aの外周で、支持ローラとしての二次転写対向ローラ6bと中間転写ベルト6aを挟んで対向する位置には、二次転写ローラ14aが設けてある。二次転写ローラ14aは芯金たる金属ローラの表面に、導電性ゴムを被覆したもので、芯金部に、電源14bからバイアスが印加される。前記導電性ゴムにはカーボンが分散されており、体積抵抗は10[Ωcm]程度に抵抗が調整されたものである。
【0025】
二次転写ローラ14aは二次転写対向ローラ6bと対向する位置で中間転写ベルト6aに当接し、二次転写部としての二次転写ニップを形成している。二次転写ニップでは、中間転写ベルト6aと二次転写ローラ14aの間に記録媒体としての転写紙(用紙)などのシートSを通過させながら、バイアスを印加することで中間転写ベルト6aが担持するトナー画像がシートSに静電的に転写される。
【0026】
露光装置80の下方の給紙部300には複数段、例えば2段の給紙カセット9A,9Bが引き出し可能に配設されている。これらの給紙カセット内に収納されたシートSは、対応するピックアップローラ10A,10Bの回転により選択的に送り出され、分離ローラ11A,11B、搬送ローラ対12A,12Bを通じて給紙路P1に送られる。
【0027】
給紙路P1には、二次転写部へシートSを送り出す給送タイミングをとるため、一対ローラからなるタイミングローラ対13が設けてある。シートSは、タイミングローラ対13から、中間転写ベルト6aと二次転写ローラ14aで構成される二次転写ニップに向けて搬送される。
【0028】
プリンタ500は図1中の右側に手差し給紙部としての手差しトレイ25を備えており、この手差しトレイ25は、使用しないときに回動させてプリンタ500本体の一部であるの側方フレームFに収納が可能である。手差しトレイ25に収納された最上位のシートSは、手差しピックアップローラ26により給紙される。そして確実に一枚だけ搬送されるように分離手段としての分離ローラ27で分離され、搬送ローラ対である22、24により給紙路P1を経てタイミングローラ対13に送られる。
【0029】
二次転写ニップの上方には加熱手段を有する定着装置15が設けられている。プリンタ500が備える定着装置15ではヒータを内蔵した定着ローラ15aと、この定着ローラ15aに対し加圧しながら当接する加圧ローラ15bとから構成されている。定着装置としては、このような構成に限らず、ベルトを採用したタイプ、また加熱の方式もIHを採用したものなど、適宜採用できる。
【0030】
切換ガイド63は回動可能で、図示の状態とすることで、定着の終了したシートSが排紙路を形成するガイド部材61aに案内される。ガイド部材61aに案内されたシートSは、排紙ローラ62の回転によって図1中矢印Dで示すように排紙され、プリンタ500の上部の排紙トレイ60上にスタックさせる。
【0031】
図1のプリンタ500は、シートSの両面に自動的に画像を形成することができるよう、シートSの反転、再給紙のための再給紙路やローラを備えた両面ユニットを有している。具体的には、側方フレームFの内部にスイッチバック路P5と再給紙路P6とを備え、給紙路P1へ片面に画像形成を終えたシートSを搬送させるよう、切換ガイド63、第二切換ガイドG2及び第三切換ガイドG3を備えている。
【0032】
また、駆動源に接続されて駆動源を制御することにより反転(正逆回転)可能な反転ローラ18a及び反転ローラ22等を備えている。反転ローラ22には、ローラ23,24が当接している。この反転ローラ22が時計方向に回転するとき、ローラ24と協働して手差しトレイ25からのシート搬送を行う。また反時計方向に回転するとき、ローラ23と協働して再給紙路P6内のシートSをタイミングローラ対13の方向に再給紙させる。
【0033】
切換ガイド63が図示の状態から時計方向に回動すると、定着の終了したシートSは、ローラ対17により反転搬送路P4に案内され、第二切換ガイドG2を経て反転ローラ対18へと搬送され、一旦スイッチバック路P5に送られる。シートSがスイッチバック路P5に送られた後、反転ローラ対18の反転ローラ18aが反時計方向に回転し、かつ第二切換ガイドG2が反時計方向に回動することで、シートSはスイッチバック路P5から再給紙路P6へ送られる。再給紙路P6で、ローラ対15c,20及びローラ対14c,21により搬送されるシートSはさらにローラ対22,23に搬送され、タイミングローラ対13に到達する。
【0034】
図1に示すプリンタ500では、給紙部300の下部に追加の給紙部であるシート供給装置としての給紙装置50を備えている。図1に示す給紙装置50では2個の給紙カセット51を備えているが、さらに個数を増やしたタイプのものも採用でき、シート収納数を多くした給紙カセットを内蔵したタイプでもよい。
【0035】
プリンタ500は、定着装置15の上方で、ローラ対17の搬送方向下流にある第三切換ガイドG3が、図1の状態から反時計方向に回動し、定着後のシートSを案内し、排紙路P3に搬送させ、別の排紙装置に排出させることができる。この別の排紙装置としては、例えば数段の排紙トレイを有するビントレイである。
【0036】
次に、プリンタ500で、シートSの片面に画像を形成する片面印刷時の動作について説明する。
まず、露光装置80の作動により半導体レーザから出射されたイエロー用の画像データ対応のレーザ光8Yが、帯電ローラ4aYにより一様帯電された感光体2Yの表面に照射されることにより静電潜像が形成される。この静電潜像は現像ローラ5aYによる現像処理を受けてイエロートナーで現像され、可視像となり、感光体2Yと同期して移動する中間転写ベルト6a表面に一次転写ローラ7Yによる転写作用を受けて一次転写される。このような潜像形成、現像、一次転写動作は他の感光体2(2C,2M,2Bk)でもタイミングをとって順次同様に行われる。
【0037】
この結果、中間転写ベルト6aの表面上には、イエローY、シアンC、マゼンタM、及びブラックBkの各色トナー画像が、順次重なり合った4色トナー画像として担持され、矢印の方向に表面移動する中間転写ベルト6aとともに搬送される。一方、中間転写ベルト6aを挟んで一次転写ローラ7と対向する位置を通過した感光体2の表面は、クリーニング装置3により、残存するトナーや異物がクリーニングされる。
【0038】
中間転写ベルト6a上に形成された4色トナー画像は、中間転写ベルト6aと同期して搬送されるシートS上に、二次転写ローラ14aによる転写作用を受けて転写される。そして、中間転写ベルト6a側ではその表面が、ベルトクリーニング装置6hによりクリーニングされ、次の作像・転写工程に備える。画像が転写されたシートSは、定着装置15による定着作用を受け、排紙ローラ62により排紙トレイ60に、画像面が下向き(フェースダウン)で排紙される。
【0039】
次に、プリンタ500で、シートSの両面に画像を形成する両面印刷時の動作について説明する。
上述した片面印刷時と同様の作用により、その片面に中間転写ベルト6aから画像を転写され、定着装置15を通過したシートSを、切換ガイド63によりローラ対17へ向けて案内する。ローラ対17の搬送方向下流側に設けてある第三切換ガイドG3と反転搬送路P4を経て、図1の回動位置にある第二切換ガイドG2の上方に進むシートSは、反転ローラ対18によってスイッチバック路P5へ搬送される。
【0040】
このとき、反転ローラ18aは時計方向に回転駆動する。スイッチバック路P5内のローラ対19も正逆転が可能なローラ対であり、シートSを一旦スイッチバック路P5に受け入れた後逆転させ、シートSを逆送させる。ローラ対19及び反転ローラ対18の回転方向を逆転するときには、第二切換ガイドG2は、図1に示す姿勢から反時計方向に回動する。
【0041】
そして、シートSのスイッチバック路P5に入るまで後端であったほうを前端としてローラ対15c,20とローラ対14c,21により再給紙路P6内を搬送し、給紙路P1に向けて搬送し、タイミングローラ対13に到達させる。その後、タイミングローラ対13でタイミングをとって、片面に画像を有しているシートSを再度、二次転写ローラ14aと中間転写ベルト6aとが対向する二次転写ニップに向けて搬送し、中間転写ベルト6a上のトナー画像がシートSの他面側に転写される。
【0042】
シートSの第二面に形成すべき画像は、シートSが所定のところまで搬送されたとき、開始される作像工程により順次形成される。この場合の作像工程もまた前述の片面印刷時のフルカラートナー画像形成と同様であり、このフルカラートナー画像を中間転写ベルト6a上に担持させる。ただし、シートSは搬送路で前後が反転されているため、最初に作像されたときに対し、シート搬送方向で逆から作像されるよう、露光装置80から出射される画像データの作成が制御、実行される。
【0043】
このようにして両面にフルカラートナー像が転写されたシートSは再度、定着装置15による定着処理を経て排紙ローラ62により排紙トレイ60上に排紙される。なお、プリンタ500では、両面作像の効率を上げるため、搬送路には同時に数枚のシートSを搬送させることができる。また、シートSの表、裏に形成すべき画像の形成タイミングは制御手段により実行される。
【0044】
また、プリンタ500では、感光体2上に形成されるトナー像の極性はマイナスであり、一次転写ローラ7にプラスの電荷を与えることで感光体2上のトナー像は中間転写ベルト6a表面に転写される。また、二次転写ローラ14aにプラスの電荷を与えることで中間転写ベルト6a表面のトナー像が、シートSに転写される。
【0045】
なお、これらの片面印刷、両面印刷動作に関して、フルカラー印刷を実行させる例で説明したが、ブラックによるモノクロ印刷時にあっては、使用されない感光体が存在する。使用されない感光体2(2Y,2M,2C)及び現像装置5(5Y,5M,5C)を稼動させないだけでなく、これらの使用されない感光体2(2Y,2M,2C)と中間転写ベルト6aとを非接触に保つための機構を備えている。プリンタ500では、ローラ6dと一次転写ローラ7Y、7Cおよび7Mを支持する内部フレーム6fを、フレーム軸6gを中心に回動可能に支持している。
【0046】
モノクロ印刷時には、内部フレーム6fを感光体2(2Y,2M,2C)から遠ざかる方向(図1で時計方向)に回動させることにより、感光体2Bkだけが中間転写ベルト6aと接触して、作像工程を実行することにより、ブラックトナーによるモノクロ画像を作成する。このように、モノクロ印刷時には使用しない作像部1(1Y,1M,1C)の感光体2(2Y,2M,2C)を中間転写ベルト6aから離間し、感光体2(2Y,2M,2C)及び現像装置5(5Y,5M,5C)を停止させることは、作像部1(1Y,1M,1C)の寿命向上の点で有利である。
【0047】
プリンタ500では、メンテナンスや部品交換等の必要性が生じた場合には、外装カバー等を開放し、メンテナンスをおこなう。このメンテナンスのときには、図1に示した作像部1を構成する各部材を一体的に支持してユニット化したプロセスカートリッジとして交換すると操作性がよい。
【0048】
また、図1に示す作像部1をプロセスカートリッジとして構成したとき、プリンタ500への装着用のガイド部や把手を設けて着脱を容易なものとする。その他プロセスカートリッジの特性や稼動の状況を記憶する記憶装置(例えばICタグ)などを備えておくと、保守の指針となり、プロセスカートリッジの保守管理上の利便性が高まる。
【0049】
さらに、中間転写ユニット6に関してメンテナンスや交換等をする場合、中間転写ベルト6aと各感光体2とを離間させ、プリンタ500本体に対して中間転写ユニット6を引出すように構成しても良い。
【0050】
次に、本実施形態のプリンタ500に使用されるシート供給装置としての給紙装置をさらに詳しく説明する。
一般に、給紙装置のシート分離方式としては、FRR(Feed and Reverse Roller)方式やMRR方式(Motored Reverse Roller方式)が知られている。これらの方式は、シート供給方向(シート搬送方向)へシートを搬送する搬送用回転体としてのフィードローラと、フィードローラとの間にシートを挟持する分離用回転体としてのリバースローラとを備え、リバースローラに所定値以下の戻しトルク(リバーストルク)を付与する点で共通している。ただし、MRR方式では、リバースローラに付与する戻しトルクを電気的に制御するので、FRR方式に比べて構造を簡素化でき、耐久性や安定性を向上できるという利点がある。そこで、本実施形態の給紙装置50は、MRR方式を採用している。
【0051】
図3は、本実施形態における給紙装置50の概略構成図である。
図3において、符号51は給紙カセット、符号52はシートガイド、符号53は底板、符号54はピックアップローラ、符号55はフィードローラ、符号56はリバースローラ、符号58は搬送ローラ対、符号K1及び符号K2はシート検知手段としてのシート検知センサ、符号Sはシートである。
【0052】
給紙装置50は、フィードローラ55と、スプリング56aの付勢力によってフィードローラ55に圧接されるリバースローラ56とを有している。フィードローラ55には、シートSを供給する方向への駆動力が付与され、リバースローラ56には、シートSを戻す方向に駆動力(リバーストルク)が付与される。シートSは、給紙カセット51にセットされたシート束から、フィードローラ55とギヤ連結されたピックアップローラ54の回転によって繰り出される。ピックアップローラ54は、シート束の最上部のシートに当接し、当該シート(先行シートS1)を搬送方向下流側へ繰り出す。そして、繰り出された先行シートS1は、給紙カセット51の搬送方向下流側に位置するフィードローラ55によって、更に搬送方向下流側へと搬送される。
【0053】
先行シートS1の後端がピックアップローラ54を通過する前でも、当該先行シートS1の前端が、さらに搬送方向下流側に設けられた搬送ローラ対58に到達すると、ピックアップローラ54を先行シートS1の紙面から離間させる(又は非駆動にする)ようにしている。そして、先行シートS1の前端が搬送ローラ対58のさらに搬送方向下流側に位置するシート検知センサK2で検知されると、このシート検知をトリガーとして次シートS2を繰り出すべくピックアップローラ54を給紙カセット51の最上部のシート(次シートS2)の紙面に当接させ(又は再駆動する)するようにしている。
【0054】
一方、フィードローラ55は、シートジャムを防止するため、先行シートS1後端がフィードローラ55に到達する前に、駆動が停止される。フィードローラ55の回転軸には一方向クラッチが接続されており、フィードローラ55の駆動を停止しても、フィードローラ55自体は搬送ローラ対58で搬送されるシートの搬送方向に連れ回り(従動回転)する。このようなフィードローラ55の駆動停止と、リバースローラ56の戻し回転により、先行シートS1の後端に続く形で次シートS2の前端が、フィードローラ55とリバースローラ56とのニップ(分離ニップ)に到達しても、シート分離が確実に行われ、先行シートS1と次シートS2の紙間制御不能によるシートジャムが発生することがない。
【0055】
次シートS2のスタートタイミングは、シートの挙動が安定(スリップ率が低下)する搬送ローラ対58の搬送方向下流に設けられたシート検知センサK2による先行シートS1の前端検知をトリガーとする。当該トリガーで、先行シートS1の後端に追突せず且つ所定のプリント生産性を満足する所定のタイミングでピックアップローラ54、フィードローラ55の駆動をスタートするようにしている。
【0056】
次に、本実施形態における分離動作について説明する。
ピックアップローラ54から繰り出されたシートSが、フィードローラ55とリバースローラ56との分離ニップに到達するまでは、フィードローラ55はシートを搬送する方向へ回転駆動しており、これに当接しているリバースローラ56は、付与されている戻しトルクに抗してフィードローラ55に連れまわって回転している。この分離ニップにシートSが1枚だけ進入すると、フィードローラ55は、そのまま回転駆動を継続してシートSを搬送方向へ搬送する一方、リバースローラ56も、このシート搬送に連れまわるように回転を継続する。これにより、1枚のシートSが搬送ローラ対58に向けて搬送される。
【0057】
一方、分離ニップに2枚以上のシートSが重なって進入した場合、フィードローラ55は、そのまま回転駆動を継続して、フィードローラ55に接する最上位のシートSだけを搬送方向へ搬送する。これに対し、リバースローラ56は、余剰分のシートSに接するので、戻しトルクによって、それまでシートSを搬送する方向へ連れまわって回転していた回転方向とは逆方向に回転駆動し始める。これにより、フィードローラ55に接する1枚のシートSから余剰分のシートSを分離し、給紙カセット51側へ戻すことができ、1枚のシートSだけが搬送ローラ対58に向けて搬送される。
【0058】
ここで、分離ニップに2枚以上のシートSが重なって進入した場合、リバースローラ56の回転方向は、フィードローラ55に連れまわる方向(シートを搬送する方向)から、その逆方向(シートを戻す方向)に切り替わる。この切り替わり時には、連れまわる方向に回転しているリバースローラ56及びこれに伴って回転する各種部材の慣性モーメントが作用する。この慣性モーメントが大きいほど、リバースローラ56が逆方向へ回転し始めるまでの時期が遅くなり(反応速度が遅くなり)、その遅れ分だけ余剰分のシートSが搬送方向下流側へ送られてしまう。余剰分のシートSが搬送方向下流側へ送られる量が多いほど、余剰分のシートSをフィードローラ55に接する1枚のシートSから分離し、給紙カセット51側へ戻すことが難しくなる。よって、この反応速度を速くして、安定した分離給紙の実現が求められる。
【0059】
図4は、本実施形態における給紙装置50のフィードローラ55及びリバースローラ56の駆動機構を示す模式図である。
図4に示すように、リバースローラ56に戻しトルクを付与するトルク付与手段の駆動源であるリバースモータ59のモータギヤ59aには、リバースローラ56のローラ軸56bの駆動ギヤ56cが噛み合っている。リバースモータ59には、制御部100の制御の下で動作するモータドライバ101からの駆動電流が電流制限部102を通じて入力される。リバースモータ59は、入力される駆動電流量に応じたトルクを発生させて、モータギヤ59aを駆動する。
【0060】
電流制限部102は、リバースモータ59に入力される駆動電流量を所定量(駆動電流上限値)以下に制限するための電流リミッタ機能を果たす。この駆動電流上限値は、分離ニップに1枚のシートだけが進入したときには、リバースローラ56が当該シートの搬送に連れまわって回転でき、かつ、分離ニップに2枚以上のシートが進入したときには、リバースローラ56が余剰分のシートを戻す方向へ回転駆動できるような戻しトルクを発生できる値に設定される。この駆動電流上限値は、制御部100によって変更可能である。
【0061】
ここで、本実施形態の給紙装置50においては、トルク伝達切替手段としてのクラッチ57が、リバースモータ59とリバースローラ56との間のトルク伝達経路上に配置されている。より具体的には、本実施形態では、リバースローラ56と駆動ギヤ56cとの間におけるローラ軸56b上に、クラッチ57が設けられている。
【0062】
従来の構成では、このようなクラッチ57が設けられていなかったため、リバースローラ56とリバースモータ59とが、モータギヤ59a、駆動ギヤ56c及びローラ軸56bを介して直結されていた。この従来の構成では、分離ニップに2枚以上のシートが進入したときにリバースローラ56の回転方向が切り替わる直前まで、リバースローラ56だけでなく、リバースモータ59やトルク伝達経路上の各種部材(ローラ軸56b、駆動ギヤ56c、モータギヤ59a)にも、リバースローラ56と一体的な回転運動が発生している。
【0063】
そのため、リバースローラ56の回転方向が切り替わる時には、リバースローラ56だけでなく、リバースモータ59やトルク伝達経路上の各種部材(ローラ軸56b、駆動ギヤ56c、モータギヤ59a)による慣性モーメントが作用する。その結果、慣性モーメントが大きく、リバースローラ56が逆方向へ回転し始めるまでの時期が遅くなって(反応速度が遅くなって)、余剰分のシートSを分離して戻すことができずに重送を生じさせるおそれがあった。
【0064】
これに対し、本実施形態では、クラッチ57をオフにすることにより、リバースモータ59とリバースローラ56との間のトルク伝達経路の状態を、トルクが伝達されない非伝達状態にすることができる。これにより、リバースローラ56がフィードローラ55に連れまわる方向へ回転しているときに、リバースモータ59や、クラッチ57よりもリバースモータ59側の部材(駆動ギヤ56c、モータギヤ59a)を、リバースローラ56の回転運動から切り離すことができる。
【0065】
その結果、リバースローラ56の回転方向が切り替わる直前まで、リバースモータ59や、クラッチ57よりもリバースモータ59側の部材(駆動ギヤ56c、モータギヤ59a)を、回転運動していない状態としておいたり、シートを戻す方向への回転運動が発生している状態にしておいたりすることができる。そして、分離ニップに2枚以上のシートが送られてくるタイミングで、クラッチをオンにしてトルク伝達経路の状態を非伝達状態から伝達状態に切り替えるようにする。これにより、リバースローラ56の回転方向を逆方向にする時には、クラッチ57よりもリバースローラ56側の部材(ローラ軸56bの一部)だけが、リバースローラ56と一体的になってシートを供給する方向へ回転運動している状態になる。したがって、リバースローラ56の回転方向を逆方向にする時に作用する慣性モーメントを、上述した従来の構成よりも小さくすることができる。よって、リバースローラ56が逆方向へ回転し始めるまでの時期を早めることができ(反応速度を速めることができ)、余剰分のシートを迅速に分離して給紙カセット51側へ戻すことができるようになり、重送の発生を抑制することができる。
【0066】
図5は、制御部100におけるクラッチ57の制御の概要を示すフローチャートである。
給紙動作開始時において、クラッチ57はオフにしてある。給紙モータを駆動して(S1)、ピックアップローラ54及びフィードローラ55の駆動が開始されると、リバースローラ56はフィードローラ55に対して連れ回り回転する。このとき、リバースモータ59は、停止していてもよいし、駆動していてもよいが、分離ニップに2枚以上のシートが進入してくる時期が到来するまでに(給紙モータの駆動開始からT1秒経過後までに)、駆動を開始する(S2)。
【0067】
そして、給紙モータの駆動開始からT1秒経過したら(S3のYes)、クラッチ57をオンにする(S4)。これにより、フィードローラ55に対して連れ回り回転しているリバースローラ56に、リバースモータ59からの戻しトルクが伝達される。クラッチ57のオン時には、フィードローラ55に対して連れ回りしているリバースローラ56と一体的に回転しているのは、クラッチ57よりもリバースローラ56側の部分(ローラ軸56bの一部)だけである。そのため、クラッチ57のオン時に作用する慣性モーメントが小さいので、2枚以上のシートが分離ニップに送られてきた場合に、リバースモータ59からの戻しトルクによってリバースローラ56が逆方向(シートを戻す方向)へ回転駆動されるまでの時間が早い(反応速度が速い)。その結果、余剰分のシートを迅速に分離して給紙カセット51側へ戻すことができ、重送の発生が抑制される。その後、所定のクラッチOFF条件が満たされたら(S5のYes)、クラッチをオフにする(S6)。クラッチをオフにした後に、リバースモータ59を駆動し続けても良く、停止しても良い。
【0068】
所定のクラッチOFF条件は、適宜設定することができる。例えば、所定のクラッチOFF条件としては、給紙モータの駆動開始から所定時間T2秒(T2>T1)が経過するという条件に設定してもよい。この場合、T2は、例えばシートSの後端が分離ニップを抜ける時期に対応するように設定される。このとき、シート搬送方向のシート長さが異なるシート種類ごとに、T2の値が変わってくる。したがって、例えば、下記の表1に示すデータテーブルを用意するなどして、シート搬送方向のシート長さが異なるシート種類ごとに最適なT2の値を用いて、クラッチをオフにするタイミング制御を実施する。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、シート搬送方向のシート長さが異なるシート種類ごとに、クラッチをオンにするタイミング(T1)の最適値も変わる可能性がある。そのため、前記表1に示すデータテーブルには、クラッチをオンにするタイミング(T1)も含まれており、シート搬送方向のシート長さが異なるシート種類ごとに最適なT1の値を用いて、クラッチをオンにするタイミング制御も実施する。
【0071】
分離ニップに送られてくるシートの種類を判別する方法としては、特に制限はない。本実施形態では、図1に示すように、給紙カセット9A,9B,51ごとに、セットされているシートSの種類をユーザ等が入力操作するための入力受付手段としての操作パネル501を設け、ユーザ等の入力操作に基づき、給紙カセット9A,9B,51ごとのシートSの種類(シート搬送方向のシート長さ)を制御部100が判別する。
【0072】
また、所定のクラッチOFF条件は、例えば、シート検知センサK1がシートを検知しなくなったタイミング(分離ニップから搬送されたシートの後端がシート検知センサK1を抜けたタイミング)にクラッチをオフにするという条件に設定してもよい。
【0073】
次に、本実施形態における給紙装置50での消費電力と、クラッチ57が設けられておらず、リバースローラ56とリバースモータ59とが、モータギヤ59a、駆動ギヤ56c及びローラ軸56bを介して直結された従来構成での消費電力との比較をする。
【0074】
図6(a)は、従来構成において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラ56の回転速度の時間変化を示すグラフである。図6(b)は、従来構成において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59の回転速度の時間変化を示すグラフである。図6(c)は、従来構成において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59に入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフである。
図7(a)は、本実施形態において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラ56の回転速度の時間変化を示すグラフである。図7(b)は、本実施形態において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59の回転速度の時間変化を示すグラフである。図7(c)は、本実施形態において、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59に入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフである。
【0075】
従来構成において、リバースモータ59からの戻しトルクが付与された状態のリバースローラ56は、給紙モータ(リバースモータ59)の駆動開始(t1)から、分離ニップに2枚以上のシートが突入する時刻t2まで、当該戻しトルクに抗して、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。したがって、リバースローラ56の回転速度は、図6(a)に示すように、給紙モータ(リバースモータ59)の駆動開始(t1)後、分離ニップに2枚以上のシートが突入する時刻t2までの間、目標回転速度ω1の一定回転で駆動されるフィードローラ55と同じく、目標回転速度ω1となる。
【0076】
そして、分離ニップに2枚以上のシートが突入する時刻t2に達すると、リバースローラ56の回転方向は、図6(a)に示すように、戻しトルクによって、リバースローラ56に接する余剰分のシートを戻す方向へ切り替わり、それまでとは逆方向へ回転駆動される。その後、分離ニップに進入した2枚以上のシートから余剰分のシートがすべて戻される時刻t3に、リバースローラ56は、再び回転方向を切り替え、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。これにより、リバースローラ56回転速度は、図6(a)に示すように、フィードローラ55の目標回転速度ω1と同じ速度となる。その後、フィードローラ55の駆動停止(t4)を行う。なお、リバースモータ59の駆動は継続しても良いし、停止しても良いが、本実施形態は、図7(c)に示すように、リバースモータ59の駆動を継続している例である。
【0077】
このとき、従来構成では、リバースローラ56とリバースモータ59とが直結された構成であるため、図6(b)に示すリバースモータ59の回転速度は、図6(a)に示すリバースローラ56の回転速度と同じになる。そして、このとき、リバースモータ59に入力される駆動電流値は、リバースモータ59に対してリミッタを超える負荷がかかっていることから、電流上限値であるI1が常に入力される。
【0078】
これに対し、本実施形態においては、図7(a)に示すように、リバースローラ56は、給紙モータの駆動開始(t1)からT1秒後にクラッチ57がオンされるまで、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。そして、分離ニップに2枚以上のシートが突入する時刻t2の後(給紙モータの駆動開始からT1秒後)に、クラッチ57がオンされると、リバースローラ56にはリバースモータ59からの戻しトルクが付与される。これにより、リバースローラ56の回転方向は、図7(a)に示すように、戻しトルクによって、リバースローラ56に接する余剰分のシートを戻す方向へ切り替わり、それまでとは逆方向へ回転駆動される。その後、分離ニップに進入した2枚以上のシートから余剰分のシートがすべて戻されると(t3)、リバースローラ56は、再び回転方向を切り替え、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。これにより、リバースローラ56回転速度は、図7(a)に示すように、フィードローラ55の目標回転速度ω1と同じ速度となる。
【0079】
このとき、本実施形態においては、給紙モータの駆動開始(t1)から、クラッチ57がオンされるT1秒後までの間、クラッチ57がオフになっているため、リバースモータ59は、図7(b)に示すように、戻しトルクの空回転をしている状態になる。本実施形態においては、給紙モータの駆動開始より前にリバースモータ59を駆動しているが、クラッチ57がオンされる(t1からT1秒後)までにリバースモータ59は駆動していればよい。そのため、リバースモータ59に入力される駆動電流値は、電流上限値I1よりも低い電流値I2だけが入力される。
【0080】
したがって、本実施形態によれば、給紙モータ(リバースモータ59)の駆動開始(t1)から、クラッチ57がオンされるT1秒後までの間の駆動電流値を小さく抑えることができ、その分だけ従来構成よりも消費電力を小さく抑えることができる。
【0081】
〔変形例1〕
次に、上述した実施形態におけるクラッチ57の制御方法についての一変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
本変形例1においては、リバースモータ59への駆動電流値の入力を更に抑制して、消費電力を小さく抑えるため、リバースローラ56の回転速度ω(回転情報)に基づいてクラッチをオフにするクラッチOFF条件を判断するものである。
【0082】
図8は、本変形例1におけるクラッチ57の制御の流れを示すフローチャートである。
給紙モータ及びリバースモータ59の駆動を開始してから(S1,S2)、T1秒が経過したら(S3のYes)、クラッチ57をオンにする(S4)。本変形例1においても、クラッチ57のオン時には、フィードローラ55に対して連れ回りしているリバースローラ56と一体的に回転しているのは、クラッチ57よりもリバースローラ56側の部分(ローラ軸56bの一部)だけである。そのため、クラッチ57のオン時に作用する慣性モーメントが小さいので、余剰分のシートを迅速に分離して給紙カセット51側へ戻すことができ、重送の発生が抑制される。
【0083】
ここで、本変形例1においては、リバースローラ56の回転情報である回転速度情報を取得するために、リバースローラ56の回転速度ωを計測する回転速度計測手段としてのエンコーダが設けられている。エンコーダから出力される回転速度ωの情報は、制御部100へ入力される。そして、制御部100は、入力される回転速度ωの情報に基づき、以下のように、クラッチをオフにするタイミングを決定する。
【0084】
図9(a)は、分離ニップに1枚のシートが送られた場合のリバースローラ56の回転速度の時間変化を示すグラフである。図9(b)は、分離ニップに1枚のシートが送られた場合のリバースモータ59の回転速度の時間変化を示すグラフである。図9(c)は、分離ニップに1枚のシートが送られた場合のリバースモータ59に入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフである。
図10(a)は、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラ56の回転速度の時間変化を示すグラフである。図10(b)は、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59の回転速度の時間変化を示すグラフである。図10(c)は、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59に入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフである。
【0085】
分離ニップに1枚のシートが送られた場合、リバースローラ56は、シートが分離ニップを抜けるまで、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。したがって、リバースローラ56の回転速度は、図9(a)に示すように、給紙モータの駆動開始(t1)後、フィードローラ55が目標回転速度ω1の一定回転で駆動されるのに伴って、リバースローラ56の回転速度ωは目標回転速度ω1と同じになる。そして、フィードローラ55の駆動停止を行う。なお、リバースモータ59の駆動は継続しても良いし、停止しても良いが、上述した実施形態と同様に、リバースモータ59の駆動は図9(c)に示すように継続している。
【0086】
このとき、本変形例1でも、上述したように、給紙モータの駆動開始(t1)からT1秒後にクラッチ57がオンされ(S1~S4)、リバースローラ56にはリバースモータ59からの戻しトルクが付与されるが、分離ニップに介在するシートが1枚だけなので、リバースローラ56は引き続きフィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。
【0087】
一方、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合、図10(a)に示すように、リバースローラ56は、給紙モータの駆動開始(t1)からT1秒後にクラッチ57がオンされるまで、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。そして、給紙モータの駆動開始(t1)からT1秒後にクラッチ57がオンされると(S1~S4)、リバースローラ56にリバースモータ59からの戻しトルクが付与される。これにより、リバースローラ56の回転方向は、図10(a)に示すように、戻しトルクによって、リバースローラ56に接する余剰分のシートを戻す方向へ切り替わり、それまでとは逆方向となる。その後、分離ニップに進入した2枚以上のシートから余剰分のシートがすべて戻されると、リバースローラ56は、再び回転方向を切り替え、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。これにより、リバースローラ56回転速度は、図10(a)に示すように、フィードローラ55の目標回転速度ω1と同じ速度となる。
【0088】
図9(a)と図10(a)とを比較する。
分離ニップに1枚のシートが送られた場合、リバースローラ56の回転速度ωは、図9(a)に示すように、フィードローラ55の目標回転速度ω1でほぼ一定となる。一方、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合には、図10(a)に示すように、クラッチ57をオンにした後(給紙モータの駆動開始からT1秒経過した後)、分離ニップに2枚以上のシートが介在している期間(t3までの期間)、フィードローラ55の目標回転速度ω1よりも低い速度に落ち、更には逆向きの回転速度(ω2)になる。したがって、この期間(t1からT1秒後の時刻から、t3時刻までの期間)におけるリバースローラ56の回転速度ωを検知することで、その検知結果から、分離ニップに2枚以上のシートが介在しているか否かを判別することができる。すなわち、リバースローラ56の回転速度ωから、分離ニップに送られてきたシートが、1枚なのか、2枚以上なのかを判断することができる。
【0089】
具体的には、本変形例1では、前記期間(t1からT1秒後の時刻から、t3時刻までの期間)の中間付近に設定される時刻(t1からT3秒後の時刻)に達したら(S11のYes)、リバースローラ56の回転速度ωがω2よりも大きくω3よりも小さい範囲内であるか否かを判断する(S12)。この範囲の下限値であるω2は、図10(a)に示すように、2枚以上のシートが送られてきた場合に戻しトルクによってリバースローラ56がシートを戻す方向に回転駆動するときの回転速度である。一方、この範囲の上限値であるω3は、リバースローラ56がシートを搬送する方向へ連れまわり回転するときの回転速度(フィードローラ55の目標回転速度ω1)よりも低い回転速度であり、1枚のシートが送られてきた場合にはとり得ないリバースローラ56の回転速度である。したがって、このリバースローラ56の回転速度ωがこの範囲内である場合には(ω2<ω<ω3)、分離ニップに2枚以上のシートが送られてきたものと判断することができ、この範囲から外れている場合には(ω>ω3)、分離ニップに1枚のシートが送られてきたものと判断することができる。
【0090】
そこで、本変形例1では、給紙モータの駆動開始(t1)からT3秒後の時刻に達したとき(S11のYes)、リバースローラ56の回転速度ωが前記範囲(ω2<ω<ω3)から外れると判断したら(S12のNo)、分離ニップに1枚のシートが送られてきたと判断して、すぐにクラッチをオフにする(S6)。これにより、リバースモータ59は、戻しトルクの空回転する状態になり、リバースモータ59に入力される駆動電流値は、電流上限値I1よりも低い電流値I2だけが入力される。その結果、上述した実施形態の場合よりも早くクラッチをオフにすることができ、リバースモータ59に入力される駆動電流値を、より早く、低い電流値I2にすることができるので、消費電力を抑制することができる。なお、クラッチをオフにすると同時に、リバースモータ59もオフにすることで、更に消費電力を抑制するようにしてもよい。
【0091】
また、本変形例1では、給紙モータの駆動開始(t1)からT3秒後の時刻に達したとき(S11のYes)、リバースローラ56の回転速度ωが前記範囲(ω2<ω<ω3)内であると判断したら(S12のYes)、分離ニップに2枚以上のシートが送られてきたと判断する。この場合、すぐにクラッチをオフにせず、リバースローラ56の回転速度ωが前記範囲(ω2<ω<ω3)から外れるまで、クラッチをオンにしたままにする。これにより、リバースローラ56は、戻しトルクによって、リバースローラ56に接する余剰分のシートを戻す方向へ回転駆動して、分離ニップから余剰分のシートを戻す。
【0092】
分離ニップに送られてきた2枚以上のシートから余剰分のシートがすべて戻されると、図10(a)に示すように、リバースローラ56は、フィードローラ55の回転にシートを介して連れまわり回転する。したがって、リバースローラ56の回転速度ωは、フィードローラ55の目標回転速度ω1と同じになり、ω3以上の回転速度となるので、前記範囲(ω2<ω<ω3)から外れることになる(S12のYes)。これにより、リバースモータ59は、戻しトルクの空回転する状態になり、リバースモータ59に入力される駆動電流値は、電流上限値I1よりも低い電流値I2だけが入力される。
【0093】
上述した実施形態の場合、給紙モータの駆動開始(t1)から予め決められた時間T2が経過するタイミングでクラッチをオフにするが、この時間T2は、通常、様々な状態で送られてくる2枚以上のシートから確実に余剰分のシートを戻すことのできる十分な時間に設定される。本変形例1では、実際に送られてきた2枚以上のシートから余剰分のシートを戻した時期に基づいてクラッチをオフにすることができるので、上述した実施形態の場合よりも早くクラッチをオフにすることができ、リバースモータ59に入力される駆動電流値を、より早く、低い電流値I2にすることができるので、消費電力を抑制することができる。また、クラッチをオフにした後にリバースモータ59もオフにすることで、更に消費電力を抑制することができる。
【0094】
〔変形例2〕
次に、上述した実施形態におけるクラッチ57の制御方法についての他の変形例(以下、本変形例を「変形例2」という。)について説明する。
本変形例2においては、分離ニップのシート搬送方向下流側に、シートの重送を検知する重送検知手段としての重送検知センサを設け、重送検知センサの検知結果に基づいてクラッチの制御を行うものである。
【0095】
図11は、本変形例2における給紙装置50の概略構成図である。
本変形例2においては、分離ニップのシート搬送方向下流側に、シート検知センサK1に代えて、シートの重送を検知する重送検知手段としての重送検知センサK3を設けている。重送検知センサK3としては、例えば、シート搬送経路を挟み込むように発光部と受光部を配置し、シートを透過する透過光量の違いによって、シートが1枚なのか、2枚以上なのかを判別するものを用いることができる。
【0096】
図12は、本変形例2におけるクラッチ57の制御の流れを示すフローチャートである。
給紙モータ及びリバースモータ59の駆動を開始した後(S1,S2)、本変形例2では、重送検知センサK3が重送を検知するか否かを判断する(S21)。このとき、重送検知センサK3が重送を検知しないまま(S21のNo)、予め決められた給紙モータの駆動停止の時刻t4に達したら(S22のYes)、クラッチをオフのまま、給紙モータをオフにする。なお、リバースモータ59の駆動は継続しても良いし、停止しても良いが、ここではリバースモータ59の駆動を継続している。
【0097】
重送検知センサK3により重送が検知されない場合、分離ニップには1枚のシートしか送られてきていないので、リバースローラ56にはリバースモータ59からの戻しトルクを付与する必要がなく、クラッチをオンにする必要がない。したがって、この場合、当該1枚のシートが分離ニップを抜けるまでの間、クラッチはオフのままであり、リバースモータ59は、戻しトルクの空回転する状態になり、リバースモータ59に入力される駆動電流値は、電流上限値I1よりも低い電流値I2だけが入力される。その結果、上述した実施形態の場合や変形例1よりも、更に消費電力を抑制することができる。
【0098】
図13(a)は、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースローラ56の回転速度の時間変化を示すグラフである。図13(b)は、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59の回転速度の時間変化を示すグラフである。図13(c)は、分離ニップに2枚以上のシートが送られた場合のリバースモータ59に入力される駆動電流値の時間変化を示すグラフである。
【0099】
重送検知センサK3により、給紙モータの駆動開始(t1)からT4秒後に重送が検知された場合(S21のYes)、制御部100は、クラッチをオンにする(S4)。本変形例2においても、クラッチ57のオン時に作用する慣性モーメントが小さいので、余剰分のシートを迅速に分離して給紙カセット51側へ戻すことができ、重送の発生が抑制される。そして、重送検知センサK3により、給紙モータの駆動開始(t1)からT5秒後に重送が検知されなくなったら(S23のYes)、ΔT秒だけ経過後に、すなわち、給紙モータの駆動開始(t1)からT5+ΔT秒後(S24のYes)に、クラッチをオフにする(S6)。
【0100】
クラッチをオフにするタイミングは、重送検知センサK3により重送が検知しなくなったタイミングから所定時間ΔT秒が経過した後のタイミングに設定するのが好ましい。重送検知センサK3が分離ニップからシート搬送方向下流側へ離れ配置されていることから、重送検知センサK3が重送を検知しなくなった時点では、まだ分離ニップに2枚以上のシートが介在しているおそれがあるからである。所定時間ΔTは、分離ニップ部と重送検知センサK3との距離、リバースローラ56の回転数、リバースモータ59に設定されるトルク等に応じて、最適な時間をあらかじめ設定しておくことができる。
【0101】
なお、上述した実施形態(変形例1、2を含む。)においては、リバースモータ59に入力する駆動電流の上限値が一定であるが、余剰分のシートを戻すのに必要な戻しトルクの大きさは、シートの厚さ、材質、表面粗さ、シートのサイズなど、シートの種類ごとに異なるものである。したがって、リバースモータ59に入力する駆動電流値を小さく抑えて消費電力を抑制する場合、シートの種類ごとにリバースモータ59に入力する駆動電流の上限値を変更するようにしてもよい。この場合、例えば、下記の表2に示すデータテーブルを用意するなどして、シート種類ごとに、リバースモータ59に入力する駆動電流の最適な上限値を用いるようにしてもよい。
【0102】
【表2】
【0103】
なお、リバースモータ59に入力される駆動電流値は、クラッチ57をオンにしている時とクラッチ57をオフにしている時とで異なる。したがって、前記表2に示すデータテーブルには、クラッチをオンにしているときの駆動電流値の上限値I1だけでなく、クラッチをオフにしているときの駆動電流値の上限値I2も含まれている。これにより、クラッチのオフ時に入力される駆動電流の値をより小さい値にすることが可能となり、更なる消費電力の抑制が可能となる。
【0104】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、シート供給方向へシートSを搬送する搬送用回転体(例えばフィードローラ55)と、前記搬送用回転体との間にシートを挟持する分離用回転体(例えばリバースローラ56)と、前記分離用回転体にシートを戻す方向への戻しトルクを付与するトルク付与手段(例えばリバースモータ59)と、前記分離用回転体に付与される戻しトルクが所定値以下となるように制御するトルク制御手段(例えば電流制限部102)とを有するシート供給装置(例えば給紙装置50)であって、前記トルク付与手段と前記分離用回転体との間のトルク伝達経路の状態をトルクの伝達状態と非伝達状態とに切り替えるトルク伝達切替手段(例えばクラッチ57)を有することを特徴とするものである。
このシート供給装置では、搬送用回転体と分離用回転体との間に2枚以上のシートが送られてくると、それまでは搬送用回転体に連れまわって回転していた分離用回転体の回転方向がトルク付与手段からの戻しトルクによって逆方向に切り替わる。これにより、搬送用回転体に接する1枚のシートから余剰分のシートを分離して戻すことができ、1枚のシートだけをシート供給方向へ供給することができる。
従来のシート供給装置では、余剰分のシートを分離して戻すことができずに重送を生じさせるおそれがあった。これは次の理由による。
分離用回転体の回転方向が、搬送用回転体に連れまわる方向(シートを供給する方向)から、回転方向が逆方向(シートを戻す方向)に切り替わる時、従来のシート供給装置は、連れまわる方向に回転している分離用回転体及びこれに伴って回転する各種部材の慣性モーメントが作用する。トルク付与手段からの戻しトルクが分離用回転体に常時伝達される構成であったためである。この慣性モーメントが大きいほど、分離用回転体が逆方向へ回転し始めるまでの時期が遅くなり、その遅れ分だけ余剰分のシートがシート供給方向へ送られてしまい、余剰分のシートを分離して戻すことが難しくなっていたのである。
本態様に係るシート供給装置においては、トルク伝達切替手段により、トルク付与手段と分離用回転体との間のトルク伝達経路の状態を、トルクが伝達されない非伝達状態にすることができる。これにより、分離用回転体が搬送用回転体に連れまわる方向へ回転しているときに、トルク付与手段や、トルク伝達経路上におけるトルク付与手段側の部材を、分離用回転体の回転運動から切り離すことができる。その結果、搬送用回転体と分離用回転体との間にシートが送られてくる直前まで、トルク付与手段やトルク伝達経路上におけるトルク付与手段側の部材を、回転運動していない状態としておいたり、シートを戻す方向への回転運動が発生している状態にしておいたりすることができる。これにより、搬送用回転体と分離用回転体との間に2枚以上のシートが送られてくるタイミングで、トルク伝達経路の状態を非伝達状態から伝達状態に切り替え、分離用回転体の回転方向を逆方向にする時、作用する慣性モーメントは、これらのトルク付与手段や部材が分離用回転体と一体的になってシートを供給する方向へ回転運動している状態である場合よりも、小さくなる。よって、分離用回転体が逆方向へ回転し始めるまでの時期を早めることができ、余剰分のシートを迅速に分離して戻すことができ、重送の発生を抑制することができる。
【0105】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記搬送用回転体と前記分離用回転体との間に送られる2枚以上のシートを分離可能な所定のタイミング(例えば給紙モータ駆動開始t1からT1秒後)に、前記非伝達状態から前記伝達状態への切り替えが行われるように、前記トルク伝達切替手段を制御する制御手段(例えば制御部100)を有することを特徴とするものである。
これによれば、トルク付与手段と分離用回転体との間のトルク伝達経路の状態を、トルクが伝達されない非伝達状態にする適切な制御が可能となる。
【0106】
[第3態様]
第3態様は、第2態様において、前記分離用回転体のシート供給方向下流側でシートを検知するシート検知手段(例えばシート検知センサK1)を有し、前記制御手段は、前記切り替えの後、前記シート検知手段の検知結果に基づいて、前記伝達状態から前記非伝達状態へ切り替わるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とするものである。
これによれば、実際に搬送されているシートが分離用回転体のシート供給方向下流側の位置を通過したタイミングで非伝達状態に切り替えることができるので、より適切なタイミングで非伝達状態への切り替えが可能となる。
【0107】
[第4態様]
第4態様は、第2又は第3態様のいずれかにおいて、前記分離用回転体の回転情報(例えば回転速度ω)を取得する回転情報取得手段(例えばエンコーダ)を有し、前記制御手段は、前記切り替えの後、前記回転情報取得手段が取得する前記回転情報に基づいて、前記伝達状態から前記非伝達状態へ切り替わるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とするものである。
これによれば、シート検知手段を設けなくても、適切なタイミングで非伝達状態への切り替えが可能となる。したがって、シート搬送経路付近にシート検知手段を設けることができないなどの状況にも対応することができる。
【0108】
[第5態様]
第5態様は、第2乃至第4態様のいずれかにおいて、前記制御手段は、前記切り替えの後、シート供給方向におけるシートSの長さを含むシートの種類に基づいて、前記伝達状態から前記非伝達状態へ切り替わるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とするものである。
これによれば、搬送されるシートの種類(シート供給方向におけるシートSの長さ)から、重送が解消されるタイミングを推測することができるので、シート検知手段や回転情報取得手段などを設けなくても、適切なタイミングで非伝達状態への切り替えが可能となる。
【0109】
[第6態様]
第6態様は、第2乃至第5態様のいずれかにおいて、前記分離用回転体のシート供給方向下流側でシートの重送を検知する重送検知手段(例えば重送検知センサK3)を有し、前記制御手段は、前記重送検知手段により重送が検知されないときには、前記切り替えを行わないことを特徴とするものである。
これによれば、重送が発生していないときには伝達状態になることなく非伝達状態のままシート供給を完了することができる。したがって、分離用回転体に対して不必要に戻しトルクを付与することをなくすことができ、消費電力の抑制を図ることができる。
【0110】
[第7態様]
第7態様は、第1乃至第6態様のいずれかにおいて、前記トルク制御手段は、前記非伝達状態と前記伝達状態との切り替えに応じて、前記トルク付与手段が付与する戻しトルクの大きさを変更することを特徴とするものである。
非伝達状態の戻しトルクは、分離伝達状態の戻しトルクと同一にする必要はなく、より小さいトルクとすることができる。本態様によれば、非伝達状態に不必要に大きな戻しトルクを用いずに済み、消費電力の抑制を図ることができる。
[第8態様]
第8態様は、第1乃至第7態様のいずれかにおいて、シートの種類に応じて、前記トルク付与手段が付与する戻しトルクの大きさを変更するトルク変更手段を有することを特徴とするものである。
分離用回転体により余剰分のシートを戻すのに必要な戻しトルクの大きさは、シートの厚さ、材質、表面粗さ、シートのサイズなど、シートの種類ごとに異なるものである。本態様によれば、シートの種類ごとに適した戻しトルクを用いることができるので、不必要に大きな戻しトルクを用いずに済み、消費電力の抑制を図ることができる。
【0111】
[第9態様]
第8態様は、第5又は第8態様において、前記シートの種類の入力を受け付ける入力受付手段(例えば操作パネル501)を有することを特徴とするものである。
これによれば、ユーザ等の入力指示に従ってシートの種類を判別することが可能となる。
【0112】
[第10態様]
第9態様は、シートSに画像を形成する画像形成装置(例えばプリンタ500)であって、第1乃至第9態様のいずれかのシート供給装置を備えることを特徴とするものである。
これによれば、シートを適切に分離することのでき、重送が安定して抑制された画像形成装置を提供することができる。
【0113】
[第11態様]
第11態様は、シート供給方向へシートを搬送する搬送用回転体と、前記搬送用回転体との間にシートを挟持する分離用回転体と、前記分離用回転体にシートを戻す方向への戻しトルクを付与するトルク付与手段と、前記分離用回転体に付与される戻しトルクが所定値以下となるように制御するトルク制御手段とを有するシート供給装置に設けられた、前記トルク付与手段と前記分離用回転体との間のトルク伝達経路の状態をトルクの伝達状態と非伝達状態とに切り替えるトルク伝達切替手段を制御する制御方法であって、前記搬送用回転体と前記分離用回転体との間に送られる2枚以上のシートを分離可能な所定のタイミングに、前記非伝達状態から前記伝達状態への切り替えが行われるように、前記トルク伝達切替手段を制御することを特徴とするものである。
本態様に係る制御方法においては、搬送用回転体と分離用回転体との間に2枚以上のシートが送られてくるタイミングで、トルク伝達経路の状態を非伝達状態から伝達状態に切り替え、分離用回転体の回転方向を逆方向にする時、分離用回転体が逆方向へ回転し始めるまでの時期を早めることができ、余剰分のシートを迅速に分離して戻すことができ、重送の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 :作像部
2 :感光体
6 :中間転写ユニット
9A,9B:給紙カセット
10A,10B:ピックアップローラ
11A,11B:分離ローラ
12A,12B:搬送ローラ対
13 :タイミングローラ対
15 :定着装置
40 :トナーカートリッジ
50 :給紙装置
52 :シートガイド
53 :底板
51 :給紙カセット
54 :ピックアップローラ
55 :フィードローラ
56 :リバースローラ
56a :スプリング
56b :ローラ軸
56c :駆動ギヤ
57 :クラッチ
58 :搬送ローラ対
59 :リバースモータ
59a :モータギヤ
100 :制御部
101 :モータドライバ
102 :電流制限部
200 :画像形成部
300 :給紙部
400 :装着部
500 :プリンタ
501 :操作パネル
K1 :シート検知センサ
K2 :シート検知センサ
K3 :重送検知センサ
S :シート
【先行技術文献】
【特許文献】
【0115】
【文献】特許第4424105号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13