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特許7484378赤外線反射膜分散体、赤外線反射膜分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】赤外線反射膜分散体、赤外線反射膜分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20240509BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20240509BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240509BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G02B5/26
C04B35/495
C23C14/06 R
C01G41/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020076171
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2020186163
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2019087829
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122734(WO,A1)
【文献】特開2019-020602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/00
C04B 35/495
C23C 14/06
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂内に配置された赤外線反射膜含有粒子と、を有し、
前記赤外線反射膜含有粒子は、基材と、前記基材上に配置され、金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜とを有し、
前記赤外線反射膜が、複合タングステン酸化物を含有し、
前記複合タングステン酸化物は、一般式M WO (但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.001≦x≦1、2.2≦y≦3.0)で示される赤外線反射膜分散体。
【請求項2】
前記赤外線反射膜の膜面方向の最長部の長さaと、膜厚cとの比であるアスペクト比a/cが、3以上である請求項1に記載の赤外線反射膜分散体。
【請求項3】
板状基材上に、金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜を成膜し、赤外線反射膜積層体を作製する赤外線反射膜積層体作製工程と、
前記赤外線反射膜積層体を微細化し、前記板状基材が微細化された基材上に、前記赤外線反射膜が配置された赤外線反射膜含有粒子とする微細化工程と、
前記赤外線反射膜含有粒子と、樹脂とを混練し、成形する成形工程とを有し、
前記赤外線反射膜が、複合タングステン酸化物を含有し、
前記複合タングステン酸化物は、一般式M WO (但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.001≦x≦1、2.2≦y≦3.0)で示される赤外線反射膜分散体の製造方法。
【請求項4】
支持基材と、剥離層と、板状基材とがその順に積層された成膜用基材の、前記板状基材上に金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜を成膜する成膜工程と、
前記剥離層を溶解し、前記板状基材上に前記赤外線反射膜が成膜された赤外線反射膜積層体を前記支持基材から剥離する剥離工程と、
前記赤外線反射膜積層体を微細化し、前記板状基材が微細化された基材上に、前記赤外線反射膜が配置された赤外線反射膜含有粒子とする微細化工程と、
前記赤外線反射膜含有粒子と、樹脂とを混練し、成形する成形工程とを有する赤外線反射膜分散体の製造方法。
【請求項5】
前記赤外線反射膜が、
銀、金、アルミニウム、白金、ロジウム、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム、酸化チタン、複合タングステン酸化物から選択された1種以上を含有する請求項4に記載の赤外線反射膜分散体の製造方法。
【請求項6】
前記赤外線反射膜が、複合タングステン酸化物を含有し、
前記複合タングステン酸化物は、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.001≦x≦1、2.2≦y≦3.0)で示される請求項4または請求項5に記載の赤外線反射膜分散体の製造方法。
【請求項7】
前記赤外線反射膜の膜面方向の最長部の長さaと、膜厚cとの比であるアスペクト比a/cが、3以上となるように、
前記微細化工程において前記赤外線反射膜積層体を微細化する請求項3から請求項のいずれか1項に記載の赤外線反射膜分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射膜分散体、赤外線反射膜分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー性を高めるため、自動車や、鉄道等の交通手段の窓や、建築物の窓に、熱線を遮蔽する熱線遮蔽材料が用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、第1の屈折率を持つベースとなる基材と、複数の金属粒子を含有する金属粒子含有層と、第2の屈折率を持つ誘電体層と、を有し、前記基材と、前記金属粒子含有層と、前記誘電体層とは、この順で順次積層された積層構造を構成し、前記誘電体層の厚みは、入射光が前記誘電体層の表面側から前記積層構造へ入射する場合の前記誘電体層の表面における反射光が前記誘電体層と前記金属粒子含有層との界面における反射光と干渉して打ち消される厚みであり、それによって、第2の入射光波長の入射光の反射を防止する光学機能を有する膜を備えた熱線遮蔽材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/208331号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された熱線遮蔽材に用いられる膜は、熱線を遮蔽する部分全体を覆う単一の膜とする必要があり、そのサイズによっては膜内で熱線遮蔽特性にばらつきが生じる場合があり、膜の形状が制約される場合もあった。特に、特許文献1に開示された熱線遮蔽材に用いられる膜は、複数の層を各層が所定の厚さとなるように成膜する必要があり、製造が困難であった。
【0006】
このため、特許文献1に開示された熱線遮蔽材に用いられる膜は、目的とする性能を得るための製造条件が厳しく、生産性が低かった。
【0007】
本発明の一側面では、赤外線を反射することができ、生産性に優れた赤外線反射膜分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面では、樹脂と、前記樹脂内に配置された赤外線反射膜含有粒子と、を有し、
前記赤外線反射膜含有粒子は、基材と、前記基材上に配置され、金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜とを有し、
前記赤外線反射膜が、複合タングステン酸化物を含有し、
前記複合タングステン酸化物は、一般式M WO (但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.001≦x≦1、2.2≦y≦3.0)で示される赤外線反射膜分散体を提供する。

【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面では、赤外線を反射することができ、生産性に優れた赤外線反射膜分散体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一態様に係る赤外線反射膜分散体の断面模式図。
図2】本開示の一態様に係る赤外線反射膜分散体の製造方法の説明図。
図3】本開示の他の態様に係る赤外線反射膜分散体の製造方法の説明図。
図4】実施例1で作製した赤外線反射膜分散体、および参考例1の赤外線反射膜積層体の反射率スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[赤外線反射膜分散体]
本実施形態の赤外線反射膜分散体について説明する。
【0012】
図1に本実施形態の赤外線反射膜分散体10の厚さ方向と平行な面における断面図を模式的に示す。
【0013】
図1に示す様に本実施形態の赤外線反射膜分散体10は、樹脂11と、樹脂11内に配置された赤外線反射膜含有粒子12と、を有することができる。赤外線反射膜含有粒子12は、基材121と、基材121上に配置され、金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜122とを有することができる。
【0014】
本実施形態の赤外線反射膜分散体10は、上述の様に、基材121上に赤外線反射膜122を配置した赤外線反射膜含有粒子12を樹脂11内に配置した構造を有する。本実施形態の赤外線反射膜分散体10によれば、赤外線反射膜122を有する赤外線反射膜含有粒子を樹脂中に分散することで製造できるため、容易に、生産性良く製造することができる。特に、本実施形態の赤外線反射膜分散体10が有する赤外線反射膜は、単一の赤外線反射膜である必要はなく、樹脂11内に含まれる複数の基材121上に配置されている。このため、本実施形態の赤外線反射膜分散体10は、場所による赤外線反射特性の差が小さく、任意のサイズ、形状とすることができる。
【0015】
以下、本実施形態の赤外線反射膜分散体が有する各部材について説明する。
(1)赤外線反射膜含有粒子
赤外線反射膜含有粒子は、基材121と、基材121上に配置された赤外線反射膜122とを有することができる。
(1-1)基材
基材121としては、赤外線反射膜122を支持できる基材であればよく、その形状等は特に限定されない。ただし、基材121は、赤外線反射膜含有粒子12として、赤外線反射膜分散体10の樹脂11内に分散されるため、赤外線反射膜分散体10に要求されるサイズ等に応じて、その形状やサイズを選択することが好ましい。
【0016】
例えば基材121は、図1に示す様に板状形状を有することができる。基材121の厚みは特に限定されないが、例えば0.05μm以上100μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上50μm以下とすることがより好ましい。
【0017】
基材121の材料は特に限定されないが、例えばガラス、樹脂、無機材料から選択された1種以上とすることができる。樹脂としては特に限定されないが、赤外線反射膜分散体全体として、可視光透過性を高めることが求められる場合には、可視光透過性を有する透明樹脂であることが好ましい。例えばポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、及びポリビニルブチラール樹脂からなる群から選択される1種類以上の樹脂を好ましく用いることができる。
【0018】
また、無機材料についても、赤外線反射膜分散体全体として、可視光透過性を高めることが求められる場合には、可視光透過性を有する無機材料であることが好ましい。無機材料としては、例えば、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化錫、錫添加酸化インジウム(ITO)、アンチモン添加酸化錫(ATO)、酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、酸化イットリウムから選択された1種以上を用いることができる。
【0019】
なお、赤外線反射膜分散体10は材料の異なる基材を同時に含有することもでき、例えばガラス製の基材と、樹脂製の基材とが混在していても良い。
(1-2)赤外線反射膜
赤外線反射膜122としては、赤外線を反射できる膜であれば、特に制限されずに用いることができる。赤外線反射膜は、例えば銀、金、アルミニウム、白金、ロジウム、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム、酸化チタン、複合タングステン酸化物から選択された1種以上を含有することが好ましい。上記材料群から選択された1種以上は、赤外線反射特性が優れるため、上記材料から選択された1種以上を含有する赤外線反射膜とすることで、熱線遮蔽特性に優れた赤外線反射膜分散体とすることができるからである。なお、赤外線反射膜は、上記材料群から選択された1種以上から構成することもできる。ただし、この場合でも不可避不純物が混入することを排除するものではない。
【0020】
赤外線反射膜は、特に複合タングステン酸化物を含有し、複合タングステン酸化物は、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.001≦x≦1、2.2≦y≦3.0)で示されることがより好ましい。これは、複合タングステン酸化物は、特に赤外線反射特性に優れるため、赤外線反射膜が複合タングステン酸化物を含有することで、熱線遮蔽特性に優れた赤外線反射膜分散体とすることができるからである。
【0021】
なお、赤外線反射膜は、複合タングステン酸化物から構成することもできる。ただし、この場合でも不可避不純物が混入することを排除するものではない。
【0022】
複合タングステン酸化物は、上述の様に一般式MWOにおいて、W(タングステン)に対する元素Mの原子数比xが、0.001≦x≦1であることが好ましい。これはxを0.001以上とすることで、複合タングステン酸化物内に十分な自由電子を生成し、赤外線遮蔽効果を特に高めることができるからである。また、xを1以下とすることで、複合タングステン酸化物相内に不純物相が生成することを抑制できるからである。
【0023】
複合タングステン酸化物は、上記一般式において、W(タングステン)に対するO(酸素)の原子数比yが2.2≦y≦3.0であることが好ましい。これはyを2.2以上とすることで、複合タングステン酸化物相内に、目的としないWO相が形成されることを抑制できるからである。また、yを3.0以下とすることで、赤外線遮蔽効果を得るために十分な量の自由電子を生成することができ、赤外線遮蔽効果を特に高めることができるからである。
【0024】
複合タングステン酸化物は、六方晶、立方晶、正方晶、斜方晶等の結晶構造、および非晶質構造が知られている。赤外線反射膜122が複合タングステン酸化物を含有する場合、その構造は特に限定されず、上記結晶構造、および非晶質構造から選択された1種以上を含有できる。ただし、複合タングステン酸化物は赤外線の反射が特に大きい六方晶を含有することが好ましい。
【0025】
複合タングステン酸化物MWOを構成する元素Mが、Cs、K、Rb、Tl、In、Baの中から選択される1種類以上の元素を含有するとき、六方晶が形成され易い。このため、元素Mは、Cs、K、Rb、Tl、In、Baの中から選択される1種類以上の元素を含有することがより好ましく、Cs、K、Rb、Tl、In、Baの中から選択される1種類以上の元素であることがさらに好ましい。
【0026】
赤外線反射膜が含有する複合タングステン酸化物としては特に、Cs0.33WO、Cs0.03Rb0.30WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WO等から選択された1種以上を、好ましく挙げることができる。この場合もyは、2.2≦y≦3.0を満たすことが好ましい。
【0027】
なお、図1においては、基材121の一方の面121A上にのみ赤外線反射膜122を配置した例を示したが、係る形態に限定されない。例えば基材121の一方の面121A、および一方の面121Aと反対側に位置する他方の面121Bの両方に赤外線反射膜122を配置しても良い。
【0028】
赤外線反射膜の膜厚cは赤外線反射膜の材料の種類等によって適宜調整することができ、特に限定されない。ただし、赤外線反射膜分散体の可視光透過性を高めることが求められる場合には、膜厚cを800nm以下にすることが好ましい。また、例えば、赤外線反射膜が複合タングステン酸化物を含有する場合は、十分な赤外線反射性能が得られるように、膜厚cを20nm以上とすることが望ましい。また、赤外線反射膜が複合タングステン酸化物以外の成分を含有する場合でも、例えば膜厚cを20nm以上とすることで、特に高い赤外線反射性能を発揮できるため好ましい。
(1-3)赤外線反射膜含有粒子の形状
赤外線反射膜含有粒子は、既述の様に、基材と、該基材上に配置された赤外線反射膜とを含有していればよく、その形状は特に限定されない。
【0029】
赤外線反射膜含有粒子は、赤外線反射膜の膜面方向の最長部の長さaと、膜厚cとの比であるアスペクト比a/cが、3以上であることが好ましい。
【0030】
これは上記アスペクト比を3以上とすることで、特に赤外線反射特性を高めることができるからである。
【0031】
上記アスペクト比の上限は特に限定されないが、例えば材料の強度を一定以上に保つ観点から、100以下とすることが好ましい。
【0032】
なお、赤外線反射膜の膜面方向の最長部の長さとは、膜厚方向と垂直な面における平面、例えば図1における矢印Aに沿って見た、赤外線反射膜の上面中の最長部の長さを意味する。
【0033】
赤外線反射膜、および赤外線反射膜を支持する基材の形状は特に限定されず、任意の形状を有することができる。
(2)樹脂
赤外線反射膜含有粒子を分散させる樹脂としては特に限定されず、各種樹脂を用いることができる。なお、基材が樹脂の場合、基材と同じ樹脂を用いることもできる。
【0034】
赤外線反射膜分散体全体として可視光透過性を高めることが求められる場合には、可視光透過性を有する透明樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、及びポリビニルブチラール樹脂からなる群から選択される1種類以上の樹脂を好ましく用いることができる。
(3)赤外線反射膜分散体
赤外線反射膜分散体は、赤外線反射特性を付与することが求められる場所に成膜することができ、その形状は特に限定されず、任意の形状とすることができる。このため、図1に示した様な平板形状の板状体とすることもでき、また配置する場所に応じて屈曲した板状体とすることもできる。そして、可視光線の透過性を備えることが好ましい。
【0036】
本実施形態の赤外線反射膜分散体10においては、複数の赤外線反射膜含有粒子12の赤外線反射膜122が、赤外線反射膜分散体10の表面10Aに沿って配置されていることが好ましい。ここでいう、赤外線反射膜122が赤外線反射膜分散体10の表面10Aに沿って配置されているとは、両者が完全に平行に配置されていることを意味するものでなく、両者の間の角度が、要求される反射特性等に応じて所定の角度以内でほぼ平行に配置されていることを意味する。
【0037】
本実施形態の赤外線反射膜分散体は、単品で用いることもできるが、ガラスや、樹脂等の基材上に配置したり、ガラスや、樹脂等の基材間に配置して積層赤外線反射膜分散体としてから用いることもできる。
[赤外線反射膜分散体の製造方法]
本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法について説明する。本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法によれば、既述の赤外線反射膜分散体を製造できる。このため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
(1)第1の製造方法
本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0038】
板状基材上に、金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜を成膜し、赤外線反射膜積層体を作製する赤外線反射膜積層体作製工程。
赤外線反射膜積層体を微細化し、板状基材が微細化された基材上に赤外線反射膜が配置された赤外線反射膜含有粒子とする微細化工程。
赤外線反射膜含有粒子と、樹脂とを混練し、成形する成形工程。
以下、図2を参考にしながら各工程を説明する。
(赤外線反射膜積層体作製工程)
赤外線反射膜積層体作製工程では、図2(A)に示すように、板状基材21上に赤外線反射膜22を成膜し、赤外線反射膜積層体20を作製できる。
【0039】
板状基材21は、後述する微細化工程で微細化されることで赤外線反射膜含有粒子の基材となる部材であり、板状形状を有する以外は、既述の基材と同様の材料を用いることができる。
【0040】
板状基材21の厚みは特に限定されないが、例えば0.05μm以上100μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上50μm以下とすることがより好ましい。
【0041】
赤外線反射膜としては、既述の様に、赤外線を反射できる膜であれば、特に制限されずに用いることができる。赤外線反射膜は、例えば銀、金、アルミニウム、白金、ロジウム、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム、酸化チタン、複合タングステン酸化物から選択された1種以上を含有することが好ましい。上記材料から選択された1種以上は、赤外線反射特性が優れるため、上記材料群から選択された1種以上を含有する赤外線反射膜とすることで、熱線遮蔽特性に優れた赤外線反射膜分散体とすることができるからである。なお、赤外線反射膜は、上記材料群から選択された1種以上から構成することもできる。ただし、この場合でも不可避不純物が混入することを排除するものではない。
【0042】
赤外線反射膜は、特に複合タングステン酸化物を含有し、複合タングステン酸化物は、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.001≦x≦1、2.2≦y≦3.0)で示されることがより好ましい。これは、複合タングステン酸化物は、特に赤外線反射特性に優れるため、赤外線反射膜が複合タングステン酸化物を含有することで、熱線遮蔽特性に優れた赤外線反射膜分散体とすることができるからである。
【0043】
なお、赤外線反射膜は、複合タングステン酸化物から構成することもできる。ただし、この場合でも不可避不純物が混入することを排除するものではない。
【0044】
赤外線反射膜の成膜方法は特に限定されず、成膜する赤外線反射膜の材料の種類等に応じて選択することができる。赤外線反射膜は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム法等から選択される物理的な蒸着方法や、各種化学気相蒸着法(CVD法)、溶液塗布法、ディッピング法、スプレー法、無電解めっき法、電解めっき法等を用いて成膜することができる。なお、赤外線反射膜は複数の手段を組み合わせて成膜することもできる。
【0045】
特に、赤外線反射膜は、スパッタリング法を用いて成膜することが好ましい。これは、スパッタリング法により成膜した場合、成膜粒子のエネルギーが大きいため付着力が強く、緻密な膜が得られるからである。また、スパッタリング法は、成膜プロセスが安定していて、膜質や膜厚を高い精度で制御できる。さらに、スパッタリング法によれば、高融点金属、合金、化合物の成膜が可能であり、反応性ガスを導入することで、酸化物や窒化物等の成膜も可能であり、組成の調整を比較的容易に行えるからである。
(微細化工程)
微細化工程では、赤外線反射膜積層体作製工程で作製した赤外線反射膜積層体20を微細化し、赤外線反射膜含有粒子12とすることができる。
【0046】
微細化工程において用いる微細化方法は特に限定されず、任意の微細化方法を用いることができる。微細化方法としては、例えば、切断手段による赤外線反射膜積層体の切断や、粉砕機による機械的粉砕、振動ミル、ボールミル、ジェットミル等を用いた湿式粉砕、乾式粉砕、超音波水浴中での粉砕等を用いることができる。
【0047】
切断手段による赤外線反射膜積層体の切断を行う場合、切断手段としては、例えばレーザー等を用いることができる。
【0048】
粉砕機により粉砕する場合、既述の様に、湿式粉砕や、乾式粉砕等を用いることができる。
【0049】
湿式粉砕する場合、液体媒質としては、赤外線反射膜積層体を構成する板状基材や、赤外線反射膜が溶解しない溶媒であればよく、任意の液体を用いることができる。
【0050】
液体媒質としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化物;ブタン、ヘキサン等のオレフィン類;テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド類;から選択された1種以上を用いることができる。
【0051】
乾式粉砕を行う場合、例えば赤外線反射膜積層体を液体窒素等で冷却し、硬度を高めてから粉砕を行うこともできる。
【0052】
微細化工程後、所望の粒子径となるように分級を行うこともできる。分級の手段としては、乾式分級機等が用いられる。例えば、ふるい網を用いたふるい分け機、水平流型や上昇流型等による沈降速度と上昇流速度との差によって粗粒と微粉末とを分級する重力分級機、遠心力場における粒子の沈降を利用する遠心分級機、粒子を含んだ気流の方向を急変させて慣性の大きい粒子を流線から外して分級する慣性分級機等を用いることができる。
【0053】
微細化工程では、得られる赤外線反射膜の膜面方向の最長部の長さaと、膜厚cとの比であるアスペクト比a/cが、3以上となるように、赤外線反射膜積層体を微細化することが好ましい。
【0054】
微細化工程を実施することで、図2(B)に示すように、板状基材21が微細化された基材121上に、赤外線反射膜122が配置された、赤外線反射膜含有粒子12を得ることができる。なお、赤外線反射膜122についても、板状基材21と共に微細化され、微細化工程前の赤外線反射膜22、すなわち微細化前赤外線反射膜よりも微細化されている。
(成形工程)
成形工程では、図2(C)に示すように、微細化工程で得られた複数の赤外線反射膜含有粒子12と、樹脂11とを混練し、図2(D)に示すように所望の形状に成形することができる。
【0055】
好適に用いられる樹脂については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0056】
成形工程では、例えば赤外線反射膜含有粒子と、樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて可塑剤等の他の添加剤とを混合した後溶融し、混練することができる。そして、赤外線反射膜分散体に求められる形状に応じた成形方法により成形することができる。
【0057】
例えば、Tダイ等を用いる溶融押出成形法により、赤外線反射膜分散体と、樹脂との溶融物をシート状に成形することができる。成形されたシートを二軸延伸して、赤外線反射膜分散体である赤外線反射フィルムを得ることができる。
【0058】
本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法は、上述した工程以外に任意の工程を有することもできる。
(熱処理工程)
本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法は、例えば赤外線反射膜を、板状基材上に成膜後、熱処理を行う熱処理工程を有することもできる。
【0059】
熱処理工程を実施することで、赤外線反射膜の赤外線反射特性を特に高めることができる。熱処理工程の条件は特に限定されず、赤外線反射膜の種類等に応じて選択できる。
【0060】
例えば赤外線反射膜が、複合タングステン酸化物を含む場合、不活性ガス雰囲気、もしくは還元雰囲気下、400℃以上700℃以下で熱処理を行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気としては窒素や、アルゴンから選択された1種以上の雰囲気が挙げられる。還元雰囲気としては、不活性ガスと水素との混合ガス雰囲気、例えば窒素と水素や、アルゴンと水素の混合雰囲気が挙げられる。
【0061】
400℃以上で熱処理を行うことで、成膜した赤外線反射膜に含まれる複合タングステン酸化物の結晶性、特に六方晶の含有割合を高め、赤外線反射特性を高めることができる。ただし、熱処理温度を高くしすぎると、赤外線反射膜と基材とが反応したり、赤外線反射膜が基材から剥離する場合があるため、熱処理温度は700℃以下とすることが好ましい。
【0062】
熱処理時間は特に限定されないが、例えば5分間以上60分間以下とすることができる。
なお、熱処理工程は、上記条件に限定されず、例えば不活性ガス雰囲気、もしくは還元雰囲気下、キセノンフラッシュランプ等を用いて熱処理を行うこともできる。キセノンフラッシュランプを用いるとランプに近い赤外線反射膜の方が基材よりも高温となるため、赤外線反射膜について、基材との反応や、剥離を防止しつつ瞬間的には700℃を超えて熱処理することができ、赤外線反射特性をより高めることができる。キセノンフラッシュランプを用いて熱処理を行う場合、光の照射条件は特に限定されないが、例えばフラッシュ1回当たりのフラッシュ時間(パルス幅)は10ミリ秒以下とすることが好ましい。また、熱処理工程の間のフラッシュ回数は200回以上5000回以下とすることが好ましい。
【0063】
熱処理工程は、例えば赤外線反射膜積層体作製工程後に実施でき、微細化工程前に実施することが好ましい。
(2)第2の製造方法
本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法の他の形態である第2の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0064】
支持基材と、剥離層と、板状基材とがその順に積層された成膜用基材の、板状基材上に金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜を成膜する成膜工程。
剥離層を溶解し、板状基材上に赤外線反射膜が成膜された赤外線反射膜積層体を支持基材から剥離する剥離工程。
赤外線反射膜積層体を微細化し、板状基材が微細化された基材上に赤外線反射膜が配置された赤外線反射膜含有粒子とする微細化工程。
【0065】
赤外線反射膜含有粒子と、樹脂とを混練し、成形する成形工程。
(成膜工程)
成膜工程では、図3(A)に示すように、支持基材311と、剥離層312と、板状基材313とがその順に積層された成膜用基材31の、板状基材313上に金属および酸化物から選択される1種類以上を含有する赤外線反射膜32を成膜することができる。
【0066】
支持基材311の材料は特に限定されず、例えば金属材料、高分子材料、酸化物材料、ガラス等から選択された1種以上を用いることができる。
【0067】
金属材料としては、支持体等の用途に一般的に使用される金属材料が用いられる。具体的には、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630等の各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、ニッケル-コバルト(Ni-Co)合金、コバルト-クロム(Co-Cr)合金、亜鉛-タングステン(Zn-W)合金等の各種合金、各種セラミックス材料等の無機材料、さらには金属-セラミックス複合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
高分子材料としては、各種樹脂フィルムを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニル、三酢酸セルロース、水溶性フィルム等から選択された1種以上を用いることができる。なお、水溶性フィルムとしては、天然由来のデンプン、ゼラチン、半合成のカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体から、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキシド(PEO)等から選択された1種以上のフィルムを用いることができる。
【0069】
高分子材料としては、特にポリエステルフィルム、または水溶性フィルムを好ましく用いることができる。ポリエステルフィルムとしては、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするフィルム形成性を有するポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0070】
上述のポリエステルフィルムの中でも、透明性、機械的強度、寸法安定性等の観点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸や2,6-ナフタレンジカルボン酸を用いることが好ましく、ジオール成分として、エチレングリコールや1,4-シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とすることが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールとからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの2種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルフィルムが好ましい。
【0071】
酸化物材料としては、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素等から選択された1種以上を用いることができる。
【0072】
支持基材の厚みは特に限定されないが、例えば0.01mm以上10mm以下であることが好ましく、0.05mm以上5mm以下であることがより好ましい。支持基材は、2枚以上を重ねたものであってもよく、この場合、支持基材は、異なる材料から構成される基材の積層体であってもよく、同一の材料から構成される基材の積層体であってもよい。
【0073】
剥離層は、後述する剥離工程で板状基材を剥離できるように構成されていればよく、例えばアクリル酸エステル共重合樹脂を原料とした層とすることができる。剥離層の形成方法は特に限定されず、例えばバーコーター法、ディッピング法、スピンコーター法、スプレー法等により塗布、成膜できる。
【0074】
なお、支持基材として、水溶性フィルムを用いた場合、剥離層を設けなくても良い。
【0075】
板状基材、赤外線反射膜については、第1の製造方法の場合と同様に構成できるため、ここでは説明を省略する。
(剥離工程)
剥離工程では、図3(A)に示した成膜用基材31のうち、剥離層312を溶解し、図3(B)に示すように、板状基材313上に赤外線反射膜32が成膜された赤外線反射膜積層体30を基材から剥離できる。
【0076】
剥離工程では、例えば成膜工程で作製した、成膜用基材上に赤外線反射膜を成膜した積層体を超音波水浴中に浸漬させることにより、支持基材から、板状基材と赤外線反射膜との積層体を剥離できる。
(微細化工程、成形工程)
微細化工程では、赤外線反射膜積層体を微細化し、赤外線反射膜含有粒子とすることができる。また、成形工程では、赤外線反射膜含有粒子と、樹脂とを混練し、成形することができる。
【0077】
従って、供給する材料として、赤外線反射膜積層体20に替えて、上述の赤外線反射膜積層体30を用いる点以外は、図2(B)に示した場合と同様に、赤外線反射膜含有粒子を作製できる。そして、得られた赤外線反射膜含有粒子を用いる点以外は、図2(C)、図2(D)に示した場合と同様に、赤外線反射膜分散体を製造できる。
【0078】
このように、微細化工程、成形工程は、第1の製造方法と同様に実施できるため、ここでは説明を省略する。
【0079】
また、第2の製造方法においても、任意の工程をさらに有することができ、例えば第1の製造方法で既述の熱処理工程を有することもできる。
【0080】
熱処理工程の条件等については既に説明したため、ここでは説明を省略する。熱処理工程は、例えば成膜工程後、微細化工程の前に実施できる。特に剥離工程と、微細化工程との間で実施することが好ましい。
【0081】
第2の製造方法では、成膜工程で赤外線反射膜を成膜する際に、剥離工程で除去する支持基材を含む成膜用基材を用いている。このため、板状基材が薄い場合であっても、取扱い性を低下させることなく、赤外線反射膜を成膜することができる。
【0082】
以上に説明した本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法によれば、赤外線反射膜含有粒子を樹脂中に分散、成形することで、容易に製造できる。このため、生産性良く赤外線反射膜分散体を製造できる。
【0083】
また、本実施形態の赤外線反射膜分散体の製造方法により得られる赤外線反射膜分散体は1つの赤外線反射膜ではなく、上述の様に赤外線反射膜含有粒子として、樹脂中に分散している。このため、該分散体内での赤外線反射能の差を抑制し、均一な赤外線反射特性を有する赤外線反射膜分散体とすることができる。さらには形成する場所の制約を受けず、所望の形状の赤外線反射膜分散体とすることができる。
【実施例
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
タングステン(W)に対するセシウム(Cs)の原子数比Cs/Wが0.33のセシウムタングステン酸化物粉末(住友金属鉱山株式会社製、型番:YM-01)をホットプレス装置に投入し、真空雰囲気、温度950℃、押し圧250kgf/cmの条件で焼結し、セシウムタングステン酸化物焼結体を作製した。焼結体組成をICPにより化学分析した結果、タングステン(W)に対するセシウム(Cs)の原子数比を示すCs/Wは0.33であった。この酸化物焼結体を直径153mm、厚み5mmに機械加工で研削し、ステンレス製バッキングプレートに金属インジウム蝋材を用いて接合して、セシウムタングステン酸化物のスパッタリングターゲットを作製した。
(赤外線反射膜積層体作製工程)
次に、上記スパッタリングターゲットをDCスパッタリング装置(アルバック社製SBH2306)に取り付け、図2(A)に示すように、板状基材21上に赤外線反射膜22を成膜し、赤外線反射膜積層体20を作製した。
【0085】
板状基材21としては、厚さ30μmの超薄板ガラス(日本電気硝子社製G-Leaf)を用いた。
【0086】
赤外線反射膜22は以下の条件で成膜した。スパッタリング装置に板状基材21をセットした後、チャンバー内の真空引きを行った。この際の到達真空度は5×10-3Pa以下とし、成膜時の雰囲気は、アルゴンガス雰囲気とし、ガス圧は0.6Paとした。成膜を行う際の投入電力は直流600Wの条件とし、上記板状基材21上に赤外線反射膜である複合タングステン酸化物の膜であるセシウムタングステン酸化物膜を成膜した。
【0087】
成膜した赤外線反射膜22の膜厚は100nmであった。
(熱処理工程)
赤外線反射膜22を含む赤外線反射膜積層体20を、ランプ加熱炉(株式会社米倉製作所製HP-2-9)に投入し、窒素雰囲気中、500℃の温度で10分間熱処理した。熱処理工程後の赤外線反射膜をICPにより化学分析した結果、タングステン(W)に対するセシウム(Cs)の原子数比を示すCs/Wは0.33であった。成膜した赤外線反射膜である複合タングステン酸化物膜の組成はCs0.33WO(2.2≦y≦3.0)で表される。
(微細化工程)
熱処理工程後の赤外線反射膜積層体20を、図2(B)に示すように、板状基材である超薄板ガラスごとレーザーで600nm×600nm(アスペクト比a/c=8.5)の升目状に切断した。これにより基材121上に、赤外線反射膜122を有する赤外線反射膜含有粒子12を作製した。
【0088】
なお、赤外線反射膜についても、赤外線反射膜の膜厚方向と垂直な面が、600nm角の正方形となるように切断される。このため、赤外線反射膜の膜面方向の最長部は、該正方形の対角線部になり、その長さaは約848.4nmとなる。従って、膜厚cの100nmで割ったアスペクト比a/cは上述のように8.5となる。
(成形工程)
図2(C)に示すように、得られた赤外線反射膜含有粒子12を1重量部と、樹脂11としてポリビニルブチラール71重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート28重量部とを混合して混合物を調製した。
【0089】
次いで、図2(D)に示すように、複数の赤外線反射膜含有粒子12と、樹脂11とを含む上記混合物をロールで混練して、0.76mm厚のシート状に成形し、赤外線反射膜分散体10を作製した。
【0090】
作製した赤外線反射膜分散体を、100mm×100mm×約2mm厚のクリアガラス基板2枚の間に挟み込み、80℃に加熱して仮接着した後、140℃、14kg/cmのオートクレーブに入れて、本接着を行い、赤外線反射膜分散体を含む積層体を作製した。
【0091】
赤外線反射膜分散体を含む積層体の反射率プロファイルを、日立製作所(株)製の分光光度計U-4100を用いて測定したところ、図4の通りとなった。また、波長550nmの透過率を測定したところ、70%であった。
[実施例2]
(赤外線反射膜積層体作製工程)
実施例1に係るセシウムタングステン酸化物のスパッタリングターゲットをDCスパッタリング装置に取り付け、実施例1と同様に板状基材21上に赤外線反射膜22を成膜し、赤外線反射膜積層体20を作製した。このとき、板状基材21として厚さ100μmの超薄板ガラス(ショット日本株式会社製SCHOTT AS 87 eco)を用いた。成膜した赤外線反射膜22の膜厚は100nmであった。
(熱処理工程)
赤外線反射膜22を含む赤外線反射膜積層体20を、キセノンフラッシュランプアニール装置(株式会社ヘレウス製)に投入し、窒素雰囲気中でキセノンフラッシュランプを用いて熱処理を行った。このとき、積層体表面とランプとの距離は15mm、フラッシュ1回当たりのフラッシュ時間は3.3ミリ秒、熱処理工程の間のフラッシュ回数は1000回、周波数は3Hz、電圧400Vとした。熱処理工程後の赤外線反射膜をICPにより化学分析した結果、タングステン(W)に対するセシウム(Cs)の原子数比を示すCs/Wは0.33であった。成膜した赤外線反射膜である複合タングステン酸化物膜の組成はCs0.33WO(2.2≦y≦3.0)で表される。
以降、実施例1と同様にして微細化工程、および成形工程を実施し、赤外線反射膜分散体10を作製し、波長1400nmの反射率を測定したところ、51%となった。また、波長550nmの透過率を測定したところ、71%であった。
[参考例1]
実施例1の熱処理工程後に得られた赤外線反射膜積層体の反射率プロファイルを、実施例1の場合と同様にして測定したところ、図4の通りとなった。また、波長550nmの透過率を測定したところ、74%であった。
【0092】
図4に示した結果から明らかな様に、赤外線反射膜積層体を微細化した赤外線反射膜含有粒子の分散体である赤外線反射膜分散体においても、微細化前の赤外線反射膜と同等の十分な赤外線反射特性を有することを確認できた。
【0093】
そして、赤外線反射膜分散体においては、単一の膜である赤外線反射膜の場合と異なり、サイズや、形状の制約がなく、サイズや形状を任意に選択できる。このため、赤外線を反射することができる赤外線反射膜分散体を、生産性良く、所望のサイズ、形状となるように製造できることを確認できた。
【符号の説明】
【0094】
10 赤外線反射膜分散体
11 樹脂
12 赤外線反射膜含有粒子
121 基材
20、30 赤外線反射膜積層体
21、313 板状基材
22、32、122 赤外線反射膜
31 成膜用基材
311 支持基材
312 剥離層
図1
図2
図3
図4