(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】貼合方法及び貼合システム
(51)【国際特許分類】
C09J 5/06 20060101AFI20240509BHJP
A41H 43/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C09J5/06
A41H43/04 Z
(21)【出願番号】P 2020106090
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】横山 耕祐
(72)【発明者】
【氏名】大和 亮介
(72)【発明者】
【氏名】田中 花歩
(72)【発明者】
【氏名】川守 崇司
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186695(JP,A)
【文献】特開2017-018669(JP,A)
【文献】特開2003-138243(JP,A)
【文献】特表2016-535121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-5/10、9/00-201/10
A41H 43/04
B05D 7/00、7/24
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる貼合方法であって、
前記ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよい標準ホットメルト接着剤及び前記生地を含んでいてもよい複数の標準生地を用いて予め得られている、
前記標準生地の密度と該密度において最大接着力を与える
前記標準ホットメルト接着剤の粘度との
第1の相関に基づき、前記生地の密度において最大接着力を与える前記ホットメルト接着剤の粘度を決定する第1の工程と、
前記ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との
第2の相関に基づき、前記ホットメルト接着剤の粘度が前記第1の工程で決定された前記粘度となる温度を決定する第2の工程と、
前記第2の工程で決定された温度下で、前記ホットメルト接着剤を介して前記生地同士を貼り合わせる第3の工程と、
を備え
、
前記生地同士が互いに密度が同一である生地の組み合わせである場合、前記第1の工程が、前記生地同士の生地の密度を前記第1の相関に導入して、最大接着力を与える前記ホットメルト接着剤の粘度を決定する工程であり、
前記生地同士が互いに密度が異なる生地の組み合わせである場合、前記第1の工程が、前記生地同士のうち、高密度側の生地の密度を前記第1の相関に導入して、最大接着力を与える前記ホットメルト接着剤の粘度を決定する工程である、貼合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の貼合方法を実施するための貼合システムであって、
ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる貼合部と、
前記ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよい標準ホットメルト接着剤及び前記生地を含んでいてもよい複数の標準生地を用いて予め得られている、
前記標準生地の密度と該密度において最大接着力を与える
前記標準ホットメルト接着剤の粘度との
前記第1の相関に基づき、前記生地の密度において最大接着力を与える前記ホットメルト接着剤の粘度を決定するとともに、前記ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との
前記第2の相関に基づき、前記ホットメルト接着剤の粘度が決定された前記粘度となる温度を決定する演算部と、
前記演算部において決定された前記温度に基づき、前記貼合部における前記ホットメルト接着剤の温度を制御する制御部と、
を備える、貼合システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貼合方法及び貼合システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、無溶剤型の接着剤であるため、環境及び人体への負荷が少なく、また、短時間接着が可能であるため、生産性向上に適している。ホットメルト接着剤は、熱可塑性樹脂を主成分としたもの及び反応性樹脂を主成分としたものの2つに大別できる。反応性樹脂としては、主にイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーが利用されている。
【0003】
ホットメルト接着剤は、様々な分野で使用されており、例えば、衣類(特に、縫製を必要としない無縫製衣類)の分野でも使用されている。例えば、特許文献1、2には、生地同士をホットメルト接着剤で貼り合わせた衣類が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-186695号公報
【文献】特開2010-203008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
衣類の分野における被着体である生地には様々な種類があり、どのような生地を選択するかという点は、最終的に衣類の使用場面によって選択される。そのため、生地同士の接着には、1種類のホットメルト接着剤を適用できるのが理想的であるが、適用できない場合もある。ホットメルト接着剤を様々な種類の生地に適用するためには、ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる(圧着する)ための条件を、生地の種類ごとに最適化することが重要である。一般に、生地同士を貼り合わせる(圧着する)ための条件には、温度、荷重(圧力)、時間等が影響因子として考えられる。しかしながら、影響因子の多さから、貼り合わせ条件(圧着条件)を最適化することは労力を要し、複数のホットメルト接着剤を用いる場合は、その労力はさらに増大する。そのため、ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせるに際して、貼り合わせ条件を容易に最適化して、生地同士が強固に接着された接着体を得ることが可能な貼合方法が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる貼合方法において、貼り合わせ条件を容易に最適化することが可能な貼合方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの検討によると、ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる際において、最も重要な影響因子が温度(圧着温度)であることが見出された。本発明者らがさらに検討したところ、生地の密度とホットメルト接着剤の接着力との間に相関があり、この相関を用いて生地の密度からホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる際において、複数のホットメルト接着剤の高い接着力を与える最適な温度(圧着温度)を導出できることを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0008】
本開示の一側面は、ホットメルト接着剤(以下、「対象用ホットメルト接着剤」という場合がある。)を介して生地(以下、「対象用生地」という場合がある。)同士を貼り合わせる貼合方法に関する。当該貼合方法は、対象用ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよい標準ホットメルト接着剤及び対象用生地を含んでいてもよい複数の標準生地を用いて予め得られている、標準生地の密度と該密度において最大接着力を与える標準ホットメルト接着剤の粘度との相関(以下、「第1の相関」という場合がある。)に基づき、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定する第1の工程と、対象用ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との相関(以下、「第2の相関」という場合がある。)に基づき、対象用ホットメルト接着剤の粘度が第1の工程で決定された粘度となる温度を決定する第2の工程と、第2の工程で決定された温度下で、対象用ホットメルト接着剤を介して対象用生地同士を貼り合わせる第3の工程とを備える。ここで、対象用ホットメルト接着剤及び対象用生地は、貼り合わせを行う際に使用されるホットメルト接着剤及び生地である。一方、標準ホットメルト接着剤及び標準生地は、第1の工程における第1の相関を求めるために使用されるホットメルト接着剤及び生地である。このような貼合方法によれば、対象用ホットメルト接着剤を介して対象用生地同士を貼り合わせるに際して、貼り合わせ条件、特に最も重要な影響因子と考えられる温度(圧着温度)条件を容易に最適化することができ、対象用生地同士が強固に接着された接着体を得ることができる。
【0009】
本開示の他の一側面は、貼合システムに関する。当該貼合システムは、対象用ホットメルト接着剤を介して対象用生地同士を貼り合わせる貼合部と、対象用ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよい標準ホットメルト接着剤及び対象用生地を含んでいてもよい複数の標準生地を用いて予め得られている、第1の相関に基づき、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定するとともに、第2の相関に基づき、対象用ホットメルト接着剤の粘度が決定された粘度となる温度を決定する演算部と、演算部において決定された温度に基づき、貼合部における対象用ホットメルト接着剤の温度を制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる貼合方法において、貼り合わせ条件を容易に最適化することが可能な貼合方法が提供される。このような貼合方法によれば、生地同士が強固に接着された接着体を得ることができる。また、本開示によれば、このような貼合方法を実施可能な貼合システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、標準ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との相関を示す方対数グラフである。
【
図2】
図2は、標準生地の密度と該密度において最大接着力を与える標準ホットメルト接着剤の粘度との相関(第1の相関)を示す方対数グラフである。
【
図3】
図3は、ホットメルト接着剤(対象用ホットメルト接着剤)の温度と該温度における粘度との(第2の相関)を示す方対数グラフである。
【
図4】
図4は、貼合システムの一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[貼合方法]
一実施形態の貼合方法は、第1の工程、第2の工程、及び第3の工程を少なくとも備えている。このような貼合方法によれば、ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせるに際して、貼り合わせ条件、特に最も重要な影響因子と考えられる温度(圧着温度)条件を容易に最適化することが可能となる。
【0014】
(ホットメルト接着剤)
対象用ホットメルト接着剤は、貼り合わせを行う際に使用されるホットメルト接着剤であり、標準ホットメルト接着剤は、第1の工程における第1の相関を求めるために使用されるホットメルト接着剤である。
【0015】
対象用ホットメルト接着剤及び標準ホットメルト接着剤は、ウレタンプレポリマーを含有する湿気硬化型ホットメルト接着剤であってよい。一般に、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、化学反応によって高分子量化し、接着力等を発現し得るものである。ここで、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、湿気と反応して硬化する(硬化物を形成する)ことから、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、ウレタンプレポリマー単独でなるものであってよく、ウレタンプレポリマーに加えて、湿気硬化型ホットメルト接着剤の分野で使用される添加剤等を含有するものであってもよい。
【0016】
ウレタンプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物であってよい。ウレタンプレポリマーは、例えば、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーであってよい。イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、通常、ポリオール(分子内に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物)に由来する構造単位及びポリイソシアネート(分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物)に由来する構造単位を含む重合鎖と、イソシアネート基とを有している。イソシアネート基は、重合鎖の末端に結合していてもよい。ウレタンプレポリマーの組成等は、ポリオールに由来する構成単位を与えるポリオールの種類、含有量等とポリイソシアネートに由来する構成単位を与えるポリイソシアネートの種類、含有量等を変化させることによって変更することができる。また、ポリオールとポリイソシアネートとが反応することによって、ウレタン結合が形成されることから、ウレタンプレポリマーの重合鎖はウレタン結合を有している。また、ポリオールの当量に対するポリイソシアネートの当量の比を大きくすることによって、重合鎖の末端にイソシアネート基を導入することができる。
【0017】
標準ホットメルト接着剤は、対象用ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよいが、通常、対象用ホットメルト接着剤とは異なっている。標準ホットメルト接着剤が対象用ホットメルト接着剤とは異なっているとは、例えば、ウレタンプレポリマーの組成等が互いに異なっている、ウレタンプレポリマーの組成等が互いに同一で、添加剤の種類、含有量等が互いに異なっている等が包含される。
【0018】
対象用ホットメルト接着剤及び標準ホットメルト接着剤は、任意の温度で任意に設定される粘度範囲に含まれているという点で共通していることが好ましい。ここで、任意の温度は、例えば、120℃及び/又は30℃であってよい。120℃で任意に設定される粘度範囲は、例えば、0.01Pa・s以上、0.05Pa・s以上、又は0.1Pa・s以上であってよく、30Pa・s以下、20Pa・s以下、又は15Pa・s以下であってよい。30℃で任意に設定される粘度範囲は、例えば、100Pa・s以上、1000Pa・s以上、又は10000Pa・s以上であってよく、1000000Pa・s以下、500000Pa・s以下、又は100000Pa・s以下であってよい。対象用ホットメルト接着剤と標準ホットメルト接着剤とがこのような関係にあると、貼り合わせ条件をより容易に最適化することができ、生地同士がより強固に接着された接着体を得ることができる。
【0019】
対象用ホットメルト接着剤の120℃における粘度及び標準ホットメルト接着剤の120℃における粘度は、0.01Pa・s以上、0.05Pa・s以上、又は0.1Pa・s以上であってよく、30Pa・s以下、20Pa・s以下、又は15Pa・s以下であってよい。120℃における粘度が上記範囲内にあることで、湿気硬化型ホットメルト接着剤をディスペンサ等で被着体に塗布する際の作業性(取扱性)が良好になる。
【0020】
対象用ホットメルト接着剤の30℃における粘度及び標準ホットメルト接着剤の30℃における粘度は、100Pa・s以上、1000Pa・s以上、又は10000Pa・s以上であってよく、1000000Pa・s以下、500000Pa・s以下、又は100000Pa・s以下であってよい。30℃における粘度が上記範囲内にあることで、圧着直後の接着力が高くなり、接着物の取扱性が良好になる。
【0021】
(生地)
対象用生地は、貼り合わせを行う際に使用される生地を意味し、標準生地は、第1の工程における第1の相関を求めるために使用される生地である。標準生地は、複数用意され、このとき、標準生地は対象用生地を含んでいてもよい。ここで、標準生地が対象用生地を含むとは、標準生地として対象用生地の密度と同一の生地を含むことを意味する。生地同士の貼り合わせは、分離されている一対(二枚)の生地同士の貼り合わせであってもよく、分離されていない一枚の生地内での生地同士の貼り合わせであってもよい。分離されている一対(二枚)の生地同士(対象用生地同士(対象用生地の組み合わせ)及び標準生地同士(標準生地の組み合わせ))の貼り合わせにおいて、用意される生地は、互いに密度が同一である生地の組み合わせであっても、互いに密度が異なる生地の組み合わせであってもよい。用意される生地は、互いに密度が同一である生地の組み合わせであることが好ましい。分離されていない一枚の生地内での生地同士の貼り合わせにおいては、通常、通常、互いに密度が同一である生地の組み合わせとなるが、互いに密度が異なる生地の組み合わせとなる場合もある。生地の密度は、接着性の観点から、例えば、0.1~1.0g/cm3であってよい。
【0022】
(第1の工程)
本工程では、対象用ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよい標準ホットメルト接着剤及び対象用生地を含んでいてもよい複数の標準生地を用いて予め得られている、第1の相関に基づき、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定する。
【0023】
標準ホットメルト接着剤は、対象用ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよいが、通常、対象用ホットメルト接着剤とは異なっている。そのため、第1の工程は、対象用ホットメルト接着剤とは異なる標準ホットメルト接着剤及び対象用生地を含んでいてもよい複数の標準生地を用いて、第1の相関を得る第1(a)の工程と、第1(a)の工程で得られる第1の相関に基づき、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定する第1(b)の工程とを含み得る。
【0024】
第1(a)の工程における第1の相関は、例えば、以下の手順によって得ることができる。まず、標準ホットメルト接着剤を用いて、標準生地同士について、温度、荷重、及び時間のパラメータを振って各貼り合わせ条件(圧着条件)下における接着力を求める。接着力は実測されるものであり得る。また、接着力を求める際には、標準生地同士が、密度が互いに同一である生地の組み合わせであることが好ましい。接着力の実測条件は、例えば、実施例に記載の方法等が挙げられる。接着力の実測を行う場合、貼り合わせ条件(圧着条件)のパラメータを幅広く、かつ効率よく振ることができることから、市販の統計解析ソフトを用いて作成された実験計画に基づいて行うことが好ましい。
【0025】
次いで、実測の接着力に基づき、市販の統計解析ソフト(例えば、統計解析ソフト「JMP」(SAS社製)等)を用いて、温度、荷重、及び時間のパラメータを変動させたときの接着力(計算値)を計算し、求められる接着力(計算値)の中で最大となる接着力(すなわち、標準生地の密度に対する最大接着力)を求める。標準生地の密度に対する最大接着力は、例えば、密度が互いに同一である二つの生地の組み合わせにおいて、密度の異なる組み合わせごとに、標準生地の密度に対する最大接着力を求める必要がある。その後、複数存在する標準生地の密度に対する最大接着力ごとに、最大接着力を与えるときの温度、荷重、及び時間を求める。
【0026】
次いで、標準生地の密度に対する最大接着力を与える温度を、標準ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との相関(例えば、
図1参照)に基づき、標準生地の密度に対する最大接着力を与える粘度を求める。ここで、標準ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との相関は、ホットメルト接着剤の分野で通常計測される相関である。
【0027】
これらの手順によって、第1の相関である、標準生地の密度と該密度において最大接着力を与える標準ホットメルト接着剤の粘度との相関(例えば、
図2参照)を得ることができる。第1の相関は、いわば検量線としての役割を担うものであり、第1の工程において、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定する際には、予め得られているものである。
【0028】
第1(b)の工程は、第1(a)の工程で得られる第1の相関に基づき、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定する工程である。対象用ホットメルト接着剤及び対象用生地は、貼り合わせを行う際に使用されるホットメルト接着剤及び生地である。ここで、第1の相関(
図2参照)に貼り合わせを行う際に使用される対象用生地の密度の数値を導入することによって、最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定することができる。対象用ホットメルト接着剤は、分離されている一対(二枚)の対象用生地同士の貼り合わせに用いられるものであってもよく、分離されていない一枚の対象用生地内での対象用生地同士の貼り合わせに用いられるものであってもよい。
【0029】
分離されている一対(二枚)の対象用生地同士の貼り合わせにおいて、一対(二枚)の対象用生地は、互いに密度が同一である生地の組み合わせであっても、互いに密度が異なる生地の組み合わせであってもよい。一対(二枚)の対象用生地は、互いに密度が同一である生地の組み合わせであることが好ましい。一対(二枚)の対象用生地が互いに密度が同一である生地の組み合わせである場合、当該密度を第1の相関に導入して、最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定することができる。一対(二枚)の対象用生地が互いに密度が異なる生地の組み合わせである場合、一対(二枚)の対象用生地のうち、高密度側の対象用生地の方が最大接着力の点において充分とならない傾向にあることから、高密度側の対象用生地の密度を第1の相関に導入して、最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定することが好ましい。
【0030】
一方、分離されていない一枚の生地内での生地同士の貼り合わせにおいては、通常、通常、密度が同一である生地の組み合わせとなるが、密度が異なる生地の組み合わせとなる場合もある。密度が同一である生地の組み合わせの場合は、当該密度を第1の相関に導入して、最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定することができる。密度が異なる生地の組み合わせの場合は、高密度側の密度を第1の相関に導入して、最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定することが好ましい。
【0031】
(第2の工程)
本工程では、第2の相関に基づき、対象用ホットメルト接着剤の粘度が第1の工程で決定された粘度となる温度を決定する。第2の相関(
図3参照)は、上記の標準ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との相関(
図1参照)と同様に、ホットメルト接着剤の分野で通常計測される相関である。第1の工程で決定された粘度(最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度)の数値を、第2の相関(
図3参照)に導入することによって、対象用ホットメルト接着剤の粘度が第1の工程で決定された粘度となる温度を決定することができる。
【0032】
(第3の工程)
本工程では、第2の工程で決定された温度下で、対象用ホットメルト接着剤を介して対象用生地同士を貼り合わせる。第2の工程で決定された温度は、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度となることから、対象用生地同士が強固に接着された接着体を得ることが可能となる。
【0033】
[貼合システム]
図4は、貼合システムの一実施形態を示す模式図である。
図4に示される貼合システム10は、貼合部2と、演算部4と、制御部6とを少なくとも備えている。このような貼合システム10によれば、上述のホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる貼合方法を実施することが可能である。
【0034】
貼合部2は、対象用ホットメルト接着剤を介して対象用生地同士を貼り合わせるためのものである。ホットメルト接着剤は、通常、加熱して溶融させてから、所望の範囲に塗布して使用される。そのため、貼合部2は、例えば、対象用ホットメルト接着剤を溶融するための加熱混合機等の溶融手段、溶融した対象用ホットメルト接着剤を塗布するためのディスペンサ、バーコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレー等の塗布手段、塗布された対象用ホットメルト接着剤を介して対象用生地同士を貼り合わせるためのプレス機等の圧着手段、対象用生地同士を貼り合わせる際の温度を加熱するためのヒーター等の加熱手段、対象用生地同士を貼り合わせる際の加熱手段の温度を測定するための熱電対等の温度測定手段などを有していてもよい。
【0035】
演算部4は、対象用ホットメルト接着剤とは同一であっても異なっていてもよい標準ホットメルト接着剤及び対象用生地を含んでいてもよい複数の標準生地を用いて予め得られている、第1の相関に基づき、対象用生地の密度において最大接着力を与える対象用ホットメルト接着剤の粘度を決定するとともに、第2の相関に基づき、対象用ホットメルト接着剤の粘度が決定された粘度となる温度を決定するためのものである。演算部4は、例えば、予め得られている第1の相関を入力するための第1の入力手段、第2の相関を入力するための第2の入力手段、対象用生地の密度を入力するための第3の入力手段等を有していてもよい。演算部4は、第2の入力手段に代えて、実際に対象用ホットメルト接着剤を導入し、導入された対象用ホットメルト接着剤に基づき、第2の相関を計測する第1の計測手段に有していてもよく、第3の入力手段に代えて、実際に対象用生地を導入し、導入された対象用生地に基づき、その密度を計測する第2の計測手段に有していてもよい。
【0036】
制御部6は、演算部4において決定された温度に基づき、貼合部2における貼り合わせ温度を制御するためのものである。制御部6は、例えば、演算部4で決定された温度に関する情報を取得するための取得手段、貼合部2の温度測定手段から測定された加熱手段の温度に関する情報を受け取るための受取手段、受取手段で受け取った加熱手段の温度に応じた信号に基づき、演算部4で決定された温度に応じた信号を制御部6から加熱手段に出力するための出力手段等を有していてもよい。
【0037】
貼合部、演算部、及び制御部の各要素間は、例えば、有線又は無線で電気的に接続されていてもよい。
【実施例】
【0038】
以下に、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[標準生地の準備]
以下の生地を準備した。
・生地A(密度:0.25g/cm3)
・生地B(密度:0.25g/cm3)
・生地C(密度:0.34g/cm3)
・生地D(密度:0.45g/cm3)
・生地E(密度:0.45g/cm3)
・生地F(密度:0.57g/cm3)
【0040】
[標準ホットメルト接着剤の調製]
ジカルボン酸(アジピン酸及びイソフタル酸)とジオール(エチレングリコール及びネオペンチルグリコール)とを主成分とする、芳香環を有する非晶性ポリエステルポリオール(水酸基数:2、数平均分子量:2000)を80質量部、芳香環を有する非晶性ポリエーテルポリオール(株式会社ADEKA製、商品名:BPX-11)を4質量部、ジカルボン酸(アジピン酸)とジオール(ネオペンチルグリコール及びプロピレングリコール)とを主成分とする、芳香環を有しない非晶性ポリエステルポリオール(水酸基数:2、数平均分子量:2000)を16質量部、予め真空乾燥機によって脱水処理した。ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー株式会社製、商品名:ミリオネートMT、イソシアネート基数:2)を、ポリオールのヒドロキシ基に対するポリイソシアネートのイソシアネート基の当量比((NCO)当量/(OH)当量)が1.8になるように反応容器に加えて、110℃で1時間均一になるまで混合した。次いで、さらに110℃で1時間減圧脱泡撹拌することによって、ウレタンプレポリマーを得た。以下では、得られたウレタンプレポリマーを標準ホットメルト接着剤としてそのまま使用した。
図1は、標準ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との相関を示す方対数グラフである。当該グラフは、標準ホットメルト接着剤において、所定の温度(例えば、1℃)ごとに粘度をプロットしたグラフである。標準ホットメルト接着剤の120℃における粘度は、12Pa・sであった。
【0041】
[標準生地の密度に対する標準ホットメルト接着剤の最大接着力の算出]
(積層体の作製)
標準ホットメルト接着剤及標準生地(生地A)を用いて、標準ホットメルト接着剤の生地の密度に対する最大接着力を算出した。調製した標準ホットメルト接着剤を110℃で溶融してディスペンサを用いて、生地A上に塗布することによって直線状の接着剤層を形成した。形成した直線状の接着剤層上に、別の標準生地(生地A)を配置することによって積層体を得た。後述の圧着体の作製に合わせて複数(16個)の積層体を用意した。
【0042】
(圧着体の作製)
温度(圧着温度)(下限:30℃、上限:60℃)、荷重(圧着荷重)(下限:40N、上限:120N)、及び時間(圧着時間)(下限:1秒、上限:9秒)を圧着条件のパラメータとし、統計解析ソフト「JMP」を用いて、実験計画を作成した。実験計画における実験数は16とした。実験計画の所定の圧着条件に基づいて、積層体を圧着することによって圧着体を得た。
【0043】
(接着体の作製及び接着力の測定)
実験計画ごとの圧着体を23℃、50%RHの恒温槽で1日間養生し、接着剤層を硬化させることによって各接着体を得た。引張試験機(株式会社島津製作所製、EZ-Test EZ-SX)を用いて、測定温度25℃、引張速度100mm/分の条件でT型剥離強度試験によって各接着体の接着力(実測値)を求めた。
【0044】
(標準生地の密度に対する標準ホットメルト接着剤の最大接着力の算出)
統計解析ソフト「JMP」(SAS社製)を用いて、所定の温度、荷重、及び時間の条件における上記接着体の接着力(実測値)のデータに基づき、温度、荷重、及び時間のパラメータを変動させたときの接着力(計算値)を計算し、求められる接着力(計算値)の中で最大となる接着力を標準生地の密度に対する標準ホットメルト接着剤の最大接着力とした。より具体的な「JMP」での操作は、以下のとおりである。まず、「JMP」上において、各接着体の接着力(実測値)を入力し、得られたデータテーブルに「標準最小二乗」近似による「モデルのあてはめ」を行い、「予測プロファイル」得た。次いで、「最大化して記録」をデフォルトの設定で行い、「満足度」を最大化する設定を表示させることによって、最大接着力を得た。標準生地の密度に対する標準ホットメルト接着剤の最大接着力、並びに最大接着力を与える温度、荷重、及び時間を表1に示す。また、
図1に示す標準ホットメルト接着剤の温度と該温度における粘度との相関を示すグラフに基づき、最大接着力を与える温度から最大接着力を与える粘度を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
(標準生地の変更)
布地の組み合わせを生地A同士から、生地B同士、生地C同士、生地D同士、生地E同士、及び生地F同士にそれぞれ変更し、上記と同様にして、標準生地の密度に対する標準ホットメルト接着剤の最大接着力、並びに最大接着力を与える温度、荷重、時間、及び粘度を求めた。結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
(標準生地の密度に対する標準ホットメルト接着剤の最大接着力の算出)
図2は、標準生地の密度と該密度において最大接着力を与える標準ホットメルト接着剤の粘度との相関(第1の相関)を示す方対数グラフである。
図2中の曲線は、累乗近似した曲線であり、以下では、生地(対象生地)の密度において最大接着力を与えるホットメルト接着剤(対象ホットメルト接着剤)の粘度を決定するために当該グラフ(曲線)を用いた。
【0048】
[対象用ホットメルト接着剤の調製]
ジカルボン酸(アジピン酸及びイソフタル酸)とジオール(エチレングリコール及びネオペンチルグリコール)とを主成分とする、芳香環を有する非晶性ポリエステルポリオール(水酸基数:2、数平均分子量:2000)を50質量部、非晶性ポリカーボネートポリオール(旭化成株式会社製、商品名:DURANOL T5652)を50質量部、予め真空乾燥機によって脱水処理した。ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー株式会社製、商品名:ミリオネートMT、イソシアネート基数:2)を、ポリオールのヒドロキシ基に対するポリイソシアネートのイソシアネート基の当量比((NCO)当量/(OH)当量)が2.0になるように反応容器に加えて、110℃で1時間均一になるまで混合した。次いで、さらに110℃で1時間減圧脱泡撹拌することによって、ウレタンプレポリマーを得た。以下では、得られたウレタンプレポリマーを対象用ホットメルト接着剤としてそのまま使用した。対象用ホットメルト接着剤における120℃における粘度は、8Pa・sであった。
【0049】
[対象用ホットメルト接着剤の対象生地同士を圧着する際の温度の決定]
図3は、ホットメルト接着剤(対象用ホットメルト接着剤)の温度と該温度における粘度との相関(第2の相関)を示すグラフである。当該グラフは、対象用ホットメルト接着剤において、所定の温度(例えば、1℃)ごとに粘度をプロットしたグラフである。上記で得られた生地(対象生地)の密度において最大接着力を与えるホットメルト接着剤(対象ホットメルト接着剤)の粘度を、第2の相関に導入して、そのときの温度を決定した。対象用生地の密度が0.49g/cm
3であるとき、対象用ホットメルト接着剤の対象生地同士を圧着する際の最適粘度及び最適温度はそれぞれ3063Pa・s及び41℃であった。対象用生地の密度が0.62g/cm
3であるとき、対象用ホットメルト接着剤の対象生地同士を圧着する際の最適粘度及び最適温度はそれぞれ497Pa・s及び52℃であった。
【0050】
[所定の圧着条件における張り合わせ検討]
(実施例1-1~1-5)
密度が0.49g/cm3である対象用生地を一対(二枚)用意した。上記で得られた対象用ホットメルト接着剤を110℃で溶融し、ディスペンサで一枚の対象用生地に塗布した。塗布は18Gの針を用い、8cmの長さの接着剤層を形成した。次いで、形成した接着剤層上に、もう一枚の対象用生地を配置し、温度条件を41℃で統一し、表2に示す荷重(圧力)条件及び時間条件で圧着して圧着体を得た。圧着した時点から5分経過後の圧着体の接着力を測定したところ、実施例1-1~1-5において、充分な接着力を有していた。
【0051】
【0052】
(実施例2-1~2-5)
密度が0.62g/cm3である対象用生地を一対(二枚)用意した。上記で得られた対象用ホットメルト接着剤を110℃で溶融し、ディスペンサで一枚の対象用生地に塗布した。塗布は18Gの針を用い、8cmの長さの接着剤層を形成した。次いで、形成した接着剤層上に、もう一枚の対象用生地を配置し、温度条件を52℃で統一し、表3に示す荷重(圧力)条件及び時間条件で圧着して圧着体を得た。圧着した時点から5分経過後の圧着体の接着力を測定したところ、実施例2-1~2-5において、充分な接着力を有していた。
【0053】
【0054】
以上より、本開示の貼合方法が、ホットメルト接着剤を介して生地同士を貼り合わせる貼合方法において、貼り合わせ条件を容易に最適化することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
2…貼合部、4…演算部、6…制御部、10…貼合システム。