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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】スラリーポンプ用シール挿入治具
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/60 20060101AFI20240509BHJP
   F04D 7/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
F04D29/60 E
F04D7/04 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020207423
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094499
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昭洋
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040431(JP,A)
【文献】特開2007-009996(JP,A)
【文献】特開2016-036890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/60
F04D 7/04
F16J 15/00
B23P 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーポンプの軸封部のシール部材の交換作業時に用いる金属製のシール挿入治具であって、両端部に互いに外径の異なる第1鍔部及び第2鍔部がそれぞれ設けられた棒状部材からなり、前記第1鍔部及び第2鍔部には、互いに対向する側の面とは反対側の面に、前記棒状部材が拡径された形状の第1段差部、及び該第2鍔部と同芯軸状であって且つ頂部が平坦な環状に突出する第2段差部がそれぞれ設けられており、該第1段差部の外径及び第2段差部の外径は互いに異なっており、且つ前記第1鍔部の外径及び第2鍔部の外径とも異なっていることを特徴とするスラリーポンプ用シール挿入治具。
【請求項2】
前記棒状部材の中心軸方向の中央部に、該中心軸に直交する方向に突出する打撃部が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のスラリーポンプ用シール挿入治具。
【請求項3】
前記棒状部材において前記第1鍔部と第2鍔部との間で且つ前記打撃部が設けられている部分とは反対側の部分に、該打撃部の突出方向に垂直な平坦面が該棒状部材の中心軸方向に延在するように設けられていることを特徴とする、請求項2に記載のスラリーポンプ用シール挿入治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーポンプ用のシール挿入治具に関し、特に、遠心式のスラリーポンプの軸封部に用いられているオイルシールの交換時に使用するシール挿入治具に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式の非鉄金属製錬工場、紙パルプ工場、廃棄物処理工場等においては、液体中に粉粒状の固形分が懸濁状態で含まれるスラリーと称する流体が処理液として一般的に取り扱われており、このスラリーの送液に、特許文献1に開示されているような、ワーマンポンプ(登録商標)と称する遠心式のスラリーポンプが使用されることが多い。遠心式のスラリーポンプは、スラリーの吸入口及び吐出口を備えたケーシング内でインペラ(羽根車又は遠心羽根とも称する)を回転させ、これにより生ずる遠心力でスラリーを昇圧して送液する回転機械である。
【0003】
上記のスラリーポンプは、送液されるスラリーに含まれる固形分によって接液部が摩耗しやすいので、上記インペラが収容される鋳鉄等からなるケーシングの内側には金属鋳造品又はゴム成型品による交換可能なライナが取り付けられている。このライナは、摩耗による減肉がすすんだときに容易に交換できるように、該ケーシングの吸込側から見て手前側と奥側の少なくとも2つに分割できるようになっており、また、上記ケーシングも該ライナの交換時に吸込側が取外せるようになっている。
【0004】
上記のような遠心式のスラリーポンプは、インペラを回転させる駆動シャフトが上記ケーシングを貫通してモーター等の駆動手段に接続しており、この貫通部分のシール性を高めるため、上記インペラの裏側にエキスペラと称するインペラよりも小径の羽根車が該駆動シャフトに同軸状に取り付けられている場合がある。このエキスペラの遠心力によって、スラリーが上記ケーシングから軸封部に侵入するのを防いでいる。
【0005】
なお、通常の遠心式ポンプでは、上記軸封部に環状のシール部材としてグランドパッキンやメカニカルシールを採用することが多いが、上記のスラリーポンプでは、該駆動シャフトに摺接するリップ部と、該リップ部を保持する金属製環状部と、該リップ部を該駆動シャフトに押圧するバネ部とから構成されるオイルシールが採用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-007404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにインペラの裏側にエキスペラを設けることで、該インペラが収容されるケーシングを貫通する駆動シャフトの軸封部にスラリーが侵入しにくくなるので、スラリーを長期間に亘って安定的に送液することが可能になる。しかしながら、スラリーポンプは長期間に亘って連続して運転しているうちに、消耗品であるオイルシールにおいて液漏れが発生することがある。この場合は、スラリーポンプの運転を停止してオイルシールを新品と交換する作業が必要になる。
【0008】
この交換作業では新品のオイルシールを軸封部に正しく取り付ける必要があるため、従来は熟練した技能を要していた。すなわち、エキスペラのないタイプでは、オイルシールを嵌装するパッキン箱(スタフィンボックスとも称する)の所定の位置に該オイルシールを傾かないように正確に挿入しなければならず、エキスペラのあるタイプでは、オイルシールを嵌装するエキスペラリングの所定の位置に該オイルシールを傾かないように正確に挿入しなければならない。
【0009】
上記の作業に不手際があると、新品のオイルシールを交換したにもかかわらず液漏れが止まらなかったり、シール面を損傷させたりする事態に陥ることがあった。本発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、熟練技能者でなくてもスラリーポンプの軸封部のシール部材を簡易に、かつ正しく交換することが可能なシール挿入治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るスラリーポンプ用シール挿入治具は、スラリーポンプの軸封部のシール部材の交換作業時に用いる金属製のシール挿入治具であって、両端部に互いに外径の異なる第1鍔部及び第2鍔部がそれぞれ設けられた棒状部材からなり、前記第1鍔部及び第2鍔部には、互いに対向する側の面とは反対側の面に、前記棒状部材が拡径された形状の第1段差部、及び該第2鍔部と同芯軸状であって且つ頂部が平坦な環状に突出する第2段差部がそれぞれ設けられており、該第1段差部の外径及び第2段差部の外径は互いに異なっており、且つ前記第1鍔部の外径及び第2鍔部の外径とも異なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ワーマンポンプに代表されるスラリーポンプの軸封部のシール部材の交換作業を熟練技能者でなくても簡易に、かつ正しく行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のシール挿入治具が対象とするエキスペラを備えた一般的なスラリーポンプをそのシャフトの中心線を含む面で切断した要部拡大縦断面図である。
図2】本発明のシール挿入治具が対象とするエキスペラのない一般的なスラリーポンプをそのシャフトの中心軸を含む面で切断した要部拡大縦断面図である。
図3】本発明の実施形態のシール挿入治具をその中心軸を含む面で切断した縦断面図である。
図4図3のシール挿入治具を第2鍔部側から見た斜視図である。
図5図3のシール挿入治具を上下反転させて第1鍔部側から見た斜視図である。
図6図3のシール挿入治具を用いてスラリーポンプのエキスペラリングに新品のオイルシールを嵌装する工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明のシール挿入治具が対象とするスラリーポンプの一具体例として、ワーマンポンプをとり挙げて説明する。ワーマンポンプにはエキスペラを備えたものとエキスペラのないものとがあり、図1にはエキスペラを備えたワーマンポンプがその軸封部と共に要部拡大縦断面図で示されている。すなわち、この図1に示すワーマンポンプ10は、白矢印で示すように、吸入口から導入されるスラリーをインペラの回転で生ずる遠心力により昇圧して吐出口から吐出する遠心ポンプであり、該インペラは図示しない電動機(モーター)等の駆動手段により回転駆動される。
【0014】
具体的には、この図1に示すワーマンポンプ10は、図示しないポンプ台上に固定されているフレームプレート11及びこれにボルトナットにより締結されているカバープレート12によってケーシング13が構成されており、上記の駆動手段の回転駆動力によって回転する駆動シャフト(主軸)14の先端部に取り付けられているインペラ15がこのケーシング13内に収められている。このインペラ15の回転により送液されるスラリーは、細かな粉粒体を含む摩耗性流体であるので、インペラ15には、耐摩耗性に優れた材料が用いられる。更に、スラリーによるケーシング13の摩耗を防ぐため、フレームプレート11及びカバープレート12の内張りとして、それぞれフレームプレートライナ16及びカバープレートライナ(ボリュートライナとも称する)17が着脱自在に取り付けられている。
【0015】
上記のインペラ15が取り付けられている駆動シャフト14には、フレームプレートライナ16によって隔てられた奥側の空間に更にエキスペラ18が取り付けられている。このエキスペラ18は、駆動シャフト14によってインペラ15の回転と同時に回転するので、該エキスペラ18が収容されている空間内に侵入したスラリーに遠心力を発生させる。これによりスラリーは該エキスペラ18が収容されている空間内において半径方向の外側に押し付けられるので、スラリーが後述する軸封部に浸入するのを防ぐことができる。なお、ポンプ停止中は、上記エキスペラ18によるシール機能が停止するため、これを補完するために後述する軸封部が設けられている。
【0016】
駆動シャフト14の外周面には後述するオイルシール等のシール部材に外周面を摺接させる軸スリーブ19が外嵌されている。すなわち、図示しない2組のテーパコロ軸受などの軸受により回転可能に支持されている駆動シャフト14は、そのままではシール部材の摺接により摩耗する。そこで、このシール部材の摩耗による損傷を防ぐため、駆動シャフト14と一体となって回転する略円筒状の軸スリーブ(パッキンスリーブとも称する)19が外嵌されている。
【0017】
上記エキスペラ18の奥側に位置する軸封部20は、エキスペラ18が収容される空間を画定する壁部を部分的に構成すると共に、後述するオイルシールを嵌装させるハウジングの役割を担うエキスペラリング21と、スラリーがケーシング13から漏れるのを防ぐオイルシール22と、シール性を高めるためにエキスペラリング21内に注入される高圧水を分配するランタンリング23とから構成される。
【0018】
上記の軸封部20を構成する各部材について具体的に説明すると、エキスペラリング21は、一端部が内側に屈曲した略円筒形の筒状部と、該筒状部の該一端部側の外周面に同芯軸状に設けられ、エキスペラ18が収容される空間を画定する壁部を部分的に構成する略漏斗形状のフランジ部とから構成され、この筒状部の内側に複数のオイルシール22が同芯軸状に嵌め込まれている。このエキスペラリング21の筒状部には貫通孔が設けられており、この貫通孔を塞ぐ位置に、複数のシール水分配口を備えたランタンリング23が嵌め込まれている。このエキスペラリング21の筒状部の内側に複数のオイルシール22を挿入する際に、後述する本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具が用いられる。
【0019】
上記のエキスペラリング21の筒状部の内側に嵌装されるオイルシール22には様々な形状や材質のものがあり、送液するスラリーの性状、条件等に応じて適宜選択される。一般的な形状としては、断面略C字状の可撓性部材からなり、該可撓性部材のうち軸スリーブ19に摺接する側がリップ部と称されている。このリップ部を軸スリーブ19に押圧するため、必要に応じて環状のばねが該リップ部の先端近傍に取り付けられることがある。また、該可撓性部材のうちエキスペラリング21の筒状部側に、断面略L字状の金属環が設けられることがある。
【0020】
上記の構造のエキスペラ18を備えたワーマンポンプ10のオイルシール22を新品のものと交換する場合は、ポンプの運転を停止して図示しない吸入側配管をケーシング13から切り離した後、該ワーマンポンプ10を分解する作業が必要になる。このワーマンポンプ10の分解では、一般的には、カバープレート12、カバープレートライナ17、インペラ15、フレームプレートライナ16、エキスペラ18、及び軸封部20の順に図1の紙面右側から取り外していく。なお、機種によっては軸封部20を取り外す前にフレームプレート11を取り外すことが必要な場合がある。上記のようにして取り外した軸封部20に対して、後述するように本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具を用いて新品のオイルシール22に交換する。交換後は、上記とは逆の順に組み立てることでワーマンポンプ10を復旧させることができる。
【0021】
次に、本発明のスラリーポンプ用シール挿入治具が対象とするスラリーポンプの他の具体例として、図2に示すようなエキスペラのないワーマンポンプ110について説明する。この図2に示すワーマンポンプ110も、図1に示すワーマンポンプと同様に、図示しないポンプ台上に固定されているフレームプレート111、及びこれにボルトナットにより締結されているカバープレート112によってケーシング113が構成されており、駆動シャフト114の先端部に取り付けられているインペラ115がこのケーシング113内に収められている。また、フレームプレート111及びカバープレート112の内張りとして、それぞれフレームプレートライナ116及びカバープレートライナ(ボリュートライナとも称する)117が着脱自在に取り付けられている。
【0022】
この図2に示すワーマンポンプ110は、図1のワーマンポンプ10とは異なり、フレームプレートライナ116の奥側にエキスペラが設けられておらず、直に軸封部120が設けられている。従って、この図2の軸封部120は、図1の軸封部20とは異なり、オイルシール及びランタンリングを収容するハウジングにエキスペラリングの代わりにパッキン箱121が用いられる。
【0023】
具体的には、この図2に示すパッキン箱121は、複数のオイルシール122が内側に同芯軸状に嵌め込まれる略円筒形状の筒状部と、該筒状部の一端部に設けられた環状のフランジ部とから構成され、このフランジ部の周縁部がフレームプレート111の段差部に係合している。このパッキン箱121の筒状部には、上記したエキスペラリング21と同様に貫通孔が設けられており、この貫通孔を塞ぐ位置にランタンリング123が嵌め込まれている。このパッキン箱121の筒状部の内側に複数のオイルシール122を挿入する際にも、後述する本発明の実施形態のシール挿入治具が用いられる。
【0024】
上記した構造のエキスペラのないワーマンポンプ110のオイルシール122を新品のものと交換する場合も、図1のエキスペラ18を備えたワーマンポンプ10の場合とエキスペラ18を除いて基本的に同様であり、ポンプの運転を停止して吸入側配管をケーシング113から切り離した後、カバープレート112、カバープレートライナ117、インペラ115、フレームプレートライナ116、及び軸封部120の順に図2の紙面右側から取り外していく。このようにして取り外した軸封部120に対して、後述するように本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具を用いて新品のオイルシール122に交換する。交換後は、上記とは逆の順に組み立てることでワーマンポンプ110を復旧させることができる。
【0025】
次に、上記したエキスペラ18を備えたワーマンポンプ10又はエキスペラのないワーマンポンプ110に対して、それらの軸封部20、120のオイルシール22、122を新品のものと交換する際に用いる本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具及びこのシール挿入治具を用いたシール挿入方法について説明する。本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具は、鋼鉄などの金属を鋳造又は削り出しすることで好適に作製できる一体物であり、図3の断面図に示すように、略円柱状の棒状部材1の両端部に厚み12~18mm程度の鍔状の第1鍔部2及び第2鍔部3が棒状部材1と同芯軸状にそれぞれ設けられている。この本発明の実施形態のシール挿入治具は、オイルシール等のシール部材の交換作業時に作業員が片手で容易に把持できるように、棒状部材1の外径Dは20~40mm程度がよく、全長Lは150~250mm程度がよい。
【0026】
更に、上記の第1鍔部2及び第2鍔部3は、互いに対向する側の面とは反対側の面における周縁部以外の領域に、上記棒状部材1が拡径された形状の第1段差部4、及び第2鍔部3と同芯軸状であって且つ頂部が平坦な環状に突出する第2段差部5がそれぞれ設けられている。上記の第1鍔部2の外径Dと第2鍔部3の外径Dは互いに異なっている。また、上記の第1段差部4の外径Dと第2段差部5の外径Dは互いに異なっており、且つこれら第1段差部4の外径D及び第2段差部5の外径Dは、上記の第1鍔部2の外径D及び第2鍔部3の外径Dとも異なっている。
【0027】
上記構造の治具を用いることにより、上記の第1鍔部2の周縁部や第2鍔部3の周縁部を用いてオイルシールを挿入したり、上記の第1段差部4の頂部や第2段差部5の頂部を用いてオイルシールを挿入したりすることができる。すなわち、本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具は、第1鍔部2及び第2鍔部3の互いに対向する側の面とは反対側の面の周縁部や段差部を適宜使い分けることにより、サイズの異なる4種類のオイルシールを取り扱うことができる。
【0028】
例えば、円柱状の棒状部材1の外径Dを30mmとし、第1鍔部2の外径Dを75mmとし、第2鍔部3の外径Dを88mmとし、第1段差部4の外径Dを42mmとし、第2段差部5の外径Dを68mm、内径Dを50mmとすることで、エキスペラの有無にかかわらず、これら外径D~Dよりもそれぞれわずかに大きな内径を有するワーマンポンプのエキスペラリングやパッキン箱の内側の所定の位置に、特に熟練技能を要することなく、対応するオイルシールをその中心軸が傾かないように正確に押し込むことが可能になる。
【0029】
すなわち、第1鍔部2において第2鍔部3と対向する側の面とは反対側の面の周縁部2aを使用することで、ポンプサイズ「4-3SC用」のエキスペラリングやパッキン箱にオイルシールを挿入することができる。また、第1鍔部2の第1段差部4の頂部4aを使用することで、ポンプサイズ「1-3/4SC用」のエキスペラリングやパッキン箱にオイルシールを挿入することができる。また、第2鍔部3において第1鍔部2と対向する側の面とは反対側の面の周縁部3aを使用することで、ポンプサイズ「6-4SC用」のエキスペラリングやパッキン箱にオイルシールを挿入することができる。また、第2鍔部3の第2段差部5の頂部5aを使用することで、ポンプサイズ「3-2SC用」のエキスペラリングやパッキン箱にオイルシールを挿入することができる。
【0030】
なお、上記の第1鍔部2の周縁部2aや第1段差部4の頂部4aを使用してオイルシールを挿入する際は、棒状部材1において該第1鍔部2が位置する側とは反対側の第2端面1bをゴムハンマー等で複数回軽く打撃することで、効率よくオイルシールを挿入することができる。同様に、上記の第2鍔部3の周縁部3aや第2段差部5の頂部5aを使用してオイルシールを挿入する際は、棒状部材1において該第2鍔部3が位置する側とは反対側の第1端面1aをゴムハンマー等で複数回軽く打撃することで、効率よくオイルシールを挿入することができる。
【0031】
なお、棒状部材1の第1端面1aと、第1鍔部2の周縁部2aとの距離H、及び第2端面1bと第2鍔部3の周縁部3aとの距離Hは、いずれも20~40mm程度がよい。また、第1端面1aと第1段差部4の頂部4aとの距離H、及び第2端面1bと第2段差部5の頂部5aとの距離Hは、いずれも15~25mm程度がよい。
【0032】
本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具は、棒状部材1の中心軸0方向の中央部に、該中心軸0に直交する方向に3~8mm程度突出する略円柱状の打撃部6が設けられている。これにより、後述するように平坦な台の上に開口端部を真上に向けて載置したエキスペラリングやパッキン箱にオイルシールを挿入する際、該棒状部材1における第1鍔部2と第2鍔部3との間の中間部分であって且つ上記打撃部6が突出している側部とは反対側の側部を、エキスペラリングやパッキン箱の該開口端部に載置又は部分的に挿入せしめられたオイルシールに真上から当接させ、該打撃部6の頂部6aをゴムハンマー等で軽く打撃することで、該オイルシールの端部と、エキスペラリングやパッキン箱の該開口端部とをいわゆる面一(ツライチ)状態にすることができる。なお、上記の打撃部6の外径は、棒状部材1の外径と同程度であるのが好ましい。
【0033】
上記の打撃部6の頂部6aをゴムハンマー等で打撃する際に、オイルシールをより安定的にエキスペラリングやパッキン箱に挿入できるように、上記棒状部材1は、上記の第1鍔部2及び第2鍔部3の間であって且つ上記打撃部6とは反対側の側部に、該打撃部6の突出方向に垂直な平坦面7が該棒状部材1の中心軸O方向に延在するように設けられているのが好ましい。この平坦面7が該棒状部材1の中心軸O方向に延在する距離Lは、該シール挿入治具で取り扱われる4種類のオイルシールの外径のうちで最も大きな外径よりも長いのが好ましく、例えば90~150mm程度がよい。また、上記平坦面7の幅Wは、10~20mm程度がよい。
【0034】
次に、上記の本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具を用いてスラリーポンプの軸封部のオイルシールを交換する方法について、エキスペラを備えたワーマンポンプ(型式4-3SC)の場合を例に挙げて説明する。なお、型式4-3SCのワーマンポンプは、オイルシール22の外径及びエキスペラリングの内径がいずれも76.5mmであるので、オイルシール22の挿入には図3に示す外径Dが75mmの第1鍔部2の周縁部2aを使用する。以下、工程順に示されている図6を参照しながら説明する。
【0035】
先ず、図1に示すようなワーマンポンプに対して前述した分解手順に沿って軸封部20を取り外し、該軸封部20を構成するエキスペラリング21の筒状部からその内側に嵌め込まれている複数のオイルシール22及びランタンリング23を取り外す。そして、図6(a)に示すように、このオイルシール等が取り外されたエキスペラリング21を、その漏斗状の鍔部が下側に位置するように平坦な台の上に載せる。この状態で、1個目の新品のオイルシール22をエキスペラリング21の筒状部の上側の開口端部に載せて手で軽く押し込む。このとき、オイルシール22の向きを間違えないように注意する。
【0036】
次に、図6(b)に示すように、スラリーポンプ用シール挿入治具の該第1鍔部2側の第1端面1aが真下を向くように棒状部材1を縦にして片手で把持し、該第1鍔部2の周縁部2aをオイルシール22に同芯軸状に当接させる。この状態で、該第1端面1aとは反対側の第2端面1bを好ましくはゴムハンマーGを用いて複数回軽く打撃する。このようにして、第1鍔部2の周縁部2a全体でオイルシール22に対して周方向に均一に押圧することで、エキスペラリング21の筒状部の内側に該オイルシール22を傾けることなく押し込んでいくことができる。
【0037】
次に、図6(c)に示すように、上記の1個目のオイルシール22が挿入された後のエキスペラリング21の筒状部の上側の開口端部に、上記1個目のオイルシール22と同様に2個目のオイルシール22を載せて手で軽く押し込んだ後、図6(d)に示すように、シール挿入治具の第1鍔部2の周縁部2aを該2個目のオイルシール22に同芯軸状に当接させて第2端面1bを好ましくはゴムハンマーGを用いて複数回軽く打撃する。
【0038】
3個以上のオイルシールをエキスペラリング21の筒状部に挿入する場合は、上記の図6(c)及び(d)の作業を繰り返せばよい。なお、オイルシール22を挿入した後にランタンリング23を挿入する場合は、該ランタンリング23に連通させるエキスペラリング21の筒状部の貫通孔がオイルシール22で塞がれることのないように、該貫通孔よりも奥にオイルシール22を押し込むことになる。このランタンリング23には、軸封部20の分解の際に取り外したものを再利用してもよい。
【0039】
オイルシール22の挿入に際し、エキスペラリング21の筒状部の上側の開口端部にオイルシール22の端部を合わせて上記ツライチ状態にする必要がある場合は、図6(e)に示すようにシール挿入治具の棒状部材1を横にして片手で把持し、該棒状部材1の第1鍔部2と第2鍔部3との間の平坦面7をオイルシール22に当接させ、この状態で好ましくはゴムハンマーGで該平坦面7とは反対側の打撃部6の頂部6aを複数回軽く打撃すればよい。
【0040】
上記のようにして、軸封部20のオイルシール22を新品のものと交換した後は、該軸封部20を駆動シャフト14の先端部側から外嵌して軸スリーブ19の所定の外周面上に設置し、前述したようにエキスペラ18、フレームプレートライナ16、インペラ15、カバープレートライナ17、及びカバープレート12をこの順に取り付けることでワーマンポンプを復旧させることができる。上記の型式4-3SC以外の他のワーマンポンプについても上記と同様にしてシール部材を交換することができる。また、エキスペラのないワーマンポンプに対しても上記と同様にしてパッキン箱内のシール部材を交換することができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態のスラリーポンプ用シール挿入治具及びこれを用いたシール交換方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更例や代替例を含むことができる。例えば、上記実施形態ではシール挿入治具をワーマンポンプのオイルシールの交換に使用したが、これに限定されるものではなく、グランドパッキン等の他のタイプのシール部材の交換にも用いることができる。また、ワーマンポンプ以外のスラリーポンプのシール部材の交換にも用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 棒状部材
1a 第1端面
1b 第2端面
2 第1鍔部
3 第2鍔部
2a、3a 周縁部
4 第1段差部
5 第2段差部
6 打撃部
4a、5a、6a 頂部
7 平坦面
中心軸
10、110 ワーマンポンプ
11、111 フレームプレート
12、112 カバープレート
13、113 ケーシング
14、114 シャフト
15、115 インペラ
16、116 フレームプレートライナ
17、117 カバープレートライナ
18 エキスペラ
19、119 軸スリーブ
20、120 軸封部
21 エキスペラリング
121 パッキン箱
22、122 オイルシール
23、123 ランタンリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6