(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ディップ成形用ラテックス組成物およびディップ成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 25/00 20060101AFI20240509BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20240509BHJP
B32B 25/10 20060101ALI20240509BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20240509BHJP
D06M 15/248 20060101ALI20240509BHJP
D06M 15/09 20060101ALI20240509BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20240509BHJP
A41D 19/04 20060101ALI20240509BHJP
C08J 5/02 20060101ALI20240509BHJP
B29C 41/20 20060101ALI20240509BHJP
C08L 9/04 20060101ALI20240509BHJP
A41D 19/015 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
B32B25/00
C08L27/06
B32B25/10
D06M15/693
D06M15/248
D06M15/09
A41D19/00 P
A41D19/04 B
C08J5/02 CEQ
B29C41/20
C08L9/04
A41D19/015 210Z
(21)【出願番号】P 2020557762
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046304
(87)【国際公開番号】W WO2020111097
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2018225367
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019067764
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019197025
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019197026
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】牧野 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】谷山 友哉
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-179687(JP,A)
【文献】特開2009-235304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0272794(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0055334(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/04
C08L 27/06
B32B 25/00
B32B 25/10
D06M 15/693
D06M 15/248
D06M 15/09
A41D 19/00
A41D 19/04
C08J 5/02
A41D 19/015
B29C 41/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとを混合してなるディップ成形用ラテックス組成物を用いて得られる重合体層と、基材との積層体
であって、
前記共役ジエン系重合体(A)が、ニトリル基含有共役ジエン系重合体であり、
前記重合体(B)が、塩化ビニル樹脂またはポリスチレン樹脂であり、
前記ディップ成形用ラテックス組成物が、酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーを含有し、
前記ディップ成形用ラテックス組成物における前記水溶性ポリマーの含有量が、前記ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、0.01~10重量部である積層体。
【請求項2】
重合体成分100重量部中における、前記共役ジエン系重合体(A)の含有量が40重量部以上である請求項
1に記載の積層体。
【請求項3】
前記重合体(B)のガラス転移温度が30℃以上である請求項
1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記重合体(B)のガラス転移温度が50℃以上である請求項
3に記載の積層体。
【請求項5】
前記重合体(B)が、塩化ビニル樹脂である請求項
1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記塩化ビニル樹脂が、可塑剤を含まないものである請求項
1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記塩化ビニル樹脂が、塩化ビニルと、前記塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体である請求項
1~6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
さらに硫黄系架橋剤を含有する請求項1~
7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
25℃における表面張力が、34~72mN/mである請求項1~
8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の積層体であって、
前記重合体層の表面の面粗さが20μm以下であり、
表面に試験油IRM903を付着させた状態における表面の動摩擦係数が0.10以上であ
る積層体。
【請求項11】
前記ディップ成形用ラテックス組成物からなる前記重合体層の膜厚が、0.05~1.0mmである請求項1~
10のいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形用ラテックス組成物に関し、さらに詳しくは、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたディップ成形体を提供可能なディップ成形用ラテックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場での製造作業、軽作業、工事作業、農作業等の様々な用途で、繊維製手袋をゴムや樹脂等により被覆することで、耐溶剤性、グリップ性、耐摩耗性等を向上させた保護手袋が用いられている。
【0003】
このような保護手袋は、通常、人体と接触して使用されるものであるため、耐摩耗性などの機械的強度や耐久性に優れていることに加え、柔軟性に優れていることが求められている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、繊維基材に凝固剤溶液を付着させる凝固剤溶液付着工程と、前記凝固剤溶液を付着させた前記繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体を凝固させることで、前記繊維基材上に重合体層を形成する凝固工程と、を備え、前記凝固剤溶液として、溶媒中に、凝固剤としての金属塩0.2~7.0重量%、および有機酸0.1~7.0重量%を溶解または分散させてなるものを用いる積層体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術によれば、柔軟性および耐摩耗性に優れ、保護手袋用途に好適に用いられる積層体が得られるものの、水やオイルに濡れた際におけるグリップ性能(すなわち、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性)に改善の余地があり、水やオイルに濡れて使用される用途においても好適に用いることができるという観点より、さらなる改善が求められている。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたディップ成形体を提供可能なディップ成形用ラテックス組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたディップ成形体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスに、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスを混合することにより得られるラテックス組成物によれば、これをディップ成形することにより得られるディップ成形体を、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとを混合してなるディップ成形用ラテックス組成物が提供される。
【0010】
本発明のディップ成形用ラテックス組成物において、前記共役ジエン系重合体(A)が、ニトリル基含有共役ジエン系重合体であることが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物において、重合体成分100重量部中における、前記共役ジエン系重合体(A)の含有量が40重量部以上であることが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物において、前記重合体(B)のガラス転移温度が30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物において、前記重合体(B)が、ハロゲン原子を有する単量体単位を含有することが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物において、前記重合体(B)が、塩化ビニル樹脂であることが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物において、前記塩化ビニル樹脂が、可塑剤を含まないものであることが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物において、前記塩化ビニル樹脂が、塩化ビニルと、前記塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体であることが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、さらに硫黄系架橋剤を含有することが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、25℃における表面張力が、34~72mN/mであることが好ましい。
本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、さらに酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーを含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、表面の面粗さが20μm以下であり、表面に試験油IRM903を付着させた状態における表面の動摩擦係数が0.10以上であるディップ成形体が提供される。
さらに、本発明によれば、上記のディップ成形用ラテックス組成物を用いてなるディップ成形体が提供される。
加えて、本発明によれば、上記のディップ成形用ラテックス組成物を、基材に浸漬させてなるディップ成形体が提供される。
本発明のディップ成形体において、前記ディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層の膜厚が、0.05~1.0mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたディップ成形体を提供可能なディップ成形用ラテックス組成物、ならびに、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたディップ成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、水溶性ポリマーの酸量を測定する際に得られる塩酸量-電気伝導度曲線の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例の柔軟性の測定に用いた押込試験装置20を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ディップ成形用ラテックス組成物>
本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとを、ラテックス状態で混合してなるラテックスの組成物である。
【0015】
ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックス(以下、適宜、「共役ジエン系重合体(A)のラテックス」とする。)を構成する、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)(以下、適宜、「共役ジエン系重合体(A)」とする。)としては、共役ジエン系単量体に由来の単位を有する重合体であればよく、特に限定されないが、たとえば、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、合成ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-イソプレン共重合ゴム、スチレン-イソプレン-スチレン共重合ゴムなどが挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果がより顕著になるという観点から、合成ゴムが好ましく、NBRなどのニトリル基を含有する共役ジエン系重合体(以下、適宜、「ニトリル基含有共役ジエン系重合体」とする。)がより好ましい。
【0016】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体としては、特に限定されないが、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、および共役ジエン単量体、ならびに、必要に応じて用いられる共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体を共重合したものを用いることができる。
【0017】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、ニトリル基を有し、炭素数が、好ましくは3~18であるエチレン性不飽和化合物を用いることができる。このようなα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン置換アクリロニトリルなどが挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体におけるα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは10~45重量%、より好ましくは20~40重量%であり、さらに好ましくは25~40重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られるディップ成形体を、耐溶剤性に優れたものとすることができる。
【0019】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。なお、これらの共役ジエン単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体における共役ジエン単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは40~80重量%、より好ましくは52~78重量%、さらに好ましくは55~75重量%である。共役ジエン単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られるディップ成形体を、より柔軟性に優れたものとすることができる。
【0021】
また、ニトリル基含有共役ジエン系重合体は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体、および共役ジエン単量体単位を形成する単量体と、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体とを共重合したものであってもよい。
【0022】
このような共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0023】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
【0024】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0025】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸-3-クロロ-2-リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸-2-リン酸エチル、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸などが挙げられる。
【0026】
これらの共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、1種単独を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がさらに好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0027】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体に、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体の単位を含有させる場合における、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体の単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは0.1~15重量%であり、より好ましくは1~10重量%、さらに好ましくは2~8重量%である。
【0028】
ニトリル基含有共役ジエン系重合体のラテックスは、たとえば、上記の単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合することにより得ることができる。乳化重合に際しては、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。
【0029】
乳化重合に用いる乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられるが、アニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
乳化重合に用いる乳化剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5~10重量部、より好ましくは1~8重量部である。
【0030】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が好ましい。ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などが挙げられ、これらの中でも、無機過酸化物または有機過酸化物が好ましく、無機過酸化物がより好ましく、過硫酸塩が特に好ましい。これらの重合開始剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~2重量部、より好ましくは0.05~1.5重量部である。
【0031】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、たとえば、α-メチルスチレンダイマー;t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物;などが挙げられ、これらの中でも、メルカプタン類が好ましく、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。これらの分子量調整剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
分子量調整剤の使用量は、その種類によって異なるが、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1~1.5重量部、より好ましくは0.2~1.0重量部である。
【0032】
乳化重合は、通常、水中で行なわれる。水の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは80~500重量部、より好ましくは100~200重量部である。
【0033】
乳化重合に際し、必要に応じて、上記以外の重合副資材をさらに用いてもよい。重合副資材としては、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等が挙げられ、これらの種類、使用量とも特に限定されない。
【0034】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。
また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0035】
乳化重合する際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0~95℃であり、好ましくは5~70℃である。重合時間は、特に限定されないが、通常、5~40時間程度である。
【0036】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整してもよい。
【0037】
共役ジエン系重合体(A)のラテックスを構成する、共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度は、10℃以下であり、好ましくは-45~-10℃、より好ましくは-40~-10℃である。共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度が高すぎると、得られるディップ成形体は、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に劣るものとなってしまう。なお、共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、共役ジエン系重合体(A)を構成する各単量体の単位の含有割合を上述した範囲とする方法などが挙げられる。
【0038】
また、共役ジエン系重合体(A)のラテックスを構成する共役ジエン系重合体(A)の粒子の重量平均粒子径は、好ましくは30~1000nm、より好ましくは50~500nm、さらに好ましくは70~200nmである。共役ジエン系重合体(A)の粒子の重量平均粒子径を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体中において、共役ジエン系重合体(A)中に、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)をより良好に微分散させることができ、これにより、耐摩耗性をより高めることができる。
【0039】
また、ディップ成形用ラテックス組成物としての表面張力を後述する好適な範囲とするという観点より、共役ジエン系重合体(A)のラテックスの25℃における表面張力は、好ましくは28~72mN/m、より好ましくは29~65mN/m、さらに好ましくは30~60mN/mである。共役ジエン系重合体(A)のラテックスの表面張力は、乳化重合に用いる乳化剤の使用量を調整する方法、共役ジエン系重合体(A)のラテックスを構成する共役ジエン系重合体(A)の粒子の重量平均粒子径を調整する方法などにより調整できる。
【0040】
また、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックス(以下、適宜、「重合体(B)のラテックス」とする。)を構成する、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)(以下、適宜、「重合体(B)」とする。)としては、特に限定されず、ガラス転移温度が10℃超である重合体であれば何でもよいが、得られるディップ成形体を、柔軟性、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性により優れたものとすることができるという観点より、ハロゲン原子を有する単量体単位を含有する重合体が好ましい。
【0041】
ハロゲン原子としては、特に限定されないが、たとえば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、得られるディップ成形体の耐薬品透過性および継続使用時の耐油性の観点から、塩素原子が好ましい。すなわち、重合体(B)としては、塩素原子を有する単量体単位を含有する重合体がより好ましい。
【0042】
ハロゲン原子を有する単量体単位を形成する、ハロゲン原子を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、不飽和ハロゲン化アルキル、ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステル、(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステル、ハロゲン含有不飽和エーテル、ハロゲン含有不飽和ケトン、ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物、ハロゲン含有不飽和アミド、およびハロアセチル基含有不飽和単量体などが挙げられる。これらのなかでも、得られるディップ成形体を、柔軟性、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性により優れたものとすることができるという観点より、不飽和ハロゲン化アルキルを用いることが好ましく、塩化ビニルがより好ましく、重合体(B)としては、塩化ビニル単位を主成分として有する、塩化ビニル樹脂であることがより好ましい。
【0043】
重合体(B)としての塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体のいずれであってもよい。塩化ビニル樹脂が共重合体である場合における、塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル単量体単位の含有量は、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは75重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0044】
塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-オレフィン単量体;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジンなどの芳香族系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノエチルなどのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸モノエステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジ-n-ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジ-2-エチルヘキシルなどのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸多価エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミドなどのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アミド;N-置換マレイミド類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルセチルエーテルなどのビニルエーテル単量体;塩化ビニリデンなどのビニリデン化合物;などが挙げられ、これらの中でも、ビニルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステルが好ましく、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。すなわち、重合体(B)としての塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体、塩化ビニルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であることが好ましい。
【0045】
重合体(B)としての塩化ビニル樹脂のラテックスの製造方法としては、上記単量体を重合可能な方法であればよく、特に限定されないが、ラジカル重合による公知の乳化重合、播種乳化重合、微細懸濁重合による方法などが挙げられる。
【0046】
重合体(B)としての塩化ビニル樹脂の、JIS K 7367-2に従って測定したK値が、好ましくは50~95であり、より好ましくは60~80である。
【0047】
また、重合体(B)としての塩化ビニル樹脂としては、可塑剤を重合体(B)100重量部に対して20重量部以下含有するものであることが好ましく、含有しないものを用いることがより好ましく、これにより、得られるディップ成形体の水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性をより高めることができるものである。なお、この場合において、「可塑剤を含有しない」とは、塩化ビニル樹脂のラテックスを構成する、塩化ビニル樹脂粒子中に可塑剤が実質的に含まれないような態様であればよく、たとえば、可塑剤の含有量が、10重量ppm以下に抑えられたものであればよい。
【0048】
なお、重合体(B)としては、塩化ビニル樹脂以外に、たとえば、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、PTFE樹脂、アクリル樹脂などを用いてもよい。重合体(B)としては、塩化ビニル樹脂またはポリスチレン樹脂が好ましく、得られるディップ成形体の耐薬品透過性および継続使用時の耐油性の観点から、塩化ビニル樹脂がより好ましい。なお、これらの重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
重合体(B)のラテックスを構成する、重合体(B)のガラス転移温度は、10℃超であり、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは50℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上である。また、重合体(B)のガラス転移温度の上限は、特に限定されないが、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは150℃以下である。本発明によれば、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとを、ラテックス状態で混合してなるディップ成形用のラテックス組成物を提供するものであり、本発明によれば、共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、重合体(B)のラテックスとをラテックス状態で混合することにより、このようなラテックス組成物を用いてディップ成形体を得た際に、得られるディップ成形体を柔軟性、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたものとすることができるものである。
【0050】
特に、本発明によれば、共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、重合体(B)のラテックスとを、ラテックス状態で混合することにより、ラテックス組成物中において、共役ジエン系重合体(A)の粒子と、重合体(B)の粒子とを均一に微分散させることができるものである。そして、これにより、ディップ成形によりディップ成形体とした際に、得られるディップ成形体中において、共役ジエン系重合体(A)のマトリックス中に、重合体(B)が微分散させた状態で、これらを共析出させることができ、これにより、共役ジエン系重合体(A)の有する優れた耐摩耗性を実現しながら、微分散した重合体(B)の作用により、高い柔軟性と、水付着時およびオイル付着時の優れたウェットグリップ性とを備えるものとすることができるものである。なお、本発明においては、共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、重合体(B)のラテックスとを、ラテックス状態で混合することにより、ラテックス組成物とするものであるが、本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、共役ジエン系重合体(A)の粒子と、重合体(B)の粒子とが水媒体中に分散したものであればよく、これらのラテックスを混合することにより得られるものに特に限定されるものではない。
【0051】
重合体(B)のラテックスを構成する、重合体(B)のガラス転移温度が低すぎると、得られるディップ成形体は、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に劣るものとなってしまう。なお、重合体(B)のガラス転移温度を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、重合体(B)のラテックスとして、塩化ビニル樹脂のラテックスを使用する場合には、塩化ビニル樹脂中における、塩化ビニル単量体単位の含有量を、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上とする方法などが挙げられる。
【0052】
重合体(B)のラテックスを構成する重合体(B)の粒子の重量平均粒子径は、好ましくは0.05~500μm、より好ましくは0.1~500μm、さらに好ましくは0.1~60μm、よりさらに好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.1μm以上、3μm未満である。重合体(B)の粒子の重量平均粒子径を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体中において、共役ジエン系重合体(A)中に、重合体(B)をより良好に微分散させることができ、これにより、耐摩耗性をより高めることができる。
【0053】
また、ディップ成形用ラテックス組成物としての表面張力を後述する好適な範囲とするという観点より、重合体(B)のラテックスの25℃における表面張力は、好ましくは34~72mN/m、より好ましくは35~65mN/m、さらに好ましくは36~60mN/mである。重合体(B)のラテックスの表面張力は、乳化重合に用いる乳化剤の使用量を調整する方法、重合体(B)のラテックスを構成する重合体(B)の粒子の重量平均粒子径を調整する方法などにより調整できる。
【0054】
本発明のディップ成形用ラテックス組成物中における、共役ジエン系重合体(A)の含有量および重合体(B)の含有量は、特に限定されないが、ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部(重合体成分として、共役ジエン系重合体(A)および重合体(B)のみを含有するものである場合には、共役ジエン系重合体(A)と重合体(B)との合計100重量部)中における、共役ジエン系重合体(A)の含有量は、40重量部以上であることが好ましく、40~95重量部であることがより好ましく、40~80重量部であることがさらに好ましい。また、ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対する、重合体(B)の含有量は、5~80重量部であることが好ましく、10~70重量部であることがより好ましく、20~60重量部であることがさらに好ましい。さらに、本発明のディップ成形用ラテックス組成物中における、共役ジエン系重合体(A)と、重合体(B)との含有比率は、「共役ジエン系重合体(A):重合体(B)」の重量比で、好ましくは99:1~10:90、より好ましくは95:5~20:80、さらに好ましくは90:10~30:70であり、特に好ましくは75:25~45:55である。共役ジエン系重合体(A)、重合体(B)の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体の、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性をより高めることができる。
【0055】
また、本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、共役ジエン系重合体(A)のラテックス、および重合体(B)のラテックスに加えて、硫黄系架橋剤をさらに含有することが好ましい。
【0056】
硫黄系架橋剤としては、特に限定されないが、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、カプロラクタムジスルフィド、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらの硫黄系架橋剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
硫黄系架橋剤の含有量は、ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.01~5重量部、より好ましくは0.05~3重量部、さらに好ましくは0.1~2重量部である。
【0058】
また、本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、硫黄系架橋剤に加えて、架橋促進剤(加硫促進剤)や、酸化亜鉛をさらに含有することが好ましい。
架橋促進剤(加硫促進剤)としては、特に限定されないが、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(2,4-ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2-(N,N-ジエチルチオ・カルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2-(2,6-ジメチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2-(4′-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4-モルホリニル-2-ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3-ビス(2-ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられ、これらの中でも、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの架橋促進剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
架橋促進剤の含有量は、ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。また、酸化亜鉛の含有量は、ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0060】
また、本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、水溶性ポリマーをさらに含有していてもよい。
【0061】
水溶性ポリマーとしては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系化合物;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体およびその塩;ポリアクリル酸等のポリカルボン酸系化合物およびそのナトリウム塩;ポリエチレングリコールエーテル等のポリオキシエチレン誘導体;等の増粘剤が挙げられる。増粘剤としては、セルロース誘導体およびその塩が好ましく、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩がより好ましい。増粘剤の含有量は、ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。
【0062】
水溶性ポリマーの酸量は、特に限定されないが、10mmol/g以下であることが好ましい。すなわち、本発明のディップ成形用ラテックス組成物は、酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーを含有することが好ましい。
【0063】
保護手袋等のディップ成形体においては、溶剤やオイル等の薬品に対するバリア性能をより高めるという観点より、耐薬品透過性が求められる場合もある。本発明のディップ成形用ラテックス組成物が、共役ジエン系重合体(A)のラテックス、および重合体(B)のラテックスに加えて、酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーを含有する場合には、得られるディップ成形体を、耐摩耗性、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に加えて、耐薬品透過性にも優れたものとすることができる。
【0064】
水溶性ポリマーの酸量は、好ましくは10mmol/g以下であり、より好ましくは5mmol/g以下であり、さらに好ましくは2.5mmol/g以下である。水溶性ポリマーの酸量の下限は、特に限定されないが、通常0.001mmol/g以上である。水溶性ポリマーの酸量が上記範囲であることにより、得られるディップ成形体が、耐薬品透過性に優れたものとなる。
【0065】
酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーとしては、特に限定されないが、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系化合物;カルボン酸変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルピロリドン等のカルボン酸変性ビニル系化合物;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体およびその塩;ポリエチレングリコールエーテル等のポリオキシエチレン誘導体;等が挙げられる。これらのなかでも、耐薬品透過性の観点から、ビニル系化合物およびそのカルボン酸変性化合物またはポリオキシエチレン誘導体が好ましく、ビニル系化合物およびそのカルボン酸変性化合物がより好ましい。これらの水溶性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
水溶性ポリマーの酸量は、たとえば、以下の方法により測定できる。
まず、蒸留水で洗浄した200mlのガラス容器に、蒸留水を加えて固形分濃度を0.2~1%に調整した水溶性ポリマー水溶液50g(水溶性ポリマー水溶液50g中の、水溶性ポリマーの固形分量をW(g)とする)を入れ、溶液電導率計(京都電子工業社製:CM-117、使用セルタイプ:K-121)にセットして、攪拌を開始する。次に、攪拌を継続した状態にて、水溶液のpHが12以上になるように、0.1規定の水酸化ナトリウムを添加し、6分経過後の電気伝導度を測定し、得られた測定値を測定開始時の電気伝導度とする。そして、この水溶性ポリマー水溶液に、0.1規定の塩酸を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定し、再び0.1規定の塩酸を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定するという動作を、30秒間隔で、測定開始時の電気伝導度以上となるまで繰返し行う。そして、得られた電気伝導度データを、縦軸:電気伝導度(mS)、横軸:添加した塩酸の累計量(mmol)としたグラフ上にプロットし、
図1に示すような3つの変曲点を有する塩酸量-電気伝導度曲線を得て、得られた3つの変曲点のX座標及び塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP
1、P
2、P
3及びP
4とし、X座標が零からP
1まで、P
1からP
2まで、P
2からP
3まで及びP
3からP
4まで、の4つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L
1、L
2、L
3及びL
4を求める。また、L
1とL
2との交点のX座標をA
1(mmol)、L
2とL
3との交点のX座標をA
2(mmol)、L
3とL
4との交点のX座標をA
3(mmol)とする。そして、水溶性ポリマー1g当たりの酸量を、下記式から求める。
水溶性ポリマー1g当たりの酸量=(A
2-A
1)/W (mmol/g)
【0067】
なお、2種以上の水溶性ポリマーを組み合わせて用いる場合には、ディップ成形用ラテックス組成物中の各水溶性ポリマーの存在比率と同じ比率で、各水溶性ポリマーを混合して得られる水溶性ポリマー混合物について、上記と同様に測定することにより得られる水溶性ポリマー混合物の酸量を、水溶性ポリマーの酸量とすることができる。
【0068】
水溶性ポリマーを、4重量%水溶液とした場合の粘度は、特に限定されないが、1mPa・s以上が好ましく、10mPa・s以上がより好ましく、20,000mPa・s以下が好ましく、10,000mPa・s以下がより好ましい。水溶性ポリマーを、1重量%水溶液とした場合の粘度は、特に限定されないが、1mPa・s以上が好ましく、10mPa・s以上がより好ましく、20,000mPa・s以下が好ましく、10,000mPa・s以下がより好ましい。水溶性ポリマー水溶液の粘度は、たとえば、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定することができる。
【0069】
水溶性ポリマーは、水に可溶であるものであればよく、水溶性ポリマーの水に対する溶解度は、特に限定されないが、温度25℃の水100gに対し、好ましくは1g以上であり、より好ましくは7g以上であり、特に好ましくは10g以上である。水溶性ポリマーの水に対する溶解度の上限は、特に限定されないが、通常、1000000g以下である。
【0070】
水溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、100以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、5,000,000以下が好ましく、3,000,000以下がより好ましい。
【0071】
水溶性ポリマーの配合量は、ディップ成形用ラテックス組成物中に含まれる重合体成分100重量部に対し、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部であり、さらに好ましくは0.15~4.5重量部である。水溶性ポリマーの配合量が上記範囲内であると、得られるディップ成形体が耐薬品透過性に優れたものとなる。
【0072】
本発明のディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは20~65重量%であり、より好ましくは30~60重量%、さらに好ましくは35~55重量%である。ディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度を上記範囲にすることにより、ディップ成形用ラテックス組成物の輸送効率を向上させることができ、かつ、ディップ成形用ラテックス組成物の粘度が適度なものとなってディップ成形用ラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0073】
本発明のディップ成形用ラテックス組成物のpHは、好ましくは5~13であり、より好ましくは7~10、さらに好ましくは7.5~9である。ディップ成形用ラテックス組成物のpHを上記範囲にすることにより、機械的安定性が向上してディップ成形用ラテックス組成物の移送時における粗大凝集物の発生を抑制することができ、かつ、ディップ成形用ラテックス組成物の粘度が適度なものとなってディップ成形用ラテックス組成物の取扱性が向上する。
【0074】
本発明のディップ成形用ラテックス組成物の25℃における粘度は、好ましくは2,000~100,000mPa・sであり、より好ましくは2,500~50,000mPa・s、さらに好ましくは3,000~20,000mPa・sである。ディップ成形用ラテックス組成物の25℃における粘度は、たとえば、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定することができる。また、ディップ成形用ラテックス組成物の25℃における粘度は、たとえば、ディップ成形用ラテックス組成物中における重合体成分の濃度を調整する方法や、ディップ成形用ラテックス組成物に対し、増粘作用を有する化合物を添加する方法などにより調整できる。
【0075】
本発明のディップ成形用ラテックス組成物の25℃における表面張力は、好ましくは34~72mN/m、より好ましくは35~65mN/m、さらに好ましくは36~60mN/mである。ディップ成形用ラテックス組成物の表面張力を上記範囲にすることにより、得られるディップ成形体の水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性をより高めることができる。また、ディップ成形用ラテックス組成物の表面張力は、たとえば、共役ジエン系重合体(A)のラテックスや重合体(B)のラテックスの表面張力を上記した範囲に調整する方法や、重合体(B)のラテックスを構成する、重合体(B)のラテックスの表面張力を上記した範囲に調整する方法などにより調整できる。
【0076】
また、本発明のディップ成形用ラテックス組成物には、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウム、酸化チタンなどの充填剤を添加してもよい。また、本発明のディップ成形用ラテックス組成物には、必要に応じて、上記水溶性塩や充填剤以外の添加剤、たとえば、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、湿潤剤、分散剤、顔料、染料、補強剤、pH調整剤などの各種添加剤を所定量添加することもできる。
【0077】
本発明のラテックス組成物は、たとえば、上記した成分を混合することにより調製することができる。各成分の混合順序は特に限定されないが、各成分の分散性をより高めるという観点より、共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、重合体(B)のラテックスとを予め混合した後に、必要に応じて配合される各成分を添加し、混合する方法が好ましい。共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、重合体(B)のラテックスとを混合する方法としては、特に限定されないが、分散性をより高めるという観点より、共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、重合体(B)のラテックスと、をラテックス状態で混合する方法(ラテックスブレンド)が好ましい。
【0078】
<ディップ成形体>
本発明のディップ成形体は、表面の面粗さが20μm以下であり、表面に試験油IRM903を付着させた状態における表面の動摩擦係数が0.10以上である。本発明のディップ成形体は、表面の面粗さが十分小さく抑えられたものでありながら、表面に試験油IRM903を付着させた状態における表面の動摩擦係数が高められたものであり、これにより、優れた耐摩耗性と、水付着時およびオイル付着時の優れたウェットグリップ性とを備えるものである。
【0079】
本発明のディップ成形体の表面の面粗さは20μm以下であれば特に限定されないが、好ましくは18μm以下である。ディップ成形体の表面の面粗さを上記範囲とすることにより、ディップ成形体は耐摩耗性に優れたものとなり、また、粉落ちの発生を抑制することができる。表面の面粗さの下限は、特に限定されないが、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性の観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。また、本発明のディップ成形体の表面の線粗さは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは12μm以下である。表面の線粗さの下限は、特に限定されないが、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.9μm以上、特に好ましくは3.0μm以上である。ディップ成形体の表面の面粗さおよび線粗さを上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物を用いてディップ成形体を得る方法が好ましい。
【0080】
通常、ディップ成形体のウェットグリップ性を改善する方法としては、発泡させたディップ成形用ラテックス組成物を用いてディップ成形する方法や、ディップ成形体を得た後に表面加工をする方法等の、表面の面粗さおよび線粗さを大きくする方法が用いられている。その一方で、これらの方法により得られたディップ成形体は、表面の面粗さおよび線粗さが大きすぎるため、耐摩耗性に劣るものとなりやすく、粉落ちが発生しやすいという問題があった。また、これらの方法においては、発泡工程や表面加工工程が必要となるため、生産効率が低下するという問題があった。さらには、ディップ成形体を得た後に表面加工をする方法においては、表面加工に伴うコンタミネーションが発生しやすいという問題があった。
【0081】
これに対し、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物を用いてディップ成形体を製造する方法によれば、得られるディップ成形体の表面の面粗さを上述した範囲に抑えながら、IRM903付着時の動摩擦係数を上述した範囲とすることが容易となる。結果として、優れた耐摩耗性と、水付着時およびオイル付着時の優れたウェットグリップ性とを備え、粉落ちの発生が抑制されたディップ成形体を容易に得ることができる。
【0082】
ディップ成形体の表面の面粗さおよび線粗さは、たとえば、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK-X100)を用いて、下記測定条件により測定することができる。
<測定条件>
・測定モード:表面形状
・測定品質:高精細
・対物レンズ:CF Plan 100×/0.95 ∞/0 EPI
・測定エリア面積:960μm×520μm
・Z方向測定ピッチ:0.12μm
・解析ソフトウェア((株)キーエンス社製VK形状解析アプリケーションVK-H1XJの「表面粗さ」計測機能)により、測定で得られた高さデータの算術平均粗さを求める。
【0083】
また、本発明のディップ成形体は、表面に試験油IRM903を付着させた状態における表面の動摩擦係数(以下、適宜、「IRM903付着時の動摩擦係数」とする。)が0.10以上である。本発明のディップ成形体の、IRM903付着時の動摩擦係数は、0.10以上であれば特に限定されないが、好ましくは0.12以上、より好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.20以上である。上限値は特に限定されないが、通常、5.0以下である。IRM903付着時の動摩擦係数が小さすぎると、ディップ成形体は、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に劣るものとなってしまう。IRM903付着時の動摩擦係数を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、ディップ成形用ラテックス組成物として、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物を用いる方法が挙げられる。
【0084】
また、本発明のディップ成形体は、表面に水を付着させた状態における表面の動摩擦係数(以下、適宜、「水付着時の動摩擦係数」とする。)が、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性の観点から、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.22以上、特に好ましくは0.30以上である。本発明のディップ成形体の、水付着時の動摩擦係数の上限値は、特に限定されないが、通常、5.0以下である。水付着時の動摩擦係数を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、ディップ成形用ラテックス組成物として、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物を用いる方法が挙げられる。
【0085】
IRM903付着時の動摩擦係数、および水付着時の動摩擦係数の測定方法としては、たとえば、ヘイドン式表面性測定機(商品名「HEIDON-38」、新東科学社製)を用いて、下記の方法により測定することができる。まず、ディップ成形体から30mm×90mmの試験片を切り出し、30mm×30mmの水平な平面を有する接触圧子に試験片を取り付け、試験片に試験油IRM903または水を付着させる。次に、ステンレス板(材質:SUS304、バフ研磨#400の表面処理した板)に対して、試験油IRM903または水を付着させた状態の試験片を、試験加重200g、試験速度100mm/min、移動距離30mm、往復回数5回の条件にて水平に移動させた際に、ヘイドン式表面性測定機の動歪みアンプにかかる摩擦力F(単位:gf)を計測する。そして、下記式に基づいて、往路の値を用いて摩擦係数μを計算する。
μ=F/N
【0086】
また、本発明のディップ成形体は、たとえば、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物を用いて得られる重合体層からなるディップ成形体であってもよいし、あるいは、このような重合体層と、基材との積層体であってもよい。重合体層と基材との積層体である場合には、重合体層側の表面における、表面の面粗さ、線粗さ、IRM903付着時の動摩擦係数、水付着時の動摩擦係数が上記範囲にあればよい。
【0087】
本発明のディップ成形体としては、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物を用いて得られる成形体であることが好ましい。すなわち、本発明のディップ成形体としては、上述したガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)(以下、適宜、「共役ジエン系重合体(A)」とする。)と、上述したガラス転移温度が10℃超である重合体(B)(以下、適宜、「重合体(B)」とする。)とを含有する重合体層を少なくとも有するものであることが好ましい。本発明のディップ成形体中における、共役ジエン系重合体(A)と、重合体(B)との含有比率の好適な範囲は、本発明のディップ成形用ラテックス組成物中における、共役ジエン系重合体(A)と、重合体(B)との含有比率の好適な範囲として上述した範囲と同様である。
【0088】
本発明のディップ成形体としては、ディップ成形型を、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物などのディップ成形用ラテックス組成物に浸漬することで得られる、ディップ成形用ラテックス組成物からなる膜成形体であってもよいし、あるいは、基材をディップ成形用ラテックス組成物に浸漬することで得られる、基材と、ディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層との積層体であってもよい。以下においては、本発明のディップ成形体が、基材と、ディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層との積層体である場合を例示して説明するが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。
【0089】
基材としては特に限定されないが、本発明のディップ成形体を保護手袋として用いる場合には、繊維基材を好適に用いることができる。繊維基材としては特に限定されないが、たとえば、繊維として単繊維の撚糸を使用し、この撚糸を織ることで手袋形状としたものを用いることができる。繊維基材の平均厚みは、好ましくは50~3,000μm、より好ましくは100~2,000μmである。
【0090】
本発明のディップ成形体は、たとえば、基材を、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬させることにより、基材上に、ディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層を形成することで製造することができる。この際には、予め基材を所望の形状の成形用型に被せた状態で、基材をディップ成形用ラテックス組成物に浸漬させることが好ましい。
【0091】
基材を被せる成形用型としては、特に限定されないが、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものを用いることができる。成形用型の形状は、最終製品の形状に合わせて、所望の形状とすればよい。たとえば、本発明のディップ成形体を保護手袋として使用する場合には、基材を被せる成形用型として、手首から指先までの形状を有する成形用型など、各種の手袋用の成形用型を用いることが好ましい。
【0092】
また、基材をディップ成形用ラテックス組成物に浸漬させる前には、予め基材を凝固剤溶液に浸漬させ、基材に凝固剤溶液を付着させることが好ましい。この際には、予め基材を所望の形状の成形用型に被せた状態で、基材を凝固剤溶液に浸漬させることが好ましい。所望の形状の成形用型としては、上述したものが挙げられる。また、凝固剤溶液を基材に付着させ、基材に凝固剤溶液を付着させた後には、乾燥を行うことで、凝固剤溶液に含まれている溶媒を除去することが好ましい。この際の乾燥温度は、特に限定されず、用いる溶媒に応じて選択すればよいが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~70℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは600~1秒間、より好ましくは300~5秒間である。
【0093】
次いで、凝固剤溶液を付着させた基材を、所望の形状の成形用型に被せた状態のまま、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬させることで、ディップ成形用ラテックス組成物を凝固させて、基材上に、ディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層を付着させる。
【0094】
そして、基材を、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬させた後には、乾燥を行うことが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~80℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは120分間~5秒間、より好ましくは60分間~10秒間である。
【0095】
なお、ディップ成形用ラテックス組成物として、硫黄系架橋剤を含有するものを用いる場合には、ディップ成形用ラテックス組成物として、予め熟成(前加硫ともいう。)させたものを用いてもよい。
【0096】
熟成させる際の温度条件は、特に限定されないが、好ましくは20~50℃である。また、熟成させる際の時間は、基材と、ディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層との剥離を防止する観点、得られるディップ成形体を保護手袋として用いた場合における耐摩耗性を向上させる観点から、好ましくは4時間以上120時間以下、より好ましくは24時間以上72時間以下である。
【0097】
次いで、基材に付着させたディップ成形用ラテックス組成物を加熱することにより、ディップ成形用ラテックス組成物に含まれる重合体成分を架橋させることが好ましい。
【0098】
架橋のための加熱温度は、好ましくは60~160℃、より好ましくは80~150℃である。加熱温度を上記範囲にすることにより、架橋反応に要する時間を短くしてディップ成形体の生産性を向上させることができるとともに、過剰な加熱による重合体成分の酸化劣化を抑制して、得られるディップ成形体の物性を向上させることができる。架橋のための加熱時間は、加熱温度に応じて適宜選択すればよいが、通常、5~120分である。
【0099】
なお、このようにして得られるディップ成形体に対し、必要に応じて、基材上に形成される重合体層を20~80℃の温水に0.5~60分程度浸漬することにより、重合体層から水溶性不純物(乳化剤、水溶性高分子、凝固剤など)を除去しておくことが好ましい。このような重合体層を温水に浸漬させる処理は、重合体層中の重合体成分を架橋させた後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、重合体層中の重合体成分を架橋させる前に行なうことが好ましい。
【0100】
温水に浸漬させた後には、さらに乾燥を行ってもよい。この際における乾燥温度、乾燥時間は、特に限定されないが、上述した、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬させた後の乾燥工程における乾燥温度、乾燥時間と同様とすることができる。
【0101】
そして、以上のように基材を成形用型に被せた状態で基材上に、重合体層を形成した後、成形用型から脱着(あるいは脱型)することによって、ディップ成形体を得ることができる。脱着方法としては、手で成形用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。
【0102】
ディップ成形体を成形用型から脱着する前、または脱着した後には、さらに60~120℃の温度で、10~120分の加熱処理(後架橋工程)を行ってもよい。また、ディップ成形体を成形用型から脱着した後には、ディップ成形体の内側および/または外側の表面に、塩素化処理やコーティング処理などによる表面処理層を形成してもよい。
【0103】
このようにして得られる、本発明のディップ成形体は、凝固剤を用いた凝固により、基材上に、上述した本発明のディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層を形成するものであるため、その膜厚を、好ましくは0.05~1.0mm、より好ましくは0.06~0.8mm、さらに好ましくは0.07~0.7mm、特に好ましくは0.3mm超、0.7mm以下と比較的厚膜なものとすることができるものであり、これにより、得られるディップ成形体の耐摩耗性を高めることができる。また、通常、比較的厚膜なものとした場合には、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性が低下してしまう傾向にあるところ、本発明のディップ成形体によれば、比較的厚膜なものとした場合でも(たとえば、0.3mm超とした場合でも)、水付着時およびオイル付着時の優れたウェットグリップ性を実現できるものである。
【0104】
本発明のディップ成形体は、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れるものであり、たとえば、手袋用途、特に保護手袋用途に好適に用いることができるものである。なお、上記においては、本発明のディップ成形体が、基材と、ディップ成形用ラテックス組成物からなる重合体層との積層体である場合を例示して説明したが、上述したように、本発明はこのような態様に何ら限定されるものではなく、ディップ成形型を、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬することで得られる、ディップ成形用ラテックス組成物からなる膜成形体とすることも、もちろん可能である。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。なお、各種の物性は以下のように測定した。
【0106】
<水溶性ポリマー水溶液の粘度>
水溶性ポリマーを精秤し、ビーカーに入れて、水を加えてスターラーで攪拌しながら均一に溶解することで、1重量%あるいは4重量%に調製した水溶性ポリマー水溶液を得た。水溶性ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定した。
【0107】
<ディップ成形用ラテックス組成物の粘度>
ディップ成形用ラテックス組成物の粘度は、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定した。
【0108】
<酸量>
酸量は、以下の方法により測定した。
まず、蒸留水で洗浄した200mlのガラス容器に、蒸留水を加えて固形分濃度を0.2~1%に調整した水溶性ポリマー水溶液50g(水溶性ポリマー水溶液50g中の、水溶性ポリマーの固形分量をW(g)とする)を入れ、溶液電導率計(京都電子工業社製:CM-117、使用セルタイプ:K-121)にセットして、攪拌を開始した。次に、攪拌を継続した状態にて、水溶液のpHが12以上になるように、0.1規定の水酸化ナトリウムを添加し、6分経過後の電気伝導度を測定し、得られた測定値を測定開始時の電気伝導度とした。そして、この水溶性ポリマー水溶液に、0.1規定の塩酸を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定し、再び0.1規定の塩酸を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定するという動作を、30秒間隔で、測定開始時の電気伝導度以上となるまで繰返し行った。
【0109】
そして、得られた電気伝導度データを、縦軸:電気伝導度(mS)、横軸:添加した塩酸の累計量(mmol)としたグラフ上にプロットし、
図1に示すような3つの変曲点を有する塩酸量-電気伝導度曲線を得て、得られた3つの変曲点のX座標及び塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP
1、P
2、P
3及びP
4とし、X座標が零からP
1まで、P
1からP
2まで、P
2からP
3まで及びP
3からP
4まで、の4つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L
1、L
2、L
3及びL
4を求めた。また、L
1とL
2との交点のX座標をA
1(mmol)、L
2とL
3との交点のX座標をA
2(mmol)、L
3とL
4との交点のX座標をA
3(mmol)とした。そして、水溶性ポリマー1g当たりの酸量を、下記式から求めた。
水溶性ポリマー1g当たりの酸量=(A
2-A
1)/W (mmol/g)
【0110】
<表面張力>
表面張力計(DY-300、協和界面化学社製)を使用して、ディップ成形用ラテックス組成物の表面張力を測定した。測定値は単位をmN/mとして示した。測定は25℃で実施した。
【0111】
<耐摩耗性>
摩耗試験はEN388に記載の方法に則って、マーチンデール式摩耗試験機(製品名「STM633」、SATRA社製)を用いて評価を実施した。具体的には、保護手袋(ディップ成形体)について、所定の加重をかけながら摩擦を繰り返し、破損までの摩擦回数を得た。破損に至るまでの摩擦回数に従い、LEVEL 0からLEVEL 4までのレベルに分けて評価した。
LEVEL 4:回転数8,000回転以上
LEVEL 3:回転数2,000回転以上、8,000回転未満
LEVEL 2:回転数500回転以上、2,000回転未満
LEVEL 1:回転数100回転以上、500回転未満
LEVEL 0:回転数100回転未満
さらに、回転数100回転時における保護手袋(ディップ成形体)表面の摩耗量(摩耗による重量減少量)を測定した。
レベルが高く、かつ、回転数100回転時における摩耗量が少ない場合には、耐摩耗性に優れるといえる。
【0112】
<水付着時またはオイル付着時のウェットグリップ性>
重さ1.0kg、2.0kg、3.0kg、4.0kg、5.0kg、7.0kg、および10kgの円錐状の金属モールドを用意し、これら金属モールドに水を付着させた。そして、作業者に、保護手袋(ディップ成形体)を装着してもらい、水または試験油IRM903を付着させた金属モールドを、重さの軽い方から順番に持ち上げてもらい、持ち上げることができた最大重量を求めた。なお、測定は、同一の作業者により行った。持ち上げることができた最大重量が大きいほど、ウェットグリップ性に優れると判断できる。
【0113】
<耐薬品透過性>
JIS Z 0208に記載のカップ法を参考にして、以下の手順により溶剤ガス透過率を測定した。
(1)保護手袋(ディップ成形体)を適当な円形の大きさに切り取り、サンプルとした。
(2)アルミカップとサンプルの重量(W1)を測定した。
(3)n-ヘキサン50mLをアルミカップに入れた。
(4)n-ヘキサンが入ったアルミカップの上に、サンプル(ディップ成形品)のゴム層が接液するように置いた。
(5)固定具を用いてアルミカップとサンプルとをしっかりと密着させた。
(6)アルミカップ全体の重量(W2)を測定した。
(7)n-ヘキサンがサンプルに触れるようにするため、アルミカップをひっくり返し、室温でドラフト内に放置した。
(8)72時間放置後、アルミカップ全体の重量(W3)を測定した。
(9)n-ヘキサンがサンプルを透過して蒸発した割合(溶剤ガス透過率)を以下の式で計算した。
溶剤ガス透過率(%)=100-((W3-W1)÷(W2-W1)×100)
溶剤ガス透過率の値が小さいほど、耐薬品透過性に優れると判断できる。
【0114】
<保護手袋表面の面粗さおよび線粗さ>
レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK-X100)を用いて、下記測定条件により、保護手袋(ディップ成形体)表面(重合体層側の表面)の面粗さおよび線粗さを測定した。
<測定条件>
・測定モード:表面形状
・測定品質:高精細
・対物レンズ:CF Plan 100×/0.95 ∞/0 EPI
・測定エリア面積:960μm×520μm
・Z方向測定ピッチ:0.12μm
・解析ソフトウェア((株)キーエンス社製VK形状解析アプリケーションVK-H1XJの「表面粗さ」計測機能)により、測定で得られた高さデータの算術平均粗さを求めた。
【0115】
<水またはIRM903付着時の動摩擦係数>
水またはIRM903付着時の動摩擦係数の測定は、ヘイドン式表面性測定機(商品名「HEIDON-38」、新東科学社製)を用いて、下記の方法により行った。まず、ディップ成形体から30mm×90mmの試験片を切り出し、30mm×30mmの水平な平面を有する接触圧子に試験片を取り付け、試験片に試験油IRM903または水を付着させた。次に、ステンレス板(材質:SUS304、バフ研磨#400の表面処理した板)に対して、試験油IRM903または水を付着させた状態の試験片を、試験加重200g、試験速度100mm/min、移動距離30mm、往復回数5回の条件にて水平に移動させた際に、ヘイドン式表面性測定機の動歪みアンプにかかる摩擦力F(単位:gf)を計測した。そして、下記式に基づいて、往路の値を用いて摩擦係数μを計算した。
μ=F/N
本測定では、試験片が静止している状態から、試験速度で一定となるまでの間、連続的に摩擦係数μの値を記録し、摩擦係数μが一定状態となった際の値を動摩擦係数とした。
【0116】
<柔軟性>
保護手袋(ディップ成形体)の掌部分を、60mm×60mmの形状に裁断することで、測定用サンプルを得た。そして、測定用サンプルに対し、国際公開第2018/174068号に開示された
図1に示す押込試験装置20(測定部として、製品名「HG1003-SL」、堀内電機社製を使用したもの)を用いて、国際公開第2018/174068号に開示された方法に従って、ヤング率の測定を行った。具体的な条件については、下記に示す通りとした。なお、測定に際しては、測定用サンプルの重合体層が形成された面(測定面)と反対側の面のうち、吸引台30の複数の吸引孔に対応する部分に、樹脂テープを貼り付けた状態とし、吸引台30による吸引を行いながら、ゴム層側から、球状圧子を押し込むことで測定を行った。また、測定は、60mm×60mmの測定用サンプルの3箇所について行い、3箇所のヤング率の測定結果の平均値を求め、これを各実施例のヤング率とした。ヤング率が、580kPa以下であれば、柔軟性に十分優れるものと判断できる。
球状圧子:直径10mmのSUS製の球状圧子
押込速度:0.5mm/s
最大荷重:0.5N
球状圧子の初期位置:-6mm(吸引台30から6mmの高さ位置)
【0117】
<外観>
保護手袋(ディップ成形体)の重合体層を目視にて観察することで、クラックの有無を含めた外観を評価した。
【0118】
<実施例1>
(コロイド硫黄の水分散液の調製)
コロイド硫黄(細井化学工業社製)1.0部、分散剤(花王社製、商品名「デモールN」)0.5部、5重量%水酸化カリウム水溶液(和光純薬工業社製)0.0015部、および水1.0部を、ボールミル中で48時間粉砕攪拌することで、固形分濃度50重量%のコロイド硫黄の水分散液を調製した。
【0119】
(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛の水分散液、酸化亜鉛の水分散液、酸化チタンの水分散液の調製)
コロイド硫黄に代えて、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製)、酸化亜鉛(正同化学工業社製)、および酸化チタンをそれぞれ使用した以外は、上記と同様にして、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛の水分散液、酸化亜鉛の水分散液、および酸化チタンの水分散液をそれぞれ調製した。
【0120】
(ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスの調製)
重合反応器に、共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン65部、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリル30部、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としてメタクリル酸5部、t-ドデシルメルカプタン0.4部、イオン交換水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.05部を仕込み、重合温度を30~40℃に保持して重合を行い、重合転化率が94%に達するまで反応させることで、共重合体のラテックスを得た。
そして、得られた共重合体のラテックスから未反応単量体を除去した後、共重合体のラテックスのpHおよび固形分濃度を調整することで、固形分濃度40重量%、pH=8、25℃における表面張力31mN/mのニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスを得た。得られたニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックス中に含まれる、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)について、ガラス転移温度(Tg)を測定したところ、-27℃であった。また、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスを構成するニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)の粒子の重量平均粒子径は、110nmであり、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)の単量体組成は、仕込み割合とほぼ同じ割合であった。
【0121】
(ディップ成形用ラテックス組成物の調製)
上記にて得られたニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスと、塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスとを、「ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1):塩化ビニル樹脂(B-1)」の重量比で70:30となるように、混合し、5重量%の水酸化カリウムを添加することで、固形分濃度45重量%、pH=9.0のラテックス組成物を調製した。なお、塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスとしては、塩化ビニル樹脂(B-1)のガラス転移温度(Tg)が82℃、塩化ビニル樹脂(B-1)のK値が65であり、塩化ビニル樹脂(B-1)の粒子の重量平均粒子径が1.3μmであり、塩化ビニル樹脂(B-1)は可塑剤を実質的に含まないものであり、かつ、塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスの25℃における表面張力が36mN/mであるものを用いた。
【0122】
そして、上記にて得られたラテックス組成物の重合体成分100部に対して、それぞれ固形分換算で、コロイド硫黄1.0部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛1.0部、酸化亜鉛1.5部、および酸化チタン3.0部となるように、上記にて調製した各配合剤の水分散液を添加した。なお、各配合剤の水分散液を添加する際には、ラテックス組成物を撹拌した状態で、所定の量をゆっくり添加した。そして、各配合剤が均一に混合された後に、水溶性ポリマーとして、カルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、商品名「Daicel2200」、重量平均分子量:550,000、酸量:3.7mmol/g)0.5部を添加し、固形分濃度を調整することで、固形分濃度40重量%、25℃における粘度3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。得られたディップ成形用ラテックス組成物について、表面張力を測定した。結果を表1に示す。
【0123】
(凝固剤溶液の調製)
凝固剤としての硝酸カルシウムを、3.0重量%の割合でメタノールに溶解させることで、凝固剤溶液を調製した。
【0124】
(保護手袋(ディップ成形体)の製造)
まず、上記にて得られたディップ成形用ラテックス組成物を、温度30℃、48時間の条件にて、熟成(前加硫ともいう。)させた。次いで、手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、線密度:300デニール、ゲージ数:13ゲージ、厚み:0.8mm)を被せたセラミックス製手袋型を、上記にて調製した凝固剤溶液に5秒間浸漬し、凝固剤溶液から引き上げた後、温度30℃、1分間の条件で乾燥させた。その後、セラミックス製手袋型を、上記のディップ成形用ラテックス組成物に5秒間浸漬し、ディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた後、温度30℃、30分間の条件で乾燥させ、次いで温度70℃、10分間の条件で加熱し、架橋させることで、繊維基材上に、膜厚0.6mmの重合体層を形成した。その後、重合体層を形成したセラミックス製手袋型を、60℃の温水に90秒間浸漬して、重合体層から水溶性の不純物を溶出させた後、温度30℃、10分間の条件で乾燥させ、さらに温度125℃、30分間の条件で熱処理を行う事で、重合体層中の重合体に架橋処理を施した。次いで、重合体層が形成された繊維基材をセラミックス製手袋型から剥がすことで、保護手袋(ディップ成形体)を得た。
そして、得られた保護手袋(ディップ成形体)を用いて、耐摩耗性、水付着時のウェットグリップ性、オイル付着時のウェットグリップ性、耐薬品透過性、面粗さ、線粗さ、水付着時の動摩擦係数、IRM903付着時の動摩擦係数、および、柔軟性の測定を行うとともに、外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
<実施例2>
ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスと、塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスとの配合割合を、「ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1):塩化ビニル樹脂(B-1)」の重量比で、50:50に変更するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を1.00部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度37重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
<実施例3>
塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスに代えて、塩化ビニル樹脂(B-2)のラテックス(塩化ビニル樹脂(B-2)のガラス転移温度(Tg)が82℃、塩化ビニル樹脂(B-2)のK値が77、塩化ビニル樹脂(B-2)の粒子の重量平均粒子径が1.2μmであり、塩化ビニル樹脂(B-2)は可塑剤を実質的に含まないものであり、かつ、塩化ビニル樹脂(B-2)のラテックスの25℃における表面張力が34mN/m)を使用するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を0.60部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度39重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
<実施例4>
ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスと、塩化ビニル樹脂(B-2)のラテックスとの配合割合を、「ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1):塩化ビニル樹脂(B-2)」の重量比で、50:50に変更するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を1.1部に変更した以外は、実施例3と同様にして、固形分濃度36重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
<実施例5>
塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスに代えて、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂(B-3)のラテックス(塩化ビニル単位の含有割合が70重量%、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂(B-3)のガラス転移温度(Tg)が63℃、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂(B-3)の粒子の重量平均粒子径は0.14μmであり、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂(B-3)は可塑剤を実質的に含まないものであり、かつ、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂(B-3)のラテックスの25℃における表面張力が36mN/m)を使用するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を0.40部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度42重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
<実施例6>
塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスに代えて、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体樹脂(B-4)のラテックス(塩化ビニル単位の含有割合が85重量%、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体樹脂(B-4)のガラス転移温度(Tg)が60℃、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体樹脂(B-4)の粒子の重量平均粒子径は0.70μmであり、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体樹脂(B-4)は可塑剤を実質的に含まないものであり、かつ、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体樹脂(B-4)のラテックスの25℃における表面張力が33mN/m)を使用するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を0.35部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度43重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0130】
<実施例7>
塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスに代えて、塩化ビニル樹脂(B-5)のラテックス(塩化ビニル樹脂(B-5)のガラス転移温度(Tg)が80℃、塩化ビニル樹脂(B-5)の粒子の重量平均粒子径は0.08μmであり、塩化ビニル樹脂(B-5)は可塑剤を実質的に含まないものであり、かつ、塩化ビニル樹脂(B-5)のラテックスの25℃における表面張力が59mN/m)を使用するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を1.00部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度35重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
<実施例8>
塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスに代えて、塩化ビニル樹脂(B-6)のラテックス(塩化ビニル樹脂(B-6)のガラス転移温度(Tg)が80℃、塩化ビニル樹脂(B-6)のK値が75、塩化ビニル樹脂(B-6)の粒子の重量平均粒子径は2.00μmであり、塩化ビニル樹脂(B-6)は可塑剤を実質的に含まないものであり、かつ、塩化ビニル樹脂(B-6)のラテックスの25℃における表面張力が42mN/m)を使用するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を1.30部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度34重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0132】
<実施例9>
水溶性ポリマーとして、カルボキシメチルセルロース1.00g部に代えて、ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「22-88(PVA-217)」、平均重合度:1750、酸量:0.1mmol/g)1.30部を使用した以外は、実施例7と同様にして、固形分濃度41重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0133】
<実施例10>
水溶性ポリマーとして、カルボキシメチルセルロース1.00g部に代えて、カルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「KL-318」、平均重合度:1800、酸量:1.5mmol/g)0.8部を使用した以外は、実施例7と同様にして、固形分濃度42重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0134】
<実施例11>
カルボキシメチルセルロース1.00部に代えて、ポリアクリル酸(東亜合成社製、商品名「アロンA-7100」、重量平均重合度分子量:500,000、酸量:11.0mmol/g)0.3部を使用した以外は、実施例7と同様にして、固形分濃度40重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0135】
<実施例12>
塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスに代えて、ポリスチレン樹脂(B-7)のラテックス(ポリスチレン樹脂(B-7)のガラス転移温度(Tg)が85℃、ポリスチレン樹脂(B-7)の粒子の重量平均粒子径は300nmであり、かつ、ポリスチレン樹脂(B-7)のラテックスの25℃における表面張力が43mN/m)を使用するとともに、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を0.4部に変更したした以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度40重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0136】
<比較例1>
塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスを配合せず、ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスの重合体成分100部に対する固形分換算にて配合を行い、かつ、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を0.30部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度40重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0137】
<比較例2>
ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスを配合せず、塩化ビニル樹脂(B-1)のラテックスの重合体成分100部に対する固形分換算にて配合を行い、かつ、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を2.90部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度29重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0138】
<比較例3>
ニトリル基含有共役ジエン系重合体(A-1)のラテックスを配合せず、塩化ビニル樹脂(B-2)のラテックスの重合体成分100部に対する固形分換算にて配合を行い、かつ、水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を3.2部に変更した以外は、実施例3と同様にして、固形分濃度26.0重量%、25℃における粘度が3,000mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。そして、得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0139】
<比較例4>
水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースの使用量を1.0部に変更した以外は、比較例1と同様にして、固形分濃度40重量%であるディップ成形用ラテックス組成物を得た。得られたディップ成形用ラテックス組成物を、ホモディスパー2.5型を用いて攪拌することで発泡させた。そして、得られた発泡ディップ成形用ラテックス組成物を用いて、実施例1と同様にして、膜厚0.6mmの重合体層を有する保護手袋(ディップ成形体)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0140】
【0141】
表1に示すように、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとを混合してなるディップ成形用ラテックス組成物によれば、これを用いて得られるディップ成形体を、耐摩耗性、ならびに水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に優れたものとすることができる結果となった(実施例1~12)。
一方、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとしての塩化ビニル樹脂のラテックスを配合しない場合には、得られるディップ成形体は、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に劣るものであった(比較例1)。
さらに、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスを配合しない場合には、基材上に、十分な強度を有する重合体層を形成することができず、粉落ちが発生してしまい、オイル付着時のウェットグリップ性の測定が不能であり、また、得られるディップ成形体は、耐摩耗性に劣るものであった(比較例2,3)。なお、比較例2,3において、水付着時のウェットグリップ性の結果が良好であった理由としては、繊維基材が、重合体層に実質的に被覆されていない未被覆の状態であり、そのため、繊維基材そのものの水付着時のウェットグリップ性を評価しているのと等しい状態であったことによると考えられる。
また、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとしての塩化ビニル樹脂のラテックスを配合せずに、発泡させたディップ成形用ラテックス組成物を用いてディップ成形体を得た場合には、得られるディップ成形体は、耐摩耗性に劣るものであった(比較例4)。
【0142】
さらに、ガラス転移温度が10℃以下である共役ジエン系重合体(A)のラテックスと、ガラス転移温度が10℃超である重合体(B)のラテックスとを混合してなるディップ成形用ラテックス組成物であって、酸量が10mmol/g以下である水溶性ポリマーを含有するディップ成形用ラテックス組成物によれば、得られるディップ成形体を、耐摩耗性、水付着時およびオイル付着時のウェットグリップ性に加えて、耐薬品透過性にも優れたものとすることができる結果となった(実施例1~10,12)。
【符号の説明】
【0143】
10… 測定試料
20… 押込試験装置
21… 測定台
22… 支持アーム
23… 水平アーム
24… 粗動用垂直可動機構
25… 微動用垂直可動機構
26… ステージ
27… ロードセル
28… 荷重軸
29… 球状圧子
30… 吸引台