IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許7484728偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法
<>
  • 特許-偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法 図1
  • 特許-偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法 図2
  • 特許-偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法 図3
  • 特許-偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法 図4
  • 特許-偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法 図5
  • 特許-偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法 図6
  • 特許-偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240509BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20240509BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240509BHJP
   H10K 71/00 20230101ALI20240509BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240509BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20240509BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240509BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240509BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G02B5/30
H10K50/86
H10K59/10
H10K71/00
G09F9/00 313
G09F9/00 342
G09F9/00 302
G02F1/1335 510
B32B7/023
B32B27/30 102
B32B27/32 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020568109
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001372
(87)【国際公開番号】W WO2020153233
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019009632
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞島 啓
(72)【発明者】
【氏名】猪股 貴道
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-043431(JP,A)
【文献】特開2008-242309(JP,A)
【文献】特開2017-097048(JP,A)
【文献】特開2008-257025(JP,A)
【文献】特開2018-028662(JP,A)
【文献】特開2018-092083(JP,A)
【文献】特開2004-351717(JP,A)
【文献】特開2006-273956(JP,A)
【文献】特開2016-057403(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114960(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H05B 33/02
H05B 33/10
H10K 50/10
G09F 9/00
G02F 1/1335
B32B 7/023
B32B 27/30
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光板の製造方法であって、
偏光子の材料を含む原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムを得る第一の工程と、
前記偏光子材料フィルムの一方の表面に、樹脂を塗布して塗布層を形成する第二の工程と、
前記塗布層を乾燥させ樹脂層を得る第三の工程と、をこの順に含む、積層体の製造方法により積層体を製造し、さらに
前記積層体を二色性色素で染色する第五の工程と、
前記積層体を一軸延伸する第六の工程と、を含み、
前記偏光子材料フィルムがポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、
前記樹脂層がシクロオレフィン系樹脂からなる、偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記第一の工程における、前記延伸の延伸倍率がX倍であり、Xは1.5≦X≦5.5を満たす、請求項に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記第二の工程の前に、前記偏光子材料フィルムの前記表面を活性化処理する第四の工程を含む、請求項1又は2に記載の偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記第六の工程における、前記延伸の倍率がZ倍であり、Zは1.2≦Z≦5.0を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光板の製造方法。
【請求項5】
X及びZが、5.1≦X*Z≦9.0を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の偏光板の製造方法。
【請求項6】
前記第五の工程、前記第六の工程又はこれらの双方を経た後に、前記積層体の前記偏光子材料フィルム側の面、及び前記樹脂層側の面のうち、一方又は両方の面に、保護フィルムを貼合する第七の工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の偏光板の製造方法。
【請求項7】
表示装置を製造する方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載の偏光板の製造方法により偏光板を製造する工程、及び
前記偏光板をパネルに積層する第八の工程を含み、
前記パネルが、液晶パネル、有機エレクトロルミネッセンスパネル、マイクロLEDパネルから選ばれるパネルである、表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、偏光板、積層体の製造方法、偏光板の製造方法及び表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置及び有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置等の表示装置としては、従来から、表示面積が大きく、重量が軽く、且つ厚みが薄いものが求められている。そのため、表示装置を構成するパネルも、従来から薄いものが求められている。
【0003】
表示装置には、偏光子及び偏光子を保護する保護フィルムを備える偏光板が一般的に用いられる。厚みの薄い表示装置を構成するために、偏光板も、より薄いものが求められている。特に、偏光子は、表示装置の使用環境において収縮することがあるため、薄く面積が大きい表示装置においては、そのような収縮による反りが問題となりうる。したがって、厚み10μm以下といった薄い偏光子を採用することにより、偏光子の厚みの低減自体による表示装置の厚みの低減に加え、前述のような反りの発生の低減も期待できる。
【0004】
ところが、従来の製造方法により、そのような厚みの薄いポリビニルアルコールの偏光子を製造しようとした場合、偏光子の溶断が頻発する。このような、偏光子の溶断を防ぎ、且つ薄い偏光子を含む偏光板を製造する方法として、いくつかの方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、未延伸高密度ポリエチレン製の基材フィルムに未延伸ポリビニルアルコール系フィルムを貼りつけて積層体とし、当該積層体を延伸処理した後に、基材フィルムを剥離して、ポリビニルアルコール系フィルムを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-505404号公報(対応公報:米国特許出願公開第2016/084990号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法により、薄い偏光板を製造する場合、積層体を高い延伸倍率で延伸することに起因して、延伸処理後の基材フィルムにおいて位相差が発生することがある。そのような場合に、基材フィルムをそのまま偏光板保護フィルムとして使用することは難しく、剥離して廃棄することになるため、無駄になる材料が発生する。
そこで、延伸したポリビニルアルコール樹脂フィルムと、未延伸の基材フィルムとを、ポリビニルアルコール系接着剤を介して貼合した積層体を用いて偏光板を製造することを検討した。しかしながら、この方法では、延伸後のポリビニルアルコール樹脂フィルムに、ポリビニルアルコール系接着剤が染み込むことにより、積層体および偏光板において、しわやボイドが発生することがあった。
【0008】
従って、本発明は、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができ、かつ、しわやボイドの発生を防止した積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに、前記偏光板を用いた表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために検討を行った結果、本発明者は、所定の位相差及び所定の厚みを有する偏光子材料フィルムと、偏光子材料フィルムの上に直接設けられた樹脂層とを有する積層体を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明によれば、下記〔1〕~〔21〕が提供される。
〔1〕 偏光子材料フィルムと、前記偏光子材料フィルムの上に直接設けられた樹脂層と、を有する積層体であって、
前記偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1が50nmより大きく、
前記偏光子材料フィルムの厚みT1が45μm以下である、積層体。
〔2〕 前記偏光子材料フィルムが、延伸倍率X倍の延伸により得られたフィルムである、〔1〕に記載の積層体。
〔3〕 Xは1.5≦X≦5.5を満たす、〔2〕に記載の積層体。
〔4〕 延伸樹脂層の面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下であり、
前記延伸樹脂層は、延伸積層体における、前記樹脂層の延伸物であり、前記延伸積層体は、前記積層体を50℃~120℃の温度条件で4.0倍に自由端一軸延伸した延伸物である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔5〕前記偏光子材料フィルムがポリビニルアルコール樹脂フィルムである〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔6〕前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの、波長550nmの光の透過率が50%以上である〔5〕に記載の積層体。
〔7〕 前記樹脂層がシクロオレフィン系樹脂からなる、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔8〕 前記シクロオレフィン系樹脂がシクロオレフィン系重合体を含み、
前記シクロオレフィン系重合体が、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物である、〔7〕に記載の積層体。
〔9〕 前記樹脂層は、樹脂からなる層であり、
前記樹脂は、メルトフローレートが1g/10分以上でかつ、引張弾性率Eが、50MPa以上1200MPa以下であり、
前記メルトフローレートは、190℃、荷重2.16kgで測定される値である、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔10〕 前記樹脂層が、可塑剤、軟化剤又はこれらの双方を含有する、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔11〕 前記可塑剤、軟化剤又はこれらの双方が、エステル系可塑剤及び脂肪族炭化水素重合体から選ばれる一種以上である、〔10〕に記載の積層体。
〔12〕 前記樹脂層が、有機金属化合物を含有する、〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔13〕 〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の積層体の一軸延伸物である、偏光板。
〔14〕 偏光子の材料を含む原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムを得る第一の工程と、
前記偏光子材料フィルムの一方の表面に、樹脂を塗布して塗布層を形成する第二の工程と、
前記塗布層を乾燥する第三の工程と、をこの順に含む、積層体の製造方法。
〔15〕 前記第一工程における、前記延伸の延伸倍率がX倍であり、Xは1.5≦X≦5.5を満たす、〔14〕に記載の積層体の製造方法。
〔16〕 前記第二の工程の前に、前記偏光子材料フィルムの前記表面を活性化処理する第四の工程を含む、〔14〕または〔15〕に記載の積層体の製造方法。
〔17〕 偏光板の製造方法であって、
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の積層体を調製するか、または〔14〕~〔16〕のいずれか一項に記載の積層体の製造方法により積層体を製造する工程と、
前記積層体を二色性色素で染色する第五の工程と、
前記積層体を一軸延伸する第六の工程と、を含む、偏光板の製造方法。
〔18〕 前記第六の工程における、前記延伸の倍率がZ倍であり、Zは1.2≦Z≦5.0を満たす、〔17〕に記載の偏光板の製造方法。
〔19〕 X及びZが、5.1≦X*Z≦9.0を満たす、〔17〕または〔18〕に記載の偏光板の製造方法。
〔20〕 前記第五の工程、前記第六の工程又はこれらの双方を経た後に、前記積層体の前記偏光子材料フィルム側の面、及び前記樹脂層側の面のうち、一方又は両方の面に、保護フィルムを貼合する第七の工程を含む、〔17〕~〔19〕のいずれか一項に記載の偏光板の製造方法。
〔21〕 表示装置を製造する方法であって、
〔17〕~〔20〕のいずれか一項に記載の偏光板の製造方法により偏光板を製造する工程、及び
前記偏光板をパネルに積層する第八の工程を含み、
前記パネルが、液晶パネル、有機エレクトロルミネッセンスパネル、マイクロLEDパネルから選ばれるパネルである、表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができ、かつ、しわやボイドの発生を防止した、積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに、前記偏光板を用いた表示装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は実施形態1に係る積層体を模式的に示した断面図である。
図2図2は実施形態1に係る積層体の製造方法に用いる製造装置の一例を模式的に示した概略図である。
図3図3は実施形態1に係る偏光板の製造方法に用いる製造装置の一例を模式的に示した概略図である。
図4図4は実施形態1に係る積層体を用いて製造した偏光板を模式的に示した断面図である。
図5図5は実施形態2に係る偏光板の製造方法により製造した偏光板を模式的に示した断面図である。
図6図6は実施形態3に係る表示装置の製造方法により製造した表示装置を模式的に示した断面図である。
図7図7は実施形態4に係る表示装置の製造方法により製造した表示装置を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0013】
本願において、「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。フィルムの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0014】
本願において、フィルムの面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthは、式Re=(nx-ny)×d、及びRth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dに従って算出する。またフィルムのNz係数は、[(nx-nz)/(nx-ny)]で表される値であり、[(Rth/Re)+0.5]とも表しうる。ここで、nxは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、フィルムの面内の遅相軸に垂直な面内方向の屈折率であり、nzは、フィルムの厚み方向の屈折率であり、dは、フィルムの厚み(nm)である。測定波長は、別に断らない限り、可視光領域の代表的な波長である550nmとする。
【0015】
[実施形態1:積層体及びその製造方法、偏光板及びその製造方法]
以下、本発明の一実施形態である実施形態1の積層体及びその製造方法、並びに、当該積層体を用いた偏光板及びその製造方法について、図1図4を参照しつつ説明する。
【0016】
[1.積層体]
本発明の積層体は、偏光子材料フィルムと、偏光子材料フィルムの上に直接設けられた樹脂層と、を有する。本発明の積層体において、偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1は50nmより大きく、偏光子材料フィルムの厚みT1は45μm以下である。
文脈上明らかな通り、本発明において、「樹脂層」は、偏光子材料フィルムとは別の層である。
本発明において、偏光子材料フィルムの上に「直接設けられた樹脂層」とは、偏光子材料フィルムを構成する材料の層の面上に設けられ、その結果、偏光子材料フィルムの面に直接、接した状態である樹脂層である。
【0017】
図1は、本発明に係る実施形態1の積層体10を模式的に示した断面図の一例である。図1に示すように、本実施形態の積層体10は、偏光子材料フィルム11と、偏光子材料フィルム11の一方の面(図示上側面)に設けられた樹脂層12と、を含む。本発明の積層体10は、偏光子、及び偏光子を備える偏光板を製造するための材料である。
【0018】
[偏光子材料フィルム]
偏光子材料フィルムは、偏光子を製造するためのフィルム(偏光子用フィルム)である。本発明において、偏光子材料フィルムは、面内方向の位相差Re1が50nmより大きく、厚みT1が45μm以下のフィルムである。偏光子材料フィルムは、偏光子の材料を含む未延伸のフィルムを、面内方向の位相差Re1が50nmより大きく、厚みT1が45μm以下となるように延伸処理することにより得うる。偏光子材料フィルムは偏光子の材料を含む(延伸)フィルムである。本発明においては、偏光子材料フィルムを得るためのフィルムであって、所定の位相差及び厚みとするための延伸処理に供していないもの(偏光子の材料を含む未延伸のフィルム)を、「原反フィルム」という。原反フィルムは偏光子の材料を含む。
【0019】
本発明において、原反フィルムとしては、本発明の目的を達成し得るものであれば必ずしも限定されないが、コストパフォーマンスの高さより、ポリビニルアルコール樹脂フィルムが好ましい。
【0020】
本発明において、原反フィルムとして用いうるポリビニルアルコール樹脂フィルム(以下において「PVA樹脂フィルム」という場合がある)としては、必ずしも限定されないが、入手性などより、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをけん化することにより製造されたものを使用することが好ましい。PVA樹脂フィルムに含まれるポリビニルアルコール(以下において「PVA」という場合がある)は、延伸性や得られる偏光子の偏光性能などが優れるという観点より、重合度は500~8000の範囲にあることが好ましく、けん化度は90モル%以上であることが好ましい。ここで重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した平均重合度であり、けん化度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した値である。重合度のより好ましい範囲は1000~6000、さらに好ましくは1500~4000である。けん化度のより好ましい範囲は95モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。PVAは、酢酸ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、あるいはグラフト重合体であってもよい。
【0021】
本発明において、原反フィルムとして用いうるPVA樹脂フィルムの製法は特に限定されず、公知の方法等の任意の方法により製造することができる。製法の例としては、PVAを溶剤に溶解したPVA溶液を製膜原液として使用した、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(PVA水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVA樹脂フィルムを得る方法)、およびこれらの組み合わせによる方法が挙げられる。製法のさらなる例としては、溶剤を含有するPVAを溶融したものを製膜原液として行う溶融押出製膜法が挙げられる。これらの中でも、流延製膜法、および溶融押出製膜法が、透明性が高く着色の少ないPVA樹脂フィルムが得られることから好ましく、高い製膜速度を得られることから溶融押出製膜法がより好ましい。
【0022】
本発明において、原反フィルムとして用いうるPVA樹脂フィルムは、機械的物性や二次加工時の工程通過性などを改善するために、グリセリン等の多価アルコールなどの可塑剤を、PVAに対して0.01~30重量%含有する事が好ましく、また取り扱い性やフィルム外観などを改善するため、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などの界面活性剤を、PVAに対して0.01~1重量%含有することが好ましい。
【0023】
原反フィルムとして用いうるPVA樹脂フィルムは、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、pH調整剤、無機物微粒子、着色剤、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物、水分などの任意成分を更に含んでいてもよい。PVA樹脂フィルムは、前記任意成分の1種または2種以上を含むことができる。
【0024】
原反フィルムの厚みは、好ましくは60μm以下、より好ましくは45μm以下、更に好ましくは30μm以下であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、更に好ましくは20μm以上である。原反フィルムの厚みが、前記範囲の下限値以上であることにより十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることができ、前記範囲の上限値以下であることにより偏光板の曲げに対する耐性を効果的に高めることができる。
【0025】
偏光子材料フィルムは、延伸により得られたフィルムとしうる。偏光子材料フィルムは、原反フィルムを、延伸処理することにより得ることができる。延伸処理の方法としては、乾式延伸、及び湿式延伸等が挙げられる。乾式延伸は湿式延伸に比べ設備や工程が簡素であるため、偏光子材料フィルムとしては、乾式延伸により得られるものが好ましい。乾式延伸としては、テンター延伸、フロート延伸、熱ロール延伸などの延伸方法を用いることが出来る。乾式延伸とは、高温(例えば100℃以上)の気体雰囲気下で延伸する延伸処理の方法をいう。乾式延伸で用いる気体としては空気が挙げられる。
【0026】
原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとする際の延伸の条件は、所望の偏光子材料フィルムが得られるよう適宜選択しうる。例えば、原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとする際の延伸の態様は、一軸延伸、二軸延伸等の任意の態様としうる。また、原反フィルムが長尺状のフィルムである場合、延伸の方向は、縦方向(長尺状のフィルムの長手方向に平行な方向)、横方向(長尺状のフィルムの幅方向に平行な方向)、及び斜め方向(縦方向でも横方向でも無い方向)のいずれであってもよい。
【0027】
偏光子材料フィルムは、延伸倍率X倍で延伸されたフィルムとしうる。Xは1.5≦X≦5.5を満たすことが好ましい。このような偏光子材料フィルムは原反フィルムを延伸倍率X倍で延伸することにより得ることができる。本発明において、Xは、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、更に好ましくは2.5以上であり、好ましくは5.5以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは3.5以下である。つまり、偏光子材料フィルムは1.5倍以上5.5倍以下の延伸倍率で延伸されたフィルムであることが好ましく、2.0倍以上4.5倍以下の延伸倍率で延伸されたフィルムであることがより好ましく、2.5倍以上3.5倍以下の延伸倍率で延伸されたフィルムであることが更に好ましい。Xを前記範囲の上限値以下とすると、原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとするときに破断の発生を防止することができる。また、Xを前記範囲の下限値以上とすると、積層体を延伸して偏光板を得るときの延伸倍率を低くすることができる。原反フィルムの延伸を、二軸延伸等の二以上の方向への延伸により行う場合、延伸倍率Xは、各延伸の倍率の積である。
【0028】
原反フィルムを乾式延伸して偏光子材料フィルムとする際の延伸温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であり、一方好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。乾式延伸の温度が前記範囲であることにより均一な膜厚の偏光子材料フィルムが得られる。
【0029】
偏光子材料フィルムは、PVA樹脂フィルムであることが好ましい。偏光子材料フィルムとして用いうるPVA樹脂フィルムとしては、波長550nmの光の透過率(以下、「波長550nmの光の透過率」を、「光透過率」ともいう)が50%以上のフィルムが好ましい。PVA樹脂フィルムとしては、未着色のフィルムを用いうる。このようなPVA樹脂フィルムの光透過率は、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上であり、好ましくは99%以下、より好ましくは97%以下である。
【0030】
偏光子材料フィルムの厚みT1は、好ましくは45μm以下であり、より好ましくは35μm以下、更に好ましくは25μm以下であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上、更に好ましくは10μm以上である。偏光子材料フィルムの厚みが、前記範囲の上限値以下であることにより偏光板の収縮力を効果的に下げることができ、前記範囲の下限値以上であることにより十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることができる。
【0031】
偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1は、好ましくは50nm以上、より好ましくは50nm超、さらにより好ましくは100nm以上、特に好ましくは150nm以上であり、好ましくは1500nm以下、より好ましくは1000nm以下である。偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1が上記範囲の下限値以上であることにより、積層体を延伸処理して偏光板とするときの延伸倍率を低く抑えて、延伸処理後の樹脂層の位相差を低くキープすることができる。
【0032】
偏光子材料フィルムの形状及び寸法は、所望の用途に応じたものに適宜調整しうる。製造の効率上、偏光子材料フィルムは長尺のフィルムであることが好ましい。
【0033】
[樹脂層]
樹脂層は樹脂からなる層である。樹脂層は、偏光子材料フィルムに樹脂を塗布することにより設けた樹脂層であり得る。または、樹脂層は、フィルム状とした樹脂を、偏光子材料フィルムの上に、直接熱圧着することにより、設けうる。偏光子材料フィルムの上に「直接熱圧着」するとは、偏光子材料フィルムと樹脂層との間に、接着剤及び粘着剤を介在させずに、偏光子材料フィルムと樹脂層となるフィルム状の樹脂とを圧着することをいう。
【0034】
本発明において、樹脂層を構成する樹脂は、低温(例えば50~120℃)で、高い延伸倍率(例えば6.0倍)の延伸が可能な柔軟性を有する樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、シクロオレフィン系重合体を含むシクロオレフィン系樹脂、及びメルトフローレートが、1g/10分以上であり、かつ、引張弾性率Eが50MPa以上1200MPa以下である樹脂が挙げられる。ここでいうメルトフローレートは、190℃、荷重2.16kgで測定した値である。以下、「190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレート」を単に「MFR」ともいう。
【0035】
[樹脂]
シクロオレフィン系樹脂はシクロオレフィン系重合体を含む樹脂である。シクロオレフィン系樹脂に含まれるシクロオレフィン系重合体としては、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物が好ましい。このようなブロック共重合体水素化物としては、WO2000/32646号公報、WO2001/081957号、特開2002-105151号公報、特開2006-195242号公報、特開2011-13378号公報、WO2015/002020号、等に記載の重合体が挙げられる。シクロオレフィン系樹脂は、MFRが、1g/10分以上であり、かつ、引張弾性率Eが50MPa以上1200MPa以下であることが好ましいが、MFR、引張弾性率Eまたは双方が、前記範囲外であってもよい。
また、本発明において、「芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とするとする重合体ブロック[A]」は、「芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を60質量%超含有する重合体ブロック[A]」としうる。「芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]」は「芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]と鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]の合計が60質量%超含有する重合体ブロック[B]」としうる。「鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]」は、「鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を60質量%超含有する重合体ブロック[C]」としうる。
【0036】
本発明において、樹脂層を構成する樹脂としては、メルトフローレートが、1g/10分以上であり、かつ、引張弾性率Eが50MPa以上1200MPa以下である樹脂が好ましい。MFRが、1g/10分以上であり、かつ、引張弾性率Eが50MPa以上1200MPa以下である樹脂は、シクロオレフィン系樹脂であることが好ましいが、シクロオレフィン系樹脂以外の樹脂であってもよい。
【0037】
樹脂のMFRは、好ましくは1g/10分以上、より好ましくは3g/10分以上、さらに好ましくは5g/10分以上であり、好ましくは300g/10分以下、より好ましくは100g/10分以下である。樹脂のMFRを下限値以上とすることにより、偏光板としたときに位相差を小さく抑えることができ、MFRを上限値以下とすることにより、耐熱性を高めることができる。
【0038】
樹脂のMFRは、JIS-K-7210に基づき、メルトインデクサを用いて、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定しうる。
【0039】
本発明において、樹脂層を構成する樹脂の引張弾性率Eは、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは200MPa以上であり、好ましくは1200MPa以下、より好ましくは1000MPa以下、さらに好ましくは800MPa以下である。樹脂の引張弾性率Eを、下限値以上とすることにより、積層体を延伸して偏光板とした際に樹脂層の位相差を小さくし、上限値以下とすることにより、積層体を延伸する際に樹脂層の破断の発生を防止することができる。
【0040】
引張弾性率は、JIS K7127に基づき、引張試験機(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製、商品名「電気機械式万能材料試験機(5564)」)を用いて、測定しうる。
【0041】
[可塑剤、及び軟化剤]
本発明において、樹脂層を構成する樹脂は、可塑剤、軟化剤又はこれらの双方を含有することが好ましい。可塑剤、軟化剤又はこれらの双方を含有することにより、積層体を延伸して偏光板を得た際に樹脂層に発生する位相差を小さくすることが出来る。
【0042】
可塑剤及び軟化剤としては、樹脂層を構成する樹脂に均一に溶解ないし分散できるものを用いうる。可塑剤及び軟化剤の具体例としては、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤(以下において「多価アルコールエステル系可塑剤」という。)、及び多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤(以下において「多価カルボン酸エステル系可塑剤」という。)等のエステル系可塑剤、並びに燐酸エステル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤、及びその他のポリマー軟化剤が挙げられる。
【0043】
本発明において好ましく用いられるエステル系可塑剤の原料である多価アルコールの例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0044】
多価アルコールエステル系可塑剤の例としては、エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、及びその他の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
【0045】
多価カルボン酸エステル系可塑剤の例としては、ジカルボン酸エステル系可塑剤、及びその他の多価カルボン酸エステル系可塑剤が挙げられる。
【0046】
燐酸エステル系可塑剤の例としては、具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の燐酸アルキルエステル;トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等の燐酸シクロアルキルエステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等の燐酸アリールエステルが挙げられる。
【0047】
炭水化物エステル系可塑剤として、具体的には、グルコースペンタアセテート、グルコースペンタプロピオネート、グルコースペンタブチレート、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエート等を好ましく挙げることができ、この内、サッカロースオクタアセテートがより好ましい。
【0048】
ポリマー軟化剤としては、具体的には、脂肪族炭化水素重合体、脂環式炭化水素系重合体、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの共重合体、等のアクリル系ポリマー;ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN-ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー;ポリスチレン、ポリ4-ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル;ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。
【0049】
脂肪族炭化水素重合体の具体例としては、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン、ポリ-1-オクテン、エチレン・α-オレフィン共重合体等の低分子量体及びその水素化物;ポリイソプレン、ポリイソプレン-ブタジエン共重合体等の低分子量体及びその水素化物等が挙げられる。シクロオレフィン樹脂に均一に溶解ないし分散し易い観点から脂肪族炭化水素系ポリマーは、数平均分子量300~5,000であることが好ましい。
【0050】
これらポリマー軟化剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。
【0051】
本発明において、可塑剤、軟化剤又はこれらの双方(以下「可塑剤等」ともいう)としては、樹脂層を構成する樹脂との相溶性に特に優れることからエステル系可塑剤、及び脂肪族炭化水素重合体から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0052】
樹脂層における、可塑剤等の割合は、樹脂層を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらにより好ましくは1.0重量部以上であり、一方好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。可塑剤等の割合を前記範囲内とすることにより、樹脂層を、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経ても、位相差の発現が充分に低いものとすることができる。
【0053】
[有機金属化合物]
本発明において、樹脂層は、有機金属化合物を含有することが好ましい。有機金属化合物を含むことにより、積層体を高い延伸倍率で延伸(例えば延伸倍率6.0で湿式延伸)した場合における、樹脂層の剥離の発生をより有効に抑制することができる。
【0054】
有機金属化合物は、金属と炭素との化学結合および金属と酸素との化学結合の少なくとも一方を含む化合物であり、有機基を有する金属化合物である。有機金属化合物としては、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。これらのうち、ポリビニルアルコールとの反応性に優れることから、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物が好ましく、有機ケイ素化合物がより好ましい。有機金属化合物は一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
有機金属化合物としては、例えば、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物が挙げられるが、これに限定されない。
Si(OR4-a (1)
(式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、エポキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基及び、炭素原子数1~10の有機基からなる群より選ばれる基を表し、aは、0~4の整数を表す。)
【0056】
式(1)において、Rとして好ましい例を挙げると、エポキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基、アリール基、-CHOC2n+1(nは1~4の整数を表す。)炭素原子数1~8のアルキル基などが挙げられる。
また、式(1)において、Rとして好ましい例を挙げると、水素原子、ビニル基、アリール基、アクリル基、炭素原子数1~8のアルキル基、-CHOC2n+1(nは1~4の整数を表す。)などが挙げられる。
【0057】
有機ケイ素化合物の例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ系有機ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系有機ケイ素化合物、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート系有機ケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系有機ケイ素化合物、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0058】
有機チタン化合物の例としては、テトライソプロピルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアセチルアセトネート等のチタンキレート、チタンイソステアレート等のチタンアシレートが挙げられる。
【0059】
有機ジルコニウム化合物の例としては、ノルマルプロピルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウムキレート、ステアリン酸ジルコニウム等のジルコニウムアシレートが挙げられる。
【0060】
有機アルミニウム化合物の例としては、アルミニウムセカンダリーブトキシド等のアルミニウムアルコキシド、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等のアルミニウムキレートが挙げられる。
【0061】
樹脂層における有機金属化合物の割合は、樹脂層を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.005重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上、さらにより好ましくは0.03重量部以上であり、一方好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。有機金属化合物の割合を前記範囲内とすることにより、積層体を高倍率(例えば延伸倍率6.0)で湿式延伸した場合における、樹脂層の剥離の発生をより有効に抑制することができる。
【0062】
[任意成分]
樹脂層は、樹脂、可塑剤、有機金属化合物等の他に任意成分を含みうる。任意成分の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤;滑剤などの樹脂改質剤;染料や顔料などの着色剤;及び帯電防止剤が挙げられる。これらの配合剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は適宜選択される。
【0063】
[樹脂層の厚み]
積層体における樹脂層の厚みは3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、60μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。樹脂層の厚みが前記範囲の下限値以上であることにより、偏光板化工程における偏光子の溶断を効果的に防ぐことができ、前記範囲の上限値以下であることにより、積層体を延伸して偏光板を得た際に樹脂層に発生する位相差を小さくすることができる。
【0064】
[樹脂層のRe2]
樹脂層のRe2は、0nm以上20nm以下であることが好ましい。Re2はより好ましくは0nm以上であり、より好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下である。Re2が上限値以下であることにより積層体10を延伸して偏光板とした際に樹脂層に発現する位相差を小さくすることができる。
Re2は、積層体10を、50℃~120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸し延伸積層体とし、それにより積層体における樹脂層を延伸樹脂層、即ち樹脂層の延伸物とした際に、かかる延伸樹脂層が有する、面内方向の位相差である。即ち、Re2は、積層体における樹脂層自体の位相差ではなく、積層体に特定の延伸処理を加えた後に、樹脂層の延伸物に生じる位相差である。
かかる延伸物を得るための延伸温度は、50℃~120℃の範囲内のいずれの温度であってもよい。したがって、延伸物を得る延伸のための、複数の操作条件が考えられる。かかる複数の操作条件のいずれか一つによって、延伸物が0nm以上20nm以下の位相差を発現する場合、積層体は前記要件を満たす。
但し、とりうる前記複数の操作条件の全てによって、延伸物が0nm以上20nm以下の位相差を発現することが好ましい。その場合、本発明の偏光板用積層体による偏光板の製造において、高い延伸条件設定の自由度を得ることができる。
一般的に、当該温度範囲においては延伸温度がより低い場合においてより大きな位相差が発現する。したがって、50℃の延伸による延伸物の位相差及び120℃の延伸による延伸物の位相差の双方が0nm以上20nm以下の範囲内であれば、前記複数の操作条件の全てによって、延伸物が0nm以上20nm以下の位相差を発現すると判断しうる。
【0065】
[2.積層体の製造方法]
本実施形態に係る積層体の製造方法は、偏光子の材料を含む原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムを得る第一の工程と、偏光子材料フィルムの一方の表面に、樹脂を塗布して塗布層を形成する第二の工程と、第二の工程で形成した塗布層を乾燥する第三の工程と、をこの順に含む。
【0066】
また、積層体の製造方法は、第二の工程の前に、偏光子材料フィルムの表面を活性化処理する第四の工程を含んでいてもよい。
【0067】
[積層体の製造装置]
図2は、本実施形態に係る積層体の製造方法において用いる製造装置200の一例を模式的に示した概略図である。製造装置200は、繰り出し装置201、塗布装置202、巻き取り装置203、延伸装置204、活性化処理を行う処理装置205、及び乾燥装置206を備える。A1は搬送方向である。
【0068】
[積層体の製造方法]
図2に示すように、繰り出し装置201から繰り出された原反フィルム1を延伸装置204に搬送し、延伸装置204にて延伸処理を行うことにより偏光子材料フィルム11が得られる(第一の工程)。偏光子材料フィルム11を、処理装置205に搬送し、処理装置205にて、活性化処理(第四の工程)を行った後、塗布装置202において塗布層を形成し(第二の工程)、乾燥装置206において乾燥する工程(第三の工程)を経て、積層体10が得られる。製造された積層体10は、巻き取り装置203により巻き取られ、ロールの形状とし、さらなる工程に供することができる。以下各工程について説明する。
【0069】
[第一の工程]
第一の工程は、偏光子の材料を含む原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムを得る工程である。
【0070】
第一の工程における原反フィルムの延伸処理は、[1.積層体]の[偏光子材料フィルム]の項で説明した条件及び方法(延伸処理の方法、延伸の態様、延伸倍率、延伸温度)で行うことが好ましい。具体的には、第一工程における、原反フィルムの延伸の延伸倍率がX倍であり、Xは1.5≦X≦5.5を満たすことが好ましい。Xのより好ましい範囲は、[1.積層体]の[偏光子材料フィルム]の項で説明した通りである。
【0071】
[第二の工程]
第二の工程は、偏光子材料フィルム11の一方の表面に、樹脂を塗布して、塗布層を形成する工程である。偏光子材料フィルム11に樹脂を塗布する方法(塗布方法)は、特に限定されないが、例えば、溶液コーティング、エマルジョンコーティング、あるいは溶融押出コーティングから選ばれる一以上の方法であることが好ましく、高速塗布が可能で均一な膜厚の樹脂層が得られることから溶液コーティングがより好ましい。
【0072】
溶液コーティングにより塗布層を形成する場合、塗布層の形成に用いる樹脂及び必要に応じ添加される成分を溶剤に溶解して樹脂組成物とし、当該樹脂組成物を偏光子材料フィルム11に塗布する。即ち「樹脂を塗布する」という文言は、樹脂のみを塗布する場合、及び樹脂及びそれ以外の成分を含む樹脂組成物を塗布する場合の両方を包含する。
【0073】
[第三の工程]
第三の工程は、第二の工程で形成した塗布層を乾燥する工程である。第三の工程を行うことにより、偏光子材料フィルム11の一方の面に樹脂層12が形成される。
第三の工程においては、塗布層を、温度50℃~120℃の温度の乾燥機中で、0.5分~10分乾燥することが好ましい。前記塗布層の乾燥温度は、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下である。乾燥温度を下限値以上とすることにより乾燥時間を短縮することができ、乾燥温度を上限値以下とすることにより、偏光子材料フィルムの結晶化を抑えることができる。
【0074】
[第四の工程]
第四の工程は、第二の工程の前に、偏光子材料フィルムの表面を活性化処理する工程である。本発明において当該第四の工程は任意の工程であり、本発明の製造方法は第四の工程を含んでいても含んでいなくてもよい。第四の工程において、偏光子材料フィルムの表面を活性化することにより、偏光子材料フィルム表面にブリードした可塑剤等を除去し、偏光子材料フィルム表面を酸化することで樹脂層の接着性を高め、樹脂層を設ける際に樹脂層が剥離することを抑制することができる。
【0075】
活性化処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、ケン化処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理等が挙げられる。
【0076】
第四の工程を行う時期は、第二の工程の前であれば限定はなく、後述の加熱処理工程を行う場合は、加熱処理工程の前、加熱処理工程の後、加熱処理工程と同時のいずれの時期に行ってもよい。加熱処理工程により偏光子材料フィルムに含まれる可塑剤等が偏光子材料フィルムの表面にブリードする可能性があるため、第四の工程は加熱処理工程の後に行うことが特に好ましい。
【0077】
[加熱処理工程]
加熱処理工程は、第二の工程の前に、偏光子材料フィルムを加熱処理する工程である。本発明において当該加熱処理工程は任意の工程であり、本発明の製造方法は加熱処理工程を含んでいても含んでいなくてもよい。加熱処理工程において偏光子材料フィルムを加熱処理することにより偏光子材料フィルムに存在するシワを除去し、平面性を向上させることができる。偏光子材料フィルムを平滑にすることで第二の工程で形成される樹脂層の膜厚精度を向上させることができる。偏光子材料フィルムの加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。
【0078】
[積層体の用途]
本発明の積層体10は偏光板を製造するための材料である。積層体は延伸処理及び染色処理等の処理を行った後に偏光板とされうる。積層体10を偏光板の材料とする場合、図2に示す巻き取り装置203により巻き取られた積層体をそのまま用いてもよいし、巻き取り装置203に巻き取られた積層体の樹脂層12にセパレーターフィルムを積層し、ロール形状に巻き取って積層体フィルムロールとしてから用いてもよい。以下、本実施形態の積層体10を用いた本実施形態の偏光板について説明する。
【0079】
[3.偏光板]
[概要]
本発明の偏光板は本発明の積層体を一軸延伸することにより得られる。図3は本実施形態に係る積層体を用いて偏光板を製造する製造装置の一例を模式的に示した概略図である。図4は本実施形態に係る積層体を用いて製造した偏光板を模式的に示した断面図である。
【0080】
[偏光板]
本実施形態の偏光板100は本実施形態の積層体を一軸延伸することにより得られる偏光板である。図4に示すように、偏光板100においては、偏光子材料フィルム111の一方の面(図示上側面)の上に樹脂層112が積層されている。
【0081】
[偏光板における各層の特性]
偏光板100における偏光子材料フィルム111の厚みは、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。厚みが上限値以下であることにより、偏光板の厚みを小さくすることができ、厚みが下限値以上であることにより、十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることが出来る。
【0082】
偏光板における樹脂層の面内方向の位相差は、20nm以下であることが好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、0nm以上が好ましい。偏光板における樹脂層の面内方向の位相差が上記範囲内であることにより、偏光板を液晶表示装置に実装した際のブラックカラーシフトを抑えることができる。
【0083】
[4.偏光板の製造方法]
[概要]
本発明の偏光板の製造方法は、本発明の積層体または、本発明の積層体の製造方法により得られた積層体を用いて偏光板を製造する方法である。本発明の偏光板の製造方法は、積層体を二色性色素で染色する第五の工程と、積層体を一軸延伸する第六の工程と、を含む。即ち、本発明の偏光板の製造方法は、前記本発明の積層体を任意の方法により製造する工程、または前記本発明の積層体の製造方法により積層体を製造する工程と、積層体を二色性色素で染色する第五の工程と、積層体を一軸延伸する第六の工程とを含む。
また、本発明の偏光板の製造方法は、第五の工程、第六の工程又はこれらの双方を経た後に、積層体の偏光子材料フィルム側の面及び樹脂層側の面のうち、一方又は両方の面に保護フィルムを貼合する第七の工程を含んでいてもよい。第七の工程は任意の工程であり、本実施形態においては、第七の工程を含まない製造方法により偏光板を製造する例について説明する。
【0084】
[偏光板を製造する装置]
図3に示すように、偏光板を製造する製造装置300は、繰り出し装置301,307、処理装置302~305、乾燥装置306、貼り合わせ装置308、及び巻き取り装置310を備える。
【0085】
[偏光板の製造方法]
本実施形態においては、繰り出し装置301から繰り出された積層体10を、処理装置302~305に搬送して、積層体10を二色性色素で染色する染色処理(第五の工程)及び積層体を一軸延伸する延伸処理(第六の工程)を行う。これらの処理を行った後の積層体を乾燥装置306にて乾燥する処理(乾燥工程)を行うと、偏光板100が得られる。以下、各工程について詳しく説明する。
【0086】
[第五の工程]
第五の工程は、積層体10を二色性色素で染色する工程である。本実施形態では、第五の工程において、積層体の偏光子材料フィルムを染色する。本発明においては、第五の工程を行う積層体に含まれる偏光子材料フィルムは未染色であることが好ましいが、偏光子材料フィルムの染色は、積層体を形成する前の偏光子材料フィルムについて行ってもよい。
【0087】
第五の工程における積層体を染色する二色性色素(二色性物質)としては、ヨウ素、有機染料などが挙げられる。これらの二色性色素を用いた染色方法は、任意である。例えば、二色性色素を含む染色溶液に、偏光子材料フィルムの層を浸漬することにより、染色を行ってもよい。また、二色性色素としてヨウ素を用いる場合、染色効率を高める観点から、染色溶液はヨウ化カリウム等のヨウ化物を含んでいてもよい。二色性色素に特に制限はないが、偏光板を車載用の表示装置において用いる場合、二色性色素としては、有機染料が好ましい。
【0088】
[第六の工程]
第六の工程は、積層体を一軸延伸する工程である。積層体を延伸する方法としては特に限定されないが、湿式延伸が好ましい。第六の工程は第五の工程の前、第五の工程の後、第五の工程と同時のいずれの時期に行ってもよい。また、第六の工程は第五の工程の前、第五の工程の後、第五の工程と同時のいずれかの時期に分割して複数回行っても良い。延伸工程は1回行っても、2回以上行ってもよい。
【0089】
第六の工程における、積層体の延伸倍率はZ倍であり、Zは1.2≦Z≦5.0としうる。Zは、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下である。積層体の延伸倍率を前記範囲の上限値以下とすると、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経てもなお、樹脂層の位相差の発現を低くし、偏光板の破断の発生を防止することができ、延伸倍率を前記範囲の下限値以上とすると十分な偏光性能を持つ偏光板を得ることができる。積層体の延伸を2回以上行う場合、各回の延伸倍率の積で表されるトータルの延伸倍率が前記範囲となるようにすることが好ましい。
【0090】
第一の工程における原反フィルムの延伸倍率Xと、第六の工程における積層体の延伸倍率Zとは、5.1≦X*Y≦9.0を満たすことが好ましい。X*Yは、XとYの積(延伸倍率の積)である。X*Yは好ましくは5.1以上、より好ましくは5.5以上であり、好ましくは9.0以下、より好ましくは7.0以下である。X*Yが前記範囲の上限値以下であることにより、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経てもなお、樹脂層の位相差の発現を低くし、偏光板の破断の発生を防止することができる。X*Yを前記範囲の下限値以上であることにより、十分な偏光性能を持つ偏光板を得ることができる。
【0091】
積層体の延伸温度は、特段の制限は無いが、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、特に好ましくは50℃以上であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは90℃以下、特に好ましくは70℃以下である。延伸温度が、前記範囲の下限値以上であることにより延伸を円滑に行うことができ、また、前記範囲の上限値以下であることにより延伸によって効果的な配向を行うことができる。前記延伸温度の範囲は乾式延伸及び湿式延伸のいずれの方法であっても好ましいが、湿式延伸の場合に特に好ましい。
【0092】
積層体の延伸処理は、フィルム長手方向に延伸を行う縦延伸処理、フィルム幅方向に延伸を行う横延伸処理、フィルム幅方向に平行でもなく垂直でもない斜め方向に延伸を行う斜め延伸処理のいずれを行ってもよい。積層体の延伸処理は、自由端一軸延伸が好ましく、縦方向の自由端一軸延伸がより好ましい。
【0093】
[乾燥工程]
乾燥工程は、第五の工程及び第六の工程を経た積層体を乾燥する工程である。本発明において乾燥工程は任意の工程である。乾燥工程においては、積層体を、温度50℃~100℃の温度の乾燥機中で、0.5分~10分乾燥することが好ましい。前記積層体の乾燥温度は、より好ましくは60℃以上であり、より好ましくは90℃以下である。乾燥温度を下限値以上とすることにより乾燥時間を短縮することができ、乾燥温度を上限値以下とすることにより、偏光子材料フィルムの割れを防止することができる。前記積層体の乾燥時間は、より好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以下である。乾燥時間を、乾燥時間を下限値以上とすることで前記積層体の乾燥を十分なものとし、上限値以下とすることにより、積層体における偏光子材料フィルムの割れを防止することができる。
【0094】
従来のPVA樹脂のみからなる薄膜の偏光子においては、乾燥工程後に割れが発生することがあったが、本実施形態の偏光板は、偏光子材料フィルムと、偏光子材料フィルムに直接積層された樹脂層とを有する積層体を用いて製造するので、乾燥工程を経た後でも偏光子の割れの発生を抑制することができる。
【0095】
[5.本実施形態の作用・効果]
本実施形態においては、所定の位相差Re1を有し、厚みT1が小さい偏光子材料フィルムと、偏光子材料フィルムの上に直接設けられた樹脂層と、を有する積層体を延伸することにより偏光板を製造するので、該積層体を延伸して偏光板を製造するときの延伸倍率を低くすることができる。これにより、積層体を延伸処理した後の樹脂層における位相差の発現を抑えることができる。その結果、本実施形態によれば、樹脂層を剥離せずにそのまま偏光子材料フィルムの一方の面の保護フィルムとして用いることができ、かつ無駄になる材料を減らすことができるので、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができる偏光板用積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに前記偏光板を用いた表示装置の製造方法を提供することができる。
【0096】
また、本実施形態の積層体10において、樹脂層12は、接着剤等を介さず偏光子材料フィルム11の上に直接設けられているので、接着剤等の染み込みによるしわ及びボイドの発生を防止することができる。その結果、本実施形態によれば、しわ及びボイドの発生を防止した積層体及びその製造方法、偏光板及びその製造方法、ならびに表示装置の製造方法を提供することができる。
【0097】
さらに、本実施形態によれば、樹脂層12と偏光子材料フィルム11との間に他の材料が介在しないので、破断抑制効果に優れかつ、生産環境における他物質による環境汚染の防止や、製品へのコンタミネーション(異物混入)を防止することができる。
【0098】
[実施形態2:偏光板及びその製造方法]
以下、実施形態2に係る偏光板120及びその製造方法について図3及び図5を参照しつつ説明する。本実施形態に係る偏光板120は、実施形態1に係る偏光板100を用いて製造したものである。実施形態1と同様の構成及び態様については同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0099】
[偏光板]
図5は本発明の実施形態2に係る偏光板120を模式的に示した断面図である。この偏光板120においては、図5に示すように、偏光子材料フィルム111の一方の面(図示上側面)の上に樹脂層112が積層され、偏光子材料フィルム111の他方の面側(図示下側面)に保護フィルム115が積層されている。
【0100】
[偏光板の製造方法]
本実施形態の偏光板120の製造方法は、第五の工程及び第六の工程を経た後に、積層体の偏光子材料フィルム側の面に、保護フィルムを貼合する第七の工程を含む。以下詳しく説明する。
【0101】
本実施形態の偏光板120の製造方法では、積層体10の偏光子材料フィルム11を染色する染色処理(第五の工程)及び、積層体を一軸延伸する延伸処理(第六の工程)の後、乾燥装置306にて乾燥して得られる偏光板100を用いる。
【0102】
偏光板120は、図3に示すように、染色処理(第五の工程)及び延伸処理(第六の工程)を経て得られた偏光板100を、貼り合わせ装置308に搬送し、積層体の偏光子材料フィルム側の面に、繰り出し装置307から繰り出された保護フィルム115を貼合すること(第七の工程)により得られる。得られた偏光板120は、巻き取り装置310により巻き取られ、ロールの形状とし、さらなる工程に供することができる。
【0103】
第七の工程において用いる保護フィルム115としては、シクロオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びトリアセチルセルロース樹脂から選ばれる一種以上の樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0104】
保護フィルム115の偏光板100への貼合は、特段の制限は無く熱圧着等の方法により行ってもよい(図5参照)。保護フィルム115の偏光板100への貼合は、接着剤または粘着剤などを介して行ってもよい。第五の工程および第六の工程を経た後の偏向板において、偏光子材料フィルムは硬化しているため、接着剤などがしみこむことに起因したしわの発生の問題は生じにくい。
保護フィルムと偏向板との貼合に用いる接着剤および粘着剤としては、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、変性ポリオレフィン系接着剤、ポリビニルアルキルエーテル系接着剤、ゴム系接着剤、塩化ビニル-酢酸ビニル系接着剤、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)系接着剤、エチレン-スチレン共重合体などのエチレン系接着剤、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル系接着剤などが挙げられる。
【0105】
本実施形態の偏光板120も、実施形態1の偏光板と同様に、偏光子材料フィルムと、偏光子材料フィルムの面に直接積層された樹脂層と、を有する積層体を延伸することにより偏光板を製造するので、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0106】
また、本実施形態によれば、偏光子材料フィルム111の樹脂層112の積層されていない側の面に保護フィルム115を備えるので、偏光子材料フィルム111の表面に傷等がつくのを防止する効果も奏する。
【0107】
[本発明の表示装置の製造方法の概要]
本発明の積層体を用いて製造した偏光板は、液晶表示装置、有機EL表示装置、及び無機EL表示装置及びマイクロLED表示装置等の表示装置の材料となりうる。
本発明の表示装置の製造方法は、本発明の偏光板の製造方法により得られた偏光板を用いて表示装置を製造する方法であって、偏光板をパネルに積層する第八の工程を含む。本発明の偏光板の製造方法において、パネルは、液晶パネル、有機ELパネル、マイクロLEDパネルから選ばれるパネルである。
【0108】
[実施形態3:表示装置の製造方法]
以下、実施形態1の積層体10を用いて製造した偏光板100を備える実施形態3に係る表示装置400について図4及び図6を参照しつつ説明する。
【0109】
本実施形態の表示装置の製造方法は、図4に示す偏光板100をパネルに積層する工程(第八の工程)を含む。本実施形態ではパネルとして液晶パネルを用いて液晶表示装置を製造する例について説明する。
【0110】
通常、液晶表示装置は、光源、光源側偏光板、液晶セル及び視認側偏光板を、この順に備える。本発明により得られた偏光板は、光源側偏光板、視認側偏光板又はその双方に用いうる。
【0111】
本実施形態では、第八の工程において、偏光板100を光源側偏光板及び視認側偏光板としてそれぞれ液晶パネルに積層することにより、液晶表示装置を製造する。
【0112】
図6は本発明の実施形態3に係る表示装置の製造方法により製造した表示装置を模式的に示した断面図である。表示装置400は図6に示すように、2枚の基板410,420と、その間に位置する液晶層430と、2枚の基板410,420の外側にそれぞれ配される偏光板100,100と、を有する。2枚の偏光板100は実施形態1の積層体10を用いて製造した偏光板100である。図6に示すように、2枚の偏光板100は、それぞれ、偏光板の偏光子材料フィルム111と液晶層430との間に、偏光板の樹脂層112が配されるように積層されている。
【0113】
本実施形態によれば、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができ、かつ、しわ及びボイドの発生を防止した偏光板を備えた表示装置を提供することができる。
【0114】
[実施形態4:表示装置の製造方法]
以下、実施形態2で製造した偏光板120を備える実施形態4に係る表示装置500について図5及び図7を参照しつつ説明する。
【0115】
本実施形態の表示装置の製造方法は、図5に示す偏光板120をパネルに積層する工程(第八の工程)を含む。本実施形態ではパネルとして有機ELパネルを用いて有機EL表示装置を製造する例について説明する。
【0116】
通常、有機EL表示装置は、光出射側から順に、基板、透明電極、発光層及び金属電極層を備えるが、本発明の製造方法により得られた偏光板は、基板の光出射側に配される。
通常、有機EL表示装置は、2枚の基板とその間に位置する発光層と、2枚の基板のうち一方の基板の外側に配される偏光板とを有する。当該有機EL表示装置は本発明の偏光板を有機ELパネルに設けることにより製造することができる。
【0117】
本実施形態では、第八の工程において、偏光板120を有機ELパネルに積層することにより、有機EL表示装置を製造する。
【0118】
図7は本発明の実施形態4に係る表示装置の製造方法により製造した表示装置を模式的に示した断面図である。表示装置500は図7に示すように、2枚の基板510,520と、その間に位置する発光層530と、下側の基板510の外側(図示下側)に配される偏光板120と、を有する。偏光板120は積層体10を用いて製造した実施形態2の偏光板120である。図7に示すように、偏光板120は、偏光板の偏光子材料フィルム111と発光層530との間に、偏光板の樹脂層112が配されるように積層されている。
【0119】
本実施形態によれば、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができ、かつ、しわ及びボイドの発生を防止した偏光板を備えた表示装置を提供することができる。
【0120】
[他の実施形態]
(1)実施形態2では、積層体の偏光子材料フィルム側の面のみに保護フィルムを貼合した例を示したが、積層体の樹脂層側の面のみに保護フィルムを貼合してもよいし、積層体の偏光子材料フィルム側の面及び樹脂層側の面の双方に保護フィルムを貼合してもよい。
【0121】
(2)実施形態3及び4では、パネルが液晶パネル及び有機ELパネルである例を示したが、偏光板を積層するパネルはマイクロLEDパネルであってもよい。
【0122】
(3)実施形態3では実施形態1で説明した偏光板100を2枚積層する液晶表示装置の製造方法を示したが、これに限定されない。実施形態2で説明した偏光板120を2枚積層してもよいし、2種類の偏光板を積層してもよいし、1枚の偏光板を積層してもよい。
【0123】
(4)実施形態4では実施形態2の偏光板120を積層する有機EL表示装置の製造方法を示したが、偏光板120に代えて、偏光板100を用いてもよい。
【実施例
【0124】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下において、成分の量比に関する「部」及び「%」は、別に断らない限り重量部を表す。
【0125】
[評価方法]
[重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn]
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、THFを溶離液とするGPCによる標準ポリスチレン換算値として、38℃において測定した。測定装置として、東ソー社製、HLC8020GPCを用いた。
【0126】
[水素化率]
ブロック共重合体水素化物の水素化率は、H-NMRスペクトル又はGPC分析により算出した。水素化率99%以下の領域は、H-NMRスペクトルを測定して算出し、99%を超える領域は、GPC分析により、UV検出器及びRI検出器によるピーク面積の比率から算出した。
【0127】
[MFR(190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレート)の測定]
各例で用いる製膜用塗布液を、セパレータフィルム(三菱化学社製、「MRV38」)にダイコーターを用いて塗布、乾燥して厚み10μmの重合体Xを含むフィルムを形成した。セパレータフィルムから前記重合体Xを含むフィルムを剥離して、サンプルフィルムとした。このサンプルフィルムを用いて、以下の方法により、MFRを測定した。
MFRは、JIS K7210に基づき、測定装置として押出型プラストメーター(立山科学工業株式会社製、商品名「メルトインデクサ(L240)」)を用いて、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0128】
[引張弾性率の測定]
「MFRの測定」の項で説明した、「サンプルフィルム」と同じ方法により作製したサンプルフィルムを用いて、引張弾性率を測定した。
引張弾性率は、JIS K7127に基づき、引張試験機(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製、商品名「電気機械式万能材料試験機(5564)」)を用いて、下記の方法によって測定した。
サンプルフィルムをJIS K7127記載の試験片タイプ1Bの形状に打ち抜き、この試験片を長辺方向に引っ張って歪ませる際の応力を測定した。応力の測定条件は、温度23℃、湿度60±5%RH、チャック間距離115mm、引張速度50mm/分とした。応力の測定は、5回行なった。測定された応力と、その応力に対応した歪みの測定データから、試験片の歪が0.6%~1.2%の範囲で0.2%毎に4点の測定データ(即ち、歪みが0.6%、0.8%、1.0%及び1.2%の時の測定データ)を選択し、5回の測定の4点の測定データ(合計20点)から、最小二乗法を用いて、引張弾性率を算出した。
【0129】
[位相差の測定方法]
偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1、位相差Re2、及び偏光板における樹脂層の面内方向の位相差は、位相差計(株式会社オプトサイエンス社製、ミュラー行列ポラリメータ、商品名「Axo Scan」)を用いて測定した。測定に際し、測定波長は550nmとした。
位相差Re2の測定は、延伸樹脂層、即ち積層体を所定温度(50℃および120℃)で、6.0倍に自由端一軸延伸して得られる樹脂層に発生する面内方向の位相差を測定した。本願では、積層体を50℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差、及び積層体を120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差の双方が0nm以上20nm以下の範囲内であれば、積層体を50℃~120℃の温度条件で、6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する、樹脂層の面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下であると判断した。
【0130】
[厚みの測定方法]
積層体に含まれる各フィルム(偏光子材料フィルム及び樹脂層)の厚み、偏光板に含まれる各フィルムの厚みは、厚み計(株式会社ミツトヨ社製、商品名「ABSデジマチックシックネスゲージ(547-401)」)を使用して5回測定し、その平均値を各フィルムの厚みとした。
【0131】
[偏光板の面状の評価]
各例の偏光板の表面を、目視により観察し、10cm角あたりのしわ及びボイドの数を測定した。測定は、偏光板の5箇所について行い、その平均値を算出し、下記評価基準により評価を行った。
A:しわ及びボイドが認められない。
B:しわの数が1本以上3本以下、またはボイドの数が1個以上10個未満である。
C:しわ及の数が4本以上、またはボイドの数が10個以上である。
【0132】
[密着性の評価]
各例の偏光板の製造における第二延伸処理までの工程で、偏光子材料フィルムと樹脂層との間に剥離が発生しなかったものをA、一部に剥離が見られたものをB、完全に剥離したものをCとした。
【0133】
[乾燥工程性の評価]
各例の偏光板の製造における70℃、5分の乾燥工程で、偏光子にクラックが発生しなかったものをA、クラックが発生したものをCとした。
【0134】
[ブラックカラーシフト]
液晶表示装置(LGエレクトロニクス・ジャパン社製、商品名「IPSパネルモニター(23MP47)」)から液晶表示パネルを取り外し、視認側に配置されている偏光板を剥離して、実施例及び比較例で作製した偏光板を、樹脂層がパネル側になるように貼合した。また、保護フィルムの無い偏光子単体を実施例及び比較例で作製した偏光板の隣に貼合し、液晶表示装置を組み直した。実施例及び比較例で作成した偏光板、保護フィルムの無い偏光子単体の吸収軸は、剥離前の偏光板の吸収軸と同方向になるように貼合した。
視認側に配置されている偏光板の吸収軸の方向を方位角0°、パネルの垂直方向を極角0°とした際、パネルを黒表示状態(即ちパネルの表示画面全面に黒い色を表示した状態)にして、方位角45°、極角45°の方位から目視して保護フィルムの無い偏光子の場合と色味変化が同じものをA、わずかに色味変化があるものをB、変化が大きいものをCと判断した。
【0135】
[実施例1]
(1-1)偏光子材料フィルムの製造
原反フィルムとして、未延伸ポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、厚み20μm、以下において「PVA20」ともいう)を用いた。
原反フィルムを、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率1.5倍(X=1.5)で乾式延伸し、偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みT1は16μm、Re1は320nmであった。
【0136】
(1-2)重合体Xの作製
特開2002-105151号公報に記載の製造例を参照して、第1段階でスチレンモノマー25部を重合させた後、第2段階でスチレンモノマー30部及びイソプレンモノマー25部を重合させ、その後に第3段階でスチレンモノマー20部を重合させてブロック共重合体[D1]を得た後、該ブロック共重合体を水素化してブロック共重合体水素化物[E1]を合成した。ブロック共重合体水素化物[E1]のMwは84,500、Mw/Mnは1.20、主鎖及び芳香環の水素化率はほぼ100%であった。
ブロック共重合体水素化物[E1]100部に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](松原産業社製、製品名「Songnox1010」)0.1部を溶融混練して配合した後、ペレット状にして、成形用の重合体Xを得た。
【0137】
(1-3)積層体の製造
(1-2)で製造した重合体Xをシクロヘキサンに溶解させた後、重合体X100重量部に対して40重量部のポリイソブテン(JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン HV-300」、数平均分子量1,400)、及び0.1重量部の有機ケイ素化合物(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、KBM903、信越化学社製)を添加し、製膜用塗布液A(樹脂組成物A)を作製した。
得られた製膜用塗布液Aを、(1-1)で製造した偏光子材料フィルムの一方の面にダイコーターを用いて塗布、乾燥した。これにより、偏光子材料フィルムと、重合体Xを含む樹脂層(幅600mm、厚み10μm)と、からなる長尺の積層体を得た。
得られた積層体における、樹脂層の厚み、偏光子材料フィルムの厚みT1及び面内方向の位相差Re1、並びに位相差Re2(温度条件50℃、120℃)を測定した。また、樹脂層を構成する樹脂のMFRおよび引張弾性率を、評価方法で説明した方法により測定した。結果を表1に示す。
【0138】
(1-4)偏光板の製造
(1-3)で製造した積層体を、ガイドロールを介して長手方向に連続搬送しながら、下記の操作を行った。
前記の積層体を、水に浸漬する膨潤処理、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色溶液に浸漬する染色処理、並びに、染色処理後の積層体を延伸する第一延伸処理を行った。次いで、第一延伸処理後の積層体を、ホウ酸及びヨウ化カリウムを含む浴槽中で延伸する第二延伸処理を行った。第一延伸処理での延伸倍率と第二延伸処理での延伸倍率との積で表されるトータルの延伸倍率が4.0倍(Z=4.0)となるように設定した。延伸温度は57℃とした。第二延伸処理後の積層体を乾燥機中で、70℃で5分間乾燥し(乾燥工程)、偏光板を得た。
第二延伸処理までの工程において密着性の評価を行い、乾燥工程において乾燥工程性の評価を行い、得られた偏光板について、面状の評価及びブラックカラーシフトの評価を行った。評価結果を表1に示す。
また、得られた偏光板における樹脂層の厚み及び位相差、偏光子材料フィルムの厚みを測定し、測定結果を表1に示した。
【0139】
[実施例2]
原反フィルムの延伸倍率を5.5倍(X=5.5)としたこと、及び積層体の延伸倍率を1.2倍(Z=1.2)としたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0140】
[実施例3]
原反フィルムの延伸倍率を2.0倍(X=2.0)としたこと、実施例1の(1-3)において、製膜用塗布液Aを塗布、乾燥する操作を行う際に、塗布量等を調整して、厚みが5μmとなるように樹脂層を設けたこと(幅は実施例1と同じ)、及び積層体の延伸倍率を3.0倍(Z=3.0)としたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0141】
[実施例4]
原反フィルムの延伸倍率を3.0倍(X=3.0)としたこと、及び積層体の延伸倍率を2.0倍(Z=2.0)としたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0142】
[実施例5]
原反フィルムの延伸倍率を3.0倍(X=3.0)としたこと、製膜用塗布液Aに代えて製膜用塗布液Bを用いたこと、及び積層体の延伸倍率を2.0倍(Z=2.0)としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0143】
製膜用塗布液Bは以下の方法により作製した。
実施例1の(1-2)で製造した重合体Xをシクロヘキサンに溶解させた後、重合体X100重量部に対して0.1重量部の有機ケイ素化合物(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、KBM903、信越化学社製)を添加し、製膜用塗布液B(樹脂組成物B)を作製した。
【0144】
[実施例6]
原反フィルムの延伸倍率を3.0倍(X=3.0)としたこと、製膜用塗布液Aに代えて製膜用塗布液Cを用いたこと、及び積層体の延伸倍率を2.0倍(Z=2.0)としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0145】
製膜用塗布液Cは以下の方法により作製した。
実施例1の(1-2)で製造した重合体Xをシクロヘキサンに溶解させた後、重合体X100重量部に対して40重量部のポリイソブテン(JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン HV-300」、数平均分子量1,400)、及び0.1重量部の有機チタン化合物(テトライソプロピルチタネート、オルガチックスTA-8、マツモトファインケミカル社製)を添加し、製膜用塗布液C(樹脂組成物C)を作製した。
【0146】
[実施例7]
原反フィルムの延伸倍率を2.0倍(X=2.0)としたこと、製膜用塗布液Aに代えて製膜用塗布液Dを用いたこと、及び積層体の延伸倍率を3.0倍(Z=3.0)としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0147】
製膜用塗布液Dは以下の方法により作製した。
実施例1の(1-2)で製造した重合体Xをシクロヘキサンに溶解させた後、重合体X100重量部に対して40重量部のポリイソブテン(JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン HV-300」、数平均分子量1,400)、及び0.1重量部の有機ジルコニウム化合物(ノルマルプロピルジルコネート、オルガチックスZA-45、マツモトファインケミカル社製)を添加し、製膜用塗布液D(樹脂組成物D)を作製した。
【0148】
[実施例8]
原反フィルムとして、PVA20に代えて、厚みが45μmの未延伸ポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、以下において「PVA45」ともいう)を用いたこと、原反フィルムの延伸倍率を2.0倍(X=2.0)としたこと、及び積層体の延伸倍率を3.0倍(Z=3.0)としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0149】
[実施例9]
原反フィルムとして、PVA20に代えてPVA45を用いたこと、原反フィルムの延伸倍率を3.0倍(X=3.0)としたこと、及び積層体の延伸倍率を2.0倍(Z=2.0)としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0150】
[実施例10]
原反フィルムとして、PVA20に代えて、厚みが60μmの未延伸ポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、以下において「PVA60」ともいう)を用いたこと、原反フィルムの延伸倍率を2.0倍(X=2.0)としたこと、及び積層体の延伸倍率を3.0倍(Z=3.0)としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0151】
[実施例11]
原反フィルムの延伸倍率を3.0倍(X=3.0)としたこと、製膜用塗布液Aに代えて製膜用塗布液Eを用いたこと及び積層体の延伸倍率Zを2.0としたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体及び偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0152】
製膜用塗布液Eは以下の方法により作製した。
実施例1の(1-2)で製造した重合体Xをシクロヘキサンに溶解させた後、重合体X100重量部に対して40重量部のポリイソブテン(JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン HV-300」、数平均分子量1,400)を添加し、製膜用塗布液E(樹脂組成物E)を作製した。
【0153】
[比較例1]
実施例1の(1-4)において、(1-3)で製造した積層体に代えて、PVA20(未延伸のポリビニルアルコール樹脂フィルム)を用いたこと以外は、実施例1の(1-4)と同じ操作を行ったところ、第一延伸処理及び第二延伸処理において溶断が多発し、乾燥工程において破断が多発し、面状、密着性およびブラックカラーシフトの評価ができなかった。
【0154】
[比較例2]
(C2-1)偏光子材料フィルムの製造
原反フィルムとしてPVA20を用い、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率2.0倍(X=2.0)で乾式延伸し、偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みT1は14μm、Re1は350nmであった。
【0155】
(C2-2)積層体の製造
実施例1の(1-3)で作製した製膜用塗布液Aを、セパレーターフィルム(三菱化学社製、「MRV38」)にダイコーターを用いて塗布、乾燥することにより、幅650mm、長さ500m、厚み10μmの重合体Xを含む長尺のフィルム(樹脂フィルム)を得た。
水100重量部、ポリビニルアルコール系接着剤(日本合成化学社製「Z-200」)3重量部、及び架橋剤(日本合成化学社製「SPM-01」)0.3重量部を混合して、接着剤を得た。この接着剤を、上記樹脂フィルムの一方の面に塗布し、(C2-1)で製造した偏光子材料フィルムを貼り合わせた。この状態で、接着剤を70℃において5分間加熱乾燥して、積層体を得た。得られた積層体について、実施例1の(1-4)と同じ操作を行い、偏光板を得た。得られた積層体および偏光板について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0156】
表中、「Re2(50℃)」とは、積層体を50℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差を意味し、「Re2(120℃)」とは、積層体を120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差を意味する。
表中、「Re1」とは、積層体における偏光子材料フィルムの面内方向の位相差を意味する。
表中、「直接塗布」とは、樹脂層を、偏光子材料フィルムに直接、製膜用塗布液(樹脂組成物)を塗布することにより形成したものを示し、「貼合」とは樹脂フィルムを、接着剤を介して偏光子材料フィルムに貼り合わせたことを示す。
表中、「偏光子」とは、偏光板における偏光子材料フィルムを示す。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
表1~表3の結果から、本発明によれば、積層体を延伸する工程を経た後の樹脂層に発現する位相差を小さくすることができ、密着性、乾燥工程性及び光学物性に優れた偏光板を得ることができることが分かる。また本発明によれば、しわ及びボイドの発生を防止しうることが分かる。これにより、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができ、しわ及びボイドの発生を防止した積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに表示装置の製造方法を提供しうることが分かる。
【符号の説明】
【0161】
1…原反フィルム
10…積層体
11…偏光子材料フィルム
12…樹脂層
100,120…偏光板
111…偏光子材料フィルム
112…樹脂層
115…保護フィルム
200…製造装置
201…繰り出し装置
202…塗布装置
203…巻き取り装置
204…延伸装置
205…活性化処理装置
206…乾燥装置
300…製造装置
301,307…繰り出し装置
302~305…処理装置
306…乾燥装置
308…貼り合わせ装置
310…巻き取り装置
400…表示装置(液晶表示装置)
410,420…基板
430…液晶層
500…表示装置(有機EL表示装置)
510,520…基板
530…発光層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7