(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】反応性ホットメルト接着剤組成物、並びに接着体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20240509BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240509BHJP
C09J 5/06 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J11/06
C09J5/06
(21)【出願番号】P 2020572185
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2020003974
(87)【国際公開番号】W WO2020166414
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019024572
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】倉持 知佳
(72)【発明者】
【氏名】小宮 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】亀井 淳一
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002518(WO,A1)
【文献】特開2015-229738(JP,A)
【文献】国際公開第2011/033992(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022666(WO,A1)
【文献】特開2018-016702(JP,A)
【文献】特開2014-201635(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094831(WO,A1)
【文献】特開2016-121332(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031733(WO,A1)
【文献】特開2019-006895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-5/10、9/00-201/10
C08G 18/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、前記重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する、ウレタンプレポリマーと、
官能基保護型シランカップリング剤と、
を含有
し、
120℃における粘度が、5Pa・s以下である、反応性ホットメルト接着剤組成物。
【請求項2】
前記官能基保護型シランカップリング剤の含有量が、前記ウレタンプレポリマーの総量100質量部に対して0.4~5質量部である、請求項1に記載の反応性ホットメルト接着剤組成物。
【請求項3】
第1の被着体と、
第2の被着体と、
前記第1の被着体及び前記第2の被着体を互いに接着する、請求項1又は2に記載の反応性ホットメルト接着剤組成物の硬化物と、
を備える、接着体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の反応性ホットメルト接着剤組成物を溶融させ、第1の被着体に塗布して接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層上に第2の被着体を配置し、前記第2の被着体を圧着することによって接着体前駆体を得る工程と、
得られた前記接着体前駆体における前記接着剤層を硬化させる工程と、
を備える、接着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性ホットメルト接着剤組成物、並びに接着体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、無溶剤型の接着剤であるため、環境及び人体への負荷が少なく、短時間接着が可能であるため、生産性向上に適した接着剤である。ホットメルト接着剤は、熱可塑性樹脂を主成分としたもの及び反応性樹脂を主成分としたものの2つに大別できる。反応性樹脂としては、主にイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーが利用されている。
【0003】
ウレタンプレポリマーを主成分とする反応性ホットメルト接着剤は、塗布後、接着剤自体の冷却固化により、短時間である程度の接着強度を発現する。その後、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基が湿気(空気中又は被着体表面の水分)と反応することにより高分子量化し、架橋を生じることにより耐熱性を発現する。このような接着剤を「湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤」という。ウレタンプレポリマーを主成分とする反応性ホットメルト接着剤は、加熱時でも良好な接着強さを示す。また、初期及び硬化後の接着強度を向上させるために、ウレタンプレポリマーと熱可塑性樹脂と粘着付与剤とを含む反応性ホットメルト接着剤組成物も知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平06-122860号公報
【文献】特開昭64-054089号公報
【文献】特開昭52-037936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ウェアラブル端末等の多様化に伴い、様々な基材に反応性ホットメルト接着剤組成物が用いられつつある。しかしながら、従来の反応性ホットメルト接着剤組成物は、適用する基材の種類によっては接着強度が充分に得られないことがあり、特に、ポリアミド基材との接着強度についてはさらなる改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、ポリアミド基材に適用した場合であっても充分な接着強度を発現する反応性ホットメルト接着剤組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する、ウレタンプレポリマーと、官能基保護型シランカップリング剤とを含有する、反応性ホットメルト接着剤組成物を提供する。このような反応性ホットメルト接着剤組成物は、ポリアミド基材に適用した場合であっても充分な接着強度を発現し得る。
【0008】
官能基保護型シランカップリング剤の含有量は、ウレタンプレポリマーの総量100質量部に対して0.4~5質量部であってよい。
【0009】
本発明の他の一側面は、第1の被着体と、第2の被着体と、第1の被着体及び第2の被着体を互いに接着する、上述の反応性ホットメルト接着剤組成物の硬化物とを備える、接着体を提供する。
【0010】
本発明の他の一側面は、上述の反応性ホットメルト接着剤組成物を溶融させ、第1の被着体に塗布して接着剤層を形成する工程と、接着剤層上に第2の被着体を配置し、第2の被着体を圧着することによって接着体前駆体を得る工程と、得られた接着体前駆体における接着剤層を硬化させる工程とを備える、接着体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリアミド基材に適用した場合であっても充分な接着強度を発現する反応性ホットメルト接着剤組成物が提供される。また、本発明によれば、このような反応性ホットメルト接着剤組成物を用いた接着体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本明細書において、「ポリオール」は、分子内に水酸基を2個以上有する化合物を意味する。
【0014】
本明細書において、「ポリイソシアネート」は、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物を意味する。
【0015】
[反応性ホットメルト接着剤組成物]
一実施形態の反応性ホットメルト接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」という場合もある。)は、ウレタンプレポリマーと、官能基保護型シランカップリング剤とを含有する。なお、一般的に、反応性ホットメルト接着剤組成物とは、湿気硬化型であり、空気中の水分又は被着体表面の水分と反応することによって、主にウレタンプレポリマーが高分子量化し、接着強度等を発現し得るものである。
【0016】
ウレタンプレポリマーは、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する。すなわち、本実施形態のウレタンプレポリマーは、ポリオールと、ポリイソシアネートとの反応物であって、反応物の末端基としてイソシアネート基を有している。本実施形態の接着剤組成物は、このようなウレタンプレポリマーを含有することによって、湿気硬化後に優れた接着強度を発現することができる。
【0017】
ポリオールは、水酸基を2個以上有する化合物であれば、特に制限なく用いることができる。ポリオールは、接着強度をより向上させる観点から、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールを含んでいてもよい。この場合、ウレタンプレポリマーは、ポリエステルポリオールに由来する構造単位と、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位と、ポリイソシアネートに由来する構造単位とを含む重合鎖を含み得る。
【0018】
重合鎖がポリエステルポリオールに由来する構造単位を含むことによって、接着剤組成物の固化時間及び粘度を調整することができる。ポリエステルポリオールは、多価アルコールとポリカルボン酸との重縮合反応によって生成する化合物を用いることができる。ポリエステルポリオールは、例えば、2~15個の炭素原子及び2又は3個の水酸基を有する多価アルコールと、2~14個の炭素原子(カルボキシル基中の炭素原子を含む)を有し、2~6個のカルボキシル基を有するポリカルボン酸との重縮合物であってもよい。
【0019】
ポリエステルポリオールとしては、ジオールとジカルボン酸とから生成する直鎖ポリエステルジオールであってもよく、トリオールとジカルボン酸とから生成する分岐ポリエステルトリオールであってもよい。また、分岐ポリエステルトリオールは、ジオールとトリカルボン酸との反応によって得ることもできる。
【0020】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオールの各異性体、ペンタンジオールの各異性体、ヘキサンジオールの各異性体、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチルプロパンジオール、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族又は脂環族ジオール;4,4’-ジヒドロキシジフェニルプロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等の芳香族ジオールなどが挙げられる。多価アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、好ましくは脂肪族ジオール、より好ましくは2~6個の炭素原子を有する脂肪族ジオールである。
【0021】
ポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジエン-1,2-ジカルボン酸等の脂肪族又は脂環族ポリカルボン酸などが挙げられる。ポリカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上述したポリカルボン酸に代えて、カルボン酸無水物、カルボキシル基の一部がエステル化された化合物等のポリカルボン酸誘導体を用いることもできる。ポリカルボン酸誘導体としては、例えば、ドデシルマレイン酸及びオクタデセニルマレイン酸が挙げられる。
【0023】
ポリエステルポリオールは、結晶性ポリエステルポリオールであってもよく、非晶性ポリエステルポリオールであってもよい。ここで、結晶性及び非晶性の判断は25℃での状態で判断することができる。本明細書において、結晶性ポリエステルポリオールは、25℃で結晶であるポリエステルポリオールを意味し、非晶性ポリエステルポリオールは、25℃で非結晶であるポリエステルポリオールを意味する。ポリオールは、ポリエステルポリオールとして、結晶性ポリエステルポリオール及び非晶性ポリエステルポリオールの両方を含んでいてもよい。
【0024】
結晶性ポリエステルポリオールの数平均分子量(Mn)は、防水性及び接着強度を向上させる観点から、好ましくは500~10000の範囲、より好ましくは800~9000の範囲、さらに好ましくは1000~8000の範囲である。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定され、標準ポリスチレン換算した値である。GPCの測定は、以下の条件で行うことができる。
カラム:「Gelpack GLA130-S」、「Gelpack GLA150-S」及び「Gelpack GLA160-S」(日立化成株式会社製、HPLC用充填カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0025】
非晶性ポリエステルポリオールとしては、例えば、数平均分子量3000以下の非晶性ポリエステルポリオール及び数平均分子量5000以上の非晶性ポリエステルポリオールが挙げられる。数平均分子量3000以下の非晶性ポリエステルポリオールのMnは、接着剤組成物の接着強度を向上させる観点から、好ましくは500~3000の範囲、より好ましくは1000~3000の範囲である。数平均分子量5000以上の非晶性ポリエステルポリオールのMnは、耐衝撃性を向上させる観点から、好ましくは5000~9000の範囲、より好ましくは7000~8000の範囲である。
【0026】
ポリエステルポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリエステルポリオールの含有量は、接着強度をさらに向上させる観点から、ポリオールの総量100質量部に対して、好ましくは70~90質量部、より好ましくは75~85質量部である。
【0027】
重合鎖がポリエーテルポリオールに由来する構造単位を含むことによって、接着剤組成物の塗布後の適度な溶融粘度及びオープンタイムを調節可能となり、優れた作業性、接着性、防水性、及び柔軟性を付与することができる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキサイド変性ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0028】
ポリエーテルポリオールのMnは、初期接着強度、硬化後の接着強度、及び塗布後の適度なオープンタイムの観点から、好ましくは500~5000の範囲、より好ましくは700~4500の範囲、さらに好ましくは1000~4000の範囲である。ポリエーテルポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ポリエーテルポリオールの含有量は、接着剤組成物を低粘度に調整し易く、被着体への接着強度を向上させることから、ポリオールの総量100質量部に対して、好ましくは10~30質量部、より好ましくは15~25質量部である。
【0030】
ポリオールは、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオール以外のポリオールを含んでいてもよい。
【0031】
ポリイソシアネートは、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば、特に制限なく用いることができる。ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートなどが挙げられる。ポリイソシアネートは、反応性及び接着性の観点から、好ましくは芳香族ジイソシアネートを含み、より好ましくはジフェニルメタンジイソシアネートを含む。ポリイソシアネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ウレタンプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることで合成することができる。
【0033】
本実施形態のウレタンプレポリマーは、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する。このようなウレタンプレポリマーを合成する場合、ポリオールの水酸基(OH)に対するポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)当量の比(ポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)当量/ポリオールの水酸基(OH)当量、NCO/OH)は、1よりも大きく、好ましくは1.5~3.0、より好ましくは1.8~2.5である。NCO/OHの比が1.5以上であると、得られるウレタンプレポリマーの粘度が高くなり過ぎることを抑え、作業性が向上し易くなる傾向にある。NCO/OHの比が3.0以下であると、接着剤組成物の湿気硬化反応の際に発泡が生じ難くなり、接着強度の低下を抑制し易くなる傾向にある。
【0034】
官能基保護型シランカップリング剤は、メルカプト基、ヒドロキシ基等の官能基を有するシランカップリング剤において、官能基が保護基によって保護されているシランカップリング剤である。保護基は、湿気と反応して脱離するものであることが好ましい。接着剤組成物が官能基保護型シランカップリング剤を含有することによって、接着剤組成物の加熱時の粘度上昇を抑制することが可能となり、さらには、ポリアミド基材に適用した場合であっても充分な接着強度を発現することが可能となる。このような作用を生じる理由については必ずしも明らかではないが、加熱時の粘度上昇はシランカップリング剤の官能基の存在が1つの要因であり、官能基保護型シランカップリング剤では、加熱時において官能基が保護基によって保護されていること、また、接着剤組成物中のウレタンプレポリマーが湿気と反応して硬化する段階において、官能基保護型シランカップリング剤も湿気と反応して保護基が脱離し、ポリアミド基材等の基材又はウレタンプレポリマーと作用し得る官能基が発生することが理由として考えられる。
【0035】
官能基保護型シランカップリング剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【0037】
一般式(1)中、R1はアルコキシ基を示し、複数存在するR1は同一であっても異なっていてもよい。Eは窒素原子を含む基又は硫黄原子を示し、Xは保護基を示す。nは1~10の整数を示す。
【0038】
R1で示されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。複数存在するR1は好ましくは同一である。
【0039】
Eは、接着剤組成物の加熱時の安定性により優れることから、好ましくは硫黄原子である。
【0040】
Xで示される保護基は、湿気と反応して脱離するものであれば特に制限されないが、例えば、トリアルコキシシリル基、アリール基を含む基等が挙げられる。トリアルコキシシリル基は、トリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基であってよい。アリール基を含む基は、フェニル基又はベンジル基であってよい。
【0041】
nは、好ましくは1~7、より好ましくは1~5、さらに好ましくは2~4である。
【0042】
官能基保護型シランカップリング剤の市販品としては、例えば、信越化学株式会社製、「X12-1056ES」(商品名)が挙げられる。
【0043】
官能基保護型シランカップリング剤の含有量は、ウレタンプレポリマーの総量100質量部に対して0.4~5質量部であってよい。官能基保護型シランカップリング剤の含有量は、ウレタンプレポリマーの総量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上であり、好ましくは4質量部以下、より好ましくは3.5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。官能基保護型シランカップリング剤の含有量がウレタンプレポリマーの総量100質量部に対して0.4質量部以上であると、接着剤組成物の接着強度により優れる傾向にある。官能基保護型シランカップリング剤の含有量がウレタンプレポリマーの総量100質量部に対して5質量部以下であると、接着剤組成物の硬化物の弾性率が高くなり過ぎて耐衝撃性が低下することを抑えることができる傾向にある。
【0044】
官能基保護型シランカップリング剤の含有量は、ウレタンプレポリマーを構成するポリオールの総量100質量部に対して0.3~7質量部であってよい。官能基保護型シランカップリング剤の含有量は、ウレタンプレポリマーを構成するポリオールの総量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上、特に好ましくは1.5質量部以上であり、好ましくは6.5質量部以下、より好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、特に好ましくは4質量部以下である。官能基保護型シランカップリング剤の含有量がウレタンプレポリマーを構成するポリオールの総量100質量部に対して0.3質量部以上であると、接着剤組成物の接着強度により優れる傾向にある。官能基保護型シランカップリング剤の含有量がウレタンプレポリマーを構成するポリオールの総量100質量部に対して7質量部以下であると、接着剤組成物の硬化物の弾性率が高くなり過ぎて耐衝撃性が低下することを抑えることができる傾向にある。
【0045】
本実施形態の接着剤組成物は、官能基保護型シランカップリング剤以外のその他のシランカップリング剤を含有していてもよい。
【0046】
その他のシランカップリング剤は、特に制限されず、接着剤の分野で使用されるシランカップリング剤を使用することができる。これらの中でも、その他のシランカップリング剤としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0047】
【0048】
一般式(2)中のR1、E、及びnは、一般式(1)中のR1、E、及びnと同義である。
【0049】
その他のシランカップリング剤の含有量は、ウレタンプレポリマーの総量100質量部に対して0~1質量部であってよい。
【0050】
本実施形態の接着剤組成物は、プレタンプレポリマーの硬化を促進し、より高い接着強度を発現させる観点から、触媒をさらに含有していてもよい。触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチルチオンオクテート、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。
【0051】
本実施形態の接着剤組成物は、形成される接着剤層のゴム弾性を高め、耐衝撃性をより向上させる観点から、熱可塑性ポリマーをさらに含有していてもよい。熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリウレタン、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、塩化ビニル系共重合体、アクリル共重合体、スチレン-共役ジエンブロック共重合体等が挙げられる。
【0052】
本実施形態の接着剤組成物は、形成される接着剤層により強固な接着性を付与する観点から、粘着付与樹脂をさらに含有していてもよい。粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、スチレン樹脂、変性スチレン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0053】
本実施形態の接着剤組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、顔料、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤等を適量含有していてもよい。
【0054】
本実施形態の接着剤組成物は、ウレタンプレポリマーの末端基であるイソシアネート基が空気中の水分又は被着体表面の水分と反応することから、例えば、温度23℃、湿度50%で24時間養生することによって硬化させることができ、接着剤組成物の硬化物を得ることができる。
【0055】
本実施形態の接着剤組成物は、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する、ウレタンプレポリマーを得る工程と、得られたウレタンプレポリマーと官能基保護型シランカップリング剤とを混合する工程とを備える方法によって製造することができる。本実施形態の接着剤組成物は、官能基保護型シランカップリング剤存在下、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する、ウレタンプレポリマーを得る工程を備える方法によっても製造することができる。
【0056】
ポリオールとポリイソシアネートとを反応させる温度及び時間は、例えば、85~120℃、1分間~48時間であってよい。
【0057】
ウレタンプレポリマーと官能基保護型シランカップリング剤とを混合する温度及び時間は、例えば、85~120℃、1分間~48時間であってよい。なお、当該混合において、減圧脱泡を行ってもよい。
【0058】
接着剤組成物の回転粘度計を用いて測定される120℃における粘度は、塗布性を向上させる観点から、好ましくは5Pa・s以下、より好ましくは4Pa・s以下、さらに好ましくは3.5Pa・s以下である。粘度の下限値は限定されないが、例えば、1Pa・s以上であってよい。
【0059】
本実施形態の接着剤組成物は、当該接着剤組成物の硬化物を介して、各種被着体を接着させることができる。被着体としては、例えば、SUS、アルミニウム等の金属基材、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ガラス等の非金属基材などが挙げられる。本実施形態の接着剤組成物は、特に被着体がポリアミド基材であっても充分な接着強度を発現し得ることから、被着体の少なくとも一方は、ポリアミド基材であってよい。
【0060】
[接着体及びその製造方法]
一実施形態の接着体は、第1の被着体と、第2の被着体と、第1の被着体及び第2の被着体を互いに接着する、上述の反応性ホットメルト接着剤組成物の硬化物とを備える。本実施形態の接着体としては、例えば、半導体装置、無縫製衣類、電子機器等が挙げられる。
【0061】
第1の被着体及び第2の被着体は、上述の被着体で例示したものと同じものを例示することができる。本実施形態の接着剤組成物は、ポリアミド基材に適用した場合であっても充分な接着強度を発現し得る。そのため、第1の被着体又は第2の被着体のいずれか一方又は両方は、ポリアミド基材であってよい。
【0062】
本実施形態の接着体は、上述の反応性ホットメルト接着剤組成物を溶融させ、第1の被着体に塗布して接着剤層を形成する工程と、接着剤層上に第2の被着体を配置し、第2の被着体を圧着することによって接着体前駆体を得る工程と、得られた接着体前駆体における接着剤層を硬化させる工程とを備える方法によって製造することができる。
【0063】
接着剤組成物を溶融させる温度は、例えば、80~180℃であってよい。接着剤組成物を第1の被着体に塗布する方法は、特に制限されず、公知方法を適宜適用することができる。
【0064】
第2の被着体を圧着する方法としては、例えば、加圧ロール等を用いて圧着する方法が挙げられる。
【0065】
接着体前駆体における接着剤層を硬化させる条件は、上述の接着剤組成物を硬化させる条件と同様であってよい。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1~4、比較例1、2)
<接着剤組成物の調製>
あらかじめ脱水処理したポリオール(A)を表1に示す配合量で反応容器に加え、均一に混合した。次いで、ポリイソシアネート(B)を表1に示す配合量で反応容器にさらに加えて均一に混合し、110℃で1時間反応させた。得られた混合物に官能基保護型シランカップリング剤(C)を表1に示す配合量で加えて均一に混合した後、さらに110℃で1時間減圧脱泡撹拌することによって、実施例1~4及び比較例1、2の接着剤組成物を得た。なお、表1における配合量の単位は、質量部である。
【0068】
(ポリオール(A))
A1:アジピン酸及びエチレングリコールを主成分とする結晶性ポリエステルポリオール(水酸基数:2、数平均分子量:5000)
A2:アジピン酸及びエチレングリコールを主成分とする結晶性ポリエステルポリオール(水酸基数:2、数平均分子量2000)
A3:セバシン酸及び1,6-ヘキサンジオールを主成分とする結晶性ポリエステルポリオール(水酸基数:2、数平均分子量5000)
A4:イソフタル酸及びネオペンチルグリコールを主成分とする非晶性ポリエステルポリオール(水酸基数:2、数平均分子量:2000)
A5:ポリプロピレングリコール(ポリエーテルポリオール、水酸基数:2、数平均分子量:2000)
【0069】
(ポリイソシアネート(B))
B1:ジフェニルメタンジイソシアネート(イソシアネート基数:2)
【0070】
(官能基保護型シランカップリング剤(C))
C1:トリエトキシシリルチオプロピルトリメトキシシラン(R1がメトキシ基、Eが硫黄原子、Xがトリエトキシシリル基、nが3である一般式(1)で表される化合物、商品名:「X12-1056ES」、信越化学株式会社製)
【0071】
((C)以外のその他のシランカップリング剤(C’))
C’1:γ-メルカプト-プロピルトリメトキシシラン(商品名:「SILQUEST A-189 SILANE」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
【0072】
実施例1~4及び比較例1、2の接着剤組成物の各特性を以下のように評価した。結果を表1に示す。なお、接着強度が良好でなかった比較例1、2の接着剤組成物については、他の特性を評価しなかった。
【0073】
(接着強度)
接着剤組成物を100℃で溶融させ、温度23℃、湿度50%の環境下で、縦25mm×横75mm×厚さ2mmのポリカーボネート(PC)基材上に、縦1mm×横25mm×厚さ100μmの接着剤層を形成した後、接着剤層の上に、縦25mm×横75mm×厚さ2mmのPC基材を圧着して試験片を作製した。試験片を温度23℃、湿度50%の環境下で1日間静置して接着剤組成物を硬化せた後、せん断試験(引張速度:10mm/分)を行い、接着強度(MPa)を測定した。ポリアミド(PA)基材についても、同様の試験を行い、接着強度(MPa)を測定した。
【0074】
(粘度)
TVB-25H形粘度計(東機産業株式会社製)で、4号ローターを使用して、ローター回転数50rpm、120℃における接着剤組成物(試料量:15g)の溶融粘度を測定した。
【0075】
(加熱時の粘度上昇率)
接着剤組成物を窒素雰囲気下、110℃で24時間静置後、粘度測定を実施し、粘度上昇率(110℃で24時間後の120℃における粘度/初期の120℃における粘度)を算出した。
【0076】
(機械的特性)
接着剤組成物を100℃で溶融させ、厚さ100μmのフィルムを形成した後、当該フィルムを、温度23℃、湿度50%の恒温恒湿槽に2日間静置して、硬化させた。静置した後のフィルムを1号ダンベルで打ち抜いて試験片を作製し、オートグラフAGS-X(株式会社島津製作所製)を用いて、試験片の引張弾性率(MPa)、破断強度(MPa)、及び破断伸び(%)をJIS K-6251に準拠して測定した。
【0077】
【0078】
官能基保護型シランカップリング剤を含有する実施例1~5の接着剤組成物は、官能基保護型シランカップリング剤を含有しない接着剤組成物に比べて、ポリアミド基材に適用した場合であっても充分な接着強度を発現していた。実施例1~5の接着剤組成物は、110℃で加温した際の粘度上昇率も低く、硬化後の機械特性においても優れていた。以上より、本発明の接着剤組成物が、ポリアミド基材に適用した場合であっても充分な接着強度を発現することが確認された。