(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】配電部材の製造方法及び配電部材
(51)【国際特許分類】
H01R 43/048 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
H01R43/048 Z
(21)【出願番号】P 2021014994
(22)【出願日】2021-02-02
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範行
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-178743(JP,A)
【文献】特開2013-165011(JP,A)
【文献】特開2018-88779(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0250984(US,A1)
【文献】特開2015-27159(JP,A)
【文献】特開2014-33547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が円形である単線を準備する単線準備工程と、
前記単線の一部を前記単線に直交する加圧方向から加圧して塑性変形させることによって、前記単線の外周面における前記加圧方向の両端に、前記加圧前の前記単線の外周面よりも曲率が小さく、かつ前記加圧方向を向く一対の小曲率面を形成する加圧工程と、
互いに対向する一対の対向壁、及び前記一対の対向壁の一端同士を連結する連結壁を有する端子金具を準備する端子準備工程と、
前記加圧工程後の前記単線を、前記一対の小曲率面の一方が前記一対の対向壁の一方に対向するとともに前記一対の小曲率面の他方が前記一対の対向壁の他方に対向するよう、前記端子金具における前記一対の対向壁の間に挿入する挿入工程と、
前記挿入工程後、前記一対の対向壁を前記単線に圧着する圧着工程と、を有する、
配電部材の製造方法。
【請求項2】
前記加圧工程においては、前記単線の先端から離れた位置に前記一対の小曲率面を形成し、
前記挿入工程においては、前記小曲率面の幅方向に前記単線を移動させて、前記単線の延在方向における前記一対の小曲率面が形成された部位である被加圧線部を、前記一対の対向壁における前記連結壁と反対側に設けられた開口部から前記一対の対向壁の間に挿入させる、
請求項1に記載の配電部材の製造方法。
【請求項3】
前記加圧工程後の状態において、前記単線は、前記単線の延在方向における前記一対の小曲率面の両側に、前記加圧工程によって加圧されない一対の断面円形部を有し、
前記挿入工程後、前記圧着工程前の状態において、前記一対の断面円形部の互いに近い側の端部のそれぞれは、前記被加圧線部の長手方向から見たとき、前記一対の対向壁の少なくとも一方に重なる位置に形成されている、
請求項2に記載の配電部材の製造方法。
【請求項4】
前記加圧工程においては、前記単線の先端の位置まで前記一対の小曲率面を形成する、
請求項1に記載の配電部材の製造方法。
【請求項5】
前記加圧工程後、前記圧着工程前の状態において、前記一対の対向壁の対向方向における前記一対の対向壁の最小間隔は、前記一対の小曲率面の並び方向における前記一対の小曲率面の最大間隔よりも大きい、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の配電部材の製造方法。
【請求項6】
断面形状が円形である断面円形部を有する単線と、
前記単線に圧着された端子金具と、を備え、
前記端子金具は、前記単線を挟持するとともに互いに対向する一対の対向壁と、前記一対の対向壁の一端同士を連結する連結壁と、を有し、
前記単線の外周面における前記一対の対向壁の対向方向の両端には、前記単線における前記断面円形部の外周面よりも曲率が小さく、かつ前記対向方向を向く一対の小曲率面が形成されており、
前記一対の小曲率面のそれぞれは、一部が前記一対の対向壁の対向領域内に配されており、他の一部が前記対向領域から露出している、
配電部材。
【請求項7】
前記一対の小曲率面は、前記単線の先端から離れた位置に形成されており、
前記単線は、前記単線の延在方向における前記一対の小曲率面の両側に、一対の前記断面円形部を有し、
前記一対の断面円形部の互いに近い側の端部のそれぞれは、前記小曲率面の長手方向から見たとき、前記一対の対向壁の少なくとも一方に重なる位置に形成されている、
請求項6に記載の配電部材。
【請求項8】
前記一対の小曲率面は、前記単線の先端の位置まで形成されている、
請求項6に記載の配電部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電部材の製造方法及び配電部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータ巻線と端子台との間を接続するモータ用接続部材が開示されている。特許文献1の第2及び第3の実施の形態におけるモータ用接続部材は、絶縁部材によって被覆された断面円形の単線と、絶縁部材から露出した単線の端部に圧着された圧着端子とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のモータ用接続部材においては、断面円形の単線に圧着端子が圧着されているため、圧着端子と単線との接触面積が小さくなりやすく、圧着端子と単線との接続強度を向上させる観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、単線と端子金具との接続強度を向上させることができる配電部材の製造方法及び配電部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、断面形状が円形である単線を準備する単線準備工程と、前記単線の一部を前記単線に直交する加圧方向から加圧して塑性変形させることによって、前記単線の外周面における前記加圧方向の両端に、前記加圧前の前記単線の外周面よりも曲率が小さく、かつ前記加圧方向を向く一対の小曲率面を形成する加圧工程と、互いに対向する一対の対向壁、及び前記一対の対向壁の一端同士を連結する連結壁を有する端子金具を準備する端子準備工程と、前記加圧工程後の前記単線を、前記一対の小曲率面の一方が前記一対の対向壁の一方に対向するとともに前記一対の小曲率面の他方が前記一対の対向壁の他方に対向するよう、前記端子金具における前記一対の対向壁の間に挿入する挿入工程と、前記挿入工程後、前記一対の対向壁を前記単線に圧着する圧着工程と、を有する、配電部材の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、前記の目的を達成するため、断面形状が円形である断面円形部を有する単線と、前記単線に圧着された端子金具と、を備え、前記端子金具は、前記単線を挟持するとともに互いに対向する一対の対向壁と、前記一対の対向壁の一端同士を連結する連結壁と、を有し、前記単線の外周面における前記一対の対向壁の対向方向の両端には、前記単線における前記断面円形部の外周面よりも曲率が小さく、かつ前記対向方向を向く一対の小曲率面が形成されており、前記一対の小曲率面のそれぞれは、一部が前記一対の対向壁の対向領域内に配されており、他の一部が前記対向領域から露出している、配電部材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、単線と端子金具との接続強度を向上させることができる配電部材の製造方法及び配電部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態における、配電部材を備えるモータ装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】第1の実施の形態における、端子準備工程にて準備される単線の斜視図である。
【
図3】第1の実施の形態における、加圧工程を示す図であって、単線を加圧する前の状態を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態における、加圧工程を示す図であって、単線を加圧した後の状態を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態における、加圧工程を示す図であって、加圧工程後の単線の側面図である。
【
図6】第1の実施の形態における、加圧工程後の単線の平面図である。
【
図7】第1の実施の形態における、端子準備工程にて準備される端子金具の斜視図である。
【
図8】第1の実施の形態における、端子準備工程にて準備される端子金具の平面図である。
【
図10】第1の実施の形態における、挿入工程を説明するための単線及び端子金具の平面図である。
【
図11】第1の実施の形態における、挿入工程を説明するための単線及び端子金具の断面図である。
【
図12】第1の実施の形態における、挿入工程後の単線及び端子金具の断面図である。
【
図13】第1の実施の形態における、圧着工程を説明するための図である。
【
図14】第1の実施の形態における、圧着工程後の配電部材の斜視図である。
【
図15】第1の実施の形態における、圧着工程後の配電部材の断面図である。
【
図16】比較形態における、圧着工程を説明するための図である。
【
図17】第2の実施の形態における、加圧工程を示す図であって、単線が塑性変形する前の状態を示す説明図である。
【
図18】第2の実施の形態における、加圧工程を示す図であって、単線が塑性変形された後の状態を示す説明図である。
【
図19】第2の実施の形態における、挿入工程を説明するための単線及び端子金具の平面図である。
【
図20】第2の実施の形態における、圧着工程後の配電部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1乃至
図15を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
(モータ装置10)
図1は、本形態の配電部材1を備えるモータ装置10の概略構成を示す斜視図である。モータ装置10は、電気自動車、ハイブリッド自動車等の車両に搭載されて用いられる。モータ装置10は、車両走行のための駆動力を発生させるものである。モータ装置10は、モータケース11と、モータケース11内に配された図示しないステータ及びロータと、ロータの中心部を貫通してロータと一体に回転可能に支持されたシャフト12とを備える。
【0012】
ステータには、図示しないステータコアにU相巻線121、V相巻線122、及びW相巻線123が巻き回されている。U相巻線121には、図示しないインバータのU相電流が入力され、V相巻線122には、インバータのV相電流が入力され、W相巻線123には、インバータのW相電流が入力される。U相巻線121、V相巻線122、及びW相巻線123のそれぞれの端部は、モータケース11外に引き出されている。U相巻線121、V相巻線122、及びW相巻線123のそれぞれの端部は、配電部材1を介して端子台13に接続されている。端子台13は、例えば車体又はモータケース11等に固定されている。3つの配電部材1のそれぞれは、端子台13において、インバータのU相電流が出力される電流経路、V相電流が出力される電流経路、W相電流が出力される電流経路に接続される。なお、配電部材1を除くモータ装置10の構成については、前述したものに限定されず、一般的な構成を採用することが可能である。
【0013】
(配電部材1)
配電部材1は、単線2と、単線2に圧着された端子金具3とを備える。単線2の一端部には、端子金具3が圧着されており、単線2の他端部には、U相巻線121、V相巻線122、又はW相巻線123が接続される。なお、単線2の延在方向における、端子金具3に圧着される側を単線先端側といい、U相巻線121、V相巻線122、又はW相巻線123が接続される側を単線基端側という。
【0014】
以下、配電部材1の構造を、配電部材1の製造方法の手順の一例に従って説明する。
本形態の配電部材1の製造方法は、単線準備工程と加圧工程と端子準備工程と挿入工程と圧着工程とを行う。
【0015】
図2は、端子準備工程において準備される単線2の斜視図である。単線準備工程は、断面形状が円形である単線2を準備する工程である。なお、単線2に関し、断面といったときは、特に言及しない限り、単線2の延在方向に直交する単線2の断面を意味するものとする。単線2は、例えば銅等の導電部材からなる導線の表面に錫メッキを施したものとすることができる。本形態において、単線2は、直径が1mm以上5mm以下である1本の導線である。本形態において、単線2は、その両端部を除く部位が電気的絶縁性を有する絶縁被覆20によって覆われている。
【0016】
単線準備工程後に、単線2の単線先端側の端部を加圧して塑性変形させる加圧工程を行う。
図3は、加圧工程を示す図であって、単線2を加圧する前の状態を示す図である。
図4は、加圧工程を示す図であって、単線2を加圧した後の状態を示す説明図である。
図5は、加圧工程を示す図であって、加工工程後の単線2の側面図である。
図6は、加圧工程後の単線2の平面図である。
【0017】
図3に示すごとく、加圧工程においては、載置台4と加圧治具5とを用いて単線2を塑性加工する。載置台4は、その一面に、端子台13を載置するための平面状の載置面41を備える。加圧治具5は、載置台4に平行な平面状の加圧面51を備え、加圧面51を単線2に押し付けることによって単線2を塑性変形させる。載置面41と加圧面51との間に配される単線2の長手方向(すなわち
図3の左右方向)において、加圧面51の長さは、載置面41の長さよりも小さい。
【0018】
加圧工程においては、載置面41に、絶縁被覆20から単線先端側に露出した単線2の略全体が配置される。このとき、単線2は、単線先端側の端部が載置面41と加圧面51との対向領域から突出するように載置面41上に配置される。そして、
図3及び
図4に示すごとく、加圧治具5の加圧面51を、加圧面51に直交する加圧方向(すなわち、
図3において矢印にて示す方向)に移動させることで、単線2を、載置面41側に向けて押し付けて塑性変形させる。
【0019】
図4乃至
図6に示すごとく、加圧工程により、単線2に、加圧面51と載置面41とが転写された一対の小曲率面211,212が形成される。小曲率面211,212は、加圧前の単線2の外周面よりも曲率が小さく、かつ加圧工程における加圧方向を向く面である。加圧工程における加圧方向を向く面とは、例えば、前記加圧方向とその面の各部の法線方向との間になす角度が、30°以下、好ましくは15°以下となる面をいう。小曲率面211,212は、略平面、又は加圧前の単線2の外周面より曲率が小さい湾曲面等であり、本形態においては略平面である。一対の小曲率面211,212は、単線2の延在方向において、互いに略同じ領域に形成される。
【0020】
以後、一対の小曲率面211,212のうち、加圧面51が転写された側を第1小曲率面211といい、載置面41が転写された側を第2小曲率面212といい、これらを特に区別しない場合は小曲率面211,212という。また、単線2の延在方向における、載置面41と加圧面51との対向領域に配されて加圧面51によって加圧された部位を被加圧線部21という。被加圧線部は、加圧方向の両側に一対の小曲率面211,212を有する単線2の部位である。
【0021】
図4に示すごとく、第1小曲率面211は、加圧面51によって押し潰されることによって、被加圧線部21の加圧前の外周面(二点鎖線にて示す部位)よりも第2小曲率面212側に向かって凹むよう形成される。加圧前の単線2の外周面における第1小曲率面211になる部位(二点鎖線にて示す部位)と、加圧後の第1小曲率面211との間の加圧方向の最大長さL1(すなわち最大凹み深さ)は、加圧前の単線2の直径Dの10%以上40%以下の長さであることが好ましく、15%以上、30%以下の長さであることがより好ましい。
【0022】
第2小曲率面212は、載置面41に押し付けられることによって、平面状に押し広げられ、被加圧線部21の加圧前の形状における加圧方向の載置面41側の端部の位置と同等の位置に形成される。また、
図6に示すごとく、被加圧線部21は、加圧工程によって加圧方向に圧縮された分、加圧前の状態よりも被加圧線部21の幅方向の両側に突出する。
【0023】
単線2の延在方向において、一対の小曲率面211,212は、単線2の先端25から離れた位置に形成されている。つまり、一対の小曲率面211,212を有する被加圧線部21は、単線2の両端を除く単線2の中間部に形成されており、被加圧線部21の両側には、断面円形の一対の断面円形部22,23が形成されている。一対の断面円形部22,23のうち、単線先端側のものを断面円形部22とし、単線基端側のものを断面円形部23とする。断面円形部22,23は、加圧工程において加圧されず変形しない単線2の部位である。第1小曲率面211と一対の断面円形部22,23のそれぞれの外周面とは、単線2の延在方向において第1小曲率面211に近付くにつれて第1小曲率面211が向く側と反対側に向かうよう傾斜した傾斜面24によって連結されている。傾斜面24は、加圧工程において加圧治具5によって加圧されないものの、加圧工程において第1小曲率面211が形成されることに伴って形成される面である。なお、単線2の延在方向において、一対の小曲率面211,212は、絶縁被覆20から1.0mm以上離れた位置に形成されている。これにより、後述する圧着工程を例えば熱加締め(ヒュージング等)にて行う場合において、絶縁被覆20の端部が熱加締めの際の熱により溶融し変形することを抑制することが可能である。
【0024】
そして、端子準備工程においては、単線2が固定される端子金具3を準備する。
図7は、端子準備工程において準備される端子金具3の斜視図である。
図8は、端子準備工程において準備される端子金具3の平面図である。
図9は、
図8のIX-IX線矢視断面図である。
【0025】
端子金具3は、例えば1枚の導体平板を所定形状に打ち抜くとともに折り曲げることにより製造される。端子金具3は、銅等の導電部材の表面に錫メッキを施したものとすることができる。端子金具3は、単線2に圧着される単線圧着部31と、端子台13にボルト締結される端子台固定部32と、単線圧着部31と端子台固定部32とを接続する接続部33とを有する。
【0026】
単線圧着部31は、端子金具3を構成する導体平板の単線圧着部31となる部位をU字状に折り曲げてなり、互いに対向する一対の対向壁311,312と、一対の対向壁311,312の一端同士を連結する円弧状の連結壁313とを有する。一対の対向壁311,312のうちの一方である第1対向壁311は、接続部33に接続されておらず、一対の対向壁311,312のうちの他方である第2対向壁312は、接続部33に接続されている。一対の対向壁311,312の互いの対向面は、互いに平行な平面である。
【0027】
単線圧着部31は、第1開口部301、第2開口部302、及び第3開口部303を有する。第1開口部301は、単線圧着部31における連結壁313と反対側の端部に形成された開口部である。第2開口部302及び第3開口部303は、第1開口部301の開口方向、及び一対の対向壁311,312の対向方向の双方に直交する方向における、単線圧着部31の両端のそれぞれに形成された開口部である。第3開口部303は、第2開口部302よりも接続部33に近い側の開口部である。
【0028】
一対の対向壁311,312のそれぞれは、一対の対向壁311,312の対向方向から見たときに略四角形状となるとともに、対向方向に厚みを有する板状に形成されている。
図8及び
図9に示すごとく、第1対向壁311の連結壁313から遠い側の端面311aは、第2対向壁312の連結壁313から遠い側の端面312aよりも、連結壁313側に収まった位置に形成されている。
【0029】
図9に示すごとく、第1対向壁311の連結壁313から遠い側の端面311aと第1対向壁311の第2対向壁312側の面311bとの間の角部は、面取りされてガイド面311cが形成されている。ガイド面311cは、後述する挿入工程において、単線2を一対の対向壁311,312の間に挿入する際のガイドとなる面である。
【0030】
端子金具3における端子台固定部32及び接続部33は、第2対向壁312から、第2対向壁312における第1対向壁311から遠ざかる側に向けて折り曲げられている。端子台固定部32は、第2開口部302及び第3開口部303の開口方向に厚みを有する平板状に形成されている。端子台固定部32は、その中央部にボルトを挿通するためのボルト挿通孔320が貫通形成されており、ボルトB(
図1参照)を用いて端子台13に固定される。接続部33は、単線圧着部31の第2対向壁312と端子台固定部32とを接続している。
図7に示すごとく、接続部33の第2対向壁312側の端部は、第1対向壁311側の面が、第1対向壁311から遠ざかる側に一段下がった逃げ面331となっている。
【0031】
そして、加圧工程の後に、挿入工程を行う。つまり、本形態においては、予め加圧工程において単線2に一対の小曲率面211,212を有する被加圧線部21を形成しておき、次いで、挿入工程において、単線2の被加圧線部21を端子金具3の単線圧着部31内に挿入配置する。
図10は、挿入工程を説明するための単線2及び端子金具3の平面図である。
図11は、挿入工程を説明するための単線2及び端子金具3の断面図である。なお、便宜上、
図11において、絶縁被覆(
図2乃至
図6等の符号20参照)の図示は省略している。また、
図11において、被加圧線部21における第1開口部301の開口方向(すなわち
図11の左右方向)の両側の側面213は、前記開口方向に直交する平面状となっているが、例えば、加圧前の単線2の外周面に沿った湾曲面状(円弧面状)となっていてもよい。
図12は、挿入工程後の単線2及び端子金具3の断面図である。
【0032】
挿入工程においては、単線2を、被加圧線部21の幅方向(すなわち
図10及び
図11において矢印にて示す向き)に移動させて、第1開口部301から端子金具3の一対の対向壁311,312の間に挿入する。挿入工程においては、被加圧線部21をガイド面311cに沿わせつつ一対の対向壁311,312の間に挿入することにより、挿入作業が容易になる。
【0033】
ここで、
図10に示すごとく、被加圧線部21の長手方向における被加圧線部21の長さL2は、第2開口部302及び第3開口部303の開口方向における一対の対向壁311,312の対向領域の長さL3よりも長い。さらに、
図11に示すごとく、一対の対向壁311,312の対向方向における、一対の対向壁311,312の最小間隔I1は、一対の小曲率面211,212の並び方向における一対の小曲率面211,212の最大間隔I2(つまり被加圧線部21の最大厚み)よりも大きく、かつ、断面円形部22,23の直径Dよりも小さい。それゆえ、挿入工程においては、例えば端子金具3の単線圧着部31を押し広げる必要がなく、被加圧線部21を一対の対向壁311,312の間に容易に挿入することができる。
図10に示すごとく、挿入工程後の状態において、被加圧線部21は、一対の対向壁311,312の対向領域から単線2の延在方向の両側に僅かに突出している。
【0034】
図11及び
図12に示すごとく、挿入工程後の状態においては、第1小曲率面211が第1対向壁311と対向するとともに、第2小曲率面212が第2対向壁312と対向する。そして、第1小曲率面211と第1対向壁311との間には、隙間が形成される。
【0035】
また、
図11及び
図12に示すごとく、単線2の一対の断面円形部22,23の互いに近い側の端部221,231のそれぞれ、及び一対の傾斜面24は、被加圧線部21の長手方向から見たとき、第1対向壁311に重なる位置に形成されている。それゆえ、挿入工程後において、端子金具3に対する単線2の、被加圧線部21の長手方向における移動は、単線2の傾斜面24が第1対向壁311に干渉することによって制限される。
【0036】
図12に示すごとく、挿入工程後の状態においては、単線2の先端25が、一対の対向壁311,312の対向方向において、逃げ面331と空間を介して重なる位置に配される。単線2の先端は、例えば打ち抜き等によりバリが形成されることがあるが、単線2の先端が逃げ面331と空間を介して重なっていることにより、バリが端子金具3に干渉することを防止することができる。
【0037】
挿入工程後、圧着工程が行われる。
図13は、圧着工程を説明するための図である。圧着工程においては、単線2が挿入された単線圧着部31を、圧着台6に配置するとともに、単線圧着部31における圧着台6と反対側から圧着治具7によって第1対向壁311を第2対向壁312側に向けて加圧する。これによって、単線圧着部31を単線2の被加圧線部21に圧着させる。圧着工程により、第1対向壁311と第1小曲率面211とが面接触するとともに、第2対向壁312と第2小曲率面212とが面接触し、単線圧着部31が被加圧線部21に圧着される。
【0038】
図14は、圧着工程後の配電部材1の斜視図である。
図15は、圧着工程後の配電部材1の断面図である。圧着工程後においては、一対の対向壁311,312の対向方向から見たとき、一対の対向壁311,312の対向領域から突出する第1小曲率面211及び第2小曲率面212が視認可能となる。すなわち、圧着工程前に単線2の加圧工程が行われた場合、一対の対向壁311,312の対向領域から突出する第1小曲率面211及び第2小曲率面212が視認可能となり得る。なお、圧着工程後においては、圧着工程前よりも一対の小曲率面211,212が互いに近づく位置に僅かに凹み得るが、
図15においては圧着工程後の凹みの図示は省略している。
【0039】
圧着工程においては、単線2を通して圧着治具7と圧着台6との間に電流を流し、ヒュージングによって単線2の第1小曲率面211及び第1対向壁311とを溶着するとともに第2小曲率面212と第2対向壁312とを溶着してもよい。なお、ヒュージングを行わず、単線圧着部31を単線2にかしめるだけで単線圧着部31を単線2に固定してもよい。
【0040】
また、
図1に示すような端子台13と、U相巻線121、V相巻線122、又はW相巻線123のそれぞれの端部との位置関係に応じて、単線2全体を所定形状に折り曲げる工程が行われる。さらに、単線2の単線基端側の端部を平角状につぶす工程が行われ、配電部材1が製造される。
【0041】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
本形態の配電部材1の製造方法においては、予め、加圧工程によって単線2に一対の小曲率面211,212を形成し、加圧工程の後に、圧着工程において、一対の対向壁311,312を単線2に圧着させる。それゆえ、圧着工程においては、互いに略平行な対向壁311,312と小曲率面211,212とが圧着されることにより、圧着工程後の対向壁311,312と小曲率面211,212との間の接触面積を大きくしやすく、単線2と端子金具3との接続強度を向上させやすい。
【0042】
ここで、
図16に示す比較形態の配電部材の製造方法のように、本形態の加圧工程を経ずに、単線圧着部31を、断面形状が円形の単線2に圧着させた場合について検討する。この場合、単線2と一対の対向壁311,312のそれぞれとが略線接触となりやすく、対向壁311,312と単線2との接触面積が小さくなって単線2と端子金具3との接続強度が低下しやすい。
【0043】
さらに、
図16に示す比較形態における配電部材1の製造方法においては、圧着工程において、断面形状が円形の単線2に、平面状の、一対の対向壁311,312の互いの対向面を押し付ける。そのため、単線2が加圧方向に直交する方向のいずれか(すなわち
図16において細矢印にて示す側のいずれか)にずれるおそれがある。この場合、例えば第1対向壁311が一対の対向壁311,312の対向方向に直交する面に対して斜めにずれ、単線2と端子金具3との接続強度が低下することも考えられる。
【0044】
一方、本形態においては、圧着工程において、一対の対向壁311,312を、対向壁311,312と対向するよう形成された単線2の一対の小曲率面211,212に押し付ける。そのため、端子金具3が加圧方向に直交する方向に位置ずれすることが抑制される結果、単線2と端子金具3との接続強度が低下することが抑制される。
【0045】
また、端子金具3は、互いに対向する一対の対向壁311,312、及び一対の対向壁311,312の一端同士を連結する連結壁313を有し、U字状に形成されている。それゆえ、圧着工程において、一対の対向壁311,312を互いに近付けて一対の対向壁311,312を単線2に圧着させる際に必要となる荷重が過度に高くなることを防止することができ、これによっても配電部材1の生産性の向上を図ることができる。
【0046】
また、本形態の配電部材1の製造方法において、加圧工程では、単線2の先端25から離れた位置に一対の小曲率面211,212を形成する。つまり、単線2は、単線2の延在方向における被加圧線部21の両側に、一対の断面円形部22,23(すなわち加圧工程において加圧されない単線2の部位)が形成される。そして、挿入工程においては、小曲率面211,212の幅方向(すなわち被加圧線部21の幅方向)に単線2を移動させて、被加圧線部21を、第1開口部301から一対の対向壁311,312の間に挿入させる。それゆえ、挿入工程において、単線2を一対の対向壁311,312の間に挿入しやすい。また、本形態においては、挿入工程後、圧着工程前の状態において、一対の断面円形部22,23の互いに近い側の端部221,231のそれぞれは、被加圧線部21の長手方向から見たとき、第1対向壁311に重なる位置に形成されている。それゆえ、挿入工程後において、単線2と端子金具3との間に、被加圧線部21の長手方向における位置ずれが生じることを抑制することができる。
【0047】
また、本形態の配電部材1の製造方法においては、加圧工程後、圧着工程前の状態において、一対の対向壁311,312の最小間隔I1は、一対の対向壁311,312の最大間隔I2(すなわち被加圧線部21の最大幅)よりも大きい。それゆえ、挿入工程において、一対の対向壁311,312の間に、被加圧線部21を容易に挿入することができる。
【0048】
以上のごとく、本形態によれば、単線と端子金具との接続強度を向上させることができる配電部材の製造方法及び配電部材を提供することができる。
【0049】
[第2の実施の形態]
本形態は、第1の実施の形態に対して、加圧工程において加圧する単線2の部位を変更した形態である。以後、第1の実施の形態と異なる点のみについて説明し、特に言及しない場合は第1の実施の形態と同様とする。また、第2の実施の形態以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0050】
図17は、加圧工程を示す図であって、単線が塑性変形する前の状態を示す説明図である。
図18は、加圧工程を示す図であって、単線が塑性変形された後の状態を示す説明図である。本形態の加圧工程においては、加圧治具5の加圧面51が単線2の先端25を含む箇所を押圧し、単線2を塑性変形させる。これにより、単線2に形成される一対の小曲率面211,212のそれぞれは、単線2の先端25の位置まで形成される。これに伴い、単線2には、第1小曲率面211の単線基端側にのみ、断面円形部23及び傾斜面24が形成される。
【0051】
図19は、挿入工程を説明するための単線2及び端子金具3の平面図である。加圧工程後の挿入工程においては、第1の実施の形態と同様に、単線2を、被加圧線部21の幅方向D1に移動させて、第1開口部301から端子金具3の一対の対向壁311,312の間に挿入することができる。あるいは、本形態においては、単線2を、被加圧線部21の長手方向D2に移動させて、第2開口部302から端子金具3の一対の対向壁311,312の間に挿入させることも可能である。すなわち、本形態においては、一対の小曲率面211,212が単線2の単線先端側の端部まで形成されているため、第1開口部301、第2開口部302のいずれからも、一対の対向壁311,312の間に被加圧線部21を挿入させることができる。挿入工程においては、例えば傾斜面24を第1対向壁311に当接させることにより、単線2と端子金具3との間の、被加圧線部21の長手方向における位置決めをすることができる。
【0052】
図20は、圧着工程後の配電部材1の断面図である。挿入工程後、圧着工程を行うことにより、本形態における配電部材1が製造される。本形態の配電部材1においては、第1小曲率面211の法線方向から見たとき、第1対向壁311から突出した第1小曲率面211が視認可能となる。
その他は、第1の実施の形態と同様である。
【0053】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
本形態の配電部材1の製造方法は、加圧工程において、単線2の単線先端側の端部の位置まで一対の小曲率面211,212を形成する。それゆえ、挿入工程においては、第1開口部301、第2開口部302のいずれからも、被加圧線部21を一対の対向壁311,312の間に挿入することができ、配電部材1の生産性を向上させることができ、また、配電部材1の生産自由度が高まる。
その他、第1の実施の形態と同様の作用及び効果を有する。
【0054】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0055】
[1]断面形状が円形である単線(2)を準備する単線準備工程と、前記単線(2)の一部を前記単線(2)に直交する加圧方向から加圧して塑性変形させることによって、前記単線(2)の外周面における前記加圧方向の両端に、前記加圧前の前記単線(2)の外周面よりも曲率が小さく、かつ前記加圧方向を向く一対の小曲率面(211,212)を形成する加圧工程と、互いに対向する一対の対向壁(311,312)、及び前記一対の対向壁(311,312)の一端同士を連結する連結壁(313)を有する端子金具(3)を準備する端子準備工程と、前記加圧工程後の前記単線(2)を、前記一対の小曲率面(211,212)の一方が前記一対の対向壁(311,312)の一方に対向するとともに前記一対の小曲率面(211,212)の他方が前記一対の対向壁(311,312)の他方に対向するよう、前記端子金具(3)における前記一対の対向壁(311,312)の間に挿入する挿入工程と、前記挿入工程後、前記一対の対向壁(311,312)を前記単線(2)に圧着する圧着工程と、を有する、配電部材(1)の製造方法。
【0056】
[2]前記加圧工程においては、前記単線(2)の先端(25)から離れた位置に前記一対の小曲率面(211,212)を形成し、前記挿入工程においては、前記小曲率面(211,212)の幅方向に前記単線(2)を移動させて、前記単線(2)の延在方向における前記一対の小曲率面(211,212)が形成された部位である被加圧線部(21)を、前記一対の対向壁(311,312)における前記連結壁(313)と反対側に設けられた開口部(301)から前記一対の対向壁(311,312)の間に挿入させる、前記[1]に記載の配電部材(1)の製造方法。
【0057】
[3]前記加圧工程後の状態において、前記単線(2)は、前記単線(2)の延在方向における前記一対の小曲率面(211,212)の両側に、前記加圧工程によって加圧されない一対の断面円形部(22,23)を有し、前記挿入工程後、前記圧着工程前の状態において、前記一対の断面円形部(22,23)の互いに近い側の端部(221,231)のそれぞれは、前記被加圧線部(21)の長手方向から見たとき、前記一対の対向壁(311,312)の少なくとも一方に重なる位置に形成されている、前記[2]に記載の配電部材(1)の製造方法。
【0058】
[4]前記加圧工程においては、前記単線(2)の先端(25)の位置まで前記一対の小曲率面(211,212)を形成する、前記[1]に記載の配電部材(1)の製造方法。
【0059】
[5]前記加圧工程後、前記圧着工程前の状態において、前記一対の対向壁(311,312)の対向方向における前記一対の対向壁(311,312)の最小間隔(I1)は、前記一対の小曲率面(211,212)の並び方向における前記一対の小曲率面(211,212)の最大間隔(I2)よりも大きい、前記[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の配電部材(1)の製造方法。
【0060】
[6]断面形状が円形である断面円形部(22,23)を有する単線(2)と、前記単線(2)に圧着された端子金具(3)と、を備え、前記端子金具(3)は、前記単線(2)を挟持するとともに互いに対向する一対の対向壁(311,312)と、前記一対の対向壁(311,312)の一端同士を連結する連結壁(313)と、を有し、前記単線(2)の外周面における前記一対の対向壁(311,312)の対向方向の両端には、前記単線(2)における前記断面円形部(22,23)の外周面よりも曲率が小さく、かつ前記対向方向を向く一対の小曲率面(211,212)が形成されており、前記一対の小曲率面(211,212)のそれぞれは、一部が前記一対の対向壁(311,312)の対向領域内に配されており、他の一部が前記対向領域から露出している、配電部材(1)。
【0061】
[7]前記一対の小曲率面(211,212)は、前記単線(2)の先端(25)から離れた位置に形成されており、前記単線(2)は、前記単線(2)の延在方向における前記一対の小曲率面(211,212)の両側に、一対の前記断面円形部(22,23)を有し、前記一対の断面円形部(22,23)の互いに近い側の端部(221,231)のそれぞれは、前記小曲率面(211,212)の長手方向から見たとき、前記一対の対向壁(311,312)の少なくとも一方に重なる位置に形成されている、前記[6]に記載の配電部材(1)。
【0062】
[8]前記一対の小曲率面(211,212)は、前記単線(2)の先端(25)の位置まで形成されている、前記[6]に記載の配電部材(1)。
【0063】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…配電部材
2…単線
20…絶縁被覆
21…被加圧線部
211…第1小曲率面(小曲率面)
212…第2小曲率面(小曲率面)
22,23…断面円形部
221,231…一断面円形部の端部
25…単線の先端
3…端子金具
301…第1開口部(開口部)
311…第1対向壁(対向壁)
312…第2対向壁(対向壁)
313…連結壁
I1…一対の対向壁の最小間隔
I2…一対の小曲率面の最大間隔