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特許74849001-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
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  • 特許-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/23 20060101AFI20240509BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20240509BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20240509BHJP
   B01J 27/122 20060101ALI20240509BHJP
   B01J 27/13 20060101ALI20240509BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240509BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
C07C17/23
B01J23/72 Z
B01J23/89 Z
B01J27/122 Z
B01J27/13 Z
C07C21/18
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021514168
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016427
(87)【国際公開番号】W WO2020213600
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019077752
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 英史
(72)【発明者】
【氏名】古田 昇二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】田名網 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】市野川 真理
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 燿
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-514808(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123911(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030408(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/060614(WO,A2)
【文献】日本化学会,化学便覧 応用化学編,第7版,丸善出版,2014年01月,p.383-385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/23
B01J 23/72
B01J 23/89
B01J 27/122
B01J 27/13
C07C 21/18
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu含有触媒の存在下、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを水素と反応させて、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
前記Cu含有触媒が、Cu触媒、および、Cu-M触媒からなる群から選択される触媒であり、
前記Cu触媒が、CuまたはCu原子を有する化合物であり、
前記Cu-M触媒が、CuまたはCu原子を有する化合物と、PdおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属またはPdおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を有する化合物と、を含み、Cu原子に対するPdおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子の質量比が1/40以下である触媒である、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項2】
前記Cu含有触媒が担体に担持され、
前記担体が、活性炭を含む担体である、請求項1に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項3】
前記Cu含有触媒の担持量が、前記担体の質量の100質量部に対して、1~50質量部である、請求項2に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項4】
前記反応の反応温度が30℃以上350℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項5】
前記1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに対する前記水素のモル比が、0.1~50である、請求項1~4のいずれか1項に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項6】
前記Cu含有触媒が前記Cu-M触媒であり、
前記Cu-M触媒が、CuClを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載に1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項7】
前記質量比が1/60以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3CF=CHCl。HCFO-1224yd。以下、1224ydとも記す。)は、例えば、洗浄剤、冷媒、熱媒体、発泡剤、溶媒等の各種用途に適用できる。
【0003】
なお、本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記す場合がある。本明細書では、必要に応じて、化合物名に代えてその略称を用いる。略称として、ハイフン(-)より後ろの数字およびアルファベット小文字部分だけ(例えば、「HCFO-1224yd」は「1224yd」)を用いる場合がある。
【0004】
特許文献1の実施例欄には、Ni-Cu触媒、または、0.5%Pd-8.5%Cu触媒を用いて、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3CF=CCl2、CFO-1214ya。以下、1214yaとも記す。)を水素と反応させて1224ydを得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第9,637,429号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で具体的に記載の方法で得られる生成物には副生物および未反応の原料が多く含まれ、1224ydの収率が低い。
【0007】
そこで、本発明は、収率が高い、1224ydの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出した。
(1)Cu含有触媒の存在下、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを水素と反応させて、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
Cu含有触媒が、Cu-M触媒、および、Cu触媒からなる群から選択される触媒であり、
Cu-M触媒が、CuまたはCu原子を有する化合物と、Pd、PtおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属またはPd、PtおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を有する化合物と、を含み、Cu原子に対するPd、PtおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子の質量比が1/40以下である触媒であり、
Cu触媒が、CuまたはCu原子を有する化合物である、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
(2)上記Cu含有触媒が担体に担持され、
上記担体が、活性炭を含む担体である、(1)に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
(3)上記Cu含有触媒の担持量が、上記担体の質量の100質量部に対して、1~50質量部である、(2)に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
(4)上記反応の反応温度が30℃以上350℃以下である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
(5)1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに対する水素のモル比が、0.1~50である、(1)~(4)のいずれかに記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
(6)Cu含有触媒がCu-M触媒であり、
Cu-M触媒が、CuClを含む、(1)~(5)のいずれかに記載に1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
(7)Cu-M触媒が、PdおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、または、PdおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を有する化合物を含む、(6)に記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
(8)前記質量比が1/60以下である、(1)~(7)のいずれかに記載の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、収率が高い、1224ydの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】反応装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明の1224ydの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」とも記す。)は、1214yaを水素と反応させて1224ydを得る方法である。
【0013】
1224ydは、炭素-炭素二重結合上の置換基の位置により、幾何異性体であるZ体とE体とが存在する。
本明細書において、特に断らずに化合物名や化合物の略称を用いた場合には、Z体およびE体からなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、より具体的には、Z体もしくはE体、または、Z体とE体との任意の割合の混合物を示す。
化合物名や化合物の略称の後ろに(E)または(Z)を付した場合には、化合物の(E)体または(Z)体を示す。例えば、1224yd(Z)はZ体を示し、1224yd(E)はE体を示す。
【0014】
本発明の製造方法において、1214yaと水素との反応は、後述するCu触媒、および、後述するCu-M触媒からなる群から選択されるCu含有触媒の存在下にて行う。
【0015】
本発明におけるCu触媒は、CuまたはCu原子を有する化合物からなる。本発明におけるCu触媒は、触媒として作用する金属元素として、Cuのみを有する触媒を意味している。Cu触媒としては、金属(金属銅)、または、酸化物(酸化銅)、ハロゲン化物(ハロゲン化銅)等の化合物を用いることができる。但し、Cu触媒には、Cu以外の金属元素が触媒製造時に不純物として微量混入することは許容される。具体的には、Cu触媒が、Cu以外の金属元素をCu原子の質量に対して合計で1000質量ppm以下含むことは許容される。
ただし、担体として用いる活性炭中に灰分として存在するアルカリ金属やアルカリ土類金属など本反応に関与しないことが明確な金属元素についてはこの限りではない。この点については、後述するCu-M触媒も同様である。
【0016】
Cu原子を有する化合物としては、例えば、CuO、CuCl、CuCl2、CuF、CuF2等を使用できる。上記以外にもCu原子を有する化合物としては、Cu24で表される化合物が挙げられる。Xは、それぞれ独立に、ハロゲンイオン(例えば、Cl-)、水酸化物イオン、硝酸イオンが挙げられる。上記化合物の具体例としては、Cu2Cl(OH)3、Cu2(NO3(OH)3)が挙げられる。
Cu原子を有する化合物としては、1224ydの収率が向上する点で、CuClが好ましい。
【0017】
本発明におけるCu-M触媒は、CuまたはCu原子を有する化合物(以下、これらを総称して「第1の成分」ともいう。)と、Pd、PtおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、またはPd、PtおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を有する化合物(以下、これらを総称して「第2の成分」ともいう。)を含む。
【0018】
第1の成分としては、Cu触媒と同様のものを用いることができる。すなわち、Cu原子を有する化合物としては、例えば、CuO、CuCl、CuCl2、CuF、CuF2等を使用できる。上記以外にもCu原子を有する化合物としては、Cu24で表される化合物が挙げられる。Xは、それぞれ独立に、ハロゲンイオン(例えば、Cl-)、水酸化物イオン、硝酸イオンが挙げられる。上記化合物の具体例としては、Cu2Cl(OH)3、Cu2(NO3(OH)3)が挙げられる。上述したように、Cu触媒としては、CuClが好ましい。
【0019】
第2の成分としては、触媒として作用する金属元素として、Pd、PtおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種を有していればよく、金属、または、酸化物、ハロゲン化物等の化合物を用いることができる。
【0020】
Pd、PtおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を有する化合物としては、例えば、PdO、PdCl2、PtO、PtO2、PtCl2、PtCl4、NiO、NiCl2が挙げられる。第2の成分としては、1224ydの収率を向上できる点からPdが好ましい。
【0021】
第1の成分と第2の成分は、同一担体上にそれぞれ個別に存在していてもよく、合金として存在していてもよい。
【0022】
Cu-M触媒は、本発明の効果を損なわない範囲で第1の成分および第2の成分以外の成分を含んでいてもよい。
第1の成分および第2の成分以外の成分としては、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Au、Bi、Al等が挙げられる。
【0023】
Cu-M触媒において、Cu原子に対するPd、Pt、Niからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子(以下、これらを総称して「M」ともいう。)の質量比(M/Cu)は、1224ydの収率、特に選択率を向上できる点から、1/40以下であり、1/50以下が好ましく、1/60以下がより好ましく、1/70以下がさらに好ましく、1/80以下がもっとも好ましい。
反応収率の点から、M/Cuが、1/999以上が好ましく、1/399以上がより好ましく、1/199以上がさらに好ましい。
Cu含有触媒としては、反応収率および1224ydの収率の点から、Cu-M触媒が好ましい。
【0024】
Cu-M触媒としては、反応収率および1224ydの収率の点から、Cuと、Pd、Pt、およびNiから選ばれる少なくとも1種の金属と、を含む触媒が好ましい。上記触媒において、Cuと、Pd、Pt、およびNiから選ばれる少なくとも1種の金属とは、同一担体上にそれぞれ個別に存在していてもよく、合金として存在していてもよい。
【0025】
また、Cu含有触媒の好適態様の一つとしては、1224ydの収率が向上する点で、CuClを含むCu-M触媒が好ましい。CuClを含むCu-M触媒中の第2の成分としては、PdおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、または、PdおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を有する化合物が好ましく、Pd、または、Pd原子を有する化合物がより好ましい。
なお、CuClを含むCu-M触媒においては、後述する還元処理を施すことなく、優れた効果を奏することができる。
【0026】
Cu含有触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、活性炭を含むことが好ましく、活性炭からなることがより好ましい。
活性炭としては、木材、木炭、果実ガラ、ヤシガラ、泥炭、亜炭、石炭等の原料から調製したものを使用しうるが、鉱物質原料よりも植物原料から得られたものが好ましく、特にヤシガラ活性炭が最適である。担体形状としては、長さ2~5mm程度の成形炭、約4~50メッシュ程度の破砕炭、2~50メッシュの粒状炭等を用いることができる。反応収率および1224ydの収率の点から、4~20メッシュの破砕炭または4~20メッシュの粒状炭が好ましい。
【0027】
担体は、触媒を担持する機能を高めるために、酸洗浄等の処理が施されてもよい。
Cu触媒およびCu-M触媒が担持された担体の調製方法は、従来公知の方法を採用でき、例えば、Satterfield著、「Heterogeneous Catalysts in Industrial Practice」、2nd ed.(McGraw-Hill、New York、1991)、pp.87~112に記載されたとおりに、析出法および含浸法のいずれかの方法が挙げられる。
【0028】
Cu含有触媒が担体に担持されている場合、Cu含有触媒の比表面積を十分に大きくでき、かつ、触媒活性に優れる点から、Cu含有触媒の担持量は、担体の質量の100質量部に対して、0.5~50質量部が好ましく、1~50質量部がより好ましく、3~30質量部がさらに好ましく、5~30質量部が特に好ましい。
Cu-M触媒を担体に担持する場合、第1の成分と第2の成分とをそれぞれ個別に担体に担持させたものを混合物として用いてもよく、第1の成分と第2の成分との混合物を担体に担持させてもよい。
Cu含有触媒は、活性炭からなる担体に担持されていることが好ましい。
【0029】
Cu含有触媒は、製造する過程で、または、使用される前に還元処理が施されてもよい。還元処理としては、Cu含有触媒と水素とを接触させる処理が挙げられる。上記還元処理を実施することにより、Cu含有触媒の活性が向上する。
Cu含有触媒を還元処理する際の温度は150℃以上が好ましい。また、350℃以下が好ましい。150℃以上で還元処理を行うことにより触媒の活性が十分に発揮できる。また、350℃以下の場合、金属のシンタリングが抑制され、活性がより優れる。
【0030】
本発明の製造方法の原料である1214yaは、公知の方法により製造できる。例えば、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ca)や1,1,1-トリクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロパン(HCFC-224db)を、相間移動触媒の存在下にアルカリ水溶液と接触させて脱フッ化水素または脱塩化水素反応させる方法等が挙げられる。該反応には225caを含むジクロロペンタフルオロプロパン(225)を使用でき、上記した相間移動触媒により225中の225caのみが選択的に脱フッ化水素される。反応後、1214yaは蒸留等の公知の方法により精製できる。精製後の1214yaには、不純物が含まれる場合がある。不純物としては、225ca以外の225異性体が脱フッ化水素反応して得られる1,3-ジクロロ-1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(1214yb)等が挙げられる。不純物の含有量は、1214yaの全量に対して1000質量ppm以下であることが好ましい。
225caを含む225は、市販品を用いてもよい。市販品としては、アサヒクリンAK225(AGC社製、225caの48モル%と225cbの52モル%との混合物)等が挙げられる。相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)が好ましい。
【0031】
本発明の製造方法における1214yaと水素との反応において、使用される1214yaに対する使用される水素のモル比(水素のモル量/1214yaのモル量)は、1224ydの収率をより高くできるという点から、0.1~50が好ましく、0.5~50がより好ましく、0.7~20がさらに好ましい。1~10が特に好ましい。
【0032】
上記反応は、通常反応器を用いて行なわれる。
反応器としては、形状および構造は特に限定されない。例えば、後述する気相反応の場合、内部にCu含有触媒を充填できる円筒状の縦型反応器が挙げられる。
円筒状の縦型反応器に充填する触媒量はガス線速や接触時間によって最適充填長が異なることから様々な使用量が用いられるが、一般的に円筒状の縦型反応器に10cmから500cmの範囲で充填される。
【0033】
液相反応の場合、Cu含有触媒は、反応器内の総液量に対して質量で0.1~20%の範囲で用いることが好ましい。反応速度の点からは1%以上で用いることが好ましく、反応後の触媒分離工程や反応中の攪拌効率などの点では10%以下で用いることが好ましい。
反応器の材質としては、ガラス、鉄、ニッケル、ステンレス鋼、鉄またはニッケルを主成分とする合金等が挙げられる。
反応器は、電気ヒータ等の加熱部を内部に備えていてもよい。反応器は、内部の温度を測定するための温度計が挿入される、さや管を有していてもよい。
【0034】
本発明の製造方法における、1214yaと水素との反応は、液相反応および気相反応のいずれでもよい。
液相反応とは、液体状態の1214yaを水素と反応させることをいう。
気相反応とは、気体状態の1214yaを水素と反応させることをいう。
液相反応で実施する場合は、反応器内部の圧力が高くなり高圧反応となることから、気相反応で実施することがより好ましい。
上記反応は、バッチ式で行なってもよいし、半連続式、連続流通式で行なってもよい。
【0035】
液相反応について詳細に説明する。
液相反応の具体的な手順としては、例えば、1214yaと触媒との混合物が液体状態として存在する反応器内に、連続的または非連続的に水素を供給し、反応によって生成する1224ydを反応器内から連続または非連続的に抜き出す手順が挙げられる。
【0036】
液相反応における反応温度は、1224ydの収率の点から、30℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、160℃超がさらに好ましい。また、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、225℃未満がさらに好ましい。
液相反応における反応時間は、1224ydの収率および製造効率の点から、0.1~100時間が好ましく、0.5~50時間がより好ましく、1~20時間がさらに好ましい。反応時間は、反応器内での原料(1214yaおよび水素)の滞留時間を意味する。 液相反応は、必要に応じて、溶媒の存在下にて実施してもよい。溶媒としては、例えばCF3(CF2nCF3(ただし、式中nは、3~6の整数を表す。)で表される炭素数5~8の直鎖パーフルオロアルキル化合物が挙げられる。
【0037】
次に、気相反応について詳細に説明する。
気相反応の具体的な手順としては、ガス状態に加熱された原料である1214yaと水素とを反応器内に連続的に供給して、反応器に充填されたCu含有触媒と、ガス状態の1214yaおよび水素とを接触させて、1224ydを得る手順が挙げられる。
流量の調整、副生物の抑制、触媒失活の抑制などに有効である点から、上記反応に不活性なガス(希釈ガス)を反応器に供給してもよい。希釈ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンが挙げられる。
【0038】
気相反応における反応温度(反応器内の温度)は、1224ydの収率の点から、「Cu触媒」を用いる場合は、100℃以上350℃以下が好ましく、160℃以上350℃以下がより好ましく、200℃超300℃未満がさらに好ましい。反応器内の温度が上記範囲であることにより、1224ydの収率がより高くなる。
「Cu-M触媒」を用いる場合は、30℃以上350℃以下が好ましく、100℃以上300℃以下がより好ましく、160℃以上225℃以下がさらに好ましく、180℃以上225℃以下が特に好ましい。反応器内の温度が上記範囲であることにより、1224ydの収率がより高くなる。一方、副生物の生成を抑え、1224ydの選択率を向上できる観点からは、200℃以上280℃以下が好ましく、200℃以上250℃以下がより好ましく、200℃以上225℃以下がさらに好ましい。
反応器内の温度は、反応器に供給される1214yaおよび水素の温度および圧力を調整することにより制御できる。必要に応じて、電気ヒータやマイクロウェーブ発生機等により反応器内を補助的に加熱できる。
【0039】
気相反応における反応時間は、0.1~1000秒間が好ましく、1~800秒間がより好ましく、5~600秒間がさらに好ましく、10~500秒間が特に好ましい。反応時間が0.1~1000秒間であることにより、1214yaの還元反応が十分に進行し、1224ydの収率がより高くなる。
反応時間は、原料である1214yaおよび水素の反応器内での滞留時間に相当し、1214yaおよび水素の反応器への供給量(流量)を調節することにより制御できる。
【0040】
気相反応における反応系の圧力(反応器内の圧力)は、0~2.0MPaが好ましく、0~0.5MPaがより好ましい。陰圧でもよい。反応器内の圧力は、取り扱い性の点から、常圧(大気圧)が特に好ましい。本明細書において、特に断らない限り、圧力はゲージ圧を示す。
液相反応における反応器内の圧力は、原料が液体として反応器内に存在する圧力で実施することが好ましく、通常、反応温度における原料物質の蒸気圧より高い圧力で実施することが好ましい。例えば、0.1~10MPaが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法において、1224ydが生成物として得られる。得られる1224ydは、上述したように、Z体単独であってもよく、E体単独であってもよく、Z体とE体との混合物であってよい。
得られる1224ydがZ体とE体との混合物である場合、E体の質量に対するZ体の質量の比(Z/E)は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、10以上が特に好ましい。上記比の上限は、通常、100である。
例えば、1224yd(Z)は1224yd(E)よりも化学的安定性が高い。このため、質量比(Z/E)が上記下限値以上であれば、1224ydを、例えば、洗浄剤、冷媒、熱媒体、発泡剤、溶媒等の各種用途に使用しやすい。
【0042】
本発明の製造方法によって得られる生成物中には、目的物である1224ydのほかに、不純物が含まれ得る。不純物の具体例としては、1214yaの水素化がさらに進行して生成する2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3CF=CH2、HFO-1234yf。以下、1234yfとも記す。)、過還元体である1,1,1-トリフルオロプロペン(CF3CH=CH2、HFO-1243zf。以下、1243zfとも記す。)、1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(254eb)が挙げられる。
【0043】
生成物中における1234yf、1243zfおよび254ebの合計含有量は、生成物全質量に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。上記含有量の下限は、通常、0質量%である。
生成物に不純物が含まれる場合、得られた生成物から1224ydを蒸留等の公知の方法により分離する処理を実施してもよい。
【0044】
次に、気相反応のより詳細な態様を、図1を参照して説明する。図1に示す反応装置20は、気相反応に使用される反応装置の一例である。
反応装置20は、反応器1を備える。反応器1には、1214yaの供給ライン2、水素の供給ライン3、および、希釈ガスである窒素の供給ライン4が接続されている。
反応器1は、電気ヒータ等の加熱部を備えることが好ましい。
1214yaの供給ライン2、および、水素の供給ライン3は、それぞれ別々に反応器1に接続されてもよいが、反応器1の手前で連結されて反応器1に接続されてもよい。例えば、図1に示すように、1214yaの供給ライン2、水素の供給ライン3、および、窒素の供給ライン4を連結する。これにより、1214yaと水素と窒素との混合物が、混合物供給ライン5を経由して、反応器1に供給される。
【0045】
図1に示す反応装置20においては、1214yaの供給ライン2、水素の供給ライン3、および、窒素の供給ライン4には、それぞれ、電気ヒータ等を備えた予熱器(プレヒータ)2a、3aおよび4aが設けられている。反応器1に供給される1214ya、水素および窒素は、それぞれ、予熱器2a、3aおよび4aによって所定の温度に予熱されてから反応器1に供給されることが好ましい。これにより、1214ya、水素および窒素を、反応器1の内部で所定の反応温度まで効率よく昇温できる。予熱器2a、3aおよび4aは、必須ではないが、設置されることが好ましい。
【0046】
反応器1の出口には、熱交換器などの冷却部6を介して、出口ライン7が接続されている。出口ライン7には、さらに、水蒸気および酸性液の回収槽8、アルカリ洗浄装置9、ならびに、脱水塔10が順に接続されている。
反応器1から取り出された反応混合物は、出口ライン7以降の処理によって、塩化水素、フッ化水素などの酸性物質、水蒸気、水が除去される。こうして得られたガスを、以下、「出口ガス」という。出口ガス中の各成分が、ガスクロマトグラフ(GC)等の分析装置により分析および定量される。
【0047】
例えば、1214yaの還元反応における出口ガスは、1224ydを含む。
この場合、出口ガスに含まれる1224yd以外の化合物としては、未反応原料である1214yaに加えて、1234yf、1243zfおよび254eb等が挙げられる。
【0048】
出口ガスに含まれる1224yd以外の成分を、蒸留等の既知の手段により分離除去することで、高純度に精製された1224ydを製造できる。
【0049】
反応装置20においては、反応器1から出た反応混合物や出口ガスから、蒸留等によって未反応の1214yaを分離し、原料の一部として反応器に戻すことができる。これにより1224ydの生産性を向上できる。
【実施例
【0050】
以下に、例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定されない。例1~3、6~9、12~16、19~22、24~29、30~41は実施例、例4、5、10、11、17、18、23は比較例である。
【0051】
〈触媒調製〉
《Cu触媒》
含浸法により塩化銅を活性炭に担持し、その後、塩化銅を水素還元して、活性炭担持の銅触媒(Cu触媒)を調製した。以下、含浸法を用いた具体的な調製手順を記す。
塩化銅(II)(25.40g、純正化学社製)、イオン交換水(160.0g)、および、活性炭(120.0g、白鷺C2X、大阪ガスケミカル社製)をフラスコ内で混合し、3日間静置した後、エバポレーターを用いて水を減圧留去した。フラスコ内の混合物を、反応管に移した後、反応管を200℃に保ち、窒素ガスを16.7mL/秒で16時間供給して乾燥した。これにより、塩化銅が担持された活性炭を得た。その後、還元処理を行った。すなわち、反応管を180℃に保ち、水素ガスを1.67mL/秒で16時間供給し、塩化銅を還元して銅にした。こうして、活性炭に担持されたCu触媒を得た。Cu触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0052】
《Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)》
含浸法により塩化銅および塩化パラジウムを活性炭に担持した。その後、塩化銅および塩化パラジウムを水素還元して、活性炭担持の銅/パラジウム触媒(Cu-Pd触媒)を調製した。ただし、触媒の調製方法は、含浸法に限定されない。以下、含浸法を用いた具体的な調製手順を記す。
塩化銅(II)(25.40g、純正化学社製)、塩化パラジウム(II)(0.33g、純正化学社製)、イオン交換水(160.0g)、塩酸(35質量%、ナカライテスク社製)、および、活性炭(120.0g、白鷺C2X、大阪ガスケミカル社製)をフラスコ内で混合し、3日間静置した後、エバポレーターを用いて水を減圧留去した。フラスコ内の混合物を、反応管に移した後、反応管を200℃に保ち、窒素ガスを16.7mL/秒で16時間供給して乾燥した。これにより、塩化銅および塩化パラジウムが担持された活性炭を得た。その後、還元処理を行った。すなわち、反応管を180℃に保ち、水素ガスを1.67mL/秒で16時間供給し、塩化銅および塩化パラジウムを還元して、それぞれ銅およびパラジウムにした。こうして、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/60であるCu-Pd触媒を得た。Cu―Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0053】
《Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/20)》
はじめに混合する塩化パラジウム(II)の量を0.99gに変更した以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/20であるCu-Pd触媒を得た。Cu―Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0054】
《Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/99)》
はじめに混合する塩化パラジウム(II)の量を0.20gに変更した以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/99であるCu-Pd触媒を得た。Cu―Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0055】
《Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/199)》
はじめに混合する塩化パラジウム(II)の量を0.10gに変更した以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/199であるCu-Pd触媒を得た。Cu―Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0056】
《Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)》
はじめに混合する塩化パラジウム(II)の量を0.05gに変更した以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/399であるCu-Pd触媒を得た。Cu―Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0057】
《Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/999)》
はじめに混合する塩化パラジウム(II)の量を0.02gに変更した以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/999であるCu-Pd触媒を得た。Cu―Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0058】
《Pd触媒》
塩化銅(II)を使用しなかった以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持されたPd触媒を得た。Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して9質量部であった。
【0059】
〈反応〉
《例1》
図1に基づいて説明した反応装置20と同様の反応装置を用いて、以下に説明するように、1214yaと水素とを反応させて、1224ydを得た。
反応器1として、電気炉内に設置した、SUS304製、内径35.3mmの反応管を使用した。反応管のさや管には、内部の温度を測定するための温度計を挿入した。反応管に、上述した方法により調製した、活性炭に担持されたCu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)を30cmの長さで充填した。反応管内の温度は180℃に管理した。
このような反応器1に、ステンレス鋼製チューブである供給ライン2、3および4から、それぞれ、1214ya、水素および窒素を連続的に供給した。予熱器2a、3aおよび4aとしては、炉内温度220℃に設定した電気炉を用いた。1214ya、水素および窒素の供給割合が、それぞれ、25モル%、25モル%および50モル%となるように制御して反応器1に供給した。
反応器1の内部における混合ガス(1214ya、水素および窒素)の滞留時間が120秒間となるように、混合ガスの流量(単位時間当たりの供給量)を制御した。
反応器1の内部の圧力は、大気圧と同一であった。
【0060】
得られた生成物(出口ガス)の組成分析は、ガスクロマトグラフ(GC)を用いて行なった。カラムはDB-1301(長さ60m×内径250μm×厚み1μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。反応器に供給した1214yaのモル量に対する、生成物中の1224ydのモル量の割合(単位:%)を求め、これを「1224yd収率」とした。この値が大きいほど、1224ydの収率が高いと評価できる。結果を下記表1に示す。
【0061】
《例2》
Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)に代えて、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/199)を使用した以外は、例1と同様にして反応を行なった。結果を下記表1に示す。
【0062】
《例3》
Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)に代えて、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/99)を使用した以外は、例1と同様にして反応を行なった。結果を下記表1に示す。
【0063】
《例4》
Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)に代えて、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/20)を使用した以外は、例1と同様にして反応を行なった。結果を下記表1に示す。
【0064】
《例5》
Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)に代えて、Pd触媒を使用した以外は、例1と同様にして反応を行なった。結果を下記表1に示す。
【0065】
表1中、「<5」は、5未満であることを意味する。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、本発明の製造方法によれば、1224ydの収率が優れることが確認された。
なかでも、例1~例3と例4との比較より、Pd/Cuが1/199以上1/40以下の場合、より効果が優れることが確認された。
【0068】
《例6~例8》
反応温度を200℃にした以外は、それぞれ、例1~例3と同様にして反応を行った。結果を下記表2に示す。
【0069】
《例9》
Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)に代えて、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)を使用した以外は、例1と同様にして反応を行なった。結果を下記表2に示す。
【0070】
《例10~例11》
反応温度を200℃にした以外は、それぞれ、例4~例5と同様にして反応を行った。結果を下記表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、本発明の製造方法によれば、1224ydの収率が優れることが確認された。
なかでも、例6~例9の比較より、Pd/Cuが1/60以下の場合、より効果が優れることが確認された。
【0073】
《例12》
Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/399)に代えて、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/999)を使用し、反応温度を220℃にした以外は、例1と同様にして反応を行なった。結果を下記表3に示す。
【0074】
《例13~例18》
反応温度を220℃にした以外は、それぞれ、例6~例11と同様にして反応を行った。結果を下記表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
表3に示すように、本発明の製造方法によれば、1224ydの収率が優れることが確認された。
【0077】
《例19~例22》
反応温度を180℃~225℃にした以外は、それぞれ、例3と同様にして反応を行った。得られた生成物(出口ガス)の組成分析は、ガスクロマトグラフ(GC)を用いて行なった。カラムはDB-1301(長さ60m×内径250μm×厚み1μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。反応器に供給した1214yaのモル量に対して、反応で消費された1214yaのモル量の割合(単位:%)を求め、これを「1214ya転化率」とした。この値が大きいほど、触媒の活性が高いと評価できる。結果を下記表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に示すように、反応温度が200℃以上の場合、転化率がより優れていた。
【0080】
《例23~例29》
表5に記載の触媒および反応温度にした以外は、それぞれ、例1と同様にして反応を行った。1214ya転化率が70~90%となった時点で反応を終了した。得られた生成物(出口ガス)の組成分析は、ガスクロマトグラフ(GC)を用いて行なった。カラムはDB-1301(長さ60m×内径250μm×厚み1μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。反応で消費された1214yaのモル量に対する1224yd、1234yfおよび1243zfの割合(単位:%)を求め、これを「1224yd、1234yf、1243zf選択率」とした。1224yd選択率の値が大きいほど、触媒の選択性が高いと評価できる。1214ya転化率、1224yd収率の結果を下記表5に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
本発明の実施例の製造方法によれば、1224ydの収率が高いことがわかる。
【0083】
《CuCl-PdCl2触媒(Pd/Cu=1/100)》
原料を塩化銅(II)から塩化銅(I)(ナカライテスク社製)に変更し、混合する各原料の量を塩化銅(I)14.99g、塩化パラジウム(II)0.16g、イオン交換水295.9g、塩酸(35質量%)40.51g、および、活性炭149.9gに変更し、還元処理を行わなかった以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/100であるCuCl-PdCl2触媒を得た。CuCl-PdCl2触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。
【0084】
《CuCl-PdCl2触媒(Pd/Cu=1/300)》
原料を塩化銅(II)から塩化銅(I)(ナカライテスク社製)に変更し、混合する各原料の量を塩化銅(I)19.82g、塩化パラジウム(II)0.05g、イオン交換水252.8g、塩酸(35質量%)79.48g、および、活性炭200.0gに変更し、還元処理を行わなかった以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/300であるCuCl-PdCl2触媒を得た。CuCl-PdCl2触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。
【0085】
《CuCl-PdCl2触媒(Pd/Cu=1/500)》
原料を塩化銅(II)から塩化銅(I)(ナカライテスク社製)に変更し、混合する各原料の量を塩化銅(I)19.92g、塩化パラジウム(II)0.04g、イオン交換水107.2g、塩酸(35質量%)242.48g、および、活性炭198.8gに変更し、還元処理を行わなかった以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/500であるCuCl-PdCl2触媒を得た。CuCl-PdCl2触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。
【0086】
《CuCl-PtCl2触媒(Pt/Cu=1/60)》
原料を塩化銅(II)から塩化銅(I)(ナカライテスク社製)に変更し、かつ、塩化パラジウム(II)から塩化白金(II)(和光純薬社製)に変更し、混合する各原料の量を塩化銅(I)20.58g、塩化白金(II)0.26g、イオン交換水100.1g、塩酸(35質量%)300.56g、および、活性炭198.0gに変更し、還元処理を行わなかった以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPtの質量比(Pt/Cu)が1/60であるCuCl-PtCl2触媒を得た。CuCl-PtCl2触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。
【0087】
《CuCl-PtCl触媒(Pd/Cu=1/99)》
原料を塩化銅(II)から塩化銅(I)(ナカライテスク社製)に変更し、かつ、塩化パラジウム(II)から塩化白金(II)(和光純薬社製)に変更し、混合する各原料の量を塩化銅(I)21.10g、塩化白金(II)0.18g、イオン交換水101.9g、塩酸(35質量%)263.25g、および、活性炭198.1gに変更し、還元処理を行わなかった以外は、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/60)と同様の操作を行ない、活性炭に担持された、Cuに対するPtの質量比(Pt/Cu)が1/99であるCuCl-PtCl2触媒を得た。CuCl-PtCl2触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。
【0088】
上記触媒以外に、塩化銅(II)および塩化パラジウム(II)を原料として、活性炭に担持された、CuCl2-PdCl2触媒を用意し、還元処理を行ってCu-Pd触媒を得た。還元処理は、反応管を250℃に保ち、水素ガスを100mL/秒、窒素ガスを1000mL/秒で6時間供給した。上記CuCl2-PdCl2触媒を前駆体として得られるCu-Pd触媒において、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)は1/99であり、Cu-Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。
また、酸化銅(II)および酸化パラジウム(II)を原料として、活性炭に担持された、CuO-PdO触媒を用意し、還元処理を行ってCu-Pd触媒を得た。還元処理は、反応管を250℃に保ち、水素ガスを100mL/秒、窒素ガスを1000mL/秒で6時間供給した。上記CuO-PdO触媒を前駆体として得られるCu-Pd触媒において、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)は1/110であり、Cu-Pd触媒の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。
また、上記CuO-PdO触媒を前駆体として得られるCu-Pd触媒(Pd/Cu=1/110)を製造する手順を参照し、使用する原料の量を調整して、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/84であるCu-Pd触媒(Pd/Cu=1/84)、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/566であるCu-Pd触媒(Pd/Cu=1/566)、Cuに対するPdの質量比(Pd/Cu)が1/750であるCu-Pd触媒(Pd/Cu=1/750)を調製した。
なお、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/84)の担持量は、活性炭の100質量部に対して2質量部であった。また、Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/566)の担持量は、活性炭の100質量部に対して6質量部であった。Cu-Pd触媒(Pd/Cu=1/750)の担持量は、活性炭の100質量部に対して8質量部であった。
【0089】
《例30~例32》
反応器1を、塩浴炉内に設置した、SUS304製、内径21.4mmのU字型反応管に変更し、表6に記載の触媒および反応温度にした以外は例1と同様にして反応を行った。
反応管のさや管には、内部の温度を測定するための温度計を挿入した。反応管には表6に記載の触媒を40cmの長さで充填した。
【0090】
得られた生成物(出口ガス)の組成分析は、ガスクロマトグラフ(GC)を用いて行なった。カラムはDB-1301(長さ60m×内径250μm×厚み1μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。反応で消費された1214yaのモル量に対する1224yd、1234yfおよび1243zfの割合(単位:%)を求め、これを「1224yd、1234yf、1243zf選択率」とした。1224yd選択率の値が大きいほど、触媒の選択性が高いと評価できる。1214ya転化率、1224yd収率の結果を下記表6に示す。
表6中、「Cu-Pd触媒(CuCl2-PdCl2触媒)」は、上記で製造した、CuCl2-PdCl2触媒を前駆体として得られるCu-Pd触媒を意味する。「Cu-Pd触媒(CuO-PdO触媒)」は、上記で製造した、CuO-PdO触媒を前駆体として得られるCu-Pd触媒を意味する。また、Cu/Pdは、各触媒中のCuに対するPdの質量比を表す。
【0091】
【表6】
【0092】
表6に示すように、CuCl-PdCl2触媒を用いた場合、より効果が優れることが確認された。
【0093】
《例33~例36》
表7に記載の触媒および反応温度にした以外は、それぞれ、例30と同様にして反応を行った。
【0094】
【表7】
【0095】
表7に示すように、CuO-PdO触媒を前駆体として得られるCu-Pd触媒中のPd/Cuを変更した場合も、1224ydの選択率と収率が高く、所定の効果が得られることが確認された。
【0096】
《例37~例41》
表8に記載の触媒および反応温度にした以外は、それぞれ、例30と同様にして反応を行った。
【0097】
【表8】
【0098】
表8に示すように、CuCl-PdCl2触媒中のPd/Cu、および、CuCl-PtCl2触媒中のPt/Cuを変更した場合も、1224ydの選択率と収率が高く、所定の効果が得られることが確認された。
【0099】
なお、2019年4月16日に出願された日本特許出願2019-077752号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0100】
1:反応器
2:式(1)で表される化合物の供給ライン
2a:予熱器
3:水素の供給ライン
3a:予熱器
4:窒素の供給ライン
4a:予熱器
5:混合物供給ライン
6:冷却部
7:出口ライン
8:水蒸気および酸性液の回収槽
9:アルカリ洗浄装置
10:脱水塔
20:反応装置
図1