IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許7484909マレイミド樹脂組成物、プリプレグ、積層板、樹脂フィルム、多層プリント配線板及び半導体パッケージ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】マレイミド樹脂組成物、プリプレグ、積層板、樹脂フィルム、多層プリント配線板及び半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20240509BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20240509BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20240509BHJP
   C08F 36/04 20060101ALI20240509BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240509BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240509BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20240509BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08L15/00
C08K5/3415
C08F8/30
C08F36/04
C08J5/24 CER
C08J5/24 CFG
C08J5/18 CER
C08J5/18 CFG
B32B15/088
H05K1/03 610N
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021527732
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025028
(87)【国際公開番号】W WO2020262537
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2019117606
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 彩
(72)【発明者】
【氏名】小竹 智彦
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大輔
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-189644(JP,A)
【文献】特開2014-084413(JP,A)
【文献】特開平06-192322(JP,A)
【文献】特開2016-166261(JP,A)
【文献】特開昭58-027703(JP,A)
【文献】特開2016-135859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00、301/00
C08C 19/00-19/44
C08J 5/00-5/24
B32B 15/088
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される1種以上と、
(B)変性共役ジエンポリマーと、を含有し、
前記(B)成分が、(b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマーを、(b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物で変性してなるものであり、
前記(A)成分と前記(B)成分との含有量比[(A)/(B)]が、質量基準で、2.2~5.0である、マレイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、側鎖に、前記(b1)成分が有するビニル基と、前記(b2)成分が有するN-置換マレイミド基と、が反応してなる置換基(x)を有する、請求項1に記載のマレイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記置換基(x)が、前記(b2)成分由来の構造として、下記一般式(B-11)又は(B-12)で表される構造を含む基である、請求項2に記載のマレイミド樹脂組成物。
【化1】

(式中、XB1は、2価の有機基であり、*B1は、前記(b1)成分が側鎖に有するビニル基由来の炭素原子に結合する部位である。*B2は、他の原子に結合する部位である。)
【請求項4】
前記(B)成分が、側鎖に、前記置換基(x)とビニル基(y)とを有し、1分子中に有する前記置換基(x)と前記ビニル基(y)との合計数に対する、前記置換基(x)の数の比率[x/(x+y)]が、0.01~0.5である、請求項2又は3に記載のマレイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の数平均分子量が、700~6,000である、請求項1~4のいずれか1項に記載のマレイミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(b1)成分が、1,2-ビニル基を有するポリブタジエンである、請求項1~5のいずれか1項に記載のマレイミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記1,2-ビニル基を有するポリブタジエンを構成するブタジエン由来の全構造単位に対して、1,2-ビニル基を有する構造単位の含有量が、50モル%以上である、請求項6に記載のマレイミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記(b2)成分が、脂肪族炭化水素基で置換された芳香族ビスマレイミド化合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載のマレイミド樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、前記(B)成分以外の熱可塑性エラストマー及び無機充填材(D)を含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のマレイミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のマレイミド樹脂組成物を含有してなるプリプレグ。
【請求項11】
請求項10に記載のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載のマレイミド樹脂組成物を含有してなる樹脂フィルム。
【請求項13】
請求項10に記載のプリプレグ、請求項11に記載の積層板及び請求項12に記載の樹脂フィルムからなる群から選択される1種以上を含有してなる多層プリント配線板。
【請求項14】
請求項13に記載の多層プリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体パッケージ。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載のマレイミド樹脂組成物を製造する方法であって、下記工程1及び2を含む、マレイミド樹脂組成物の製造方法。
工程1:(b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマーと、(b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物と、を反応させて、(B)変性共役ジエンポリマーを得る工程
工程2:(A)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される1種以上と、(B)変性共役ジエンポリマーと、を混合する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイミド樹脂組成物、プリプレグ、積層板、樹脂フィルム、多層プリント配線板及び半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体通信機器、その基地局装置、サーバー、ルーター等のネットワークインフラ機器、大型コンピュータなどでは、使用する信号の高速化及び大容量化が年々進んでいる。これに伴い、これらの電子機器に搭載されるプリント配線板には高周波化対応が必要となり、伝送損失の低減を可能とする高周波数帯における誘電特性(低誘電率及び低誘電正接;以下、高周波特性と称することがある。)に優れる基板材料が求められている。近年、このような高周波信号を扱うアプリケーションとして、上述した電子機器のほかに、ITS分野(自動車、交通システム関連)及び室内の近距離通信分野でも高周波無線信号を扱う新規システムの実用化又は実用計画が進んでおり、今後、これらの機器に搭載するプリント配線板に対しても、低伝送損失基板材料がさらに要求されると予想される。
【0003】
従来、低伝送損失が要求されるプリント配線板には、高周波特性に優れる熱可塑性ポリマーが使用されてきた。熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリブタジエン等の分子内に極性基を有しないものが低誘電正接化に有効である。しかしながら、これらの熱可塑性ポリマーは他の樹脂との相容性が低く、樹脂組成物にした際に他の成分との分離が生じる等、取り扱い性に劣る問題がある。
【0004】
熱可塑性ポリマーの相容性を改善する方法として、熱可塑性ポリマーを変性する方法が検討されている。
特許文献1には、誘電正接が低く、低熱膨張であり、配線の埋め込み性及び平坦性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供することを課題として、無機充填材(A)、N-置換マレイミド基を少なくとも2個有するマレイミド化合物(a1)由来の構造単位とジアミン化合物(a2)由来の構造単位とを有するポリイミド化合物(B)を含有する熱硬化性樹脂組成物において、酸無水物で変性されているポリブタジエン系エラストマーを配合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-012747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の樹脂組成物は、熱可塑性ポリマーの相容性を改善しつつ、高周波数帯における誘電特性にも優れる結果となっている。しかしながら、近年、基板材料は、6GHzを超える周波数帯の電波が使用される第五世代移動通信システム(5G)アンテナ及び30~300GHzの周波数帯の電波が使用されるミリ波レーダーへの適用が要求されている。そのためには、10GHz帯以上における誘電特性がより一層改善された樹脂組成物の開発が必要であるが、特許文献1の技術では、諸特性を良好に保ったまま更なる誘電特性の向上を達成することが困難であった。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑み、良好な耐熱性及び低熱膨張性を有しながらも、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性を発現する、取り扱い性に優れるマレイミド樹脂組成物、該マレイミド樹脂組成物を用いたプリプレグ、積層板、樹脂フィルム、多層プリント配線板及び半導体パッケージを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記の課題を解決すべく検討を進めた結果、下記の本発明により当該課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、下記[1]~[15]に関する。
[1](A)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される1種以上と、
(B)変性共役ジエンポリマーと、を含有し、
前記(B)成分が、(b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマーを、(b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物で変性してなるものである、マレイミド樹脂組成物。
[2]前記(B)成分が、側鎖に、前記(b1)成分が有するビニル基と、前記(b2)成分が有するN-置換マレイミド基と、が反応してなる置換基(x)を有する、上記[1]に記載のマレイミド樹脂組成物。
[3]前記置換基(x)が、前記(b2)成分由来の構造として、下記一般式(B-11)又は(B-12)で表される構造を含む基である、上記[2]に記載のマレイミド樹脂組成物。
【化1】

(式中、XB1は、2価の有機基であり、*B1は、前記(b1)成分が側鎖に有するビニル基由来の炭素原子に結合する部位である。*B2は、他の原子に結合する部位である。)[4]前記(B)成分が、側鎖に、前記置換基(x)とビニル基(y)とを有し、1分子中に有する前記置換基(x)と前記ビニル基(y)との合計数に対する、前記置換基(x)の数の比率[x/(x+y)]が、0.01~0.5である、上記[2]又は[3]に記載のマレイミド樹脂組成物。
[5]前記(B)成分の数平均分子量が、700~6,000である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のマレイミド樹脂組成物。
[6]前記(b1)成分が、1,2-ビニル基を有するポリブタジエンである、上記[1]~[5]のいずれかに記載のマレイミド樹脂組成物。
[7]前記1,2-ビニル基を有するポリブタジエンを構成するブタジエン由来の全構造単位に対して、1,2-ビニル基を有する構造単位の含有量が、50モル%以上である、上記[6]に記載のマレイミド樹脂組成物。
[8]前記(b2)成分が、脂肪族炭化水素基で置換された芳香族ビスマレイミド化合物である、上記[1]~[7]のいずれかに記載のマレイミド樹脂組成物。
[9]前記(A)成分と前記(B)成分との含有量比[(A)/(B)]が、質量基準で、1.0超である、上記[1]~[8]のいずれかに記載のマレイミド樹脂組成物。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載のマレイミド樹脂組成物を含有してなるプリプレグ。
[11]上記[10]に記載のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板。
[12]上記[1]~[9]のいずれかに記載のマレイミド樹脂組成物を含有してなる樹脂フィルム。
[13]上記[10]に記載のプリプレグ、上記[11]に記載の積層板及び上記[12]に記載の樹脂フィルムからなる群から選択される1種以上を含有してなる多層プリント配線板。
[14]上記[13]に記載の多層プリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体パッケージ。
[15]上記[1]~[9]のいずれかに記載のマレイミド樹脂組成物を製造する方法であって、下記工程1及び2を含む、マレイミド樹脂組成物の製造方法。
工程1:(b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマーと、(b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物と、を反応させて、(B)変性共役ジエンポリマーを得る工程
工程2:(A)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される1種以上と、(B)変性共役ジエンポリマーと、を混合する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な耐熱性及び低熱膨張性を有しながらも、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性を発現する、取り扱い性に優れるマレイミド樹脂組成物、該マレイミド樹脂組成物を用いたプリプレグ、積層板、樹脂フィルム、多層プリント配線板及び半導体パッケージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、数値範囲の下限値及び上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値又は上限値と任意に組み合わせられる。
また、本明細書に例示する各成分及び材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
【0011】
[マレイミド樹脂組成物]
本実施形態のマレイミド樹脂組成物[以下、単に樹脂組成物と略称することがある。]は、
(A)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される1種以上[以下、単にマレイミド化合物(A)又は(A)成分と略称することがある。]と、
(B)変性共役ジエンポリマー[以下、変性共役ジエンポリマー(B)又は(B)成分と略称することがある。]と、を含有し、
前記(B)成分が、(b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマー[以下、単にジエン系ポリマー(b1)又は(b1)成分と略称することがある。]を、
(b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物[以下、単にマレイミド化合物(b2)又は(b2)成分と略称することがある。]で変性してなるものである、マレイミド樹脂組成物である。
【0012】
本実施形態のマレイミド樹脂組成物が、良好な耐熱性及び低熱膨張性を有しながらも、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性を発現し、取り扱いに優れる理由については定かでないが次のように推測される。
共役ジエンポリマーは分子内に極性を有する基を含まないことから誘電正接の低減に有効である一方、マレイミド化合物との相容性に劣るため、分離が生じるなど取り扱い性に劣る。一方、これを改善するために共役ジエンポリマーに酸素原子等を導入すると誘電正接の低減効果が小さくなる。これに対して、本実施形態のマレイミド樹脂組成物は、共役ジエンポリマーとして側鎖にビニル基を有するものを採用し、該ビニル基と変性用のマレイミド化合物とを事前に反応させることで、共役ジエンポリマーと、その後の主剤として用いるマレイミド化合物との相容性を改善したものである。これによって、本実施形態のマレイミド樹脂組成物は、取り扱い性に優れたものとなる。
さらに、この樹脂組成物は単に相容性に優れるのみならず、耐熱性、熱膨張係数に優れ、誘電正接が予想外にも低減されたものとなる。これは、共役ジエンポリマーがマレイミド化合物と相容することにより誘電正接の低減効果が十分に発揮されるようになったことに加え、変性用のマレイミド化合物によって共役ジエンポリマーに導入されたN-置換マレイミド基が、その後の主剤として用いるマレイミド化合物と良好に反応することによって、樹脂組成物全体の硬化性が向上したことによると推測される。
以下、各成分について順に詳述する。
【0013】
<マレイミド化合物(A)>
マレイミド化合物(A)は、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される1種以上である。
上記「N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物の誘導体」としては、上記N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物と、後述するジアミン化合物(a2)等のアミン化合物との付加反応物などが挙げられる。
(A)成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
マレイミド化合物(A)としては、他の樹脂との相容性、導体との接着性及び誘電特性の観点から、
(i)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物(a1)[以下、単にマレイミド化合物(a1)又は(a1)成分と略称することがある。]、及び
(ii)マレイミド化合物(a1)由来の構造単位とジアミン化合物(a2)由来の構造単位とを有するポリアミノビスマレイミド化合物[以下、ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)又は(A1)成分と略称することがある。]
からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0015】
(マレイミド化合物(a1))
(a1)成分の具体例としては、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物であれば特に限定されないが、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン等の分子内に2つのN-置換マレイミド基を有する芳香族マレイミド化合物;ポリフェニルメタンマレイミド、ビフェニルアラルキル型マレイミド等の分子内に3つ以上のN-置換マレイミド基を有する芳香族ポリマレイミド化合物;1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ピロリン酸バインダ型長鎖アルキルビスマレイミド等の脂肪族マレイミド化合物などが挙げられる。これらの中でも、他の樹脂との相容性、導体との接着性、耐熱性、低熱膨張性及び機械特性の観点から、分子内に2つのN-置換マレイミド基を有する芳香族マレイミド化合物、分子内に3つ以上のN-置換マレイミド基を有する芳香族ポリマレイミド化合物が好ましく、分子内に3つ以上のN-置換マレイミド基を有する芳香族ポリマレイミド化合物がより好ましく、ビフェニルアラルキル型マレイミドがさらに好ましい。
(a1)成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(a1)成分としては、下記一般式(a1-1)で表されるビスマレイミド化合物が好ましい。
【0017】
【化2】

(式中、Xa1は2価の有機基である。)
【0018】
上記一般式(a1-1)中のXa1は2価の有機基であり、(a1)成分の残基に相当する。なお、(a1)成分の残基とは、(a1)成分からN-置換マレイミド基を除いた部分の構造をいう。
a1が表す2価の有機基としては、下記一般式(a1-2)、(a1-3)、(a1-4)、(a1-5)又は(a1-6)で表される基が挙げられる。
【0019】
【化3】

(式中、Ra1は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子である。p1は0~4の整数である。*は結合部位を表す。)
【0020】
a1が表す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であってもよく、メチル基であってもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
p1は0~4の整数であり、入手容易性の観点から、0~2の整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。p1が2以上の整数である場合、複数のRa1同士は同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
【化4】

(式中、Ra2及びRa3は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子である。Xa2は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基、単結合、又は下記一般式(a1-3-1)で表される2価の基である。p2及びp3は、各々独立に、0~4の整数である。*は結合部位を表す。)
【0022】
a2及びRa3が表す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子としては、Ra1の場合と同じものが挙げられる。該脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であってもよく、メチル基、エチル基であってもよく、エチル基であってもよい。
a2が表す炭素数1~5のアルキレン基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等が挙げられる。該アルキレン基としては、他の樹脂との相容性、導体との接着性、耐熱性、低熱膨張性及び機械特性の観点から、炭素数1~3のアルキレン基であってもよく、メチレン基であってもよい。
a2が表す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。これらの中でも、他の樹脂との相容性、導体との接着性、耐熱性、低熱膨張性及び機械特性の観点から、イソプロピリデン基であってもよい。
a2としては、上記選択肢の中でも、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基であってもよい。
p2及びp3は、各々独立に、0~4の整数であり、入手容易性の観点から、いずれも、0~2の整数であってもよく、0又は2であってもよい。p2又はp3が2以上の整数である場合、複数のRa2同士又はRa3同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
なお、Xa2が表す一般式(a1-3-1)で表される2価の基は以下のとおりである。
【0023】
【化5】

(式中、Ra4及びRa5は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子である。Xa3は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合である。p4及びp5は、各々独立に、0~4の整数である。*は結合部位を表す。)
【0024】
a4及びRa5が表す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子としては、Ra1の場合と同様に説明される。
a3が表す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基としては、Xa2が表す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基と同じものが挙げられる。
a3としては、上記選択肢の中から、炭素数2~5のアルキリデン基を選択してもよい。
p4及びp5は、各々独立に、0~4の整数であり、入手容易性の観点から、いずれも、0~2の整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。p4又はp5が2以上の整数である場合、複数のRa4同士又はRa5同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
【化6】

(式中、p6は0~10の整数である。*は結合部位を表す。)
【0026】
p6は、入手容易性の観点から、0~5の整数であってもよく、0~3の整数であってもよい。
【0027】
【化7】

(式中、p7は0~5の数である。*は結合部位を表す。)
【0028】
【化8】

(式中、Ra6及びRa7は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基である。p8は1~8の整数である。*は結合部位を表す。)
【0029】
a6及びRa7が表す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、Ra1の場合と同様に説明される。
p8は1~8の整数であり、1~3の整数であってもよく、1であってもよい。
p8が2以上の整数である場合、複数のRa6同士又はRa7同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
(ポリアミノビスマレイミド化合物(A1))
ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)は、マレイミド化合物(a1)由来の構造単位とジアミン化合物(a2)由来の構造単位とを有するポリアミノビスマレイミド化合物である。(A1)成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
(a1)成分由来の構造単位としては、下記一般式(a1-7)で表される基及び下記一般式(a1-8)で表される基からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0032】
【化9】

(式中、Xa1は2価の有機基であり、*は他の構造への結合位置を示す。)
【0033】
上記一般式(a1-7)及び一般式(a1-8)中のXa1についての説明は、上記一般式(a1-1)中のXa1についての説明と同じである。
ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)中における(a1)成分由来の構造単位の合計含有量は、好ましくは5~95質量%、より好ましくは30~93質量%、さらに好ましくは60~90質量%、特に好ましくは75~90質量%である。(a1)成分由来の構造単位の含有量が上記範囲内であると、10GHz帯以上の高周波数帯における誘電特性がより良好となり、且つ、良好なフィルムハンドリング性が得られる傾向にある。
【0034】
(a2)成分は、アミノ基を2個有する化合物であれば、特に限定されない。
(a2)成分としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス〔1-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1-メチルエチル〕ベンゼン、1,4-ビス〔1-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1-メチルエチル〕ベンゼン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、3,3’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
(a2)成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
これらの中でも、(a2)成分としては、有機溶媒への溶解性、(a1)成分との反応性、及び耐熱性に優れるという観点から、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、及び4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリンが好ましい。また、(a2)成分は、誘電特性及び低吸水性に優れるという観点からは、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンが好ましい。また、(a2)成分は、導体との高接着性、伸び、破断強度等の機械特性に優れる観点からは、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが好ましい。さらに、上記の有機溶媒への溶解性、合成時の反応性、耐熱性、導体との高接着性に優れることに加えて、誘電特性及び低吸湿性に優れるという観点からは、(a2)成分は、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリンが好ましい。
【0036】
(a2)成分由来の構造単位としては、例えば、下記一般式(a2-1)で表される基及び下記一般式(a2-2)で表される基からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0037】
【化10】

(式中、Xa4は2価の有機基であり、*は他の構造への結合位置を示す。)
【0038】
上記一般式(a2-1)及び(a2-2)中のXa4は2価の有機基であり、(a2)成分の残基に相当する。なお、(a2)成分の残基とは、(a2)成分から結合に供された官能基、つまりアミノ基を除いた部分の構造をいう。
【0039】
上記一般式(a2-1)及び上記一般式(a2-2)中のXa4は、下記一般式(a2-3)で表される2価の基であることが好ましい。
【0040】
【化11】

(式中、Ra11及びRa12は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン原子である。Xa5は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基、フルオレニレン基、単結合、又は下記一般式(a2-3-1)もしくは(a2-3-2)で表される2価の基である。p8及びp9は、各々独立に、0~4の整数である。*は結合部位を表す。)
【0041】
【化12】

(式中、Ra13及びRa14は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子である。Xa6は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、m-フェニレンジイソプロピリデン基、p-フェニレンジイソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合である。p10及びp11は、各々独立に、0~4の整数である。*は結合部位を表す。)
【0042】
【化13】

(式中、Ra15は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子である。Xa7及びXa8は各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合である。p12は0~4の整数である。*は結合部位を表す。)
【0043】
上記一般式(a2-3)、(a2-3-1)又は(a2-3-2)中のRa11、Ra12、Ra13、Ra14及びRa15が表す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子としては、上記一般式(a1-2)中のRa1と同じものが挙げられる。該脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であってもよく、メチル基、エチル基であってもよい。
上記一般式(a2-3)中のXa5、上記一般式(a2-3-1)中のXa6並びに上記一般式(a2-3-2)中のXa7及びXa8が表す炭素数1~5のアルキレン基及び炭素数2~5のアルキリデン基としては、上記一般式(a1-3)中のXa2の場合と同様に説明される。
上記一般式(a2-3)中のp8及びp9は、各々独立に、0~4の整数であり、入手容易性の観点から、いずれも、0~2の整数であってもよく、0又は2であってもよい。p8又はp9が2以上の整数である場合、複数のRa11同士又はRa12同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記一般式(a2-3-1)中のp10及びp11は、各々独立に、0~4の整数であり、入手容易性の観点から、いずれも、0~2の整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。p10又はp11が2以上の整数である場合、複数のRa13同士又はRa14同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記一般式(a2-3-2)中のp12は、0~4の整数であり、入手容易性の観点から、0~2の整数であってもよく、0であってもよい。p12が2以上の整数である場合、複数のRa15同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0044】
ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)中における(a2)成分由来の構造単位の合計含有量は、好ましくは5~95質量%、より好ましくは7~70質量%、さらに好ましくは10~40質量%、特に好ましくは10~25質量%である。(a2)成分由来の構造単位の合計含有量が上記範囲内であると、誘電特性に優れ、且つより良好な耐熱性、難燃性及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0045】
ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)中における(a1)成分由来の構造単位と、(a2)成分由来の構造単位との含有比率は、ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)中における、(a2)成分の-NH基由来の基(-NHも含む)の合計当量(Ta2)と、(a1)成分のN-置換マレイミド基由来の基(N-置換マレイミド基も含む)の合計当量(Ta1)との当量比(Ta2/Ta1)が、好ましくは0.05~10、より好ましくは1~5となる含有比率である。当量比(Ta2/Ta1)が上記範囲内であると、誘電特性に優れ、且つより良好な耐熱性、難燃性及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0046】
ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)は、誘電特性の観点、並びに有機溶媒への溶解性、導体との高接着性及び樹脂フィルムの成形性等の観点から、下記一般式(a2-4)で表されるポリアミノビスマレイミド化合物を含有することが好ましい。
【0047】
【化14】

(式中、Xa1及びXa4は、上記で説明したとおりである。)
【0048】
(ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)の製造方法)
(A1)成分は、例えば、(a1)成分と(a2)成分とを有機溶媒中で反応させることで製造することができる。
(a1)成分と(a2)成分とを反応させてポリアミノビスマレイミド化合物(A1)を製造する際には、必要に応じて反応触媒を使用することもできる。
反応触媒としては、特に限定されないが、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒;トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等のアミン類;メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン等のリン系触媒などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、反応触媒の配合量は、特に限定されないが、例えば、(a1)成分及び(a2)成分の合計量100質量部に対して、0.01~5質量部使用すればよい。
【0049】
(a1)成分、(a2)成分、必要によりその他の成分を合成釜に所定量仕込み、(a1)成分と(a2)成分とをマイケル付加反応させることにより、上記ポリアミノビスマレイミド化合物が得られる。この工程での反応条件としては、特に限定されないが、例えば、反応速度等の作業性、反応中のゲル化抑制などの観点から、反応温度は50~160℃が好ましく、反応時間は1~10時間が好ましい。
また、この工程では有機溶媒を追加又は濃縮して反応原料の固形分濃度及び溶液粘度を調整することができる。反応原料の固形分濃度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~80質量%である。反応原料の固形分濃度が10質量%以上であると、反応速度が遅くなりすぎず、製造コストの面で有利となる傾向にある。また、反応原料の固形分濃度が90質量%以下であると、より良好な溶解性が得られ、撹拌効率が良くなり、ゲル化し難い傾向にある。
【0050】
ポリアミノビスマレイミド化合物(A1)の数平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000、さらに好ましくは600~2,000、特に好ましくは700~1,500である。
本明細書中における数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定される値を意味し、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0051】
<変性共役ジエンポリマー(B)>
変性共役ジエンポリマー(B)は、(b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマーを、(b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物で変性してなるものである。
(B)成分は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
((b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマー)
(b1)成分は側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマーであれば特に限定されないが、側鎖に複数のビニル基を有する共役ジエンポリマーであることが好ましい。
(b1)成分が1分子中に有するビニル基の数は、誘電特性及び耐熱性の観点から、好ましくは3個以上、より好ましくは5個以上、さらに好ましくは10個以上である。
(b1)成分は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本明細書中、共役ジエンポリマーとは、共役ジエン化合物の重合体を意味する。
共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。
共役ジエンポリマーは、1種の共役ジエン化合物の重合体であってもよく、2種以上の共役ジエン化合物の重合体であってもよい。
また、共役ジエンポリマーは、1種以上の共役ジエン化合物と、1種以上の共役ジエン化合物以外のモノマーと、を共重合させたものであってもよい。その場合の重合様式は特に限定されず、ランダム重合、ブロック重合、グラフト重合のいずれであってもよい。
【0054】
(b1)成分の具体例としては、1,2-ビニル基を有するポリブタジエン、1,2-ビニル基を有するブタジエン-スチレン共重合体、1,2-ビニル基を有するポリイソプレン等が挙げられる。これらの中でも、誘電特性及び耐熱性の観点から、1,2-ビニル基を有するポリブタジエン、1,2-ビニル基を有するブタジエン-スチレン共重合体が好ましく、1,2-ビニル基を有するポリブタジエンがより好ましい。また、1,2-ビニル基を有するポリブタジエンとしては、1,2-ビニル基を有するブタジエンホモポリマーが好ましい。
(b1)成分が有するブタジエン由来の1,2-ビニル基とは、下記式(b1-1)で表されるブタジエン由来の構造単位に含まれるビニル基である。
【0055】
【化15】
【0056】
(b1)成分が1,2-ビニル基を有するポリブタジエンである場合、ポリブタジエンを構成するブタジエン由来の全構造単位に対して、1,2-ビニル基を有する構造単位(上記一般式(b1-1)で表される構造単位)の含有量[以下、ビニル基含有率と略称することがある。]は、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは85モル%以上である。また、ビニル基含有率は、100モル%以下であってもよい。
同様の観点から、1,2-ビニル基を有するポリブタジエンは、1,2-ポリブタジエンホモポリマーであることが好ましい。
【0057】
(b1)成分の数平均分子量は、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、好ましくは400~2,500、より好ましくは500~2,000、さらに好ましくは600~1,800、特に好ましくは700~1,500である。
【0058】
((b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物)
(b2)成分は、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物であればよく、上記したマレイミド化合物(A)として挙げられたものを使用することができる。
(b2)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
これらの中でも、(b2)成分としては、有機溶媒への溶解性及び反応中のゲル化抑制の観点、並びに得られる(B)成分の他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、脂肪族炭化水素基で置換された芳香族ビスマレイミド化合物が好ましく、下記一般式(b2-1)で表される化合物がより好ましい。
【0060】
【化16】

(式中、Rb1及びRb2は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基である。Xb1は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基、単結合、又は下記一般式(b2-1-1)で表される2価の基である。q1及びq2は、各々独立に、0~4の整数であり、q1+q2は1以上の整数である。)
【0061】
b1及びRb2が表す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該脂肪族炭化水素基としては、他の樹脂との相容性及び反応中のゲル化抑制の観点から、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、エチル基、メチル基がさらに好ましい。
【0062】
b1が表す炭素数1~5のアルキレン基としては、メチレン基、1,2-ジメチレン基、1,3-トリメチレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基等が挙げられる。該アルキレン基としては、炭素数1~3のアルキレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
b1が表す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。
q1及びq2は、各々独立に、0~4の整数であり、q1+q2は1以上の整数である。入手容易性、他の樹脂との相容性及び反応中のゲル化抑制の観点から、いずれも、0~2の整数が好ましく、1又は2がより好ましく、2がさらに好ましい。q1又はq2が2以上の整数である場合、複数のRb1同士又はRb2同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
なお、Xb1が表す一般式(b2-1-1)で表される2価の基は以下のとおりである。
【0063】
【化17】

(式中、Rb3及びRb4は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子である。Xb2は炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合である。q3及びq4は、各々独立に、0~4の整数である。*は結合部位を表す。)
【0064】
b3及びRb4が表す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子としては、Rb1の場合と同様に説明される。
b2が表す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基としては、Xb1が表す炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基と同じものが挙げられる。
q3及びq4は、各々独立に、0~4の整数であり、入手容易性の観点から、いずれも、0~2の整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。q3又はq4が2以上の整数である場合、複数のRb3同士又はRb4同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0065】
上記一般式(b2-1)で表される化合物としては、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒への溶解性及び反応中のゲル化抑制の観点、並びに得られる(B)成分の他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドが好ましい。
【0066】
(反応条件)
(b1)成分と(b2)成分とを反応させる方法は特に限定されず、例えば、(b1)成分、(b2)成分、反応触媒及び有機溶媒を所定量、反応容器に仕込み、必要に応じて、加熱、保温、撹拌等しながら反応させることによって(B)成分を得ることができる。この工程での反応条件は、使用する原料の種類等に応じて適宜調整することができるが、作業性及び反応中のゲル化抑制の観点から、反応温度は、好ましくは70~120℃、より好ましくは80~110℃、さらに好ましくは85~105℃であり、反応時間は、好ましくは0.5~15時間、より好ましくは1~10時間、さらに好ましくは3~7時間である。
【0067】
上記反応で使用される有機溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、ブタノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;メトキシエチルアセテート、エトキシエチルアセテート、ブトキシエチルアセテート、酢酸エチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、樹脂溶解性の観点から、トルエンが好ましい。
【0068】
上記反応を有機溶媒中で行う場合、反応溶液中における(b1)成分及び(b2)成分の合計含有量(固形分濃度)は、特に限定されないが、好ましくは10~70質量%、より好ましくは15~60質量%、さらに好ましくは20~50質量%である。上記合計含有量が10質量%以上であると、反応速度が遅くなりすぎず、製造コストの面でより有利な傾向にある。また、上記合計含有量が70質量%以下であると、より良好な溶解性が得られると共に、溶液粘度が低く撹拌効率がよく、ゲル化することをより抑制できる傾向にある。
【0069】
反応触媒としては、後述する硬化促進剤(F)として挙げられるものを使用することができる。これらの中でも、反応中のゲル化を抑制しつつ、十分な反応性が得られるという観点から、有機過酸化物が好ましく、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンがより好ましい。
反応触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
反応触媒の使用量は、特に限定されないが、(b1)成分及び(b2)成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01~1.2質量部、より好ましくは0.03~1.0質量部、さらに好ましくは0.05~0.8質量部である。
【0070】
上記反応を行う際における、(b1)成分及び(b2)成分の配合量は、得られる(B)成分の他の樹脂との相容性及び反応中のゲル化抑制の観点から、(b1)成分が有する側鎖ビニル基のモル数(M)に対する(b2)成分が有するN-置換マレイミド基のモル数(M)の比率(M/M)が、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.02~0.4、さらに好ましくは0.04~0.3となる量である。
【0071】
上記の反応によって、(b1)成分が側鎖に有するビニル基の少なくとも一部が、(b2)成分が有するN-置換マレイミド基と反応して、(B)成分が製造される。
得られる(B)成分は、側鎖に、(b1)成分が有するビニル基と、(b2)成分が有するN-置換マレイミド基と、が反応してなる置換基(x)を有するものとなる。
置換基(x)は、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、(b2)成分由来の構造として、下記一般式(B-11)又は(B-12)で表される構造を含む基であることが好ましい。
【0072】
【化18】

(式中、XB1は、2価の有機基であり、*B1は、(b1)成分が側鎖に有するビニル基由来の炭素原子に結合する部位である。*B2は、他の原子に結合する部位である。)
【0073】
上記一般式(B-11)及び(B-12)中のXB1についての説明は、上記一般式(a1-1)中のXa1についての説明と同じである。
【0074】
また、置換基(x)としては、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、(b2)成分由来の構造として、下記一般式(B-21)又は(B-22)で表される構造を含む基であることがより好ましい。
【0075】
【化19】

(式中、Rb1、b2、Xb1、q1及びq2についての説明は、上記一般式(b2-1)における説明の通りである。*B1及び*B2についての説明は、上記一般式(B-11)及び(B-12)における説明の通りである。)
【0076】
(B)成分は、側鎖に、置換基(x)とビニル基(y)とを有することが好ましい。その場合、1分子中に有する置換基(x)とビニル基(y)との合計数に対する、置換基(x)の数の比率[x/(x+y)]は、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.02~0.4、さらに好ましくは0.04~0.3である。
なお、以下の説明において、上記置換基(x)の含有比率[x/(x+y)]を「ビニル基変性率」と称することがある。
ビニル基(y)は、ブタジエン由来の構造単位が有する1,2-ビニル基であることが好ましい。
【0077】
(B)成分の数平均分子量は、特に限定されないが、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、好ましくは700~6,000、より好ましくは800~5,000、さらに好ましくは900~4,500、特に好ましくは1,000~4,000である。
【0078】
<(A)成分及び(B)成分の含有量、並びにそれらの含有割合>
本実施形態の樹脂組成物において、(A)成分の含有量は、特に限定されないが、誘電特性及び成形性の観点から、樹脂組成物中の樹脂成分の総和100質量部に対して、好ましくは10~90質量部、より好ましくは20~80質量部、さらに好ましくは30~70質量部、特に好ましくは35~60質量部である。
本実施形態の樹脂組成物において、(B)成分の含有量は、特に限定されないが、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、樹脂組成物中の樹脂成分の総和100質量部に対して、好ましくは1~50質量部、より好ましくは5~40質量部、さらに好ましくは10~30質量部、特に好ましくは15~25質量部である。
ここで、本明細書において、「樹脂成分」とは、(A)成分、(B)成分、さらに、任意に使用する(C)成分のことを指す。つまり、樹脂組成物が(C)成分を含有しない場合には、「樹脂成分」は(A)成分及び(B)成分を指し、樹脂組成物が(C)成分を含有する場合には、「樹脂成分」には、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が含まれる。
【0079】
(A)成分と(B)成分との含有量比[(A)/(B)]は、特に限定されないが、他の樹脂との相容性、誘電特性、低熱膨張性及び耐熱性の観点から、質量基準で、好ましくは1.0超、より好ましくは1.5~5.0、さらに好ましくは1.8~4.5、よりさらに好ましくは2.0~4.0、特に好ましくは2.2~3.5、最も好ましくは2.5~3.0である。含有量比[(A)/(B)]が1.0超であると、10GHz帯以上の高周波数帯において優れた誘電特性が得られる傾向にあり、5.0以下であると、耐熱性、成形性及び加工性が優れる傾向にある。
【0080】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、さらにその他の成分を含有してなるものであってもよい。その他の成分としては、例えば、(B)成分以外の熱可塑性エラストマー(C)[以下、その他の熱可塑性エラストマー(C)又は(C)成分と略称することがある。]、無機充填材(D)[以下、(D)成分と略称することがある。]、難燃剤(E)[以下、(E)成分と略称することがある。]及び硬化促進剤(F)[以下、(F)成分と略称することがある。]からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらを含有させることにより、積層板とした際の諸特性をさらに向上させることができる。
ただし、本実施形態の樹脂組成物は、所望する性能に応じて、(C)成分、(D)成分、(E)成分及び(F)成分からなる群から選択される1種以上を含有しなくてもよい。
以下、これらの成分について詳述する。
【0081】
(その他の熱可塑性エラストマー(C))
その他の熱可塑性エラストマー(C)としては、ポリフェニレンエーテル、スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、誘電特性、成形性、導体との接着性、はんだ耐熱性、ガラス転移温度、熱膨張係数及び難燃性において良好となり、これらのバランスが良くなる傾向にあることから、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0082】
(C)成分としては、スチレン系化合物由来の構造単位を有する熱可塑性エラストマーであれば特に制限はなく、下記一般式(c-1)で表されるスチレン由来の構造単位を有するものであってもよい。
【0083】
【化20】

(式中、Rc1は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Rc2は、炭素数1~5のアルキル基である。kは、0~5の整数である。)
【0084】
c1及びRc2が表す炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられ、炭素数1~3のアルキル基であってもよく、メチル基であってもよい。
kは、0~2の整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。
【0085】
(C)成分が有するスチレン系化合物由来の構造単位以外の構造単位としては、ブタジエン由来の構造単位、イソプレン由来の構造単位、マレイン酸由来の構造単位、無水マレイン酸由来の構造単位等が挙げられる。
(C)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記ブタジエン由来の構造単位及び上記イソプレン由来の構造単位は、水素添加されていてもよい。水素添加されている場合、ブタジエン由来の構造単位はエチレン単位とブチレン単位とが混合した構造単位となり、イソプレン由来の構造単位はエチレン単位とプロピレン単位とが混合した構造単位となる。
【0086】
(C)成分としては、誘電特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度及び熱膨張係数の観点から、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS、SBBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)及びスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)からなる群から選択される1種以上が好ましく、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)からなる群から選択される1種以上がより好ましく、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)がさらに好ましい。
【0087】
上記SEBSにおいて、スチレン由来の構造単位の含有率[以下、スチレン含有率と略称することがある。]は、誘電特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度及び熱膨張係数の観点から、好ましくは5~80質量%、より好ましくは10~75質量%、さらに好ましくは15~70質量%、特に好ましくは20~50質量%である。SEBSのメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、230℃、荷重2.16kgf(21.2N)の測定条件では、0.1~20g/10minであってもよく、0.5~15g/10minであってもよい。
SEBSの市販品としては、旭化成株式会社製のタフテック(登録商標)Hシリーズ、Mシリーズ、株式会社クラレ製のセプトン(登録商標)シリーズ、クレイトンポリマージャパン株式会社製のクレイトン(登録商標)Gポリマーシリーズ等が挙げられる。
【0088】
(C)成分の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは12,000~1,000,000、より好ましくは30,000~500,000、さらに好ましくは50,000~120,000、特に好ましくは70,000~100,000である。重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定される。
【0089】
本実施形態の樹脂組成物が(C)成分を含有する場合、(C)成分の含有量は、誘電特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度及び熱膨張係数の観点から、(A)~(C)成分の総和100質量部に対して、好ましくは5~60質量部、より好ましくは10~55質量部、さらに好ましくは15~50質量部、特に好ましくは20~45質量部、最も好ましくは25~40質量部である。(C)成分の上記含有量が5質量部以上であると、誘電特性及び耐吸湿性がより良好となる傾向にあり、60質量部以下であると、耐熱性、成形性、加工性及び難燃性がより良好となる傾向にある。
【0090】
(無機充填材(D))
本実施形態の樹脂組成物に無機充填材(D)を含有させることで、熱膨張係数、弾性率、耐熱性及び難燃性を向上させることができる傾向にある。
(D)成分としては、特に限定されないが、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、クレー(焼成クレー等)、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱膨張係数、弾性率、耐熱性及び難燃性の観点から、シリカ、アルミナ、マイカ、タルクが好ましく、シリカ、アルミナがより好ましく、シリカがさらに好ましい。シリカとしては、例えば、湿式法で製造され含水率の高い沈降シリカと、乾式法で製造され結合水等をほとんど含まない乾式法シリカが挙げられ、乾式法シリカとしては、さらに、製造法の違いにより、破砕シリカ、フュームドシリカ、溶融シリカ(溶融球状シリカ)等が挙げられる。
無機充填材(D)の形状及び粒径は、特に限定されないが、例えば、粒径は、好ましくは0.01~20μm、より好ましくは0.1~10μm、さらに好ましく0.2~1μm、特に好ましくは0.3~0.8μmである。ここで、粒径とは、平均粒子径を指し、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めたとき、体積50%に相当する点の粒子径のことである。無機充填材(D)の粒径は、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0091】
本実施形態の樹脂組成物が(D)成分を含有する場合、樹脂組成物中における(D)成分の含有量は、特に限定されないが、熱膨張係数、弾性率、耐熱性及び難燃性の観点から、好ましくは5~70質量%、より好ましくは15~65質量%、さらに好ましくは20~60質量%、特に好ましくは30~55質量%、最も好ましくは40~50質量%である。
【0092】
また、(D)成分を用いる場合、(D)成分の分散性及び(D)成分と樹脂組成物中の有機成分との密着性を向上させる目的で、必要に応じ、カップリング剤を併用してもよい。該カップリング剤としては特に限定されるものではなく、例えば、シランカップリング剤又はチタネートカップリング剤を適宜選択して用いることができる。カップリング剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、カップリング剤の使用量も特に限定されるものではなく、例えば、(D)成分100質量部に対して0.1~5質量部としてもよく、0.5~3質量部としてもよい。この範囲であれば、諸特性の低下が少なく、上記の(D)成分の使用による特長を効果的に発揮できる傾向にある。
なお、カップリング剤を用いる場合、樹脂組成物中に(D)成分を配合した後、カップリング剤を添加する、いわゆるインテグラルブレンド処理方式であってもよいが、予め無機充填材にカップリング剤を乾式又は湿式で表面処理した無機充填材を使用する方式が好ましい。この方法を採用することで、より効果的に(D)成分の特長を発現できる。
【0093】
本実施形態において(D)成分を用いる場合、(D)成分の樹脂組成物への分散性を向上させる目的で、必要に応じ、(D)成分を予め有機溶媒中に分散させたスラリーとして用いることができる。(D)成分をスラリー化する際に使用される有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、上述した(A1)成分の製造工程で例示した有機溶媒が適用できる。これらの中でも、分散性の観点から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが好ましい。また、スラリーの固形分(不揮発分)濃度は、特に限定されないが、無機充填材(D)の沈降性及び分散性の観点から、例えば、50~80質量%であり、60~80質量%であってもよい。
【0094】
(難燃剤(E))
本実施形態の樹脂組成物に難燃剤(E)を含有させることで、樹脂組成物の難燃性を向上させることができる傾向にある。
(E)成分としては、リン系難燃剤、金属水和物、ハロゲン系難燃剤等が挙げられ、環境問題の観点から、リン系難燃剤及び金属水和物であってもよい。難燃剤(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、必要に応じて難燃助剤を含有させてもよい。
【0095】
-リン系難燃剤-
リン系難燃剤としては、一般的に難燃剤として使用されるもののうち、リン原子を含有するものであれば特に限定されず、無機系のリン系難燃剤であってもよいし、有機系のリン系難燃剤であってもよい。なお、リン系難燃剤は、環境問題の観点から、ハロゲン原子を含有しないものが好ましい。リン系難燃剤は、誘電特性、導体との接着性、耐熱性、ガラス転移温度、熱膨張係数及び難燃性の観点からは、有機系のリン系難燃剤であってもよい。
無機系のリン系難燃剤としては、赤リン;リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム;リン酸アミド等の無機系含窒素リン化合物;リン酸;ホスフィンオキシドなどが挙げられる。
有機系のリン系難燃剤としては、芳香族リン酸エステル、1置換ホスホン酸ジエステル、2置換ホスフィン酸エステル、2置換ホスフィン酸の金属塩、有機系含窒素リン化合物、環状有機リン化合物等が挙げられる。これらの中でも、芳香族リン酸エステル化合物、2置換ホスフィン酸の金属塩が好ましい。ここで、金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、チタン塩、亜鉛塩のいずれかであってもよく、アルミニウム塩であってもよい。また、有機系のリン系難燃剤の中では、芳香族リン酸エステルが好ましい。
【0096】
芳香族リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ-2,6-キシレニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、1,3-フェニレンビス(ジ-2,6-キシレニルホスフェート)、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、1,3-フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
1置換ホスホン酸ジエステルとしては、フェニルホスホン酸ジビニル、フェニルホスホン酸ジアリル、フェニルホスホン酸ビス(1-ブテニル)等が挙げられる。
2置換ホスフィン酸エステルとしては、ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸メチル等が挙げられる。
2置換ホスフィン酸の金属塩としては、ジアルキルホスフィン酸の金属塩、ジアリルホスフィン酸の金属塩、ジビニルホスフィン酸の金属塩、ジアリールホスフィン酸の金属塩等が挙げられる。これら金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、チタン塩、亜鉛塩のいずれかであってもよく、アルミニウム塩であってもよい。
有機系含窒素リン化合物としては、ビス(2-アリルフェノキシ)ホスファゼン、ジクレジルホスファゼン等のホスファゼン化合物;リン酸メラミン;ピロリン酸メラミン;ポリリン酸メラミン;ポリリン酸メラムなどが挙げられる。
環状有機リン化合物としては、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等が挙げられる。
これらの中でも、芳香族リン酸エステル、2置換ホスフィン酸の金属塩が好ましく、1,3-フェニレンビス(ジ-2,6-キシレニルホスフェート)及びジアルキルホスフィン酸のアルミニウム塩が好ましい。
【0097】
-金属水和物-
金属水和物としては、水酸化アルミニウムの水和物、水酸化マグネシウムの水和物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。該金属水酸化物は無機充填材にも該当し得るが、難燃性を付与し得る材料の場合には難燃剤に分類する。
-ハロゲン系難燃剤-
ハロゲン系難燃剤としては、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤等が挙げられる。塩素系難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン等が挙げられる。
【0098】
本実施形態の樹脂組成物が(E)成分を含有する場合、(E)成分としてリン系難燃剤を用いるときは、樹脂組成物中のリン系難燃剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物中の樹脂成分の総和100質量部に対して、リン原子換算で、好ましくは0.2~20質量部、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは5~12質量部である。(E)成分のリン原子換算での含有量が0.2質量部以上であると、より良好な難燃性が得られる傾向にあり、20質量部以下であると、より良好な成形性、導体との高接着性、優れた耐熱性及び高ガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0099】
(硬化促進剤(F))
本実施形態の樹脂組成物に硬化促進剤(F)を含有させることで、樹脂組成物の硬化性を向上させ、誘電特性、耐熱性、導体との接着性、弾性率及びガラス転移温度を向上させることができる傾向にある。
(F)成分としては、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒;トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等のアミン化合物;メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、イソシアネートマスクイミダゾール(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート樹脂と2-エチル-4-メチルイミダゾールの付加反応物等)等のイミダゾール化合物;第3級アミン化合物;第4級アンモニウム化合物;トリフェニルホスフィン等のリン系化合物;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等の有機過酸化物;マンガン、コバルト、亜鉛等のカルボン酸塩などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐熱性、ガラス転移温度及び保存安定性の観点から、イミダゾール化合物、有機過酸化物、カルボン酸塩であってもよく、耐熱性、ガラス転移温度、弾性率及び熱膨張係数の観点から、イミダゾール化合物と、有機過酸化物又はカルボン酸塩とを併用してもよい。また、有機過酸化物の中では、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンを選択してもよく、カルボン酸塩の中では、ナフテン酸マンガンを選択してもよい。
【0100】
本実施形態の樹脂組成物が(F)成分を含有する場合、(F)成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物中の樹脂成分の総和100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~8質量部、さらに好ましくは0.1~6質量部、特に好ましくは0.5~5質量部である。(F)成分の含有量が上記範囲であると、より良好な耐熱性及び保存安定性が得られる傾向にある。
【0101】
本実施形態の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、上記各成分以外の熱可塑性樹脂、エラストマー等の樹脂材料、並びに、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、滑剤等を適宜選択して含有させることができる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの使用量は特に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で使用すればよい。
【0102】
(有機溶媒)
本実施形態の樹脂組成物は、希釈することによって取り扱いを容易にするという観点及び後述するプリプレグを製造し易くする観点から、有機溶媒を含有させてもよい。有機溶媒を含有させた樹脂組成物は、一般的に、樹脂ワニス又はワニスと称されることがある。
該有機溶媒としては、特に限定されないが、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の窒素原子含有溶媒;ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶媒;γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒などが挙げられる。
これらの中でも、溶解性の観点から、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、窒素原子含有溶媒が好ましく、ケトン系溶媒がより好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンがさらに好ましく、メチルエチルケトンが特に好ましい。
有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
本実施形態の樹脂組成物が有機溶媒を含有する場合、その固形分濃度は、例えば、30~90質量%であり、35~80質量%であってもよく、40~60質量%であってもよい。固形分濃度が上記の範囲内である樹脂組成物を用いることで、取り扱い性が容易となり、さらに基材への含浸性及び製造されるプリプレグの外観が良好で、後述するプリプレグ中の樹脂の固形分濃度の調整が容易となり、所望の厚さを有するプリプレグの製造がより容易となる傾向にある。
【0104】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分及び(B)成分、必要に応じて併用されるその他の成分を公知の方法で混合することで製造することができる。この際、各成分は撹拌しながら溶解又は分散させてもよい。混合順序、温度、時間等の条件は、特に限定されず、原料の種類等に応じて任意に設定すればよい。
【0105】
本実施形態の樹脂組成物は相容性が良好であり、1日放置しても析出物は生じない傾向にある。また、より相容性が優れた態様においては、1週間放置しても析出物が生じない(但し、相分離することはある。)傾向にあり、さらに相容性が優れた態様においては、1週間放置しても、相分離さえしない傾向にある。
【0106】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物(ガラスクロス等の繊維基材を含まない積層体及び樹脂フィルムの硬化物)の10GHzにおける誘電率(Dk)は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.9以下、さらに好ましくは2.8以下である。上記誘電率(Dk)は小さい程好ましく、その下限値に特に制限はないが、他の物性とのバランスを考慮して、例えば、2.4以上であってもよく、2.5以上であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物の硬化物(ガラスクロス等の繊維基材を含まない積層体及び樹脂フィルムの硬化物)の10GHzにおける誘電正接(Df)は、好ましくは0.0050以下、より好ましくは0.0040以下、さらに好ましくは0.0030以下、特に好ましくは0.0025以下、最も好ましくは0.0020以下である。上記誘電正接(Df)は小さい程好ましく、その下限値に特に制限はないが、他の物性とのバランスを考慮して、例えば、0.0010以上であってもよく、0.0015以上であってもよい。
なお、誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、空洞共振器摂動法に準拠した値であり、より詳細には、実施例に記載する方法によって測定された値である。また、本明細書において、単に誘電率というとき、比誘電率を意味する。
【0107】
[マレイミド樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のマレイミド樹脂組成物の製造方法は、下記工程1及び2を含む、マレイミド樹脂組成物の製造方法である。
工程1:(b1)側鎖にビニル基を有する共役ジエンポリマーと、(b2)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物と、を反応させて、(B)変性共役ジエンポリマーを得る工程
工程2:(A)N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される1種以上と、(B)変性共役ジエンポリマーと、を混合する工程
工程1における反応の好適な条件は、(B)成分についての説明で記載した通りである。
工程2における混合は、公知の撹拌機等を用いて行えばよく、例えば、(A)成分、(B)成分を上記した有機溶媒に投入して、室温又は加熱下で撹拌して混合することが好ましい。混合する際の加熱温度は、例えば、30~100℃であり、好ましくは40~90℃である。
混合時の(A)成分及び(B)成分の混合溶液中の濃度は、上記した、本実施形態の樹脂組成物が有機溶媒を含有する場合における、樹脂組成物の固形分濃度の好適な範囲と同じである。
【0108】
[プリプレグ]
本実施形態のプリプレグは、本実施形態のマレイミド樹脂組成物を含有してなるプリプレグである。
本実施形態のプリプレグは、例えば、本実施形態の樹脂組成物とシート状繊維補強基材とを含有してなるものである。該プリプレグは、本実施形態の樹脂組成物とシート状繊維補強基材とを用いて形成され、例えば、本実施形態の樹脂組成物を、シート状繊維補強基材に含浸又は塗工し、乾燥させることによって得ることができる。より具体的には、例えば、乾燥炉中で通常、80~200℃の温度で、1~30分間加熱乾燥し、半硬化(Bステージ化)させることにより本実施形態のプリプレグを製造することができる。樹脂組成物の使用量は、乾燥後のプリプレグ中の樹脂組成物由来の固形分濃度が30~90質量%となるように決定することができる。固形分濃度を上記範囲とすることで、積層板とした際により良好な成形性が得られる傾向にある。
【0109】
プリプレグのシート状繊維補強基材としては、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている公知のものが用いられる。シート状繊維補強基材の材質としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等の無機物繊維;ポリイミド、ポリエステル、テトラフルオロエチレン等の有機繊維;これらの混合物などが挙げられる。これらのシート状繊維補強基材は、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット、サーフェシングマット等の形状を有する。
シート状繊維補強基材の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.02~0.5mmのものを用いることができる。
また、シート状繊維補強基材は、樹脂組成物の含浸性、積層板とした際の耐熱性、耐吸湿性、及び加工性の観点から、カップリング剤等で表面処理したもの、及び機械的に開繊処理を施したものを使用できる。
【0110】
樹脂組成物をシート状繊維補強基材に含浸又は塗工させる方法としては、次のホットメルト法又はソルベント法を採用できる。
ホットメルト法は、樹脂組成物に有機溶媒を含有させず、(1)該樹脂組成物との剥離性の良い塗工紙に一旦コーティングし、それをシート状繊維補強基材にラミネートする方法、又は(2)ダイコーターによりシート状繊維補強基材に直接塗工する方法である。
一方、ソルベント法は、樹脂組成物に有機溶媒を含有させ、得られた樹脂組成物にシート状繊維補強基材を浸漬して、樹脂組成物をシート状繊維補強基材に含浸させ、その後、乾燥させる方法である。
【0111】
[樹脂フィルム]
本実施形態の樹脂フィルムは、本実施形態の樹脂組成物を含有してなる樹脂フィルムである。
本実施形態の樹脂フィルムは、例えば、有機溶媒を含有する樹脂組成物、つまり樹脂ワニスを支持体へ塗布し、加熱乾燥させることによって製造することができる。
支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィンのフィルム;ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルのフィルム;ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の各種プラスチックフィルムなどが挙げられる。また、支持体として、銅箔、アルミニウム箔等の金属箔、離型紙などを使用してもよい。支持体には、マット処理、コロナ処理等の表面処理が施してあってもよい。また、支持体には、シリコーン樹脂系離型剤、アルキッド樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤等による離型処理が施してあってもよい。
支持体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10~150μm、より好ましくは25~50μmである。
【0112】
支持体に樹脂ワニスを塗布する方法は、特に限定されず、コンマコーター、バーコーター、キスコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の当業者に公知の塗工装置を用いることができる。これらの塗工装置は、膜厚によって、適宜選択すればよい。
乾燥温度及び乾燥時間は、有機溶媒の使用量、及び使用する有機溶媒の沸点等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、40~60質量%程度の有機溶媒を含有する樹脂ワニスの場合、50~150℃で3~10分間程度乾燥させることにより、樹脂フィルムを好適に形成することができる。
【0113】
[積層板]
本実施形態の積層板は、本実施形態のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板である。
本実施形態の積層板は、例えば、本実施形態のプリプレグ1枚の片面もしくは両面に金属箔を配置するか、又は本実施形態のプリプレグを2枚以上を重ねて得られるプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配置し、次いで加熱加圧成形することによって製造することができる。金属箔を有する積層板は、金属張積層板と称されることもある。
金属箔の金属としては、電気絶縁材料用途で用いられるものであれば特に限定されないが、導電性の観点から、銅、金、銀、ニッケル、白金、モリブデン、ルテニウム、アルミニウム、タングステン、鉄、チタン、クロム、又はこれらの金属元素を1種以上含有する合金であってもよく、銅、アルミニウムが好ましく、銅がより好ましい。
加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、例えば、温度が100~300℃、圧力が0.2~10MPa、時間が0.1~5時間の範囲で実施することができる。また、加熱加圧成形は、真空プレス等を用いて真空状態を0.5~5時間保持する方法を採用できる。
【0114】
[多層プリント配線板]
本実施形態の多層プリント配線板は、本実施形態のプリプレグ、本実施形態の樹脂フィルム及び本実施形態の積層板からなる群から選択される1種以上を含有してなるものである。本実施形態の多層プリント配線板は、本実施形態のプリプレグ、本実施形態の樹脂フィルム及び本実施形態の積層板からなる群から選択される1種以上を用いて、公知の方法によって、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等による回路形成加工及び多層化接着加工を行うことによって製造することができる。
【0115】
[半導体パッケージ]
本実施形態の半導体パッケージは、本実施形態のプリント配線板に半導体を搭載してなるものである。本実施形態の半導体パッケージは、本実施形態のプリント配線板の所定の位置に半導体チップ、メモリ等を搭載して製造することができる。
【0116】
本実施形態の樹脂組成物、プリプレグ、積層板、樹脂フィルム、多層プリント配線板及び半導体パッケージは、10GHz以上の高周波信号を扱う電子機器に好適に用いることができる。特に、多層プリント配線板は、ミリ波レーダー用多層プリント配線板として有用である。
【0117】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【実施例
【0118】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
なお、各例において、数平均分子量は以下の手順で測定した。
(数平均分子量の測定方法)
数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレン:TSKstandard POLYSTYRENE(Type;A-2500、A-5000、F-1、F-2、F-4、F-10、F-20、F-40)[東ソー株式会社製、商品名]を用いて3次式で近似した。GPCの測定条件を、以下に示す。
装置:高速GPC装置 HLC-8320GPC
検出器:紫外吸光検出器 UV-8320[東ソー株式会社製]
カラム:ガードカラム;TSK Guardcolumn SuperHZ-L+カラム;TSKgel SuperHZM-N+TSKgel SuperHZM-M+TSKgel SuperH-RC(すべて東ソー株式会社製、商品名)
カラムサイズ:4.6×20mm(ガードカラム)、4.6×150mm(カラム)、6.0×150mm(リファレンスカラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:10mg/5mL
注入量:25μL
流量:1.00mL/分
測定温度:40℃
【0120】
(ビニル基変性率の測定)
共役ジエンポリマーのビニル基変性率は、反応開始前の(b1)成分及び(b2)成分を含む溶液と、反応後に得られた変性共役ジエンポリマーを含む溶液について、上記と同様の方法によりGPCを測定し、反応前後における(b2)成分に由来するピーク面積の減少率、すなわち、(反応前の(b2)成分由来ピーク面積-反応後の(b2)成分由来ピーク面積)×100/(反応前の(b2)成分由来ピーク面積)として求めた。
【0121】
[変性共役ジエンポリマーの製造]
製造例1~5
温度計、還流冷却管及び撹拌装置を備えた加熱及び冷却可能な容積2Lのガラス製フラスコ容器に、表1に示す量の(b1)成分、(b2)成分、反応触媒及び有機溶媒を投入し、窒素雰囲気下、90~100℃で5時間、撹拌しながら反応させて、変性共役ジエンポリマーB-1~5の溶液(固形分濃度:35質量%)を得た。得られた変性共役ジエンポリマーのビニル基変性率及び数平均分子量を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
なお、表1に記載の各成分の詳細は以下の通りである。
[(b1)成分]
・ポリブタジエンb1-1:1,2-ポリブタジエンホモポリマー、数平均分子量=1,200、ビニル基含有率=85%以上
・ポリブタジエンb1-2:1,2-ポリブタジエンホモポリマー、数平均分子量=3,200、ビニル基含有率=92%以上
[(b2)成分]
・ビスマレイミド化合物b2-1:3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド
・ビスマレイミド化合物b2-2:2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン
【0124】
[マレイミド樹脂組成物の調製]
実施例1~5、比較例1~3
表2に記載の各成分を所定量の硬化促進剤と共に表2に記載の配合量(単位:質量部)に従って室温又は50~80℃で加熱しながら撹拌及び混合して、固形分(不揮発分)濃度約50質量%の樹脂組成物を調製した。
各例で得た樹脂組成物を、厚さ38μmのPETフィルム(帝人株式会社製、商品名:G2-38)に塗工した後、170℃で5分間加熱乾燥して、Bステージ状態の樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムをPETフィルムから剥離した後、粉砕して樹脂粉末とした。次いで、厚さ1mm×長さ50mm×幅35mmのサイズに型抜きしたテフロン(登録商標)シートに上記の樹脂粉末を投入し、その上下に、厚さ18μmのロープロファイル銅箔(古河電気工業株式会社製、商品名:BF-ANP18)を、M面が投入した樹脂粉末に接するように配置し、温度230℃、圧力2.0MPa、時間120分間の条件で加熱加圧成形して、樹脂組成物を硬化させて、両面銅箔付き樹脂板(樹脂板の厚さ:1mm)を作製した。
【0125】
[評価・測定方法]
上記実施例及び比較例で得られた樹脂組成物及び両面銅箔付き樹脂板を用いて、下記方法に従って各測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0126】
(1.樹脂組成物の相容性の評価)
各例で得た樹脂組成物を目視で観察して、相容性(巨視的(マクロ)な相分離及び析出物の有無)を以下の基準に従い評価した。
A:1週間以上放置しても、巨視的(マクロ)な相分離及び析出物がなかった。
B:1日放置しても変化はなかったが、3日以上放置したところ、析出物はないが、巨視的(マクロ)な相分離がやや生じていた。
C:1日放置したところ、析出物はないが、巨視的(マクロ)な相分離が生じていた。
D:1日放置後、析出物が確認された。
【0127】
(2.樹脂板の誘電特性(誘電率及び誘電正接)の評価)
各例で得た両面銅箔付き樹脂板を銅エッチング液である過硫酸アンモニウム(三菱ガス化学株式会社製)10質量%溶液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板から、2mm×50mmの評価基板を作製した。
該評価基板を空洞共振器摂動法に準拠して、10GHz帯で誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を測定した。
【0128】
(3.熱膨張率及びガラス転移温度の測定方法)
熱膨張係数(板厚方向、温度範囲:30~120℃)とガラス転移温度(Tg)は、両面銅箔付き樹脂板の両面の銅箔をエッチングした5mm角の試験片を用いて、熱機械測定装置(TMA)[ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、Q400(型番)]により、IPC(The Institute for Interconnecting and Packaging Electronic Circuits)規格に準拠して測定した。
【0129】
【表2】
【0130】
なお、表2における各材料は、以下のとおりである。
[(A)成分]
ビスマレイミド化合物A-1:ビフェニルアラルキル型マレイミド(MIR-3000、日本化薬株式会社製)
ビスマレイミド化合物A-2:3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド
[(B)成分]
変性共役ジエンポリマーB-1~B-5:製造例1~5で得た変性共役ジエンポリマー
[(B’)成分]
ポリブタジエンB’-1:上記ポリブタジエンb1-1
ポリブタジエンB’-2:無水マレイン酸変性ポリブタジエン
【0131】
[(C)成分]
SEBS:スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体
【0132】
[(D)成分]
球状シリカ:平均粒径0.5μm
【0133】
[(E)成分]
トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム
【0134】
表2に示された結果から明らかなように、本実施形態の実施例1~5で得られた樹脂組成物においては、相容性が良好であり、これらを用いて作製した硬化物は、耐熱性及び低熱膨張性に優れ、10GHz帯の高周波数帯における誘電特性に優れている。
一方、比較例1及び2は、相容性が低く、10GHz帯の高周波数帯における誘電特性も不十分である。また、比較例3は、10GHz帯の高周波数帯における誘電特性が不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の樹脂組成物は相容性が良好であり、該樹脂組成物から作製される積層板は、特に、耐熱性及び10GHz帯以上の高周波数帯における誘電特性に優れるため、6GHzを超える周波数帯の電波が使用される第五世代移動通信システム(5G)アンテナ及び30~300GHzの周波数帯の電波が使用されるミリ波レーダーに利用される多層プリント配線板に有用である。