IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】積層体の製造方法及び積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240509BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20240509BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240509BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240509BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B15/082 B
B32B15/08 J
H05K1/03 610H
H05K3/28 C
H05K3/28 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021533980
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020027617
(87)【国際公開番号】W WO2021015079
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019134455
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-237682(JP,A)
【文献】特開2000-010430(JP,A)
【文献】特開2007-322751(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】特開昭64-058534(JP,A)
【文献】特開2019-028184(JP,A)
【文献】特開2018-159826(JP,A)
【文献】特開2004-171928(JP,A)
【文献】特開2003-114585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 71/04
C08J 7/00- 7/02、 7/12- 7/18
B05D 1/00- 7/26
H05K 1/03、 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔又は耐熱性樹脂フィルムである基材層と、前記基材層の少なくとも一方の表面に形成され、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有し極性官能基を有する熱可塑性ポリマーで構成された、厚さが0.1~20μmであるポリマー層とを有する積層体の製造方法であって、前記熱可塑性ポリマーのパウダーを含む液状組成物を前記基材層の表面に塗布し乾燥して乾燥被膜を形成し、前記乾燥被膜を前記ポリマー層の厚さ1μm当たり15秒間以上の時間、前記熱可塑性ポリマーの溶融温度以上の温度にて加熱して溶融被膜を形成し、前記溶融被膜を120秒間以内に前記熱可塑性ポリマーのガラス転移点以下の温度に冷却して、前記積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリマー層の厚さが、前記基材層の厚さより小さい、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥被膜を加熱する際の温度と前記溶融被膜を冷却する際の温度との差が、前記ポリマー層の厚さ1μm当たり75℃以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー層が、前記熱可塑性ポリマーの球晶を含み、前記球晶の半径が5μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリマー層の結晶化度が、50%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマーが、溶融温度が260~320℃かつガラス転移点が75~125℃の熱可塑性ポリマーである、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記液状組成物が、無機フィラーを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレンに基づく単位と、エチレン、ヘキサフルオロプロピレン又はペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位とを含むポリマー等の熱可塑性のフルオロポリマーは、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等の物性に優れ、熱溶融加工性であるため、種々の産業用途に利用されている。
これらのフルオロポリマーのパウダーを含む液状組成物をコーティング剤とし、基材の表面にポリマー層を形成すれば、表面にフルオロポリマーの物性が付与された基材が容易に得られる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2018/016644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、かかる液状組成物から形成される、熱可塑性のフルオロポリマーで構成されたポリマー層の物性を鋭意検討した。
その際、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む熱可塑性のフルオロポリマーのパウダーを選択すると、それを含む液状組成物から形成されるポリマー層の物性が、その形成条件に影響されやすい点を知見した。そして、上記形成条件のうち、加熱条件と冷却条件とを調整すると、表面平滑性の高いポリマー層が形成され、基材との密着性が向上する点を知見した。さらに、かかるポリマー層を有する基材では、それを構成するフルオロポリマーの物性(特に、誘電正接等の電気特性)が顕著に発現する点を知見した。
【0005】
本発明は、基材層との密着性に優れるポリマー層を有する積層体、及びかかる積層体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> 基材層と、前記基材層の少なくとも一方の表面に形成され、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有する熱可塑性ポリマーで構成されたポリマー層とを有する積層体の製造方法であって、前記熱可塑性ポリマーのパウダーを含む液状組成物を前記基材層の表面に塗布し乾燥して乾燥被膜を形成し、前記乾燥被膜を前記ポリマー層の厚さ1μm当たり15秒間以上の時間、前記熱可塑性ポリマーの溶融温度以上の温度にて加熱して溶融被膜を形成し、前記溶融被膜を120秒間以内に前記熱可塑性ポリマーのガラス転移点以下の温度に冷却して、前記積層体を得る、積層体の製造方法。
<2> 前記ポリマー層の厚さが、前記基材層の厚さより小さい、<1>の製造方法。
<3> 前記ポリマー層の厚さが、0.1~20μmである、<1>又は<2>の製造方法。
<4> 前記乾燥被膜を加熱する際の温度と前記溶融被膜を冷却する際の温度との差が、前記ポリマー層の厚さ1μm当たり75℃以上である、<1>~<3>のいずれかの製造方法。
<5> 前記ポリマー層が、前記熱可塑性ポリマーの球晶を含み、前記球晶の半径が5μm以下である、<1>~<4>のいずれかの製造方法。
<6> 前記ポリマー層の結晶化度が、50%以上である、<1>~<5>のいずれかの製造方法。
<7> 前記熱可塑性ポリマーが、溶融温度が260~320℃かつガラス転移点が75~125℃の熱可塑性ポリマーである、<1>~<6>のいずれかの製造方法。
<8> 前記熱可塑性ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)に基づく単位及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を含有する熱可塑性ポリマー、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)に基づく単位を2~4モル%含有する熱可塑性ポリマー、又は、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(メチルビニルエーテル)に基づく単位を含有する熱可塑性ポリマーである、<1>~<7>のいずれかの製造方法。
<9> 前記液状組成物が、無機フィラーを含む、<1>~<8>のいずれかの製造方法。
<10> 前記基材層が、金属箔又は耐熱性樹脂フィルムである、<1>~<9>のいずれかの製造方法。
<11> 基材層と、前記基材層の少なくとも一方の表面に形成され、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有する熱可塑性ポリマーで構成されたポリマー層とを有する積層体であり、前記ポリマー層が前記熱可塑性ポリマーの球晶を含み、前記球晶の半径が5μm以下である、積層体。
<12> 前記ポリマー層の結晶化度が、50%以上である、<11>の積層体。
<13> 前記熱可塑性ポリマーが、溶融温度が260~320℃かつガラス転移点が75~125℃の熱可塑性ポリマーである、<11>又は<12>の積層体。
<14> 前記基材層が耐熱性樹脂フィルムであり、前記基材層の両面に前記ポリマー層が形成され、線膨張係数の絶対値が50ppm/℃以下である、<11>~<13>のいずれかの積層体。
<15> プリント基板材料として用いられる、<11>~<14>のいずれかの積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プリント基板材料等として有用な、基材層とポリマー層との密着性が高く、電気特性(特に、低誘電正接性)と機械特性(特に、剥離強度及び低線膨張性)とに優れた積層体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「熱可塑性ポリマー」とは、溶融流動性を示すポリマーを意味し、荷重49Nの条件下、ポリマーの溶融温度よりも20℃以上高い温度において、溶融流れ速度が0.1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。なお、「溶融流れ速度(MFR)」とは、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に規定される、ポリマーのメルトマスフローレートを意味する。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ポリマーのガラス転移点」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「パウダーの平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められるパウダーの体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダーの粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「パウダーのD100」は、同様にして測定されるパウダーの体積基準累積100%径である。
パウダーのD50及びD100は、パウダーを水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いて求められる。
「層の結晶化度」は、単離した層をX線回折して求められる。すなわち、得られたX線回析パターンにおいて、10°の回折角2θにおける回折強度と25°の回折角2θにおける回折強度とを結ぶ直線をベースラインとし、ベースラインと回折強度曲線とで囲まれる領域をプロファイルフィッティングにより2つの対称性ピークに分離し、回折角2θの大きい方を結晶性ピークとし、前記領域に占める前記結晶性ピークの割合として、求められる。
「基材層の表面の十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAに規定される値である。
「耐熱性樹脂」は、融点が280℃以上の高分子化合物、又はJIS C 4003:2010(IEC 60085:2007)で規定される最高連続使用温度が121℃以上の高分子化合物を意味する。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマーから直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリマーの標準ポリスチレン換算値である。
「(メタ)アクリルポリマー」は、メタアクリレートのポリマーとアクリレートのポリマーとの総称である。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの総称である。
【0009】
本発明の製造方法(本法)は、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)を含有する熱可塑性ポリマー(以下、「PFA系ポリマー」とも記す。)のパウダーを含む液状組成物を基材層の少なくとも一方の表面に塗布し乾燥して乾燥被膜を形成し、乾燥被膜を加熱して溶融被膜を形成し、溶融被膜を冷却する方法である。本法により、基材層と、基材層の少なくとも一方の表面に形成され、PFA系ポリマーで構成されたポリマー層とを有する積層体を製造する。
本法における乾燥被膜の加熱は、ポリマー層の厚さ1μm当たり15秒間以上の時間、PFA系ポリマーの溶融温度以上の温度にて行われる。
本法における溶融被膜の冷却は、120秒間以内にPFA系ポリマーのガラス転移点以下の温度にして行われる。
【0010】
本発明者らは、溶融被膜(溶融状態のPFA系ポリマーを含む被膜)の形成における加熱条件と、ポリマー層(溶融被膜が冷却されて形成されるPFA系ポリマーを含む被膜)の形成における冷却条件とを、それぞれ上記の条件にて行えば、積層体におけるポリマー層は、基材層との密着性に優れ、その電気特性(特に、低誘電正接性)と機械特性(特に、剥離強度及び低線膨張性)とが顕著に優れる点を知見した。
【0011】
その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
乾燥被膜を、上記の条件にて加熱すると、PFA系ポリマーのパウダー全体が充分に溶融し、PFA系ポリマーが高度に流動した溶融被膜が形成されると考えられる。かかる状態の溶融被膜を、上記の条件にて冷却すると、少なくとも部分的な結晶性ポリマーであるPFA系ポリマーが緻密に結晶化(固化)し、その球晶が充分に小さくなると考えられる。つまり、ポリマー層はPFA系ポリマーの微小球晶で構成され、その表面のミクロな段差(凹凸)のサイズが充分に小さくなるとも考えられる。その結果、積層体における基材層とポリマー層との密着性が向上し、その特性が顕著に向上したと考えられる。
【0012】
具体的には、本発明者らは、基材層が金属箔である積層体(ポリマー層付金属箔)又は、それから得られるプリント基板において、剥離強度が顕著に向上する点を知見している。これは、上記の理由により、ポリマー層と基材層との接着面における密着性が向上し、そこに存在する空気量又は空隙が充分に小さくなるのが要因であると考えられる。
また、本発明者らは、積層体又はプリント基板のポリマー層において、誘電正接(Df)が顕著に低下する点を知見している。これは、PFA系ポリマーが緻密に結晶化し、PFA系ポリマーの特性を高度に発現するのが要因であると考えられる。
上記積層体におけるポリマー層の周波数10GHzでの誘電正接は、0.0020以下が好ましく、0.0015以下がより好ましい。上記誘電正接は、0.0001以上が好ましい。かかる積層体から製造されるプリント基板は、伝送損失が充分に低減される。
【0013】
また、本発明者らは、基材層が耐熱性樹脂フィルムであり、基材層の両面にポリマー層が形成された積層体は、線膨張性が顕著に低下して反りが発生しにくくなる点を知見している。これも、上記の理由により、ポリマー層と基材層との接着面における密着性が向上したためであると考えられる。
上記積層体におけるポリマー層の線膨張係数(絶対値)は、50ppm/℃以下が好ましく、25ppm/℃がより好ましい。上記線膨張係数(絶対値)は、1ppm/℃以上が好ましい。
【0014】
本発明におけるポリマー層は、PFA系ポリマーの球晶を含むのが好ましい。
上記球晶の半径は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、1μm未満がさらに好ましい。上記半径は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
本発明におけるPFA系ポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含有する。なお、PAVE単位が有する側鎖のペルフルオロアルキル基の炭素原子間には、エーテル性酸素原子が挿入されていてもよい。
【0015】
本発明におけるポリマー層の結晶化度は、ポリマー層におけるPFA系ポリマーの結晶化度であるのが好ましい。ポリマー層の結晶化度は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。ポリマー層の結晶化度は、99%以下であるのが好ましい。
本法によれば、溶融させたPFA系ポリマーが急速に所定温度まで冷却されてポリマー層が形成されるため、かかる結晶化度のポリマー層が形成されやすい。その結果、上述した基材層との密着性や電気特性に加えて、線膨張係数が低く、熱伝導性にも優れたポリマー層が形成されやすい。
【0016】
PFA系ポリマーのフッ素含有量は、70~76質量%が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
PFA系ポリマーは、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を90~99モル%含むのが好ましい。
PFA系ポリマーは、ポリマーを構成する全単位に対して、PAVE単位を1~10モル%含むのが好ましい。
PAVEとしては、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(CF=CFOCF:PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(CF=CFOCFCF)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(CF=CFOCFCFCF:PPVE)、CF=CFOCFCFCFCF、ペルフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)(CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCF:PPOVE)が挙げられる。
【0017】
PFA系ポリマーは、TFE単位及びPAVE単位のみからなるポリマーであってもよく、さらに他の単位を含むポリマーであってもよい。
PFA系ポリマーは、極性官能基を有するポリマーであってもよい。極性官能基を有するポリマーとしては、ポリマーの主鎖の末端基に極性官能基を有するPFA系ポリマー、プラズマ処理や電離線処理やコロナ処理により極性官能基が導入されたPFA系ポリマー、TFE単位、PAVE単位及び極性官能基を有するモノマー(以下、「極性モノマー」とも記す。)に基づく単位(以下、「極性単位」とも記す。)を含有するPFA系ポリマーが挙げられる。
【0018】
極性官能基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基、アセタール基又はホスホノ基(-OP(O)OH)が好ましく、基材層との接着性をより高める観点から、カルボニル基含有基がより好ましい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH、-C(CFOH又は1,2-グリコール基(-CH(OH)CHOH)がより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましい。
極性モノマーの具体例としては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸が挙げられる。
【0019】
PFA系ポリマーは、(i)TFE単位、PAVE単位及び極性単位を含有するポリマー、(ii)TFE単位及びPPVE単位を2~4モル%で含有するポリマー、又は(iii)TFE単位及びPMVE単位を含有するポリマーが好ましい。
上記(i)のポリマーは、結晶化の際に、極性官能基同士が相互作用するので、ラメラ構造の形成が促され微小球晶が生成しやすく、基材層との密着性がより高まりやすい。さらに、極性官能基により、基材層とポリマー層との接着性がより高まりやすい。
上記(i)のポリマーを構成する全単位のうち、TFE単位の割合、PAVE単位の割合、極性単位の割合は、この順に、90~99モル%、0.5~9.97モル%、0.01~3モル%が好ましい。
【0020】
上記(ii)のポリマーは、PAVE単位がPPVE単位であり、かつ、ポリマーを構成する全単位のうち、PPVE単位を中量(2~4モル%)で含有するため、結晶化の際にラメラ構造の形成が促され微小球晶が生成しやすく、基材層との密着性がより高まりやすい。このポリマーは、TFE単位とPPVE単位とからなり、TFE単位を96~98モル%、PPVE単位を2~4モル%で含有するのが好ましい。
【0021】
上記(iii)のポリマーは、PAVE単位が側鎖の短いPMVE単位であり、結晶化の際にラメラ構造の形成が促され微小球晶が生成しやすく、基材層との密着性がより高まりやすい。このポリマーは、PMVE単位を10~20モル%で含有するのが好ましい。このポリマーは、TFE単位とPMVE単位とからなり、TFE単位を80~90モル%、PMVE単位を10~20モル%で含有するのが好ましい。
【0022】
本発明におけるPFA系ポリマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。後者の態様としては、PFA系ポリマーと、上記(i)のポリマー、上記(iii)のポリマー、又は、TFE単位及びPPOVE単位を含有する熱可塑性ポリマーとを使用する態様が挙げられる。前者のPFA系ポリマーは、後者のポリマーとは異なるPFA系ポリマーであり、TFE単位とPPVE単位とからなり、TFE単位とPPVE単位とを、この順に98モル%超100%未満、0モル%超2モル%未満で含有するのが好ましい。
かかる態様においては、後者のポリマーが結晶核として機能し、この結晶核を中心として前者のPFA系ポリマーの結晶化が促されて微小球晶が生成しやすく、基材層との密着性が高まりやすい。
後者のポリマーに対する前者のPFA系ポリマーの質量での比は、2~50が好ましく、5~35がより好ましい。この場合、生成される球晶の半径をより調整しやすい。
【0023】
PFA系ポリマーの380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sがより好ましい。
PFA系ポリマーの溶融温度は、260~320℃が好ましく、280~320℃がより好ましい。
PFA系ポリマーのガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
かかるPFA系ポリマーを使用すれば、緻密かつ密着性に優れたポリマー層が形成されやすい。
【0024】
本法におけるパウダーのD50は、ポリマー層の厚さより小さいのが好ましい。
パウダーは、0.05~6μmが好ましく、0.1~3μmがより好ましい。また、そのD100は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。この範囲のD50及びD100において、パウダーの流動性と分散性とが良好となり、緻密かつ密着性に優れたポリマー層が形成されやすい。
パウダーは、PFA系ポリマー以外の成分を含んでいてもよいが、PFA系ポリマーからなるのが好ましい。パウダーにおけるPFA系ポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
PFA系ポリマー以外の成分としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
【0025】
本法における液状組成物は、液状媒体を含むのが好ましい。この液状媒体は、パウダーの分散媒であり、25℃で不活性な液状化合物である。かかる液状媒体は、液状組成物に含まれる液状媒体の以外の成分よりも低沸点かつ揮発性の化合物が好ましい。液状媒体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
液状媒体は、極性であり、非水性であるのが好ましい。
液状媒体の沸点は、80~275℃が好ましく、125~250℃がより好ましい。この場合、乾燥被膜を形成する際、液状媒体の揮発に伴う、パウダーの流動が効果的に進行して、パウダーが緻密にパッキングしやすい。
【0026】
液状媒体の具体例としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。
液状媒体は、液状組成物の液物性(粘度、チキソ比等)を調整する観点から、有機液状媒体(有機化合物)が好ましく、ケトン又はアミドがより好ましく、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン又はN-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0027】
本法における液状組成物は、さらにポリマー結着剤を含むのが好ましい。なお、これらの剤を構成するポリマーは、PFA系ポリマーとは異なるポリマーであり、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、液晶ポリエステル及び(メタ)アクリルポリマーが好ましく、マレイミド樹脂、ポリイミド及びポリアミック酸がより好ましい。
結着剤がマレイミド樹脂、ポリイミド及びポリアミック酸である場合、ポリマー層が柔軟性と接着性とに優れやすい。結着剤としては、いずれも芳香族性の、マレイミド樹脂、ポリイミド及びポリアミック酸がより好ましい。
ポリイミドは、熱可塑性であるのが好ましい。
【0028】
液状組成物がポリマー結着剤を含めば、被膜におけるパウダーの粉落ちが抑制され、ポリマー層の表面平滑性がより向上しやすい。
液状組成物がポリマー分散剤を含めば、液状組成物の液物性と分散安定性とがより向上し、被膜の形成がより緻密に進行しやすい。
【0029】
ポリマー結着剤の具体例としては、「アドバンセル」シリーズ(積水化学社製)、「アロン」シリーズ(東亞合成社製)、「オリコックス」シリーズ(共栄社化学社製)、「フォレット」シリーズ(綜研化学社製)、「ディックファイン」シリーズ(DIC社製)等の(メタ)アクリルポリマー、「HPC」シリーズ(日立化成社製)等のポリアミドイミド、「ネオプリム」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、「ユピア-AT」シリーズ(宇部興産社製)等のポリイミドが挙げられる。
【0030】
本法における液状組成物は、さらにポリマー分散剤を含むのが好ましい。
ポリマー分散剤は、親水部位と疎水部位を有するポリマーで構成されるのが好ましい。上記ポリマーは、これらの部位をポリマーの側鎖に有するのが好ましい。
親水部位は、ノニオン性の官能基を含む分子鎖が好ましく、アルコール性水酸基含有基又はポリオキシアルキレン基が好ましい。
ポリオキシアルキレン基は、1種のポリオキシアルキレン基から構成されていてもよく、2種以上のポリオキシアルキレン基から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うポリオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
ポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基又はポリオキシプロピレン基が好ましく、ポリオキシエチレン基がより好ましい。
【0031】
疎水部位は、アルキル基、アセチレン基含有基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基が好ましく、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基がより好ましい。
ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素数は、4~16が好ましい。また、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素原子-炭素原子間には、エーテル性酸素原子が挿入されていてもよい。
【0032】
上記ポリマーは、ノニオン性であるのが好ましい。
上記ポリマーの重量平均分子量は、2000~80000が好ましい。
上記ポリマーのフッ素含有量は、20~50質量%がより好ましい。
上記ポリマーのオキシアルキレン基の含有量は、20~50質量%がより好ましい。
上記ポリマーの水酸基価は、10~300mgKOH/gが好ましい。
【0033】
上記ポリマーの好適な態様としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基とポリオキシアルキレン基又はアルコール性水酸基とをそれぞれ側鎖に有するポリマーが挙げられる。前記ポリマーのより好適な態様としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートと、ポリオキシアルキレン基又はアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリレートとのコポリマーが挙げられる。
ポリマー分散剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)が挙げられる。
【0034】
本法における液状組成物は、さらにPFA系ポリマー以外のフルオロポリマーを含んでもよい。かかるフルオロポリマーの好適な態様としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のパウダーが挙げられる。この場合、ポリマー層(成形物)において、PTFEに基づく物性(低誘電正接性等の電気特性)が顕著に発現しやすい。
PTFEは、下式(1)に基づいて算出される数平均分子量(Mn)が20万以下であるPTFE(低分子量PTFE)が好ましい。
Mn = 2.1×1010×ΔHc-5.16 ・・・ (1)
式(1)中、ΔHcは、示差走査熱量分析法により測定されるPTFEの結晶化熱量(cal/g)を示す。
低分子量PTFEのMnは、10以下が好ましく、5万以下がより好ましい。低分子量PTFEのMnは、1万以上が好ましい。
【0035】
本法における液状組成物が、これらの成分を含む場合、これらの成分が、溶融被膜からポリマー層が形成される際に、結晶核として機能し、この結晶核を中心としてPFA系ポリマーの結晶化が促され、PFA系ポリマーの微小球晶が形成されやすくなると考えられる。その結果、積層体における基材層とポリマー層との密着性がさらに向上し、その電気特性と機械物性とがより向上しやすい。
【0036】
本法における液状組成物は、さらに無機フィラーを含むのが好ましい。かかる場合、ポリマー層が電気特性と低線膨張性とに優れやすい。また、乾燥被膜、溶融被膜及びポリマー層が熱伝導性に優れやすく、ポリマー層を形成する際に、かかる膜及び層が素早く均一に加熱冷却されやすいため、ポリマー層が表面平滑性と均一性とに優れやすい。
【0037】
無機フィラーは、窒化物フィラー又は無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、ベリリアフィラー(ベリリウムの酸化物のフィラー)、ケイ酸塩フィラー(シリカフィラー、ウォラストナイトフィラー、タルクフィラー、ステアタイトフィラー)又は金属酸化物(酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーがより好ましく、シリカフィラー、窒化ホウ素フィラー及びステアタイトフィラーがさらに好ましい。
窒化ホウ素、シリカ及びステアタイトは、PFA系ポリマーとの相互作用が亢進しやすく、それを含む無機フィラーは、液状組成物の分散安定性をより向上させやすい。また、ポリマー層において、窒化ホウ素、シリカ又はステアタイトの物性を顕著に発現させやすい。
【0038】
無機フィラーは、焼結されている無機フィラーであってもよい。換言すれば、無機フィラーはセラミックスであってもよい。
無機フィラーの線膨張係数の絶対値は、8ppm/℃以下が好ましく、5ppm/℃以下がより好ましい。線膨張係数の絶対値は、1ppm/℃以上が好ましい。かかる場合、ポリマー層を形成する際にポリマー層の寸法を制御しやすく、また、ポリマー層が低線膨張性に優れやすい。
【0039】
無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、シランカップリング剤を用いて表面処理されているのが好ましい。
シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0040】
無機フィラーの平均粒子径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよく、板状であるのが好ましい。無機フィラーの形状が板状である場合、無機フィラーが配向しやすく、乾燥被膜、溶融被膜及びポリマー層の平面方向の熱伝導性が向上しやすい。
その結果、ポリマー層の形成時に、かかる膜及び層が素早く均一に加熱冷却されやすく、ポリマー層が表面平滑性と均一性に優れやすい。
無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。無機フィラーは中空状であってもよく、中空状のフィラーと、非中空状のフィラーを含んでもよい。
【0041】
無機フィラーの具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン」太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ、デンカ社製の「SFP」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された酸化チタンフィラー(石原産業社製の「タイペーク」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、酸化マグネシウムフィラー(宇部マテリアルズ社製の「マグネシア」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭電工社製の「UHP」、「HGP」シリーズ等)が挙げられる。
【0042】
本法における液状組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤を含んでいてもよい。
液状組成物の25℃における粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、10~1000mPa・sがより好ましい。
液状組成物のチキソ比は、1~2.5が好ましく、1.2~2がより好ましい。
【0043】
液状組成物中のPFA系ポリマーの割合は、5~60質量%が好ましく、15~50質量%がより好ましい。この範囲において、電気特性と基材層に対する密着性とに優れたポリマー層を形成しやすい。
液状組成物が液状媒体を含む場合、液状組成物中の液状媒体の割合は、40~95質量%が好ましく、50~85質量%がより好ましい。
液状組成物がポリマー結着剤を含む場合、液状組成物中のポリマー結着剤の割合は、0.01~1質量%が好ましい。
液状組成物がポリマー分散剤を含む場合、液状組成物中の分散剤の割合は、1~15質量%が好ましい。この場合、ポリマー層におけるPFA系ポリマーの元来の物性がより向上しやすい。
液状組成物が無機フィラーを含む場合、液状組成物中の無機フィラーの割合は、1~50質量%が好ましく、5~30質量%が好ましい。この場合、電気特性と低線膨張性とに優れたポリマー層を形成しやすい。
【0044】
本法における液状組成物の基材層の表面への塗布は、基材層の表面に安定した液状被膜が形成される方法であればよく、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法、コンマコート法が挙げられる。
【0045】
本法における乾燥被膜の形成は、基材層の表面の液状組成物(液状被膜)を乾燥して行われる。
液状被膜の乾燥方法としては、加熱乾燥、空気(ガス)の吹き付けによる乾燥、自然乾燥等が挙げられる。中でも、乾燥方法としては、液状被膜の形状を安定的に保持しつつ、短時間で液状被膜を乾燥できるため、加熱乾燥が好ましい。また、乾燥被膜中には、液状組成物に含まれ得る液状媒体の一部は残留していてもよい。
この際の加熱温度(雰囲気の温度)は、PFA系ポリマーの溶融温度未満で、液状組成物に含まれ得る液状媒体の沸点等に応じて設定すればよく、90~250℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。また、加熱時間は、0.1~10分間が好ましく、0.5~5分間がより好ましい。
なお、加熱乾燥における加熱は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
【0046】
本法における溶融被膜の形成は、乾燥被膜を加熱して、乾燥被膜中のPFA系ポリマーを溶融して行われる。
この際の加熱温度(雰囲気の温度)は、PFA系ポリマーの溶融温度以上で、PFA系ポリマーの種類に応じて設定すればよく、300~400℃が好ましく、320~390℃がより好ましく、340~380℃がさらに好ましい。
また、この際の加熱は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
【0047】
乾燥被膜は、形成されるポリマー層の厚さ1μm当たり15秒間以上の時間、加熱される。これにより、PFA系ポリマーのパウダー全体が充分に加熱され、溶融被膜中でPFA系ポリマーが高度に流動する。形成されるポリマー層の厚さ1μm当たりの乾燥被膜の加熱時間は、30秒分間以上が好ましく、45秒間以上がより好ましい。上記加熱時間は、積層体の生産性の観点から、100秒間以下が好ましい。
例えば、厚さが4μmであるポリマー層を形成する場合、上記加熱時間は、60秒間以上であり、120秒間以上が好ましく、180秒間以上がより好ましい。
【0048】
乾燥被膜及び溶融被膜を形成する際の加熱手段としては、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線照射炉を用いる方法が挙げられる。
その際の加熱における雰囲気の状態は、常圧下、減圧下のいずれであってよい。
その際の雰囲気は、酸化性ガス(酸素ガス等)雰囲気、還元性ガス(水素ガス等)雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよく、液状組成物中に含まれるポリマー成分の変質、劣化を抑制する観点から、不活性ガスを80~100体積%含む雰囲気が好ましい。液状組成物中に含まれる分散剤等の成分の分解を促進し、ポリマー層の誘電正接を低下させる観点から、酸素ガスを1~20体積%含む雰囲気が好ましい。
【0049】
本法におけるポリマー層の形成は、溶融被膜を冷却して、溶融被膜中のPFA系ポリマーを固化させて行われる。
この際の冷却は、溶融被膜を120秒間以内にPFA系ポリマーのガラス転移点以下の所定温度にまで急冷して行われる。この急冷により、PFA系ポリマーが緻密に結晶化して固化するため、微小球晶の生成が促される。また、液状組成物が無機フィラーを含む場合、この急冷により溶融被膜中の無機フィラーが配向しやすく、ポリマー層が低線膨張性に優れやすい。
冷却温度を上記所定温度に到達させるまでの時間は、100秒間以内が好ましく、60秒間以内がより好ましい。なお、積層体の生産性を向上する観点から、上記時間の下限は、通常、10秒間である。
溶融被膜の冷却速度は、形成されるポリマー層の厚さ1μm当たり、0.25℃/秒以上が好ましく、2.5℃/秒以上がより好ましい。なお、上記冷却速度の上限は、通常、30℃/秒である。
【0050】
上記冷却は、冷却温度(雰囲気の温度)を調整するだけでなく、PFA系ポリマーの熱伝導率より充分に高い熱伝導率を有する基材層の選択や、基材層より充分に薄いポリマー層の選択によっても調整できる。
具体的には、PFA系ポリマーの熱伝導率に対して基材層の熱伝導率の比は、1000以上が好ましく、1250~3000がより好ましい。基材層の熱伝導率の具体的な値は、200W/m・K以上が好ましく、250~600W/m・Kがより好ましい。かかる基材層としては金属基板が挙げられ、好適には金属箔が挙げられる。
【0051】
上記冷却温度は、PFA系ポリマーのガラス転移点に応じて設定すればよく、0~70℃が好ましく、10~40℃がより好ましい。また、上記冷却温度を維持する時間は、1~30分間が好ましく、3~15分間がより好ましい。
さらに、溶融被膜を形成する際の加熱温度とポリマー層を形成する際の冷却温度との差は、形成されるポリマー層の厚さ1μm当たり、75℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。この場合、PFA系ポリマーの結晶化が急激に進行し、微小球晶の生成が促され、ポリマー層の物性がより向上しやすい。
【0052】
ポリマー層の厚さは、基材層の厚さより小さいのが好ましい。
ポリマー層の厚さに対する基材層の厚さの比は、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。上記比は、100以下が好ましく、10以下がより好ましい。
ポリマー層の厚さは、0.1~20μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましく、1~5μmがさらに好ましい。
本法におけるポリマー層の厚さ及び基材層の厚さの好適な態様としては、前者が1~5μmであり後者が6~25μmである態様が挙げられる。
【0053】
本法における基材層は、金属箔又は耐熱性樹脂フィルムが好ましい。
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.5μm以下が好ましく、0.1μm未満がより好ましい。金属箔の表面の十点平均粗さは、0.01μm以上が好ましい。この場合、いずれも表面平滑性が高いポリマー層と金属箔とがより高度に密着する。
このため、積層体(ポリマー層付金属箔)又はそれを加工して得られるプリント基板において、誘電正接(Df)がより顕著に低下する。具体的には、本法における基材層が金属箔である場合、積層体の周波数10GHzでの誘電正接は、0.0020以下が好ましく、0.0015以下がより好ましい。上記誘電正接は、0.0001以上が好ましい。
金属箔の材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む。)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等が挙げられる。
金属箔は、圧延銅箔又は電解銅箔が好ましい。
【0054】
金属箔の表面は、防錆処理(クロメート等の酸化物皮膜等の形成)がされていてもよい。また、金属箔の表面は、シランカップリング剤により処理されていてもよい。その際の処理範囲は、金属箔の表面の一部であってもよく、表面の全部であってもよい。
金属箔の厚さは、0.1~20μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましい。
【0055】
また、金属箔として、2層以上の金属箔を含むキャリア付金属箔を使用してもよい。キャリア付金属箔としては、キャリア銅箔(厚さ:10~35μm)と、剥離層を介してキャリア銅箔上に積層された極薄銅箔(厚さ:2~5μm)とからなるキャリア付銅箔が挙げられる。かかるキャリア付銅箔を使用すれば、MSAP(モディファイドセミアディティブ)プロセスによるファインパターンの形成が可能である。上記剥離層としては、ニッケル又はクロムを含む金属層か、この金属層を積層した多層金属層が好ましい。
キャリア付金属箔の具体例としては、福田金属箔粉工業株式会社製の商品名「FUTF-5DAF-2」が挙げられる。
【0056】
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂の1種以上を含むフィルムであり、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。耐熱性樹脂フィルムには、ガラス繊維又は炭素繊維等が埋設されていてもよい。
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドが挙げられ、ポリイミドが好ましい。
基材層が耐熱性樹脂フィルムである場合は、基材層の両面にポリマー層を形成するのが好ましい。この場合、表面平滑性が高いポリマー層が耐熱性樹脂フィルムの両面に形成されるため、積層体の線膨張係数が顕著に低下しやすい。また、積層体に反りが発生しにくいため、その加工に際するハンドリング性に優れる。
【0057】
本法において、基材層の両面に本組成物を付与(塗布)すれば、基材層と、基材層の両方の表面に形成されたポリマー層とを有する積層体が得られる。かかる積層体の具体例としては、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にポリマー層を有する多層フィルムが挙げられる。
かかる積層体は、電気特性、はんだリフロー耐性等の耐熱性、耐薬品性、表面平滑性等の諸物性に優れており、プリント基板材料等として好適である。
かかる積層体の線膨張係数の絶対値は、50ppm/℃以下が好ましく、25ppm/℃以下がより好ましい。線膨張係数の絶対値は、1ppm/℃以下が好ましい。
【0058】
本発明の積層体としては、基材層の少なくとも一方の表面に形成され、PFA系ポリマーで構成されたポリマー層とを有する積層体であり、上記ポリマー層がPFA系ポリマーの球晶を含み、上記球晶の半径が5μm以下である積層体が挙げられる。
本発明の積層体は、本法により製造できる。本発明の積層体の個々の構成は、その好適な態様も含めて、本法におけるそれと同様である。
【0059】
本発明の積層体のポリマー層の最表面は、その低線膨張性や接着性を一層向上させるために、さらに表面処理されてもよい。
表面処理の方法としては、アニール処理、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、エキシマ処理、シランカップリング処理が挙げられる。
アニール処理における条件は、温度を120~180℃とし、圧力を0.005~0.015MPaとし、時間を30~120分間とするのが好ましい。
プラズマ処理に用いるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、希ガス(アルゴン等)、水素ガス、アンモニアガス、酢酸ビニルが挙げられる。これらのガスは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して混合ガスとしてもよい。
【0060】
本発明の積層体のポリマー層の最表面には、さらに他の基板を積層してもよい。
他の基板としては、耐熱性樹脂フィルム、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ、耐熱性樹脂フィルム層を有する積層体、プリプレグ層を有する積層体が挙げられる。
なお、プリプレグは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の基板である。
耐熱性樹脂フィルムとしては、上述した耐熱性樹脂フィルムが挙げられる。
【0061】
積層の方法としては、積層体と他の基板とを熱プレスする方法が挙げられる。
他の基板がプリプレグである場合の熱プレスの条件は、温度を120~300℃とし、雰囲気の圧力を20kPa以下の減圧(真空)とし、プレス圧力を0.2~10MPaとするのが好ましい。他の基板が耐熱性樹脂フィルムである場合の熱プレスの条件は、この内の温度を310~400℃とするのが好ましい。
本発明の積層体は、電気特性に優れるポリマー層を有するため、プリント基板材料として好適である。具体的には、本発明の積層体は、フレキシブル金属張積層板やリジッド金属張積層板としてプリント基板の製造に使用でき、特に、フレキシブル金属張積層板としてフレキシブルプリント基板の製造に好適に使用できる。
【0062】
基材層が金属箔である積層体(ポリマー層付金属箔)の金属箔をエッチング加工し、伝送回路を形成してプリント基板が得られる。具体的には、金属箔をエッチング処理して所定の伝送回路に加工する方法によって、プリント基板を製造できる。
ポリマー層付金属箔から製造されたプリント基板は、金属箔から形成された伝送回路とポリマー層をこの順に有する。プリント基板の構成の具体例としては、伝送回路/ポリマー層/プリプレグ層、伝送回路/ポリマー層/プリプレグ層/ポリマー層/伝送回路、伝送回路/ポリマー層/ポリイミド層、伝送回路/ポリマー層/ポリイミド層/ポリマー層/伝送回路が挙げられる。
かかるプリント基板の製造においては、伝送回路上に層間絶縁膜を形成してもよく、伝送回路上にソルダーレジストを積層してもよく、伝送回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。これらの層間絶縁膜、ソルダーレジスト及びカバーレイフィルムの材料として、上記液状組成物を使用してもよい。
【0063】
プリント基板の具体的な態様としては、プリント基板を多層化した多層プリント回路基板が挙げられる。
多層プリント回路基板の好適な態様としては、多層プリント回路基板の最外層がポリマー層であり、金属箔又は伝送回路とポリマー層とプリプレグ層又はポリイミド層とがこの順に積層された構成を1以上有する態様が挙げられる。なお、上記構成の数は複数(2以上)が好ましい。また、ポリマー層と、プリプレグ層又はポリイミド層との間に、伝送回路がさらに配置されていてもよい。
かかる態様の多層プリント回路基板は、最外層のポリマー層により、耐熱加工性に特に優れている。具体的には、288℃においても、ポリマー層と、プリプレグ層又はポリイミド層との界面膨れや、金属箔(伝送回路)とポリマー層との界面剥離が発生しにくい。特に、金属箔が伝送回路を形成している場合でも、ポリマー層が金属箔(伝送回路)と強固に密着しているため、反りが発生しにくく耐熱加工性に優れている。
【0064】
多層プリント回路基板の好適な態様としては、多層プリント回路基板の最外層がプリプレグ層であり、金属箔又は伝送回路とポリマー層とプリプレグ層とがこの順に積層された構成を1以上有する態様も挙げられる。なお、上記構成の数は複数(2以上)が好ましい。また、ポリマー層とプリプレグ層との間に、伝送回路がさらに配置されていてもよい。
かかる態様の多層プリント回路基板は、最外層にプリプレグ層を有していても、耐熱加工性に優れている。具体的には、300℃においても、ポリマー層とプリプレグ層との界面膨れや金属箔(伝送回路)とポリマー層との界面剥離が発生しにくい。特に、金属箔が伝送回路を形成している場合でも、ポリマー層が金属箔(伝送回路)と強固に密着しているため、反りが発生しにくく耐熱加工性に優れている。
つまり、本発明によれば、各種表面処理を施さずとも、それぞれの界面が強固に密着し、加熱における界面膨れや界面剥離、特に、最外層における膨れや剥離の発生が抑制された、種々の構成を有するプリント基板が容易に得られる。
【0065】
以上、本発明の積層体の製造方法及び積層体について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の積層体は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明の積層体の製造方法は、上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[PFA系ポリマー]
ポリマー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%で含有し、極性官能基を有するポリマー(溶融温度:300℃、ガラス転移点:95℃)
ポリマー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%で含有し、極性官能基を有さないポリマー(溶融温度:305℃、ガラス転移点:85℃)
ポリマー3:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%で含有し、極性官能基を有さないポリマー(溶融温度:305℃、ガラス転移点:90℃)
ポリマー4:TFE単位及びPMVE単位を、この順に85.0モル%、15.0モル%で含有し、極性官能基を有さないポリマー(溶融温度:285℃、ガラス転移点:85℃)
【0067】
[パウダー]
パウダー1:ポリマー1からなるパウダー(D50:1.7μm)
パウダー2:ポリマー2からなるパウダー(D50:3.2μm)
パウダー3:80質量部のポリマー3と20質量部のポリマー4とを含むパウダー(D50:2.7μm)
パウダー4:ポリマー3からなるパウダー(D50:2.4μm)
[フィラー]
フィラー1:板状の窒化ホウ素フィラー(D50:7.0μm)
【0068】
[溶媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
[分散剤]
分散剤1:ペルフルオロアルケニル基と、ポリオキシエチレン基及びアルコール性水酸基とをそれぞれ側鎖に有する、ノニオン性の(メタ)アクリレート系ポリマー(ネオス社製、「フタージェント710FL」)
[金属箔]
銅箔1:低粗化電解銅箔(厚さ:12μm、表面の十点平均粗さ:0.08μm)
[耐熱性樹脂フィルム]
フィルム1:芳香族ポリイミドフィルム(厚さ:25μm、東レ・デュポン社製、「カプトンEN」)
【0069】
1.液状組成物の製造
(液状組成物1)
ポットに、NMP(67質量部)と分散剤1(3質量部)とを入れて溶液とした後、パウダー1(30質量部)とを入れた。その後、ジルコニアボールを投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー1が分散した液状組成物1を製造した。
なお、液状組成物1は、25℃における粘度が25mPa・sであり、25℃にて静置しても顕著な沈降物が発生せず分散性に優れていた。
(液状組成物2~4)
液状組成物1におけるパウダー1に代えて、パウダー2を使用して液状組成物2を、パウダー3を使用して液状組成物3を、パウダー4を使用して液状組成物4を、それぞれ製造した。
【0070】
(液状組成物5)
まず、ポットに、パウダー3(30質量部)と分散剤1(2質量部)とNMP(45質量部)とを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、組成物を調製した。別のポットに、フィラー1(10質量部)と分散剤1(1質量部)とNMP(12質量部)とを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、組成物を調製した。
さらに別のポットに、両者の組成物を投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー2とフィラー1が分散した液状組成物5を製造した。
なお、液状組成物5は、25℃における粘度が25mPa・sであり、25℃にて静置しても顕著な沈降物が発生せず分散性に優れていた。
【0071】
2.ポリマー層付銅箔の製造
銅箔1の表面に、液状組成物1を小径グラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して液状被膜を形成した。次いで、この銅箔を、乾燥炉に通し、150℃で300秒間、加熱して乾燥被膜を形成した。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を380℃の雰囲気にて600秒間、加熱して溶融した。次いで、溶融被膜を20℃の雰囲気で冷却して、銅箔1の表面にポリマー層(厚さ:4μm)が形成されたポリマー層付銅箔1を製造した。乾燥被膜の加熱時間は、ポリマー層の厚さ1μm当たり150秒間であり、溶融被膜は25秒間で95℃(ポリマー1のガラス転移点)に冷却されていた。その冷却速度は、ポリマー層の厚さ1μm当たり2.9℃/秒であった。
【0072】
液状組成物1に代えて、液状組成物2~5をそれぞれ使用した以外は、ポリマー層付銅箔1と同様にして、ポリマー層付銅箔2~5を製造した。いずれのポリマー層付銅箔の製造においても、乾燥被膜の加熱時間は、ポリマー層の厚さ1μm当たり150秒間であり、溶融被膜がPFA系ポリマーのガラス転移点に冷却されるまでの時間は25~60秒間であった。
(ポリマー層付銅箔6(比較例))
乾燥被膜の加熱時間を40秒間とし、乾燥被膜の加熱時間をポリマー層の厚さ1μm当たり10秒間とした以外は、ポリマー層付銅箔4と同様にしてポリマー層付銅箔6を製造した。
(ポリマー層付銅箔7(比較例))
溶融被膜の冷却を、200℃の雰囲気、20℃の雰囲気の順に行って、溶融被膜が90℃(ポリマー3のガラス転移点)に冷却されるまでの時間を120秒超とした以外は、ポリマー層付銅箔4と同様にしてポリマー層付銅箔7を製造した。
【0073】
3.ポリマー層付銅箔の測定及び評価
<球晶半径の測定>
各ポリマー層付銅箔において、銅箔を酸水溶液で溶解してポリマー層を得た。
得られたポリマー層の銅箔側の面について、小角光散乱を利用した高分子相構造解析システム(大塚化学社製、「PP-1000」)を使用して、散乱ベクトルq(μm-1)と散乱強度(Is)との相関を求めて、その球晶半径を測定した。
散乱強度が最も高くなった散乱ベクトルをqmaxとすると、qmax=(4πn/λ)×sin(θmax/2)[ここで、λが真空中での光の波長であり、nが媒体の屈折率であり、θmaxは、散乱強度がピーク位置での散乱角度である。]と表され、球晶半径R(μm)=4.09/qmaxが導かれる。
【0074】
<密着性>
各ポリマー層付銅箔の断面をSEMにより観察して、銅箔とポリマー層の界面の状態を、以下の基準に従って評価した。
A:界面が全面にわたって緻密に密着している。
B:界面が全面にわたって密着しているが、空隙が存在する部分がある。
C:界面の全面にわたって空隙が存在している。
【0075】
<剥離強度>
各ポリマー層付銅箔から矩形状(長さ:100mm、幅:10mm)の試験片に切り出した。そして、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分、長さ方向の片端から試験片に対して90°で、銅箔とポリマー層とを剥離させた。この際の最大荷重を剥離強度(N/cm)として測定し、以下の基準に従って評価した。
A:剥離強度が12N/cm以上であった。
B:剥離強度が8N/cm以上、12N/cm未満であった。
C:剥離強度が8N/cm未満であった。
【0076】
<誘電正接>
ポリマー層から長さ100mm、幅50mmの四角い試験片を切り出し、測定器としてネットワークアナライザを使用して、空洞共振器摂動法により、ポリマー層の誘電正接を測定し、以下の基準に従って評価した。なお、測定周波数は10GHzとした。
A:誘電正接が0.0015未満であった。
B:誘電正接が0.0015以上、0.0030以下であった。
C:誘電正接が0.0030超であった。
【0077】
<線膨張係数>
ポリマー層から幅3mm、長さ10mm角の四角い試験片を切り出し、熱機械的分析装置(SIIナノテクノロジー社製、「TMA/SS6100」)を用いて、10℃/分にて0℃から400℃に昇温させた後、40℃/分にて10℃まで冷却し、さらに10℃/分にて10℃から200℃に昇温させた際の線膨張係数の絶対値を測定した。測定荷重は29.4mNとし、測定雰囲気は空気雰囲気とした。
A:線膨張係数の絶対値が30ppm/℃以下であった。
B:線膨張係数の絶対値が30ppm/℃超、50ppm/℃以下であった。
C:線膨張係数の絶対値が50ppm/℃超であった。
これらの結果を以下の表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
なお、ポリマー層付銅箔1、2及び5のポリマー層の結晶化度は60%以上であり、ポリマー層付銅箔1、2及び5は、他のポリマー層付銅箔より熱伝導性にも優れていた。
【0080】
4.積層フィルムの製造
フィルム1の表面に、液状組成物1を小径グラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して液状被膜を形成し、乾燥炉に通し、150℃で180秒間、加熱して乾燥被膜を形成した。さらに、フィルム1の他方の表面にも、同様にして乾燥被膜を形成した。
その後、遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を380℃にて1200秒間加熱して溶融した後、冷却して、フィルム1の両面にポリマー層(厚さ:25μm)が形成された積層フィルム1を得た。
乾燥被膜の加熱時間はポリマー層の厚さ1μm当たり48秒間であり、溶融被膜は45秒間で95℃(ポリマー1のガラス転移点)に冷却されていた。
【0081】
得られた積層フィルム1の線膨張係数を、ポリマー層の線膨張係数の測定と同様にして測定した結果、積層フィルム1の線膨張係数の絶対値は、22ppm/℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の積層体は、高周波信号を伝送するプリント基板材料として好適に使用できる。また、本発明の製造方法によれば、かかる積層体を効率的に製造できる。