(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
C07C 43/13 20060101AFI20240509BHJP
C08G 65/331 20060101ALI20240509BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20240509BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20240509BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20240509BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240509BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240509BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
C07C43/13 D CSP
C08G65/331
C10M107/38
G11B5/725
G11B5/84 Z
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:18
(21)【出願番号】P 2021536882
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026883
(87)【国際公開番号】W WO2021020066
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019141291
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】福本 直也
(72)【発明者】
【氏名】柳生 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】室伏 克己
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159250(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084781(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147017(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/024585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G
C10M
C10N
G11B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R
2-CH
2-R
1-CH
2OCH
2CH(OH)-(CH
2)
n-CH(OH)CH
2OCH
2-R
1-CH
2-R
2 (1)
(式(1)中、nは2~6の整数であり、R
1はパーフルオロポリエーテル鎖であり、R
2は-OCH
2CH(OH)CH
2O(CH
2)
mOH(式中のmは2~4の整数である。)である。)
【請求項2】
前記式(1)におけるR
1が、下記式(2)~(4)のいずれかで表されることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【化1】
(式(2)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(3)中、rは1~30を表す。)
(式(4)中、sは1~20を表す。)
【請求項3】
下記式(A)~(F)で表されるいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【化2】
(式(A)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(B)中、rは1~30を表す。)
(式(C)中、sは1~20を表す。)
【化3】
(式(D)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(E)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(F)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
【請求項4】
数平均分子量が500~10000の範囲内である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項6】
基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
前記潤滑層の平均膜厚が、0.5nm~3nmである請求項6に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の潤滑剤用途に好適な含フッ素エーテル化合物、それを含む磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体に関する。
本願は、2019年7月31日に、日本に出願された特願2019-141291号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
従来、磁気記録媒体として、基板上に記録層を形成し、記録層上にカーボン等の保護層を形成したものがある。保護層は、記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める。しかし、記録層上に保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分に得られない。このため、一般に、保護層の表面に潤滑剤を塗布して潤滑層を形成している。
【0003】
磁気記録媒体の潤滑層を形成する際に用いられる潤滑剤としては、例えば、CF2を含む繰り返し構造を有するフッ素系のポリマーの末端に、水酸基等の極性基を有する化合物を含有するものが提案されている。
例えば、特許文献1には、分子の中央部に存在する炭素数4~10の脂肪族炭化水素鎖が、2つ以上のパーフルオロポリエーテルと、それぞれエーテル結合しているフルオロポリエーテル化合物が開示されている。
また、特許文献2には、両方の末端部分に複数のヒドロキシル基を有し、該ヒドロキシル基間の最短距離が3原子以上離れている置換基が配置された化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/084781号
【文献】特許第4632144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録再生装置においては、より一層、磁気ヘッドの浮上量を小さくすることが要求されている。このため、磁気記録媒体における潤滑層の厚みを、より薄くすることが求められている。
しかし、一般的に潤滑層の厚みを薄くすると、潤滑層の被覆性が低下して、磁気記録媒体の耐摩耗性が低下する傾向がある。また、潤滑層の厚みを薄くした際に耐摩耗性の低下を抑えるために、保護層の表面を被覆している潤滑層と保護層との密着性を下げると、潤滑層中の含フッ素エーテル化合物が磁気ヘッドに付着するピックアップが発生し易くなる。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、厚みを薄くしても、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層を形成でき、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適に用いることができる含フッ素エーテル化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層を有する優れた信頼性および耐久性を有する磁気記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
その結果、2~6個のメチレン基(-CH2-)からなる鎖状構造の両端にそれぞれ、水酸基を含む連結基を介してパーフルオロポリエーテル鎖が結合され、パーフルオロポリエーテル鎖の末端に、メチレン基(-CH2-)を介して-OCH2CH(OH)CH2O(CH2)mOH(式中のmは2~4の整数である。)からなる末端基が結合された含フッ素エーテル化合物とすればよいことを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
本発明の第一の態様の化合物は、以下の化合物である。
【0008】
[1] 下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R2-CH2-R1-CH2OCH2CH(OH)-(CH2)n-CH(OH)CH2OCH2-R1-CH2-R2 (1)
(式(1)中、nは2~6の整数であり、R1はパーフルオロポリエーテル鎖であり、R2は-OCH2CH(OH)CH2O(CH2)mOH(式中のmは2~4の整数である。)である。)
本発明の第一の態様の化合物は、下記の[2]~[4]に述べる特徴を好ましく含む。下記特徴は2つ以上を互いに組み合わせることも好ましい。
【0009】
[2] 前記式(1)におけるR1が、下記式(2)~(4)のいずれかで表されることを特徴とする[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0010】
【化1】
(式(2)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(3)中、rは1~30を表す。)
(式(4)中、sは1~20を表す。)
【0011】
[3] 下記式(A)~(F)で表されるいずれかの化合物であることを特徴とする[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0012】
【化2】
(式(A)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(B)中、rは1~30を表す。)
(式(C)中、sは1~20を表す。)
【0013】
【化3】
(式(D)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(E)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(F)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
【0014】
[4] 数平均分子量が500~10000の範囲内である[1]~[3]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0015】
本発明の第二の態様は、以下の磁気記録媒体用潤滑剤である。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
本発明の第三の態様は、以下の磁気記録媒体である。
[6] 基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、[1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[7] 前記潤滑層の平均膜厚が、0.5nm~3nmである[6]に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適である。
本発明の磁気記録媒体用潤滑剤は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みを薄くしても、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層を形成できる。
本発明の磁気記録媒体は、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層が設けられているため、優れた信頼性および耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の磁気記録媒体の一実施形態の好ましい例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤(以下、「潤滑剤」と略記する場合がある。)および磁気記録媒体について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数値、順番、時間、比率、材料、量、構成等について、変更、付加、省略、置換等が可能である。
【0019】
[含フッ素エーテル化合物]
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、下記式(1)で表される。
R2-CH2-R1-CH2OCH2CH(OH)-(CH2)n-CH(OH)CH2OCH2-R1-CH2-R2 (1)
(式(1)中、nは2~6の整数であり、R1はパーフルオロポリエーテル鎖であり、R2は-OCH2CH(OH)CH2O(CH2)mOH(式中のmは2~4の整数である。)である。)
【0020】
ここで、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて、磁気記録媒体の保護層上に潤滑層を形成した場合に、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性が得られ、ピックアップが抑制される理由について説明する。
【0021】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、式(1)に示すように、R1で表されるパーフルオロポリエーテル鎖(以下「PFPE鎖」と略記する場合がある。)を2つ有している。PFPE鎖は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を保護層上に塗布して潤滑層を形成した場合に、保護層の表面を被覆するとともに、潤滑層に潤滑性を付与して磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。
【0022】
また、式(1)に示す含フッ素エーテル化合物では、分子の中央に配置された2~6個のメチレン基からなる炭化水素鎖(-(CH2)n-(式中のnは2~6の整数である。))の両端にそれぞれ、水酸基(-OH)を含む連結基(-CH(OH)CH2OCH2-)が結合されている。水酸基は、潤滑層に含まれる含フッ素エーテル化合物と保護層との密着性向上に寄与するものであり、2つの連結基の間に配置された炭化水素鎖により、一方の連結基に含まれる水酸基と、他方の連結基に含まれる水酸基との間隔が適切とされている。また、水酸基を含む2つの連結基が、エーテル結合(-O-)を含むことにより、含フッ素エーテル化合物の硬さが適度なものとされる。これらのことから、式(1)に示す含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いることで、優れた被覆性および耐摩耗性を有する潤滑層が得られる。
【0023】
また、式(1)に示すように、R1で表される2つのPFPE鎖における水酸基を含む連結基と反対側の端部には、それぞれR2で表される末端基が結合している。R2で表される末端基は、-OCH2CH(OH)CH2O(CH2)mOH(式中のmは2~4の整数である。)である。R2で表される2つの末端基に、それぞれ2つずつ含まれる水酸基(-OH)は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、含フッ素エーテル化合物と保護層とを密着させてピックアップを抑制する。
【0024】
また、R2で表される末端基では、2つの水酸基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、水酸基の結合している炭素原子同士が、酸素原子を含む連結基(-O-(エーテル結合)を含む連結基)を介して結合している。エーテル結合を含む連結基は、R2で表される末端基に柔軟性を付与する。このため、本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、末端基に含まれる2つの水酸基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、水酸基の結合している炭素原子同士が結合しているフッ素エーテル化合物と比較して、これを含む潤滑層が保護膜に吸着しやすく、潤滑層と保護層との密着性に優れる。
以上のことから、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤は、厚みが薄くても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層を形成できると推定される。
【0025】
式(1)で表される本実施形態の含フッ素エーテル化合物において、R1はパーフルオロポリエーテル鎖(PFPE鎖)であり、式(1)に示す含フッ素エーテル化合物に含まれる2つのR1は、同じである。
R1は、特に限定されるものではなく、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0026】
R1は下記式(2)~式(4)で表されるいずれかであることが好ましい。R1が、式(2)~式(4)のいずれかである場合、含フッ素エーテル化合物の合成が容易であり好ましい。
また、R1が、式(2)~式(4)のいずれかである場合、パーフルオロポリエーテル鎖中の炭素原子数に対する酸素原子数(エーテル結合(-O-)数)の割合が適正である。このため、適度な硬さを有する含フッ素エーテル化合物となる。よって、保護層上に塗布された含フッ素エーテル化合物が、保護層上で凝集しにくく、より一層厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で形成できる。また、R1が式(2)~式(4)のいずれかである場合、良好な耐摩耗性を有する潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。
【0027】
【化4】
(式(2)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(3)中、rは1~30を表す。)
(式(4)中、sは1~20を表す。)
【0028】
式(2)において、繰り返し単位である(CF2-CF2-O)と(CF2-O)との配列順序には、特に制限はない。式(2)において、(CF2-CF2-O)の数pと(CF2-O)の数qは同じであってもよいし、異なっていてもよい。式(2)は、モノマー単位(CF2-CF2-O)と(CF2-O)とからなるランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれかを含むものであってもよい。
【0029】
式(1)におけるR1が式(2)である場合、平均重合度を示すpは1~30であり、1~20であることが好ましく、さらに1~15であることが好ましい。必要に応じてpは、3~7や、7~13であってもよい。式(1)においてR1が式(2)である場合、平均重合度を示すqは0~30であり、0~20であることが好ましく、さらに0~15であることが好ましい。必要に応じてqは、3~7や、7~13であってもよい。また、qが0の場合、pは1~17であることが好ましい。
【0030】
式(3)において、平均重合度を示すrが1~30である場合、本実施形態の含フッ素エーテル化合物の数平均分子量が好ましい範囲になりやすい。rは2~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
【0031】
式(4)において、平均重合度を示すsが1~20である場合、本実施形態の含フッ素エーテル化合物の数平均分子量が好ましい範囲になりやすい。sは2~15であることが好ましく、2~8であることがより好ましい。
【0032】
式(1)中のnが2~6の整数であると、分子の中央に配置されたメチレン基からなる炭化水素鎖の両端にそれぞれ配置された水酸基間の距離が、適切な範囲となる。水酸基間の間隔がより適切な距離となるため、上記nは4~6であることがより好ましい。
【0033】
式(1)中、R2は-OCH2CH(OH)CH2O(CH2)mOH(式中のmは2~4の整数である。)である。
【0034】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、具体的には下記式(A)~(F)で表されるいずれかの化合物であることが好ましい。なお、式(A)~(F)中のp、q、r、sは、平均重合度を示す値であるため、必ずしも整数とはならない。
【0035】
式(A)で表される化合物は、nが4であり、R1が式(2)であり、R2のmが2である。
式(B)で表される化合物は、nが4であり、R1が式(3)であり、R2のmが2である。
式(C)で表される化合物は、nが4であり、R1が式(4)であり、R2のmが2である。
式(D)で表される化合物は、nが6であり、R1が式(2)であり、R2のmが2である。
式(E)で表される化合物は、nが4であり、R1が式(2)であり、R2のmが3である。
式(F)で表される化合物は、nが4であり、R1が式(2)であり、R2のmが4である。
【0036】
【化5】
(式(A)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(B)中、rは1~30を表す。)
(式(C)中、sは1~20を表す。)
【0037】
【化6】
(式(D)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(E)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
(式(F)中、pは1~30を表し、qは0~30を表す。)
【0038】
式(1)で表わされる化合物が上記式(A)~(F)で表されるいずれかの化合物であると、原料が入手しやすく、しかも、厚みが薄くても、より一層優れる耐摩耗性を有し、より一層ピックアップの抑制された潤滑層を形成できるため、好ましい。
【0039】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、数平均分子量(Mn)が500~10000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が500以上であると、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤が蒸散しにくいものとなり、潤滑剤が蒸散して磁気ヘッドに移着することを防止できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1000以上であることがより好ましい。また、数平均分子量が10000以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が適正なものとなり、これを含む潤滑剤を塗布することによって、容易に厚みの薄い潤滑層を形成できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、潤滑剤に適用した場合に扱いやすい粘度となるため、3000以下であることが好ましい。
【0040】
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、1H-NMRおよび19F-NMRによって、具体的には、ブルカー・バイオスピン社製AVANCEIII400による1H-NMRおよび19F-NMRによって測定された値である。NMR(核磁気共鳴)の測定において、試料をヘキサフルオロベンゼン、d-アセトン、d-テトラヒドロフランなどの単独または混合溶媒へ希釈し、測定に使用した。19F-NMRケミカルシフトの基準は、ヘキサフルオロベンゼンのピークを-164.7ppmとし、1H-NMRケミカルシフトの基準は、アセトンのピークを2.2ppmとした。
【0041】
「製造方法」
本実施形態の含フッ素エーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を用いて製造できる。本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
まず、両末端にヒドロキシメチル基を有し、式(1)におけるR1に対応するパーフルオロポリエーテル鎖を有する化合物に、炭素数6~10の脂肪族炭化水素ジエポキシドを付加反応させる。このことにより、式(1-1)で示される化合物を生成する。
HO-CH2-R1-CH2OCH2CH(OH)-(CH2)n-CH(OH)CH2OCH2-R1-CH2-OH (1-1)
(式(1-1)中、nは2~6の整数であり、R1は式(1)と同じである。)
【0042】
ここでの付加反応に使用する炭素数6~10の脂肪族炭化水素ジエポキシドとしては、例えば、1,5-ヘキサジエンジエポキシド、1,6-ヘプタジエンジエポキシド、1,7-オクタジエンジエポキシド、1,8-ノナジエンジエポキシド、1,9-デカジエンジエポキシド等が挙げられる。
【0043】
次に、式(1-1)で示される化合物と、エピクロロヒドリンあるいはエピブロモヒドリンとを反応させて、両末端にエポキシ基を有するパーフルオロポリエーテルを生成させる。さらに、上記の両末端にエポキシ基を有するパーフルオロポリエーテルと、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールから選ばれるいずれかとを反応させる。このようにして得られた化合物は、例えば、カラムクロマトグラフィーを用いる方法により分離できる。
以上の方法により、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物が得られる。
【0044】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)で表される化合物である。したがって、これを含む潤滑剤を用いて保護層上に潤滑層を形成すると、式(1)においてR1で表される2つのPFPE鎖によって、保護層の表面が被覆されるとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力が低減される。また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて形成した潤滑層は、2つの連結基(-CH(OH)CH2OCH2-)に含まれる水酸基同士の間隔が適切であって、各連結基がエーテル結合(-O-)を含むため、優れた被覆性および耐摩耗性を有する。
【0045】
また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、R2で表される2つの末端基にそれぞれ含まれる2つの水酸基と保護層との結合によって、保護層上に密着される。しかも、R2で表される末端基に含まれる2つの水酸基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記水酸基の結合している炭素原子同士が酸素原子を含む連結基を介して結合している。このため、本実施形態のフッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、柔軟性が良好である。このため、本実施形態のフッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、保護膜に吸着しやすく、保護層との密着性に優れる。
以上のことから、本実施形態の含フッ素エーテル化合物によれば、潤滑層と保護層とが強固に結合され、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層が得られる。
また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、式(1)中の2つのR1が同じであって、2つのR2も同じであるため、含フッ素エーテル化合物の合成が容易である。
【0046】
[磁気記録媒体用潤滑剤]
本実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む。
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むことによる特性を損なわない範囲内であれば、潤滑剤の材料として使用されている公知の材料を、必要に応じて混合して用いることができる。
【0047】
公知の材料の具体例としては、例えば、FOMBLIN(登録商標) ZDIAC、FOMBLIN ZDEAL、FOMBLIN AM-2001(以上、Solvay Solexis社製)、Moresco A20H(Moresco社製)などが挙げられる。本実施形態の潤滑剤と混合して用いる公知の材料は、数平均分子量が1000~10000であることが好ましい。
【0048】
本実施形態の潤滑剤が、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の他の材料を含む場合、本実施形態の潤滑剤中の式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。前記含有量は、80質量%以上や、90質量%以上や、95質量%以上であってもよい。
【0049】
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、保護層との密着性に優れる潤滑層を形成できる。よって、本実施形態の潤滑剤によれば、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層が得られる。
【0050】
[磁気記録媒体]
本実施形態の磁気記録媒体は、基板上に、少なくとも磁性層と保護層と潤滑層が順次設けられたものである。
本実施形態の磁気記録媒体では、基板と磁性層との間に、必要に応じて1層または2層以上の下地層を設けることができる。また、下地層と基板との間に付着層および/または軟磁性層を設けることもできる。
【0051】
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、付着層12と、軟磁性層13と、第1下地層14と、第2下地層15と、磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられた構造をなしている。
【0052】
「基板」
基板11は、任意に選択でき、例えば、AlもしくはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成された非磁性基板等を用いることができる。
また、基板11としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなる非磁性基板を用いてもよいし、これらの非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成した非磁性基板を用いてもよい。
【0053】
「付着層」
付着層12は、基板11と、付着層12上に設けられる軟磁性層13とを直接接して配置した場合に生じる、基板11の腐食の進行を防止する。
付着層12の材料は、任意に選択でき、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金、CrTi、NiAl、AlRu合金等から適宜選択できる。付着層12は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0054】
「軟磁性層」
軟磁性層13は、任意に選択でき、例えば、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性層13は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。
【0055】
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の材料としては、例えば、CoZrTa合金、CoFe合金などが挙げられる。
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れかを添加することが好ましい。これにより、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、第1下地層(シード層)の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性層13は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0056】
「第1下地層」
第1下地層14は、その上に設けられる第2下地層15および磁性層16の配向や結晶サイズを制御するための層である。
第1下地層14としては、例えば、Cr層、Ta層、Ru層、あるいはCrMo、CoW、CrW、CrV、CrTi合金層などが挙げられる。
第1下地層14は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0057】
「第2下地層」
第2下地層15は、磁性層16の配向が良好になるように制御する層である。第2下地層15は、RuまたはRu合金からなる層であることが好ましい。
第2下地層15は、1層からなる層であってもよいし、複数層から構成されていてもよい。第2下地層15が複数層からなる場合、全ての層が同じ材料から構成されていてもよいし、少なくとも一層が異なる材料から構成されていてもよい。
第2下地層15は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0058】
「磁性層」
磁性層16は、磁化容易軸が基板面に対して垂直または水平方向を向いた磁性膜からなる。磁性層16は、CoとPtを含む層であり、さらにSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zr等を含む層であってもよい。
磁性層16に含有される酸化物としては、SiO2、SiO、Cr2O3、CoO、Ta2O3、TiO2等が挙げられる。
【0059】
磁性層16は、1層から構成されていてもよいし、組成の異なる材料からなる複数の磁性層から構成されていてもよい。
例えば、磁性層16が、下から順に積層された第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造であることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。その中でも、特に、TiO2、Cr2O3、SiO2等を好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも、特に、Cr2O3-SiO2、Cr2O3-TiO2、SiO2-TiO2等を好適に用いることができる。
【0060】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましい。
【0061】
第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造であることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
【0062】
磁性層16が複数の磁性層で形成されている場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。
【0063】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re、Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Bの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。)等を好適に用いることができる。
【0064】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層には、酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO2、Al2O3、Ta2O5、Cr2O3、MgO、Y2O3、TiO2等を用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si3N4、TaN、CrN等を用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiC等を用いることができる。
非磁性層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0065】
磁性層16は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層16は、面内磁気記録の磁性層であってもよい。
磁性層16は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等、従来の公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層16は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0066】
「保護層」
保護層17は、磁性層16を保護する。保護層17は、一層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。保護層17の材料としては、炭素、窒素を含む炭素、炭化ケイ素などが挙げられる。
保護層17としては、炭素系保護層を好ましく用いることができ、特にアモルファス炭素保護層が好ましい。保護層17が炭素系保護層であると、潤滑層18中の含フッ素エーテル化合物に含まれる水酸基との相互作用が一層高まるため、好ましい。
【0067】
炭素系保護層と潤滑層18との付着力は、炭素系保護層を水素化炭素および/または窒素化炭素とし、炭素系保護層中の水素含有量および/または窒素含有量を調節することにより制御可能である。炭素系保護層中の水素含有量は、水素前方散乱法(HFS)で測定したときに3~20原子%であることが好ましい。また、炭素系保護層中の窒素含有量はX線光電子分光分析法(XPS)で測定したときに、4~15原子%であることが好ましい。
【0068】
炭素系保護層に含まれる水素および/または窒素は、炭素系保護層全体に均一に含有される必要はない。炭素系保護層は、例えば、保護層17の潤滑層18側に窒素を含有させ、保護層17の磁性層16側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。この場合、磁性層16および潤滑層18と、炭素系保護層との付着力が、より一層向上する。
【0069】
保護層17の膜厚は、1nm~7nmとするのがよい。保護層17の膜厚が1nm以上であると、保護層17としての性能が充分に得られる。保護層17の膜厚が7nm以下であると、保護層17の薄膜化の観点から好ましい。
【0070】
保護層17の成膜方法としては、炭素を含むターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法等を用いることができる。
保護層17として炭素系保護層を形成する場合、例えばDCマグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。特に、保護層17として炭素系保護層を形成する場合、プラズマCVD法により、アモルファス炭素保護層を成膜することが好ましい。プラズマCVD法により成膜したアモルファス炭素保護層は、表面が均一で、粗さが小さいものとなる。
【0071】
「潤滑層」
潤滑層18は、磁気記録媒体10の汚染を防止する。また、潤滑層18は、磁気記録媒体10上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体10の耐久性を向上させる。
潤滑層18は、
図1に示すように、保護層17上に接して形成されている。潤滑層18は、上述の含フッ素エーテル化合物を含む。
【0072】
潤滑層18は、潤滑層18の下に配置されている保護層17が、炭素系保護層である場合、特に、保護層17と高い結合力で結合される。その結果、潤滑層18の厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面が被覆された磁気記録媒体10が得られやすくなり、磁気記録媒体10の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0073】
潤滑層18の平均膜厚は、任意に選択できるが、0.5nm(5Å)~3nm(30Å)であることが好ましく、0.5nm(5Å)~1nm(10Å)であることがより好ましい。潤滑層18の平均膜厚が0.5nm以上であると、潤滑層18がアイランド状または網目状とならずに均一の膜厚で形成される。このため、潤滑層18によって、保護層17の表面を高い被覆率で被覆できる。また、潤滑層18の平均膜厚を3nm以下にすることで、潤滑層18を充分に薄膜化でき、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくできる。
【0074】
保護層17の表面が潤滑層18によって十分に高い被覆率で被覆されていない場合、磁気記録媒体10の表面に吸着した環境物質が、潤滑層18の隙間を通り抜けて、潤滑層18の下に侵入する。潤滑層18の下層に侵入した環境物質は、保護層17と吸着、結合し汚染物質を生成する。そして、磁気記録再生の際に、この汚染物質(凝集成分)がスメアとして磁気ヘッドに付着(転写)して、磁気ヘッドを破損したり、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を低下させたりする。
【0075】
汚染物質を生成させる環境物質としては、例えば、シロキサン化合物(環状シロキサン、直鎖シロキサン)、イオン性不純物、オクタコサン等の比較的分子量の高い炭化水素、フタル酸ジオクチル等の可塑剤等が挙げられる。イオン性不純物に含まれる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる無機イオンとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる有機物イオンとしては、例えば、シュウ酸イオン、蟻酸イオン等を挙げることができる。
【0076】
「潤滑層の形成方法」
潤滑層18を形成する方法としては、例えば、基板11上に保護層17までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、保護層17上に潤滑層形成用溶液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0077】
潤滑層形成用溶液は、上述の実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を必要に応じて、任意に選択される溶媒に分散溶解させ、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより、得られる。
潤滑層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0078】
潤滑層形成用溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法、ディップ法等が挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑層形成用溶液中に、保護層17までの各層が形成された基板11を浸漬する。次いで、浸漬槽から基板11を所定の速度で引き上げる。このことにより、潤滑層形成用溶液を基板11の保護層17上の表面に塗布する。
ディップ法を用いることで、潤滑層形成用溶液を保護層17の表面に均一に塗布することができ、保護層17上に均一な膜厚で潤滑層18を形成できる。
【0079】
本実施形態においては、潤滑層18を形成した基板11に熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、潤滑層18と保護層17との密着性が向上し、潤滑層18と保護層17との付着力が向上する。
熱処理温度は100~180℃とすることが好ましい。熱処理温度が100℃以上であると、潤滑層18と保護層17との密着性を向上させる効果が十分に得られる。また、熱処理温度を180℃以下にすることで、潤滑層18の熱分解を防止できる。熱処理時間は10~120分とすることが好ましい。
【0080】
本実施形態においては、潤滑層18の保護層17に対する付着力をより一層向上させるために、熱処理前もしくは熱処理後の基板11の潤滑層18に、紫外線(UV)を照射する処理を行ってもよい。
【0081】
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、少なくとも磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられたものである。本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層17上に接して上述の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層18が形成されている。この潤滑層18は、厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面を被覆している。よって、本実施形態の磁気記録媒体10では、イオン性不純物などの汚染物質を生成させる環境物質が、潤滑層18の隙間から侵入することが防止されている。したがって、本実施形態の磁気記録媒体10は、表面上に存在する汚染物質が少ないものである。また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、異物(スメア)を生じさせにくく、ピックアップを抑制できる。また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、優れた耐摩耗性を有する。このため、本実施形態の磁気記録媒体10は、優れた信頼性および耐久性を有する。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0083】
(実施例1)
以下に示す方法により、下記式(5)で示される化合物を製造した。
【0084】
【化7】
(式(5)中、pは4.5であり、qは4.5である。)
【0085】
窒素ガス雰囲気下、100mLナスフラスコにHOCH2CF2O(CF2CF2O)p(CF2O)qCF2CH2OH(式中のpは4.5であり、qは4.5である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)30.0gと、1,7-オクタジエンジエポキシド0.57g(分子量142.2、4.0mmol)と、t-BuOH10mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにt-BuOKを0.35g(分子量112.21、3.1mmol)加え、70℃で16時間撹拌して反応させた。
【0086】
得られた反応生成物を25℃に冷却し、水40mLが入った分液漏斗へ移し、酢酸エチル100mLで2回抽出した。有機層を水洗し、乾燥剤である無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(6)で示される化合物5.50g(数平均分子量2136、2.5mmol)を得た。
【0087】
【化8】
(式(6)中、pは4.5であり、qは4.5である。)
【0088】
次いで、式(6)で示される化合物5.00gと、エピブロモヒドリン0.64g(分子量137.0、4.7mmol)と、t-BuOH20mLとを、ナスフラスコに仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにt-BuOKを0.53g(分子量112.2、4.7mmol)加え、70℃で6時間撹拌して反応させた。
得られた反応生成物を25℃に冷却し、水30mLが入った分液漏斗へ移し、酢酸エチル80mLで2回抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(7)で示される化合物4.3g(数平均分子量2248、1.9mmol)を得た。
【0089】
【化9】
(式(7)中、pは4.5であり、qは4.5である。)
【0090】
次いで、式(7)で示される化合物4.0gと、エチレングリコール1.1g(分子量62.1、17.7mmol)と、t-BuOH30mLとを、ナスフラスコに仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにt-BuOKを0.16g(分子量112.2、1.4mmol)加え、70℃で6時間撹拌して反応させた。
得られた反応生成物を25℃に冷却し、水30mLが入った分液漏斗へ移し、酢酸エチル80mLで2回抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、上記式(5)で示される化合物3.2gを得た。
【0091】
得られた化合物(5)の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
(同定データ)
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]1.00~1.40(8H)、3.30~4.20(32H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0092】
(実施例2)
実施例1において用いたHOCH2CF2O(CF2CF2O)p(CF2O)qCF2CH2OH(式中のpは4.5であり、qは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテルの代わりに、HOCH2CF2O(CF2CF2O)p(CF2O)qCF2CH2OH(式中のpは7.0であり、qは0である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(8)で示される化合物3.5gを得た。
【0093】
【化10】
(式(8)中、pは7.0であり、qは0である。)
【0094】
得られた化合物(8)の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
(同定データ)
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]1.00~1.40(8H)、3.30~4.20(32H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-78.5(4F)、-81.3(4F)、-90.0~-88.5(56F)
【0095】
(実施例3)
実施例1において用いたHOCH2CF2O(CF2CF2O)p(CF2O)qCF2CH2OH(式中のpは4.5であり、qは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテルの代わりに、HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)rCF2CF2CH2OH(式中のrは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(9)で示される化合物3.2gを得た。
【0096】
【0097】
得られた化合物(9)の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
(同定データ)
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]1.00~1.40(8H)、3.30~4.20(32H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-84.0~-83.0(36F)、-86.4(8F)、-124.3(8F)、-130.0~-129.0(18F)
【0098】
(実施例4)
実施例1において用いたHOCH2CF2O(CF2CF2O)p(CF2O)qCF2CH2OH(式中のpは4.5であり、qは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテルの代わりに、HOCH2CF2CF2CF2O(CF2CF2CF2CF2O)sCF2CF2CF2CH2OH(式中のsは3.0である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(10)で示される化合物3.2gを得た。
【0099】
【0100】
得られた化合物(10)の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
(同定データ)
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]1.00~1.40(8H)、3.30~4.20(32H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-84.0~-83.0(32F)、-122.5(8F)、-126.0(24F)、-129.0~-128.0(8F)
【0101】
(実施例5)
実施例1において用いた1,7-オクタジエンジエポキシドの代わりに、1,9-デカジエンジエポキシドを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(11)で示される化合物3.5gを得た。
【0102】
【化13】
(式(11)中、pは4.5であり、qは4.5である。)
【0103】
得られた化合物(11)の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
(同定データ)
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]1.00~1.40(12H)、3.30~4.20(32H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0104】
(実施例6)
実施例1において用いたエチレングリコールの代わりに、1,3-プロパンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(12)で示される化合物3.4gを得た。
【0105】
【化14】
(式(12)中、pは4.5であり、qは4.5である。)
【0106】
得られた化合物(12)の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
(同定データ)
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]1.00~1.40(12H)、3.30~4.20(32H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
(実施例7)
実施例1において用いたエチレングリコールの代わりに、1,4-ブタンジオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(13)で示される化合物3.4gを得た。
【0107】
【化15】
(式(13)中、pは4.5であり、qは4.5である。)
【0108】
得られた化合物(13)の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
(同定データ)
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]1.00~1.40(16H)、3.30~4.20(32H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0109】
(比較例1)
下記式(14)で表されるSolvay Solexis社製のFomblin Z-tetraolを用いた。
【0110】
【化16】
(式(14)中、pは9.0であり、qは9.0である。)
【0111】
(比較例2)
下記式(15)で表される化合物を特許文献1に記載の方法で合成した。
【0112】
【0113】
(比較例3)
下記式(16)で表される化合物を特許文献2に記載の方法で合成した。
【0114】
【化18】
(式(16)中、pは9.0であり、qは9.0である。)
【0115】
このようにして得られた実施例1~7および比較例1~3の化合物の数平均分子量を、上述した1H-NMRおよび19F-NMRの測定により求めた。その結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
次に、以下に示す方法により、実施例1~7および比較例1~3で得られた化合物を用いて潤滑層形成用溶液を調製した。そして、得られた潤滑層形成用溶液を用いて、以下に示す方法により、磁気記録媒体の潤滑層を形成し、実施例1~7および比較例1~3の磁気記録媒体を得た。
【0118】
「潤滑層形成用溶液」
実施例1~7および比較例1~3で得られた化合物を、それぞれフッ素系溶媒であるバートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)に溶解し、保護層上に塗布した時の膜厚が9Å~10ÅになるようにバートレルXFで希釈し、潤滑層形成用溶液とした。
【0119】
「磁気記録媒体」
直径65mmの基板上に、付着層と軟磁性層と第1下地層と第2下地層と磁性層と保護層とを順次設けた磁気記録媒体を用意した。保護層は、炭素からなるものとした。
保護層までの各層の形成された磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~7および比較例1~3の潤滑層形成用溶液を、ディップ法により塗布した。なお、ディップ法は、浸漬速度10mm/sec、浸漬時間30sec、引き上げ速度1.2mm/secの条件で行った。
その後、潤滑層形成用溶液を塗布した磁気記録媒体を、120℃の恒温槽に入れ、10分間加熱して潤滑層形成用溶液中の溶媒を除去することにより、保護層上に潤滑層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0120】
このようにして得られた実施例1~7および比較例1~3の磁気記録媒体の有する潤滑層の膜厚を、FT-IR(商品名:Nicolet iS50、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0121】
また、実施例1~7および比較例1~3の磁気記録媒体に対して、以下に示す潤滑層と保護層との密着性(ボンド率)測定と、耐摩耗性試験およびピックアップ抑制試験を行なった。
【0122】
(潤滑層と保護層との密着性(ボンド率)測定)
潤滑層の形成された磁気記録媒体を、溶媒であるバートレルXF中に10分間浸漬して、引き上げる方法により洗浄した。磁気記録媒体を溶媒中に浸漬する速度は10mm/secとし、引き上げる速度は1.2mm/secとした。
その後、洗浄前に行った潤滑層の膜厚の測定と同じ方法で、潤滑層の膜厚を測定した。
【0123】
そして、洗浄前の潤滑層の膜厚をA、洗浄後(溶媒浸漬後)の潤滑層の膜厚をBとし、AとBとの比((B/A)×100(%))から潤滑剤の結合率(ボンド率)を算出した。算出したボンド率を用いて、以下に示す基準により、潤滑層と保護層との密着性を評価した。
【0124】
「密着性(ボンド率)評価」
○(良):ボンド率が65%以上
△(可):ボンド率が50%以上、65%未満
×(不可):ボンド率が50%未満
【0125】
(耐摩耗性試験)
ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、接触子としての直径2mmのアルミナの球を、荷重40gf、摺動速度0.25m/secで、磁気記録媒体の潤滑層上で摺動させ、潤滑層の表面の摩擦係数を測定した。そして、潤滑層の表面の摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間を測定した。摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間は、各磁気記録媒体の潤滑層について4回ずつ測定し、その平均値(時間)を潤滑剤塗膜の耐摩耗性の指標とした。
【0126】
実施例1~7および比較例1~3の磁気記録媒体の結果を、それぞれ表2に示す。摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間による耐摩耗性の評価は、以下のとおりとした。
「耐摩耗性(摺動時間)評価」
◎(優):650sec以上
○(良):550sec以上、650sec未満
△(可):450sec以上、550sec未満
×(不可):450sec未満
【0127】
なお、摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、以下に示す理由により、潤滑層の耐摩耗性の指標として用いることができる。磁気記録媒体の潤滑層は、磁気記録媒体を使用することにより摩耗が進行する。摩耗により潤滑層が無くなると、接触子と保護層とが直接接触して、摩擦係数が急激に増大するためである。本摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、フリクション試験とも相関があると考えられる。
【0128】
(ピックアップ抑制試験)
スピンスタンドに磁気記録媒体および磁気ヘッドを装着し、常温減圧下(約250torr)で10分間磁気ヘッドを定点浮上させた。その後、磁気ヘッドの磁気記録媒体と相対する面(潤滑層の表面)を、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)分析装置を用いて分析した。そして、ESCAで測定したフッ素由来のピークの強度(信号強度(a.u.))から、磁気ヘッドへの潤滑剤の付着量を表3に示す基準により評価した。ヘッドへの潤滑剤の付着量は少ないほど良く、信号強度は小さいほど良い。
(総合評価)
総合評価として、評価結果が全て良かった化合物を◎(優)、不可が1つあるものを△(可)、不可が2つあるものを×(不可)として、表2に示した。
【0129】
【0130】
【0131】
表2に示すように、実施例1~7では、潤滑層と保護層との密着性(ボンド率)の評価結果、およびピックアップ抑制試験の評価結果が、いずれも良好であった。また、表2に示すように、実施例1~7の磁気記録媒体は、比較例1~3の磁気記録媒体と比較して、耐摩耗性が良好であった。
【0132】
より詳細には、分子の中央にパーフルオロポリエーテル鎖が配置されている化合物を用いた比較例1では、ボンド率およびピックアップ抑制試験の評価が×(不可)であり、耐摩耗性試験の評価が△(可)であった。
分子の中央に配置された炭化水素鎖の両端にそれぞれ、水酸基を含む連結基を介してパーフルオロポリエーテル鎖が結合されている化合物を用いた比較例2では、ボンド率の評価が△(可)であり、耐摩耗性の評価が○(良)であった。しかし、比較例2は、パーフルオロポリエーテル鎖の末端に、メチレン基を介して-OCH2CH(OH)CH2O(CH2)mOH(式中のmは2~4の整数である。)からなる末端基が結合された化合物を用いた実施例3と比較して、ボンド率、ピックアップ抑制試験、耐摩耗性のいずれも劣る結果であった。
末端にメチレン基を介して-OCH2CH(OH)CH2O(CH2)mOH(式中のmは2~4の整数である。)からなる末端基が結合された化合物を用いた比較例3では、耐摩耗性の評価が○(良)であった。しかし、比較例3では、分子の中央にパーフルオロポリエーテル鎖が配置されている化合物を用いているため、ボンド率およびピックアップ抑制試験の評価が×(不可)であった。
【0133】
以上の結果から、磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~7の化合物を含む潤滑層を形成することで、厚みが9Å~10Åと薄くても、保護層との密着性に優れ、ピックアップが生じにくく、耐摩耗性に優れた潤滑層が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、厚みを薄くしても、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層を形成でき、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適に用いることができる含フッ素エーテル化合物を提供する。本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を用いることにより、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性を有し、ピックアップの抑制された潤滑層を形成できる。
【符号の説明】
【0135】
10・・・磁気記録媒体
11・・・基板
12・・・付着層
13・・・軟磁性層
14・・・第1下地層
15・・・第2下地層
16・・・磁性層
17・・・保護層
18・・・潤滑層