IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】位相差フィルム及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240509BHJP
   C08F 257/00 20060101ALI20240509BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240509BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20240509BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240509BHJP
【FI】
G02B5/30
C08F257/00
C08J5/18
H10K50/86
H10K59/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022102393
(22)【出願日】2022-06-27
(62)【分割の表示】P 2019522118の分割
【原出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2022136084
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2017108591
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 毅
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-43601(JP,A)
【文献】特開平5-164920(JP,A)
【文献】特開2011-42073(JP,A)
【文献】特開2011-43602(JP,A)
【文献】特開昭61-146301(JP,A)
【文献】特表2011-503342(JP,A)
【文献】特表2011-523668(JP,A)
【文献】特開2011-13378(JP,A)
【文献】特開2006-283010(JP,A)
【文献】特開2006-111650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C48/07-48/08
B29C48/305
B29C55/02-55/04
C08J 5/18
C08L53/00-53/02
C08F212/00
C08F257/00
C08F297/00-297/04
H10K50/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合単位Aと重合単位Bとを含む1種の共重合体Pを98重量%以上含み、
構造性複屈折を発現する相分離構造を有し、
0より大きく、且つ1より小さいNZ係数を有し、面内レターデーションReが120~160nm又は250~290nmである、位相差フィルムであって、
ただし、結晶性樹脂を含む位相差フィルムを除く、位相差フィルム。
【請求項2】
前記相分離構造が、前記重合単位Aを主成分とする相と、前記重合単位Bを主成分とする相とを含み、
前記相分離構造が、ラメラ、シリンダ、スフェロイドのいずれかの形態を有し、
前記相分離構造における相間距離が200nm以下である、請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記共重合体Pが、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有するブロック共重合体である、請求項1又は2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記重合単位Aが一般式(A)で表される単位である、請求項1~3のいずれか1項に記載の位相差フィルム:
【化1】
式中Rはフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセン基、フェナントレン基、ナフタセン基、ペンタセン基、及びターフェニル基からなる群より選択される基であり、
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~12のアルキル基からなる群より選択される基である。
【請求項5】
前記重合単位Bが一般式(B-1)で表される単位、一般式(B-2)で表される単位、又はこれらの組み合わせである、請求項1~4のいずれか1項に記載の位相差フィルム:
【化2】
式中R~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~6のアルキル基からなる群より選択される基である。
【請求項6】
前記共重合体Pが、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有する、(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体P’である、請求項1~5のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
前記共重合体Pが、負の固有複屈折値を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項8】
前記重合単位Aが負の固有複屈折値を有し、前記重合単位Bが正の固有複屈折値を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項9】
前記共重合体Pを98重量%以上含む樹脂Cの、単層の膜を形成する工程、及び
前記膜において、前記樹脂Cを相分離させる工程
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂Cを相分離させる工程が、前記膜に、その厚み方向に沿った応力を加える工程を含む、請求項9に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記膜を形成する工程が、前記共重合体Pを単層で溶融押出することを含む、請求項9又は10に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記膜を延伸する工程をさらに含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の表示装置において、その表示品質の向上のために、λ/2板、λ/4板等の位相差フィルムが設けられることがある。例えば、IPS(インプレーンスイッチング)方式液晶表示装置において、視野角補償等の目的で、位相差フィルムが設けられることがある。
【0003】
IPS方式液晶表示装置の視野角補償のための位相差フィルムは、そのNZ係数が、0より大きく且つ1より小さいことが求められる。さらには、NZ係数は0.5又はそれに近い値であることが好ましい。このようなNZ係数を実現するためには、フィルムの三次元屈折率nx、ny及びnzが、nx>nz>nyの関係を満たす必要がある。また、複数の樹脂フィルムを組み合わせて所望の光学的特性を発現する位相差フィルムより、単層の樹脂フィルムのみで所望の光学的特性を発現する位相差フィルムのほうが好ましい。
【0004】
このような位相差フィルムを製造することは困難である。なぜなら、nx>nz>nyの関係を満たすフィルムは、通常の樹脂フィルムを、延伸等の通常の手法で加工するだけでは達成できないので、何らかの、通常のものとは異なる材料及び/又は手法を用いた屈折率の制御が必要となるからである。
【0005】
nx>nz>nyの関係を満たすフィルムを製造する方法としては、樹脂フィルムを収縮させる工程を含む方法(特許文献1)、及び多数の層を組み合わせる方法(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-157911号公報(対応公報:米国特許出願公開第5245456号明細書)
【文献】国際公開第2008/146924号(対応公報:米国特許出願公開第2010283949号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、フィルムを収縮させる工程を実現するための、高いコスト及び低い生産性の問題がある。また、特許文献2の方法では、多数の層を組み合わせて所望の光学的特性を発現させているため、構造が複雑であり、そのための高いコスト及び低い生産性の問題がある。
したがって、本発明の目的は、有用な光学的特性を備え、且つ、低いコストで容易に製造することができる、位相差フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく検討した結果、位相差フィルムを構成する材料を、特定の相分離構造を呈する共重合体のみから実質的になるものとすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0009】
〔1〕 重合単位Aと重合単位Bとを含む1種の共重合体Pのみから実質的になり、
構造性複屈折を発現する相分離構造を有し、
0より大きく、且つ1より小さいNZ係数を有する、位相差フィルム。
〔2〕 前記相分離構造が、前記重合単位Aを主成分とする相と、前記重合単位Bを主成分とする相とを含み、
前記相分離構造が、ラメラ、シリンダ、スフェロイドのいずれかの形態を有し、
前記相分離構造における相間距離が200nm以下である、〔1〕記載の位相差フィルム。
〔3〕 前記共重合体Pが、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有するブロック共重合体である、〔1〕又は〔2〕に記載の位相差フィルム。
〔4〕 前記重合単位Aが一般式(A)で表される単位である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム:
【化1】
式中Rはフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセン基、フェナントレン基、ナフタセン基、ペンタセン基、及びターフェニル基からなる群より選択される基であり、
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~12のアルキル基からなる群より選択される基である。
〔5〕 前記重合単位Bが一般式(B-1)で表される単位、一般式(B-2)で表される単位、又はこれらの組み合わせである、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム:
【化2】
式中R~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~6のアルキル基からなる群より選択される基である。
〔6〕 前記共重合体Pが、前記重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び前記重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有する、(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体P’である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
〔7〕 前記共重合体Pが、負の固有複屈折値を有する、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
〔8〕 前記重合単位Aが負の固有複屈折値を有し、前記重合単位Bが正の固有複屈折値を有する、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
〔9〕 前記共重合体Pのみから実質的になる樹脂Cの、単層の膜を形成する工程、及び
前記膜において、前記樹脂Cを相分離させる工程
を含む、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔10〕 前記樹脂Cを相分離させる工程が、前記膜に、その厚み方向に沿った応力を加える工程を含む、〔9〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔11〕 前記膜を形成する工程が、前記共重合体Pを単層で溶融押出することを含む、〔9〕又は〔10〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔12〕 前記膜を延伸する工程をさらに含む、〔9〕~〔11〕のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有用な光学的特性を備え、且つ、低いコストで容易に製造することができる、位相差フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施し得る。
【0012】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下とし得る。
【0013】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、フィルムの厚み方向レターデーションRthは、別に断らない限り、Rth={(nx+ny)/2-nz}×dで表される値である。また、NZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、540nmである。
【0014】
以下の説明において、「偏光板」、「λ/2板」、及び「λ/4板」とは、別に断らない限り、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0015】
以下の説明において、フィルムの遅相軸とは、別に断らない限り、当該フィルムの面内における遅相軸を表す。
【0016】
樹脂の固有複屈折値の正負は、樹脂の成形物を延伸した場合における、かかる成形物の屈折率の挙動によって規定される。即ち、正の固有複屈折値を有する樹脂とは、延伸方向における当該成形物の屈折率が、延伸前に比べて大きくなる樹脂である。また、負の固有複屈折値を有する樹脂とは、延伸方向における当該成形物の屈折率が、延伸前に比べて小さくなる樹脂である。固有複屈折値は、誘電率分布から計算しうる。
【0017】
さらに、ある特定の重合単位が正の固有複屈折値を有するとは、当該重合単位のみからなる重合体が、正の固有複屈折値を有することをいい、ある特定の重合単位が負の固有複屈折値を有するとは、当該重合単位のみからなる重合体が、負の固有複屈折値を有することをいう。したがって、重合単位の固有複屈折値の正負は、当該重合単位のみからなる単独重合体を調製し、当該重合体を任意の形状の成形物とし、当該成形物を延伸し、その光学特性を測定することにより容易に判定しうる。一般に、アルケン、ジエン等の炭化水素の重合単位の多くは正の固有複屈折値を有することが知られている一方、スチレン、ビニルナフタレン等の側鎖に芳香環を有する炭化水素の重合体の多くは負の固有複屈折値を有することが知られている。
【0018】
以下の説明において、ある単量体の重合により生じた重合単位により構成される、重合体中のブロックを、当該単量体の名称を用いて表現する場合がある。例えば、2-ビニルナフタレンの重合により生じた重合単位により構成されるブロックを「2-ビニルナフタレンブロック」、イソプレンの重合により生じた重合単位により構成されるブロックを「イソプレンブロック」と表現する場合がある。
【0019】
〔1.位相差フィルム〕
本発明の位相差フィルムは、特定の1種の共重合体Pのみから実質的になり、通常、特定の1種の共重合体Pのみから実質的になる樹脂から構成される。以下の説明において、かかる樹脂を、説明の便宜上「樹脂C」と称することがある。
【0020】
〔1.1.樹脂C〕
樹脂Cを構成する共重合体Pは、重合単位Aと重合単位Bとを含む。共重合体Pは、好ましくは、重合単位Aを主成分とするブロック(A)、及び重合単位Bを主成分とするブロック(B)を有するブロック共重合体である。一般に、ブロック共重合体とは、複数種類のブロックが連結された分子構造を有する重合体であり、それぞれのブロックは、重合単位が連結することにより構成される鎖である。本発明における特定のブロック共重合体は、特定のブロック(A)及びブロック(B)を有する。以下の説明においては、かかる特定のブロック共重合体を、単に「ブロック共重合体」という場合がある。
【0021】
重合単位Aは、負の固有複屈折値を有するものとしうる。一方、重合単位Bは、正の固有複屈折値を有するものとしうる。
【0022】
重合単位Aの例としては、下記一般式(A)で表される単位が挙げられる。
【0023】
【化3】
はフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセン基、フェナントレン基、ナフタセン基、ペンタセン基、およびターフェニル基からなる群より選択される基である。
【0024】
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~12のアルキル基からなる群より選択される基である。かかるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基が挙げられる。式(A)においては、好ましくは、R及びRが水素原子である。より好ましくは、R及びRが水素原子であり且つRがナフチル基であるか、又は、R及びRが水素原子であり且つRが水素原子である。さらに好ましくは、R及びRが水素原子であり、Rがナフチル基であり、且つRが水素原子である。
【0025】
重合単位Aは、重合単位Aを与える単量体(a)を重合させることにより得うる。単量体(a)の例としては、ビニルナフタレン及びその誘導体が挙げられる。ビニルナフタレンの例としては、1-ビニルナフタレン、及び2-ビニルナフタレンが挙げられる。ビニルナフタレンの誘導体の例としては、α-メチル-1-ビニルナフタレン、α-エチル-1-ビニルナフタレン、α-プロピル-1-ビニルナフタレン、α-ヘキシル-1-ビニルナフタレン、α-メチル-2-ビニルナフタレン、α-エチル-2-ビニルナフタレン、α-プロピル-2-ビニルナフタレン、及びα-ヘキシル-2-ビニルナフタレンが挙げられる。ビニルナフタレン及びその誘導体としては、工業的な入手の容易性の観点から、2-ビニルナフタレンが好ましい。
共重合体Pは、重合単位Aとして1種のみを単独で有していてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて有していてもよい。したがって、重合単位Aを形成するための単量体(a)としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0026】
重合単位Bの例としては、下記一般式(B-1)及び/又は(B-2)で表される単位が挙げられる。
【0027】
【化4】
【0028】
~Rのそれぞれは独立に、水素原子及び炭素数1~6のアルキル基からなる群より選択される基である。かかるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基が挙げられる。R~Rのそれぞれは独立に、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0029】
重合単位Bは、重合単位Aを与える単量体(b)を重合させて重合単位とし、さらに当該重合単位中に二重結合が存在する場合はそれを水素化することにより得うる。単量体(b)の例としては、下記一般式(bm)で表される化合物が挙げられる。
【0030】
【化5】
【0031】
単量体(b)の好ましい例としては、ブタジエン(式(bm)におけるR~Rの全てが水素原子)、イソプレン(式(bm)におけるR~RのうちR又はRがメチル基で他が水素原子)、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、及び2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエンが挙げられる。その中でも、透明性、耐熱性、及び加工性に優れた樹脂Cを得る観点から、ブタジエン及びイソプレンがより好ましい。重合単位Bの好ましい例としては、R~Rとして、単量体(b)の好ましい例におけるR~Rと同じものを有するものが挙げられる。
共重合体Pは、重合単位Bとして1種のみを単独で有していてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて有していてもよい。したがって、重合単位Bを形成するための単量体(b)としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0032】
共重合体Pがブロック(A)を有する場合、ブロック(A)は、重合単位A以外に任意の重合単位を有しうる。かかる任意の単量体の例としては、単量体(a)と共重合可能な任意の単量体の重合により形成される単位、及び当該単位の水素化により形成される単位が挙げられる。
共重合体Pがブロック(B)を有する場合、ブロック(B)は、重合単位B以外に任意の重合単位を有しうる。かかる任意の単量体の例としては、単量体(b)が重合してなる重合単位であって水素化されていない二重結合が残存するもの、並びに単量体(b)と共重合可能な任意の単量体の重合により形成される単位及び当該単位の水素化により形成される単位が挙げられる。
ただし、樹脂Cの光学的特性及び機械的特性の発現の観点から、ブロック(A)における重合単位Aの割合及びブロック(B)における重合単位Bの割合はいずれも高いことが好ましい。ブロック(A)における重合単位Aの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75%重量以上であり、さらにより好ましくは、ブロック(A)は重合単位Aのみからなる。ブロック(B)における重合単位Bの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75%重量以上であり、さらにより好ましくは、ブロック(B)は重合単位Bのみからなる。
【0033】
ブロック(A)及びブロック(B)は、非相溶性であることが好ましい。これらが非相溶性であることにより、特定のNZ係数を有する本発明の位相差フィルムを容易に得ることができる。ブロック(A)及びブロック(B)が非相溶性であるか否かは、ブロック共重合体におけるこれらのブロックの大きさと同程度の分子量を有する、重合単位Aからなる単独重合体及び重合単位Bからなる単独重合体の相溶性の有無に基づいて判定しうる。かかる単独重合体の相溶性の有無は、これらの単独重合体を混合して混合物とし、これらが溶融する温度においた場合に、これらが相分離するか否かにより判定しうる。
【0034】
共重合体Pの分子構造は、重合単位A及び重合単位Bを有する限りにおいて特に限定されず、任意の構成を有する分子構造としうる。例えば、共重合体Pがブロック共重合体である場合、当該ブロック共重合体は、直線型ブロック共重合体であってもよく、グラフト型ブロック共重合体であってもよい。
直線型ブロック共重合体の例としては、ブロック(A)及びブロック(B)が連結した(A)-(B)のブロック構成を有するジブロック共重合体(本願において、「共重合体P”」という場合がある)、ブロック(A)、ブロック(B)及びもう一つのブロック(A)がこの順に連結した(A)-(B)-(A)のブロック構成を有するトリブロック共重合体(本願において、「共重合体P’」という場合がある)、並びにそれより多数のブロックが連結したブロック構成を有する直線型ブロック共重合体が挙げられる。多数のブロックが連結したブロック構成の例としては、(A)-((B)-(A))n-(B)-(A)、及び(B)-((A)-(B))n-(A)-(B)(nは1以上の整数)のブロック構成が挙げられる。
グラフト型ブロック共重合体の例としては、ブロック(A)に、側鎖としてブロック(B)が連結した(A)-g-(B)のブロック構成を有するブロック共重合体が挙げられる。
【0035】
樹脂Cに所望の光学的特性を発現させる観点から、好ましくは、共重合体Pは、1分子あたり2個以上の重合体ブロック(A)および1個以上の重合体ブロック(B)を有する分子構造を有するブロック共重合体としうる。より好ましくは、ブロック共重合体は、(A)-(B)-(A)のブロック構成を有するトリブロック共重合体としうる。
【0036】
共重合体Pにおいては、重合単位Aの重量分率を、所望の光学的特性を発現させるよう調整しうる。重合単位Aの重量分率とは、重合単位A及び重合単位Bの合計の重量に対する、重合単位Aの重量をいう。樹脂Cが、複数種類の共重合体Pを含有する場合、ここでいう重合単位Aの重量分率は、含まれる複数種類の共重合体P全体における重合単位A及び重合単位Bの合計の重量に対する、重合単位Aの重量である。共重合体Pにおける重合単位Aの重量分率は、50重量%以上、好ましくは55重量%以上であり、一方90重量%以下、好ましくは85重量%以下である。
共重合体Pの分子量は、特に限定されず、好ましい光学的特性及び機械的特性が得られる範囲に適宜調整しうる。共重合体Pの分子量は、例えば100000~400000の範囲としうる。また、共重合体Pのガラス転移温度Tgは、例えば110℃~150℃の範囲としうる。
樹脂Cが、共重合体P「のみから実質的になる」とは、樹脂Cが共重合体Pのみからなる場合に加え、樹脂Cが、共重合体Pに加えて、樹脂Cの構造性複屈折の発現を阻害しない配合剤を含む場合をも包含する。配合剤の例としては、染料、顔料、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。かかる配合剤の割合は、本発明の効果を損ねない範囲の割合としうる。具体的には、樹脂Cにおける共重合体Pの割合は、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99%以上であり、さらにより好ましくは、樹脂Cは共重合体Pのみからなる。
樹脂Cが、「1種の」共重合体Pのみから実質的になるとは、樹脂Cを構成する共重合体Pが、共通する重合単位A及び重合単位Bを有することをいう。共重合体がブロック共重合体である場合は特に、樹脂Cは、1種のブロックの構成共重合体Pのみから実質的になることが好ましい。より具体的には、樹脂Cは、1種の、(A)-(B)-(A)のブロック構成を有するトリブロック共重合体P’のみから実質的になることが好ましい。このような構成を採用することにより、従来技術の位相差フィルム(複数種類の層を有しそれぞれの層が異なる樹脂からなるもの;例えば特許文献2に記載のもの)に比べて、容易に製造することができ、且つ、薄い層で所望の光学的特性を容易に得ることができる位相差フィルムを提供することができる。
【0037】
樹脂Cは、負の固有複屈折性値を有することが好ましい。そのような負の固有複屈折値は、共重合体Pにおける重合単位の割合を調整することにより付与しうる。具体的には、重合単位Aの重量分率を、上に述べた下限以上の範囲内において調整することにより、負の固有複屈折値を有する樹脂としうる。樹脂Cが負の固有複屈折性値を有することにより、位相差フィルムに所望の光学的特性を付与することができる。
【0038】
〔1.2.位相差フィルムの光学的特性〕
本発明の位相差フィルムは、0より大きく、且つ1より小さいNZ係数を有する。NZ係数は好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらにより好ましくは0.4以上であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、さらにより好ましくは0.6以下である。
【0039】
このようなNZ係数を有する位相差フィルムは、樹脂Cとして、上に述べた特定のものを採用し、これを材料として好ましい製造方法を実施することにより、容易に得ることができる。このようなNZ係数を有する位相差フィルムは、IPS方式液晶表示装置等の表示装置の視野角補償等の用途に特に有用に用いることができる一方、延伸等の通常の手法で加工するだけでは得られないものである。したがって、本発明の位相差フィルムは、有用な光学的特性を備え、且つ容易に製造することができる点で、有用性が高い。
【0040】
本発明の位相差フィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向レターデーションRthは、位相差フィルムの用途に応じた所望の値に調整しうる。例えば、本発明の位相差フィルムをλ/2板として用いる場合、Reは、250nm~290nmの範囲内としうる。本発明の位相差フィルムをλ/4板として用いる場合、Reは、120nm~160nmの範囲内としうる。
【0041】
〔1.3.位相差フィルムのその他の特性及び形状等〕
本発明の位相差フィルムは、構造性複屈折を発現する相分離構造を含む。相分離構造は、位相差フィルムを構成する樹脂Cの層内に形成されうる。相分離構造とは、位相差フィルムを構成する材料の自己組織化により、フィルムの層内において、複数種類の相が、区別しうる状態に分離することをいう。相分離構造は、樹脂Cにおける共重合体Pの重合単位Aで構成される部分(例えばブロック(A))と重合単位Bで構成される部分(例えばブロック(B))の自己組織化による、重合単位Aを主成分とする相と、重合単位Bを主成分とする相との分離により構成されうる。以下の説明においては、これらの相を単に「重合単位Aの相」及び「重合単位Bの相」ということがある。このような相分離構造を呈した層は、構造が光の波長よりも十分に小さい場合に構造性複屈折を発現しうる。
【0042】
構造性複屈折とは、かかる相分離構造のように、異なる屈折率を有する複数種類の相を含む構造において生じる複屈折である。例えば、ある構造において、ある屈折率n1を持つ相中に、n1とは異なる屈折率n2を持つ相が存在する場合、当該構造は、構造性複屈折を発現しうる。構造性複屈折は、各相が等方的な媒質で形成されていても複屈折が生じるという点で、延伸による分子配向で生じる配向性複屈折とは明確に異なるものである。
【0043】
構造性複屈折の大きさや向きは、相分離構造を呈する各相の形状、配列及び体積分率、並びに相間の屈折率の差などを、所望の構造性複屈折を発現するよう調整により制御可能である。詳細は、例えばForm birefringence of macromolecules(W.L.Bragg et al. 1953)に記載されている。
【0044】
重合単位Aを主成分とする相と、重合単位Bを主成分とする相の屈折率差は大きければ大きいほど構造複屈折を効率良く発現することが可能である。両者の屈折率差は好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、さらにより好ましくは0.15以上としうる。
【0045】
重合単位Aを主成分とする相における重合単位Aの含有割合、及び重合単位Bを主成分とする相における重合単位Bの含有割合は、共重合体Pの製造のための材料及び製造の操作を適宜調整することにより調整しうる。当該含有割合は、高い値であることが、効果発現の上で好ましい。重合単位Aを主成分とする相における重合単位Aの含有割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上であり、さらにより好ましくは、100重量%である。重合単位Bを主成分とする相における重合単位Bの含有割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上であり、さらにより好ましくは、100重量%である。
【0046】
相分離構造の形状及び配列を制御することによって、本発明の位相差フィルムにネガティブCプレート様の複屈折を付与することが可能である。例えば、フィルムを構成する層がラメラ状の相分離構造を呈する場合においては、ラメラの積層方向(ラメラを構成する層に垂直な方向)の平均がフィルムの法線方向と近い場合に、層がネガティブCプレート様の複屈折を発現しうる。層がシリンダ状の相分離構造を呈する場合及びスフェロイド状の相分離構造を呈する場合においては、例えばシリンダあるいは楕円球の長軸が面内方向にあり、かつ長軸の向きが面内においてランダムであれば、層がネガティブCプレート様の構造複屈折を発現しうる。
【0047】
かかる構造性複屈折と、樹脂Cを構成する分子の配向により生じる分子配向性複屈折とを組み合わせることにより、通常の手法では容易に製造できない特定範囲のNZ係数を有する位相差フィルムを、容易に得ることが可能となる。
【0048】
相分離構造の具体的な例としては、ラメラ構造、スフェロイド構造、及びシリンダ構造等が挙げられる。いずれの場合であっても、ネガティブCプレート様の構造複屈折を発現しうる構造の場合に、好ましい効果を得うる。即ち、厚み方向の屈折率が面内方向の平均屈折率よりも小さい構造複屈折を発現する構造であることが好ましい。これらの相分離構造のうちどれが発現するかは、様々な要因に影響される。構造の発現に影響する主な要因としては、重合単位Aを主成分とする相及び重合単位Bを主成分とする相の体積比が挙げられる。これらの相の体積比は、ブロック共重合体におけるブロック(A)及び(B)の割合を変化させることによって調整することが出来る。
【0049】
相分離構造において、構造の大きさは、位相差フィルムが所望の光学的特性を与えうる範囲内において適宜調整しうる。例えば相間の距離については、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下であり、相分離した各相の大きさは、100nm以下、好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下とすることが好ましい。相間の距離とは、例えばラメラ状相分離の場合にはラメラとラメラの間の間隔(即ちラメラの層の繰り返し単位のピッチ)、シリンダ状の相分離構造の場合にはシリンダとシリンダの間の間隔を指し、相分離した相の大きさとは、ラメラ状相分離の場合にはラメラの厚み、シリンダ状相分離の場合にはシリンダ半径のことを指す。相間の距離としては、小角X線散乱の測定で得られた散乱パターンを理論曲線とフィッティングして求められた値を採用しうる。
【0050】
相間の距離、及び相分離した相の大きさがこのように可視光よりも十分に短いことにより、構造複屈折が発現し、かつフィルムの着色及び光線透過率の低下を抑制することができる。相間距離の下限は特に限定されないが例えば10nm以上としうる。相分離した相の大きさの下限は特に限定されないが例えば10nm以上としうる。相間距離の調整は、共重合体Pの分子構造を調整することにより行いうる。例えば共重合体Pとしてブロック共重合体を採用し、ブロック(A)及び(B)の長さ等の要素を適宜調整することにより行いうる。
【0051】
本発明の位相差フィルムの厚みは、所望の光学的特性及び機械的特性が得られる範囲に適宜調整しうる。具体的には、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下である。
【0052】
〔2.製造方法〕
本発明の位相差フィルムは、樹脂Cの、単層の膜を形成する工程、及びかかる膜において樹脂Cを相分離させる工程を含む製造方法により製造しうる。以下においてこの製造方法を、本発明の製造方法として説明する。
【0053】
樹脂Cの膜を形成する工程を行うための具体的な製膜法の例としては、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法、及び圧縮成形法が挙げられる。大量の位相差フィルムを効率的に製造する場合は、溶融押出法が特に好ましい。溶融押出法は、二軸押出機等の押出機を用いて、溶融した樹脂Cを、Tダイ等のダイに供給し、ダイから樹脂Cを押し出すことにより行いうる。
【0054】
膜において樹脂Cを相分離させる工程は、膜を形成する工程の後に行ってもよく、膜を形成する工程と同時に行ってもよい。
相分離の工程は、例えば、溶融した樹脂Cを徐冷することにより行いうる。具体的には、膜を形成する工程として、溶融押出法及びその他の方法を採用した場合においては、溶融した状態の樹脂を成形し、その後緩慢な冷却条件で冷却する操作を行いうる。具体的な作用機序は不明だが、かかる徐冷を行うことにより、ネガティブCプレート様の構造複屈折を発現する樹脂Cの相分離構造を容易に形成することができ、所望の光学的特性を有する位相差フィルムを容易に得ることができる。例えば、一般的に押出機及びダイを用いた溶融押出法により膜を形成する際には、ダイから樹脂を押し出した後に、樹脂を冷却ロールにキャストする工程を行うところ、かかるダイ温度と冷却ロール温度を、緩慢な冷却条件となるように設定することにより、かかる徐冷を達成することができる。冷却の条件は、ダイ温度及び冷却ロール温度以外の要素にも影響されるものの、ダイ温度及び冷却ロール温度の調整により、通常の冷却よりも緩慢な冷却条件を達成しうる。冷却条件は、樹脂Cのガラス転移温度Tgと相対的に設定しうる。より具体的には、ダイ温度は(Tg+100)℃~(Tg+150)℃、冷却ロール温度は(Tg-50)℃~(Tg+50)℃で行うことが好ましい。
【0055】
相分離の工程としては、上に述べた徐冷に加えて又はそれに代えて、膜を加圧する工程を行いうる。樹脂Cの膜に対して圧力を加えることによりネガティブCプレート様の構造複屈折を発現する相分離構造を容易に形成することができ、所望の光学的特性を有する位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0056】
加圧の工程は、具体的には、枚葉状の樹脂Cに、その厚み方向に圧力を加えることにより行いうる。そのような操作には、金型等の、膜の表面に圧力を加える加圧器具を用いうる。樹脂Cの膜を圧縮成形法により成形する場合、加圧の工程は、成形の工程の一部として成形と同時に行ってもよく、成形の後に行ってもよい。加圧に際しての樹脂Cの温度は、(Tg+10)℃~(Tg+150)℃としうる。加圧の圧力は、好ましくは1MPa以上、より好ましくは5MPa以上、さらにより好ましくは10MPa以上であり、好ましくは50MPa以下、より好ましくは45MPa以下、さらにより好ましくは40MPa以下である。加圧時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上、さらにより好ましくは30秒以上であり、好ましくは180秒以下、より好ましくは150秒以下、さらにより好ましくは120秒以下である。加圧の条件を上に述べた範囲内とすることにより、厚み及び相分離構造が均一な膜を得ることができる。
【0057】
加圧の工程はまた、長尺の樹脂Cに圧力を加える操作を連続的に行う装置によっても行いうる。そのような操作には、加圧ロール等の加圧器具を用いうる。樹脂Cの膜を溶融押出法により成形する場合、加圧の工程は、ダイから押し出された樹脂Cを2本の加圧ロールの間に通し、これらにより樹脂Cに圧力を加えることにより行いうる。加圧に際しての線圧は好ましくは10N/cm以上、より好ましくは50N/cm以上、さらにより好ましくは100N以上であり、好ましくは500N/cm以下、より好ましくは450N/cm以下、さらにより好ましくは400N/cm以下である。加圧に際しての樹脂Cの温度は、(Tg+10)℃~(Tg+150)℃としうる。加圧の条件を上に述べた範囲内とすることにより、厚み及び相分離構造が均一な膜を得ることができる。
【0058】
相分離構造を有する樹脂Cの膜は、通常は、さらに延伸の工程に供し所望の位相差を付与し、それにより本発明の位相差フィルムを得うる。延伸の工程は、樹脂Cの膜の成形を行う製造ラインと連続したライン上で行いうる。又は、製造した樹脂Cの膜を一旦巻き取りフィルムロールとし、その後当該フィルムロールから膜を巻出し、これを延伸の工程に供してもよい。延伸の工程は、通常は、膜をその面内方向に延伸するフラット法延伸により行う。フラット法延伸の例としては、一軸延伸法及び二軸延伸法が挙げられる。一軸延伸法は、膜をその面内の一方向に延伸する延伸であり、その例としては、自由幅一軸延伸法及び一定幅一軸延伸法が挙げられる。二軸延伸法は、膜をその面内の一方向に延伸する延伸である。二軸延伸法の例としては、逐次二軸延伸法、及び同時二軸延伸法が挙げられる。それぞれの方向への延伸は、自由幅延伸であってもよく、一定幅延伸であってもよい。逐次二軸延伸法のより具体的な例としては、全テンター方式及びロールテンター方式が挙げられる。本発明の製造方法における延伸の工程のための延伸方法は、これらの方法のいずれであってもよく、所望の位相差フィルムを得るために適した方法を選択しうる。
【0059】
延伸の工程における延伸温度は、好ましくは(Tg-5)℃以上、より好ましくは(Tg+5)℃以上、さらにより好ましくは(Tg+15)℃以上であり、好ましくは(Tg+50)℃以下、より好ましくは(Tg+40)℃以下である。延伸温度を上限以下とすることで、膜の軟化による工程の不安定化を防止することができる。いっぽう下限以上の延伸温度とすることで、延伸時の破断や白化を防止することができる。
【0060】
構造複屈折が実際に生じているかどうかの確認は、未延伸フィルムの光学特性を測定することにより可能である。押出成形、プレス加工、溶剤キャスト等の常法で製膜した未延伸フィルムは通常、分子配向がランダムであるためRe及びRthがほぼゼロに近い値をとる。一方、構造複屈折が発現している未延伸フィルムでは、常法で製膜した通常の未延伸フィルムで観察される値よりも大きな値のRe及びRthが観察される。したがって、かかる値の測定により、構造複屈折の発現の確認を行いうる。ただし、電子顕微鏡やX線小角散乱による構造観察を併せて行うことにより、より確実な構造複屈折の発現の確認を行いうる。
【0061】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、任意の工程として、熱処理工程を行いうる。熱処理工程は、製造方法の任意の段階において行いうる。但し、熱処理工程は、樹脂Cの膜を形成する工程と、延伸の工程との間に行うことが好ましい。延伸工程後に熱処理を行う場合、延伸によって生じた位相差が緩和によって低下するため、熱処理の条件を、かかる位相差の低下を抑制しうる範囲に制限する必要が生じうる。
熱処理工程は、樹脂Cの膜を、フロート方式のオーブンまたはピンテンター等の装置により保持し加熱することにより行いうる。かかる熱処理を行うことにより、相分離構造の形成を促進させることができる。熱処理の温度は、好ましくはTg以上、より好ましくは(Tg+20)℃以上、さらにより好ましくは(Tg+25)℃以上であり、好ましくは(Tg+50)℃以下、より好ましくは(Tg+40)℃以下である。熱処理の温度を前記範囲内とすることにより、相分離構造の形成を容易に促進させることができる。また、熱処理の温度を前記上限以下とすることにより、膜の軟化を抑制することができ、膜厚及び光学的特性の均一な位相差フィルムを容易に製造することができる。熱処理工程は、樹脂Cの膜が実質的に延伸されない状態で行いうる。「実質的に延伸されない」とは、膜のいずれかの方向への延伸倍率が通常1.1倍未満、好ましくは1.01未満になることをいう。
【0062】
〔3.用途〕
本発明の位相差フィルムは、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置の構成要素として用いうる。例えば、表示装置において、λ/2板、λ/4板等の光学素子として用いうる。このような光学素子は、視野角補償、反射防止等の機能を有する素子として、表示装置中に設けうる。
【実施例
【0063】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施し得る。
【0064】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
【0065】
〔評価方法〕
(位相差フィルムのRe及びNZ係数)
AXOMETRICS社製のAXOSCANを用い、波長540nmでのRe及びNZ係数を求めた。
【0066】
(相分離構造)
得られたフィルムを2mm×4mmの大きさにカットし、それらを厚み方向に30枚重ねてフォルダに固定し、小角X線散乱測定施設(あいちSR、ビームライン8S3)を用い、カメラ長4m、X線エネルギー8.2KeV、測定qレンジ:約0.06~3nm-1、1試料あたりの露光時間60秒の条件で散乱パターンを得た。得られた散乱パターンを理論曲線とフィッティングして相分離構造と相間距離を算出した。
【0067】
X線の照射面は、フィルム断面とし、積分範囲は厚み方向及び厚み方向に垂直な方向についてそれぞれ20°とした。それぞれの積分から得られたデータから相間距離を算出し、厚み方向と厚み方向に垂直な方向の相間距離の平均値を測定値とした。
【0068】
(加工性)
位相差フィルムを切り出し、帯状の試料を得た。試料の切り出しは、試料の長手方向が、延伸方向と垂直な方向となるよう行った。試料の幅は10mmとした。この試料について、引張試験を行った。引張試験の例数は20とした。引張試験の条件は、初期チャック間隔100mm、試験速度100mm/minとした。降伏点到達までの破断の有無を観察し、下記評価基準に基づいて評価した。
A・・・降伏点到達前に破断した試料が10%未満。
B・・・降伏点到達前に試料の10%以上30%未満が破断した。
C・・・降伏点到達前に試料の30以上50%未満が破断した。
D・・・降伏点到達前に試料の50%以上が破断した。
【0069】
(表示特性:λ/2板)
偏光板として、透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製、商品名「HLC2-5618S」、厚さ180μm)を用意した。偏光板の一方の面側の保護フィルムを除去し、当該面に、実施例1~11及び比較例で得た位相差フィルムを貼合した。貼合は、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とが一致するよう行った。この操作により、両面の保護フィルムのうちの一方として、実施例又は比較例の位相差フィルムを備える偏光板を得た。
得られた偏光板を、市販のIPS液晶表示装置(LG電子製、23MP47HQ)の視認側にもともと備えられていた偏光板と置き換え、実施例及び比較例で得た位相差フィルムを備える液晶表示装置を得た。置き換えに際し、偏光板の配置は、実施例及び比較例で得た位相差フィルムを備える側が液晶セル側となる配置とした。また、偏光子の透過軸は、IPS液晶表示装置にもともと備えられていた偏光板における偏光子と同じ方向とした。
【0070】
得られた液晶表示装置の表示の状態を、表示面に対して斜め方向(法線方向に対して45°)から、様々な方位角において観察した。置き換え前と比較し全方位に渡りコントラストが高かったものを「良好」と評価し、置き換え前と比較し一以上の方位においてコントラストが同等以下であったものを「不良」と評価した。
【0071】
(表示特性:λ/4板)
偏光板として、透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製、商品名「HLC2-5618S」、厚さ180μm)を用意した。偏光板の一方の面側の保護フィルムを除去し、当該面に、実施例12で得た位相差フィルムを貼合した。貼合は、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とが45°の角度をなすよう行った。この操作により、両面の保護フィルムのうちの一方として、実施例の位相差フィルムを備える円偏光板を得た。
得られた円偏光板を、市販の有機EL表示装置(LG電子製、OLED55B6P)の視認側にもともと備えられていた円偏光板と置き換え、実施例で得た位相差フィルムを備える液晶表示装置を得た。置き換えに際し、円偏光板の配置は、実施例で得た位相差フィルムを備える側が液晶セル側となる配置とした。また、偏光子の透過軸は、有機EL表示装置にもともと備えられていた円偏光板における偏光子と同じ方向とした。
【0072】
得られた液晶表示装置の表示の状態を、表示面に対して斜め方向(法線方向に対して45°)から、様々な方位角において観察した。置き換え前と比較し全方位に渡り反射率が抑制されていた場合「良好」と評価し、置き換え前と比較し一以上の方位において反射率が同等以下であった場合「不良」と評価した。
【0073】
〔実施例1〕
(1-1.トリブロック共重合体)
乾燥し、窒素で置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500ml、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.29mmolを入れた後、重合単位Aとして2-ビニルナフタレン14gを添加して25℃で1時間反応させ、一段階目の重合反応を行った。
一段階目の重合反応終了後、重合単位Bとしてイソプレン7gを添加しさらに25℃で1時間反応させ、二段階目の重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、(2-ビニルナフタレンブロック)-(イソプレンブロック)のブロック構成を有するジブロック共重合体を得た。その後、反応混合物中にさらに、重合単位Aとして2-ビニルナフタレン14gを添加して25℃で1時間反応させ、三段階目の重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、(2-ビニルナフタレンブロック)-(イソプレンブロック)-(2-ビニルナフタレンブロック)のブロック構成を有するトリブロック共重合体を得た。反応混合物を大量の2-プロパノールに注いで、トリブロック共重合体を沈殿させ分取した。
【0074】
得られたトリブロック共重合体をp-キシレン700mlに溶解して溶液とした。溶液に、p-トルエンスルホニルヒドラジド7.6gを添加し、温度130℃で8時間反応させた。この反応により、イソプレン単位の二重結合へ水素を添加した。水素添加終了後、大量の2-プロパノールに反応溶液を注ぎ、(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体を、塊状の生成物32gとして得た。
【0075】
得られたトリブロック共重合体をNMRにて分析した。その結果、トリブロック共重合体における2-ビニルナフタレン単位と水添イソプレン単位との重量比は80:20であり、従ってブロック(A)の重量分率は80%であった。またトリブロック共重合体の水素添加率は99%であった。GPCにより測定したトリブロック共重合体の重量平均分子量は250000であった。TMAにより測定したトリブロック共重合体のガラス転移温度は135℃であった。
【0076】
(1-2.延伸前フィルム)
(1-1)で得られたトリブロック共重合体を、樹脂Cとして用いた。樹脂Cを、粉砕機により粉砕し粉体とした。得られた粉体を一対のポリイミドフィルム(各厚み100μm)の間に挟み積層体とし、積層体を加圧した。加圧は、電熱加圧装置を用いて行った。加圧の条件は、温度290℃、圧力40MPa、加圧時間5分間とした。加圧終了後、圧を解放して空気中で室温まで冷却し、ポリイミドフィルムを除去した。この操作により、厚み75μmの延伸前フィルム1を作成した。
【0077】
得られた延伸前フィルム1の断面からX線を入射させて小角散乱法により観察したところ、相間距離が40nm、厚み20nmのラメラ構造が観察された。
また、厚み方向に平行な断面の切片を作成してTEMで観察したところ、ラメラ状の相分離構造が確認された。
得られた延伸前フィルム1のRe及びRthを測定したところ、Re=15nm、Rth=90nmであり、構造複屈折によりネガティブCプレートに近い特性が得られていることを確認した。
【0078】
(1-3.位相差フィルム)
(1-2)で得られた延伸前フィルム1を切断し、80mm×80mmの大きさの矩形のフィルムとした。
矩形のフィルムに、自由幅一軸延伸を施した。延伸は、東洋精機(株)製のバッチ式延伸装置を用いて行った。延伸の条件は、延伸温度145℃、延伸倍率1.5倍、延伸速度33%毎分とした。この結果、厚み60μmの位相差フィルムを得た。
【0079】
得られた位相差フィルムについて、Re、Nz係数、加工性及び表示特性を評価した。
【0080】
〔実施例2~3〕
(1-3)における延伸の条件を、表1に示す通り変更した他は、実施例1と同じ操作により、位相差フィルムを得て評価した。
【0081】
〔実施例4~7〕
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、位相差フィルムを得て評価した。
・(1-1)の重合反応における、2-ビニルナフタレン及びイソプレンの仕込み量を変更した。但し、一段階目の重合反応において添加した2-ビニルナフタレンの量と、三段階目の重合反応において添加した2-ビニルナフタレンの量とが等しい量となるように、添加量を分割した。また、2-ビニルナフタレン及びイソプレンの仕込み量の合計は、実施例1と同じく35gとした。得られたトリブロック共重合体におけるブロック(A)の重量分率及び樹脂Cのガラス転移温度は、表1に示す通りであった。また、(1-2)のX線による観察及びTEMによる観察では、いずれの実施例でも、相分離によって生じたラメラ構造が観察された。
・(1-3)における延伸の条件を、表1に示す通り変更した。
【0082】
〔実施例8〕
工程(1-2)において、一対のポリイミドフィルムの間に入れる樹脂C粉体の量を減らした他は、実施例1と同じ操作により、位相差フィルムを得て評価した。樹脂C粉体の量を減らした結果、延伸前フィルムの厚みは38μmとなった。
【0083】
〔比較例1〕
(C1-1.重合体)
乾燥し、窒素で置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500ml、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.29mmolを入れた後、重合単位Aとして2-ビニルナフタレン14gを添加して25℃で2時間反応させ、重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、重合体を得た。反応混合物を大量の2-プロパノールに注いで、重合体を沈殿させ分取した。
【0084】
得られた重合体をNMRにて分析した。その結果、重合体は2-ビニルナフタレン単位のみからなるものであり、従ってブロック(A)の重量分率は100%であった。GPCにより測定した重合体の重量平均分子量は250000であった。TMAにより測定した重合体のガラス転移温度は143℃であった。
【0085】
(C1-2.位相差フィルム)
下記の変更点の他は、実施例1の(1-2)~(1-3)と同じ操作により、位相差フィルムを得て評価した。
・樹脂Cとして、(1-1)で得られたトリブロック共重合体に代えて、(C1-1)で得られた重合体を用いた。(1-2)のTEMによる観察では、相分離によって生じた構造は観察されなかった。
・(1-3)における延伸の条件を、表1に示す通り変更した。
【0086】
得られた位相差フィルムの屈折率はnx=nz>nyであり、したがって得られた位相差フィルムはネガティブAプレートであった。
【0087】
〔比較例2~3〕
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、位相差フィルムを得て評価した。
・(1-1)の重合反応における、2-ビニルナフタレン及びイソプレンの仕込み量を変更した。但し、一段階目の重合反応において添加した2-ビニルナフタレンの量と、三段階目の重合反応において添加した2-ビニルナフタレンの量は等しい量とした。また、2-ビニルナフタレン及びイソプレンの仕込み量の合計は、実施例1と同じく35gとした。得られたトリブロック共重合体におけるブロック(A)の重量分率及び樹脂Cのガラス転移温度は、表1に示す通りであった。GPCにより測定したトリブロック共重合体の重量平均分子量は、比較例2及び3のいずれも250000であった。
・(1-3)における延伸の条件を、表1に示す通り変更した。
【0088】
比較例2において得られた位相差フィルムの屈折率はnx=nz>nyであり、したがって得られた位相差フィルムはネガティブAプレートであった。
比較例3において得られた延伸前フィルムは白濁が酷く、位相差フィルムとしては使用不可能なものであった。
【0089】
〔比較例4〕
(C4-1.ランダム共重合体)
乾燥し、窒素で置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500ml、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.29mmolを添加した後、2-ビニルナフタレン28gとイソプレン7g混合したものを添加し、25℃で1時間重合反応を行った。得られた重合液を大量の2-プロパノールに注いで沈殿させランダム共重合体を得た。
得られた共重合体をp-キシレン700mlに溶解し、p-トルエンスルホニルヒドラジド7.6gを添加し、温度130℃で8時間水素添加反応を行った。反応後、大量の2-プロパノールに反応溶液を注ぎ、イソプレンのオレフィン部位を水素化した塊状のランダム共重合体30gを得た(水素添加率:99%)。得られた共重合体はNMR測定の結果から2-ビニルナフタレン単位/水添イソプレン単位=67:33wt%、GPC測定による重量平均分子量が250000であった。
また、TMAによるガラス転移点の測定を行ったところ、ガラス転移点は100℃であった。
【0090】
(C4-2.位相差フィルム)
下記の変更点の他は、実施例1の(1-2)~(1-3)と同じ操作により、位相差フィルムを得て評価した。
・樹脂Cとして、(1-1)で得られたトリブロック共重合体に代えて、(C4-1)で得られたランダム共重合体を用いた。(1-2)のTEMによる観察では、相分離によって生じた構造は観察されなかった。
【0091】
実施例及び比較例の結果を、表1にまとめて示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示す結果から明らかな通り、実施例においては、0.5に近い所望のNZ係数を有し、表示特性に優れた位相差フィルムを、容易に得ることができた。