(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物、該組成物で接着、コーティング又はポッティングされた物品、及び該組成物の硬化物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240509BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240509BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240509BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20240509BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20240509BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240509BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/04
C08K3/013
C09J183/07
C09J183/04
C09J11/06
C09J11/04
(21)【出願番号】P 2022540142
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2021026130
(87)【国際公開番号】W WO2022024734
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2020127332
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/186165(WO,A1)
【文献】特開平06-329997(JP,A)
【文献】特開平06-329914(JP,A)
【文献】特開平07-207164(JP,A)
【文献】特開平09-048960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は独立に炭素数1~10の非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基(ただし、アルケニル基を除く)であり、nは10以上の整数であり、R
2は独立に炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルキレン基であり、aは結合するケイ素原子毎に独立に0又は1である。)
で示されるオルガノポリシロキサン:5~40質量部、
(C)下記一般式(2)
(R
5)
3-mSiY
m (2)
(式中、R
5は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基(ただし、(C)成分が1分子中に加水分解性基を3個以上有する(オルガノ)シラン化合物の部分加水分解縮合物である場合、アルケニル基を除く)であり、Yは独立に加水分解性基であり、mは3又は4である。)
で示される1分子中に加水分解性基を3個以上有する(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:(B)成分の含有量に対して0.1~30質量%となる量、
(D)ラジカル開始剤:0.1~20質量部、
(E)水分硬化開始剤:(B)成分の含有量に対して0.01~10質量%となる量、
(F)無機充填剤:(A)成分と(B)成分の合計量に対して1~500質量%となる量、及び
(G)1分子中にアリル基を2個以上有する有機化合物(ただし、
1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン及び1分子中にアリル基を2個以上有するイソシアヌレート類を除く):1~20質量部
を含むオルガノポリシロキサン組成物であって、第1次硬化として、80~150℃で5~60分間熱硬化させて得られる硬化物の硬さ(H
1)と、第2次硬化として、該硬化物を更に、温度23℃、湿度50%RHの環境下で1日間湿気硬化させた後の該硬化物の硬さ(H
2)について、H
1に対するH
2の比(H
2/H
1)が1.00~1.20である硬化物を与えるものである熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(G)成分が、1分子中にアリル基を2~4個有する脂肪族多価カルボン酸アリルエステル又は芳香族多価カルボン酸アリルエステルである請求項1に記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(C)成分が、オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシジシラン化合物、テトラアルコキシトリシラン化合物、ヘキサアルコキシジシラン化合物、ヘキサアルコキシトリシラン化合物、(オルガノ)アセトキシシラン、(オルガノ)イソプロペノキシシラン及び(オルガノ)ケトオキシムシランからなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
(E)成分が、有機チタン化合物又は有機錫化合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物の硬化物で接着、コーティング又はポッティングされた物品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物を80~150℃で5~30分間熱ラジカル硬化させた後、更に室温で12~36時間縮合硬化させる工程を含む熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物の硬化物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定で熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物に関し、より詳細には1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、加水分解性シリル基を分子鎖両末端に有するオルガノポリシロキサン、架橋剤、ラジカル開始剤、水分硬化開始剤、及び無機充填剤を含む熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物、該組成物の硬化物で接着、コーティング又はポッティングされた物品、及び該組成物の硬化物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化してエラストマー材料(シリコーンゴム硬化物)となる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は既に公知となっている。硬化させる方法としては、湿気硬化(縮合硬化)、熱硬化(ヒドロシリル化付加硬化又は有機過酸化物によるラジカル硬化)、放射線硬化(紫外線によるラジカル硬化)等が挙げられる。
【0003】
湿気硬化とは、空気中の湿気により室温下(23℃±15℃)で縮合反応によって架橋・硬化する室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物であり、取り扱いが容易な上、耐候性や電気特性に優れているため、建材用のシーリング材、電気電子分野での接着剤など様々な分野で使用されている。これらのRTVシリコーンゴム組成物は、末端にシラノール基や加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサン(ベースポリマー)を出発として設計される場合が多い。室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の硬化タイプとしては一般的に、脱アルコール型、脱オキシム型、脱酢酸型が知られており、各種用途で使用されている。例えば、脱アルコール型では、電気電子用の部品固定接着剤やコーティング剤、自動車用接着剤等で幅広く使用されている。脱オキシム型や脱酢酸型は硬化性が比較的早いため、主に建材用シーリング材での使用例が多いが、硬化時に副生するガスが有毒あるいは刺激臭を有しているため、安全上の問題を孕んでいる。また脱オキシム型や脱酢酸型は、被着体に対する腐食性も懸念されるため、使用時には注意が必要である。これらの硬化タイプはいずれも、空気中の湿気と触れる表面部分から内部に向けて硬化が進行するため、硬化が完了するまでの時間が湿度に大きく影響される。また、温度により反応速度が異なるため、使用される環境によって硬化速度が変化する。従って、厚みのある箇所や大面積の貼り合わせ等の用途には不適であることが知られている。
【0004】
熱硬化タイプでは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む組成物を白金系触媒存在下で加熱によりヒドロシリル化付加反応させて弾性体硬化物(シリコーンゴム弾性体)を得る付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物が一般的に知られている。付加反応による熱硬化タイプは、硬化のために湿気は必要なく、比較的短時間で硬化し、厚みのある箇所や大面積の貼り合わせ等にも適用可能である。しかし、塗布する箇所に窒素、リン、硫黄などの非共有電子対をもつ化合物(例えば、アミン化合物や有機リン化合物)、フラックスなどの有機酸、有機錫等が存在すると、それらの化合物等により白金触媒が不活性化され、硬化阻害が起こり得る。その結果、本来必要とされる十分な特性が発現しない場合がある。
【0005】
放射線硬化は、一般的にUV光(紫外線)の照射により発生するラジカルによって硬化するUV硬化型オルガノポリシロキサン組成物が広く知られている。ラジカル官能性基としてアクリル基やビニル基を有するオルガノポリシロキサンとUV光によりラジカルが発生する化合物(ラジカル開始剤)を含有することで、オルガノポリシロキサン同士が結合しエラストマー材料となる。一般的には60秒以内のUV光照射で硬化する組成物が多く、速硬化性が特徴である。しかし、アクリル基による臭気が強く、また接着性も十分でない場合が多い。更に、ラジカル反応であるが故に酸素による硬化阻害を受けるため、表面が硬化しないことが知られている。窒素雰囲気下での硬化によりこの問題は解決可能であるが、専用の設備導入が必要であり、また窒息の問題も十分考慮に入れる必要がある。
【0006】
また、放射線硬化以外にラジカルを発生させる方法として、有機過酸化物を用いた熱硬化による手法も知られている(過酸化物硬化型オルガノポリシロキサン組成物)。しかし、上記UV光によるオルガノポリシロキサン組成物と同様に、ラジカル反応であるが故に酸素阻害が発生するため、エラストマー表面が未硬化になる場合がある。これを改善する手法として、特許文献1(特許第6385370号公報)には、縮合硬化及び熱ラジカル硬化により硬化するシリコーン粘着剤組成物が例示されている。アクリレート基及びメタクリレート基から選択されるラジカル硬化性基を有するクラスタ化官能性オルガノポリシロキサン及びアルコキシ基を有する反応性ポリマーを使用することで、縮合硬化及び熱ラジカル硬化を実現できる。該特許文献1に記載されている方法により得られるシリコーン粘着剤組成物は、熱ラジカル硬化により酸素阻害を受けた組成物表面が、縮合硬化により徐々に硬化するというシステムのため酸素阻害のデメリットがない。しかし、クラスタ化官能性オルガノポリシロキサンの調製が煩雑であるため汎用性に乏しく、またアクリレート基やメタクリレート基を有しているため臭気が強い。
【0007】
また特許文献2(国際公開第2018/186165号)には、ラジカル反応性基及び縮合反応性基を有する硬化反応性オルガノポリシロキサン組成物が開示されている。室温において1次硬化(縮合硬化)させた硬化物の貯蔵弾性率G’1と、該硬化物を更に100℃以上の加熱により2次硬化(熱ラジカル硬化)させた硬化物の貯蔵弾性率G’2について、G’1に対するG’2の増加率が少なくとも50%であることが特徴である。該組成物は室温環境下で湿気硬化により1次硬化させた後、熱ラジカル硬化(2次硬化)させることができるオルガノポリシロキサン組成物として有用性が高いが、室温硬化(1次硬化)させる時間によってG’1に対するG’2の増加率が変動する可能性がある。また湿気硬化(1次硬化)による時間が長いため、実使用上のタクトタイムが長くなるというデメリットも孕んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6385370号公報
【文献】国際公開第2018/186165号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、比較的短時間のうちに硬化を完了させることができ、かつ酸素阻害の影響を低減させた硬化物(シリコーンゴム硬化物)を与えることが可能であり、更に、低臭気性も実現した安定で熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物、該組成物の硬化物で接着、コーティング又はポッティングされた物品、及び該組成物の硬化物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、工業的に汎用性の高いアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(特に、分子鎖両末端にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン)と分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサンとをベースポリマーとして併用し、かつ、架橋剤、ラジカル開始剤、水分硬化開始剤、無機充填剤を組み合わせたオルガノポリシロキサン組成物が、安定で熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物となり、特に、第1次硬化として80~150℃の条件で比較的短時間で熱ラジカル硬化させた後、第2次硬化として40℃以下の室温環境において第1次硬化させた該硬化物の表面を更に湿気硬化により1日間(24時間)2次硬化させることで、比較的短時間のうちに1次/2次硬化を完了させることができ、かつ酸素阻害の影響を低減させた硬化物(シリコーンゴム硬化物)を与えることができ、更に、低臭気性も実現した熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物の硬化物で接着、コーティング又はポッティングされた物品、並びに該組成物の硬化物を製造する方法を提供するものである。
[1]
(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は独立に炭素数1~10の非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基(ただし、アルケニル基を除く)であり、nは10以上の整数であり、R
2は独立に炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルキレン基であり、aは結合するケイ素原子毎に独立に0又は1である。)
で示されるオルガノポリシロキサン:5~40質量部、
(C)下記一般式(2)
(R
5)
3-mSiY
m (2)
(式中、R
5は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基(ただし、(C)成分が1分子中に加水分解性基を3個以上有する(オルガノ)シラン化合物の部分加水分解縮合物である場合、アルケニル基を除く)であり、Yは独立に加水分解性基であり、mは3又は4である。)
で示される1分子中に加水分解性基を3個以上有する(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:(B)成分の含有量に対して0.1~30質量%となる量、
(D)ラジカル開始剤:0.1~20質量部、
(E)水分硬化開始剤:(B)成分の含有量に対して0.01~10質量%となる量、
(F)無機充填剤:(A)成分と(B)成分の合計量に対して1~500質量%となる量、及び
(G)1分子中にアリル基を2個以上有する有機化合物(ただし、
1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン及び1分子中にアリル基を2個以上有するイソシアヌレート類を除く):1~20質量部
を含むオルガノポリシロキサン組成物であって、第1次硬化として、80~150℃で5~60分間熱硬化させて得られる硬化物の硬さ(H
1)と、第2次硬化として、該硬化物を更に、温度23℃、湿度50%RHの環境下で1日間湿気硬化させた後の該硬化物の硬さ(H
2)について、H
1に対するH
2の比(H
2/H
1)が1.00~1.20である硬化物を与えるものである熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
[2]
(G)成分が、1分子中にアリル基を2~4個有する脂肪族多価カルボン酸アリルエステル又は芳香族多価カルボン酸アリルエステルである[1]に記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
[3]
(C)成分が、オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシジシラン化合物、テトラアルコキシトリシラン化合物、ヘキサアルコキシジシラン化合物、ヘキサアルコキシトリシラン化合物、(オルガノ)アセトキシシラン、(オルガノ)イソプロペノキシシラン及び(オルガノ)ケトオキシムシランからなる群から選択される1種又は2種以上である[1]又は[2]に記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
[4]
(E)成分が、有機チタン化合物又は有機錫化合物である[1]~[3]のいずれかに記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物の硬化物で接着、コーティング又はポッティングされた物品。
[6]
[1]~[4]のいずれかに記載の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物を80~150℃で5~30分間熱ラジカル硬化させた後、更に室温で12~36時間縮合硬化させる工程を含む熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物の硬化物を製造する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工業的に汎用性の高いアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(特には、分子鎖両末端にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン)と分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサンとをベースポリマーとして併用することで、安定(特に貯蔵安定性が良好)で熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物となり、特に、第1次硬化として80~150℃の条件で比較的短時間で熱ラジカル硬化させた後、第2次硬化として40℃以下の室温環境において第1次硬化させた該硬化物の表面を更に湿気硬化により2次硬化させることで、比較的短時間のうちに1次/2次硬化を完了させることができ、かつ酸素阻害の影響を低減させた硬化物(シリコーンゴム硬化物)を与えることが可能であり、更に、低臭気性も実現した熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
[(A)成分]
(A)成分は、本発明の組成物の第一のベースポリマー(即ち、熱ラジカル硬化性を有するベースポリマー)であり、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分の分子構造は特に制限されるものではなく、直鎖状構造、環状構造が挙げられ、これらの構造は分岐を有していてもよい。特には主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。
【0014】
(A)成分の25℃における粘度は、100~500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特には100~100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。粘度が上記範囲内であると、組成物の取り扱い作業性と該組成物から得られるエラストマー材料(シリコーンゴム硬化物)の物理的強度とを十分に確保することができる。粘度は通常、25℃において回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定することができる。
【0015】
また、上記粘度を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの重合度(分子中のケイ素原子数、又は主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位の繰り返し数)は、通常50~2,000、特には80~1,200程度が好ましい。本発明において、重合度は、例えばトルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0016】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、ケイ素原子に結合したアルケニル基は、炭素数2~8、更には炭素数2~4のものが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられる。中でもビニル基であることが好ましい。該オルガノポリシロキサンが直鎖状構造を有する場合、アルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子に結合するものであっても、分子鎖側鎖(分子鎖非末端)のケイ素原子に結合するものであってもよく、その両方であってもよいが、分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するものであることが好ましく、アルケニル基を有するトリオルガノシリル基で分子鎖両末端が封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンであることがより好ましい。
【0017】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基は、非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基であればよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、デシル基等の炭素数1~10のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7~14のアラルキル基;クロロメチル基、ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の炭素数1~3のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。中でもメチル基、フェニル基が好ましい。
【0018】
直鎖状のジオルガノポリシロキサンとしては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンが挙げられる。環状構造又は分岐構造を有するオルガノポリシロキサンとしては、式:R3
3SiO0.5(R3はアルケニル基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基である。以下、同じ。)で示されるシロキシ単位と式:R3
2R4SiO0.5(R4はアルケニル基である。以下、同じ。)で示されるシロキシ単位と式:R3
2SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R3
3SiO0.5で示されるシロキシ単位と式:R3
2R4SiO0.5で示されるシロキシ単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R3
2R4SiOで示されるシロキサン単位と式:R3SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:R4SiO1.5で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体が挙げられる。
【0019】
上記式中、R3はアルケニル基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、上述したアルケニル基以外の有機基として例示したものと同様であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、デシル基等の炭素数1~10のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7~14のアラルキル基;クロロメチル基、ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の炭素数1~3のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。またR4は、炭素数2~8、更には炭素数2~4であるアルケニル基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、及びヘプテニル基等が挙げられる。
【0020】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0021】
[(B)成分]
(B)成分は、本発明の組成物の第二のベースポリマー(即ち、湿気硬化性(縮合硬化性)を有するベースポリマー)であって、分子鎖両末端にそれぞれ2個又は3個のケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する加水分解性シリル基で封鎖された直鎖状のオルガノポリシロキサンであり、下記一般式(1)で示されるものである。
【化2】
(式中、R
1は独立に炭素数1~10の非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基であり、nは10以上の整数であり、R
2は独立に炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基であり、aは結合するケイ素原子毎に独立に0又は1である。)
【0022】
上記式(1)中、R1は炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基等の直鎖状又は分岐状アルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;及びこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子で置換された基、例えばクロロメチル基、ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基等が挙げられる。これらの中では、脂肪族不飽和結合を有さない非置換の一価炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基等)が好ましく、アルキル基又はアリール基がより好ましく、特にメチル基が好ましい。また、複数のR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0023】
上記式(1)中のn(ジオルガノシロキサン単位の繰り返し数)は10以上の整数であり、通常、10~2,000の整数、好ましくは20~1,500の整数、より好ましくは30~1,000の整数、更に好ましくは50~800の整数である。また、このnの値は、特に(B)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が25~500,000mPa・sの範囲、好ましくは100~100,000mPa・sの範囲となる整数であることが望ましい。
【0024】
なお、本発明において、(B)成分のオルガノポリシロキサンの主鎖を構成する((R1)2SiO2/2)で示される2官能性のジオルガノシロキサン単位の繰り返し数であるn(又は重合度)は、通常、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。また、粘度は通常、25℃において回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定することができる。
【0025】
上記式(1)中、Xは酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基であり、炭素数1~4のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの直鎖アルキレン基、及びこれらの異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基などが該当する。Xとしては、特に、酸素原子とエチレン基が好ましい。
エチレン基の場合、α,ω-ジビニル末端オルガノポリシロキサンに対し、対応するヒドロシランを金属触媒存在下で付加反応させることにより容易に生成できることから、非常に汎用性がある。
【0026】
また上記式(1)中、R2は独立に炭素数1~6の非置換又は置換一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシ置換アルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基などが挙げられるが、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0027】
aは結合するケイ素原子毎に独立に0又は1であり、特に好ましくは0である。
【0028】
(B)成分としては、下記に示すものが例示できる。
【化3】
(式中、n1は上記オルガノポリシロキサンの25℃における粘度が25~500,000mPa・sの範囲となる数である。)
【0029】
(B)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用しても2種以上組み合わせて使用してもよい。
本発明の組成物において、(B)成分のオルガノポリシロキサンの配合量は、該組成物の熱ラジカル硬化性と湿気(縮合)硬化性とのバランスの観点から、(A)成分100質量部に対して5~80質量部、好ましくは10~60質量部、より好ましくは15~40質量部である。(B)成分が5質量部未満では湿気(縮合)硬化が十分進行せず、酸素阻害を受けた硬化物表面を十分に湿気(縮合)硬化させることが難しくなる場合があり、80質量部を超えると熱ラジカル硬化性による短時間硬化が困難になる場合がある。
【0030】
[(C)成分]
(C)成分は、1分子中に加水分解性基を3個以上有する(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物であり、上記(B)成分と湿気により加水分解・縮合反応して架橋(硬化)する架橋剤(硬化剤)として作用するものである。1分子中に加水分解性基を3個以上有する(オルガノ)シラン化合物として、好ましくは、下記一般式(2)で示される1分子中に3個以上の加水分解性基を有する加水分解性(オルガノ)シラン化合物や、1分子中に3個以上(特には4~6個)の加水分解性基を有するビスシラン型化合物又はトリシラン型化合物である。
なお、本発明において、部分加水分解縮合物とは、該加水分解性(オルガノ)シラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上、特には3~6個の残存加水分解性基を有する(オルガノ)シロキサンオリゴマーを意味する。
【0031】
(R5)3-mSiYm (2)
(式中、R5は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Yは独立に加水分解性基であり、mは3又は4である。)
【0032】
上記式(2)中、R5は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基等のハロゲン置換アルキル基、ハロゲン置換アリール基などが挙げられる。これらの中でもアルキル基が好ましく、特にブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基が好ましい。
【0033】
上記式(2)中、Yの加水分解性基としては、それぞれ独立に、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4、特には炭素数1又は2のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2~4のアルコキシ置換アルコキシ基;ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、エチルメチルケトオキシム基等の炭素数3~5のケトオキシム基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~4のアルケニルオキシ基;アセトキシ基、プロペオノキシ基等の炭素数2~4のアシロキシ基;ジメチルアミノキシ基等の炭素数2~4のジアルキルアミノキシ基等が挙げられ、アルコキシ基、アルケニルオキシ基が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。
上記式(2)中、mは3又は4である。
【0034】
また、(C)成分の加水分解性(オルガノ)シラン化合物としては、トリアルコキシシリル基、ジアルコキシ(オルガノ)シリル基等の2個又は3個のアルコキシ基等の加水分解性基を有するシリル基を分子鎖末端に2個(両末端に1個ずつ)有する、好ましくは炭素数2~6個のアルカン型化合物(即ち、分子鎖末端にシリル基を2個有する、いわゆるビスシラン型化合物)や、エチレン基等のアルキレン基又はエテニレン基(ビニレン基)等のアルケニレン基を介してトリアルコキシシリル基又はジアルコキシ(オルガノ)シリル基等の加水分解性シリル基を分子鎖末端に2個(両末端に1個ずつ)有するジオルガノシリレン化合物(即ち、1分子中にシリル基又はシリレン基を3個有する、いわゆるトリシラン型化合物)を用いることができる。
【0035】
ここで、これらビスシラン型化合物、トリシラン型化合物において、加水分解性基としては、上述した式(2)のYで例示したものと同様のものが例示でき、加水分解性基以外のケイ素原子に結合する基としては、上述した式(2)のR5で例示したものと同様のものが例示できる。
【0036】
(C)成分の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルシリケート、エチルシリケート、オルソ珪酸メチル、オルソ珪酸エチル等のテトラアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物;1,2-ビス(ジメトキシ(メチル)シリル)エタン、1,2-ビス(ジエトキシ(メチル)シリル)エタン、1,6-ビス(ジメトキシ(メチル)シリル)ヘキサン、1,6-ビス(ジエトキシ(メチル)シリル)ヘキサン等のテトラアルコキシジシラン化合物;1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン等のヘキサアルコキシジシラン化合物;ビス[2-(ジメトキシ(メチル)シリル)エチル]ジメチルシラン、ビス[2-(ジエトキシ(メチル)シリル)エチル]ジメチルシラン、ビス[2-(ジメトキシ(メチル)シリル)エテニル]ジメチルシラン、ビス[2-(ジエトキシ(メチル)シリル)エテニル]ジメチルシラン等のテトラアルコキシトリシラン化合物、ビス[2-(トリメトキシシリル)エチル]ジメチルシラン、ビス[2-(トリエトキシシリル)エチル]ジメチルシラン、ビス[2-(トリメトキシシリル)エテニル]ジメチルシラン、ビス[2-(トリエトキシシリル)エテニル]ジメチルシラン等のヘキサアルコキシトリシラン化合物;メチルトリイソプロペノキシシラン、エチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等の(オルガノ)イソプロペノキシシラン;メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等の(オルガノ)ケトオキシムシラン;メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等の(オルガノ)アセトキシシランなどが挙げられる。
(C)成分は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0037】
(C)成分の配合量は、(B)成分の含有量に対して0.1~30質量%となる量、好ましくは1~30質量%となる量、特に好ましくは1~25質量%となる量である。0.1質量%となる量未満では、貯蔵安定性に欠けたり、また湿気による十分な架橋性が得られず、目的とするゴム弾性を有する硬化物が得難い。また30質量%となる量を超えると、得られる硬化物は機械特性が低下し易く、また該オルガノポリシロキサン組成物からの分離が発生するなどの欠点がある。
【0038】
なお、(C)成分の加水分解性(オルガノ)シラン化合物は、加水分解性基Y以外には、分子中に、窒素、酸素、硫黄から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含有する官能性基で置換された一価炭化水素基を有さないものである点において、通常、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に接着性向上剤として配合されるシランカップリング剤(即ち、炭素官能性基含有加水分解性オルガノシラン化合物又はカーボンファンクショナルシラン)とは明確に区別されるものである。
【0039】
[(D)成分]
(D)成分は、熱によってラジカルを発生させるラジカル開始剤であり、上記(A)成分を熱ラジカル硬化させるための重要な成分である。(D)成分としては特に限定されるものではないが、通常、有機過酸化物が好ましく、例えば、ジクミルペルオキシド、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、1,1-ビス(t-アミルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,4-ペンタンジオンペルオキシド、2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチル-3-ヘキシン、2-ブタノンペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、ジ(2,4-ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ(4-メチルベンゾイル)ペルオキシド、ジ(2-メチルベンゾイル)ペルオキシド、ブチル-4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)バラレート、3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジセチルペルオキシジカーボネート、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、ジオクタノイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-t-ブチルペルオキシカーボネート等の有機過酸化物、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0040】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~20質量部、好ましくは0.5~20質量部、特に好ましくは1~15質量部の範囲である。0.1質量部未満では、熱ラジカルによる硬化性が発現せず、目的とするゴム弾性を有する硬化物が得難い。また20質量部を超えると、目的とするゴム弾性は得られるものの、コストが高くなる等のデメリットがある。
【0041】
[(E)成分]
(E)成分の水分硬化開始剤は、湿気により硬化を促進させる縮合反応触媒として使用されるもので、ルイス酸、一級、二級、又は三級の有機アミン化合物、金属酸化物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機ジルコニウム化合物、又は鉄、アンチモン、ビスマス、マンガン等の金属の有機カルボン酸塩等が挙げられる。(E)成分は、1種を単独で使用しても2種以上の混合物として使用してもよい。
【0042】
水分硬化開始剤として、具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレートエステル、ジメチル錫ジネオデカノエート、ジブチル錫ジメトキサイド、ジオクチル錫ジネオデカノエート、スタナスオクトエート、テトラブチルチタネート、テトラ-(2-エチルヘキシル)チタネート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン及びその塩などが例示される。本発明組成物の縮合硬化による硬化特性が優れることから、有機錫化合物あるいは有機チタン化合物を添加することが好ましく、中でも有機チタン化合物、特にはテトラ-(2-エチルヘキシル)チタネート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンであることが好ましい。
【0043】
(E)成分の添加量は、(B)成分の含有量に対して、0.01~10質量%となる量、好ましくは0.05~10質量%となる量、特に好ましくは0.1~5質量%となる量である。0.01質量%となる量未満では、縮合硬化による十分な架橋性が得られない。10質量%となる量を超えると、価格的に不利になる場合や硬化速度が低下するなどの欠点がある。
【0044】
[(F)成分]
(F)成分の無機充填剤は、本発明組成物の強度やチキソトロピー性、難燃性や放熱性等の向上を目的として添加される成分であり、具体的には、粉砕シリカ、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ又は乾式シリカ)、沈降性シリカ(湿式シリカ)、結晶性シリカ、球状シリカ(溶融シリカ)、水酸化アルミニウム、アルミナ、ベーマイト、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、カーボンブラック、ガラスビーズ、ガラスバルーン、樹脂ビーズ、樹脂バルーンなどが挙げられ、単独で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせてもよい。これらの無機充填剤は、表面処理されていなくても、公知の処理剤で表面処理されていてもよい。公知の処理剤としては、例えば、特開2000-256558号公報記載の加水分解性基含有ポリシロキサンが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0045】
(F)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分との合計量に対して1~500質量%となる量、好ましくは1~400質量%となる量、特に好ましくは1~200質量%となる量である。1質量%となる量未満では、機械的特性が乏しくなる。500質量%となる量を超えると、ゴム弾性を有する硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物が得難い。
【0046】
[その他の成分]
本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物には、各種基材に対する硬化物の接着性をより向上させる目的で、上記の(A)~(F)成分以外に、必要に応じて(G)成分(任意成分)として、マロン酸ジアリル、琥珀酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル、ピロメリット酸テトラアリル等の脂肪族多価カルボン酸アリルエステル又は芳香族多価カルボン酸アリルエステルなどの、1分子中にアリル基を2個以上(好ましくは2~4個)有する有機化合物を(A)成分100質量部に対して0~20質量部、好ましくは1~10質量部程度配合することができる。
【0047】
また本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物には、上記成分以外に、オルガノポリシロキサン組成物の添加剤として公知の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。例えば、チキソトロピー向上剤としてのポリエーテル、可塑剤としての非反応性ジメチルシリコーンオイル、イソパラフィン、架橋密度向上剤としてのトリメチルシロキシ単位とSiO2単位とからなる三次元網状メチルポリシロキサン樹脂等が挙げられる。
【0048】
更に本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物には、必要に応じて、顔料、染料、蛍光増白剤等の着色剤、防かび剤、抗菌剤、ブリードオイルとしての非反応性フェニルシリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、シリコーンと非相溶の有機液体等の表面改質剤、トルエン、キシレン、溶剤揮発油、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、低沸点イソパラフィン等の溶剤も添加してよい。
【0049】
本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物は、(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、(B)分子鎖両末端にそれぞれ2個又は3個のケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する加水分解性シリル基で封鎖された直鎖状のオルガノポリシロキサン、(C)1分子中に加水分解性基を3個以上有する(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、(D)ラジカル開始剤、(E)水分硬化開始剤、(F)無機充填剤を任意の混合順序で均一に混合して形成される。
【0050】
本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物は、熱により発生するラジカルにより架橋反応が進行するが、酸素により被毒された硬化物表面は縮合反応により徐々に硬化することが特徴である。
本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物の硬化方法としては、80~150℃、特に100~130℃で5~60分間、特に10~30分間熱ラジカル硬化させた後、更に、好ましくは大気中、より好ましくは湿気を含む環境下で、室温(23℃±15℃)で12~36時間、特に18~24時間で縮合硬化させることが好ましい。
【0051】
本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物は、第1次硬化として、80~150℃で5~60分間熱硬化させて得られる硬化物の硬さ(H1)と、第2次硬化として、該硬化物を更に、温度23℃、湿度50%RHの環境下で1日間湿気硬化させた後の該硬化物の硬さ(H2)について、H1に対するH2の比(H2/H1)が1.00~1.20、好ましくは1.05~1.20である硬化物を与えるものである。ここで、硬化物の硬さH1及びH2は、JIS K 6249に従いタイプAデュロメータ硬度計により測定した値(デュロメータタイプA硬さ)である。H1に対するH2の比(H2/H1)が1.00未満であると湿気硬化が進行していないことを意味し、酸素により被毒された硬化物表面が硬化しない。1.20より大きいと熱ラジカル硬化があまり進行しておらず目的とする硬化特性が得られない場合がある。
なお、H1に対するH2の比(H2/H1)を上記範囲とするためには、(A)成分と(B)成分を上記で特定した配合比率で混合することにより達成できる。また、1日間湿気硬化させるとは、湿度50%RHの環境下24時間静置して硬化させることである。
【0052】
本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物は、接着剤、コーティング剤、ポッティング剤として有用であり、例えば、自動車、エレクトロニクスに使用される液状パッキン、各種基板用のコーティング、ポッティング、シーラントなど様々な用途で使用可能である。また、アルミニウム、銅、ステンレスなどの金属、Fr-4、PBT、PPS、ベークライト等の高分子樹脂などの被着体に接着することができる。本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物を接着剤、コーティング剤、ポッティング剤として使用する方法は、従来公知の方法に従えばよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を具体的に説明する実施例及び比較例を示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、粘度はB型回転粘度計による測定値であり、比表面積はBET吸着法による測定値であり、室温は23℃を意味する。
【0054】
シリコーンベースAの調製
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が30,000mPa・sのジメチルポリシロキサン90質量部、表面処理剤としてヘキサメチルジシラザン8質量部、水2質量部、及び(F)成分として比表面積300m2/gの煙霧質シリカ40質量部を室温で30分混合し、その後160℃で2時間混合した。該混合物を更に80℃以下になるまで冷却した後、三本ロールに1回通し、シリコーンベースAとした。
【0055】
(D)成分 ラジカル開始剤Aの調製
可塑剤として分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が1,000mPa・sのジメチルポリシロキサン50質量部、(D)成分としてベンゾイルペルオキシド40質量部、及び(F)成分として比表面積200m2/gの煙霧質シリカ10質量部を室温で30分混合して、ラジカル開始剤Aとした。
【0056】
(D)成分 ラジカル開始剤Bの調製
可塑剤として分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が500mPa・sのジメチルポリシロキサン48質量部、(D)成分としてジ(4-メチルベンゾイル)ペルオキシド50質量部、及び(F)成分として比表面積200m2/gの煙霧質シリカ2質量部を室温で30分混合して、ラジカル開始剤Bとした。
【0057】
[実施例1]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が10,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA60質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXがエチレン基であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が45,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分としてn-デシルトリメトキシシラン2.5質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.1質量部、及び(G)成分としてマレイン酸ジアリル2質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物1を得た。
【0058】
[実施例2]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が10,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA60質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXがエチレン基であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が45,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン2.5質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.1質量部、及び(G)成分としてマレイン酸ジアリル2質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物2を得た。
【0059】
[実施例3]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が10,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA60質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXがエチレン基であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が45,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン2.5質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤B5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.1質量部、及び(G)成分としてマレイン酸ジアリル2質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物3を得た。
【0060】
[実施例4]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が10,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA60質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXがエチレン基であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が45,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン2.5質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.1質量部、及び(G)成分としてピロメリット酸テトラアリル1質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物4を得た。
【0061】
[実施例5]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が10,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA60質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXが酸素原子であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が23,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン2.5質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.1質量部、及び(G)成分としてマレイン酸ジアリル2質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物5を得た。
【0062】
[比較例1]
(C)成分の1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンを添加しなかった以外は、実施例2に記載の同じ成分を配合し、組成物6を得た。
【0063】
[比較例2]
(E)成分のジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンを添加しなかった以外は、実施例2に記載の同じ成分を配合し、組成物7を得た。
【0064】
[比較例3]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が10,000mPa・sのジメチルポリシロキサン40質量部、及び(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA60質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン2.5質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.1質量部、及び(G)成分としてマレイン酸ジアリル2質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物8を得た。
【0065】
調製した組成物1~8を用いて、以下の特性を評価した。結果を表1、2に示す。
【0066】
・性状
調製した組成物1~8の性状を目視にて確認した。
【0067】
・硬化特性
調製した組成物1~8を厚みが約3mmになるように鉄板で挟み込み、油圧成型機(株式会社ショージ製)にて120℃条件にて10分加熱し、更に23℃/50%RH雰囲気下に24時間放置して硬化物を得た。得られた硬化物を、JIS K 6249に従い硬さ(デュロメータタイプA)、引張り強度(MPa)、切断時伸び率(%)を測定した。いずれの数値も、測定値の三桁目を四捨五入して有効数字二桁とした。
【0068】
・硬さ変化率の確認
上記120℃条件で10分熱硬化させた後の硬さ(デュロメータタイプA)をH1、追加で23℃/50%RHの室温環境で1日(24時間)放置した後の硬さ(デュロメータタイプA)をH2とし、H2とH1の比(H2/H1)を算出した。いずれの数値も、算出値の四桁目を四捨五入して有効数字三桁とした。
【0069】
・表面硬化性
調製した組成物1~8をφ10mm、高さ13mmのガラスシャーレに入れ、120℃の乾燥機に10分放置した。10分後乾燥機から組成物1~8を入れたガラスシャーレを取り出し、23℃/50%RH雰囲気下に24時間放置した。24時間後、硬化した組成物1~8の表面タックを確認した。表面タックの指標は以下の通りとした。
○:硬化物表面のタック感が全くない
×:硬化物表面が全く硬化していない
【0070】
・接着性
組成物1~8を厚みが2mmになるように以下の被着体で挟み込み、120℃の乾燥機に20分放置し、更に23℃/50%RH雰囲気下に24時間放置して組成物1~8を完全に硬化させた。得られた試験体を用いて、JIS K 6249に従いせん断接着力(MPa)を測定した。いずれの数値も、測定値の三桁目を四捨五入して有効数字二桁とした。また凝集破壊率(%)についても測定を行った。
被着体:アルミニウム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)
【0071】
・貯蔵安定性
組成物1~8を密閉可能容器に入れ、室温にて30日間放置して、組成物の安定性(変化の有無)を確認し、変化のないものを良好とした。
【0072】
【0073】
【0074】
実施例1~5(組成物1~5)において、硬化特性、表面硬化性、接着性、貯蔵安定性は良好であった。
比較例1(組成物6)は、硬化特性、表面硬化性、接着性は良好であったものの、密閉可能容器に入れ室温1日放置しただけで急激な増粘が確認された。
比較例2(組成物7)は、硬化特性、接着性、貯蔵安定性は良好であったが、表面硬化性は全く発現しなかった。(E)成分を添加しなかったため、湿気による室温硬化が進行しなかったと考えられる。
比較例3(組成物8)は、硬化特性、接着性、貯蔵安定性は良好であったが、表面硬化性は発現しなかった。(B)成分のオルガノポリシロキサンを添加しなかったため、湿気による室温硬化が進行しなかったと考えられる。
【0075】
上記の通り、第一硬化として120℃にて10~20分の条件における熱ラジカル硬化、第二硬化として23℃/50%RH雰囲気下24時間における室温硬化を行うことで、良好な硬化特性、表面硬化性、接着性が発現することが分かる。
【0076】
以下は、コーティング、ポッティング用途として有用と考えられる実施例及び比較例を示す。
【0077】
[実施例6]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が400mPa・sのジメチルポリシロキサン70質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA10質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXがエチレン基であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が45,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン2質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.5質量部、テトラ-(2-エチルヘキシル)チタネート0.1質量部、及び(G)成分としてマレイン酸ジアリル4質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物9を得た。
【0078】
[実施例7]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が400mPa・sのジメチルポリシロキサン70質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA10質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXがエチレン基であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が45,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン2質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.5質量部、テトラ-(2-エチルヘキシル)チタネート0.1質量部、及び(G)成分としてピロメリット酸テトラアリル1質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物10を得た。
【0079】
[実施例8]
(A)成分として分子鎖両末端がビニルジメチルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が400mPa・sのジメチルポリシロキサン70質量部、(A)成分と(F)成分の混合物である上記シリコーンベースA10質量部、及び(B)成分として分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖され、上記式(1)のXがエチレン基であり、R1=R2=メチル基であり、a=0であり、25℃における粘度が45,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部を室温で20分混合した。その後、(C)成分としてn-デシルトリメトキシシラン2質量部、(D)成分として上記ラジカル開始剤A5質量部、(E)成分としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン0.5質量部、テトラ-(2-エチルヘキシル)チタネート0.1質量部、及び(G)成分としてピロメリット酸テトラアリル1質量部を常圧下にて15分混合後、減圧条件下で15分混合し、組成物11を得た。
【0080】
[比較例4]
(C)成分の1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンを添加しなかった以外は、実施例6に記載の同じ成分を配合し、組成物12を得た。
【0081】
[比較例5]
(E)成分のジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、及びテトラ-(2-エチルヘキシル)チタネートを添加しなかった以外は、実施例6に記載の同じ成分を配合し、組成物13を得た。
【0082】
調製した組成物9~13を用いて、以下の特性を評価した。結果を表3に示す。
【0083】
・初期粘度
調製した組成物9~13を用いて、JIS K 6249に準拠し、23℃/50%RH環境下で粘度を測定した。
【0084】
・硬化特性
調製した組成物9~13を厚みが約3mmになるように鉄板で挟み込み、油圧成型機(株式会社ショージ製)にて120℃条件にて15分加熱し、更に23℃/50%RH雰囲気下に24時間放置して硬化物を得た。得られた硬化物を、JIS K 6249に従い硬さ(デュロメータタイプA)、引張り強度(MPa)、切断時伸び率(%)を測定した。いずれの数値も、測定値の三桁目を四捨五入して有効数字二桁とした。
【0085】
・硬さ変化率の確認
上記120℃条件で15分熱硬化させた後の硬さ(デュロメータタイプA)をH1、追加で23℃/50%RHの室温環境で1日(24時間)放置した後の硬さ(デュロメータタイプA)をH2とし、H2とH1の比(H2/H1)を算出した。いずれの数値も、算出値の四桁目を四捨五入して有効数字三桁とした。
【0086】
・表面硬化性
調製した組成物9~13をφ10mm、高さ13mmのガラスシャーレに入れ、120℃の乾燥機に20分放置した。20分後乾燥機から組成物9~13を入れたガラスシャーレを取り出し、23℃/50%RH雰囲気下に24時間放置した。24時間後、硬化した組成物9~13の表面タックを指触により確認した。表面硬化性(表面タックの有無)の指標は以下の通りとした。
○:硬化物表面のタック感が全くない(表面タックなし)
×:硬化物表面が全く硬化していない(表面タックあり)
【0087】
・接着性
組成物9~13を厚みが1mmになるようにFr-4基板(プリント基板、Flame Retardant Type 4)に塗布し、120℃の乾燥機に20分放置し、更に23℃/50%RH雰囲気下に24時間放置して組成物9~13を完全に硬化させた。得られた試験体について、Fr-4基板に対し組成物9~13の硬化物が接着しているか、以下の指標で評価した。
○:組成物の硬化物がFr-4に対し接着している(接着良好)
×:組成物の硬化物がFr-4から剥がれる(接着不良)
【0088】
・貯蔵安定性
組成物9~13を密閉可能容器に入れ、室温にて30日間放置して、組成物の安定性(変化の有無)を確認し、変化のないものを良好とした。
【0089】
【0090】
実施例6~8(組成物9~11)において、硬化特性、表面硬化性、接着性、貯蔵安定性は良好であった。またコーティング、ポッティングに有用と考えられる低粘度組成物となっている。
比較例4(組成物12)は、硬化特性、表面硬化性、接着性は良好であった。また、接着性は良好であったものの、密閉可能なビンに入れ室温3日放置しただけで急激な増粘が確認された。室温で3日間放置後の粘度は、5,600mPa・sであり、貯蔵安定性に欠ける組成物であることがうかがわれた。
比較例5(組成物13)は、硬化特性、接着性、貯蔵安定性は良好であったが、表面硬化性は全く発現しなかった。(E)成分の有機チタン化合物を添加しなかったため、湿気による室温硬化が進行しなかったと考えられる。
【0091】
上記実施例で使用した組成物は、第一硬化として熱によるラジカル硬化をさせた後、第二硬化として室温湿気硬化させることが特徴である。通常、熱ラジカルを利用した第一硬化のみでは、酸素と接触した部分が硬化阻害を受け未硬化の状態となる。第二硬化を組み込むことで、未硬化部分が室温下で徐々に硬化することで未硬化部分がもはや存在しなくなる。また、第二硬化後の硬度変化が少ないことも特徴である。
【0092】
本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物は、タクトタイムが短い車載関連向け等のシール剤、コーティング剤、ポッティング剤に最適であることが考えられる。
また、本発明の熱ラジカル硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物は、汎用性のあるオルガノポリシロキサンを使用しているため、コストメリットが大きく、熱ラジカル硬化で通常使用されるアクリル基を持ったポリマー等と比較して、臭気が少ないこともメリットの一つとして考えられる。