(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】接合体の製造方法、接合体、及び電気電子部品
(51)【国際特許分類】
B29C 65/70 20060101AFI20240509BHJP
B29C 69/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B29C65/70
B29C69/00
(21)【出願番号】P 2023541816
(86)(22)【出願日】2023-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2023024873
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2022127867
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勇人
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-157887(JP,A)
【文献】特開2003-086152(JP,A)
【文献】特開2010-244733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で接合してなる接合体の製造方法であって、
前記柱状基材Aの少なくとも一部の外周に、前記熱可塑性フィルムBを周方向に巻き付ける工程1、及び、
前記柱状基材Aにおける熱可塑性フィルムBを巻き付けた部分に、前記樹脂Cを、インサート成形で接合して前記熱可塑性フィルムBを封止する工程2、
を順次有する、接合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性フィルムBが、前記柱状基材Aに対して接着性を有する、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記工程1において、さらに、巻き付けた熱可塑性フィルムBを溶融及び固化して、前記柱状基材Aと前記熱可塑性フィルムBとを接合する操作を行う、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記工程1において、前記柱状基材Aと前記熱可塑性フィルムBとの接合が、接触加熱、温風加熱、熱プレス、赤外線加熱、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種によりなされる、請求項3に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
前記工程1において、前記柱状基材Aと前記熱可塑性フィルムBとの接合が、加熱温度100~300℃でなされる、請求項3に記載の接合体の製造方法。
【請求項6】
前記周方向に対して垂直方向における前記熱可塑性フィルムBの幅が、3~30mmである、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性フィルムBの厚さが、10μm以上3mm以下である、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性フィルムBの融点、又は前記融点が存在しない場合はガラス転移点温度に70℃を加えた温度をX℃とし、前記樹脂Cの成形時の樹脂温度をY℃とすると、前記Y℃から前記X℃を差し引いた値が、100~250℃である、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性フィルムBが、非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項10】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つであ
り、前記熱可塑性エポキシ樹脂が、(a)2官能エポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーと(b)フェノール性水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる同一の又は異なる2つの官能基を有する2官能性化合物との重合体であり(ただし、ビスフェノール類と、エピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルは除く)、
前記フェノキシ樹脂が、ビスフェノール類と、エピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルである、請求項9に記載の接合体の製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上又はエポキシ基を含まない熱可塑性樹脂である、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項12】
前記柱状基材Aが、金属である、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂Cが、熱可塑性樹脂である、請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項14】
前記封止部分に、0.1MPaGの空気圧を加えてリーク試験を行った際に、空気のリーク量が1ml/分以下である、請求項1に記載の接合体
の製造方法。
【請求項15】
前記接合体を、前記熱可塑性フィルムBのガラス転移点温度以上160℃以下の温度に加熱し、前記温度にて1000分間保った後、23℃にまで冷却後、前記リーク試験を行った際の空気のリーク量が1ml/分以下である、
請求項14に記載の接合体
の製造方法。
【請求項16】
接合体を備える電気電子部品の製造方法であって、
請求項1
又は14に記載の
前記接合体の製造方法により
前記接合体を製造する工程を有する、電気電子部品
の製造方法。
【請求項17】
電気電子部品が、端子台又は電気素子である、請求項16に記載の電気電子部品
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材が強固に接合した接合体の製造方法、接合体、及び電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の軽量化及び高性能化等の観点より、自動車部品、医療機器、家電製品等、各種分野で部品のマルチマテリアル化が進んでいる。マルチマテリアル化とは、機能や材質の異なる材料(以下、異種材という)を併用することで材料の軽量化や高強度化を図る手法である。マルチマテリアル化の実現には、異種材を強固に接合する技術が不可欠である。
【0003】
マルチマテリアル化を必要とする部品を用いた製品の一例として、コンデンサーが挙げられる。コンデンサーは、外装容器の内部に少なくとも絶縁体と電極体を備えた構成となっている。電極体は、電気を外部とやり取りするために、正極体及び負極体が外装容器の貫通孔から延出しているものが多い。外装容器内部を大気による変質等の不具合から保護するため、例えば、樹脂材料を封止材として用い、電極体と貫通孔との隙間を封止する手法がとられている。特に、電子機器は、わずかな湿気や粉塵等によって不具合を起こすことも多く、封止部には高度な密着性(耐リーク性)が求められる。
【0004】
例えば、封止材となる樹脂材料を用い、射出成形等のインサート成形により金属端子周辺を封止する技術が知られている。しかし、金属に対し、インサート成形によって樹脂材料を封止すると、隙間からリークするおそれがある。特に、金属端子等に対してその周囲を覆うように樹脂材料を封止する際には、より優れた耐リーク性が要求される。
そこで、金属端子等を樹脂材料で封止する手段として、例えば、金属端子に液状接着剤やワニス等を塗布した後インサート成形によって樹脂材料で封止する方法の検討が行われている。具体的には、電極体に現場重合型組成物を塗布して重合することでプライマー層を設けた後、封止部を形成する技術が知られている(特許文献1等)。また、カチオン型エポキシ樹脂系電着塗料を満たした浴槽中に外部端子を浸漬し、通電させることで端子接着層を設けた後、封止部材を形成する技術が知られている(特許文献2等)。
また、金属端子の表面を粗化した後インサート成形によって樹脂材料で封止する方法等の検討が行われている。具体的には、金属端子における封止樹脂との接合面を、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面層を研磨する技術が知られている(特許文献3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-157887号公報
【文献】特開2020-88137号公報
【文献】特開2016-126989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、液状接着剤を塗布する技術では接着に時間が掛かる場合があり、ポットライフ(可使時間)や手間などの課題が生じやすい。また、塗布量の不足や不均一な塗布作業によってリーク性を損なわれたり、過剰な塗布量による汚染リスクが生じるなど、作業性に劣る場合がある。
また、液状の熱硬化性接着剤を用いる場合、金属端子が高温と低温に繰り返しさらされた際(冷熱サイクル時)に、金属端子と封止樹脂との線膨張係数の差により金属端子と封止樹脂とがずれ、接着層に応力がかかる。そして、接着層は応力を緩和できずに剥離することによりリークが起こりやすくなる。これは熱硬化性の接着層が、熱可塑性を持たず、塑性変形域に達すると速やかに破断が起きるためである。
また、電極体の表面を粗化することにより、封止材との接着力が高まり得る一方で、電極体の粗面と封止材との間に隙間が生じやすく、耐リーク性が不足することが懸念される。さらに、上記のような冷熱サイクル時に応力を緩和する層が無いため剥離しやすい。
更なる密閉性の担保のためには、基材と封止材とがより一層強固に密着されるだけでなく、冷熱サイクル時の応力緩和も要求されている。
【0007】
そこで本発明は、接合プロセス時間が短く、異種材が強固に接合し、耐リーク性に優れた接合体の製造方法、接合体、及び電気電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基材に所定のフィルムを巻き付けて接合した後、樹脂で封止することにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] 柱状基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で接合してなる接合体の製造方法であって、
上記柱状基材Aの少なくとも一部の外周に、上記熱可塑性フィルムBを周方向に巻き付ける工程1、及び、
上記柱状基材Aにおける熱可塑性フィルムBを巻き付けた部分に、上記樹脂Cを、インサート成形で接合して熱可塑性フィルムBを封止する工程2、
を順次有する、接合体の製造方法。
[2] 上記熱可塑性フィルムBが、上記柱状基材Aに対して接着性を有する、上記[1]に記載の接合体の製造方法。
[3] 上記工程1において、さらに、巻き付けた熱可塑性フィルムBを溶融及び固化して、上記柱状基材Aと上記熱可塑性フィルムBとを接合する操作を行う、上記[1]又は[2]に記載の接合体の製造方法。
[4] 上記工程1において、上記柱状基材Aと上記熱可塑性フィルムBとの接合が、接触加熱、温風加熱、熱プレス、赤外線加熱、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種によりなされる、上記[3]に記載の接合体の製造方法。
[5] 上記工程1において、上記柱状基材Aと上記熱可塑性フィルムBとの接合が、加熱温度100~300℃でなされる、上記[3]又は[4]に記載の接合体の製造方法。
[6] 上記周方向に対して垂直方向における上記熱可塑性フィルムBの幅が、3~30mmである、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[7] 上記熱可塑性フィルムBの厚さが、10μm以上3mm以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[8] 上記熱可塑性フィルムBの融点、又は上記融点が存在しない場合はガラス転移点温度に70℃を加えた温度をX℃とし、上記樹脂Cの成形時の樹脂温度をY℃とすると、上記Y℃から上記X℃を差し引いた値が、100~250℃である、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[9] 上記熱可塑性フィルムBが、非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[10] 上記晶性熱可塑性樹脂が、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記[9]に記載の接合体の製造方法。
[11] 上記熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上又はエポキシ基を含まない熱可塑性樹脂である、上記[1]~[10]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[12] 上記柱状基材Aが、金属である、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[13] 上記樹脂Cが、熱可塑性樹脂である、上記[1]~[12]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[14] 上記封止部分に、0.1MPaGの空気圧を加えてリーク試験を行った際に、空気のリーク量が1ml/分以下である、上記[1]~[13]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法により得られる接合体。
[15] 上記接合体を、上記熱可塑性フィルムBのガラス転移点温度以上160℃以下の温度に加熱し、上記温度にて1000分間保った後、23℃にまで冷却後、上記リーク試験を行った際の空気のリーク量が1ml/分以下である、上記[14]に記載の接合体。
[16] 上記[1]~[13]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法により得られる接合体及び上記[14]又は[15]に記載の接合体から選ばれるいずれかの接合体を備える電気電子部品。
[17] 端子台又は電気素子である、上記[16]に記載の電気電子部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接合プロセス時間が短く、異種材が強固に接合し、耐リーク性に優れた接合体の製造方法、接合体、及び電気電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】フィルム付き基材の実施態様の一例を示す正面図である。
【
図2】
図1のフィルム付き基材のY軸に平行なB-B´切断面からなる断面による工程1の説明図である。
【
図3】工程1で得られるフィルム付き基材及び金型の断面による工程2の説明図である。
【
図4】接合体の幅方向に平行な切断面からなる断面図である。
【
図5】接合体の長さ方向に平行な切断面からなる断面図である。
【
図6】実施例を説明するための接合体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本明細書において、「接合」とは、物と物とを繋合わせることを意味し、接着及び溶着はその下位概念である。「接着」とは、テープや接着剤の様な有機材(熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等)を介して、2つの被着材(接着しようとするもの)を接合状態とすることを意味する。「溶着」とは、熱可塑性樹脂等の表面を熱によって溶融し、冷却することにより、分子拡散による絡み合いを生じさせて接合状態とすることを意味する。「接着性」とは、物と物とを繋合わせ得る接着強度を有する性質を意味する。
本明細書において、「この順で接合してなる接合体」とは、空間的にこの順で接合していることを意味する。
本明細書において、「接合プロセス時間」とは、接合体を構成する基材とフィルムの接触時を始点、接合体の作製の完了時を終点として、始点から終点までの時間を意味する。例えば基材に対してフィルムを巻き付ける工程、樹脂をインサート成形で接合して封止するのに要する時間を含む。
【0013】
<接合体の製造方法>
本実施形態の接合体の製造方法は、
柱状基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で接合してなる接合体の製造方法であって、
柱状基材Aの少なくとも一部の外周に、熱可塑性フィルムBを周方向に巻き付ける工程1、及び、
柱状基材Aにおける熱可塑性フィルムBを巻き付けた部分に、樹脂Cを、インサート成形で接合して熱可塑性フィルムBを封止する工程2、
を順次有する。
柱状基材Aと封止材である樹脂Cと間に熱可塑性フィルムBを設けることで、柱状基材Aと樹脂Cとが強固に接合する。さらに、熱可塑性フィルムBは柱状基材Aに巻き付けることができるので、液状接合剤等を塗布するよりも接合プロセスを短くする上で効果的な操作であるといえる。また、均一な厚さを有する熱可塑性フィルムBを用いることで、液状接合剤等を塗布する場合に比べて塗り残しやタレなどの不均一な部分が生じることがなくなり、優れた耐リーク性を発現することができる。
【0014】
本発明の効果が得られるより詳細な理由について、次のとおり考察する。
柱状基材Aと樹脂Cと間に、重合などの化学反応が完了した熱可塑性樹脂を設けることで、固体と液体の相変化を利用する速硬化が可能であり、接合プロセスを短くすることができる。また、熱可塑性樹脂をフィルム状で用いることにより、不定形の液状接合剤を塗布するのに比べて、液体を取り扱う煩雑さがなく、接合プロセス時間が短くなる。
また、熱可塑樹脂であれば、高温においても熱可塑性を持つため、応力を緩和することができ、冷熱サイクル時に1サイクルごとに応力をリセットでき、剥離を防止することができる。そのため、熱可塑性フィルムBを用いることで塑性変形をすることができ、かつ、効果的に応力を緩和することができるので、冷熱サイクル時に剥離しにくく、耐リーク性に優れる接合体とすることができる。また、接合体が高温にさらされる際に樹脂Cが軟化することで、さらに効果的に応力を緩和することができるので、耐リーク性に優れる。
さらに、好ましい実施形態の一例として、熱可塑性フィルムBとして非晶性の熱可塑性フィルムBを用いる場合、当該フィルムは加熱時に急激な低粘度化が起こりにくいので、接合体が高温にさらされた際に耐リーク性を維持するための形状を保つことができる。
【0015】
[工程1]
工程1では、柱状基材Aの少なくとも一部の外周に、熱可塑性フィルムBを周方向に巻き付ける。
ここで、上記「少なくとも一部の外周」とは、柱状基材Aの長軸方向における少なくとも一部を意味する。また、上記「巻き付ける」とは、柱状基材Aの周方向に熱可塑性フィルムBを一周又は一周以上巻き付けることを意味する。
工程1の実施態様の一例を、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は、フィルム付き基材の実施態様の一例を示す正面図である。
図2は、
図1のフィルム付き基材のY軸に平行なB-B’切断面からなる断面による工程1の説明図である。
図1及び
図2に示すように、熱可塑性フィルムB30は柱状基材A20の少なくとも一部の外周に巻き付けられていればよい。この時、
図1に示すように、柱状基材A20の一部に熱可塑性フィルムB30の非着部分aを有してもよく、非着部分aを有しなくてもよく、非着部分aを柱状基材A20の一端のみに有してもよい。柱状基材A20は非着部分aを両端に有することが好ましい。
【0016】
工程1では、まず、
図2の2-1に示すように、柱状基材A20の外周に、熱可塑性フィルムB30を周方向に巻き付ける。この時、
図2の2-2に示すように、熱可塑性フィルムB30が柱状基材A20の外周を連続して覆うように、熱可塑性フィルムB30を巻き付ければよい。柱状基材A20の周方向に、熱可塑性フィルムB30を一周又は一周以上巻き付けるので、巻き付けた熱可塑性フィルムB30の両端辺に隙間がなく、密閉性が高くなって、優れた耐リーク性を発現することができる。
また、熱可塑性フィルムBは、タック性を有していてもよい。取り扱い容易性の観点から、熱可塑性フィルムBがタック性を有し、柱状基材Aに対して仮固定されることが好ましい。
また、熱可塑性フィルムBは、耐リーク性を阻害しない範囲で粘着剤を塗布した後、柱状基材Aに巻き付けて仮固定してもよい。上記粘着剤として、市販品を使用することができる。
【0017】
上述のように柱状基材Aの外周に熱可塑生成フィルムBを巻き付けた後、巻き付けた熱可塑性フィルムBを溶融及び固化して、柱状基材Aと熱可塑性フィルムBとを接合する操作を行うことが好ましい。
具体的には、
図2の2-2に示すように、柱状基材A20に熱可塑性フィルムB30を巻き付けた後、熱可塑性フィルムB30を溶融し、固化してもよい。熱可塑性フィルムB30は熱可塑性なので、
図2の2-3に示すように、柱状基材A20に対して隙間なく密着して接合する。
本実施態様では、次の工程2において樹脂Cをインサート成形することで、熱可塑性フィルムBが溶融及び固化し得る。そのため、工程1において熱可塑性フィルムBを溶融及び固化せずに、工程2において樹脂Cの成形工程で加熱されることで溶融及び固化されてもよい。一方で、予め熱可塑性フィルムBを溶融及び固化することで、より確実に柱状基材Aと熱可塑性フィルムBとを接合一体化させることができるので、密閉性を高めて耐リーク性をより一層優れさせることができる。
【0018】
〔溶融及び固化〕
柱状基材Aと熱可塑性フィルムBとの接合において、熱可塑性フィルムBを溶融させる方法としては、接触加熱、温風加熱、熱プレス、熱板溶着、赤外線加熱、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法が挙げられる。
中でも、製造容易性及び接合プロセス短縮の観点から、熱プレス又は高周波誘導溶着が好ましい。
【0019】
柱状基材Aと熱可塑性フィルムBとの接合において、熱可塑性フィルムBを加熱により溶融させる場合、柱状基材Aと熱可塑性フィルムBとの接合面の加熱温度は、柱状基材Aの材質の耐熱温度を勘案して定めればよいが、100~300℃が好ましく、120~250℃がより好ましく、150℃~220℃が更に好ましい。100~300℃で加熱することにより、熱可塑性フィルムBが効率よく変形、溶融し接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
【0020】
溶融した熱可塑性フィルムBを固化させる方法としては、常温で放冷する方法又は冷却装置を用いて放冷する方法が挙げられる。なお、「常温」とは、5~30℃の範囲内の一般的な室温を意味する。中でも、製造容易性の観点から、常温で放冷する方法が好ましい。
なお、本明細書において、「固化」とは、常温で固体、即ち23℃の加圧のない状態下において流動性が無いことを意味する。
【0021】
〔柱状基材A〕
柱状基材Aの形状は特に限定されない。柱状基材Aの長さ方向に垂直な断面は、例えば、円形状、半円形状、楕円形状、並びに、正方形、長方形、三角形及びその他多角形状などが挙げられる。多角形は、正多角形であってもよく、正多角形以外であってもよい。また、断面が、縦横比が大きい長方形である四角柱(短冊:strip)も柱状基材Aに含まれる。
柱状基材Aの材質としては、例えば、金属又は無機物が挙げられる。柱状基材Aの材料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
耐熱性や強度の観点から、柱状基材Aは金属であることが好ましい。柱状基材Aの材質が樹脂である場合、当該樹脂の材質は、工程2におけるインサート成形での温度で変形しない融点又はガラス転移点温度を有することが必要である。
金属は、特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウム、チタン等が挙げられる。
なお、本実施形態において、「鉄」の語は、鉄及びその合金を含む意味で用いられる。鉄の合金としては、例えば、鋼、ステンレス等が挙げられる。同様に、銅、アルミニウム、マグネシウム、チタンも、これらの単体及びその合金を含む意味で用いるものとする。
【0022】
無機物は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、セラミック、カーボン成形体等が挙げられる。
ガラスとしては、例えば、一般的なガラスの他、耐熱ガラス、防火ガラス、耐火ガラス、スマートフォンの保護等に用いられる化学強化ガラス等であってもよい。具体的には、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
セラミックスとしては、例えば、半導体、自動車、産業用機器等に用いられるファインセラミックス等が挙げられる。具体的には、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム等の酸化物系セラミックス;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物系セラミックス;窒化ケイ素等の窒化物系セラミックス等が挙げられる。
柱状基材Aの材質に用いる樹脂としては、ガラス繊維強化熱硬化性樹脂、エポキシ樹脂物、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂の硬化物や、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン等の高耐熱性エンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0023】
(前処理)
柱状基材Aは、表面の汚染物の除去、及び/又は、アンカー効果を目的として、表面に前処理を施すことが好ましい。
前処理としては、例えば、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、レーザー処理、エッチング処理、フレーム処理等が挙げられる。
前処理としては、柱状基材Aの表面を洗浄する前処理又は表面に凹凸を付ける前処理が好ましい。具体的には、柱状基材Aがアルミニウム、銅、ガラス、セラミック、又は鉄からなる場合、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、エッチング処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。柱状基材AがFRP、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、又はポリブチレンテレフタレートからなる場合、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理及びコロナ放電処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
前処理は、1種のみであってもよく、2種以上を施してもよい。これらの前処理の具体的な方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0024】
脱脂処理とは、柱状基材A表面の油脂などの汚れをアセトン、トルエン等の有機溶剤等で溶かして除去する方法である。
【0025】
UVオゾン処理とは、低圧水銀ランプから発光する短波長の紫外線の持つエネルギーとそれにより発生するオゾン(O3)の力で、表面を洗浄したり、改質したりする方法である。ガラスの場合、表面の有機系不純物の除去を行う表面洗浄法の一つとなる。一般に、低圧水銀ランプを用いた洗浄表面改質装置は、「UVオゾンクリーナー」、「UV洗浄装置」、「紫外線表面改質装置」などと呼ばれている。
【0026】
ブラスト処理としては、例えば、ウェットブラスト処理、ショットブラスト処理、サンドブラスト処理等が挙げられる。中でも、ウェットブラスト処理は、ドライブラスト処理と比べより緻密な面が得られるため、好ましい。
【0027】
研磨処理としては、例えば、研磨布を用いたバフ研磨や、研磨紙(サンドペーパー)を用いたロール研磨、電解研磨等が挙げられる。
【0028】
プラズマ処理とは、高圧電源とロッドでプラズマビームを作り素材表面にぶつけて分子を励起させて官能状態とするものであり、素材表面に水酸基や極性基を付与できる大気圧プラズマ処理方法等が挙げられる。
【0029】
コロナ放電処理とは、高分子フィルムの表面改質に施される方法が挙げられ、電極から放出された電子が高分子表面層の高分子主鎖や側鎖を切断し発生したラジカルを起点に表面に水酸基や極性基を発生させる方法である。
【0030】
レーザー処理とは、レーザー照射によって柱状基材Aの表面のみを急速に加熱、冷却して、表面の特性を改善する技術で表面の粗面化に有効な方法である。公知のレーザー処理技術を使用することができる。
【0031】
エッチング処理としては、例えば、アルカリ法、リン酸-硫酸法、フッ化物法、クロム酸-硫酸法、塩鉄法等の化学的エッチング処理、また、電解エッチング法等の電気化学的エッチング処理等が挙げられる。
【0032】
フレーム処理とは、燃焼ガスと空気の混合ガスを燃やすことで空気中の酸素をプラズマ化させ、酸素プラズマを処理対象物に付与することで表面の親水化を図る方法である。公知のフレーム処理技術を使用することができる。
【0033】
〔熱可塑性フィルムB〕
熱可塑性フィルムBは、熱可塑性樹脂を主成分とする。また、熱可塑性フィルムBは、柱状基材Aに対して接着性を有することが好ましい。
上記「主成分」とは、熱可塑性フィルムB中の樹脂成分のうちで最も含有量の高い成分を意味する。熱可塑性フィルムBは、樹脂成分を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。
また、上記「フィルム」とは、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物を薄い膜状に成形したものを意味する。
【0034】
《Y℃-X℃》
熱可塑性フィルムBに用いられる熱可塑性樹脂が融点を有する場合、熱可塑性フィルムBの融点をX℃とし、又は、熱可塑性フィルムBに用いられる熱可塑性樹脂に融点が存在しない場合、ガラス転移点温度に70℃を加えた温度をX℃とし、樹脂Cの成形時の樹脂温度をY℃とすると、Y℃からX℃を差し引いた値(Y℃-X℃)が、0~300℃であることが好ましく、50~250℃であることがより好ましく、100~250℃であることが更に好ましく、125~210℃であることがより更に好ましい。
上記Y℃-X℃が0~300℃の範囲にあることにより、熱可塑性フィルムBが成形時の樹脂Cによる加熱により効率よく溶融し、接合面に有効に濡れ広がるため高い密着性が得られ、耐リーク性に優れる。
本明細書において、熱可塑性樹脂の融点とは、DSCで測定される融解ピーク温度を意味する。なお、融解ピークが得られない場合や、融解熱が15J/g以下である場合は、ガラス転移点温度に70℃を加えた温度を融点とみなす。ガラス転移点温度は、DSCで200℃まで昇温後、40℃以下に冷却し、さらに200℃まで加熱した2サイクル目のDSCカーブの降下開始時の温度を意味する。具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0035】
《非晶性熱可塑性樹脂》
熱可塑性フィルムBは、非晶性熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。
非晶性熱可塑性樹脂は、結晶を有さないか、有していても少量であり、その融解熱が15J/g以下の樹脂をいう。
融解熱は、DSC(示差走査熱量計)の吸熱ピークの面積と、熱可塑性樹脂成分の重量から算出する。無機充填剤等がフィルム中に含まれる場合には、無機充填剤は除いた、熱可塑性樹脂成分の重量から算出する。具体的には、試料を2~10mg秤量し、アルミ製パンに入れ、DSC(株式会社リガク製DSC8231)を用いて23℃から10℃/minで200℃以上まで昇温してDSCカーブを得、次いでそのDSCカーブから求めた融解時の吸熱ピークの面積と、上記秤量値から算出することができる。
【0036】
非晶性熱可塑性樹脂の融解熱は、11J/g以下であることがより好ましく、7J/g以下であることが更に好ましく、4J/g以下であることがより更に好ましく、融解ピークが検出限界以下であることが特に好ましい。
融解熱が15J/g以下である非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性フィルムBとして用いることにより、加熱時に、従来のホットメルト接着剤で見られるような急激な粘度低下は起こらず、200℃を超える高温度領域においても低粘度(0.001~100Pa・s)状態には至らない。このため当該熱可塑性フィルムBは溶融した状態でも、柱状基材Aと樹脂Cとの間から流れ出すことはなく、熱可塑性フィルムBの厚さが安定して確保でき、高い接合力を安定して得ることができる。
熱可塑性フィルムBに非晶性熱可塑性樹脂の特性を十分に付与する点から、非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性フィルムB中の樹脂成分のうち、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0037】
また、密閉性及び強靭性の観点から、非晶性熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
中でも、密閉性及び強靭性の観点から、熱可塑性フィルムBは、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の少なくとも一方である非晶性熱可塑性樹脂を主成分とすることがより好ましい。また、密閉性及び強靭性の観点から、熱可塑性フィルムBは、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の少なくとも一方である非晶性熱可塑性樹脂であって、エポキシ当量が1,600以上であり、融解熱が15J/g以下の非晶性熱可塑性樹脂を主成分とすることがさらに好ましい。
上記「主成分」とは、熱可塑性フィルムB中の樹脂成分のうちで最も含有量の高い成分を意味する。熱可塑性フィルムBは、樹脂成分を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。
【0038】
熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂は、樹脂内の凝集力が低く、かつ水酸基を有し得るため、柱状基材A及び樹脂Cとの相互作用が強く、従来の結晶性のホットメルト接着剤よりも高い接合力で異種材を接合することが期待できる。
【0039】
中でも、保管性の観点から、上記熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上又はエポキシ基を含まない熱可塑性樹脂であることが好ましい。
上記エポキシ当量は、2,000g/eq.以上であることがより好ましく、5,000g/eq.以上であることが更に好ましく、9,000g/eq.以上であることがより更に好ましく、検出限界以上であってエポキシ基が実質的に検出されないことが特に好ましい。なお、エポキシ当量が検出限界以上とは、後述のJIS K 7236:2001に基づきエポキシ当量を測定した際に、エポキシ基が検出されないことを意味する。
ここで言うエポキシ当量(エポキシ基1モルが含まれる上記熱可塑性樹脂の重量)は、接合前の熱可塑性フィルムBに含まれる熱可塑性樹脂のエポキシ当量の値であり、JIS-K7236:2001に規定された方法で測定された値(単位「g/eq.」)である。具体的には、電位差滴定装置を用い、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用い、溶媒希釈品(樹脂ワニス)は、不揮発分から固形分換算値としての数値を算出した値である。なお、2種以上の樹脂の混合物の場合はそれぞれの含有量とエポキシ当量から算出することもできる。
【0040】
《熱可塑性エポキシ樹脂》
熱可塑性エポキシ樹脂は、(a)2官能エポキシ樹脂モノマー又はオリゴマーと、(b)フェノール性水酸基、カルボキシ基、メルカプト基、イソシアナト基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる同一の又は異なる2つの官能基を有する2官能性化合物との重合体であることが好ましい。
かかる化合物を使用することにより、直鎖状のポリマーを形成する重合反応が優先的に進行して、所望の特性を具備する熱可塑性エポキシ樹脂を得ることが可能となる。
【0041】
(a)2官能エポキシ樹脂モノマー又はオリゴマーとは、分子内にエポキシ基を2個有するエポキシ樹脂モノマー又はオリゴマーをいう。
(a)2官能エポキシ樹脂モノマー又はオリゴマーの具体例として、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2官能のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、2官能のナフタレン型エポキシ樹脂、2官能の脂環式エポキシ樹脂、2官能のグリシジルエステル型エポキシ樹脂(例えばジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ダイマー酸ジグリシジルエステルなど)、2官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂(例えばジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジンなど)、2官能の複素環式エポキシ樹脂、2官能のジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂(例えばヒドロキノンジグリシジルエーテル、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテルなど)、2官能のアルキレングリシジルエーテル系化合物(例えばブタンジオールジグリシジルエーテル、ブテンジオールジグリシジルエーテル、ブチンジオールジグリシジルエーテルなど)、2官能のグリシジル基含有ヒダントイン化合物(例えば1,3-ジグリシジル-5,5-ジアルキルヒダントイン、1-グリシジル-3-(グリシドキシアルキル)-5,5-ジアルキルヒダントインなど)、2官能のグリシジル基含有シロキサン(例えば1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、α,β-ビス(3-グリシドキシプロピル)ポリジメチルシロキサンなど)及びそれらの変性物などが挙げられる。これらのうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂が、反応性及び作業性の点から好ましい。
【0042】
(b)のフェノール水酸基を持つ2官能性化合物としては、例えばカテコール、レゾルシン、ヒドロキノンなどのベンゼン環を1個有する一核体芳香族ジヒドロキシ化合物類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)などのビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレンなどの縮合環を有する化合物、ジアリルレゾルシン、ジアリルビスフェノールA、トリアリルジヒドロキシビフェニルなどのアリル基を導入した2官能フェノール化合物、ジブチルビスフェノールAなどが挙げられる。
(b)のカルボキシ基含有化合物の具体例としては、アジピン酸、コハク酸、マロン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸などが挙げられる。
(b)のメルカプト基を持つ2官能性化合物としては、例えば、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネートなどが挙げられる。
(b)のイソシアナト基含有の2官能性化合物の具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、及びトリレンジイソシアネート(TDI)などが挙げられる。
(b)のシアネートエステル基含有の2官能性化合物の具体例としては、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、及びビス(4-シアナトフェニル)メタンなどが挙げられる。
【0043】
上記(b)の2官能性化合物のなかでもフェノール水酸基を持つ2官能性化合物が熱可塑性の重合物を得る観点から好ましく、フェノール性水酸基を2つ持ち、ビスフェノール構造又はビフェニル構造を持つ2官能性化合物が耐熱性及び接合性の観点から好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールSからなる群より選ばれる少なくとも1つが耐熱性及びコストの観点から好ましい。
【0044】
(a)がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂であり、(b)がビスフェノールA、ビスフェノールF又はビスフェノールSである場合、当該(a)と(b)の重合により得られるポリマーは、パラフェニレン構造とエーテル結合を主骨格とし、それらをアルキレン基で連結した主鎖と、重付加により生成した水酸基が側鎖に配置された構造を有する。
パラフェニレン骨格からなる直鎖状の構造により、重合後のポリマーの機械的強度を高めることができるとともに、側鎖に配置された水酸基により、基材への密着性を向上させることができる。この結果、熱硬化性樹脂の作業性を維持しながら、高い接合強度を実現することができる。さらに、熱可塑性樹脂である場合は、熱で軟化・溶融させることによってリサイクル及びリペアが可能となり、熱硬化性樹脂における問題点であるリサイクル性及びリペア性を改善することができる。
【0045】
《フェノキシ樹脂》
フェノキシ樹脂は、ビスフェノール類と、エピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルであり、熱可塑性を有する。フェノキシ樹脂の製造には、二価フェノール類とエピクロルヒドリンの直接反応による方法、二価フェノール類のジグリシジルエーテルと二価フェノール類の付加重合反応による方法が知られているが、本実施形態に用いられるフェノキシ樹脂はいずれの製法により得られるものであってもよい。二価フェノール類とエピクロルヒドリンの直接反応の場合は、二価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビフェニレンジオール、フルオレンジフェニル等のフェノール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の脂肪族グリコールが挙げられる。中でも、コストや接合性、粘度、耐熱性の観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSが好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂に類似の化学構造をもち、パラフェニレン構造とエーテル結合を主骨格とし、それらを連結した主鎖と、水酸基が側鎖に配置された構造を有する。
【0046】
《熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の物性》
熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂は、GPC(ゲル・パーミエ―ション・クロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値である重量平均分子量が10,000~500,000であることが好ましく、18,000~300,000であることがより好ましく、20,000~200,000であることが更に好ましい。重量平均分子量はGPCによって検出される溶出ピーク位置から算出され、それぞれ標準ポリスチレン換算での分子量の値である。重量平均分子量がこの値の範囲であると熱可塑性と耐熱性のバランスが良く、効率よく溶融によって接合体が得られ、その耐熱性も高くなる。重量平均分子量が10,000以上であると耐熱性に優れ、500,000以下であると溶融時の粘度が低く、接合性が高くなる。
【0047】
《熱可塑性フィルムB中における樹脂成分以外の成分》
必要に応じて、本実施形態の目的を阻害しない範囲で、熱可塑性フィルムBは、樹脂成分以外の成分として、フィラーや添加剤を含有してもよい。
【0048】
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラー(樹脂粉体等)が挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、球状溶融シリカ、鉄などの金属の金属粉、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、酸性白土、珪藻土、カオリン、石英、酸化チタン、シリカ、フェノール樹脂マイクロバルーン、ガラスバルーン等が挙げられる。
熱可塑性フィルムBがフィラーを含有する場合、熱可塑性フィルムBの全量100体積%中におけるフィラーの含有量は、50体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましく、20体積%以下であることが更に好ましく、10体積%以下であることが最も好ましい。なお、フィラーの体積は、熱可塑性フィルムB中に含有されるフィラーの重量をフィラーの見かけ比重で除して求めることができる。
熱可塑性フィルムBの全量100体積%中における樹脂成分の含有量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、更に好ましくは30体積%以上、より更に好ましくは50体積%以上、一態様では80体積%以上、別の態様では90体積%以上、別の態様では99体積%以上である。
【0049】
添加剤としては、例えば、消泡剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、顔料、粘着付与樹脂等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上含有していてもよい。
熱可塑性フィルムB中における添加剤の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
熱可塑性フィルムB中における樹脂成分の含有量は、好ましく10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上、一態様では80質量%以上、別の態様では90質量%以上、別の態様では99質量%以上である。
【0050】
《熱可塑性フィルムBの形態》
熱可塑性フィルムBは、シート状物である。
柱状基材Aの周方向に対して垂直方向における熱可塑性フィルムBの幅は、好ましくは3~30mmである。なお、熱可塑性フィルムBの幅は、
図1におけるbで示される。
短い接合プロセス時間で強固に接合した接合体を得る観点から、熱可塑性フィルムBの幅は、25mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることが更に好ましい。また、同観点から、熱可塑性フィルムBの幅は、4mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。
【0051】
熱可塑性フィルムBの厚さは、好ましくは10μm以上3mm以下である。なお、熱可塑性フィルムBの厚さは、
図2におけるcで示される。
短い接合プロセス時間で強固に接合した接合体を得る観点から、熱可塑性フィルムBの厚さは、1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましく、0.3mm以下であることがより更に好ましく、0.2mm以下であることが特に好ましく、0.1mm以下であることが最も好ましい。また、密着性及び耐リーク性をより一層高める観点から、熱可塑性フィルムBの厚さは、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがより更に好ましく、40μm以上であることが特に好ましい。
熱可塑性フィルムBの厚さが上記数値範囲内であると、加熱等によって効率よく柱状基材Aとの接合面に広がることができ、高い接合力及び耐リーク性が得られる。
【0052】
熱可塑性フィルムBは単層であってもよく、複数層からなる積層体であってもよいが、製造容易性の観点及び接合力の向上の観点から、熱可塑性フィルムBは単層であることが好ましい。
【0053】
また、熱可塑性フィルムBは、耐リーク性を阻害しない範囲で、上述したようにタック性があってもよい。タック性の付与は熱可塑性フィルムBを構成する熱可塑性樹脂に粘着付与樹脂を混合しても良く、粘着剤を熱可塑性フィルムBの表面に塗布しても良い。タック性の付与は片面でも両面でも良いが、片面であると柱状基材Aに接する面のみにタック性を持たることができ、外側に粘着面が露出しにくいためより好ましい。また、粘着剤の塗布面積は全面でも良く、縞状、ドット状、格子状、タイル状(複数の四角が隙間を有して並んだ形状)などの一部の塗布でもよい。塗布面積が少ないと粘着剤が熱可塑性フィルムBの端面から外側にはみ出して露出しにくく、耐リーク性が落ちにくく好ましい。また、タック性の付与は滑り止めが出来るだけの微小なものであっても良い。すなわち、熱可塑性フィルムBを柱状基材Aに巻いた際に、当該熱可塑性フィルムBが柱状基材Aに貼りつかなくてもよく、せん断方向の力を加えた際に抵抗が大きくなる(滑りにくくなる)程度であっても良い。タック性が低い方が、接着力が大きくなりやすく、耐リーク性に優れて好ましい。
【0054】
《熱可塑性フィルムBの製造方法》
熱可塑性フィルムBの製造方法は特に限定されないが、例えば、2官能エポキシ化合物のモノマー又はオリゴマーを加熱して重合させることで樹脂組成物を得、得られた樹脂組成物に必要に応じて溶剤を加え、離型フィルム等に塗布し、硬化及び乾燥、必要に応じて加圧することにより熱可塑性フィルムBを得てもよい。また、重合反応は、離型フィルムに塗布後でも良く、溶剤を除去してフィルム形状が得られた後でも良く、また、それらを組み合わせても良い。
【0055】
[工程2]
工程2では、柱状基材Aに接合した熱可塑性フィルムBの巻き付け部分に、樹脂Cをインサート成形で接合して封止する。
【0056】
〔インサート成形〕
インサート成形は従来知られた方法を用いることができる。
工程2の実施態様の一例を、
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は、工程1で得られるフィルム付き基材及び金型の断面による工程2の説明図である。
図4は、接合体の幅方向に平行な切断面からなる断面図である。
図3に示すように、インサート成形用金型50のキャビティ内に、工程1で得られる柱状基材A20に熱可塑性フィルムB30が巻き付けられたフィルム付き基材1を設置し、加熱加圧により溶融した樹脂C40aを充填する。
具体的には、インサート成形用金型50のキャビティ内にフィルム付き基材1を設置した後(
図3)、金型に設けた樹脂射出口より樹脂C40aをキャビティ内に射出充填させる。この時、フィルム付き基材1の熱可塑性フィルムB30の少なくとも一部、好ましくは全部を覆って樹脂Cが接合するようにインサート成形し、金型50から取り出す。工程2を経ることで、
図4に示すように、柱状基材A20が熱可塑性フィルムB30を介して樹脂C40によって封止された接合体10が製造される。
【0057】
インサート成形用の金型には特に限定は無く、従来の金型を使用することができる。また、金型は、必要により加温、冷却することができる。
キャビティ内に樹脂Cを導入するゲートの形状としてはダイレクトゲート方式、ディスクゲート方式、サイドゲート方式、ファンゲート方式、フィルムゲート方式、トンネルゲート方式等の各種方式を、接合体の形状に応じて適用できる。
【0058】
〔樹脂C〕
本実施形態において、樹脂Cは封止材として用いられる。
樹脂Cは、インサート成形できるものであれば特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び繊維強化プラスチック(FRP)からなる群から選択される1種からなることが好ましい。中でも、接合力やコスト、成形の容易性の観点から、樹脂Cは、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、例えば、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、熱可塑性エポキシやそれらの繊維強化材等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等から選ばれる1種以上を使用することができる。耐熱性、接合力やコスト、成形の容易性等の観点から、ポリカーボネート、ガラス繊維強化ポリアミド、ガラス繊維強化ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリフェニレンサルファイドより選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0059】
樹脂Cの成形温度(樹脂温度)は、100℃~400℃であることが好ましく、150℃~350℃であることがより好ましく、180℃~300℃であることが更に好ましい。100℃~400℃の範囲で射出成形することにより、熱可塑性フィルムBが加熱により効率よく変形及び溶融し、接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
【0060】
柱状基材Aの材料と樹脂Cとの組み合わせは特に限定されない。
本実施態様の接合体において、樹脂C(封止材)の厚さは特に制限はなく、接合力及び耐リーク性に優れる範囲内で、用途に合わせ適宜設定することができる。
【0061】
<接合体>
本実施形態の接合体の製造方法によって製造される接合体の一例を、
図5を用いて説明する。
図5は、接合体の長さ方向に平行な切断面からなる断面図である。
図5に示すように、接合体10は、柱状基材A20が熱可塑性フィルムB30を介して樹脂C40によって封止されてなる。熱可塑性フィルムB30を介すことで、柱状基材A20と樹脂C40とは接合強度に優れ、かつ密着性に優れる。そのため、実線で囲んだ封止部からの空気などの出入りを防ぐことができ、耐リーク性を発現することができる。
【0062】
本実施形態の接合体は、異種材の接合体でも、優れた接合強度を示す。接合強度は、熱可塑性フィルムBと柱状基材Aとの間、及び熱可塑性フィルムBと樹脂Cとの間に働く界面相互作用の強さの他に、熱可塑性フィルムBの厚さ、熱可塑性フィルムBを構成するポリマーの分子量や化学構造、力学的特性、粘弾性的特性など数多くの因子に影響を受けるため、本実施形態の接合体が優れた接合強度及び耐リーク性を示す機構の詳細は明らかではない。
【0063】
また、接合体のより好ましい一実施形態は、熱可塑性フィルムBが、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の少なくとも一方である非晶性熱可塑性樹脂を主成分とすることである。当該より好ましい一実施形態がより優れた接合強度及び耐リーク性を示す機構の詳細は明らかではないが、非晶性熱可塑性樹脂内の凝集力が低いことと、樹脂内に水酸基が存在する場合、熱可塑性フィルムBと柱状基材Aの界面、及び熱可塑性フィルムBと樹脂Cの界面で水素結合やファンデルワールス力などの化学結合や分子間力を形成することが主な要因であると推測される。
【0064】
しかしながら、本実施形態の接合体において、熱可塑性フィルムBと柱状基材Aの界面、及び熱可塑性フィルムBと樹脂Cの界面の状態又は特性は、ナノメーターレベル以下のごく薄い化学構造であり、分析が困難である。そのため、上記界面の状態又は特性を特定することにより、熱可塑性フィルムBの使用によらないものと区別すべく表現することは、現時点の技術において、不可能又は非実際的である。
【0065】
より好ましい実施形態では、例えば、接合体の封止部分に、0.1MPaGの空気圧を加えてリーク試験を行った際の空気のリーク量が1mL/分以下であることが好ましい。
また、本実施形態の接合体は、冷熱サイクル時に効果的に応力を緩和することができる。したがって、より更に好ましい実施形態では、例えば、接合体を熱可塑性フィルムBのガラス転移点温度以上160℃以下の温度に加熱し、上記温度にて1000分間保った後、23℃にまで冷却後、上記リーク試験を行った際の空気のリーク量が1ml/分以下であることが好ましい。
上記リーク量は、具体的には、実施例に記載のリーク試験により測定される値である。
本実施形態の接合体は、柱状基材Aと樹脂Cとが強固に接合し、冷熱サイクル時に剥離しにくく、耐リーク性に優れることから、当該特性を発揮することができる用途に好適に使用することができる。例えば、本実施形態の接合体を備える電気電子部品を提供することができる。より具体的には、
図5に示すように、柱状基材A20上の熱可塑性フィルムB30の全体を、樹脂C40で覆うことにより封止されてなる、本実施形態の接合体10を備える自動車や電気電子部品の端子台、バスバー、電気素子等を提供することができる。
【実施例】
【0066】
以下、本実施形態を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0067】
実施例及び比較例において、柱状基材Aと、熱可塑性フィルムB又は接合剤と、樹脂Cとを、この順で接合してなる接合体を製造した。以下、上記熱可塑性フィルムB又は接合剤からなる層を中間層と称す。
実施例及び比較例において、以下の材料を使用した。
<柱状基材A>
幅12.4mm、長さ64.9mm、厚さ1.6mmのC1100(タフピッチ銅)
<熱可塑性フィルムB>
実施例1~14で製造したフィルムP-1~P-14
<接合剤>
比較例1~4で製造した接合剤Q-1~Q-4
<樹脂C>
ポリフェニレンスルファイド(GF30質量%含有)
【0068】
<熱可塑性フィルムB及び接合剤の重量平均分子量、融解熱、融点及びエポキシ当量>
(重量平均分子量)
熱可塑性フィルムB又は接合剤をテトラヒドロフランに溶解し、Prominence 501(昭和サイエンス株式会社製、Detector:Shodex(登録商標) RI-501(昭和電工株式会社製))を用い、以下の条件で測定した。
カラム:昭和電工株式会社製 LF-804×2本
カラム温度:40℃
試料:樹脂の0.4質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
較正法:標準ポリスチレンによる換算
【0069】
(融解熱及び融点)
熱可塑性フィルムB及び接合剤それぞれを2~10mg秤量し、アルミ製パンに入れ、DSC(株式会社リガク製DSC8231)で23℃から10℃/minで200℃まで昇温し、DSCカーブを得た。そのDSCカーブの融解時の吸熱ピークの面積と上記秤量値から融解熱を算出した。また、得られたDSCカーブの融解ピーク温度を融点(X℃)とした。なお、融解ピークが得られない場合や、融解熱が15J/g以下である場合は、ガラス転移点温度に70℃を加えた温度を融点(X℃)とした。ガラス転移点温度は、DSCで200℃まで昇温後、40℃以下に冷却し、さらに200℃まで加熱した2サイクル目のDSCカーブの降下開始時の温度とした。なお、加熱により溶融しない熱硬化性樹脂については、融点はなしとした。
【0070】
(エポキシ当量)
JIS K-7236:2001で測定し、樹脂固形分としての値に換算した。また、反応を伴わない単純混合物の場合はそれぞれのエポキシ当量と含有量から算出した。
【0071】
<Y-X(℃)>
熱可塑性フィルムB及び接合剤の融点をX℃とし、樹脂Cの射出成形時の樹脂温度をY℃とし、Y℃からX℃を差し引いた値(Y℃-X℃)を算出した。
【0072】
[実施例1]
(フィルムP-1)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約10,000)1.0当量(203g)、ビスフェノールS1.0当量(12.5g)、トリフェニルホスフィン2.4g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分約20質量%の熱可塑性エポキシ樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して、固体成分として熱可塑組成エポキシ樹脂を得た。プレス機の上板及び下板に非粘着フッ素樹脂フィルム(ニトフロン(登録商標)No.900UL、日東電工株式会社製)を設置し、下板の非粘着フッ素樹脂フィルム上に上記熱可塑性エポキシ樹脂を配置した後、前記プレス機を160℃に加熱し、前記熱可塑組成エポキシ樹脂を2時間加熱圧縮して固形分100質量%、長さ32~33mm、表1-1に示す厚さ及び幅のフィルムP-1を得た。
(工程1)
柱状基材Aの片面にテープのり(コクヨ株式会社製、品番タ-DM400-08)を塗布し、当該塗布部分と重なるようにフィルムP-1を、2~3mmのラップ部ができるように、柱状基材Aに1周巻き付けた。
図6は実施例を説明するための接合体の模式図である。
図6の6-1が示すように、フィルムP-1(B)の非着部分aを設け、フィルムP-1(B)を柱状基材A(A)に巻き付けた。
次に、上記フィルムP-1(B)が巻き付いた柱状基材A(A)を、表1-1に示す加熱温度及び加熱時間にて加熱し、フィルムP-1(B)を溶融させた。その後、常温にて1分放冷して、フィルムP-1(B)を固化し、柱状基材A(A)とフィルムP-1(B)とが接合したフィルム付き基材とした。
なお、本工程1の操作方法を「巻き付け法1」として表1-1に示す。
(工程2)
射出成形機(東洋機械金属株式会社製、機種名「Si-100-6s」)及び成形金型を用いて、上記フィルム付き基材のフィルムP-1(B)を巻き付けた部分に、樹脂Cをインサート成形し接合することで、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。インサート成形の条件は、射出成形温度(樹脂温度)300℃、金型温度135℃、射出速度15mm/秒、射出圧力130MPa、保圧圧力70MPa、保圧時間4秒、冷却時間30秒であった。
図6の6-2に、工程2により得られた柱状基材A(A)と樹脂C(C)との接合体の模式図を示す。
【0073】
[実施例2~6]
(フィルムP-2~フィルムP-6)
実施例1において、フィルムの厚さ及び幅を表1-1に示す値に代えた以外は同様に実施し、フィルムP-2~フィルムP-6を得た。
(工程1及び工程2)
次いて、表1-1に示す条件に従い、実施例1と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0074】
[実施例7]
(フィルムP-7)
実施例1において、フィルムの厚さ及び幅を表1-1に示す値に代えた以外は同様に実施し、フィルムP-7を得た。
(工程1)
次に、柱状基材AにフィルムP-7を、2~3mmのラップ部ができるように1周巻き付けた。柱状基材Aには、実施例1と同様に上記フィルムの非着部分を設けた。
次に、柱状基材Aに巻き付いたフィルムP-7部分をクリップにて固定した状態で、表1-1に示す加熱温度及び加熱時間にて加熱し、フィルムP-7を溶融させた。その後、常温にて1分放冷して、フィルムP-7を固化し、柱状基材AとフィルムP-7とが接合したフィルム付き基材とした。
なお、本工程1の操作方法を「巻き付け法2」として表1-1に示す。
(工程2)
次いて、実施例1と同様に工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0075】
[実施例8]
(フィルムP-8)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、フェノトート(登録商標)YP-50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、フェノキシ樹脂、重量平均分子量約50,000)20g、シクロヘキサノン80gを仕込み、撹拌しながら60℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分20質量%のフェノキシ樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去し、160℃で加熱することで固形分100質量%、長さ33mm、表1-2に示す厚さ及び幅のフィルムP-8を得た。
(工程1及び工程2)
表1-2に示す条件に従い、実施例7と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0076】
[実施例9]
(フィルム-9)
フィルムの幅を10mmとした以外は実施例8と同様に実施し、フィルム-9を得た。
(工程1及び工程2)
フィルムP-1の代わりにフィルムP-9を使用し、実施例1と同様に工程1及び工程2を実施して、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0077】
[実施例10]
(フィルムP-10)
実施例8のフィルムP-8の製造において、粘着付与樹脂(タマノル803L 荒川化学工業株式会社製)を5質量%(固形分換算)添加した以外は、同様に実施して、フィルムP-10を得た。
(工程1及び工程2)
フィルムP-7の代わりにフィルムP-10を使用し、実施例7と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0078】
[実施例11]
(フィルムP-11)
実施例8のフィルムP-8の製造において、粘着付与樹脂(YSポリスターK125 ヤスハラケミカル株式会社製)を10質量%(固形分換算)添加した以外は、同様に実施して、フィルムP-11を得た。
(工程1及び工程2)
フィルムP-7の代わりにフィルムP-11を使用し、実施例7と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0079】
[実施例12]
(フィルムP-12)
実施例1において、フィルムの厚さ及び幅を表1-2に示す値に代えた以外は同様に実施し、フィルムP-12を得た。
(工程1)
上記フィルムP-12の片面にエマルジョン型粘着剤(ポリゾール(登録商標)PSA SE-8001 昭和電工株式会社製)を塗布して100℃で5分乾燥した。上記フィルムP-12における粘着剤を塗布した面を、2~3mmのラップ部ができるように、柱状基材Aに1周巻き付け、フィルム付き基材とした。柱状基材Aには、実施例1と同様に上記フィルムの非着部分を設けた。
(工程2)
実施例1と同様に工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0080】
[実施例13]
(フィルムP-13)
結晶性のポリアミド系ホットメルト接着剤フィルム(エルファン(登録商標)NT-120 日本マタイ株式会社製)を用い、長さ33mm、表1-2に示す厚さ及び幅のフィルムP-13とした。
フィルムP-13においては、溶剤に不溶のため重量平均分子量及びエポキシ当量は測定できなかった。
(工程1及び工程2)
表1-2に示す条件に従い、実施例1と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0081】
[実施例14]
(フィルムP-14)
フィルムP-14として、ポリカーボネートフィルム(ユーピロン(登録商標)シートFE-2000 三菱ガス化学社製、厚さ100μm)を用い、長さ33mm、表1-2に示す厚さ及び幅のフィルムとした。
(工程1及び工程2)
表1-2に示す条件に従い、実施例1と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0082】
[比較例1]
(接合剤Q-1)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1001(三菱ケミカル株式会社、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約900)を1.0当量(285g)、ショウノール(登録商標)BRG-556(アイカ工業株式会社製、ノボラック型フェノール樹脂)を1.0当量(63g)、トリフェニルホスフィンを1.4g、メチルエチルケトンを650g仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分20質量%の熱硬化性エポキシ樹脂の溶液(接合剤Q-1)を得た。
(工程1)
柱状基材Aに、上記接合剤Q-1を塗布し、160℃で30分間加熱し、接合剤を硬化させた。その後、室温まで冷却し、接合剤Q-1からなる中間層を形成した。柱状基材Aには、実施例1と同様に上記接合剤の非着部分を設けた。中間層の幅は、表2に示すとおりである。
なお、本工程1の操作方法を「塗布法」として表2に示す。
(工程2)
実施例1の工程2と同様に、樹脂Cをインサート成形し接合することで、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0083】
[比較例2]
(接合剤Q-2)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1001(三菱ケミカル株式会社、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約900)を1.0当量(285g)、ショウノール(登録商標)BRG-556(アイカ工業株式会社製、ノボラック型フェノール樹脂)を1.0当量(63g)、トリフェニルホスフィンを1.4g、メチルエチルケトンを650g仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分20質量%の熱硬化性エポキシ樹脂の溶液を得た。これから溶剤を除去して、熱硬化性エポキシ樹脂の固体を得た。プレス機の上板及び下板に非粘着フッ素樹脂フィルム(ニトフロン(登録商標)No.900UL、日東電工株式会社製)を設置し、下板の非粘着フッ素樹脂フィルム上に上記固体を配置した後、上記プレス機を160℃に加熱し、上記熱硬化性エポキシ樹脂を2時間加熱圧縮して硬化させ、固形分100質量%、長さ33mm、表2に示す厚さ及び幅のフィルムQ-2を得た。
(工程1及び工程2)
表2に示す条件に従い、実施例1と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0084】
[比較例3]
(接合剤Q-3)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約10,000)1.0当量(203g)、ビスフェノールSを1.0当量(12.5g)、トリフェニルホスフィン2.4g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、常温で攪拌することで固形分約20質量%の非晶性熱可塑性エポキシ樹脂の溶液(接合剤Q-3)を得た。
(工程1及び工程2)
表2に示す条件に従い、比較例1と同様に工程1及び工程2を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0085】
[比較例4]
(接合剤Q-4)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約10,000)0.05当量(98g)、PG-100(大阪ガスケミカル株式会社製、フルオレン骨格エポキシ樹脂)0.95当量(238g)、ビスフェノールS1.0当量(125g)、トリフェニルホスフィン2g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分約35質量%の非晶性熱可塑性エポキシ樹脂の溶液(接合剤Q-4)を得た。なお、接合剤Q-4は、溶剤に一部不溶のため重量平均分子量及びエポキシ当量は測定できなかった。
(工程1)
柱状基材Aに上記接合剤Q-4を塗布し、120℃で60分間加熱した後、180℃で120分間加熱した以外は、比較例1と同様に工程1を実施し、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
(工程2)
実施例1の工程2と同様に、樹脂Cをインサート成形し接合することで、柱状基材Aと樹脂Cとの接合体を得た。
【0086】
<作業性>
作業性は、工程1に要した接合プロセス時間及びハンドリング性の観点から評価した。工程1においてフィルムを用いた場合は、溶液を用いた場合に比べ接合プロセス時間が短く、また液だれなどが生じないため、簡便に中間層を形成することができた。
よって、フィルムを用いた場合の作業性評価は、良好とし、「良」として表1-1、1-2及び2に示した。また、溶液を用いた場合の作業性評価は、フィルムの場合と比べ極めて劣るとし、「不良」として表1-1、1-2及び2に示した。
【0087】
<リーク試験>
図6の6-3に示すように、各実施例及び比較例で製造した接合体に、ホースHを差し込み、樹脂CとホースHとの継ぎ目及びその周辺にシリコーン樹脂用接着剤を塗布しシーリングした。接合体を取り付けていないホースHの先端にプラグカプラーを取り付け、コンプレッサーに接続した。接合体を取り付けたホースの先端にある接合体全体を水中に沈めた後、ホースHに、空気圧0.1MPaGで空気Xを接合体方向に送り込み、リークする水中の気泡を目視で観測した。この操作を各実施例及び比較例で製造した10個の接合体について行い、柱状基材Aと樹脂Cとの密着性を下記評価基準により評価した。評価結果を表1-1、1-2及び2に示した。
なお、水中の気泡が観測されない場合、空気のリーク量は1ml/分以下であるとみなすことができる。
〈評価基準〉
A:10回中、10回気泡が観測されなかった。
B:10回中、8~9回気泡が観測されなかった。
C:10回中、5~7回気泡が観測されなかった。
D:10回中、0~4回気泡が観測されなかった。
【0088】
<冷熱サイクル後のリーク試験>
各実施例及び比較例で製造した接合体について、125℃と-40℃の雰囲気に交互に置く冷熱サイクル処理を100サイクル行い、その後、上記リーク試験を行った。評価基準も上記リーク試験と同様に実施した。
【0089】
<耐熱処理後のリーク試験>
各実施例及び比較例で製造した接合体を160℃のオーブン中に1000時間静置し、その後、放冷した後に上記リーク試験を行った。評価基準も上記リーク試験と同様に実施した。
【0090】
【0091】
【0092】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本実施形態の製造方法及び接合体は、例えば、自動車や電気電子部品の端子、バスバー、電気素子等の用途で用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0094】
1.フィルム付き基材
10.本実施形態の接合体
20.柱状基材A
30.熱可塑性フィルムB
40.40a.樹脂C
50.金型
a.非着部分
b.熱可塑性フィルムBの幅
c.熱可塑性フィルムBの厚さ
A.柱状基材A
B.熱可塑性フィルムB
C.樹脂C
H.ホース
X.空気
【要約】
柱状基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で接合してなる接合体の製造方法であって、
前記柱状基材Aの少なくとも一部の外周に、前記熱可塑性フィルムBを周方向に巻き付ける工程1、及び、
前記柱状基材Aにおける熱可塑性フィルムBを巻き付けた部分に、前記樹脂Cを、インサート成形で接合して前記熱可塑性フィルムBを封止する工程2、
を順次有する接合体の製造方法。