(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/215 20060101AFI20240509BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240509BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240509BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08J3/215 CEZ
C08J5/00
C08K3/04
C08L81/02
(21)【出願番号】P 2024508720
(86)(22)【出願日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2023034210
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2022190120
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】茨木 拓
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】永野 繁明
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023579(JP,A)
【文献】国際公開第2022/210974(WO,A1)
【文献】特開2010-196018(JP,A)
【文献】特開2010-275464(JP,A)
【文献】特表2008-508417(JP,A)
【文献】特開2010-006856(JP,A)
【文献】特開2013-036021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂中にカーボンナノチューブが分散したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
有機極性溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂とを接触させて、前記有機極性溶媒に少なくとも一部の前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が溶解した混合物(A)を得る工程(1)、
前記混合物(A)に、カーボンナノチューブ分散液を添加して混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)を固液分離して液相を除去する工程(3)を有し、
前記カーボンナノチューブ分散液が、少なくともカーボンナノチューブと有機極性溶媒及び/又は水とを含むものである、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物100質量部における前記カーボンナノチューブの含有量が20質量部以下である、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ分散液が、さらに分散助剤を含むものである、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記分散助剤のハンセンの溶解度パラメータにおける水素結合項(dH)が1~10〔MPa
0.5〕である、請求項
3記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(ただし、水素結合項(dH)はハンセン溶解度パラメータ・ソフト(HSPiP)を用いて、原子団寄与法により算出した値である。)
【請求項5】
得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の体積抵抗値が1.0×10
10〔Ω・cm〕以下である、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の製造方法で得られた前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、さらにポリアリーレンスルフィド樹脂と溶融混練する工程を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物100質量部における前記カーボンナノチューブ
の含有量が1.0質量部以下であり、体積抵抗値が1.0×10
10〔Ω・cm〕以下である、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、溶融成形する工程を有する、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略記する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略記する。)は、耐熱性に優れつつ、かつ、機械的強度、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性にも優れるため、自動車部品や電気電子などの分野で、広範に利用されている。
【0003】
一方で、PPS樹脂は導電性が低い性質を有することから、これを改良する為に、例えば、カーボンブラックや炭素繊維等の導電性フィラーを配合した樹脂組成物が開発されている。しかしながら、PPS樹脂の使用用途拡大に伴って導電性の要求性能は年々高まり、十分な導電性を樹脂組成物に付与するためには、導電性フィラーを高充填する必要があった。このフィラーの高充填により、PPS樹脂が本来有する機械的特性や成形加工特性が損なわれることが課題であった。
【0004】
当該課題を解決する方法として、少量添加で高い導電性を付与できるカーボンナノチューブ(以下CNTと略記する。)の利用が検討されている。例えば、CNTの存在下でPAS樹脂の重合を行う事で、PAS樹脂中にCNTを高分散させる製造方法が検討されている(例えば特許文献1、2等)。しかし当該製造方法では得られるPAS樹脂の重合度が低いことから、加工条件や用途に制限があった。
【0005】
CNT存在下で有機溶媒に可溶な樹脂については、有機溶媒中で樹脂を完全に溶解させてから混合する事で樹脂中にCNTを高分散させる方法が提案されているが(例えば特許文献3等)、PAS樹脂の溶解には200℃以上の高温とそれに伴う高圧と過酷な環境が必要であるため、当該方法によってPAS樹脂中にCNTを高分散させるには、PAS樹脂の溶解条件に耐え得る溶媒やバインダーの選定が必要であり、また環境負荷も非常に大きいことから採用できず、より温和な条件下での方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-232247号公報
【文献】特表2007-507562号公報
【文献】特開2010-242091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、比較的温和な条件下で、PAS樹脂中にCNTを高度に分散させることにより、導電性に優れるPAS樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解した混合物に、CNT分散液を添加して固液分離することで、PAS樹脂中にCNTが高度に分散したPAS樹脂組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示は、PAS樹脂中にCNTが分散したPAS樹脂組成物の製造方法であって、
有機極性溶媒とPAS樹脂を接触させて、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解した混合物(A)を得る工程(1)、
前記混合物(A)に、CNT分散液を添加して混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)を固液分離して液相を除去する工程(3)、を有し
前記CNT分散液が、少なくともCNTと有機極性溶媒及び/又は水とを含むものである、PAS樹脂組成物の製造方法に関する。
【0010】
また、本開示は前記記載の製造方法で得られたPAS樹脂組成物を、さらにPAS樹脂と溶融混練する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法であって、
得られるPAS樹脂組成物100質量部におけるCNTの含有量が1.0質量部以下であり、体積抵抗値が1.0×1010〔Ω・cm〕以下である、PAS樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PAS樹脂中にCNTを高度に分散させることにより、導電性に優れるPAS樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0013】
<第1の実施形態>
本開示の第一の実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、有機極性溶媒とPAS樹脂を接触させて、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解した混合物(A)を得る工程(1)、前記混合物(A)に、CNT分散液を添加して混合物(B)を得る工程(2)、及び、前記混合物(B)を固液分離して液相を除去する工程(3)を有する。以下、詳述する。
【0014】
<工程(1)>
工程(1)は、有機極性溶媒とPAS樹脂を接触させて、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解した混合物(A)を得る工程である。得られた混合物(A)は、少なくともPAS樹脂及び有機極性溶媒を含み、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解したものである。
【0015】
本実施形態に適用できるPAS樹脂としては、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0016】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0017】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0018】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0019】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0020】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0021】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0022】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0023】
また、PAS樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0024】
(溶融粘度)
本実施形態に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、流動性及び機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは1Pa・s以上の範囲であり、そして、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは200Pa・s以下の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0025】
(非ニュートン指数)
本実施形態に用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から2.00以下の範囲以下の範囲であることが好ましい。ただし、本発明において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0026】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0027】
(製造方法)
PAS樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0028】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、水洗、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸又は塩基を加えて処理し、乾燥をする方法、(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。
【0029】
なお、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0030】
また、本実施形態に用いるPAS樹脂としては、リサイクルされたPAS樹脂でもよい。本実施形態に用いるPAS樹脂が該リサイクル材料を含む場合、当該樹脂中の当該リサイクル材料の割合は特に限定されないが、例えば、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。PAS樹脂成形品のリサイクル材料への加工(リサイクル処理)は、公知の方法によって実施することができる。例えば、裁断又は粉砕等によって、成形品をチップ状もしくはペレット状等に細分化する方法や、細分化された成形品を溶媒に溶解させてから固液分離することで充填剤等を除去する方法、細分化された成形品と溶媒を接触させてPAS樹脂以外の成分を抽出除去する方法等が挙げられる。リサイクル処理は、消費者から提供されるPAS樹脂成形品の回収品や、成形品製造者から提供されるPAS樹脂成形品のスペックアウト品や成形時に生じるロス(射出成形におけるランナー等)等をもとに行われることが多い。リサイクルされたPAS樹脂を用いることによって、樹脂や成形品の廃棄処理量を減らして、環境負荷を低減できる。
【0031】
本実施形態に適用できる有機極性溶媒としては、例えば、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0032】
前記有機極性溶媒と前記PAS樹脂を接触させる際の条件は特に限定されないが、PAS樹脂の溶解を促進する観点から、100℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。また、同様の観点から、0.1~2MPa(ゲージ圧)で接触させることが好ましい。
【0033】
なお、本工程で得られる混合物(A)における、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解した状態は、PAS樹脂が有機極性溶媒に溶媒和した状態の他、例えば、PAS樹脂の非晶部に有機極性溶媒が侵入して保持(膨潤)された状態も含む。
【0034】
<工程(2)>
工程(2)は、前記混合物(A)に、CNT分散液を添加して混合物(B)を得る工程である。得られた混合物(B)は、少なくともPAS樹脂、有機極性溶媒およびCNT分散液を含み、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解したものである。
【0035】
CNT分散液の添加量は特に限定されないが、CNTの凝集を抑制しながらPAS樹脂中に高度に分散させる観点から、前記混合物(A)に含まれるPAS樹脂100質量部に対して、CNTが20質量部以下になるように調整することが好ましく、5質量部以下になるように調整することがより好ましい。また、0.05質量部以上であることが好ましい。CNTの含有量が少なすぎると、導電パスが樹脂組成物中に形成されず、優れた導電特性を呈することが難しい。一方、CNTの含有量が多すぎると材料コストが増加し、また、樹脂組成物中のCNTと樹脂の界面増加に伴う粘度上昇や、物性低下が生じる場合がある。
【0036】
前記混合物(A)に、CNT分散液を添加する際の条件は特に限定されないが、分散液やバインダーの耐熱性の観点から、200℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0037】
・CNT分散液
続いて、本実施形態に適用できるCNT分散液について説明する。本実施形態に適用できるCNT分散液は、少なくともCNTと有機極性溶媒及び/又は水とを含むものである。本開示における分散液とは、CNTが有機極性溶媒及び/又は水中で分散状態にあるものをさし、さらに本開示ではCNTが凝集体を形成しないで分散状態であるものが好ましい。
【0038】
CNTは、グラファイトの一枚面を巻いて円筒状にした形状を有しており、1層で巻いた構造を持つシングルウォールナノチューブ(SWNT)、2層以上で巻いたマルチウォールナノチューブ(MWNT)等の種類が挙げられるが、本発明においてはいずれも使用することができる。これらの中でもより少量添加で導電性を発現させる観点から、SWNTで直径20nm以下のものが好ましく、またバンドル径が1μm以下のバンドルを形成するものが好ましく、100nm以下のバンドルを形成するものがより好ましい。また、PAS樹脂中における導電性パス形成が容易になる観点から、長さが100nm以上のものが好ましい。また、CNTは、一般にレーザーアブレーション法、アーク放熱CVD法、プラズマCVD法、気相法、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したCNTも用いることができる。
【0039】
本実施形態で用いるCNTの表面および末端は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、樹脂との親和性を増すために、官能基で修飾して用いてもよく、例えば酸やアルカリによって水酸基、カルボキシル基、アミノ基で官能基化を施してもよい。更にCNTをカップリング剤で予備処理して使用してもよく、かかるカップリング剤としては、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0040】
本実施形態で用いるCNT分散液が含有する有機極性溶媒は、特に限定されないが、工程(1)でPAS樹脂と接触させた有機極性溶媒と同様のものを用いることが、親和性の観点から好ましい。また、前記CNT分散液における有機極性溶媒及び/又は水の含有量は、CNT分散液100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、500質量部以下が好ましい。かかる範囲において、CNTは導電性を付与するのに最適なバンドル径を維持する事ができる。
【0041】
また、前記CNT分散液は分散助剤を含んでいてもよい。本実施形態に適用できる分散助剤としては、本発明の効果を損ねるものでなければ特に限定されず、例えば、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリチオフェン(PT)等の水溶性樹脂を挙げることができる。特に、ハンセンの溶解度パラメータにおける水素結合項(dH)が1~10〔MPa0.5〕の水溶性樹脂を分散助剤として用いる場合、CNTと樹脂の親和性を向上させることができるため、樹脂に添加されたCNTがより少量で機能(導電性や熱伝導性)を発現する事ができ、好ましい。なお、ハンセンの溶解度パラメータにおける水素結合項(dH)は、ハンセン溶解度パラメータ・ソフト(HSPiP)を用いて、化学構造に基づいて原子団寄与法により算出した値である。
【0042】
前記CNT分散液における前記分散助剤の含有量は、CNT100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、100質量部以上がさらに好ましく、500質量部以下が好ましく、400質量部以下がより好ましい。かかる範囲において、効率的にCNTと樹脂の親和性を向上させることができる。
【0043】
<工程(3)>
工程(3)は、前記混合物(B)を固液分離して液相を除去する工程である。
【0044】
本工程で固液分離する方法としては特に限定されず、公知の装置や方法を用いることができる。例えば、減圧留去法、遠心分離法、スクリューデカンター法、減圧濾過法、加圧濾過法など適当な方法が選択可能である。また、これらの方法を組み合わることや、繰り返し行うこともできる。
【0045】
液相を除去した前記混合物(B)は回収され、その後、そのまま乾燥してPAS樹脂組成物粉末として用いても良いし、更に温水や熱水等で洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のPAS樹脂組成物として調製することもできる。
【0046】
以上の本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法により得られるPAS樹脂組成物は、PAS樹脂中にCNTが高度に分散された構造を有することから、優れた導電性を呈する。本開示におけるPAS樹脂組成物の導電性は特に限定されないが、例えば、体積抵抗値が1.0×1010〔Ω・cm〕以下である。なお、体積抵抗値は実施例の方法で測定した値である。
【0047】
<第二の実施形態>
本開示の第二の実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、前記記載の製造方法で得られたPAS樹脂組成物を、さらにPAS樹脂と溶融混練する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法である。換言すると、前記記載の製造方法で得られたPAS樹脂組成物をマスターバッチとして用いて、さらにPAS樹脂で希釈するPAS樹脂組成物の製造方法である。
【0048】
本実施形態に適用できる希釈用のPAS樹脂(以下、希釈PAS樹脂と略記することがある)は、第一の実施形態における工程(1)で用いたPAS樹脂と同様のものを用いることができる。希釈PAS樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、溶融混練後に得られるPAS樹脂組成物の加工条件や用途に合わせて、種々選択することができる。
【0049】
本実施形態のPAS樹脂組成物の製造方法は、上記必須成分を配合し、PAS樹脂の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する。より詳しくは、本実施形態のPAS樹脂組成物は、各必須成分、及び、必要に応じて後述する任意成分を配合してなる。本発明に用いる樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0050】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0051】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、任意成分として繊維状充填剤等を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0052】
本実施形態におけるPAS樹脂組成物に対する希釈PAS樹脂の配合割合は、溶融混練後に得られるPAS樹脂組成物のCNT含有量がPAS樹脂100質量部に対して0.05~1.0質量部になるように調整することが好ましい。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物が優れた導電性と機械的強度を呈する。
【0053】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、必要に応じて、充填剤を任意成分として配合することができる。これら充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、粒状や板状、繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の充填剤も使用できる。
【0054】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。
【0056】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及び離型剤(ステアリン酸やモンタン酸を含む炭素原子数18~30の脂肪酸の金属塩やエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなど)等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合することができる。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0057】
また、本実施形態に係るPAS樹脂組成物の製造方法は、得られるPAS樹脂組成物の導電性に優れる。その値は特に限定されないが、例えば、体積抵抗値が1.0×1010〔Ω・cm〕以下である。なお、体積抵抗値は実施例の方法で測定した値である。
【0058】
本開示のPAS樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは130~190℃に設定すればよい。
【0059】
本開示の成形品の製造方法は、前記成形品にアニール処理する工程を有してもよい。アニール処理は、成形品の用途あるいは形状等により最適な条件が選ばれるが、アニール温度はPAS樹脂のガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは該ガラス転移温度+10℃以上の温度範囲であり、より好ましくは該ガラス転移温度+30℃以上の温度範囲である。一方、260℃以下の範囲であることが好ましく、240℃以下の範囲であることがより好ましい。アニール時間は特に限定されないが、0.5時間以上の範囲であることが好ましく、1時間以上の範囲であることがより好ましい。一方、10時間以下の範囲であることが好ましく、8時間以下の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られる成形品のひずみが低減し、かつ、樹脂の結晶性が向上するため好ましい。アニール処理は空気中で行ってもよいが、窒素ガス等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0060】
本開示のPAS樹脂成形品の用途としては、特に限定されるものではなく各種製品として用いることが可能であるが、PAS樹脂の本来有する耐薬品性に加えて導電性に優れることを特徴としたものであるから、特に耐薬品性と帯電防止性を要する部品、例えば、燃料(燃料の用語には、原油、シェールオイル、シェールガス、LNG、ガソリン、灯油、軽油、重油等の化石燃料等や、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ノナン、イソノナン、ドデカン、イソドデカン等の飽和炭化水素類、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等の不飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、デカリン等の環状飽和炭化水素類、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,1,3,5,7-シクロオクタテトラエン、シクロドデセン等の環状不飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類に代表される炭化水素類などの単独又は複数種であってもよい。)やそのミスト又は蒸気を輸送する配管や容器、継ぎ手、バルブ、化学プラント配管等に好適である。具体的には、燃料タンク、燃料チューブ、燃料センサ、燃料ポンプ、ベーンポンプ、オートレシオ流量計等といった部品に好適に用いることができる。また、本開示のPAS樹脂成形品は、その他にも、上記の炭化水素類を含むインクや塗料に接したり浸漬したりする容器、例えば、ノズル、ブラシ、カートリッジ、ポンプ、転写体、転写ベルト等の印刷用機器に用いる印刷用部品や塗装用部品、潤滑油に接するギアに例示される摺動部品、炭化水素類を溶剤とする洗浄に用いるブラシ、ホース、ノズルといった洗浄用機器の部品にも好適に用いることができる。さらに、この他にも、以下のような通常の樹脂成形品とすることもできる。例えば箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体又はモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、温度センサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイル及びそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例、比較例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0062】
<参考例 PAS樹脂混合物の製造>
圧力計、温度計、コンデンサ、デカンタを連結した撹拌翼及び底弁付き1Lオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(p-DCB)220.5g(1.5モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)39.7g(0.30モル)、45%NaSH186.9g(1.5モル)、及び48%NaOH125.0g(1.5モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで昇温した。水を167.8g留出させた後、釜を密閉した。その際、共沸により留出したp-DCBはデカンタで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後、オートクレーブ内温を160℃まで冷却し、NMP457.2g(4.6モル)を追加した後、220℃まで昇温して2時間撹拌し、続いて250℃まで昇温して1時間撹拌する事で105Pa・sのPPS樹脂を重合した。重合後のPAS樹脂を含む粗反応混合物を40℃まで冷却し、スラリー状態で取り出してPAS樹脂混合物として用いた。
【0063】
<実施例1-1 PPSとCNT分散液の混合>
PPS樹脂分が20gとなるように秤取ったPAS樹脂混合物と、CNT分散液40gとNMP60gを混合し、室温で1時間攪拌した。この時の混合溶液中のCNT量はPPS樹脂に対して0.8質量%であり、NMPはPPS樹脂に対して5倍量(質量比)であった。CNT分散液は、NMP中に0.4質量%のSWCNTと2質量%のPVDFが分散されたOCSiAl(オクサイアル)社のTUBALL(登録商標)SWCNT(商品名:TUBALL BATT NMP PVDF)を使用した。
【0064】
<実施例1-2 液相除去と洗浄>
攪拌して得られた混合物を、さらに攪拌しながら真空下で150℃に加熱し、5時間かけてNMPを除去した。その後、室温まで冷却してから200gの70℃温水を添加してリスラリーし、10分間攪拌した。混合物を吸引ろ過しながら、200gの70℃温水を3回に分けて注いでケーキ洗浄した。リスラリーとケーキ洗浄を3回繰返した後、得られたケーキと200gの水を500mlのオートクレーブに仕込み、230℃で1時間熱水洗浄した。熱水洗浄後、混合物を室温まで冷却させて、吸引ろ過しながら200gの70℃温水を3回に分けて注ぎケーキ洗浄した。得られたケーキを120℃で4時間かけて乾燥させて、PPS樹脂組成物(1)19.9gを得た。
【0065】
<実施例2>
添加するCNT分散液の量を40gから250gに変更した点以外は、実施例1と同様に実施してPPS樹脂組成物(2-1)24.7gを得た。得られたPPS樹脂組成物(2-1)6.2gと、PPS樹脂(リニア型、溶融粘度(V6)106Pa・s)を25.2gとを配合し、ラボプラストミルを用いて310℃、10分間で溶融混錬して希釈して、PPS樹脂組成物(2-2)を得た。なお、樹脂組成物(2-2)の組成は、PPS/CNT/PVDF=100/0.8/4(質量%)である。
【0066】
<比較例1>
添加するCNT分散液の量を40gから0gに変更した点以外は、実施例1-1と実施例1-2と同様に実施して、PPS樹脂組成物(C1)18.6gを得た。
【0067】
<比較例2>
参考例において、1Lオートクレーブに仕込んだNMP457.2gを、CNT分散液324.6gとNMP132.6gに変更した点以外は、同様の操作で重合反応を行い、CNTを含有したPPS樹脂粗生成物を得た。得られた粗生成物を、「攪拌して得られた混合物」の変わりに用いたこと以外は実施例1-2と同様に精製して、PPS樹脂組成物(C2)155.7gを得た。
【0068】
<評価>
【0069】
(1)導電性の評価
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の体積抵抗率から導電性を評価した。体積抵抗率は、日東精工アナリテック株式会社製「ロレスタAX MCP-T370」(測定上限:106Ω・cm)を用いて、室温21℃、湿度67RH%の条件下における各試験片の体積抵抗率をJIS K 7194「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠して測定した。試験片は、各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を310℃で2分間プレスして、プレート形状(50mm×50mm×2mmt)に成形したものを用いた。結果を表1に示す。なお、比較例1の樹脂組成物は機器の測定上限を超えたため、O.L.と記載した。
【0070】
(2)溶融粘度(V6)の測定
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の溶融粘度(V6)は、島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)の条件にて、6分間保持した後に測定した。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1から、実施例1及び2と比較例1を対比すると、実施例で得られた樹脂組成物中にCNTが高度に分散されており、CNTの少量添加で体積抵抗率の低下を実現したことが示された。また、実施例1及び2と比較例2を対比すると、実施例の樹脂組成物は同程度のCNT含有量でより大きい溶融粘度を示し、加工性や機械的強度により優れることが示された。
【要約】
ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂中にカーボンナノチューブ(CNT)を高度に分散させることにより、導電性に優れるPAS樹脂組成物の製造方法を提供すること。さらに詳しくは、PAS樹脂中にCNTが分散したPAS樹脂組成物の製造方法であって、有機極性溶媒とPAS樹脂を接触させて、有機極性溶媒に少なくとも一部のPAS樹脂が溶解した混合物(A)を得る工程、混合物(A)に、CNT分散液を添加して混合物(B)を得る工程、及び、混合物(B)を固液分離して液相を除去する工程を有し、前記CNT分散液が、少なくともCNTと有機極性溶媒とを含むものであるPAS樹脂組成物の製造方法。