(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】狭線幅レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0687 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
H01S5/0687
(21)【出願番号】P 2021104641
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 具就
(72)【発明者】
【氏名】八坂 洋
(72)【発明者】
【氏名】横田 信英
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056474(WO,A1)
【文献】特開2010-232371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/0687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザと、
半導体光増幅器と、
光フィルタと
を備え、
前記半導体レーザの出力光が、前記半導体光増幅器と前記光フィルタとを介して、当該半導体レーザに帰還光として入力し、
前記半導体レーザの光発振周波数が変動するときに、前記光フィルタが、前記光発振周波数の変動に伴い、前記帰還光の強度を変動させ、
前記帰還光が、前記光発振周波数の変動と逆方向に前記光発振周波数を変化させ、
前記半導体光増幅器が、前記半導体レーザの出力光と前記帰還光とを増幅する
ことを特徴とする狭線幅レーザ。
【請求項2】
レンズを、前記半導体光増幅器と前記光フィルタとの間に備え、
前記光フィルタが、ファブリペロエタロンである
ことを特徴とする請求項1に記載の狭線幅レーザ。
【請求項3】
前記光フィルタが、入出力光導波路と、前記入出力光導波路に接続するループ導波路と、前記ループ導波路と結合するリング共振器と
を備える請求項1に記載の狭線幅レーザ。
【請求項4】
前記光フィルタにおける前記入出力光導波路と、前記ループ導波路と、前記リング共振器との少なくともいずれかに、前記半導体光増幅器
を備える請求項3に記載の狭線幅レーザ。
【請求項5】
前記光フィルタにおける前記入出力光導波路と、前記ループ導波路との少なくともいずれかに配置される前記半導体光増幅器と、
前記光フィルタにおける前記リング共振器に配置される他の半導体光増幅器と
を備える請求項3に記載の狭線幅レーザ。
【請求項6】
前記半導体レーザと、前記光フィルタとの間に配置される前記半導体光増幅器と、
前記光フィルタにおける前記リング共振器に配置される他の半導体光増幅器と
を備える請求項3に記載の狭線幅レーザ。
【請求項7】
前記光フィルタが、同一基板上に形成される
ことを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の狭線幅レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザのスペクトル線幅を低減する狭線幅レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
狭線幅レーザは、光の位相情報を信号として取り扱い、光通信の伝送容量増大を実現するデジタル光コヒーレントシステムや、飛躍的に精度を向上した光計測システムを実現する上で必要不可欠な装置である。
【0003】
半導体レーザのスペクトル線幅はレーザ共振器の共振特性に大きく依存するために、共振器構造を工夫することでその発振スペクトル線幅を低減する試みがなされてきた。レーザ共振器の長尺化により共振特性を改善して、スペクトル線幅を低減する試みが開示されている(非特許文献1)。しかしながら、共振器が長くなるとレーザを実装する際に素子に歪みが導入されスペクトル線幅が広がる等の問題があった。
【0004】
また、半導体レーザの外部に反射ミラー、回折格子、光ファイバ等を配置して外部共振器を付与した半導体レーザにより共振器長を長尺化し、自身の光に発振光を引き込むことで発振スペクトル線幅を低減する試みが開示されている(例えば、非特許文献2、3)。しかしながら、本手法ではスペクトル線幅の低減はできる一方、共振器内の光の往復時間に関連した周波数領域に周波数雑音が発生するので、システムへの応用において問題となっていた。
【0005】
さらに、半導体光増幅媒体として半導体光増幅器を用いて、共振器として外部に光フィルタを結合することで狭線幅半導体レーザを実現する試みが開示されている(例えば、非特許文献4)。しかしながら、本手法ではレーザの共振器長を長尺化するので、光源(レーザ)が大きくなり小型化が困難であった。このように、半導体レーザの発振スペクトル線幅と光源サイズにはトレードオフの関係があった。
【0006】
狭線幅半導体レーザの小型化を実現する技術として、光負帰還法が開発されその有効性が実証されてきた(非特許文献5、6)。本技術では、単一モード半導体レーザと光フィルタのみで狭線幅半導体レーザを構成することができるので、狭線幅化と光源の小型化とを実現できる。基本原理は、光フィルタで半導体レーザの周波数揺らぎを光電界振幅変動に変換して、その光を半導体レーザへ帰還することで周波数変調を誘起し、逆方向へ発振周波数を変調して負帰還動作を実現するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】H. Ishii, K. Kasaya, and H. Oohashi, "Narrow spectral linewidth operation (<160 kHz) in widely tunable distributed feedback laser array," Electron. Lett. 46(10), 714-715 (2010).
【文献】S. Saito, O. Nilsson and Y. Yamamoto, "Oscillation center frequency tuning, quantum FM noise, and direct frequency modulation characteristics in external grating loaded semiconductor lasers," IEEE J. Quantum Electronics, vol. QE-18, no. 6, pp. 961-970, June 1982.
【文献】M. F. Ferreira, J. F. Rocha, and J. L. Pinto, "Noise and modulation performance of Fabry-Perot and DFB semiconductor lasers with arbitrary external optical feedback, " IEE Proceedings, vol.137, Pt. J, No. 6, pp. 361-369, 1990.
【文献】T. Kita, R. Tang, and H. Yamada, "Narrow Spectral Linewidth Silicon Photonic Wavelength Tunable Laser Diode for Digital Coherent Communication System, " IEEE J. Sel. Top. Quantum Electron., vol. 22, No. 6, 1500612, 2016.
【文献】K. Aoyama, N. Yokota, and H. Yasaka, "3-kHz Spectral Linewidth Laser Assembly with Coherent Optical Negative Feedback, "IEEE Photonics Technology Letters, vol. 30, No. 3, pp. 277-280, 2018. (Feb.) / DOI 10.1109/LPT.2017.2783365
【文献】S. Sato, G. Aizawa, N. Yokota, and H. Yasaka, "Performance Improvement of Optical Negative Feedback Laser by Reducing Feedback Loop Length, " IEICE Electronics Express, vol. 17, No. 4, 20190750, 2020. (Feb.) / DOI 10.1587/elex.17.20190750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発振スペクトル線幅を最大限に狭窄化するには、単一モード半導体レーザと光フィルタの結合効率を向上する必要がある。
【0009】
また、光フィルタでの発振光周波数変動から帰還光電界振幅変動への変換において、周波数弁別効率を向上するために多重干渉効果を導入するが、光フィルタを形成する材料の伝搬損失により周波数弁別効率が低下する。そこで、光フィルタの周波数弁別機能を向上することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る狭線幅レーザは、半導体レーザと、半導体光増幅器と、光フィルタとを備え、前記半導体レーザの出力光が、前記半導体光増幅器と前記光フィルタとを介して、当該半導体レーザに帰還光として入力し、前記半導体レーザの光発振周波数が変動するときに、前記フィルタが、前記光発振周波数の変動に伴い、前記帰還光の強度を変動させ、前記帰還光が、前記光発振周波数の変動と逆方向に前記光発振周波数を変化させ、前記半導体光増幅器が、前記半導体レーザの出力光と前記帰還光とを増幅することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、半導体レーザのスペクトル線幅を低減する小型の狭線幅レーザを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る狭線幅レーザの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る狭線幅レーザの効果を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る狭線幅レーザの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る狭線幅レーザの効果を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る狭線幅レーザの構成を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る狭線幅レーザの効果を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る狭線幅レーザの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る狭線幅レーザについて、
図1、
図2を参照して説明する。
【0014】
<狭線幅レーザの構成>
本実施の形態に係る狭線幅レーザ10は、
図1に示すように、半導体レーザ1と、第1のレンズ2_1と、第2のレンズ2_2と、光フィルタ3と、半導体光増幅器4とを備える。
【0015】
狭線幅レーザ10において、半導体レーザ1と、第2のレンズ2_2と、半導体光増幅器4と、第1のレンズ2_1と、光フィルタ3とが、順に配置される。
【0016】
半導体レーザ1の出力光が、第2のレンズ2_2を介して、半導体光増幅器4で増幅され、第1のレンズ2_1を介して、光フィルタ3に入力する。光フィルタ3の出力光(反射光)は、第1のレンズ2_1を介して、半導体光増幅器4で増幅され、第2のレンズ2_2を介して、半導体レーザ1に帰還する(入力する)。
【0017】
半導体レーザ1は、共振器長が350μmの分布帰還型(Distributed Feedback、DFB)単一モード半導体レーザである。
【0018】
光フィルタ3は、厚さ4mmの光学ガラス製ファブリペロエタロンである。光フィルタ3は、対向する端面に反射膜を有し、反射膜の間隔と光の波長で決まる光周波数間隔に応じて、透過光強度や反射光強度を周期的に変化させる。
【0019】
半導体光増幅器4は、素子長150μmの半導体光増幅器である。
【0020】
<狭線幅レーザの動作>
本実施の形態に係る狭線幅レーザ10の動作を説明する。
【0021】
まず、狭線幅レーザ10の動作における負帰還作用を説明する。例えば、狭線幅レーザ10における光フィルタ3の動作点が、半導体レーザ1の光発振周波数が増加に伴い、反射光の強度が増加するように設定される。この設定において、半導体レーザ1の光発振周波数が増加し、光フィルタ3に入力する光の光発振周波数が増加すると、反射光の強度が増加する。
【0022】
このように、半導体レーザ1に帰還する光(反射光)の強度が増加し、半導体利得媒質中の光が誘導放出により増幅される。このとき、半導体レーザ1の半導体利得媒質中のキャリア(電子、正孔)が消費され、キャリア密度が減少する。
【0023】
その結果、キャリア・プラズマ効果により、半導体利得媒質の屈折率が増加し、半導体レーザ1の光共振器の光学的実効長が増加するので、発振波長が増加し、光発振周波数は減少する。このように、半導体レーザ1の光発振周波数の変動(増加)に対して、逆の変化(減少)が生じる。すなわち、光発振周波数の変動(増加)が抑制される。
【0024】
ここで、半導体レーザ1の出力光は、半導体光増幅器4で増幅され光フィルタ3に入力する。そこで、入力光の強度の増加により、光フィルタ3の反射光の強度は増加する。
【0025】
また、光フィルタ3から半導体レーザ1に帰還する光(帰還光)は半導体光増幅器4により増幅される。
【0026】
このように、半導体光増幅器4により、半導体レーザ1と光フィルタ3との間の結合損失は補償され、結合効率は向上する。
【0027】
その結果、従来の狭線幅レーザに比べて、キャリア・プラズマ効果により半導体レーザ1の光発振周波数の変動(例えば、増加)に対して生じる逆の変化(例えば、減少)が増加する。したがって、従来の狭線幅レーザより効果的に光発振周波数の変動(増加)を抑制できる。
【0028】
一方、半導体レーザ1の光発振周波数が減少する場合には、上述と逆の作用により、光発振周波数が増加し、従来の狭線幅レーザより効果的に光発振周波数の変動(減少)が抑制される。
【0029】
このように、光フィルタから半導体光増幅器を介して帰還する光が、半導体レーザにおける光発振周波数の変動と逆方向にこの光発振周波数を変化させる。
【0030】
以上のように、半導体レーザ1の光発振周波数が変動する場合に、光フィルタ3からの反射光による光の負帰還作用が生じ、光発振周波数の変動がより効果的に抑制される。したがって、半導体レーザ1のスペクトルをより効果的に狭線幅化できる。
【0031】
<狭線幅レーザの効果>
図2に、狭線幅レーザ10の発振スペクトル線幅の半導体光増幅器4へのバイアス電流依存性を示す。
【0032】
比較として、半導体レーザ1の単体での発振スペクトル線幅は10MHzである。また、半導体レーザとレンズと光フィルタからなる従来構造(半導体増幅器を有さない構造)における発振スペクトル線幅は3kHzである。
【0033】
図2より、狭線幅レーザ10において、バイアス電流が0mAのとき、発振スペクトル線幅は10MHzである。このとき、光が半導体光増幅器4を透過しないので、半導体レーザ1の単体での発振スペクトル線幅に相当する。
【0034】
バイアス電流を6mA以上に増加するとスペクトル線幅が減少し、バイアス電流を13mAとしたときに500Hz以下に低減できる。
【0035】
ここで、半導体レーザ1とファブリペロエタロン3との光学的な結合効率は、従来構造において0.4程度であり、狭線幅レーザ10において1以上に増加される。
【0036】
このように、本実施の形態に係る狭線幅レーザによれば、半導体レーザと光フィルタとの光学的な結合を向上でき、半導体レーザのスペクトルをより効果的に狭線幅化できる。
【0037】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係る狭線幅レーザについて、
図3、
図4を参照して説明する。
【0038】
<狭線幅レーザの構成>
本実施の形態に係る狭線幅レーザ20は、
図3に示すように、半導体レーザ1と、第1のレンズ2_1と、光フィルタ3と、半導体光増幅器4とを備える。
【0039】
狭線幅レーザ20において、半導体レーザ1と半導体光増幅器4とがモノリシック集積され、第1のレンズ2_1と、光フィルタ3とが、順に配置される。
【0040】
このように、狭線幅レーザ20は、第1の実施の形態と、半導体レーザ1と半導体光増幅器4とがモノリシック集積され、第2のレンズ2_2を備えない点で異なり、他の点で略同様である。
【0041】
また、本実施の形態に係る狭線幅レーザ20は、第1の実施の形態と同様に動作する。
【0042】
<狭線幅レーザの効果>
図4に、狭線幅レーザ20の発振スペクトル線幅の半導体光増幅器4へのバイアス電流依存性を示す。
【0043】
バイアス電流が0mAのときのスペクトル線幅は10MHzである。バイアス電流を2mA以上に増加するとスペクトル線幅が減少し、バイアス電流を9mAとしたときに500Hz程度に低減できる。
【0044】
このように、本実施の形態に係る狭線幅レーザによれば、半導体レーザと光フィルタとの光学的な結合を向上でき、半導体レーザのスペクトルをより効果的に狭線幅化できる。
【0045】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態に係る狭線幅レーザについて、
図5、
図6を参照して説明する。
【0046】
<狭線幅レーザの構成>
本実施の形態に係る狭線幅レーザ30は、
図5に示すように、半導体レーザ1と光フィルタ31とを備える。半導体レーザ1と光フィルタ31とが、ハイブリッド集積される。
【0047】
半導体レーザ1は、共振器長350μmの分布帰還型(Distributed Feedback, DFB)単一モード半導体レーザである。
【0048】
光フィルタ31は、入出力光導波路32と、ループ導波路33と、ループ導波路33と結合するリング共振器34と、第1の半導体光増幅器4_1と、第2の半導体光増幅器4_2とを備える。
【0049】
光フィルタ31には、例えばSiコアとSiO2クラッドからなるSi導波路を用いる。Si導波路はコアとクラッドの屈折率差が大きいため急峻な曲げを可能とし、小型、高集積に適している。光フィルタ31に用いる導波路構造の幅は400nmであり、導波路コアの層厚は220nmである。
【0050】
光フィルタ31におけるループ導波路33は、半導体レーザ1から入射した光が、リング共振器34と結合して、半導体レーザ1に帰還する構成であればよく、その構成の上面形状が角が湾曲する多角形でもよい。または、上面形状は円や楕円でもよい。ループ導波路33は、上面形状が円形であれば、半径が20μm程度の大きさである。
【0051】
光フィルタ31におけるリング共振器34は、ループ導波路33から結合して入射した光が周回する構造であればよく、
図5に示すように、上面形状が円形でもよい。または、上面形状は楕円や多角形でもよい。リング共振器34は、上面形状が円形であれば、半径が210μm程度の大きさである。
【0052】
ループ導波路33とリング共振器34との間の空隙は、50μmであり、光結合できる長さであればよい。
【0053】
半導体レーザ1と光フィルタ31はバットカップリング(突合結合)される。
【0054】
第1の半導体光増幅器4_1が、光フィルタ31の特性を向上させるために、リング共振器34に集積される(後述)。第1の半導体光増幅器4_1の素子長は100μmである。
【0055】
また、第2の半導体光増幅器4_2は、このバットカップリングによる結合損失を補償するために、入出力光導波路32に集積される。第2の半導体光増幅器4_2の素子長は100μmである。
【0056】
半導体レーザ1から光フィルタ31に入力した光は、Siリング光導波路11へ結合し、多重干渉した後に再度Si入出力光導波路12へ結合して単一モード半導体レーザ1へ帰還される。
【0057】
本実施の形態に係る狭線幅レーザ30の動作原理は、第1の実施の形態と同様である。
【0058】
例えば、半導体レーザ1の発振周波数が増加する場合は、リング共振器34によって振幅の増加に変化し、帰還光(反射光)の振幅を増加させる。帰還光(反射光)が増加すると、半導体レーザ1のキャリア密度が減少するので、キャリア・プラズマ効果により、光発振周波数は減少し、光発振周波数の変動(増加)が抑制される。
【0059】
ここで、第1の半導体光増幅器4_1により、リング共振器34における伝搬損失を低減して光フィルタ31の特性を向上させて、帰還光の電界振幅を増加できる。
【0060】
また、第2の半導体光増幅器4_2により、半導体レーザ1と光フィルタ31との結合効率が向上する。その結果、半導体レーザ1への帰還光が増幅される。
【0061】
このように、半導体レーザ1の光発振周波数が変動する場合に、光フィルタ31からの反射光による光の負帰還作用が生じ、光発振周波数の変動がより効果的に抑制される。したがって、半導体レーザ1のスペクトルをより効果的に狭線幅化できる。
【0062】
<狭線幅レーザの効果>
図6に、狭線幅レーザ30における光フィルタ31の周波数弁別特性の伝搬損失量依存性を示す。ここで、周波数弁別特性は、光周波数変化によって電界反射係数(帰還光電界振幅)が変化する特性である。また、フリースペクトルレンジ(free spectral range:FSR)は50GHzである。
【0063】
周波数弁別効率は、伝搬損失量の増加に伴い減少する。したがって、リング光導波路11の伝搬損失を低減することにより、周波数弁別効率を増加でき、すなわち帰還光の電界振幅を増加できるので、発振スペクトル線幅を低減できる。
【0064】
第1の半導体光増幅器4_1をリング共振器34内に配置することにより、この伝搬損失を補償できる。ここで、半導体光増幅器を有さないリング共振器34に結合した光は、Siリング光導波路内で多重干渉するが、導波路伝搬損失により減衰し、フィルタ特性が劣化する。ここで、光導波路の伝搬損失は0.83[1/cm]程度である。一方、第1の半導体光増幅器4_1を有するリング共振器34の伝搬損失は、0.05[1/cm]である。
【0065】
図6より、第1の半導体光増幅器4_1により伝搬損失を0.83[1/cm]から0.05[1/cm]に低減することにより、周波数弁別効率が0.2[1/GHz]から3.8[1/GHz]まで16倍程度に増加できる。
【0066】
このように、第1の半導体光増幅器4_1により、リング共振器34における伝搬損失を低減して光フィルタ31の特性を向上できる。
【0067】
その結果、この第1の半導体光増幅器4_1による光フィルタ31の特性の向上に加えて、第2の半導体光増幅器4_2による半導体レーザ1と光フィルタ31との結合効率の向上により、半導体レーザ1の発振スペクトル線幅を低減できる。従来の構成の半導体レーザ(単一モード半導体レーザ1単体)の発振スペクトル線幅10MHzである。一方、狭線幅レーザ30によれば、発振スペクトル線幅を1kHzに低減できる。
【0068】
本実施の形態に係る狭線幅レーザによれば、半導体レーザのスペクトルをより効果的に狭線幅化できるとともに、第1の実施の形態および第2の実施の形態による狭線幅レーザに比べて素子を小型化できる。
【0069】
本実施の形態では、第2の半導体光増幅器を入出力光導波路に配置する例を示したが、第2の半導体光増幅器をループ導波路に配置してもよい。
【0070】
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態に係る狭線幅レーザについて、
図7を参照して説明する。
【0071】
<狭線幅レーザの構成>
本実施の形態に係る狭線幅レーザ40は、
図7に示すように、半導体レーザ1と半導体光増幅器4と光フィルタ41とを備える。半導体レーザ1と半導体光増幅器4と光フィルタ41とが、ハイブリッド集積される。
【0072】
半導体レーザ1は、共振器長350μmの分布帰還型(Distributed Feedback, DFB)単一モード半導体レーザである。
【0073】
光フィルタ41は、入出力光導波路32と、ループ導波路33と、ループ導波路33と結合するリング共振器34と、第1の半導体光増幅器4_1とを備える。光フィルタ41は、第3の実施の形態と、第2の半導体光増幅器4_2を備えない点が異なり、他の構成は同様である。
【0074】
本実施の形態に係る狭線幅レーザ40の動作原理は、第3の実施の形態と略同様である。
【0075】
また、狭線幅レーザ40において、第3の実施の形態における第2の半導体光増幅器4_2に代えて、半導体光増幅器4を配置することにより、第3の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0076】
本実施の形態に係る狭線幅レーザによれば、半導体レーザのスペクトルをより効果的に狭線幅化できるとともに、第1の実施の形態および第2の実施の形態による狭線幅レーザに比べて素子を小型化できる。
【0077】
第3および第4の実施の形態では、第1の半導体光増幅器と、第2の半導体光増幅器とを用いる例を示したが、第1の半導体光増幅器と第2の半導体光増幅器とのいずれか一方を用いても半導体レーザの光発振周波数の変動を抑制でき、半導体レーザのスペクトルを効果的に狭線幅化できる。
【0078】
また、複数の半導体光増幅器を、光フィルタにおける入出力光導波路と、ループ導波路と、リング共振器との少なくともいずれかに配置してもよい。
【0079】
第3および第4の実施の形態では光導波路を構成する材料をSiとしたが、SiN、あるいはInPやGaAs等の半導体材料を用いることで構成できることは自明である。また、光導波路を構成する材料としてInPを用い、InP系化合物半導体を材料とする単一モード半導体レーザとモノリシック集積した光源構成でも本光源が実現できることも自明である。
【0080】
第3および第4の実施の形態では、光フィルタにおける入出力光導波路と、ループ導波路と、リング共振器と、半導体光増幅器がSiを基板として同一基板上に集積される例を示したが、基板はSiに限らず、InPやGaAs等の半導体基板やガラス基板でもよい。InP基板を用いれば、上述の光フィルタの構成を同一基板上にモノリシック集積でき、半導体レーザもモノリシック集積できる。
【0081】
本発明の実施の形態では、半導体レーザに分布帰還型(Distributed Feedback, DFB)レーザを用いる例を示したが、これに限らず、分布反射型(Distributed Bragg Reflector: DBR )レーザなどを用いてもよく、単一モード半導体レーザであればよい。また、材料にはInP系化合物半導体を用いることができ、発振波長に応じて、InP系、GaN系化合物半導体などの他の材料を用いてもよい。
【0082】
本発明の実施の形態では、半導体光増幅器の材料にInP系化合物半導体を用いることができ、発振波長に応じて、InP系、GaN系化合物半導体などの他の材料を用いてもよい。また、希土類ドープされたSiを用いることもできる。
【0083】
本発明の実施の形態では、狭線幅レーザの構成などにおいて、各構成部の構造、寸法、材料等の一例を示したが、これに限らない。狭線幅レーザの機能を発揮し効果を奏するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、光通信システム、デジタル光コヒーレントシステムや、光計測システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 半導体レーザ
2_1、2_2 レンズ
3 光フィルタ
4 半導体光増幅器
10 狭線幅レーザ