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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】抗菌剤及び抗菌用皮膚化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20240509BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240509BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K8/49
A61P17/00 101
A61P31/04
A61Q17/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019180356
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054758
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】三好 省三
(72)【発明者】
【氏名】新穂 大介
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-045121(JP,A)
【文献】International Journal of Current Microbiology and Applied Sciences,2015年,Vol.4, No.5,p.473-484
【文献】Journal of Natural Products,2015年,Vol.78,p.850-863
【文献】Natural Product Communications,2007年,Vol.2, No.4,p.385-389
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P,A61Q
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを有効成分とすることを特徴とする抗菌剤
(ただし以下の抽出物を有効成分とする抗菌剤を除く:
甘草の根または根茎をメタノール、酢酸エチルまたは塩化メチレンで抽出した抽出液をろ過し、得られたろ液を減圧下で濃縮および乾燥を行って得られる抽出物および
グリチルリーザ・グラブラの葉または根を70%エタノールで抽出した抽出液をろ過し、得られたろ液を風乾してエタノールを揮発させ、濃縮した抽出液を石油エーテル抽出してクロロフィルを除去し、回収した水層を乾燥空気流で濃縮して得られる抽出)。
【請求項2】
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを配合したことを特徴とする抗菌用皮膚化粧料
(ただし以下の抽出物を配合した抗菌用皮膚化粧料を除く:
甘草の根または根茎をメタノール、酢酸エチルまたは塩化メチレンで抽出した抽出液をろ過し、得られたろ液を減圧下で濃縮および乾燥を行って得られる抽出物および
グリチルリーザ・グラブラの葉または根を70%エタノールで抽出した抽出液をろ過し、得られたろ液を風乾してエタノールを揮発させ、濃縮した抽出液を石油エーテル抽出してクロロフィルを除去し、回収した水層を乾燥空気流で濃縮して得られる抽出)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤及び抗菌用皮膚化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の腸内や皮膚には細菌(bacteria)が豊富かつ多様に生息しており、互いにバランスを保つことによって恒常性を維持している。例えば皮膚には、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus)、ミクロコッカス属菌(Micrococcus)、コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium)、プロピオニバクテリウム属菌(Propionibacterium)及びペプトコッカス属菌(Peptococcus)等が見られる(非特許文献1)。
【0003】
細菌叢のバランスが崩れると、様々な疾患を引き起こすことが知られている。例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus:以下、黄色ブドウ球菌)はアトピー皮膚炎を悪化させると考えられている。黄色ブドウ球菌やスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis:以下、表皮ブドウ球菌)等は、慢性膿皮症の原因菌となり得る(非特許文献2)。ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)は、腫瘍、肺炎、関節炎、髄膜炎等の他、体臭等の原因菌であり、コリネバクテリウム・ゼローシス(Corynebacterium xerosis)は、皮膚の創感染症、肺炎等の呼吸器感染症、心内膜炎等の他、体臭等の原因菌であることが知られている。
【0004】
病原性が強い黄色ブドウ球菌は様々な蛋白毒素を産生することが知られている。例えば、黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥奪毒素は血流を介して全身皮膚に作用し、デスモソーム構成蛋白であるデスモグレイン1を切断して表皮内水疱を生じる。また、トキシックショック症候群毒素はTリンパ球にはたらき強い炎症を引き起こし、突発性発熱、血圧低下、猩紅熱様紅斑及び多臓器障害を特徴とする全身性中毒性疾患を引き起こす(非特許文献2)。さらに、黄色ブドウ球菌が食品中で増殖する際に産生されるエンテロトキシンは、嘔吐毒を主徴とする食中毒を引き起こすことが知られている(非特許文献3)。
【0005】
このような疾患の予防、治療及び改善には原因菌の増殖を抑制する必要がある。特許文献1には、水酸化フラーレンを有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤が記載されている。特許文献2には、グリセリルアスコルビン酸誘導体又はその塩からなる抗菌剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-179615号公報
【文献】特開2015-3894号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Trends Microbiol.2013 December;21(12): p.660-668
【文献】清水宏著「あたらしい皮膚科学:第3版」中山書店出版,2018年2月15日,p.514-531
【文献】食品衛生,51巻4号,2005年,p.81-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抗菌剤及び抗菌用皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の抗菌剤は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを有効成分とすることを特徴とする。また、本発明の抗菌用皮膚化粧料は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを有効成分とすることにより、作用効果に優れた抗菌剤を提供することができる。さらに、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを配合することにより、上記作用に優れた抗菌用皮膚化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の抗菌剤は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを有効成分とするものである。また、本実施形態の抗菌用皮膚化粧料は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを配合したものある。
【0012】
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール(6-prenyl-3’-O-methyleriodyctiol)は、下記式で表される化学構造を有する化合物である。
【0013】
【化1】
【0014】
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールは、合成により製造してもよく、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造してもよい。6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する植物としては、例えば、カンゾウ等が挙げられる。
【0015】
カンゾウは、マメ科カンゾウ属(Glycyrrhiza)に属する多年生草本であり、古代より薬用又は甘味料の原料として利用されている有用植物である。抽出原料として使用するカンゾウの種類は特に限定されるものではなく、例えば、グリチルリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza glabra)、グリチルリーザ・インフラータ(Glycyrrhiza inflata)、グリチルリーザ・ウラレンシス(Glycyrrhiza uralensis)、グリチルリーザ・アスペラ(Glycyrrhiza aspera)、グリチルリーザ・ユーリカルパ(Glycyrrhiza eurycarpa)、グリチルリーザ・パリディフロラ(Glycyrrhiza pallidiflora)、グリチルリーザ・ユンナネンシス(Glycyrrhiza yunnanensis)、グリチルリーザ・レピドタ(Glycyrrhiza lepidota)、グリチルリーザ・エキナタ(Glycyrrhiza echinata)、グリチルリーザ・アカンソカルパ(Glycyrrhiza acanthocarpa)等、様々な種類のものがあり、これらのうち、いずれの種類のカンゾウを抽出原料として使用してもよいが、特にグリチルリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza glabra)、及びグリチルリーザ・インフラータ(Glycyrrhiza inflata)を抽出原料として使用することが好ましい。
【0016】
抽出原料として使用し得るカンゾウの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、茎部等の地上部、又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部及び/又は枝部である。
【0017】
上記植物から6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを抽出・単離・精製する方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出処理は、抽出原料としての上記植物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供すればよい。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0018】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0020】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。これらの中でも低級脂肪族アルコールが好ましく、中でもエタノールが好ましい。
【0021】
親水性有機溶媒または水と親水性有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、親水性有機溶媒の比率は、下限値として40容量%以上が好ましく、特に50容量%以上が好ましく、さらには60容量%以上が好ましい。「有機溶媒」には、水が含まれていないものが含まれる。また、親水性有機溶媒の比率は、90容量%以下であってもよく、80容量%以下であってもよい。
【0022】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
あるいは、抽出液を得た後、有機溶媒の比率を下げる、すなわち水の比率を上げることで析出物を生じさせ、その析出物を回収することで6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含む濃縮物を得ることもできる。有機溶媒の比率を下げる方法としては、例えば有機溶媒を揮発させる、加水する等が挙げられる。下げた後の有機溶媒の比率は、例えば、40容量%未満とすることができ、さらには30容量%未満とすることができる。言い換えれば、水の比率を60容量%超とすることができ、さらには70%容量超とすることができる。生じた析出物を回収する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、濾過又は遠心分離等により析出物を回収する方法が挙げられる。
【0023】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物、当該抽出液の乾燥物又は析出物から6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を展開溶媒に溶解し、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含む画分を回収する方法等が挙げられる。この場合、展開溶媒は使用する固定相に応じて適宜選択すればよいが、例えば固定相としてスチレン-ジビニルベンゼン共重合体を用いたカラムクロマトグラフィーにより抽出物を分離する場合、展開溶媒としては水、メタノール及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られた6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含む画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液-液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0024】
[抗菌剤]
以上のようにして得られる6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールは、優れた抗菌作用を有しているため、抗菌剤の有効成分として用いることができる。本実施形態の抗菌剤は、医薬品、医薬部外品、飲食品等の幅広い用途に使用することができる。
【0025】
なお、本実施形態に係る抗菌剤の有効成分として、単離した6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールに替えて、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する組成物を用いてもよい。ここで、本実施形態における「6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する組成物」には、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する植物を抽出原料として得られる抽出物等が含まれる。また、「抽出物」には、抽出処理により得られる抽出液、当該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又は上記方法による析出物が含まれる。
【0026】
本実施形態に係る抗菌剤の有効成分として、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する組成物を用いる場合は、組成物中に6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールの純度を高めたものを有効成分として使用することによって、より一層作用効果に優れた抗菌剤を得ることができる。
【0027】
本実施形態の抗菌剤は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール又は6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する組成物のみからなるものでもよいし、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール又は6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する組成物を製剤化したものでもよい。
【0028】
本実施形態の抗菌剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。本実施形態の抗菌剤は、他の組成物に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0029】
本実施形態の抗菌剤を製剤化した場合、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール又は6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する組成物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0030】
なお、本実施形態の抗菌剤は、必要に応じて、抗菌作用を有する他の天然抽出物等を、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール又は6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールを含有する組成物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0031】
本実施形態の抗菌剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防又は治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態の抗菌剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0032】
本実施形態の抗菌剤は、適用対象菌の種類を問わず用いることができる。適用対象菌としてはグラム陽性菌が好ましく、例えば、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、エンテロコッカス属菌(Enterococcus)、レンサ球菌属菌(Streptococcus:例えば双球菌、4連、8連球菌等、肺炎球菌、溶血連鎖球菌)、バシラス属菌(Bacillus:例えば炭疽菌、枯草菌)、クロストリジウム属菌(Clostridium:例えば破傷風菌、ボツリヌス菌)、ミクロコッカス属菌(Micrococcus:例えばミクロコッカス・ルテウス)、コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium:例えばコリネバクテリウム・ゼローシス、ジフテリア菌)、プロピオニバクテリウム属菌(Propionibacterium:例えばアクネ菌)等が挙げられる。これらの中でも、より効果的に本実施形態の抗菌作用を発揮することができるという観点から、スタフィロコッカス属菌、ミクロコッカス属菌及びコリネバクテリウム属菌が特に好ましい。
【0033】
本実施形態の抗菌剤は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが有する抗菌作用を通じて、例えばスタフィロコッカス属菌を原因菌とする疾患(例えば、黄色ブドウ球菌を原因菌とするアトピー皮膚炎、水疱、全身性中毒疾患、食中毒等;表皮ブドウ球菌を原因菌とする慢性膿皮症等)、ミクロコッカス属菌を原因とする疾患(例えば、マイクロコッカス・ルテウスを原因菌とする腫瘍、肺炎、関節炎、髄膜炎等)及びコリネバクテリウム属菌を原因菌とする疾患(例えば、コリネバクテリウム・ゼローシスを原因菌とする皮膚の創感染症、肺炎等の呼吸器感染症、心内膜炎等)を予防、治療又は改善することができる。本実施形態の抗菌剤は、これらの用途以外にも6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが有する抗菌作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0034】
また、ミクロコッカス属菌及びコリネバクテリウム属菌は、人の体臭の発生に関連する細菌であることが知られているため、本実施形態の抗菌剤は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが有する抗菌作用を通じて、体臭を予防又は改善することができる。
【0035】
本実施形態の抗菌剤は、優れた抗菌作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0036】
[抗菌用皮膚化粧料]
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールは、優れた抗菌作用を有しているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。この場合、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールをそのまま配合してもよいし、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールから製剤化した抗菌剤を配合してもよい。
【0037】
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール又は6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールから製剤化した抗菌剤を皮膚化粧料に配合することにより、抗菌用途に好適な皮膚化粧料とすることができる。上記作用は、皮膚化粧料に付与されることで作用効果が発揮されやすいため、好適である。
【0038】
上記抗菌剤を配合し得る皮膚化粧料の種類は特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション等が挙げられる。
【0039】
上記抗菌剤を皮膚化粧料に配合する場合、その配合量は皮膚化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、約0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001~1質量%である。
【0040】
本実施形態の皮膚化粧料は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが有する抗菌作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0041】
本実施形態の抗菌用皮膚化粧料は、適用対象菌の種類を問わず用いることができる。適用対象菌としてはグラム陽性菌が好ましく、これらの中でも皮膚常在菌がさらに好ましい。例えば、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス属菌(Micrococcus:例えばミクロコッカス・ルテウス)、コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium:例えばコリネバクテリウム・ゼローシス、ジフテリア菌)及びプロピオニバクテリウム属菌(Propionibacterium:例えばアクネ菌)等が挙げられる。より効果的に本実施形態の抗菌作用を発揮することができるという観点から、スタフィロコッカス属菌、ミクロコッカス属菌及びコリネバクテリウム属菌が特に好ましい。
【0042】
本実施形態の抗菌用皮膚化粧料は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが有する抗菌作用を通じて、例えばスタフィロコッカス属菌を原因菌とする疾患(例えば、黄色ブドウ球菌を原因菌とするアトピー皮膚炎、水疱等;表皮ブドウ球菌を原因菌とする慢性膿皮症等)、ミクロコッカス属菌を原因とする疾患(例えば、ミクロコッカス・ルテウスを原因菌とする腫瘍、関節炎、髄膜炎等)及びコリネバクテリウム属菌を原因菌とする疾患(例えば、コリネバクテリウム・ゼローシスを原因菌とする皮膚の創感染症等)を予防、治療又は改善することができる。本実施形態の抗菌用皮膚化粧料は、これらの用途以外にも6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが有する抗菌作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0043】
また、ミクロコッカス属菌及びコリネバクテリウム属菌は、人の体臭の発生に関連する細菌であることが知られているため、本実施形態の抗菌用皮膚化粧料は、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが有する抗菌作用を通じて、体臭を予防又は改善することができる。
【0044】
なお本実施形態の抗菌剤及び抗菌用皮膚化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例
【0045】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0046】
〔製造例1〕6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールの製造
カンゾウ葉部の乾燥物500gに70容量%エタノール5Lを加え、4時間還流抽出し、熱時濾過した。濾過して得られた抽出液を溶媒留去し、さらに凍結乾燥を行うことにより、カンゾウ葉部70%エタノール抽出物(91.8g,原料からの収率:18.4%)を得た。
【0047】
得られたカンゾウ葉部70%エタノール抽出物89.4gを水500mLに溶解し、多孔性樹脂(三菱化学社製,Diaion HP-20,1000mL)上に付し、水5L、30%メタノール5L、80%メタノール5L、メタノール5L、アセトン5Lの順で溶出させ、メタノールで溶出させた画分から溶媒を留去し、メタノール溶出部14.5gを得た。このメタノール溶出部14.5gを、下記条件1にてカラムクロマトグラフィーに付し、保持時間15分~18分に溶出する画分(0.62g)を得た。得られた画分を、HPLCを用いて下記条件2にて精製を行った。
【0048】
<カラムクロマトグラフィー条件1>
機器:LC-forte/R YMC社製
カラム:SNAP Ultra C18 60g 25um(バイオタージ社製)
移動相:
0~3分 40%アセトニトリル
3~27分 40%アセトニトリル→80%アセトニトリル
27~30分 80%アセトニトリル
流速:30mL/min
検出:RI UV(280nm)
サンプル濃度:100mg/mL
注入量:5mL
【0049】
<液体クロマトグラフィー条件2>
機器:LC-forte/R YMC社製
カラム:Develosil RPAQUEOUS-AR-5(20mm×250mm)(野村化学社製)
移動相:80%メタノール(0.1%TFA)
流速:15mL/min
検出:RI UV(280nm)
サンプル濃度:10mg/mL
注入量:1mL
【0050】
上記HPLCにより、精製物を得た(試料1,4.9mg)。得られた精製物について、質量分析、1H-NMR分析、13C-NMRを行い、得られた値を文献値と比較した。
【0051】
試料1
<マススペクトル>
m/z:371(M+H)
m/z:369(M-H)
1H-NMR(400MHz, Acetone-d6)δ>
1.60(6H, s, 4”-H, 5”-H), 2.75(1H, dd, J=2.8, 16.8 Hz, 3-H), 3.16(1H, dd, J=12.8, 17.2 Hz, 3-H), 3.22(2H, d, J=7.2 Hz, 1”-H), 5.21(1H, dd, J=1.2, 7.2 Hz, 2”-H), 5.44(1H, dd, J=3.2, 12.8 Hz, 2-H), 6.02(1H, s, 8-H), 6.87(1H, d, J=8 Hz, 5’-H), 7.01(1H, dd, J=2.0, 8.2 Hz, 6’-H), 7.20(1H, d, J=2.0 Hz, 2’-H)
13C-NMR(100MHz, Acetone-d6)δ
17.9(C-5”), 22.2(C-1”), 25.9(C-4”), 43.6(C-3), (C-6), 56.2(C-OMe), 79.9(C-2), 96.3(C-8), 103.2(C-10), 108.2(C-6), 110.9(C-2’), 115.6(C-5’), 120.2(C-6’), 123.6(C-2”), 131.2(C-3”), 131.6(C-1’), 147.7(C-3’), 148.4(C-4’), 161.0(C-9), 162.9(C-5), 164.9(C-7), 197.5(C-4)
【0052】
以上の分析結果を文献値(Zuzana Hanakova et al., JOURNAL OF NATURAL PRODUCTS,78(4), 850-863 (2015))と比較した結果、試料1の精製物は、下記式で表される6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールであることが確認された。
【0053】
【化2】
【0054】
〔製造例2〕6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールの濃縮法
カンゾウ葉部の乾燥物500gに70容量%エタノール5Lを加え、4時間還流抽出し、熱時濾過した。濾過して得られた抽出液を減圧濃縮し、25%エタノールにまで濃縮することで析出物を生じさせた。得られた析出物を濾過して回収し、濃縮物を得た(試料2)。得られた濃縮物を70容量%エタノール500mLに再溶解し、下記のHPLC条件にて分析した。なお、比較対照として、製造例1で得られた試料1を同じ条件にて分析した。
【0055】
<液体クロマトグラフィー条件>
機器:ACQUITY UPLC(ウォーターズ社製)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(1.7μm,50mm×2.0mm i.d.)(ウォーターズ社製)
移動相:A)0.1%ギ酸水溶液
B)MeCN
0~0.45分 A:B=80:20
0.45~6.5分 A:B=80:20→30:70
6.5~6.75分 A:B=30:70→0:100
6.75~7分 A:B=0:100→80:20
流速:0.8mL/min
検出:UV(292nm)
サンプル濃度:10mg/mL
注入量:2.0μL
【0056】
得られた試料2には、試料1と同等の保持時間にピークが認められたことから、試料2中にも6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールが存在することが確認された。
【0057】
〔試験例〕抗菌作用試験
製造例にて得られた6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール(試料1)について、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)及びコリネバクテリウム・ゼローシス(C. xerosis)に対する抗菌活性を、寒天培地を用いた寒天培地希釈法における最小発育阻止濃度(MIC,μg/mL)を求めることにより測定した。黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)及びコリネバクテリウム・ゼローシス(C. xerosis)の培養は、Muller-Hinton寒天培地を用いて30℃にて3日間行った。なお、試験菌の生育の有無は肉眼で判定した。
上記試験の結果を表1に示す(抗菌活性が強いほど最小発育阻止濃度(MIC)は小さくなる)。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールは、優れた抗菌作用を有することが確認された。なお、試料2も優れた抗菌作用を有していた。
【0060】
〔配合例1〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール 0.05g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性カンゾウエキス 0.1g
1,3-ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0061】
〔配合例2〕
下記組成に従い、乳液を常法により製造した。
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオール 0.01g
ホホバオイル 4.00g
1,3-ブチレングリコール 3.00g
アルブチン 3.00g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
オリーブオイル 2.00g
スクワラン 2.00g
セタノール 2.00g
モノステアリン酸グリセリル 2.00g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
グリチルレチン酸ステアリル 0.10g
黄杞エキス 0.10g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
イチョウ葉エキス 0.10g
コンキオリン 0.10g
オウバクエキス 0.10g
カミツレエキス 0.10g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0062】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
6-プレニル-3’-O-メチルエリオジクチオールの濃縮物 0.01g
カミツレエキス 0.1g
ニンジンエキス 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3-ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の抗菌剤は、細菌を原因菌とする疾患(例えば、食中毒、慢性膿皮症、腫瘍、皮膚の創感染症及び呼吸器感染症等)及び体臭等の予防、治療又は改善等に大きく貢献することができる。