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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】光干渉回路
(51)【国際特許分類】
   G02F 3/00 20060101AFI20240509BHJP
   G02F 1/225 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G02F3/00
G02F1/225
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020170508
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062479
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103528
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 一男
(72)【発明者】
【氏名】鴻池 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 和浩
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-523932(JP,A)
【文献】特開2020-079980(JP,A)
【文献】特開2007-172000(JP,A)
【文献】特開2014-142425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0299743(US,A1)
【文献】R. TANOMURA et al.,Robust Integrated Optical Unitary Converter Using Multiport Directional Couplers,Journal of Lightwave Technology,2020年,vol. 38, no. 1,pp. 60-66
【文献】R. TANOMURA et al.,“Integrated Reconfigurable 44 Optical Unitary Converter Using Multiport Directional Couplers”,Optical Fiber Communication Conference (OFC) 2019,2019年,pp.1-3,DOI: 10.1364/OFC.2019.TH1E.3
【文献】L. X. WAN et al.,“Determinating Full Parameters of U-Matrix for Reconfigurable Boson Sampling Circuits using Machine Learning”,Conference on Lasers and Electro-Optics,2018年,pp.1-2,DOI: 10.1364/CLEO_AT.2018.JTH2A.18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-3/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光損失及び第1の応答速度を各々有する複数のマッハツェンダー干渉計を含む第1のユニタリ光回路と、
前記第1のユニタリ光回路に直列に接続され、前記第1の光損失より高い第2の光損失及び前記第1の応答速度より速い第2の応答速度を各々有する複数の位相変調器を含む光回路と、
前記回路と直列に接続され、前記第2の光損失より低い第3の光損失及び前記第2の応答速度より遅い第3の応答速度を各々有する複数のマッハツェンダー干渉計を含む第2のユニタリ光回路と、
を有し、
前記第1のユニタリ光回路に含まれるマッハツェンダー干渉計の数及び前記第2のユニタリ光回路に含まれるマッハツェンダー干渉計の数より、前記位相変調器の数が少数である
光干渉回路。
【請求項2】
前記マッハツェンダー干渉計が、熱光学効果に基づくマッハツェンダー干渉計であり、
前記位相変調器が、電気光学効果又はプラズモンに基づく位相変調器である
請求項1記載の光干渉回路。
【請求項3】
前記マッハツェンダー干渉計が、電気光学効果に基づくマッハツェンダー干渉計であり、
前記位相変調器が、プラズモンに基づく位相変調器である
請求項1記載の光干渉回路。
【請求項4】
前記第1及び第2のユニタリ光回路は、
入力Nに対して2入力2出力のマッハツェンダー干渉計をN/2又は(N+1)/2個並べた列を、N列並べて接続することにより構成され、
前記光回路は、前記位相変調器をN個1列に並べて構成される
請求項1乃至3のいずれか1つ記載の光干渉回路。
【請求項5】
前記光回路への設定を切り替えることで、前記第1のユニタリ光回路への入力に対する前記第2のユニタリ光回路からの出力を切り替える制御回路をさらに有する請求項1乃至4のいずれか1つ記載の光干渉回路。
【請求項6】
前記光回路への設定を切り替えることで、前記光干渉回路で実行される第1のユニタリ変換を第2のユニタリ変換へ切り替える制御回路をさらに有する請求項1乃至4のいずれか1つ記載の光干渉回路。
【請求項7】
前記マッハツェンダー干渉計は、出力ポートに位相変調器を備えたマッハツェンダー干渉計であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つ記載の光干渉回路。
【請求項8】
前記第1のユニタリ光回路に含まれる複数のマッハツェンダー干渉計の特性と、前記第2のユニタリ光回路に含まれる複数のマッハツェンダー干渉計の特性とが同一である
請求項1乃至7のいずれか1つ記載の光干渉回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光干渉回路は、位相変調器により干渉状態を制御するものである。位相変調方式として「熱光学(TO(Thermo-Optic))効果」、「電気光学(EO(Electro-Optical))効果」、「プラズモン」(表面プラズモンとも呼ぶ)等の複数の方式があるが、これらは位相変調に対する応答性と光損失にトレードオフの関係が存在する。図1にその概要を示している。TO効果に基づく光干渉回路は、ほぼ無損失であるが、応答速度は低速で例えば70kHz程度(5μs程度)である。EO効果に基づく光干渉回路の光損失は、TO効果に基づく光干渉回路より大きい1dB程度であり、応答速度はTO効果に基づく光干渉回路より高速で例えば120MHz程度(3ns程度)である。さらに、プラズモンに基づく光干渉回路の光損失は、EO効果に基づく光干渉回路より大きい8dB程度であり、応答速度はEO効果に基づく光干渉回路より高速で例えば170GHz程度(6ps程度)である。
【0003】
従来の光干渉回路は、いずれの位相変調方式でも、図2に示すように、各々小さい四角で表されている2入力2出力のマッハツェンダー干渉計(MZI:Mach Zehnder Interferometer)を複数並べて多段で接続することで構成されている。このような光干渉回路のマッハツェンダー干渉計には、TO効果のみに基づいたもの、EO効果のみに基づいたもの、又はプラズモンのみに基づいたものを用いる場合、上記のような光損失及び応答速度を有する光干渉回路しか構成できない。すなわち、光損失と応答性とにトレードオフがあり、低損失且つ高速応答という好ましい光干渉回路を形成することが出来ていない。なお、このような光干渉回路では、図2で太線で示すように、左側の入力ポートから入力された光信号は、1つの経路に沿って右側の1つの出力ポートへ出力される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】K.Suzuki, et al., "Broadband silicon photonics 8*8 switch based on double Mach Zehnder element switches," Optics Express 25 (7), 7538 (2017)
【文献】Y.Shen, et al., "Deep learning with coherent nanophotonic circuits," Nature Photonics 11, 441
【文献】L.Lu, et al., "16*16 non blocking silicon optical switch based on electro optic Mach Zehnder interferometers," Optics Express 24 (9), 9295 (2016)
【文献】C.Hoessbacher, et al., "Plasmonic modulator with >170 GHz bandwidth demonstrated at 100GBd NRZ," Optics Express 25 (3), 1762 (2017)
【文献】W.Clements, et al., "Optimal design for universal multiport interferometers," Optica 3 (12), 1460 (2016)
【文献】T.Nishi, et al., "A polarization-controlled free-space photonic switch based on a PI-LOSS switch," IEEE Photonics Technol. Lett. Vol. 5, No. 9, Pp. 1104-1106, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、一側面として、低損失且つ高速応答を可能とする光干渉回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光干渉回路は、(A)第1の光損失及び第1の応答速度を各々有する複数のマッハツェンダー干渉計を含む第1のユニタリ光回路と、(B)第1のユニタリ光回路に直列に接続され、第1の光損失より高い第2の光損失及び第1の応答速度より速い第2の応答速度を各々有する複数の位相変調器を含む光回路と、(C)回路と直列に接続され、第2の光損失より低い第3の光損失及び第2の応答速度より遅い第3の応答速度を各々有する複数のマッハツェンダー干渉計を含む第2のユニタリ光回路とを有する。そして、第1のユニタリ光回路に含まれるマッハツェンダー干渉計の数及び第2のユニタリ光回路に含まれるマッハツェンダー干渉計の数より、位相変調器の数が少数である。
【発明の効果】
【0007】
一側面によれば、光干渉回路において低損失且つ高速応答が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、複数の位相変調方式の特性を示すための図である。
図2図2は、従来の光干渉回路の構成例を示す図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る光干渉回路の構成例を示す図である。
図4図4は、入力Nが偶数の場合におけるユニタリ光回路の構成例を示す図である。
図5図5は、入力Nが奇数の場合におけるユニタリ光回路の構成例を示す図である。
図6図6は、マッハツェンダー干渉計MZIの構成例を示す図である。
図7図7は、ユニタリ光回路の他の構成例を示す図である。
図8図8は、本発明の実施の形態に係る光干渉回路における光の広がりの例を示す図である。
図9図9は、置換を説明するための図である。
図10図10は、置換を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態に係る光干渉回路は、例えば図3に示すような構成を有する。本光干渉回路は、第1のユニタリ光回路100と、位相変調用の光回路300と、第2のユニタリ光回路200とを直列に接続したものであり、第1のユニタリ光回路100と第2のユニタリ光回路200と光回路300とを制御する制御回路400も設けられる。
【0010】
第1のユニタリ光回路100は、ユニタリ変換を行う光回路であり、図3において小さな四角として示されているマッハツェンダー干渉計MZIを複数含む。本実施の形態では、入力Nが偶数である場合、N/2個のMZIを並べた列をN列設けて光導波路で接続することで形成される。図3では、N=8の例を示している。一方、入力Nが奇数である場合、(N+1)/2個並べた列をN列設けて光導波路で接続することで形成される。
【0011】
より具体的には、Nが偶数である場合についての構成例を図4に示す。すなわち、第i行第j列のマッハツェンダー干渉計MZIを(i,j)(1≦i≦N/2,1≦j≦N-1)としたとき、このMZIの上側の出力ポートを、(i-1,j+1)のMZIの下側の入力ポートに繋ぎ、下側の出力ポートを、(i+1,j+1)のMZIの上側の入力ポートに繋ぐ。但し、iが1のときは、このMZIの上側の出力ポートを、(i,j+1)のMZIの上側の入力ポートに繋ぎ、iがN/2のときは、このMZIの下側の出力ポートを、(i,j+1)のMZIの下側の入力ポートに繋ぐ。なお、図4では最下行であるが、任意の1行について、偶数列のN/2個のMZIは、上側の入力ポートを上側の出力ポートに繋ぎ、下側の入力ポートを下側の出力ポートにつなぐ接続状態である”Bar状態”に常に設定する。
【0012】
一方、Nが奇数である場合についての構成例を図5に示す。すなわち、第i行第j列のマッハツェンダー干渉計MZIを(i,j)(1≦i≦(N+1)/2,1≦j≦N-1)としたとき、このMZIの上側の出力ポートを、(i-1,j+1)の下側の入力ポートに繋ぎ、下側の出力ポートを、(i+1,j+1)のMZIの上側の入力ポートに繋ぐ。但し、iが1のときは、このMZIの上側の出力ポートを、(i,j+1)のMZIの上側の入力ポートに繋ぎ、iが(N+1)/sのときは、このMZIの下側の出力ポートを、(i,j+1)のMZIの下側の入力ポートに繋ぐ。なお、図5では最下行であるが、任意の1行について、そのN個のMZIは、上で述べたような”Bar状態”に常に設定する。
【0013】
第2のユニタリ光回路200についても第1のユニタリ光回路100と同様の構成を有している。一方、位相変調用の光回路300は、N個の位相変調器(Spatial Light Modulator)を含み、N個の位相変調器は、それぞれ前段のMZIの出力ポートと、後段のMZIの入力ポートとに直列に接続される。
【0014】
本実施の形態においては、第1のユニタリ光回路100及び第2のユニタリ光回路200におけるMZIに、熱光学効果に基づくMZIを採用し、光回路300の位相変調器に、熱光学効果よりも高い光損失であるが応答速度が速い位相変調器を採用する。より具体的には、電気光学効果またはプラズモン(例えばプラズモニック導波路とEOポリマーの組み合わせ)に基づく位相変調器を採用する。また、別のパターンとして、第1のユニタリ光回路100及び第2のユニタリ光回路200におけるMZIに、電気光学効果に基づくMZIを採用し、光回路300の位相変調器に、電気光学効果よりも高い光損失であるが応答速度が速い位相変調器を採用する。より具体的には、プラズモンに基づく位相変調器を採用する。
【0015】
このような構成によれば、1段の位相変調器のみ光損失が高いだけで、多段構成されている大部分のMZIについては低光損失なので、全体として低光損失が実現される。ポートあたりの光損失は、第1のユニタリ光回路100及び第2のユニタリ光回路200を含むので、第1のユニタリ光回路100のおおよそ2倍程度となる。一方、応答速度が遅いが多段構成されているMZIについては予め設定をしておいて、応答速度が速い1段の位相変調器を含む光回路300の設定のみを必要なタイミングにて切り替えることで、全体としての高速応答性が実現できる。具体的には、光回路300の応答速度と同程度の応答速度が得られる。
【0016】
本実施の形態のような構成を採用することで、あるスイッチング状態Aと、別のスイッチング状態Bとを高速に切り替えたり、2つのユニタリ変換W1とW2との間を高速に切り替えるといったことができる。さらに、光回路300の設定切り替えのみで対応できる操作として、入出力ポート間の接続を任意の整数mずつ高速にずらすようなことも可能である。
【0017】
なお、本実施の形態におけるマッハツェンダー干渉計MZIについては、図6に示すような構成を有する。この2入力2出力のMZIは、第1の3dB結合器1001と、位相変調器θ1及びθ2と、第2の3dB結合器1003と、位相変調器φ1及びφ2とを有する。出力ポート側の位相変調器φ1及びφ2がないMZIも存在するが、本実施の形態では、出力ポート側に位相変調器φ1及びφ2があるMZIを用いる。
【0018】
また、特許文献5では、Nが偶数の場合、第1のユニタリ光回路100に対応する光回路として、図7に示すような構成が開示されている。この光回路は、論理的には第1のユニタリ光回路100と同じであるが、図4に示した第1のユニタリ光回路100の方が、どの経路をとっても光が同じ数のMZIを通過するので、MZIを通過するときに生じる損失(すなわち挿入損失)をどの経路でも同じにでき、全体として特性のより良い光回路が構成できる。
【0019】
さらに、従来の光スイッチでは図2に示すように1の経路で光が伝搬されていくように動作するが、本実施の形態では、図8に模式的に示すように、第1のユニタリ光回路100では、光を空間的に広げ、空間的に広がった光に対して位相変調用の光回路300で高速な位相シフトを加え、第2のユニタリ光回路200ではそれを収束させるように動作する。
【0020】
[実施の形態の原理について]
第1のユニタリ光回路100の入力ポートに入力する光の複素振幅をciとすると、Nポートの入力光は、ベクトルψin=(c1,,,,cNTで表される。上記のような第1のユニタリ光回路100を採用すれば、任意のユニタリ変換Uとすることができる。第2のユニタリ光回路200についても、任意のユニタリ変換Vとすることができる。さらに、光回路300については、対角ユニタリ行列Dとすることができる。よって、光干渉回路の出力ψoutは、ψout=VDUψinとユニタリ行列の積で表されるようになる。以下、この変換の内容について詳細に述べる。
【0021】
(1)置換
例えば図9に示すように、並び順を置き換える操作のことを置換と呼び、以下のように表す。
【数1】
右辺は巡回置換表記と呼ばれ、2→4、4→3、3→1、1→2という置き換えで置換が実現できることを表している。ここで、巡回置換表記(2431)の各要素を左に1シフトして(4312)を作り、これを縦に並べると、以下のように表される。
【数2】
よって、元の置換と同値な表現が得られることが分かる。
【0022】
次に、図10に示すように、(2413)をP、(4321)をQ、PからQへの置換をRとして表現することを想定する。
(2413)という行を、One-hotベクトルh(1)=(1000)T、h(2)=(0100)T...を用いて、(h(2),h(4),h(1),h(3))という行列で表すと、以下のようになる。なお、このような行列をPとする。
【数3】
【0023】
このPを以下に示すようにベクトルにかけると、ベクトルの1番目の要素を2番目に、2番目を4番目に、3番目を1番目に、4番目を3番目に、という入れ替え操作になっている。
【数4】
当然P-1は以下に示すように逆の操作を行う。
【数5】
【0024】
次に(4321)という行を、One-hotベクトルを用いて(h(4),h(3),h(2),h(1))という行列で表すと、以下のようになる。なお、このような行列をQとする。
【数6】
【0025】
このQを以下に示すようにベクトルをかけると、ベクトルの1番目の要素を4番目に、2番目を3番目に、3番目を2番目に、4番目を1番目に、という入れ替え操作になっている。
【数7】
【0026】
上で述べたP-1にQをかけることを考える。
【数8】
まとめると、以下のように表される。
【数9】
QP-1という操作は、ベクトルの2番目を4番目に、4番目を3番目に、3番目を1番目に、1番目の要素を2番目に、という入れ替え操作になっている。これは、(2413)を(4321)に置換するという、図9及び図10に示すような置換と同じになっている。
【0027】
また、以下に示すシフト行列S1を用いることを考える。
【数10】
このシフト行列S1を行列Xに対して右からかけると、Xの列を1つずつ左にシフトすることになる。ここで、巡回置換表記(2431)をOne-hotベクトルで表す。


【数11】
このRを用いてRS1を計算すると、以下のようになる。
【数12】
【0028】
(2)式右辺でQP-1は巡回置換表記(2431)となっていることから、(2)式左辺でも、RS1にR-1を右からかけてRS1-1とすると、以下のような関係が示される。
【数13】
これを変形すると、以下のように表される。
RS1-1P=Q
これが、置換P→Qと巡回置換表記Rの関係性を表す式である。
【0029】
(2)光スイッチへの応用
入力ポート1を出力ポートp1に、入力ポート2を出力ポートp2に、...、入力ポートNを出力ポートpNに繋いだ状態を、p=(p1,p2,...,pN)を別の状態q=(q1,q2,...,qN)に変える操作を考える。
これを以下のように置換で表す。
【数14】
但し、右辺は巡回置換表記である。
【0030】
ここで、One-hotベクトルh(r)(r番目の要素のみ1のベクトル)を用いて、行列P(r)=(h(r1) h(r2) ...h(rN))を定義すると共に、以下のように規定する。

【数15】
なお、Vの随伴行列についてはテキストではV+と記すものとする。
【0031】
ここで、D=I(単位行列)であれば、VDU=P(r)Z+DZP(r)-1P(p)=P(p)となる。なお、以下の変形が成り立っている。
V=(V++=(ZP(r)-1+
=(P(r)-1++=P(r)Z+
このため、接続状態p=(p1,p2,...,pN)を実現できている。
【0032】
次に、D=diag(z, z2,..,zN)の場合を考える。diagは対角行列であることを表す。そうすると、Z+DZは、以下のように変形される。
【数16】
【0033】
よって、RS1-1P=Qから、VDU=P(r)S1P(r)-1P(p)=P(q)となる。
このように、Dの変調によって、p→qへの状態スイッチが可能である。
【0034】
なお、巡回置換の位数が小さい場合、例えばp=(1234),q=(2134)である場合には、置換及び巡回置換表記は以下のようになる。
【数17】
そして、巡回置換の位数に応じた部分空間を有する以下のユニタリ行列を考える。

【数18】
後は、これまでと同様の操作にて、スイッチング操作が可能となる。
【0035】
さらに、Dの高次の変調について考える。例えばp=(1234),q=(2341)の場合、D(m)=diag(zm, z2m,..,zNm)の場合、すなわちm次の変調を考える。そうすると、Z+(m)Zは、以下のように変形される。
【数19】
これは列をmだけシフトする行列であるから、VDU=P(r)SmP(r)-1P(p)となる。ここでP(r)=P(p)=(h(1),h(2),h(3),h(4))=Iであるから、VDU=Smとなる。
よって、第m次の変調によって、入力ポートをmずつシフトさせて出力に接続するようなスイッチング操作となる。また、U及びVの設定により、より複雑な操作が実現される。
【0036】
(3)光ユニタリ変換への応用
切り替えたいユニタリ行列をW1及びW2とすると、それぞれは以下のように表すことができる。
1=UV
2=UDV
ここでU及びVは任意のユニタリ行列、Dはユニタリ行列で且つ対角行列とする。
【0037】
補題1)
任意のユニタリ行列はW2=XW1で表されるユニタリ行列Xで変換できる。
X=W21 +であるので、X+X=W12 +21 +=I。
よってXはユニタリ行列となる。
V=U-11
2=UDU-11=XW1
∴X=UDU-1
【0038】
補題2)
任意のユニタリ行列はX=UDU-1の形で表される。
Xの固有値をλ1,...,λn、D=diag(λ1,...,λn)、固有ベクトルをp1,p2,...,pn、U=[p1,p2,...,pn]とする。そうすると、
D=U-1XU
と、ユニタリ行列の性質から対角化される。よって、X=UDU-1
【0039】
U、D及びVをどのように構成するかについては、以下のような計算を行う。まず、X=W21 -1を計算する。次に、Xの固有値及び固有ベクトルから、D=diag(λ1,...,λn)、U=[p1,p2,...,pn]を構成する。最後に、V=U-11を計算する。
【0040】
なお、U及びVを第1のユニタリ光回路100及び第2のユニタリ光回路200におけるMZIの位相変調器へ反映させる方法については、例えば特許文献5等に記載されているので、ここでは説明は省略する。
【0041】
また、Dは、対角要素のみがexp(iφ)(expは指数関数、iは虚数単位、φは実数)の形で表され、非対角要素が0の行列である。具体的には、以下のような形である。
【数20】
この行列Dに従って、光回路300の最上段の位相変調器の位相をφ1に設定し、2段目の位相変調器の位相をφ2に設定し、...N段目の位相変調器の位相をφNに設定する。
【0042】
ここでD=diag(z,z2,z3,...,zN)であれば、対角要素が、z,z2,z3,...,zNであって、zは以下のように表される。
【数21】
また、exp(iφ)n=exp(inφ)となる。従って、光回路300の最上段の位相変調器の位相を2π/Nに設定し、2段目の位相変調器の位相を2×2π/Nに設定し、...N段目の位相変調器の位相をN×2π/N=2πに設定する。
【0043】
さらに、D=Iであれば、全ての対角要素が1であるから、exp(iφ)=exp(i2π)=1であるから、φ=2πということになる。
【0044】
以上述べた本実施の形態に係る光干渉回路は、上記のような性質を有するため、光スイッチ、光量子回路、光ニューラルネットワーク回路などへの応用が期待される。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、電気光学効果、熱光学効果、プラズモンといった位相変調方式に基づき、どのような位相変調方式に基づく位相変調器をどの構成要素に採用するかを説明した。しかし、第1のユニタリ光回路100及び第2のユニタリ光回路200のMZIにおける位相変調器の応答速度よりも速い応答速度を有する位相変調器を、光回路300において採用すれば良い。この際、第1のユニタリ光回路100及び第2のユニタリ光回路200のMZIにおける位相変調器の光損失よりも高い光損失を有する位相変調器であっても、光回路300において採用しても良い。
【0046】
上記のような特性の組み合わせを実現できれば、第1のユニタリ光回路100のMZIと第2のユニタリ光回路200のMZIの位相変調方式が異なる場合もあり得る。
【0047】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0048】
本実施の形態に係る光干渉回路は、(A)第1の光損失及び第1の応答速度を各々有する複数のマッハツェンダー干渉計を含む第1のユニタリ光回路と、(B)第1のユニタリ光回路に直列に接続され、第1の光損失より高い第2の光損失及び第1の応答速度より速い第2の応答速度を各々有する複数の位相変調器を含む光回路と、(C)回路と直列に接続され、第2の光損失より低い第3の光損失及び第2の応答速度より遅い第3の応答速度を各々有する複数のマッハツェンダー干渉計を含む第2のユニタリ光回路とを有する。そして、第1のユニタリ光回路に含まれるマッハツェンダー干渉計の数及び第2のユニタリ光回路に含まれるマッハツェンダー干渉計の数より、位相変調器の数が少数である。
【0049】
このように第1のユニタリ光回路と第2のユニタリ光回路は低応答速度でも、これらの設定については変更せず、光回路の位相変調器の応答速度が速く、設定の切り替えを高速に行うことが出来れば、全体として高速に第1の状態と第2の状態を切り替えることが出来るようになる。また、光回路の位相変調器の光損失が高い場合でも、位相変調器よりも多数のマッハツェンダー干渉計が低損失なので、全体としては低損失が実現される。
【0050】
なお、上記マッハツェンダー干渉計が、熱光学効果に基づくマッハツェンダー干渉計であり、上記位相変調器が、電気光学効果又はプラズモンに基づく位相変調器である場合もある。また、上記マッハツェンダー干渉計が、電気光学効果に基づくマッハツェンダー干渉計であり、上記位相変調器が、プラズモンに基づく位相変調器である場合もある。このよう位相変調方式の組み合わせを採用することで、上記のような特性の組み合わせを実現できる。
【0051】
また、上記第1及び第2のユニタリ光回路を、入力Nに対して2入力2出力のマッハツェンダー干渉計をN/2又は(N+1)/2個並べた列を、N列並べて接続することにより構成し、上記光回路を、位相変調器をN個1列に並べて構成するようにしても良い。このようにすれば、入出力の適切な切り替え及びユニタリ変換の適切な切り替えを実施できるようになる。
【0052】
さらに、上記光干渉回路が、上記光回路への設定を切り替えることで、第1のユニタリ光回路への入力に対する第2のユニタリ光回路からの出力を切り替える制御回路をさらに有するようにしても良い。また、上記光干渉回路は、光回路への設定を切り替えることで、光干渉回路で実行される第1のユニタリ変換を第2のユニタリ変換へ切り替える制御回路をさらに有するようにしても良い。このような制御回路にて、目的とする経路切り替え及びユニタリ変換の切り替えを高速に実施できるようになる。
【0053】
なお、上記マッハツェンダー干渉計は、出力ポートに位相変調器を備えたマッハツェンダー干渉計が好ましい。また、上記第1のユニタリ光回路に含まれる複数のマッハツェンダー干渉計の特性と、上記第2のユニタリ光回路に含まれる複数のマッハツェンダー干渉計の特性とが同一であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
100 第1のユニタリ光回路
200 第2のユニタリ光回路
300 位相変調用の光回路


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