IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製粉株式会社の特許一覧

特許7485504冷凍パン生地、パン及びこれらの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】冷凍パン生地、パン及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20240509BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240509BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
A21D2/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019142946
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021023184
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】風早 浩行
(72)【発明者】
【氏名】宮本 守
(72)【発明者】
【氏名】野田 淳一
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110785(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141702(WO,A1)
【文献】特開平08-228660(JP,A)
【文献】特開2016-174570(JP,A)
【文献】特開2015-112022(JP,A)
【文献】特開2004-121127(JP,A)
【文献】特開2011-200140(JP,A)
【文献】特開2019-004780(JP,A)
【文献】特開2016-086740(JP,A)
【文献】特開平08-080155(JP,A)
【文献】特開2007-267691(JP,A)
【文献】特開2014-093968(JP,A)
【文献】特開2019-047740(JP,A)
【文献】こめ油を配合したバターロールでオニオンブレッドを焼いてみる,家庭の台所でも本格的なパンを作れる技術を公開するウェブサイト,2015年04月04日,https://painrecipe.com/chiebukuro/6250.html,[検索日2023.09.29]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(1)穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、穀粉100質量部に対して55.55質量部以上75質量部以下である穀粉組成物を調製する工程;
(2)油脂及び粉末状原料を含む油脂組成物をクリーミングして気泡含有油脂組成物を調製する工程;
(3)前記穀粉組成物と前記気泡含有油脂組成物とを混合してパン生地を得る工程;及び
(4)上記パン生地を冷凍する工程
を含み、
ただし、
(A)前記気泡含有油脂組成物がL-アスコルビン酸を含まず、
(B)上記工程のいずれにおいても小片状加糖ロールイン油脂及び/又は小片状フラワーペースト類を用いない、
冷凍パン生地の製造方法。
【請求項2】
穀粉組成物を調製する工程における水分含量が、穀粉100質量部に対して56.65質量部以上75質量部以下である、請求項1記載の冷凍パン生地の製造方法。
【請求項3】
気泡含有油脂組成物に含まれる油脂の含有量が、穀粉100質量部に対して3~50質量部である、請求項1又は2記載の冷凍パン生地の製造方法。
【請求項4】
気泡含有油脂組成物が卵黄及び水分を含まないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷凍パン生地の製造方法。
【請求項5】
穀粉組成物を調製する工程において添加する穀粉量が、パン生地中の穀粉の全量に相当し、前記穀粉組成物を調製する工程が、前記穀粉の全量を一度に混合する工程である、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷凍パン生地の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法により冷凍パン生地を製造し、これを焼成する、パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍パン生地、パン及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にパンの生地は、小麦粉を主体とする穀粉に、イーストと、前記穀粉及びイースト以外の粉末状原料(食塩、砂糖など)を溶解させた練水とを添加して混捏し、油脂を添加して更に混捏して得られる。この生地を成形し焼成して得られるパンは、グルテンが十分に形成されているため、比較的硬くひきのある食感になりがちであり、経時的に硬くなって品質が劣化する。
パンに求められる食感は多様であるが、中でも柔らかく口溶けの良い食感は最も求められる食感の一つである。このような食感を得るため、小麦粉などの製パン用穀粉に対する加水量を多くした高加水パン生地を焼成することで高加水パンを製造している。しかしながら、高加水パン生地は、加水量が多いため生地のベタつきが生じやすく、成形性等の作業性が悪くなるという欠点がある。
また、近年では流通やオペレーションの簡便性からパン生地を冷凍保管し、冷凍したまま又は解凍したパン生地を用いてパンを製造することが行われている。冷凍パン生地は、冷凍保管中及び解凍後の品質劣化を抑制するために、一般的に通常のパン生地よりも加水量を少なくして製造されるが、柔らかく口溶けの良い食感が得られる高加水パン生地についても冷凍パン生地としたいという要請があった。その場合、上記パン生地の作業性が問題となる。
【0003】
高加水パン生地の欠点を解決するために様々な試みが為されている。
例えば、特開2010-252667号公報(特許文献1)では、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有し、好ましくは、さらにアルギン酸及び/又はアルギン酸塩を含有することを特徴とする多加水パン生地が開示されている。しかしながら、近年では、グリセリン有機酸脂肪酸エステルなどの乳化剤は、なるべく使用しないことが望まれる。
特開2011-200140号公報(特許文献2)では、パン生地を製造する際の原料穀粉の加水に使用する水の一部又は全量として、特定の物性を有する高含水寒天ゲルを使用し、原料穀粉に対する総加水量を標準総加水量の1.1~2.3倍に増加させたパン生地を形成することを特徴とした多加水製パン方法が開示されている。当該方法は、加水量を増加させる観点からは優れた方法であるが、当該方法で得られるパンの食感には違和感が生じる恐れがある。
特開2014-200190号公報(特許文献3)では、平均粒径が60μm~120μmであると共に損傷澱粉を4.0重量%~7.0重量%含有する基準小麦粉と、平均粒径が20μm~40μmであると共に損傷澱粉を7.0重量%~12重量%含有する微粉砕小麦粉とを特定割合で混合したパン生地用小麦粉の重量に対して、70重量%より多く140重量%以下の水が配合された多加水パンの製造方法が開示されている。しかしながら、当該方法は煩雑であり、コスト高になりがちである。
特開2016-77202号公報(特許文献4)では、穀粉100質量部のうちの30~60質量部の穀粉、及び前記穀粉100質量部に対して200~250質量部の水を混捏して湯種を作製する工程を含む、多加水パンの製造方法が開示されている。また、特開2017-163929号公報(特許文献5)では、湯種用穀粉100重量部に対し加水量150~250重量部の湯種を調製する工程と、油脂類以外の原材料及び、前記湯種の50重量%以下を混合後、これに残りの湯種及び油脂類を混合して生地を調製する工程とを含む、パン類の製造方法が開示されている。しかしながら、これらの方法も簡便性に劣る。
特開2019-47740号公報(特許文献6)では、油脂及び穀粉以外の粉末状原料をクリーミングして可塑性油脂組成物を得る工程、可塑性油脂組成物に穀粉、イースト及び液体状原料を混合することを含む、生地を得る工程及び前記生地を300℃未満で焼成する工程を含む、パン類の製造方法が開示されている。しかしながら、生地の作業性、パンの食感及び経時的な硬化に関して未だ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-252667号公報
【文献】特開2011-200140号公報
【文献】特開2014-200190号公報
【文献】特開2016-77202号公報
【文献】特開2017-163929号公報
【文献】特開2019-47740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの目的は、水分含量(又は加水量)が多いにもかかわらずベタつきが少なく、作業性(成形性など)に優れたパン生地の冷凍物(冷凍パン生地)、該冷凍パン生地から得られるパン、及びこれらの製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、柔らかく口溶けが良好であり、経時的な硬化を抑制する作用を有するパンを製造するための冷凍パン生地、及び該冷凍パン生地から得られるパン、及びこれらの製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、上記冷凍パン生地及びパンを簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、パンの種類に応じた標準水分含量の範囲の上限以上である穀粉組成物と、油脂及び粉末状原料を含む油脂組成物をクリーミングして得られる気泡含有油脂組成物とを混合し、得られるパン生地が、水分含量が多いにもかかわらずベタつきが少なく、成形性などの作業性に優れること;該パン生地の冷凍物(冷凍パン生地)から得られるパンは、柔らかく口溶けが良好であり、また経時的な硬化が抑制されること;上記冷凍パン生地及びパンを簡便に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]以下の工程:
(1)穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、パンの種類に応じた標準水分含量の範囲の上限以上である穀粉組成物を調製する工程;
(2)油脂及び粉末状原料を含む油脂組成物をクリーミングして気泡含有油脂組成物を調製する工程;
(3)前記穀粉組成物と前記気泡含有油脂組成物とを混合してパン生地を得る工程;及び
(4)上記パン生地を冷凍する工程
を含む冷凍パン生地の製造方法。
[2]水分含量が、穀粉100質量部に対して50質量部以上である、[1]記載の冷凍パン生地の製造方法。
[3]気泡含有油脂組成物に含まれる油脂の含有量が、穀粉100質量部に対して3~50質量部である、[1]又は[2]記載の冷凍パン生地の製造方法。
[4][1]~[3]のいずれか1項記載の製造方法により得られる冷凍パン生地。
[5][4]に記載の冷凍パン生地を焼成してなるパン。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水分含量が多いにもかかわらずベタつきが少なく、パン生地の成形性などの作業性に優れたパン生地の冷凍物(冷凍パン生地)を製造することができる。該冷凍パン生地から得られるパンは、柔らかく口溶けが良好であり、また経時的な硬化が抑制される。さらに、本発明によれば、上記冷凍パン生地及びパンを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<冷凍パン生地の製造方法>
本発明の冷凍パン生地の製造方法は、以下の工程を含んでいる:
(1)穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、パンの種類に応じた標準水分含量の範囲の上限以上である穀粉組成物を調製する工程;
(2)油脂及び粉末状原料を含む油脂組成物をクリーミングして気泡含有油脂組成物(又は可塑性油脂組成物)を調製する工程;
(3)前記穀粉組成物と前記気泡含有油脂組成物とを混合してパン生地を得る工程;及び
(4)上記パン生地を冷凍する工程。
【0009】
本発明の冷凍パン生地の製造方法の1つの特徴は、水分含量の多い穀粉組成物(穀粉、イースト及び水を含む組成物)並びに油脂及び粉末状原料を含む気泡含有組成物(又は可塑性油脂組成物)をそれぞれ調製し、上記2つの組成物を混合する工程を含むことにある。この構成を採用することにより、パン生地の水分含量が多いにもかかわらず、作業性に優れたパン生地を得ることができ、また該パン生地を冷凍してなる冷凍パン生地を用いて製造されるパンの柔らかさ、口溶け及び経時耐性を良好にすることができる。
【0010】
[工程(1)]
本発明の冷凍パン生地の製造方法は、上記工程(1)を含むことにより、作業性が良好なパン生地を得ることができ、さらに該パン生地を冷凍してなる冷凍パン生地を用いて製造されるパンの柔らかさ、口溶け及び経時耐性が良好なものとなる。
穀粉は、小麦、大麦、ライ麦、米、大豆、トウモロコシなどの穀類を製粉して得られるものである。穀粉としては、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、大豆粉、コーンフラワーなどが挙げられ、パン原料として使用されるものであれば特に限定されない。
穀粉は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用することもできる。穀粉が2種以上の混合物である場合、各穀粉の種類や含有量は、パンの種類に応じて適宜選択することができる。
【0011】
イーストは、パン生地を発酵させて膨張させるものであれば特に限定なく使用することができる。イーストの具体例としては、Saccharomyces cerevisiaeの中でも製パンに適した酵母を選別した製パン用酵母、発酵種(例えば、レーズン発酵種、果実種、ホップ種、酒種)などが挙げられる。これらのイーストは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
イーストは、粉末状、ペースト状、液状のいずれの性状のものも使用することができる。また、イーストは、生イースト、ドライイーストのいずれであってもよい。
イーストは、必要に応じて、予備発酵させて使用してもよい。予備発酵の方法は、イーストと温水(例えば、35~40℃程度の水)とを混合する方法など、公知の方法をいずれも採用することができる。
パン生地に含まれるイーストの含有量は、イーストの種類、パンの種類などに応じて適宜選択され、例えば、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して、0.5~10質量部であり、好ましくは1~5質量部である。
【0012】
穀粉の質量に対する水分含量(又は加水量)は、パンの種類に応じて設定される標準水分含量(又は標準加水量)の範囲の上限以上であり、柔らかさ及び口溶けをより一層改善する点から、上記上限を超えるのが好ましく、上限の1.01倍以上(例えば、上限の1.01倍~1.1倍、さらに1.03倍~1.08倍)がより好ましい。穀粉の質量に対する標準水分含量の範囲は、菓子パンでは、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して50~60質量部(例えば、ロールパンでは、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して50~55質量部、デニッシュ及びクロワッサンでは、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して53~60質量部)であり、食パン及びフランスパンでは、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して60~68質量部である。本発明では、水分含量が標準水分含量を超えても作業性に優れるパン生地を得ることができる。
水分含量は、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して、50質量部以上であるのが好ましく、55質量部以上であるのがより好ましい。水分含量がこのような範囲にあると、焼成されたパンがより一層柔らかくなり口溶けがさらに良好になる。水分含量の上限は特に限定されないが、作業性を良好にする観点から75質量部以下であるのが好ましい。なお、水は、必要により卵液、牛乳などとの混合液として使用してもよい。混合液は、混合液中に含まれる全ての水(卵液、牛乳などに含有される水も含む)の穀粉の質量に対する割合が上記の範囲になるように使用する。
【0013】
穀粉組成物は、吸水性のある副資材(澱粉、糖、食用塩など)を含まないことが好ましい。穀粉組成物に吸水性のある副資材を含まない場合には、穀粉の水和が抑制されないため、混合時間(又は混捏時間)を短縮することができる。なお、穀粉中の小麦粉及び/又はライ麦粉の割合が低い又はゼロの場合、副資材として、穀粉組成物中に任意にグルテン及び必要に応じて更に生地改良剤を含有させてもよい。
また、本発明では、上記穀粉及びイーストの上述した量の一部が、以下に述べる油脂組成物に含まれてもよい。
【0014】
穀粉組成物は、穀粉とイーストと水とを混合(又は混捏)することにより調製する。混合手段に特に限定はなく、各成分を慣用の方法により混合する。
【0015】
[工程(2)]
本発明の冷凍パン生地の製造方法は、上記工程(2)を含むことにより、作業性が良好なパン生地を得ることができ、さらに該パン生地を冷凍してなる冷凍パン生地を用いて製造されるパンの柔らかさ、口溶け及び経時耐性が良好なものとなる。
油脂は、製パン原料として使用される油脂であればいずれも好適に使用できる。油脂の具体例としては、バター;動物油脂、植物油脂又はこれらの混合油脂を水素添加等の公知の方法で加工して得られる加工油脂(例えば、ショートニング、マーガリン、ラード)などが挙げられる。
油脂は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用することもできる。
油脂の含有量は、特に制限されないが、柔らかさ及び口溶けの改善、並びに、時間経過に伴う硬化の抑制の点から、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して、3~50質量部(好ましくは5~40質量部)になるように調整するのが好ましい。本発明では、少量の油脂(例えば、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して、5~30質量部、さらに5~20質量部)であってもパンの柔らかさ及び口溶けを顕著に改善することができる。
【0016】
粉末状原料としては特に制限されず、例えば、糖(ブドウ糖、果糖、砂糖、ショ糖、乳糖、イソマルトースなど)、食用塩(食塩、食塩以外の無機塩など)、イーストフード、澱粉(タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチなどの生澱粉、生澱粉をエーテル化などの化学変性、α化などの物理変性、アミラーゼ処理などの酵素変性させた化工澱粉)、蛋白質(卵白粉、卵黄粉、豆蛋白、乳蛋白など)、乳加工粉末(脱脂粉乳など)、乳化剤、増粘剤、保存料、ビタミン類、栄養強化剤(カルシウムなど)などが挙げられる。これらの成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。下記のクリーミングによって油脂組成物中に気泡を効率よく含有させて、パンの食感及び口溶けをより良好にする観点からは、粉末状原料は、糖又は食用塩を含むことが好ましく、糖及び食用塩を含むことがより好ましい。なお、本発明では、粉末状原料に乳化剤を含まなくても、パンの経時的な硬化を抑制することができる。また、本発明では、粉末状原料に穀粉及びイーストが含まれてもよいが、含まれないことが好ましい。
パン生地に含まれる粉末状原料の含有量は、特に制限されないが、パン生地に含まれる穀粉100質量部に対して1~30質量部(好ましくは5~25質量部)になるように調整するのが好ましい。
【0017】
油脂とパン生地に含まれる粉末状原料との質量比は、以下に記載する気泡含有組成物が可塑性を示す範囲であれば特に制限されないが、例えば、20:80~80:20であるのが好ましく、30:70~70:30であるのがより好ましく、40:60~60:40であるのが特に好ましい。
【0018】
気泡含有油脂組成物は、油脂及び粉末状原料を含む油脂組成物をクリーミングすることにより調製する。クリーミングとは、油脂組成物をミキサー、フードプロセッサー、ホイッパーなどの撹拌機で高速撹拌して、油脂組成物中に気泡(空気)を抱き込ませる(又は満遍なく分散させる)ことをいう。
油脂組成物のクリーミングにおいて、撹拌速度は、油脂組成物中に気泡を抱き込ませることができる限り特に制限されず、例えば、280~600rpmである。また、撹拌時間は、撹拌速度にも依るが、例えば、3~8分である。
なお、油脂組成物は、クリーミングの効果を損なわない範囲で、穀粉及び粉末状イーストを含んでもよいが、含まないことが好ましい。油脂組成物に穀粉及び粉末状イーストが含まれる場合には、その含有量は、粉末状原料の全質量のうち、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0019】
気泡の量は、気泡含有油脂組成物が可塑性を示す範囲であれば特に限定はない。
気泡含有油脂組成物の比重は、0.9未満であるのが好ましく、0.4~0.85であるのがより好ましく、0.6~0.8であるのが特に好ましい。
比重は、気泡含有油脂組成物を計量容器に100mlを計り取って質量(g)を測定し、あらかじめ測定しておいた計量容器の質量(g)を差引き、単位容積当たりの質量(g/ml)を求めることにより算出される。
【0020】
[工程(3)]
穀粉組成物と気泡含有油脂組成物との混合(又は混捏)手段に特に限定はない。本発明では、気泡含有油脂組成物が穀粉組成物となじみやすいため、混合時間(又は混捏時間)を短縮することができ、生産効率を向上することができる。
【0021】
[工程(4)]
本発明の冷凍パン生地は、上記工程(1)~(3)により得られるパン生地を慣用の冷凍方法により冷凍することにより得られる。冷凍温度は、特に制限されず、例えば、-50℃~-15℃である。冷凍工程において、冷凍保管する温度よりも低温でパン生地を、例えば急速冷凍機などを用いて冷凍させてから冷凍保管してもよい。冷凍保管する期間は、特に制限されず、例えば1日~60日間である。冷凍工程の時期は、特に制限されず、パン生地を分割した後、丸目を行った後、成型した後、発酵の後などに行うことができる。
【0022】
<冷凍パン生地>
本発明の冷凍パン生地は、穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、パンの種類に応じた標準水分含量の範囲の上限以上(例えば、穀粉100質量部に対して50質量部以上)である穀粉組成物と、油脂及び粉末状原料を含有する気泡含有油脂組成物とを含むパン生地の冷凍物(冷凍パン生地)である。
【0023】
<パン>
本発明のパンは、上記冷凍パン生地を焼成してなる。なお、冷凍パン生地は、焼成前に解凍されてもよい。その場合の冷凍パン生地の解凍条件は、特に制限されず、例えば、温度0~30℃の雰囲気下で30分~18時間である。
パンの種類は、特に制限はなく、例えば、食パン、フランスパン、イングリッシュマフィン、菓子パン、ドーナツ、調理パンなどが挙げられる。
菓子パンとしては、アンパン、ジャムパン、クリームパン、カレーパンなどのフィリング類をパンに詰めたパン、メロンパン、ロールパン(テーブルロール、バターロール、スィートロール、レーズンロールなど)、コッペパン、バンズ、デニッシュペストリー、クロワッサン、ブリオッシュなどが挙げられる。
調理パンとしては、ハンバーガー、ホットドック、及びピザなどが挙げられる。
【0024】
<パンの製造方法>
本発明のパンの製造方法は、上記冷凍パン生地の製造工程を含む限り特に制限されない。上記パンの製造方法としては、直捏法が一般的であるが、その他にも中種法、促成法、液種法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、中麺法、チョリーウッド法、連続製パン法、冷蔵生地法など公知の方法が挙げられる。
上記方法において、発酵条件は、特に制限されず、例えば、温度25~40℃、湿度50~90%の雰囲気下で30分間~2時間である。また、焼成温度は、特に制限されず、例えば、180~300℃の雰囲気下で5分~1時間である。
【実施例
【0025】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0026】
<製造例1:気泡含有油脂組成物を含むパンの製造>
ショートニング12質量部をミキサー(ミキサーN50、ホバート社製)に投入してビーターを使用してショートニングが柔らかくなるまで142rpmで撹拌した。続いて粉末状原料15質量部(食塩2質量部、砂糖10質量部及び脱脂粉乳3質量部)を投入して更に588rpmで6分間撹拌することによりクリーミングして気泡含有油脂組成物を得た(以下、この工程をクリーミング工程という)。
小麦粉(イーグル、日本製粉株式会社製)100質量部、生地改良剤(ドウフリー、日本製粉株式会社製)1質量部、イースト4質量部、及び水55質量部をミキサー(エスケーミキサー株式会社製)に投入し、低速2分、中速5分で混捏して穀粉組成物を得た(以下、この工程を穀粉組成物を調製する工程(1)という)。次いで上記で得られた気泡含有油脂組成物全量を上記穀粉組成物に投入して更に低速2分、中速4分で混捏して、中心温度が20℃のパン生地を得た。得られたパン生地を60gに分割し、モルダーでロール状に成型してロールパン生地を得た。その後、直ちに-40℃の雰囲気でショックフリーザーを用いて冷却して冷凍ロールパン生地を得て、-18℃で7日間保管した。
得られた冷凍ロールパン生地を20℃で120分間解凍し、温度38℃、湿度85%で50分間最終発酵させた。得られたロールパン生地を庫内温度200℃のオーブンに投入し、10分間焼成してロールパンを得た。なお、ロールパンの原料組成をまとめると、以下の表1のようになる。
【0027】
【表1】
【0028】
<製造例2:気泡含有油脂組成物を含まないパンの製造>
小麦粉(イーグル、日本製粉株式会社製)100質量部及び生地改良剤(ドウフリー、日本製粉株式会社製)1質量部と、イースト4質量部及び粉末状原料15質量部(食塩2質量部、砂糖10質量部及び脱脂粉乳3質量部)を水55質量部に溶解させた水溶液とをミキサー(エスケーミキサー株式会社製)に投入し、低速2分、中速8分で混捏し、ショートニング12質量部を投入して更に低速2分、中速10分で混捏して中心温度が20℃のパン生地を得た。得られたパン生地を60gに分割し、モルダーでロール状に成型してロールパン生地を得た。その後、直ちに-40℃の雰囲気でショックフリーザーを用いて冷却して冷凍ロールパン生地を得て、-18℃で7日間保管した。
得られた冷凍ロールパン生地を20℃で120分間解凍し、温度38℃、湿度85%で50分間最終発酵させた。得られたロールパン生地を庫内温度200℃のオーブンに投入し、10分間焼成してロールパンを得た。なお、ロールパンの原料組成は、表1に示した組成と同じである。
【0029】
<官能評価>
熟練のパネラー10名により、作業性及び焼成翌日のロールパンの食感(柔らかさと口溶け)を、以下の表2に示す基準に従って評価した。なお、製造例2で製造したロールパンの評価点を3点とした。
【0030】
【表2】
【0031】
<試験例1:加水量の影響>
以下の表3に記載の加水量とした以外は、製造例1(クリーミング工程:あり)及び製造例2(クリーミング工程:なし)に従ってロールパンを製造して評価した。加水量は、増加率で示した。例えば+5%と表記した場合、水の量は55×1.05=57.75質量部である。
なお、製造例1において、小麦粉と水との混捏物中に、クリーミングせずに粉末状原料と油脂とを添加すると、粉末状原料と油脂とが均質に分散し難いため、パン生地を得るには不適である。従って、製造例2では、小麦粉と粉末状原料の水溶液との混捏物中に油脂を添加した。
各ロールパンの評価結果を以下の表3に示す。表3に示される括弧内の数はパネラー人数を表す。なお作業性の評価は、パン生地を冷凍する前のパン生地(中心温度20℃)について行ったものである。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例1~4では、解凍した生地のベタつきがなく、柔らかさ及び口溶け共に優れたロールパンであった。比較例1~6では、加水量が増加するにつれて、生地のべたつきが強くなって作業性が悪くなった。特に比較例4~6では、作業性が悪く成形に支障をきたしたために食感評価を行うことができないのに対し、実施例4~6では、加水量が多いにもかかわらず成形が可能であり、非常に柔らかいロールパンを得ることができた。
【0034】
<試験例2:油脂添加量の影響>
以下の表4に記載の油脂添加量とした以外は、製造例1(クリーミング工程:あり)及び製造例2(クリーミング工程:なし)に従ってロールパンを製造して評価した。
各ロールパンの評価結果を以下の表4に示す。表4に示される括弧内の数はパネラー人数を表す。なお作業性の評価は、試験例1と同様、パン生地を冷凍する前のパン生地(中心温度20℃)について行った。
【0035】
【表4】

【0036】
油脂のみを後添加して混捏する比較例では、油脂の量が多くなるにつれて柔らかさ及び口溶けが良好になり、油脂が60質量部で最も優れる状態になった。クリーミングにより得られた気泡含有油脂組成物を後添加して混捏する実施例7~11では、柔らかさ及び口溶けがきわめて優れており、且つ、作業性も比較例よりベタつきがなく優れたものであった。また、実施例7と比較例8との比較から、本発明では、より少ない油脂量で柔らかさ及び口溶けを改善できることが分かった。
【0037】
<試験例3:経時耐性の評価>
加水量を+4%にした以外は製造例1に従って実施例12のロールパンを得た。
製造例2に従って比較例1のロールパンを得た。
0.3質量部の乳化剤(MM-100、理研ビタミン株式会社製)を添加した以外は、製造例2に従って比較例10のロールパンを得た。
焼成翌日を1日目として、1日目から3日目までのクラムの硬さをテクスチャーアナライザー(英弘精機株式会社製、TA.XT Plus)でAACC International method 74-09.01に従い測定した。また、3日目のロールパンの水分値を赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製、FD-660)で測定した。
結果を以下の表5に示す。
【0038】
【表5】
【0039】
比較例1では、経時的にクラムが硬くなり、3日目のパンを試食したところ著しいパサつきのある食感であった。実施例12では、比較例10と同等かそれ未満の硬さであり、乳化剤含有パンと同等以上の経時耐性があることが分かった。
【0040】
<試験例4:穀粉組成物を調製する工程(1)の有無の影響>
穀粉組成物に気泡含有油脂組成物を投入して混捏する代わりに、気泡含有油脂組成物に、小麦粉(イーグル、日本製粉株式会社製)100質量部、生地改良剤(ドウフリー、日本製粉株式会社製)1質量部、イースト4質量部、及び水55質量部を投入して更に低速2分、中速4分で混捏した以外は製造例1と同様にして、比較例11のロールパンを得た。得られたロールパンについて、熟練のパネラー10名により、作業性及び焼成翌日のロールパンの食感(柔らかさと口溶け)を、上記表2に示す基準に従って評価した。結果を表6に示す。なお、表6に記載の数値は、平均値を表す。
【0041】
【表6】
【0042】
比較例11では、穀粉組成物を調製する工程(1)を備えていないため、クリーミング工程と穀粉組成物を調製する工程(1)とを備える実施例1よりも柔らかさ及び口溶けに劣る結果となった。