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特許7485885大規模スクリーニングから得られた幼若ホルモン活性を有する有害生物防除剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】大規模スクリーニングから得られた幼若ホルモン活性を有する有害生物防除剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/824 20060101AFI20240510BHJP
   A01N 29/04 20060101ALI20240510BHJP
   A01N 31/14 20060101ALI20240510BHJP
   A01N 43/06 20060101ALI20240510BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20240510BHJP
   A01N 43/52 20060101ALI20240510BHJP
   A01N 43/84 20060101ALI20240510BHJP
   A01P 7/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A01N43/824 A
A01N29/04
A01N31/14
A01N43/06
A01N43/40 101K
A01N43/52
A01N43/824 E
A01N43/84 101
A01P7/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021007093
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111572
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】粥川 琢巳
(72)【発明者】
【氏名】古田 賢次郎
【審査官】柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014686(JP,A)
【文献】特公平05-064140(JP,B2)
【文献】特開平05-306205(JP,A)
【文献】特開2018-145187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 29/00ー29/12
A01N 31/00ー31/16
A01N 43/00-43/92
A01P 7/00ー 7/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幼若ホルモンアゴニスト活性を有する、下記Ago4、Ago5、Ago6、Ago10を有効成分とする、有害生物防除剤。
【化1】
【請求項2】
幼若ホルモンアゴニスト活性を有する、下記Ago1、Ago2、Ago3、Ago7、Ago8、Ago9を有効成分とする、幼若ホルモンアゴニスト活性に基づく幼虫期間の延長による蛹化及び成虫化抑制剤。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼若ホルモンアゴニスト活性を有し、かつ、特定の化学構造を有する化合物を有効成分とする有害生物防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幼若ホルモン(Juvenile Hormone)(以下、「JH」と表記する場合がある。)は、昆虫をはじめとする節足動物に固有のホルモンで、胚発生、脱皮・変態、性成熟、休眠等の卵から成体まで全ステージにおける多彩な生理現象に関与する多機能性ホルモンである。特に、JHやこのJHの分子構造を模したJHアナログ(JH様化合物)は、節足動物に対して高い選択性を有し、節足動物の生理機能を撹乱する作用を有することから、節足動物成長制御剤の1つとして位置づけられ、ヒトや哺乳動物に対して影響が無いまたは極めて低いため安全性が高く、環境にやさしい理想的な有害生物防除剤となり得ると考えられてきた。節足動物成長制御剤は、脱皮を阻害するキチン合成阻害剤、脱皮を促進する脱皮ホルモン活性化合物、変態に影響するジュべノイド(Juvenoid)に大きく分けられる。
これまでに、変態阻害活性などJHと同様の生物活性を示すメソプレンやピリプロキシフェンなどの様々なJHアナログが開発され(例えば、特許文献1)、中でも、ピリプロキシフェンは実用化もされている。
しかしながら、近年コナジラミやイエバエではピリプロキシフェンに対する抵抗性や、ピリプロキシフェンが魚類の生殖器官に異常をきたす研究結果が報告されていることから、新たな化学構造を有し、JHと同様の生物活性を示す化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平05-064140号公報
【文献】特開2009-297021号公報
【文献】特開2019-014686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
JHアゴニスト活性化合物は、蛹化及び成虫化を抑制することで次世代の個体群密度を抑制することが可能である。
そこで、本発明は、実用的なJHアゴニスト活性化合物を有効成分とする新規な有害生物防除剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、節足動物の脱皮・変態を制御する幼若ホルモン(JH)のシグナル経路を明らかにし、培養細胞を使ってJHアゴニスト活性を容易に評価できる、JH配列を用いたレポータージーンアッセイ系を見出し、既に報告している(特許文献2)。
今回このスクリーニング系を用いて、JHアゴニスト活性を有する化合物を新たに見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.幼若ホルモンアゴニスト活性を有し、かつ、2個または3個のヘテロ原子を含む複素環またはジ置換アセチレン骨格を含む化合物を有効成分とする有害生物防除剤。
2.前記2個のヘテロ原子を含む複素環が、窒素原子と酸素原子を含む6員環または7員環であることを特徴とする、1.記載の有害生物防除剤。
3.前記3個のヘテロ原子を含む複素環が、2個の窒素原子と1個の酸素原子を含む5員環または2個の窒素原子と1個の硫黄原子を含む5員環であることを特徴とする、1.記載の有害生物防除剤。
4.前記ジ置換アセチレン骨格が、ジフェニルアセチレン骨格であることを特徴とする、1.記載の有害生物防除剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有害生物防除剤は、JHアゴニスト活性を有し、かつ、特定の化学構造を有する化合物を有効成分とするため、ヒトや哺乳動物に対して安全性が高く、環境にやさしい理想的な有害生物防除剤となり得る。また、JHアゴニストである本発明の有効成分は、節足動物において蛹化及び成虫化を抑制することで次世代の個体群密度を抑制できる。これにより、有害生物による農作物の被害を抑制するという効果を発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<有効成分>
本発明の有害生物防除剤における、有効成分となる化合物について以下説明する。
本発明の有害生物防除剤は、JHアゴニスト活性を有する化合物を有効成分とするものであり、さらに、2個または3個のヘテロ原子を含む複素環を有することを、または、ジ置換アセチレン骨格を含むことを特徴とするものである。
ここで、ヘテロ原子とは、炭素原子、水素原子以外の原子を意味し、これらの中でもヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好ましい。
また、複素環とは、環状構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、上記ヘテロ原子を環内に含むものを意味し、飽和複素環、(部分)不飽和複素環の何れも含まれる。
【0009】
<複素環を含む化合物>
本発明における有効成分となる化合物のうち、2個または3個のヘテロ原子を含む複素環を有する化合物における、複素環部分について説明する。
本発明における2個のヘテロ原子を含む複素環としては、2個のヘテロ原子が異なる2つのヘテロ原子からなる複素環が好ましく、窒素原子と酸素原子を含む複素環がより好ましく、窒素原子と酸素原子を含む6員環または7員環である複素環がさらに好ましく、中でも、窒素原子と酸素原子を含む6員環または7員環からなる飽和複素環が特に好ましい。窒素原子と酸素原子を含む6員環からなる飽和複素環としては、モルホリン環が挙げられ、窒素原子と酸素原子を含む7員環からなる複素環としては、ホモモルホリン環が挙げられる。
モルホリン環としては、テトラヒドロ-1,4-オキサジンが好ましく、ホモモルホリン環としては、ヒキサヒドロ-1,4-オキサゼピンが好ましい。
本発明における3個のヘテロ原子を含む複素環としては、2個の同じヘテロ原子とこのヘテロ原子とは異なる1つのヘテロ原子からなる複素環が好ましく、2個の窒素原子と1個の酸素原子または2個の窒素原子と1個の硫黄原子を含む複素環がより好ましく、2個の窒素原子と1個の酸素原子または2個の窒素原子と1個の硫黄原子を含む5員環である複素環がさらに好ましい。2個の窒素原子と1個の酸素原子を含む5員環である複素環としては、フラザン環やオキサジアゾール環が挙げられ、2個の窒素原子と1個の硫黄原子を含む5員環である複素環としては、チアジアゾール環が挙げられる。
オキサジアゾール環としては、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾールが挙げられ、中でも、1,3,4-オキサジアゾールを有する化合物が好ましい。
チアジアゾール環としては、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,5-チアジアゾール、1,3,4-チアジアゾールが挙げられ、中でも、1,3,4-チアジアゾールを有する化合物が好ましい。
【0010】
本発明における、2個または3個のヘテロ原子を含む複素環を有する化合物としては、下記の一般式(1)~(4)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
【0011】
一般式(1)中の「R」は、直鎖または分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル、置換基を有していても良いアリール、置換基を有していても良い複素環を示す。中でも、「R」は、直鎖または分岐鎖状の炭素数1~4のアルキル、フェニル、チエニルから選択される1種であることが好ましい。
一般式(2)中の「R」は、直鎖または分岐鎖状の炭素数1~6のアルキルまたはハロゲン原子を、「X」は水素原子またはハロゲン原子を示す。中でも、「R」の置換位置が、4-位である場合はハロゲン原子が、2-位である場合は直鎖または分岐鎖状の炭素数1~4のアルキルが好ましい。
一般式(3)中の「R」は、炭素数3~6のシクロアルキルを示す。中でも、「R」を、ピリジン環の窒素原子に隣接する位置に置換することが好ましい。
一般式(4)中の「R」は、炭素数3~6のシクロアルキルを、「X」は水素原子またはハロゲン原子を示す。
【0012】
<ジ置換アセチレン骨格を含む化合物>
本発明における有効成分となる化合物のうち、ジ置換アセチレン骨格を含む化合物における、ジ置換アセチレン骨格部分について説明する。
本発明におけるジ置換アセチレン骨格を含む化合物としては、下記の一般式(5)で表されるジフェニルアセチレン骨格を含む化合物が好ましい。
【化2】
【0013】
一般式(5)中の「R」、「R」は、同一または異なっても良く、直鎖または分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル、炭素数1~6のアルコキシを示す。中でも、「R」と「R」は異なるものであることが好ましく、「R」は直鎖または分岐鎖状の炭素数1~6のアルキルであり、「R」は炭素数1~6のアルコキシであることがより好ましい。また、「R」、「R」は、それぞれ4-位に置換していることが好ましい。
【0014】
本明細書中における直鎖または分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル、炭素数1~6のアルコキシ、炭素数3~6のシクロアルキル、ハロゲン原子について、以下に説明する。
直鎖または分岐鎖状の炭素数1~6のアルキルとしては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、ノルマルヘキシル基、イソヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基等を挙げることができる。
炭素数1~6のアルコキシとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、t-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチルプロピルオキシ基、1-エチルプロピルオキシ基、1-メチルブチルオキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、1,1,2-トリメチルプロピルオキシ基等の直鎖または分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルコキシ基を挙げることができる。
炭素数3~6のシクロアルキルとしては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。
【0015】
<有害生物防除剤>
本発明の有害生物防除剤は、通常、固体担体、液体担体等の不活性担体と混合し、製剤化して用いられる。本発明の有害生物防除剤は、水和剤、水溶剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤、乳剤、粉剤、粒剤等に製剤化できる。
本発明の有害生物防除剤における、JHアゴニスト活性を有する有効成分の含有量は、通常0.1~100重量%、好ましくは0.2~90重量%、より好ましくは0.5~80重量%の範囲である。
【0016】
固体担体としては、例えば粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末及び粒状物等、並びに合成樹脂(ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン-6、ナイロン-11、ナイロン-66等のナイロン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-プロピレン共重合体等)が挙げられる。
液体担体としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノキシエタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ドデシルベンゼン、フェニルキシリルエタン、メチルナフタレン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という。)、N,N-ジメチルアセトアミド等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という。)等)、炭酸プロピレン及び植物油(大豆油、綿実油等)が挙げられる。
【0017】
本発明の有害生物防除剤の製剤化の際には、必要に応じてさらに界面活性剤やその他の製剤用補助剤を添加する。
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤が挙げられる。
その他の製剤用補助剤としては、固着剤、分散剤、着色剤及び安定剤等、具体的には例えばカゼイン、ゼラチン、糖類(でんぷん、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性りん酸イソプロピル)、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、BHA(2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールと3-tert-ブチル-4-メトキシフェノールとの混合物)が挙げられる。
【0018】
本発明の有害生物防除剤が水和剤、水溶剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤、乳剤に製剤化されている場合には、通常、JHアゴニスト活性を有する有効成分の濃度が0.1~10000ppmとなるように水で希釈して施用し、粉剤、粒剤に製剤化されている場合はそのまま施用する。
【0019】
本発明の有害生物防除剤は、農園芸用殺虫剤として優れた効果を有するだけでなく、犬や猫といった愛玩動物、または牛や羊等の家畜に寄生する有害生物に対しても効果を有する。
本発明の有害生物防除剤が効力を発揮する節足動物類としては、例えば以下のものが挙げられる。
半翅目害虫:ヒメトビウンカ(Laodelphax striatellus)、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、セジロウンカ(Sogatella furcifera)等のウンカ類、ツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps)、タイワンツマグロヨコバイ(Nephotettix virescens)等のヨコバイ類、ワタアブラムシ(Aphis gossypii)、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)、ミカンミドリアブラムシ(Aphis citricola)、ニセダイコンアブラムシ(Lipaphis pseudo brassicae)、ナシミドリオオアブラムシ(Nippolachnus piri)、コミカンアブラムシ(Toxoptera aurantii)、ミカンクロアブラムシ(Toxoptera citricida)等のアブラムシ類、アオクサカメムシ(Nezara antennata)、ホソハリカメムシ(Cletus punctiger)、ホソヘリカメムシ(Riptortus clavatus)、チャバネアオカメムシ(Plautia stali)等のカメムシ類、オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)、タバココナジラミ(Bemisia tabaci)、シルバーリーフコナジラミ(Bemisia argentifolii)等のコナジラミ類、アカマルカイガラムシ(Aonidiella aurantii)、サンホーゼカイガラムシ(Comstockaspis perniciosa)、シトラススノースケール(Unaspis citri)、クワシロカイガラムシ(Pseudaulacaspis pentagona)、オリーブカタカイガラムシ(Saissetia oleae)、ミカンノカキカイガラムシ(Lepidosaphes beckii)、ルビーロウムシ(Ceroplastes rubens)、イセリヤカイガラムシ(Icerya purchasi)等のカイガラムシ類、グンバイムシ類、キジラミ類等を挙げることができる。
【0020】
鱗翅目害虫:ニカメイガ(Chilo suppressalis)、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)、ヨーロピアンコーンボーラー(Ostrinia nubilalis)、ハイマダラノメイガ(Hellulla undalis)、シバツトガ(Parapediasia teterrella)、ワタノメイガ(Notarcha derogata)、ノシメマダラメイガ(Plodia interpunctella)等のメイガ類、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、アワヨトウ(Pseudaletia separata)、ヨトウガ(Mamestra brassicae)、タマナヤガ(Agrotis ipsilon)、トリコプルシア属、ヘリオティス属、ヘリコベルパ属等のヤガ類、モンシロチョウ(Pieris rapae)等のシロチョウ類、アドキソフィエス属、ナシヒメシンクイ(Grapholita molesta)、コドリンガ(Cydia pomonella)等のハマキガ類、モモシンクイガ(Carposina niponensis)等のシンクイガ類、リオネティア属等のハモグリガ類、リマントリア属、ユープロクティス属等のドクガ類、コナガ(Plutella xylostella)等のスガ類、ワタアカミムシ(Pectinophora gossypiella)等のキバガ類、アメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea)等のヒトリガ類、イガ(Tinea translucens)、コイガ(Tineola bisselliella)等のヒロズコガ類等を挙げることができる。
双翅目害虫:アカイエカ(Culex pipiens pallens)、コガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)等のイエカ類、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)等のエーデス属、シナハマダラカ(Anopheles sinensis)等のハマダラカ類、ユスリカ類、イエバエ(Musca domestica)、オオイエバエ(Muscina stabulans)等のイエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ヒメイエバエ類、タネバエ(Delia platura)、タマネギバエ(Delia antiqua)等のハナバエ類、マメハモグリバエ(Liriomyza trifolii)等のハモグリバエ類、ミバエ類、ノミバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、ブユ類、アブ類、サシバエ類等を挙げることができる。
【0021】
鞘翅目害虫:ウエスタンコーンルームワーム(Diabrotica virgifera virgifera)、サザンコーンルートワーム(Diabrotica undecimpunctata howardi)等のコーンルートワーム類、ドウガネブイブイ(Anomala cuprea)、ヒメコガネ(Anomala rufocuprea)等のコガネムシ類、メイズウィービル(Sitophilus zeamais)、イネミズゾウムシ(Lissorhoptrus oryzophilus)、アルファルファタコゾウムシ(Hypera postica)、アズキゾウムシ(Callosobruchuys chinensis)等のゾウムシ類、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)等のゴミムシダマシ類、ウリハムシ(Aulacophora femoralis)、キスジノミハムシ(Phyllotreta striolata)、コロラドハムシ(Leptinotarsa decemlineata)等のハムシ類、ニジュウヤホシテントウ(Epilachna vigintioctopunctata)等のエピラクナ類、ナガシンクイムシ類、アオバアリガタハネカクシ(Paederus fuscipes)等を挙げることができる。
アザミウマ目害虫:ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)、ネギアザミウマ(Thrips tabaci)、ハナアザミウマ(Thrips hawaiiensis)、チャノキイロアザミウマ(Scirtothrips dorsalis)、ヒラズハナアザミウマ(Frankliniella intonsa)、ミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)、カキクダアザミウマ(Ponticulothrips diospyrosi)等を挙げることができる。
膜翅目害虫:アリ類、スズメバチ類、アリガタバチ類、ニホンカブラバチ(Athalia japonica)等のハバチ類等を挙げることができる。
直翅目害虫:ケラ類、バッタ類等を挙げることができる。
【0022】
また本発明の有害生物防除剤は、動物外部寄生虫防除用途に使用することができ、対象となる動物としては、ノミ目、シラミ目、双翅目等の外部寄生虫の宿主となり得る動物が挙げられ、通常、家畜やペットとして飼養されている動物が挙げられる。具体的には、例えば、哺乳綱動物として、イヌ、ネコ、フェレット等の食肉目、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の偶蹄目、マウス、ラット、ハムスター、リス等のげっ歯目、ウサギ等の兎目、サル等の霊長目;鳥綱としては、アヒル等のガンカモ目、ハト等のハト目、オウム等のオウム目等の動物が挙げられる。
本発明の有害生物防除剤を動物外部寄生虫防除用途に使用する場合には、スポットオン処理、ポアオン処理等の方法により処理することができる。スポットオン処理とは、通常、宿主動物の肩胛骨背部等の皮膚に液状の製剤を滴下または塗布する方法であり、ポアオン処理とは、通常、宿主動物体の背中線に沿って液状の製剤を注ぐ方法である。動物への処理量は、対象となる動物または防除される外部寄生虫の種類等によっても変わり得るが、対象となる動物の生体重1kg当たり、JHアゴニスト活性を有する有効成分に換算して、通常0.05~1000mg/kg、好ましくは0.1~200mg/kgである。
【0023】
本発明の有害生物防除剤により防除可能な外部寄生虫としては、前述した宿主動物の外部寄生虫として知られている種々の有害節足動物が挙げられ、具体的には、イエバエ(Musca domestica)、ノイエバエ(Musca hervei)、クロイエバエ(Musca bezzii)、ノサシバエ(Haematobia irritans)、ツメトゲブユ(Simulium iwatens)、ウシヌカカ(Culicoides oxystoma)、アカウシアブ(Tabanus chrysurus)、アカイエカ(Culex pipiens)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)等の双翅目害虫、ウシジラミ(Haematopinus eurysternus)、ヒツジジラミ(Damalinia ovis)等のシラミ目害虫、ネコノミ(Ctenocephalides felis)、イヌノミ(Ctenocephalides canis)、ケオプスネズミノミ(Xenopsylla cheopis)等のノミ目害虫等を挙げることができる。
【実施例
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>JH応答配列を用いたレポータージーンアッセイ系による、JHアゴニスト活性化合物の選抜
(1)JH応答配列を用いたレポータージーンアッセイ系について
本発明者が上記特許文献2に記載した培養細胞を使って、JHアゴニスト活性を容易に評価できるJH応答配列を用いたレポータージーンアッセイ系を使用した。詳細については上記特許文献2に記載された事項を引用するが、以下簡単に説明する。
【0026】
(2)アッセイ系の構築
(a)レポータープラスミドの作製
昆虫が有するKruppel homolog 1(Kr-h1)遺伝子は、JH受容体(methoprene tolerant、Met)を介してJHにより早期に誘導され、変態抑制因子として機能する(文献1:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS), 109(29), 11729-11734, 2012)。カイコKr-h1上流に存在するJH応答配列とベーサルプロモーター領域(上記文献1)を、ホタルルシフェラーゼレポータープラスミドpGL4.27(Promega社)に挿入した(pGL4.27_JF)。また、リファレンスレポーターとして、カイコアクチンA3のベーサルプロモーター領域(上記文献1)をウミシイタケルシフェラーゼレポータープラスミドpGL4.80(Promega社)に挿入した(pGL4.80_AR)。pGL4.80_ARのカイコアクチンA3ベーサルプロモーターとウミシイタケルシフェラーゼをコードする領域をpGL4.27_JFに挿入し、ホタルルシフェラーゼとウミシイタケルシフェラーゼが同時に発現するコンストラクト(pGL4.27_JF&AR)を作製した。
(b)恒常発現株の樹立
pGL4.27_JF&ARをカイコ培養細胞(BmN細胞、KATAKURA社)にトランスフェクション試薬(Fugene HD、Promega社)を用いて導入し、ハイグロマイシン(InvivoGen社)を加えて1ヶ月間セレクションし、恒常発現株(BmN_JF&AR細胞株)を樹立した。
(c)アッセイ系の最適化
スクリーニングで使用する384ウェルプレートに最低限必要な培養スケール(細胞数、JH濃度)およびアッセイ試薬量を検証し、アッセイ系の最適化を行った。その結果、1ウェルあたり5×10cells/20μLに細胞溶液を調製することで、安定した結果が得られることが明らかになった。また、アゴニスト活性を測定する際の最適なJH I濃度を検証したところ、0.01μMで約100%のJH活性が得られることが明らかになった。この最小培養スケールにレポーターアッセイ試薬(Dual-Glo luciferase reagentとDual-Glo Stop&Glo、Promega社)をそれぞれ20μLずつ用いることで、安定した測定結果が得られることが明らかになった。
【0027】
(3)アッセイ系に供した化合物について
構造多様性を考慮した東京大学・創薬機構のcore library(9600化合物)を、上記アッセイ系に供した。化合物は2mMおよび0.2mMになるようにDMSOに溶かし、分注装置POD Automation Platform(Labcyte社)を用いて50nL、10nL、5nLずつ384ウェルプレートに分注し、終濃度5μM、1μM、0.5μM、0.1μM、0.05μMで使用した。
1次スクリーニング(N=1)では、9600化合物から9化合物が選抜された。
2次スクリーニング(N=4)では、1次スクリーニングで選抜された9化合物に対して再現性試験を実施し、終濃度5μMにおいてアゴニスト活性13%以上を示した9化合物全てを選抜した。
3次スクリーニング(N=4)では、2次スクリーニングで選抜された9化合物に対して、濃度依存性試験を実施し、終濃度1μMにおいてアゴニスト活性10%以上を示した6化合物を選択した。
4次スクリーニング(N=3)では、3次スクリーニングで選抜された6化合物について、東京大学・創薬機構のcore library以外の約21万化合物から類縁化合物を検索した結果、それぞれの化合物に約6種の類縁体が得られた。そこで、3次スクリーニングで選抜された6化合物とそれらの類縁体に対して、濃度依存性試験を実施し、終濃度0.5μMにおいてアゴニスト活性15%以上を示した10化合物を選択した。
【0028】
(4)アッセイ方法
Multidrop Combi(Thermo Fisher社)を使って、BmN_JF&AR細胞(5×104/ウェル、10μL)を化合物入りの384ウェルプレートに播種した。384ウェルプレートの左サイドレーン(negative control、A2~P2)にJHフリーの培地をMultidrop Combiを使って分注し、化合物レーン(A3~P22)と右サイドレーン(positive control、A23~P23)にMultidrop Combiを使って0.02μMのJH Iを含んだ培地を10μLずつ分注した(final con. 0.01μM)。この384ウェルプレートを、密封できるポリ袋(大)に入れて、26℃、20時間インキューベートした。
Multidrop Combiを使ってDual-Glo Luciferase Reagentを20μLずつ分注し、ボルテックス、遠心分離(1000rpm、5min)した後、プレートリーダーでホタルルシフェラーゼの活性(Fluc)を測定した。
アゴニスト活性は、JHフリーの培地にDMSOのみを添加した実験区(negative control)のFluc値を0%、JHの終濃度が10nMでDMSOのみを添加した実験区(positive control)のFluc値を100%として以下の計算式で算出した。
[計算式]
アゴニスト活性(%)={(Fluc値-Meann)/(Meanp-Meann)}×100
Meann:negative controlのFluc平均値
Meanp:positive controlのFluc平均値
【0029】
(5)JHアゴニスト活性について
下記に示すAgo1~10の10化合物は、上記アッセイ系における5μM、0.5μM、0.05μMの全ての濃度において、JHアゴニスト活性を有する化合物である。
下記表1に、Ago1~10の10化合物の、5μM、0.5μM、0.05μMの濃度におけるJHアゴニスト活性をまとめて示す。
【化3】
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すとおり、Ago1~10の10化合物は実施例1のアッセイ系における5μM、0.5μM、0.05μMの全ての濃度において、JHアゴニスト活性を有することが確認された。中でも、Ago5、6のJHアゴニスト活性は、非常に高いことが明らかとなった。
また、Ago1、2、3、7、8、9については、JHアンタゴニストのスクリーニングでもヒットしてきていることから(上記特許文献3)、JH存在下ではアンタゴニスト活性を、JH非存在下ではアゴニスト活性を示す典型的な部分アゴニスト(パーシャルアゴニスト)であることも確認された。
【0032】
<実施例2>
4次スクリーニングで得られた10化合物(Ago1~10)について、カイコの幼虫を用いてバイオアッセイを行った。カイコ(錦秋×鐘和品種)は、25℃、12L12Dの日長条件下で、人工飼料(シルクメイト)を用いて飼育し、5齢0日目の幼虫を本実験に用いた。
10mMになるように各化合物をDMSOに溶解し、5齢0日目の幼虫にそのDMSO溶液を2μLずつ塗布し、吐糸までの幼虫期間(日)を観察した(N=5~9個体)。その後、DMSOのみを処理したコントロール区と化合物処理区を、スチューデントのt検定で統計解析し、有意(P<0.05)に幼虫期が延長した化合物については、虫体でもアゴニスト活性があると判断した。
下記表2に、Ago1~10の10化合物の、各観察個体の平均±SD(標準偏差)と、スチューデントのt検定で統計解析した有意性を、表2中の「***」はP<0.001を、「**」はP<0.01を、「*」はP<0.05を、無記載はP>0.05としてまとめて示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2に示すとおり、Ago1~10の10化合物は、DMSOのみを処理したコントロール区に比べて、吐糸までの幼虫期間(日)が有意に長くなる、すなわち、蛹化及び成虫化を抑制できることが確認された。特に、Ago1、2の化合物はコントロール区に比べて概略2倍程度、Ago6の化合物はコントロール区に比べて概略3倍以上の期間、蛹化及び成虫化を抑制できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の有害生物防除剤は、JHアゴニスト活性を有する化合物群である。これらの有害生物防除剤は、JHアゴニスト活性を有し、かつ、特定の化学構造を有する化合物を有効成分とするため、ヒトや哺乳動物に対して安全性が高く、環境にやさしい理想的な有害生物防除剤となり得るという、優れた効果を発揮するものである。
また、JHアゴニストである本発明の有効成分は、節足動物において蛹化及び成虫化を抑制することで次世代の個体群密度を抑制できる。これにより、有害生物による農作物の被害を抑制するという効果を発揮するものである。
その他、本発明の有効成分が有する蛹化及び成虫化の抑制機能を利用することにより、天敵等の有用昆虫(益虫)の育成管理にも応用することが可能であり、非常に有用である。