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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】位置決め治具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/18 20060101AFI20240510BHJP
   G01B 5/00 20060101ALI20240510BHJP
   B23Q 3/06 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B23Q3/18 Z
G01B5/00 L
B23Q3/06 303E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020067281
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021160064
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】片町 省三
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】実公昭08-015951(JP,Y1)
【文献】実開平04-125534(JP,U)
【文献】特開昭58-214807(JP,A)
【文献】特開昭59-088601(JP,A)
【文献】実開平05-077713(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/06、18
G01B 5/00
G01B 21/00
G12B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に伸びるセンターシャフトと、
前記センターシャフトに沿ってスライド移動可能に取り付けられており、下方側にオステーパが形成された押し下げ部材と、
前記センターシャフトに固定されており、上方側にオステーパが形成された固定部材と、
両端にメステーパが形成された複数の可動接片と、
弾性を有し、前記センターシャフトの周りに前記複数の可動接片を保持する保持具であって、前記可動接片の両端のメステーパが前記押し下げ部材及び前記固定部材のオステーパにそれぞれ当接し、かつ、前記押し下げ部材のスライド移動に応じて、前記複数の可動接片を前記センターシャフトに対して垂直な方向に移動可能に保持する保持具と、
前記押し下げ部材が前記センターシャフトに沿って下降するときに、前記可動接片を前記押し下げ部材の下降量に応じて下降させる押しネジと、
を備える位置決め治具。
【請求項2】
前記押し下げ部材は、前記センターシャフトと螺合しており、
前記押し下げ部材及び前記押しネジは、前記押し下げ部材が前記センターシャフトに沿って下降するときに、前記押し下げ部材の下降量の2分の1だけ、前記押しネジが前記複数の可動接片を押し下げる差動ネジ機構を構成する、請求項1に記載の位置決め治具。
【請求項3】
前記保持具は、前記センターシャフトを囲むように前記複数の可動接片を束ねるOリングである、請求項1又は2に記載の位置決め治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位置決め治具に係り、被測定物(以下、ワークという。)の形状等を測定する際にワークを保持する位置決め治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに形成された穴の形状を測定するための装置が提案されている。例えば、特許文献1には、ワークに形成された穴の内径を穴の奥行き方向に沿って複数箇所測定して、穴の形状を取得する穴の形状測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-349721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークに形成された穴(例えば、円筒形状のワーク、ピストンのピン穴等)の形状を測定する際には、ワークに形成された穴が測定装置の測定軸からずれていると、本来測定すべき箇所とは異なる場所を測定してしまったり、繰り返し精度が低下する。このため、ワークに形成された穴の測定を精度よく行うためには、ワークと測定装置の位置決めを正確に行う必要がある。
【0005】
穴が形成されたワークの位置決めを行う際には、測定対象の穴に位置決め治具を通して、この治具を所定の位置に固定することにより穴の位置決めを行い、別のワーク固定用治具(例えば、クランプ等)を用いてワークの位置を固定する。その後、ワークに形成された穴から治具を取り外して穴の測定を行う。このとき、穴の位置決めを精度よく行うためには、穴の形状に応じた位置決め治具を用いる必要がある。このため、測定対象の穴の径ごとに位置決め治具を製作する必要がある。
【0006】
しかしながら、測定対象のワークの種類に応じて位置決め治具を製作すると、測定に要するコストが増大する。さらに、位置決め治具の数が増えると、管理が煩雑になるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ワークに形成された穴の径に関わらず使用することが可能な位置決め治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る位置決め治具は、上下方向に伸びるセンターシャフトと、センターシャフトに沿ってスライド移動可能に取り付けられており、下方側にオステーパが形成された押し下げ部材と、センターシャフトに固定されており、上方側にオステーパが形成された固定部材と、両端にメステーパが形成された複数の可動接片と、弾性を有し、センターシャフトの周りに複数の可動接片を保持する保持具であって、可動接片の両端のメステーパが押し下げ部材及び固定部材のオステーパにそれぞれ当接し、かつ、押し下げ部材のスライド移動に応じて、複数の可動接片をセンターシャフトに対して垂直な方向に移動可能に保持する保持具とを備える。
【0009】
本発明の第2の態様に係る位置決め治具は、第1の態様において、押し下げ部材がセンターシャフトに沿って下降するときに、可動接片を押し下げ部材の下降量に応じて下降させる押しネジをさらに備える。
【0010】
本発明の第3の態様に係る位置決め治具は、第2の態様において、押し下げ部材は、センターシャフトと螺合しており、押し下げ部材及び押しネジは、押し下げ部材がセンターシャフトに沿って下降するときに、押し下げ部材の下降量の2分の1だけ、押しネジが複数の可動接片を押し下げる差動ネジ機構を構成する。
【0011】
本発明の第4の態様に係る位置決め治具は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、保持具は、センターシャフトを囲むように複数の可動接片を束ねるOリングである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、押し下げ部材の移動量(下降量)を調整することにより、位置決め治具の径を無段階で変更することができる。したがって、本発明によれば、1本の位置決め治具により、異なる径の穴を有する多様なワークの位置決めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る位置決め治具を用いてワークの位置決めを行う手順を説明するための図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る位置決め治具を示す断面図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る位置決め治具を示す断面図である。
図4図4は、本発明の第2の実施形態に係る位置決め治具における可動接片の動作を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明に係る位置決め治具の実施の形態について説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
(ワークの位置決めの手順)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る位置決め治具を用いてワークの位置決めを行う手順を説明するための図である。以下の説明では、測定装置(不図示)の測定軸方向をZ方向とする3次元直交座標系を用いて説明する。ここで、測定軸方向とは、例えば、スタイラスの先端に取り付けられた測定子(測定球)を用いる形状測定装置においては、例えば、スタイラスの長さ方向である。
【0016】
図1に示すように、ワーク固定用治具10は、ベース板12、第1保持部材14及び第2保持部材16を備える。
【0017】
ベース板12は、例えば、金属製(アルミニウム製)の平面形状の板である。以下、ベース板12は、XY平面に平行とする。ベース板12上には、第1保持部材14及び第2保持部材16がY方向にスライド移動可能に配置されている。
【0018】
ベース板12の略中央部には、穴12Aが形成されており、穴12Aには、位置決め治具100が挿入される治具受け部材24が嵌め込まれている。治具受け部材24は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、位置決め治具100の先端部102Aを挿入するための穴が形成されている。治具受け部材24に形成される穴は、位置決め治具100の先端部102Aと略合同な形状(例えば、円柱状、角柱状等)に形成される。
【0019】
第1保持部材14は、例えば、金属製(アルミニウム製)の板を組み合わせることにより略L字状に形成されている。第1保持部材14は、ベース板12に平行な水平板14Hと、水平板14Hに対して垂直に固定された垂直板14Vと、水平板14Hと垂直板14Vの間に筋交い状に取り付けられており、水平板14Hに対して垂直板14Vを支持する支持板14Dとを備える。なお、支持板14Dは、X方向に複数枚設けてもよい。また、垂直板14Vは、ワークWの形状に対応して傾斜可能としてもよい。
【0020】
第1保持部材14は、ベース板12上においてY方向にスライド移動可能に取り付けられている。第1保持部材14の水平板14Hには、Y方向に伸びる長穴(不図示)が形成されており、この長穴には、ボルト14Aが取り付けられている。ボルト14Aは、ベース板12に形成されたネジ穴に螺合しており、ボルト14Aを締め付けることにより、第1保持部材14をベース板12に対して固定可能となっている。
【0021】
第2保持部材16は、第1保持部材14と同様、例えば、金属製(アルミニウム製)の板を組み合わせることにより略L字状に形成されており、第1保持部材14に対して対向配置されている。第2保持部材16は、ベース板12に平行な水平板16Hと、水平板16Hに対して垂直に固定された垂直板16Vと、水平板16Hと垂直板16Vの間に筋交い状に取り付けられており、水平板16Hに対して垂直板16Vを支持する支持板16Dとを備える。なお、支持板16Dは、X方向に複数枚設けてもよい。また、垂直板16Vは、ワークWの形状に対応して傾斜可能としてもよい。
【0022】
第2保持部材16は、ベース板12上においてY方向にスライド移動可能に取り付けられている。第2保持部材16の水平板16Hには、Y方向に伸びる長穴(不図示)が形成されており、この長穴には、ボルト16Aが取り付けられている。ボルト16Aは、ベース板12に形成されたネジ穴に螺合しており、ボルト16Aを締め付けることにより、第2保持部材16をベース板12に対して固定可能となっている。
【0023】
第2保持部材16の水平板16Hの+Y側端部には、ボールねじ18が取り付けられている。ボールねじ18は、ベース板12の+Y側端部に固定されたボールねじ軸受部20と螺合しており、ボールねじ18の端部には、ハンドル22が取り付けられている。操作者は、ハンドル22を回転させることにより、第2保持部材16をY方向にスライド移動させることができる。
【0024】
ワークWの位置決めを行う際には、まず、ワークWに形成された穴Hに位置決め治具100を挿入し、位置決め治具100に対してワークWを固定する。
【0025】
次に、ワークWが固定された位置決め治具100をワーク固定用治具10の治具受け部材24に挿入する。これにより、ワークWに形成された穴Hが伸びる方向がZ方向と略平行になる。
【0026】
次に、第1保持部材14を移動させてワークWに当接させた後、ボルト14Aを締め付けて第1保持部材14をベース板12に固定する。そして、ハンドル22を回転操作することにより第2保持部材16を-Y方向にスライド移動させてワークWに当接させる。これにより、第2保持部材16によりワークWが第1保持部材14に押し付けられる。ワークWが第1保持部材14に押し付けられた状態で、ボルト16Aを締め付けて第2保持部材16をベース板12に固定する。これにより、ワークWが第1保持部材14と第2保持部材16との間に挟持されて固定される。
【0027】
次に、ワークWの穴Hから位置決め治具100を取り外し、測定装置により穴Hの形状等の測定を行う。
【0028】
上記の例によれば、ワークWに形成された穴Hが伸びる方向が、測定装置の測定軸方向(Z方向)と略平行な状態で、ワークWをベース板12上に固定することができる。したがって、測定装置と測定対象の穴Hとの位置合わせが容易になり、繰り返し精度の低下を防止することができる。
【0029】
なお、ワーク固定用治具10については、図1に示す例に限定されるものではなく、例えば、クランプ機構等を用いてもよい。
【0030】
(位置決め治具)
次に、位置決め治具100について、図1及び図2を参照して説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係る位置決め治具を示す断面図である。図2(a)は、位置決め治具100の径を拡張する前の状態(以下、初期状態という。)を示しており、図2(b)は、位置決め治具100の径を拡張した状態(以下、拡張状態という。)を示している。
【0031】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る位置決め治具100は、センターシャフト102と、センターシャフト102を囲むように配置された複数枚(図1及び図2に示す例では、3枚)の可動接片112を備える。図2に示すように、位置決め治具100は、スライド部材110をスライド移動させて可動接片112を押し広げることによって、ワークWの穴Hの径に応じた径にすることができる。これにより、位置決め治具100がワークWの穴Hに固定される。
【0032】
センターシャフト102は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、円柱、角柱等に形成される。センターシャフト102の先端部102Aは、ワーク固定用治具10の治具受け部材24の穴と略合同に形成される。
【0033】
センターシャフト102には、図中上側(基端部側)から順に、固定ノブ104、回転ノブ106、スライド部材110、可動接片112及び固定部材114が取り付けられる。
【0034】
固定ノブ104は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。固定ノブ104は、例えば、ネジ止めによりセンターシャフト102に固定される。
【0035】
回転ノブ106は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。回転ノブ106は、センターシャフト102に挿通されており、回転ノブ106の内周面には、雌ネジ(不図示)が切られている。一方、センターシャフト102の側面には、雄ネジ(不図示)が切られており、回転ノブ106とセンターシャフト102とは螺合している。なお、雄ネジは、センターシャフト102の側面の基端部側の一部(回転ノブ106が移動する範囲)のみに切られていてもよい。また、回転ノブ106と螺合する雄ネジは、固定ノブ104に切られていてもよい。
【0036】
スライド部材110は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。スライド部材110の図中下方は、テーパ形状(円錐台状)に形成されており、オステーパ110Aを構成する。スライド部材110は、センターシャフト102に挿通され、回転ノブ106の下方に取り付けられる。回転ノブ106及びスライド部材110は、本発明の押し下げ部材として機能する。
【0037】
操作者が固定ノブ104を押さえて回転ノブ106を回転させると、回転ノブ106とスライド部材110は、センターシャフト102に沿って図中上下方向にスライド移動する。これにより、可動接片112の間隔が拡縮し、位置決め治具100の径が調整される。
【0038】
なお、スライド部材110は、回転ノブ106と一体形成されていてもよいし、別体として形成されていてもよい。回転ノブ106とスライド部材110とを別体とする場合には、スライド部材110の内周面とセンターシャフト102の側面に、図中上下方向(センターシャフト102の長手方向)に伸びる長穴と、この長穴に係合する凸部をそれぞれ形成してもよい。この場合、スライド移動時におけるスライド部材110のセンターシャフト102に対する回転が規制される。
【0039】
固定部材114は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。固定部材114の図中上方は、テーパ形状(円錐台状)に形成されており、オステーパ114Aを構成する。
【0040】
可動接片112は、例えば、金属製又は樹脂製の板状の部材であり、センターシャフト102の周りに複数枚(図1及び図2に示す例では、3枚)取り付けられる。可動接片112は、少なくとも初期状態において、センターシャフト102と平行になるように配置される。可動接片112は、3枚の可動接片112を束ねたときに、全体としてセンターシャフト102を囲む略円筒形状となるように屈曲している。
【0041】
可動接片112の上端部及び下端部には、オステーパ110A及び114Aとそれぞれ当接するメステーパ112A及び112Aが形成されている。
【0042】
位置決め治具100の径は、3枚の可動接片112の外周面により規定され、スライド部材110及び固定部材114により、3枚の可動接片112の間隔を拡縮することにより、位置決め治具100の径が無段階で変更可能となっている。
【0043】
可動接片112の側面には、溝112Cが形成されており、この溝112Cには、Oリング118及び118が取り付けられている。Oリング118及び118は、例えば、ゴム等の弾性を有する部材からなる。3枚の可動接片112は、このOリング118及び118によって束ねられて、メステーパ112A及び112Aとオステーパ110A及び114Aとがそれぞれ当接した状態で、センターシャフト102の周りに保持される。可動接片112は、スライド部材110がスライド移動したときに、Oリング118及び118の弾性により、センターシャフト102に対して垂直な方向に移動可能となっている。
【0044】
各可動接片112の側面には、図中上下方向(可動接片112の長手方向)に伸びる長穴112Bが形成されている。センターシャフト102の側面には、ピン116が固定されており、可動接片112の長穴112Bに挿通している。可動接片112は、長穴112B及びピン116により周方向の移動が規制された状態で、図中上下方向にスライド移動する。
【0045】
なお、図1及び図2に示す例では、長穴112B及び溝112Cは、それぞれ上下に2箇所形成されているが、長穴112B及び溝112Cの数は2に限定されない。
【0046】
位置決め治具100をワークWに形成された穴Hに固定する際には、まず、位置決め治具100を図2(a)の初期状態にする。次に、操作者が位置決め治具100を穴Hに挿入し、固定ノブ104を押さえた状態で回転ノブ106を回転させて下降させると、回転ノブ106とスライド部材110は、センターシャフト102に沿って下降する。すると、図2(b)に示すように、スライド部材110のオステーパ110Aが可動接片112の図中上側のメステーパ112Aに押し付けられる。一方、可動接片112の図中下側のメステーパ112Aは、固定部材114のオステーパ114Aに押し付けられる。これにより、スライド部材110及び固定部材114によって可動接片112が押し広げられて、可動接片112の外周面により規定される位置決め治具100の径が拡大する。ワークWに形成された穴Hの径に合わせて位置決め治具100の径を拡大することにより、位置決め治具100が穴Hに固定される。
【0047】
位置決め治具100をワークWに形成された穴Hから取り外す際には、操作者が固定ノブ104を押さえた状態で回転ノブ106を回転させて上昇させる。すると、スライド部材110が上昇し、Oリング118及び118の弾性力により、可動接片112が互いに引き寄せられる。これにより、可動接片112の間隔が狭まり、位置決め治具100の径が縮小するので、位置決め治具100を穴Hから容易に取り外すことができる。
【0048】
本実施形態に係る位置決め治具100は、スライド部材110の移動量D1を調整することにより、位置決め治具100の径を無段階で変更することができる。したがって、本実施形態に係る位置決め治具100は、多様なワークWの位置決めに使用することができる。
【0049】
なお、一般に静止摩擦係数の方が動摩擦係数よりも大きいため、スライド部材110をスライド移動させると、図2(b)に示すように、可動接片112の上側の方が下側よりも開いてしまう。このため、可動接片112の下方のメステーパ112Aと固定部材114のオステーパ114Aの表面を、上方のメステーパ112A及びスライド部材110のオステーパ110Aよりも滑りやすく加工してもよい。また、Oリング118をOリング118よりも弾性力が弱いものとしてもよい。また、固定部材114のオステーパ114A、可動接片112のメステーパ112A及び112A並びにスライド部材110のオステーパ110Aの相互関係を調整して、各テーパ面に作用する垂直抗力を調整してもよい。これにより、可動接片112の上下の開き具合の差を小さくすることができる。
【0050】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、本発明の第2の実施形態に係る位置決め治具を示す断面図である。図3(a)は、位置決め治具200の径を拡張する前の状態(以下、初期状態という。)を示しており、図3(b)は、位置決め治具200の径を拡張した状態(以下、拡張状態という。)を示している。
【0051】
図3に示すように、本実施形態に係る位置決め治具200は、センターシャフト202と、センターシャフト202を囲むように配置された複数枚(図3に示す例では、3枚)の可動接片212を備える。図3に示すように、位置決め治具200は、スライド部材210をスライド移動させて可動接片212を押し広げることによって、ワークWの穴Hの径に応じた径にすることができる。これにより、位置決め治具200がワークWの穴Hに固定される。
【0052】
センターシャフト202は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、円柱、角柱等に形成される。センターシャフト202の先端部202Aは、ワーク固定用治具10の治具受け部材24の穴と略合同に形成される。
【0053】
センターシャフト202には、図中上側(基端部側)から順に、固定ノブ204、回転ノブ206、押しネジ208、スライド部材210、可動接片212及び固定部材214が取り付けられる。
【0054】
固定ノブ204は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。固定ノブ204は、例えば、ネジ止めによりセンターシャフト202に固定される。
【0055】
回転ノブ206は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。回転ノブ206は、固定ノブ204の筒状部204A及びセンターシャフト202に挿通されており、回転ノブ206の上面の内周面には、雌ネジ(不図示)が切られている。一方、固定ノブ204の筒状部204Aの側面には、雄ネジ204Bが切られており、回転ノブ206と固定ノブ204とは螺合している。
【0056】
押しネジ208は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。押しネジ208の外周面には、雄ネジ208Aが形成されており、回転ノブ206の下部の内周面に形成された雌ネジ(不図示)と螺合する。
【0057】
スライド部材210は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。スライド部材210の図中下方は、テーパ形状(円錐台状)に形成されており、オステーパ210Aを構成する。回転ノブ206及びスライド部材210は、本発明の押し下げ部材として機能する。
【0058】
スライド部材210の外径は、回転ノブ206の内径よりも小さくなっており、スライド部材210は、センターシャフト202に挿通され、回転ノブ206の内部に嵌め込まれる。スライド部材210の上部の筒状部210Bの内径は、固定ノブ204の筒状部204Aの外径よりも大きくなっている。図3に示すように、固定ノブ204の筒状部204Aは、スライド部材210の筒状部210Bに収容される。
【0059】
スライド部材210の上端部は、回転ノブ206の内面に当接しており、回転ノブ206の下降に伴い、スライド部材210も下降する。
【0060】
スライド部材210の筒状部210Bの上端部には、フランジ210Cが形成されている。フランジ210Cは、回転ノブ206に挿通されたネジ(ボルト)222と係合しており、回転ノブ206が上昇しても、スライド部材210が回転ノブ206から脱落せず、回転ノブ206とともに上昇するようになっている。
【0061】
スライド部材210には、図中横方向にピン220が挿通している。センターシャフト202の側面には、図中上下方向(センターシャフト202の長さ方向)に伸びる長穴202Bが形成されており、押しネジ208の内周面には、図中上下方向(センターシャフト202の長さ方向)に伸びる長穴208Bが形成されている。ピン220の両端は、センターシャフト202の長穴202Bと、押しネジ208の長穴208Bと係合している。このピン220により、回転ノブ206の回転時に、押しネジ208及びスライド部材210がセンターシャフト202の周りに回転しないようになっている。
【0062】
操作者が固定ノブ204を押さえて回転ノブ206を回転させると、回転ノブ206とスライド部材210は、センターシャフト202の周りに回転することなく、センターシャフト202に沿って図中上下方向にスライド移動する。これにより、可動接片212の間隔が拡縮し、位置決め治具200の径が調整される。
【0063】
固定部材214は、例えば、金属製又は樹脂製の部材であり、略円筒形状に形成される。固定部材214の図中上方は、テーパ形状(円錐台状)に形成されており、オステーパ214Aを構成する。
【0064】
可動接片212は、例えば、金属製又は樹脂製の板状の部材であり、センターシャフト202の周りに複数枚(図3に示す例では、3枚)取り付けられる。可動接片212は、センターシャフト202と平行になるように配置される。可動接片212は、3枚の可動接片212を束ねたときに、全体としてセンターシャフト202を囲む略円筒形状となるように屈曲している。
【0065】
可動接片212の上端部及び下端部には、オステーパ210A及び214Aとそれぞれ当接するメステーパ212A及び212Aが形成されている。
【0066】
位置決め治具200の径は、3枚の可動接片212の外周面により規定され、スライド部材210及び固定部材214により、3枚の可動接片212の間隔を拡縮することにより、位置決め治具200の径が無段階で変更可能となっている。
【0067】
可動接片212の側面には、溝212Cが形成されており、この溝212Cには、Oリング218が取り付けられている。Oリング218は、例えば、ゴム等の弾性を有する部材からなる。3枚の可動接片212は、このOリング218によって束ねられて、メステーパ212A及び212Aとオステーパ210A及び214Aとがそれぞれ当接した状態で、センターシャフト202の周りに保持される。可動接片212は、スライド部材210がスライド移動したときに、Oリング218の弾性により、センターシャフト202に対して垂直な方向に移動可能となっている。
【0068】
センターシャフト202には、径がやや大きな円柱状又は円筒状の大径部202Cが形成されており、大径部202Cにより位置決め治具200の径の最小値が規定される。
【0069】
各可動接片212の側面には、図中上下方向(可動接片212の長手方向)に伸びる長穴212Bが形成されている。センターシャフト202の大径部202Cの側面には、ピン216が固定されており、可動接片212の長穴212Bに挿通している。可動接片212は、長穴212B及びピン216により周方向の移動が規制された状態で、図中上下方向にスライド移動する。
【0070】
なお、図3に示す例では、センターシャフト202の大径部202Cと、可動接片212の長穴212B及び溝212Cは、それぞれ上下に2箇所形成されているが、大径部202C、長穴212B及び溝212Cの数は2に限定されない。
【0071】
押しネジ208の下面は、可動接片212の上端に形成されたフランジ212Dに当接している。押しネジ208は、回転ノブ206の下降に伴って下降し、可動接片212を押し下げる。回転ノブ206の移動量(下降量)D10と押しネジ208による可動接片212の移動量(押し下げ量)D12とは、固定ノブ204の雄ネジ204Bと押しネジ208の雄ネジ208Aのピッチによって決まる(図4参照)。ここで、固定ノブ204の雄ネジ204Bと回転ノブ206の雄ネジ208Aとは、差動ネジ機構を構成する。
【0072】
図4に示す例では、オステーパ210Aの図中上下方向(センターシャフト202の長手方向)に対する傾き(角度)をθとし、メステーパ212A及び212A並びにオステーパ214Aの図中上下方向(センターシャフト202の長手方向)に対する傾き(角度)は、オステーパ210Aと同じとする。
【0073】
図4に示すように、オステーパ210Aが位置210A-1から位置210A-2まで下降したときの移動量(下降量)をD10とする。このとき、可動接片212が位置212-1から位置212-2まで平行移動するためには、可動接片212の上端部をD12=D10/2下降させる必要がある。
【0074】
このため、固定ノブ204の雄ネジ204B及び押しネジ208の雄ネジ208AのピッチをそれぞれP1及びP2とすると、P1:P2=2:1(一例で、P1=3.0mm、P2=1.5mm)とすることにより、位置決め治具200の径を均一に広げることができる。
【0075】
位置決め治具200をワークWに形成された穴Hに固定する際には、まず、位置決め治具200を図3(a)の初期状態にする。次に、操作者が位置決め治具200を穴Hに挿入し、固定ノブ204を押さえた状態で回転ノブ106を回転させて下降させると、回転ノブ206とスライド部材210は、センターシャフト202に沿って下降する。すると、図3(b)に示すように、スライド部材210のオステーパ210Aが可動接片212の図中上側のメステーパ212Aに押し付けられる。このとき、可動接片212は、押しネジ208により押し下げられるので、可動接片212の図中下側のメステーパ212Aは、固定部材214のオステーパ214Aに押し付けられる。これにより、スライド部材210及び固定部材214によって可動接片212が上下略均一に押し広げられて、可動接片212の外周面により規定される位置決め治具200の径が拡大する。ワークWに形成された穴Hの径に合わせて位置決め治具200の径を拡大することにより、位置決め治具200が穴Hに固定される。
【0076】
位置決め治具200をワークWに形成された穴Hから取り外す際には、操作者が固定ノブ204を押さえた状態で回転ノブ206を回転させて上昇させる。すると、スライド部材210が上昇し、Oリング218の弾性力により、可動接片212が互いに引き寄せられる。これにより、可動接片212の間隔が狭まり、位置決め治具200の径が縮小するので、位置決め治具200を穴Hから容易に取り外すことができる。
【0077】
本実施形態に係る位置決め治具200は、スライド部材210を用いて可動接片212を押し広げる際に、差動ネジ機構により可動接片212を押し下げることにより、可動接片212の開き具合を略均一にすることが可能になる。
【0078】
なお、本実施形態では、オステーパ210A、メステーパ212A及び212A並びにオステーパ214Aの角度を同じにしたが、本発明はこれに限定されない。オステーパ210A及びメステーパ212Aの角度と、メステーパ212A及びオステーパ214Aの角度とは互いに異なっていてもよい。この場合、オステーパ210A、メステーパ212A及び212A並びにオステーパ214Aの角度の相互関係に応じて、固定ノブ204の雄ネジ204B及び押しネジ208の雄ネジ208AのピッチP1及びP2を調整すればよい。また、ピッチP1及びP2に応じて、オステーパ210A、メステーパ212A及び212A並びにオステーパ214Aの角度の相互関係を調整してもよい。これにより、可動接片212の上端部と下端部の開き具合を略均一にすることができ、本実施形態と同様の効果を得ることが可能になる。
【0079】
また、上記の実施形態では、可動接片(112、212)をOリング(118、118、218)により束ねるようにしたが、可動接片を保持する保持具はこれに限定されない。例えば、隣り合う可動接片(112、212)の間に弾性を有する部材を貼り付けてつなぎ合わせてもよい。また、可動接片(112、212)の内周面に、リング状の弾性部材を貼り付けてもよい。
【符号の説明】
【0080】
100…位置決め治具、102…センターシャフト、104…固定ノブ、106…回転ノブ、110…スライド部材、112…可動接片、114…固定部材、116…ピン、118、118…Oリング、200…位置決め治具、202…センターシャフト、204…固定ノブ、206…回転ノブ、208…押しネジ、210…スライド部材、212…可動接片、214…固定部材、216…ピン、218…Oリング、220…ピン、222…ネジ
図1
図2
図3
図4