(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】カドミウム水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 11/00 20060101AFI20240510BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240510BHJP
C22B 3/42 20060101ALI20240510BHJP
B01J 41/07 20170101ALI20240510BHJP
B01J 41/20 20060101ALI20240510BHJP
B01J 49/60 20170101ALI20240510BHJP
C22B 17/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C01G11/00
C22B3/44 101A
C22B3/42
B01J41/07
B01J41/20
B01J49/60
C22B17/00 101
(21)【出願番号】P 2020093048
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-063781(JP,A)
【文献】特開2017-192916(JP,A)
【文献】特開2013-184144(JP,A)
【文献】特開平09-137236(JP,A)
【文献】特開平01-099688(JP,A)
【文献】特開2019-183240(JP,A)
【文献】特開2019-002046(JP,A)
【文献】特開2014-214316(JP,A)
【文献】特開昭56-069226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
C22B 1/00ー61/00
B01J 41/00-49/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カドミウム及び塩化物イオンを含有する原料溶液にpH調整剤を添加して、亜鉛と鉛が水酸化物を形成して沈殿物となる範囲に前記原料溶液のpHを調整し、前記原料溶液から前記沈殿物と濾液とからなる第1スラリーを形成した後、前記第1スラリーを固液分離処理により、前記濾液と前記沈殿物を得る第1のpH調整工程と、
前記第1のpH調整工程で得られた濾液と強塩基性陰イオン交換樹脂とを接触させて前記塩化物イオンとカドミウムとのクロロ錯体を吸着させ、前記クロロ錯体を吸着させた強塩基性陰イオン交換樹脂を純水に接触させてカドミウム溶離液を得るイオン交換工程と、
前記イオン交換工程で得られたカドミウム溶離液にpH調整剤を添加して、前記カドミウム溶離液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して、前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物となる範囲に前記カドミウム溶離液のpHを調整して、前記カドミウム沈殿物を含む第2スラリーを生成した後、前記第2スラリーに固液分離処理を施し、前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物を得る第2のpH調整工程と、 からなるカドミウム水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記第1のpH調整工程のpHを7.0以上、9.0以下の範囲に調整することを特徴とする、請求項1に記載のカドミウム水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記第2のpH調整工程のpHを7.0以上の範囲に調整することを特徴とする、請求項1または2に記載のカドミウム水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記カドミウム
及び塩化物イオンを含有する原料溶液が、カドミウムを0.001質量%以上、塩素を1.0%以上、亜鉛を0.5質量%以下、鉛を0.01質量%以下、タリウムを0.01質量%以下、銅を0.001質量%以下、ニッケル0.01質量%以下を含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカドミウム水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記カドミウム
及び塩化物イオンを含有する原料溶液が、電気炉ダストを酸浸出した溶液であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のカドミウム水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウム水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等から不純物を分離回収して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。この粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストから還元焙焼処理を経て得ることができ、資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。
【0003】
このような鉄鋼ダスト由来の粗酸化亜鉛には、その主成分である酸化亜鉛以外に、塩素やフッ素等のハロゲン成分及びカドミウム等の不純物が高い割合で含有されている。これらの不純物のうち、特にカドミウムについては有害金属としての性質を持っており、酸化亜鉛の製造プラントにおいては、カドミウムを分離回収する処理が必須となっている。
【0004】
一方、カドミウムはニッケルカドミウム電池の負極材として使用されるなど、電子エレクトロニクス材料として重要な有用金属のひとつとなっている。
ところで、カドミウムを分離回収する方法としては、例えば、湿式処理で不純物を粗分離後、乾式処理によって精分離する方法が一般的に行われている。
【0005】
しかしながら、乾式処理は化石燃料や、電力の使用において環境やエネルギー負荷が高いという問題があった。よって、不純物の分離を一層高度に行い、湿式工程に続く乾式工程での化石燃料や電力の使用を抑制する、湿式処理技術の開発が望まれている。
【0006】
セメンテーション法や電解採取法で目的金属を析出させる湿式工程を含む湿式処理技術においては、前記の析出過程において、目的金属以外の不純物の混入を予め抑制しておくことが重要である。そのため、析出母液となる溶液から目的金属以外の不純物を予め粗分離することが行われている。
【0007】
例えば、特許文献1に開示される技術は、ダストから硫酸浸出させたカドミウム溶液から浄液によって不純物を粗分離し、前記粗分離したカドミウム溶液を析出母液として金属カドミウムを得る、湿式処理技術であるが、酸化剤やアルカリ剤、そして炭酸化剤等の複数の薬剤を使用し、操作が複雑な工程を経て浄液を行う反面、析出母液に含有されるカドミウムの量が4.7g/Lと低濃度であり、一方で、不純物である亜鉛については目的金属であるカドミウムのおよそ4倍の量となる、18.4g/Lが含まれ、低分離であった。
【0008】
このような背景から、カドミウムを高純度に、且つ高濃度に含有するカドミウム溶液を製造する湿式処理技術が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、このような問題を解決するため、高純度なカドミウム溶液を製造する湿式処理技術、具体的には、このカドミウム溶液を製造する際の出発物質となる、高純度なカドミウム水酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、カドミウムを含有する原料溶液にpH調整剤を添加して、前記原料溶液から沈殿物を除去した濾液に対して、強塩基性陰イオン交換樹脂を接触させ、次いでその強塩基性陰イオン交換樹脂を純水に接触させて得たカドミウム溶離液にpH調整剤を添加し、これを固液分離することによって、高純度なカドミウム水酸化物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明は、カドミウム及び塩化物イオンを含有する原料溶液にpH調整剤を添加して、前記亜鉛と鉛が水酸化物を形成して沈殿物となる範囲に前記原料溶液のpHを調整し、前記原料溶液から前記沈殿物と濾液とからなる第1スラリーを形成した後、前記第1スラリーを固液分離処理により、前記濾液と前記沈殿物を得る第1のpH調整工程と、前記第1のpH調整工程で得られた濾液と強塩基性陰イオン交換樹脂とを接触させて前記塩化物イオンとカドミウムとのクロロ錯体を吸着させ、前記クロロ錯体を吸着させた強塩基性陰イオン交換樹脂を純水に接触させてカドミウム溶離液を得るイオン交換工程と、前記イオン交換工程で得られたカドミウム溶離液にpH調整剤を添加して、前記カドミウム溶離液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して、前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物となる範囲に前記カドミウム溶離液のpHを調整して、前記カドミウム沈殿物を含む第2スラリーを生成した後、前記第2スラリーに固液分離処理を施し、前記カドミウム水酸化物を含むカドミウム沈殿物を得る第2のpH調整工程とからなるカドミウム水酸化物の製造方法である。
【0013】
本発明の第2の発明は、第1の発明における第1のpH調整工程のpHを、pH7.0以上、9.0以下の範囲に調整することを特徴とするカドミウム水酸化物の製造方法である。
【0014】
本発明の第3の発明は、第1の発明または第2の発明における第2のpH調整工程のpHを、pH7.0以上の範囲に調整することを特徴とするカドミウム水酸化物の製造方法である。
【0015】
本発明の第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、カドミウム及び塩化物イオンを含有する原料溶液が、カドミウムを0.001質量%以上、塩素を1.0%以上、亜鉛を0.5質量%以下、鉛を0.01質量%以下、タリウムを0.01質量%以下、銅を0.001質量%以下、ニッケル0.01質量%以下を含むことを特徴とするカドミウム水酸化物の製造方法である。
【0016】
本発明の第5の発明は、第1乃至第4の発明のいずれかにおいて、カドミウム及び塩化物イオンを含有する原料溶液が、電気炉ダストを酸浸出した溶液であることを特徴とするカドミウム水酸化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、不純物が低減されてカドミウム品位が高いカドミウム水酸化物を製造できるので、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】金属成分を含む溶液のpHが、前記溶液に含まれる各金属成分の沈殿率に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態に係るカドミウム水酸化物の製造方法は、カドミウムを含有する原料溶液を出発物質とし、第1のpH調整工程と、イオン交換工程と、第2のpH調整工程とからなる製造工程で処理することによって、不純物が低減されてカドミウム品位が高いカドミウム水酸化物を得ることができるカドミウム水酸化物の製造方法である。
ここで、本実施の形態に係る高純度なカドミウム水酸化物は、具体的には、カドミウムが30質量%以上、亜鉛が5質量%以下、鉛が0.1質量%以下、タリウムが0.1質量%以下、銅が0.1質量%以下、ニッケルが0.1質量%以下であるカドミウム水酸化物を意味する。
このようにして得られたカドミウム水酸化物に酸を付し、カドミウムを浸出させることにより、不純物が低減されてカドミウム品位が高いカドミウム溶液を製造することが可能となる。
【0020】
その出発物質となるカドミウムを含有する原料溶液としては、カドミウムを含む電気炉由来のダストを硫酸溶液に付し、カドミウムを浸出させたダスト浸出後液や、製錬の過程で生じるカドミウムを含む排水を挙げることができる。この場合、出発物質となるカドミウムと亜鉛と鉛とタリウムを含有する原料溶液の組成は、カドミウムを0.001質量%以上、塩素を1.0%以上、亜鉛を0.5質量%以下、鉛を0.01質量%以下、タリウムを0.01質量%以下、銅を0.001質量%以下、ニッケル0.01質量%以下の範囲内で含むことが好ましい。
【0021】
本実施形態に係るカドミウム水酸化物の製造方法は、イオン交換工程を含むことに特徴を有する。このため、カドミウムと、カドミウム以外の不純物元素との高度な分離が可能であり、よって、イオン交換工程を含まないカドミウム水酸化物の製造方法に比して、不純物を多く含む原料溶液を採用することが可能である。
以下、それぞれの工程を説明する。
【0022】
<第1のpH調整工程>
第1のpH調整工程は、カドミウムを含有する原料溶液に対し、pH調整剤を添加し、原料溶液に含まれる亜鉛と鉛が水酸化物を形成して沈殿物となる範囲に、原料溶液をpH調整し、亜鉛と鉛の水酸化物の沈殿物と、濾液からなる第1スラリーを形成後、この第1スラリーを固液分離して亜鉛と鉛の水酸化物の沈殿物を系外に除去し、カドミウムを含む濾液を得る工程である。特に、後述するイオン交換工程でカドミウムとともにクロロ錯体を形成しやすい亜鉛を系外に除去することができる。
【0023】
この場合、前記亜鉛と鉛が水酸化物を形成して沈殿物となる範囲にpH調整される限り、その調整範囲は特に限定されないが、例えば、pH7.0以上、9.0以下の範囲に調整する態様を、好ましい態様として挙げることができ、本態様によれば、沈殿分離を効果的に行うことができる。さらに、pHを7.5以上、8.5以下の範囲に調整する態様において、沈殿分離をより効果的に行うことができる。
【0024】
pH調整のために使用するpH調整剤は、工業的に使用可能な水酸化物のアルカリであればいずれも使用可能である。例えば、水酸化カルシウムだけでなく、水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム、水酸化カリウム等を使用してよい。
【0025】
下記表1は、カドミウム濃度0.380g/L(0.038%)、亜鉛濃度0.880g/L(0.088%)、鉛濃度0.019g/L(0.0019%)、タリウム濃度0.021g/L(0.0021%)である溶液を原料溶液とし、25℃の常温で撹拌しながら、水酸化カルシウム粉末を添加し、原料溶液のpHを6.9~12.4に調整し、60分撹拌しながら保持した時に、発生した沈殿物をメンブレン濾紙で濾過し、得られた沈殿物と濾液をそれぞれ分析して纏め、その濾液に含まれる各金属成分の含有量を、濾液のpHとの関係により示すものである。
さらに、表1の結果から各金属成分を含む溶液のpHが各金属成分の沈殿率に及ぼす影響を
図1に示す。なお、濾液のpHは、「pH調整した原料溶液」のpHでもある。
【0026】
【0027】
ここで、表1及び
図1を参照すると、pHを7.0以上、9.0以下の範囲に調整することによって、亜鉛の沈殿率が50%以上、鉛の沈殿率が40%以上となる高い亜鉛や鉛の沈殿率が得られ、且つ、カドミウムの沈殿率50%以下となる低いカドミウムの沈殿率が得られることがわかる。より好ましくは、pHを7.5以上、8.5以下の範囲に調整することである。これにより、亜鉛の沈殿率が90%以上、鉛の沈殿率が90%以上となる、さらに高い沈殿率が得られ、且つ、カドミウムの沈殿率30%以下となるさらに低いカドミウムの沈殿率が得られることがわかる。
このように、第1のpH調整工程における金属成分を含む溶液のpH7.0以上、9.0以下の範囲となるように調整することによって、効果的に固相部に亜鉛と鉛を分配し、且つ、効果的に液相部にカドミウムを分配することが可能である。
【0028】
<イオン交換工程>
前工程の第1のpH調整工程で得た濾液に対し、強塩基性陰イオン交換樹脂を接触させてカドミウムを吸着し、そして、このカドミウムを吸着した強塩基性陰イオン交換樹脂を純水に接触させてカドミウムを純水中に溶離し、カドミウム溶離液を得る工程である。
【0029】
即ち、前工程の第1のpH調整工程を経て得られる濾液には、鉄鋼ダスト由来の原料溶液を用いた場合、1.0質量%以上の塩化物イオンが含まれており、この塩化物イオンは前工程の第1のpH調整工程において濾液側に分配され、カドミウムとクロロ錯体を形成する。強塩基性陰イオン交換樹脂は、このクロロ錯体を介してカドミウムを吸着させるものであり、クロロ錯体を形成しない不純物を高度に分離することが可能である。
ここで、前記の強塩基性陰イオン交換樹脂とは、官能基として強塩基性のアミノ基を導入したイオン交換樹脂のことであり、好適に用いることのできる強塩基性陰イオン交換樹脂として、例えば、四級アンモニウム基を持つイオン交換樹脂を挙げることができる。
なお、このイオン交換工程は、後述のクロロ錯体を介するカドミウムの吸着操作と、カドミウムの溶離操作から構成されている。以下、これらの操作についてさらに説明する。
【0030】
(カドミウムの吸着操作)
カドミウムの吸着操作は、カラムに強塩基性陰イオン交換樹脂を充填し、その後前工程の第1のpH調整工程で得た濾液をカラム内に通液してカドミウムを吸着させる操作である。この吸着操作に際し、カドミウムの効率的な吸着が可能となる範囲に通液流量を調整することが好ましい。具体的には、第1のpH調整工程で得た濾液のカドミウム濃度に応じて、後述の通液倍数BVがカドミウムの効率的な吸着が可能となる範囲に通液流量を調整する。ここで、通液倍数BVとは、樹脂容積の何倍量の通液を行うかを示す単位であり、1Lの容積を有する樹脂に50Lの通液を行う場合の通液倍数をBV50と表記する。
【0031】
例えば、第1のpH調整工程で得た濾液のカドミウム濃度が0.05g/Lと低濃度である場合には、通液流量を増加させてBV=270となるように調整し、一方、第1のpH調整工程で得た濾液のカドミウム濃度が0.45g/Lと高濃度である場合には、通液流量を減少させてBV=30となるように調整する。これにより、効率的なカドミウムの吸着が可能である。
【0032】
また、この吸着操作に際して、カラム内に充填された強塩基性陰イオン交換樹脂に対する通液速度は特に限定されず、通常、後述の通液の空間速度SVが5~50の範囲となるような通液速度に調整される。ここで、前記通液の空間速度SVとは、単位時間あたりに樹脂容積の何倍量の通液を行うかを示す単位であり、1m3の容積を有する樹脂に1時間当たり5m3の通液を行う場合の通液の空間速度をSV5と表記する。
【0033】
なお、前記の濾液が塩化物イオンを含まない態様である場合、原料溶液中の塩化物イオン濃度が1.0質量%以上となるように塩化物を液中に導入すればよい。その導入方法としては、例えば、食塩を添加する方法を挙げることができる。これにより、クロロ錯体を形成することができる。
【0034】
(カドミウムの溶離操作)
カドミウムの溶離操作は、前記のカドミウムの吸着操作によってカドミウムを吸着させた強塩基性陰イオン交換樹脂に対して、純水を通液して接触させることにより、カドミウムを純水中に溶離させる操作である。この溶離操作に際して、前記のカドミウムの吸着操作を行う際に調整した通液倍数BVよりも、小さな通液倍数BVとなるように通液流量を調整することが好ましい。これにより、純水中に溶離したカドミウムの濃度上昇、すなわちカドミウムの純水中への濃縮が可能である。
【0035】
<第2のpH調整工程>
第2のpH調整工程は、前工程のイオン交換工程で得たカドミウム溶離液に対し、さらにpH調整剤を添加し、前記溶離液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して前記カドミウム水酸化物を含む沈殿物となる範囲に溶離液のpHを調整することにより、その沈殿物を固相部に含む第2スラリーを形成し、このスラリーを固液分離してカドミウム水酸化物を得る工程である。
【0036】
この場合、前記溶離液に含まれるカドミウムがカドミウム水酸化物を形成して前記カドミウム水酸化物を含む沈殿物となる範囲に溶離液のpH調整される限り、その調整範囲は特に限定されないが、例えば、pHを7.0以上に調整する態様を、好ましい態様として挙げることができる。本態様によれば、沈殿分離を効果的に行うことができる。さらに、pHを8.5以上に調整する態様において、沈殿分離をより効果的に行うことができる。
【0037】
図1を参照すると、pH7.0以上となる範囲に調整することによって、カドミウム沈殿物が生成され、pH8.5以上となる範囲に調整することによって、沈殿率が10%以上となり、この領域においてカドミウムの収率が向上する様子が窺える。さらに、pH9.5以上となる範囲に調整することによって、カドミウムの沈殿率が50%以上となり、この領域において、カドミウムの収率がより一層向上する様子も窺える。
このように、第2のpH調整工程における金属成分を含む溶液のpHを、7.0以上となるように調整することによって、効果的に固相部に前記カドミウム水酸化物を分配することが可能である。
【0038】
また、前記カドミウム溶離液には、クロロ錯体を形成しない金属元素は分配されることがないため、例えば、タリウムのようにクロロ錯体を形成しない元素を沈殿させないようにするために、pHの上限を制限するような操作は不要である。
【0039】
pH調整のために使用するpH調整剤は、前工程と同様に、工業的に使用可能なアルカリであればいずれも使用可能である。例えば、水酸化カルシウムだけでなく、水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム、水酸化カリウム等を使用してよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明を詳述する。
【実施例1】
【0041】
電気炉ダストに硫酸を添加して、pHを6.5に調整して得た、表2に示す組成の含カドミウム溶液を準備した。
【0042】
【0043】
次に、この含カドミウム溶液に水酸化カルシウムのスラリーを添加して、pHが8.0となるように調整し、60分撹拌しながら保持した時に発生した沈殿物をメンブレン濾紙で濾過し、得られた濾液の組成を分析した。表3は、その結果を示すものである。亜鉛が低減されたカドミウムを含む濾液が得られた。
【0044】
【0045】
次に、カラムに強塩基性陰イオン交換樹脂(住化ケムテックス株式会社製:デュオライト A113LF 4級アミン)100mlを充填し、SV=20(33.3ml/min)、BV=90(9L)の条件で、前記の濾液をカラム内に通液し、カドミウムをこのイオン交換樹脂に吸着させた。そして、吸着後の残液である吸着後液を回収してその組成を分析した。表4は、その結果を示すものである。このときのカドミウムの吸着率は、(1-(0.005/0.15))×100=97%であった。カドミウムを選択的に吸着できたことが確認できた。なお、このときのカドミウムの吸着量は0.15[g/L]×9[L]‐0.005[g/L]×9[L]=1.305[g]であった。
【0046】
【0047】
次に、カドミウムを吸着させた前記カラムに充填された強塩基性陰イオン交換樹脂に対して、SV=4(6.67ml/min)、BV=20(2L)の条件で純水を通液し吸着させたカドミウムを溶離させて溶離液を回収し、その溶離液の組成を分析した。表5はその結果を示すものである。溶離液中に0.62[g/L]×2[L]=1.24[g]のカドミウムが溶離された。そして、カドミウムの吸着量とカドミウムの溶離量の結果から、カドミウムの純水への分配率を溶離率として求めた。表6はその結果を示すものである。カドミウムを高濃度に溶離させることができた。
【0048】
【0049】
【0050】
次に、前記の溶離液に対して、水酸化カルシウムのスラリーを添加して、pHが11.0となるように調整し、60分撹拌しながら保持した時に発生した沈殿物をメンブレン濾紙で濾過し、カドミウム水酸化物を得た。そして、このカドミウム水酸化物の組成を分析した。表7はその結果を示すものである。高純度なカドミウム水酸化物を生成することができた。
【0051】
【0052】
(比較例1)
カラムに充填するイオン交換樹脂として、弱塩基性陰イオン交換樹脂(住化ケムテックス株式会社製: デュオライト A368M 3級アミン)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。イオン交換樹脂にカドミウムを吸着した後の残液である吸着後液の組成を表8に、吸着させたカドミウムをイオン交換樹脂から溶離させて得た溶離液の組成を表9に、この場合の溶離率を表10に、さらに、この溶離液から生成したカドミウム水酸化物の組成を表11に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
カドミウムの吸着率は(1-(0.038/0.15))×100≒74.7%であり、実施例1に比してカドミウムの吸着率が悪化した。また、溶離率も7.9%となり実施例1に比して大きく悪化し、カドミウムを溶離することが出来なかった。そして、この溶離液ではカドミウム以外の不純物量が増加し、高純度なカドミウム水酸化物を生成することが出来なかった。