(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】被加工物の加工方法
(51)【国際特許分類】
B24B 19/02 20060101AFI20240510BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20240510BHJP
B24B 53/12 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B24B19/02
B24B53/00 K
B24B53/12 Z
(21)【出願番号】P 2020002051
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】横山 淳機
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-288961(JP,A)
【文献】特開2012-072341(JP,A)
【文献】特開2012-074657(JP,A)
【文献】特開2016-201421(JP,A)
【文献】特開2000-306864(JP,A)
【文献】特開2013-026595(JP,A)
【文献】特開2014-024135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 19/02
B24B 27/06
B24B 53/00
B24B 53/12
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に沿って被加工物に切削ブレードで溝入れ加工を施す被加工物の加工方法であって、
所定の厚みのドレッサーを準備するドレッサー準備ステップと、
該第一方向に該被加工物と該ドレッサーとを隣接させて支持部材上に固定する固定ステップと、
該固定ステップを実施した後、該支持部材を保持テーブルで保持する保持ステップと、
該保持ステップを実施した後、所定の高さに該切削ブレードの刃先を位置付け該切削ブレードで該被加工物と該ドレッサーを該第一方向に切削する切削ステップと、を含み、
該固定ステップでは、該第一方向において複数の該ドレッサーと複数の該被加工物が交互に配置されるように固定され、
互いに隣り合う該被加工物と該ドレッサーは、該第一方向において隙間なく隣接して配置されるものであり、
該切削ステップでは、保持テーブルが該第一方向に加工送りされることに伴って、該切削ブレードによる該被加工物の切削と、該切削ブレードによる該ドレッサーの切削と、が交互に行われる、被加工物の加工方法。
【請求項2】
該被加工物は該第一方向と水平面内で直交する第二方向に長い直方体形状をなすように構成されており、
該ドレッサーの厚みは該被加工物と同一に設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の被加工物の加工方法。
【請求項3】
該ドレッサーは、該被加工物と略同一の形状にて構成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の被加工物の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対し切削ブレードで特定の方向に溝入れ加工を施す加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されるように、医療用超音波検査装置などに用いられる超音波発振器として、短冊状の振動子がアレイ状に配列されているものが知られている。
【0003】
特許文献1では、バッキング材上に積層された被加工物に対し、切削ブレードで溝入れ加工を施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような被加工物に対し切削ブレードで溝入れ加工が施される際には、加工中に切削ブレードの目つぶれや、目詰まり等が発生することが考えられる。このような場合、斜めに切れ目が入り斜めの溝が形成される不具合や、被加工物に欠けが生じるなどの不具合が生じ、加工品質が悪化してしまうことが懸念される。
【0006】
特に、被加工物が超音波発振器である場合には、特定の方向に平行に複数回の溝入れ加工が行われるものであるが、一つの溝について加工不良が生じた場合でも動作不良が生じ、これにより、製品不良を来たすこととなってしまう。
【0007】
本発明は以上に鑑み、被加工物に対し切削ブレードで特定の方向に溝入れ加工を施す加工方法において、加工品質を向上させることで、製品不良の発生を低減するための新規な技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、
第一方向に沿って被加工物に切削ブレードで溝入れ加工を施す被加工物の加工方法であって、
所定の厚みのドレッサーを準備するドレッサー準備ステップと、
該第一方向に該被加工物と該ドレッサーとを隣接させて支持部材上に固定する固定ステップと、
該固定ステップを実施した後、該支持部材を保持テーブルで保持する保持ステップと、
該保持ステップを実施した後、所定の高さに該切削ブレードの刃先を位置付け該切削ブレードで該被加工物と該ドレッサーを該第一方向に切削する切削ステップと、を含む被加工物の加工方法とする。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、
該固定ステップでは、該第一方向において該被加工物を挟んで両側に該ドレッサーが固定される、こととする。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、
該固定ステップでは、該第一方向において該ドレッサーを挟んで両側に該被加工物が固定される、こととする。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、
該固定ステップでは、該第一方向において複数の該ドレッサーと複数の該被加工物が交互に固定される、こととする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、切削ステップが実行される過程において、ドレッサーを切削することで切削ブレードのコンディションを整えることができ、被加工物への溝入れ加工の加工品質の向上が図られ、ひいては被加工物の製品不良の発生を低減することができる。また、ドレッサーの厚みを被加工物と同一に設定することで、被加工物に切り込んだ切削ブレードの切り刃の領域を、ドレッサーにて余すことなくドレッシングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本願発明を実施に使用される切削装置の構成例について示す斜視図である。
【
図2】切削手段の構成例等について示す斜視図である。
【
図3】フレームユニットの構成例について示す斜視図である。
【
図4】ドレス材ボードを研削し所定の厚みに調整する加工例について示す図である。
【
図5】所定の幅を有するドレッサーに分割する加工例について示す図である。
【
図6】(A)は板状の支持部材に被加工体を構成する例について示す図である。(B)は被加工体の構成例について説明する図である。(C)は被加工物の構成例について示す図である。(D)は被加工物の構成例について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下適宜図を参照し、本願発明の一実施形態について説明する。
図1は、本願発明を実施に使用される切削装置1の構成例であり、切削装置1は、保持テーブル2と、移動手段3と、撮像手段4と、切削手段5と、を有して構成される。
【0015】
保持テーブル2は、被加工物を吸引保持するものである。保持テーブル2は、円盤状に形成されており、上面が水平方向に平行となる平面に形成されている。保持テーブル2は、ポーラスセラミックで構成されており、図示しない真空吸引源に接続されている。
【0016】
移動手段3は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向において、保持テーブル2と切削手段5とを相対移動させるものである。移動手段3は、X軸方向移動手段3aと、Y軸方向移動手段3bと、Z軸方向移動手段3cと、を含んで構成されている。
【0017】
より具体的には、X軸方向移動手段3aは、保持テーブル2を本体部6に対してX軸方向(加工送り方向(切削送り方向)に相当)に相対移動させるものである。Y軸方向移動手段3bは、切削手段5を本体部6に対してY軸方向(割り出し送り方向に相当)に相対移動可能に支持するものである。Z軸方向移動手段3cは、切削手段5を本体部6に対してZ軸方向(切り込み送り方向に相当)に相対移動可能に支持するものである。
【0018】
各移動手段3a~3cは、例えば、モーター、ボールネジ等から構成されることが可能であり、その構成については特に限定されるものではない。
【0019】
撮像手段4は、切削手段5を被加工物の加工ラインに対してアライメント調整するために、被加工物を撮像するとともに被加工物のエッジを検出することで、切削手段5のY軸方向の位置のアライメントを実施することを可能とするものである。撮像手段4は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを用いたカメラ等である。
【0020】
切削手段5は、被加工物に対して切削により溝入れ加工を施すものである。切削手段5は、
図2に示すように、スピンドルハウジング7aから突出するスピンドル7の先端部に着脱可能に固定される切削ブレード8と、スピンドル7を高速回転させる図示せぬモーターを有して構成される。
【0021】
以上のように構成される切削装置において、以下の被加工物の加工が行われる。
図3は、複数の被加工物10,10と、ドレッサー20,20からなる被加工体30を、環状フレーム42に取り付けてハンドリング可能にした状態を示す図である。被加工体30は、テープ44の粘着面に貼着され環状フレーム42と一体に構成され、これらが全体として一つのフレームユニット40として構成されてハンドリングすることができる。
【0022】
図3に示すように、被加工物10は、第一方向(X軸方向)に形成される溝が、第一方向(X軸方向)を含む水平面内において、第一方向(X軸方向)と直交する第二方向(Y軸方向)において所定の間隔で複数本形成されることを予定されるものである。
【0023】
図3に示すように、被加工物10は、例えば、短冊状の振動子がアレイ状に配列される超音波発振器であり、第二方向(Y軸方向)において所定の間隔で、第一方向(X軸方向)に伸びる溝を形成することにより、短冊状の振動子が形成されるものである。
【0024】
なお、被加工物10は、超音波発振器に限定されるものではなく、所定の間隔で複数の溝を平行となるように形成するものについて、本願発明は広く適用できるものである。
【0025】
図3に示すように、ドレッサー20(ドレス材)は、例えばWA、GC、ダイヤモンド、CBN等を樹脂、セラミクス(ビトリファイド)、金属等のボンド材で結合したものであり、切削ブレードの種類に応じて適宜設計される。
【0026】
このドレッサー20は、切削ブレードを切り込ませることにより、切削ブレードの目つぶれや、目詰まり等を解消するドレッシングを実施し、切削ブレードのコンディションを整えることを目的とするものである。
【0027】
図3に示すように、本実施例では、被加工物10は第二方向(Y軸方向)に長い直方体形状をなすように構成されており、ドレッサー20も略同一の形状にて構成されている。
【0028】
図3に示すように、ドレッサー20の第三方向(Z軸方向)の厚みは、所定の厚みであって、例えば、被加工物の厚み以上の厚みに設定され、より好ましくは、被加工物10と略同一に設定されることが好ましい。これによれば、被加工物10に対する切削ブレードの切込み深さD(
図8)と、ドレッサー20に対する切込み深さを同じ以上にすることが可能となり、被加工物10に切り込んだ切削ブレードの切り刃8aの領域を、ドレッサー20にて余すことなくドレッシングすることができる。なお、「所定の厚み」は、ドレッサー20にて切削ブレードを確実にドレッシングでき、また、被加工物10とドレッサー20の境界部において切削ブレードのバタつきを確実に抑制できる範囲であればよい。
【0029】
図3において、ドレッサー20の第一方向(X軸方向)の幅は、被加工物10と同じこととする他、異なることとしてもよく、切削ブレードの種類に応じて適宜設計されることができる。
【0030】
図3に示すように、本実施例では、被加工物10とドレッサー20は、第一方向(X軸方向)において隙間なく隣接して配置される。これにより、切削加工の際には、被加工物10とドレッサー20の境界部において途切れることなく連続的に加工が行われ、境界部において切削ブレードがバタつくことを抑えることが可能となる。
【0031】
また、被加工物10とドレッサー20を隙間なく配置することで、
図3のように複数の被加工物10とドレッサー20からなる被加工体30を構成する場合には、第一方向(X軸方向)のカット距離を短くすることができ、加工時間の短縮を図ることができる。
【0032】
次に、切削加工を行う手順の例について説明する。
<ドレッサー準備ステップ>
所定の形状のドレッサー20を準備するステップである。
【0033】
図4は、一枚の大判のドレス材ボード22を、図示せぬ別の研削装置の研削ホイール60で研削し、所定の厚みに調整する加工例を示すものである。ここでいう所定の厚みとは、被加工物10(
図3)と略同一の厚みとする他、被加工物10(
図3)、ドレス材ボード22、切削ブレード8(
図2)の種別に応じて設定することとしてもよい。
【0034】
図5は、一枚の大判のドレス材ボード22を、切削手段5で切削し、所定の幅を有するドレッサー20に分割する加工例を示すものである。なお、この分割は、
図1に示す切削装置1に備える切削手段5で行う他、別の切削装置1で行うこととしてもよい。
【0035】
以上のようにして、所定の厚み、所定の幅を有するドレッサー20を形成することができる。なお、
図4及び
図5の研削と切削の順番は逆であってもよい。また、
図4に示すように大判のドレス材ボード22を加工してドレッサー20を形成する他、予め、所定の厚み、所定の幅を有するドレッサー20を成形加工することで、ドレッサー20が準備されることとしてもよい。
【0036】
<固定ステップ>
図3の例に示すように、被加工物10とドレッサー20をハンドリングできるようにするために、支持部材となるテープ44に対し互いに隣接するように固定するステップである。
【0037】
この
図3の例では、被加工物10とドレッサー20が、加工送り方向である第一方向(X軸方向)交互に配置されるようにテープ44に貼着され、一つのまとまった被加工体30が構成されることとしている。この被加工体30はテープ44を介して環状フレーム42と一体となり、フレームユニット40としてハンドリングすることができる。
【0038】
なお、この
図3の例のように、フレームユニット40を構成してハンドリングすることとする他、
図6(A)に示すように、例えばガラスや樹脂、カーボン等からなる板状の支持部材46にワックスや仮接着剤にて固定することで被加工体30を構成することとしてもよい。
【0039】
また、
図6(B)に示すように、被加工物10とドレッサー20を一つづつ有する被加工体30bを構成することや、
図6(C)に示すように、一つの被加工物10を2つのドレッサー20の間に配置してなる被加工体30cや、
図6(D)に示すように一つのドレッサー20を2つの被加工物10の間に配置してなる被加工体30dを構成することとしてもよい。
【0040】
<保持ステップ>
図7に示すように、保持テーブル2にフレームユニット40を搬送し、クランプ2a,2aによってフレームユニット40の環状フレーム42を教示するとともに、保持テーブル2にてテープ44を介して被加工体30bを吸引保持するステップである。
【0041】
<切削ステップ>
図2及び、
図8に示すように、所定の高さに切削ブレード8の刃先を位置付けるとともに、保持テーブル2を第一方向(X軸方向)に加工送りすることで、被加工物10に溝入れ加工を行うステップである。
【0042】
この
図8の例では、切込み深さDにより切削ブレード8が1つ目の被加工物10に切り込まれ、1つ目の被加工物10の溝入れ加工が終わると、1つ目のドレッサー20によるドレッシングが実施されコンディションが調整される。そして、このコンディションが調整された切削ブレード8により、2つ目の被加工物10を行うことができ、最後のドレッサー20によりドレッシングを実施した上で、一列目L1(
図1)の溝入れ加工を完了することができる。
【0043】
一列目L1(
図2)の溝入れ加工を終えたら、切削ブレード5の位置を第二方向(Y軸方向)に移動させ(インデックス送り)、二列目L2(
図2)の溝入れ加工を実施する。一列目L1の加工の最後においてドレッシングが実施されているため、二列目L2の最初の被加工物10についての溝入れ加工も、コンディションが整った切削ブレード5による溝入れ加工を実施することができ、高い加工品質を実現することが可能となる。
【0044】
なお、
図8に示す被加工物10とドレッサー20の並び順を逆にして、先にドレッサー20でのドレッシングを行った上で被加工物10への溝入れ加工が行われることとしてもよい。この場合、被加工物10の溝入れ加工の後にドレッサー20によるドレッシングがされ、次の被加工物10への溝入れ加工の前段階で切削ブレードのコンディションが調整され、溝入れ加工の加工品質を向上することができる。
【0045】
以上のようにして本発明を実現することができる。
即ち、
図2及び
図8に示すように、
第一方向(X軸方向)に沿って被加工物10に切削ブレード8で溝入れ加工を施す被加工物の加工方法であって、
所定の厚みのドレッサー20を準備するドレッサー準備ステップと、
第一方向に被加工物10とドレッサー20とを隣接させて支持部材上に固定する固定ステップと、
固定ステップを実施した後、支持部材を保持テーブル2で保持する保持ステップと、
保持ステップを実施した後、所定の高さに切削ブレード8の刃先を位置付け切削ブレード8で被加工物10とドレッサー20を第一方向に切削する切削ステップと、を含む被加工物の加工方法とするものである。
【0046】
また、
図3に示すように、固定ステップでは、第一方向(X軸方向)において被加工物10を挟んで両側にドレッサー20が固定される、こととするものである。
【0047】
また、
図6(D)に示すように、固定ステップでは、第一方向(X軸方向)においてドレッサー20を挟んで両側に被加工物10が固定される、こととするものである。
【0048】
また、
図3に示すように、固定ステップでは、第一方向(X軸方向)において複数のドレッサー20と複数の被加工物10が交互に固定される、こととするものである。
【0049】
以上の加工方法によれば、切削ステップが実行される過程において、ドレッサー20を切削することで切削ブレード8のコンディションを整えることができ、被加工物10への溝入れ加工の加工品質の向上が図られ、ひいては被加工物10の製品不良の発生を低減することができる。また、ドレッサー20の厚みを被加工物10と同一に設定することで、被加工物10に切り込んだ切削ブレードの切り刃8aの領域を、ドレッサー20にて余すことなくドレッシングすることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 切削装置
2 保持テーブル
5 切削手段
7 スピンドル
8 切削ブレード
8a 切り刃
10 被加工物
20 ドレッサー
22 ドレス材ボード
30 被加工体
40 フレームユニット
42 環状フレーム
44 テープ
60 研削ホイール