(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】パーム椰子種子殻の貯蔵方法
(51)【国際特許分類】
A61L 9/015 20060101AFI20240510BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20240510BHJP
B65G 3/04 20060101ALI20240510BHJP
C10L 5/44 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61L9/015
A61L9/01 B
B65G3/04 Z
C10L5/44
(21)【出願番号】P 2018200884
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-06-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】安川 通
(72)【発明者】
【氏名】河野 武史
(72)【発明者】
【氏名】中村 朗
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】増山 淳子
【審判官】松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-156010(JP,A)
【文献】特開2016-43335(JP,A)
【文献】特開平5-264021(JP,A)
【文献】特開2016-93790(JP,A)
【文献】特開2007-269517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーム椰子種子殻を厚さが2m以上に堆積して貯蔵するに際し、
上記貯蔵中に、水分量を5~15質量%に調整され
た上記パーム椰子種子殻の堆積物中に
、酸素含有ガスを
、継続的にまたは断続的に流通せしめることを特徴とするパーム椰子種子殻の貯蔵方法。
【請求項2】
前記堆積物中の酸素含有ガスの流通量が、標準状態の空気に換算した供給ガス量と上記堆積物の断面積から算出される断面平均流速で0.001m/秒以上、1m/秒以下である請求項1記載のパーム椰子種子殻の貯蔵方法。
【請求項3】
前記堆積物中の温度を80℃以下に調整する請求項1又は2に記載の貯蔵方法。
【請求項4】
前記パーム椰子種子殻に、燃焼可能な通気性補助材を混合する請求項1~3のいずれか一項に記載の貯蔵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーム椰子種子殻の新規な貯蔵方法に関する。詳しくは、パーム椰子種子殻(以下、「PKS」ともいう。)の臭気の発生原因を根本的に解消し、長期間の貯蔵においても臭気の発生を効果的に抑制することを可能としたPKSの貯蔵方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電に使用する石油や石炭等の化石燃料の利用を抑制するため、近年、種々のバイオマス燃料が検討されている。その中に、PKSがある。上記PKSは、パーム椰子の果肉から分離され、胚平からパーム核油を搾取した後の殻であり、燃焼時の発熱量は4400kcal/kgと、木屑と比較しても高い発熱量を有している。
【0003】
前記パーム椰子の生産量の増大と共に年間1500万トンのPKSが発生し、その処理が問題となっている中で、該PKSを大量に処理する手段の一つとして、石炭等の発電用燃料としての利用が検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
ところが、PKSは、産地で収集され、船等により輸送後荷揚げされて貯蔵庫等に保管されるが、取り扱い時における不快臭が強く、作業環境はもとより、広範囲にわたる周辺環境をも害するという問題を有していた。
【0005】
前記かかる不快臭を防止する方法として、消臭剤の散布等が検討されているが、安価な燃料として優位性があるPKSに対して、処理費用の増大は経済的に不利となるばかりでなく、その効果も十分とは言えず、臭気対策が実用化に向けての大きな壁となっていた。また、PKSを炭化処理する方法も提案されており(特許文献2参照)、かかる方法によれば、使用時におけるPKSの臭気は低減できるが、炭化処理は、多大な設備と処理のためのエネルギーを必要する。しかも、上記炭化処理を行うまでには、PKSを船で輸送した場合、PKSが貯蔵された船倉からの貯蔵庫への搬入、貯蔵庫からの搬出の作業が存在し、かかる作業における臭気の課題は未だ解消されない。
【0006】
このように、PKSの利用において、臭気対策は、実用化に向けての大きな壁となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-268394号公報
【文献】WO2012/023479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、消臭剤を使用することなく、且つ、安価な手段により、長期間の貯蔵においても臭気の発生を効果的に抑制することを可能としたPKSの貯蔵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、PKSの臭気の原因についての根本的な研究を進めた結果、PKSの臭気は、PKSに含まれる殻油(高級脂肪酸)が嫌気性発酵して生成する分解物によるものであること、更には、かかる核油のごく僅かの量の分解生成物によるものであることを見出した。即ち、PKS採取時と臭気が発生した後との核油の量を調査した結果、核油の量は殆ど減少していない、換言すれば、嫌気性発酵はごく僅かの核油においても進行していることを確認した。そして、PKSの臭気は、極めて微量の核油の嫌気性発酵を抑制すればよいとの知見を得た。
【0010】
上記知見に基づき、更に検討を行った結果、PKS中の極めて微量の核油の嫌気性発酵により発生する臭気は、PKSの堆積物内に酸素含有ガス、例えば空気を流通せしめる操作により、かかる嫌気性発酵を容易に抑制することができこと、更に、PKSの堆積物は、その形状の特性により、その内部に酸素含有ガスを均一に流通させ易く、これによりPKSの貯蔵時における前記臭気の発生を極めて効果的に防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、パーム椰子種子殻を厚さが2m以上に堆積して貯蔵するに際し、水分量を5~15質量%に調整された、上記パーム椰子種子殻の堆積物中に酸素含有ガスを流通せしめることを特徴とするパーム椰子種子殻の貯蔵方法である。
【0012】
本発明において、前記堆積物中の酸素含有ガスの流通量が、標準状態の空気(酸素濃度21容量%)に換算した供給ガス量と上記堆積物の断面積から算出される断面平均流速で0.001m/秒以上となるように行うことが好ましい。
【0013】
また、貯蔵される前記堆積物の水分量を5~15質量%に調整することは、酸素含有ガスを堆積物中により均一に流通せしめることができ好ましい。
【0014】
更に、前記堆積物中の温度は、80℃以下に調整することにより嫌気性発酵をより効果的に抑えることができ好ましい。
【0015】
更にまた。前記パーム椰子種子殻に、燃焼可能な通気性補助材を混合することは、堆積物中の通気をより改善し、堆積物中により均一に酸素含有ガスを流通せしめることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、消臭剤などの使用をすることなく、また、十分な乾燥を行わなくとも、酸素含有ガス(空気)を流通させるという極めて簡易で安価な手段により臭気の発生を効果的に抑制しながらパーム椰子種子殻を長期間にわたり貯蔵することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を実施するために好適な装置の一態様を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、PKSは、前記したように、パーム核油を採取後の殻である。上記PKSは、入手後直ちに本発明の方法を適用することができるが、一般に入手可能なPKSには、パーム椰子房、パーム椰子ファイバー、石、木屑等の異物を含んでいることが多く、これらの異物はできるだけ除去することが好ましい。かかる除去方法は特に限定されないが、メッシュ30mm×30mm~メッシュ50mm×50mm(JIS規格3553、JIS記号CR―S)の篩にPKSをかけ、通過分を回収する方法が簡便であり、しかも、十分な除去効果を有する。
【0020】
また、本発明の貯蔵方法を適用するにあたり、PKSが湿潤した状態では、通気効率が悪く、酸素含有ガスを均一に流通させることが困難となる場合があるため、PKSが含有する水分量を20質量%以下、好ましくは、15質量%以下に調整しておくことが好ましい。かかる水分量の調整は、公知の乾燥方法、具体的には、天日乾燥、ロータリードライヤー、送風乾燥器などを使用することができる。
【0021】
尚、PKSが含有する水分量は少ないほど好ましいが、乾燥に費やす時間や費用を勘案した場合、2質量%、特に、5質量%を下限とすることが好ましい。
【0022】
本発明の方法は、PKSを堆積して貯蔵する際に適用される。PKSを堆積して貯蔵する具体的な態様を例示すれば、PKSを船舶の船倉に収容して輸送する態様、PKSをコンテナーやタンクなどの容器に詰めて輸送する態様、PKSを野積みして保管する態様、PKSを屋内の倉庫に収容して保管する態様などが挙げられる。
【0023】
尚、上記野積みの態様のように、上面が解放された貯蔵の態様においては、PKSの水分量が降雨により増加するのを防止するため、屋根、シート等の覆いを設けることが好ましい。また、貯蔵する容器が密閉容器の場合は、供給した酸素含有ガスを排出するためのガス排出口が適宜設けられる。
【0024】
上記PKSの堆積物の厚さが2m以上、特に3m以上である場合、前記嫌気性発酵が起こり易く、本発明はかかる貯蔵において特に効果的である。
【0025】
但し、上記堆積物の厚みがあまり高くなると後記の酸素含有ガスの流通がし難くなるため、かかる点を考慮してかかる厚みの上限を決定すればよい。また、堆積物の厚み方向の適当な位置に、通気性の支持体、具体的には多孔板などの仕切りを介在させることにより、ガス流速の均一性を向上させる態様が好ましい。
【0026】
本発明の特徴は、前記PKSの堆積物に対して、酸素含有ガスを流通させることにある。即ち、PKSの臭気の生成機構が極めて微量の核油の嫌気性発酵によることを解明した本発明者らは、堆積されたPKSに空気を代表とする酸素含有ガスを流通せしめるだけで、PKSからの臭気の発生が極端に低下することを見出した。また、この効果は、PKSが湿った状態でも十分効果があることを確認した。
【0027】
上記PKS堆積物に流通させる酸素含有ガスとして最も経済的なのは空気であり、本発明において空気が最も好適に使用される。また、空気に酸素を混合して酸素濃度を上げて使用することも可能であるが、酸素濃度を上げ過ぎると火災などの危険性が出てくるため、酸素含有ガスの酸素濃度は、50容量%以下に抑えることが好ましい。
【0028】
一方、前記酸素含有ガスは、酸素を含有していればよく、例えば、空気を火力発電所等の燃焼設備で助燃ガスとして使用して酸素濃度が低下したガスも酸素含有ガスとして有効に使用することができる。酸素含有ガスの酸素濃度の下限は、特に制限されるものではないが、1容量%、特に5容量%が好ましい。
【0029】
本発明において、前記PKS堆積物に流通させる酸素含有ガスの量は、堆積物の内部が嫌気性雰囲気となることを抑制できる量とすることが好ましい。
【0030】
具体的には、前記堆積物中の酸素含有ガスの流通量が、標準状態の空気(酸素濃度21容量%)に換算した単位時間あたりの供給ガス量と上記堆積物の断面積から算出される断面平均流速で0.001m/秒以上、好ましくは、0.005m/秒以上となるように調整することが、堆積物に対して十分な酸素を供給し、前記効果を確実に発揮するために好ましい。
【0031】
尚、上記PKS堆積物に酸素含有ガスをあまり多量に流通させても効果は頭打ちとなるばかりでなく、経済的にも不利となり、また、臭気の拡散を助長するため、前記断面平均流速の上限は、1m/秒、特に、0.1m/秒となるように調整することが好ましい。
【0032】
尚、空気以外の酸素含有ガスを使用する場合は、その酸素濃度に応じて前記断面平均流速を算出すればよい。
【0033】
本発明において、前記酸素含有ガスの流通量の最適値は、酸素濃度により効果の発現に多少の差があるため、前記ガス流量の範囲で、予め効果を確認しながら決定することが好ましい。
【0034】
本発明において、前記酸素含有ガスの流通は継続して行うが好ましいが、前記効果が得られる範囲内において断続的に行うこともできる。
【0035】
また、PKS貯蔵時の温度は特に制限されないが、温度が高いほど嫌気性発酵が進み易いため、堆積物中の最高温度が80℃以下、好ましくは、50℃以下となるように調整することが好ましい。かかる温度調整は、前記流通ガスによる除熱効果を利用してもよいし、貯蔵容器等に冷却装置を設置して行ってもよい。
【0036】
本発明において、PKS堆積物中への酸素含有ガスの流通は、上記堆積物の底面或いは側面より酸素含有ガスを供給する態様が挙げられるが、酸素含有ガスを堆積物に均一に流通させるためには、前記堆積物の底面より酸素含有ガスを供給することが好ましい。
【0037】
図1は、本発明を実施するために好適な装置の一態様を示す概略図である。
図1に示す装置は、例えば船倉1にバラ積みされて貯蔵されたPKSの堆積物2において、その底面に、ガス供給口を多数配置したパイプを並列に配置して構成された酸素含有ガス供給配管3が設置され、酸素含有ガスが例えばコンプレッサー4を使用して、上記酸素含有ガス供給配管3に供給され、上記堆積物中を流通するようにしたものである。
【0038】
図において、酸素含有ガス供給配管3は底面のみ配置する態様を示したが、酸素含有ガス供給配管3は、底面と併せて堆積物の中段にも配置し、酸素含有ガスを流通せしめることも可能である。
【0039】
また、他の態様として、船倉の底面にPKSが通過しない程度の孔を有する多孔板を敷き詰め、該多孔板上にPKSをバラ積みし、多孔板の下より酸素含有ガスを供給することも可能である。
【0040】
本発明において、前記PKSの堆積物中の酸素含有ガスの流通性については、PKSの独特の形状によりある程度の間隙が維持されるため、特に問題とすることはないが、より流通性を向上させるため、燃料として、PKSと共に燃焼させることが可能な通気性補助材を混合することがより好ましい。上記通気性補助材としては、かさ密度がPKSより小さいものが好適に使用される。具体的には、大鋸屑、木材チップ、稲わら、剪定枝などが好適に使用される。上記通気性補助材は、PKSと混合して使用する態様、PKSの堆積物の中間層として設ける態様などが挙げられる。また、PKSと混合して使用する態様において、通気性補助材の配合量は、5~50容量%程度、PKSの堆積物の中間層として設ける態様においては、通気性補助材の層の厚みは100~1000mm程度が好適である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明をより具体的に説明するため実施例を示すが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1
図1に示す装置を使用して、水分量が13質量%に調整されたマレーシア産のPKS(密度1.2kg/m
3)の貯蔵を行った。
【0043】
尚、船倉のモデルとして、底面に、1列あたり60個のガス供給口(10mmφ)を均等に設けたパイプ30本を均等に配置した、幅15m×長さ30m×高さ5mの容器を準備して実験を行った。
【0044】
上記容器に前記PKSを約3mの高さとなるように収容し、前記パイプよりコンプレッサーを使用して空気を供給した。空気の供給量は、断面平均速度が0.0111m/秒となるように調整した。
【0045】
前記PKSに空気を流通させながら3ヶ月間貯蔵した後、その堆積物の表面5カ所において、市販の臭気センサー(ポータブル型ニオイセンサ XP-329IIIR(商品名:新コスモス電機株式会社製))で臭気を測定した測定値は、各測定箇所において100以下(50程度)であった。
【0046】
比較例1
実施例1において、空気を流通させなかった以外は同様にして3ヶ月間貯蔵し、その表面5カ所において、前記市販の臭気センサーで臭気を測定した測定値は、各測定箇所において800を超えていた。
【符号の説明】
【0047】
1 船倉
2 PKSの堆積物
3 酸素含有ガス供給配管
4 コンプレッサー