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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】荷電粒子顕微鏡用の試料ホルダー
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 C
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020023907
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2020136275
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】19158550.4
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】マティス ぺトラス ウィルヘルムス ファン デン ボーガード
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ラグレンジ
(72)【発明者】
【氏名】ネストル ヘルナンデス ロドリゲス
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-199014(JP,A)
【文献】特開昭50-024072(JP,A)
【文献】特表2005-522833(JP,A)
【文献】特表2017-500722(JP,A)
【文献】実開昭61-048647(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第02824448(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/122260(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子顕微鏡用の試料ホルダーであって、
-試料をその中に含む試料キャリアを解放可能に受け入れるための凹部を有するホルダー本体と、
-前記試料キャリアを前記ホルダー本体の前記凹部内に固定するための、前記ホルダー本体に接続可能な少なくとも1つの固定要素と、を備え、
前記固定要素が、前記ホルダー本体に移動可能に接続されたクランプ部材を備えることを特徴とし、前記クランプ部材が、閉位置と開位置との間で移動可能であり、前記開位置では、前記試料キャリアが前記凹部に載置され得、前記閉位置では、前記試料キャリアが前記凹部にロックされ得、
前記クランプ部材は、アクチュエータ部材によって作動させることができ、
前記アクチュエータ部材が、前記クランプ部材を前記開位置に向かって押すように、前記開位置に向かう方向と平行な、前記アクチュエータ部材と前記ホルダー本体との間の相対的移動を生じさせるように、配置されている、試料ホルダー。
【請求項2】
前記クランプ部材が、前記開位置と前記閉位置との間で旋回可能である、請求項1に記載の試料ホルダー。
【請求項3】
前記クランプ部材がバネ要素を含む、請求項1または2に記載の試料ホルダー。
【請求項4】
前記バネ要素が、前記クランプ部材を前記閉位置に向かって付勢するように配置されている、請求項3に記載の試料ホルダー。
【請求項5】
前記クランプ部材が、前記閉位置で前記試料キャリアと直接係合するように配置されている、請求項1~のいずれか一項に記載の試料ホルダー。
【請求項6】
前記試料キャリアを前記ホルダー本体の前記凹部内に固定するための少なくとも1つのさらなる固定要素を備える、請求項1~のいずれか一項に記載の試料ホルダー。
【請求項7】
前記さらなる固定要素が、請求項1~のいずれか一項に規定されるクランプ部材として具現化される、請求項に記載の試料ホルダー。
【請求項8】
前記さらなる固定要素および前記クランプ部材が、前記凹部の両側に実質的に設けられている、請求項またはに記載の試料ホルダー。
【請求項9】
試料を検査するための荷電粒子顕微鏡であって、
-荷電粒子源、および前記荷電粒子源から放射された荷電粒子のビームを試料上に向けるための照明装置を含む光学カラムと、
-前記試料をその中に含む試料キャリアを保持するための、前記照明装置の下流に位置決めされた請求項1~のいずれか一項に記載の試料ホルダーと、
-前記荷電粒子源から放射された荷電粒子の入射に応答して、前記試料から生じる放射物を検出するための検出デバイスと、
-荷電粒子顕微鏡の操作を実行するための制御ユニットと、を備える、荷電粒子顕微鏡。
【請求項10】
前記クランプ部材を作動させるためのアクチュエータ部材をさらに備える、請求項に記載の荷電粒子顕微鏡。
【請求項11】
請求項1~のうちのいずれか一項に規定される試料ホルダー内に試料キャリアを載置する方法であって、前記方法が、
-前記クランプ部材を前記開位置に移動させる工程と、
-前記試料キャリアを前記試料ホルダーの前記凹部内に載置する工程と、
-前記クランプ部材を前記閉位置に移動させる工程と、を含む、方法。
【請求項12】
前記クランプ部材を前記開位置に移動させるためにアクチュエータ部材が使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アクチュエータ部材と前記試料ホルダーとの間の相対移動が使用される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡などの荷電粒子顕微鏡用の試料ホルダーであって、試料をその中に含む試料キャリアを解放可能に受け入れるための凹部を有するホルダー本体と、試料キャリアをホルダー本体の凹部内に固定するための、ホルダー本体に接続可能な少なくとも1つの固定要素とを備える、試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)では、例えば300keVのエネルギーを有する高エネルギーの平行電子ビームが試料に照射される。電子と試料との間の相互作用の結果として、ビーム内の電子は、例えば、偏向されるか、エネルギーを失うか、または吸収されることになり、これにより、試料に関する情報をもたらし得る。例えば、蛍光スクリーンおよび/またはCCDカメラに適切に衝突するように電子ビームを配置することにより、情報を可視化することができる。
【0003】
また、試料に、試料を横切って移動される集束ビームを照射することもできる。TEMのこの動作モード、いわゆる走査透過電子顕微鏡モード(STEMモード)では、二次電子やX線などの二次粒子の形態で位置に依存する情報が生成される。
【0004】
TEM試料は、例えば、100nm未満、好ましくは50nm未満と極めて薄い必要がある。現在、約15nmまで薄い試料厚を使用できる。薄い試料厚をもたらすために、TEMで調査する前に試料を薄くする。当業者に知られているように、試料を所望の厚さまでイオンミリングするために集束イオンビームが使用され、その後、試料をTEMに移すことができる。薄片化および移転は、当業者に知られているように、現場または現場外のリフトアウト技法を含んでもよい。
【0005】
このような脆弱な物体の取り扱いと輸送を改善するために、例えば、薄片化の前後に、試料は通常、いわゆるグリッドに搭載される。現場のリフトアウト技法は、いわゆる半月グリッドを使用することができ、この場合、材料の塊がグリッドの突出要素に取り付けられ、その後、例えば集束イオンビーム(FIB)を使用して所望の厚さまで薄くされる。試料が所望の厚さになると、(試料を含んだ)半月グリッドがTEMに移され、試料が調査可能になる。現場外のリフトアウト技法では、例えば、直径2~5mm、厚さ10μm~40μmの丸く薄い箔の形態のグリッドを使用することができる。そのような箔の中央部分は金網として具体化され、それにより、電子は箔の材料に吸収されることなく、試料および金網の穴を通って移動することができる。この技法では、試料は、例えばFIBを使用して、対象の材料から掘削される。所望の厚さに達すると、試料は材料から持ち上げられて箔の上に載置される。次いで、グリッドは、さらに調査するためにTEMに移される。
【0006】
ビームに対する試料の位置を操作できるように、グリッドは、いわゆるTEMロッドの外端に搭載されている。TEMロッドは、試料に所望の位置移動を加えるためのステージマニピュレータに接続されている。
【0007】
既知の方法によれば、試料を含むグリッドがTEMロッドの凹部に位置決めされ、次に、円形リングを使用してグリッドがTEMロッドに固定される。わずか約10マイクロメートルの厚さの極めて脆弱なグリッドをTEMロッドに固定することは、比較的危険で複雑なプロセスである。円形リングを載置するには、多くの専門知識が必要であり、時間を要する。このプロセスでは、試料は損傷する危険に常にさらされる。
【発明の概要】
【0008】
この既知の方法を改善することが目的である。具体的には、この既知の方法の速度および/または信頼性を向上させ、かつ試料が損傷するリスクを減らすことが目的である。
【0009】
この目的のために、荷電粒子顕微鏡用の試料ホルダーが提供される。いわゆるTEMロッドであってもよい試料ホルダーは、細長いロッドに設けられた開口などの凹部を有するホルダー本体を備える。凹部は、試料を含む、グリッドなどの試料キャリアをその中に解放可能に受け入れるように配置されている。試料ホルダーは、ホルダー本体に接続されているか、またはそれに少なくとも接続可能な、試料キャリアをホルダー本体の凹部内に固定するための少なくとも1つの固定要素を備える。
【0010】
本開示によれば、固定要素は、ホルダー本体に移動可能に接続されたクランプ部材を備える。クランプ部材は、閉位置と開位置との間で移動可能である。開位置では、クランプ部材は、試料キャリアが凹部に載置され得るように位置決めされている。閉位置では、クランプ部材は、試料キャリアを凹部に直接的または間接的にロックするように配置されている。
【0011】
ホルダー本体に接続された可動クランプ部材は、試料を含む試料キャリアの試料ホルダーへの向上された取り付けを可能にする。クランプ部材を開位置に移動させ、試料キャリアを凹部に載置し、クランプ部材を再び閉位置に移動させるだけで、迅速かつ信頼性の高い取り付けが可能になる。クランプ部材がホルダー本体に接続されているため、クランプ部材を開位置と閉位置との間で移動させることは比較的簡単であり、クランプ部材の移動は試料ホルダーを試料ホルダー内にしっかり固定する信頼性の高い方法を提供する。これにより、試料ホルダーに試料キャリアを塔載するための信頼性が高く安全で迅速な方法が得られ、これにより、本明細書に規定される目的が達成される。
【0012】
さらに、可動クランプ部材の使用は、非常にコンパクトな方法でホルダー本体を具現化する可能性を提供する。コンパクトな構造は、例えば、試料を傾けることを可能にするため、有益である。さらに、コンパクトな構造は、例えば、EDX分析用に大きな開口角を確立するのに役立つ。
【0013】
有利な実施形態を以下に説明する。
【0014】
一実施形態では、クランプ部材は、開位置と閉位置との間で旋回可能である。クランプ部材を旋回させることにより、コンパクトな構造ならびにクランプ部材の簡単な操作が可能になる。グリッドがホルダー本体の水平面に載置され、可動クランプ部材がグリッドを閉位置の所定の位置に保持することが考えられる。これにより、TEMでの調査中にいわゆるシャドーイングを防ぐコンパクトな構造が提供される。
【0015】
一実施形態では、クランプ部材はバネ要素を含む。バネ要素は、クランプ部材に所望のクランプ力を提供して、試料キャリアが所定の位置にしっかりと保持されるようにすることができる。さらなる実施形態では、バネ要素は、クランプ部材を閉位置に向けて付勢するように配置されている。このようにして、クランプ部材は閉位置に向かって強制され、デフォルト設定で試料キャリアを所定の位置に保持する。したがって、搭載の信頼性が向上する。
【0016】
クランプ部材は、アクチュエータ部材によって作動させることができると考えられる。作動部材は、自動的に、または、例えば、電子顕微鏡のユーザによって作動され得る。
【0017】
一実施形態では、アクチュエータ部材は、少なくとも、クランプ部材を開位置に向かって押すように配置されている。クランプ部材を閉位置に向かって付勢するバネ要素と組み合わせて、これは、迅速で信頼性が高く簡単な、試料キャリアを試料ホルダーに搭載する方法を提供する。
【0018】
一実施形態では、クランプ部材は、閉位置で試料キャリアと直接係合するように配置されている。このようにして、構成要素が少ないコンパクトでシンプルな構造が得られる。
【0019】
一実施形態では、試料ホルダーは、試料キャリアをホルダー本体の凹部内に固定するための少なくとも1つのさらなる固定要素を備える。さらなる固定要素を使用することにより、より確実な搭載が可能になる。固定要素およびさらなる固定要素は、互いに異なっていてもよいことが留意される。例えば、固定要素は、旋回可能なクランプ部材であってもよく、一方、さらなる固定要素は、例えば、バネ要素であってもよい。しかしながら、一実施形態では、固定要素およびさらなる固定要素は、互いに実質的に類似している。
【0020】
具体的には、さらなる固定要素は、本明細書に記載されるような1つ以上の実施形態によるクランプ部材として具現化される。
【0021】
一実施形態では、さらなる固定要素およびクランプ部材は、凹部の両側に実質的に設けられる。これにより、凹部内の試料キャリアの固定が、試料キャリアの対向する側から確立されることが可能になり、これにより、凹部へのより信頼性の高い確実な搭載が提供される。
【0022】
一態様によれば、試料を検査するための荷電粒子顕微鏡であって、
-荷電粒子源、および荷電粒子源から放射された荷電粒子のビームを試料上に向けるための照明装置を含む光学カラムと、
-試料をその中に含む試料キャリアを保持するための、照明装置の下流に位置決めされた上述のような本開示による試料ホルダーと、
-荷電粒子源から放射された荷電粒子の入射に応答して、試料から生じる放射物を検出するための検出デバイスと、
-荷電粒子顕微鏡の操作を実行するための制御ユニットと、を備える、荷電粒子顕微鏡が提供される。
【0023】
このような荷電粒子顕微鏡の利点は、本発明による方法に関して既に上記で明らかにされている。
【0024】
一実施形態では、荷電粒子顕微鏡は、クランプ部材を作動させるためのアクチュエータ部材を備える。具体的には、アクチュエータ部材は、クランプ部材を開位置に向かって押すように配置されている。一実施形態では、クランプ部材は、閉位置に向かって付勢されるように配置されている。このようにして、アクチュエータ部材を使用してクランプ部材を開位置に向かって押すことができ、アクチュエータ部材をクランプ部材から離れて移動させることにより、クランプ部材が閉位置に移動されることが保証される。これにより、試料ホルダー内の試料キャリアの簡単で信頼性の高い位置決めが可能になる。
【0025】
一態様によれば、本明細書に規定されるような試料ホルダーに試料キャリアを載置するための方法であって、
-クランプ部材を開位置に移動させる工程と、
-試料キャリアを試料ホルダーの凹部内に載置する工程と、
-クランプ部材を閉位置に移動させる工程と、を含む、方法が提供される。
【0026】
一実施形態では、試料キャリアを試料ホルダーの凹部内に載置するためにツールが使用される。ツールは、例えば、ピンセット様のツールであってもよい。この方法は、試料キャリアからツールを解放しかつ/または取り外すステップを含む。一実施形態によれば、クランプ部材を閉位置に移動させる工程は、ツールを試料キャリアから解放しかつ/または取り外す工程の前に実行される。このようにして、いわゆる能動的引き継ぎが有効になり、これは、試料キャリアが試料ホルダーに安全に搭載されることを保証する。
【0027】
既に上記で述べたように、アクチュエータ部材を使用して、クランプ部材を開位置に移動させることが考えられる。具体的には、アクチュエータ部材と試料ホルダーとの間の相対移動が、クランプ部材を開位置に移動させるために使用される。例えば、アクチュエータの平行移動を使用して、クランプ部材を開位置に押してもよい。
【0028】
次に、本明細書に記載の試料ホルダーのいくつかの実施形態を示す添付図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】荷電粒子顕微鏡の概略図である。
図2a図2aは、本明細書に開示されるような試料ホルダーの実施形態の概略図である。
図2b図2bは、本明細書に開示されるような試料ホルダーの実施形態の概略図である。
図3a図3aは、試料ホルダーのクランプ部材を操作するアクチュエータの側面図である。
図3b図3bは、試料ホルダーのクランプ部材を操作するアクチュエータの側面図である。
図4a図4aは、本明細書に開示されるような試料ホルダーのさらなる実施形態の概略図である。
図4b図4bは、本明細書に開示されるような試料ホルダーのさらなる実施形態の概略図である。
図5a図5aは、本明細書に開示されるような試料ホルダーのさらなる実施形態の概略図である。
図5b図5bは、本明細書に開示されるような試料ホルダーのさらなる実施形態の概略図である。
図6】本明細書に開示されるような試料ホルダーのさらなる実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1(縮尺通りではない)は、本明細書に開示されるような試料ホルダーが使用され得る荷電粒子顕微鏡Mの実施形態の極めて概略的な描写である。より具体的には、この場合において、図1は、TEM/STEMである透過型顕微鏡Mの1つの実施形態を示す(ただし、本発明の文脈では、例えば、SEM、またはイオンベース顕微鏡も同様に有効であり得る)。図1では、真空筐体2内において電子源4は、電子光学軸B´に沿って伝搬し、電子光学イルミネータ6を横断する電子のビームBを生成し、試料S(例えば、(局所的に)薄くされ/平坦化されてもよい)の選択された部分に電子を向ける/集束する働きをする。さらに図示されるのは偏向器8であり、偏向器8は(とりわけ)、ビームBの走査運動をもたらすために使用することができる。
【0031】
試料Sは、試料ホルダーHに搭載された試料キャリアC(図示せず)上に保持されており、この試料ホルダーHは、ホルダーHが(取り外し可能に)取り付けられているステージA′を移動させる位置決めデバイスAによって多自由度に位置決めすることができる。例えば、試料ホルダーHは、(とりわけ)XY平面内で動くことができる(図示されているデカルト座標系を参照されたい;通常、Zに平行、かつX/Yを中心として傾斜(アルファ傾斜/ベータ傾斜とそれぞれ呼ばれる)した動き)フィンガーを備えてもよい。このような動きにより、試料Sの異なる部分が、軸線B´(Z方向)に沿って進む電子ビームBによって照明/撮像/検査されることを可能にする(および/または、走査する動きがビーム走査の代替として実行されることを可能にする)。所望に応じて、冷却デバイス(図示されていないが、当業者に知られている)を試料ホルダーHと密接に熱接触させ、例えば、試料ホルダーH(およびその上の試料S)を極低温に保持することができる。
【0032】
電子ビームBは、試料Sと相互作用して、(例えば)二次電子、後方散乱電子、X線、および光学的放射(陰極線発光)を含む様々な種類の「誘導(stimulated)」放射線が試料Sから放出されるようになる。所望に応じて、例えば、シンチレータ/光電子増倍管、またはEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールを組み合わせた検出デバイス22の補助により、これらの放射線の種類のうちの1つ以上を検出することができ、このような場合には、SEMと基本的に同じ原理を使用して画像を構築することができる。しかし、試料Sを横断(通過)し、試料から放射/放出され軸線B´に沿って(実質的には、一般的に、ある程度偏向/散乱しながら)伝搬し続ける電子を代替的に、または補足的に調査することができる。このような透過電子束は、撮像システム(投影レンズ)24に入射し、撮像システム24は一般的に、多種多様な静電レンズ/磁気レンズ、偏向器、補正器(例えばスティグメータのような)などを備えている。通常の(非走査)TEMモードでは、この撮像システム24は、透過電子束を蛍光スクリーン26に集束させることができ、蛍光スクリーン26は、必要に応じて、それを軸B´の邪魔にならないように後退/回収する(矢印26´で概略に示すように)ことができる。試料Sの(一部の)画像(または、フーリエ変換図形)は、撮像システム24によりスクリーン26上に形成され、この画像は、筐体2の壁の好適な部分に位置する視認ポート28を介して視認することができる。スクリーン26の格納機構は、例えば、本質的に機械的および/また電気的であり得るが、図面には示されていない。
【0033】
スクリーン26上の画像を視認することの代替として、撮像システム24から出ていく電子束の焦点深度が一般的に、極めて深い(例えば、約1メートル)という事実を代わりに利用することができる。この結果、様々な他の種類の分析装置をスクリーン26の下流で使用することができ、例えば、
-TEMカメラ30。カメラ30の位置に、電子束は、静止画像(または、フーリエ変換図形)を形成することができ、静止画像は、コントローラ/またはプロセッサ20により処理することができ、例えばフラットパネルディスプレイのような表示デバイス(図示せず)に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、後退/回収(矢印30´で概略に示すように)されて、カメラを軸線B´から外れるようにすることができる。
-STEMカメラ32。カメラ32からの出力は、試料S上のビームBの(X、Y)走査位置の関数として記録することができ、X、Yの関数としてのカメラ32からの出力の「マップ(map)」である画像を構築することができる。カメラ32は、カメラ30に特徴的に存在する画素行列とは異なり、例えば直径が20mmの1個の画素を含むことができる。さらに、カメラ32は、一般的に、カメラ30(例えば、10画像/秒)よりも非常に高い取得速度(例えば、10ポイント/秒)を有することになる。この場合も同じく、必要でない場合、カメラ32は、(矢印32´で概略に示すように)後退/回収されて、カメラを軸線B´から外れるようにすることができる(このような後退は、例えばドーナツ形の環状暗視野カメラ32の場合には必要とされないが、このようなカメラでは、中心孔により、カメラが使用されていなかった場合に電子束を通過させることができる)。
-カメラ30または32を使用して撮像を行うことの代替として、例えば、EELSモジュールとすることができる分光装置34を呼び出すこともできる。
【0034】
部品30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、撮像システム24と一体化することもできる。
【0035】
示される実施形態では、顕微鏡Mは、符号40で概して示される、後退可能なX線コンピュータ断層撮影(CT)モジュールをさらに備える。コンピュータ断層撮影(断層撮像とも称される)では、源および(互いに対向する)検出器が、様々な視点から試料の透過観察を取得するように、異なる視線に沿って試料を調べるために使用される。
【0036】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、図示される様々な構成要素に、制御線(バス)20´を介して接続されることに留意されたい。このコントローラ20は、作用を同期させる、設定値を提供する、信号を処理する、計算を実行する、およびメッセージ/情報を表示デバイス(図示せず)に表示するといった様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(模式的に描かれる)コントローラ20は、筐体2の内側または外側に(部分的に)位置させることができ、所望に応じて、単体構造または複合構造を有することができる。
【0037】
当業者であれば、筐体2の内部が気密な真空状態に保持される必要はないことを理解できるであろう。例えば、いわゆる「環境制御型TEM/STEM」では、所与のガスの背景雰囲気が、筐体2内に意図的に導入される/維持される。当業者はまた、実際には、筐体2の容積を閉じ込めて、可能であれば、筐体2が、軸線B´を本質的に包み込むようになって、採用する電子ビームが小径管内を通過し、しかも広がって源4、試料ホルダーH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34などのような構造を収容する小径管(例えば、直径約1cm)の形態を採ると有利となり得ることを理解するであろう。
【0038】
図2aおよび2bは、図1に示される透過型電子顕微鏡などの荷電粒子顕微鏡で使用できるが、SEMまたはFIBデバイスにも同様に適用できる、本開示による試料ホルダーHの実施形態を示す。
【0039】
試料ホルダーHは、図1に示すように、位置決めデバイスAのステージA´に接続可能なホルダー本体51を備えている。ホルダー本体51の外端52には、凹部54が設けられている。ホルダーHは、凹部内に設けられ、ホルダー本体51に接続されたクレードル10を備えている。クレードル10は、旋回軸Tを中心に旋回可能である(いわゆるベータ傾斜)。クレードルで、凹部は、試料S(縮尺通りではない)を含む試料キャリアCをその中に解放可能に受け入れるように配置されている。図示された例では、試料キャリアCはクレードルTに接続可能である。図示された試料キャリアCは半月グリッドであるが、他のグリッド形状およびグリッドタイプが可能であり、本発明は半月グリッドの使用に限定されないことが留意される。他の形状には、リング形状、環状、または実質的に閉じた輪郭形状のグリッドも含んでよい。機械的支持輪郭(ここでは図示せず)、例えば、リング形状の輪郭も提供されてよい。その場合、試料キャリアCは、機械的支持輪郭内に載置され、その方法で試料ホルダーHに搭載されてもよい。
【0040】
図2aおよび2bに示すように、試料ホルダーHは、機械的支持輪郭が使用される場合に、試料キャリアCを、例えば、ホルダー本体Hの凹部54内に、直接または間接的に固定するための、ホルダー本体Hに接続された第1の固定要素56を備える。固定要素56は、ホルダー本体に移動可能に接続されたクランプ部材56を備え、クランプ部材は、開位置(図2aに示す)と閉位置(図2bに示す)との間で移動可能である。開位置では、クランプ部材56は凹部54から離れるように移動し、それにより、試料キャリアCを凹部54に載置することが可能になる。閉位置では、クランプ部材56は、試料キャリアCを凹部54にロックする。
【0041】
図示の実施形態では、クランプ部材56は、開位置と閉位置との間で旋回可能な旋回可能回転バネである。バネ要素を設けることにより、図2bに示すように、クランプ部材56を閉位置に向かって強制し、凹部内に載置されたときに試料キャリアCを所定の位置にしっかりと保持することができる。
【0042】
図2aおよび2bに示されるように、試料ホルダーHは、さらなる固定要素57も備える。さらなる固定要素57は、試料キャリアCをホルダー本体Hの凹部54内に固定するように配置されている。示される実施形態において、機械的支持輪郭が使用される場合、さらなる固定要素57は、試料キャリアCを直接または間接的のどちらかで固定するためにホルダー本体Hの凹部54に接続される。さらなる固定要素57は、ホルダー本体Hに移動可能に接続されたさらなるクランプ部材57を備え、クランプ部材は、開位置(図2aに示す)と閉位置(図2bに示す)との間で移動可能である。開位置では、クランプ部材57は凹部54から離れるように移動され、それにより、試料キャリアCを凹部54に載置することが可能になる。閉位置では、クランプ部材57は、試料キャリアCを凹部54にロックする。
【0043】
したがって、この実施形態では、さらなる固定要素57は、固定要素56と同様に具現化されるが、試料キャリアCをその両側から固定するために凹部の両側に設けられる。さらなる固定要素57は、同様に、旋回可能な回転バネであり、これは、開位置と閉位置との間で旋回可能である。バネ要素を設けることにより、図2bに示すように、クランプ部材57を閉位置に向かって強制し、凹部内に載置されたときに試料キャリアCを所定の位置にしっかりと保持することができる。このように2つのクランプ部材56、57を設けることにより、試料キャリアCは信頼できる方法で所望の位置に保持される。さらに、2つの旋回可能な回転バネの形状の2つのクランプ部材56、57を使用すると、試料キャリアの所望の傾きを提供し、かつ、例えば、EDX分析用に有益である大きな開口角を提供するのに役立つ、試料ホルダーHの極めてコンパクトな構造が可能になる。
【0044】
図3aおよび3bは、固定要素56、57の閉位置および開位置にある、図2aおよび2bの実施形態における試料ホルダーHを、それぞれ、示す。図3に示すように、アクチュエータ部材80は、それぞれの固定要素56、57を開閉するために使用される。アクチュエータ部材80は、2つのアクチュエータ突起81、82内に外向きかつ上方に延在するアクチュエータ本体を備える。アクチュエータ突起81、82は、(図3bに示されるように)バネ要素56、57を開位置に向かって押すように配置されている。これは、アクチュエータ部材80と試料ホルダーHとの間の相対移動により行うことができる。一実施形態では、試料ホルダーHは静止状態に保持され、アクチュエータ部材80は上方に移動される。開位置(図3b)では、試料キャリアCが凹部54に載置され、その後、アクチュエータ部材80が再び下方に移動されて、固定要素56、57を所定の位置にスナップ留めすることができる。このようにして、キャリアは試料ホルダーHにしっかりと搭載される。
【0045】
多くの場合、試料キャリアCを所定の位置に位置決めするためにツールが使用される。先行技術の試料ホルダーでは、これは、試料キャリアCを凹部に位置決めし、次いでツールを試料キャリアCから解放することを含んでいた。これは、試料キャリアCの望ましくない再位置決め、例えば、試料ホルダーHに対する持ち上げ移動をもたらし得る。本明細書に開示されるような、および、例えば、図2aおよび2bに示されるような、試料ホルダーHを使用することにより、いわゆる能動的引き継ぎが可能である。これは、試料キャリアCが、凹部に位置決めされ、かつ、試料キャリアCからツールを解放する前に、固定要素56、57によって能動的に引き継がれることを意味する。言い換えると、試料キャリアCはツール(図示せず)を使用して凹部54内に位置決めすることができ、ツールがまだ試料キャリアCと接触している間に、固定要素56、57を使用して、試料キャリアCを試料ホルダーHに固定して搭載する。
【0046】
図4aおよび4bは、本明細書に開示される試料ホルダーHの異なる実施形態を示す。ここに示される試料ホルダーHは、図2aおよび2bに示される試料ホルダーHと極めて類似しているが、固定要素156、157、158の実施形態において主に異なる。したがって、試料ホルダーHは、試料をその中に含む試料キャリアCを解放可能に受け入れるための凹部54を有するホルダー本体を備える。試料ホルダーHは、ホルダー本体51に接続され、試料キャリアCをホルダー本体51の凹部54に固定するように配置された合計3つの固定要素156、157、158を備える。固定要素は、それぞれがホルダー本体51に移動可能に接続された旋回可能なクランプ部材156、157、158として、具現化される。図4aでは、クランプ部材156、157、158は、試料キャリアCが凹部54内にロックされる閉位置に移動される。図4bでは、クランプ部材156、157、158は開位置に移動され、クランプ部材が上方に旋回され、試料キャリアCが凹部54に載置され得る。
【0047】
クランプ部材156、157、158を互いに相互接続するCクリップ161が提供される。Cクリップは、これらのクランプ部材156、157、158に設けられた穴を通り抜けており、このようにして、Cクリップを具現化して、クランプ部材156、157、158を図4aに示すような閉位置に押し込むための付勢力を提供することができる。例えば、図3に示すようなアクチュエータ部材によってクランプ部材156、157、158を押したり引いたりすることにより、クランプ部材156、157、158を開位置に向けていくことにより、Cクリップにより提供される付勢力に打ち勝ち、かつ、クランプ部材156、157、158を、試料キャリアCを試料ホルダーHに装填するために、開位置に持っていくことができる。
【0048】
図5aおよび5bは、試料ホルダーHの実施形態を示しており、試料キャリアをホルダー本体51の凹部内に固定するために、ホルダー本体51に接続された2つの固定要素256、257が設けられている。ここに示される固定要素は、細長い柔軟な梁の形状の2つのクランプ部材256、257を備える。梁256、257の柔軟な性質により、それらは、閉位置(図3aに示される)と開位置(図3bに示される)との間でホルダー本体51に移動可能に接続される。可撓性梁256、257は、末端ブロック261、262に設けられている。末端ブロック261、262間の相対的な移動により、可撓性ビーム256、257が座屈し、凹部54から離れて開位置に向かって移動されて凹部に試料キャリアCを装填するための空間を提供するまで、可撓性ビーム256、257を充填することができる。
【0049】
図6は、単一の固定要素356が使用される試料ホルダーHの別の実施形態を示し、固定要素356は、開位置(図6に示す)と試料キャリアCがクランプ部材356によって包囲される閉位置との間で移動可能な旋回可能なクランプ部材356として具現化される。クランプ部材356はC形状であり、外端371、372は互いに向かって移動可能である。このようにして、これらは、ホルダー本体51に設けられたロック要素361、362の背後に持っていかれて、クランプ部材356を閉位置にロックすることができる。開閉は、例えば、ピンセット様ツールの形態のアクチュエータ部材によって行うことができる。
【0050】
上記で、試料ホルダーHのいくつかの実施形態を説明してきた。所望の保護は、添付の特許請求の範囲によって付与される。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図6