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特許7486440AM装置に使用されるDEDノズルおよびDEDノズルに着脱可能なアダプタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】AM装置に使用されるDEDノズルおよびDEDノズルに着脱可能なアダプタ
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/34 20140101AFI20240510BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240510BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240510BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240510BHJP
【FI】
B23K26/34
B33Y30/00
B33Y10/00
B23K26/21 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021004335
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022109027
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 弘行
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-88154(JP,A)
【文献】米国特許第4724299(US,A)
【文献】特表2019-500246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B33Y 30/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AM装置に使用されるDEDノズルであって、
DEDノズル本体と、
前記DEDノズル本体の先端に設けられたレーザー光を出射させるためのレーザー口と、
前記レーザー口に連通する、前記DEDノズル本体内をレーザー光が通過するためのレーザー通路と、
前記DEDノズル本体の先端に設けられた粉体材料を出射させるための粉体口と、
前記粉体口に連通する、前記DEDノズル本体内を粉体材料が通過するための粉体通路と、を有し、
前記粉体通路および前記粉体口の向きは、
前記粉体口から造形点までの距離、
前記粉体口から出射される粉体材料の速度、および
重力加速度、
に基づいて決定されている、
DEDノズル。
【請求項2】
請求項1に記載のDEDノズルであって、
前記粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記粉体通路および前記粉体口の向きが決定されている、
DEDノズル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のDEDノズルであって、
前記粉体口から出射された粉体およびレーザー口から出射されたレーザーは造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように構成されている、
DEDノズル。
【請求項4】
AM装置に使用されるDEDノズルに着脱可能なアダプタであって、
前記DEDノズルに取り付けられたときに、前記DEDノズルのレーザー通路に連通する、アダプタレーザー通路と、
前記アダプタレーザー通路を通ったレーザーを出射させるためのアダプタレーザー口と、
前記DEDノズルに取り付けられたときに、前記DEDノズルの粉体通路に連通する、アダプタ粉体通路と、
前記アダプタ粉体通路を通った粉体材料を出射させるためのアダプタ粉体口と、を有し、
前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きは、
前記アダプタ粉体口から造形点までの距離、
前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度、および
重力加速度、
に基づいて決定されている、
アダプタ。
【請求項5】
請求項4に記載のアダプタであって、
前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きが決定されている、
アダプタ。
【請求項6】
請求項4または5に記載のアダプタであって、
前記アダプタ粉体口から出射された粉体およびアダプタレーザー口から出射されたレーザーが造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように構成されている、
アダプタ。
【請求項7】
AM装置に使用されるDEDノズルの設計方法であって、
DEDノズル本体の先端に設けられる粉体材料を出射するための粉体口の向き、および、前記DEDノズル本体内を粉体材料が通過するための、前記粉体口に連通する粉体通路の向きを、
前記粉体口から造形点までの距離、
前記粉体口から出射される粉体材料の速度、および
重力加速度、
に基づいて決定する、
方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記粉体通路および前記粉体口の向きを決定する、
方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法であって、
前記粉体口から出射された粉体およびレーザー口から出射されたレーザーは造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように前記粉体通路および前記粉体口の向きを決定する、
方法。
【請求項10】
AM装置に使用されるDEDノズルに着脱可能なアダプタの設計方法であって、
DEDノズル本体の先端に取り付けられた状態で、粉体材料を出射するためのアダプタ粉体口の向き、および、前記アダプタ粉体口に連通するアダプタ粉体通路の向きを、
前記アダプタ粉体口から造形点までの距離、
前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度、および
重力加速度、
に基づいて決定する、
方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きを決定する、
方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の方法であって、
前記アダプタ粉体口から出射された粉体およびアダプタレーザー口から出射されたレーザーが造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きを決定する、
方法。
【請求項13】
請求項1から3のいずれか一項のDEDノズル、または請求項4から6のいずれか一項のアダプタ、を有するAM装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、AM装置に使用されるDEDノズルおよびDEDノズルに着脱可能なアダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
三次元物体を表現したコンピュータ上の三次元データから、三次元物体を直接的に造形する技術が知られている。たとえば、Additive Manufacturing(AM)(付加製造)法が知られている。一例として、デポジション方式のAM法としてダイレクトエナジーデポジション(DED)がある。DEDは、金属材料を局所的に供給しながら適当な熱源を用いて基材と共に溶融、凝固させることで造形を行う技術である。また、AM法の一例として、パウダーベッドフュージョン(PBF)がある。PBFは、二次元的に敷き詰められた金属紛体に対して、造形する部分に熱源であるレーザービームや電子ビームを照射して、金属紛体を溶融・凝固または焼結させることで三次元物体の各層を造形する。PBFでは、このような工程を繰り返すことで、所望の三次元物体を造形することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-88154号公報
【文献】米国特許第4724299号明細書
【文献】国際公開93/013871号
【文献】特開2005-219060号公報
【文献】特表2019-500246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PBFのように金属粉体を二次元的に敷き詰めた後に、金属粉体に対してまたは金属粉体の上にDEDノズルを用いてレーザービームを照射して三次元物体の各層を造形することもできる。しかし、このような場合、一般に、DEDノズルは材料となる粉体材料やキャリアガスをDEDノズルから供給しながら造形を行うので、キャリアガスの供給により予め敷き詰めてある金属粉体を吹き飛ばしてしまい、予定している造形を困難にしてしまう。本願は、DEDノズルを用いて、予め敷き詰められた粉体材料の上に対して造形するための技術を提供することを1つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、AM装置に使用されるDEDノズルが提供され、かかるDEDノズルは、DEDノズル本体と、前記DEDノズル本体の先端に設けられたレーザー光を出射させるためのレーザー口と、前記レーザー口に連通する、前記DEDノズル本体内をレーザー光が通過するためのレーザー通路と、前記DEDノズル本体の先端に設けられた粉体材料を出射させるための粉体口と、前記粉体口に連通する、前記DEDノズル本体内を粉体材料が通過するための粉体通路と、を有し、前記粉体通路および前記粉体口の向きは、前記粉体口から造形点までの距離、前記粉体口から出射される粉体材料の速度、および、重力加速度、に基づいて決定されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態による、造形物を製造するためのAM装置を概略的に示す図である。
図2】一実施形態による、DEDノズルの断面を概略的に示す図である。
図3】参考例としての従来のDEDノズルの断面を概略的に示す図である。
図4】DEDノズルから出射される粉体粒子の軌跡を説明する図である。
図5】一実施形態による、所与の条件により粉体粒子をDEDノズルから出射したときの粉体粒子の軌跡を示す概略図である。
図6】一実施形態による、所与の条件により粉体粒子をDEDノズルから出射したときの粉体粒子の軌跡を示す概略図である。
図7】一実施形態による、所与の条件により粉体粒子をDEDノズルから出射したときの粉体粒子の軌跡を示す概略図である。
図8】一実施形態による、所与の条件により粉体粒子をDEDノズルから出射したときの粉体粒子の軌跡を示す概略図である。
図9】一実施形態による、所与の条件により粉体粒子をDEDノズルから出射したときの粉体粒子の軌跡を示す概略図である。
図10】一実施形態による、アダプタが取り付けられたDEDノズルの断面を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明に係る造形物を製造するためのAM装置、AM装置に使用されるDEDノズル、およびDEDノズルに着脱可能なアダプタの実施形態を添付図面とともに説明する。添付図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0008】
図1は、一実施形態による、造形物を製造するためのAM装置を概略的に示す図である。図1に示されるように、AM装置100は、ベースプレート102を備える。ベースプレート102上に造形物Mが造形されることになる。ベースプレート102は、造形物Mを支持することができる任意の材料から形成されるプレートとすることができる。一実施形態において、ベースプレート102は、XYステージ104の上に配置される。XYステージ104は、水平面内で直交する二方向(x方向、y方向)に移動可能なステージ104である。なお、XYステージ104は、高さ方向(z方向)に移動可能なリフト機構に連結されていてもよい。また、一実施形態においては、XYステージ104はなくてもよい。
【0009】
一実施形態において、図1に示されるように、AM装置100は、DEDヘッド200を備える。DEDヘッド200は、レーザー源202、粉体材料源204、およびガス源206に接続されている。DEDヘッド200は、DEDノズル250を有する。DEDノズル250は、レーザー源202、粉体材料源204、およびガス源206からのレーザー、粉体材料、およびガスを噴射するように構成される。
【0010】
DEDヘッド200は任意のものとすることができ、たとえば公知のDEDヘッドを使用することができる。DEDヘッド200は、移動機構220に連結されており、移動可能に構成される。移動機構220は、任意のものとすることができ、たとえば、レールなどの特定の軸に沿ってDEDヘッド200を移動可能なものとしてもよく、あるいは、任意の位置および向きにDEDヘッド200を移動させることができるロボットから構成されてもよい。一実施形態として、移動機構220は、直交する3軸に沿ってDEDヘッド200を移動可能に構成することができる。
【0011】
一実施形態によるAM装置100は、図1に示されるように制御装置170を有する。
制御装置170は、AM装置100の各種の動作機構、たとえば上述のDEDヘッド200、各種の動作機構220などの動作を制御するように構成される。制御装置170は、一般的なコンピュータまたは専用コンピュータから構成することができる。
【0012】
図2は、一実施形態によるDEDノズル250の断面を概略的に示す図である。図示の実施形態によるDEDノズル250は、全体として切頭円錐形状のDEDノズル本体259を備える。図示の実施形態によるDEDノズル250は、DEDノズル本体259の中心に、レーザー源202から導かれるレーザー251が通過する第1通路252を備える。第1通路252を通ったレーザー251は、DEDノズル本体259のレーザー口252aから放出される。一実施形態において、第1通路252は断面が円形の通路であり、図示のようにレーザー口252aに向かって断面の円形の半径が小さくなるように形成されている。また、一実施形態として、第1通路252は、断面の円形の半径が一定の通路としてもよい。
【0013】
また、DEDノズル本体259は、第1通路252の外側に、粉体材料源204から供給される粉体材料、およびガス源206から供給される粉体材料を輸送するためのキャリアガスが通過する第2通路254を備える。第2通路254を通った粉体材料は粉体口254aから放出される。一実施形態において、第2通路254は、第1通路252を囲う1つのリング状の断面を持つ通路とすることができる。また、一実施形態において、第2通路254は、第1通路252を囲うように配置された、円形の断面を備える複数の通路とすることができる。一実施形態において、第2通路254は、三角形や四角形の断面形状を備えてもよい。たとえば、DEDノズル本体259を、第2通路254を境界として内側本体と外側本体とに区分できる構造とし、内側本体と外側本体とが接する面に第2通路254となる溝を機械的に加工することで、小さな細い通路を制作するのが容易である。
【0014】
なお、キャリアガスは、たとえばアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスとすることができる。キャリアガスとして、空気より重いアルゴンガスを使用することがより望ましい。なお、キャリアガスに空気よりも重い不活性ガスを用いることで、造形点253およびその付近において粉体材料が溶融して形成される溶融池を不活性ガスで覆うことができ、溶融池および造形物の酸化を防止することができる。
【0015】
他の実施形態において、さらに、DEDノズル本体259は、第2通路254の外側に、シールドガスが通過する第3通路、および第3通路を通ったシールドガスが排出されるガス口を備えてもよい。DEDノズル250が第3通路を備える場合、第3通路は、第1通路252および第2通路254を囲う1つのリング状の断面を持つ通路としてもよく、また、第3通路は、第1通路252および第2通路254を囲うように配置された、円形の断面を備える複数の通路としてもよい。
【0016】
一般に、DEDノズル250は、レーザー口252aから出射されるレーザー251および粉体口254aから放出される粉体材料が、造形点253で収束するように設計される。図3は、参考例としての従来のDEDノズル250の断面を概略的に示す図である。図3に示される従来のDEDノズル250は、造形点253で、レーザー251が通る第1通路252および第2通路254の延長線が交差するように設計されている。従来のDEDノズルとして、任意の向きの金属表面などに任意の角度でDEDノズルを向けて造形を行うことができるものがある。そのため、粉体材料は、高圧なキャリアガスとともに第2通路254を通過し、粉体口254aから高速で供給される。しかし、そのような従来のDEDノズル250で粉体材料が敷き詰められた表面を造形する場合、DEDノズル250から供給される高圧・高速のガスが、造形点253付近に敷き詰められた材料粉体を吹き飛ばしてしまい、意図した造形を行うことができない。そこで、敷き詰められた材料
粉体を吹き飛ばさないように、DEDノズル250から供給するキャリアガスの圧力を小さくして、低速で粉体材料を供給しようとすると、造形点253に適切に粉体材料を供給できないという問題が生じる。
【0017】
図4は、DEDノズル250から出射される粉体粒子の軌跡を説明する図である。DEDノズル250の粉体口254aから造形点253までの距離を
垂直距離:y[m]
水平距離:x[m]
重力加速度:g[m/s
DEDノズル250から粉体材料が出射する角度:θ[deg]
DEDノズル250から粉体材料が出射する速度:V[m/s]
とすると、ある粉体粒子が粉体口254aから出射され、時間t[s]後の粉体粒子の位置は、
x=X(t)=Vt×sin(θ)
y=Y(t)=-{(g/2)t+Vtcos(θ)}
ただし、t=0は粉体粒子がDEDノズル250の粉体口254aを出射するとき
と表すことができる。なお、DEDノズル250から粉体材料が出射する速度Vは、キャリアガスが粉体口254aから放出される速度に等しいと仮定している。また、粉体材料が出射する角度θは、鉛直方向に対する角度である。
【0018】
たとえば、DEDノズル250から粉体材料が出射する速度V[m/s]が十分に大きい場合、Vtcos(θ)>>(g/2)tとなるので、粉体材料に作用する重力の影響はほとんどなく、粉体粒子の軌道は、実質的には、
x=X(t)=Vt×sin(θ)
y=Y(t)=-Vtcos(θ)
となる。具体的には、図4の破線で示されるように、レーザー251が通る第1通路252および粉体材料が通る第2通路254の延長線が造形点253で交差するように設計される。
【0019】
しかし、DEDノズル250から粉体材料が出射する速度V[m/s]が小さい場合、粉体材料に作用する重力の影響があり、粉体粒子の軌道は、
x=X(t)=Vt×sin(θ)
y=Y(t)=-{(g/2)t+Vtcos(θ)}
となり、具体的には図4の一点鎖線で示されるようになる。そのため、DEDノズル250から粉体材料が出射する速度V[m/s]が小さい場合、粉体粒子は、意図している造形点253に供給されず、造形点253よりも下方の位置に供給されることになる。
【0020】
一例として、造形点253がDEDノズル250の粉体口254aから
垂直距離:-20mm
水平距離:7.25mm
に設計された従来のDEDノズルにおいて、
粒子の速度:V=20[m/s]
粒子の出射角度:θ=20[deg]
重力加速度:g=9.8[m/s
としたときの、粉体粒子の軌跡が図5に示されている。また、図5は、同条件で粒子の速度:V=1.0[m/s]としたときの粉体粒子の軌跡を示している。
【0021】
図5に示されるように、粒子の速度をV=20[m/s]などと比較的に高圧・高速でキャリアガスおよび粉体材料を供給する従来のDEDノズルにおいては、粉体材料の出射方向と、レーザーの出射方向の幾何学的な交点を造形点253とすれば、造形点253に
おいて出射されたレーザー251に粉体材料が供給されて、適切な造形を行うことができる。これは、比較的に粉体粒子が高速で出射されるために、造形点253に到達するまでに重量の影響をあまり受けないからである。
【0022】
一方、図5に示されるように、粒子の速度をV=20[m/s]とすることが想定された従来のDEDノズルを用いて、たとえばV=1.0[m/s]のように比較的に低速でキャリアガスおよび粉体材料を粉体口254aから出射させた場合、粉体粒子は意図した造形点253を通らない。これは、粉体粒子が低速で出射されるために、造形点253に到達するまでに重量の影響を受けるからである。そのため、比較的に低速でキャリアガスおよび粉体材料を供給するDEDノズルにおいては、単純に粉体粒子の出射方向とレーザーの出射方向との幾何学的な交点を造形点253とすることができない。
【0023】
そこで、本開示においては、比較的に低速でキャリアガスおよび粉体材料を供給するDEDノズル250において、造形点253に適切に粉体材料を供給できるように、DEDノズルにおいて粉体材料を出射する角度を重力の影響を考慮して設計する。具体的には、造形点253の位置や粉体粒子の出射速度Vに応じて、上述の式から粉体粒子が造形点253を通るように、DEDノズル250から粉体材料が出射する角度θ[deg]、すなわち粉体口254aおよび第2通路254の向きを決定する。
【0024】
図2に示される実施形態によるDEDノズル250おいて、粉体材料およびキャリアガスが通過する第2通路254は、粉体口254aの少し手前の位置で通路の向きが変更されている。図2に示される実施形態によるDEDノズル250において、第2通路254は、粉体口254aの少し手前における第2通路254(粉体通路)の延長線が造形点253よりも上方で交差するように設計される。
【0025】
一例として、造形点253をDEDノズル250の粉体口254aから
垂直距離:-20mm
水平距離:7.25mm
の位置とし、
DEDノズル250から粉体材料が出射する速度:V=1.0[m/s]
とする場合、θ=22[deg]とすれば、造形点253でレーザーと粉体粒子とが交差する。図6は、かかる条件のときの粉体粒子の軌道を示すグラフである。
【0026】
一例として、造形点253をDEDノズル250の粉体口254aから
垂直距離:-20mm
水平距離:7.25mm
の位置とし、
DEDノズル250から粉体材料が出射する速度:V=0.5[m/s]
とする場合、θ=27[deg]とすれば、造形点253でレーザーと粉体粒子とが交差する。図7は、かかる条件のときの粉体粒子の軌道を示すグラフである。
【0027】
一例として、造形点253をDEDノズル250の粉体口254aから
垂直距離:-20mm
水平距離:7.25mm
の位置とし、
DEDノズル250から粉体材料が出射する速度:V=0.2[m/s]
とする場合、θ=45[deg]とすれば、造形点253でレーザーと粉体粒子とが交差する。図8は、かかる条件のときの粉体粒子の軌道を示すグラフである。
【0028】
一例として、造形点253をDEDノズル250の粉体口254aから
垂直距離:-20mm
水平距離:7.25mm
の位置とし、
DEDノズル250から粉体材料が出射する速度:V=0.15[m/s]
とする場合、θ=59[deg]とすれば、造形点253でレーザーと粉体粒子とが交差する。図9は、かかる条件のときの粉体粒子の軌道を示すグラフである。
【0029】
上述のように、造形点253およびDEDノズル250から粉体材料が出射する速度Vに応じてDEDノズル250から粉体材料が出射される角度θを設計することで、粉体材料を造形点253に適切に供給することができる。より具体的には、DEDノズル250において、粉体口254aの直前の第2通路254の向きを鉛直方向に対して上述のθ[deg]とすることで、DEDノズル250から粉体材料が出射される角度を上述のθ[deg]とすることができる。
【0030】
なお、上述の実施形態において、DEDノズル250から出射される粉体材料とレーザーとは、造形点253で交差するように図示、説明したが、粉体材料とレーザーとは造形点253の少し上方で交差するように設計してもよい。たとえば、一実施形態において、粉体材料とレーザーとが、上記の造形点253におけるレーザーの照射幅の約1倍から3倍の距離だけ上記の造形点253から上方の位置で交差するように設計することができる。一例として、レーザーの造形点253での幅(FWHMまたは1/eなど)が約2mmである場合、粉体材料とレーザーとが約2mmから約6mmだけ造形点253の上方で交差するように設計することができる。造形点253の少し上の位置で粉体材料とレーザーとが交わることで、造形点253の少し上の位置で粉体材料に熱を与えて溶融させ、造形点253に溶融した材料を供給することができる。
【0031】
上述の実施形態においては、造形点253または造形点253付近に予め粉体が配置されている状態でAM造形を行う場合において、DEDノズル250から放出するキャリアガスにより予め敷き詰められている粉体を吹き飛ばすことがないような低い流速Vでキャリアガスおよび粉体材料をDEDノズル250から供給するときにでも、DEDノズル250から造形点253に粉体材料を供給することができる。なお、予め敷き詰められている粉体を吹き飛ばすことがない低い流速Vとして、約1m/s以下の流速であることが好ましい。また、より好ましくは、DEDノズル250から放出されるキャリアガスの流速は、約0.3m/sから約0.1m/sの間である。
【0032】
DEDノズル250を使用したAM造形において、造形する場所や材料などに応じて粉体材料が出射する速度を変更したい場合がある。しかし、上述のように粉体材料の出射速度Vを変更すると、粉体材料を造形点253に適切に供給することができないことがある。粉体材料が出射する速度Vに応じて、粉体材料およびキャリアガスが通過する第2通路254の向きが異なる複数のDEDノズルを用意するのはコストが高くなる。
【0033】
そこで、本開示は、一実施形態において、DEDノズルの先端に着脱可能なアダプタ300を開示する。図10は、一実施形態によるDEDノズル250の断面を示す図である。図10に示されるDEDノズル250の先端には、粉体材料およびキャリアガスの出射方向を変更するためのアダプタ300が取り付けられている。
【0034】
アダプタ300は、全体としてリング状の形状であり、DEDノズル250の先端に着脱可能な形状および構造を備える。アダプタ300は、DEDノズル250に取り付けられたときにDEDノズル250のレーザーが通過する第1通路252に連絡する、アダプタレーザー通路302を備える。また、DEDノズル250に取り付けられたときにDEDノズル250のキャリアガスおよび粉体材料が通過する第2通路254に連絡する、ア
ダプタ粉体通路304を備える。DEDノズル250の第1通路252およびアダプタ300のアダプタレーザー通路302を通ったレーザー251は、アダプタ300のアダプタレーザー口302aから放出される。また、DEDノズル250の第2通路254およびアダプタ300のアダプタ粉体通路304を通ったキャリアガスおよび粉体材料は、アダプタ300のアダプタ粉体口304aから放出される。
【0035】
アダプタ300のアダプタ粉体通路304は、上述のように造形点253の位置およびDEDノズル250から粉体材料が出射する速度Vに応じて向き(鉛直方向に対する角度θ[deg])が決められる。そのため、アダプタ粉体通路304の向きが異なる複数のアダプタ300を用意することで、同一のDEDノズル250であってもアダプタ300を変更することで、DEDノズル250から粉体材料を出射する角度θを変更することができる。
【0036】
なお、DEDノズル250が、シールドガスが通過する第3通路を備える場合、アダプタ300に、DEDノズル250の第3通路に連通するアダプタシールドガス通路を設けてもよい。
【0037】
上述の実施形態から少なくとも以下の技術的思想が把握される。
[形態1]形態1によれば、AM装置に使用されるDEDノズルが提供され、かかるDEDノズルは、DEDノズル本体と、前記DEDノズル本体の先端に設けられたレーザー光を出射させるためのレーザー口と、前記レーザー口に連通する、前記DEDノズル本体内をレーザー光が通過するためのレーザー通路と、前記DEDノズル本体の先端に設けられた粉体材料を出射させるための粉体口と、前記粉体口に連通する、前記DEDノズル本体内を粉体材料が通過するための粉体通路と、を有し、前記粉体通路および前記粉体口の向きは、前記粉体口から造形点までの距離、前記粉体口から出射される粉体材料の速度、および、重力加速度、に基づいて決定されている。
【0038】
[形態2]形態2によれば、形態1によるDEDノズルにおいて、前記粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記粉体通路および前記粉体口の向きが決定されている。
【0039】
[形態3]形態3によれば、形態1または形態2によるDEDノズルにおいて、前記粉体口から出射された粉体およびレーザー口から出射されたレーザーは造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように構成されている。
【0040】
[形態4]形態4によれば、AM装置に使用されるDEDノズルに着脱可能なアダプタが提供され、かかるアダプタは、前記DEDノズルに取り付けられたときに、前記DEDノズルのレーザー通路に連通する、アダプタレーザー通路と、前記アダプタレーザー通路を通ったレーザーを出射させるためのアダプタレーザー口と、前記DEDノズルに取り付けられたときに、前記DEDノズルの粉体通路に連通する、アダプタ粉体通路と、前記アダプタ粉体通路を通った粉体材料を出射させるためのアダプタ粉体口と、を有し、前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きは、前記アダプタ粉体口から造形点までの距離、前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度、および、重力加速度、に基づいて決定されている。
【0041】
[形態5]形態5によれば、形態4によるアダプタにおいて、前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きが決定されている。
【0042】
[形態6]形態6によれば、形態4または形態5によるアダプタにおいて、前記アダプ
タ粉体口から出射された粉体およびアダプタレーザー口から出射されたレーザーが造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように構成されている。
【0043】
[形態7]形態7によれば、AM装置に使用されるDEDノズルの設計方法が提供され、かかる方法は、DEDノズル本体の先端に設けられる粉体材料を出射するための粉体口の向き、および、前記DEDノズル本体内を粉体材料が通過するための、前記粉体口に連通する粉体通路の向きを、前記粉体口から造形点までの距離、前記粉体口から出射される粉体材料の速度、および、重力加速度、に基づいて決定する。
【0044】
[形態8]形態8によれば、形態7による方法において、前記粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記粉体通路および前記粉体口の向きを決定する。
【0045】
[形態9]形態9によれば、形態7または形態8による方法において、前記粉体口から出射された粉体およびレーザー口から出射されたレーザーは造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように前記粉体通路および前記粉体口の向きを決定する。
【0046】
[形態10]形態10によれば、AM装置に使用されるDEDノズルに着脱可能なアダプタの設計方法が提供され、かかる方法は、DEDノズル本体の先端に取り付けられた状態で、粉体材料を出射するためのアダプタ粉体口の向き、および、前記アダプタ粉体口に連通するアダプタ粉体通路の向きを、前記アダプタ粉体口から造形点までの距離、前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度、および、重力加速度、に基づいて決定する。
【0047】
[形態11]形態11によれば、形態10による方法において、前記アダプタ粉体口から出射される粉体材料の速度が0.3m/s以下として前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きを決定する。
【0048】
[形態12]形態12によれば、形態10または形態11による方法において、前記アダプタ粉体口から出射された粉体およびアダプタレーザー口から出射されたレーザーが造形点で交差する、または、造形点より高い位置で交差する、ように前記アダプタ粉体通路および前記アダプタ粉体口の向きを決定する。
【0049】
[形態13]形態13によれば、AM装置が提供され、かかるAM装置は、形態1から形態3のいずれか1つの形態によるDEDノズル、または形態4から形態6のいずれか1つの形態によるアダプタを有する。
【符号の説明】
【0050】
100…AM装置
250…DEDノズル
251…レーザー
252…第1通路
253…造形点
254…第2通路
259…ノズル本体
300…アダプタ
302…アダプタレーザー通路
304…アダプタ粉体通路
252a…レーザー口
254a…粉体口
302a…アダプタレーザー口
304a…アダプタ粉体口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10