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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240513BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240513BHJP
   H01L 29/16 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H01L29/78 301S
H01L29/78 301V
H01L29/78 653C
H01L29/78 652K
H01L29/78 652B
H01L29/78 652L
H01L29/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022515379
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2021015212
(87)【国際公開番号】W WO2021210547
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2020072246
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050/パワーデバイスの技術革新」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宙光
(72)【発明者】
【氏名】小倉 政彦
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】松本 翼
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 孝夫
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0358352(US,A1)
【文献】特開2015-106650(JP,A)
【文献】特開2019-212667(JP,A)
【文献】特開2014-187296(JP,A)
【文献】特開平08-148675(JP,A)
【文献】特開2013-004594(JP,A)
【文献】特開平02-188967(JP,A)
【文献】特開平11-067939(JP,A)
【文献】特開2015-118968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/78
H01L 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型及びn型のいずれかの導電型とされる第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層と接するように配され、前記導電型が前記第1導電型と異なる第2導電型の半導体部とされるソース部と、
前記ソース部とオーミック接触して配されるソース電極と、
前記第1半導体層のいずれかの面上にゲート絶縁膜を介して配され、印加電場により前記第1半導体層における前記ゲート絶縁膜との接触面近傍の領域に反転層を形成可能なゲート電極と、
前記反転層と接するように配される前記第1導電型の第2半導体層と、
前記反転層から離間されるとともに前記第2半導体層とショットキー接触して配されるドレイン電極と、
を有し、
前記反転層-前記ドレイン電極間の最短距離である距離Ldgが、下記式(1)の条件を満たすことを特徴とする半導体装置。
【数1】
ただし、前記式(1)中、εは、前記第2半導体層の誘電率を示し、φbiは、前記第2半導体層とショットキー接触性の前記ドレイン電極との間に生じるビルトインポテンシャルを示し、qは、電子電荷を示し、Nは、前記第2半導体層における不純物濃度を示す。
【請求項2】
ソース部における不純物濃度が、第1半導体層における不純物濃度よりも1桁以上高い請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
ソース部が第1半導体層の一の面から前記一の面と反対側の面側に向けて埋設される層及び前記一の面上に積層される層のいずれかとして形成され、
ゲート電極が前記第1半導体層の前記一の面上にゲート絶縁膜を介して配され、
第2半導体層が前記ゲート電極及び反転層を挟んで前記ソース部と対向する位置に前記第1半導体層の前記一の面から前記一の面と反対側の面側に向けて埋設される層として形成され、
ドレイン電極が前記第2半導体層上に配される請求項1から2のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項4】
ソース部が一の面上にソース電極が配される層として形成され、
第1半導体層が前記層の前記一の面と反対側の面上に積層されるとともに前記層との積層面から前記積層面と反対側の面まで通される貫通孔を持つように形成され、
前記第1半導体層の前記積層面と反対側の面上に第2半導体層とドレイン電極とがこの順で配され、
ゲート電極は、前記ゲート電極と前記第1半導体層及び前記層との接触面がゲート絶縁膜で被覆された状態で前記貫通孔内に配される請求項1から2のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
第1半導体層と第2半導体層とが一の層として同一の半導体材料及び不純物濃度で形成される請求項1から4のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項6】
第1半導体層、第2半導体層及びソース部の少なくともいずれかがシリコンより大きなバンドギャップを持つワイドギャップ半導体形成材料で形成される請求項1から5のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項7】
ワイドギャップ半導体形成材料がダイヤモンドである請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
ソース部がダイヤモンドで形成され、ホッピング伝導性を有する請求項7に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリフト層を持たない高耐圧向けの半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、大電力向けのスイッチング素子として低オン抵抗で高耐圧のIGBTが利用されている。
しかしながら、前記IGBTは、少数キャリアが伝導に関与するバイポーラ動作の素子であるため、スイッチング速度がユニポーラ動作の素子に劣る問題がある。
【0003】
一方、MOSFETに代表されるユニポーラ動作の素子としては、オン抵抗と耐圧との関係がトレードオフの関係にあり、低オン抵抗を求めると耐圧が低下し、高耐圧を求めるとオン抵抗が高くなる問題がある(非特許文献1~3参照)。以下、この問題について具体的に説明する。
【0004】
従来におけるパワーデバイス用のMOSFET素子の素子構造の代表的な例を図1に示す。
図1に示すように、MOSFET素子100では、第1導電型(n型)の半導体層101内に第2導電型(p型)のソース領域102及びドレイン領域103が形成される。加えて、ドレイン領域103の周囲には、ドレイン領域103よりも不純物濃度が低い第2導電型(p型)のドリフト層104が形成される。
また、ソース領域102及びドレイン領域103上には、これら領域とオーミック接触するソース電極105及びドレイン電極106がそれぞれ形成される。
また、半導体層101上には、ソース領域102及びドレイン領域103の間の位置にゲート絶縁膜107を介してゲート電極108が配され、MOSFET素子100では、ゲート電極108に対する電圧印加に伴い、ゲート電極108直下における半導体層101に極性が反転した反転層(チャネル領域)109がソース領域102-ドリフト層104間を掛け渡すように形成可能とされる。
【0005】
このMOSFET素子100では、ドリフト層104により耐圧を向上させることができるものの、ドリフト層104の不純物濃度が低いため、オン抵抗が高くなる。加えて、耐圧を向上させる目的でドリフト層104を大きく形成することがあるが、これもキャリアの移動経路を長くしてオン抵抗が高くなる要因となる。これらオン抵抗が高くなる要因は、ドリフト層104におけるドリフト抵抗に由来する。一方、ドリフト層104における不純物濃度を高くし、ドリフト抵抗を低くすると、作用する電界の強度が強まり耐圧も低下する。
そのため、ドリフト層を有する従来のMOSFET素子では、ドリフト抵抗に由来するオン抵抗と耐圧との関係が常にトレードオフの関係となり、低オン抵抗を求めると耐圧が低下し、高耐圧を求めるとオン抵抗が高くなる問題に付き纏われることとなる。
よって、現状を打破するためには、前記ドリフト層を持たない高耐圧向けの新たな半導体装置の開発が求められる。
なお、ここでいう耐圧とは、素子が誤動作や破壊を起こさない限界の電圧を意味する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】S.M.Sze, "Physics of Semiconductor Devices", Wiley, 3rd Edition (2007).
【文献】“次世代パワー半導体―省エネルギー社会に向けたデバイス開発の最前線”,エヌ・ティー・エス,ISBN-10: 4860432622, (2009).
【文献】荒井和雄,吉田貞史,“SiC素子の基礎と応用”,(2003),オーム社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、ドリフト層を持たない高耐圧向けの新たな半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> p型及びn型のいずれかの導電型とされる第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層と接するように配され、前記導電型が前記第1導電型と異なる第2導電型の半導体部とされるソース部と、前記ソース部とオーミック接触して配されるソース電極と、前記第1半導体層のいずれかの面上にゲート絶縁膜を介して配され、印加電場により前記第1半導体層における前記ゲート絶縁膜との接触面近傍の領域に反転層を形成可能なゲート電極と、前記反転層と接するように配される前記第1導電型の第2半導体層と、前記反転層から離間されるとともに前記第2半導体層とショットキー接触して配されるドレイン電極と、を有し、前記反転層-前記ドレイン電極間の最短距離である距離Ldgが、下記式(1)の条件を満たすることを特徴とする半導体装置。
【数1】
ただし、前記式(1)中、εは、前記第2半導体層の誘電率を示し、φbiは、前記第2半導体層とショットキー接触性の前記ドレイン電極との間に生じるビルトインポテンシャルを示し、qは、電子電荷を示し、Nは、前記第2半導体層における不純物濃度を示す。
<2> ソース部における不純物濃度が、第1半導体層における不純物濃度よりも1桁以上高い前記<1>に記載の半導体装置。
<3> ソース部が第1半導体層の一の面から前記一の面と反対側の面側に向けて埋設される層及び前記一の面上に積層される層のいずれかとして形成され、ゲート電極が前記第1半導体層の前記一の面上にゲート絶縁膜を介して配され、第2半導体層が前記ゲート電極及び反転層を挟んで前記ソース部と対向する位置に前記第1半導体層の前記一の面から前記一の面と反対側の面側に向けて埋設される層として形成され、ドレイン電極が前記第2半導体層上に配される前記<1>から<2>のいずれかに記載の半導体装置。
<4> ソース部が一の面上にソース電極が配される層として形成され、第1半導体層が前記層の前記一の面と反対側の面上に積層されるとともに前記層との積層面から前記積層面と反対側の面まで通される貫通孔を持つように形成され、前記第1半導体層の前記積層面と反対側の面上に第2半導体層とドレイン電極とがこの順で配され、ゲート電極は、前記ゲート電極と前記第1半導体層及び前記層との接触面がゲート絶縁膜で被覆された状態で前記貫通孔内に配される前記<1>から<2>のいずれかに記載の半導体装置。
<5> 第1半導体層と第2半導体層とが一の層として同一の半導体材料及び不純物濃度で形成される前記<1>から<4>のいずれかに記載の半導体装置。
<6> 第1半導体層、第2半導体層及びソース部の少なくともいずれかがシリコンより大きなバンドギャップを持つワイドギャップ半導体形成材料で形成される前記<1>から<5>のいずれかに記載の半導体装置。
<7> ワイドギャップ半導体形成材料がダイヤモンドである前記<6>に記載の半導体装置。
<8> ソース部がダイヤモンドで形成され、ホッピング伝導性を有する前記<7>に記載の半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、前記ドリフト層を持たない高耐圧向けの新たな半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来におけるパワーデバイス用のMOSFET素子の素子構造の代表的な例を示す断面図である。
図2(a)】平面型のMOSFET素子のオフ時の状態を示す断面図である。
図2(b)】平面型のMOSFET素子のオン時の状態を示す断面図である。
図3(a)】熱平衡状態に置かれたMOSFET素子におけるドレイン電極-ソース電極間のオフ時のエネルギーバンド図を示す図である。
図3(b)】熱平衡状態に置かれたMOSFET素子におけるドレイン電極-ソース電極間のオン時のエネルギーバンド図を示す図である。
図4】従来のMOSFETにおけるオン抵抗と、本発明のMOSFETにおけるオン抵抗とを比較説明するための説明図である。
図5】ドリフト層を有する現状のMOSFETにおけるオン抵抗と耐圧との間の両対数グラフ上で直線状に示される特性の傾きと、本発明のMOSFETにおける前記特性の傾きとを比較説明するための説明図である。
図6】縦型のMOSFET素子の素子構造を示す断面図である。
図7】ダイヤモンド半導体を用いて形成された平面型のMOSFET素子の素子構造を示す断面図である。
図8】実施例1に係る半導体装置を上面から撮像した光学顕微鏡像及び前記光学顕微鏡像の一部を拡大して示す図である。
図9】実施例1に係る半導体装置のデバイス特性を測定した結果を示す図である。
図10】式(1)に関連した距離Ldgと第2半導体層における不純物濃度との関係性を示す図である。
図11】実施例2に係る半導体装置のドレイン電流-ドレイン電圧特性を示す図である。
図12(a)】実施例3に係る半導体装置のドレイン電流-ドレイン電圧特性を示す図である。
図12(b)】実施例4に係る半導体装置のドレイン電流-ドレイン電圧特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(半導体装置)
本発明の半導体装置は、第1半導体層、ソース部、ソース電極、第2半導体層、ドレイン電極及びゲート電極を有して構成される。
前記半導体装置では、従来のMOSFET素子100におけるドレイン領域103(図1参照)がなく、異なる原理で動作する。また、前記半導体装置では、従来のMOSFET素子100におけるドリフト層104(図1参照)を有さず、したがって、オン抵抗がドリフト抵抗の影響を受けない。
以下では、先に前記半導体装置の各部について説明し、次いで前記半導体装置の動作原理を実施形態の具体的な例示とともに図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
<第1半導体層>
前記第1半導体層は、p型及びn型のいずれかの導電型とされる第1導電型の半導体層とされる。前記第1半導体層としては、p型不純物物質及びn型不純物物質のいずれかの不純物物質を導入することで、前記導電型とされる。
前記p型不純物物質としては、特に制限はなく公知のものが適用でき、代表的には、ボロンが挙げられる。また、前記n型不純物物質としても、特に制限はなく公知のものが適用でき、代表的には、リン又は窒素が挙げられる。
前記第1半導体層における不純物濃度としては、特に制限はないが、1×1011cm-3~1×1018cm-3程度が好ましい。
【0013】
前記第1半導体層の形成材料としては、特に制限はなく、シリコン、ゲルマニウムを含む公知の半導体材料を挙げることができるが、パワーデバイスへの応用の観点から、前記シリコンよりも大きなバンドギャップを持つワイドギャップ半導体形成材料が好ましい。即ち、前記半導体装置では、オン抵抗がドリフト抵抗の影響を受けず、専ら耐圧を考慮して前記半導体材料を選択することができることから、前記ワイドギャップ半導体によるパワーデバイスへの応用が好適となる。
前記ワイドバンドギャップ半導体形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド等を挙げることができるが、中でも、ワイドギャップ特性に加え、融点、熱伝導率、耐絶縁破壊性、キャリア速度限界、硬度・弾性定数、化学的安定性及び耐放射線性にも優れるダイヤモンドが好ましい。
【0014】
前記第1半導体層としては、特に制限はなく、公知の半導体基板等から構成されていてもよい。
また、前記第1半導体層の形成方法としては、特に制限はなく、形成材料に応じて公知の形成方法から適宜選択することができる。なお、前記第1半導体層が前記ダイヤモンドである場合には、特開2018-006572号公報に記載のプラズマ気相堆積法によりダイヤモンド基板上に形成する方法が好ましい。
なお、前記第1半導体層に後述の貫通孔を形成する場合、前記貫通孔の形成方法としては、特に制限はなく、公知のリソグラフィ加工法が挙げられる。
【0015】
<ソース部>
前記ソース部は、前記第1半導体層と接するように配され、前記導電型が前記第1導電型と異なる第2導電型の半導体部とされる。
前記ソース部の形成材料としては、前記第1半導体層の形成材料と同様の形成材料を挙げることができる。また、前記ソース部における前記不純物物質としては、前記第1半導体層と逆の極性のものを用いることができる。
前記ソース部における不純物濃度としては、特に制限はないが、前記第1半導体層における不純物濃度よりも1桁以上高いことが好ましく、具体的には、1×1019cm-3~1×1022cm-3程度が好ましい。前記ソース部における不純物濃度を前記第1半導体層よりも高くすると、前記ソース部における低抵抗化を図ることができる。
【0016】
前記ソース部の形成方法としては、特に制限はなく、形成材料に応じて公知の形成方法から適宜選択することができる。
代表的な形成方法としては、公知のイオン注入法を挙げることができる。即ち、前記ソース部としては、公知のソース領域と同様、前記第1半導体層の一の面から前記一の面と反対側の面側に向けて埋設される層として形成することができる。
また、イオン注入法が適用しづらい形成材料(前記ダイヤモンド等)で形成される場合には、前記第1半導体層の前記一の面上に積層される層として形成してもよく、この場合、特開2018-006572号公報に記載のプラズマ気相堆積法、リソグラフィ加工法により形成することができる。
また、前記ソース部としては、形成材料によらず、前記半導体装置の素子構造に応じて層状の形状をとり得る。
また、前記ソース部としては、前記ダイヤモンドで形成される場合、前記ソース部を低抵抗化する観点から、ホッピング伝導性を有することが好ましい。この前記ホッピング伝導性は、前記ダイヤモンドで形成される前記ソース部における不純物濃度を1×1019cm-3以上とすることで発現する。
【0017】
<ソース電極>
前記ソース電極は、前記ソース部とオーミック接触して配される。
前記ソース電極の形成材料としては、特に制限はなく、チタン、アルミニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、金、これら元素を含む合金、これら元素の炭化物、窒化物及び珪化物等の公知の電極材料を挙げることができる。前記ソース部が前記ダイヤモンドで形成される場合には、チタン、白金、金及びこれら金属の積層体が好ましい。
前記ソース電極の形成方法としては、特に制限はなく、公知の真空蒸着法、CVD法、ALD法等が挙げられる。
なお、前記ソース部を前記ダイヤモンドで形成する場合における前記ソース部及び前記ソース電極の形成方法としては、公知の形成方法から適宜選択することができ、例えば、特許第6341477号公報に記載の方法等を挙げることができる。
【0018】
<ゲート電極>
前記ゲート電極は、前記第1半導体層のいずれかの面上にゲート絶縁膜を介して配され、印加電場により前記第1半導体層における前記ゲート絶縁膜との接触面近傍の領域に反転層を形成可能とされる。
【0019】
前記ゲート絶縁膜の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、SiO、HfO、Al、ZrO等の公知の形成材料が挙げられる。特に、前記第1半導体層が前記ダイヤモンドで形成される場合には、Alが好ましい。Alを用いると、前記ダイヤモンドとの間で欠陥準位である界面準位密度を低減させ、前記第1半導体層に対し前記反転層を好適に誘起させることができる(例えば、特開2018-006572号公報、下記参考文献1参照)。
また、前記ゲート絶縁膜の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記形成材料を用いた、ALD法、スパッタリング法、CVD法等が挙げられる。
参考文献1: T.Matsumoto et.al., "Inversion channel diamond metal oxide-semiconductor field-effect transistor with normally off characteristics", Scientific Reports, 6, 31585 (2016).
【0020】
前記ゲート電極の形成材料としては、特に制限はなく、チタン、アルミニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、金、これら元素を含む合金、これら元素の炭化物、窒化物及び珪化物等の公知の電極材料挙げられる。
また、前記ゲート電極の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、CVD法が挙げられる。
【0021】
<第2半導体層>
前記第2半導体層は、前記反転層と接するように配される前記第1導電型の半導体層とされる。
前記第2半導体層における不純物濃度としては、特に制限はないが、前記第1半導体層と同様、1×1011cm-3~1×1018cm-3程度の範囲から選択される不純物濃度であることが好ましい。前記第2半導体層では、不純物濃度が低すぎると、ショットキー接触の前記ドレイン電極から前記第2半導体層に生じる空乏層の幅が広くなり装置が大型化することがあり、不純物濃度が高すぎると、前記空乏層の幅が狭くなり加工しづらくなることがある。なお、前記空乏層については、図面を参照した第1実施形態についての説明とともに後述する。
前記第2半導体層の形成材料としては、前記第1半導体層の形成材料と同様の形成材料を挙げることができる。
前記第2半導体層は、同一導電型の前記第1半導体層から独立して不純物濃度を設定可能な層であるが、製造工程上、前記第1半導体層と不純物濃度が共通する前記第1半導体層内の一領域であることが好ましい。即ち、前記第1半導体層と前記第2半導体層とが一の層として同一の半導体材料及び不純物濃度で形成されることが好ましい。このように形成する場合、前記第1半導体層自身が前記第2半導体層を兼ね、前記第2半導体層を前記第1半導体層と別の半導体層として形成する製造工程を省略することができる。
前記第2半導体層を前記第1半導体層と別の半導体層として形成する場合の形成方法としては、特に制限はなく、公知の半導体層の形成方法、公知のリソグラフィ加工法を適用することができる。
【0022】
<ドレイン電極>
前記ドレイン電極は、前記反転層から離間されるとともに前記第2半導体層とショットキー接触して配される。
前記半導体装置では、前記ソース部と前記ソース電極との間の接触をオーミック接触とし、前記第2半導体層(前記第2半導体層が前記第1半導体層自身で形成される場合、前記第1半導体層)と前記ドレイン電極との間の接触をショットキー接触とすることで、従来のMOSFET素子(例えば図1参照)と異なる原理で動作する。
【0023】
前記ドレイン電極の形成材料としては、特に制限はなく、チタン、アルミニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、金、これら元素を含む合金、これら元素の炭化物、窒化物及び珪化物等の公知の電極材料を挙げることができる。前記ソース部が前記ダイヤモンドで形成される場合には、チタン、白金、金及びこれら金属の積層体が好ましい。
また、前記ドレイン電極の形成方法としては、特に制限はなく、公知の真空蒸着法、CVD法、ALD法等が挙げられる。
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本発明の技術的思想は、これら実施形態に限定されるものではなく、ワイドバンドギャップ半導体等で形成されるユニポーラ動作のトランジスタ等に広く適用することができる。
【0025】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る半導体装置を図2(a),(b)に示す。この第1実施形態に係る半導体装置は、平面型のMOSFET素子としての構成例を示すものである。なお、図2(a)は、平面型のMOSFET素子のオフ時の状態を示す断面図であり、図2(b)は、平面型のMOSFET素子のオン時の状態を示す断面図である。
【0026】
図2(a),(b)に示すようにMOSFET素子10は、導電型がn型の第1半導体層11と、第1半導体層11と接するように配され、導電型がp型のソース部12と、ソース部12とオーミック接触して配されるソース電極15と、第1半導体層11の一の面上にゲート絶縁膜17を介して配されるゲート電極18と、第2半導体層13とショットキー接触して配されるドレイン電極16とを有する。
【0027】
ソース部12は、第1半導体層11の前記一の面から前記一の面と反対側の面側に向けて埋設される層として形成され、不純物濃度が第1半導体層11よりも高く設定され(p層)、ソース電極15とのオーミック接触が得られるように形成される。また、ソース部12は、反転層19と接触可能な位置に形成される。
一方、ショットキー接触のドレイン電極16は、ゲート電極18直下の第1半導体層11に形成される反転層19(図2(b)参照)から離間されて配される。なお、図中の「Ldg」は、反転層19-ドレイン電極16間の最短距離を示し、ドレイン電極16は、反転層19から距離Ldgだけ離間されている。
この距離Ldgは、実質的に、ゲート電極18と対向する側のドレイン電極16側面における第2半導体層13(第1半導体層11)との接触位置である第1接触位置と、ドレイン電極16と対向する側のゲート電極18側面におけるゲート絶縁膜17との接触位置を第2接触位置としたとき、前記第2接触位置と最短距離で対向する反転層19の対向位置との間の距離、つまり、ドレイン電極16-ゲート電極18間の距離とみることができ、設計上、距離Ldgをドレイン電極16-ゲート電極18間の距離として取り扱うこともできる。
第2半導体層13は、第1半導体層11自身の一領域とされ、一の層として第1半導体層11と同一の半導体材料及び不純物濃度で形成される。この第2半導体層13としては、ゲート電極18直下の第1半導体層11に形成される反転層19からドレイン電極16に至る最短経路上の領域を主領域とした第1半導体層11の一領域が相当し、この領域上にドレイン電極16が配される(図2(b)参照)。
【0028】
図1図2(a),(b)との比較から理解されるように、MOSFET素子10では、ドレイン領域103及びドリフト層104に相当する部が形成されておらず、また、オーミック接触のソース電極15とショットキー接触のドレイン電極16とで接触特性が異なる電極を持つ点で従来のMOSFET素子100と相違する。
この相違は、MOSFET素子10が従来のMOSFET素子100と異なる動作原理で動作することに基づく。以下、MOSFET素子10の動作原理について図3(a),(b)を参照しつつ説明する。
【0029】
図3(a)は、熱平衡状態に置かれたMOSFET素子10におけるドレイン電極16-ソース電極15間のオフ時のエネルギーバンド図を示す図である。
該図に示す通り、オフ時には、ドレイン電極16と第2半導体層13(第1半導体層11)とのショットキー接合により第1空乏層が形成され、また、ソース部12と第1半導体層11のpn接合により第1半導体層11に第2空乏層が形成される。これら第1,2空乏層同士は、接しておらず、第1半導体層11の中性領域によって隔離されて存在する。
ゲート電極18に電圧が印加されていない状態の場合、前記中性領域によって形成される下向きのバンドのたわみによって、ソース部12における正孔(図中、「+」で示す)の移動がブロックされ、電流が流れないオフ状態となる。仮に、ドレイン電極16に順方向電圧が印加されたとしても、ソース部12のp層の価電子帯に存在する正孔が第1半導体層11のn層に流れ込み、電子(図中、「-」で示す)と再結合して消滅する。
よって、ソース部12における正孔は、ドレイン電極16に到達することができず、結果として、第1半導体層11は、多数キャリアである正孔に対して絶縁体として作用する。
【0030】
図3(b)は、熱平衡状態に置かれたMOSFET素子10におけるドレイン電極16-ソース電極15間のオン時のエネルギーバンド図を示す図である。
該図に示す通り、ゲート電極18に電圧を印加してオン状態とすると、第1半導体層11層におけるゲート絶縁層17の直下位置に反転層19が形成され、前記中性領域が消失する。
この時、ドレイン電極16に順方向電圧が印加されると、ソース部12の価電子帯に存在する正孔が反転層19を介して第2半導体層13に流れ込み、第2半導体層13の内部電界により、ドレイン電極16に到達する。つまり、ドレイン電流が流れる。
また、この時、ドレイン電極16のショットキー接触によって第2半導体層13に形成された前記第1空乏層が反転層19に接することになるが、ドレイン電極16-ゲート電極18間の距離Ldgとしては、第2半導体層13(前記第1空乏層の形成領域)を介して反転層19-ドレイン電極16間にドレイン電流を流す観点から、下記式(1)の条件を満たすことが好ましい。
また、この下記式(1)の条件を満たす時、前記第1空乏層が完全に空乏化され、前記第1空乏層の形成領域である第2半導体層13が正孔に対して良導体となり、オン抵抗が著しく低下する。
【0031】
【数2】
【0032】
ただし、前記式(1)中、εは、第2半導体層13(第1半導体層11)の誘電率を示し、φbiは、第2半導体層13(第1半導体層11)とショットキー接触性のドレイン電極16との間に生じるビルトインポテンシャルを示し、qは、電子電荷を示し、Nは、第2半導体層13(第1半導体層11)における不純物濃度を示す。
【0033】
以上のように、本発明の第1実施形態に係る半導体装置であるMOSFET素子10では、従来のMOSFET素子100におけるドリフト層104(図1参照)を有さず、オン抵抗がドリフト抵抗フリーとされる。
したがって、図4に示すように、本発明の第1実施形態に係る半導体装置であるMOSFET素子10によると、オン抵抗を著しく低減することができる。なお、図4は、従来のMOSFETにおけるオン抵抗と、本発明のMOSFETにおけるオン抵抗とを比較説明するための説明図である。
【0034】
また、本発明の第1実施形態に係る半導体装置であるMOSFET素子10では、オン抵抗がチャネル抵抗(反転層19における抵抗)に依存することから、オン抵抗と耐圧との間の両対数グラフ上で直線状に示される特性の傾きが、オン抵抗がドリフト抵抗に依存する現状のMOSFET素子における前記特性の傾きよりも、緩やかになる。
したがって、図5に示すように、本発明の第1実施形態に係る半導体装置であるMOSFET素子10の素子構造によると、半導体材料がSi、4H-SiC、GaN、Ga、ダイヤモンドのいずれであるかを問わず、同一の半導体材料で形成される半導体装置の低オン抵抗化及び高耐圧化を図ることができる。なお、図5は、ドリフト層を有する現状のMOSFETにおけるオン抵抗と耐圧との間の両対数グラフ上で直線状に示される特性の傾きと、本発明のMOSFETにおける前記特性の傾きとを比較説明するための説明図である。
【0035】
なお、pチャネル型動作のMOSFET素子10の素子構成を変更して、nチャネル型動作させるためには、第1半導体層11の導電型をn型からp型に変更するとともに、ソース部12の導電型をp型からn型に変更してn型の半導体層とし、印加する電圧の極性をpチャネル型動作に対して逆転させる。こうして構成されるnチャネル型動作のMOSFET素子では、多数キャリアが正孔から電子になること以外は、図3(a),(b)を用いて説明した動作原理と共通した動作原理により、動作可能とされる。
【0036】
また、図3(a),(b)を用いて説明した動作原理は、前記第1半導体層の伝導不純物のエネルギー準位(ドナー準位、アクセプタ準位)が前記半導体装置の動作温度に対応する熱励起エネルギーよりも充分深い位置にある半導体材料(例えば、ダイヤモンド)で形成される前記半導体装置に適用可能であるが、室温で浅い不純物準位を有する半導体材料(例えば、シリコン)で形成される前記半導体装置に対しても、前記熱励起エネルギーが充分低くなる低温で動作させることで適用可能とされる。
【0037】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る半導体装置を図6に示す。この第2実施形態に係る半導体装置は、縦型のMOSFET素子としての構成例を示すものである。なお、図6は、縦型のMOSFET素子の素子構造を示す断面図である。
【0038】
図6に示すようにMOSFET素子20は、導電型がn型の第1半導体層21と、第1半導体層21と接するように配され、導電型がp型のソース半導体層として形成されるソース部22と、ソース部22とオーミック接触して配されるソース電極25と、第1半導体層21の一の面上にゲート絶縁膜27を介して配されるゲート電極28と、第2半導体層23a,bとショットキー接触して配されるドレイン電極26a,bとを有する。
第2半導体層23a,bは、第1半導体層21自身の一領域とされ、一の層として第1半導体層21と同一の半導体材料及び不純物濃度で形成される。この第2半導体層23a,bとしては、第1半導体層21におけるゲート絶縁膜27との接触面近傍に形成される反転層29aからドレイン電極26aに至る最短経路上の領域を主領域とした第1半導体層21の一領域と、同じく反転層29bからドレイン電極26bに至る最短経路上の領域を主領域とした第1半導体層21の別領域とが相当し、これらの領域上にドレイン電極26a,26bが配される。
【0039】
MOSFET素子20では、ソース部22が一の面上にソース電極25が配される層として形成され、第1半導体層21がソース部22の前記一の面と反対側の面上に積層されるとともにソース部22との積層面から前記積層面と反対側の面まで通される貫通孔を持つように形成される。
また、第1半導体層21の前記反対側の面上にドレイン電極26a,26bが配される。本例では、前述の通り、第1半導体層21自身が第2半導体層23a(23b)を兼ね、第2半導体層23a(23b)が反転層29a(29b)からドレイン電極26a(26b)に至る最短経路上の領域を主領域とした第1半導体層21の領域に相当することから、実質的に反転層29a(29b)の上端位置における第1半導体層21上に第2半導体層23a(23b)とドレイン電極26a(26b)とがこの順で配された構成とされる。
また、ゲート電極28が第1半導体層21及びソース部22との接触面がゲート絶縁膜27で被覆された状態で前記貫通孔内に配される。
【0040】
このように構成される本発明の第2実施形態に係る半導体装置であるMOSFET素子20においても、p型の領域とn型の領域との位置関係が縦方向に置き換わるだけで、MOSFET素子10について図3(a),(b)を用いて説明した動作原理を適用することができることから、前記ドリフト抵抗フリーの高耐圧向けの半導体装置とすることができる。
なお、MOSFET素子20では、pチャネル型動作として説明を行ったが、MOSFET素子20におけるp型とn型との関係を反対としてnチャネル型動作の半導体装置とすることもできる。
【0041】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る半導体装置を図7に示す。この第3実施形態に係る半導体装置は、ダイヤモンド半導体を用いて形成された平面型のMOSFET素子としての構成例を示すものである。なお、図7は、ダイヤモンド半導体を用いて形成された平面型のMOSFET素子の素子構造を示す断面図である。
【0042】
図7に示すようにMOSFET素子30は、第1導電型の第1半導体層31と、第1半導体層31と接するように配される第2導電型のソース部32と、ソース部32とオーミック接触して配されるソース電極35と、第1半導体層31の一の面上にゲート絶縁膜37を介して配されるゲート電極38と、第2半導体層33とショットキー接触して配されるドレイン電極36とを有する。
【0043】
第2半導体層33は、第1半導体層31自身の一領域とされ、一の層として第1半導体層31と同一の半導体材料及び不純物濃度で形成される。この第2半導体層33としては、ゲート電極38直下の第1半導体層31に形成される反転層39からドレイン電極36に至る最短経路上の領域を主領域とした第1半導体層31の一領域が相当し、この領域上にドレイン電極36が配される。
【0044】
MOSFET素子30では、第1半導体層31(第2半導体層33を含む)及びソース部32が前記ダイヤモンドで形成される半導体層(ダイヤモンド半導体層)で構成される。
また、MOSFET素子30では、ソース部32が埋設層として形成されるMOSFET素子10(図2(a),(b)参照)と異なり、第1半導体層31の面上に積層される層として構成される。この層として形成されるソース部32は、プラズマ気相堆積法、リソグラフィ加工法等の公知の方法により形成することができる。
これ以外は、MOSFET素子10(図2(a),(b)参照)について説明した事項を適用することができる。
【0045】
以上の第1実施形態~第3実施形態に係る各MOSFET素子は、本発明の概要を説明するための例示であり、本発明の効果を妨げない限り、これらの例に適宜変更を加えることができる。
また、以下では、本発明の実施例を説明するが、本発明の技術的思想は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0046】
(実施例1)
以下に示す製造方法により、半導体形成材料として前記ダイヤモンドを用いて、実施例1に係る半導体素子(平面型MOSFET素子)を製造した。この実施例1に係る半導体素子は、図7に示す平面型MOSFET素子30の構成に準じて製造される。
先ず、微傾斜のオフ角でオフされ、主面が{111}面とされる窒素ドープされたn型ダイヤモンド基板(ロシア国立超硬および新炭素材料技術研究所(TISNCM)製、Ib型基板)を用意し、この基板を前記第1半導体層とした。
【0047】
次に、金属マスクを用いた選択成長法により、前記第1半導体層の表面(主面が{111}面とされる面)上に前記ソース部となるp型の半導体層を形成した。以下、具体的に説明する。
【0048】
先ず、前記第1半導体層の表面を硫酸及び硝酸の混合液で煮沸処理することで洗浄し、スピンコートによりレジスト材を前記第1半導体層上に塗布し、マスクを用いてレジストパターンを形成した。現像後、金属マスク材(金及びチタンの積層体)を前記レジストパターンが形成された前記第1半導体層上から蒸着し、その後、前記レジストパターンをリフトオフ工程により除去し、前記第1半導体層上に金属マスクパターンを形成した。
【0049】
次に、前記金属マスクパターンが形成された前記第1半導体層(基板)をプラズマ気相堆積装置に(セキテクノトロン株式会社/現:コーンズテクノロジー株式会社製、AX5010-1-S)導入し、前記第1半導体層の面上における前記金属マスクパターンが形成されていない領域に前記ソース部(p型ダイヤモンド半導体層)を成長させて形成した。
成長条件は、水素ガス、メタンガス及びp型の導電性を付与するトリメチルボロンガスを原料とし、前記水素ガスの流量を399sccm、前記メタンガスの流量を0.8sccm、前記トリメチルボロンの水素希釈ガス(前記トリメチルボロンの含有率;1体積%)の流量を0.8sccmとして前記プラズマ気相堆積装置内にそれぞれ導入し、前記プラズマ気相堆積装置の成膜条件としてプラズマ投入電力を1,200W、圧力を50Torr及び成膜時間を0.16時間とする条件とした。
次いで、前記ソース部が形成された前記第1半導体層に対し、酸洗浄を行い、前記金属マスクパターンを除去した。
【0050】
次に、この状態の前記第1半導体層に対し、加水雰囲気中で500℃、1時間加熱処理することで、前記第1半導体層の{111}面から外方に出る1本の炭素原子の未結合手にOH基を結合させ、前記第1半導体層の最表面に位置する炭素原子に対し、OH基による終端処理を施した。前記終端処理は、チューブタイプの電気炉(光洋サーモシステム社製、小型チューブ炉)を用いて行い、前記加水雰囲気は、超純水を高純度窒素ガスでバブリングすることで行った。
【0051】
次に、原子層堆積装置(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社、FlexAL)を用いて、前記第1半導体層の表面上に前記ゲート絶縁膜としてAl絶縁膜を形成した。なお、前記原子層堆積装置における前記ゲート絶縁膜の形成条件としては、成膜温度を300℃とし、厚みを50nmとした。
このゲート絶縁膜の形成時において、前記終端処理により前記炭素原子に結合させたOH基におけるHと、前記ゲート絶縁膜(前記Al絶縁膜)におけるAlとが入れ替わる形となり、前記炭素原子とゲート絶縁膜との間で安定的な結合が形成される。これにより、欠陥が少ない状態で前記第1半導体層の表面上にゲート絶縁膜が形成されることとなる。
【0052】
次に、スピンコートによりレジスト材を前記Al絶縁膜上に塗布し、マスクを用いて、次工程で形成される前記ソース電極及び前記ドレイン電極の各形成領域を覆わない態様のレジストパターンを形成した。現像後、希釈したフッ酸溶液に含浸して、前記レジストパターンで覆われていない位置のゲート絶縁膜を除去し、その後、レジスト除去液に含浸し、余分なレジストの除去を行った。
これにより、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の各形成領域が露出された状態とされるとともに、前記第1半導体層上が前記ゲート絶縁膜で覆われた状態とされる。
【0053】
次に、こうした状態の前記第1半導体層に対し、スピンコートによりレジスト材を塗布し、マスクを用いて前記ソース電極及び前記ドレイン電極の各形成領域、並びに、前記ゲート絶縁膜上の前記ゲート電極形成領域を覆わない態様のレジストパターンを形成した。現像後、真空蒸着装置(エイコーエンジニアリング社製、電子ビーム蒸着器)を用いて、金(100nm)/白金(30nm)/チタン(30nm)の積層電極を蒸着し、その後、前記レジストパターンをリフトオフにより除去した。
これにより、前記積層電極による前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記ゲート電極が形成されるが各形成領域上に形成される。
以上により、前記ダイヤモンド半導体で形成された前記平面型MOSFET素子として、実施例1に係る半導体装置を製造した。
【0054】
<特性>
次に、実施例1に係る半導体装置のMOSFET動作を確認した。実施例1に係る半導体装置を上面から視たときの様子を図8に示す。なお、図8は、実施例1に係る半導体装置を上面から撮像した光学顕微鏡像及び前記光学顕微鏡像の一部を拡大して示す図である。
図8における前記光学顕微鏡像中に示すように、実施例1に係る半導体装置では、前記ソース電極-前記ドレイン電極間に線状に配される前記ゲート電極の線幅をゲート長Lとし、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に挟まれる位置における前記ゲート電極の配線長さをゲート幅Wとしたとき、ゲート長Lが10μmとされ、ゲート幅Wが100μmとされる。なお、実施例1に係る半導体装置では、ゲート長Lが5μm、15μm、ゲート幅Wが50μm、150μmとされる素子構造部も併設されている。また、距離Ldgが前記ドレイン電極-前記ゲート電極間の距離として5μmとされる。
【0055】
半導体パラメータアナライザ装置(KEITHLEY社製、4200-SCS)を使用して、実施例1に係る半導体装置のデバイス特性を測定した結果を図9に示す。該図9は、横軸に前記ソース電極-前記ドレイン電極間のドレイン電圧をとり、縦軸に前記ソース電極-前記ドレイン電極間を流れるドレイン電流をとり、前記ゲート電極に印加する電圧Vを-2V刻みで0V~-12Vまで変えたときのドレイン電流-ドレイン電圧特性を示している。
図9に示すように、ノーマリーオフの状態から前記ゲート電圧Vの値を(負の方向に)大きくするとドレイン電流が流れる特性が確認され、実施例1に係る半導体装置は、MOSFET動作が可能とされる。
また、前記ゲート電極に印加する電圧Vを0Vとしたときのドレイン電圧を-200V以上の大きさで印加したが絶縁破壊が生じなかった。
【0056】
本発明に係る半導体装置の好適な前記MOSFET動作が得られる条件として説明した、前記式(1)の条件について検討する。
【0057】
【数3】
【0058】
ただし、前記式(1)中、εは、前記第2半導体層の誘電率を示し、φbiは、前記第2半導体層とショットキー接触性の前記ドレイン電極との間に生じるビルトインポテンシャルを示し、qは、電子電荷を示し、Nは、前記第2半導体層における不純物濃度を示す。
【0059】
図10に、前記ドレイン電極に対し逆方向電圧1Vを印加したときに、前記第2半導体層において前記ドレイン電極から前記反転層まで伸びるように生ずる前記空乏層の長さに相当する距離Ldgと、前記第2半導体層における不純物濃度との関係性を示す。該図10は、前記式(1)に関連した距離Ldgと前記第2半導体層における不純物濃度との関係性を示す図である。図中、グレー色表示される領域が前記式(1)の条件を満たす領域であり、白色表示される領域が前記式(1)の条件を満たさない領域である。
【0060】
実施例1に係る半導体装置の前記第2半導体層(第1半導体層自身)における不純物濃度は、1×1014cm-3であり、距離Ldgは、5μmである。
この実施例1に係る半導体装置の前記式(1)に関する設定条件は、図10中、グレー色表示される領域内にプロットされる条件(図中、「□」で示す)に該当し、前記式(1)の条件を満たす。
一方、実施例1に係る半導体装置の前記第2半導体層(第1半導体層自身)における不純物濃度を1×1014cm-3から2×1015cm-3に変更したこと以外は、同じ条件で製造した参考例に係る半導体装置では、前記式(1)に関する設定条件が、図10中、白色表示される領域内にプロットされる条件(図中、「■」で示す)に該当し、前記式(1)の条件を満たさない。
【0061】
実施例1に係る半導体装置では、図9に示した動作条件(ゲート電圧、ドレイン電圧)で動作することが確認されるものの、参考例に係る半導体装置では、図9に示した動作条件(ゲート電圧、ドレイン電圧)で動作しないことが確認された。参考例に係る半導体装置の動作のためには、電圧印加条件をより大きな値に変更する必要がある。逆に、実施例1に係る半導体装置は、小さな値の電圧印加条件で動作することができると評価できる。
以上の通り、本発明に係る半導体装置を好適に前記MOSFET動作させるためには、前記式(1)の条件を満たす必要がある。
【0062】
(実施例2)
サイズの異なるマスクを用いて前記ドレイン電極-前記ゲート電極間の距離Ldgを5μmから2μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る半導体素子を製造した。
【0063】
(実施例3)
前記第1半導体層として、前記n型ダイヤモンド基板(ロシア国立超硬および新炭素材料技術研究所(TISNCM)製、Ib型基板)に代えて、以下のリンドープ層が形成された窒素ドープダイヤモンド基板を用いたこと、及び、サイズの異なるマスクを用いて前記ドレイン電極-前記ゲート電極間の距離Ldgを5μmから2μmに、ゲート長Lを10μmから5μmに、ゲート幅Wを100μmから150μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る半導体素子を製造した。
【0064】
前記リンドープ層が形成された窒素ドープIb型基板は、前記プラズマ気相堆積装置(セキテクノトロン株式会社/現:コーンズテクノロジー株式会社製、AX5010-1-S)に窒素ドープダイヤモンド基板(ロシア国立超硬および新炭素材料技術研究所(TISNCM)製、Ib型基板)を導入し、この基板上に前記第1半導体層としてのリンドープ層を成長させて形成した。
前記リンドープ層は、水素ガス、メタンガス及びn型の導電性を付与するホスフィンガスを原料とし、前記水素ガスの流量を996sccm、前記メタンガスの流量を4sccm、前記ホスフィンの水素希釈ガス(前記ホスフィンの含有率;1,000ppm)の流量を1sccmとして前記プラズマ気相堆積装置内にそれぞれ導入し、前記プラズマ気相堆積装置のプラズマ投入電力を3,600W、圧力条件を150Torr及び成膜時間を1時間とする成長条件で形成した。
【0065】
(実施例4)
前記OH基による終端処理の前処理として以下の水素終端処理を実施したこと、サイズの異なるマスクを用いて前記ドレイン電極-前記ゲート電極間の距離Ldgを2μmから5μmに、ゲート長Lを5μmから15μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、実施例4に係る半導体素子を製造した。
【0066】
前記水素終端処理は、前記ソース部を形成後、酸洗浄により前記金属マスクパターンが除去された状態の前記第1半導体層(及び前記窒素ドープダイヤモンド基板)をプラズマ気相堆積装置(株式会社アリオス製、DCVD-901K)に導入し、前記水素ガスの流量を100sccmとして前記プラズマ気相堆積装置内にそれぞれ導入し、前記プラズマ気相堆積装置のプラズマ投入電力を600W、圧力条件を30kPa及び処理時間を10分とすることで、前記第1半導体層の{111}面から外方に出る1本の炭素原子の未結合手に水素を結合させ、前記半導体層の最表面に位置する炭素原子に対し、水素による終端処理を施すことで実施した。
後続の前記OH基による終端処理では、前記水素を前記OH基で置換することとなる。表面の原子レベルの荒れにより、前記OH基に置換されなかった前記水素はそのまま残り、ダングリングボンドを終端するため、界面準位密度の低減に寄与する。
【0067】
前記半導体パラメータアナライザ装置(KEITHLEY社製、4200-SCS)を使用して、実施例2~4に係る各半導体装置のドレイン電流-ドレイン電圧特性を測定した。実施例2に係る半導体装置のオン電流-オン電圧特性を図11に示す。また、実施例3に係る半導体装置のドレイン電流-ドレイン電圧特性を図12(a)に示す。また、実施例4に係る半導体装置のドレイン電流-ドレイン電圧特性を図12(b)に示す。なお、これらの図では、ドレイン電圧として横軸に前記ソース電極-前記ドレイン電極間の電圧をとり、ドレイン電流として縦軸に前記ソース電極-前記ドレイン電極間を流れる電流の電流密度をとり、前記ゲート電極に印加する電圧Vを-3V刻みで0V~-15Vまで変えたときの特性を示している。
【0068】
図11に示すように、実施例2に係る半導体装置では、従来のMOSFET素子(図1等参照)と同等である、最大1.5mA/mmのドレイン電流密度が得られる。
この結果は、次のように解釈することができる。
即ち、この結果は、従来のMOSFET素子におけるドレイン領域(図1中のドレイン領域103(p型低抵抗領域)参照)における抵抗と、距離Ldgが2μmの領域(図7中の第2半導体層33参照)における抵抗とで、抵抗差がないことを意味する。これは、同時に、ドレイン電極(図7中のドレイン電極36参照)とのショットキー接合から反転層(図7中の反転層39参照)まで伸びる空乏層によって、距離Ldgが2μmの領域に内部電界が発生し、この内部電界によりゲート直下の反転層からキャリアが引き抜かれることで、本来高抵抗となる距離Ldgが2μmの領域の抵抗が無視できる状態となっていることを意味する。
つまり、本発明に係る半導体装置では、高オン抵抗のドリフト層(図1中のドリフト層104参照)を配することなく、低オン抵抗で動作が可能であることから、従来のMOSFET素子におけるオン抵抗と耐圧との関係がトレードオフの関係となる制約を受けずに、低いオン抵抗と高い耐圧とを両立させることができる。
【0069】
また、図12(a),(b)の対比から理解されるように、前記ドレイン電極-前記ゲート電極間の距離Ldgを5μmから2μmに短くすると、オンするためのドレイン電圧が低くなる。距離Ldgが2μmの図12(a)の測定結果(実施例3)では、0V~-30Vのオン電圧の範囲で、十分な電圧印加を意味するドレイン電流-ドレイン電圧特性の飽和領域が現れている。
【0070】
この図12(a),(b)に示す結果は、次のように解釈することができる。
即ち、距離Ldgがドレイン電極(図7中のドレイン電極36参照)から反転層(図7中の反転層39参照)に向けて伸びる空乏層の長さに対して長すぎる距離であると、オンするためのドレイン電圧が高くなり、ドレイン電流も急激に小さくなる。また、飽和領域に達する電圧も高くなる。
それゆえ、距離Ldgが5μmの図12(b)の測定結果(実施例4)では、0V~-30Vのオン電圧の範囲で、飽和領域が観測されなかったものと解される。
【符号の説明】
【0071】
10,20,30,100 MOSFET素子
11,21,31 第1半導体層
12,22,32 ソース部
15,25,35,105 ソース電極
16,26a,26b,36,106 ドレイン電極
17,27,37,107 ゲート絶縁膜
18,28,38,108 ゲート電極
19,29a,29b,39,109 反転層
102 ソース領域
103 ドレイン領域
104 ドリフト層

図1
図2(a)】
図2(b)】
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12(a)】
図12(b)】