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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】接合材、接合材の製造方法及び接合方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/08 20060101AFI20240513BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240513BHJP
   C09J 1/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B22F7/08 C
B22F1/00 K
B22F1/00 L
C09J1/00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020092126
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021188071
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】岡野 卓
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-052198(JP,A)
【文献】特開2019-183268(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155615(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
H01B 1/22
C09J 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子粉末及び溶剤を含む接合材であって、25℃で0.157s-1にて測定した粘度が500Pa・s以下である、接合材。
【請求項2】
前記金属粒子粉末の一部が、平均一次粒子径が150nm以下の金属微粒子粉末である、請求項1に記載の接合材。
【請求項3】
前記接合材中の金属微粒子粉末の含有量が、2~45質量%である、請求項2に記載の接合材。
【請求項4】
前記金属粒子粉末の一部が、充填率が65.0%以上であり、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8~3.2μmである金属大粒子粉末である、請求項1~3のいずれかに記載の接合材。
【請求項5】
前記接合材中の金属大粒子粉末の含有量が、40~88質量%である、請求項に記載の接合材。
【請求項6】
前記金属大粒子粉末の充填率が66.5%以上である、請求項4又は5に記載の接合材。
【請求項7】
金属粒子粉末及び溶剤を含む接合材であって、25℃で0.157s -1 にて測定した粘度が1000Pa・s以下であり、前記金属粒子粉末の一部が、充填率が66.5%以上であり、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8~3.2μmである金属大粒子粉末である、接合材。
【請求項8】
前記金属粒子粉末の一部が、平均一次粒子径が150nm以下の金属微粒子粉末である、請求項7に記載の接合材。
【請求項9】
前記接合材中の金属微粒子粉末の含有量が、2~45質量%である、請求項8に記載の接合材。
【請求項10】
前記粘度が800Pa・s以下である、請求項7~9のいずれかに記載の接合材。
【請求項11】
前記粘度が500Pa・s以下である、請求項7~10のいずれかに記載の接合材。
【請求項12】
前記接合材中の金属大粒子粉末の含有量が、40~88質量%である、請求項7~11のいずれかに記載の接合材。
【請求項13】
前記金属が、金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~12のいずれかに記載の接合材。
【請求項14】
前記金属が銀である、請求項1~13のいずれかに記載の接合材。
【請求項15】
無加圧方式の接合に使用される、請求項1~14のいずれかに記載の接合材。
【請求項16】
前記接合材中の金属粒子粉末の含有量が、90~96質量%である、請求項1~15のいずれかに記載の接合材。
【請求項17】
平均一次粒子径が150nm以下の金属微粒子粉末と、充填率が66.5%以上であり、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8~3.2μmである金属大粒子粉末と、溶剤とを混合する、接合材の製造方法。
【請求項18】
前記金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の使用量が、前記接合材中の金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の含有量が、それぞれ2~45質量%及び40~88質量%となる量である、請求項17に記載の接合材の製造方法。
【請求項19】
前記金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の使用量の合計が、前記接合材中の金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の含有量の合計が90~96質量%となる量である、請求項17又は18に記載の接合材の製造方法。
【請求項20】
前記金属が、金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項17~19のいずれかに記載の接合材の製造方法。
【請求項21】
2つの被接合部材を接合する接合方法であって、一方の前記被接合部材上に請求項1~16のいずれかに記載の接合材又は請求項17~20のいずれかに記載の接合材の製造方法で製造された接合材を塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜上に他方の前記被接合部材を載置する工程と、該他方の被接合部材が載置された塗膜を160~350℃で焼成して、前記塗膜から金属接合層を形成する工程とを有する、接合方法。
【請求項22】
前記塗膜を焼成して金属接合層を形成する際に、前記2つの被接合部材及び塗膜に圧力を加えない、請求項21に記載の接合方法。
【請求項23】
前記一方の被接合部材が基板であり、前記他方の被接合部材が半導体素子である、請求項21又は22に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合材、接合材の製造方法及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Power LEDや高周波デバイス、インバーター等のパワーデバイスの分野などにおいて、デバイスの小型化及び高出力化に伴い、デバイスの発熱の問題が大きくなってきており、このサーマルマネジメントの議論が活発になってきている。また、他の半導体デバイスにおいても、従来のシリコン系素子から化合物半導体素子への変更の検討も進み、ジャンクション温度が高くなる傾向にある。
【0003】
これらの技術的背景のもとに、各種半導体デバイスと基板等を接合する材料に求められてくるのは、放熱性及び接合信頼性である。昨今、焼結銀などの金属微粒子粉末を用いた接合材はこの放熱性と接合信頼性とを実現し得る材料として注目されている。またこのような接合材は低温で焼結して金属接合層を形成するので、基板として耐熱性の低いものを使用し得るという点でも注目されている。
【0004】
前記の通り、接合材から形成される金属接合層について、接合強度や接合信頼性が求められている。金属接合層におけるボイドを減らすことは、これらを高めるのに有効である。
【0005】
また、接合方法として、基板上に接合材を塗布し、形成された塗膜上に半導体素子等を載置し、これを強い力(例えば10MPaといった圧力)で押圧しながら焼成して接合材中の金属微粒子を焼結させ、金属接合層を形成する加圧式の接合方法がある(例えば特許文献1及び2参照)。これによれば、ボイドの少ない金属接合層を形成することができる。
【0006】
しかし、このような強い力を半導体素子等及びその下の基板等にかけると、これらがダメージを受け、接合して製造された製品について信頼性の点で懸念がある。そこで、加圧するにしても弱い力で加圧する、又は加圧しないで接合を実施するための、接合材や接合方法についての検討がなされている(例えば特許文献3~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-046770号公報
【文献】特開2019-149529号公報
【文献】特開2017-214609号公報
【文献】特開2020-035721号公報
【文献】特開2016-054098号公報
【文献】特開2011-175871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の加圧によるダメージの懸念から、本発明者も無加圧方式の接合方法を検討した。接合(焼成)時のボイドの形成箇所として、金属接合層と基板等の隙間が考えられる。加圧式接合なら(焼結して金属接合層を形成中の)塗膜が基板等に押し付けられ、これらの隙間はつぶされて無くなり、ボイドの抑制された金属接合層が形成される。しかし無加圧方式の接合では、このようなことが期待できず、実際ボイドが発生してしまった。
【0009】
そこで本発明は、無加圧方式の接合にてボイドの非常に少ない金属接合層を形成することのできる接合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、接合材の粘度測定において広く採用されている領域のせん断速度で測定した粘度が同じ接合材同士でも、非常に低いせん断速度で粘度測定した場合の粘度は異なることがあること、そのような低せん断速度で測定した粘度が小さい接合材が、無加圧方式の接合に使用したとき、(金属接合層と基板等との間における)ボイドの非常に少ない金属接合層を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、以下のとおりである。
[1]金属粒子粉末及び溶剤を含む接合材であって、25℃で0.157s-1にて測定した粘度が1000Pa・s以下である、接合材。
【0012】
[2]前記金属粒子粉末の一部が、平均一次粒子径が150nm以下の金属微粒子粉末である、[1]に記載の接合材。
【0013】
[3]前記接合材中の金属微粒子粉末の含有量が、2~45質量%である、[2]に記載の接合材。
【0014】
[4]前記粘度が800Pa・s以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の接合材。
【0015】
[5]前記粘度が500Pa・s以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の接合材。
【0016】
[6]前記金属粒子粉末の一部が、充填率が65.0%以上であり、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8~3.2μmである金属大粒子粉末である、[1]~[5]のいずれかに記載の接合材。
【0017】
[7]前記接合材中の金属大粒子粉末の含有量が、40~88質量%である、[6]に記載の接合材。
【0018】
[8]前記金属大粒子粉末の充填率が66.5%以上である、[6]又は[7]に記載の接合材。
【0019】
[9]前記金属が、金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種である、[1]~[8]のいずれかに記載の接合材。
【0020】
[10]前記金属が銀である、[1]~[9]のいずれかに記載の接合材。
【0021】
[11]無加圧方式の接合に使用される、[1]~[10]のいずれかに記載の接合材。
【0022】
[12]前記接合材中の金属粒子粉末の含有量が、90~96質量%である、[1]~[11]のいずれかに記載の接合材。
【0023】
[13]平均一次粒子径が150nm以下の金属微粒子粉末と、充填率が65.0%以上であり、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8~3.2μmである金属大粒子粉末と、溶剤とを混合する、接合材の製造方法。
【0024】
[14]前記金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の使用量が、前記接合材中の金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の含有量が、それぞれ2~45質量%及び40~88質量%となる量である、[13]に記載の接合材の製造方法。
【0025】
[15]前記金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の使用量の合計が、前記接合材中の金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の含有量の合計が90~96質量%となる量である、[13]又は[14]に記載の接合材の製造方法。
【0026】
[16]前記金属大粒子粉末の充填率が66.5%以上である、[13]~[15]のいずれかに記載の接合材の製造方法。
【0027】
[17]前記金属が、金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種である、[13]~[16]のいずれかに記載の接合材の製造方法。
【0028】
[18]2つの被接合部材を接合する接合方法であって、一方の前記被接合部材上に[1]~[12]のいずれかに記載の接合材又は[13]~[17]のいずれかに記載の接合材の製造方法で製造された接合材を塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜上に他方の前記被接合部材を載置する工程と、該他方の被接合部材が載置された塗膜を160~350℃で焼成して、前記塗膜から金属接合層を形成する工程とを有する、接合方法。
【0029】
[19]前記塗膜を焼成して金属接合層を形成する際に、前記2つの被接合部材及び塗膜に圧力を加えない、[18]に記載の接合方法。
【0030】
[20]前記一方の被接合部材が基板であり、前記他方の被接合部材が半導体素子である、[18]又は[19]に記載の接合方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、無加圧方式の接合にてボイドの非常に少ない金属接合層を形成することのできる接合材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
[接合材]
本発明の接合材の実施の形態は、金属粒子粉末及び溶剤を含んでおり、非常に低いせん断速度で測定した粘度(後述する0.157s-1、25℃の条件で測定した粘度、以下「低せん断粘度」とも言う)が低いことを特徴としている。
【0033】
<低せん断粘度>
本発明の接合材の実施の形態の、せん断速度0.157s-1、温度25℃にて測定した粘度は、1000Pa・s以下である。このように非常に低いせん断速度は、基板等の被接合物に接合材が塗布され形成された塗膜にかかる重力におよそ対応するものと考えられる。このようなせん断力(それに対応するせん断速度)での粘度がある程度低ければ、塗膜が自重により被接合物上に濡れ広がると考えられる。これにより被接合物(基板等)と塗膜の間に隙間(ギャップ)ができず、金属接合層が形成されるときに、前記ギャップ由来のボイドが形成されないものと考えられる。
【0034】
ボイド低減の観点から、低せん断粘度は好ましくは800Pa・s以下、より好ましくは500Pa・s以下、特に好ましくは450Pa・s以下である。また低せん断粘度は好ましくは10Pa・s以上である。なお低せん断粘度は、E型の回転式粘度計を用いて測定するものとする。低せん断粘度は上述の通り、接合材を基板等に塗布後、自己流動して基板等の表面形状に追従する際の流動し易さを指標化したものであるため、粘度計により、せん断速度が低い領域で、安定して粘度を測定することができる必要がある。低せん断粘度の評価では、せん断速度0.157s-1で粘度計のコーンを回転させたときの、回転開始から60秒後の時点のせん断応力から低せん断粘度を算出する。なお測定データの信頼性担保の観点から、せん断速度が、回転開始から30秒後~60秒後の30秒の間、設定値である0.157s-1の±1%以内のせん断速度に収まっていることを測定条件とする。
【0035】
<金属粒子粉末>
本発明の接合材の実施の形態は金属粒子粉末を含んでおり、基本的にはこれが焼成により焼結することで、金属接合層となる。
【0036】
接合材中の金属粒子粉末の含有量は、好ましくは70~98質量%、より好ましくは80~97質量%、更に好ましくは90~96質量%である。接合材中の金属粒子粉末の含有量が多いと、接合材中のそれ以外の有機成分(溶剤等であり、焼成時に揮発していくか残存して、いずれの場合も有機成分が存在した部分がボイドになり得る)の含有量が少なく、このことはボイド低減の観点で有利である。
【0037】
金属粒子粉末の構成金属は、導電性や熱伝導性の観点から、好ましくは金、銀、銅またはこれらの2種以上の合金である。更にコストや耐酸化性の観点から、特に好ましいのは銀である。後述する金属大粒子粉末及び金属微粒子粉末の場合も同様である。
【0038】
金属粒子粉末の形状は特に制限されない。略球状、フレーク状、不定形などいずれの形状でもよいが、略球状の金属粒子粉末が、接合材中での粒子の充填性の観点から好ましい。後述する金属大粒子粉末及び金属微粒子粉末の場合も同様である。
【0039】
(金属大粒子粉末)
以上説明した金属粒子粉末の一部は、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8~3.2μmであり、充填率が65.0%以上である金属大粒子粉末であることが好ましい。
【0040】
金属大粒子粉末の累積50%粒子径(D50)が0.8μm以上であると、接合材の粘度(低せん断粘度ではなく、接合材の印刷時のせん断力に対応するようなせん断速度で測定した場合の粘度)が下がって印刷に適したものとなり、また累積50%粒子径(D50)が3.2μm以下であれば、金属大粒子粉末に若干の焼結性を持たせて接合強度に優れた金属接合層の形成が可能である。以上の観点から、金属大粒子粉末の累積50%粒子径(D50)は、好ましくは1.0~2.2μmである。
【0041】
金属大粒子粉末の充填率に関して、本発明の接合材の実施の形態の低せん断粘度は、金属粒子粉末、溶剤やその他の成分の種類や量などの適切な選択により、上述した本発明で規定する範囲に調節することができるが、前記金属大粒子粉末として、充填率の高い(65.0%以上)ものを用いると、接合材の低せん断粘度を好適に前記の範囲に調節することができる。
【0042】
充填率とは、金属大粒子粉末のタップ密度の、その金属のバルク密度(真密度)に対する割合(タップ密度÷バルク密度×100(%))である。金属大粒子粉末として充填率が65.0%以上のものを接合材に添加すると、その低せん断粘度を1000Pa・s以下、好ましくは800Pa・s以下とすることができる。充填率が66.5%以上の金属大粒子粉末を接合材に添加すると、その低せん断粘度を500Pa・s以下や450Pa・s以下といった数値とすることができ、金属接合層のボイド低減の観点から特に好ましい。なお、金属大粒子粉末の充填率は好ましくは85.8%以下である。
【0043】
粉末の充填率は粉末の流動性(粒子表面の滑らかさなどにより影響を受ける)の指標となるものであり、無加圧接合に使用する接合材においてこれが高い粉末を使用することで、接合材の低せん断粘度を低減することができると考えられる。
【0044】
金属大粒子粉末程度のサイズの公知の金属粉末の多くは充填率が64.0%以下であるが、充填率が65.0%を超えるものも存在している。本発明では、上記低せん断粘度を実現するための一例として、充填率が65.0%以上と高い金属大粒子粉末を選択的に使用するものである。なお、充填率を求めるためのタップ密度の測定方法の詳細は、実施例の項で説明する。
【0045】
金属大粒子粉末の接合材中の含有量は、接合材の低い低せん断粘度を実現する観点から、好ましくは40~88質量%であり、より好ましくは50~85質量%であり、更に好ましくは60~82質量%である。
【0046】
接合材中での分散性を高めることで充填性を高める観点から、金属大粒子粉末は有機化合物で被覆されていてもよい。この有機化合物としては金属大粒子粉末の粒子表面を被覆可能な公知のものを特に制限なく使用可能である。前記有機化合物の例としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基及びジスルフィド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数12~24の有機化合物が挙げられる。この有機化合物は分岐を有してもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0047】
(金属微粒子粉末)
本発明の接合材の実施の形態は、金属粒子粉末の一部として平均一次粒子径が150nm以下の金属微粒子粉末を含むことが好ましい。このように微小サイズの金属微粒子粉末は焼結性に優れ、これを含む接合材からは、接合強度に優れた金属接合層が形成される。
【0048】
金属微粒子粉末の平均一次粒子径は、低温での焼成による焼結性の観点から、好ましくは130nm以下であり、より好ましくは100nm以下である。また、金属微粒子粉末の平均一次粒子径は好ましくは1nm以上である。
【0049】
なお本明細書において、平均一次粒子径とは、粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM像)又は走査型電子顕微鏡写真(SEM像)から求められる一次粒子径の平均値(個数基準の平均一次粒子径)をいう。更に具体的には、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製のJEM-1011)又は走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製のS-4700)により粒子を所定の倍率で観察した画像(SEM像又はTEM像)上の100個以上、好ましくは250個の任意の粒子の一次粒子径(粒子と面積が同じ円(面積相当円)の直径)から平均一次粒子径を算出することができる。面積相当円の直径の算出は、例えば、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製のA像くん(登録商標))により行うことができる。
【0050】
接合材中の金属微粒子粉末の含有量は、接合強度に優れた金属接合層を形成するとともに、接合材の低せん断粘度が高くなることを防止する観点から、好ましくは2~45質量%、より好ましくは5~35質量%であり、更に好ましくは8~30質量%である。
【0051】
なお金属微粒子粉末は粒子径が小さいため凝集し易い傾向にある。これを防止するため、金属微粒子粉末は有機化合物で被覆されていることが好ましい。この有機化合物としては金属微粒子粉末の粒子表面を被覆可能な公知のものを特に制限なく使用可能である。前記有機化合物の例としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基及びジスルフィド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1~18の有機化合物が挙げられる。この有機化合物は分岐を有してもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0052】
160~350℃程度での焼成により十分に金属微粒子粉末から分離して金属微粒子粉末の粒子同士の焼結を阻害しないように、前記有機化合物としては炭素数12以下のものが好ましく、炭素数2~8の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸や飽和アミンもしくは不飽和アミンがより好ましい。
【0053】
金属微粒子粉末の構成金属は、接合材から形成される金属接合層の構成金属を単一種類として、接合層全体にわたって熱膨張係数を実質的に一定として接合信頼性を高め得ることから、金属大粒子粉末の構成金属と同一であることが好ましい。
【0054】
以上説明した通り、本発明の接合材の実施の形態においては、金属粒子粉末の一部として金属大粒子粉末を含み、金属粒子粉末の一部として金属微粒子粉末を含むことが好ましい。金属粒子粉末全体(100質量%)に占める金属大粒子粉末及び金属微粒子粉末の合計は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0055】
<溶剤>
本発明の接合材の実施の形態は、溶剤を含む。この溶剤としては、金属粒子粉末を分散させることができ、接合材中の成分との反応性を実質的に有しないものを広く使用可能である。
【0056】
接合材中の溶剤の含有量は、1.5~18質量%であるのが好ましく、2.5~16質量%であるのがより好ましく、3~9.5質量%であるのが更に好ましい。この溶剤として、極性溶剤や非極性溶剤を使用することができるが、接合材中の他の成分との相溶性や環境負荷の観点から、極性溶剤を使用するのが好ましい。
【0057】
極性溶剤の例としては、水;
ターピネオール、テキサノール、フェノキシプロパノール、1-オクタノール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、テルソルブMTPH(日本テルペン化学株式会社製)、ジヒドロターピニルオキシエタノール(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTOE-100(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブDTO-210(日本テルペン化学株式会社製)等のモノアルコール;
3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(オクタンジオール)、ヘキシルジグリコール、2-エチルヘキシルグリコール、ジブチルジグリコール、グリセリン、ジヒドロキシターピネオール、3-メチルブタン-1,2,3-トリオール(イソプレントリオールA(IPTL-A)、日本テルペン化学株式会社製)、2-メチルブタン-1,2,4-トリオール(イソプレントリオールB(IPTL-B)、日本テルペン化学株式会社製)等のポリオール;
ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ターピニルメチルエーテル(日本テルペン化学株式会社製)、ジヒドロターピニルメチルエーテル(日本テルペン化学株式会社製)等のエーテル化合物;
ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート;
1-メチルピロリジノン、ピリジン等の含窒素環状化合物;
γ―ブチロラクトン、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、乳酸エチル、3-ヒドロキシ-3-メチルブチルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、テルソルブIPG-2Ac(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTHA-90(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTHA-70(日本テルペン化学株式会社製)等のエステル化合物;
などを使用することができる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
<その他の成分(添加剤)>
本発明の接合材の実施の形態は、その他の成分として公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤として具体的には、酸系分散剤やリン酸エステル系分散剤などの分散剤、ガラスフリットなどの焼結促進剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、緩衝剤、消泡剤、レベリング剤、揮発抑制剤が挙げられる。添加剤の接合材における含有量は、2質量%以下(複数種類の添加剤を含む場合は合計含有量が2質量%以下)であることが好ましい(接合材が添加剤を含む場合、その含有量は好ましくは0.005質量%以上(複数種類の添加剤を含む場合は各々の含有量が0.005質量%以上)とされる)。
【0059】
なお、接合材には樹脂を配合して金属粒子粉末同士のバインダーとして機能させるタイプのものがあるが、このような樹脂は、接合材から形成される金属接合層中に残存し、放熱性や導電性に悪影響を与えるおそれがある。また樹脂は金属とは熱膨張係数が大きく異なるので、金属接合層が冷熱サイクルを受けたときに前記の相違に起因して応力が発生して、接合信頼性に悪影響する。
【0060】
以上から、本発明の接合材の実施の形態には樹脂を実質的に配合しないことが好ましい。具体的には、接合材中の樹脂の含有量は0.3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。
【0061】
[接合材の製造方法]
本発明の接合材の実施の形態は、以上説明した、金属粒子粉末(上述の通り好ましくは金属大粒子粉末及び金属微粒子粉末を含む)及び溶剤、更に他の任意成分(添加剤等)を公知の方法で混練することで、製造することができる。なお、各成分の使用量については、接合材中の各成分の含有量が、各成分の仕込み量から計算してそれらの好ましい含有量として上記で説明したものとなる量であることが好ましい。特に、金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の使用量の合計が、接合材中の金属微粒子粉末及び金属大粒子粉末の含有量の合計が90~96質量%となる量であることがボイド低減の観点から好ましい。
【0062】
混練の方法は特に制限されるものではなく、例えば、各成分を個別に用意し、任意の順で、超音波分散機、ディスパー、三本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、プラネタリーミキサー、又は公転自転式攪拌機などで混練することによって、接合材を製造することができる。
【0063】
[接合方法]
本発明の接合方法の実施の形態は、本発明の接合材の実施の形態、又は本発明の接合材の製造方法の実施の形態により製造された接合材を用いて2つの被接合部材を接合する方法である。本発明の接合方法の実施の形態は、塗膜形成工程と、載置工程と、金属接合層形成工程とを有し、その他予備乾燥工程等を実施してもよい。以下、これら各工程について説明する。
【0064】
<塗膜形成工程>
本工程では、一方の被接合部材上に本発明の接合材の実施の形態又は本発明の接合材の製造方法の実施の形態により製造された接合材を、(印刷(例えばメタルマスク印刷、スクリーン印刷、ピン転写)などにより)塗布して塗膜を形成する。本発明の接合材の実施の形態は低せん断粘度が低いので、塗膜が前記一方の被接合部材に濡れ広がり、これらの間にギャップが形成されにくいと考えられる。
【0065】
前記一方の被接合部材の例としては、基板が挙げられる。基板としては、銅基板などの金属基板、銅と何らかの金属(例えばW(タングステン)やMo(モリブデン))との合金基板、銅板でSiN(窒化珪素)やAlN(窒化アルミニウム)などを挟んだセラミック基板、更にPET(ポリエチレンテレフタレート)基板などのプラスチック基板、FR4などのPCB基板などが挙げられる。さらにこれらを積層した積層基板も、本発明の接合方法において使用可能である。
【0066】
なお、前記一方の被接合部材の接合材が塗布される個所は、金属でメッキされていてもよい。塗膜中の金属粒子粉末との接合相性の観点からは、金属メッキは金属粒子粉末の構成金属と同じ金属のメッキであることが好ましい。
【0067】
<載置工程>
続いて、前記の一方の被接合部材上に形成された塗膜の上に、他方の被接合部材を載置する。この他方の被接合部材の例としては、SiチップやSiC、GaNチップなどの半導体素子、一方の被接合部材の例として挙げたのと同様の基板が挙げられる。前記塗膜からはボイドの低減された金属接合層が形成されることから、本発明の接合方法の実施の形態は、基板と半導体素子の接合に使用されることが好ましい。すなわち、前記他方の被接合部材としては半導体素子が好ましい。
【0068】
また、本発明の接合材の実施の形態(から形成された塗膜)は低せん断粘度が低いため、前記他方の被接合部材を塗膜上に載置したときに、塗膜が他方の被接合部材の塗膜と接する箇所(底面)の表面形状に追従して変形し、塗膜と他方の被接合部材の間にはギャップが形成されにくいと考えられる。
【0069】
他方の被接合部材の塗膜と接触する個所(底面)は、金属でメッキされていてもよい。塗膜中の金属粒子粉末との接合相性の観点からは、前記他方の被接合部材の金属メッキは、金属粒子粉末の構成金属と同じ金属のメッキであることが好ましい。また塗膜上に他方の被接合部材を載置する際には、2つの被接合部材の間に、塗膜が2つの被接合部材により圧縮される方向の圧力(例えば0.03~0.2MPa程度の圧力)をかけてもかけなくてもよい。
【0070】
<予備乾燥工程>
他方の被接合部材が載置された塗膜を焼成して金属粒子粉末を焼結させる際に、形成される金属接合層中のボイドを低減するため、塗膜上に他方の被接合部材を載置した後に(載置工程の後に)、塗膜を予備乾燥する予備乾燥工程を実施してもよい。予備乾燥は塗膜から溶剤を除去することを目的としており、溶剤が揮発し、かつ金属粒子粉末が焼結を実質的に起こさないような条件で乾燥する。このため、予備乾燥は塗膜を60~150℃で加熱することによって実施することが好ましい。この加熱による乾燥は大気圧下で行ってもよいし、減圧ないし真空下で行ってもよい。また、次に説明する金属接合層形成工程において、焼成温度までの昇温速度が7℃/分以下程度であれば、焼成温度までの昇温をもって予備乾燥工程を実施することができる。
【0071】
<金属接合層形成工程>
載置工程を実施して、必要に応じて予備乾燥工程を実施した後、2つの被接合部材にサンドイッチされた塗膜を160~350℃で焼成し、金属粒子粉末(特に微細な金属微粒子粉末)を焼結させることで、金属接合層を形成し、2つの被接合部材を接合する。
【0072】
金属接合層形成工程では、前記160~350℃の焼成温度まで昇温し、焼成温度で例えば1分~2時間保持して、接合材の塗膜から金属接合層を形成する。前記昇温の速度は特に限定されるものではないが、例えば1.5℃/分~12℃/分とすることができ、2℃/分~6℃/分とすることが好ましい。
【0073】
焼成温度は、形成される金属接合層の接合強度やコストの観点から、175~280℃であることが好ましい。
【0074】
焼成温度で保持する時間は、形成される金属接合層の接合強度や熱コストの観点から、10~90分であることが好ましい。なお、例えば焼成温度が280℃以上といった上記に示した焼成温度範囲のうち高めの温度であると、焼成温度に昇温するまでに金属接合層が形成される場合もある。このような場合には、焼成温度での保持時間は0分としてもよい。
【0075】
また、上述の通り、本発明の接合材の実施の形態(から形成された塗膜)は低せん断粘度が低いため、塗膜と一方の被接合部材の間のギャップ形成は抑制されているものと考えられる。そのためこの金属接合層形成工程においては、被接合部材間に(焼結して金属接合層を形成中の塗膜が、2つの被接合部材により圧縮される方向の)圧力を加えずとも、(金属接合層を形成中の)塗膜と一方の被接合部材の界面部分を起点としたボイドが極めて形成されにくい。
【0076】
被接合部材間、すなわち二つの被接合部材及び塗膜に圧力を加えると、[背景技術]で説明した通りこれらにダメージを与える恐れがあるが、本発明の接合材の実施の形態を使用すれば、前記のような加圧をせずともボイドの発生を抑制して接合が実施できる。また、加圧を行う場合に、接合の生産性の観点から同時に多数の接合を実施することを考えると、多数の被接合部材-塗膜-被接合部材のサンドイッチ構造物に対して同一の方向で同一の加圧を同時に行うこととなるが、それは容易ではなく、同時に多数の加圧接合を実施した場合には、得られる製品の品質の均一性に懸念がある。前記の加圧を行わない接合であれば、このような懸念は無い。以上から、本発明においては、加圧せずに金属接合層形成工程を実施して金属接合層を形成する、無加圧方式の接合を原則とする。
【0077】
また金属接合層形成工程は大気雰囲気中で実施しても窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で実施してもよいが、酸化防止の観点から不活性雰囲気中で実施することが好ましい。更にコストの観点から、本工程を窒素雰囲気中で実施することがより好ましい。
【実施例
【0078】
以下、実施例を参照しながら、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0079】
[銀微粒子粉末及び銀大粒子粉末1~4]
以下で説明する実施例及び比較例において使用した銀微粒子粉末及び銀大粒子粉末1~4の諸物性は、以下の表1の通りである。
【0080】
【表1】
【0081】
諸物性の測定方法は以下の通りである。
【0082】
<平均一次粒子径>
透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製のJEM-1011)により粒子を倍率50000倍で観察した画像上の250個の任意の粒子の一次粒子径(粒子と面積が同じ円(面積相当円)の直径)から平均一次粒子径を算出した。面積相当円の直径の算出は、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製のA像くん(登録商標))により行った。このとき、あわせて粒子形状も観察した。なお銀大粒子粉末1~4の形状については、電界放出形走査電子顕微鏡(JSM-7200M、日本電子株式会社製)で倍率20000倍にて観察した。
【0083】
<粒度分布>
粒度分布は、レーザー回折型粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで、焦点距離20mmのレンズを使用して試料粉末の体積基準の粒度分布を求めることで、累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)及び累積90%粒子径(D90)を求めた。
【0084】
<タップ密度>
タップ密度は、特開2007-263860号公報に記載された方法と同様に、試料粉末を内径6mm×高さ11.9mmの有底円筒形のダイに容積の80%まで充填して粉末層を形成し、この粉末層の上面に0.160N/mの圧力を均一に加え、この圧力で粉末がこれ以上密に充填されなくなるまで前記粉末層を圧縮した後、粉末層の高さを測定し、この粉末層の高さの測定値と、充填された試料粉末の重量とから、粉末の密度を求め、これを粉末のタップ密度とした。
【0085】
<充填率(%)>
求められたタップ密度の、銀のバルク密度(10.49g/cm)に対する百分率を計算することで求めた。
【0086】
<比表面積>
比表面積は、BET比表面積測定器(株式会社マウンテック製のMacsorb)を使用して、測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して試料粉末の粒子表面に付着した物質を除去した後、窒素とヘリウムの混合ガス(N2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法により測定した。
【0087】
[比較例(接合材の調製)]
銀微粒子粉末を17.2質量%と、銀大粒子粉末1を75.8質量%と、分散剤としてLubrizol社製SOLPLUSD-540を0.2質量%と、溶剤として、富士フィルム和光純薬株式会社製デカノールを2.35質量%、日本テルペン化学株式会社製テルソルブIPTL-Aを0.6質量%、日本テルペン化学株式会社製TOE-100を2.35質量%とを混錬して、銀ペーストを調製した。
【0088】
この銀ペーストは印刷に適した粘度に調整するため、デカノールとTOE-100をそれぞれ0.75wt%添加して希釈して、比較例の接合材を得た。得られた接合材中の銀濃度を強熱減量法により求めたところ、93.0質量%であった。
【0089】
[実施例1~4(接合材の調製)]
<実施例1>
銀微粒子粉末を16.3質量%と、銀大粒子粉末2を76.8質量%と、分散剤としてLubrizol社製SOLPLUSD-540を0.2質量%と、溶剤として、富士フィルム和光純薬株式会社製デカノールを2.35質量%、日本テルペン化学株式会社製テルソルブIPTL-Aを0.6質量%、日本テルペン化学株式会社製TOE-100を2.35質量%とを混錬して、銀ペーストを調製した。
【0090】
この銀ペーストは印刷に適した粘度に調整するため、デカノールとTOE-100をそれぞれ0.70wt%添加して希釈して、実施例1の接合材を得た。得られた接合材中の銀濃度を強熱減量法により求めたところ、93.1質量%であった。
【0091】
<実施例2>
銀微粒子粉末を17.6質量%と、銀大粒子粉末2を75.5質量%と、分散剤としてLubrizol社製SOLPLUSD-540を0.2質量%と、溶剤として、富士フィルム和光純薬株式会社製デカノールを2.35質量%、日本テルペン化学株式会社製テルソルブIPTL-Aを0.6質量%、日本テルペン化学株式会社製TOE-100を2.35質量%とを混錬して、銀ペーストを調製した。
【0092】
この銀ペーストは印刷に適した粘度に調整するため、デカノールとTOE-100をそれぞれ0.70wt%添加して希釈して、実施例2の接合材を得た。得られた接合材中の銀濃度を強熱減量法により求めたところ、93.1質量%であった。
【0093】
<実施例3>
銀微粒子粉末を16.7質量%と、銀大粒子粉末3を76.4質量%と、分散剤としてLubrizol社製SOLPLUSD-540を0.2質量%と、溶剤として、富士フィルム和光純薬株式会社製デカノールを2.35質量%、日本テルペン化学株式会社製テルソルブIPTL-Aを0.6質量%、日本テルペン化学株式会社製TOE-100を2.35質量%とを混錬して、銀ペーストを調製した。
【0094】
この銀ペーストは印刷に適した粘度に調整するため、デカノールとTOE-100をそれぞれ0.70wt%添加して希釈して、実施例3の接合材を得た。得られた接合材中の銀濃度を強熱減量法により求めたところ、93.1質量%であった。
【0095】
<実施例4>
銀微粒子粉末を17.2質量%と、銀大粒子粉末4を75.8質量%と、分散剤としてLubrizol社製SOLPLUSD-540を0.2質量%と、溶剤として、日本テルペン化学株式会社製テルソルブIPTL-Aを0.6質量%、富士フィルム和光純薬株式会社製デカノールを2.35質量%、日本テルペン化学株式会社製TOE-100を2.35質量%とを混錬して、銀ペーストを調製した。
【0096】
この銀ペーストは印刷に適した粘度に調整するため、デカノールとTOE-100をそれぞれ0.70wt%添加して希釈して、実施例4の接合材を得た。得られた接合材中の銀濃度を強熱減量法により求めたところ、93.0質量%であった。
【0097】
以上、調製した比較例1及び実施例1~4の接合材の成分組成を下記表2に表示した。
【0098】
【表2】
【0099】
[粘度測定]
<低せん断粘度>
比較例及び実施例1~4の接合材について、E型の回転式粘度計であるレオメーター(回転式動的粘弾性測定装置)(Thermo社製のHAAKE RheoStress 600、コーン径35mm、コーン角度2°のコーンを使用)を用い、25℃、せん断速度0.157s-1の条件で粘度(低せん断粘度)の評価を行った。粘度測定は、以下のようにしておこなった。ステージとコーンの隙間に接合材を注入し、コーンを0.157s-1で回転させたときの、回転開始から60秒後の時点のせん断応力から低せん断粘度を算出した。なおその際のせん断速度が、回転開始から30秒後~60秒後の30秒の間、設定値である0.157s-1の±1%以内のせん断速度に収まっていることを確認したうえで、低せん断粘度を求めた。
【0100】
<1rpm及び5rpmでの粘度>
更に比較例及び実施例1~4の接合材について、上記と同様のレオメーターを用いて、25℃にて、回転数1rpm(3.1s-1)、及び5rpm(15.7s-1)での粘度及びチキソ比(1rpmでの粘度/5rpmでの粘度)を求めた。
【0101】
以上の粘度測定の結果を下記表3にまとめる。
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示すように、比較例および実施例1~4の接合材は、1rpm粘度や5rpm粘度並びにチキソ比ではあまり変わらないものの、低せん断粘度が大きく異なることが確認された。
【0104】
<接合試験(ボイド評価)>
エタノールで脱脂した後に10質量%硫酸で処理した30mm×36.6mm×2.32mm(Cu/SiN/Cu=1.0mm/0.32mm/1.0mm)の大きさのDBC基板(SiN(窒化珪素)を銅板で挟んだセラミック基板)と、接合面(底面全面)にAgめっきを施した8mm×8mm×0.1mmの大きさの半導体素子を用意した。
【0105】
次に、前記DBC基板上にメタルマスク印刷で上記比較例及び実施例1~4の接合材をそれぞれ塗布した。DBC基板上に塗布された接合材上に、上記の半導体素子のAgめっきした部分が接合材に接するように配置した。接合材と半導体素子の間に、素子の上面全体を押すことで5Nの荷重(約0.08MPaの圧力)をかけた後、熱風循環式焼成炉により窒素雰囲気(酸素濃度500ppm以下)中において25℃から昇温速度3℃/minで250℃まで昇温させ、250℃で60分間保持する焼成を行って、銀接合層を形成し、この銀接合層によって半導体素子をDBC基板に接合した。
【0106】
得られたDBC基板-銀接合層-半導体素子の接合体について、超音波探傷検査装置(C-SAM:SONOSCAN社製のD9500)により半導体素子の上面から接合部(上から半導体素子-銀接合層-DBC基板の積層部位)を観察した。得られた画像(C-SAM像)から、DBC基板の銀接合層との界面のボイドの有無を観察した。また、同装置に付属の解析ソフトを用い、ボイド箇所の全観察部位に占める割合(百分率)を算出し、これをボイド率と規定した。なおボイド箇所とはC-SAM像において白く見えるところであり、全観察部位とは半導体素子の接合面に対応する、8mm×8mmの正方形の領域である。
【0107】
ボイド率の評価結果を下記表4に示す。なお、接合材の低せん断粘度並びに接合材中の銀大粒子粉末のタップ密度及び充填率も表4にあわせて示す。
【0108】
【表4】
【0109】
表4に示すように、低せん断粘度が大きな接合材を用いた比較例では、ボイド率が1.24%であったのに対して、実施例1~4では、低せん断粘度が1000Pa・s以下である接合材を用いることで、比較例よりもボイド率を0.77%以下と低く抑え、ボイドを低減できることが確認された。また、低せん断粘度を小さくするほどボイド率を低減できる傾向が確認された。このように、接合材の低せん断粘度を小さくすることにより、ボイドを低減することができる。