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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240513BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20240513BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240513BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/064 A
B23K26/53
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020132463
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029227
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】寺西 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】一宮 佑希
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 舞
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-159333(JP,A)
【文献】特開2010-000542(JP,A)
【文献】特開2016-111315(JP,A)
【文献】特開2018-207009(JP,A)
【文献】特開2011-031284(JP,A)
【文献】特開2014-147946(JP,A)
【文献】特表2020-529925(JP,A)
【文献】国際公開第2010/090111(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/156690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/064
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を被加工物の内部に位置づけて照射して改質層を形成するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする送り手段と、を含むレーザー加工装置であって、
該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線の位相を調整する空間光位相変調器と、該空間光位相変調器によって位相が調整されたレーザー光線を集光して被加工物の内部に集光点を位置付ける集光器と、該空間光位相変調器を調整する制御手段と、を備え、
該制御手段は、該空間光位相変調器を調整して被加工物に入射して屈折したレーザー光線の集光点における収差の比較的小さい強補正の中央領域と、収差の比較的大きい弱補正の外周領域と、を形成するレーザー加工装置。
【請求項2】
該強補正の中央領域は、該発振器が発振したレーザー光線の中央側における20%~30%の領域であり、
該弱補正の領域は、該中央領域を囲繞する残りの外周領域である請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該制御手段は、被加工物の内部に位置付けるレーザー光線の集光点の深さ位置に対応して該空間光位相変調器を調整する調整パターンを複数記憶する記憶部を備え、オペレータの指定する集光点深さ位置に対応して該調整パターンを選定する請求項1、又は2に記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持手段に保持された被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を被加工物の内部に位置づけて照射して改質層を形成するレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され形成されたウエーハは、レーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
レーザー加工装置は、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を被加工物の内部に位置付けて照射して、改質層及び該改質層から延びるクラックを形成するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする送り手段と、を含み構成されていて、分割予定ラインに対応するウエーハの内部に集光点を位置付けて適正な位置に分割の起点となる改質層を形成し、外力を付与してウエーハを個々のデバイスチップに分割することができる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3408805号公報
【0005】
上記した特許文献1に記載の技術によれば、ウエーハの厚みが、例えば50μm~150μm程度の薄い厚みである場合は、レーザー光線の集光点をウエーハの内部の適正な位置に位置付けて、改質層及び改質層から延びるクラックを適正に形成することができる。しかし、ウエーハの厚みが大きくなり、例えば300μmを超える厚みになると、ウエーハを構成する素材の屈折率(例えばシリコンの場合は概ね3.5)が影響して、収差が大きくなり、レーザー光線の集光点が一点に集中しなくなって、適正な改質層が形成されない、という問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した問題に対処すべく、レーザー光線照射手段を構成する発振器と集光器との間に空間光位相変調器(LCOS等)を配設し、空間光位相変調器によって球面収差を全体的に補正してレーザー光線の集光点をウエーハの内部の一点に集中することが考えられる。しかし、空間光位相変調器を調整するパターンの中心と、レーザー光線の光軸とを正確に一致させることは容易ではなく、空間光位相変調器を調整するパターンの中心と、レーザー光線の光軸との間にズレが生じている場合は、意図したように集光点を集中させることができず加工力が低下して、レーザー加工装置の加工が安定して実施できないという問題が生じる。この問題に対して、空間光位相変調器による球面収差の補正の強度を弱めることにより、空間光位相変調器を調整するパターンの中心と、レーザー光線の光軸との間に多少のズレがあっても、ある程度の加工力が確保されるようにすることが可能であるが、上記したように球面収差の補正を弱める結果、加工力が犠牲となるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、空間光位相変調器を調整するパターンの中心と、レーザー光線の光軸とに多少のズレがあったとしても、加工力を安定させると共に加工力を高めることができるレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を被加工物の内部に位置づけて照射して改質層を形成するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする送り手段と、を含むレーザー加工装置であって、該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線の位相を調整する空間光位相変調器と、該空間光位相変調器によって位相が調整されたレーザー光線を集光して被加工物の内部に集光点を位置付ける集光器と、該空間光位相変調器を調整する制御手段と、を備え、該制御手段は、該空間光位相変調器を調整して被加工物に入射して屈折したレーザー光線の集光点における収差の比較的小さい強補正の中央領域と、収差の比較的大きい弱補正の外周領域と、を形成するレーザー加工装置が提供される。
【0009】
該強補正の中央領域は、該発振器が発振したレーザー光線の中央側における20%~30%の領域であり、該弱補正の領域は、該中央領域を囲繞する残りの外周領域であることが好ましい。また、該制御手段は、被加工物の内部に位置付けるレーザー光線の集光点の深さ位置に対応して該空間光位相変調器を調整する調整パターンを複数記憶する記憶部を備え、オペレータの指定する集光点深さ位置に対応して該調整パターンを選定するようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレーザー加工装置は、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を被加工物の内部に位置づけて照射して改質層を形成するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする送り手段と、を含むレーザー加工装置であって、該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線の位相を調整する空間光位相変調器と、該空間光位相変調器によって位相が調整されたレーザー光線を集光して被加工物の内部に集光点を位置付ける集光器と、該空間光位相変調器を調整する制御手段と、を備え、該制御手段は、該空間光位相変調器を調整して被加工物に入射して屈折したレーザー光線の集光点における収差の比較的小さい強補正の中央領域と、収差の比較的大きい弱補正の外周領域と、を形成するようにしていることから、空間光位相変調器を調整するパターンの中心と、レーザー光線の光軸とにズレが生じても、加工力が安定していると共に、加工力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の被加工物であるウエーハに保護テープを敷設する態様を示す斜視図である。
図2】レーザー加工装置の斜視図である。
図3図2に示すレーザー加工装置のレーザー光線照射手段の光学系のブロック図、及び調整パターンテーブルである。
図4】(a)~(c)スポットの形状の示す平面図である。
図5】レーザー加工工程を示す一部拡大断面図である。
図6】研削工程の実施態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に基づいて構成されるレーザー加工装置に係る実施形態について添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0013】
図1には、本実施形態によって加工される被加工物として用意されるウエーハ10、及び保護テープTが示され、ウエーハ10の表面10aに保護テープTが敷設される態様が示されている。ウエーハ10は、例えば、厚さが700μmのシリコンウエーハであり、複数のデバイス12が分割予定ライン14によって区画され表面10aに形成されている。保護テープTは、粘着層を備えた樹脂製のテープであり、ウエーハ10の表面10a側に貼着されて一体とされる。
【0014】
図2には、本実施形態のレーザー加工装置2が示されている。レーザー加工装置2は、基台3と、被加工物を保持する保持手段4と、レーザー光線照射手段6と、撮像手段7と、保持手段4とレーザー光線照射手段6とを相対的に加工送りする送り手段として配設された保持手段4を移動させる移動手段30と、制御手段(追って説明する)とを備える。
【0015】
保持手段4は、図中に矢印Xで示すX軸方向において移動自在に基台3に載置される矩形状のX軸方向可動板21と、図中に矢印Yで示すY軸方向において移動自在にX軸方向可動板21に載置される矩形状のY軸方向可動板22と、Y軸方向可動板22の上面に固定された円筒状の支柱23と、支柱23の上端に固定された矩形状のカバー板26とを含む。カバー板26には長穴を通って上方に延びる円形状のチャックテーブル25が配設されており、チャックテーブル25は、図示しない回転駆動手段により回転可能に構成されている。チャックテーブル25の上面を構成するX軸座標、及びY軸座標により規定される保持面25aは、多孔質材料から形成されて通気性を有し、支柱23の内部を通る流路によって図示しない吸引手段に接続されている。
【0016】
移動手段30は、基台3上に配設され、保持手段4をX軸方向に加工送りするX軸方向送り手段31と、Y軸方向可動板22をY軸方向に割り出し送りするY軸方向送り手段32と、を備えている。X軸方向送り手段31は、パルスモータ33の回転運動を、ボールねじ34を介して直線運動に変換してX軸方向可動板21に伝達し、基台3上の案内レール3a、3aに沿ってX軸方向可動板21をX軸方向において進退させる。Y軸方向送り手段32は、パルスモータ35の回転運動を、ボールねじ36を介して直線運動に変換してY軸方向可動板22に伝達し、X軸方向可動板21上の案内レール21a、21aに沿ってY軸方向可動板22をY軸方向において進退させる。なお、図示は省略するが、X軸方向送り手段31、Y軸方向送り手段32、及びチャックテーブル25には、位置検出手段が配設されており、チャックテーブル25のX軸座標、Y軸座標、周方向の回転位置が正確に検出されて、その位置情報は、レーザー加工装置2の該制御手段に送られる。そして、その位置情報に基づいて該制御手段から指示される指示信号により、X軸方向送り手段31、Y軸方向送り手段32、及び図示しないチャックテーブル25の回転駆動手段が駆動されて、基台3上の所望の位置にチャックテーブル25を位置付けることができる。
【0017】
図2に示すように、移動手段30の側方には、枠体37が立設される。枠体37は、基台3上に配設され該X軸方向及び該Y軸方向に直交するZ軸に沿って配設された垂直壁部37a、及び垂直壁部37aの上端部から水平方向に延びる水平壁部37bと、を備えている。枠体37の水平壁部37bの内部には、レーザー光線照射手段6の光学系が収容されており、該光学系の一部を構成する集光器67が水平壁部37bの先端部下面に配設されている。
【0018】
撮像手段7は、水平壁部37bの先端部下面であって、レーザー光線照射手段6の集光器67とX軸方向に間隔をおいた位置に配設されている。撮像手段7には、可視光線により撮像する通常の撮像素子(CCD)、赤外線を照射する赤外線照射手段、赤外線照射手段により照射されチャックテーブル25上で反射した赤外線を捕らえ、赤外線に対応する電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等が含まれる。撮像手段7によって撮像された画像は、該制御手段に送られ、適宜の表示手段(図示は省略)に表示される。
【0019】
図3を参照しながら、レーザー加工装置2の水平壁部37bに収容されるレーザー光線照射手段6の光学系について説明する。
【0020】
レーザー光線照射手段6は、チャックテーブル25に保持されるウエーハ10に対して透過性を有する波長のレーザー光線LB0(本実施形態においては、パルスレーザー光線)を発振する発振器61と、発振器61が発振したレーザー光線LB0を所望の出力に調整するアッテネータ62と、アッテネータ62によって出力が調整されたレーザー光線LB0の位相を調整して位相が調整された後のレーザー光線LB1を出力する空間光位相変調器(LCOS等)63と、空間光位相変調器63によって位相が調整されたレーザー光線LB1を集光してチャックテーブル25上のウエーハ10の内部に集光点を位置付ける集光レンズ67aが配設された集光器67と、空間光位相変調器63を調整する制御手段100と、を備えている。なお、集光レンズ67aは、1つのレンズにより構成されることに限定されず、複数のレンズによって構成される組レンズであってもよい。
【0021】
制御手段100は、コンピュータから構成され、必要に応じてオペレータによる制御指示を入力するための入力手段8に電気的に接続され、空間光位相変調器63の作動を調整するものである。また、制御手段100のメモリには、図3に示す調整パターンテーブル112が記憶された記憶部110が配設されている。調整パターンテーブル112は、被加工物の内部に位置付けるレーザー光線LB1の集光点の深さ位置Dに対応して空間光位相変調器63を調整する調整パターン114を複数記憶したものである。なお、本実施形態における制御手段100は、レーザー加工装置2を構成する上記したレーザー光線照射手段6、撮像手段7、移動手段30等が接続されており、各手段の制御も行うものであるが、空間光位相変調器63を調整するために別途配設される専用の制御手段であってもよい。
【0022】
空間光位相変調器63は、例えば、シリコンの基板上に、液晶を配置したものであり、該液晶は、最上層に配設される複数の画素(例えばアルミ電極)によって形成され、各画素の電位を、図3に示す調整パターンテーブル112によって選択された調整パターン114に従い画素毎に独立に制御して、該液晶を通過するレーザー光線LB0の波面、すなわち、位相の空間分布を変調する。
【0023】
図3に加え、図4を参照しながら、本実施形態の空間光位相変調器63の機能、作用について、さらに説明する。上述したように、ウエーハ10の厚みが大きくなると、ウエーハ10を構成する素材の屈折率(本実施形態ではシリコンであり、概ね3.5)の影響により、ウエーハ10の内部に位置付けられる集光点における収差が大きくなり、そのままでは、レーザー光線の集光点が一点に集中しなくなって、適正な改質層が形成されない。本実施形態では、これに対処すべく、制御手段100の記憶部110に記憶された調整パターンテーブル112を参照して、ウエーハ10の内部において集光点を形成したい所望の深さ位置Dに対応して記憶された調整パターン114を選択し、選択された調整パターン114に基づいて空間光位相変調器63を調整する。例えば、所望の深さDが300μmである場合は、上記調整パターンテーブル112を参照して、調整パターン114aが選択され、調整パターン114aに従い、空間光位相変調器63が制御される。この際に該集光点Pに形成されるスポットS1を図4(a)に示す。
【0024】
図4(a)に示すように、上記した調整パターンテーブル112によって適切に調整パターン114が選択され空間光位相変調器63が調整されることにより、収差の比較的小さい強補正の中央領域S1a(点線で示す領域)と、該中央領域S1aを囲繞し、中央領域S1aと比較して収差の大きい弱補正の外周領域S1bと、が形成される。なお、中央領域と、外周領域とを備えたスポット形状は、図4(a)に示された同心円状に限定されず、例えば、図4(b)に示された四角形状のスポットS2、図4(c)に示された三角形状のスポットS3であってもよい。図4(b)に示すように、レーザー光線LB1が集光されて形成されたスポットS2が四角形状である場合も、スポットS2の中央側に、強補正された中央領域S2aが形成され、中央領域S2aを囲繞する弱補正された外周領域S2bが形成される。同様に、図4(c)に示すように、レーザー光線LB1が集光されて形成されたスポットS3が三角形状である場合も、中央側に強補正された中央領域S3aが形成され、中央領域S3aを囲繞する弱補正された外周領域S3bが形成される。
【0025】
ここで、本願の発明者らは、収差の比較的小さい強補正の中央領域と、該中央領域を囲繞する収差の比較的大きい弱補正の外周領域とにおける適切な比率について、実験、シミュレーション等により検討を重ねたところ、収差の比較的小さい強補正の中央領域の面積をスポット形状の総面積に対して20%~30%になるように設定することにより、空間光位相変調器63を調整する調整パターン114の中心と、レーザー光線LB0の光軸との間に通常の調整で起こり得るズレが生じたとしても、レーザー加工における加工力が安定し、加工力を犠牲にすることなくレーザー加工が実施可能であることを見出した。
【0026】
なお、図4(a)に示すスポットS1の中央領域S1aと、中央領域S1aを囲繞する外周領域S1bとにおける補正の強度については、以下に示す技術思想に基づいて設定される。
【0027】
撮像光学系の波面収差を近似する多項式として、フリンジゼルニケ多項式(以下「ゼルニケ多項式」という)が知られている。該ゼルニケ多項式は、極座標(r、θ)を使用して表される多項式として一般的に知られ、rは単位円の半径、θは回転角度である。ゼルニケ多項式を構成する第9項([Z9])は、
[Z9]=6r―6r+1 ・・・(1)
であり、該式(1)は、球面収差を表す。ここで、上記した空間光位相変調器63によって強補正される中央領域S1aは、該強補正によって所望の深さ位置Dの集光点位置における収差をゼロに極力近づくように補正するものである。これに対し、空間光位相変調器63によって弱補正される外周領域S1bは、ゼルニケ多項式の上記第9項の係数の値が、強補正による補正に対し、0.05~0.09程度大きく、より好ましくは、0.07程度大きくなるように計算されて、補正されるものである。
【0028】
本実施形態のレーザー加工装置2は、概ね上記したとおりの構成を備えており、以下にその作用、効果について説明する。
【0029】
図2に示すレーザー加工装置2を使用してウエーハ10にレーザー加工を施すに際し、図示を省略するカセットから、図1に基づき説明したウエーハ10を搬出して、ウエーハ10の裏面10b側を上方に、保護テープT側を下方に向けてチャックテーブル25の吸着チャック25a上に載置し、図示しない吸引手段を作動して吸引保持する。
【0030】
次いで、移動手段30を作動して、ウエーハ10を撮像手段7の下方に位置付け、撮像手段7によって、ウエーハ10の裏面10b側から赤外線を照射して、表面10aに形成された分割すべき領域である分割予定ライン14の位置を検出して制御手段100に記憶する(アライメント工程)。
【0031】
該アライメント工程を実施したならば、移動手段30を作動して、ウエーハ10を集光器67の下方に移動して、分割予定ライン14をX軸方向に沿う方向に整合させると共にアライメント工程において検出された位置情報に基づき、所定の分割予定ライン14において加工を開始すべき位置を、集光器67の直下に位置付ける。
【0032】
次いで、上記のレーザー光線照射手段6を作動して、ウエーハ10の内部における所望の深さDに集光点Pを位置付けてウエーハ10の材質(シリコン)に対して透過性を有する波長のレーザー光線LB1を生成し、図5に示すように、ウエーハ10の裏面10bから分割すべき領域、すなわち分割予定ライン14に沿って照射すると共に、移動手段30を作動して、チャックテーブル25を矢印Xで示すX軸方向に加工送りして改質層18を形成する。
【0033】
本実施形態の改質層18は、図5に示すように、深さが異なる第一の改質層18a、第二の改質層18b、及び第三の改質層18cにより形成される。第一の改質層18aの深さDは、例えば、550μmであり、第一の改質層18aを形成すべくレーザー光線照射手段6を作動させる際には、図3に示す制御手段100の調整パターンテーブル112を参照して、調整パターン114bが選択されて空間光位相変調器63が調整されてレーザー光線LB1が照射される。また、第二の改質層18bの深さDは、例えば500μmであり、第二の改質層18bを形成すべくレーザー光線照射手段6を作動させる際には、制御手段100の調整パターンテーブル112を参照して、調整パターン114cが選択されて空間光位相変調器63が調整されてレーザー光線LB1が照射される。さらに、第三の改質層18cの深さDは、例えば450μmであり、第三の改質層18cを形成すべくレーザー光線照射手段6を作動させる際には、制御手段100の調整パターンテーブル112を参照して、調整パターン114dが選択されて空間光位相変調器63が調整されてレーザー光線LB1が照射される。
【0034】
上記したように、深さDが異なる第一~第三の改質層18a~18cを形成する際には、集光点Pを形成する所望の深さDに合わせて空間光位相変調器63が調整され、ウエーハ10に入射して屈折したレーザー光線LB1の集光点Pにおける収差の比較的小さい強補正の中央領域S1aと、収差の比較的大きい弱補正の外周領域S1bとを備えるスポットS1が形成されて、前記の各改質層を順次形成することにより、上下の改質層を連結すると共に、表面10a側に達するクラック19が形成される。
【0035】
所定の分割予定ライン14に沿って上記改質層18、及びクラック19を形成したならば、ウエーハ10をX軸方向に直交するY軸方向(図5の紙面に垂直な方向)に分割予定ライン14の間隔だけ割り出し送りして、Y軸方向で隣接する未加工の分割予定ライン14を集光器67の直下に位置付ける。そして、上記したのと同様にしてレーザー光線LB1をウエーハ10の分割予定ライン14に沿って照射すると共にウエーハ10をX軸方向に加工送りして、ウエーハ10の内部に改質層18、及びクラック19を形成する。
【0036】
上記した加工を繰り返すことにより、X軸方向に沿うすべての分割予定ライン14に沿ってレーザー光線LB1を照射し、改質層18、及びクラック19形成する。次いで、ウエーハ10を90度回転させて、既に改質層18、及びクラック19を形成した分割予定ライン14と直交する未加工の分割予定ライン14をX軸方向に整合させる。そして、残りの各分割予定ライン14の内部に、上記したのと同様にしてレーザー光線LB1の集光点Pを位置付けて照射して、ウエーハ10のすべての分割予定ライン14に沿って改質層18、及びクラック19を形成してレーザー加工工程が完了する。
【0037】
なお、本実施形態のレーザー加工におけるレーザー加工条件は、例えば、以下のように設定される。
波長 :1099nm
平均出力 :2.6W
繰り返し周波数 :120kHz
送り速度 :800mm/秒
【0038】
上記したレーザー加工装置2によりレーザー加工が施されたウエーハ10は、図6に示す研削装置50(一部のみ示している)に搬送され、以下に説明する研削加工が施される。
【0039】
研削装置50は、チャックテーブル51と、研削手段52とを備えている。チャックテーブル51は、図示を省略する吸引源に接続され、該吸引源の作用により、上面に吸引負圧が供給される。チャックテーブル51は、図示を省略する回転手段、及び移動手段を備え、該回転手段の作用により回転可能に構成されると共に、該移動手段の作用により、チャックテーブル51上にウエーハ10を搬出入する搬出入領域と、研削手段52によって研削加工される研削加工領域とで移動させられる。研削手段52は、図示しない電動モータによって回転させられる回転スピンドル53と、回転スピンドル53の下端に配設されたホイールマウント54と、ホイールマウント54の下面に装着される研削ホイール55と、研削ホイール55の下面に環状に配設された複数の研削砥石56と、を備えている。
【0040】
研削装置50に搬送されたウエーハ10は、図6に示すように、裏面10b側を上方に、保護テープT側を下方に向けられ、搬出入領域に位置付けられたチャックテーブル51上に載置され、該吸引源の作用により吸引保持される。次いで、チャックテーブル51は、該移動手段により、研削手段52の直下、すなわち研削加工領域に移動させられ、上方から見てチャックテーブル51に保持されたウエーハ10の中心が、環状に配設された研削砥石56が通過する位置に位置付けられる。
【0041】
ウエーハ10を該研削加工領域に位置付けたならば、チャックテーブル51を矢印R1で示す方向に例えば300rpmで回転させ、これと同時に研削手段52の回転スピンドル53を矢印R2で示す方向に、例えば6000rpmで回転させる。そして、図示しない研削送り手段を作動して、研削手段52を矢印R3で示す方向に下降させて、チャックテーブル51に接近させ、ウエーハ10の裏面10bに上方から接触させ、例えば1.0μm/秒の研削送り速度で研削送りする。この際、図示しない測定ゲージによりウエーハ10の厚みを測定しながら研削を進めることが好ましい。このようにして、研削加工を実施することで、図6に示すように、ウエーハ10が薄化されると共に分割予定ライン14に沿って破断されて、個々のデバイスチップ12’に分割される。該研削加工が完了したウエーハ10は、適宜次工程に搬送されるか、又は図示を省略するカセットに収容される。
【0042】
本実施形態によれば、空間光位相変調器63を調整するパターンの中心と、レーザー光線LB0の光軸とにズレが生じても、加工力が安定すると共に、加工力を高めることができる。
【0043】
なお、上記した調整パターンテーブル112は単なる一つ実施例にすぎず、図3に示すような形態に限定されるわけではない。
【符号の説明】
【0044】
2:レーザー加工装置
3:基台
4:保持手段
6:レーザー光線照射手段
61:発振器
62:アッテネータ
63:空間光位相変調器
67:集光器
67a:集光レンズ
10:ウエーハ
12:デバイス
14:分割予定ライン
18:改質層
18a:第一の改質層
18b:第二の改質層
18c:第三の改質層
19:クラック
21:X軸方向可動板
22:Y軸方向可動板
25:チャックテーブル
30:移動手段
31:X軸方向送り手段
32:Y軸方向送り手段
50:研削装置
51:チャックテーブル
52:研削手段
53:回転スピンドル
54:ホイールマウント
55:研削ホイール
56:研削砥石
100:制御手段
112:調整パターンテーブル
114、114a~114c:調整パターン
S1~S3:スポット
S1a:中央領域
S1b:外周領域
LB0:レーザー光線(調整前)
LB1:レーザー光線(調整後)
図1
図2
図3
図4
図5
図6