(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】圧力変動吸着式ガス分離方法及び圧力変動吸着式ガス分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/047 20060101AFI20240513BHJP
B01D 53/053 20060101ALI20240513BHJP
B01D 53/46 20060101ALI20240513BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20240513BHJP
C01B 23/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B01D53/047 ZAB
B01D53/053
B01D53/46
B01D53/82
C01B23/00 P
(21)【出願番号】P 2021214395
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 正也
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-130611(JP,A)
【文献】特開2005-336046(JP,A)
【文献】特開2006-061831(JP,A)
【文献】特開2012-124447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02 - 53/12
B01D 53/34 - 53/85
C01B 23/00
C01B 21/04
C01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤と、前記吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分及び前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を含む原料ガスと、を用い、
前記吸着剤を充填した下部筒及び上部筒と、少なくとも前記原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽と、前記下部筒からの前記易吸着成分を貯留する易吸着成分低圧貯留槽と、前記易吸着成分を高圧にて貯留する易吸着成分高圧貯留槽と、前記原料ガス貯留槽又は前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に送る圧縮機と、前記上部筒からの前記難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽と、を備える圧力変動吸着式ガス分離装置を使用し、前記原料ガス中の前記易吸着成分と前記難吸着成分とを分離し、前記易吸着成分及び前記難吸着成分のそれぞれを回収する圧力変動吸着式ガス分離方法であって、
(a)前記原料ガス貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記ガス中の前記易吸着成分を前記吸着剤に吸着し、前記下部筒からの前記易吸着成分が減少したガスを前記上部筒に導入し、前記易吸着成分が減少したガス中に含まれる前記易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着して、前記上部筒から流出してくる前記難吸着成分を前記難吸着成分貯留槽に回収する工程と、
(b)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記下部筒の前記吸着剤に共吸着された前記難吸着成分及び前記吸着剤の空隙に存在する前記難吸着成分を前記上部筒に導出し、前記下部筒から流入してきたガス中に含まれる易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着させて、前記上部筒から前記難吸着成分を導出させる工程と、
(c)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記易吸着成分高圧貯留槽に回収する工程と、
(d)前記下部筒を減圧して、前記下部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を脱着させ、脱着してきた前記易吸着成分を前記易吸着成分低圧貯留槽に回収する工程と、
を有し、
前記工程(a)~工程(d)を予め定められたシーケンスに基づいて順次繰り返し行うことによって前記原料ガス中の前記易吸着成分及び前記難吸着成分を同時に回収
し、
前記工程(b)の後に前記工程(c)を行う、圧力変動吸着式ガス分離方法。
【請求項2】
さらに、
(e)前記上部筒を減圧して、前記上部筒の前記吸着剤に吸着したガスを脱着させ、脱着してきたガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してきたガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程と、
(f)前記工程(a)において回収した前記難吸着成分を向流パージガスとして前記上部筒に導入し、前記上部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を置換脱着し、前記上部筒から流出してくるガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してくるガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程と、
(g)前記工程(b)において導出した前記難吸着成分を導入することで前記下部筒及び前記上部筒を加圧する工程と、
を有し、
前記工程(a)~工程(g)の各工程を予め定められたシーケンスに基づいて順次繰り返し行うことによって前記原料ガス中の前記易吸着成分及び前記難吸着成分を同時に回収する、請求項1に記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
【請求項3】
前記工程(c)は前記易吸着成分高圧貯留槽が所定の圧力に到達したら終了する、請求項1又は2に記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
【請求項4】
前記圧縮機を通気するガス中の前記易吸着成分の濃度が前記工程(c)の開始前において予め定められた濃度に達していなければ、前記工程(c)をスキップし、前記工程(b)完了後に前記工程(d)を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
【請求項5】
前記易吸着成分低圧貯留槽は吸着剤が充填された容器である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
【請求項6】
吸着剤と、前記吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分及び前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を含む原料ガスと、を用い、
前記吸着剤を充填した下部筒及び上部筒と、少なくとも前記原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽と、前記下部筒からの前記易吸着成分を貯留する易吸着成分低圧貯留槽と、前記易吸着成分を高圧にて貯留する易吸着成分高圧貯留槽と、前記原料ガス貯留槽又は前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に送る圧縮機と、前記上部筒からの前記難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽と、制御部と、を備え、前記原料ガス中の前記易吸着成分と前記難吸着成分とを分離し、前記易吸着成分及び前記難吸着成分のそれぞれを回収する圧力変動吸着式ガス分離装置であって、
前記制御部は、以下の工程(a)~工程(d)の各工程を予め定められたシーケンスによって制御
し、
前記工程(b)の後に前記工程(c)を行う、圧力変動吸着式ガス分離装置。
(a)前記原料ガス貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記ガス中の前記易吸着成分を前記吸着剤に吸着し、前記下部筒からの前記易吸着成分が減少したガスを前記上部筒に導入し、前記易吸着成分が減少したガス中に含まれる前記易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着して、前記上部筒から流出してくる前記難吸着成分を前記難吸着成分貯留槽に回収する工程。
(b)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記下部筒の前記吸着剤に共吸着された前記難吸着成分及び前記吸着剤の空隙に存在する前記難吸着成分を前記上部筒に導出し、前記下部筒から流入してきたガス中に含まれる易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着させて、前記上部筒から前記難吸着成分を導出させる工程。
(c)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記易吸着成分高圧貯留槽に回収する工程。
(d)前記下部筒を減圧して、前記下部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を脱着させ、脱着してきた前記易吸着成分を前記易吸着成分低圧貯留槽に回収する工程。
【請求項7】
前記制御部は、以下の工程(a)~工程(g)の各工程を予め定められたシーケンスによって制御する、
請求項6に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
(a)前記原料ガス貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記ガス中の前記易吸着成分を前記吸着剤に吸着し、前記下部筒からの前記易吸着成分が減少したガスを前記上部筒に導入し、前記易吸着成分が減少したガス中に含まれる前記易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着して、前記上部筒から流出してくる前記難吸着成分を前記難吸着成分貯留槽に回収する工程。
(b)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記下部筒の前記吸着剤に共吸着された前記難吸着成分及び前記吸着剤の空隙に存在する前記難吸着成分を前記上部筒に導出し、前記下部筒から流入してきたガス中に含まれる易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着させて、前記上部筒から前記難吸着成分を導出させる工程。
(c)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記易吸着成分高圧貯留槽に回収する工程。
(d)前記下部筒を減圧して、前記下部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を脱着させ、脱着してきた前記易吸着成分を前記易吸着成分低圧貯留槽に回収する工程。
(e)前記上部筒を減圧して、前記上部筒の前記吸着剤に吸着したガスを脱着させ、脱着してきたガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してきたガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程。
(f)前記工程(a)において回収した前記難吸着成分を向流パージガスとして前記上部筒に導入し、前記上部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を置換脱着し、前記上部筒から流出してくるガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してくるガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程。
(g)前記工程(b)において導出した前記難吸着成分を導入することで前記下部筒及び前記上部筒を加圧する工程。
【請求項8】
前記圧縮機と前記下部筒が接続する流路に、一端が前記易吸着成分高圧貯留槽に接続する流路と接続する分岐バルブを有し、
前記分岐バルブに切替用三方ボールバルブ、ロータリーバルブ、三方分流型ベローズバルブ及び三方分流型ダイアフラムバルブから選択されるいずれか1つを使用する、
請求項6又は7に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【請求項9】
前記圧縮機の吸気側流路及び吐出側流路のいずれか一方の流路に、前記流路を流れるガス中の前記易吸着成分の濃度を測定する易吸着成分濃度計を有し、
前記制御部が前記易吸着成分濃度計の値に基づいて前記工程(c)を実施しないように制御する、
請求項6~8のいずれか1項に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【請求項10】
前記易吸着成分低圧貯留槽は吸着剤が充填された容器である、
請求項6~9のいずれか1項に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力変動吸着式ガス分離方法及び圧力変動吸着式ガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路、液晶パネル等の半導体製品を製造する工程では、希ガス雰囲気中で高周波放電によりプラズマを発生させ、該プラズマによって半導体製品もしくは表示装置の各種処理を行う装置が広く用いられている。このような処理において使用される希ガスとして、従来はアルゴンが用いられてきたが、近年はより高度な処理を行うためにクリプトンやキセノンが注目されている。ランプ分野においても電球の封入ガスに、従来はアルゴンが用いられてきたが、近年は消費電力低減や輝度向上のために、クリプトンやキセノンを使用した高付加価値品が製造されてきている。また、ガラス分野においても複層ガラスの封入ガスに、従来はアルゴンが用いられてきたが、断熱性能の向上のために、クリプトンを使用した高付加価値品が製造されてきている。しかし、クリプトンやキセノンは、原料となる空気中の存在比及び分離工程の複雑さから極めて希少で高価なガスであり、その使用によって需給バランスが崩れ、コストが著しく増大する問題があった。このようなガスを使用することを経済的に成り立たせるためには、使用済みの希ガスを回収し、再利用することが極めて重要となる。なお、希ガスを再利用するためには、少なくとも90%以上の濃度が求められる。
キセノンやクリプトンを分離する装置としては、キセノン又はクリプトンと、不純物である他成分を含む原料ガスを、キセノンやクリプトンに対して易吸着性で、不純物である他成分に対して難吸着性の吸着剤を充填した吸着筒に流し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着剤に吸着させ、難吸着成分である不純物をキセノンやクリプトンと分離するとともに、吸着剤に吸着したキセノン又はクリプトンを吸着剤より脱離させて高濃度で回収する方法がある。
【0003】
特許文献1には、直列に接続した2本の吸着筒(上部筒10U(11U)、下部筒10B(11B))に原料ガス貯留槽1の原料ガスを加圧して流し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着し、難吸着成分である不純物を難吸着成分貯留槽3に回収する工程aと、易吸着成分低圧貯留槽2に充填されたキセノン又はクリプトンを加圧して下部筒10B(11B)に導入し、これの空隙に残る難吸着成分である不純物を上部筒10U(11U)に導出し、上部筒10U(11U)において易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着し、上部筒10U(11U)より難吸着成分である不純物を回収する工程bと、下部筒10B(11B)を減圧し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着剤より脱離させて易吸着成分高圧貯留槽5に回収した後、さらに易吸着成分を脱着させ、これを易吸着成分低圧貯留槽2に回収する工程cと、上部筒10U(11U)を減圧し、吸着剤に吸着した成分を脱離させて下部筒10B(11B)に導入し、さらに下部筒10B(11B)より流出したガスを原料ガス貯留槽1に回収する工程dと、先に回収した難吸着成分である不純物を上部筒10U(11U)に導入し、易吸着成分であるキセノン又はクリプトンを吸着剤より脱離させて下部筒10B(11B)に導入し、さらに下部筒10B(11B)より流出したガスを原料ガス貯留槽1に回収する工程eを、シーケンスに従って順次行う圧力変動吸着式ガス分離装置101(
図10)及びこの分離装置を用いる圧力変動吸着式ガス分離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された圧力変動吸着式ガス分離方法及び圧力変動吸着式ガス分離装置には、下部筒の吸着剤に吸着した易吸着成分を易吸着成分高圧貯留槽5に回収するため、易吸着成分高圧貯留槽に回収できる易吸着成分の圧力が回収前の下部筒圧力より低く、回収した易吸着成分をより高い圧力で供給するには昇圧ポンプの使用が不可欠であるという問題がある。
【0006】
本発明は、昇圧ポンプを使用することなく、回収した易吸着成分を回収前の下部筒圧力よりも高い圧力で供給することができる圧力変動吸着式ガス分離方法及び圧力変動吸着式ガス分離装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 吸着剤と、前記吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分及び前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を含む原料ガスと、を用い、
前記吸着剤を充填した下部筒及び上部筒と、少なくとも前記原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽と、前記下部筒からの前記易吸着成分を貯留する易吸着成分低圧貯留槽と、前記易吸着成分を高圧にて貯留する易吸着成分高圧貯留槽と、前記原料ガス貯留槽又は前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に送る圧縮機と、前記上部筒からの前記難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽と、を備える圧力変動吸着式ガス分離装置を使用し、前記原料ガス中の前記易吸着成分と前記難吸着成分とを分離し、前記易吸着成分及び前記難吸着成分のそれぞれを回収する圧力変動吸着式ガス分離方法であって、
(a)前記原料ガス貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記ガス中の前記易吸着成分を前記吸着剤に吸着し、前記下部筒からの前記易吸着成分が減少したガスを前記上部筒に導入し、前記易吸着成分が減少したガス中に含まれる前記易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着して、前記上部筒から流出してくる前記難吸着成分を前記難吸着成分貯留槽に回収する工程と、
(b)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記下部筒の前記吸着剤に共吸着された前記難吸着成分及び前記吸着剤の空隙に存在する前記難吸着成分を前記上部筒に導出し、前記下部筒から流入してきたガス中に含まれる易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着させて、前記上部筒から前記難吸着成分を導出させる工程と、
(c)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記易吸着成分高圧貯留槽に回収する工程と、
(d)前記下部筒を減圧して、前記下部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を脱着させ、脱着してきた前記易吸着成分を前記易吸着成分低圧貯留槽に回収する工程と、
を有し、
前記工程(a)~工程(d)を予め定められたシーケンスに基づいて順次繰り返し行うことによって前記原料ガス中の前記易吸着成分及び前記難吸着成分を同時に回収し、
前記工程(b)の後に前記工程(c)を行う、圧力変動吸着式ガス分離方法。
[2] さらに、
(e)前記上部筒を減圧して、前記上部筒の前記吸着剤に吸着したガスを脱着させ、脱着してきたガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してきたガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程と、
(f)前記工程(a)において回収した前記難吸着成分を向流パージガスとして前記上部筒に導入し、前記上部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を置換脱着し、前記上部筒から流出してくるガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してくるガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程と、
(g)前記工程(b)において導出した前記難吸着成分を導入することで前記下部筒及び前記上部筒を加圧する工程と、
を有し、
前記工程(a)~工程(g)の各工程を予め定められたシーケンスに基づいて順次繰り返し行うことによって前記原料ガス中の前記易吸着成分及び前記難吸着成分を同時に回収する、[1]に記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
[3] 前記工程(c)は前記易吸着成分高圧貯留槽が所定の圧力に到達したら終了する、[1]又は[2]に記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
[4] 前記圧縮機を通気するガス中の前記易吸着成分の濃度が前記工程(c)の開始前において予め定められた濃度に達していなければ、前記工程(c)をスキップし、前記工程(b)完了後に前記工程(d)を行う、[1]~[3]のいずれかに記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
[5] 前記易吸着成分低圧貯留槽は吸着剤が充填された容器である、[1]~[4]のいずれかに記載の圧力変動吸着式ガス分離方法。
[6] 吸着剤と、前記吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分及び前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を含む原料ガスと、を用い、
前記吸着剤を充填した下部筒及び上部筒と、少なくとも前記原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽と、前記下部筒からの前記易吸着成分を貯留する易吸着成分低圧貯留槽と、前記易吸着成分を高圧にて貯留する易吸着成分高圧貯留槽と、前記原料ガス貯留槽又は前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に送る圧縮機と、前記上部筒からの前記難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽と、制御部と、を備え、前記原料ガス中の前記易吸着成分と前記難吸着成分とを分離し、前記易吸着成分及び前記難吸着成分のそれぞれを回収する圧力変動吸着式ガス分離装置であって、
前記制御部は、以下の工程(a)~工程(d)の各工程を予め定められたシーケンスによって制御し、
前記工程(b)の後に前記工程(c)を行う、圧力変動吸着式ガス分離装置。
(a)前記原料ガス貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記ガス中の前記易吸着成分を前記吸着剤に吸着し、前記下部筒からの前記易吸着成分が減少したガスを前記上部筒に導入し、前記易吸着成分が減少したガス中に含まれる前記易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着して、前記上部筒から流出してくる前記難吸着成分を前記難吸着成分貯留槽に回収する工程。
(b)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記下部筒の前記吸着剤に共吸着された前記難吸着成分及び前記吸着剤の空隙に存在する前記難吸着成分を前記上部筒に導出し、前記下部筒から流入してきたガス中に含まれる易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着させて、前記上部筒から前記難吸着成分を導出させる工程。
(c)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記易吸着成分高圧貯留槽に回収する工程。
(d)前記下部筒を減圧して、前記下部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を脱着させ、脱着してきた前記易吸着成分を前記易吸着成分低圧貯留槽に回収する工程。
[7] 前記制御部は、以下の工程(a)~工程(g)の各工程を予め定められたシーケンスによって制御する、[6]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
(a)前記原料ガス貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記ガス中の前記易吸着成分を前記吸着剤に吸着し、前記下部筒からの前記易吸着成分が減少したガスを前記上部筒に導入し、前記易吸着成分が減少したガス中に含まれる前記易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着して、前記上部筒から流出してくる前記難吸着成分を前記難吸着成分貯留槽に回収する工程。
(b)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記下部筒に導入して、前記下部筒の前記吸着剤に共吸着された前記難吸着成分及び前記吸着剤の空隙に存在する前記難吸着成分を前記上部筒に導出し、前記下部筒から流入してきたガス中に含まれる易吸着成分を前記上部筒の前記吸着剤に吸着させて、前記上部筒から前記難吸着成分を導出させる工程。
(c)前記易吸着成分低圧貯留槽からのガスを加圧して前記易吸着成分高圧貯留槽に回収する工程。
(d)前記下部筒を減圧して、前記下部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を脱着させ、脱着してきた前記易吸着成分を前記易吸着成分低圧貯留槽に回収する工程。
(e)前記上部筒を減圧して、前記上部筒の前記吸着剤に吸着したガスを脱着させ、脱着してきたガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してきたガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程。
(f)前記工程(a)において回収した前記難吸着成分を向流パージガスとして前記上部筒に導入し、前記上部筒の前記吸着剤に吸着した前記易吸着成分を置換脱着し、前記上部筒から流出してくるガスを前記下部筒に導入し、前記下部筒から流出してくるガスを前記原料ガス貯留槽に回収する工程。
(g)前記工程(b)において導出した前記難吸着成分を導入することで前記下部筒及び前記上部筒を加圧する工程。
[8] 前記圧縮機と前記下部筒が接続する流路に、一端が前記易吸着成分高圧貯留槽に接続する流路と接続する分岐バルブを有し、
前記分岐バルブに切替用三方ボールバルブ、ロータリーバルブ、三方分流型ベローズバルブ及び三方分流型ダイアフラムバルブから選択されるいずれか1つを使用する、[6]又は[7]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
[9] 前記圧縮機の吸気側流路及び吐出側流路のいずれか一方の流路に、前記流路を流れるガス中の前記易吸着成分の濃度を測定する易吸着成分濃度計を有し、
前記制御部が前記易吸着成分濃度計の値に基づいて前記工程(c)を実施しないように制御する、[6]~[8]のいずれかに記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
[10] 前記易吸着成分低圧貯留槽は吸着剤が充填された容器である、[6]~[9]のいずれかに記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、昇圧ポンプを使用することなく、回収した易吸着成分を回収前の下部筒圧力よりも高い圧力で供給することができる圧力変動吸着式ガス分離方法及び圧力変動吸着式ガス分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法を実施するための圧力変動吸着式ガス分離装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法の工程(a)を説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法の工程(b)を説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法の工程(c)を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法の工程(d)を説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法の工程(e)を説明する図である。
【
図7】
図7は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法の工程(f)を説明する図である。
【
図8】
図8は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法の工程(g)を説明する図である。
【
図9】
図9は、本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法で工程(c)の途中から工程(d)を平行して行う場合の工程(c)+(d)を説明する図である。
【
図10】
図10は、特許文献1の圧力変動吸着式ガス分離方法を実施するための圧力変動求核式ガス分離装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置及び圧力変動吸着式ガス分離方法を、図面を適宜参照しながらより具体的に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置を示す概略構成図である。
図1に概略構成を示す圧力変動吸着式ガス分離装置100は、吸着剤と、前記吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分及び前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を含む原料ガスと、を用い、前記原料ガス中の前記易吸着成分と前記難吸着成分とを分離し、前記易吸着成分及び前記難吸着成分のそれぞれを回収する圧力変動吸着式ガス分離装置である。
【0012】
本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置100は、前記吸着剤を充填した下部筒10B(11B)及び上部筒10U(11U)と、少なくとも前記原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽1と、下部筒10B(11B)からの前記易吸着成分を吸着する易吸着成分低圧貯留槽2と、易吸着成分低圧貯留槽2の前記易吸着成分を高圧にて貯留する易吸着成分高圧貯留槽5と、原料ガス貯留槽1又は易吸着成分低圧貯留槽2からのガスを加圧して下部筒10B(11B)又は易吸着成分高圧貯留槽5に送る圧縮機4と、上部筒10U(11U)からの前記難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽3と、前記吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分及び前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を少なくとも含む原料ガスを貯留する原料ガス貯留槽1と、前記易吸着成分を貯留する易吸着成分低圧貯留槽2と、前記難吸着成分を貯留する難吸着成分貯留槽3と、制御部20と、を備えている。
【0013】
圧力変動吸着式ガス分離装置は、吸着剤の被吸着ガスの選択性を利用した圧力変動吸着式ガス分離方法を実施するための装置である。
吸着剤の被吸着ガスの選択性には、平衡吸着量の相違によるものと、吸着速度の相違によるものとがある。
平衡吸着量の相違による選択性を有する吸着剤(平衡分離型吸着剤)の一例である活性炭では、キセノンを窒素やアルゴンよりも10倍以上多く吸着する(298K、100kPa(abs))。
吸着速度の相違による選択性を有する吸着剤(速度分離型吸着剤)の一例であるモレキュラーシーブスカーボン(MSC)では、酸素と窒素の吸着速度比は15前後である。
【0014】
活性炭の場合、易吸着成分は、例えば、キセノンであり、難吸着成分は、例えば、窒素及びアルゴンである。
MSCの場合、易吸着成分は、例えば、酸素であり、難吸着成分は、例えば、窒素である。
【0015】
易吸着成分及び難吸着成分は、使用する吸着剤に応じて異なり、吸着剤が異なると易吸着成分が難吸着成分となり、難吸着成分が易吸着成分となることがある。例えば、吸着剤として活性炭、Na-X型ゼオライト、Ca-X型ゼオライト、Ca-A型ゼオライト、Li-X型ゼオライト等の平衡分離型吸着剤の場合には、易吸着成分としては、キセノン、クリプトン等が挙げられ、難吸着成分としては、窒素、酸素、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。また、Na-A型ゼオライト、MSC等の速度分離型吸着剤の場合には、易吸着成分としては、窒素、酸素、アルゴン等が挙げられ、難吸着成分としてはクリプトン、キセノン等が挙げられる。
【0016】
図1に示す圧力変動吸着式ガス分離装置100において、経路L1~L18は以下のとおりである。
経路L1は、原料ガスを原料ガス貯留槽1に導入する経路である。
経路L2は、原料ガス貯留槽1のガスを圧縮機4へ導出する経路である。
経路L3は、易吸着成分低圧貯留槽2のガスを圧縮機4へ導出する経路である。
経路L4、経路L5は、それぞれ、圧縮機4からのガスを下部筒10B、下部筒11Bに導入する経路である。
経路L6は、上部筒10U、上部筒11Uからのガスを難吸着成分貯留槽3に導入する経路である。
経路L7は、難吸着成分貯留槽3からの難吸着成分を装置系外に供給する経路である。
経路L8は、難吸着成分貯留槽3からの難吸着成分を向流パージガスとして上部筒10U、上部筒11Uに導入する経路である。
経路L9、経路L10は、それぞれ、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを、原料ガス貯留槽1又は易吸着成分低圧貯留槽2に返送する経路である。
経路L11は、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを、原料ガス貯留槽1に返送する流路である。
経路L12は、下部筒10B、下部筒11Bからのガスを、易吸着成分低圧貯留槽2に返送する流路である。
経路L13は、易吸着成分高圧貯留槽5からの易吸着成分を製品ガスとして供給する経路である。
経路L14は、上部筒10Uと上部筒11Uとの間で均圧を行う均圧ラインである。
経路L15は、圧縮機4で圧縮した易吸着成分低圧貯留槽2のガスを易吸着成分高圧貯留槽5に供給する流路である。
経路L16は、原料ガス貯留槽1、易吸着成分低圧貯留槽2からのガスを、圧縮機4に導入する経路である。
経路L17、経路L18は、それぞれ、圧縮機4で圧縮したガスを下部筒10B、下部筒11Bに供給する流路である。
【0017】
下部筒10B、下部筒11B、上部筒10U、上部筒11Uには、原料ガス中の目的成分に対して易吸着性又は難吸着性を有し、目的成分以外の成分に対して難吸着性又は易吸着性を有する上述の吸着剤が充填されている。
【0018】
易吸着成分低圧貯留槽2は、ガスバッグ(風船のように貯留量に応じて膨張・収縮するタンク)が好ましい。また、易吸着成分低圧貯留槽2として吸着剤が充填された容器を使用することが好ましい。易吸着成分低圧貯留槽2として吸着剤が充填された容器を使用すると、容器からガスを抜き出す(圧力が低下する)に従って、吸着剤に吸着しやすい成分(易吸着成分)の濃度が向上する。これは、難吸着成分は吸着剤の空隙に存在するのみだが、易吸着成分は吸着剤の空隙の他に吸着剤に吸着した分も存在するため、圧力が低下するほど易吸着成分の脱着が進み、難吸着成分に対して易吸着成分の比率(濃度)が増加するためである。その結果、後述する(2)回収工程で易吸着成分低圧貯留槽2から易吸着成分を排出した後の易吸着成分の濃度がより向上したガスを易吸着成分高圧貯留槽5に回収できるので、さらに高純度の易吸着成分を得ることができる。前記吸着剤としては例えば活性炭を用いることができる。
【0019】
制御部20は、以下に説明する(1)吸着工程~(8)回収工程を、予め定められたシーケンスによって実行するシーケンサーを内蔵する。制御部20は、バルブV1~V15、V18の開閉、圧縮機4の作動及び停止等をシーケンシャルに制御する。
【0020】
本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離装置100は、圧縮機4と下部筒10B(11B)とが接続する流路に、一端が易吸着成分高圧貯留槽5に接続する流路と接続する分岐バルブV18を有することが好ましい。
前記分岐バルブV18としては、例えば、切替用三方ボールバルブ、ロータリーバルブ、三方分流型ベローズバルブ及び三方分流型ダイアフラムバルブから選択されるいずれか1つを使用することが好ましい。
ガスの流路のデッドボリュームに残留する難吸着成分は、回収される易吸着成分を汚染するため、デッドボリュームをより少なくすることが望ましい。そのため、分岐バルブV18として、デッドボリュームが少ない、切替用三方ボールバルブ、ロータリーバルブ、三方分流型ベローズバルブ、三方分流型ダイアフラムバルブ等を使用することが好ましい。
【0021】
次に、
図1に示す圧力変動吸着式ガス分離装置100を用いて、原料ガス中の易吸着成分と難吸着成分とを分離し、易吸着成分及び難吸着成分のそれぞれを回収する、圧力変動吸着式ガス分離方法の一例を説明する。この例では、原料ガスとしてキセノンと窒素の混合ガスを用い、キセノン(易吸着成分)と窒素(難吸着成分)を分離・回収する圧力変動吸着式ガス分離方法について説明する。また、この例では、下部筒10B、下部筒11B、上部筒10U、上部筒11Uに充填される吸着剤として、平衡分離型吸着剤である活性炭を用いる。活性炭は、平衡吸着量としてキセノンの吸着量が多く(易吸着性)、窒素の吸着量が少ない(難吸着性)という性質を持つ。
【0022】
表1は、圧力変動吸着式ガス分離装置100を用いた場合のバルブの開閉状態を示す表である。以下の説明は半サイクルの工程に関する内容である。
下部筒10B、上部筒10Uは、(1)吸着工程、(2)均圧減圧工程、(3)回収工程、(4)下部筒減圧工程、(5)上部筒減圧工程、(6)パージ再生工程、(7)均圧加圧工程、(8)回収工程が実施される。
下部筒10B、上部筒10Uが上述した(1)吸着工程~(8)回収工程の各工程を行っている間、下部筒11B、上部筒11Uは、(4)下部筒減圧工程、(5)上部筒減圧工程、(6)パージ再生工程、(7)均圧加圧工程、(8)回収工程、(1)吸着工程、(2)均圧減圧工程、(3)回収工程が実施される。
【0023】
【0024】
(1)吸着工程:
図2
原料ガス貯留槽1からの混合ガスを圧縮機4で圧縮し、経路L2、L16、経路L18(L17)、経路L4(L5)を介して下部筒10B(11B)に供給する。下部筒10B(11B)と上部筒10U(11U)との間は、バルブV5(V6)を開放することで流通されているため、下部筒10B(11B)と上部筒10U(11U)との間は、ほぼ同様に圧力上昇する。
原料ガス貯留槽1の混合ガスは、経路L1から導入された原料ガスと後述する上部筒減圧工程、パージ再生工程で下部筒10B、下部筒11Bから排出されたガスとの混合ガスである。
下部筒10B(11B)に供給された混合ガスは、下部筒10B(11B)上部に進むにつれて、キセノンが優先的に吸着され、気相中に窒素が濃縮される(気相中のキセノン濃度が低下する)。濃縮された窒素は、下部筒10B(11B)から上部筒10U(11U)に導入され、上部筒10U(11U)において、窒素中に含まれる微量のキセノンがさらに吸着される。
上部筒10U(11U)の圧力が難吸着成分貯留槽3の圧力より高くなった後、上部筒10U(11U)においてさらに濃縮された窒素は、経路L6を介して、難吸着成分貯留槽3へ導出される。難吸着成分貯留槽3の窒素は、原料ガス中に含まれる窒素の流量に応じた流量が、経路L7から装置系外に排出され、残りのガスはパージ再生工程における向流パージガスとして利用される。
【0025】
(2)均圧減圧工程:
図3
バルブV1を閉止、バルブV2を開放することで、下部筒10B(11B)に導入するガスを易吸着成分低圧貯留槽2のキセノンに変更する。易吸着成分低圧貯留槽2からのキセノンを下部筒10B(11B)に導入することによって、下部筒10B(11B)の吸着剤充填層に共吸着された窒素と、吸着剤空隙に存在する窒素を上部筒10U(11U)へ押し出し、下部筒10B(11B)内をキセノンで吸着飽和とする。
この間、上部筒10U(11U)から経路L14(均圧ライン)を介して、もう一方の上部筒11U(10U)に窒素を導出することで下部筒10B(11B)、上部筒10U(11U)を減圧し、パージ再生工程を終了した下部筒11B(10B)、上部筒11U(10U)を均圧する。この時、上部筒10U(11U)から流出させる均圧ガスの流量は、均圧減圧工程が終了時点で均圧が完了するように流量調整バルブ、オリフィスなどを用いて調整する。
【0026】
圧縮機4の流入側流路及び/又は吐出側流路に易吸着成分の濃度を測定するための易吸着成分濃度計を設置してもよい。特許文献1(特開2007-130611号公報)に記載された圧力変動吸着式ガス分離装置では、下部筒から回収するガス中の易吸着成分の濃度を測定する手段が無いため、ガスを易吸着成分高圧貯留槽に回収しなければ易吸着成分の濃度を測定できなかった。不純物である難吸着成分が易吸着成分高圧貯留槽に混入すると、易吸着成分高圧貯留槽から難吸着成分を追い出す必要があるが、易吸着成分高圧貯留槽から難吸着成分を追い出して易吸着成分の純度を高くするには多くの時間が必要であり、その間は回収した易吸着成分を製品ガスとして供給できないという問題点がある。また、易吸着成分高圧貯留槽の容積を小さくすると1サイクルタイムで入替できるガス割合が高くなるので入れ替えに要する時間を短縮できるが、易吸着成分高圧貯留槽の圧力が大きく低下して、易吸着成分の供給圧力が低下するという問題点がある。
このような問題点に対して、圧縮機4の流入側流路及び/又は吐出側流路に易吸着成分濃度計6を配置して易吸着成分の濃度を測定し、基準値以上であれば易吸着成分高圧貯留槽5に回収し、基準値未満であれば回収しないように制御することで、易吸着成分高圧貯留槽5への難吸着成分の混入を防止することができる。
(3)回収工程を実施しなくても、易吸着成分高圧貯留槽5に貯留された易吸着成分を経路L13を通じて製品ガスとして供給先の装置に供給すればよく、供給先の装置のプロセスを急に止める必要はない。また、次のサイクルで易吸着成分濃度計6によって測定される易吸着成分の濃度が基準を満たしていれば、(3)回収工程を実施して、易吸着成分高圧貯留槽5に易吸着成分を回収する。この場合、(3)回収工程は、易吸着成分高圧貯留槽5が所定の圧力に到達したら終了することにしていれば、前のサイクルで回収しなかった易吸着成分を後のサイクルで回収したこととなる。
易吸着成分濃度計6としては、例えば、超音波式濃度計又は特許第3655569号公報に記載された装置を使用することが好ましい。
【0027】
(3)回収工程:
図4
バルブV3(V4)を閉止、バルブV18を開放することで、圧縮機4で圧縮する易吸着成分低圧貯留槽2のキセノンを、易吸着成分高圧貯留槽5に送付する。なお、バルブV3を閉止することで、下部筒10B(11B)及び上部筒10U(11U)にガスの流れがなくなり休止状態となる。(3)回収工程の時間は予め定められた時間で完了してもよいが、易吸着成分高圧貯留槽5の圧力が予め定められた値に達した時点で完了としてもよい。易吸着成分高圧貯留槽5が予め定められた圧力に到達した時点で完了とすることで、易吸着成分高圧貯留槽5の回収ガス量が都度増減しないようにできる。
【0028】
圧縮機4は下部筒10B(11B)及び上部筒10U(11U)の吸着圧力まで昇圧する能力を有するため、易吸着成分高圧貯留槽5に回収する易吸着成分の圧力は、特許文献1(特開2007-130611号公報)に記載された圧力変動吸着式ガス分離方法と比べてより高い圧力が得られるようになる。なお、(2)均圧減圧工程において、易吸着成分低圧貯留槽2~圧縮機4~下部筒10B(11B)までの流路は、易吸着成分低圧貯留槽2の易吸着成分で充分に洗浄されている。そのため、(3)回収工程において、難吸着成分による汚染が無い、高純度の易吸着成分を易吸着成分高圧貯留槽5に送ることが可能である。
【0029】
(2)均圧減圧工程中にバルブV18を開放することで、(3)回収工程を(2)均圧減圧工程と同時に行ってもよい(
図9)。(3)回収工程を(2)均圧減圧工程中に行うことで、運転時間をより短縮することができる。
【0030】
(4)下部筒減圧工程:
図5
バルブV3(V4)、バルブV5(V6)を閉止し、バルブV11、バルブV12(V13)を開放する。これにより、(1)吸着工程~(2)均圧減圧工程間に下部筒10B(11B)に吸着されたキセノンは、易吸着成分低圧貯留槽2の差圧によって脱着し、経路L9(L10)、経路L12を介して、易吸着成分低圧貯留槽2に回収される。易吸着成分低圧貯留槽2に回収されたキセノンは並流パージガスとして上述した均圧減圧工程で使用される。この間、上部筒10U(11U)は、バルブV5(V6)、バルブV7(V8)、バルブV9が閉止されていることにより休止状態となる。
【0031】
なお、(3)回収工程の開始前において圧縮機4を通気するガス中の易吸着成分の濃度が予め定められた濃度に達していない場合、(3)回収工程をスキップし、(2)均圧減圧工程の完了後に(4)下部筒減圧工程を行うようにしてもよい。
【0032】
(5)上部筒減圧工程:
図6
バルブV11を閉止し、バルブV5(V6)、バルブV10を開放する。すると、(4)下部筒減圧工程において休止していた上部筒10U(11U)と減圧を行った下部筒10B(11B)の間に圧力差が生じることから、上部筒10U(11U)内のガスは下部筒10B(11B)に流入する。下部筒10B(11B)に導入されたガスは、下部筒10B(11B)をパージしながら、経路L9(L10)、経路L11を介して原料ガス貯留槽1に回収される。原料ガス貯留槽1に回収されたガスは、経路L1から導入される原料ガスと再混合されて、(1)吸着工程時に再び下部筒10B(11B)に供給される。
【0033】
(6)パージ再生工程:
図7
バルブV14(V15)を開放する。難吸着成分貯留槽3に貯留した窒素は、向流パージガスとして、経路L8を介して、上部筒10U(11U)に導入される。上部筒10U(11U)に導入された窒素は、上部筒10U(11U)下部に進むにつれて、吸着していたキセノンを置換脱着させる。脱着された比較的キセノンを多く含んだガスは、下部筒10B(11B)、経路L9(L10)、経路L11を介して原料ガス貯留槽1に回収される。
原料ガス貯留槽1に回収されたガスは、(5)上部筒減圧工程と同様に、経路L1から導入される原料ガスと混合されて、(1)吸着工程時に再び下部筒10B(11B)に供給される。
ここで、向流パージガスに使用される窒素は、(1)吸着工程において上部筒10U(11U)から導出された窒素を、難吸着成分貯留槽3を介さず、直接(5)パージ再生工程を行っている上部筒11U(10U)に導入してもよい。
【0034】
(7)均圧加圧工程:
図8
バルブV12(V13)、バルブV14(V15)を閉止し、バルブV9を開放する。これによって、上部筒11U(10U)内のガスは、上部筒10U(11U)に導入される(均圧加圧操作)。上部筒10U(11U)に導入されるガスは窒素濃度が高いため、上部筒10U(11U)内のキセノンを上部筒10U(11U)下部及び下部筒10B(11B)へ押し下げることができる。
【0035】
(8)回収工程:
図4
バルブV9を閉止することで、下部筒11B(10B)及び上部筒11U(10U)にガスの流れがなくなり休止状態となる。なお、ここでバルブV6(V5)は開放状態となっているが、閉止してもよい。
【0036】
以上、説明した8つの工程を下部筒10Bと上部筒10U、下部筒11Bと上部筒11Uで順次繰り返し行うことで、窒素の濃縮と、キセノンの濃縮を連続的に行うことができる。また、下部筒10Bと上部筒10Uで(1)吸着工程~(3)回収工程の工程を行っている間、下部筒11Bと上部筒11Uでは(4)下部筒減圧工程~(8)回収工程の工程が行われる。
また、一方で下部筒10Bと上部筒10Uで(4)下部筒減圧工程~(8)回収工程の工程を行っている間、下部筒11Bと上部筒11Uでは(1)吸着工程~(3)回収工程の工程が行われる。
また、経路L1からの原料ガスの導入、経路L7からの窒素の排出、経路L13からのキセノンの導出は、工程によらず連続的に行われる。
【0037】
表2は、上述した各工程における工程時間の占める割合の一例を示すもので、この例では1サイクルタイムを300秒とした場合の各工程が占める工程時間(秒)を示している。
【0038】
【0039】
以上説明したように、本実施形態の圧力変動吸着式ガス分離方法及び圧力変動吸着式ガス分離装置においては、新たな昇圧ポンプを使用することなく、回収した易吸着成分を回収前の下部筒10B(11B)圧力よりも高い圧力で供給することができる。
【0040】
なお、吸着剤としてCMS等の速度分離型吸着剤を使用した場合には、易吸着成分高圧貯留槽5には窒素等が、難吸着成分貯留槽3にはキセノン等が回収されることになる。また、原料ガス中に、CO2、H2O、CF4等が含まれている場合には、予め別のPSA装置などによってこれらを前処理して除去するか、又はこれらガスは、製品キセノンに混じって導出されるので、後処理によって除去することが好ましい。後処理によるものでは、除去設備に小型の装置を用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0042】
[実施例1]
<実験方法>
図1に概略を示す圧力変動吸着式ガス分離装置100を使用して、次の運転条件にて24時間の連続運転を行った。
なお、ガス体積は0℃、1気圧下の条件とする。
(1)原料ガス
キセノンと窒素の混合ガス 3.0L/min
原料ガスの内訳:キセノン(易吸着成分;10体積%) 0.3L/min
窒素(難吸着成分;90体積%) 2.7L/min
(2)下部筒(10B,11B)及び上部筒(10U,11U)
ステンレス鋼管80A(外径89.1mm、厚さ3.0mm、内径83.1mm)
充填剤充填高さ 500mm(吸着剤として活性炭1.5kg充填)
(3)圧縮機4
ダイアフラム式圧縮機 25L/min(吐出圧力 800kPa(abs))
(4)易吸着成分高圧貯留槽
容積 2.5L
(5)バルブの開閉状態
圧力変動吸着式ガス分離装置100のバルブの開閉状態を、上記した表1に示すとおりとした。
【0043】
(6)サイクルタイム時間設定
1サイクルタイムを300秒として各工程の工程時間を、上記した表2に示すとおりとした。
【0044】
<実験結果>
経路L7から導出された窒素濃度、経路L13から導出されたキセノン濃度がほぼ一定に落ち着き、ほぼ循環定常状態に達した。この時の結果は次のとおりであった。
・キセノン中の窒素濃度 1000ppm・・・製品キセノン純度 99.9%
・窒素中のキセノン濃度 110ppm・・・キセノン回収率 99.9%
・易吸着成分高圧貯留槽5の圧力 700~750kPa(abs)
以上のとおり、易吸着成分高圧貯留槽5の圧力は700~750kPa(abs)であり、製品キセノンの供給圧力を700kPa(abs)以上で維持することが確認できた。また、製品キセノン純度99.9%、キセノン回収率99.9%と高く、いずれも優れていた。
【0045】
[比較例1]
<実験方法>
特許文献1(特開2007-130611号公報)の実施例1と同様にして分離実験を行った。すなわち、
図10に概要を示す圧力変動吸着式ガス分離装置101を使用して、0℃、1気圧下、次の運転条件にて24時間の連続運転を行った。
(1)原料ガス
キセノンと窒素の混合ガス 3.0L/min
原料ガスの内訳:キセノン(易吸着成分;10体積%) 0.3L/min
窒素(難吸着成分;90体積%) 2.7L/min
(2)下部筒(10B,11B)及び上部筒(10U,11U)
ステンレス鋼管80A(外径89.1mm、厚さ3.0mm、内径83.1mm)
充填剤充填高さ 500mm(吸着剤として活性炭1.5kg充填)
(3)圧縮機4
ダイアフラム式圧縮機 25L/min(吐出圧力 800kPa(abs))
(4)易吸着成分高圧貯留槽
容積 2.5L
(5)バルブの開閉状態
以下の表3に圧力変動吸着式ガス分離装置101のバルブの開閉状態を示す。
【0046】
【0047】
(6)サイクルタイム時間設定
1サイクルタイムを300秒として各工程の工程時間を以下の表4に示すとおりとした。
【0048】
【0049】
<実験結果>
経路L7から導出された窒素濃度、経路L13から導出されたキセノン濃度がほぼ一定に落ち着き、ほぼ循環定常状態に達した。この時の結果は次のとおりであった。
キセノン中の窒素濃度 1000ppm・・・製品キセノン純度 99.9%
窒素中のキセノン濃度 110ppm・・・キセノン回収率 99.9%
易吸着成分高圧貯留槽5の圧力 380~435kPa(abs)
以上のとおり、高回収率でキセノン回収できることが確認できた。しかし、製品キセノンの供給圧力は最大350kPa(abs)程度と低かった。
【0050】
[実施例2]
<実験方法>
バルブV18をダイアフラム式二方弁(メタルダイアフラムバルブ FPR-ND-71-9.52、フジキン社製)からダイアフラム式三方分流弁(メタルダイアフラムバルブ FPR-NDTB-71-9.52、フジキン社製)に変更して、実施例1と同じ条件で運転した。
【0051】
<実験結果>
経路L7から導出された窒素濃度、経路L13から導出されたキセノン濃度がほぼ一定に落ち着き、ほぼ循環定常状態に達した。
・キセノン中の窒素濃度 800ppm・・・製品キセノン純度 99.92%
・窒素中のキセノン濃度 110ppm・・・キセノン回収率 99.9%
易吸着成分高圧貯留槽5の圧力 700~755kPa(abs)
以上のとおり、極めて高回収率でキセノン回収できることが確認できた。さらに、製品キセノンの供給圧力も700kPa(abs)以上で維持することが確認できた。
バルブV18としてダイアフラム式三方分流弁を使用したことにより、易吸着成分高圧貯留槽に混入する難吸着成分が減少し、製品キセノンをより高純度にすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の圧力変動吸着式ガス分離方法及び圧力変動吸着式ガス分離装置は、半導体製品又は表示装置の製造設備に供給し、使用した後に排出される混合ガスから、キセノン等の高付加価値ガスを回収し、循環利用するための方法として有効活用することができる。そして、本発明の圧力変動吸着式ガス分離装置と、半導体製品又は表示装置の製造設備で形成される循環サイクルとの結合によって、半導体製造装置などで使用される高価な雰囲気ガスのコストを大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…原料ガス貯留槽、2…易吸着成分低圧貯留槽、3…難吸着成分貯留槽、4…圧縮機、5…易吸着成分高圧貯留槽、6…易吸着成分濃度計、10B,11B…下部筒、10U,11U…上部筒、20…制御部、100,101…圧力変動吸着式ガス分離装置、V1,V2,V4,V5,V6,V7,V8,V9,V10,V11,V12,V13,V14,V15,V16,V17,V18…バルブ、L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8,L9,L10,L11,L12,L13,L14,L15,L16,L17,L18…経路