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特許7487509有価金属を回収する方法及びマグネシア耐火物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】有価金属を回収する方法及びマグネシア耐火物
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20240514BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20240514BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20240514BHJP
   C04B 35/043 20060101ALI20240514BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240514BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20240514BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C22B15/00
B09B3/40
B09B3/70
C04B35/043
C22B7/00 C
C22B23/02
H01M10/54
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020053830
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155761
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】真野 匠
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-135321(JP,A)
【文献】特開2002-316865(JP,A)
【文献】特開平04-280858(JP,A)
【文献】特開2010-132516(JP,A)
【文献】特開2002-249371(JP,A)
【文献】米国特許第05028570(US,A)
【文献】国際公開第2013/018710(WO,A1)
【文献】特表2013-506048(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102765(WO,A1)
【文献】特開2019-006638(JP,A)
【文献】特開2006-056735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/04
C04B35/043
C22B7/00
C22B15/00
C22B23/00
C22B23/02
C22B26/12
H01M10/54
B09B3/40
B09B3/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を回収する方法であって、以下の工程;
少なくとも有価金属及びリチウム(Li)を含む装入物を準備する工程と、
前記装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して、熔融合金とスラグとを含む還元物を得る工程と、を含み、
前記装入物が廃リチウムイオン電池を含み、
前記還元熔融処理の際に被処理物を加熱炉中で加熱処理し、前記加熱炉が、炭素(C)を4.0~19.0質量%の量で含有するマグネシア耐火物を含む、方法。
【請求項2】
前記マグネシア耐火物が、炉壁材、炉床材及び/又は坩堝である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マグネシア耐火物が炭素(C)を14.0~16.0質量%の量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マグネシア耐火物が坩堝である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記マグネシア耐火物は、マグネシア及び炭素以外の成分の割合が1質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
有価金属の回収方法に使用されるマグネシア耐火物であって、
前記マグネシア耐火物が、少なくとも有価金属及びリチウム(Li)を含む装入物に還元熔融処理を施す際に用いられる加熱炉に含まれ、
前記装入物が廃リチウムイオン電池を含み、
前記マグネシア耐火物が炭素(C)を4.0~19.0質量%の量で含有する、マグネシア耐火物。
【請求項7】
前記マグネシア耐火物が炭素(C)を14.0~16.0質量%の量で含む、請求項6に記載のマグネシア耐火物。
【請求項8】
前記マグネシア耐火物が坩堝である、請求項6又は7に記載のマグネシア耐火物。
【請求項9】
前記マグネシア耐火物は、マグネシア及び炭素以外の成分の割合が1質量%以下である、請求項6~8のいずれか一項に記載のマグネシア耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有価金属を回収する方法及びマグネシア耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の電池としてリチウムイオン電池(以下、「LiB」と称する場合がある)が普及している。よく知られるリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。ここで外装缶は、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等の金属からなる。負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着した負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着した正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータはポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されるリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みである。また製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」又は「廃電池」)を資源として再利用することが求められている。
【0004】
再利用の手段として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属はこれを極力酸化してスラグとする一方で、有価金属はその酸化を極力抑制して合金として回収する。
【0005】
乾式製錬プロセスによる有価金属の回収では、耐食性の高いマグネシア坩堝などの耐火物を用いて熔融処理が行われている。例えば、特許文献1には廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法に関して、還元熔融工程において、得られた酸化焙焼物に黒鉛粉(還元剤)を添加して混合し、マグネシア製坩堝に酸化物系フラックスと共に装入して、抵抗加熱により加熱して還元熔融処理を行い、有価金属を合金化した旨が記載されている(特許文献1の[0057])。
【0006】
また廃リチウムイオン電池からの有価金属回収を目的とするものではないが、炭素質成分とマグネシア等のセラミックスの積層構造からなる坩堝が提案されている。例えば、特許文献2には、マグネシア等を主に含む耐火物からなる内側層と、カーボン等の導電性材料からなる外側層と、を備える誘導加熱炉用坩堝が開示されている(特許文献2の請求項1、2及び[0021])。また特許文献3には、先端から、熔融金属をガス圧力により噴出させるカーボン坩堝であって、セラミックにより被膜されて成ることを特徴とするカーボン坩堝が開示されている(特許文献3の請求項1)。さらに特許文献4には、グラファイト等の不反応性材料からなる内坩堝と、マグネシア等の絶縁性及び断熱性材料からなる外坩堝とから形成したことを特徴とする高活性金属のアーク熔解用坩堝が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-135321号公報
【文献】特開2015-55462号公報
【文献】特開平3-13254号公報
【文献】特開昭64-67590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように乾式製錬プロセスで廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する際には、耐食性の高いマグネシア坩堝を用いて熔融処理が行われている。また有価金属回収を目的とするものではないが、炭素質成分とマグネシア等のセラミックスの積層構造からなる坩堝が提案されている。
【0009】
しかしながら本発明者らが調べたところ、乾式製錬プロセスで有価金属を回収する際に、特許文献1に開示されるようなマグネシア坩堝を用いて熔融処理を行うと、坩堝の寿命が短い問題のあることが分かった。そのため熔解(熔融)工程を繰り返すと、坩堝から熔解炉内に熔体(熔融物)が漏洩することがあった。より具体的には、廃リチウムイオン電池から得た合金熔体を坩堝内に保持して熔融処理を行うと、スラグとメタルに分離して、リチウム(Li)がスラグに分配される。リチウム含有スラグ熔体は腐食性が非常に高く、スラグ液面のわずかな幅を中心に、1バッチの処理であっても坩堝が破損する直前にまで腐食されてしまう。また試験条件のわずかなブレにより、試験途中で坩堝が破損し、熔体が熔解炉内に漏洩する場合もある。そのため熔融工程のバッチ毎に新たな坩堝に取り換える必要があり、操業効率面でも資材コスト面でも大きな不具合が生じていた。
【0010】
また特許文献2~4で提案される炭素質成分とセラミックスの積層構造からなる坩堝は、乾式製錬プロセスで有価金属を回収する際に用いられるものではない。実際、特許文献2の坩堝は、鋳鉄、鋳鋼、特殊鋼、銅合金などの高融点金属や、アルミニウム、亜鉛などの低融点金属の熔解を目的としたものであり、リチウム含有スラグ熔体に対する腐食性改善に着目したものではない(特許文献2の[0016])。したがってこれらの坩堝が有価金属回収に用いることができるか否かは不明である。
【0011】
本発明者らは、このような実情に鑑みて鋭意検討を行い、様々な耐食性材料で構成される耐火物を用いて試験を行った。その結果、炭素質成分を含有するマグネシア耐火物は、リチウム(Li)を含有するスラグ熔体に対する耐食性に優れており、この耐火物を用いることで、有価金属を安価に回収することができるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、寿命の長い耐火物を用いることで有価金属を安価に回収することができる方法、及び有価金属回収時に使用される寿命の長い耐火物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(1)~(6)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0014】
(1)有価金属を回収する方法であって、以下の工程;
少なくとも有価金属及びリチウム(Li)を含む装入物を準備する工程と、
前記装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して、熔融合金とスラグとを含む還元物を得る工程と、を含み、
前記還元熔融処理の際に被処理物を加熱炉中で加熱処理し、前記加熱炉が炭素質成分を含有するマグネシア耐火物を含む、方法。
【0015】
(2)前記マグネシア耐火物が、炉壁材、炉床材及び/又は坩堝である、上記(1)の方法。
【0016】
(3)前記マグネシア耐火物が炭素質成分を4.0~19.0質量%の量で含む、上記(1)又は(2)の方法。
【0017】
(4)前記マグネシア耐火物が炭素質成分を14.0~16.0質量%の量で含む、上記(3)の方法。
【0018】
(5)前記装入物が廃リチウムイオン電池を含む、上記(1)~(4)のいずれかの方法。
【0019】
(6)有価金属の回収方法に使用されるマグネシア耐火物であって、
前記マグネシア耐火物が、少なくとも有価金属及びリチウム(Li)を含む装入物に還元熔融処理を施す際に用いられる加熱炉に含まれ、
前記マグネシア耐火物が炭素質成分を含有する、マグネシア耐火物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、寿命の長い耐火物を用いることで有価金属を安価に回収することができる方法、及び有価金属回収時に使用される寿命の長い耐火物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】有価金属の回収方法の一例を示す。
図2】スラグレベル損耗量評価後の坩堝の断面SEM写真及び元素分析像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0023】
1.有価金属の回収方法
本実施形態の有価金属を回収する方法は、以下の工程;以下の工程;少なくとも有価金属及びリチウム(Li)を含む装入物を準備する工程(準備工程)と、この装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して、熔融合金とスラグとを含む還元物を得る工程(酸化還元熔融工程)と、を含む。また還元熔融処理の際に被処理物を加熱炉中で加熱処理し、この加熱炉が炭素質成分を含有するマグネシア耐火物を含む。
【0024】
本実施形態の方法は、少なくとも有価金属及びリチウム(Li)を含む装入物から有価金属を回収する方法である。ここで有価金属は回収対象となるものであり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。また本実施形態は主として乾式製錬プロセスによる回収方法である。しかしながら、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。各工程の詳細について以下に説明する。
【0025】
<準備工程>
準備工程では、装入物を準備して熔融原料を得る。装入物は、有価金属を回収する処理対象となるものであり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の有価金属とリチウム(Li)とを含有する。装入物はこれらの成分(Cu、Ni、Co、Li)を金属の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでもよい。また装入物はこれらの成分(Cu、Ni、Co、Li)以外の他の無機成分や有機成分を含んでもよい。
【0026】
装入物は、その対象が特に限定されず、廃リチウムイオン電池、誘電材料(コンデンサ)、磁性材料が例示される。また後続する酸化還元熔融工程での処理に適したものであれば、その形態は限定されない。準備工程で装入物に粉砕処理等の処理を施して、適した形態にしてもよい。さらに準備工程で装入物に熱処理や分別処理等の処理を施して、水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
【0027】
<酸化還元熔融工程>
酸化還元熔融工程では、準備した装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して還元物を得る。この還元物は熔融合金(メタル)とスラグとを分離して含む。熔融合金は有価金属を含有する。そのため有価金属を含む成分(熔融合金)とその他の成分とを、還元物中で分離することが可能である。これは付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いからである。例えばアルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまりアルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグになり、有価金属(Cu、Ni、Co)は還元されて熔融金属(合金)になる。このようにして付加価値の低い金属と有価金属とを、スラグと熔融合金とに分離することができる。
【0028】
酸化還元熔融工程の際、酸化処理と還元熔融処理は、同時に行ってもよく、あるいは別々に行ってもよい。同時に行う方法として、還元熔融処理で得られた熔融物に酸化剤を吹き込む手法が挙げられる。具体的には、熔融物に金属製チューブ(ランス)を挿入して、バブリングによって酸化剤を吹き込めばよい。この場合、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を酸化剤に用いることができる。しかしながら酸化還元熔融工程が酸化焙焼工程と還元熔融工程とを別々に含むことが好ましい。そのような手法として、酸化処理の際に、準備した熔融原料を酸化焙焼して酸化焙焼物とし、還元熔融処理の際に、得られた酸化焙焼物を還元熔融して還元物とする手法が挙げられる。酸化焙焼工程と還元熔融工程の詳細を以下に説明する。
【0029】
<酸化焙焼工程>
酸化焙焼工程は、装入物を酸化焙焼(酸化処理)して酸化焙焼物とする工程である。酸化焙焼工程を設けることで、装入物が炭素を含む場合であってもこの炭素を酸化除去し、その結果、後続する還元熔融工程での有価金属の合金一体化を促進させることができる。すなわち還元熔融工程で有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子になる。炭素は熔融微粒子(有価金属)が凝集する際に物理的な障害となる。そのため酸化焙焼工程を設けないと、熔融微粒子の凝集一体化及びそれによるメタル(熔融合金)とスラグの分離性を炭素が妨げ、有価金属回収率が低下してしまう場合がある。これに対して、予め酸化焙焼工程で炭素を除去しておくことで、還元熔融工程での熔融微粒子(有価金属)の凝集一体化が進行し、有価金属の回収率をより一層に高めることが可能になる。
【0030】
その上、酸化焙焼工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることが可能となる。酸化焙焼工程では、熔融原料(装入物等)に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)を行うのが望ましい。一方で、酸化焙焼の処理温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度は容易に制御される。そのため酸化焙焼工程によって酸化度をより厳密に調整することができ、酸化ばらつきを抑制することが可能になる。
【0031】
酸化度の調整は次のようにして行う。先述したように、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。酸化焙焼工程では、アルミニウム(Al)の全量が酸化されるまで酸化を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグとして回収されることがない程度に酸化度を留める。
【0032】
酸化焙焼工程で酸化度を調整するにあたり、適量の酸化剤を導入することが好ましい。特に装入物が廃リチウムイオン電池を含む場合には、酸化剤の導入が好ましい。リチウムイオン電池は、外装材としてアルミニウムや鉄等の金属を含んでいる。また正極材や負極材としてアルミニウム箔や炭素材を含んでいる。さらに集合電池の場合には外部パッケージとしてプラスチックが用いられている。これらはいずれも還元剤として作用する材料である。酸化剤を導入することで、酸化焙焼工程での酸化度を適切な範囲内に調整できる。
【0033】
酸化剤は、炭素や付加価値の低い金属(Al等)を酸化できるものである限り、特に限定されない。しかしながら、取り扱いが容易な、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体が好ましい。酸化剤の導入量は、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な量(化学当量)の1.2倍程度(例えば1.15~1.25倍)が目安になる。
【0034】
酸化焙焼(酸化処理)の加熱温度は、700℃以上1100℃以下が好ましく、800℃以上1000℃以下がより好ましい。700℃以上で、炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、酸化時間を短縮することができる。また、1100℃以下で、熱エネルギーコストを抑制することができ、酸化焙焼の効率を高めることができる。
【0035】
酸化焙焼(酸化処理)は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また後続する還元熔融工程で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。焙焼炉として、装入物を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
【0036】
<還元熔融工程>
還元熔融工程は、得られた酸化焙焼物を加熱して還元熔融し、還元物とする工程である。この工程の目的は、酸化焙焼工程で酸化した付加価値の低い金属(Al等)を酸化物のままに維持する一方で、酸化した有価金属(Cu、Ni、Co)を還元及び熔融し一体化した合金として回収することである。なお還元処理後に得られる材料を「還元物」といい、熔融物として得られる合金を「熔融合金」という。
【0037】
還元熔融処理の際に、加熱炉中で被処理物(酸化焙焼物)を加熱処理する。加熱炉は、公知の熔融炉であってよい。酸化焙焼工程で使用する焙焼炉と異なる炉が好ましいが、同じ炉であってもよい。加熱炉(溶融炉)として、還元溶融処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知の誘導加熱式電気炉、アーク加熱式電気炉、ジュール加熱式電気炉が挙げられる。
【0038】
還元熔融処理の際に使用される加熱炉はマグネシア耐火物を含み、このマグネシア耐火物は炭素質成分を含有する。先述したように、従来のマグネシア坩堝を用いて熔融処理を行うと、1バッチの処理であっても坩堝が腐食される。また坩堝が破損して熔体(熔融物)が熔解炉内に漏洩する場合があり、熔融工程のバッチ毎に新たな坩堝に取り換える必要がある。これに対して、炭素質成分を含有するマグネシア坩堝はリチウム含有スラグ熔体に対する耐食性に優れている。したがって熔解炉内に熔体が漏洩する問題の発生を抑制することができ、寿命が長い。例えば、従来の坩堝はバッチ1回ごとに取り換える必要があるのに対し、炭素質成分を含有する坩堝は最大で5回まで寿命を延ばすことができる。
【0039】
本実施形態のマグネシア耐火物はマグネシア(MgO)と炭素質成分とを含有する。具体的には、マグネシア粒と、このマグネシア粒を被覆するように粒界に分散している炭素微粒とから構成されている。マグネシア粒は、マグネシア(MgO)から構成される結晶粒である。その平均粒子径(D50)は、特に限定されるものではないが、例えば70~130μmである。また耐火物は、耐食性が維持される限り、マグネシア及び炭素質成分以外の添加成分や不純物を含んでもよい。しかしながらマグネシア及び炭素質成分以外の成分の割合は少ないほど好ましく、例えば10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよく、1質量%以下であってもよい。マグネシア耐火物が、マグネシアと炭素質成分とを含み、残部が不可避不純物から構成されていてもよい。
【0040】
炭素質成分は、主として炭素(C)から構成され、典型的には炭素(C)である。炭素質成分を構成する炭素は結晶質及び非晶質のいずれであってもよい。炭素として、例えば黒鉛(グラファイト)、無定形炭素、フラーレン、カーボンナノチューブを挙げることができる。また無定形炭素として、ファーネスブラック、チャネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを挙げることができる。炭素微粒の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば2~8μmである。
【0041】
マグネシア耐火物は、好ましくはマグネシアと炭素質成分を含む焼結体からなる。このような焼結体は、例えば、マグネシア粉末と炭素粉末とを混合、成形し、不活性雰囲気などの雰囲気中で焼結して作製することができる。また緻密な焼結体を得るために、焼結助剤などの添加剤を加えてもよい。
【0042】
マグネシア耐火物は、炉壁材、炉床材及び/又は坩堝であることが好ましく、坩堝であることが特に好ましい。ここで炉壁材や炉床材は、加熱炉の内壁や床に用いられる部材であり、典型的にはレンガ(築炉用耐火レンガ)である。また坩堝は、加熱炉内に配置された状態で使用され、その内部に被処理物を収容する部材である。上述したように、炭素質成分を含有するマグネシア坩堝はリチウム含有スラグ熔体に対する耐食性に優れている。したがって本実施形態のマグネシア耐火物を坩堝に適用すると、熔解炉(加熱炉)内に熔体が漏洩する問題の発生を抑制することができる。また本実施形態のマグネシア耐火物を炉壁材や炉床材に適用すると、たとえ熔解炉内にリチウム含有スラグ熔体が漏洩したとしても、熔体漏洩のさらなる進行を抑制することが可能である。またこの炉壁材や炉床材は、リチウム含有スラグのみならず、リチウム蒸気に対する耐食性に優れている。そのため有価金属回収を繰り返しても、リチウム蒸気による損傷が少ない。
【0043】
マグネシア耐火物は、炭素質成分を4.0~19.0質量%の量で含むことが好ましい。マグネシアをベースとする耐火物において、炭素質成分の含有量を徐々に増加させると、損耗量が減少する。例えば耐火物が坩堝である場合には、炭素質成分量が4.0質量%以上でマグネシア単独の坩堝に比べて寿命が4倍以上に延び、また13.0質量%以上で寿命が8倍以上に延びる。しかしながらそれ以上に炭素質量を増加させても損耗量が底を打ち(最も低くなり)、19.0質量%を超えると損耗量変化が増加に転ずる。そのため損耗量が炭素量4.0~7.0質量%の場合と同程度にまで戻る。したがって上述の範囲内の炭素質成分量で耐食性がより向上して、耐火物の寿命をさらに延ばすことが可能になる。
【0044】
マグネシア耐火物は、炭素質成分を14.0~16.0質量%の量で含むことがより好ましい。この範囲は損耗量が底を打つ領域であり、耐火物の耐食性が最も高くなるからである。
【0045】
還元熔融処理の際に還元剤を導入するのが好ましい。還元剤として炭素及び/又は一酸化炭素を用いることが好ましい。炭素は、回収対象である有価金属(Cu、Ni、Co)を容易に還元する能力がある。例えば1モルの炭素で2モルの有価金属酸化物(銅酸化物、ニッケル酸化物等)を還元することができる。また炭素や一酸化炭素を用いる還元手法は、金属還元剤を用いる手法(例えば、アルミニウムを用いたテルミット反応法)に比べて安全性が極めて高い。炭素として人工黒鉛及び/又は天然黒鉛を使用することができ、また不純物コンタミネーションの恐れが無ければ、石炭やコークスを使用することができる。
【0046】
還元熔融処理の加熱温度は、特に限定されるものではない。しかしながら加熱温度は1300℃以上1450℃以下が好ましく、1350℃以上1400℃以下がより好ましい。1450℃超の温度では、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、生産性が低下する恐れがある。一方で、1300℃未満の温度では、スラグと熔融合金の分離性が悪化し回収率が低下する問題がある。還元熔融処理は公知の手法で行えばよい。例えば酸化焙焼物を坩堝に装入し、抵抗加熱等により加熱する手法が挙げられる。また、還元熔融処理の際に粉塵や排ガス等の有害物質が発生することがあるが、公知の排ガス処理等の処理を施すことで、有害物質を無害化することができる。
【0047】
酸化焙焼工程を設けた場合には、還元熔融工程で酸化処理を行う必要はない。しかしながら、酸化焙焼工程での酸化が不足している場合や、酸化度のさらなる調整を目的とする場合には、還元熔融工程で追加の酸化処理を行ってもよい。追加の酸化処理を行うことで、より厳密な酸化度の調整が可能になる。
【0048】
<スラグ分離工程>
必要に応じてスラグ分離工程を設けてもよい。スラグ分離工程では、酸化還元熔融工程で得られた還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収する。スラグと熔融合金は比重が異なる。熔融合金に比べて比重が小さいスラグは熔融合金の上部に集まるので、比重分離により分離回収することができる。
【0049】
スラグ分離工程後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物と合金の混在物を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。さらに、このような乾式製錬プロセスを経て得られた有価金属合金に対して湿式製錬プロセスを行ってもよい。湿式製錬プロセスにより不純物成分を除去し、さらに有価金属(Cu、Ni、Co)を分離精製して、それぞれを回収することができる。湿式製錬プロセスにおける処理としては、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の手法が挙げられる。
【0050】
本実施形態の有価金属の回収方法によれば、リチウム含有スラグ熔体に対する耐食性に優れ、寿命の長い炭素質成分含有マグネシア耐火物を用いることで、操業効率面及び資材コスト面での不具合を解消し、有価金属を安価に回収することが可能になる。
【0051】
このような回収方法は、本発明者らの知る限り、従来は知られていない。例えば、特許文献1では、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法に関して、マグネシア製坩堝を用いて還元熔融処理を行っているが、当該坩堝が炭素質成分を含有することを教示する具体的記載は無く、ましてや、それにより耐食性及び寿命が改善されることについては教示も示唆もない。また特許文献2~4で提案される坩堝は、炭素質成分とセラミックスの積層構造から構成されており、本実施形態の坩堝とは構造が異なる。また特許文献2~4の坩堝は、乾式製錬プロセスで有価金属を回収する際に用いられるものではなく、ましてやリチウム含有スラグ熔体に対する腐食性改善を目的としたものではない。
【0052】
2.廃リチウムイオン電池からの回収
本実施形態の装入物は有価金属及びリチウム(Li)を含有する限り、限定されない。しかしながら装入物は廃リチウムイオン電池を含むことが好ましい。廃リチウムイオン電池は、有価金属(Cu、Ni、Co)及びリチウム(Li)を含むとともに、付加価値の低い金属(Al、Fe)や炭素成分を含んでいる。そのため、廃リチウムイオン電池を装入物として用いることで、有価金属を効率的に分離回収することができる。なお廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0053】
廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法を、図1を用いて説明する。図1は回収方法の一例を示す工程図である。図1に示されるように、この方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去する廃電池前処理工程(S1)と、廃電池の内容物を粉砕して粉砕物とする第1粉砕工程(S2)と、粉砕物を酸化焙焼する酸化焙焼工程(S3)と、酸化焙焼物を還元及び熔融して合金化する還元熔融工程(S4)とを有する。また図示されていないが、還元熔融工程(S4)の後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物と合金との混在物を粉砕する第2粉砕工程を設けてもよい。各工程の詳細を以下に説明する。
【0054】
<廃電池前処理工程>
廃電池前処理工程(S1)は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化並びに外装缶の除去を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液などを有している。そのためそのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。何らかの手法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。また外装缶は金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されることが多く、こうした金属製の外装缶はそのまま回収することが比較的に容易である。廃電池前処理工程(S1)で電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0055】
廃電池前処理の具体的な方法は特に限定されるものではない。例えば針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また廃電池を加熱して、電解液を燃焼して無害化する手法が挙げられる。
【0056】
廃電池前処理工程(S1)で、外装缶に含まれるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)を回収する場合には、除去した外装缶を粉砕した後に、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。アルミニウム(Al)は軽度の粉砕で容易に粉状になるため、これを効率的に回収することができる。また磁力選別によって、外装缶に含まれる鉄(Fe)を回収してもよい。
【0057】
<第1粉砕工程>
第1粉砕工程(S2)では廃リチウムイオン電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。この工程は乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的にしている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。具体的な粉砕方法は特に限定されるものではない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。なお廃電池前処理工程と第1粉砕工程は、これらを併せて先述する準備工程に相当する。
【0058】
<酸化焙焼工程>
酸化焙焼工程(S3)では、第1粉砕工程(S2)で得られた粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。この工程の詳細は先述したとおりである。
【0059】
<還元熔融工程>
還元熔融工程(S4)では、酸化焙焼工程(S3)で得られた酸化焙焼物を還元して還元物を得る。この工程の詳細は先述したとおりである。
【0060】
<スラグ分離工程>
スラグ分離工程では、還元熔融工程(S4)で得られた還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収する。この工程の詳細は先述したとおりである。
【0061】
スラグ分離工程後に硫化工程や粉砕工程を設けてもよい。さらに得られた有価金属合金に対して湿式製錬プロセスをおこなってもよい。硫化工程、粉砕工程及び湿式製錬プロセスの詳細は先述したとおりである。
【0062】
3.マグネシア耐火物
本実施形態のマグネシア耐火物は、有価金属の回収方法に使用される。このマグネシア耐火物は、少なくとも有価金属及びリチウム(Li)を含む装入物に還元熔融処理を施す際に用いられる加熱炉に含まれる。またこのマグネシア耐火物が炭素質成分を含有する。有価金属の回収方法及びマグネシア耐火物の詳細は上述したとおりである。
【実施例
【0063】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(1)マグネシア坩堝の作成
実施例1
実施例1では、炭素を4.0質量%の量で含むマグネシア坩堝を作製した。具体的には、上記組成の坩堝が得られるようにマグネシア粉末と炭素粉末(黒鉛微粉末)とを充分に混合し、粉末混合物をラバープレス法で成形した。得られた成形体を1800℃以上の高温で焼成して、焼結体からなるマグネシア坩堝を作製した。得られた坩堝は、厚み40mm、高さ230mmの上面開放中空円筒形状を有していた。
【0065】
実施例2
実施例2では炭素量を7.0質量%に変えた。それ以外は実施例1と同様にして坩堝を作製した。
【0066】
実施例3
実施例3では炭素量を9.0質量%に変えた。それ以外は実施例1と同様にして坩堝を作製した。
【0067】
実施例4
実施例4では炭素量を13.0質量%に変えた。それ以外は実施例1と同様にして坩堝を作製した。
【0068】
実施例5
実施例5では炭素量を15.0質量%に変えた。それ以外は実施例1と同様にして坩堝を作製した。
【0069】
実施例6
実施例6では炭素量を19.0質量%に変えた。それ以外は実施例1と同様にして坩堝を作製した。
【0070】
比較例1
比較例1では炭素を加えなかった(炭素量が0質量%)。それ以外は実施例1と同様にして坩堝を作製した。
(2)評価
【0071】
実施例1~6及び比較例1で得られた坩堝につき、各種特性の評価を以下に示すとおりに行った。
【0072】
<スラグレベル損耗量>
坩堝のスラグレベル(SL)損耗量を調べた。具体的には、下記に示す量のLiB原料及びスラグを各実施例及び比較例で作製した坩堝に装入し、窒素雰囲気中、下記に示す加熱炉及び加熱温度で8時間保持する試験を行った。
【0073】
‐誘導加熱炉:直径205mm、深さ230mm
‐スラグレベル(SL):150mm
‐試験温度:1600℃
‐試験時間:8時間
‐LiB原料メタル:10kg
‐スラグ:800g
‐雰囲気:窒素
【0074】
<組織観察>
スラグレベル損耗量の評価を行った後の坩堝断面を、エネルギー分散型X線分光器を搭載した走査電子顕微鏡(SEM-EDX)で観察して微細組織を調べた。また付属のエネルギー分散型X線分光器(EDX)を用いて断面の元素分析を行った。観察時の倍率は100倍にした。
【0075】
(3)結果
<スラグレベル損耗量>
実施例1~6及び比較例1で得られた坩堝のスラグレベル(SL)損耗量を表1に示す。炭素質成分を含まない比較例1の坩堝は、SL損耗量が40mm以上であり、また試験中に破損した。これに対して、炭素質成分を含む実施例1~6の坩堝は、損耗量が最大でも10.1mmであり、また試験中に破損しなかった。特に炭素量が15質量%である実施例5の坩堝は損耗量が4.1mmと非常に小さかった。
【0076】
【表1】
【0077】
<組織観察>
実施例5につき、スラグレベル損耗量評価後の坩堝の断面SEM写真及び元素分析像を図2に示す。元素分析像より、比較的粗大なマグネシア(MgO)粒と、粒界に存在する微細な炭素(C)とが存在することが分かった。スラグが侵入する前にマグネシア粒の粒界に炭素質成分が拡散し、マグネシア粒が炭素でコーティングされた状態になり、これにより構造破壊を起こすことなく寿命が延長したと考えられる。またそのため従来の坩堝に比べて寿命が最大で8倍程度に長くなったと本発明者らは推察している。

図1
図2