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特許7487526樹脂組成物とその製造方法、トナー、粉体塗料及びインキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物とその製造方法、トナー、粉体塗料及びインキ
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240514BHJP
   C08L 23/18 20060101ALI20240514BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 123/18 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 153/02 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 11/104 20140101ALI20240514BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L23/18
C08L53/02
C09D5/03
C09D167/00
C09D123/18
C09D153/02
C09D11/104
G03G9/087
G03G9/087 331
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020062311
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161177
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小澤 匡弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 倫仁
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
(72)【発明者】
【氏名】金子 朝子
(72)【発明者】
【氏名】田村 陽子
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-131974(JP,A)
【文献】特開昭62-236869(JP,A)
【文献】特開2021-031534(JP,A)
【文献】特開2017-159590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08F、C09D
G03G 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量が5,000以上100,000以下である重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを含む樹脂組成物であって
前記重合体(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体(a)の不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方による変性体であり、
前記樹脂組成物の総質量に対して、前記重合体(A)の含有量が0.5質量%以上40質量%以下であり、前記ポリエステル樹脂(B)の含有量が60質量%以上99.5質量%以下である、樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基が水素化された基であり、R16~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。)
【請求項2】
前記重合体(a)は、下記一般式(2)で表される構造単位をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
(式(2)中、R21~R24はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基であり、nは1以上の整数である。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(1-1)で表される構造単位である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【化3】
(式(1-1)中、R11~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。)
【請求項4】
質量平均分子量が5,000以上100,000以下である重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記重合体(A)と前記ポリエステル樹脂(B)との混合物を前記重合体(A)の流動開始温度以上で加熱する工程を含み、
前記重合体(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体(a)の不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方による変性体であり、
前記樹脂組成物の総質量に対して、前記重合体(A)の含有量が0.5質量%以上40質量%以下であり、前記ポリエステル樹脂(B)の含有量が60質量%以上99.5質量%以下である、樹脂組成物の製造方法。
【化4】
(式(1)中、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基が水素化された基であり、R16~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。)
【請求項5】
前記重合体(a)は、下記一般式(2)で表される構造単位をさらに含む、請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【化5】
(式(2)中、R21~R24はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基であり、nは1以上の整数である。)
【請求項6】
前記一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(1-1)で表される構造単位である、請求項4又は5に記載の樹脂組成物の製造方法。
【化6】
(式(1-1)中、R11~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。)
【請求項7】
前記混合物の加熱は、前記重合体(A)の軟化温度以上で行われる、請求項4~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、トナー。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、粉体塗料。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物とその製造方法、トナー、粉体塗料及びインキに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、コーティング材料、接着剤、フィルム、トナー用のバインダ樹脂等の用途に広く使用されている。
例えば、特許文献1、2にはテレフタル酸等の多価カルボン酸から導かれる単位と、ビスフェノール誘導体等の多価アルコールから導かれる単位とを特定の割合で含むトナー用ポリエステル樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-239022号公報
【文献】特開平5-9278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、アナログ印刷やデジタル印刷等の印刷に用いられる基材としては紙が主流であったが、近年、フィルム基材が用いられるケースが増えている。
フィルム基材としては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリプロプレンフィルム(PPフィルム)等が一般的である。
ポリエステル樹脂は、PETフィルムに対する密着性には優れるものの、PPフィルムに対する密着性は不充分である。また、例えばポリエステル樹脂を含むトナーを用いてフィルム基材に印刷した印字フィルムの保管特性(以下、「印字フィルムの保存安定性」という。)が、オンデマンドニーズや近年の温暖化に即した高温条件下では必ずしも満足できるものではない。
これまで、PETフィルム及びPPフィルムの両方に対する密着性に優れ、保存安定性に優れる印字フィルムが得られる樹脂組成物は知られていない。
【0005】
本発明は、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性に優れ、保存安定性に優れる印字フィルムが得られる樹脂組成物とその製造方法、トナー、粉体塗料及びインキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを含み、
前記重合体(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体(a)の不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方による変性体である、樹脂組成物。
【0007】
【化1】
【0008】
式(1)中、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基が水素化された基であり、R16~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。
【0009】
[2] 前記重合体(a)は、下記一般式(2)で表される構造単位をさらに含む、前記[1]の樹脂組成物。
【0010】
【化2】
【0011】
式(2)中、R21~R24はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基であり、nは1以上の整数である。
【0012】
[3] 前記一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(1-1)で表される構造単位である、前記[1]又は[2]の樹脂組成物。
【0013】
【化3】
【0014】
式(1-1)中、R11~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。
【0015】
[4] 重合体(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物を前記重合体(A)の流動開始温度以上で加熱する工程を含み、
前記重合体(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体(a)の不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方による変性体である、樹脂組成物の製造方法。
【0016】
【化4】
【0017】
式(1)中、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基が水素化された基であり、R16~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。
【0018】
[5] 前記重合体(a)は、下記一般式(2)で表される構造単位をさらに含む、前記[4]の樹脂組成物の製造方法。
【0019】
【化5】
【0020】
式(2)中、R21~R24はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基であり、nは1以上の整数である。
【0021】
[6] 前記一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(1-1)で表される構造単位である、前記[4]又は[5]の樹脂組成物の製造方法。
【0022】
【化6】
【0023】
式(1-1)中、R11~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。
【0024】
[7] 前記混合物の加熱は、前記重合体(A)の軟化温度以上で行われる、前記[4]~[6]のいずれかの樹脂組成物の製造方法。
【0025】
[8] 前記[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物を含む、トナー。
[9] 前記[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物を含む、粉体塗料。
[10] 前記[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物を含む、インキ。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性に優れ、保存安定性に優れる印字フィルムが得られる樹脂組成物とその製造方法、トナー、粉体塗料及びインキを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
なお、本明細書において、「印字フィルム」とは、本発明の樹脂組成物が印刷、塗布、筆記等により、フィルム基材に密着しているフィルムのことである。
【0028】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、以下に示す重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを含む。
【0029】
<重合体(A)>
重合体(A)は、PPフィルムに対する密着性を高め、かつ印字フィルムの保存安定性を高める成分である。
重合体(A)は、以下に示す重合体(a)の不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方による変性体である。
なお、本発明において「変性」とは、重合体(a)の側鎖の一部に不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方が導入されることを意味する。
以下、本明細書において重合体(a)の側鎖において、不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方が導入された部分を「変性部分」ともいう。
また、不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方を「不飽和カルボン酸及び/又はその無水物」ともいう。
【0030】
(重合体(a))
重合体(a)は、下記一般式(1)で表される構造単位(以下、「構造単位(1)」ともいう。)を含む重合体である。
以下、本明細書において、重合体(a)を「環状ポリオレフィン」ともいい、重合体(A)を「変性環状ポリオレフィン」ともいう。なお、「環状ポリオレフィン」とは、脂環式構造を有するポリオレフィンである。
【0031】
【化7】
【0032】
式(1)中、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基が水素化された基であり、R16~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。
Arのフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基が水素化された基は、置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい。
なお、水素化とは、不飽和結合に水素を付加する反応のことである。例えば「フェニル基が水素化された基」とは、フェニル基中の炭素-炭素二重結合に水素原子を付加させことで、炭素-炭素二重結が飽和結合に変換した置換基のことである。
【0033】
構造単位(1)としては、下記一般式(1-1)で表される構造単位(以下、「構造単位(1-1)」ともいう。)が好ましい。
【0034】
【化8】
【0035】
式(1-1)中、R11~R18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基である。
ハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンなどが挙げられる。これらの中でも、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、フッ素、塩素、臭素がより好ましく、フッ素、塩素がさらに好ましい。
炭化水素基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。これらの中でも、アルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
炭化水素基及びアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、4以下が一層好ましく、3以下がより一層好ましく、2以下が特に好ましく、1が最も好ましい。
11~R18はそれぞれ独立して、水素原子、炭化水素基、アルコキシ基が好ましく、水素原子、炭化水素基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0036】
構造単位(1-1)として、好ましい構造は以下の通りである。
【0037】
【化9】
【0038】
これらの中でも、より好ましい構造は以下の通りである。
【0039】
【化10】
【0040】
これらの中でも、さらに好ましい構造は以下の通りである。
【0041】
【化11】
【0042】
構造単位(1)の由来となるモノマーとしては、非芳香族化合物の水素原子の一つがビニル基で置換された非芳香族ビニルモノマー、芳香族化合物の水素原子の一つがビニル基に置換された芳香族ビニルモノマーが挙げられる。
非芳香族ビニルモノマーとしては、例えばビニルシクロヘキサン、2-メチルビニルシクロヘキサン、3-メチルビニルシクロヘキサン、4-メチルビニルシクロヘキサン等のビニルシクロヘキサン系モノマーが挙げられる。
非芳香族ビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えばスチレン系モノマー、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられる。
スチレン系モノマーとしては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、4-モノクロロスチレン、4-クロロメチルスチレン、4-ヒドロキシメチルスチレン、4-t-ブトキシスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン、4-フェニルスチレンなどが挙げられる。
これらの中でも、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-クロロメチルスチレン、ビニルナフタレンが好ましく、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレンがより好ましく、スチレンがさらに好ましい。
芳香族ビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
重合体(a)に含まれる構造単位(1)の含有量は特に制限されないが、重合体(a)を構成する全ての構造単位の総質量に対して、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。すなわち、構造単位(1)の含有量は、重合体(a)を構成する全ての構造単位の総質量に対して、30~95質量%が好ましく、40~90質量%がより好ましく、50~85質量%がさらに好ましい。
【0045】
重合体(a)は構造単位(1)のみからなる単独重合体であってもよいし、構造単位(1)に加えて他の構造単位を含む共重合体であってもよい。重合体(a)は共重合体であることが好ましい。
重合体(a)が共重合体である場合、構造単位(1)に加えて、下記一般式(2)で表される構造単位(以下、「構造単位(2)」ともいう。)をさらに含むことが好ましい。
【0046】
【化12】
【0047】
式(2)中、R21~R24はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基又はアルコキシ基であり、nは1以上の整数である。
ハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンなどが挙げられる。これらの中でも、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、フッ素、塩素、臭素がより好ましく、フッ素、塩素がさらに好ましい。
炭化水素基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。これらの中でも、アルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
炭化水素基及びアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、4以下が一層好ましく、3以下がより一層好ましく、2以下が特に好ましく、1が最も好ましい。
nは1以上の整数であり、2以上が好ましい。また、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下が一層好ましく、6以下が特に好ましく、5以下が最も好ましい。すなわち、nは、1~10の整数が好ましく、1~9の整数がより好ましく、1~8の整数がさらに好ましく、1~7の整数が一層好ましく、1~6の整数がより一層好ましく、1~5の整数が特に好ましく、2~5の整数が最も好ましい。
なお、nが2以上の整数の場合、n個のR21は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、n個のR24は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
21~R24それぞれ独立して、水素原子、炭化水素基、アルコキシ基が好ましく、水素原子、炭化水素基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0048】
構造単位(2)として、好ましい構造は以下の通りである。
【0049】
【化13】
【0050】
これらの中でも、より好ましい構造は以下の通りである。
【0051】
【化14】
【0052】
これらの中でも、さらに好ましい構造は以下の通りである。
【0053】
【化15】
【0054】
構造単位(2)の由来となるモノマーとしては、末端に二重結合を有するアルケンが挙げられる。
末端に二重結合を有するアルケンとしては、例えばイソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、イソプレンなどが挙げられる。これらの中でも、重合体(a)の結晶制御性の観点から、1分子中に2個の共役二重結合を有する共役ジエンモノマーが好ましく、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、イソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンがさらに好ましい。
末端に二重結合を有するアルケンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、1分子中に複数の二重結合を有するモノマーを用いる場合、詳しくは後述するが重合後に水素化することによって、残存する二重結合を飽和結合に変換する。
【0055】
重合体(a)に含まれる構造単位(2)の含有量は特に制限されないが、重合体(a)を構成する全ての構造単位の総質量に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。すなわち、構造単位(2)の含有量は重合体(a)を構成する全ての構造単位の総質量に対して、5~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。
【0056】
また、重合体(a)に含まれる構造単位(1)及び構造単位(2)の含有量の合計は、重合体(a)を構成する全ての構造単位の総質量に対して、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、95~100質量%がさらに好ましい。
【0057】
また、重合体(a)に含まれる構造単位(1)の含有量を(a)とし、重合体(a)に含まれる構造単位(2)の含有量を(a)としたときに、a/aで表される構造単位(1)と構造単位(2)の質量比は、0.05以上が好ましく、0.67以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。また、19以下が好ましく、9以下がより好ましく、7以下がさらに好ましい。すなわち、a/aは0.05~19が好ましく、0.67~9がより好ましく、1~7がさらに好ましい。a/aが上記範囲内であれば、定着性と耐熱性が向上する。
【0058】
重合体(a)が共重合体である場合、重合体(a)は構造単位(1)及び構造単位(2)を含む二元共重合体でもよく、構造単位(1)及び構造単位(2)に加えて、これら以外の任意の構造単位を1種含む三元共重合体でもよい。また、任意の構造単位は重合体(a)中に2種以上含まれていてもよい。
重合体(a)が共重合体である場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよいが、定着性及び耐熱性を効果的に付与する観点からブロック共重合体であることが好ましい。
【0059】
重合体(a)がブロック共重合体である場合、重合体(a)は、一般式(1)を繰り返し単位とする重合体ブロックPと、一般式(2)を繰り返し単位とする重合体ブロックQとを有するブロック共重合体であることが、柔軟性付与による定着性向上に加えて、適度な結晶性付与による、溶液中での微細な重合体粒子の形成の観点から好ましい。その中でも特に、詳しくは後述するが、重合後に残存する二重結合を、水素化により飽和結合に変換した、水素化ブロック共重合体であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、「ブロック」とは、共重合体の構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表す共重合体の重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロック共重合体中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
ミクロ層分離とブロック共重合体は、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0060】
重合体ブロックQ中に、直鎖状の繰り返し単位が連続して存在する場合は結晶性の向上に寄与するが、側鎖にアルキル基を有する繰り返し単位が存在すると、そのような結晶性が一部阻害される傾向にある。例えば、1,3-ブタジエンを原料モノマーとして重合体ブロックQを製造する場合は、1,4-付加重合及びそれに引き続く水素化により、直鎖状のn-ブチレンの構造単位からなる重合体が得られ、結晶性が高くなるが、同時に1,2-付加重合による1-エチルエチレンの構造単位からなる重合体も得られると、結晶性が低下する。そのため、これらのバランスで重合体の結晶性を制御することができる。
【0061】
ブロック共重合体のブロック構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状、放射状等のいずれであってもよいが、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表されるブロック共重合体が好ましい。
P-(Q-P)r ・・・(3)
(P-Q)s ・・・(4)
(式(3)、(4)中、Pは重合体ブロックPであり、Qは重合体ブロックQであり、rは1以上の整数であり、sは2以上の整数である。)
【0062】
製造の容易さの観点から、rは1以上の整数であり、1~5の整数が好ましく、1~3の整数がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。
製造の容易さの観点から、sは2以上の整数であり、2~5の整数が好ましく、2~4の整数がより好ましく、2又は3がさらに好ましい。
【0063】
ブロック共重合体としては、製造の容易さの観点から、式(4)で表されるブロック共重合体よりも、式(3)で表されるブロック共重合体の方が好ましい。すなわち、少なくとも両末端に重合体ブロックPを有し、これら重合体ブロックPの間に重合体ブロックQを少なくとも1つ有するブロック共重合体が好ましい。
【0064】
重合体ブロックPとしては、水素化ポリスチレンが好ましい。重合体ブロックQとしては、水素化ポリブタジエンが好ましい。
ブロック共重合体としては、SBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック及びスターブロックコポリマーを含むブロック共重合体の水素化体が好ましい。
【0065】
<<重合体(a)の物性>>
重合体(a)の数平均分子量(Mn)は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましく、40,000以上が一層好ましく、45,000以上が特に好ましく、50,000以上が最も好ましい。また、120,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、95,000以下がさらに好ましく、90,000以下が一層好ましく、85,000以下が特に好ましく、80,000以下が最も好ましい。すなわち、重合体(a)の数平均分子量(Mn)は、10,000~120,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましく、30,000~95,000がさらに好ましく、40,000~90,000が一層好ましく、45,000~85,000が特に好ましく、50,000~80,000が最も好ましい。
重合体(a)の数平均分子量(Mn)が、上記下限値以上であれば機械強度が低下しにくく、上記上限値以下であれば重合体(A)の溶剤溶解性が向上する。
重合体(a)の数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0066】
重合体(a)の密度は、0.92~0.96g/cmが好ましい。
重合体(a)の密度が、上記下限値以上であれば耐熱性が良好となる傾向があり、上記上限値以下であれば耐衝撃性や柔軟性が良好となる傾向がある。
重合体(a)の密度は、ASTM D792に準拠した方法で測定される値である。
【0067】
重合体(a)のメルトフローレート(MFR)は、0.1~300g/10分が好ましく、0.5~300g/10分がより好ましく、1~300g/10分がさらに好ましく、1~200g/10分が一層好ましく、1~100g/10分が特に好ましく、1~50g/10分が最も好ましい。
重合体(a)のMFRが上記範囲内であれば、定着時の流動性が良好となる。
重合体(a)のMFRは、ISO R1133に準拠した方法で、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0068】
重合体(a)のガラス転移温度(Tg)は、110~150℃が好ましく、115~135℃がより好ましい。
重合体(a)のTgが、上記下限値以上であれば耐熱性が良好となる傾向があり、上記上限値以下であれば樹脂組成物を容易に製造できる。
重合体(a)のTgは、示差走差熱量計を用いた測定によって決定される。
【0069】
<<重合体(a)の製造>>
重合体(a)は、例えば上述したビニルシクロヘキサン系モノマーを重合することで得られる。構造単位(2)を含む重合体(a)は、例えばビニルシクロヘキサン系モノマーと、末端のみに二重結合を有するアルケンとを共重合することで得られる。
また、例えば上述した芳香族ビニルモノマーを重合した後に、水素化することでも、重合体(a)を製造することができる。構造単位(2)を含む重合体(a)は、例えば芳香族ビニルモノマーと、共役ジエンモノマーとを共重合した後に水素化することで得られる。
重合方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0070】
水素化の方法としては特に限定されないが、核水素化が好ましい。以下の明細書において、水素化前の重合体を「重合体(a0)」ともいう。
核水素化とは、重合体(a0)に含まれる芳香族環を水素化により飽和炭化水素骨格に変換することを指す。芳香族環は、通常ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの炭素骨格で形成されるものが挙げられる。これらの芳香族環は、重合体(a0)に1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上が任意の割合で含まれていてもよい。
【0071】
例えば、重合体(a0)がポリスチレンである場合、核水素化によってフェニル基がシクロヘキシル基に変換される。
重合体(a0)の骨格中の任意の部位に脂肪族不飽和炭化水素が含まれている場合、核水素化を行った際に同時にこの部分が飽和炭化水素部分となってもよい。なお、この場合、当該部分は前記一般式(2)で表される繰り返し単位に該当する。
【0072】
核水素化率は特に限定されないが、重合体(a0)に含まれる芳香族ビニルモノマー単位の総モル数に対して、5モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が一層好ましく、95モル%以上がより一層好ましく、99モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。
芳香族ビニルモノマーと、共役ジエンモノマーとを共重合した後に水素化する場合、共役ジエンの核水素化率は、重合体(a0)に含まれる共役ジエンモノマー単位の総モル数に対して、5モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が一層好ましく、95モル%以上がより一層好ましく、99モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。
なお、重合体(a0)がブロック共重合体である場合、芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位の核水素化率は、芳香族ビニルポリマーブロック単位の総モル数に対して5モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が一層好ましく、95モル%以上がより一層好ましく、99モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。また、共役ジエンモノマーからなる共役ジエンポリマーブロック単位の核水素化率は、共役ジエンポリマーブロック単位の総モル数に対して、5モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が一層好ましく、95モル%以上がより一層好ましく、99モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。核水素化率が上記下限値以上であれば、定着性が向上する。
ここで、「核水素化率」とは、芳香族ビニルモノマー単位や共役ジエンモノマー単位が核水素化によって飽和される割合のことであり、本明細書においては「核水素化率」を「水素化レベル」ともいう。
核水素化率はH-NMRの測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0073】
核水素化の方法としては特に限定されないが、例えば、触媒、水素等の存在下で芳香族環を水素化する方法などが挙げられる。必要に応じて加圧や加熱を行ってもよい。
核水素化の具体的方法について、以下に説明する。
【0074】
触媒:
核水素化に用いられる触媒としては金属触媒が挙げられる。
金属触媒としては、例えば合金触媒、担体に活性金属種を担持させた担持金属触媒等が挙げられる。
金属触媒の金属成分としては、重合体(a0)に含まれる芳香族環を水素化できるものであれば特に限定されないが、通常、ルテニウム、ニッケル、銅、パラジウム、金、白金、鉄、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム等の金属を用いることができる。これらの中でも、水素化能力を発揮するものとして、周期表第8族、第9族、第10族及び第11族からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましい。特に水素化能力が高いことから、周期表第8族、第9族及び第10族からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましく、特に選択性が高いことから、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム又は白金が好ましく、特に核水素化に対する能力の高さからルテニウム、ニッケル又はパラジウムが好ましい。
【0075】
核水素化に用いられる金属触媒は、上記の金属の1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。金属を2種類以上用いるときは、その組み合わせは特に限定されず、それぞれの金属が触媒活性を有するもの(共触媒)でも、1種類以上の金属の触媒活性を向上させるもの(助触媒)であってもよいが、これらのうち助触媒が好ましい。
【0076】
合金触媒としては特に限定されないが、例えばルテニウム、ニッケル、銅、パラジウム、金、白金等の金属の合金が挙げられる。具体的には一般的に知られているラネー触媒、銅クロム触媒などが挙げられる。
【0077】
担持金属触媒に用いられる担体としては特に限定されないが、例えば活性炭、カーボンブラック、シリコンカーバイド等の炭素系担体;アルミナ、シリカ、ジルコニア、ニオビア、チタニア、セリア、珪藻土、ゼオライト等の金属酸化物担体などが挙げられる。これらの中でも活性炭、シリカ及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種を担体として用いるのが、反応活性発現と触媒の活性安定化の面で好ましい。
【0078】
担持金属触媒に用いられる担体の比表面積は特に限定されないが、1m/g以上が好ましく、10m/g以上がより好ましく、50m/g以上がさらに好ましい。また、2000m/g以下が好ましく、1500m/g以下がより好ましく、1000m/g以下がさらに好ましい。すなわち、担体の比表面積1~2000m/gが好ましく、10~1500m/gがより好ましく、50~1000m/gがさらに好ましい。
担体の比表面積が上記下限値以上であれば、金属を担体に高い分散度で担持することを可能とし、充分な触媒活性が得られる。担体の比表面積が上記上限値以下であれば、担体が有する細孔を有効に利用できる。
【0079】
担持金属触媒に用いられる担体の平均細孔径は特に限定されないが、200Å以上が好ましく、250Å以上がより好ましい。また、1000Å以下が好ましく、600Å以下がより好ましい。
担体の平均細孔径が上記下限値以上であれば、重合体(a0)の取り込みが充分に行われ、処理効率を維持できる傾向にある。平均細孔径が上記上限値を超える担体を使用することもできるが、担体表面を有効に利用する点から、担体の平均細孔径は上記上限値以下であることが好ましい。
【0080】
担持金属触媒における金属含有量は特に限定されないが、金属に換算した質量百分率で、担体と金属の合計質量に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。すなわち、担持金属触媒における金属含有量は担体と金属の合計質量に対して0.5~50質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
担持金属触媒における金属含有量が上記範囲内であれば、充分な触媒活性を得ることができる。
なお、以下の触媒の記載において、質量%と記載されている値は、その触媒の担体と金属の合計質量に対する金属含有量を示す。
【0081】
金属触媒としては、反応液からの分離を容易に行えること、触媒の再使用が容易であること、などの観点から、担持金属触媒を用いることが好ましい。
【0082】
金属触媒の製造方法としては、活性成分が金属状態で触媒として機能していればよく、特に限定されない。例えば、金属、金属化合物等を、還元処理することで得ることができる。
【0083】
担持金属触媒の製造方法としては特に限定されず、一般的な方法を適宜組み合わせて製造することができる。通常、金属源となる金属化合物を担体に担持させ、乾燥、洗浄、焼成等の処理を行なった後、還元処理によって、金属状態に変換して用いる。
金属化合物の担体への担持方法としては特に限定されないが、例えば含浸法、イオン交換法、スプレー法、共沈法等の担持金属触媒の調製に常用されている既知の方法を用いることができる。金属化合物が担持された担体を還元処理することにより、担体に担持された金属化合物が金属に変換されることで、目的とする触媒が得られる。
【0084】
金属化合物が担持された担体の還元処理は、液相又は気相のいずれでも行うことができるが、水素などの還元性ガスを用いて還元する気相還元や、アルコール、ギ酸、ギ酸ナトリウムなどを用いて還元する液相還元が好ましい。
還元処理における還元温度は特に限定されないが、20℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、250℃以上がさらに好ましい。また、600℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましい。すなわち、還元温度は、20~600℃が好ましく、100~600℃がより好ましく、250~500℃がさらに好ましい。
【0085】
金属触媒の形状としては特に限定はされず、該金属触媒を用いて行う反応の形式に応じて、適宜選択して用いることができる。金属触媒の具体的な形状としては、例えば粉末状、粒子状、ペレット状等の形状が挙げられるが、中でも細孔内拡散の影響が少ない粉末状が好ましい。
また、金属触媒の平均粒子径としては特に限定はされず、金属触媒を用いる反応の形式に応じて、適宜選択して用いることができるが、30μm以上、20mm以下が好ましい。
【0086】
金属触媒の使用量は、重合体(a0)に含まれる芳香族環を適切な時間内に水素化できる程度であればよく、特に限定されないが、重合体(a0)の質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。すなわち、金属触媒の使用量は、重合体(a0)の質量に対して、0.01~50質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0087】
水素化反応条件:
核水素化は、水素雰囲気下で行ってもよい。水素源としては特に限定はされないが、反応終了後に分離精製の必要がない気体の水素を用いることが望ましい。
【0088】
水素ガス圧は特に限定はされないが、通常、水素ガスによる加圧条件下で行われる。水素化反応の圧力は特に限定されないが、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましく、5MPa以上がさらに好ましい。また、30MPa以下が好ましく、20MPa以下がより好ましく、15MPa以下がさらに好ましい。すなわち、水素ガス圧は、1~30MPaが好ましく、3~20MPaがより好ましく、5~15MPaがさらに好ましい。
一般的には、反応圧力を上昇させると金属触媒への水素供給が促進され、核水素化の反応速度が向上する。一方で、高い反応圧力で実施するには特別に耐圧性を高めた反応器等の設備が必要となるほか、高い反応圧力の条件によって共重合体の分解反応が生じる可能性がある。
【0089】
水素雰囲気下における水素ガスの水素濃度は特に限定はされないが、70体積%以上がましく、80体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。また、100体積%が好ましく、95体積%以下がより好ましい。すなわち、水素濃度は、70~100体積%が好ましく、80~100体積%がより好ましく、90~95体積%がさらに好ましい。
【0090】
重合体(a0)を核水素化する際の温度(反応温度)は特に限定されないが、20℃が好ましく、50℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましく、150℃以上が特に好ましい。また、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、220℃以下がさらに好ましい。すなわち、重合体(a0)を核水素化する温度は、20~300℃が好ましく、50~250℃がより好ましく、90~250℃以下がさらに好ましく、150~220℃が特に好ましい。
反応温度が上記範囲内であれば、重合体(a0)の分解反応を抑制しながら、効率的な核水素化が達成できる傾向にある。
【0091】
重合体(a0)を核水素化する際の時間(反応時間)は、重合体(a0)の核水素化が達成されれば特に限定されないが、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。また、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましい。すなわち、反応時間は、30分以上、24時間以下が好ましく、1~12時間がより好ましい。
【0092】
核水素化においては、溶剤を用いてもよい。
溶剤としては特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、1,4ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブテンジオール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、重合体(a0)の溶解性の観点から、THF、シクロヘキサンが好ましい。
溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
核水素化において溶剤を用いる場合、重合体(a0)を含む反応溶液中の重合体(a0)の濃度は特に限定されないが、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。すなわち、重合体(a0)の濃度は5~70質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。
重合体(a0)の濃度が上記範囲内であれば、生産性を維持しながら、重合体(a0)を含む反応溶液の粘度の上昇を抑制し、反応溶液のハンドリング性を維持することができる傾向にある。
【0094】
反応装置:
核水素化で用いられる反応装置としては特に限定されないが、通常は高圧反応が可能なオートクレーブが使用される。また、反応装置としてループリアクターを使用してもよい。さらに、反応装置としては、連続反応器の使用も可能であり、触媒を反応器に充填し、原料液と水素を流通させ、反応を行うことも選択できる。連続反応器を使用する場合は、触媒の分離工程が不要であるので、大量生産を行う場合は連続反応器の方が望ましい。
反応装置の材質としては、通常、SUSが用いられるが、ハステロイ(登録商標)などの耐酸性のSUSを用いてもよい。発生する酸に対する対応として、グラスライニングの容器やテフロンコーティングの容器なども使用できる。
【0095】
触媒の分離:
核水素化の後に、得られた重合体(a)から触媒を分離してもよい。具体的な触媒の分離方法は特に限定されないが、フィルターなどによる濾過、デカンテーション、遠心分離等が挙げられる。重合体(a)の分岐構造により濾過が困難な場合は、デカンテーションや遠心分離による分離が望ましい。
【0096】
なお、重合体(a)としては、上述した方法により製造した合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、三菱ケミカル株式会社製のゼラス(登録商標)シリーズなどが挙げられる。
【0097】
(不飽和カルボン酸及び/又はその無水物)
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物は、重合体(a)を変性するための変性剤である。
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸類等の不飽和カルボン酸、及びこれらの無水物が挙げられる。
不飽和カルボン酸の無水物としては、具体的には、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸類が挙げられる。
なお、ナジック酸類又はその無水物としては、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸(商標))、メチル-エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(メチルナジック酸)等及びその無水物が挙げられる。
これらの中でも、アクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸が好ましい。
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
(重合体(A)の物性)
詳しくは後述するが、樹脂組成物は例えば重合体(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物(M)を加熱処理して得られる混合物(X)を粉砕して得られる。粉砕後の状態において、樹脂組成物中の重合体(A)の体積平均粒子径は11μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。また、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。すなわち、重合体(A)の体積平均粒子径は、1~11μmが好ましく、3~10μmがより好ましく、5~8μmがさらに好ましい。
重合体(A)の体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、トナーの流動性を確保しやすく、フィルミング等の融着や固着を防止しやすい。重合体(A)の体積平均粒子径が上記上限値以下であれば、溶剤に対する重合体(A)の分散性が向上し、特に樹脂組成物のPPフィルムに対する密着性がより向上する。加えて、樹脂組成物をトナー用又は粉体塗料用のバインダとして用いる場合、低温定着性に優れる。
重合体(A)の体積平均粒子径は、動的光散乱方式の粒度分布測定器を用いて重合体(A)の体積基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より算出される値(メジアン径)である。具体的には、重合体(A)が溶解しにくい溶剤(例えばアセトン、テトラヒドロフラン等)に、重合体(A)が反応又は分散している樹脂組成物を1~5質量%程度の濃度となるように室温で溶解させた後、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製、商品名「ELSZ-2000ZS」)を用い、前記システムの粒径測定手順に従って重合体(A)の体積基準の粒子径分布を測定する。
【0099】
重合体(A)の体積平均粒子径は、変性剤としてマレイン酸又は無水マレイン酸を用いて重合体(a)を変性することで、11μm以下になりやすい。また、詳しくは後述するが、樹脂組成物の製造において、重合体(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物を重合体(A)の軟化温度(T4)以上で加熱することでも、重合体(A)の体積平均粒子径は11μm以下になりやすい。
【0100】
重合体(A)の質量平均分子量(以下、「Mw」と略する。)は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましい。また、100,000以下が好ましく、80,000以下がより好ましい。すなわち、重合体(A)のMwは、5,000~100,000が好ましく、10,000~80,000がより好ましい。
重合体(A)のMwが上記下限値以上であれば、耐熱性が低下しにくい。重合体(A)のMwが上記上限値以下であれば、有機溶剤への溶解性が低下しにくい。
重合体(A)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0101】
重合体(A)のMwは、重合体(a)を変性する際に用いる有機過酸化物の量で制御することができる。
重合体(a)の変性操作については後述の通りである。また、重合体(a)の変性操作と同様に、重合体(A)に有機過酸化物をさらに配合し、ブレンドして混練機、押出機に投入し加熱溶融混練しながら押出を行なうことにより、Mwを変化させた重合体(A)のMwを調節することもできる。
【0102】
重合体(a)に含まれる構造単位(1)や構造単位(2)における炭素-水素結合が一旦開裂し、生じた炭素ラジカル構造から、β水素脱離を伴う炭素-炭素結合開裂が生じて低分子量化を引き起こし、高い分子量の重合体(a)又は重合体(A)から、低い分子量の重合体(A)を得ることができる。
この操作は変性後に行なってもよいし、変性と同時に行なってもよい。変性と同時に分子量を低下させる場合は、変性時の有機過酸化物の配合量を増やせばよい。
【0103】
重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、30~100℃が好ましく、50~90℃がより好ましい。重合体(A)のTgが上記下限値以上であれば、トナーのブロッキングやフィルムへ印字した後のフィルム融着を防止することができる。重合体(A)のTgが上記上限値以下であれば、トナーの低温定着性を阻害しにくい。
重合体(A)のTgは、示差走差熱量計を用いた測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0104】
重合体(A)の流動開始温度(Ti)は、50~260℃が好ましく、70~250℃がより好ましい。重合体(A)のTiが上記下限値以上であれば、重合体(A)を1cm以下のペレットで保管しても重合体(A)が融着しにくい。そのため、アンチブロッキング材等を使用せずに重合体(A)を保管でき、ポリエステル樹脂(B)と混合する際に前処理工程を省略できるので、生産性を高めることができる。重合体(A)のTiが上記上限値以下であれば、重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを混合する際に、重合体(A)の分解反応が起こりやすくなると共に、ポリエステル樹脂(B)の分解反応が抑制されやすくなる。
重合体(A)のTiは、フローテスターを用いた測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0105】
重合体(A)の軟化温度(T4)は、50~260℃が好ましく、70~250℃がより好ましい。重合体(A)のT4が上記下限値以上であれば、重合体(A)を1cm以下のペレットで保管しても重合体(A)が融着しにくい。そのため、アンチブロッキング材等を使用せずに重合体(A)を保管でき、ポリエステル樹脂(B)と混合する際に前処理工程を省略できるので、生産性を高めることができる。重合体(A)のT4が上記上限値以下であれば、重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを混合する際に、重合体(A)の分解反応が起こりやすくなると共に、ポリエステル樹脂(B)の分解反応が抑制されやすくなる。
重合体(A)のT4は、フローテスターを用いた測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0106】
(重合体(A)の製造:重合体(a)の変性操作)
重合体(A)は、重合体(a)の変性操作により得られる。重合体(a)の変性操作は、重合体(a)に、変性剤である不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも一方を添加して反応させることによって行なわれる。
重合体(a)を不飽和カルボン酸及び/又はその無水物で変性することにより、重合体(A)を得ることができる。
【0107】
変性の方法としては、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性等が好適に用いられる。これらの中でも設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性がより好ましい。
変性の際に用いられる装置としては、例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。これらの中でも連続生産性に優れた単軸押出機、二軸押出機が好ましい。
【0108】
一般に、重合体(a)への不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性は、重合体(a)に含まれる構造単位(1)や構造単位(2)における炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これに不飽和官能基が付加するというグラフト反応によって行なわれる。
炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物等のラジカル発生剤を用いることもできる。ラジカル発生剤としては、コストや操作性の観点から有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0109】
有機過酸化物としては、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれるものが挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル;シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイドが挙げられる。
【0110】
無機過酸化物としては、例えば過酸化水素、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウムが挙げられる。
アゾ化合物としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジアゾニトロフェノールが挙げられる。
これらのラジカル発生剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
<<溶融混練変性>>
一般的に用いられる溶融混練変性の操作は、重合体(a)、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物、有機過酸化物を配合し、混練機、押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出を行ない、先端ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却して重合体(A)を得るものである。
【0112】
重合体(a)と、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物との配合比率は、重合体(a)100質量部に対し、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物が0.2~5質量部が好ましい。
重合体(a)に対する不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の配合比率が上記下限値以上であれば、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性率が得られる。重合体(a)に対する不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の配合比率が上記上限値以下であれば、未反応の重合体(a)に対するが残留することがなく、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性がより向上する。
【0113】
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物と、有機過酸化物との配合比率は、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物100質量部に対し、有機過酸化物が20~100質量部が好ましい。
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物に対する有機過酸化物の配合比率が上記下限値以上であれば、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性率が得られる。不飽和カルボン酸及び/又はその無水物に対する有機過酸化物の配合比率が上記上限値以下であれば、重合体(a)の劣化が生じず、色相を良好に維持できる。
【0114】
溶融混練変性条件としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機においては150~300℃の温度にて押出すことが好ましい。
【0115】
<<重合体(A)の分子量低下操作>>
重合体(A)の分子量低下を行なう場合、重合体(A)と有機過酸化物との配合比率は、重合体(A)100質量部に対し、有機過酸化物が0.01~2質量部が好ましい。
また溶融混練変性条件としては、例えば単軸押出機、二軸押出機においては150~300℃の温度にて押出すことが好ましい。
【0116】
<<変性率>>
重合体(A)の、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性率は0.1~2質量%が好ましい。
変性率が上記下限値以上であれば、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性がより向上する。変性率が上記上限値以下であれば、臭気の発生や色の悪化が抑制され、有機溶剤への溶解性も良好となる。
重合体(A)の変性率は、重合体(A)をメチルエステル化処理した後、H-NMRにて測定することができる。
【0117】
<ポリエステル樹脂(B)>
ポリエステル樹脂(B)は、PETフィルムに対する密着性を高める成分である。
ポリエステル樹脂(B)は、重合触媒の存在下、多価カルボン酸及び多価アルコールと、必要に応じて他の成分とを含む単量体混合物を重合することで得られるものであり、多価カルボン酸由来の構成単位と、多価アルコール由来の構成単位とを含む。
【0118】
(多価カルボン酸)
多価カルボン酸としては、2価のカルボン酸が好ましい。
2価のカルボン酸としては、例えばシクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、又はそれらの低級アルキルエステル;フタル酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、フランジカルボン酸、又はそれらのモノメチル、モノエチル、ジメチル、ジエチルエステル、又はそれらの酸無水物などが挙げられる。
テレフタル酸の低級アルキルエステルとしては、例えばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチルなどが挙げられる。
イソフタル酸の低級アルキルエステルとしては、例えばイソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジブチルなどが挙げられる。
これらの中でも、2価のカルボン酸としては、価格面、供給量の観点で入手のしやすいことから、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フランジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸が好ましく、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フマル酸がより好ましい。
これらの2価のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0119】
多価カルボン酸としては、2価のカルボン酸と3価以上のカルボン酸とを併用してもよい。
3価以上のカルボン酸としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸又はそれらの酸無水物や低級アルキルエステルなどが挙げられる。
これらの中でも、3価以上のカルボン酸としては、重合速度の調整しやすさの観点で、トリメリット酸、トリメリット酸無水物が好ましい。
これらの3価以上のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0120】
(多価アルコール)
多価アルコールとしては、2価のアルコールが好ましい。
2価のアルコールとしては、例えばエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、シクロペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール水素添加ビスフェノールA、スピログリコール、ジオキサングリコール、ズルシッド、ヘキシッド、イソソルバイド、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物{例えばポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン}が挙げられる。
これらの中でも、樹脂の着色性が低減しやすく、かつ原料の入手しやすさの観点より、エチレングリコール、ネオペンチルグリコ―ル、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。また、帯電特性を向上させたい場合や、保存性を向上させたい場合は、ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。さらに植物由来原料比率を高めたい場合は、イソソルバイド、エチレングリコール、1、2-プロピレングリコール、1、3-プロピレングリコールを使用するのが好ましい。
これらの2価のアルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、ポリオキシエチレン又はポリプロピレンの後に付された括弧内の数値は、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基の平均付加モル数を示す。
【0121】
多価アルコールとしては、2価のアルコールと3価以上のアルコールとを併用してもよい。
3価以上のアルコールとしては、例えばソルビトール、1,2,3,6-ヘキサテトラロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。
これらの中でも、グリセロール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンが好ましく、重合速度の調整しやすさの観点より、グリセロール、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
これらの3価以上のアルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
(他の成分)
他の成分は、末端官能基数の調整や他の材料の分散性向上目的で、本発明の目的を損なわない範囲で用いられる成分である。
他の成分としては、1価のカルボン酸、1価のアルコールなどが挙げられる。
【0123】
1価のカルボン酸としては、例えば安息香酸、p-メチル安息香酸等の炭素数30以下の芳香族カルボン酸;パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸;桂皮酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和二重結合を分子内に1つ以上有する不飽和カルボン酸などが挙げられる。
これらの中でも、入手しやすさの観点より安息香酸やパルミチン酸の使用が好ましい。
これらの1価のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0124】
1価のアルコールとしては、例えばベンジルアルコール等の炭素数30以下の芳香族アルコール;オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の炭素数30以下の脂肪族アルコールなどが挙げられる。
これらの1価のアルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0125】
(重合触媒)
重合触媒としては、反応活性が高く、触媒を用いない場合や他の触媒を用いた場合よりもエステル化反応時間が短く樹脂生産性を向上させ、樹脂オリゴマー量を低減できる点で、チタン触媒が好ましい。着色を著しく低減させたい場合は、ゲルマニウム系触媒を使用してもよい。またスズ触媒やアンチモン触媒も使用可能ではあるが、スズ触媒やアンチモン触媒は環境汚染物資として懸念され、使用が制限される傾向にあるため、使用量を少なくして環境負荷と凝集への影響を低減しようとすると、重合時の反応性が低位となり重合時間延長による生産性の低下を招くことがある。
【0126】
チタン触媒としては、有機チタン化合物、無機チタン化合物などが挙げられる。
有機チタン化合物としては、例えばアルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物、カルボン酸チタン化合物、カルボン酸チタニル化合物、カルボン酸チタニル塩化合物、チタンキレート化合物など挙げられる。
【0127】
アルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物としては、例えばテトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラペントキシチタン、テトラオクトキシチタンなどが挙げられる。
カルボン酸チタン化合物としては、例えば蟻酸チタン、酢酸チタン、プロピオン酸チタン、オクタン酸チタン、シュウ酸チタン、コハク酸チタン、マレイン酸チタン、アジピン酸チタン、セバシン酸チタン、ヘキサントリカルボン酸チタン、イソオクタントリカルボン酸チタン、オクタンテトラカルボン酸チタン、デカンテトラカルボン酸チタン、安息香酸チタン、フタル酸チタン、テレフタル酸チタン、イソフタル酸チタン、1,3-ナフタレンジカルボン酸チタン、4,4-ビフェニルジカルボン酸チタン、2,5-トルエンジカルボン酸チタン、アントラセンジカルボン酸チタン、トリメリット酸チタン、2,4,6-ナフタレントリカルボン酸チタン、ピロメリット酸チタン、2,3,4,6-ナフタレンテトラカルボン酸チタンなどが挙げられる。
カルボン酸チタニル化合物としては、例えば安息香酸チタニル、フタル酸チタニル、テレフタル酸チタニル、イソフタル酸チタニル、1,3-ナフタレンジカルボン酸チタニル、4,4-ビフェニルジカルボン酸チタニル、2,5-トルエンジカルボン酸チタニル、アントラセンジカルボン酸チタニル、トリメリット酸チタニル、2,4,6-ナフタレントリカルボン酸チタニル、ピロメリット酸チタニル、2,3,4,6-ナフクレンテトラカルボン酸チタニルなどが挙げられる。
カルボン酸チタニル塩化合物としては、例えば上記のカルボン酸チタニル化合物に対するアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)塩もしくはアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)塩などが挙げられる。
チタンキレート化合物を用いる場合は、配位子がアセチルアセトン、アセト酢酸エチル、オクチレングリコール、トリエタノールアミン、乳酸、乳酸アンモニウムから選ばれることが好ましい。
これらの中でも、反応性と水分散液の粒径の観点で、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタンが好ましい。
これらの有機チタン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
無機チタン化合物としては、例えばチタン、酸化チタン、窒化チタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、二酸化チタンなどが挙げられる。
これらの無機チタン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
(ポリエステル樹脂(B)の物性)
ポリエステル樹脂(B)の酸価は、0.1~90mgKOH/gが好ましく、0.1~85mgKOH/gがより好ましく、0.1~80mgKOH/gがさらに好ましい。ポリエステル樹脂の酸価が、上記下限値以上であれば重合速度の制御が容易であり、上記上限値以下であれば吸湿を抑制できる。
ポリエステル樹脂(B)の酸価は、ポリエステル樹脂をベンジルアルコールに溶解し、フェノールフタレインを指示薬として、0.02規定のKOHベンジルアルコール溶液を用いて滴定して求めた値である。
【0130】
ポリエステル樹脂(B)の水酸基価は、1~500mgKOH/gが好ましく、20~400mgKOH/gがより好ましい。特に、ポリエステル樹脂(B)の水酸基価が20~400mgKOH/gの範囲内であれば、重合速度の調整が容易で分子量が制御しやすいため、テトラヒドロフラン(THF)等の溶剤不溶解分を少なくすることができる。
【0131】
ポリエステル樹脂(B)の質量平均分子量(Mw)は、500~1,000,000が好ましく、1,000~800,000がより好ましく、5,000~500,000がさらに好ましい。ポリエステル樹脂(B)のMwが、上記下限値以上であればトナーの耐久性がより優れ、上記上限値以下であればトナーの低温定着性が優れる。
ポリエステル樹脂(B)のピークトップ分子量(Mp)は、1,000~300,000が好ましく、1,000~30,000がより好ましく、1,000~20,000がさらに好ましい。
ポリエステル樹脂(B)のMw及びMpは、GPCの測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0132】
ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、30~85℃が好ましく、35~70℃がより好ましい。ポリエステル樹脂(B)のTgが、上記下限値以上であればトナーの保存安定性が向上し、上記上限値以下であればトナーの低温定着性が向上する。
ポリエステル樹脂(B)のTgは、示差走差熱量計を用いた測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0133】
ポリエステル樹脂(B)の流動開始温度(Ti)は、40~130℃が好ましく、60~120℃がより好ましい。ポリエステル樹脂(B)のTiが上記範囲内であれば、基材に対する密着性がより向上する。
ポリエステル樹脂(B)のTiは、フローテスターを用いた測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0134】
ポリエステル樹脂(B)の軟化温度(T4)は、50~150℃が好ましく、80~135℃がより好ましい。ポリエステル樹脂(B)のT4が上記範囲内であれば、トナー低温定着性に優れ、かつ基材に対する密着性がより向上する。
ポリエステル樹脂(B)のT4は、フローテスターを用いた測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0135】
(ポリエステル樹脂(B)の製造)
ポリエステル樹脂(B)は、例えば、上述した重合触媒の存在下、多価カルボン酸及び多価アルコールと、必要に応じて他の成分とを含む単量体混合物を公知のポリエステル重合方法により重合することで得られる。例えば、単量体混合物を反応容器に投入し、エステル化反応又はエステル交換反応にて水等を留去した後、重縮合反応にて重合度を高める方法により、ポリエステル樹脂(B)を得ることができる。この際、反応容器内を徐々に減圧し、好ましくは20kPa以下、より好ましくは2kPa以下の真空下で重縮合反応を行うことが好ましい。
【0136】
単量体混合物中の多価アルコールの含有量は、多価カルボン酸100モル%に対して50~200モル%が好ましく、50~180モル%がより好ましく、50~170モル%がさらに好ましく、50~150モル%が特に好ましい。多価アルコールの含有量が上記下限値以上であれば、酸成分の残存モノマーが残りにくく、貯蔵安定性が向上する。多価アルコールの含有量が上記上限値以下であれば、共重合されない多価アルコールが残りにくく、樹脂組成物をトナーや粉体塗料として用いた際に、有機揮発成分量が増加しにくい。
【0137】
重合温度は、180~280℃が好ましく、200~270℃がより好ましい。重合温度が、上記下限値以上であれば生産性が良好となる傾向にあり、上記上限値以下であればポリエステル樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制できる傾向にある。
【0138】
重合終点は、例えばポリエステル樹脂(B)の軟化温度により決定される。例えば、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで重縮合反応を行った後、重合を終了させればよい。ここで、「重合を終了させる」とは、反応容器の攪拌を停止し、反応容器の内部を常圧とし、窒素により装置内部を加圧して装置下部より反応生成物を取り出して100℃以下に冷却することをいう。
必要に応じて、冷却した後に得られたポリエステル樹脂(B)を所望の大きさに粉砕してもよい。
【0139】
なお、ポリエステル樹脂(B)の重合安定性を得る目的で、単量体混合物に安定剤を添加して重合してもよい。
安定剤としては、例えばハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ヒンダードフェノール化合物などが挙げられる。
【0140】
<含有量>
樹脂組成物中の重合体(A)の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。また、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。すなわち、樹脂組成物中の重合体(A)の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して0.5~40質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、2~20質量%がさらに好ましい。
重合体(A)の含有量が上記下限値以上であれば、PPフィルムに対する密着性、及び印字フィルムの保存安定性がより向上する。重合体(A)の含有量が上記上限値以下であれば、重合体(A)がポリエステル樹脂(B)に分散しやすくなり、PETフィルムやPPフィルムに対する密着性を樹脂組成物に付与しやすくなる。
【0141】
樹脂組成物中のポリエステル樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、99.5質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下がさらに好ましい。すなわち、樹脂組成物中のポリエステル樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して60~99.5質量%が好ましく、70~99質量%がより好ましく、80~98質量%がさらに好ましい。
ポリエステル樹脂(B)の含有量が上記下限値以上であれば、PETフィルムに対する密着性がより向上する。ポリエステル樹脂(B)の含有量が上記上限値以下であれば、PETフィルムとPPフィルムへの密着性を両立しやすくなる。
【0142】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物の製造方法の一例について説明する。
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、重合体(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物(M)を重合体(A)の流動開始温度以上で加熱する工程(加熱工程)を含む。
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、加熱工程の前に以下に示す混合工程を含んでいてもいし、加熱工程の後に以下に示す冷却・粉砕工程を含んでいてもよい。
【0143】
(混合工程)
混合工程は、重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを混合して混合物(M)を得る工程である。
ポリエステル樹脂(B)としては、市販品を用いてもよいし、混合工程とは別の場所で製造したものを用いてもよい。生産性を高める観点では、ポリエステル樹脂(B)を製造した後に、得られたポリエステル樹脂(B)と重合体(A)とを混合することが好ましい。
【0144】
上述したように、ポリエステル樹脂(B)は、例えばエステル化反応又はエステル交換反応、及び重縮合反応を経て得られる。重縮合反応を行った後、反応生成物を100℃以下に冷却する前に重合体(A)を添加してもよいし、反応生成物を100℃以下に冷却して重合を終了させた後、得られたポリエステル樹脂(B)と重合体(A)とを混合してもよい。
重縮合反応を行った後、反応生成物を100℃以下に冷却する前に重合体(A)を添加する場合は、反応容器の内部を常圧とした後に、重合体(A)を添加することが好ましい。
なお、ポリエステル樹脂(B)の原料となる単量体混合物に重合体(A)を添加しておき、これを重合すれば、ポリエステル樹脂(B)と重合体(A)の混合物が得られるが、この場合は重合体(A)がゲル化しやすくなる傾向にある。重合体(A)がゲル化すると、重合体(A)の体積平均粒子径が所望の値になりにくい。
【0145】
(加熱工程)
加熱工程は、重合体(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物(M)を重合体(A)の流動開始温度(Ti)以上で加熱する工程である。
混合物(M)を重合体(A)のTi以上で加熱することで、重合体(A)の一部と、ポリエステル樹脂(B)の一部とが反応する。具体的には、重合体(A)の変性部分とポリエステル樹脂(B)の水酸基部分とが部分的に反応する。加熱工程では、重合体(A)の一部とポリエステル樹脂(B)の一部とが反応した反応生成物と、未反応の重合体(A)及びポリエステル樹脂(B)との混合物(以下、この混合物を「混合物(X)」ともいう。)が得られる。
【0146】
混合物(M)の加熱は、重合体(A)の軟化温度(T4)以上で行われることが好ましい。混合物(M)の加熱を重合体(A)のT4以上で行うことで、重合体(A)が溶融し、未反応の重合体(A)が未反応のポリエステル樹脂(B)中に均一に分散した混合物(X)が得られる。この混合物(X)を後述の冷却・粉砕工程で粉砕することで、樹脂組成物中の重合体(A)の体積平均粒子径が11μm以下に容易になりやすくなる。
【0147】
混合物(M)の加熱時間は、30分~5時間が好ましく、1~2時間がより好ましい。
混合物(M)を加熱している間は、混合物(M)を撹拌することが好ましい。
【0148】
上述したように、重縮合反応を行った後、反応生成物を100℃以下に冷却する前に重合体(A)を添加する場合、反応生成物の温度、すなわち重縮合反応の反応温度が重合体(A)のTi又はT4以上であれば、加熱工程の間、その反応生成物の温度を維持すればよい。反応生成物の温度が重合体(A)のTi未満の場合は、反応容器内の温度を重合体(A)のTi以上、好ましくは重合体(A)のT4以上に昇温すればよい。
【0149】
(冷却・粉砕工程)
冷却・粉砕工程は、加熱後の混合物(M)、すなわち混合物(X)を冷却し、粉砕する工程である。
冷却温度は、重合体(A)のガラス転移温度(Tg)以下が好ましく、具体的には40℃以下がより好ましい。
混合物(X)の粉砕方法としては特に限定されず、例えば特定の大きさのメッシュを吐出口に備えた粉砕器を用いる方法が挙げられる。
冷却・粉砕工程では、得られる樹脂組成物の体積平均粒子径が0.1~5mmとなるように混合物(X)を粉砕するのが好ましい。トナーや粉体塗料を製造する際に添加される着色剤等の部材の分散性を高める観点から、樹脂組成物の体積平均粒子径は、0.1~3mmがより好ましい。
樹脂組成物の体積平均粒子径は、動的光散乱方式の粒度分布測定器を用いて樹脂組成物の体積基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より算出される値(メジアン径)である。その具体的な測定方法は、重合体(A)の体積平均粒子径と同様である。
【0150】
<作用効果>
以上説明した本発明の樹脂組成物は、上述した重合体(A)とポリエステル樹脂(B)とを含むので、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性に優れる。また、本発明の樹脂組成物を用いてフィルム基材に印字した印字フィルムは、保存安定性に優れる。
【0151】
<用途>
本発明の樹脂組成物は、トナー用のバインダ樹脂、粉体塗料のバインダ樹脂、インキ用のバインダ樹脂などとして好適である。
【0152】
[トナー]
本発明のトナーは、上述した本発明の樹脂組成物を含む。
樹脂組成物の含有量は、トナーの総質量に対して40~95質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましい。
【0153】
本発明のトナーは、本発明の樹脂組成物以外に、着色剤と、必要に応じて任意成分とを含む。
着色剤としては、トナーに用いられる公知の顔料等の着色剤が挙げられる。
任意成分としては、トナーに用いられる公知の各種添加剤が挙げられ、具体的には、荷電制御剤、離型剤、流動改質剤などが挙げられる。
また、トナーは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、本発明の樹脂組成物以外の樹脂(例えばエポキシ樹脂等)などを含んでいてもよい。
【0154】
本発明のトナーを製造する方法としては特に制限されないが、本発明の樹脂組成物と、着色剤と、必要に応じて任意成分とを混合した後、2軸押出機などで溶融混練し、粗粉砕、微粉砕、分級を行い、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造する方法(粉砕法);本発明の樹脂組成物と、着色剤と、必要に応じて任意成分とを溶剤に溶解・分散させ、水系媒体中にて造粒した後に溶剤を除去し、洗浄、乾燥してトナー粒子を得て、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造する方法(ケミカル法)などが挙げられる。
【0155】
本発明のトナーは、磁性1成分現像剤、非磁性1成分現像剤、2成分現像剤の何れの現像剤としても使用できる。
本発明のトナーを磁性1成分現像剤として用いる場合、トナーは磁性体を含有する。磁性体としては、トナーに用いられる公知の磁性体が挙げられる。
本発明のトナーを2成分現像剤として用いる場合、本発明のトナーはキャリアと併用して用いられる。キャリアとしては、トナーに用いられる公知のキャリアが挙げられる。
【0156】
本発明のトナーは、上述した本発明の樹脂組成物を含むので、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性に優れる。また、本発明のトナーを用いてフィルム基材に印字した印字フィルムは、保存安定性に優れる。
【0157】
[粉体塗料]
本発明の粉体塗料は、上述した本発明の樹脂組成物を含む。
樹脂組成物の含有量は、粉体塗料の総質量に対して30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
【0158】
本発明の粉体塗料は、本発明の樹脂組成物以外に、着色剤と、必要に応じて任意成分とを含む。
着色剤としては、粉体塗料に用いられる公知の顔料等の着色剤が挙げられる。
任意成分としては、粉体塗料に用いられる公知の各種添加剤が挙げられ、具体的には、硬化剤として水酸基と反応するポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物や、カルボキシ基と反応する低分子量のエポキシ化合物、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物などが挙げられる。
また、粉体塗料は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、本発明の樹脂組成物以外の樹脂(例えば質量平均分子量が2000以上のエポキシ樹脂等)などを含んでいてもよい。
【0159】
本発明の粉体塗料を製造する方法としては特に制限されないが、本発明の樹脂組成物と、着色剤と、必要に応じて任意成分とを混合した後、ロールミル、単軸押出機又は2軸押出機等などで溶融混練し、粗粉砕、微粉砕、分級を行い、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造する方法などが挙げられる。
【0160】
本発明の粉体塗料は、上述した本発明の樹脂組成物を含むので、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性に優れる。また、本発明の粉体塗料を用いてフィルム基材に印字した印字フィルムは、保存安定性に優れる。
【0161】
[インキ]
本発明のインキは、上述した本発明の樹脂組成物を含む。
樹脂組成物の含有量は、インキの総質量に対して10~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0162】
本発明のインキは、本発明の樹脂組成物以外に、着色剤及び溶剤と、必要に応じて任意成分とを含む。
着色剤としては、インキに用いられる公知の顔料等の着色剤が挙げられる。
溶剤としては、インキに用いられる公知の溶剤が挙げられる。
任意成分としては、インキに用いられる公知の各種添加剤が挙げられ、具体的には、沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、滑剤などが挙げられる。
また、インキは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、本発明の樹脂組成物以外の樹脂(例えばエポキシ樹脂等)などを含んでいてもよい。
【0163】
本発明のインキを製造する方法としては特に制限されないが、溶剤に、本発明の樹脂組成物と、着色剤と、必要に応じて任意成分を添加し、溶解させる方法などが挙げられる。
【0164】
本発明のインキは、上述した本発明の樹脂組成物を含むので、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性に優れる。また、本発明のインキを用いてフィルム基材に印字した印字フィルムは、保存安定性に優れる。
【実施例
【0165】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0166】
[測定・評価方法]
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
示差走差熱量計(株式会社島津製作所製、商品名「DSC-60」)を用いて、昇温速度5℃/minにおける チャートのベースラインと吸熱カーブの接線との交点から測定した。測定試料は、280℃で1分融解後、ドライアイスを用いて急冷却処理したサンプルを用いた。
【0167】
<流動開始温度(Ti)の測定>
フローテスター(株式会社島津製作所製、商品名「CFT-500D」)を用いて、1mmφ×10 mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/minの等速昇温下で、測定試料1.0g投入して測定した際に、測定試料がノズルより流動開始する温度を測定し、これを流動開始温度(Ti)とした。
【0168】
<軟化温度(T4)の測定>
フローテスター(株式会社島津製作所製、商品名「CFT-500D」)を用いて、1mmφ×10 mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/minの等速昇温下で、測定試料1.0g中の4mmが流出したときの温度を測定し、これを軟化温度(T4)とした。
【0169】
<ポリエステル樹脂(B)の酸価(AV)の測定>
ポリエステル樹脂(B)約0.2gを枝付き三角フラスコ内に精秤し(D(g))、ベンジルアルコール10mLを加え、窒素雰囲気下として230℃のヒーターにて15分加熱しポリエステル樹脂(B)を溶解した。室温まで放冷後、ベンジルアルコール10mL、クロロホルム20mL、フェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=E(mL)、KOH溶液の力価=p)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=F(mL))、以下の式に従ってポリエステル樹脂(B)の酸価を算出した。
酸価(mgKOH/g)={(E-F)×0.02×56.11×p}/D
【0170】
<ポリエステル樹脂(B)の水酸基価(OHV)の測定>
ポリエステル樹脂(B)約5.0gを三角フラスコ内に精秤し(G(g))、THF50mL加え、完全に溶解させた。ジメチルアミノピリジン/THF溶液30mLを加え、無水酢酸/THF溶液10mLを加えた後、15分撹拌した。さらに蒸留水3mLを加え、15分撹拌した後、THF50mL及び0.5規定のKOH溶液25mLを加えた。指示薬としてフェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.5規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=H(mL)、KOH溶液の力価=f)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=I(mL))、以下の式に従ってポリエステル樹脂(B)の水酸基価(を算出した。
水酸基価(mgKOH/g)=(I-H)×56.11×f÷G+酸価
【0171】
<ポリエステル樹脂(B)の質量平均分子量(Mw)の測定>
GPC法により、得られた溶出曲線のピーク値に相当する保持時間からポリエステル樹脂(B)の質量平均分子量(Mw)を標準ポリスチレン換算により求めた。なお、溶出曲線のピーク値とは、溶出曲線が極大値を示す点であり、極大値が2点以上ある場合は、溶出曲線が最大値を与える点のことである。測定条件を以下に示す。
・装置:東ソー株式会社製、商品名「HLC8020」
・カラム:東ソー株式会社製、商品名「TSKgelGMHXL」(カラムサイズ:7.8mm(ID)×30.0cm(L))を3本直列に連結
・オーブン温度:40℃
・溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
・試料濃度:4mg:樹脂/10mL:THF(テトラヒドロフラン)
・濾過条件:0.45μmテフロン(登録商標)メンブレンフィルターで試料溶液を濾過
・流速:1mL/分
・注入量:0.1mL
・検出器:RI
・検量線作成用標準ポリスチレン試料:東ソー株式会社製のTSK standard、A-500(分子量5.0×102)、A-2500(分子量2.74×103)、F-2(分子量1.96×104)、F-20(分子量1.9×105)、F-40(分子量3.55×105)、F-80(分子量7.06×105)、F-128(分子量1.09×106)、F-288(分子量2.89×106)、F-700(分子量6.77×106)、F-2000(分子量2.0×107)。
【0172】
<芳香族ビニルポリマーブロック単位、共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルの測定>
以下の測定条件にてH-NMRを測定し、6.8~7.5ppmの積分値低減率から芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル(モル%)を求め、5.7~6.4ppmの積分値低減率から共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル(モル%)を求めた。なお、「芳香族ビニルポリマーブロック単位」とは、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロック単位のことである。「共役ジエンポリマーブロック単位」とは、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロック単位のことである。
・装置:Bruker社製、商品名「AVANCE400分光計」
・溶媒:テトラクロロエタン-d
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:64
・測定温度:80℃
【0173】
<重合体(A)の変性率の測定>
以下の測定条件にてH-NMRを測定し、3.42~3.94ppmの積分値低減率から重合体(A)の変性率を求めた。
・装置:Bruker社製、商品名「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-d
・濃度:20mg/0.62mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:64
・測定温度:120℃
【0174】
<重合体(a)及び重合体(A)の質量平均分子量(Mw)の測定>
GPC法により以下の測定条件にて測定を行い、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似することで重合体(a)及び重合体(A)の質量平均分子量(Mw)をそれぞれ求めた。
・装置:東ソー株式会社製、商品名「GPC HLC-832GPC/HT」
・検出器:MIRAN社製、商品名「1A赤外分光光度計」(測定波長、3.42μm)
・カラム:昭和電工株式会社製、商品名「AD806M/S」を3本使用した。カラムの較正は東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/ml溶液)を用いた。
・測定温度:135℃
・濃度:20mg/10mL
・注入量:0.2mL
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・流速:1.0mL/分
【0175】
<ポリエステル樹脂(B)の構成単位の組成分析>
以下の測定条件にてH-NMR及び13C-NMRを測定し、各構成単位由来の帰属ピークの積分比から、多価カルボン酸及び多価アルコールの割合を求めた。
・装置:日本電子株式会社製、商品名「Excalibur 270 超伝導FT-NMR」
・マグネット:JNM-GSX270型 超伝導マグネット
・スペクトロメーター:JNM-EX270型
・観測周波数:H-NMR(270MHz)、13C-NMR(67MHz)
・溶媒:クロロホルム-d
・温度:35℃
・積算回数:H-NMR(16回)、13C-NMR(1024回)
【0176】
<粉体特性の評価>
トナーの粒子径及び粒度分布を、レーザ回折型粒径測定機(株式会社堀場製作所製、商品名「LA-960」)を用いて測定した。具体的には、レーザ回折型粒径測定機の操作マニュアルに従い、測定用フローセルを用いて、セル内に蒸留水を加え、相対屈折率を1.20に選択設定し、粒径基準を体積基準にし、光軸の調整、光軸の微調整、ブランク測定を実施した。次いで、透過率70~90%の範囲になる濃度までトナーの水分散液を添加し、超音波処理を強度5で1分間実施し、トナーの粒度分布測定を実施し、以下の評価基準にて粉体特性を評価した。なお体積中位粒径は、体積分布基準の累積50%に相当する粒子径(メジアン径)である。
A(良好):体積中位粒径が13μm未満で、粒度分布のピークが0.02~2000μmの範囲で1つしか確認されない。
B(劣る):体積中位粒径が13μm以上、又は、粒度分布のピークが0.02~2000μmの範囲で2つ以上確認される。
【0177】
<保存性の評価>
トナーを3g±0.5gを規格瓶(型番No.2、容量24mL)に計量し、キムワイプを1枚かぶせ輪ゴムで規格瓶開口部を塞いだ。温度35℃×湿度85%に調整された恒温恒湿度機(佐竹化学機械工業株式会社製)内で72時間保管した。恒温恒湿度機での保管後のトナーの粒子径及び粒度分布を、レーザ回折型粒径測定機(株式会社製堀場製作所製、商品名「LA-960」)を用いて測定した。具体的には、レーザ回折型粒径測定機の操作マニュアルに従い、測定用フローセルを用いて、セル内に蒸留水を加え、相対屈折率を1.20に選択設定し、粒径基準を体積基準にし、光軸の調整、光軸の微調整、ブランク測定を実施した。次いで、透過率70~90%の範囲になる濃度までトナーの水分散液を添加し、超音波処理を強度5で1分間実施し、トナーの粒度分布測定を実施し、以下の評価基準にて保存性を評価した。
A(良好): 体積中位粒径が13μm未満で、粒度分布のピークが0.02~2000μmの範囲で1つしか確認されない。
B(使用可能):体積中位粒径が13μm以上~20μm以下、又は、粒度分布のピークが0.02~2000μmの範囲で1つしか確認されない。
C(劣る):体積中位粒径が20μm以上、又は、粒度分布のピークが0.02~2000μmの範囲で2つ以上確認される。
【0178】
<PPフィルムに対する密着性の評価>
樹脂組成物/テトラヒドロフラン(THF)=30/70(質量%)の溶液10gに、ピグメントブルー15:3を0.1g添加して顔料分散溶液を調製した。次いで、バーコーターを用い、PPフィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「パイレン(登録商標)フィルムOT」、品番:P2108、膜厚40μm)上に顔料分散溶液を塗布し、約10cm×10cmの塗布面を形成した。乾燥後の樹脂膜厚は20±5μmに調整した。この塗布面にセロテープ(登録商標)(型番:CT405-AP)を貼り付け、さらにその上にテフロン(登録商標)シートを配置した。テフロン(登録商標)シートの上に2kgの分銅を載せ、10回往復させて塗布面にセロテープ(登録商標)を密着させた。その後、セロテープ(登録商標)を引っ張って、PPフィルム上の樹脂組成物の残存状態を確認した。上記評価を3回繰り返して平均を求め、以下の評価基準にてPPフィルムに対する密着性を評価した。
A(良好):セロテープ(登録商標)を密着させた面積を100%としたときに、80%以上のPPフィルム上に樹脂組成物が残存している。
B(使用可能):セロテープ(登録商標)を密着させた面積を100%としたときに、60%以上80%未満のPPフィルム上に樹脂組成物が残存している。
C(劣る):セロテープ(登録商標)を密着させた面積を100%としたときに、60%未満のPPフィルム上にしか樹脂組成物が残存していない。
【0179】
<PETフィルムに対する密着性の評価>
PPフィルムの代わりにPETフィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「コスモシャインA4100」、膜厚125μm)を用いた以外は、PPフィルムに対する密着性の評価と同様の方法で密着試験を行い、以下の評価基準にてPETフィルムに対する密着性を評価した。
A(良好):セロテープ(登録商標)を密着させた面積を100%としたときに、70%以上のPETフィルム上に樹脂組成物が残存している。
B(使用可能):セロテープ(登録商標)を密着させた面積を100%としたときに、40%以上70%未満のPETフィルム上に樹脂組成物が残存している。
C(劣る):セロテープ(登録商標)を密着させた面積を100%としたときに、40%未満のPETフィルム上にしか樹脂組成物が残存していない。
【0180】
<印字フィルムの保存安定性の評価>
樹脂組成物/テトラヒドロフラン(THF)=30/70(質量%)の溶液10gに、ピグメントブルー15:3を0.1g添加して顔料分散溶液を調製した。次いで、バーコーターを用い、PETフィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「コスモシャインE5100」、膜厚25μm)上に顔料分散溶液を塗布し、約10cm×10cmの塗布面を形成した。乾燥後の樹脂膜厚は20±5μmに調整した。これを印字フィルムとする。
この印字フィルムの塗布面(印字面)を上にして、未印字のPETフィルムの非コロナ処理面を印字フィルムの印字面と接触するように1枚重ね、印字フィルムの下部に鉄板を敷き、未印字のPETフィルムの上部にバットと、所定の重さの重りを載せて、60℃に調整した恒温装置(型番:AVO-310NB)に30分静置した。静置後の印字フィルムから未印字のPETフィルムを剥がして印字フィルムの状態を確認し、以下の評価基準にて印字フィルムの保存安定性を評価した。
A(良好):5kg以上の重りを用いて試験を行ったときに、印字フィルムの樹脂組成物が、剥がした未印字のPETフィルムに残存していない。
B(使用可能):5kgの重りを用いて試験を行ったときに、印字フィルムの樹脂組成物が、剥がした未印字のPETフィルムに残存するが、2kg以上5kg未満の重りを用いて試験を行ったときに、印字フィルムの樹脂組成物が、剥がした未印字のPETフィルムに残存していない。
C(劣る):2kgの重りを用いて試験を行ったときに、印字フィルムの樹脂組成物が、剥がした未印字のPETフィルムに残存する。
【0181】
[重合体(A)の製造]
<重合体(A1)の製造>
重合体(a)として、三菱ケミカル株式会社製の商品名「ゼラス(登録商標)MC930」を用いた。これを「重合体(a1)」とする。
重合体(a1)は、式(1-1)のR11~R18が水素原子である構造単位を含み、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性がされていない環状ポリオレフィンである。重合体(a1)の物性を表1に示す。
【0182】
重合体(a1)と、無水マレイン酸と、有機過酸化物として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油株式会社製、商品名「パーヘキサ25B」)とを、重合体(a1)100質量部に対して無水マレイン酸が1.3質量部、有機過酸化物が0.0065質量部となる配合比率にてよく攪拌した。その後、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、商品名「TEX25αIII」)を使用し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数400rpm、吐出量10kg/hで溶融混練し、押出された溶融ストランドを水冷、カッティングすることにより、変性環状ポリオレフィンである重合体(A1)を得た。得られた重合体(A1)の物性を表1に示す。
【0183】
<重合体(A2)の製造>
重合体(A1)100質量部と、有機過酸化物として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油株式会社製、商品名「パーヘキサ25B」)とを、重合体(a)100質量部に対して有機過酸化物が1質量部となる配合比率にてよく攪拌した。その後、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、商品名「TEX25αIII」)を使用し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数400rpm、吐出量10kg/hで溶融混練し、押出された溶融ストランドを水冷、カッティングすることにより、変性環状ポリオレフィンである重合体(A2)を得た。得られた重合体(A2)の物性を表1に示す。
【0184】
<重合体(A3)の製造>
重合体(a1)100質量部に対して無水マレイン酸が1質量部、有機過酸化物が2質量部となる配合比率に変更した以外は、重合体(A1)と同様にして変性環状ポリオレフィンである重合体(A3)を得た。得られた重合体(A3)の物性を表1に示す。
【0185】
【表1】
【0186】
[実施例1]
<ポリエステル樹脂(B)の製造>
表2に示す仕込み組成の多価カルボン酸、及び全多価カルボン酸成分を100モル%としたときの多価アルコールと、全多価カルボン酸の重量対して1000ppmのテトラブトキシチタンとを、蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。
次いで昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。次いで、反応系内の温度を245℃とし、反応容器内を減圧し、反応系からポリアルコールを留出させながら重縮合反応を行った。
重縮合反応中に装置内部を窒素で常圧とした後、約3g樹脂を反応容器からサンプリングして、樹脂を室温まで冷却後、軟化温度を測定して、ポリエステル樹脂(B)の軟化温度が表2に示す値になるまでサンプリングを繰り返して重合を進めた。所望の軟化温度になったことを確認後、反応装置の攪拌を停止し、装置内部を常圧とし、窒素により装置内部を加圧して装置下部より反応物を取り出して100℃以下に冷却し、ポリエステル樹脂(B)を得た。得られたポリエステル樹脂(B)を、3mmメッシュを吐出口に備えた粉砕器を用いて粗粉砕した。
得られたポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度、流動開始温度、軟化温度、酸価、水酸基価、質量平均分子量を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0187】
<樹脂組成物の製造>
得られたポリエステル樹脂(B)450gと、重合体(A3)50gとを反応容器に投入した。次いで昇温を開始し、反応系内の温度が245℃になるように加熱し、この温度を保持し、200rpmで60分間攪拌した。60分攪拌後、反応装置の攪拌を停止し、窒素により装置内部を加圧して装置下部より混合物(X)を取り出して100℃以下に冷却した。その後、混合物(X)を3mmメッシュを吐出口に備えた粉砕器を用いて粗粉砕し、ポリエステル樹脂(B)と化合物(A3)とを含む樹脂組成物を得た。なお、樹脂組成物の体積平均粒子径は3mm以下であった。
得られた樹脂組成物の軟化温度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0188】
得られた樹脂組成物93質量部、キナクリドン顔料(クラリアント社製、商品名「E02」)3質量部、カルナバワックス(東洋ペトロライド株式会社製)3質量部、及び負帯電性の荷電制御剤(日本カーリット株式会社製、商品名「LR-147」)1質量部を予備混合し、2軸押出機を用 いて120℃で溶融混練して、粗粉砕後、ジェットミル微粉砕機で微粉砕し、分級機でトナーの粒径を整え、平均粒径8.5μmの粉末状のトナーを得た。
得られたトナーを用いて、粉体特性と保存性を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0189】
別途、樹脂組成物を用いてPPフィルム及びPETフィルムに対する密着性と、印字フィルムの保存安定性を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0190】
[実施例2]
ポリエステル樹脂(B)の投入量を400gに変更し、重合体(A3)の投入量を100gに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0191】
[実施例3]
重合体(A3)の代わりに重合体(A2)を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0192】
[実施例4]
表2に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B)を製造し、得られたポリエステル樹脂(B)を用いて実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0193】
[実施例5]
表3に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(B)490gと、重合体(A1)10gとを反応容器に投入した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0194】
[実施例6]
表3に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(B)450gと、重合体(A1)50gとを反応容器に投入した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0195】
[実施例7]
表3に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B)を製造し、得られたポリエステル樹脂(B)を用いて実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0196】
[実施例8]
表3に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(B)400gと、重合体(A1)100gとを反応容器に投入した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0197】
[実施例9]
表3に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B)を製造し、得られたポリエステル樹脂(B)を用いて実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0198】
[比較例1]
表4に示す仕込み組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(B)490gと、重合体(a1)10gとを反応容器に投入した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表4に示す。
【0199】
[比較例2]
重合体(A1)93質量部、キナクリドン顔料(クラリアント社製、商品名「E02」)3質量部、カルナバワックス(東洋ペトロライド株式会社製)3質量部、及び負帯電性の荷電制御剤(日本カーリット株式会社製、商品名「LR-147」)1質量部を予備混合し、2軸押出機を用 いて120℃で溶融混練して、粗粉砕後、ジェットミル微粉砕機に投入したが微粉砕物を得ることができなかった。そのため、粉体特性と保存性は評価できなかった。
また、重合体(A1)を用いてPPフィルム及びPETフィルムに対する密着性と、印字フィルムの保存安定性を評価しようとしたが、重合体(A1)がTHFに溶解せず、顔料分散溶液を調製できなかったため、評価できなかった。
【0200】
[比較例3]
重合体(A3)93質量部、キナクリドン顔料(クラリアント社製、商品名「E02」)3質量部、カルナバワックス(東洋ペトロライド株式会社製)3質量部、及び負帯電性の荷電制御剤(日本カーリット株式会社製、商品名「LR-147」)1質量部を予備混合し、2軸押出機を用 いて120℃で溶融混練して、粗粉砕後、ジェットミル微粉砕機に投入したが微粉砕物を得ることができなかった。そのため、粉体特性と保存性は評価できなかった。
また、重合体(A3)を用いてPPフィルム及びPETフィルムに対する密着性と、印字フィルムの保存安定性を評価しようとしたが、重合体(A3)がTHFに溶解せず、顔料分散溶液を調製できなかったため、評価できなかった。
【0201】
[比較例4]
重合体(A3)の代わりに、ポリプロピレンの片末端がマレイン酸で変性されたマレイン酸変性ポリプロピレン化合物(BAKER HUGES社製、商品名「X-10065」)を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表4に示す。なお、得らえた樹脂組成物の水酸基価は、38mgKOH/gであった。
【0202】
[比較例5]
ポリエステル樹脂(B)の投入量を490gに変更し、重合体(A3)50gの代わりに、ポリプロピレンの片末端がマレイン酸で変性されたマレイン酸変性ポリプロピレン化合物(BAKER HUGES社製、商品名「X-10065」)10gを用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、各種測定及び評価を行った。これらの結果を表4に示す。なお、得らえた樹脂組成物の水酸基価は、43mgKOH/gであった。
【0203】
【表2】
【0204】
【表3】
【0205】
【表4】
【0206】
表2~4の略号は以下の通りである。また、表中の空欄は、その成分が配合されていないこと(配合量0質量%)を意味する。
・ビスA(PO)2.2モル付加体:ポリオキシプロピレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン
・ビスA(EO)2.2モル付加体:ポリオキシエチレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン
【0207】
表2、3から明らかなように、各実施例で得られた樹脂組成物は、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性と、印字フィルムの保存安定性に優れていた。
一方、表4から明らかなように、重合体(A)の代わりに重合体(a)を含む比較例1の樹脂組成物は、PETフィルムに対する密着性には優れていたが、PPフィルムに対する密着性に劣っていた。また、印字フィルムの保存安定性にも劣っていた。
ポリエステル樹脂(B)を併用しない場合(比較例2、3)、重合体(A)のみでは微粉砕物が得られず、トナーを製造することができなかった。また、重合体(A)はTHFに溶解しなかったため、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性と、印字フィルムの保存安定性を評価できなかった。
重合体(A)の代わりにマレイン酸変性ポリプロピレン化合物を含む比較例4、5の樹脂組成物は、印字フィルムの保存安定性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明の樹脂組成物は、PETフィルム及びPPフィルムに対する密着性に優れ、保存安定性に優れる印字フィルムが得られることから、トナー用、粉体塗料用、又はインク用のバインダとして有用である。