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  • 特許-静電チャック装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240514BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020101118
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021197407
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-103550(JP,A)
【文献】特開2020-23088(JP,A)
【文献】特開2007-194320(JP,A)
【文献】特開2019-176064(JP,A)
【文献】特開2017-203094(JP,A)
【文献】特開2008-42197(JP,A)
【文献】特開2017-59771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスからなる静電チャック部材と、
樹脂及び表面被覆フィラーを含む樹脂組成物からなり、前記表面被覆フィラーの、MP法にて測定した直径2nmにおける細孔容量が、0.0001cm /g以上0.0005cm/g以下である接合層と、
金属及びセラミックスからなる群より選択される少なくとも1つからなる温度調整用ベース部材と
を、この順に備え
前記表面被覆フィラーが、フィラーと、前記フィラーの表面を被覆し、シランカップリング剤を原料とする被覆層とからなる静電チャック装置。
【請求項2】
前記フィラーが、AlN、Si、Al、及びSiCからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、シリコーン系樹脂を含む請求項1又は2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記表面被覆フィラーの平均粒子径が、2μmより大きく20μm以下である請求項1~のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいては、ウエハの加工に当たり、試料台に簡単にウエハを取付け、固定するとともに、このウエハを所望の温度に維持する装置として静電チャック装置が使用されている。静電チャック装置は、通常、温度調整用ベース部等を構成するいくつかの部材が、シリコーン系接着剤を含む接合層を介して接合され、一体化している。
半導体素子の高集積化や高性能化に伴い、ウエハの加工の微細化が進んでおり、生産効率が高く、大面積の微細加工が可能なプラズマエッチング技術がよく用いられている。静電チャック装置に固定されたウエハにプラズマを照射すると、プラズマの熱によりウエハの表面温度が上昇する。
そこで、この表面温度の上昇を抑えるために、静電チャック装置の温度調整用ベース部に水等の冷却媒体を循環させてウエハを下側から冷却している。ウエハの温度上昇をより抑制するには、ウエハと温度調整用ベース部との間の熱交換効率を高める必要があり、接合層についても熱伝導性を向上させる必要がある。
【0003】
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、シリコーン系樹脂組成物と、表面に酸化珪素(SiO)からなる被覆層を備える表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子とを含有する接合層を用いて静電チャック装置を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-194320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体製造用プラズマエッチング装置では、DRAM、3D-NAND等の多積層化に伴う深孔加工のためのハイパワー化が進んでおり、静電チャック装置では耐電圧性の向上が課題となっている。
特許文献1に示される静電チャック装置もある程度の耐電圧性を備えるものの、より一層、耐電圧性の高い静電チャック装置が求められている。
【0006】
本発明は、耐電圧性に優れる接合層を備える静電チャック装置を提供することを目的とし該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> セラミックスからなる静電チャック部材と、
樹脂及び表面被覆フィラーを含む樹脂組成物からなり、前記表面被覆フィラーの、MP法にて測定した直径2nmにおける細孔容量が、0.0005cm/g以下である接合層と、
金属及びセラミックスからなる群より選択される少なくとも1つからなる温度調整用ベース部材と
を、この順に備える静電チャック装置。
【0008】
<2> 前記表面被覆フィラーが、フィラーと、前記フィラーの表面を被覆し、シランカップリング剤を原料とする被覆層とからなる<1>に記載の静電チャック装置。
【0009】
<3> 前記フィラーが、AlN、Si、Al、及びSiCからなる群より選択される少なくとも1つを含む<2>に記載の静電チャック装置。
【0010】
<4> 前記樹脂組成物が、シリコーン系樹脂を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の静電チャック装置。
【0011】
<5> 前記表面被覆フィラーの平均粒子径が、2μmより大きく20μm以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の静電チャック装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐電圧性に優れる接合層を備える静電チャック装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の静電チャック装置は、セラミックスからなる静電チャック部材と、樹脂及び表面被覆フィラーを含む樹脂組成物からなり、前記表面被覆フィラーの、MP法にて測定した直径2nmにおける細孔容量が、0.0005cm/g以下である接合層と、金属及びセラミックスからなる群より選択される少なくとも1つからなる温度調整用ベース部材とを、この順に備える。
まず、本発明の静電チャック装置における静電チャック部材、接合層、及び温度調整用ベース部材の積層構成について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。
静電チャック装置1は、静電チャック部材2と、この静電チャック部材2の下方に配設され厚みのある温度調整用ベース部材3と、これら静電チャック部材2及び温度調整用ベース部材3を接合し、一体化する接合層4とにより構成されている。
【0016】
<静電チャック部材>
静電チャック部材2は、セラミックスからなる。より具体的には、静電チャック部材2は、上面がシリコンウエハ等の板状試料を載置する載置面11aとされたセラミックスからなる載置板11と、載置板11を下方から支持するセラミックスからなる支持板12と、載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13及び環状の絶縁材14とで構成されることが好ましい。また、静電吸着用内部電極13に接するように支持板12の固定孔15内に設けられた給電端子16を更に備えていることが好ましい。
静電チャック部材2の形状は特に制限されないが、通常、円板状である。
【0017】
載置板11、支持板12及び静電吸着用内部電極13には、その厚み方向に貫通する冷却ガス導入孔17が中心軸に対して回転対称となる位置に計4個形成されている。載置面11aには、シリコンウエハ等の板状試料を支持するための多数の突起が立設されている(図示省略)。さらに、載置面11aの周縁部には、He等の冷却ガスが漏れないように幅が1~5mm、高さが上記の突起と同じ高さの周縁壁が形成されている(図示省略)。この周縁壁の内側が板状試料を静電吸着する吸着領域とされている。冷却ガス導入孔17を介して載置面11aと突起頂面に載置された板状試料との隙間にHe等の冷却ガスが供給されるようになっている。
【0018】
載置板11及び支持板12を構成するセラミックスとしては、体積固有抵抗値が1013~1015Ω・cm程度で機械的な強度を有し、しかも腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、アルミナ(Al)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、アルミナ(Al)-炭化珪素(SiC)複合焼結体等が好適に用いられる。
載置板11及び支持板12の厚みは0.3mm~3.0mmが好ましく、特に好ましくは0.5mm~1.5mmである。載置板11及び支持板12の厚みが0.3mm以上であることで、充分な耐電圧を確保することができる。一方、3.0mm以下であることで、静電吸着力が低下しにくく、載置板11の載置面11aに載置される板状試料と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性の低下を抑制することができる。その結果、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。
【0019】
静電吸着用内部電極13を構成する材料としては、チタン、タングステン、モリブデン、白金等の高融点金属、グラファイト、カーボン等の炭素材料、炭化珪素、窒化チタン、炭化チタン等の導電性セラミックス等が好適に用いられる。これらの材料の熱膨張係数は、載置板11及び支持板12の熱膨張係数に出来るだけ近似していることが望ましい。
静電吸着用内部電極13の厚みは5μm~200μmが好ましく、特に好ましくは10~100μmである。厚みが5μm以上であることで、充分な導電性を確保することができる。一方、厚みが200μm以下であることで、載置板11上に載置される板状試料と温度調整用ベース部材3との間の熱伝導性が低下しにくく、処理中の板状試料の温度を望ましい一定の温度に保つことができる。また、プラズマ透過性が保たれ、プラズマを安定して発生することができる。
このような厚みの静電吸着用内部電極13は、スパッタ法、蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0020】
絶縁材14は、静電吸着用内部電極13を囲繞して腐食性ガス及びそのプラズマから静電吸着用内部電極13を保護するための部材である。絶縁材14は、載置板11及び支持板12と同一組成または主成分が同一の絶縁性材料からなっている。絶縁材14により載置板11と支持板12とが、静電吸着用内部電極13を介して接合一体化されている。
【0021】
給電端子16は、静電吸着用内部電極13に電圧を印加するための部材である。給電端子16の数、形状等は、静電吸着用内部電極13の形態、即ち単極型か、双極型かにより決定される。
給電端子16の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではない。熱膨張係数が静電吸着用内部電極13及び支持板12の熱膨張係数に近似したものが好ましい。例えば、コバール合金、ニオブ(Nb)等の金属材料、各種の導電性セラミックスが好適に用いられる。
【0022】
<温度調整用ベース部材>
温度調整用ベース部材3は、躯体がプラズマ発生用内部電極を兼ねた構成であることが好ましい。温度調整用ベース部材3の内部には、水、Heガス、Nガス等の冷却媒体を循環させる流路21が形成されている。冷却ガス導入孔17及び固定孔15も、静電チャック部材2と同様に形成されている。
温度調整用ベース部材3の形状は特に制限されないが、通常、厚みのある円板状である。
温度調整用ベース部材3は、その躯体が外部の高周波電源22に接続されている。固定孔15には、その外周が絶縁材料23により囲繞された給電端子16が絶縁材料23を介して固定されている。給電端子16は、外部の直流電源24に接続されている。
【0023】
温度調整用ベース部材3は、金属及びセラミックスからなる群より選択される少なくとも1つからなる。金属は、熱伝導性、導電性、及び加工性に優れた金属であることが好ましく、また、これらの金属を含む複合材を用いてもよい。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。
温度調整用ベース部材3の全面、少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理またはポリイミド系樹脂による樹脂コーティングが施されていることが好ましい。
アルマイト処理または樹脂コーティングにより温度調整用ベース部材3の耐プラズマ性が向上する他、異常放電が防止され、したがって、耐プラズマ安定性が向上し、また、表面傷の発生も防止することができる。
【0024】
<接合層>
接合層4は、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを接合する部材である。
接合層4は、更に、角形状のセラミックスからなるスペーサーを含有していてもよい。接合層4がスペーサーを含有することで、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを一定の厚みで接合することができる。スペーサーは、例えば、複数個、同一平面内に略一定の密度で略規則的に配列することができる。より具体的には、例えば、最外周の同心円上に等間隔に8個、それより内側の同心円上に等間隔に8個、最内周の同心円上に等間隔に4個配置すればよい。スペーサーは、直線状に並ばない様に配置することができる。
【0025】
スペーサーの材料としては、高い誘電体損失(tanδ)を有しない材料、例えば、アルミナ(Al)、窒化ケイ素(Si)、ジルコニア(ZrO)等の焼結体が好適に用いられる。なお、炭化珪素(SiC)焼結体、アルミニウム(Al)等の金属板、フェライト(Fe)等の磁性材料といった高い誘電体損失を有する材料は放電の原因となるので好ましくない。
以下、図面の符号を省略して説明する。
【0026】
〔樹脂組成物〕
接合層は、樹脂及び表面被覆フィラーを含む樹脂組成物からなり、表面被覆フィラーの、MP法にて測定した直径2nmにおける細孔容量が、0.0005cm/g以下である。以下、「表面被覆フィラーの、MP法にて測定した直径2nmにおける細孔容量」を「特定細孔容積」と称することがある。
多孔質材料の細孔は、細孔の直径に応じて、2nm以下のマイクロ孔、2nmを超え50nm以下のメソ孔、及び50nmを超えるマクロ孔の3種類に分類され、マイクロ孔及びメソ孔の測定には、通常、ガス吸着法が用いられる。MP法とは、細孔がシリンダー形状であると仮定し、吸着層厚みとの相関から細孔容量を算出する手法である。MP法は、例えば、R. S. Mikhail, S. Brunauer, and E. E. Bodor. “Investigation of a Complete Pore Structure Analysis I. Analysis of Microstructure”. J. Collid Interface Sci.. 26, 45(1968)に詳細に説明されている。
細孔容積の算出方法としては、例えば比表面積を測定するBET法を用いて、吸着等温線を測定し、その結果から、マイクロ孔及びメソ孔を算出する方法が一般的である。
【0027】
本発明では、3種類の細孔のうち、直径が2nm以下のマイクロ孔に着目し、マイクロ孔における細孔容量が特定の範囲であることで、接合層における耐電圧性が向上し、その結果、静電チャック装置が耐電圧性に優れることを見出した。
【0028】
接合層における耐電圧は、接合層に含まれる表面被覆フィラーの水分吸着量に起因すると考えられ、表面被覆フィラーに吸着した水分量が多いほど耐電圧性が低下する傾向にある。特許文献1に示されるような、シリカ被覆の表面被覆フィラーは、細孔に空気中の水分を取り込み、静電チャック装置の製造過程での加熱によっても水分が蒸発しにくいため、耐電圧性が低下してしまうと考えられる。
これに対し、本発明においては、表面被覆フィラーの細孔容積を0.0005cm/g以下とすることで、表面被覆フィラーが空気中の水分を吸着しにくく、また、吸着しても、静電チャック装置の製造過程での加熱によって水分が蒸発するため、耐電圧性に優れると考えられる。なお、特定細孔容積が0.0001cm/g未満となる細孔は、耐電圧性に寄与しにくいと考えられる。
特定細孔容積は、接合層における耐電圧性をより向上する観点から、0.0004cm/g以下であることが好ましく、0.0003cm/g以下であることがより好ましい。また、下限値は耐電圧に対する寄与を考えれば、0.0001cm/gであってもよい。
【0029】
(表面被覆フィラー)
表面被覆フィラーは、接合層の熱伝導性を向上するために接合層に含まれる。かかる観点から、表面被覆フィラーの中心粒子となるフィラーは、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等の金属化合物を含むことが好ましい。金属化合物は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい
金属酸化物としては、アルミニウム又はケイ素の酸化物を用いることができ、中でも、酸化アルミニウム(Al)が好ましい。
金属窒化物としては、アルミニウム又はケイ素の窒化物を用いることができ、中でも、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si)が好ましい。
金属窒化物としては、アルミニウム又はケイ素の炭化物を用いることができ、中でも、炭化ケイ素(SiC)が好ましい。
上記の中でも、フィラーは、AlN、Si、Al、及びSiCからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、AlNを含むことがより好ましい。
【0030】
フィラーは、水分吸着を抑制し、接合層の耐電圧性を高めるために、表面に被覆層を有する。表面被覆フィラーにおいて、特定細孔容積を上記範囲とする方法は特に制限されないが、フィラー表面の撥水性を高めることが挙げられる。具体的には、表面被覆フィラーが、フィラーと、フィラーの表面を被覆し、シランカップリング剤を原料とする被覆層とからなることが好ましい。
【0031】
表面被覆フィラーの被覆層を構成するシランカップリング剤の種類は特に限定されない。例えば、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールトリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられる。
シランカップリング剤は、市販品を用いてもよく、例えば、信越化学工業社のシランカップリング剤(例えば、KBM-903、KBM-403、KBM-803、KBE-9007、KBM-1003、KBM-5103、KBM-503等)を用いてもよい。
シランカップリング剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
表面被覆フィラーの平均粒子径は、2μmより大きく20μm以下であることが好ましい。
ここで、平均粒子径は、メジアン径(D50)を意味し、レーザー回折干渉法等で測定することができる。
表面被覆フィラーの平均粒子径が2μmより大きいことで、フィラー同士が接触し易くなり、接合層の熱伝導率を向上し易く、また、取扱等の作業性に優れる。また、2μmより大きいことで、急激に比表面積が増大することを抑制することができ、大量のシランカップリング材を使用しなくても、フィラーを完全に被覆し易いため、熱伝導率の低下を抑制することができる。また、シランカップリング剤が十分でなくても、被覆がなされていない粒子の存在量を少なくすることができるため、大気中の水分等による分解を防止することができる。
一方、平均粒子径が20μm以下であることで、接合層を製造する際の接合層の伸び性を上げ、接着強度の低下を抑制することができる。また、接合層を製造する際に、接合層からの表面被覆フィラーの脱離を抑制することができるので、接合層に空孔が発生することを防止し、結果的に熱伝導性、伸び性、接着強度を向上することができる。
表面被覆フィラーの平均粒子径は、接合層の熱伝導性、伸び性、及び接着強度の観点から、2.5μm以上15μm以下であることがより好ましく、3μm以上10μm以下であることが更に好ましい。
【0033】
(樹脂)
樹脂組成物は、樹脂を含む。
樹脂は、静電チャック部材と温度調整用ベース部材とを接合する接着成分であり、また、表面被覆フィラーを分散する分散媒体として機能する。
樹脂は、接着性に優れる熱硬化性の樹脂、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂等を用いることが好ましい。中でも、耐熱性及び弾性の観点から、シリコーン系樹脂を用いることが好ましい。すなわち、樹脂組成物は、シリコーン系樹脂を含むことが好ましい。
【0034】
シリコーン系樹脂はシロキサン結合(Si-O-Si)を有するケイ素化合物重合体であり、例えば、下記式(1)で表される構造単位を含む。
【0035】
【化1】
【0036】
式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基(C2n+1-:nは整数)又は酸素原子を表し、R及びRが同時に水素原子又は酸素原子となることはない。また、R又はRが酸素原子である場合、当該酸素原子を介して、別の構造単位と結合するか、水素原子と結合する(すなわち、OH基となる)。mは繰り返し単位数を表す。
【0037】
シリコーン系樹脂は、熱硬化温度が70℃~140℃のシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。熱硬化温度が70℃以上であることで、静電チャック部材の支持板と温度調整用ベース部材とを接合する際に、接合過程の途中で硬化が始まりにくい。一方、熱硬化温度が140℃以下であることで、支持板と温度調整用ベース部材との熱膨張差を吸収することができる。また、熱硬化温度が140℃以下であることで、載置板の載置面の平坦度が低下しにくく、支持板と温度調整用ベース部材との間の接合力が保たれ、両者間での剥離を防止することができる。
【0038】
シリコーン系樹脂は、また、硬化後のヤング率が8MPa以下であることが好ましい。硬化後のヤング率が8MPa以下であることで、接合層に昇温、降温の熱サイクルが負荷された際に、支持板と温度調整用ベース部材との熱膨張差を吸収することができ、接合層の耐久性の低下を抑制することができる。
【0039】
樹脂組成物中の表面被覆フィラーの含有量は、20体積%以上40体積%以下であることが好ましい。
表面被覆フィラーの含有量が20体積%以上であることで、接合層の熱伝導性に優れる。その結果、載置板の載置面に載置される板状試料と温度調整用ベース部材との間の熱伝導性に優れ、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。含有量が40体積%以下であることで、接合層の伸び性が保たれ、熱応力が緩和され易くなり、載置板の載置面の平坦度及び平行度が劣化しにくい。また、含有量が40体積%以下であることで、支持板と温度調整用ベース部材との間の接合力が保たれ、両者間での剥離を防止することができる。
なお、樹脂組成物中の表面被覆フィラーの含有量は、接合層中の表面被覆フィラーの含有量と近似すると考えられる。
【0040】
接合層の厚みは、50μm以上180μm以下であることが好ましい。
接合層の厚みが50μm以上であることで、静電チャック部材と温度調整用ベース部材との間の熱伝導性を損ねずに、熱応力緩和を発現し易い。接合層の厚みが180μm以下であることで、静電チャック部材と温度調整用ベース部材との間の熱伝導性を十分確保することができ、プラズマ透過性を損ねにくい。
【0041】
<静電チャック装置の製造方法>
静電チャック装置の製造方法を、静電チャック部材と温度調整用ベース部材の接合方法に重点をおいて説明する。
【0042】
〔樹脂組成物の調製〕
シリコーン系樹脂等の樹脂と、表面被覆フィラーとを、表面被覆フィラーの含有量が20~40体積%となるように混合して樹脂組成物を調製する。樹脂組成物は、必要に応じて、攪拌脱泡処理を施してもよい。樹脂組成物の粘度を、塗布に適するよう、所定の粘度、例えば50~300Pa・sとなるよう調整しておくことが好ましい。粘度調整は、樹脂組成物にトルエン、キシレン等の有機溶剤を配合することにより行うことができる。
【0043】
(表面被覆フィラーの製造方法)
表面被覆フィラーの製造方法は特に制限されないが、フィラー表面にシランカップリング剤を原料とする被覆層を形成するには、次のようにして製造することができる。
すなわち、シランカップリング剤と有機溶媒とを含むシランカップリング剤溶液を調製し、フィラー表面にシランカップリング剤溶液を付与し、フィラー表面の液体を乾燥すればよい。
【0044】
有機溶媒としては、シランカップリング剤を溶解し得るものであれば特に制限されず、例えば、アルコール及びケトンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0045】
シランカップリング剤溶液は、被覆層の層厚のばらつきを抑える観点から、シランカップリング剤の濃度が、0.05質量%~5質量%となる範囲で調製することが好ましい。
シランカップリング剤溶液は、更に、塩酸、硝酸、アンモニア等の触媒;水等を含んでいてもよい。
シランカップリング剤溶液のフィラーへの付与方法は、シランカップリング剤溶液内にフィラーを浸漬する方法であってもよいし、シランカップリング剤溶液フィラーに噴霧する方法であってもよい。
フィラー表面の乾燥は、自然乾燥によって行ってもよいし、加熱して行ってもよい。
【0046】
表面被覆フィラーの被覆層の厚みは0.005μm以上0.05μm以下であることが好ましい。
被覆層の厚みが0.005μm以上であることで、フィラーの撥水性を充分に発現することができる。被覆層の厚みが0.05μm以下であることで、フィラーの材質に起因する熱伝導性を損ないにくい。その結果、載置板の載置面に載置される板状試料(シリコンウエハ)と温度調整用ベース部材との間の熱伝導性が保たれ、処理中の板状試料の温度を好ましい一定の温度に保つことができる。
表面被覆フィラーの被覆層の厚みは、0.005μm以上かつ0.03μm以下であることがより好ましい。
【0047】
静電チャック部材及び温度調整用ベース部材は、公知の方法により作製すればよい。
【0048】
〔静電チャック部材と温度調整用ベース部材との接合〕
まず、温度調整用ベース部材の接合面を、例えばアセトンを用いて脱脂し、洗浄しておくことが好ましい。接合層にスペーサーを備える場合には、この接合面上に、幅1mm、長さ1mm、厚さ0.1mmのセラミックス製スペーサーを、常温硬化型シリコーン接着剤を用いて接着すればよい。
スペーサーの個数、配置する位置は適宜変更可能であり、例えば、直径298mmの静電チャック部材と直径298mmの温度調整用ベース部材とを接合する場合には、温度調整用ベース部材上に最外周の同心円状に8個、さらに適度に中心方向に寄った同心円状に8個、さらに中心方向に寄った同心円状に8個配置するとよい。これらのスペーサーは、直線状に並ばない様に配置することが好ましい。さらに中心方向の同心円上に4個、最内周の同心円上に4個配置してもよい。
スペーサーを接合面に配置した温度調整用ベース部材は、常温に所定時間放置して、常温硬化型シリコーン接着剤を十分硬化させることが好ましい。
【0049】
次いで、スペーサーが配置された接合面上に、接合層を形成する樹脂組成物を塗布する。樹脂組成物の塗布量は、静電チャック部材と温度調整用ベース部材とを一定の間隔を置いて接合するため所定の範囲内にする。
例えば、直径298mmの静電チャック部材と直径298mmの温度調整用ベース部材とを接合する場合には、温度調整用ベース部材の接合面に20~22g、静電チャック部材の接合面に15~17g、それぞれ塗布すればよい。
【0050】
樹脂組成物の塗布方法としては、ヘラ等を用いて手動で塗布する他、バーコート法、スクリーン印刷法等を用いることができる。
樹脂組成物の塗布後、静電チャック部材と温度調整用ベース部材3を、樹脂組成物を介して重ね合わせ、静電チャック部材と温度調整用ベース部材との間隔がスペーサーの厚みになるまで落し込み、余分な樹脂組成物を除去する。落し込む際の温度は、樹脂組成物の流動性が最も得られる温度下で行うのが好ましい。
【0051】
また、樹脂組成物中の気泡を除去するために、静電チャック部材と温度調整用ベース部材とを重ね合わせた後に真空脱泡処理を施すことも、強固かつ均一な組織を有する接合層を得るうえで有効である。
その後、樹脂組成物を硬化させる。硬化条件は、用いる樹脂の最適硬化条件に従えばよく、また、硬化時に加圧してもよい。
【0052】
なお、本実施形態に係る板状試料としては、シリコンウエハに限るものではなく、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ等の平板型ディスプレイ(FPD)用ガラス基板等であってもよく、その基板の形状や大きさに合わせて本実施形態の静電チャック装置を設計すればよい。
【実施例
【0053】
以下、実施例1及び比較例1により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
(1)表面にシランカップリング剤を原料とする被覆層を備える表面被覆フィラーとして、表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末(ThruTek社製、商品名「AlN050SF」、平均粒子径(D50)=4.94μm)を用いた。また、シリコーン系樹脂として、付加反応型シリコーン接着剤(モメンティブ社製、商品名「TSE3221」)を用いた。
表面被覆AlNとシリコーン系樹脂とを遊星混錬(シンキー社製、商品名「ARE-310」)で混練し、樹脂組成物1を得た。混練は、3分間の撹拌を2回行った。
【0055】
(2)得られた樹脂組成物1を、20×100(mm)かつ厚み1(mm)の型枠に入れた。
樹脂組成物1を入れた型枠を、50℃に加温した真空乾燥機(ヤマト科学社製、商品名「DP63」)内に設置し、50℃で1時間、-0.1MPa以下まで減圧して、真空脱泡処理を行った。
真空脱泡した樹脂組成物1を大気中で、115℃で12時間加熱し、シート状の硬化体1を得た。
【0056】
〔比較例1〕
実施例1の樹脂組成物1の調製において、シランカップリング剤を原料とする被覆層を備える表面被覆フィラーに代えて、シリカ(SiO)により被覆された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末(登録商標「TOYALNITE」、東洋アルミニウム社製、平均粒子径(D50)=11μm)を用いた他は、同様にして、樹脂組成物101を調製した。
また、硬化体1の製造において、樹脂組成物1に代えて樹脂組成物101を用いた他は、同様にして、シート状の硬化体101を製造した。
【0057】
<測定と評価>
実施例1及び比較例1の硬化体を用いて、特定細孔容積、耐電圧、及び熱伝導率を測定し、耐電圧性と熱伝導性を評価した。
【0058】
1.直径2nmにおける細孔容量(特定細孔容量)
実施例1及び比較例1の硬化体を、それぞれ2.0g秤量し、窒素ガス雰囲気下において、250℃で30分間加熱した。加熱後、硬化体について日本ベル社製、商品名「BELSORP-mini」を用いて測定し、BET法により吸着等温線を導き出した。得られた吸着等温線から、MP法により、マイクロ孔とメソ孔の測定値を算出した。また、2nmにおける細孔容積(特定細孔容積)の値を算出した。
【0059】
2.耐電圧
耐電圧評価は、室温(25℃)、大気圧(0.1MPa)下において、電源として東和計測社製の商品名「AKT-05K3OPNS」及びデジタルマルチメータとしてエーディーシー社製の商品名「7352A/E」を用いて行った。
シート状の硬化体を、2枚のポリエチルケトン製の耐電圧シートで挟み、耐電圧シート間の硬化体の厚みを測定した。各耐電圧シートに配線して、印加電圧で10分間保持した。電圧は0.5kV刻みで上昇させ短絡、又は電流500nAに到達する直前の電圧値を耐電圧として記録した。得られた耐電圧値と、耐電圧シート間の硬化体の厚みとから、100μm厚に換算した耐電圧値を得た。
【0060】
3.熱伝導率
実施例1及び比較例1の硬化体の熱伝導率は、下記式に基づき、熱拡散率と、密度と、比熱との積から算出した。
硬化体の熱伝導率〔W/(m・K)〕
=熱拡散率〔m/sec〕×密度〔kg/m〕×比熱〔J/(K・kg)〕
【0061】
硬化体の熱拡散率は、レーザーフラッシュ法により、室温(25℃)、大気圧(0.1MPa)下において、真空理工社製の熱定数測定装置、商品名「TC-7000型」を用いて測定した。
硬化体の密度は、液中ひょう量法により、室温(25℃)下、ザルトリウス社製の電子天秤、商品名「CPA225D型」を用いて測定した。なお、標準試料として、JIS K 0557 A3規格相当の精製水を用いた。
硬化体の比重は、示差走査熱量分析法(DSC法)により、NETZSCH社製の示差走査熱量計、商品名「DSC3500 Sirius型」を用いて測定した。測定は、室温(25℃)、20mL/minのアルゴンガスフローの条件下で行った。また、昇温速度は10℃/minとした。
【0062】
【表1】
【0063】
表1からわかるように、特定細孔容量が0.0005cm/g以下の範囲に入る表面被覆フィラーを含む接合層を備えた実施例の静電チャックは、比較例1に比べ、耐電圧が非常に大きく、熱伝導性も優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の静電チャック装置の接合層は、耐電圧性と熱伝導性に優れることから、シリコンウエハ、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ等の平板型ディスプレイ(FPD)用ガラス基板等の種々の板状試料の加工に最適である。
【符号の説明】
【0065】
1 静電チャック装置
2 静電チャック部材
3 温度調整用ベース部材
4 接合層
11 載置板
11a 載置面
12 支持板
13 静電吸着用内部電極
14 環状の絶縁材
15 固定孔
16 給電端子
17 冷却ガス導入孔
21 流路
22 高周波電源
23 絶縁材料
24 直流電源
図1