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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20240514BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20240514BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20240514BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20240514BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240514BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/18
C30B29/06 A
C23C16/34
H01L21/205
H01L21/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021193940
(22)【出願日】2021-11-30
(65)【公開番号】P2023080538
(43)【公開日】2023-06-09
【審査請求日】2023-05-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保埜 一平
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
(72)【発明者】
【氏名】三原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6866952(JP,B1)
【文献】特開2012-051774(JP,A)
【文献】特開2014-236093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/18
C30B 29/06
C23C 16/34
H01L 21/205
H01L 21/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板であって、
前記シリコン単結晶基板は、炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものであることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項2】
前記シリコン単結晶基板は、更に酸素濃度が5E17atoms/cm以上、5E18atoms/cm以下、窒素濃度が1E14atoms/cm以上、5E16atoms/cm以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体基板。
【請求項3】
前記シリコン単結晶基板は結晶面方位が(111)で抵抗率が1000Ωcm以上のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体基板。
【請求項4】
前記窒化物半導体薄膜は窒化ガリウムを含むものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項5】
シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板の製造方法であって、
(1)炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものであるシリコン単結晶基板を準備する工程、及び
(2)前記シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜を形成する工程
を含むことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記工程(1)で準備する前記シリコン単結晶基板を、更に酸素濃度が5E17atoms/cm以上、5E18atoms/cm以下、窒素濃度が1E14atoms/cm以上、5E16atoms/cm以下のものとすることを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記工程(1)で準備する前記シリコン単結晶基板を、CZ法により作製されたものとすることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記工程(1)で準備する前記シリコン単結晶基板を、結晶面方位が(111)で抵抗率が1000Ωcm以上のものとすることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記工程(2)で形成する前記窒化物半導体薄膜を、窒化ガリウムを含むものとすることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属気相成長(MOCVD)法による窒化物半導体基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜製造方法のひとつであるMOCVD法は、大口径化や量産性に優れており、均質な薄膜結晶を成膜できるため、広く用いられている。GaNに代表される窒化物半導体はSiの材料としての限界を超える次世代の半導体材料として期待されている。GaNは飽和電子速度が大きいという特性から高周波動作可能なデバイスの作製が可能であり、また絶縁破壊電界も大きいことから、高出力での動作が可能である。また、軽量化や小型化、低消費電力化も見込める。近年、5G等に代表されるような通信速度の高速化、またそれ伴う高出力化の要求により、高周波、且つ高出力で動作可能なGaN HEMTが注目されている。
【0003】
GaNデバイスを作製するためのGaNエピタキシャルウェーハに用いられる基板としては、シリコン単結晶基板が最も安価であり且つ大口径化に有利である。シリコン単結晶基板上にMOCVD法でGaNを成膜する際、成膜時、および冷却時にはGaNとSiの熱膨張係数差によって応力が加わる。この応力による塑性変形を防ぐため、シリコン単結晶基板はSEMI specの厚さよりも厚い基板(例えば1mm、1.15mm等)が用いられる事が多い。しかし、デバイス工程ではSEMI規格に合わせて装置構成されている場合があり、その場合は厚い基板ではデバイス工程に投入できないため、シリコン単結晶基板はなるべくSEMI規格の厚さの基板を用いることが好ましい。
【0004】
しかしながら、SEMI規格の厚さのシリコン単結晶基板は直径150mmのウェーハで675μm、直径200mmのウェーハで725μmと薄く、厚いGaNを成膜する等といった成長条件によっては、GaN成膜時の応力に耐え切れず、塑性変形してしまうといった問題がある。特に高周波デバイス用のシリコン単結晶基板は1000Ω・cm以上の高抵抗基板が求められるが、ドーパント濃度の低い高抵抗率のウェーハでは塑性変形がし易くなってしまう。
【0005】
特許文献1には、シリコン単結晶基板に酸素及び窒素をドープする事で、GaN成膜中の応力による塑性変形に対して耐性のあるシリコン単結晶基板について記載されている。特許文献1に記載されている酸素、窒素ドープされたシリコン単結晶基板は、ノンドープのシリコン単結晶基板と比較すれば塑性変形に対して耐性があるが、成膜するGaNの膜厚によって、それでは不十分な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許6866952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、塑性変形に対して耐性がある窒化物半導体基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、
シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板であって、
前記シリコン単結晶基板は、炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものである窒化物半導体基板を提供する。
【0009】
シリコン単結晶基板にこのような濃度範囲で炭素がドープされていれば、塑性変形に対して耐性が得られ、反りが低減された窒化物半導体基板となる。
【0010】
また、前記シリコン単結晶基板は、更に酸素濃度が5E17atoms/cm以上、5E18atoms/cm以下、窒素濃度が1E14atoms/cm以上、5E16atoms/cm以下のものであることが好ましい。
【0011】
このような窒化物半導体基板であれば更に塑性変形が抑制されたものとすることができる。
【0012】
また、前記シリコン単結晶基板はCZ法により作製されたものであることが好ましい。
【0013】
CZ法によれば所定濃度の酸素、窒素、炭素がドープされた大直径のウェーハを比較的容易に製造することができる。
【0014】
また、前記シリコン単結晶基板は結晶面方位が(111)で抵抗率が1000Ωcm以上のものであることが好ましい。
【0015】
結晶面方位が(111)であれば窒化物半導体薄膜を容易にエピタキシャル成長でき、抵抗率が1000Ωcm以上であれば高耐圧、高周波特性に優れた電子デバイス用の基板とすることができる。
【0016】
また、前記窒化物半導体薄膜は窒化ガリウムを含むものであることが好ましい。
【0017】
本発明では、窒化物半導体薄膜をこのようなものとすることができる。
【0018】
また本発明では、
シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板の製造方法であって、
(1)炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものであるシリコン単結晶基板を準備する工程、及び
(2)前記シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜を形成する工程
を含む窒化物半導体基板の製造方法を提供する。
【0019】
このような製造方法であれば、窒化物半導体薄膜の成長中における塑性変形が抑制されて、反りの少ない窒化物半導体基板を製造することができる。
【0020】
また、前記工程(1)で準備する前記シリコン単結晶基板を、更に酸素濃度が5E17atoms/cm以上、5E18atoms/cm以下、窒素濃度が1E14atoms/cm以上、5E16atoms/cm以下のものとすることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、更に塑性変形を抑制することができる。
【0022】
また、前記工程(1)で準備する前記シリコン単結晶基板を、CZ法により作製されたものとすることが好ましい。
【0023】
CZ法によれば所定濃度の酸素、窒素、炭素がドープされた大直径のウェーハを比較的容易に製造することができる。
【0024】
また、前記工程(1)で準備する前記シリコン単結晶基板を、結晶面方位が(111)で抵抗率が1000Ωcm以上のものとすることが好ましい。
【0025】
結晶面方位が(111)であれば窒化物半導体薄膜を容易にエピタキシャル成長でき、抵抗率が1000Ωcm以上であれば高耐圧、高周波特性に優れた電子デバイス用の基板とすることができる。
【0026】
また、前記工程(2)で形成する前記窒化物半導体薄膜を、窒化ガリウムを含むものとすることが好ましい。
【0027】
本発明では、窒化物半導体薄膜をこのようなものとすることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明であれば、塑性変形に対して耐性がある窒化物半導体基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の窒化物半導体基板の一例を示す概略図である。
図2】本発明の窒化物半導体基板の製造方法に用いることができる、MOCVD装置の一例を示す概略図である。
図3】実施例1、実施例2、比較例1、比較例2における、エピタキシャル成長中に塑性変形する曲率の比較を示すグラフである。
図4】実施例3、4、比較例3~6における、シリコン単結晶基板中の炭素濃度とGaN成膜中に塑性変形した曲率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述したように、GaNを含む窒化物半導体薄膜をMOCVD法でシリコン単結晶基板上に成膜する際、成膜時、および冷却時にはGaNとSiの熱膨張係数差によって応力が加わる。そして、この応力に耐え切れず、塑性変形してしまうといった問題がある。
【0031】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、シリコン単結晶基板の炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下であれば、塑性変形を抑制できることが判り本発明を完成させた。
【0032】
即ち、本発明は、シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板であって、前記シリコン単結晶基板は、炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものである窒化物半導体基板である。
【0033】
また本発明は、シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板の製造方法であって、(1)炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものであるシリコン単結晶基板を準備する工程、及び(2)前記シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜を形成する工程を含む窒化物半導体基板の製造方法である。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[窒化物半導体基板]
本発明の窒化物半導体基板の一例を図1に示す。本発明の窒化物半導体基板1は、シリコン単結晶基板11上に窒化物半導体薄膜12が形成されたものであり、シリコン単結晶基板11は、炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものである。
【0036】
このように炭素濃度が5E16atoms/cm以上のシリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜が形成された窒化物半導体基板であれば、塑性変形が抑制され反りの少ないものとすることができる。なお、CZ法によるシリコン単結晶の作製では、Si中の炭素濃度の固溶度や製造設備の観点から2E17atoms/cmより高い炭素濃度でドープする事は難しい。
【0037】
シリコン単結晶基板の炭素濃度は好ましくは5E16atoms/cm以上、1.5E17atoms/cm以下、より好ましくは5E16atoms/cm以上、1E17atoms/cm以下とすることができる。
【0038】
また、シリコン単結晶基板のその他の元素のドープ濃度としては特に限定はされないが、上記範囲の炭素濃度に加えて、更に酸素濃度が5E17atoms/cm以上、5E18atoms/cm以下、窒素濃度が1E14atoms/cm以上、5E16atoms/cm以下のものであることが好ましい。このような窒化物半導体基板であれば更に塑性変形が抑制されたものとすることができる。
【0039】
シリコン単結晶基板は炭素濃度が上記範囲内であれば特に限定はされないが、CZ法により作製されたものであることが好ましい。CZ法によれば所定濃度の酸素、窒素、炭素がドープされた大直径のウェーハを比較的容易に製造することができる。
【0040】
シリコン単結晶基板の主面の面方位は特に限定されず、(100)、(110)、(111)等とすることができるが、(111)であることが好ましい。結晶面方位が(111)であれば窒化物半導体薄膜を容易にエピタキシャル成長させることができる。
【0041】
シリコン単結晶基板の抵抗率は特に限定はされないが、例えば1000Ωcm以上のものであることが好ましい。抵抗率の上限も特に限定されないが、例えば100000Ωcm以下とすることができる。抵抗率が1000Ωcm以上であれば高耐圧、高周波特性に優れた電子デバイス用の基板とすることができる。
【0042】
また、窒化物半導体薄膜としては特に限定はされないが、例えば、後述のようなエピタキシャル層とすることができる。窒化物半導体薄膜としては、窒化ガリウムを含むものであることが好ましい。
【0043】
[窒化物半導体基板の製造方法]
本発明の窒化物半導体基板は、以下のような本発明の窒化物半導体基板の製造方法によって製造することができる。
【0044】
<工程(1)シリコン単結晶基板を準備する工程>
工程(1)は、炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものであるシリコン単結晶基板を準備する工程である。工程(1)は、例えば、以下のように行うことができる。
【0045】
まず、CZ法により、軸方位が〈111〉のシリコンインゴットを作製する。この際、成長結晶の炭素濃度は5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下となるように原料に炭素源となる物質(例えば炭素粉等)をドープして、単結晶を育成する。シリコン単結晶基板の炭素濃度をこのような濃度とすることでエピタキシャル成長中の塑性変形が抑制され、冷却後の窒化物半導体基板の反りを小さくすることができる。
【0046】
このとき、更に酸素濃度が5E17atoms/cm以上、5E18atoms/cm以下となる製造条件とし、窒素濃度が1E14atoms/cm以上、5E16atoms/cm以下となるように原料に窒素をドープすることが好ましい。このように酸素、窒素を所定量含むものであれば、更に塑性変形を抑制することができる。
【0047】
次に、作製したシリコンインゴットをスライスしウェーハ化して、炭素濃度が5E16atoms/cm以上、2E17atoms/cm以下のものであるシリコン単結晶基板を準備する。
【0048】
<工程(2)窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長する工程>
工程(2)は、シリコン単結晶基板上に窒化物半導体薄膜を形成する工程である。工程(2)は、例えば、以下のように行うことができる。
【0049】
図2に示すようなMOCVD反応炉において、シリコン単結晶基板上にAlN、AlGaNおよびGaN等のIII族窒化物半導体薄膜のエピタキシャル成長を行う。エピタキシャル層の構造はこれに限らず、AlGaNを成膜しない場合や、AlGaN成膜後さらにAlNを成膜する場合もある。また、Al組成を変化させたAlGaNを複数層成膜させる場合もある。膜厚は用途によって変更されるため、特に限定されない。
【0050】
エピタキシャル層の表層側にはデバイス層を設けることができる。デバイス層は、2次元電子ガスが発生する結晶性の高い層(チャネル層)、2次元電子ガスを発生させるための層(バリア層)、最表層にcap層を設けた構造とすることができる。バリア層はAl組成を20%程度のAlGaNを用いることができるが、例えばInGaN等も用いることができ、これに限定されない。cap層は例えばGaN層やSiN層とすることもでき、これに限定されない。また、これらのデバイス層の厚さやバリア層のAl組成は、デバイスの設計によって変更される。
【0051】
エピタキシャル成長の際、Al源としてTMAl、Ga源としてTMGa、N源としてNHを用いることができる。また、キャリアガスはNおよびH、ないしはそのいずれかとし、プロセス温度は900~1300℃程度とすることができる。
【0052】
エピタキシャル成長時にはGaNとSiの熱膨張係数差によってシリコン単結晶基板に応力が加わる。しかし本発明では、シリコン単結晶基板の炭素濃度を上記範囲とすることによって、この応力による塑性変形を防ぐことができる。したがって、窒化物半導体薄膜をより厚く成長させることが可能となり、デバイスの設計の自由度が向上する。
【実施例
【0053】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
CZ法で直径150mm、軸方位<111>のシリコン単結晶を成長させた。このとき、炭素濃度8.6E16atoms/cm、酸素濃度5.6E17atoms/cmとなるように製造条件を調整した。円筒状のシリコンインゴットを作製し、675μm厚になるようにポリッシュドウェーハに加工してシリコン単結晶基板を準備した。
【0055】
このシリコン単結晶基板を図2に示したようなMOCVD反応炉に載置し、シリコン単結晶基板上にAlN、AlGaNおよびGaN等のIII族窒化物半導体薄膜のエピタキシャル成長を行った。シリコン単結晶基板はサテライトと呼ばれるウェーハポケットに載置した。エピタキシャル成長の際、Al源としてTMAl、Ga源としてTMGa、N源としてNHを用いた。また、キャリアガスはNおよびHのいずれも使用した。プロセス温度は900~1300℃程度とした。サテライトの上にシリコン単結晶基板を載置し、エピタキシャル成長を行う際、エピタキシャル層は基板側から成長方向に向かって順にAlN、AlGaNを成膜し、その後GaNをエピタキシャル成長させた。
【0056】
エピタキシャル層の表層側にはデバイス層を設けた。デバイス層は、2次元電子ガスが発生する結晶性の高い層(チャネル層)を400nm、2次元電子ガスを発生させるためのAl組成が20%のAlGaNからなるバリア層を20nm形成した。最表層に3nmのGaNからなるcap層を設けた構造とした。エピタキシャル成長させた窒化物半導体薄膜の総膜厚は6.5μmとした。
【0057】
エピタキシャル成長中に基板の反りをリアルタイムで測定し、応力により塑性変形する点(塑性変形する基板の曲率)を記録した。その結果を図3に示す。また、成膜後の窒化物半導体基板の反りを測定した。その結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
酸素濃度1.6E18atoms/cm、窒素濃度2.0E14atoms/cm、炭素濃度8.6E16atoms/cmのシリコンインゴットを作製し、実施例1と同様の形状に加工後、実施例1と同じ条件にて窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長させた。測定についても、実施例1と同様の測定を実施し比較した。結果を図3及び表1に示す。
【0059】
(比較例1)
酸素濃度1.6E18atoms/cm、窒素濃度2.0E14atoms/cm、炭素濃度ノンドープのシリコンインゴットを作製し、実施例1と同様の形状に加工後、実施例1と同じ条件にて窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長させた。測定についても、実施例1と同様の測定を実施し比較した。結果を図3及び表1に示す。
【0060】
(比較例2)
酸素濃度5E17atoms/cm、炭素ノンドープのシリコンインゴットを作製し、実施例1と同様の形状に加工後、実施例1と同じ条件にて窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長させた。測定についても、実施例1と同様の測定を実施し、比較した。結果を図3及び表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
図3に示すように、本発明である実施例1、2では、シリコン単結晶基板に所定量の炭素をドープしていることから、エピタキシャル成長中に塑性変形が起こらなかった。一方、シリコン単結晶基板に炭素をドープしていない比較例1、2では、エピタキシャル成長中に塑性変形が起こった。したがって表1に示されるように、実施例1、2では比較例1、2よりも反りの小さい窒化物半導体基板が得られた。特に炭素、酸素、窒素が所定量ドープされた実施例2は、なおいっそう反りが抑制されていることが分かる。
【0063】
なお図3中、塑性変形する曲率が大きいほど、塑性変形に対して耐性がある(強度が強い)ことを意味する。また曲率がマイナスの場合は上に凸となり、プラスの場合は下に凸となることを意味する。
【0064】
(実施例3、4、比較例3~6)
炭素濃度が以下の値となるように製造条件を変化させて、CZ法で直径150mm、軸方位<111>のシリコン単結晶を成長させた。なお、酸素濃度は6E17atoms/cm程度でほぼ同じになるようにした。各インゴットを円筒状に加工し、675μm厚になるようにポリッシュドウェーハに加工してシリコン単結晶基板を準備した。
(比較例3)炭素濃度 1.77E15atoms/cm
(比較例4)炭素濃度 5.1 E15atoms/cm
(比較例5)炭素濃度 9.1 E15atoms/cm
(比較例6)炭素濃度 2.21E16atoms/cm
(実施例3)炭素濃度 5.2 E16atoms/cm
(実施例4)炭素濃度 7.9 E16atoms/cm
【0065】
これらシリコン単結晶基板上に、実施例1と同じ条件にて窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長させた。エピタキシャル成長中に基板の反りをリアルタイムで測定し、応力により塑性変形する点(塑性変形する基板の曲率)を記録した。結果を図4に示す。
【0066】
図4に示すように、本発明である実施例3、4では、シリコン単結晶基板に所定量の炭素をドープしていることから、エピタキシャル成長中に塑性変形が見られなかった(実施例3、4は塑性変形せずにGaN成膜を完遂できたが、便宜上プロットしている)。一方、炭素のドープ量が少ない比較例3~6は、エピタキシャル成長中における塑性変形を抑制できていないことが分かる。特に、実施例3と比較例6から明らかなように炭素濃度が5E16atoms/cm以上になると塑性変形しなくなることが判った。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0068】
1…窒化物半導体基板、 11…シリコン単結晶基板、 12…窒化物半導体薄膜。
図1
図2
図3
図4