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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】炭化水素樹脂水素化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/04 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
C08F8/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021529967
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024339
(87)【国際公開番号】W WO2021002230
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019125211
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久岡 育司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 祥史
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-003060(JP,A)
【文献】特開2019-065127(JP,A)
【文献】特開2019-065128(JP,A)
【文献】特開平09-268209(JP,A)
【文献】特開昭61-204210(JP,A)
【文献】特開平04-372606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで水素化反応させる炭化水素樹脂水素化物の製造方法であって、
前記炭化水素樹脂が、不飽和炭化水素を含む単量体混合物を、ルイス酸触媒を用いてカチオン重合することにより得られるものである炭化水素樹脂水素化物の製造方法
【請求項2】
前記抗酸化化合物の存在量が、前記炭化水素樹脂100質量部に対して、0.01~10質量部である請求項1に記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素樹脂が、ルイス酸触媒を用いたカチオン重合により得られた炭化水素樹脂を含む重合体溶液に対してストリッピング処理を行うことにより得られるものである請求項1または2に記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素樹脂を150~350℃に加熱し、かつ、溶融粘度が50~1500mPa・sの範囲とされた状態にて、水素と接触させることで水素化反応させる請求項1~3のいずれかに記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【請求項5】
水素化反応時における水素圧を0.5~3.0MPaの範囲とする請求項1~4のいずれかに記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【請求項6】
固定床反応器を用いて、前記炭化水素樹脂を、水素と接触させることで水素化反応させる請求項1~5のいずれかに記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【請求項7】
前記水素化触媒として、平均直径が1~5mmφ、平均長さが1~10mmである粒状のものを使用する請求項1~6のいずれかに記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【請求項8】
前記水素化触媒がニッケル触媒である請求項1~7のいずれかに記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【請求項9】
前記ニッケル触媒が、マグネシア-シリカに、ニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒である請求項8に記載の炭化水素樹脂水素化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制しながら、色相および低臭気性に優れる炭化水素樹脂水素化物を製造することができる炭化水素樹脂水素化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノオレフィン性不飽和炭化水素と鎖状共役ジオレフィンとを共重合することにより得られる炭化水素樹脂などの、炭素-炭素二重結合を有する炭化水素樹脂が知られている。このような炭化水素樹脂は、たとえば、ホットメルト粘接着剤を形成するための粘着付与樹脂などとして用いられている。
【0003】
他方、近年、ホットメルト粘接着剤においては、色相等の改善の観点より、粘着付与樹脂としての炭化水素樹脂として、水素添加されたものを用いる試みがなされている。たとえば、特許文献1,2には、炭化水素樹脂のカラーボディを水素添加することで、分子量や軟化点等の物理的性質の変化を抑制しながら炭化水素樹脂を淡色化させる技術が開示されている。
【0004】
この特許文献1,2の技術においては、水素添加が容易なカラーボディのみを選択的に水素化するものであり、炭化水素樹脂の骨格に存在する炭素-炭素二重結合について水素化しないものである。炭化水素樹脂中には、炭素-炭素二重結合が多く存在しており、特許文献1,2の技術によれば、色相はある程度改善するものの、分子量や軟化点等の物理的性質の変化を、より抑制することができる技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3971468号公報
【文献】特許第3987587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制しながら、色相および低臭気性に優れる炭化水素樹脂水素化物を製造することができる炭化水素樹脂水素化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制しながら、色相および低臭気性に優れる炭化水素樹脂水素化物を製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで水素化反応させる炭化水素樹脂水素化物の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の製造方法において、前記抗酸化化合物の存在量が、前記炭化水素樹脂100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記炭化水素樹脂が、ルイス酸触媒を用いたカチオン重合により得られた炭化水素樹脂を含む重合体溶液に対してストリッピング処理を行うことにより得られるものであることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記炭化水素樹脂を150~350℃に加熱し、かつ、溶融粘度が50~1500mPa・sの範囲とされた状態にて、水素と接触させることで水素化反応させることが好ましい。
本発明の製造方法において、水素化反応時における水素圧を0.5~3.0MPaの範囲とすることが好ましい。
本発明の製造方法において、固定床反応器を用いて、前記炭化水素樹脂を、水素と接触させることで水素化反応させることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記水素化触媒として、平均直径が1~5mmφ、平均長さが1~10mmである粒状のものを使用することが好ましい。
本発明の製造方法において、前記水素化触媒がニッケル触媒であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記ニッケル触媒が、マグネシア-シリカに、ニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制しながら、色相および低臭気性に優れる炭化水素樹脂水素化物を製造することができる炭化水素樹脂水素化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の炭化水素樹脂水素化物の製造方法は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで水素化反応させるものである。
【0012】
<抗酸化化合物>
本発明で用いる抗酸化化合物は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であればよく、ヒンダードフェノール系酸化防止剤または2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤のいずれか一方のみを用いてもよく、それらを併用してもよい。抗酸化化合物の存在量は、炭化水素樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.05~2質量部、最も好ましくは0.05~0.5質量部である。抗酸化化合物の存在量を上記範囲とすることにより、水素化反応による分子量および軟化点の変化をより一層抑制することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤を併用する場合の、これらの抗酸化化合物の存在比率は、「ヒンダードフェノール系酸化防止剤:2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤」の重量比率で、10:90~90:10であることが好ましい。
【0013】
<ヒンダードフェノール系酸化防止剤>
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ヒドロキシル基の2位または6位に少なくとも1つのヒンダード基を有する酸化防止剤であることが好ましい。ここでヒンダード基とは、立体障害性置換基を言い、炭素数が3以上の置換基である。好適にはt-ブチル基などの三級炭化水素基が挙げられる。一方、ヒンダード基とならない基としては、水素原子の他、メチル基やエチル基など炭素数が2以下の直鎖炭化水素基などが挙げられる。
【0014】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特に限定されないが、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどを挙げることができる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールが好ましく、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が特に好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
<2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤>
2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基とは、下記一般式で表される基をいう。
【化1】
【0016】
式中、R~Rは任意のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。Rは水素または置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基もしくはアルコキシ基である。*は結合手を表す。R~Rは、互いに同一であっても相違してもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられるが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましい。Rの具体例としては、水素およびメチル基、オクチル基などが挙げられるが、水素が好ましい。
【0017】
2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤としては、市販のものであってもよく、市販の2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の具体例としては、ポリ〔{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕(商品名「キマソーブ(登録商標)944」)、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-2、4-ビス〔N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ〕-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物(商品名「キマソーブ(登録商標)119」)、およびポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕(商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)などが挙げられる(いずれもBASFジャパン社製)。上記の中では、ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕(商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)が特に好ましい。2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
<水素化触媒>
本発明で用いる水素化触媒としては、特に限定されないが、ニッケル触媒が好ましい。特に、反応性が高いという観点より、担体としての担持無機化合物に、金属としてのニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒が好ましい。担体としての担持無機化合物の具体例としては、シリカ、アルミナ、ボリア、シリカ-アルミナ、珪藻土、白土、粘土、マグネシア、マグネシア-シリカ(シリカ-酸化マグネシウム)、チタニア、ジルコニアなどが挙げられ、これらのなかでも、反応性の観点より、マグネシア-シリカが好ましい。
【0019】
水素化触媒の形状としては、特に限定されないが、反応性の観点より、粒状のものが好ましく、たとえば、ペレット状、球状、円柱状等の種々の形状のものを用いることができるが、反応性をより高めるという観点より、その平均直径は、好ましくは1~5mmφ、より好ましくは1~4mmφ、さらに好ましくは1~3mmφであり、また、その平均長さは、好ましくは1~10mm、より好ましくは1~8mm、さらに好ましくは、1~4mmである。
【0020】
<水素化反応>
本発明においては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで、水素化反応を行うものである。本発明の製造方法においては、炭化水素樹脂を水素化反応させることによって、色相および低臭気性に優れる炭化水素樹脂水素化物を製造することができるとともに、水素化反応を上記の抗酸化化合物の存在下で行うことによって、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制することができる。さらには、本発明の製造方法によれば、200℃で3時間加熱した場合であっても、ガードナー色数の値が小さく、耐熱性に優れた炭化水素樹脂水素化物を製造することができる。
【0021】
水素化反応時の炭化水素樹脂の状態は、特に限定されず、有機溶媒に溶解させた状態であってもよいし、固体の状態であってもよいし、溶融した状態であってもよい。
【0022】
炭化水素樹脂を溶解させるための有機溶媒としては、水素化触媒に対して不活性なものであればよく、特に限定されないが、溶解性の観点より、炭化水素系溶媒が好ましく用いられる。炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;n-ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素類;などが挙げられる。これらの中でも、環状の芳香族炭化水素類や脂環族炭化水素類が好ましい。これら有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
炭化水素樹脂を、上記の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、水素と接触させる方法は、特に限定されないが、たとえば、適宜選択される容器に、炭化水素樹脂と、上記の抗酸化化合物と、水素化触媒とを共存させて、必要に応じて撹拌して、水素と接触させるバッチ処理法や、水素化触媒を固定した固定床反応器に、炭化水素樹脂および上記の抗酸化化合物を流通させながら、水素と接触させる連続処理法が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法においては、より安定的に、かつ、より効率的に目標の水添率を有する炭化水素樹脂水素化物を得ることができるという観点より、炭化水素樹脂を、固体の状態あるいは溶融させた状態で、水素に直接接触させる方法を採用することが好ましく、特に、水素化触媒を固定した固定床反応器に、固体の状態あるいは溶融させた状態の炭化水素樹脂を流通させながら、水素と接触させる連続処理法を採用することがより好ましい。また、固体の状態あるいは溶融させた状態の炭化水素樹脂は、実質的に揮発性溶媒を含まない状態であることが好ましい。
【0025】
固定床反応器としては、特に限定されないが、反応効率の観点から、多管式熱交換型水素添加反応装置が好適に用いられる。多管式熱交換型水素添加反応装置は、水素化触媒を充填した複数の反応管を備え、反応管の外側を熱媒により加熱させながら、反応管内を水素ガス、および水素化の対象となる重合体を流通させることにより、連続して水素添加反応を行わせることができる装置であり、たとえば、特開平5-276269号公報、特開昭63-141638号公報、特開平2-56238号公報などに開示されているものなどを用いることができる。また、多管式熱交換型水素添加反応装置の反応管の内径は、好ましくは6~100mm、より好ましくは10~70mmであり、反応管の長さは、好ましくは0.1~10m、より好ましくは0.3~7mである。
【0026】
本発明の製造方法においては、なかでも、炭化水素樹脂を好ましくは150~350℃、より好ましくは150~300℃、さらに好ましくは160~275℃、特に好ましくは170~250℃に加熱し、かつ、溶融粘度が好ましくは50~1500mPa・sの範囲、より好ましくは50~1000mPa・sの範囲、さらに好ましくは75~800mPa・sの範囲、特に好ましくは100~600mPa・sの範囲に制御された状態にて、水素化反応を行うことがより好ましい。
【0027】
水素化反応を行う際における、炭化水素樹脂の温度、および溶融粘度を上記範囲にて調節することで、たとえば、固定床反応器を用いて水素化反応を行った際に、固定床反応器への流通回数を1回とした場合(たとえば、固定床反応器内における滞留時間を、好ましくは0.15~1.8時間、より好ましくは0.2~1.5時間とした場合)でも、目標の水添率を有する炭化水素樹脂水素化物を適切に得ることができるものであり、さらには、炭化水素樹脂の温度、および溶融粘度を上記範囲にて適宜調節することにより、水添反応で必要な炭化水素樹脂の触媒への濡れおよび添加する水素の炭化水素樹脂への溶解度の制御性を高め、目標水添率への調節が可能となるため、これにより、固定床反応器への流通回数を1回とした場合でも、目標の水添率を有する炭化水素樹脂水素化物を安定的に、しかも、より効率的に得ることができるものである。そして、その結果として、色相に優れ、低臭気な炭化水素樹脂水素化物を適切に得ることができるものである。なお、本発明においては、生産性の観点から、流通回数を1回とすることが好ましいが、固定床反応器内における合計の滞留時間が、流通回数を1回とした場合とほぼ同等とできるような条件であれば、流通回数を複数回とすることも好ましく(すなわち、流通回数が複数回であり、かつ、合計の滞留時間が、0.3~1.8時間であるような条件とすることも好ましく)、この場合でも、上記と同様の効果を得ることができる。
【0028】
さらに、本発明の製造方法においては、上記の抗酸化化合物の存在下に、炭化水素樹脂を水素化反応させるものであるので、上記のように、炭化水素樹脂を高温に加熱し、溶融させた状態として、炭化水素樹脂を水素化反応させる場合であっても、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制することができ、色相および低臭気性に優れる炭化水素樹脂水素化物を製造することができる。
【0029】
水素化反応を行う際における炭化水素樹脂の温度を調節する方法としては、固定床反応器に導入する炭化水素樹脂を予め加熱しておく方法、固定床反応器内において加熱する方法が挙げられるが、目標とする水添率を有する炭化水素樹脂水素化物を適切に得るという観点より、これらの両方の加熱方法を採用することが望ましい。また、炭化水素樹脂の溶融粘度は、たとえばサーモセル型ブルックフィールド粘度計を使用し、ローターNo.31を使用して測定する。
【0030】
また、水素化反応時における水素圧は、絶対圧力で、0.5~3.0MPaの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.8~2.5MPaの範囲、さらに好ましくは1.0~2.0MPaの範囲である。水素化反応時における水素圧が低過ぎると、水添率が低くなり過ぎてしまい、得られる炭化水素樹脂水素化物の色相が悪化してしまう恐れがある。一方、水素圧が高過ぎると、水素化分解も同時に生じ得られる炭化水素樹脂水素化物の臭気が悪化したり、水添反応の選択性が悪くなり、目的の品質が得られなくなる恐れがある。
【0031】
さらに、炭化水素樹脂水素化物について、水蒸気蒸留などにより、低分子量のオリゴマー成分を除去する処理を行ってもよい。その際の加熱条件は、好ましくは160~350℃、より好ましくは180~320℃である。
【0032】
また、本発明の製造方法により得られる炭化水素樹脂水素化物には、水素化前に添加した上記の抗酸化化合物とは別個に、必要に応じて、酸化防止剤を追加で配合してもよい。
【0033】
<炭化水素樹脂>
次に、本発明で用いる水素化前の炭化水素樹脂について、説明する。本発明で用いる炭化水素樹脂は、不飽和炭化水素を含む単量体混合物を重合することにより得られるものであればよく特に限定されない。
【0034】
炭化水素樹脂を得るために用いられる単量体混合物としては、不飽和炭化水素を少なくとも含むものであればよく、特に限定されないが、脂肪族モノオレフィン、および共役ジエンを少なくとも含むものであることが好ましい。
【0035】
脂肪族モノオレフィンとしては、たとえば、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン、炭素数4~8の非環式モノオレフィンが挙げられる。
【0036】
炭素数4~6の脂環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を1つと非芳香族性の環構造とを有する炭素数4~6の炭化水素化合物である。炭素数4~6の脂環式モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロブテン、メチルシクロペンテンなどが挙げられる。
【0037】
本発明で用いる炭化水素樹脂中における、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは5~35質量%であり、より好ましくは10~33質量%、さらに好ましくは15~32質量%である。炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、水素化後の炭化水素樹脂水素化物を、低臭気性および耐熱性により優れたものとすることができる。
【0038】
炭素数4~6の脂環式モノオレフィンは、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、少なくともシクロペンテンが含まれることが好ましく、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中における、シクロペンテンの占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、環構造を有さない炭素数が4~8の鎖状炭化水素化合物である。炭素数4~8の非環式モノオレフィンの具体例としては、1-ブテン、2-ブテン、イソブチレン(2-メチルプロペン)などのブテン類;1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンなどのペンテン類;1-ヘキセン、2-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテンなどのヘキセン類;1-ヘプテン、2-ヘプテン、2-メチル-1-ヘキセンなどのヘプテン類;1-オクテン、2-オクテン、2-メチル-1-ヘプテン、ジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテンおよび2,4,4-トリメチル-1-ペンテン)などのオクテン類;などが挙げられる。
【0040】
本発明で用いる炭化水素樹脂中における、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは6~28質量%、さらに好ましくは7~26質量%、特に好ましくは8~24質量%である。炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、水素化後の炭化水素樹脂水素化物を、低臭気性および耐熱性により優れたものとすることができる。
【0041】
炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、少なくとも2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンからなる群から選択される少なくとも一種が含まれることが好ましく、炭素数4~8の非環式モノオレフィン中における、2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンの合計量の占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0042】
共役ジエンとしては、炭素数4~6の鎖状共役ジエンが好ましく、その具体例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。
【0043】
本発明で用いる炭化水素樹脂中における、共役ジエン単量体単位の含有量は、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは25~75質量%、さらに好ましくは30~70質量%、特に好ましくは35~65質量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、水素化後の炭化水素樹脂水素化物を、低臭気性および耐熱性により優れたものとすることができる。
【0044】
共役ジエンは、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、少なくとも1,3-ペンタジエンが含まれることが好ましく、共役ジエン中における、1,3-ペンタジエンの占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。なお、1,3-ペンタジエンにおけるシス/トランス異性体比は任意の比でよく、特に限定されない。
【0045】
また、炭化水素樹脂を得るために用いられる単量体混合物としては、脂環式ジオレフィンおよび/または芳香族モノオレフィンをさらに含有するものであってもよい。
【0046】
脂環式ジオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を2つと、非芳香族性の環構造とを有する炭化水素化合物である。脂環式ジオレフィンの具体例としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンの多量体、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンの多量体などが挙げられる。
【0047】
本発明で用いる炭化水素樹脂中における、脂環式ジオレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下、特に好ましくは0.4質量%以下である。
【0048】
芳香族モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有する芳香族化合物である。芳香族モノオレフィンの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、クマロンなどが挙げられる。
【0049】
本発明で用いる炭化水素樹脂中における、芳香族モノオレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは38質量%以下、さらに好ましくは36質量%以下、特に好ましくは34質量%以下である。
【0050】
また、炭化水素樹脂を得るために用いられる単量体混合物としては、上記以外の他の単量体をさらに含有するものであってもよく、このような他の単量体としては、1,2-ブタジエン、1,4-ペンタジエンなどの非環式ジオレフィン;シクロヘプテンなどの炭素数7以上の脂環式モノオレフィン;エチレン、プロピレン、ノネンなどの炭素数3以下または炭素数9以上の非環式モノオレフィン;などが挙げられる。本発明で用いる炭化水素樹脂中における、他の単量体の単位の含有量は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0051】
本発明で用いる炭化水素樹脂は、上述した不飽和炭化水素を含む単量体混合物を重合することにより得られるものであればよく、特に限定されないが、炭化水素樹脂を効率的に得るという観点から、上述した不飽和炭化水素を含む単量体混合物を、ルイス酸触媒を用いて、カチオン重合することにより得られるものが好ましい。この際に用いられるルイス酸触媒としては、特に限定されないが、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒などが挙げられる。
【0052】
フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒としては、特に限定されないが、アルミニウム、鉄、タンタル、ジルコニウム、スズ、ベリリウム、ホウ素、アンチモン、ガリウム、ビスマス、モリブデンなどのハロゲン化物を挙げることができるが、これらのなかでも、塩化アルミニウム(AlCl)や臭化アルミニウム(AlBr)などのハロゲン化アルミニウムが好適である。フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒の添加量は、重合に使用する単量体混合物100質量部に対し、好ましくは、0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0053】
また、不飽和炭化水素を含む単量体混合物の重合に際しては、触媒活性をより高めることができるという点より、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒に加えて、ハロゲン化炭化水素を併用することが好ましい。
【0054】
ハロゲン化炭化水素の具体例としては、t-ブチルクロライド、t-ブチルブロマイド、2-クロロ-2-メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドなどの3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素;ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1-クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3-クロロ-1-プロピン、3-クロロ-1-ブテン、3-クロロ-1-ブチン、ケイ皮クロライドなどの炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素;などが挙げられる。これらのなかでも、触媒活性と取り扱い性とのバランスに優れるという観点より、t-ブチルクロライド、ベンジルクロライドが好ましい。ハロゲン化炭化水素は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。ハロゲン化炭化水素の使用量は、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒に対するモル比で、好ましくは0.05~50の範囲、より好ましくは0.1~10の範囲である。
【0055】
重合反応を行うに当たり、単量体混合物や重合触媒のそれぞれの成分を重合反応器に添加する順序は特に限定されず、任意の順で添加すればよいが、重合反応を良好に制御し、これにより、水素化後の炭化水素樹脂水素化物をより色相に優れたものとするという観点から、単量体混合物と重合触媒の成分の一部とを重合反応器に添加して、重合反応を開始した後に、重合触媒の残部を重合反応器に添加する方法が好ましい。
【0056】
また、炭化水素樹脂を得るために用いる単量体として、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンを使用する場合には、ゲルの生成を防止し、これにより、水素化後の炭化水素樹脂水素化物をより色相に優れたものとするという観点から、重合反応に際しては、まず、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒と、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンとを混合することが好ましい。
【0057】
フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒と混合する炭素数4~6の脂環式モノオレフィンの量は、触媒活性を十分なものとしながら、ゲルの生成をより適切に防止するという観点より、「炭素数4~6の脂環式モノオレフィン:フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒」の質量比で、5:1~120:1の範囲とすることが好ましく、より好ましくは10:1~100:1、さらに好ましくは15:1~80:1の範囲である。
【0058】
フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒と、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンとを混合するに際し、投入順序は特に制限されず、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中にフリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を投入してもよいし、逆に、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒中に炭素数4~6の脂環式モノオレフィンを投入してもよい。混合は通常、発熱をともなうので、適当な希釈剤を用いることもできる。希釈剤としては後述する揮発性溶媒を用いることができる。
【0059】
重合反応をより良好に制御する観点からは、重合反応系に揮発性溶媒を添加して、重合反応を行うことが好ましい。揮発性溶媒の種類は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好適である。飽和脂肪族炭化水素としては、たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、2,2,4-トリメチルペンタンなどの炭素数5~10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5~10の環状飽和脂肪族炭化水素;などが挙げられる。芳香族炭化水素としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6~10の芳香族炭化水素;などが挙げられる。揮発性溶媒は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。揮発性溶媒の使用量は、特に限定されないが、重合に使用する単量体混合物100質量部に対して、好ましくは10~1,000質量部、より好ましくは50~500質量部である。なお、例えば、C5留分に由来するシクロペンタンとシクロペンテンとの混合物のような、付加重合性成分と非付加重合性成分との混合物を重合反応系に添加して、付加重合性成分は単量体混合物の成分として用い、非付加重合性成分は溶媒として用いるようにすることもできる。
【0060】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、好ましくは-20℃~100℃、より好ましくは10℃~70℃である。また、重合反応時間は、適宜選択すればよいが、通常10分~12時間、好ましくは30分~6時間である。
【0061】
重合反応は、所望の重合転化率が得られた時点で、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などの重合停止剤を重合反応系に添加することにより停止することにより、炭化水素樹脂を含む重合体溶液を得ることができる。
【0062】
そして、得られた炭化水素樹脂を含む重合体溶液については、必要に応じて、揮発性溶媒に不溶な触媒残渣をろ過などにより除去する処理や、吸着剤と接触させる吸着剤接触処理を行ってもよい。
【0063】
吸着剤接触処理に用いる吸着剤としては、特に限定されず、化学吸着剤であってもよいし、物理吸着剤であってもよい。化学吸着剤の具体例としては、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛などの亜鉛系吸着剤;酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウムなどのジルコニウム系吸着剤、二酸化マンガンなどのマンガン系吸着剤;塩化コバルトなどのコバルト系吸着剤;塩化銅、酸化銅などの銅系吸着剤;ポリアミン化合物などのアミン系吸着剤;などが挙げられる。物理吸着剤の具体例としては、ケイ酸アルミニウムナトリウムなどの含水アルミノケイ酸塩鉱物群で総称されるゼオライト系吸着剤;二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート、活性アルミナ、酸性白土、活性白土、ドーソナイト類化合物、ハイドロタルサイト類化合物;などが挙げられる。吸着剤は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、臭気の低減効果がより高いという観点より、化学吸着剤を用いることが好ましく、亜鉛系吸着剤を用いることがより好ましく、塩基性炭酸亜鉛を用いることが特に好ましい。
【0064】
吸着剤接触処理において、得られた炭化水素樹脂を含む重合体溶液を、吸着剤に接触させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、容器中において重合体溶液と吸着剤とを共存させて、必要に応じて撹拌することで、接触させるバッチ処理法や、予め充填塔中に吸着剤を充填しておき、これに重合体溶液を流通して接触させる連続処理法などが挙げられる。
【0065】
得られた炭化水素樹脂を含む重合体溶液と吸着剤とをバッチ処理法で接触させる場合の吸着剤の使用量は、特に限定されないが、重合体溶液中に含有される炭化水素樹脂100質量部に対して、通常0.01~5.0質量部、好ましくは0.03~3.0質量部、より好ましくは0.05~2.0質量部である。また、重合体溶液と吸着剤とを接触させる際の温度は、特に限定されないが、通常10℃~70℃の範囲内で選択され、また、処理時間も、特に限定されないが、通常0.1~2時間の範囲内で選択される。また、重合体溶液と吸着剤とをバッチ処理法で接触させる場合には、必要に応じて、吸着剤を除去してもよい。
【0066】
得られた炭化水素樹脂を含む重合体溶液については、さらに、揮発性溶媒および未反応の単量体などの揮発性成分を除去するために、ストリッピング処理を行うことが好ましい。本発明の製造方法において、水素化前の炭化水素樹脂に対して水素化反応を行う際に、予めストリッピング処理を行うことにより揮発性溶媒および未反応の単量体を除いた状態にて水素化反応を行うことにより、水素化反応において未反応の単量体が水素化されてしまうことに起因する、水添率の制御性の低下を有効に抑制できるものである。特に、ルイス酸触媒を用いたカチオン重合により得られる炭化水素樹脂においては、各種特性に優れた炭化水素樹脂を効率的に得ることができるものの、未反応の単量体が、不可避的に1~2割程度含まれてしまい、このような未反応の単量体が水素化されてしまうことにより、水添率にバラツキが生じる等、制御性が低下し、所望の水添率が得難いおそれがある。ストリッピング処理により揮発性溶媒および未反応の単量体を除いた状態にて水素化反応を行うことで、水添率の制御性を高めることができ、これにより、安定的に、しかも効率的に目標の水添率を有する炭化水素樹脂水素化物が得られる。そして、その結果として、色相に一層優れ、より一層低臭気な炭化水素樹脂水素化物を適切に得ることができるものである。
【0067】
なお、ストリッピング処理としては、必要に応じて、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下として、炭化水素樹脂を含む重合体溶液を、好ましくは80~240℃、より好ましくは100~200℃に加熱することにより、揮発性溶媒や未反応の単量体などの揮発性成分を除去する方法が好ましい。この際における、不活性ガスを使用する場合その流量は、0.2~1.0m/(hr・kg)とすることが好ましい。また、ストリッピング処理時間は、好ましくは0.5~24時間である。連続式で流通させてストリッピングさせる場合においては、その滞留時間は0.01~1時間である。なお、加熱により揮発性成分を除去した後、さらに、揮発性成分を除去した炭化水素樹脂に対し、水蒸気蒸留などにより、低分子量のオリゴマー成分を除去する処理を行ってもよい。その際の加熱条件は、好ましくは160~350℃、より好ましくは180~320℃である。
【0068】
ストリッピング処理によって除去されずに炭化水素樹脂中に残留する、未反応の単量体や低分子量のオリゴマーなどの不純物量は、1000質量ppm以下であることが好ましい。不純物量を上記範囲とすることにより、水素化反応時における水添率の制御性を好適に高めることができる。
【0069】
<炭化水素樹脂水素化物>
本発明の製造方法により得られる炭化水素樹脂水素化物の水添率(水素化前の炭化水素樹脂の全非芳香族性炭素-炭素二重結合のうち水素化されたものの割合)は、得られる炭化水素樹脂水素化物を、色相および低臭気性により優れたものとするという観点より、好ましくは3~95%、より好ましくは10~95%、さらに好ましくは20~90%、特に好ましくは30~80%である。水添率は、水素化前の炭化水素樹脂および水素化後の炭化水素樹脂水素化物に含まれる非芳香族性炭素-炭素二重結合量の差から求めることができる。ここで、非芳香族性炭素-炭素二重結合量は、たとえば、H-NMRスペクトル測定により求めることができる。本発明によれば、上記の抗酸化化合物の存在下に水素化反応させることにより、上記の抗酸化化合物が存在しない状態において同一水添率となるまで水素化反応を行った場合と比べて、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化をより効果的に抑制することができるものである。例えば、炭化水素樹脂の水添率が30%以上、好ましくは40%以上となるように水素化反応する場合であっても、重量平均分子量の低下を、水素化前の炭化水素樹脂の重量平均分子量に対して、12%以内、好ましくは10%以内に抑制することができ、炭化水素樹脂の水素化反応による軟化点の低下を、水素化前の炭化水素樹脂の軟化点に対して、5%以内に抑制することができる。
【0070】
また、水素化後の炭化水素樹脂水素化物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~5,000の範囲、より好ましくは1,500~4,500の範囲、さらに好ましくは1,800~4,000の範囲である。また、水素化後の炭化水素樹脂水素化物のZ平均分子量(Mz)は、好ましくは2,500~10,000の範囲、より好ましくは2,500~9,000の範囲、さらに好ましくは3,000~8,000の範囲である。重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)を上記範囲等することにより、たとえば、炭化水素樹脂水素化物をホットメルト粘接着剤組成物用途に用いる場合に、ベースポリマーとの相溶性をより高めることができ、これにより、粘着性能をより高めることができる。
【0071】
なお、炭化水素樹脂水素化物の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0072】
また、炭化水素樹脂水素化物の重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は、好ましくは1.5~2.5の範囲であり、より好ましくは1.6~2.4の範囲、さらに好ましくは1.65~2.35の範囲である。
【0073】
本発明の製造方法により得られる炭化水素樹脂水素化物は、色相および低臭気性に優れるものであり、このような特性を活かし、たとえば、ホットメルト粘接着剤用途など種々の用途に好適に用いることができる。ただし、その用途は、特に限定されるものではない。
【実施例
【0074】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。また、試験および評価は下記に従った。
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0075】
〔重量平均分子量〕
水素化前の炭化水素樹脂と、炭化水素樹脂水素化物について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の重量平均分子量(Mw)求めた。なお、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析は、測定装置として、東ソー社製「HLC-8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0mL/minの流量で測定した。
【0076】
〔軟化点(℃)〕
水素化前の炭化水素樹脂と、炭化水素樹脂水素化物について、JIS K 2207に従って、軟化点(℃)を測定した。
【0077】
〔水添率(%)〕
水素化前の炭化水素樹脂と、炭化水素樹脂水素化物について、H-NMRスペクトル測定を行うことで、非芳香族性炭素-炭素二重結合の量を求め、水素化前後の非芳香族性炭素-炭素二重結合の量の差に基づいて、水添率(%)を測定した。なお、H-NMRスペクトル測定は、溶媒に重クロロホルムを用い、NMR測定装置としてJMN-AL seriesAL400(JEOL社製)を用いて行った。
【0078】
〔ガードナー色数〕
炭化水素樹脂水素化物を用いて、炭化水素樹脂水素化物の50質量%トルエン溶液を調製し、当該溶液のガードナー色数をJIS K 0071-2に従い測定した。ガードナー色数の値が小さいものほど、色相に優れる。
【0079】
〔臭気評価試験〕
炭化水素樹脂水素化物について、におい・かおり環境協会発行の臭気の嗅覚測定法における臭気の嗅覚測定法-5訂に従って、官能試験を行った。
具体的には、まず、1粒の大きさを約10mm×5mm×5mmとした炭化水素樹脂水素化物10gを120mLの耐熱性容器に入れて、アルミ箔でフタをした。そして、この炭化水素樹脂水素化物の入った耐熱性容器を、オーブンに入れて、温度150℃、30分間の条件で加熱し、加熱後の臭気の確認を行った。臭気の確認は、石油樹脂の臭気に慣れていない(すなわち、普段の生活において、石油樹脂の臭気に触れることのない)6人のパネルにより行った。本試験においては、嗅覚疲労を防ぐため、6人のパネルを3人ずつの2班に分けて、1班ずつ臭気を嗅ぐという方法を採用した。また、臭気を嗅ぐサンプルの順番は、無作為とした。
0:無臭
1:やっと認知できる臭い(検知閾値濃度)
2:何の臭いであるか判る弱い臭い(認知閾値濃度)
3:楽に感知できる臭い
4:強い臭い
5:強烈な臭い
なお、官能試験の結果は、6人のパネルの判定値のうち、最大値と最小値をそれぞれ除き、残りの4人の判定値を平均することにより求めた。官能試験の値は、小さいほうが好ましい。
【0080】
〔実施例1〕
重合反応器にシクロペンタン49.5部、およびシクロペンテン12.4部の混合物を重合反応器に仕込み、60℃に昇温した後、塩化アルミニウム0.7部を添加することで、混合物A1を得た。引き続き、1,3-ペンタジエン54.1部、イソブチレン15.3部、スチレン1.8部、シクロペンテン15.2部、C-C不飽和炭化水素1.2部、およびC-C飽和炭化水素9.8部からなる混合物B1と、t-ブチルクロライド0.4部とを、それぞれ、別のラインを通して、60分間に亘り温度を60℃に維持して、上記にて得られた混合物A1を含む重合反応器に連続的に添加しながら重合を行った。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加することで、重合反応を停止した。重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去することで、水素化前の炭化水素樹脂および未反応単量体等を含む重合体溶液を得た。次いで、重合体溶液を蒸留釜に移し、窒素雰囲気下で、150℃にて、1時間加熱することでストリッピング操作を行い、重合溶媒および未反応単量体を除去した後、水素化前の炭化水素樹脂を得た。そして、得られた水素化前の炭化水素樹脂について、上記方法にしたがって、重量平均分子量および軟化点の各試験・評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
なお、得られた水素化前の炭化水素樹脂について、減圧下、150℃にて、0.5時間加熱した際の揮発性溶媒量および未反応単量体量をヘッドスペースガスクロマトグラフにより測定したところ、いずれも検出限界である1000質量ppm以下であった。
【0082】
そして、上記にて得られた水素化前の炭化水素樹脂に、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、商品名「イルガノックス(商標登録)1010」)を、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量が0.1部となるように添加した後、温度220℃に加熱した状態として、多管式熱交換型水素添加反応装置に、水素ガスとともに、炭化水素樹脂の温度を220℃に保った状態のまま連続的に導入することにより、水素化反応を行うことで、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、温度220℃に加熱した状態とした際の水素化前の炭化水素樹脂の溶融粘度(サーモセル型ブルックフィールド粘度計にて、ローターNo.31を使用して測定)は、200mPa・sであり、水素化反応時の水素圧は、絶対圧力で2MPaとした。また、多管式熱交換型水素添加反応装置としては、反応管内に、ニッケル/シリカマグネシア担持型触媒(商品名「N102F」)、日揮触媒化成社製、平均直径:2.8mmφ、平均長さ:2.8mmの円柱状)を充填した多管式熱交換型水素添加反応装置(反応管の内径:25mm、反応管の長さ:3m、反応管の数:1700本)を使用し、反応管内の滞留時間は1.5時間、流通回数は1回とした。
【0083】
次いで、得られた炭化水素樹脂水素化物を、250℃に加熱することで溶融状態として、飽和水蒸気を吹き込み、低分子量のオリゴマー成分の留去を行うことで、実施例1に係る炭化水素樹脂水素化物を得た。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、上記方法にしたがって、水添率、重量平均分子量、軟化点、ガードナー色数、および臭気評価試験の各試験・評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして得られた水素化前の炭化水素樹脂を用い、水素ガスとともに、多管式熱交換型水素添加反応装置に導入する際の温度を220℃から320℃に変更し、炭化水素樹脂の温度を320℃に保った状態のまま連続的に導入することにより、水素化反応を行った以外は、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例2においては、反応管内の滞留時間は0.2時間、流通回数は1回とした。なおまた、温度320℃に加熱した状態とした際の水素化前の炭化水素樹脂の溶融粘度(サーモセル型ブルックフィールド粘度計にて、ローターNo.31を使用して測定)は、120mPa・sであった。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
〔実施例3〕
実施例1において、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.3部とした以外は、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例3においては、反応管内の滞留時間は1.5時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
〔実施例4〕
実施例2において、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.3部とした以外は、実施例2と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例4においては、反応管内の滞留時間は0.2時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
〔実施例5〕
実施例1において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)に変更し、水素化前の炭化水素樹脂100部に対する2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.3部とした以外は、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例5においては、反応管内の滞留時間は1.5時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
〔実施例6〕
実施例2において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)に変更し、水素化前の炭化水素樹脂100部に対する2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.3部とした以外は、実施例2と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例6においては、反応管内の滞留時間は0.2時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
〔実施例7〕
実施例1において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とともに2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)を用い、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.2部とし、2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.1部とした以外は、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例7においては、反応管内の滞留時間は1.5時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
〔実施例8〕
実施例2において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とともに2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)を用い、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.2部とし、2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.1部とした以外は、実施例2と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例8においては、反応管内の滞留時間は0.2時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして得られた水素化前の炭化水素樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加せずに、温度220℃に加熱した状態として、多管式熱交換型水素添加反応装置に、水素ガスとともに、炭化水素樹脂の温度を220℃に保った状態のまま連続的に導入することにより、水素化反応を行うことで、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、温度220℃に加熱した状態とした際の水素化前の炭化水素樹脂の溶融粘度(サーモセル型ブルックフィールド粘度計にて、ローターNo.31を使用して測定)は、200mPa・sであり、水素化反応時の水素圧は、絶対圧力で2MPaとした。また、多管式熱交換型水素添加反応装置としては、反応管内に、ニッケル/シリカマグネシア担持型触媒(商品名「N102F」)、日揮触媒化成社製、平均直径:2.8mmφ、平均長さ:2.8mmの円柱状)を充填した多管式熱交換型水素添加反応装置(反応管の内径:25mm、反応管の長さ:3m、反応管の数:1700本)を使用し、反応管内の滞留時間は1.5時間、流通回数は1回とした。
【0092】
そして、得られた炭化水素樹脂水素化物に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、商品名「イルガノックス(商標登録)1010」)を、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量が0.3部となるように添加し、250℃に加熱することで溶融状態として、飽和水蒸気を吹き込み、低分子量のオリゴマー成分の留去を行うことで、比較例1に係る炭化水素樹脂水素化物を得た。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして得られた水素化前の炭化水素樹脂を用い、水素ガスとともに、多管式熱交換型水素添加反応装置に導入する際の温度を220℃から320℃に変更し、炭化水素樹脂の温度を320℃に保った状態のまま連続的に導入することにより、水素化反応を行った以外は、比較例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、比較例2においては、反応管内の滞留時間は0.2時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
〔比較例3〕
比較例1において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とともに2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)を用い、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.2部とし、2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.1部とした以外は、比較例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、比較例3においては、反応管内の滞留時間は1.5時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
〔比較例4〕
比較例2において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とともに2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)を用い、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.2部とし、2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.1部とした以外は、比較例2と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、比較例4においては、反応管内の滞留時間は0.2時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示すように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで水素化反応させることにより、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制できた。さらに、得られた炭化水素樹脂水素化物は、色相(ガードナー色数)および低臭気性に優れるものであった(実施例1~8)。
【0098】
一方、上記の抗酸化化合物が存在しない状態において、水素化触媒の存在下に炭化水素樹脂を水素と接触させることで水素化反応させた場合には、上記の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで同一の水添率まで水素化反応させた場合と比べて、水素化前後の分子量および軟化点の変化が大きく、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制できなかった(比較例1~4)。
【0099】
〔実施例9〕
実施例1と同様にして得られた炭化水素樹脂を用い、水素ガスとともに、多管式熱交換型水素添加反応装置に導入する際の温度を220℃から160℃に変更し、炭化水素樹脂の温度を160℃に保った状態のまま連続的に導入することにより、水素化反応を行った以外は、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例9においては、反応管内の滞留時間は0.8時間、流通回数は1回とした。なおまた、温度160℃に加熱した状態とした際の水素化前の炭化水素樹脂の溶融粘度(サーモセル型ブルックフィールド粘度計にて、ローターNo.31を使用して測定)は、1200mPa・sであった。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0100】
〔実施例10〕
実施例1と同様にして得られた炭化水素樹脂を用い、得られた水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.3部とし、水素ガスとともに、多管式熱交換型水素添加反応装置に導入する際の温度を220℃から160℃に変更し、炭化水素樹脂の温度を160℃に保った状態のまま連続的に導入することにより、水素化反応を行った以外は、実施例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例10においては、反応管内の滞留時間は0.8時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0101】
〔実施例11〕
実施例9において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)に変更し、水素化前の炭化水素樹脂100部に対する2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.3部とした以外は、実施例9と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例11においては、反応管内の滞留時間は0.8時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0102】
〔実施例12〕
実施例9において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とともに2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)を用い、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.2部とし、2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.1部とした以外は、実施例9と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、実施例12においては、反応管内の滞留時間は0.8時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0103】
〔比較例5〕
実施例1と同様にして得られた炭化水素樹脂を用い、水素ガスとともに、多管式熱交換型水素添加反応装置に導入する際の温度を220℃から160℃に変更し、炭化水素樹脂の温度を160℃に保った状態のまま連続的に導入することにより、水素化反応を行った以外は、比較例1と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、比較例3においては、反応管内の滞留時間は0.8時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0104】
〔比較例6〕
比較例5において、抗酸化化合物として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とともに2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤(ポリ〔{(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、商品名「キマソーブ(登録商標)2020」)を用い、水素化前の炭化水素樹脂100部に対するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0.2部とし、2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤の添加量を0.1部とした以外は、比較例5と同様にして、炭化水素樹脂水素化物を得た。なお、比較例6においては、反応管内の滞留時間は0.8時間、流通回数は1回とした。そして、得られた炭化水素樹脂水素化物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2に示すように、水添率の低い場合においても、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有する抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗酸化化合物並びに水素化触媒の存在下に、炭化水素樹脂を水素と接触させることで水素化反応させることにより、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制しながら、色相および低臭気性に優れる炭化水素樹脂水素化物を製造することができた(実施例9~12)。
【0107】
一方、上記の抗酸化化合物が存在しない状態において、水素化触媒の存在下に炭化水素樹脂を水素と接触させることで水素化反応させた場合には、炭化水素樹脂の水素化反応による分子量および軟化点の変化を抑制できなかった。(比較例5~6)。