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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】発光装置、および蛍光体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/78 20060101AFI20240514BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20240514BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240514BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20240514BHJP
   C09K 11/63 20060101ALI20240514BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20240514BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240514BHJP
【FI】
C09K11/78
C09K11/80
C09K11/64
C09K11/62
C09K11/63
C09K11/66
H01L33/50
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023048219
(22)【出願日】2023-03-24
(62)【分割の表示】P 2022022571の分割
【原出願日】2018-01-30
(65)【公開番号】P2023085381
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2017015524
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017108159
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017155411
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017177506
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】洪 炳哲
(72)【発明者】
【氏名】池宮 桂
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 亜裕子
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/140029(WO,A1)
【文献】P.R.Wamsley et al.,"High pressure optical studies of doped YAG",Journal of Luminescence,1994年,Vol.60&61,PP.188-191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/00-33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体結晶中に付活元素として2価のサマリウム(Sm)および3価のツリウム(Tm)を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長800から1000nmまでの間に発光ピーク波長を有し
前記母体結晶が、下記式(5-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有することを特徴とする、蛍光体:
G1 1-a G2 G3 ・・・(5-1)
ただし、
G1は、アルカリ土類金属元素から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
G2は、SmおよびTmを必須とする、希土類金属元素から選ばれる二つ以上の金属元素を示し、
G3は、B、Al、Ga、Si、GeおよびPから選ばれる二つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0<a<0.2であり、1.5<b<2.5である。
【請求項2】
紫外光または可視光を発する半導体発光素子と、
該半導体発光素子から発せられた紫外光または可視光を吸収し赤外領域で発光する蛍光体とを含む発光装置であり、
該赤外領域で発光する蛍光体は請求項に記載の蛍光体を含み、
該赤外領域で発光する蛍光体の赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでの間にあって、該発光ピークの波形の半値幅が60nm未満であることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
前記赤外領域で発光する蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率(%)が、波長700から800nmまでの間における最小の反射率(%)よりも低く、その差が20%以上である、請求項に記載の発光装置。
【請求項4】
前記半導体発光素子から発せられた紫外光または可視光の発光ピーク波長が、波長300から700nmまでの間にある、請求項2または3に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外発光蛍光体、および半導体発光素子と赤外発光蛍光体とを含む発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外光を発する発光装置として、GaAs系化合物半導体を材料とした赤外線発光ダイオードが知られており、赤外線発光ダイオードはセンサ等の領域で広く利用されている。
しかし、GaAs系化合物半導体発光ダイオードは、温度特性が悪く、汎用性が低い等の問題があった。さらに、GaAs系化合物半導体を材料とした赤外線発光ダイオードは、製造条件の微妙な変化により製品間で発光波長の振れが生じ、所定の発光波長を得るためには、赤外線発光ダイオードの収率が下がり価格が高くなるという問題もあった。そのため、これらの問題を解決し得るより良い赤外発光装置が望まれていた。そこで、汎用性が高いGaN系化合物半導体発光ダイオード素子と赤外発光蛍光体とを組み合わせて赤外発光装置を作製する試みがなされている。
【0003】
特許文献1は、GaN系化合物半導体青色発光ダイオード素子と、青色光を吸収して黄色および赤外光を発するYAG:Ce,Er系蛍光体と、紫外光または可視光を通さないためのフィルタからなる発光装置が開示されている。
また、特許文献2には、光源上に赤外線発光蛍光体材料を使用した赤外線発光LEDが開示されている。具体的には、イットリウムガリウムガーネット(YGG)中に、増感剤としてCrを使用し、発光イオンとしてNd、Yb、Erを使用した赤外線発光蛍光体材料と、660nmで発光するLED素子とを組み合わせた例が示されている。
【0004】
一方で、特許文献3には特定の認証システムに用いられる発光化合物として、磁気特性と赤外発光特性を併せ持つ赤外発光材料YAG:Fe,Erに関する記載がある。
【0005】
また、別の赤外線発光蛍光体の例として、非特許文献1には、LaMgAl1119を母体結晶とし、Cr3+を付活した蛍光体が692nmで発光を呈することが開示されている。
非特許文献2には、LaGaGe16を母体結晶とし、Cr3+を付活した蛍光材料が700nmでの発光を呈する材料として開示されている。
また、別の赤外線発光蛍光体の例として、非特許文献3には、LaMgAl1119を母体結晶とし、Cr3+およびNd3+を共付活した蛍光体が1060nmおよび1080nmで発光を呈することが開示されている。
一方で、非特許文献4には、LaMgAl1119を母体結晶とし、Tm3+およびDy3+を共付活した蛍光材料が450nmおよび570nmでの可視光発光を呈する材料として開示されている。
さらに、非特許文献5には、フッ化ゲルマニウムガラスにCr3+およびTm3+を共付活した赤外線発光材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-233586号公報
【文献】特開2012-531043号公報
【文献】特表2013-508809号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Materials Research Bulletin, 60: 397-400 (2014)
【文献】Optical Materials Express, 6: 1247-1255 (2016)
【文献】Materials Research Bulletin, 74: 9-14 (2016)
【文献】J. Am. Ceram. Soc., 98(3): 788-794 (2015)
【文献】AIP ADVANCES 4, 107145 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された赤外発光蛍光体であるYAG:Ce,Erでは、発光波長が1500nm付近であるため、検出器の受光素子であるSiが検出できる範囲より長波長過ぎて受光しても検出器で検知できないという課題があった。また、本蛍光体は青色でしか励起できないという課題があった。さらに、可視光を強く発する蛍光体を用いているため、赤外光のみが得られる発光装置を作製するためにはフィルタなどの手段を用いる必要があり、発光装置としての構造が複雑になるという課題があった。
【0009】
特許文献2で用いられた赤外線発光蛍光体材料では、すべて波長1000nm以上の領域で発光しており、Si検出器の検出感度が低い波長域で発光するという課題があった。また、増感剤や発光イオンとして蛍光体関連の技術文献で一般的に知られている遷移金属元素と希土類元素の種類が列挙されているだけで、どの増感剤と発光イオンを組み合わせれば目的に合う励起特性と発光特性を有する蛍光体を得ることができるか全く不明である。
【0010】
特許文献3に記載の赤外発光材料では、Feといった磁気特性を併せ持つための元素がホスト格子に非常に多く含まれており、発光特性が著しく低下するという課題があった。また、Erの発光は1500nm付近であるため、前述したように検出器の検出範囲より長波長過ぎて検出器で検知できない課題があった。
【0011】
非特許文献1および2に記載の赤外発光蛍光体では、発光波長が692nmおよび700nmであるため、可視光との区別がつきにくいという課題があった。従来知られているCr3+を付活イオンとする蛍光体は、通常、可視光発光の影響を受けず、Si検出器での検知に適した波長域での発光を呈するものは知られておらず、赤外発光装置に適した蛍光体とは言えなかった。
【0012】
非特許文献3に記載の赤外発光蛍光体では、その発光波長が1000nm以上であるため、検出器の受光素子であるSiが検出できる範囲より長波長過ぎて受光しても検出器で検知できないという課題があった。
【0013】
非特許文献4に記載の発光材料は、その発光波長が450nm、570nmであり、紫外励起して可視発光する白色用途の発光材料であるために、青色発光ダイオードなどと組み合わせた可視励起ができず、さらに赤外発光用途に使えない。
【0014】
非特許文献5に記載の赤外発光材料では、その発光波長が1500nm、1800nmであるため、検出器の受光素子であるSiが検出できる範囲より長波長過ぎて受光しても検出器で検知できないという課題があった。さらに、母体としてガラスを用いているため、単一結晶における、結晶構造内での付活イオンの挙動が予測できない。よって、他の単一結晶を母体とした場合の、これらの付活イオンの組合せによる励起特性と発光特性は予測できない。
【0015】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、Si検出器の感度が高い波長域で発光する新規な赤外発光蛍光体、および紫外光または可視光の波長域で発光する半導体
発光素子と該赤外発光蛍光体とを含む赤外発光装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Si検出器の感度が高い波長域で赤外発光する赤外発光蛍光体であり、紫外、青色、緑色、赤色のいずれの半導体発光素子からの発光によっても励起される赤外発光蛍光体を発見し、これにより上記課題を解決しうることを見出して本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の[1]~[22]に存する。
〔1〕紫外光または可視光を発する半導体発光素子と、該半導体発光素子から発せられた紫外光または可視光を吸収し赤外領域で発光する蛍光体とを含む発光装置であり、該赤外領域で発光する蛍光体の赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでの間にあって、該発光ピークの波形の半値幅が60nm未満であることを特徴とする発光装置。
〔2〕前記赤外領域で発光する蛍光体が、付活元素として、少なくともTmまたはCrを含む、〔1〕に記載の発光装置。
〔3〕前記赤外領域で発光する蛍光体が、付活元素として、少なくともTmを含み、さらに希土類金属元素および遷移金属元素からなる群から選ばれる元素のうち少なくとも一つの元素を含む、〔1〕または〔2〕に記載の発光装置。
〔4〕前記希土類金属元素および遷移金属元素からなる群から選ばれる少なくとも一つの元素が、Cr、Mn、SmおよびCuのうち少なくとも一つの元素である、〔3〕に記載の発光装置。
〔5〕前記希土類金属元素および遷移金属元素からなる群から選ばれる少なくとも一つの元素がCrである、〔4〕に記載の発光装置。
〔6〕前記赤外領域で発光する蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率(%)が、波長700から800nmまでの間における最小の反射率(%)よりも低く、その差が20%以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の発光装置。
〔7〕前記半導体発光素子から発せられた紫外光または可視光の発光ピーク波長が、波長300から700nmまでの間にある、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の発光装置。
〔8〕下記式(1-2)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から950nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする、蛍光体。
(M1a-bM2(M3c-dM412 ・・・(1-2)
ただし、M1は、希土類金属元素(ただし、TmおよびScを除く。)およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、M2は、Tmを必須とする、前記希土類金属元素としてのM1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、Scを除く。)を示し、M3は、B、Al、Ga、In、Sc、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、およびHfから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、M4は、CrおよびMnから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、Oは、酸素を示し、0<a<1、0<b≦0.5、0<c<1、0<d≦0.5である。
〔9〕前記結晶相がガーネット構造を有する結晶相である、〔8〕に記載の蛍光体。
〔10〕下記式(2-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から950nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする、蛍光体。
(A11-aA2(A31-bA4 ・・・(2-1)
ただし、A1は、Tm以外の希土類金属元素およびMg以外のアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、A2は、TmまたはNdを必須とする、前記希土類金属元素としてのA1とは異なる一つ以上の金属元素を示し、A3は、Mg、Co、およびZnから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、A4は、CrまたはMnを必須とする、Cr、Mn、Ni、Fe、およびCuから選ばれる一つ以上の金属元素と、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、およびHfから選ばれる一つ以
上の金属元素とを含む、二つ以上の金属元素を示し、Oは、酸素を示し、0<a≦0.5、0<b≦0.75である。
〔11〕前記結晶相がダブルペロブスカイト構造を有する結晶相である、〔10〕に記載の蛍光体。
〔12〕前記式(2-1)において、A4がMnおよびGeを含む二つ以上の金属元素である、〔10〕または〔11〕に記載の蛍光体。
〔13〕下記式(3-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から1000nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする、蛍光体。
(D11-a―bD2D3)(D41-aD511+a-cD6)O19 ・・・(3-1)
ただし、D1は、希土類金属元素(ただし、TmおよびScを除く。)から選ばれる一つ以上の希土類金属元素を示し、D2は、Ca、Sr、およびBaから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、D3は、Tmを必須とする、希土類金属元素としてのD1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、Scを除く。)を示し、D4は、MgおよびZnから選ばれる一つ以上の金属元素を含み、D5は、Al、Ga、In、およびScから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、D6は、Cr、Mn、Ni、Fe、およびCuから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、Oは、酸素を示し、0≦a≦0.99、0<b≦0.2、0<c≦2.2である。
〔14〕前記結晶相がマグネットプランバイト構造を有する結晶相である、〔13〕に記載の蛍光体。
〔15〕前記式(3-1)において、D6が少なくともCrを含む、〔13〕または〔14〕に記載の蛍光体。
〔16〕下記式(4-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長700から1000nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする、蛍光体。
E1(E21-aE315 ・・・(4-1)
ただし、E1は、希土類金属元素、ならびにCa、Sr、およびBaからなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、E2は、Al、Ga、In、Sc、Y、Ti、Zr、Si、Ge、Sn、Mg、Zn、V、Nb、Ta、Mo、およびWから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、E3は、遷移金属元素から選ばれる、E2とは異なる一つ以上の金属元素を示し、Oは、酸素を示し、0<a<0.2である。
〔17〕前記結晶相が六方晶ペロブスカイト構造を有する結晶相である、〔16〕に記載の蛍光体。
〔18〕前記式(4-1)において、E2が少なくともAlを含む、〔16〕または〔17〕に記載の蛍光体。
〔19〕前記式(4-1)において、E3が少なくともCrを含む、〔16〕~〔18〕のいずれかに記載の蛍光体。
〔20〕母体結晶中に付活元素として2価のサマリウム(Sm)および3価のツリウム(Tm)を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長800から1000nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする、蛍光体。
〔21〕前記母体結晶が、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素、B、Al、Ga、Si、Ge、およびPから選ばれる一つ以上の金属元素、並びに、O、F、Cl、およびBrから選ばれる一つ以上の元素をさらに含む、〔20〕に記載の蛍光体。
〔22〕前記母体結晶が、下記式(5-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有する、〔20〕または〔21〕に記載の蛍光体。
G11-aG2G3 ・・・(5-1)
ただし、G1は、アルカリ土類金属元素から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、G2は、SmおよびTmを必須とする、希土類金属元素から選ばれる二つ以上の金属元素を示
し、G3は、B、Al、Ga、Si、GeおよびPから選ばれる二つ以上の金属元素を示し、Oは、酸素を示し、0<a<0.2であり、1.5<b<2.5である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Si検出器の検出感度が高い波長域で発光する新規な赤外発光蛍光体、具体的には、赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでの間にあって、該発光ピークの波形の半値幅が60nm未満である新規な赤外発光蛍光体、および紫外光または可視光の波長域で発光する半導体発光素子と該赤外発光蛍光体とを含む赤外発光装置を提供しうる。また、フィルタなどの複雑な構成をとらずとも所望の赤外発光のみが得られる発光装置を提供することができる。
前記赤外発光蛍光体は、所望の赤外波長を発光し、それ以外の波長の発光が極めて少ない蛍光体であるため、発光効率の高い蛍光体である。加えて、赤外発光蛍光体の発光波長は付活元素の種類で決まり、変化しないので、該赤外発光蛍光体を発光装置に用いた場合に、発光装置間で波長の振れを生ずることなく、所定の発光波長で発光する赤外発光装置を安価で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1-1】実施例1-1および比較例1-1の蛍光体の発光スペクトルを示す。
図1-2】実施例1-1および比較例1-1の蛍光体の励起スペクトルを示す。
図1-3】実施例1-1の蛍光体のXRDパターンを示す。
図1-4】実施例1-2の発光スペクトルを示す。
図2-1】実施例2-1および比較例2-1の蛍光体の発光スペクトルを示す。
図2-2】実施例2-1および比較例2-1の蛍光体の励起スペクトルを示す。
図2-3】実施例2-1の蛍光体のXRDパターンを示す。
図2-4】実施例2-2の蛍光体の発光スペクトルを示す。
図2-5】実施例2-2の蛍光体の励起スペクトルを示す。
図2-6】実施例2-2の蛍光体のXRDパターンを示す。
図2-7】実施例2-3の発光装置の発光スペクトルを示す。
図2-8】実施例2-4の発光装置の発光スペクトルを示す。
図3-1】実施例3-1の蛍光体の発光スペクトルを示す。
図3-2】実施例3-1の蛍光体の励起スペクトルを示す。
図3-3】実施例3-1の蛍光体のXRDパターンを示す。
図4-1】実施例4-1の蛍光体の発光スペクトルを示す。
図4-2】実施例4-1の蛍光体の励起スペクトルを示す。
図4-3】実施例4-1の蛍光体のXRDパターンを示す。
図5-1】実施例5-1の蛍光体の励起スペクトル(点線)と発光スペクトル(実線)を示す。
図5-2】実施例5-1の蛍光体のXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。
【0020】
{蛍光体}
本発明の第一の実施態様に係る蛍光体は、半導体発光素子から発せられた紫外光または可視光を吸収し赤外領域で発光する赤外蛍光体であり、赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでの間にあることを特徴とする。尚、本明細書では、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を「赤外蛍光体」や「赤外発光蛍光体」と称することがある。
ここで、赤外領域における発光ピークとは、波長730nmから1000nmまでの間における発光ピークのうち最も大きい発光ピークを意味する。よって、赤外領域における発光ピーク波長とは、波長730nmから1000nmまでの間における発光ピークのうち最も大きい発光ピークを生ずる波長を意味する。
また、本明細書において紫外光とは、波長400nm未満の光を意味し、可視光とは、波長400nm~700nmの光を意味する。
【0021】
[発光スペクトル]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体は、ピーク波長300nm以上、700nm以下または650nm以下の光で励起して発光スペクトルを測定した場合に、以下の特徴を有することが好ましい。尚、該ピーク波長とは、波長300nm以上、700nm以下または650nm以下までの間における発光ピークのうち最も大きい発光ピークを生ずる波長をいう。
【0022】
上述の発光スペクトルにおける発光ピーク波長λp(nm)は、通常700nm以上、好ましくは730nm以上、より好ましくは750nm以上、それより好ましくは770nm以上、更に好ましくは780nm以上、よりさらに好ましくは800nm以上、また通常1000nm以下、好ましくは950nm以下、より好ましくは940nm以下、更に好ましくは930nm以下、より更に好ましくは900nm以下、なおより更に好ましくは880nm以下、格段に好ましくは870nm以下、より格段に好ましくは850nm以下である。
上記範囲内であると、好適な赤外発光を有する点で好ましい。
【0023】
また第一の実施態様に係る赤外蛍光体は、赤外領域における発光ピークの波形の半値幅が、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは60nm以下、より更に好ましくは60nm未満、なおより更に好ましくは50nm以下、また好ましくは1nm以上の範囲である。
赤外領域における発光ピークの波形の半値幅が、上記範囲内であると、赤外蛍光体から発せられた赤外発光を検出する受光素子との整合性が高い傾向にあるため好ましい。加えて、所望の発光波長での発光強度が特に高くなる傾向にあるため好ましい。
【0024】
なお、上記の赤外蛍光体をピーク波長300nm以上、700nm以下または650nm以下の光で励起するには、例えば、キセノン光源を用いることができる。また第一の実施態様で得られる蛍光体の発光スペクトルの測定は、例えば、蛍光分光光度計F-4500やF-7000(日立製作所製)等を用いて行うことができる。赤外領域における発光ピーク波長および発光ピークの波形の半値幅は、得られる発光スペクトルから算出することができる。
赤外領域における発光ピークの波形の半値幅は、波長700から1000nmまでの間における発光ピークのうち最も大きい発光ピークの波形の半値幅を測定すればよいが、該最も大きい発光ピークが複数のピークと重なって観察される場合には、該最も大きい発光ピークに対して半値になる波長2点間を半値幅とする。たとえば、図1-1の実施例1-1の蛍光体の発光スペクトルにおいては、794nmにピークトップを有するピーク(黒色の三角で示したピーク)が該最も大きい発光ピークとなるところ、該発光ピークの半値(黒色の丸で示した点)となる波長の782.8nmと832.4nmとの2点間を測定して半値幅として算出した。
【0025】
[励起スペクトル]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体は、通常300nm以上、好ましくは350nm以上、より好ましくは400nm以上、また、通常700nm以下、好ましくは650nm以下、より好ましくは600nm以下、更に好ましくは550nm以下の波長範囲に励起ピークを有する。即ち、近紫外から赤色領域ないし深赤色領域の光で励起される。
【0026】
[量子効率・吸収効率]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体における外部量子効率(η)は、通常3%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上、更に好ましくは25%以上、より更に好ましくは40%以上、なおより更に好ましくは50%以上である。外部量子効率は高いほど蛍光体の発光効率が高くなるため好ましい。
第一の実施態様に係る赤外蛍光体における内部量子効率(η)は、通常5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上、より更に好ましくは30%以上、なおより更に好ましくは50%以上、格段に好ましくは70%以上、より格段に好ましくは90%以上である。内部量子効率は、赤外蛍光体が吸収した励起光の光子数に対する発光した光子数の比率を意味する。このため、内部量子効率が高いほど赤外蛍光体の発光効率や発光強度が高くなるため好ましい。
【0027】
第一の実施態様に係る赤外蛍光体における吸収効率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上、より更に好ましくは40%以上、なおより更に好ましくは50%以上、格段に好ましくは60%以上である。吸収効率が高いほど、蛍光体の発光効率が高く、赤外蛍光体の使用量が少なくなるため好ましい。
【0028】
[組成]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体は、所望の発光ピーク波長を有していれば、特にその組成は限定されない。なお、赤外蛍光体の組成は、一般的に知られる手法で確認することができる。例えば、蛍光X線分析、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析、X線光電子分光分析などが挙げられる。
第一の実施態様に係る赤外蛍光体として、赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでとするためには、付活元素として、希土類金属元素および遷移金属元素から選ばれる元素を含むことが好ましく、より好ましくは希土類金属元素および遷移金属元素から選ばれる元素のうち少なくとも2つ以上の元素を含むことである。これは、半導体発光素子から発せられる紫外光または可視光を励起光として赤外蛍光体が発光する場合に、1種の付活元素のみでは所望の発光波長まで長波長化することが困難であることによる。そのため、付活元素として、増感剤として働く元素と、増感剤から供給されるエネルギーによって励起されて発光する発光イオンとして働く元素とを組み合わせて用いることが好ましい。また、付活元素としてTm、Cr、およびSmのうち少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。
また、特に赤外領域における発光ピークの波形の半値幅を狭くして、所望の発光波長での発光強度が特に高い蛍光体を得やすいことから、以下の増感剤および発光イオンとして働く付活元素の中から適宜組み合わせることが好ましい。これにより、半導体発光素子からの励起エネルギーを損失することなく、発光効率の高い赤外蛍光体とすることができる。増感剤として働く元素としては、例えばCe、Eu、Cr、Mn、Cu、Smなどが挙げられる。また、発光イオンとして働く元素としては、例えばTm、Nd、Cr、Smなどが挙げられる。赤外蛍光体の発光ピークの波長の観点から、付活元素として、少なくともツリウム(Tm)を含み、さらに希土類金属元素および遷移金属元素から選ばれる元素のうち少なくとも1つの元素を含むことがより好ましい。これはTmが発光イオンとして働く元素として好ましいためである。
【0029】
また、Tm以外の付活元素が、Cr、Mn、SmおよびCuのうち少なくとも1つの元素であることが好ましい。これらの元素は、紫外光から可視光の光を吸収し、Tmが発光イオンとして働くための増感剤として特に好ましく、Tmとの組み合わせにより高効率でエネルギー遷移が可能である。これらの中で付活元素が、TmとCrであることが最も好ましい組合せである。
【0030】
[結晶構造]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体は、上記の記載に基づいて適切な元素を選択すれば、赤外蛍光体の結晶相を構成する格子結晶の元素の種類・組成や結晶構造に関わらず、所望の発光ピーク波長を有するように調整することができる。
第一の実施態様に係る赤外蛍光体は、結晶相として、種々の結晶構造を有することができ、例えば、ぺロブスカイト構造、ダブルぺロブスカイト構造、六方晶ぺロブスカイト構造、ガーネット構造、マグネットプランバイト構造等が挙げられる。
【0031】
[反射率]
波長変換効率の観点から、第一の実施態様に係る赤外領域で発光する蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率(%)は、波長700から800nmまでの間における最小の反射率(%)よりも低く、二つの最小の反射率の差は、通常20%以上、好ましくは30%以上であり、より好ましくは50%以上である。また、通常90%より小さい。
【0032】
[好ましい態様1-1]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体として、下記式(1-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から950nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする蛍光体が挙げられる。該結晶相は、ガーネット構造を有する結晶相であることが好ましい。
(M1a-bM2(M3c-dM412 ・・・(1-1)
ただし、
M1は、希土類金属元素(ただし、TmおよびScを除く。)およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
M2は、前記希土類金属元素としてのM1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、Scを除く。)を示し、
M3は、B、Al、Ga、In、Sc、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、およびHfから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
M4は、Cr、Mn、Fe、Ni、およびCuから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0<a<1、0<b≦0.5、0<c<1、0<d≦0.5である。
【0033】
M1は、希土類金属元素(ただし、ツリウム(Tm)およびスカンジウム(Sc)を除く。)およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を表す。
希土類金属元素としては、イットリウム(Y)、ランタン(La)等が挙げられるが、原料の安さの理由から、少なくともYを含むことが好ましく、M1の50モル%以上がYであることがより好ましく、M1の80モル%以上がYあることがさらに好ましい。
アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が挙げられる。
尚、M1は、本態様に係る赤外蛍光体としての効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などが挙げられる。
【0034】
M2は、前記希土類金属元素としてのM1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、スカンジウム(Sc)を除く。)を表す。このような希土類金属元素としては、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、ツリウム(Tm)が挙げられ、M1と異なる元素であれば特に限定されないが、赤外発光する理由から少なくとも、Tmを含むことが好ましく、M2の10モル%以上がTmであることがより好ましく、M2の50モル%以上がTmであることがさらに好ましい。
【0035】
M3は、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スカンジウム(Sc)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)から選ばれる一つ以上の金属元素を示す。増感剤を付活しやすい理由から、少なくともAlまたはGaを含むことが好ましく、M3の10モル%以上がAlおよび/またはGaであることがより好ましく、AlまたはGaであることがさらに好ましい。
【0036】
M4は、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、および銅(Cu)から選ばれる一つ以上の金属元素を示す。紫外光、可視光を吸収しやすい理由から、少なくともCrまたはMnを含むことが好ましく、M4の10モル%以上がCrおよび/またはMnであることが好ましく、CrまたはMnであることがさらに好ましい。また、Feなどの磁気特性を有する金属元素が50モル%以下であることが好ましい。
【0037】
Oは、酸素を示し、本態様に係る赤外蛍光体の効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、硫黄(S)、窒素(N)などが挙げられる。
【0038】
aは、M1の含有量を表し、その範囲は、通常0<a<1であり、下限値は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、また上限値は、好ましくは0.999以下、より好ましくは0.990以下である。
bは、M2の含有量を表し、その範囲は、通常0<b≦0.5であり、下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、また上限値は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下である。
cは、M3の含有量を示し、その範囲は、通常0<c<1であり、下限値は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、また上限値は、好ましくは0.999以下、より好ましくは0.990以下である。
dは、M4の含有量を示し、その範囲は、通常0<d≦0.5であり、下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、また上限値は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下である。
【0039】
[好ましい態様1-2]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体の他の好ましい態様として、下記式(1-2)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から950nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする蛍光体が挙げられる。該結晶相は、ガーネット構造を有する結晶相であることが好ましい。
(M1a-bM2(M3c-dM412 ・・・(1-2)
ただし、
M1は、希土類金属元素(ただし、TmおよびScを除く。)およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
M2は、Tmを必須とする、前記希土類金属元素としてのM1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、Scを除く。)を示し、
M3は、B、Al、Ga、In、Sc、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、およびHfか
ら選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
M4は、CrおよびMnから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0<a<1、0<b≦0.5、0<c<1、0<d≦0.5である。
【0040】
本態様では、下記M2及びM4の説明を除き、上記「好ましい態様1-1」の説明を援用する。
M2は、ツリウム(Tm)を必須とする、前記希土類金属元素としてのM1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、スカンジウム(Sc)を除く。)を表す。
このような希土類金属元素としては、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)が挙げられ、M1と異なる元素であれば特に限定されないが、赤外発光する理由からTmを必須とし、M2の10モル%以上がTmであることがより好ましく、M2の50モル%以上がTmであることがさらに好ましい。
M4は、クロム(Cr)およびマンガン(Mn)から選ばれる一つ以上の金属元素を示す。紫外光、可視光を吸収しやすい理由から、少なくともCrまたはMnを含むことが好ましく、M4の10モル%以上がCrおよび/またはMnであることが好ましく、CrまたはMnであることがさらに好ましい。また、鉄(Fe)などの磁気特性を有する金属元素が50モル%以下であることが好ましい。
【0041】
[好ましい態様1-3]
上記好ましい態様1-2に係る蛍光体は、前記式(1-2)においてM2がTmであることがより好ましい。すなわち、下記式(1-3)で表される化学組成であって、ガーネット構造を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から950nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする、Tm3+付活赤外蛍光体である。
(M1a-bM2(M3c-dM412 ・・・(1-3)
ただし、
M1は、希土類金属元素(ただし、TmおよびScを除く。)およびアルカリ土類金属元素から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
M2は、Tmを示し、
M3は、B、Al、Ga、In、Sc、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、およびHfから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
M4は、CrおよびMnの中から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0<a<1、0<b≦0.5、0<c<1、0<d≦0.5である。
【0042】
本態様では、下記M2及びM4の説明を除き、上記「好ましい態様1-1」の説明を援用する。
M2は、Tmを示す。付活元素としてTmを有することにより、波長750から950nmまでの間に発光ピークを有する、高品質の赤外蛍光体を得ることができる。
M4は、クロム(Cr)およびマンガン(Mn)の中から選ばれる一つ以上の金属元素を示す。M4の10モル%以上がCrであることがより好ましく、Crであることがさらに好ましい。CrおよびMnは、紫外光または可視光における吸収が強く、Tmが発光イオンとして働くための増感剤として特に好ましく、Tmとの組み合わせにより高効率でエネルギー遷移が可能である。
【0043】
[好ましい態様2-1]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体の他の好ましい態様として、下記式(2-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から950nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする蛍光体が挙げられる。該
結晶相は、ダブルペロブスカイト構造を有する結晶相であることが好ましい。
(A11-aA2(A31-bA4 ・・・(2-1)
ただし、
A1は、Tm以外の希土類金属元素およびMg以外のアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
A2は、TmまたはNdを必須とする、前記希土類金属元素としてのA1とは異なる一つ以上の金属元素を示し、
A3は、Mg、Co、およびZnから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
A4は、CrまたはMnを必須とする、Cr、Mn、Ni、Fe、およびCuから選ばれる一つ以上の金属元素と、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、およびHfから選ばれる一つ以上の金属元素とを含む、二つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0<a≦0.5、0<b≦0.75である。
【0044】
A1は、ツリウム(Tm)以外の希土類金属元素およびマグネシウム(Mg)以外のアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を表す。
ツリウム(Tm)以外の希土類金属元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)等が挙げられるが、原料の安さの理由から、少なくともLaを含むことが好ましく、A1の50モル%以上がLaであることがより好ましく、A1の80モル%以上がLaあることがさらに好ましく、A1がLaであることが特に好ましい。
Mg以外のアルカリ土類金属元素としては、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が挙げられる。
尚、A1は、本態様に係る赤外蛍光体としての効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などが挙げられる。
【0045】
A2は、少なくともツリウム(Tm)またはネオジニュウム(Nd)を必須とする、前記希土類金属元素としてのA1とは異なる一つ以上の金属元素を表す。付活元素としてTmまたはNdを有することにより、波長750から950nmまでの間に発光ピークを有する、高品質の赤外蛍光体を得ることができる。さらに、付活元素としてセリウム(Ce)やユーロピウム(Eu)などの、前記希土類金属元素としてのA1とは異なる一つ以上の金属元素を含む場合には、これらが増感剤として働き、所望の波長での発光を強めることができる。
【0046】
A3は、マグネシウム(Mg)、コバルト(Co)、および亜鉛(Zn)から選ばれる一つ以上の金属元素を示す。重金属でなく毒性が低い理由から、少なくともMgまたはZnを含むことが好ましく、A3の10モル%以上がMgおよび/またはZnであることがより好ましく、MgまたはZnであることがさらに好ましく、Mgであることが特に好ましい。
【0047】
A4は、クロム(Cr)またはマンガン(Mn)を必須とする、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)および銅(Cu)から選ばれる一つ以上の金属元素と、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)から選ばれる一つ以上の金属元素とを含む、二つ以上の金属元素を表す。
【0048】
A4が少なくとも付活元素としてCrまたはMnを含むことにより、増感剤として働き、波長750から950nmまでの間での発光ピーク強度を高めることができる。Crお
よびMnは、紫外光または可視光における吸収が強く、Tmが発光イオンとして働くための増感剤として特に好ましく、Tmとの組み合わせにより高効率でエネルギー遷移が可能である。A4はCrまたはMnを含むことが好ましく、Mnを含むことがさらに好ましい。また、A4におけるCrおよびMnの含有率は、CrおよびMnの総量で、0.1モル%以上であることが好ましく、0.2モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
さらに、A4は、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、およびHfから選ばれる一つ以上の金属元素を含むことにより、増感剤を付活しやすい母体結晶を構成することができる。より増感剤を付活しやすいとの理由から、A4はGeまたはTiを含むことが好ましく、Geを含むことがさらに好ましい。また、A4におけるGeおよびTiの含有率は、GeおよびTiの総量で、10モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。
したがって、A4は、MnおよびGeを含む、二つ以上の金属元素であることが好ましい。
【0050】
Ni、Fe、Cuも、増感剤として働く付活元素である。
A4における付活元素(Cr、Mn、Ni、Fe、Cu)と母体結晶を構成する金属元素(B、Al、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Zr、Hf)とのモル比は、好ましくは0.1:99.9~50:50であり、更に好ましくは0.2:99.8~20:80であり、特に好ましくは0.5:99.5~10:90である。
【0051】
Oは、酸素を示し、本態様に係る赤外蛍光体の効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、硫黄(S)、窒素(N)などが挙げられる。
【0052】
aは、A2の含有量を表し、その範囲は、通常0<a≦0.5であり、下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、また上限値は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下である。
bは、A4の含有量を示し、その範囲は、通常0<b≦0.75であり、下限値は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.4以上、また上限値は、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下である。
【0053】
[好ましい態様3-1]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体の他の好ましい態様として、下記式(3-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から1000nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする蛍光体が挙げられる。該結晶相は、マグネットプランバイト構造を有する結晶相であることが好ましい。
(D11-a―bD2D3)(D41-aD511+a-cD6)O19 ・・・(3-1)
ただし、
D1は、希土類金属元素(ただし、TmおよびScを除く。)から選ばれる一つ以上の希土類金属元素を示し、
D2は、Ca、Sr、およびBaから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
D3は、Tmを必須とする、希土類金属元素としてのD1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、Scを除く。)を示し、
D4は、MgおよびZnから選ばれる一つ以上の金属元素を含み、
D5は、Al、Ga、In、およびScから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
D6は、Cr、Mn、Ni、Fe、およびCuから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0≦a≦0.99、0<b≦0.2、0<c≦2.2である。
【0054】
D1は、希土類金属元素(ただし、TmおよびScを除く。)から選ばれる一つ以上の金属元素を表す。ツリウム(Tm)およびスカンジウム(Sc)以外の希土類金属元素としては、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、ランタン(La)等が挙げられるが、原料の安さの理由から、少なくともLaを含むことが好ましく、D1の50モル%以上がLaであることがより好ましく、D1の80モル%以上がLaあることがさらに好ましく、D1がLaであることが特に好ましい。
尚、D1は、本態様に係る赤外蛍光体としての効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などが挙げられる。
【0055】
D2は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)から選ばれる一つ以上の金属元素を表す。単一相の結晶相になりやすい理由から、少なくともCaまたはSrを含むことが好ましく、D2の10モル%以上がCaおよび/またはSrであることがより好ましく、D2の50モル%以上がCaまたはSrであることがさらに好ましい。
【0056】
D3は、ツリウム(Tm)を必須とする、希土類金属元素としてのD1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、スカンジウム(Sc)を除く。)を示す。付活元素としてTmを有することにより、波長750から1000nmまでの間に発光ピークを有する、高品質の赤外蛍光体を得ることができる。希土類金属元素としてのD1とは異なる一つ以上の希土類金属元素(ただし、Scを除く。)としては、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジニュウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。付活元素として、Tm以外にこのような元素を含む場合には、これらが増感剤として働き、所望の波長での発光を強めることができる。
【0057】
D4は、マグネシウム(Mg)および亜鉛(Zn)から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、D4の10モル%以上がMgであることがより好ましく、50モル%以上がMgであることがさらに好ましく、D4がMgであることが特に好ましい。
【0058】
D5は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、およびスカンジウム(Sc)から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、D5の10モル%以上がAlであることがより好ましく、50モル%以上がAlであることがさらに好ましく、D5がAlであることが特に好ましい。
【0059】
D6は、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)および銅(Cu)から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、D6の10モル%以上がCrまたはMnであることがより好ましく、20モル%以上がCrまたはMnであることが好ましく、50モル%以上がCrまたはMnであることが特に好ましい。
【0060】
Oは、酸素を示し、本態様に係る赤外蛍光体の効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、硫黄(S)、窒素(N)などが挙げられる。
【0061】
aは、D2の含有量を表し、その範囲は、通常0≦a≦0.99であり、下限値は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、また上限値は、好ましくは0.98
以下、より好ましくは0.9以下である。
bは、D3の含有量を示し、その範囲は、通常0<b≦0.2であり、下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、また上限値は、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下である。
cは、D6の含有量を示し、その範囲は、通常0<c≦2.2であり、下限値は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、また上限値は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下である。
【0062】
[好ましい態様4-1]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体の他の好ましい態様として、下記式(4-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長700から1000nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする蛍光体が挙げられる。該結晶相は、六方晶ペロブスカイト型構造を有する結晶相であることが好ましい。
E1(E21-aE315 ・・・(4-1)
ただし、
E1は、希土類金属元素、ならびにCa、Sr、およびBaからなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
E2は、Al、Ga、In、Sc、Y、Ti、Zr、Si、Ge、Sn、Mg、Zn、V、Nb、Ta、Mo、およびWから選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
E3は、遷移金属元素から選ばれる、E2とは異なる一つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0<a<0.2である。
【0063】
E1は、希土類金属元素、ならびにカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)からなる群から選ばれる一つ以上の金属元素を表す。希土類金属元素としては、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)等が挙げられるが、原料の安さの理由から、少なくともLaを含むことが好ましく、E1の40モル%以上がLaであることがより好ましく、E1の60モル%以上がLaであることがさらに好ましく、E1がLaであることが特に好ましい。
尚、E1は、本態様に係る赤外蛍光体としての効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などが挙げられる。
【0064】
E2は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、およびタングステン(W)から選ばれる一つ以上の金属元素を表す。
E2の10モル%以上がAlであることがより好ましく、E2の20モル%以上がAlであることがさらに好ましく、E2の25モル%以上がAlであることが特に好ましい。
また、E2の10モル%以上がTiであることがより好ましく、E2の30モル%以上がTiであることがさらに好ましく、E2の50モル%以上がTiであることが特に好ましい。
また、E2の50モル%以上がAlおよびTiであることが好ましく、E2の70モル%以上がAlおよびTiであることがより好ましく、E2の90モル%以上がAlおよびTiであることがさらに好ましい。
付活元素として働く元素がCr3+のように3価である場合には、Alの一部を置き換えることによって付活元素が導入されることから、E2においてAlが占める割合がTiよりも多いことが好ましい。ただし、結晶相の生成のしやすさなどの理由から、Tiが占める割合がAlよりも多い場合があってもよい。
なお、電荷補償の点から、上記の好ましい比率において、Alの一部をGa、In、Sc、Yが、Tiの一部をZr、Si、Ge、Snと置き換えて考えてもよい。
【0065】
E3は、遷移金属元素から選ばれる、E2と異なる一つ以上の金属元素を表す。E3は付活元素として働く。E3としては、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)などが挙げられる。E3の10モル%以上がCrであることがより好ましく、E3の20モル%以上がCrであることが好ましく、E3の50モル%以上がCrであることが特に好ましい。
【0066】
Oは、酸素を示し、本態様に係る赤外蛍光体の効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、硫黄(S)、窒素(N)などが挙げられる。
【0067】
aは、E3の含有量を表し、その範囲は、通常0<a<0.2であり、下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、また上限値は、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下である。
【0068】
本態様に係る蛍光体は、例えば、従来の蛍光体において好適な波長での赤外発光を示さなかったCr3+を付活イオンに用いた場合であっても、上記範囲の好適な赤外発光を有する点で優れている。上記式(4-1)で表される化学組成を有する蛍光体において、付活イオンの発光波長がどのように調整されるのか定かではないが、Cr3+が賦活するE2サイトが異なる価数をもつ複数の金属カチオンで共有されていることや、Cr3+に配位するアニオンの形成する多面体の体積や対称性が関係していると考えられる。
【0069】
[好ましい態様5-1]
第一の実施態様に係る赤外蛍光体の他の好ましい態様として、母体結晶中に付活元素として2価のサマリウム(Sm)および3価のツリウム(Tm)を有する結晶相を含有し、紫外光または可視光の光を吸収し波長750から1000nmまでの間に発光ピーク波長を有することを特徴とする蛍光体が挙げられる。
【0070】
[好ましい態様5-2]
上記好ましい態様5-1に係る蛍光体は、前記母体結晶が、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる一つ以上の元素、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、およびリン(P)から選ばれる一つ以上の金属元素、並びに、酸素(O)、フッ素(F)、塩素(Cl)、および臭素(Br)から選ばれる一つ以上の元素をさらに含むことがより好ましい。
【0071】
[好ましい態様5-3]
また、上記好ましい態様5-1に係る蛍光体、または上記好ましい態様5-2に係る蛍光体は、前記母体結晶が、下記式(5-1)で表される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体であることがより好ましい。
G11-aG2G3 ・・・(5-1)
ただし、
G1は、アルカリ土類金属元素から選ばれる一つ以上の金属元素を示し、
G2は、SmおよびTmを必須とする、希土類金属元素から選ばれる二つ以上の金属元素を示し、
G3は、B、Al、Ga、Si、GeおよびPから選ばれる二つ以上の金属元素を示し、
Oは、酸素を示し、
0<a<0.2であり、1.5<b<2.5である。
【0072】
G1は、Mg、Ca、Sr、およびBaから選ばれる一つ以上のアルカリ土類金属元素を示し、G1の50モル%以上がSrおよび/またはBaであることが好ましく、70モル%以上がSrおよび/またはBaであることがより好ましく、90モル%以上がSrおよび/またはBaであることが特に好ましい。尚、G1は、本態様に係る赤外蛍光体としての効果を損なわない範囲で他の元素で一部置換されていてもよい。他の元素としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などが挙げられる。
G2は、SmおよびTmを必須とする、二つ以上の希土類金属金属元素を示し、G2の50モル%以上がSmおよびTmであることが好ましく、70モル%以上がSmおよびTmであることがより好ましく、90モル%以上がSmおよびTmであることが特に好ましい。
G3は、B、Al、Ga、Si、GeおよびPから選ばれる二つ以上の金属元素を示し、G3の50モル%以上がBおよびPであることが好ましく、70モル%以上がBおよびPであることがより好ましく、90モル%以上がBおよびPであることが特に好ましい。
【0073】
<発光装置>
本発明の第二の実施態様に係る発光装置は、紫外光または可視光を発する半導体発光素子と、該半導体発光素子から発せられた紫外光または可視光を吸収し赤外領域で発光する蛍光体とを含み、該赤外領域で発光する蛍光体の赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでの間にあって、該発光ピークの波形の半値幅が60nm未満であることを特徴とする。
【0074】
第二の実施態様に係る発光装置は、第1の発光体(励起光源)として後述の半導体発光素子と、当該第1の発光体からの光の照射によって赤外光を発する第2の発光体として、上述の第一の実施態様に係る赤外蛍光体のうち、赤外領域で発光する蛍光体の赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでの間にあって、該発光ピークの波形の半値幅が60nm未満である赤外蛍光体とを含む発光装置である。該赤外蛍光体としては、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0075】
[蛍光体の組成]
本実施態様に係る赤外蛍光体の具体的な態様は、上述の第一の実施態様を援用する。
本実施態様に係る赤外蛍光体として、赤外領域における発光ピーク波長が波長700から1000nmまでの間にあって、該発光ピークの波形の半値幅が60nm未満であるためには、付活元素として、希土類金属元素および遷移金属元素から選ばれる元素のうち、少なくとも2つ以上の元素を含むことが好ましい。これは、半導体発光素子から発せられる紫外光または可視光を励起光として赤外蛍光体が発光する場合に、1種の付活元素のみでは所望の発光波長まで長波長化することが困難であることによる。そのため、付活元素として、増感剤として働く元素と、増感剤から供給されるエネルギーによって励起されて発光する発光イオンとして働く元素とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0076】
付活元素のうち、増感剤として働く元素としては、例えばCe、Eu、Cr、Mn、Cu、Smなどが挙げられる。また、発光イオンとして働く元素としては、例えばTm、Ndなどが挙げられる。これらの中から適宜組み合わせることにより、半導体発光素子からの励起エネルギーを損失することなく、発光効率の高い赤外蛍光体とすることができる。赤外蛍光体の発光ピークの波長の観点から、付活元素として、少なくともツリウム(Tm)を含み、さらに希土類金属元素および遷移金属元素から選ばれる元素のうち少なくとも1つの元素を含むことがより好ましい。これはTmが発光イオンとして働く元素として好ましいためである。
【0077】
また、Tm以外の付活元素が、Cr、MnおよびCuのうち少なくとも1つの元素であることが好ましい。これらの元素は、紫外光から可視光の光を吸収し、Tmが発光イオンとして働くための増感剤として特に好ましく、Tmとの組み合わせにより高効率でエネルギー遷移が可能である。これらの中で付活元素が、TmとCrであることが最も好ましい組合せである。
【0078】
[蛍光体の特性]
本実施態様に係る赤外蛍光体の具体的な特性は、上述の第一の実施態様を援用する。
特に、波長変換効率の観点から、赤外領域で発光する蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率(%)は、波長700から800nmまでの間における最小の反射率(%)よりも低く、二つの最小の反射率の差は、通常20%以上、好ましくは30%以上であり、より好ましくは50%以上である。また、通常90%より小さい。
【0079】
[発光装置の構成]
発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として少なくとも上述の本実施態様に係る赤外蛍光体を使用している他は、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。
装置構成および発光装置の実施形態としては、例えば、特開2007-291352号公報に記載のものが挙げられる。
その他、発光装置の形態としては、砲弾型、カップ型、チップオンボード、リモートフォスファー等が挙げられる。
【0080】
{発光装置の用途}
発光装置の用途は特に制限されず、通常の赤外発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能である。例えば、赤外監視装置の光源、赤外センサーの光源、医療用診断装置の赤外光源、光電スイッチやテレビゲーム・ジョイスティックのような送信エレメントの光源なども用いることができる。
【0081】
{半導体発光素子}
本実施態様に係る発光装置が含む半導体発光素子は、紫外光または可視光を発し、励起光源として機能するものであれば特に限定されない。半導体発光素子として汎用的に用いられているため価格が安く入手が容易であることから、半導体発光素子から発せられた紫外光または可視光の発光ピーク波長が、波長300から700nmまでの間にあることが好ましい。当該波長は、より好ましくは、300~650nmまたは350~680nm、さらに好ましくは300~400nm、420~600nm、420~480nmまたは600~650nmである。
【0082】
<蛍光体の製造方法>
第一の実施態様に係る赤外蛍光体の製造方法は、それぞれの元素の塩化物、フッ化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩などの原料を混合する工程、焼成する工程、解砕する工程、洗浄・分級する工程を含むことができる。
【0083】
[蛍光体原料]
第一の実施態様に係る蛍光体の製造方法において使用される蛍光体原料としては、本実施態様により製造される第一の実施態様に係る蛍光体の効果を損なわない限り公知のものを用いることができる。例えば、各元素の塩化物、フッ化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
[混合工程]
目的組成が得られるように蛍光体原料を秤量し、ボールミル等を用いて十分混合したのち、容器に充填し、所定温度、雰囲気下で焼成し、焼成物を粉砕、洗浄すればよい。例えば、上記各元素の塩化物、フッ化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩などを、各元素のモル比が、目的の組成式におけるモル比と一致するように秤量して、混合すればよい。
【0085】
上記混合手法としては、特に限定はされず、乾式混合法や湿式混合法のいずれであってもよい。
乾式混合法としては、例えば、ボールミルなどが挙げられる。
湿式混合法としては、例えば、前述の蛍光体原料に溶媒又は分散媒を加え、乳鉢と乳棒、を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる方法である。
溶媒又は分散媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノールなどが挙げられ、中でもエタノールが好ましい。湿式混合の時間としては、通常5分以上、好ましくは15分以上、より好ましくは30分以上である。また、混合を複数回繰り返してもよく、通常1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上である。特に、15分以上混合、または2回以上混合すると、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を主相として得ることができ好ましい。
【0086】
[焼成工程]
得られた混合物を、各蛍光体原料と反応性の低い材料からなる容器に充填する。このような焼成時に用いる容器の材質としては、本実施態様により製造される第一の実施態様に係る蛍光体の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アルミナ製の容器が挙げられる。
焼成温度は、圧力など、その他の条件によっても異なるが、通常300℃以上、2000℃以下の温度範囲で焼成を行なうことができる。焼成工程における最高到達温度としては、通常300℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1300℃以上、また、通常2000℃以下、好ましくは1700℃以下である。特に、1400℃以上、また1600℃以下の温度範囲で焼成すると、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を主相として得ることができる場合があり、好ましい。
【0087】
焼成温度が高すぎると蛍光体の原子欠損により結晶構造内に欠陥が誘発されたりして発光特性が著しく低下する傾向にあり、低すぎると固相反応の進行が遅くなる傾向にあり、目的相の生成や粒成長が進みにくくなる場合がある。
焼成工程時の圧力は、焼成温度等によっても異なるが、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上であり、また、通常200MPa以下、好ましくは190MPa以下である。
【0088】
焼成工程における焼成雰囲気は、所望の蛍光体が得られる限り任意であるが、具体的には、大気雰囲気、窒素雰囲気、水素または炭素を含む還元雰囲気等が挙げられ、中でも還元雰囲気が好ましい。焼成回数は、所望の蛍光体が得られる限り任意であるが、一度、焼成した後に、得られる焼成体を解砕した後に、再び焼成してもよく、焼成回数に特に制限は無い。また、複数回焼成する際において、各焼成の雰囲気が異なってもよい。
【0089】
焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常1分間以上、好ましくは30分間以上、また、通常72時間以下、好ましくは12時間以下である。焼成時間が短すぎると粒子が成長しないため、特性のよい蛍光体を得ることができず、焼成時間が長すぎると構成している元素の揮発が促されるため、原子欠損により結晶構造内に欠陥が誘発され特性のよい蛍光体を得ることができない。
【0090】
[洗浄工程]
焼成して得られた蛍光体を分散・分級前に洗浄する工程(洗浄工程)を有してもよい。
蛍光体を合成する際に用いた、未反応の残留分を主とする不純物や原料の未反応分が蛍光体中に残留したり、副反応分などが蛍光体スラリー中に生成する傾向にある。
特性向上のためには、未反応の残留分や焼成時に生成した不純物をできる限り除去する必要がある。不純物を除去することができれば洗浄方法に特に制限はない。例えば塩酸、フッ化水素酸、硝酸、酢酸、硫酸などの酸類や水溶性の有機溶剤やアルカリ性溶液とその混合溶液など、生成した蛍光体を任意の液で洗浄することができる。発光特性を著しく低下させない範囲内で、洗浄液に過酸化水素などの還元剤を含ませたり、洗浄液を加熱、冷却してもよい。
【0091】
洗浄液に蛍光体を浸漬する時間は、攪拌条件等によっても異なるが、通常10分以上、好ましくは1時間以上であり、また、通常72時間以下、好ましくは48時間以下である。また複数回洗浄を行ってもよいし、洗浄する液の種類や濃度を変えてもよい。
洗浄工程において、蛍光体を浸漬して洗浄する作業を行った後に、ろ過を行い、乾燥させることによって蛍光体を製造することができる。また、エタノールあるいはアセトン、メタノールなどを用いた洗浄を中間に入れてもよい。
【0092】
{蛍光体含有組成物}
第一の実施態様に係る蛍光体は、液体媒体と混合して用いることもできる。特に、第一の実施態様に係る蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。
【0093】
[蛍光体]
第一の実施態様に係る蛍光体を含有する組成物に含有させる場合、該蛍光体の種類に制限は無く、上述した第一の実施態様に係る蛍光体から任意に選択することができる。また、該蛍光体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。更に、該組成物には、第一の実施態様に係る蛍光体の効果を著しく損なわない限り、第一の実施態様に係る蛍光体以外の蛍光体を含有させてもよい。
【0094】
[液体媒体]
該組成物に使用される液体媒体としては、第一の実施態様に係る蛍光体の性能を目的の範囲で損なわない限りにおいて特に限定されない。例えば、所望の使用条件下において液状の性質を示し、第一の実施態様に係る蛍光体を好適に分散させるとともに、好ましくない反応を生じないものであれば、任意の無機系材料および/又は有機系材料が使用でき、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂などが挙げられる。
【0095】
[液体媒体および蛍光体の含有率]
該組成物中の第一の実施態様に係る蛍光体および液体媒体の含有率は、第一の実施態様に係る蛍光体の効果を著しく損なわない限り任意であるが、液体媒体については、該組成物全体に対して、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。
【0096】
[その他の成分]
なお、該組成物には、第一の実施態様に係る蛍光体の効果を著しく損なわない限り、該蛍光体および液体媒体以外に、その他の成分を含有させてもよい。また、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【実施例
【0097】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、下記の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の各実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0098】
{測定方法}
[発光スペクトル]
発光スペクトルは、蛍光分光光度計F-7000(日立製作所製)を用いて測定した。より具体的には、室温(25℃)で455nmの励起光を照射して500nm以上900nm以下(比較例1-1、実施例1-1の場合)、または750nm以上850nm以下(比較例2-1、実施例3-1~実施例3-3、実施例4-1、実施例4-2の場合)の波長範囲内の発光スペクトルを得た。また、発光ピーク波長は、得られた発光スペクトルから読み取った。
【0099】
[発光装置の測定]
実施例1-2、実施例2-3、実施例2-4において、赤外発光装置の発光スペクトルは、小型ファイバー光学分光器USB2000(オーシャンオプティクス社製)を用いて測定した。より具体的には、発光装置を点灯し、300nm以上900nm以下の波長範囲で発光装置の発光スペクトルを得た。
【0100】
[励起スペクトル]
励起スペクトルは、蛍光分光光度計F-7000(日立製作所製)を用いて測定した。より具体的には、室温(25℃)で赤外発光ピークをモニターし、300nm以上750nm以下(比較例1-1、実施例1-1の場合)、または300nm以上600nm以下(比較例2-1、実施例3-1~実施例3-3、実施例4-1、実施例4-2の場合)の波長範囲内の励起スペクトルを得た。
【0101】
[粉末X線回折測定]
粉末X線回折は、粉末X線回折装置D8 ADVANCE ECO(BRUKER社製)にて精密測定した。測定条件は以下の通りである。
【0102】
CuKα管球使用
X線出力=40kV、25mA
発散スリット=自動
検出器=半導体アレイ検出器 LYNXEYE、Cuフィルター使用
走査範囲 2θ=5~90度(比較例1-1、実施例1-1の場合)、または5~90度(比較例2-1、実施例3-1~実施例3-3、実施例4-1、実施例4-2の場合)
読み込み幅=0.025度
【0103】
[反射率測定]
実施例1-1、実施例2-1、実施例3-1、実施例4-1において、反射率の測定は、分光光度計U-3310(日立製作所社製)を用いて行った。より具体的には、BaSO粒子と実施例の蛍光体粒子とを、それぞれ石英セルに敷き詰めた。BaSO粒子を基準試料とし、300nm以上900nm以下の波長範囲で、BaSO粒子の反射率に対する相対値として実施例の蛍光体粒子の反射率(%)を測定した。
【0104】
(比較例1-1:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がY2.97Tm0.03Ga12となるように、原料を配合してYGG:Tm3+蛍光体を作製した。
原料として市販のY粉末(信越化学工業社製 SY-OR-P-1622)、G
粉末(三井金属工業社製 90402)、およびTm粉末(信越化学工業社製 TM-04-001)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がY:Ga:Tm=2.97:5.00:0.03となるように秤量した。これら原料をアルミナ製乳鉢の中でエタノールを添加してから湿式混合し、エタノールを自然乾燥してからアルミナ製の容器に入れ、混合原料を入れた容器を小型電気炉(モトヤマ社製 スーパーバーン)に設置し、大気下1500℃で8時間加熱する事で、焼成体を得た。焼成体をアルミナ乳鉢内で大きい塊がなくなるまで解砕する事で、蛍光体を得た。
【0105】
得られた蛍光体の発光スペクトルを図1-1に、励起スペクトルを図1-2に、それぞれ細線で示す。なお、発光スペクトルの励起光波長は463nm、励起スペクトルの発光波長は808nmとした。図1-1からは、本比較例の蛍光体は800nm周辺に赤外発光ピークを持つことが判る。
【0106】
(実施例1-1:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がY2.97Tm0.03Ga4.75Cr0.2512となるように、原料を配合してYGG:Cr3+,Tm3+蛍光体を作製した。
原料として市販のY粉末(信越化学工業社製 SY-OR-P-1622)、Ga粉末(三井金属工業社製 90402)、Cr粉末(キシダ化学社製 B58840N)、およびTm粉末(信越化学工業社製 TM-04-001)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がY:Ga:Cr:Tm=2.97:4.75:0.25:0.03となるように秤量した以外は、比較例1-1と同じように混合、加熱して、蛍光体を得た。
【0107】
本蛍光体について粉末X線回折測定を行って得られたXRDパターンを図1-3に示す。本蛍光体が単相YGGから成ることが判る。また、本蛍光体の発光スペクトルを図1-1に、励起スペクトルを図1-2に、それぞれ太線で示す。なお、発光スペクトルの励起光波長は440nm、励起スペクトルの発光波長は825nmとした。図1-1からは、本実施例の蛍光体は800nm周辺に、比較例1-1の蛍光体に比べて強度が6倍以上である強い赤外発光ピークを持つことが判る。具体的には、800nm周辺の発光スペクトルにおいてピークが観察される波長は794nmおよび825nmであり、これらのピークの波形は重なって観察されるが、それぞれ半値幅は27.4nmおよび16.3nmであった。この重なった発光ピークらを1つの発光ピークとみなして発光ピークの波形の半値幅を測定した。その結果、発光ピーク波長は794nmであり、該発光ピークの波形の半値幅は49.5nmであった。また、図1-2からは、本実施例の蛍光体は青色から赤色にかけての広い波長帯の光によって励起され、赤外発光することが判る。
また、本蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率R1(%)と、波長700から800nmまでの間における最小の反射率R2(%)とを測定し、その差R1-R2(%)を算出した。その結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例1-2:発光装置の製造)
YGG:Cr3+,Tm3+と青色LEDとを組み合わせて赤外発光装置を作製した。
原料として実施例1-1で得られた蛍光体、および熱硬化性シリコーン樹脂を用いた。各原料を、重量比で蛍光体:熱硬化性シリコーン樹脂=15:85となるように秤量した。これら原料をEME社製V-mini300を使って混合し、市販の青LED(昭和電工社製)を搭載したパッケージに塗布し硬化させる事で、発光装置を得た。発光装置の発光スペクトルを図1-4に示す。発光装置が、およそ800nmに周辺赤外発光ピークを持つことがわかる。
【0110】
(比較例2-1:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLa1.98Tm0.02MgGeOとなるように、原料を配合してLaMgGeO:Tm3+蛍光体を作製した。
原料として市販のLa粉末(信越化学社製 LA-04-153)、MgO粉末(和光純薬社製 LKG5947)、GeO粉末(高純度化学研究所製 313826)、およびTm粉末(信越化学工業社製 TM-04-001)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がLa:Mg:Ge:Tm=1.98:1.00:1.00:0.02となるように秤量した。これら原料をアルミナ製乳鉢の中でエタノールを添加してから湿式混合し、エタノールを自然乾燥してからアルミナ製の容器に入れ、混合原料を入れた容器を小型電気炉(モトヤマ社製 スーパーバーン)に設置し、大気下1400℃で8時間加熱する事で、焼成体を得た。焼成体をアルミナ乳鉢内で大きい塊がなくなるまで解砕する事で、蛍光体を得た。
【0111】
得られた蛍光体の発光スペクトルを図2-1に、励起スペクトルを図2-2に、それぞれ細線で示す。なお、発光スペクトルの励起光波長は455nm、励起スペクトルの発光波長は798nmとした。図2-1からは、本比較例の蛍光体は800nm周辺に赤外発光ピークを持たないことが判る。
【0112】
(実施例2-1:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLa1.98Tm0.02MgGe0.99Mn0.01となるように、原料を配合してLaMgGeO:Mn4+,Tm3+蛍光体を作製した。
原料として市販のLa粉末(信越化学社製 LA-04-153)、MgO粉末(和光純薬社製 LKG5947)、GeO粉末(高純度化学研究所製 313826)、Tm粉末(信越化学工業社製 TM-04-001)、およびMnO粉末(高純度化学研究所製 194474)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がLa:Mg:Ge:Tm:Mn=1.98:1.00:0.99:0.02:0.01となるように秤量した以外は、比較例2-1と同じように混合、加熱して、蛍光体を得た。
【0113】
本蛍光体について粉末X線回折測定を行って得られたXRDパターンを図2-3に示す。本蛍光体が単相LaMgGeOから成ることが判る。
また、本蛍光体の発光スペクトルを図2-1に、励起スペクトルを図2-2に、それぞれ太線で示す。なお、発光スペクトルの励起光波長は455nm、励起スペクトルの発光波長は798nmとした。図2-1からは、本実施例の蛍光体は800nm周辺に、強い赤外発光ピークを持つことが判る。発光ピーク波長は798nm、該発光ピークの波形の半値幅は14.4nmであった。また、図2-2からは、本実施例の蛍光体は紫外から青色にかけての広い波長帯の光によって励起され、赤外発光することが判る。
また、本蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率R1(%)と、波長700から800nmまでの間における最小の反射率R2(%)とを測定し、その差R1-R2(%)を算出した。その結果を表1に示す。
【0114】
(実施例2-2:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLa1.98Tm0.02MgTi0.99Mn0.01となるように、原料を配合してLaMgTiO:Mn4+,Tm3+蛍光体を作製した。
原料として市販のLa粉末(信越化学社製 LA-04-153)、Mg(OH)粉末(高純度化学研究所製 83480D)、TiO粉末(和光純薬製 LAG1626)、Tm粉末(信越化学工業社製 TM-04-001)、およびMnO粉末(高純度化学研究所製 194474)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がLa:Mg:Ti:Tm:Mn=1.98:1.00:0.99:0.02:0.01となるように秤量した。それ以外は、実施例2-1と同じように混合、加熱して、蛍光体を得た。
本蛍光体について粉末X線回折測定を行って得られたXRDパターンを図2-6に示す。本蛍光体が単相LaMgTiOから成ることが判る。
また、本蛍光体の発光スペクトルを図2-4に、励起スペクトルを図2-5に太線で示す。なお、発光スペクトルの励起光波長は455nm、励起スペクトルの発光波長は804nmとした。図2-4からは、本実施例の蛍光体は800nm周辺に、強い赤外発光ピークを持つことが判る。発光ピーク波長は804nm、該発光ピークの波形の半値幅は26.2nmであった。また、図2-5からは、本実施例の蛍光体は紫外から青色にかけての広い波長帯の光によって励起され、赤外発光することが判る。
【0115】
(実施例2-3:発光装置の製造)
実施例2-1で得られた蛍光体であるLaMgGeO:Mn4+,Tm3+と青色LEDとを組み合わせて赤外発光装置を作製した。
原料として実施例2-1で得られた蛍光体、および熱硬化性シリコーン樹脂を用いた。各原料を、重量比で蛍光体:熱硬化性シリコーン樹脂=15:85となるように秤量した。これら原料をEME社製V-mini300を使って混合し、市販の青LED(昭和電工社製)を搭載したパッケージに塗布し硬化させる事で、発光装置を得た。発光装置の発光スペクトルを図2-7に示す。発光装置が、およそ800nm周辺に赤外発光ピークを持つことがわかる。
【0116】
(実施例2-4:発光装置の製造)
実施例2-2で得られた蛍光体であるLaMgTiO:Mn4+,Tm3+と青色LEDとを組み合わせて赤外発光装置を作製した。
原料として実施例2-2で得られた蛍光体、および熱硬化性シリコーン樹脂を用いた。それ以外は、実施例2-3と同じように秤量、塗布、硬化して、発光装置を得た。発光装置の発光スペクトルを図2-8に示す。発光装置が、およそ800nm周辺に赤外発光ピークを持つことがわかる。
【0117】
(実施例3-1:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLa0.95Tm0.05MgAl10.67Cr0.3319となるように、原料を配合してLaMgAl1119:Cr3+,Tm3+蛍光体を作製した。
原料として市販のLa(OH)粉末(高純度化学研究所社製)、MgO粉末(和光純薬工業社製)、Al粉末(住友化学社製)、Cr粉末(キシダ化学社製)およびTm粉末(信越化学工業社製)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がLa:Tm:Mg:Al:Cr=0.95:0.05:1.00:10.67:0.33となるように秤量した。これら原料にHBO粉末(和光純薬工業社製)を外付けで5wt%添加した後にアルミナ製乳鉢の中でエタノールを添加してから湿式混合し、エタノールを自然乾燥してからアルミナ製の容器に入れ、混合原料を入れた容器を小型電気炉(モト
ヤマ社製 スーパーバーン)に設置し、大気下1500℃で8時間加熱する事で、焼成体を得た。焼成体をアルミナ乳鉢内で大きい塊がなくなるまで解砕する事で、蛍光体を得た。
また、本蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率R1(%)と、波長700から800nmまでの間における最小の反射率R2(%)とを測定し、その差R1-R2(%)を算出した。その結果を表1に示す。
【0118】
得られた蛍光体の発光スペクトルを図3-1に実線で、励起スペクトルを図3-2に点線で示す。なお、発光スペクトルの励起光波長は455nm、励起スペクトルの発光波長は809nmとした。
図3-1からは、本実施例の蛍光体は809nmに半値幅が狭い赤外発光ピークを持つことが判る。また、図3-2からは、本実施例の蛍光体は紫外から青色にかけての広い波長帯の光によって励起され、赤外発光することが判る。発光ピーク波長809nmにおける発光ピークの波形の半値幅は50nmであった。
本実施例の蛍光体の粉末X線回折測定を行って得られたXRDパターンを図3-3に示す。本実施例の蛍光体がLaMgAl1119からなることが判る。
【0119】
(実施例3-2:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLa0.95Tm0.05MgAl10.89Cr0.1119となるように、原料を配合した以外は実施例3-1と同様にして実施例3-2の蛍光体を得た。得られた蛍光体に波長455nmの励起光を照射した際の発光スペクトルに拠れば、本実施例の蛍光体は801nmに半値幅が狭い赤外発光ピークを持つことが確認された。
【0120】
(実施例3-3:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLa0.99Tm0.01MgAl10.67Cr0.3319となるように、原料を配合した以外は実施例3-1と同様にして実施例3-3の蛍光体を得た。得られた蛍光体に波長455nmの励起光を照射した際の発光スペクトルに拠れば、本実施例の蛍光体は、798nmに半値幅が狭い赤外発光ピークが確認された。
【0121】
(実施例4-1:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLaAl0.99Cr0.01Ti15となるように、原料を配合してLaAlTi15:Cr3+蛍光体を作製した。
原料として市販のLa(OH)粉末(高純度化学研究所社製)、TiO粉末(フルウチ化学社製)、Al粉末(住友化学社製)、Cr粉末(キシダ化学社製)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がLa:Al:Cr:Ti=5:0.99:0.01:3となるように秤量した。これら原料にHBO粉末(和光純薬工業社製)を外付けで2wt%添加した後にアルミナ製乳鉢の中でエタノールを添加してから湿式混合し、エタノールを自然乾燥してからアルミナ製の容器に入れ、混合原料を入れた容器を小型電気炉(モトヤマ社製 スーパーバーン)に設置し、大気下1500℃で8時間加熱する事で、焼成体を得た。焼成体をアルミナ乳鉢内で大きい塊がなくなるまで解砕する事で、蛍光体を得た。
【0122】
得られた蛍光体の発光スペクトルを図4-1に実線で、励起スペクトルを図4-2に点線で示す。なお、発光スペクトルの励起光波長は455nm、励起スペクトルの発光波長は753nmとした。
図4-1からは、本実施例の蛍光体は753nmに半値幅が狭い赤外発光ピークを持つことが判る。また、図4-2からは、本実施例の蛍光体は紫外から青色にかけての広い波長帯の光によって励起され、赤外発光することが判る。発光ピーク波長753nmにおける発光ピークの波形の半値幅は41nmであった。
【0123】
本実施例の蛍光体の粉末X線回折測定を行って得られたXRDパターンを図4-3に示す。本実施例の蛍光体が主としてLaAlTi15からなることが判る。なお、図4-3中に矢印で示したピークは、不純物相として副生したLaAlOである。図4-3中のピーク強度が小さいこと、さらにLaAlO:Crの発光は、通常、約737nmに最大発光ピークを有し、735nm~755nmの間に複数の弱い発光ピークを有する発光であることから、上記で観察される753nmの半値幅が狭い赤外発光ピークはLaAlTi15に由来するものであると言える。
また、本蛍光体の波長350から700nmまでの間における最小の反射率R1(%)と、波長700から800nmまでの間における最小の反射率R2(%)とを測定し、その差R1-R2(%)を算出した。その結果を表1に示す。
【0124】
(実施例4-2:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がLaAl0.95Cr0.05Ti15となるように、原料を配合してLaAlTi15:Cr3+蛍光体を作製した。
原料として市販のLa(OH)粉末(高純度化学研究所社製)、TiO粉末(昭和電工製)、Al粉末(住友化学社製)、Cr粉末(キシダ化学社製)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がLa:Al:Cr:Ti=5:0.95:0.05:3となるように秤量した。アルミナ製乳鉢の中でエタノールを添加してから湿式混合し、エタノールを自然乾燥してからアルミナ製の容器に入れ、混合原料を入れた容器を小型電気炉(モトヤマ社製 スーパーバーン)に設置し、大気下1600℃で8時間加熱する事で、焼成体を得た。焼成体をアルミナ乳鉢内で大きい塊がなくなるまで解砕する事で、蛍光体を得た。
得られた蛍光体に波長455nmの励起光を照射した際の発光スペクトルに拠れば、本実施例の蛍光体は752nmに半値幅が狭い赤外発光ピークを持つことが確認された。
【0125】
(実施例5-1:蛍光体の製造)
合成後に得られる蛍光体がSr0.96Sm0.03Tm0.01BPOとなるように、原料を配合してSrBPO:Sm2+,Tm3+蛍光体を作製した。
原料として市販のSrHPO粉末(白辰化学社製)、Sm粉末(三津和化学社製)、Tm粉末(信越化学工業社製)およびHBO粉末(和光純薬工業社製)を用いた。各原料を、カチオンのモル比がSr:Sm:Tm=0.96:0.03:0.01となるように秤量し、混合した後にアルミナ製の容器に入れ、混合原料を入れた容器を管状炉に設置し、還元雰囲気下(N(96%)+H(4%))において950℃で8時間加熱する事で、焼成体を得た。焼成体をアルミナ乳鉢内で大きい塊がなくなるまで解砕する事で、蛍光体を得た。
得られた蛍光体に波長455nmの光を照射した際の発光スペクトルを図5-1に実線で示し、発光波長810nmに対する励起スペクトルを点線で示す。図5-1において、波長800nmから850nmの間における発光ピークの波形の半値幅は23nmであった。図5-1からわかるように、本実施例の蛍光体は、波長300nmから600nmの広い範囲で励起され、波長800nmから850nmの間に半値幅の狭い赤外発光ピークを持つことがわかる。
【0126】
また、本実施例の蛍光体の粉末X線回折測定を行って得られたXRDパターンを図5-2に示す。本実施例の蛍光体がSrBPOからなることが判る。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図2-6】
図2-7】
図2-8】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】