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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】改変チャネルロドプシン
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240514BHJP
   C07K 14/405 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K14/405
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/31
A61P27/02
A61K38/16
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020548485
(86)(22)【出願日】2019-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2019036252
(87)【国際公開番号】W WO2020059675
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018176671
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 江里子
(72)【発明者】
【氏名】田端 希多子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 義人
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/019081(WO,A1)
【文献】PRIGGE, Matthias et al.,Color-tuned channelrhodopsins for multiwavelength optogenetics,The Journal of Biological Chemistry,2012年09月14日,Vol.287, No.38,p.31804-31812
【文献】HOSOSHIMA, Shoko et al.,Kinetic evaluation of photosensitivity in bi-stable variants of chimeric channelrhodopsins,PLOS ONE,2015年03月19日,journal.pone.0119558,p.1-14
【文献】WANG, Hongxia et al.,Molecular determinants differentiating photocurrent properties of two channelrhodopsins from Chlamydomonas,The Journal of Biological Chemistry,2009年02月27日,Vol.284, No.9,p.5685-5696
【文献】SINESHCHEKOV, Oleg A. et al.,Intramolecular proton transfer in channelrhodopsins,Biophysical Journal,2013年02月,Vol.104,p.807-817
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/DWPI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸からなるクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の166番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである改変チャネルロドプシン。
【請求項2】
ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸からなるテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の166番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである改変チャネルロドプシン。
【請求項3】
以下の(a)~(c)のいずれかである改変チャネルロドプシン。
(a)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号4に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号4に示すアミノ酸配列と少なくとも96%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号4に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
【請求項4】
以下の(a)~(c)のいずれかである改変チャネルロドプシン。
(a)配列番号5に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号5に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号5に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号5に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号5に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
【請求項5】
ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸からなるクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換されてなり、かつ、配列番号6に示すアミノ酸配列の167番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである改変チャネルロドプシン。
【請求項6】
ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸からなるテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換されてなり、かつ、配列番号6に示すアミノ酸配列の167番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである改変チャネルロドプシン。
【請求項7】
配列番号6に示すアミノ酸配列の162番目のアミノ酸(グルタミン酸)がトレオニンに置換されてなる請求項5又は6記載の改変チャネルロドプシン。
【請求項8】
以下の(a)~(c)のいずれかである改変チャネルロドプシン。
(a)配列番号7に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号7に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号7に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号7に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号7に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
【請求項9】
以下の(a)~(c)のいずれかである改変チャネルロドプシン。
(a)配列番号8に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号8に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号8に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号8に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号8に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
【請求項10】
以下の(a)~(c)のいずれかである改変チャネルロドプシン。
(a)配列番号9に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号9に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号9に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号9に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号9に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
【請求項11】
以下の(a)~(c)のいずれかである改変チャネルロドプシン。
(a)配列番号10に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号10に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド
(c)配列番号10に示すアミノ酸配列と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
プロモーターと機能的に連結された請求項12記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチドを発現する細胞。
【請求項15】
細胞が視細胞である請求項14記載の細胞。
【請求項16】
網膜外層の障害を患う被検体を治療するための医薬の製造における、請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチド、請求項12記載のポリヌクレオチド、請求項13記載の発現ベクターのいずれかの使用。
【請求項17】
網膜外層の障害が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、網膜はく離のいずれかである請求項16記載の使用。
【請求項18】
請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチド又は請求項13記載の発現ベクターのいずれかを有効成分として含む網膜外層の障害を治療するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変チャネルロドプシンに関する。より詳細には、異なる波長の光照射によってイオンチャネルの開閉が可能な、及び/又は、イオン透過性(光反応性)が高い、改変チャネルロドプシンに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子導入によって光応答性タンパク(チャネルロドプシン)を発現させた神経細胞に、光を当てることで細胞応答を制御するオプトジェネティックス(Optogenetics:光遺伝学)により、視機能の再建を図る研究が世界的に行われていることは周知の通りであり、本発明者らも、ボルボックス(Volvox carteri)由来のチャネルロドプシンのN末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ(Chlamydomonas reinhardtii)由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換することで、細胞膜上での発現効率が改善された改変チャネルロドプシンを特許文献1において報告している。この改変チャネルロドプシンは、光を当てることでイオンチャネルを開いて興奮を誘起することができるものであり、失明に至ったラットの網膜にその遺伝子を導入することによって視力を回復させることに本発明者らは成功している。
【0003】
しかしながら、元来の網膜に存在する神経細胞は、イオンチャネルの開閉によって興奮とその抑制を行う機能を有することから、こうした生来の視覚システムにより近い改変チャネルロドプシンが求められている。また、これまでに報告されている改変チャネルロドプシンよりも、イオン透過性が高い改変チャネルロドプシンが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5322067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、異なる波長の光照射によってイオンチャネルの開閉が可能な、及び/又は、イオン透過性が高い、改変チャネルロドプシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンのC末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域又はテトラセルミス・ストリアータ(Tetraselmis striata)由来のチャネルロドプシンのC末端領域に置換することで、可視光の広い波長領域の光照射によってイオンチャネルを開き、イオンチャネルを開く波長よりも短い波長の光照射によってイオンチャネルを閉じるチャネルロドプシンが得られることを見出した。
【0007】
また、本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンが有する7つの膜貫通ドメインの3番目の膜貫通ドメインを、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1が有する7つの膜貫通ドメインの3番目の膜貫通ドメインに置換することで、イオン透過性が高いチャネルロドプシンが得られることを見出した。
【0008】
上記の知見に基づいてなされた本発明の改変チャネルロドプシンは、請求項1記載の通り、ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸からなるクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の166番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである
また、本発明の改変チャネルロドプシンは、請求項2記載の通り、ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸からなるテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の166番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである
また、請求項3記載の改変チャネルロドプシンは、以下の(a)~(c)のいずれかである。
(a)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号4に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号4に示すアミノ酸配列と少なくとも96%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号4に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
また、請求項4記載の改変チャネルロドプシンは、以下の(a)~(c)のいずれかである。
(a)配列番号5に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号5に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号5に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号5に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号5に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
また、請求項5記載の改変チャネルロドプシンは、ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸からなるクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換されてなり、かつ、配列番号6に示すアミノ酸配列の167番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである
また、請求項6記載の改変チャネルロドプシンは、ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域をクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域に置換したチャネルロドプシンのC末端領域を、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域に置換したポリペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸からなるポリペプチドのC末端に、配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸からなるテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域が付加されてなり、かつ、配列番号1に示すアミノ酸配列の142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換されてなり、かつ、配列番号6に示すアミノ酸配列の167番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されてなるポリペプチドである
また、請求項7記載の改変チャネルロドプシンは、請求項5又は6記載の改変チャネルロドプシンにおいて、配列番号6に示すアミノ酸配列の162番目のアミノ酸(グルタミン酸)がトレオニンに置換されてなる。
また、請求項8記載の改変チャネルロドプシンは、以下の(a)~(c)のいずれかである。
(a)配列番号7に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号7に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号7に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号7に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号7に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
また、請求項9記載の改変チャネルロドプシンは、以下の(a)~(c)のいずれかである。
(a)配列番号8に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号8に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号8に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号8に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号8に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
また、請求項10記載の改変チャネルロドプシンは、以下の(a)~(c)のいずれかである。
(a)配列番号9に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号9に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号9に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
(c)配列番号9に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド(ただし(a)のポリペプチドの配列番号9に示すアミノ酸配列の166番目に相当する位置のアミノ酸はアラニンである)
また、本発明の改変チャネルロドプシンは、請求項11記載の通り、以下の(a)~(c)のいずれかである。
(a)配列番号10に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号10に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド
(c)配列番号10に示すアミノ酸配列と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(a)のポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチド
また、本発明のポリヌクレオチドは、請求項12記載の通り、請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチドをコードする。
また、本発明の発現ベクターは、請求項13記載の通り、プロモーターと機能的に連結された請求項12記載のポリヌクレオチドを含む。
また、本発明の細胞は、請求項14記載の通り、請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチドを発現する。
また、請求項15記載の細胞は、請求項14記載の細胞において、細胞が視細胞である。
また、本発明は、請求項16記載の通り、網膜外層の障害を患う被検体を治療するための医薬の製造における、請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチド、請求項12記載のポリヌクレオチド、請求項13記載の発現ベクターのいずれかの使用である。
また、請求項17記載の使用は、請求項16記載の使用において、網膜外層の障害が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、網膜はく離のいずれかである。
また、本発明の網膜外層の障害を治療するための医薬組成物は、請求項18記載の通り、請求項1~11のいずれかに記載のポリペプチド又は請求項13記載の発現ベクターのいずれかを有効成分として含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異なる波長の光照射によってイオンチャネルの開閉が可能な、及び/又は、イオン透過性が高い、改変チャネルロドプシンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1における、neomVChR1発現アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドの構成である。
図2】同、neomVChR1を発現する細胞についてのパッチクランプ法による光誘発電流の測定結果である。
図3】実施例2において、switChがneomVChR1よりもイオン透過性が高いことを示すグラフである。
図4】実施例3における、mVChR1-ClChR1-3TM発現アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドの構成である。
図5】同、mVChR1-ClChR1-3TMがmVChR1よりもイオン透過性が高いことを示すグラフである。
図6】実施例4において、switCh2がswitChよりも細胞膜における局在性が高いことを示す蛍光顕微鏡写真である。
図7】実施例5において、switCh2の161位のグルタミン酸をトレオニンに置換したswitCh2-mut1がswitCh2よりもイオン透過性が高いことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の改変チャネルロドプシンは、本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンを基礎とする。この改変チャネルロドプシンは、ボルボックス由来のチャネルロドプシンのN末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のN末端領域(細胞膜局在発現に関与する領域であって膜貫通ドメインを含まない)に置換することで、細胞膜上での発現効率が改善されたものであり、その具体例としては、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(特許文献1において配列番号10に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド)が挙げられる。特許文献1に記載された事項は、本明細書に記載された事項として取り扱う。
【0012】
本発明の改変チャネルロドプシンは、本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンのC末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域又はテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域に置換したものである。
【0013】
本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンのC末端領域を、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域に置換した本発明の改変チャネルロドプシンは、具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸を少なくとも含むポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸を少なくとも含むクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなるものである。
【0014】
本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンのC末端領域を、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域に置換した本発明の改変チャネルロドプシンは、具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸を少なくとも含むポリペプチドのC末端に、配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸を少なくとも含むテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域が付加されてなるものである。
【0015】
ここで、本発明の改変チャネルロドプシンが、例えば、450~600nmといった可視光の広い波長領域の光照射によってイオンチャネルを開き、400nmといったイオンチャネルを開く波長よりも短い波長の光照射によってイオンチャネルを閉じる特性を有するためには、配列番号1に示すアミノ酸配列の166番目のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されることが好ましい。また、配列番号1に示すアミノ酸配列の194番目のアミノ酸(アスパラギン酸)がシステインに置換されたり、229番目のアミノ酸(ヒスチジン)がアスパラギンに置換されたりしてもよい。さらに、その他の部位特異的な変異を有していてもよい。
【0016】
配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸を少なくとも含み、かつ、166番目がアラニンに、194番目がシステインに、229番目がアスパラギンに置換されたポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸を少なくとも含むクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなる本発明の改変チャネルロドプシンの具体例としては、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0017】
配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸を少なくとも含み、かつ、166番目がアラニンに、194番目がシステインに、229番目がアスパラギンに置換されたポリペプチドのC末端に、配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸を少なくとも含むテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域が付加されてなる本発明の改変チャネルロドプシンの具体例としては、配列番号5に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0018】
また、配列番号1に示すアミノ酸配列の142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換されてもよい。この置換は、本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンが有する7つの膜貫通ドメイン(即ちボルボックス由来のチャネルロドプシンが有する7つの膜貫通ドメイン)の3番目の膜貫通ドメインを、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1が有する7つの膜貫通ドメインの3番目の膜貫通ドメインに置換することを意味し、この置換により、イオン透過性を高めることができる。
【0019】
この場合においても、例えば、450~600nmといった可視光の広い波長領域の光照射によってイオンチャネルを開き、400nmといったイオンチャネルを開く波長よりも短い波長の光照射によってイオンチャネルを閉じる特性を有するためには、配列番号6に示すアミノ酸配列の167番目(配列番号1に示すアミノ酸配列の142~169番目のアミノ酸と置換した後は166番目)のアミノ酸(システイン)がアラニンに置換されることが好ましい。また、配列番号1に示すアミノ酸配列の194番目のアミノ酸(アスパラギン酸)がシステインに置換されたり、229番目のアミノ酸(ヒスチジン)がアスパラギンに置換されたりしてもよい。さらに、その他の部位特異的な変異を有していてもよい。
【0020】
また、配列番号6に示すアミノ酸配列の162番目(配列番号1に示すアミノ酸配列の142~169番目のアミノ酸と置換した後は161番目)のアミノ酸(グルタミン酸)をトレオニンに置換することで、イオン透過性を高めることができる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列の170番目のアミノ酸(ロイシン)をシステインに置換したり、197番目のアミノ酸(システイン)をセリンに置換したりしてもよい。
【0021】
配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸を少なくとも含み、かつ、142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換され、さらに、166番目がアラニンに、194番目がシステインに、229番目がアスパラギンに置換されたポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸を少なくとも含むクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなる本発明の改変チャネルロドプシンの具体例としては、配列番号7に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0022】
配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸を少なくとも含み、かつ、142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換され、さらに、166番目がアラニンに、194番目がシステインに、229番目がアスパラギンに置換されたポリペプチドのC末端に、配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸を少なくとも含むテトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域が付加されてなる本発明の改変チャネルロドプシンの具体例としては、配列番号8に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0023】
配列番号1に示すアミノ酸配列の1~307番目のアミノ酸を少なくとも含み、かつ、142~169番目のアミノ酸が、配列番号6に示すクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1のアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸に置換され、さらに、161番目がトレオニンに、166番目がアラニンに、194番目がシステインに、229番目がアスパラギンに置換されたポリペプチドのC末端に、配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸を少なくとも含むクラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域が付加されてなる本発明の改変チャネルロドプシンの具体例としては、配列番号9に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0024】
本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンが有する7つの膜貫通ドメインの3番目の膜貫通ドメインが、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1が有する7つの膜貫通ドメインの3番目の膜貫通ドメインに置換されてなる本発明の改変チャネルロドプシンの具体例としては、配列番号10に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0025】
本発明の改変チャネルロドプシンは、配列番号4,5,7~10のそれぞれに示すアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ配列番号4,5,7~10のそれぞれに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチドを含む。また、配列番号4,5,7~10のそれぞれに示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号4,5,7~10のそれぞれに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチドを含む。ここで、「複数個」とは、50個以下の整数、好ましくは30個以下の整数、より好ましくは10個以下の整数、例えば2~9個、2~7個、2~5個である。配列番号4,5,7~10のそれぞれに示すアミノ酸配列との配列同一性は、好ましくは少なくとも95%であり、より好ましくは少なくとも96%であり、さらに好ましくは少なくとも97%であり、さらにより好ましくは少なくとも98%であり、最も好ましくは少なくとも99%である。なお、同一性の%は、複数(2つ)のアミノ酸配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、BLASTなど)をデフォルトの設定で使用して算出した値をいう。「同等の生物学的活性」とは、例えば光感受性、チャネル機能といった生物学的な活性の強さが実質的に同一であることをいう。また、この用語は、実質的に同質の生物学的活性を有する場合を含んでもよく、この場合の「同質」の生物学的活性とは、光感受波長やイオン透過性などの性質が同一であることをいう。
【0026】
本発明の改変チャネルロドプシンは、遺伝子工学的手法により製造することができる。具体的には、まず、本発明の改変チャネルロドプシンをコードするポリヌクレオチド(以下、「本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子」という)を調製する。本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子は、当業者に公知の手法によって調製することができる。具体的には、例えば、本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンをコードするポリヌクレオチド、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2をコードするポリヌクレオチド、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンをコードするポリヌクレオチド、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1をコードするポリヌクレオチドのそれぞれの配列情報に基づいて化学合成することで調製することができる。また、それぞれのポリヌクレオチドの配列情報に基づき、それぞれのポリヌクレオチドの所望領域を増幅するPCRプライマーを用いてそれぞれのポリヌクレオチドの所望領域を増幅し、連結することによって調製することもできる。次に、プロモーターと機能的に連結された本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子を、宿主菌体内で複製維持が可能であり、コードされるポリペプチドを安定に発現させることができ、この遺伝子を安定に保持できる発現ベクターに組み込み、得られた組換え発現ベクターを用いて宿主を形質転換し、宿主において本発明の改変チャネルロドプシンを生産させることができる。組換え技術については、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1984 81:5662や、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989)Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Pressなどを参照することができる。発現ベクターとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド(例えばpET28、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、及び他のプラスミドDNA)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5、及び他のプラスミドDNA)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50、及び他のプラスミドDNA)、λファージ(λgt11やλZAP)、哺乳動物用プラスミド(pCMVやpSV40)、ウイルスベクター(例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスベクターなどの昆虫ウイルスベクター)、植物用ベクター(例えばバイナリベクターpBI系)、コスミドベクターなどを用いることができる。ここで、「機能的に連結された」とは、プロモーター配列が目的のポリヌクレオチド配列の転写を開始することができるような、プロモーター配列と目的のポリヌクレオチド配列との間の機能的な結合をいう。プロモーターは特に制限されず、宿主に応じて適するプロモーターを選択すればよく、公知の構成的プロモーターや誘導性プロモーターを用いることができるが、構成的プロモーターを用いることが好ましい。その具体例としては、CMVプロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター、シナプシンプロモーター、ロドプシンプロモーター、CaMVプロモーター、解糖系酵素プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、GAPDHプロモーター、GAL1プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、thy1プロモーターなどが挙げられる。本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子の発現ベクターへの挿入は、例えば、本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子にフランキングする制限酵素部位を作製又は連結し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入することにより行う。発現ベクターは、プロモーター及び本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子の他、必要に応じてエンハンサー及び他のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(アンピシリン耐性マーカー、テトラサイクリン耐性マーカーなどの薬剤耐性遺伝子マーカー、LEU1、TRP1、URA3などの栄養要求性相補遺伝子マーカー、APH、DHFR、TKなどの優性選択マーカーなど)、リボソーム結合部位(RBS)などを含んでもよい。宿主の形質転換は、プロトプラスト法、スフェロプラスト法、コンピテントセル法、ウイルス法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、ジーンボンバートメント法、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーションなどを用いて行うことができる。こうして得られた形質転換体は、資化しうる炭素源、窒素源、金属塩、ビタミンなどを含む培地を用いて適当な条件で培養する。形質転換体の培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、25~37℃で3~6時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液などを用いて行う。培養中は、必要に応じて、組換え発現ベクターに挿入した選択マーカーに応じて、アンピシリンやテトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。また、形質転換に使用する宿主は、本発明の改変チャネルロドプシンを発現できるものであれば特に制限されるものではなく、細菌(大腸菌や枯草菌)、酵母(Saccharomyces cerevisiaeなど)、動物細胞(COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、3T3細胞、BHK細胞、HEK293細胞など)、昆虫細胞などが挙げられる。本発明の改変チャネルロドプシンは、形質転換体の培養により得られた培養物(培養上清、培養細胞、培養菌体、細胞や菌体のホモジェネートなど)から一般的な方法によって分取や精製を行い、限外濾過濃縮、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化などによって、その活性を保持する形態で得ることができる。或いは、本発明の改変チャネルロドプシンは、単離や精製を行うことなく、本発明の改変チャネルロドプシンを発現する細胞の形態で提供してもよい。この場合、形質転換に使用する宿主細胞は、その後の用途に適した宿主細胞、例えば視細胞、好ましくヒト視細胞である。また、本発明の改変チャネルロドプシンを医療用途に使用する場合には、本発明の改変チャネルロドプシンの発現ベクターの形態で提供してもよい。この場合には、細胞への導入効率、細胞内での複製維持、安定性、発現効率などに優れた発現ベクターを用いることが好ましい。このようなベクターとしては、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどのウイルスベクター、(自立複製可能な)プラスミド、トランスポゾンなどを挙げることができる。本発明の改変チャネルロドプシンの発現ベクター作製用プラスミドは、例えばTomita H et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2007 Aug;48(8):3821-6や、Sugano E et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2005 Sep;46(9):3341-8に記載される方法に従って調製することができる。
【0027】
ここで、本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子としては、例えば、配列番号11に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコード)、配列番号12に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号5に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコード)、配列番号13に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号7に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコード)、配列番号14に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号8に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコード)、配列番号15に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号9に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコード)、配列番号16に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号10に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコード)が挙げられる。しかしながら、本発明の改変チャネルロドプシン遺伝子は、これらのポリヌクレオチドに限定されず、これらのポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、配列番号4,5,7~10のそれぞれに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。また、配列番号11~16のそれぞれに示す塩基配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、さらに好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチドであって、配列番号4,5,7~10のそれぞれに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。ここで、「ストリンジェントな条件でのハイブリダイゼーション」とは、例えば、30~50℃、3~4×SSC(150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.2)、0.1~0.5%SDS中で1~24時間のハイブリダイゼーション、好ましくは40~45℃、3.4×SSC、0.3%SDS中で1~24時間のハイブリダイゼーション、そしてその後の洗浄を含む。洗浄条件としては、例えば、2×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び1×SSC溶液、0.2×SSC溶液による室温での連続した洗浄などの条件が挙げられる。ただし、上記条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記の要素や他の要素(例えば、ハイブリダーゼーションプローブの濃度、長さ及びGC含量、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0028】
本発明の改変チャネルロドプシンは、本発明者らが特許文献1において報告した改変チャネルロドプシンが有する細胞膜上での発現効率が高いという特性を保持し、さらに、可視光の広い波長領域の光照射によってイオンチャネルを開き、イオンチャネルを開く波長よりも短い波長の光照射によってイオンチャネルを閉じるという特性や、イオン透過性が高いという特性を有するものである。従って、本発明の改変チャネルロドプシンや、これをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、網膜外層の障害を患う被検体の治療に有用である。ここで、「網膜外層の障害」とは、網膜外層に存在する視細胞が変性、消失するなどして視機能不全や視機能障害を生じているが、視細胞以外の細胞は依然として正常なままであったり、機能の一部が保持されていたりする任意の疾患をいう。このような疾患としては、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、網膜はく離などを挙げることができる。「被検体」とは、網膜外層の障害に起因して、失明している被検体や、失明のリスクを有する被検体を意味する。被検体はヒトに限らず、その他の哺乳動物であってもよい。その他の哺乳動物としては、例えばマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマなどが挙げられる。「網膜外層の障害を患う被検体の治療」とは、網膜外層の障害に起因して失明していたり、失明のリスクを有したりする被検体において、本発明の医薬の投与前と比較して、視機能を回復することを意味する。
【0029】
本発明の医薬組成物は、本発明の改変チャネルロドプシンや、これをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを有効成分とし、網膜外層の障害を患う被検体を治療するための医薬として製剤化される。その有効量は、所与の症状や用法について治療効果を与え得る量であり、動物を用いた試験、臨床試験の実施により当業者によって適宜決定されるが、投与対象とする被検体の年齢、体重、性別、疾患の状態や重篤度、投与方法などが考慮される。ウイルスの場合、ウイルス量は、例えば1012~1013capsids/ml(例えば、約1013capsids/ml)である。医薬としての製剤化に際し、有効成分は1以上の薬学的に許容される担体と共に製剤化されてよい。薬学的に許容される担体としては、各種緩衝液、例えば生理食塩水、リン酸塩、酢酸塩などの緩衝液が挙げられる。医薬は、その他の治療成分を含んでよい。その他の治療成分としては、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、網膜はく離などの治療剤として公知の薬剤が挙げられる。医薬は、例えば局所投与用の注射剤、点眼剤、洗眼剤などに製剤化することができる。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプルや複数回投与容器中の単位投与剤形として提供することができる。また、医薬は、好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水などで使用前に再構成するための凍結乾燥剤としてもよい。医薬の投与は、被検体の患部、すなわち網膜への直接的な注射や、硝子体への直接的な接触によって行うことが好ましい。
【実施例
【0030】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0031】
実施例1:配列番号4に示すアミノ酸配列からなる本発明の改変チャネルロドプシン(略称:neomVChR1)
(neomVChR1を発現する細胞の取得)
特許文献1に記載の方法に準じて次のようにして取得した。特許文献1に記載の配列番号1に示すアミノ酸配列からなる改変チャネルロドプシンの1~307番目のアミノ酸(但し166番目をアラニンに、194番目をシステインに、229番目をアスパラギンに置換)をコードするポリヌクレオチドの領域と、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2の配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域が連結され、その5’末端と3’末端に制限酵素配列を付加したポリヌクレオチドを化学合成し、アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入した。こうして調製したneomVChR1発現アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドの構成を図1に示す。このプラスミドは、マルチクローニングサイトの3’領域に蛍光タンパク質遺伝子(venus)が配置されており、目的遺伝子はC末領域にvenusを付加した融合タンパク質として発現されるので、venusを指標にしてセルソータ(SH-800、Sony)を用いてneomVChR1を発現する細胞を分取した。なお、細胞は、Human embryonic Kidney(HEK)293細胞を用い、10%FBSを含むDMEM培地で、5%CO、37℃で培養した。neomVChR1発現アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドは、2種類のプラスミド(pAAV-RC、pHelper)とともに、制限酵素で切断して直鎖状にした後、エレクトロポレーション法(CUY21Pro-vitro system、Nepa Gene)により細胞に導入した。
【0032】
(パッチクランプ法による光誘発電流の測定)
neomVChR1を発現する細胞について、顕微鏡下でvenusの発現を確認した後、パッチクランプシステム(EPC-10、HEKA)を用いて測定した。細胞外液は、138mM NaCl、3mM KCl、10mM HEPES、4mM NaOH、1mM CaCl、2mM MgClからなり、1N HClでpH7.4に調整したものを用いた。電極内液は、130mM CsCl、1.1mM EGTA、2mM MgCl、0.1mM CaCl、10mM NaCl、10mM HEPES、2mM NaATPからなり、1N CsOHでpH7.2に調整したものを用いた。光照射は1秒間で行い、強度は1μW/mmに設定した。波長は400、450、500、550、600nmのそれぞれとした。結果を図2に示す。図2から明らかなように、neomVChR1は、450~600nmの可視光の広い波長領域の光照射によってイオンチャネルを開き、イオンチャネルを開く波長よりも短い400nmの光照射によってイオンチャネルを閉じる特性を有することがわかった。
【0033】
実施例2:配列番号8に示すアミノ酸配列からなる本発明の改変チャネルロドプシン(略称:switCh)
特許文献1に記載の配列番号1に示すアミノ酸配列からなる改変チャネルロドプシンの1~141番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域と、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1の配列番号6に示すアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸(但し167番目をアラニンに置換)をコードするポリヌクレオチドの領域と、配列番号1に示すアミノ酸配列の170~307番目のアミノ酸(但し194番目をシステインに、229番目をアスパラギンに置換)をコードするポリヌクレオチドの領域と、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンの配列番号3に示すアミノ酸配列の252~292番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域が連結され、その5’末端と3’末端に制限酵素配列を付加したポリヌクレオチドを化学合成し、アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入すること以外は実施例1と同様にして、switChを発現する細胞を分取した。こうして取得したswitChを発現する細胞について、パッチクランプ法による光誘発電流の測定を実施例1と同様にして行った。結果を図3に示す。図3から明らかなように、switChは、neomVChR1よりもイオン透過性が高いことがわかった。
【0034】
実施例3:配列番号10に示すアミノ酸配列からなる本発明の改変チャネルロドプシン(略称:mVChR1-ClChR1-3TM)
(mVChR1-ClChR1-3TMを発現する細胞の取得)
特許文献1に記載の配列番号1に示すアミノ酸配列からなる改変チャネルロドプシンの1~141番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域と、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1の配列番号6に示すアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域と、配列番号1に示すアミノ酸配列の170~343番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域が連結され、その5’末端と3’末端に制限酵素配列を付加したポリヌクレオチドを化学合成し、アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入すること以外は実施例1と同様にして、mVChR1-ClChR1-3TMを発現する細胞を分取した。mVChR1-ClChR1-3TM発現アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドの構成を図4に示す。
【0035】
(パッチクランプ法による光誘発電流の測定)
mVChR1-ClChR1-3TMを発現する細胞について、パッチクランプ法による光誘発電流の測定を実施例1と同様にして行った。結果を図5に示す。図5には、mVChR1-ClChR1-3TMを発現する細胞と同様にして取得した特許文献1に記載の配列番号1に示すアミノ酸配列からなる改変チャネルロドプシン(略称:mVChR1)についての測定結果をあわせて示す。図5から明らかなように、mVChR1-ClChR1-3TMは、mVChR1よりもイオン透過性が高いことから、mVChR1が有する7つの膜貫通ドメイン(即ちボルボックス由来のチャネルロドプシンが有する7つの膜貫通ドメイン)の3番目の膜貫通ドメインを、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1が有する7つの膜貫通ドメインの3番目の膜貫通ドメインに置換することで、イオン透過性を高めることができることがわかった。
【0036】
実施例4:配列番号7に示すアミノ酸配列からなる本発明の改変チャネルロドプシン(略称:switCh2)
特許文献1に記載の配列番号1に示すアミノ酸配列からなる改変チャネルロドプシンの1~141番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域と、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-1の配列番号6に示すアミノ酸配列の143~170番目のアミノ酸(但し167番目をアラニンに置換)をコードするポリヌクレオチドの領域と、配列番号1に示すアミノ酸配列の170~307番目のアミノ酸(但し194番目をシステインに、229番目をアスパラギンに置換)をコードするポリヌクレオチドの領域と、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2の配列番号2に示すアミノ酸配列の270~315番目のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドの領域が連結され、その5’末端と3’末端に制限酵素配列を付加したポリヌクレオチドを化学合成し、アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入すること以外は実施例1と同様にして、switCh2を発現する細胞を分取した。こうして取得したswitCh2を発現する細胞の蛍光顕微鏡写真を図6に示す。図6には、実施例2において取得したswitChを発現する細胞の蛍光顕微鏡写真をあわせて示す。図6から明らかなように、switCh2は、switChよりも細胞膜における局在性が高いことがわかった。この結果から、本発明の改変シャネルロドプシンのC末端領域は、クラミドモナス・レインハルトチイ由来のチャネルロドプシン-2のC末端領域であることの方が、テトラセルミス・ストリアータ由来のチャネルロドプシンのC末端領域であることよりも、細胞膜における局在性が高い点で有利であると考察された。
【0037】
実施例5:配列番号7に示すアミノ酸配列からなる本発明の改変チャネルロドプシン(略称:switCh2)の変異体のイオン透過性の検討
(検討方法)
以下の7種類のswitCh2の変異体を発現する細胞を、実施例4におけるswitCh2を発現する細胞と同様にして取得し、パッチクランプ法による光誘発電流を実施例1と同様にして測定した。
・ switCh2-mut1:switCh2の161位のグルタミン酸をトレオニンに置換した変異体(E161T)
・ switCh2-mut2:switCh2の170位のロイシンをシステインに置換した変異体(L170C)
・ switCh2-mut3:switCh2の197位のシステインをセリンに置換した変異体(C197S)
・ switCh2-mut4:switCh2の161位のグルタミン酸をトレオニンに、170位のロイシンをシステインに置換した変異体(E161T+L170C)
・ switCh2-mut5:switCh2の161位のグルタミン酸をトレオニンに、197位のシステインをセリンに置換した変異体(E161T+C197S)
・ switCh2-mut6:switCh2の170位のロイシンをシステインに、197位のシステインをセリンに置換した変異体(L170C+C197S)
・ switCh2-mut7:switCh2の161位のグルタミン酸をトレオニンに、170位のロイシンをシステインに、197位のシステインをセリンに置換した変異体(E161T+L170C+C197S)
【0038】
(検討結果)
switCh2の161位のグルタミン酸をトレオニンに置換することで、イオン透過性が向上することがわかった。switCh2とswitCh2-mut1(配列番号9に示すアミノ酸配列からなる)の測定結果を図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、異なる波長の光照射によってイオンチャネルの開閉が可能な、及び/又は、イオン透過性(光反応性)が高い、改変チャネルロドプシンを提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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