(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】扁平電線およびその製造方法、端子付き扁平電線ならびにワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20240514BHJP
H01B 13/14 20060101ALI20240514BHJP
H01B 13/24 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H01B13/14 Z
H01B13/24
(21)【出願番号】P 2020057504
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】澤田 由香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩信
(72)【発明者】
【氏名】児島 直之
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-166415(JP,A)
【文献】特開2010-003634(JP,A)
【文献】特開2013-143290(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/04-7/16
H01B 13/00
H01B 13/14
H01B 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が略円形状である複数の線状導体を接触状態で並列配置した導体群と、前記導体群の周囲を
、矩形筒形状に被覆する絶縁被覆部とを備える扁平電線であって、
前記扁平電線の横断面で見て、前記線状導体の円相当径を100%とするとき、
前記線状導体は、前記扁平電線の厚さ方向に対向する前記絶縁被覆部の部分への食い込み寸法の合計が、前記円相当径の5~95%であ
り、かつ、
前記導体群の、隣接する線状導体同士が接触する導体接触部分と、前記導体接触部分に対向する前記絶縁被覆部の部分との間に、空隙を有することを特徴とする扁平電線。
【請求項2】
前記導体群は、前記扁平電線の横断面で見て、前記円相当径に対する前記導体群の列幅の比が、3倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の扁平電線。
【請求項3】
前記線状導体は、複数の素線を撚り合わせた撚線であることを特徴とする請求項1または2に記載の扁平電線。
【請求項4】
前記線状導体は、単線であることを特徴とする請求項1または2に記載の扁平電線。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の扁平電線と、前記扁平電線の端部に取り付けられた端子部と、を備えることを特徴とする端子付き扁平電線。
【請求項6】
前記端子部は、前記扁平電線の前記導体群に、溶接または圧縮により電気的に接続されていることを特徴とする請求項5に記載の端子付き扁平電線。
【請求項7】
請求項5または6に記載の端子付き扁平電線が、単独または他の電線などと組み合わされ車両に組付け可能に形成されていることを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の扁平電線
を製造
する方法であって、
横断面が略円形状である複数の線状導体を並列に配置した後に、前記複数の線状導体を列幅方向に押圧し、複数の前記線状導体同士を互いに接触状態にして導体群を形成する工程と、
前記導体群の周囲に、絶縁樹脂材料を押し出す加圧成形を施すことで、前記扁平電線の横断面で見て、前記線状導体の円相当径を100%とするとき、前記線状導体は、前記扁平電線の厚さ方向に対向する絶縁被覆部の部分への食い込み寸法の合計が、前記円相当径の5~95%となるように、前記導体群の周囲を
矩形筒形状に被覆する絶縁被覆部で形成する工程と、
を含むことを特徴とする扁平電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平電線およびその製造方法、端子付き扁平電線ならびにワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、ハイブリッド自動車や電気自動車等に代表される電動化や、自動運転システムやコネクテッドカー等に代表される多機能化または高機能化が急速に進んでいる。このため、このような車両に用いるワイヤーハーネスは、複雑な配策経路に対応でき、しかも高い放熱性を有する必要がある。
【0003】
通常、ワイヤーハーネス等には、薄い帯状の扁平電線が用いられている。例えば特許文献1には、金属バスバータイプの導体の周囲を絶縁被覆部で覆った扁平電線が開示されている。また例えば特許文献2には、複数の素線を撚り合わせた撚線を扁平に成形した扁平電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第10074461号明細書
【文献】国際公開第2018/088419号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のバスバータイプの導体は、滑らかな表面を有しているため、導体が絶縁被覆部と密着せず、シュリンクバックが発生しやすく端子抜けする場合があるし、また、かかる扁平電線を曲げた場合に導体と絶縁被覆部との間の隙間が広がり、部分的な放熱性が低下して発熱が生じる場合もある。ここで、「シュリンクバック」は、電線製造時に導体の周囲を覆う絶縁被覆部(シース)の長手引張方向に生じた残留歪が、電線敷設後の使用環境下での熱負荷により解放され、さらに、導体と絶縁被覆部との間の摩擦抵抗の低減等の要因が付加されるなどによって、電線の端部の絶縁被覆部が収縮する現象のことである。バスバータイプの導体と絶縁被覆部とを密着させようとする場合には、プライマーによって導体の表面処理を行ったり、導体と絶縁被覆部との間に接着層を設けたりすることが考えられるが、コストが増加する。また、バスバータイプの導体と絶縁被覆部との密着のためには、導体表面を粗くする方法も考えられるが、扁平電線を押出成形によって製造する場合に、バリや絶縁被覆部の損傷の要因となり得る。
【0006】
一方、特許文献2では、複数の素線を断面略円形に撚り合わせた原料撚線を圧延することで扁平電線を形成しているため、その扁平化には限界があるため、細径化効果が小さく、また、十分な放熱性を確保することができない場合がある。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、導体に対する絶縁被覆部のシュリンクバックによる収縮力よりも大きな密着力を有しつつ、電線の端部からの絶縁被覆部の剥ぎ取りも容易であり、また、放熱性にも優れた扁平電線およびその製造方法、端子付き扁平電線、ならびにワイヤーハーネスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、横断面が略円形状である複数の線状導体を接触状態で並列配置した導体群と、導体群の周囲を被覆する絶縁被覆部とを備える扁平電線であって、扁平電線の横断面で見て、線状導体の円相当径(Y)を100%とするとき、線状導体は、扁平電線の厚さ方向に対向する絶縁被覆部の部分への食い込み寸法の合計(Z)が、円相当径の5~95%である扁平電線によれば、導体と絶縁被覆部とが強く密着しているにもかかわらず、絶縁被覆部が剥ぎ取りやすく、優れた放熱性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1)横断面が略円形状である複数の線状導体を接触状態で並列配置した導体群と、前記導体群の周囲を被覆する絶縁被覆部とを備える扁平電線であって、
前記扁平電線の横断面で見て、前記線状導体の円相当径を100%とするとき、
前記線状導体は、前記扁平電線の厚さ方向に対向する前記絶縁被覆部の部分への食い込み寸法の合計が、前記円相当径の5~95%であることを特徴とする扁平電線。
(2)前記導体群は、前記扁平電線の横断面で見て、前記円相当径に対する前記導体群の列幅の比が、3倍以上であることを特徴とする上記(1)に記載の扁平電線。
(3)前記線状導体は、複数の素線を撚り合わせた撚線であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の扁平電線。
(4)前記線状導体は、単線であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の扁平電線。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の扁平電線と、前記扁平電線の端部に取り付けられた端子部と、を備えることを特徴とする端子付き扁平電線。
(6)前記端子部は、前記扁平電線の前記導体群に、溶接または圧縮により電気的に接続されていることを特徴とする上記(5)に記載の端子付き扁平電線。
(7)上記(5)または(6)に記載の端子付き扁平電線が、単独または他の電線などと組み合わされ車両に組付け可能に形成されていることを特徴とするワイヤーハーネス。
(8)扁平電線の製造方法であって、
横断面が略円形状である複数の線状導体を並列に配置した後に、前記複数の線状導体を列幅方向に押圧し、複数の前記線状導体同士を互いに接触状態にして導体群を形成する工程と、
前記導体群の周囲に、絶縁樹脂材料を押し出す加圧成形を施すことで、前記扁平電線の横断面で見て、前記線状導体の円相当径を100%とするとき、前記線状導体は、前記扁平電線の厚さ方向に対向する絶縁被覆部の部分への食い込み寸法の合計が、前記円相当径の5~95%となるように、前記導体群の周囲を絶縁被覆部で形成する工程と、
を含むことを特徴とする扁平電線の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導体に対する絶縁被覆部のシュリンクバックによる収縮力よりも大きな密着力を有しつつ、電線の端部からの絶縁被覆部の剥ぎ取りも容易であり、また、放熱性にも優れた扁平電線およびその製造方法、端子付き扁平電線、ならびにワイヤーハーネスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一の実施形態の扁平電線の、横断面を含む一部分を示す概略斜視図である。
【
図2】扁平電線の横断面の一部を拡大して示した図である。
【
図3】撚線で形成されている線状導体の一部の概略斜視図である。
【
図4】単線で形成されている線状導体の一部の概略斜視図である。
【
図5】(a)が、複数本の単線を並列配置して製造した扁平電線の横断面の図、(b)および(c)が、いずれも複数本の撚線を並列配置して製造した扁平電線の横断面の図である。
【
図6A】複数の線状導体を並べて、導体群を形成する方法を説明するための模式図である。
【
図6B】導体群に絶縁被覆部を形成する方法を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の一の実施形態に係る扁平電線に端子を接続した車載用の端子付き扁平電線の要部の概略斜視図である。
【
図8】
図7に示す端子付き扁平電線を、ワイヤーハーネスとして車両の内部に配策したときの例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
1.扁平電線
本発明の扁平電線は、横断面が略円形状である複数の線状導体を接触状態で並列配置した導体群と、導体群の周囲を被覆する絶縁被覆部とを備える扁平電線である。そして、この扁平電線は、かかる扁平電線の横断面で見て、線状導体の円相当径(Y)を100%とするとき、線状導体は、扁平電線の厚さ方向に対向する絶縁被覆部の部分への食い込み寸法の合計(Z)が、円相当径(Y)の5~95%であることを特徴とする。
【0014】
図1は、本発明の一の実施形態の扁平電線の概略斜視図である。
図1に示される扁平電線10は、横断面が略円形状である複数の線状導体12を接触状態で並列配置した導体群14と、導体群14の周囲を被覆する絶縁被覆部16とを備える。そして、扁平電線10の横断面で見て、線状導体12の円相当径(Y)を100%とするとき、線状導体12は、前記扁平電線10の厚さ方向に対向する前記絶縁被覆部16の部分への食い込み寸法の合計(Z)が、円相当径寸法の5~95%である。
【0015】
図2は、扁平電線10の横断面の概略模式図である。以下、
図2を用いて線状導体12の絶縁被覆部16への食い込み寸法の割合の算出方法について説明する。
【0016】
線状導体12の絶縁被覆部16への食い込み寸法は、扁平電線10の並列配置方向を水平方向に配置するように見た場合において、線状導体12の輪郭がなす円の上下両端部をそれぞれ0%とし、線状導体12の輪郭がなす円の中心を含む水平線を50%とした場合における、上端部から中心を含む水平線までの垂直方向の食い込み寸法(割合)と、下端部から中心を含む水平線までの垂直方向の食い込み寸法(割合)との和である。そして、このようにして求めた食い込み寸法を、扁平電線10の全ての箇所で測定し算術平均する。
【0017】
なお、「円相当径」とは、線状導体12の輪郭が略円形の場合には、輪郭の外接円の直径をいう。
【0018】
具体的に、
図2においては、上端部から中心を含む水平線までの垂直方向の食い込み寸法(割合)および下端部から中心を含む水平線までの垂直方向の食い込み寸法(割合)は、いずれも25%であるから、それらの食い込み寸法の合計は、50%である。
図2においては、線状導体12が上下対称的に配置されているが、実際には、線状導体12が上下非対称に配置されることもある。ただし、以上で説明した食い込み寸法の割合の算出方法によれば、そのような場合であっても食い込み寸法の割合を算出することができる。
【0019】
導体群14を構成するそれぞれの線状導体12は、例えば銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金などの材料で形成することができる。本実施形態では、線状導体12は、軽量化と柔軟性を重視して不純物の少ないアルミニウム(JIS規格のA1000番台。ここではJIS A1070を使用)で形成している。
【0020】
線状導体12は、それぞれ断面が略円形である。それぞれの線状導体12は、それぞれ複数の素線121aを撚り合わせた撚線で形成されている(
図3参照)。
図3では、線状導体12として、19本の素線121を撚り合わせた撚線を例示しているが、素線121の本数は特に限定されず、適宜変更することができる。本実施形態では、線状導体12として、19本の素線121を撚り合わせ、断面積0.75sq(外径1mm)とした撚線を用いている。
【0021】
図4に示すように、線状導体12Aは、単線で形成されてもよい。ここで、線状導体は、撚線で形成された方が柔軟性などの点で利点がある。
【0022】
また、それぞれの線状導体は、一部が撚線で形成され、その余が単線で形成されてもよい。このように撚線と単線とを組み合わせても、柔軟性などの点で利点がある。
【0023】
なお、
図5(a)に、複数本の単線を並列配置して製造した扁平電線の横断面の図、
図5(b)および
図5(c)に、いずれも複数本の撚線を並列配置して製造した扁平電線の横断面の図を示す。この
図5に示すように、特に撚り線の場合には、円状にはなり難い。
【0024】
導体群14は、線状導体12を並列に並べると共に、そのようにして並べた線状導体12を接触状態で配置した横断面が略矩形状の構造である。
図1に示すように、線状導体12は一列に並列して導体群14を構成するものとする。
【0025】
導体群14においては、その放熱性を考慮して、扁平電線10の横断面で見て、導体の円相当径(Y)に対する導体群の列幅(X)の比、すなわち扁平比(X/Y)が、3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、6~9倍であることがさらに好ましい。なお、
図1に示す導体群14では、横断面が円形の線状導体12を並列に7本並べていることから、扁平比(X/Y)は、7である。
【0026】
すなわち、「円相当径(Y)に対する導体群の列幅(X)の比(X/Y)」とは、扁平電線10の横断面で見て、幅方向での線状導体12の並び数X(本)と、厚さ方向での線状導体12の並び数Y(本)との比率であると言い換えることもできる。そして、厚さ方向の線状導体12の並び数Yは1本であることから、扁平比は、幅方向での線状導体12の並び数X(本)に等しい。もっとも、「(X/Y)比」とは、導体群14の横断面の見かけ上の幅方向の長さX(mm)と、厚さ方向の長さY(mm)との比率であってもよい。すなわち、扁平率(X/Y)の算出においては、並び数X(本)および並び数Y(本)を用いてもよいし、また、長さX(mm)および長さY(mm)を用いてもよい。
【0027】
絶縁被覆部16は、導体群14の周囲を被覆するものである。本実施形態の扁平電線10において、絶縁被覆部16は、1層で形成されても、複数の層で形成されてもよい。絶縁被覆部16の形状は特に限定されないが、断面が矩形筒形状であれば、
図1および
図2に示すように、角部が丸みを持った形状でもよい。また、短辺や長辺が直線状ではなく、弧状を成していてもよい。絶縁被覆部16を構成する材料は、絶縁性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・四フッ化エチレン(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材料や、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム材料、ゴム弾性を有する樹脂材料(エラストマー)など、柔軟性を有する樹脂材料を例示することができる。本実施形態の扁平電線10では、絶縁性能などの観点からポリ塩化ビニルを用いている。このように、絶縁被覆部16をポリ塩化ビニルで構成することにより、扁平電線10の可撓性が向上し、ワイヤーハーネスとしての配策時の取扱い性が向上する。
【0028】
絶縁被覆部16を、複数の層で形成する場合、例えば内側(線状導体12側)にポリイミドやポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性樹脂材料を、外側に上述したポリ塩化ビニルなどの樹脂材料をそれぞれ配置した構成とすることもできる。このように耐熱性樹脂材料を内側の線状導体12と接触する側に配置することにより、線状導体12からの放熱による樹脂材料の損傷を抑制することができる。
【0029】
扁平電線10としては、可撓性を有することが好ましい。このように、扁平電線10が、可撓性を有することにより、容易に曲げたり(折り曲げも含む)、捻ったり、階段状に屈曲させたりすることができ、所定の形状を容易に実現でき、ワイヤーハーネスとしての配策時の取扱い性を高めることができる。
【0030】
次に、上述した一の実施形態に係る扁平電線10の製造方法の一手順を説明する。具体的に、この扁平電線10の製造方法は、横断面が略円形状である複数の線状導体12を並列に配置した後に、複数の線状導体12を列幅方向に押圧し、複数の線状導体12同士を互いに接触状態にして導体群14を形成する工程と、導体群14の周囲に、絶縁樹脂材料を押し出す加圧成形を施すことで、扁平電線10の横断面で見て、線状導体12の円相当径(Y)を100%とするとき、線状導体12は、扁平電線10の厚さ方向に対向する絶縁被覆部16の部分への食い込み寸法の合計(Z)が、円相当径の5~95%となるように、導体群14の周囲を絶縁被覆部16で形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0031】
図6Aは、複数の線状導体12を並べて、導体群14を形成する方法を説明するための模式図である。また、
図6Bは、導体群14に絶縁被覆部16を形成する方法を説明するための模式図である。
【0032】
扁平電線10を製造する際は、
図6Aに示すように、先ず、導体群14を形成する。導体群14は、横断面が略円形状である複数の線状導体12を並列に配置した後に、それら複数の線状導体12を列幅方向に押圧することで、複数の線状導体12同士を互いに接触状態にして形成する。この押圧は、例えばダイスやローラーなどを用いて線状導体12を押圧し、線状導体12同士を接触状態にするものである。なお、線状導体12を列幅方向に強く押圧して圧縮することで、線状導体12同士の間に存在する隙間を小さくし、導体群14内の空隙率を小さくすることもできる。
【0033】
続いて、
図6Aに示すように形成した導体群14を所定の金型装置にセットし、その周囲に、絶縁樹脂材料を押し出す加圧成形を施すことで、導体群14の周囲を絶縁性材料、例えばポリ塩化ビニルで形成する。そしてこのとき、扁平電線10の横断面で見て、線状導体12の円相当径(Y)を100%とするとき、線状導体12は、扁平電線10の厚さ方向に対向する絶縁被覆部16の部分への食い込み寸法の合計(Z)が、円相当径の5~95%となるように、押出圧力を調整する。押出圧力の調整方法としては、具体的に、押出温度、口金のサイズ、ダイス及び/又はニップルの距離及び/又は角度、並びにそれらの組み合わせなどを調整する。線状導体12の食い込み寸法が大きい場合には、押出圧力を減少させ、線状導体12の食い込み寸法が小さい場合には、押出圧力を増加させる。このようにして、上述した、導体群14の周囲が絶縁被覆部16で覆われ、かつ線状導体12の絶縁被覆部16への食い込み寸法が、円相当径寸法の5~95%である扁平電線10を製造することができる。
【0034】
以上で述べたように、本実施形態に係る扁平電線10は横断面が略円形状である複数の線状導体を接触状態で並列配置しているため、導体群14の厚さを、1本の線状導体12の外径まで小さくなるため、扁平化(薄型化)が容易であり、高い放熱性も確保できる。この際、線状導体12として、広く一般に利用されている既存の線状導体を使用することができるため、バリエーションの展開、線状導体12の金属種の変更、構造の変更などに対して柔軟に対応することができる。
【0035】
また、この扁平電線10は、導体群14を構成する線状導体12を複数の素線121を撚り合わせた撚線12で構成する場合は、この扁平電線10の柔軟性や放熱性が一層向上する。また、各導体12を
図3に示すような単線で構成している場合は、当該扁平電線10の空隙率が小さくなりやすく、放熱性が一層向上する。
【0036】
さらに、この扁平電線10は、その横断面で見て、線状導体12の円相当径(Y)を100%とするとき、線状導体12は、絶縁被覆部16への食い込み寸法が、円相当径寸法の5%以上であるため、線状導体12と絶縁被覆部16との間の密着力が、絶縁被覆部16の収縮力を上回るため、シュリンクバックの発生を強く抑制し、端子抜けを防止することができる。したがって、車両搭載時などにおいても、長期間にわたって劣化や故障の少ないワイヤーハーネスを得ることができる。具体的に、この扁平電線10は、自動車電線規格JASO D618の加熱収縮試験に準拠して測定される収縮長が2mm以下である。
【0037】
また、線状導体12は、絶縁被覆部16への食い込み寸法が、円相当径寸法の95%以下であるため、端部における端子部の取り付けなどのための部分的な絶縁被覆部16の剥ぎ取り加工の加工性が高い。このように、扁平電線10は、線状導体12と絶縁被覆部16との間の密着性を向上するという性質と、絶縁被覆部16の剥ぎ取り加工の加工性を向上するという性質を備える。
【0038】
2.端子付き扁平電線およびワイヤーハーネス
図7は、本発明の一の実施形態に係る扁平電線10に端子を接続した車載用の端子付き扁平電線18を模式的に示す概略斜視図である。また、
図8は、
図7に示す端子付き扁平電線18をワイヤーハーネスとして車両24に用いた構成例を示す概略模式図である。
【0039】
図7に示すように、端子付き扁平電線18は、上述した実施形態に係る扁平電線10と、その扁平電線10の端部に端子部20を取り付けた端子部と、を備えることを特徴とするものである。端子部20は、扁平電線10の導体群14と電気的に接続された金属端子である。端子部19は、扁平電線10の導体群12に、溶接または圧縮により電気的に接続されていることが好ましい。より具体的に、端子部19と扁平電線10の導体群14との接続方法としては、例えば超音波溶接、抵抗溶接、レーザ溶接等の溶接技術、圧着等の圧縮技術などが挙げられる。また、端子部20と扁平電線10の集合導体14との接続部は、保護部材22(本実施形態では熱収縮チューブ)で覆われていてもよい。
【0040】
図8に示すように、端子付き扁平電線18は、ワイヤーハーネスとして、単独または他の電線などと組み合わされ車両に組み付け可能に形成されている。
図8では単独で車両に組付けられた例を示している。例えば自動車などの車両24の各所に用いられ、車両24の複雑な形状に応じて適宜曲げや捻り(繰り返しの曲げやねじりを含む)を形成した状態で配策され、それぞれの端子部20が所定の端子台やECU、バッテリ装置などに接続されている。
【0041】
このように、本実施形態に係る扁平電線10は、可撓性を有し、配策時の取扱い性や放熱性が高く、
図8に示すように、端子付き扁平電線18を用いた車載用のワイヤーハーネスとして特に好適に利用することができる。本実施形態の扁平電線10は、導体群14が1層構造のため、導体群14の厚さを必要最低限にでき、車載用のワイヤーハーネスとして一層有用である。もっとも、扁平電線10は、車載用のワイヤーハーネス以外の用途に利用してもよい。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において自由に変更することができる。
【0043】
[実施例]
(試料の製造)
横断面が略円形状であるアルミニウム(JIS A1070)の線状導体を19本並列に配置した後に、線状導体を列幅方向に押圧し、線状導体同士を互いに接触状態にして導体群を形成した。次いで、導体群の周囲に、ポリ塩化ビニルを押し出して押出成形を施し、アルミニウムの導体群の周囲をポリ塩化ビニルで被覆した扁平電線を得た。押出成形の際、押圧の圧力を変化させることにより、線状導体の絶縁被覆部への食い込み寸法を変化させた。
【0044】
(結果)
下記表1に、それぞれの試料の線状導体の絶縁被覆部への食い込み寸法(「食い込み寸法」と表記する。)、押出成形の際の圧力(「押出圧力」と表記する。)、加熱収縮のしにくさ(「加熱収縮」と表記する。)および絶縁被覆部の剥ぎ取りやすさ(「剥ぎ取り」と表記する。)を示す。なお、加熱収縮のしやすさは、自動車電線規格JASO D618の加熱収縮試験に準拠して測定される収縮長が0.1mm未満の場合を「◎」、収縮長が0.1mm以上1mm未満の場合を「○」、収縮長が1mm以上2mm未満の場合を「△」、収縮長が2mm以上の場合を「×」と評価した。また、絶縁被覆部の剥ぎ取りやすさは、電線が切れない場合又は樹脂が残らない場合を「○」、電線が切れる場合又は線に樹脂が残っている場合を「×」と評価した。
【0045】
【0046】
表1から、線状導体の絶縁被覆部への食い込み寸法が、円相当径寸法の5~95%であることにより、導体と絶縁被覆部とが強く密着しているにもかかわらず、絶縁被覆部が剥ぎ取りやすいことが分かった。
【符号の説明】
【0047】
10 扁平電線
12 線状導体(撚線)
12A 線状導体(単線)
121 素線
14 導体群
16 絶縁被覆部
18 端子付き扁平電線
20 端子部
22 保護部材
24 車両