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  • 特許-筋修復促進用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】筋修復促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20240514BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240514BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20240514BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
A23L33/135
C12N1/20 A
C12N5/077
C12N1/20 E
A23K10/16
A23L2/00 F
A23L2/52 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020522633
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021752
(87)【国際公開番号】W WO2019230957
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018105946
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FREM BP-10953
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02642
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02643
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02644
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】中川 久子
(72)【発明者】
【氏名】關 敬弘
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003900(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/031749(WO,A1)
【文献】特開2016-216408(JP,A)
【文献】特開2018-083761(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0335688(US,A1)
【文献】MATSUO K., et al.,Contribution of lactobacillus casei to the recovery from chemically induced skeletal muscle damage u,International Journal of Exercise Science,2013年09月,11th ISEI SYMPOSIUM,Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、C12N、A23K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する菌の菌体及び/又はその培養物を有効成分とする筋修復促進用組成物であって、
ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する菌が、ラクトバチルス ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)から選択されるひとつ以上であることを特徴とする前記筋修復促進用組成物。
【請求項2】
ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する乳酸菌が、ラクトバチルス ガセリ SBT2055(FERM BP-10953)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー SBT0413(NITE P-02642)、 ラクトバチルス ロイテリ SBT1926(NITE P-02643)、ラクトバチルス ヘルベティカス SBT11380(NITE P-02644)から選択されるひとつ以上であることを特徴とする請求項1に記載の筋修復促進用組成物。
【請求項3】
前記菌体及び/又はその培養物が、死菌体である、請求項1又は2に記載の筋修復促進用組成物。
【請求項4】
前記死菌体が、菌体破砕物の不溶性画分である、請求項3に記載の筋修復促進用組成物 。
【請求項5】
新規乳酸菌ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー SBT0413(NITE BP-02642)
【請求項6】
新規乳酸菌ラクトバチルス ロイテリ SBT1926(NITE BP-02643)
【請求項7】
新規乳酸菌ラクトバチルス ヘルベティカス SBT11380(NITE BP-02644)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筋修復促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋はヒトの体重の40%程度を占める最大の器官であり、その機能は全身運動以外にも姿勢の維持やエネルギー代謝、内臓器官の保護と多岐にわたる。
【0003】
骨格筋は修復機能を有しており、物理的、化学的な損傷を受けると、筋繊維周囲に位置する筋衛星細胞が働くことで損傷部位が修復される。筋衛星細胞は通常静止した状態であるが、骨格筋に損傷が起きると活性化し、筋芽細胞に分化する。筋芽細胞は増殖後、筋管に分化し、損傷部位に融合することで骨格筋が修復される。
【0004】
骨格筋の修復を促進する化合物として顆粒球コロニー刺激因子(特許文献1)やβ-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(特許文献2)、レチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニスト(特許文献3)が報告されている。
【0005】
乳酸菌は代謝の過程で乳酸を産生する細菌であり、古くから様々な発酵食品に利用されている。近年は、プロバイオティクス(生きて腸まで届くことで宿主に有益な効果をもたらす)として、乳酸菌の機能性が注目されている。
【0006】
これまでに、乳酸菌を有効成分とする筋修復促進用組成物はいずれの文献にも開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2010/131382号
【文献】特表2016-520050号
【文献】特表2013-536855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、乳酸菌を有効成分とする新規の筋修復促進用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、筋修復促進作用を有する乳酸菌を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は乳酸菌を有効成分とする新規の筋修復促進用組成物を提供するものである。また、本発明は産業上利用可能な新規の乳酸菌株を提供するものである。
したがって、本発明は以下の構成を有する。
(1)ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する菌の菌体及び/又はその培養物を有効成分とする筋修復促進用組成物。
(2)ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する菌が、ラクトバチルス ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー (Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)から選択されるひとつ以上であることを特徴とする(1)に記載の筋修復促進用組成物。
(3)ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する乳酸菌が、ラクトバチルス ガセリSBT2055(FERM BP-10953)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー SBT0413(NITE P-02642)、ラクトバチルス ロイテリ SBT1926(NITE P-02643)、ラクトバチルス ヘルベティカス SBT11380(NITE P-02644)から選択されるひとつ以上であることを特徴とする(1)に記載の筋修復促進用組成物。
(4)前記菌体及び/又はその培養物が、死菌体である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の筋修復促進用組成物。
(5)前記死菌体が、菌体破砕物の不溶性画分である、(4)に記載の筋修復促進用組成物。
(6)新規乳酸菌ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー SBT0413。
(7)新規乳酸菌ラクトバチルス ロイテリ SBT1926。
(8)新規乳酸菌ラクトバチルス ヘルベティカス SBT11380。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する菌の菌体及び/又はその培養物を有効成分とする筋修復促進用組成物を提供することができる。また、本発明によれば、産業上利用可能な新規の乳酸菌株を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】筋損傷剤反応後(24時間)のマウス筋芽細胞から筋損傷剤を除去し、様々な乳酸菌加熱菌体を添加して、48時間培養後に筋芽細胞の増殖率を比較したグラフである。
図2】筋損傷剤反応後(24時間)のマウス筋芽細胞から筋損傷剤を除去し、乳酸菌加熱菌体(ラクトバチルス ガセリ)を異なる濃度で添加して、48時間培養後に筋芽細胞の増殖率を比較したグラフである。
図3】筋損傷剤反応後(24時間)のマウス筋芽細胞から筋損傷剤を除去し、乳酸菌加熱菌体(ラクトバチルス ガセリ)の破砕物の画分を添加して、48時間培養後に筋芽細胞の増殖率を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌)
本発明のラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に分類される乳酸菌であればどのようなものでも用いることができる。
具体的には、ラクトバチルス ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー (Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
本発明のラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌は、ラクトバチルス(Lactobacillus)に属する乳酸菌が、ラクトバチルス ガセリSBT2055(FERM BP-10953)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー SBT0413(NITE P-02642)、ラクトバチルス ロイテリ SBT1926(NITE P-02643)、ラクトバチルス ヘルベティカス SBT11380(NITE P-02644)であることが好ましい。
(ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌の調製)
ラクトバチルス属に属する乳酸菌は、乳酸菌培養の常法に従って培養し、所望の量を調製すればよい。調製の一態様を以下に示す。MRS(DIFCO)培地を用いてラクトバチルス属に属する乳酸菌を培養し、得られた培養物を遠心分離により集菌することにより菌体を得る。得られた菌体をそのまま用いてもよいし、濃縮、乾燥、凍結乾燥処理に供した菌体を用いることもできる。菌体は加熱乾燥などにより死菌体にしたものを用いることもできる。
(ラクトバチルス属に属する乳酸菌の不溶性画分(沈渣))
本発明のラクトバチルス属に属する乳酸菌の不溶性画分(沈渣)の調製法の一態様を以下に示す。ラクトバチルス属の菌体の凍結乾燥末を緩衝液に懸濁し、80℃、30分間程度加熱して加熱菌体を得る。この加熱菌体をフレンチプレスにより破砕する。破砕液を遠心分離して上清を除き、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の沈渣を得る。
本発明の筋修復促進用組成物では、有効成分は菌体破砕物の不溶性画分であることができ、詳細には菌体破砕物の緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)への不溶性画分であることができる。菌体破砕物の可溶性画分を追加で含んでもよく、含まなくともよい。
(新規乳酸菌株)
本発明は、新規乳酸菌株に関するものである。これらの乳酸菌株とはラクトバチルスに属するラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)SBT0413(NITE P-02642)、ラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)SBT1926(NITE P-02643)、ラクトバチルス ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT11380(NITE P-02644)である。以下、同乳酸菌株を「本発明の乳酸菌」、「本発明の乳酸菌株」、又は単にSBT0413、SBT1926、SBT11380株と記載することがある。
これらの乳酸菌株は、2018年3月15日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、SBT0413はNITE P-02642、SBT1926はNITE P-02643、SBT11380はNITE P-02644の受託番号で寄託されている。
本発明の乳酸菌は、上記乳酸菌株に制限されず、これらの寄託乳酸菌株と実質的に同等の乳酸菌株であってもよい。実質的に同等の乳酸菌株とは、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー、ラクトバチルス ロイテリ、ラクトバチルス ヘルベティカスに属する乳酸菌株であって、寄託乳酸菌株と同程度の高い筋修復促進作用を有する乳酸菌株を言う。
また、実質的に同等の乳酸菌株は、さらに、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託乳酸菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%の相同性を有し、且つ、好ましくは上記寄託乳酸菌株と同一の菌学的性質を有する。さらに、本発明の乳酸菌は、本発明の効果が損なわれない限り、寄託乳酸菌株、又はそれと実質的に同等の乳酸菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された乳酸菌株であってもよい。
(利用方法)
上記の通り、本発明の組成物は濃縮、乾燥、凍結乾燥処理に供した菌体、加熱乾燥などにより得られる死菌体も有効成分とすることができることから、製剤、飲食品、飼料の原料として広く用いることができる。
本発明の組成物の投与対象は特に限定されず、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマ又はウサギ等)であっても良い。投与対象がヒトである場合は、20歳未満の未成年、成人、又は65歳以上の高齢者などに投与することができる。
本発明の組成物の摂取量は、投与対象者の症状、年齢などを考慮してそれぞれ個別に決定されるが、通常成人の場合、0.5-5000mgであればよく、0.5-500mgが望ましく、0.5-50mgが最も望ましい。
(筋修復促進効果の評価方法)
実施例に記載の方法で評価が可能である。すなわち、以下の方法で評価が可能である。
10mg/mlラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体をフレンチプレス(Aminco)で1,200psiGで3回破砕する。破砕後に、遠心分離(4℃、7000rpm、15分間)をして上清と沈渣を得る。さらに、上清を0.22μmフィルターで濾過した。沈渣は除去した上清と等量のPBS(-)を添加して、ボルテックス後に遠心分離(4℃、7000rpm、15分間)し、上清を除去する。これを3回繰り返し、上清と等量のPBS(-)を添加したものを沈渣として使用する。フレンチプレスに供した10mg/mlラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体から得られた破砕物上清と沈渣の濃度を、それぞれ10mg/ml相当量とする。100μg/ml相当量になるように10%FBS(GIBCO)、1%ペニシリンーストレプトマイシン(SIGMA)を含有したDMEM(SIGMA)で希釈し、破砕物上清の懸濁液または沈渣の懸濁液を得る。C2C12マウス筋芽細胞をコラーゲンコートした96wellプレートに5,000cells/wellずつ播種して、5%COインキュベーターにて37℃、24時間培養後に、0.5μMブピバカイン塩酸塩(和光純薬)を24時間反応させる。その後、ブピバカインを取り除き、未破砕の加熱菌体、破砕物上清、または破砕物沈渣を添加して筋芽細胞を48時間培養する。培養後、滅菌PBS(-)による洗浄を2回行ってから、cell counting kit―8(同仁化学)を添加して37℃、2時間反応させて450nmの吸光度を測定する。得られた吸光度の値を(加熱菌体-ブランク)/(加熱菌体非添加-ブランク)×100の計算式に当てはめて、増殖率を算出する。乳酸菌菌体による筋芽細胞の増殖促進効果は加熱菌体非添加と比べて、増殖率の増加が認められれば、損傷後の筋芽細胞の増殖を促進したと判断することができる。
【0013】
以下、本発明の実施例をもとにさらに詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定して解釈されるものではない。なお、特に説明のない限り、本明細書において%は重量%を示す。
【実施例
【0014】
<実施例品1>乳酸菌加熱菌体
下記(1)の各供試菌をMRS培地(DIFCO)に植菌し、37℃にて16時間静置培養を行った。培養物を、遠心分離(4℃、7000rpm、15分間)した後、滅菌水による洗浄と遠心分離を3回繰り返して行い、洗浄菌体を得た。この洗浄菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末を得た。菌体粉末を10mg/mlになるように滅菌PBS(-)で希釈し、80℃、30分間加熱して加熱菌体を得た。加熱菌体は100μg/mlになるように10%FBS(GIBCO)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(SIGMA)を含有したDMEM(SIGMA)で希釈した。
(1)供試菌
ラクトバチルス属の下記7株を供試菌とした。
ラクトバチルス ガセリ(Lactobacillus gasseri)SBT2055(FERM BP―10953)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)SBT2115、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー (Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)SBT0413(NITE P-02642)、ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)SBT2080、ラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)SBT1926(NITE P-02643)、ラクトバチルス ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT11380(NITE P-02644)、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)SBT2035
なお、FERM BP-10953は、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターに寄託されている。
<試験例1>筋修復を促進する乳酸菌のスクリーニング
実施例品1を以下の試験に供した。
(1)試験方法
C2C12マウス筋芽細胞を10%FBS(GIBCO)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(SIGMA)を含有したDMEM(SIGMA)で培養した。C2C12マウス筋芽細胞をコラーゲンコートした96wellプレートに5,000cells/wellずつ播種して、5%COインキュベーターにて37℃、24時間培養後に、0.5μMブピバカイン塩酸塩(和光純薬)を24時間反応させた。
その後、ブピバカインを取り除き、各加熱菌体を添加して筋芽細胞を48時間培養した。培養後、滅菌PBS(-)による洗浄を2回行ってから、cell counting kit―8(同仁化学)を添加して37℃、2時間反応させて450nmの吸光度を測定した。得られた吸光度の値を(加熱菌体添加-ブランク)/(加熱菌体非添加-ブランク)×100の計算式に当てはめて、増殖率を算出した。乳酸菌菌体による筋芽細胞の増殖促進効果は加熱菌体非添加と比べて、増殖率の増加が認められれば、損傷後の筋芽細胞の増殖を促進したと判断することができる。
【0015】
(2)試験結果
乳酸菌株ごとの筋芽細胞の増殖率を図1に示した。吸光度を測定した結果、7菌株中4菌株の加熱菌体において、筋芽細胞の増殖率の増加が認められた。したがって、特定の株の乳酸菌加熱菌体に損傷後の筋芽細胞の増殖を促進する作用が認められた。
【0016】
<試験例2>ラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体の濃度依存的な効果
(乳酸菌菌体の調製)
実施例品1について、菌体の濃度依存的な筋修復促進効果を調べた。
(1)試験方法
10mg/mlラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体を1、10、100μg/mlになるように10%FBS(GIBCO)、1%ペニシリンーストレプトマイシン(SIGMA)を含有したDMEM(SIGMA)で希釈した。C2C12マウス筋芽細胞をコラーゲンコートした96wellプレートに5,000cells/wellずつ播種して、5%COインキュベーターに37℃、24時間培養後に、0.5μMブピバカイン塩酸塩(和光純薬)を24時間反応させた。その後、ブピバカインを取り除き、各濃度加熱菌体を添加して筋芽細胞を48時間培養した。培養後、滅菌PBS(-)による洗浄を2回行ってから、cell counting kit―8(同仁化学)を添加して37℃、2時間反応させて450nmの吸光度を測定した。得られた吸光度の値を(加熱菌体-ブランク)/(加熱菌体非添加-ブランク)×100の計算式に当てはめて、増殖率を算出した。乳酸菌菌体による筋芽細胞の増殖促進効果は加熱菌体非添加と比べて、増殖率の増加が認められれば、損傷後の筋芽細胞の増殖を促進したと判断することができる。
【0017】
(2)試験結果
ラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体濃度ごとの筋芽細胞の増殖率を図2に示した。吸光度を測定した結果、ラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体の濃度依存的に、筋芽細胞の増殖率の増加が認められた。したがって、損傷後の筋芽細胞の増殖を促進する作用にはラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体の濃度依存性が認められた。
【0018】
<試験例3> ラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体の有効成分の探索
(乳酸菌菌体の調製)
実施例品1について、菌体破砕物の可溶性画分(上清)と不溶性画分(沈渣)の筋修復促進効果を調べた。
(1)試験方法
10mg/mlラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体をフレンチプレス(Aminco)で1,200psiGで3回破砕した。破砕後に、遠心分離(4℃、7000rpm、15分間)をして上清と沈渣を得た。さらに、上清は0.22μmフィルターで濾過した。沈渣は除去した上清と等量のPBS(-)を添加して、ボルテックス後に遠心分離(4℃、7000rpm、15分間)し、上清を除去した。これを3回繰り返し、上清と等量のPBS(-)を添加したものを沈渣として使用した。フレンチプレスに供した10mg/mlラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体から得られた破砕物上清と沈渣の濃度を、それぞれ10mg/ml相当量とした。100μg/ml相当量になるように10%FBS(GIBCO)、1%ペニシリンーストレプトマイシン(SIGMA)を含有したDMEM(SIGMA)で希釈し、破砕物上清の懸濁液または沈渣の懸濁液を得た。C2C12マウス筋芽細胞をコラーゲンコートした96wellプレートに5,000cells/wellずつ播種して、5%COインキュベーターにて37℃、24時間培養後に、0.5μMブピバカイン塩酸塩(和光純薬)を24時間反応させた。その後、ブピバカインを取り除き、未破砕の加熱菌体、破砕物上清、または破砕物沈渣を添加して筋芽細胞を48時間培養した。培養後、滅菌PBS(-)による洗浄を2回行ってから、cell counting kit―8(同仁化学)を添加して37℃、2時間反応させて450nmの吸光度を測定した。得られた吸光度の値を(加熱菌体-ブランク)/(加熱菌体非添加-ブランク)×100の計算式に当てはめて、増殖率を算出した。乳酸菌菌体による筋芽細胞の増殖促進効果は加熱菌体非添加と比べて、増殖率の増加が認められれば、損傷後の筋芽細胞の増殖を促進したと判断することができる。
【0019】
(2)試験結果
画分ごとの筋芽細胞の増殖率を図3に示した。吸光度を測定した結果、ラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体の破砕物沈渣が未破砕の菌体と同様に、筋芽細胞の増殖率を増加させた。したがって、ラクトバチルス ガセリSBT2055加熱菌体の不溶性画分に、損傷後の筋芽細胞の増殖を促進する効果が認められた。
【0020】
<実施例品2>乳酸菌培養物の調製
ラクトバチルス ガセリSBT2055をMRS液体培地(DIFCO)にて培養した。対数増殖期にある各培養液を、0.3%の酵母エキスを添加した10%還元脱脂乳(115℃、20分滅菌)に1%接種し、各々マザーカルチャーを作製した。これに10%の還元脱脂乳を添加して、100℃にて10分間加熱したヨーグルトミックスに2.5%添加して調製した。37℃で発酵を行い、乳酸酸度0.85に到達した時点で冷却し、発酵を終了させた。得られた発酵乳を凍結乾燥してラクトバチルス ガセリSBT2055菌体培養物の粉末を得た。得られた菌体培養物をリン酸緩衝液に再懸濁し、1×10cells/mlに調整した。
【0021】
<実施例品3>乳酸菌菌体の調製
ラクトバチルス ガセリSBT2055をMRS液体培地(DIFCO)に植菌し、37℃にて16時間静置培養を行った。培養物を、4℃、7000rpmで15分間遠心分離した後、滅菌水による洗浄と遠心分離を3回繰り返して行い、洗浄菌体を得た。この洗浄菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末を得た。
【0022】
<実施例品4>錠剤の製造
実施例品3にて調製した菌体粉末1部に脱脂粉乳4部を混合し、この混合粉末を打錠機により1gずつ常法により打錠して、本発明のラクトバチルス ガセリSBT2055の菌体200mgを含む錠剤をそれぞれ調製した。
【0023】
<実施例品5>散剤の製造
ラクトバチルス ガセリSBT2055をMRS液体培地(DIFCO)5Lに摂取後、37℃、18時間静置培養を行った。培養終了後、7000rpmで15分間遠心分離を行い、培養液の1/50量の濃縮菌体を得た。次いで、この濃縮菌体を、脱脂粉乳10重量%、グルタミン酸ソーダ1重量%を含む分散媒と同量混合し、pH7に調整後、凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥物を60メッシュのふるいで整粒化し、凍結乾燥菌末を製造した。第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、この凍結乾燥菌末1gにラクトース(日局)400g、バレイショデンプン(日局)600gを加えて均一に混合し、散剤を得た。
【0024】
<実施例品6>カプセル剤の製造
表1に示した配合により原料を混合し、造粒により顆粒状とした後、空カプセルに10mgずつ充填して、カプセル剤を製造した。
【0025】
【表1】
【0026】
<実施例品7>スティック状健康食品の製造
実施例品1の粉末30gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、スティック健康食品を製造した。
【0027】
<実施例品8>飲料の製造
表2に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、果汁飲料を製造した。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、ラクトバチルスに属する乳酸菌菌体及び/又は乳酸菌培養物を有効成分とする筋修復促進剤を提供することができる。
【受託番号】
【0029】
<寄託生物材料への言及>
(1)ラクトバチルス ガセリSBT2055
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター
日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室(郵便番号292-0818)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
1996年3月27日
2008年2月26日(原寄託によりブダペスト条約に基づく寄託への移管日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP-10953
(2)ラクトバチルス デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキーSBT0413
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
2018年2月21日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
NITE P-02642(なお、原寄託日後、原寄託に基づくブダペスト条約に基づく寄託への移管申請を2019年5月27日に行い、生存確認試験の完了後に、受領番号を通知する書面を受領した。受領番号は、NITE ABP-02642である。)
(3)ラクトバチルス ロイテリSBT1926
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
2018年2月21日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
NITE P-02643(なお、原寄託日後、原寄託に基づくブダペスト条約に基づく寄託への移管申請を2019年5月27日に行い、生存確認試験の完了後に、受領番号を通知する書面を受領した。受領番号は、NITE ABP-02643である。)
(4)ラクトバチルス ヘルベティカスSBT11380
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
2018年2月21日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
NITE P-02644(なお、原寄託日後、原寄託に基づくブダペスト条約に基づく寄託への移管申請を2019年5月27日に行い、生存確認試験の完了後に、受領番号を通知する書面を受領した。受領番号は、NITE ABP-02644である。)
図1
図2
図3