(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240515BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240515BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2020049610
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 幸信
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 哲
(72)【発明者】
【氏名】井川 裕文
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-197211(JP,A)
【文献】特開2020-025066(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052408(WO,A1)
【文献】特開2016-084371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨用組成物を用いて、シリコンゲルマニウムを含む研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法であって、
前記研磨用組成物は、砥粒、無機塩、および酸基を有する研磨促進剤を含み、かつpHが8以上であ
り、
下記方法により測定される前記シリコンゲルマニウムのエッチング量は30Å以下である、研磨方法:
〔エッチング量〕
攪拌子を用いて300rpmで回転させている研磨用組成物中に、30mm×30mmの大きさのシリコンゲルマニウムウェーハ(Si:Ge=50:50質量比)を、43℃で1時間浸漬させ、浸漬前後の膜厚の差を基に溶解量(エッチング量)を算出する。
【請求項2】
前記研磨促進剤は、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、アスパラギン酸、および(S,S)-エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨促進剤は、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)である、請求項1または2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記無機塩は、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸二水素アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記無機塩は硫酸アンモニウムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記シリコンゲルマニウムの研磨速度は280Å/min.以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記研磨対象物は窒化ケイ素をさらに含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記窒化ケイ素の研磨速度に対する前記シリコンゲルマニウムの研磨速度の比は15以上である、請求項
7に記載の研磨方法。
【請求項9】
前記研磨対象物は酸化ケイ素をさらに含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の研磨方法。
【請求項10】
前記酸化ケイ素の研磨速度に対する前記シリコンゲルマニウムの研磨速度の比は12以上である、請求項
9に記載の研磨方法。
【請求項11】
半導体基板を、請求項1~
10のいずれか1項に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【請求項12】
シリコンゲルマニウムを含む研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、
砥粒、無機塩、および酸基を有する研磨促進剤を含み、かつpHが8以上であ
り、
下記方法により測定される前記シリコンゲルマニウムのエッチング量は30Å以下である、研磨用組成物:
〔エッチング量〕
攪拌子を用いて300rpmで回転させている研磨用組成物中に、30mm×30mmの大きさのシリコンゲルマニウムウェーハ(Si:Ge=50:50質量比)を、43℃で1時間浸漬させ、浸漬前後の膜厚の差を基に溶解量(エッチング量)を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタの消費電力低減やパフォーマンス(動作特性)を向上させる技術のひとつとして、Siよりもキャリアの移動度が高い高移動度材料(以下、単に「高移動度材料」とも称する)を用いたチャネルの検討が進められている。かような高移動度材料を用いて作製されキャリアの輸送特性が向上したチャネルでは、規定のゲート電圧を印加した際に流れるドレイン電流を高めることができる。これにより、十分に高いドレイン電流を得ながら電源電圧を下げることができるという利点が得られる。この利点は、低い電力におけるMOSFET(metal oxide semiconductor field-effect transistor)のより高いパフォーマンスをもたらす。
【0003】
高移動度材料としてはIII-V族化合物、IV族化合物、Ge(ゲルマニウム)、C(炭素)のみからなるグラフェン等の適用が期待されている。特にAsを含有するIII-V族化合物やGeを含有するIV族化合物などが積極的に検討されている。
【0004】
高移動度材料を使用したチャネルは、高移動度材料を含有する部分(以下、高移動度材料部分ともいう)とケイ素材料を含有する部分(以下、ケイ素材料部分ともいう)とを有するシリコンゲルマニウム(SiGe)のような研磨対象物を研磨して形成することができる。このとき、高移動度材料部分を高い研磨速度で研磨して平滑な表面に加工することに加えて、研磨対象物の研磨後の表面に、エッチングを原因とした段差が生じるのを抑制することが求められる。例えば、特許文献1には、Ge基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、半導体基板として、シリコンゲルマニウムと窒化ケイ素(SiN)等の他の材料とを共に含む基板が用いられるようになってきている。このような基板においては、シリコンゲルマニウムを高い研磨速度で研磨しつつシリコンゲルマニウムのエッチングを抑制し、さらにシリコンゲルマニウムを選択的に研磨するという新たな要求が出てきている。こうした要求に対して、従来何ら検討がされていなかった。
【0007】
そこで本発明は、シリコンゲルマニウムの研磨速度が十分に高く、かつシリコンゲルマニウムのエッチングを抑制し、シリコンゲルマニウムの研磨速度の選択比が十分に高い研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の新たな課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒、無機塩、および酸基を有する研磨促進剤を含み、かつpHが8以上である研磨用組成物を用いて、シリコンゲルマニウムを含む研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコンゲルマニウムの研磨速度が十分に高く、かつシリコンゲルマニウムのエッチングを抑制し、シリコンゲルマニウムの研磨速度の選択比が十分に高い研磨方法が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、研磨用組成物を用いて、シリコンゲルマニウムを含む研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法であって、前記研磨用組成物は、砥粒、無機塩、および酸基を有する研磨促進剤を含み、かつpHが8以上である、研磨方法である。このような本発明の研磨方法は、シリコンゲルマニウムの研磨速度が十分に高く、かつシリコンゲルマニウムのエッチングを抑制し、シリコンゲルマニウムの研磨速度の選択比が十分に高い。
【0011】
上記のような本発明の効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されることはない。
【0012】
酸基を有する研磨促進剤は、酸化剤等の作用により酸化されたシリコンゲルマニウム膜(以下、単にGe酸化膜とも称する)の表面に吸着し、Ge酸化膜を部分的に改質する。改質されたGe酸化膜は、加工性に富んでおり研磨速度は高くなるが、溶解は起こり難く、エッチングが抑制されるものと考えられる。シリコンゲルマニウム以外の他の膜の表面にも酸基を有する研磨促進剤は吸着するものの、その作用は弱く、表面を改質するまでには至らない。よって、他の膜の研磨速度は低く抑えられる。
【0013】
また、研磨用組成物に無機塩が含まれることにより、研磨用組成物の電気伝導度は高くなる。その結果、シリコンゲルマニウム膜の表面に形成される電気二重層が圧縮され、砥粒の作用が向上し、シリコンゲルマニウム膜の研磨速度が高くなると考えられる。
【0014】
以上のような作用機序により、本発明の研磨方法によれば、シリコンゲルマニウムの研磨速度が十分に高くなり、かつシリコンゲルマニウムのエッチングを抑制し、シリコンゲルマニウムの研磨速度の選択比が十分に高いという効果が得られるものと考えられる。
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0016】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、シリコンゲルマニウムを含む。研磨対象物であるシリコンゲルマニウム中のゲルマニウム含有量は10質量%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る研磨対象物は、シリコンゲルマニウムを含んでいれば、他のシリコン含有材料を含んでいてもよい。シリコン含有材料としては単体シリコン、シリコン化合物が挙げられる。さらに、単体シリコンとしては、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン、Poly-Si)、アモルファスシリコン等が挙げられる。シリコン化合物としては、例えば、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、炭化ケイ素等が挙げられる。シリコン含有材料として、比誘電率が3以下である低誘電率材料も含まれる。
【0018】
酸化ケイ素を含む膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0019】
次に、本発明の研磨方法に用いられる研磨用組成物の構成について、詳細に説明する。
【0020】
本発明で用いられる研磨用組成物は、砥粒、無機塩、および酸基を有する研磨促進剤を含み、pHが8以上である。すなわち、本発明は、シリコンゲルマニウムを含む研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒、無機塩、および酸基を有する研磨促進剤を含み、かつpHが8以上である、研磨用組成物をも提供する。
【0021】
[砥粒]
本発明で用いられる研磨用組成物は、砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0022】
使用される砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0023】
これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0024】
砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0025】
砥粒としてコロイダルシリカを用いる場合、コロイダルシリカの表面は、シランカップリング剤等によって表面修飾されていてもよい。
【0026】
コロイダルシリカの表面をシランカップリング剤によって表面修飾する方法として、以下のような固定化方法が挙げられる。例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0027】
あるいは、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0028】
上記はアニオン性基を有するコロイダルシリカ(アニオン変性コロイダルシリカ)であるが、カチオン性基を有するコロイダルシリカ(カチオン変性コロイダルシリカ)を使用してもよい。カチオン性基を有するコロイダルシリカとして、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカの表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0029】
砥粒の大きさは特に制限されない。例えば、砥粒が球形状である場合には、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、120nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上120nm以下であることが好ましく、10nm以上80nm以下であることがより好ましく、15nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出した砥粒の比表面積(SA)を基に、砥粒の形状が真球であると仮定して算出することができる。本明細書では、砥粒の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0030】
また、砥粒の平均二次粒子径は、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的に研磨が可能になる。また、砥粒の平均二次粒子径は、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度がより向上する。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、30nm以上250nm以下であることが好ましく、40nm以上200nm以下であることがより好ましく、50nm以上150nm以下であることがさらに好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えばレーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0031】
砥粒の平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、欠陥をより低減することができる。砥粒の平均会合度はまた、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。この平均会合度とは、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0032】
研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0033】
砥粒のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比であるD90/D10の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比D90/D10の上限は特に制限されないが、2.04以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。
【0034】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D10等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0035】
研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、シリカの含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは0.05質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以上5質量%以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨対象物の研磨速度を向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0036】
[無機塩]
本発明で用いられる研磨用組成物は、無機塩を含む。かような無機塩は、研磨用組成物の電気伝導度を高め、シリコンゲルマニウム表面の電気二重層を圧縮する。したがって、シリコンゲルマニウム表面における砥粒の作用が向上し、シリコンゲルマニウムの研磨速度が向上する。
【0037】
無機塩としては、特に制限されないが、一価の無機酸の塩、二価の無機酸の塩、三価の無機酸の塩等が挙げられる。
【0038】
一価の無機酸の例としては、塩酸、硝酸、亜硝酸等が挙げられる。二価の無機酸の例としては、硫酸、炭酸、亜硫酸、チオ硫酸、ホスホン酸等が挙げられる。三価の無機酸の例としては、リン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、バナジン酸等が挙げられる。
【0039】
これら一価の無機酸の塩、二価の無機酸の塩、および三価の無機酸の塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0040】
無機塩のさらに具体的な例としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、チオ硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、リン酸三リチウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。これら無機塩は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0041】
これらの中でも、研磨対象物への金属汚染防止の観点から、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸二水素アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、硫酸アンモニウムがより好ましい。
【0042】
本発明で用いられる研磨用組成物中の無機塩の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明で用いられる研磨用組成物中の塩化合物の含有量の上限は、研磨用組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、シリコンゲルマニウムの研磨速度がより向上する。
【0043】
なお、研磨用組成物が2種以上の無機塩を含む場合には、無機塩の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0044】
[酸基を有する研磨促進剤]
本発明で用いられる研磨用組成物は、酸基を有する研磨促進剤(以下、単に「研磨促進剤」とも称する)を含む。酸基を有する研磨促進剤は、Ge酸化膜の表面に吸着し、Ge酸化膜を部分的に改質する。改質されたGe酸化膜は、加工性に富んでおり研磨速度は高くなるが、溶解は起こり難く、エッチングは抑制されると考えられる。
【0045】
酸基の例としては、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0046】
酸基を有する研磨促進剤の具体的な例としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、1,3-プロパンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸、1,3-ジアミノ-2-プロパノール-N,N,N’,N’-四酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、アミノポリ(メチレンホスホン酸)、2-アミノエチルホスホン酸、ニトリロトリ(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、(S,S)-エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、イミノ二酢酸、エチドロン酸、ムギネ酸、およびこれらの塩等が挙げられる。
【0047】
研磨促進剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、研磨促進剤は、合成品でもよいし市販品を用いてもよい。研磨促進剤の市販品の例としては、キレストPH-430、キレストPH-540、キレストGA、キレストEDDS-4H、キレストHA(以上、キレスト株式会社製)等が挙げられる。
【0048】
これら研磨促進剤の中でも、酸化ケイ素膜や窒化ケイ素膜といった他膜種の加工速度を変化させずにシリコンゲルマニウムの加工速度を独立して向上させることが可能であるという観点から、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、アスパラギン酸、および(S,S)-エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)がより好ましい。
【0049】
本発明で用いられる研磨用組成物中の研磨促進剤の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.08質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明で用いられる研磨用組成物中の塩化合物の含有量の上限は、研磨用組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、シリコンゲルマニウムの研磨速度がより向上する。
【0050】
なお、研磨用組成物が2種以上の研磨促進剤を含む場合には、研磨促進剤の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0051】
また、研磨用組成物中の砥粒と研磨促進剤との含有質量比は、砥粒/研磨促進剤=1/1~13/1であることが好ましく、1.5/1~10/1であることがより好ましく、2/1~7/1であることがさらに好ましい。
【0052】
[pH]
本発明で用いられる研磨用組成物のpHは、8以上である。pHが8未満の場合、シリコンゲルマニウム膜(Ge酸化膜)への研磨促進剤の作用が十分に進まず、研磨速度が十分に得られない。
【0053】
該pHは、8.5以上であることが好ましく、9.0以上であることがより好ましく、10.0以上であることがさらに好ましい。一方、安全性の観点から、研磨用組成物のpHは、13.0以下であることが好ましく、12.0以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましい。
【0054】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により測定することができる。
【0055】
(pH調整剤)
上記のpHとするために、本発明で用いられる研磨用組成物は、pH調整剤を含んでもよい。pH調整剤は、pH調整機能を有する化合物であれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。pH調整剤は、pH調整機能を有するものであれば特に制限されないが、例えば、酸、アルカリ等が挙げられる。
【0056】
酸としては、無機酸または有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、特に制限されないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等が挙げられる。
【0057】
アルカリとしては、特に制限されないが、例えば、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、テトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン等が挙げられる。これらの中でもアンモニアが好ましい。
【0058】
なお、pH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0059】
pH調整剤の含有量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0060】
[分散媒]
本発明で用いられる研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明のより好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のさらに好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0061】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0062】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、酸化剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の他の成分をさらに含有してもよい。以下、他の成分である、酸化剤、防腐剤、防カビ剤について説明する。
【0063】
(酸化剤)
本発明で用いられる研磨用組成物は、酸化剤を含むことが好ましい。酸化剤は、シリコンゲルマニウムの表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物によるシリコンゲルマニウム膜の研磨速度をより向上させうる。
【0064】
酸化剤の例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、次亜塩素酸、およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましく、過酸化水素がより好ましい。
【0065】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量の下限は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが好ましい。下限をこのようにすることで、シリコンゲルマニウムの研磨速度をより向上させることができる。また、研磨用組成物中の酸化剤の含有量の上限は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。上限をこのようにすることで、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こる虞を少なくすることもできる。
【0066】
(防腐剤および防カビ剤)
防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、オルトフェニルフェノール、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0067】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、無機塩、酸基を有する研磨促進剤、および必要に応じて他の添加剤を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、砥粒、無機塩、および酸基を有する研磨促進剤を混合する工程を含む、本発明の研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0068】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0069】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
本発明の研磨方法において、研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0070】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0071】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpm以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0072】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0073】
本発明で用いられる研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明で用いられる研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0074】
以上のような本発明の研磨方法によりシリコンゲルマニウムを研磨した際の研磨速度は、好ましくは280Å/min.以上であり、より好ましくは400Å/min.以上であり、さらに好ましくは600Å/min.以上である。また、本発明の研磨方法によりシリコンゲルマニウムを研磨した際のシリコンゲルマニウムのエッチング量は、好ましくは30Å以下であり、より好ましくは25Å以下であり、さらに好ましくは20Å以下である。なお、研磨速度およびエッチング量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0075】
本発明の研磨方法は、シリコンゲルマニウムとともに他の材料を含む研磨対象物にも適用でき、その場合、他の材料の研磨速度に対するシリコンゲルマニウムの研磨速度の比が十分に高い(すなわち、選択比が十分に高い)という効果が得られうる。例えば、他の材料が窒化ケイ素である場合、窒化ケイ素の研磨速度に対するシリコンゲルマニウムの研磨速度の比([シリコンゲルマニウムの研磨速度]/[窒化ケイ素の研磨速度])は、好ましくは15以上、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上である。また、他の材料が酸化ケイ素である場合、酸化ケイ素の研磨速度に対するシリコンゲルマニウムの研磨速度の比([シリコンゲルマニウムの研磨速度]/[酸化ケイ素の研磨速度])は、好ましくは12以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは17以上である。
【0076】
上記のように、本発明の研磨方法は、シリコンゲルマニウムを含む半導体基板の製造に用いられうる。したがって、本発明は、シリコンゲルマニウムを含む半導体基板を上記研磨方法により研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法をも提供する。
【実施例】
【0077】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行われた。
【0078】
砥粒としては、平均一次粒子径が34nm、平均二次粒子径が70nmであるコロイダルシリカを用いた。なお、砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリティックス社製の“Flow Sorb II 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径・粒度分布装置、UPA-UTI151により測定した。
【0079】
研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により確認した。
【0080】
(実施例1~13、比較例1~5)
砥粒、下記表2に示す無機塩および研磨促進剤を、研磨用組成物全体に対して下記表2に示す含有量となるように添加した。また、酸化剤として過酸化水素水溶液(濃度:31質量%)を準備し、研磨用組成物全体に対して下記表2に示す含有量となるように添加した。さらに、防腐剤として、イソチアゾリン系防腐剤を研磨用組成物全体に対して0.1質量%の含有量となるように添加した。これらの成分を、純水中で攪拌混合し(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)、実施例1~13および比較例1~5の研磨用組成物を調製した。研磨用組成物のpHはアンモニアを加えて調整し、pHメーターにより確認した。
【0081】
〔研磨速度〕
研磨対象物として、以下のウェーハを準備した:
シリコンゲルマニウム(SiGe)ウェーハ:表面に厚さ1500Åのシリコンゲルマニウム膜(Si:Ge=50:50質量比)を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ、アドバンスマテリアルテクノロジー株式会社製)
酸化ケイ素(TEOS)ウェーハ:表面に厚さ10000Åの酸化ケイ素膜を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)
窒化ケイ素(SiN)ウェーハ:表面に厚さ3500Åの窒化ケイ素膜を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)。
【0082】
シリコンゲルマニウムウェーハ、酸化ケイ素ウェーハ、および窒化ケイ素ウェーハについて、実施例1~13および比較例1~5の研磨用組成物を用いて、下記表1に示す研磨条件で一定時間研磨したときの研磨速度を求めた。シリコンゲルマニウムウェーハ、酸化ケイ素ウェーハ、および窒化ケイ素ウェーハは、300mmの基板を60mm×60mmにクーポン化して使用した。
【0083】
【0084】
研磨速度(研磨レート)は、以下の式により計算した。
【0085】
【0086】
酸化ケイ素および窒化ケイ素の膜厚は、株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ製、光干渉式膜厚測定装置 ラムダエースVM-2030によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより評価した。
【0087】
シリコンゲルマニウムの膜厚は、株式会社リガク製、走査型蛍光X線分析装置 ZSX Primus 400によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより評価した。
【0088】
研磨速度の選択比は、シリコンゲルマニウムの研磨速度/酸化ケイ素の研磨速度、およびシリコンゲルマニウムの研磨速度/窒化ケイ素の研磨速度をそれぞれ計算して求めた。
【0089】
〔エッチング量〕
攪拌子を用いて300rpmで回転させている研磨用組成物中に、30mm×30mmの大きさのシリコンゲルマニウムウェーハ(Si:Ge=50:50質量比)を、43℃で1時間浸漬させ、浸漬前後の膜厚の差を基に溶解量(エッチング量)を算出した。
【0090】
各研磨用組成物の構成および評価結果を下記表2に示す。なお、研磨促進剤の欄におけるEDTMPはN,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)を、PBTCは2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸を、PVAはポリビニルアルコールを、それぞれ表す。また、表2中の「-」は、その剤を使用していないことを表す。
【0091】
【0092】
上記表2から明らかなように、実施例の研磨方法は、比較例の研磨方法に比べて、シリコンゲルマニウムの研磨速度が十分に高く、シリコンゲルマニウムのエッチング量が少ないことが分かった。また、シリコンゲルマニウム以外の他の材料の研磨速度に対するシリコンゲルマニウムの研磨速度の比(選択比)が十分に高いことが分かった。
【0093】
比較例1~5の研磨方法では、シリコンゲルマニウムの研磨速度が低いことが分かった。さらに、比較例3の研磨方法では、シリコンゲルマニウムのエッチング量が多くなり、比較例4~5の研磨方法では、選択比が低下することが分かった。