(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】抑留予測方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
E21B 19/00 20060101AFI20240516BHJP
E21B 44/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
E21B19/00
E21B44/00 Z
(21)【出願番号】P 2020151838
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-07-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年-平成31年、国立研究開発法人海洋研究開発機構、「掘削を対象としたデジタル技術適用による安全性向上に関する調査」、産業技術力強化法第17年の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【氏名又は名称】畑添 隆人
(72)【発明者】
【氏名】和田 良太
(72)【発明者】
【氏名】土橋 直己
(72)【発明者】
【氏名】井上 朝哉
(72)【発明者】
【氏名】三好 啓介
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/034945(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/066746(WO,A1)
【文献】特開平08-326462(JP,A)
【文献】特開2019-206906(JP,A)
【文献】特開2001-107671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00-49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削時に得られる複数の掘削パラメタに基づいて入力データを生成し、前記入力データを抑留予測モデルに与えて抑留リスクを提供する、抑留予測方法であって、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度とビット深度以外の少なくとも1つ掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを入力データとして生成し、
現時点のビット深度に基づいて生成された前記2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供する、
抑留予測方法。
【請求項2】
現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値は、
現時点の直近の所定期間内に得られた第1散布データと、前記第1散布データよりも前に得られた第2散布データと、に分けられ、
前記第1散布データに基づく第1の2Dヒストグラムと、前記第2散布データに基づく第2の2Dヒストグラムと、が生成され、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムは色によって識別可能であり、
前記入力データは、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムを重ねた重畳2Dヒストグラムである、
請求項1に記載の抑留予測方法。
【請求項3】
前記ビット深度以外の1つの掘削パラメタは、ビット回転数、ドリルパイプの回転トルク、フック荷重、泥水注入圧から選択される、
請求項1、2いずれか1項に記載の抑留予測方法。
【請求項4】
前記抑留予測モデルは、学習用掘削データに基づいて生成された2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供するように機械学習されている、
請求項1~3いずれか1項に記載の抑留予測方法。
【請求項5】
プロセッサと、メモリと、を備え、
前記メモリは、
掘削時に得られる複数の掘削パラメタに基づいて入力データを生成する入力データ生成プログラムと、
前記入力データの入力に応じて、抑留リスクを提供する抑留予測プログラムと、
を備え、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度とビット深度以外の少なくとも1つ掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
前記入力データ生成プログラムは、前記プロセッサに実行されることで、現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを入力データとして生成し、
前記抑留予測プログラムは、前記プロセッサに実行されることで、現時点のビット深度に基づいて生成された前記2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供する、
抑留予測システム。
【請求項6】
前記抑留予測プログラムは、複数の掘削パラメタに基づいて得られた複数の2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供し、
前記メモリには、前記プロセッサに実行されることで、抑留リスクに対する各掘削パラメタの寄与度を可視化して表示するプログラムを備えている、
請求項
5に記載の抑留予測システム。
【請求項7】
掘削時に得られる複数の掘削パラメタに基づいて入力データを生成し、前記入力データに基づいて抑留リスクを提供する抑留予測プログラムであって、
前記プログラムは、プロセッサに実行されることで、当該プロセッサに、
前記複数の掘削パラメタを取得させるに、前記複数の掘削パラメタは、ビット深度とビット深度以外の少なくとも1つ掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを入力データとして生成させ、
現時点のビット深度に基づいて生成された前記2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供する、
コンピュータに抑留予測を実行させるプログラム。
【請求項8】
複数の掘削パラメタを含む掘削データを取得し、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度と、ビット深度以外の少なくとも1つの掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
ある時点tのビット深度の値に基づいて設定した相対深度を第1軸とし、前記相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値を第2軸として、ある時点t以前の掘削データを用いて、散布データを取得し、
前記散布データを2Dヒストグラムに変換して入力データを生成する、
抑留予測モデルへの入力データの生成方法。
【請求項9】
複数の掘削パラメタ及び抑留情報を含む学習用掘削データを取得し、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度と、ビット深度以外の少なくとも1つの掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
ある時点tのビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを生成して入力データとし、
抑留前の一定期間内に予兆が現れると仮定し、学習用掘削データに基づいて生成された入力データに応じて抑留リスクを提供するように学習用モデルに学習させる、
学習済み抑留予測モデルの生成方法。
【請求項10】
前記学習用モデルは、学習済モデルが異常データを判別して抑留リスクを提供できるように、学習用掘削データに基づいて生成された入力データであって、抑留前の一定期間内及び抑留状態を除く入力データを正常データとして学習する、
請求項
9に記載の学習済み抑留予測モデルの生成方法。
【請求項11】
複数の掘削パラメタ
の時系列データを含む掘削データを取得し、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度と、ビット深度以外の少なくとも1つの掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
前記掘削データを用いて、現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度を第1軸とし、前記相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値を第2軸として、現時点以前の掘削データを用いて、散布データを取得し、
前記散布データは、現時点の直近の所定期間に取得された第1散布データと、前記第1散布データより前に取得された第2散布データと、に分けられ、
前記第1散布データと前記第2散布データは、識別可能に1つの散布図としてディスプレイに表示される、
深度領域に着目して、同一坑井で得られる長期間の情報を圧縮する、掘削データの圧縮方法。
【請求項12】
請求項
5、6いずれか1項に記載の抑留予測システムを備えた掘削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陸上および海洋における掘削技術に係り、より詳しくは、掘削中の異常検知に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境への考慮からエネルギー供給の再生可能エネルギーへのシフトが進んでいるが、化石燃料への依存の割合は依然として大きい。資源開発のための掘削技術は高い難度の克服と経済合理性が求められる。また、科学調査・研究においても、同様に掘削技術の向上が求められている。
【0003】
掘削においては坑内トラブルが大きな課題である。代表的な坑内トラブルとして、抑留が知られている。抑留は、ドリルストリングが坑内で押さえつけられ、回転および/あるいは引き抜きが出来なくなる事象である。抑留は坑井の破棄にも繋がるため大きなリスクであるが、その予兆が捉えられれば効果的な対策が可能であると考えられる。
【0004】
掘削における従来の異常検知技術としては、計測データの外れ値や事前シミュレーションからの乖離を検出する手法が取り組まれているが、掘削挙動が地層により大きく異なること、また地層情報は未知な場合が多いことから手法の精度に限界がある。実際、False Alarmが多く、作業員の勘が優先されることが多い。
【0005】
掘削時にリアルタイムで得られるデータを活用した効果的な予測手法が提案されている。非特許文献1には、キックの早期検知において、掘削時の泥水量やフローレートに対してアラームの閾値を動的に設定することで、False Alarmを低減させることが開示されている。非特許文献2には、実掘削データ学習による抑留状態の検知が開示されている。これらの先行研究の結果から、データ駆動型モデルによる異常検知の精度改善が期待できる。
【0006】
抑留検知に関する特許文献も存在する。特許文献1には、3つ以上の機械学習プログラムを用いた抑留のアンサンブル予測が開示されている。なお、非特許文献2で採用した機械学習モデルは、特許文献1に記載されたアンサンブル予測に類似するものである。また、特許文献2は、ビット深度に対するフック荷重の線形回帰モデルを用いて抑留を予測する手法が開示されている。
【0007】
データ駆動型アプローチにおいては、計測データが異常時・正常時に示すパラメタの関係性やパターンといった特徴量を抽出することが重要である。本発明者等が検討したところでは、一般的な時間領域や周波数領域をベースとした手法では異常時の特徴を必ずしもうまく掴めないことが判った。また、効率的に学習するためには、利用可能な計測データの長さは有限であり、限られたデータ量において効率的に特徴を抽出する必要がある。
【文献】WO2013/066746
【文献】WO2016/034945
【文献】Unrau, S., Torrione, P., Hibbard, M., Smith, R., Olesen, L., Watson, J., et al. (2017). Machine learning algorithms applied to detection of well control events. In SPE Kingdom of Saudi Arabia Annual Technical Symposium and Exhibition. Society of Petroleum Engineers.
【文献】Alshaikh, A., Magana-Mora, A., Gharbi, S. A., Al-Yami, A., et al. (2019). Machine learning for detecting stuck pipe incidents: Data analytics and models evaluation. In International Petroleum Technology Conference. International Petroleum Technology Conference.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抑留の予測に有用な特徴量を備え、かつ、限定的なサイズの入力データを用いて、抑留の予測を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の形態は、掘削時に得られる複数の掘削パラメタに基づいて入力データを生成し、前記入力データを抑留予測モデルに与えて抑留リスクを提供する、抑留予測方法であって、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度とビット深度以外の少なくとも1つ掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを入力データとして生成し、
現時点のビット深度に基づいて生成された前記2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供する。
【0010】
本発明の第2の形態は、プロセッサと、メモリと、を備えた抑留予測システムであって、
前記メモリは、
掘削時に得られる複数の掘削パラメタに基づいて入力データを生成する入力データ生成プログラムと、
前記入力データの入力に応じて、抑留リスクを提供する抑留予測プログラムと、
を備え、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度とビット深度以外の少なくとも1つ掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
前記入力データ生成プログラムは、前記プロセッサに実行されることで、現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを入力データとして生成し、
前記抑留予測プログラムは、前記プロセッサに実行されることで、現時点のビット深度に基づいて生成された前記2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供する。
【0011】
本発明の第3の形態は、掘削時に得られる複数の掘削パラメタに基づいて入力データを生成し、前記入力データに基づいて抑留リスクを提供する抑留予測プログラムであって、
前記プログラムは、プロセッサに実行されることで、当該プロセッサに、
前記複数の掘削パラメタを取得させるに、前記複数の掘削パラメタは、ビット深度とビット深度以外の少なくとも1つ掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを入力データとして生成させ、
現時点のビット深度に基づいて生成された前記2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供させる。
1つの態様では、抑留予測プログラムは、コンピュータ可読媒体に格納された形態で提供される。
【0012】
1つの態様では、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は、時系列データとして取得される。時系列データは所定間隔でサンプリングされており、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応している。
1つの態様では、前記抑留リスクは、抑留予兆確率として提供される。
1つの態様では、前記抑留リスクは、抑留予兆確率に基づいて生成されたアラームとして提供される。
1つの態様では、現時点のビット深度の値に対して設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値(現時点以前に取得されたデータである)は、
現時点の直近の所定期間内に得られた第1散布データと、前記第1散布データよりも前に得られた第2散布データと、に分けられ、
前記第1散布データに基づく第1の2Dヒストグラムと、前記第2散布データに基づく第2の2Dヒストグラムと、が生成され、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムは色によって識別可能であり、
前記入力データは、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムを重ねた重畳2Dヒストグラムである。
【0013】
1つの態様では、前記ビット深度以外の1つの掘削パラメタは、ビット回転数、ドリルパイプの回転トルク、フック荷重、泥水注入圧から選択される。
1つの態様では、前記入力データには、相対深度に対するビット回転数の2Dヒストグラム、相対深度に対するドリルパイプの回転トルクの2Dヒストグラム、相対深度に対するフック荷重の2Dヒストグラム、相対深度に対する泥水注入圧の2Dヒストグラムが含まれる。
【0014】
1つの態様では、前記抑留予測モデルは、学習用掘削データに基づいて生成された2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクを提供するように機械学習されている。
1つの態様では、前記抑留予測モデルは、教師あり学習モデルである。
1つの態様では、前記抑留予測モデルは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて抑留リスクを提供する。
1つの態様では、前記抑留予測モデルは、教師無し学習モデルである。
【0015】
1つの態様では、複数の掘削パラメタに基づいて得られた複数の2Dヒストグラムの入力に応じて、抑留リスクが提供され、
抑留リスクに対する各掘削パラメタの寄与度を可視化してディスプレイ上に表示する。
1つの態様では、入力データのうち、アラーム生成に寄与した領域をGrad-CAM (Gradient-based Class Activation Map)を用いて可視化し、アラーム生成の根拠を示す。
【0016】
本発明の第4の形態は、抑留予測モデルへの入力データの生成方法であり、
複数の掘削パラメタを含む掘削データを取得し、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度と、ビット深度以外の少なくとも1つの掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
ある時点tのビット深度の値に基づいて設定した相対深度を第1軸とし、前記相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値を第2軸として、ある時点t以前の掘削データを用いて、散布データを取得し、
前記散布データを2Dヒストグラムに変換して入力データを生成する。
掘削データに基づいて生成された入力データは、学習用モデル、学習済みモデルの両方の入力データとして用いられる。
1つの態様では、前記掘削データ(前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値)は、時系列データである。時系列データは所定間隔でサンプリングされており、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応している。
1つの態様では、前記ビット深度以外の1つの掘削パラメタは、ビット回転数、ドリルパイプの回転トルク、フック荷重、泥水注入圧から選択される。
【0017】
1つの態様では、前記散布データは、
ある時点tの直近の所定期間内に得られた第1散布データと、前記第1散布データより前に得られた第2散布データと、に分けられ、
前記第1散布データに基づく第1の2Dヒストグラムと、前記第2散布データに基づく第2の2Dヒストグラムと、が生成され、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムは色によって識別可能であり、
前記入力データは、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムを重ねた重畳2Dヒストグラムである。
【0018】
本発明の第5の形態は、学習済み抑留予測モデルの生成方法であり、
複数の掘削パラメタ及び抑留情報を含む学習用掘削データを取得し、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度と、ビット深度以外の少なくとも1つの掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
ある時点tのビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値の2Dヒストグラムを生成して入力データとし、
抑留前の一定期間内に予兆が現れると仮定し、学習用掘削データに基づいて生成された入力データに応じて抑留リスクを提供するように学習用モデルに学習させる。
1つの態様では、前記学習用掘削データ(前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値)は、時系列データである。時系列データは所定間隔でサンプリングされており、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応している。
1つの態様では、前記学習用掘削データには、ビット回転数、ドリルパイプの回転トルク、ビット深度、フック荷重、泥水注入圧の時系列データを含み、抑留情報(抑留の開始時刻、終了時刻)が記録されており、前記ビット深度以外の1つの掘削パラメタは、ビット回転数、ドリルパイプの回転トルク、フック荷重、泥水注入圧から選択される。
1つの態様では、前記入力データには、相対深度に対するビット回転数の2Dヒストグラム、相対深度に対するドリルパイプの回転トルクの2Dヒストグラム、相対深度に対するフック荷重の2Dヒストグラム、相対深度に対する泥水注入圧の2Dヒストグラムが含まれる。
【0019】
1つの態様では、ある時点tのビット深度の値に基づいて設定した相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値(ある時点t以前に取得されたデータである)は、
ある時点tの直近の所定期間内に取得された第1散布データと、前記第1散布データより前に取得された第2散布データと、に分けられ、
前記第1散布データに基づく第1の2Dヒストグラムと、前記第2散布データに基づく第2の2Dヒストグラムと、が生成され、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムは色によって識別可能であり、
前記入力データは、前記第1の2Dヒストグラムと前記第2の2Dヒストグラムを重ねた重畳2Dヒストグラムである。
【0020】
1つの態様では、前記学習用モデルは、抑留前の一定期間内に予兆が現れると仮定し、抑留前の一定期間内の入力データに1、抑留前の一定期間内及び抑留状態を除く入力データに0という正解ラベルを与えることで学習される。
後述する実験例では、抑留前の一定期間は6分間であるが、6分間は例示であって、前記「一定期間」の長さは当業者において適宜設定し得る。
1つの態様では、前記学習用モデルは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて学習する。
【0021】
1つの態様では、前記学習用モデルは、学習済モデルが異常データを判別して抑留リスクを出力できるように、学習用掘削データに基づいて生成された入力データであって、抑留前の一定期間内及び抑留状態を除く入力データを正常データとして学習する。
1つの態様では、自己符号化器(Auto encoder)を用いて、入力データと出力データの誤差が最小化されるような学習モデルを生成する。
【0022】
本発明の第5の形態は、掘削データの圧縮方法であって、
複数の掘削パラメタを含む掘削データを取得し、
前記複数の掘削パラメタは、ビット深度と、ビット深度以外の少なくとも1つの掘削パラメタを含み、前記ビット深度の値と前記1つの掘削パラメタの値は時刻情報により対応しており、
前記掘削データを用いて、現時点のビット深度の値に基づいて設定した相対深度を第1軸とし、前記相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタの値を第2軸として、現時点以前の掘削データを用いて、散布データを取得し、
前記散布データは、現時点の直近の所定期間に取得された第1散布データと、前記第1散布データより前に取得された第2散布データと、に分けられ、
前記第1散布データと前記第2散布データは、識別可能に1つの散布図としてディスプレイに表示される。
1つの態様では、前記第1散布データと前記第2散布データは、色分けして1つの散布図としてディスプレイに表示される。
1つの態様では、前記掘削データは時系列データである。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、掘削パラメタを深度領域に変換することで、掘削パラメタにおける特徴抽出を実行し、かかる特徴を備えた入力データを用いて、抑留を予測する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態に係る抑留予測システムの全体概略図である。
【
図2】本実施形態に係る抑留予測システムの学習フェーズ、及び、抑留予測フェーズを示す図である。
【
図3】本実施形態に係る抑留予兆の教師あり学習を説明する図である。
【
図5】左図は、時刻tのビット深度に基づいて設定された相対深度に対するフック荷重の値を示す散布図である。実際には、左図はカラー画像であって、時刻tの直近データが赤、直近データより前の履歴データが緑で表示されている。右図は、時刻tの直近データに基づいて生成された第1の2Dヒストグラムと、履歴データに基づいて生成された第2の2Dヒストグラムを重畳した重畳2Dヒストグラムを示している。実際には、右図はカラー画像であって、第1の2DヒストグラムのRBG値セットと第2の2DヒストグラムのRBG値セットは識別可能である。
【
図6】
図5左図における履歴データを取り出して表示する図である。
【
図7】
図5左図における直近データを取り出して表示する図である。
【
図8】左図は、直近データに基づいて生成された第1の2Dヒストグラムを表示し、中央図は、履歴データに基づいて生成された第2の2Dヒストグラムを表示し、右図は、第1の2Dヒストグラムを第2の2Dヒストグラムを重ねた重畳2Dヒストグラムを表示する。
【
図9】掘削パラメタを深度領域に変換することによる散布図の生成、及び、散布データに基づく重畳2Dヒストグラムの生成を示すフローチャートである。
【
図10】本実施形態に係るCNNへの入力データ(重畳2Dヒストグラム)の生成方法を示すフローチャートである。
【
図11】本実施形態に係るCNNへの入力データ(重畳2Dヒストグラム)の生成を示す図である。
【
図12】入力データ(重畳2Dヒストグラム)を説明する図である。
【
図13】3D-CNNモデルへの入力データの生成プロセスを示す図である。
【
図14】3D-CNNモデルへの5D入力テンソルの自由度/転置を示し、上側は(B, P, T, V, H)、下側は(B, T, P, V, H)を示す。
【
図15】検証データ(ケース3)を用いたリアルタイム抑留リスク予測を示す図である。
【
図16】学習データを用いたリアルタイム抑留リスク予測を示す図である。
【
図17】入力データとGrad-CAMヒートマップを比較して示す図である。実際には、ヒートマップはカラー画像として表示される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[A]掘削技術の概要
[A-1]掘削システム
掘削システムは、複数本のドリルパイプを長さ方向に連結して構成されたドリルストリングと、ドリルストリングの下端に設けたビットと、ドリルストリングの上端に設けたトップドライブと、を備えている。掘削は、トップドライブによりドリルストリング及びビットを回転させて、地層を掘り進める作業であり、ドリルパイプを付け足しながら目標深度まで掘進する。また、坑内に掘削流体を循環させることで坑内圧と地層圧とのバランスをとり、坑内事故を防ぐようにしている。以下、掘削システムを構成する各要素について、より詳細に説明する。
【0026】
ドリルストリングは、複数本のドリルパイプを連結してなるドリルパイプ組立体であり、ドリスストリングの長さは数千メートルにも及び得る。ドリスストリングは中空であって、ドリルストリング内部を通って掘削泥水が供給可能となっている。ドリルストリングの下端にはBHA(Bottom Hole Assembly)と称する機構が配置されている。BHAは、複数のドリルカラー及び複数のスタビライザを接続して構成されている。BHAの構成は、意図する掘削オペレーションに適合するように変更され得る。BHAの下端には、ビットが固定されており、回転するビットによって岩盤層を突き貫くようになっている。
【0027】
ビットは、トップドライブ、および/あるいは、マッドモータによって回転する。トップドライブは、地上ないし洋上に設けられ、ドリルストリング及びビットを回転させる装置である。マッドモータは、BHAの内部に設けられ、注入された泥水の流体動力によって作動する装置であり、ビットは、マッドモータを用いることでも回転可能となっている。マッドモータによって生成されるビットの回転速度は、泥水のフローレートに依存する。ビットを回転させるにあたり、トップドライブとマッドモータは別個に作動される場合も、あるいは同時に作動される場合もある。
【0028】
フックは、リフティングシステムないしホイストの要素であって、そこからトップドライブが懸下される。フックは、可動プーリであるトラベリングブロックの下端に設けられる。トラベリングブロックはドローワークスによって昇降可能となっている。
【0029】
スタンドパイプは、マッドポンプとトップドライブを接続する要素である。マッドポンプは、スタンドパイプ及びドリルストリングを介して、掘削泥水を坑井に供給する。
【0030】
デリックは、掘削フロア上に立設された塔である。デリックの高さは、一度に坑内に挿入されるドリルパイプユニットの長さを決定する。デリックの高さは通常数十メートルであり、ドリルパイプユニットの長さは通常30~40メートルである。掘削フロアは人間の作業場であって、デリックの下方に位置している。
【0031】
掘削システムは、泥水循環システムを備えている。坑井の圧力制御は、安全な掘削のために必須であり、そのために、坑井に高圧で掘削泥水が注入される。掘削泥水は、スタンドパイプ及びドリルストリング内を流れ、ドリスストリングと坑壁間に形成されたアニュラスを通って地上に戻る。掘削泥水は所定の処理を施した後、循環して使用される。
【0032】
掘削システムの全体図については、例えば、特許文献1、あるいは、”Wang, N. et el.(2015). A multibody dynamics model of contact between the drillstring and the wellbore and the rock penetration process. Advances in Mechanical Engineer.”を参照することができる。なお、掘削システムに係る上記記載は陸上掘削についてものであるが、本発明の対象となる掘削データは海洋掘削データも含み、海洋掘削においては、海洋掘削リグやライザーが用いられることが当業者に理解される。掘削システムは当業者によく知られているので、さらなる詳細な説明は省略する。
【0033】
[A-2]掘削作業
掘削作業は、タスクに特有の複数のアクションからなる。典型的な作業としては、掘進(ビットを回転させて掘り進める作業)や揚降管(ドリルストリングの引き抜き作業、降下作業)がある。掘削作業の典型的なアクションを例示する。
【0034】
(a)Drilling
泥水をポンピングし、ドリルパイプを回転させながら、ビット深度を増大させる作業である。
(b)Sliding
ドリルパイプを回転させずに、坑内マッドモータによって、ビット深度を増大させる作業である。
(c)Reaming
坑内を安定させるため、泥水をポンピングし、ドリルパイプを回転させながら、ドリルパイプの昇降を繰り返す作業である。
(d)Tripping
坑内を安定させるため、ドリルパイプを回転させずに、ドリルパイプの昇降を繰り返す作業である。ビットは、ポンピングされた泥流体によって坑内マッドモータによって回転する。
(e)Survey
MWD (Measuring While Drilling)ツールを用いて、坑井の方向や傾きを測定する作業である。
(f)Circulation
計測されたサーベイデータを坑内から地表に搬送するために泥流体をポンピングする作業である。
(g)Connection/Disconnection
ドリルパイプの連結、取り外し作業である。
(h)RIH(Run-in-hole)
掘削によって獲得されている坑内のある深さまでドリルストリングを到達させるために、ドリルパイプを連結し、パイプを下降させる作業である。
(i)POOH(Pull-out-of-hole)
坑内のある深さからドリルストリングを引き抜くために、ドリルパイプを取り外し、パイプを上昇させる作業である。
【0035】
[A-3]掘削データ(掘削パラメタ)
掘削システムは、所定箇所において、複数のセンサや測定器を備えており、掘削作業中に表1に示すようなパラメタを計測し、坑内環境の状態の把握や予測のためにモニタリングする。これらのパラメタの値は時系列データとして取得され、データベースに格納される。なお、表1に示すパラメタは例示であって、掘削パラメタを限定するものではない。
【表1】
【0036】
(a)TD_trq
トップドライブにおいて測定された値であり、ドリスストリングないしドリルパイプの回転トルクを示す値である。TD_trqは、坑内状態の影響を強く受けるため、抑留の重要な指標の1つであると考えられる。
(b)TD_spd
トップドライブの速度、すなわち、ドリルビットの回転速度を示す値である。但し、TD_spd(ドリルビットの回転速度を示す値)と実際のトップドライブの回転速度は、坑内マッドモータが使用されている時には同等でない。TD_spdは、実際のトップドライブ速度と坑内マッドモータ速度との合計となる。
(c)Bitdepth
ビット深度は、掘削フロアからドリルストリングの下端までの長さを表す。坑井は必ずしも垂直であるとは限らないので、必ずしも坑井の鉛直距離とは限らない。
(d)Hookheight
フック高は、フックの鉛直方向の位置を表す。フックは、掘削フロアからデリックの上部まで可動であり、例えば、下限位置は0[m]、上限位置では40[m]である。
(e)Hookload
フック荷重は、フックに作用する質量を表す。フック荷重は、例えば、ドリルストリングと地層との摩擦のような坑内状態の影響を受けるので、抑留の重要な指標の1つであると考えられる。
(f)WOB
WOBは、Surface-WOBと称される推定値であり、Downhole-WOBとは区別される。Downhole-WOBは、坑内センサによって測定されるビットにかかる重量の測定値であり、Surface-WOBよりも信頼性が高いが、坑内から地表への信号送信等において、リアルタイム測定は困難である。
(g)MRetFlow
MRetFlowは泥水リターンのパーセンテージ値である。現場での器具に依存して、MRetFlowはリターンラインの泥水面レベルで測定されるか、あるいは、Gumboセパレータのバルブ開口から測定される。
(h)SPP_pressA, SPP_pressB
スタンドパイプ圧は、スタンドパイプのマニホールドで観測される泥水注入圧を示す値である。通常、冗長性のため複数のフローラインがあることから、同じタグネームにおいて、A,Bの2つの測定値がある。スタンドパイプ圧(泥水注入圧)は、抑留の重要な指標の1つであると考えられる。泥水注入圧は、フローラインブロッケージのような坑内状態に対するリアクションを示す。
(i)MPP_SPM1, MPP_SPM2, MPP_SPM3
MPP_SPMは、各泥水タンクで観測されるマッドポンプのストロークの頻度である。通常、冗長性のための2~3個の泥水タンクを備えており、同じタグネームにおいて複数の変数が存在する。
(j)FlowIn
FlowInは、MPP_SPMと対応するタンク容積との積和である推定値である。
【0037】
[A-3]抑留
抑留は、ドリルストリングが坑内で押さえつけられ、回転および/あるいは引き抜きが出来なくなる事象である。抑留メカニズム及び抑留の原因を表2に示す。
【表2】
表2では、抑留のメカニズムを、パックオフ/ブリッジ、差圧抑留、幾何抑留(坑井の幾何学的要因による抑留)に分類しているが、抑留の原因には様々なものが考えられ、この分類は1つの態様を示すに過ぎないものである。
【0038】
パックオフ/ブリッジは、坑壁崩落によって、ドリスストリングと坑壁間に形成されたアニュラスを閉塞したりすることで生じる。予兆の一例としては、泥水注入圧上昇として現れる場合がある。
【0039】
差圧抑留は、坑内と地層の浸透率との間の圧力が大きくなって平衡が失われた時に、発生し得る。ドリルストリングが泥壁に接触した状態が継続すると、差圧抑留が生じ得る。急な坑壁崩落等に比べて、差圧抑留は、緩やかに発生するため、予兆の例示としては、回転トルク緩やかな上昇、フック荷重の緩やかな上昇(揚管時)に現れる場合がある。
【0040】
坑井の幾何学的形状による抑留は、坑井の方向の変化等によって生じ得る。典型的な要因の1つとして、キーシート(key seat)が挙げられる。坑井が急に曲がっている部分(例えば、ドッグレッグ)では、掘進中あるいは揚管中にドリルストリングが坑壁を削り取り、坑内の断面形状が鍵穴形状に似ていることからキーシートと称される。幾何抑留の予兆の一例としては、揚管時急激なフック荷重上昇として現れ得る。
【0041】
抑留の予兆として、3つの指標(ドラッグ、トルク、泥水圧)が知られている。ドラッグは、ドリルストリングが坑内で昇降する際に生成される軸方向の摩擦力であり、重要な指標である。坑内状態が悪化するとドラッグが上昇して、ドリルストリングの抑留リスクが高くなる。ドラッグは、RIH(Run-in-hole)動作とPOOH(Pull-out-of-hole)動作の間のフック荷重の値を比較することで観測し得る。高いドラッグは、坑内との大きな接触を表し、抑留の主要な指標となり得る。トルクは、ドリスストリングが回転する時に生成される接線方向の摩擦力である。過度のトルクは、ドラッグと同様に、坑内との大きな接触を示す。泥水圧は、掘削泥水の注入圧である。過度の泥水圧は、泥水ラインのブロッケージを示唆し、この場合、パックオフ/ブリッジが発生しているか、発生しつつある可能性がある。
【0042】
抑留予兆は複雑で、予兆の現れ方や現れるタイミングは抑留メカニズムや掘削作業によって異なる。抑留予兆を量的に決めることは難しく、また、予兆の存在は、抑留が発生した後に確認されるものである点に留意されたい。また、予兆が観測されない場合もあり得る(急な坑壁崩落によるパックオフ等)ことに留意されたい。
【0043】
[B]実掘削データを活用した抑留予測(抑留予兆検知)
[B-1]全体構成
本実施形態に係る抑留予測システムは、1つあるいは複数のコンピュータから構成されたコンピュータシステムである。
図1に示すように、コンピュータは、掘削システムからの掘削データが入力される入力と、掘削データや加工データを含む各種データ、及び、コンピュータを動作させるプログラムが記憶されるメモリと、各種の演算や制御を行うプロセッサと、演算結果を含む各種データを提供する出力と、を備えている。掘削システムにおいて、各センサや測定器によって、各掘削パラメタが測定され、有線又は無線でコンピュータシステムに送信される。掘削システムから得られた掘削データは、コンピュータのメモリに記憶され、所定のプログラムに従って、プロセッサで所定の計算が実行されて、抑留予兆検知が実行され、抑留リスクを代表する抑留予兆確率が提供される。掘削データは、典型的には掘削パラメタの値の時系列データである。本明細書において、時系列データには、時系列データに基づいて算出された時刻情報を含んだ2次データ(例えば、時刻情報を含んだ深度ベースデータ)も含まれる。1つの態様では、コンピュータのメモリには、抑留予兆確率及び所定のアラーム生成条件(閾値や確率値の継続時間等)に基づいてアラームを生成するプログラムが格納されており、アラーム生成プログラムに従って、プロセッサで所定の計算が実行されて、アラーム生成条件を満たす場合に、アラームを生成する。この場合、抑留リスクがアラームの形式として提供される。測定データや演算結果を含む各種データは、モニタリングのため、適宜、ディスプレイに表示され得る。コンピュータシステムが配置される位置は限定されず、掘削現場に配置してもよく、あるいは、掘削現場から離隔した管理ステーションに配置してもよい。コンピュータシステムはクラウドベースでもよい。
【0044】
図2に示すように、本実施形態に係る抑留予測システムは、掘削データを用いた学習済みモデルの生成と、掘削データを学習済みモデルに入力することによる抑留リスクの出力と、を含む。抑留予測システムの抑留予測モデルは、データ駆動型予測モデルであり、掘削中に当該モデルに計測データがリアルタイムで入力され、抑留リスクをリアルタイムで提供する。後述するように、本実施形態では、学習済みモデルの生成、及び、抑留リスクの出力のために、データ駆動型予測モデルに入力される入力データの特徴エンジニアリングが実行される。
【0045】
図3に、本実施形態に係る教師あり学習の概念図を示す。本実施形態に係る抑留予測システムは、抑留予兆検知システムである。抑留直前に予兆が現れると仮定し、抑留直前の信号のパターンを学習する。抑留直前(例えば直前6分間)に得られたデータをラベル1(positive)、それ以前のデータをラベル0(negative)と分類し、正解ラベルを2値で学習させる。抑留発生後のデータは無視する。抑留予兆検知モデルは、2値にラベル化されたデータで学習され、学習済みモデルは、未知の入力に対して抑留の予兆確率、すなわち、抑留リスクを提供する。
【0046】
[B-2]データ収集
複数の企業から提供されたフォーマットが統一された実際の掘削データを用いる。
【表3】
掘削データの形式は19変数の時系列データであり(表1参照)、センサから直接得られたもの(一次データ)、およびそれらから計算された二次データの両方が含まれる。上記時系列データとともに、各抑留ケースの開始時刻・終了時刻の情報が与えられている。抑留時刻は、掘削日報のフォーマットに基づき15分精度で与えられた。
【0047】
データ前処理として、データクレンジングを行った。データのサンプリング間隔は4秒で統一した。また、15分精度の時刻情報では、数分間に現れる抑留予兆を学習することはできないと考え、ラベル精度向上のため、個々の抑留ケースにつき時系列を解析し、4秒精度で抑留時刻を特定した。前処理後の掘削データは、コンピュータのメモリに格納される。
【0048】
[B-3]実験1(時間領域データを用いた比較実験1)
抑留予兆が、抑留直前の時系列に特徴的に現れているとする仮説を立てて、抑留予測を行った。前処理後のデータを、1時間毎の13変数時系列に分割し、入力データとして保存した。抑留予測において、抑留の予兆は異常であると定義する。抑留直前6分間に得られた入力データを異常とみなしてラベル1(positive)と分類し、それ以前の入力データを正常とみなしてラベル0(negative)と分類した。入力データは固定されたサイズである必要があり、生信号は、入力データのサイズTcを決定することで、処理されて複数の入力データに分割される。実験では、入力データのサイズTcは1時間であり、サンプリング間隔4秒なので、入力データは900データからなる。得られた入力データは、正常あるいは異常に分類される。
【0049】
この予兆の範囲を決定するために、抑留発生時刻直前の所定長の時間領域をTr領域とする。実験では、Trを6分間とする。抑留前の入力データでTr領域と重複しない入力データをラベル0(negative)に分類し、抑留前の入力データでTr領域と重複する入力データをラベル1(positive)と分類する(
図4左図参照)。抑留発生後のデータは無視する。
【0050】
多変数1次元データのパターン認識になるので、時間領域の入力データを用いて、1D-CNNモデルを使用し学習・検証を行った(
図4右図)。時間領域の入力データを用いた1D-CNNモデルにおいて、抑留予兆の検知で十分な性能が出なかった。モデルが抑留予兆を識別する際、時間領域の入力データを用いる手法だと参照できるデータが時間的に限定される。1時間の入力データであれば、1時間より前の情報を参照できない。このことは、時間領域の入力データを用いた1D-CNNモデルの限界でもある。
【0051】
[B-4]実験2(周波数領域データを用いた比較実験2)
抑留予兆が周波数領域に現れると仮説を立て抑留予測を行った。比較実験1における時系列データをパワースペクトルに変換して学習を行った。時系列データから平均を引いて定数を削除して得られた時系列データにFFTを適用し、ナイキスト周波数(0.125Hz)を超える高周波成分をカットオフした。データセットの平均と標準偏差を計算して、zスコア標準化を行って入力データとした(
図4右図参照)。結果を表6に示す。6ケース中1ケースにおいてのみ抑留予兆を検知できた。
【0052】
データ駆動型手法においては、計測データが異常時・正常時に示すパラメタの関係性やパターンといった特徴量を抽出することが重要である。比較実験1、2の結果に示すように、一般的な時間領域や周波数領域をベースとした異常検知手法では異常時の特徴をうまく掴めない。また効率的に学習するためには、入力可能な計測データの長さは有限であり、限られたデータ量において効率的に特徴を抽出する必要がある。すなわち、掘削データを機械学習にどのような特徴量として組み込むかという特徴量エンジニアリングが重要である。
【0053】
[B-5]深度領域アプローチの概念
掘削エンジニアの観点では、現在の各計測値を、同一坑井で得られた過去の同深度における値と比較することにより抑留予兆を確認する。比較実験で採用した「1時間」は参照できる時間として十分ではないと考えられる。掘削エンジニアの知見に基づいた特徴量エンジニアリングにおいて、深度情報に注目した。掘削作業においてはビット交換等で同じ深度を何度も通過する。これにより深度ごとに計測された値の履歴が蓄積されるため、現在の値を同一坑井の近傍深度における履歴と対比することで異常が見えることがある。深度領域というコンセプトを導入することで、同一坑井で得られる長期間の情報を効率的に圧縮する方法を検討した。
【0054】
掘削エンジニアは、よく、掘削パラメタの値を、類似の深さで取得されて記録されたデータと比較して分析する。例えば、RIHにおいて、フック荷重が同じ深さの過去に記録されたフック荷重よりも小さい場合には、掘削エンジニアはフリクションドラッグにおける増大を検知し、このことは、坑内状態の悪化を示唆する。また、掘削エンジニアは、掘進作業時のビットの回転トルクにも着目する。同じ深さデータの記録が利用できない場合であっても、深さ方向におけるトルク挙動の急激な変化は、坑内環境が変化したことを示唆する。
【0055】
[B-6]深度領域における掘削パラメタの散布データ(相対深度と掘削パラメタの散布図)
掘削データの深度領域における表現方法について、
図9に基づいて説明する。掘削時に、複数の掘削パラメタの時系列データを含む掘削データをリアルタイムで取得してコンピュータのメモリに格納する。複数の掘削パラメタは、ビット深度と、ビット深度以外の複数のパラメタ(例えば、ドリルストリングの回転トルク、フック荷重、ビット回転数、泥水注入圧等)を含む(表1参照)。
【0056】
引き続き、
図9を参照すると、現時点のビット深度の値に対して設定した相対深度を第1軸とし、前記相対深度に対応する前記1つの掘削パラメタXの値を第2軸として、現時点以前の時系列データを用いて、相対深度と掘削パラメタXの散布データを取得する。第1軸の相対深度の範囲は、現時点(t)のビット深度の値D(t)を基準として設定される。各相対深度(第1軸)の値に対応する、掘削パラメタX(第2軸)の値は、時系列データから取得される。散布データは、深度領域において整理されたパラメタXのデータである。
【0057】
散布データは、現時点の直近の第1長の第1散布データと、第1散布データより前の第2長の第2散布データと、に分けられる。第1長は例えば2時間であり、第1散布データは、現時点tの直近データである。第2長は例えば7日間(第1長を除く)であり、現時点tの直近データより前の履歴データである。第1散布データと第2散布データは、識別可能なRBG値を持ち、1つの散布図に表示される。
【0058】
縦軸を「ビット深度」、横軸を「他の1つの掘削パラメタ」として、散布図を描くと、時刻歴情報を失う代わりに、深度ごとに各掘削パラメタの値が整理される。この時、深度については絶対値ではなく、現在のビット深度に対する相対深度とする。例えば、ビット深度(縦軸)のレンジは、現在のビット深度-α[m]~現在のビット深度+β[m]として定義される。相対深度に対応する「他の1つの掘削パラメタ」の値は、メモリに記憶された履歴データから取得することができる。散布図において、時間情報は失われるが、過去のデータと直近のデータを色分けして表示することで、現在のデータと過去のデータを比較することができる。
【0059】
深度領域のフック荷重を示す散布データを
図5左図に例示する。
図5左図は、直近1日と過去1週間のフック荷重のデータ(深度領域)を比較して示す図である。縦軸(ビット深度)のレンジは、4000[m]~5000[m]であり、横軸(フック荷重)のレンジは100[ton]~300[ton]である。
図5左図に示す散布図はカラー画像(RBG画像)であり、実際には、抑留の発生の直近1日のフック荷重データ(赤)と、1週間以内のフック荷重データ(緑)とが、色によって識別可能に表示されている点に留意されたい(特許図面として用い得る画像に制限があり、カラー画像を用いることができない)。説明の便宜上、
図5左図における1週間以内のフック荷重データと、抑留の発生の直近1日のフック荷重データと、をそれぞれ
図6、
図7に分けて示す。
図5左図、
図6、
図7において、4600[m]付近の水平線は抑留発生深度を示している。本明細書では、現在の時刻の直近のデータを「シグナル」、直近データより前の履歴データを「ヒストリ」と称する。シグナルは、現在データを代表しており、ヒストリは、過去データを代表している。
【0060】
散布図においてシグナルとヒストリを色分けして表示することで、過去と現在の深度領域の掘削パラメタの値を重ねて比較可能となり、掘削エンジニアの知見に基づいた特徴抽出が可能となる。
図5左図(
図6+
図7)において、シグナルがヒストリの左端に現れていることが観察される。シグナルは、
図5左図における縦長矩形内で散布している。このことは、現在のフック荷重が同じ深さでの過去の記録データに比べて比較的小さいことを意味している。また、ヒストリは、抑留深さ近傍で水平状に拡がっている。掘削日報によると、抑留は、RIH作業中に4600 [m]近傍で発生した。RIH作業中の比較的小さいフック荷重が抑留予兆の一般的なパターンであると考えられる。坑内状況が悪化すると、ドリスストリングと坑井との間の摩擦が増大すると考えられるからである。また、4600 [m]近傍の散布データの水平状の拡がりは、過去数日において坑内状況が既に悪化していたことを示している。実際の深度データを見ることで、深度データは、抑留予兆の有意義な特徴を抽出していることが示される。このような深度領域における掘削パラメタの散布図は、リアルタイムでディスプレイに表示することで、掘削時の坑内状況の把握に用いることができる。
【0061】
[B-7]相対深度と掘削パラメタの2Dヒストグラム
図9のフローチャートの後半に示すように、ビット深度と各掘削パラメタの散布図に対し、縦軸・横軸のビン数を設定することで2Dヒストグラム(いわば、深度領域2Dヒストグラム)を作成可能である。2Dヒストグラムを、
図5右図、
図8、
図11~
図13に示す。これらの2Dヒストグラムは、実際にはカラー画像(RBG画像)である点に留意されたい。
図10を参照しつつ、本実施形態に係る深度領域の2Dヒストグラムの作成ステップについて説明する。本実施形態では、掘削エンジニアが注目するパラメタであるビット回転数、ドリルパイプの回転トルク、ビット深度、フック荷重、泥水注入圧の値を用いて、深度領域の2Dヒストグラムを作成する。すなわち、深度領域におけるビット回転数の2Dヒストグラム、深度領域における回転トルクの2Dヒストグラム、深度領域におけるフック荷重の2Dヒストグラム、深度領域における泥水注入圧の2Dヒストグラムを作成する。
【0062】
時点(t)直近の掘削データ(直近データ)を用いて、第1軸(縦軸):ある時点(t)の深度(Dt)に対する相対深度(ビット深度から取得)、第2軸(横軸):ビット回転数、回転トルク、フック荷重、泥水注入圧、から選択した1つのデータ、として、第1の散布データを取得する。縦軸・横軸のビン数を設定することで、第1の散布データを2Dヒストグラムへ変換して第1の2Dヒストグラム(第1のRBG値セットを備える)を作成する。
【0063】
直近データより前の掘削データ(履歴データ)を用いて、第1軸(縦軸):ある時点(t)の深度(Dt)に対する相対深度(ビット深度から取得)、第2軸(横軸):ビット回転数、回転トルク、フック荷重、泥水注入圧、から選択した1つのデータ、として、第2の散布データを取得する。縦軸・横軸のビン数を設定することで、第2の散布データを2Dヒストグラムへ変換して第2の2Dヒストグラム(第2のRBG値セットを備える)を作成する。第1のRBG値セットと第2のRBG値セットは識別可能である。
【0064】
第1の2Dヒストグラム(第1のRBG値セットを備える)と、第2の2Dヒストグラム(第2のRBG値セットを備える)と、を重ねて、重畳2Dヒストグラムを作成する(
図8右図、
図11、
図13)。深度領域で整理された掘削パラメタの値は、縦軸のビン (V)と横軸のビン (H)の数を設定することで、2Dヒストグラムに変換される。 シグナルとヒストリの両方について2Dヒストグラムを生成し、これらを新しい軸に沿って重ねることで、深度領域データは、3Dテンソル(重畳2Dヒストグラム)に変換される(
図8参照)。テンソルの全ての要素にlog(1+x)を適用することで、低頻度のビンを強調し、高頻度のビンを抑制(抑圧)している。重畳2Dヒストグラムは、画像データと同様に、CNNで処理することができ、CNNモデルへの入力データとして用いられる(
図11~
図13参照)。本明細書において、CNNモデルへの入力データをクリップ(clip)と称する場合がある点に留意されたい。
【0065】
本実施形態では、深度領域アプローチに基づいた特徴エンジニアリングによって、任意の時間のデータを一定のサイズの2Dヒストグラムに圧縮する。2Dヒストグラムにおいて、縦軸(深度領域)は、絶対値ではなく、現在のビット深度に対する相対深度である(
図12参照)。この2Dヒストグラムは、深度領域において整理された入力データとして用いることができる。深度領域のデータ分布(散布データ)を2Dヒストグラムに変換して生成したデータクリップを入力とすることで、無限長の時間データを有限サイズに変換して用いることができる。このとき捨象される時間領域の情報については、画像のRBG値を使って過去・現在という形で分けることができる。このように、深度領域アプローチの利点は、長時間に亘る情報が、所定のサイズの2Dヒストグラムに圧縮され、モデルパラメータを増やすことなく、現在の情報を同じ坑井の過去のデータと比較できることである。時間領域の情報を、現在データを代表する「シグナル」と過去データを代表する「ヒストリ」におおまかに分けて、それぞれに色情報を与えることで識別可能とし、色の違いとして画像内で表現された「シグナル」と「ヒストリ」を比較することで、抑留予兆を示すデータ特徴を強調することができる。
【0066】
3D-CNNモデルのためのデータ前処理についてまとめる。深度領域の各掘削パラメタのデータの散布図を、CNNで処理できる入力データ(クリップ)に変換する。具体的には、散布図に縦軸・横軸のビンの数を設定することで、2Dヒストグラムを作成し、これを入力データとする。深度領域の各掘削パラメタのデータは時刻歴情報が失われるが、直近データ(シグナル)とそれ以前のデータ(ヒストリ)に分けて描くことで時間方向の比較を可能にした。さらに現在時刻の近傍深度のみを抽出することで、深度方向の解像度を保ち、現在深度に対する相対深度に着目したクリップを作成する(
図12参照)。本実施形態では、直近2時間、過去7日間のデータに基づいて生成された各2Dヒストグラムを重ねた3Dクリップを3D-CNNで学習する(
図11参照)。回転数、回転トルク、フック荷重、泥水注入圧の4つの掘削パラメタそれぞれにつき3Dクリップを作成した(
図13参照)。
【0067】
本実施形態に係る特徴量エンジニアリングで採用したシグナル及びヒストリの長さ、2Dヒストグラムの空間範囲及び解像度を表4に示す。
【表4】
本実施形態では、水平方向の解像度は垂直方向の解像度よりも高く設定してあり、水平方向の偏差のより正確な情報を取得するようになっている。垂直方向の範囲は、現在のビット深度に対して設定することで、着目している深さにフォーカスしている。表4に示す値は例示であって、これらの値は、掘削エンジニアによって適宜設定ないしチューニングされ得る。
【0068】
実験例では、シグナルの長さTsは直近2時間、ヒストリThの長さは過去7日間であるが、これらの時間長は例示であって、例えば、Tsを直近1時間、あるいは、直近1日としたり、Thをもっと長く設定してもよい。Thは過去の全期間(抑留状態等の異常時を除く)であってもよい。Thは、必ずしも連続した期間である必要はなく、複数の期間の組み合わせで良い。垂直軸のビン数Vは32、水平軸のビン数Hは128であるが、これらの数は例示であって、V,Hのいずれか一方あるいは両方を変更して、2Dヒストグラムの解像度を変更してもよい。ヒストグラムの垂直軸(相対深度)のレンジは、現在のビット深度-α[m]~現在のビット深度+β[m]において、α=100、β=10であるが、α、βの値は当業者において適宜設定し得る。ヒストグラムの水平軸のレンジにおいて、実験例では、ビット回転数(TD_spd)は[0, 300] rpm、回転トルク(TD_trq)は[0, 100] kNm、フック荷重(Hookload)は[0, 500] ton、泥水注入圧(SPP_pressA)は[0, 50] MPaであるが、これらの数値も例示であり、当業者において適宜設定し得る。
【0069】
本実施形態では、4つのパラメタ、すなわち、ビット回転数(TD_spd)、回転トルク(TD_trq)、フック荷重(Hookload)、泥水注入圧(SPP_pressA)、を用い、モデルが過度に複雑化することを回避している。これらのパラメタは、掘削の異常が疑われる場合に、掘削エンジニアが、一般に調査するパラメタである。本実施形態では、上記4つのパラメタを全て用いてモデル学習を行っているが、いずれか1つ、あるいは2つないし3つの組み合わせを用いてモデル学習を行ってもよい。また、上記4つのパラメタから選択した1つ以上のパラメタに加えて上記4つのパラメタ以外のパラメタを採用してもよい。
【0070】
[B-8]3D-CNNモデル
本実施形態に係る3D-CNNモデルは、掘削エンジニアの知見に基づく特徴量エンジニアリングにより得られた深度領域データのパターン学習を行うことで、同一坑井の履歴情報を活かすことを可能とするデータ駆動型抑留予測モデルである。3D-CNNアプローチにおいて、抑留予兆は、深度データに局所的に表れると仮定され、3D-CNNモデルは、局所化された特徴を用いることで、深度領域に特徴が現れる抑留の予兆検知を実行する。
【0071】
モデルへの入力データの生成プロセスを
図13に示す。各掘削パラメタについて、シグナルとヒストリが2Dヒストグラムにそれぞれ変換され、新しい次元軸に沿って重ねることで、モデルへの入力データは、サイズ(T, P, V, H)の4Dテンソルとなる。ここで、T(time)=2(シグナルとヒストリ)、 P(掘削パラメタ)=4、V(縦軸解像度)=32、H(横軸解像度)=128である。 複数のクリップ(clip)がさらに新しい軸に沿って重ねられ、ミニバッチが形成され、したがって、3D-CNNの入力データはサイズ (B, T, P, V, H)の5Dテンソルとなる。Bは、バッチサイズ(=16)である。
【0072】
3D-CNNモデルは、入力として、4Dテンソル(シングルチャネル)ないし 5Dテンソル(マルチチャネル)を採用することができる。ここでは、マルチチャネル3D-CNNを採用して、5D-クリップをモデルに与える3D-CNN は、shape (B, P, T, V, H)のテンソルに畳み込みを適用して、後から3つの次元の特徴を抽出する。入力データは5Dなので、局所的な特徴抽出が必要な3つの次元を選択する必要がある。バッチ次元を無視し、VとHについて局所的特徴抽出が必要であり、PとTについての局所的特徴抽出が必要でないとすると、3D-CNNモデルは、(B, P, T, V, H)と(B, T, P, V, H)のいずれでも動作する。
【0073】
本実施形態では、Grad-CAM分析を考慮し、テンソルのshapeを、(B, T, P, V,H)に転置する(
図14参照)。2番目の次元は、第1層において、単一の特徴に圧縮されるので、P(掘削パラメタ次元)が2番目の次元にセットされると、最終の畳み込み層において、各掘削パラメタの寄与を分析することができない。3D-CNNモデルは、3Dカーネルを用いて、(P,V,H)軸における5Dテンソルのパターンを学習する。本実施形態に係る3D-CNNモデルのモデルアーキテクチャを表5に示す。P軸の局所特徴抽出は必要ないため、3Dカーネルは実質的には2Dカーネルである。3D-CNNを用いた目的は、3Dパターン認識というよりは、マルチパラメタのGrad-CAM分析を可能とすることにある。
【表5】
【0074】
[B-9]実験3(深度領域データを用いた実験)
多変数の3Dクリップ(4Dクリップ)を入力とし、3D-CNNモデルを用いて抑留予測を行った(
図13参照)。4Dクリップは、低頻度部分の強調、正規化処理を適用後に3D-CNNモデルに入力される。抑留直前6分間に得られた4D-clipをラベル1(positive)、それ以前のものをラベル0(negative)と分類し学習・検証を行った。モデルの出力は、入力クリップが抑留予兆である確率(0~1の連続値)である。
【0075】
[B-10]実験結果
表6は、実験で用いた6つのケースの抑留メカニズム及び抑留予兆の検知の成否を3D-CNNモデル(深度領域)と1D-CNNモデル(周波数領域)で比較して示す。抑留予兆の検知は、抑留直前6分以内における予兆検知である。各モデルは、4秒間隔で抑留リスクを計算し、すなわち、抑留前6分間で90回のアラームを発出する機会がある。抑留前6分以内に少なくとも1回のアラームが生成された場合には、予兆検知が成功したと決定する。1D-CNNモデル(周波数領域)では、6ケース中1ケースにおいてのみ抑留予兆を検知できたのに対して、3D-CNNモデル(深度領域)では、6ケース中3ケースにおいて抑留予兆を検知できた。予兆が緩やかに現れる差圧抑留は、深度データに特徴が現れやすいため深度領域のアプローチが有効であったと考えられる。この3/6という成功率から、本モデルの性能を評価できるものではない点に留意されたい。例えば、抑留の中には突然発生するものもあり、抑留予兆の検知が困難ないし不可能なものもある点に留意されたい。
【表6】
【0076】
ケース3について、1D-CNNモデルと3D-CNNモデルのリアルタイム予測を
図15に示す。ケース3では、1D-CNNモデルは抑留予兆を検知できなかったのに対して、3D-CNNモデルは抑留予兆を検知できた。3D-CNNモデルの出力において、抑留の発生(1)の30分前から抑留リスクが高い状態が続いている。3D-CNNモデルは、揚管時に抑留予兆を捉えており、抑留発生時も揚管の最中である。数時間前の作業から予兆を検知できていたと考えられる。
【0077】
学習データを用いた
図16を見ると、本実施形態では、抑留予兆の学習に用いたのは抑留直前6分間のみである(23:54より前のデータを用いていない)にもかかわらず、抑留発生の1時間前である23:00から抑留リスクが上昇を始めていることが観察される。本実施形態に係るモデルは、抑留6分前より前から徐々に表れる予兆を検知できている。
【0078】
データ駆動型抑留予測モデルを用いた抑留予測システムでは、当該モデルから出力される抑留予兆確率に基づいてアラームが生成される。実際には、アラーム生成に応じて操業の判断を下すのは人間なので、アラーム生成の原因が追跡可能であることは適切な判断を下すうえで重要である。本実施形態では、Grad-CAM(Gradient-based Class Activation Map)を用いることで、アラーム生成のベースとなった抑留予兆確率の根拠が追跡可能となっている。入力データのうち、アラーム生成のベースとなった抑留予兆確率に寄与した領域をGrad-CAMで可視化し、アラーム生成の根拠を示す。具体的には、畳み込み層により入力の特徴が抽出された特徴量マップに対し、抑留予兆確率への感度で重み付けをしたものを描画する。Grad-CAMは畳み込みを行った後のものなので入力よりも解像度は低い。
図17に示すように、フック荷重に特に強く反応しており(降管作業中)、理に適ったアラームを生成できていることがわかる。
【0079】
[C]教師無し学習モデル
実験では、教師あり学習モデルを用いて、抑留の開始直前の6分のデータセットにラベル1(positive)のラベルを与えた。抑留予兆が生じていると仮定されるこの6分間という期間は任意である。実際にどの時点で抑留予兆が始まったかを特定することは困難であり、すべての抑留予兆にラベルを与えることはできない。
【0080】
本実施形態に係る入力データ(クリップ)を用いて、negativeデータセットに着目することで、教師無し学習を行うことも可能である。すなわち、抑留予兆の特徴をよく捉える深度領域データとラベルに依存しない教師なし学習とを組み合わせることで、教師なし学習によって、正常時のパターンのみを学習し、そのパターンからの乖離で予兆検知を行う。1つの態様では、教師なし学習が対象とする正常データは、「抑留状態」と「抑留予兆が生じていると仮定した期間」を除いた期間のデータである。学習用モデルは、学習済モデルが異常データを判別して抑留リスクを提供できるように、学習用掘削データに基づいて生成された入力データであって、抑留前の一定期間内及び抑留状態を除く入力データを正常データとして学習する。1つの態様では、入力データと出力データの誤差が最小化されるような学習モデルを自己符号化器(Auto encoder)によって生成する。自己符号化器(Auto encoder)は例示であって、教師なしモデルにより正常データの特徴を学ばせることで、特徴量抽出、分類、誤差判別などの手法により異常時のデータを判別する手法であればよい。