(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】アミド化合物の水素化に用いる水素添加反応用触媒およびこれを用いたアミン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/198 20060101AFI20240516BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240516BHJP
C07C 209/50 20060101ALI20240516BHJP
C07C 211/08 20060101ALI20240516BHJP
C07C 211/17 20060101ALI20240516BHJP
C07C 211/27 20060101ALI20240516BHJP
C07C 211/29 20060101ALI20240516BHJP
C07C 211/48 20060101ALI20240516BHJP
C07C 211/52 20060101ALI20240516BHJP
C07C 213/00 20060101ALI20240516BHJP
C07C 215/44 20060101ALI20240516BHJP
C07C 217/52 20060101ALI20240516BHJP
C07D 209/44 20060101ALI20240516BHJP
C07D 221/06 20060101ALI20240516BHJP
C07D 223/04 20060101ALI20240516BHJP
C07D 265/30 20060101ALI20240516BHJP
C07D 295/027 20060101ALI20240516BHJP
C07D 295/03 20060101ALI20240516BHJP
C07D 295/22 20060101ALI20240516BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
B01J27/198 Z
B01J37/04 102
C07C209/50
C07C211/08
C07C211/17
C07C211/27
C07C211/29
C07C211/48
C07C211/52
C07C213/00
C07C215/44
C07C217/52
C07D209/44
C07D221/06
C07D223/04
C07D265/30
C07D295/027
C07D295/03
C07D295/22
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020541183
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034075
(87)【国際公開番号】W WO2020050160
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018166236
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 清臣
(72)【発明者】
【氏名】満留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】木村 未歩
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳之
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/066112(WO,A1)
【文献】特開2016-160243(JP,A)
【文献】特開2012-121843(JP,A)
【文献】宮川和也他,Ru-Vバイメタル触媒による分子状水素を用いたアミドからアミンへの高選択的還元反応,第116回触媒討論会 討論会A予稿集,日本,触媒学会,2015年,p. 136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 61/00
C07C 209/50
C07C 211/08
C07C 211/17
C07C 211/27
C07C 211/29
C07C 211/48
C07C 211/52
C07C 213/00
C07C 215/44
C07C 217/52
C07D 209/44
C07D 221/06
C07D 223/04
C07D 265/30
C07D 295/027
C07D 295/03
C07D 295/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金とバナジウムがハイドロキシアパタイトに担持された触媒であって、
白金表面がバナジウムに
20~
70%覆われたものであることを特徴とするアミド化合物の水素添加反応用触媒。
【請求項2】
アミド化合物が、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物である請求項1に記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒。
【請求項3】
白金表面がバナジウムに35~54%覆われたものである請求項1または2に記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒。
【請求項4】
アミド化合物を、請求項1
~3の何れかに記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒に接触させて水素添加し、アミン化合物を得ることを特徴とするアミン化合物の製造方法。
【請求項5】
水素添加を、100℃以下で行うものである請求項
4に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
水素添加を、5MPa以下で行うものである請求項
4または
5に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項7】
アミド化合物が、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物である請求項
4~
6の何れかに記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項8】
水素添加を液相で行うものである請求項
4~
7の何れかに記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項9】
溶媒中で、白金とバナジウムをハイドロキシアパタイトに担持させた後、これを乾燥することを特徴とする請求項1
~3の何れかに記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法。
【請求項10】
ハイドロキシアパタイトと、白金化合物およびバナジウム化合物を含有する溶媒混合液とを混合して、白金とバナジウムを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させるものである請求項
9記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法。
【請求項11】
ハイドロキシアパタイトと、白金化合物を含有する溶媒液と、バナジウム化合物を含有する溶媒液とを何れかの順序で混合して、白金とバナジウムを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させるものである請求項
9記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法。
【請求項12】
溶媒が、水である請求項
9~
11の何れかに記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド化合物をアミン化合物にする水素添加反応に用いる、白金とバナジウムを含み、ハイドロキシアパタイトに担持された触媒およびこれを用いたアミン化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アミド化合物をアミン化合物にする還元反応は、アミドが難還元性であるため、カルボン酸誘導体の還元の中で最も難しい反応の一つである。
【0003】
アミド化合物をアミン化合物にする還元反応は研究等の少量試験では水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、ジボラン(B2H6)等の強力な還元剤を化学量論的に用いる方法が一般だが、工業規模の合成に使用するには大量の金属廃棄物の発生や反応性が高いために大量に用いると水素等が発生し危険であり、後処理等の操作が煩雑であること等が問題となっていた。
【0004】
一方、分子状水素を還元剤とするアミドからアミンへの還元反応は、無害な水のみを副生するため環境調和型のアミンの合成方法である。このアミドの触媒的水素還元反応は古くから研究されており、銅-クロム、レニウムまたはニッケル触媒を用いて行われてきたが、水素圧200気圧、反応温度200℃以上等の高温高圧な反応条件を必要とする。
【0005】
近年、非特許文献1や2ではモレキュラーシーブスを反応系内に添加することで120℃、10atmまたは160℃、5atmという低温低圧条件下でのアミドの水素化が報告されている。しかし、基質適用性に乏しく、C-N開裂によるアルコールが副生してしまうという問題点があった。また、これらの触媒は再使用できない。
【0006】
また、非特許文献3で報告されている均一系触媒を用いた反応もあるが、C-N開裂によるアルコールが副生してしまうという問題点があった。また、均一系触媒を用いた反応では高価な触媒を繰り返し使用することが難しい。
【0007】
そのため、工業的に使用するためには、温和な条件下でも使用でき、高い活性を維持したまま、繰り返し使用できるような耐久性が高い触媒が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】R. Burch, C. Paun, X.-M. Cao, P. Crawford, P. Goodrich, C. Hardacre, P. Hu, L. McLaughlin, J. Sa, J. M. Thompson, Catalytic hydrogenation of tertiary amides at low temperatures and pressures using bimetallic Pt/Re-based catalysts. J. Catal. 283, 89-97 (2011)
【文献】M. Stein, B. Breit, Catalytic hydrogenation of amides to amines under mild conditions. Angew. Chem. Int. Ed. 125, 2287-2290 (2013)
【文献】E. Balaraman, B. Gnanaprakasam, L. J. W. Shimon, D. Milstein, Direct hydrogenation of amides to alcohols and amines under mild conditions. J. Am. Chem. Soc. 132, 16756-16758 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、アミド化合物をアミン化合物にする還元反応を行える触媒であって、温和な条件下でも使用でき、高い活性を維持したまま、繰り返し使用できるような耐久性も備えた触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、白金とバナジウムを含み、ハイドロキシアパタイトに担持された触媒であって、白金表面がバナジウムに特定の範囲で覆われたものが、アミド化合物に対する高い水素化活性、選択性、耐久性、反応性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、白金とバナジウムがハイドロキシアパタイトに担持された触媒であって、
白金表面がバナジウムに15~80%覆われたものであることを特徴とするアミド化合物の水素添加反応用触媒である。
【0012】
また、本発明は、アミド化合物を、上記アミド化合物の水素添加反応用触媒に接触させて水素添加し、アミン化合物を得ることを特徴とするアミン化合物の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、溶媒中で、白金とバナジウムをハイドロキシアパタイトに担持させた後、これを乾燥することを特徴とする上記アミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の触媒は、温和な条件下で使用できるため、アミド化合物からアミン化合物への合成が安全で容易になる。
【0015】
また、本発明の触媒は、製造の際に、特別な操作を必須としないため、安価で安全に製造できる。
【0016】
そのため、本発明の触媒は、アミド化合物からアミン化合物への工業的な合成に利用できる。
【0017】
また、本発明の触媒はハイドロキシアパタイトに担持されているため使用後に、ろ過によって容易に高価な白金を回収可能であり、更にこの回収された触媒は当初の活性・選択性を維持できる。
【0018】
そのため、本発明の触媒は、再利用も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の触媒Pt-V/HAPのTEM像である。
【
図2】製造例1で得られたPt-V/HAPのADF-STEM画像である。
【
図3】製造例1で得られたPt-V/HAPのCaの元素マッピング画像である。
【
図4】製造例1で得られたPt-V/HAPのVの元素マッピング画像である。
【
図5】製造例1で得られたPt-V/HAPのPtの元素マッピング画像である。
【
図6】製造例1で得られたPt-V/HAPのCa・V・Ptの元素マッピング画像を重ねたものである。
【
図7】製造例1で得られたPt-V/HAPのEDSライン分析の結果を示す図である。
【
図8】実施例5における表面被覆率と収率の関係を示す図である。
【
図9】実施例6における表面被覆率と収率の関係を示す図である。
【
図10】実施例10における反応時間と収率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアミド化合物の水素添加反応用触媒(以下、「本発明の触媒」という)は、白金とバナジウムが、ハイドロキシアパタイトに担持され、更に、白金表面がバナジウムに15~80%覆われたものである。なお、本明細書においては、本発明の触媒は、「X-Y/Z」(X、Yは白金、バナジウム等の金属名、Zはハイドロキシアパタイト)等と記載することがある。
【0021】
(白金)
本発明の触媒を構成する白金は、特に限定されないが、例えば、白金粒子が好ましい。ここで白金粒子とは、金属白金または酸化白金の少なくとも1種から選ばれる白金の粒子であり、好ましくは金属白金の粒子である。
【0022】
ここで、白金粒子は、白金を含有していれば特に制限されるものではなく、ルテニウム(Ru)やロジウム(Rh)やパラジウム(Pd)等の貴金属を少量含んでいてもよいが、好ましくは金属白金である。白金粒子は一次粒子でもよく、二次粒子であってもよい。白金粒子の平均粒子径は1~30nmが好ましく、1~10nmがより好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡で任意の数の粒子の直径を観察し、それらの直径の平均値のことをいう。
【0023】
(バナジウム)
本発明の触媒を構成するバナジウムは、特に限定されないが、例えば、バナジウム酸化物が好ましい。バナジウム酸化物としては、例えば、バナジン酸イオン(VO4
3-、VO3
3-)、五酸化バナジウム、酸化バナジウム(II)または酸化バナジウム(IV)等のうち少なくとも1種から選ばれるものであり、好ましくはV2O5である。
【0024】
(白金-バナジウム[Pt-V]のモル比)
本発明の触媒における、白金とバナジウムの組成比は、金属としての白金(Pt):金属としてのバナジウム(V)のモル数のモル数換算で、モル比[Pt:V]=1:0.1~10、好ましくは1:0.5~5、更に好ましくは1:0.8~1.2である。
【0025】
(白金-バナジウム[Pt-V]の表面被覆率)
本発明の触媒においては、白金表面がバナジウムに15~80%、好ましくは20~70%覆われたものである。本発明者らは白金表面がバナジウムに覆われているパーセンテージ(これを「表面被覆率」という)が、アミドの水素化活性に影響があることが分かった。表面被覆率(%)は下記(式1)より求められる数値である。ここで粒子径は体積基準による平均粒子径であり、EDSライン分析等により測定することができる。この表面被覆率は50%前後が最適であり白金とバナジウムが隣接することで競争的触媒作用を示し、それぞれが表面に露出することでアミドの水素化活性を示すと考えられる。
【数1】
【0026】
また、上記(式1)で求められる表面被覆率(%)は、ハイドロキシアパタイトに担持された白金への一酸化炭素(CO)吸着量を測定し、下記(式2)で求めることができる。
【数2】
【0027】
(式1)における粒子径は下記式(式3)のようにCO吸着量との相関で特定されるものである。(式3)中、比例値はPtの特定結晶格子面において占有可能なCO分子数から導かれるものであるが、(式1)においてはこの比例値は約分されているため式中には現れない。
【数3】
【0028】
上記におけるCO吸着量は、例えば、流通式化学吸着測定装置等を使用して測定することができる。流通式化学吸着測定装置は、触媒をセットしたサンプルセルにCOガスをパルス的に導入し、吸着量を測定することで、ハイドロキシアパタイト上に固定された貴金属ナノ粒子の活性表面積や粒子径を測定できる装置である。COは白金粒子表面に選択的に吸着するものであり、これにより、ハイドロキシアパタイト上に固定された白金ナノ粒子のバナジウムから露出した面積をCO吸着量として特定することができる。Pt-V/HAPにおけるPtナノ粒子の活性表面積は、Pt/HAPにおけるPtナノ粒子の活性表面積と比べて、Ptナノ粒子がVに覆われている分だけ減少する。その差を利用することで、Pt-V/HAPにおいて、Ptナノ粒子がVにどれだけ覆われているか求められる。このような流通式化学吸着測定装置としては、例えば、日本ベル株式会社、BELCAT-A等が挙げられる。この流通式化学吸着測定装置を用いてCO吸着量を測定する条件は、次の通りである。
【0029】
<測定条件>
キャリアガスはすべて流量50sccmの条件であり、前処理として、300℃で30分間Heガスを流し、次にHeガスをO2ガスに変更し300℃で15分間O2ガスを流し、次に400℃で45分間Heガスを流し、50℃まで冷却した後、10分間Heガスを流す。
前処理の後、吸着ガス組成 CO/He 10.05%、操作温度 50℃、ガス量:1パルス 100cm3でCO吸着量を測定した。
【0030】
この流通式化学吸着測定装置を用い、上記条件で、同じ量のPtを担持したPt/HAPとPt-V/HAPにおけるPtナノ粒子の活性表面積、粒子径が測定できる。これを、上記した(式1)に測定結果を代入することにより表面被覆率が求められる。
【0031】
本発明の触媒はアミド化合物の水素添加反応において優れた性能を発揮するものであるが、一方で、本発明を産業的に利用する場合には設備等に由来する反応条件の違いにより、より効果的な使用方法を選択することが望ましい場合もある。例えば、反応時の圧力や温度が著しく低い場合、触媒の表面被覆率は小さい方が望ましい場合がある。表面被覆率が小さい触媒では触媒粒子表面に露出している白金の面積が大きくなり、触媒表面における活性点が増えることになる。このように活性点の多い触媒であれば、反応の促進という点で不利な条件であっても、迅速にアミド化合物の水素添加を進行させることが期待できる。このような著しくマイルドな条件下での反応において本発明の触媒を使用する場合には、表面被覆率は15~40%であることが好ましい場合があり、15~30%であることがより好ましい場合がある。
【0032】
逆に反応時の圧力や温度が高い場合、このような場合には活性点である白金が触媒表面に大きく露出していると、炭素-炭素二重結合の水素化等、白金単独で進む反応に偏って反応が促進してしまい、本発明の目的であるアミド化合物の水素添加に対しては収率の低下を招く恐れがある。このような場合には、白金単独による反応を抑制する目的で、表面被覆率を高めに設定した触媒を使用することが望ましい場合がある。このように一般的に触媒反応を加速させてしまう条件下での反応において本発明の触媒を使用する場合には、表面被覆率は50~80%であることが好ましい場合があり、60~80%であることがより好ましい場合がある。
【0033】
(ハイドロキシアパタイト)
本発明の触媒のハイドロキシアパタイト(母材)は、特に限定されるものではないが、例えば、その吸着能はいわゆるBET値(比表面積値)をその指標として使用することができる。このようなBET値としては0.1~300m2/gであってもよく、平均粒径としては0.02~100μmであってもよい。本発明においては、ハイドロキシアパタイトの吸着能は、0.5~180m2/gであることが好ましい。
【0034】
また、ハイドロキシアパタイトの形態は、特に限定されず、例えば、粉末状、球形粒状、不定形顆粒状、円柱形ペレット状、押し出し形状、リング形状等が挙げられる。
【0035】
上記ハイドロキシアパタイトとしては、特に制限されることはなく、一般的なCa10(PO4)6(OH)2の化学量論的組成の水酸化リン酸カルシウムのみならず、この組成に類似した組成の水酸化リン酸カルシウム化合物やリン酸三カルシウム等を含む。
【0036】
本発明の触媒において、白金とバナジウムがハイドロキシアパタイトに担持される態様は、特に制限されるものではなく、ハイドロキシアパタイトの形態により、種々の態様を採ることができ、担持される位置も単純に制御されていなくてもよいし、細孔や層の内側であったり、表面のみであってもよいが、粒子径の小さな白金が分散して担持され、バナジウムは、白金の近傍または白金上に存在する方が好ましい。なお、本発明の触媒における白金とバナジウム酸化物のハイドロキシアパタイトへの担持量は、特に限定されないが、例えば、金属換算の白金の量で0.1~10wt%であることが好ましい。
【0037】
本発明の触媒は、上記したようなハイドロキシアパタイトを用いているため、反応に使用した後に分離も容易になり、触媒の再使用においても有利であることは言うまでもない。
【0038】
(触媒に追加できる成分)
本発明の触媒は、上記した白金とバナジウムがハイドロキシアパタイトに担持されていればよく、効果を損なわない範囲で、遷移金属やアルカリ金属やアルカリ土類金属などを触媒成分やハイドロキシアパタイト成分として常法に従って含有させてもよい。
【0039】
(本発明の触媒の製造方法)
本発明の触媒は、基本的に、溶媒中で、白金とバナジウムをハイドロキシアパタイトに担持させた後、これを乾燥することにより製造(以下、「本発明方法」という)できる。本発明の触媒において、白金表面がバナジウムに覆われているパーセンテージの調整は、後記する製造方法において、溶媒混合液に含まれる白金化合物およびバナジウム化合物の量や量比を調整することによりできる。
【0040】
(白金化合物、バナジウム化合物の使用量)
本発明の触媒の調製にあたって使用される白金化合物、バナジウム化合物の使用量(仕込量)は特に限定されるものでないが、白金化合物、バナジウム化合物については[金属換算のバナジウムのモル数/金属換算の白金モル数]で0.14~2.4であることが好ましく、0.3~2であることがより好ましい。
【0041】
(白金化合物、バナジウム化合物の担持量)
本発明の触媒に担持される白金、バナジウムは、担体であるハイドロキシアパタイトの単位重量あたりの担持量が少な過ぎると、白金とバナジウムの分散性が上がり過ぎ、白金表面を適切な被覆率で被覆することが難しくなる場合がある。本発明においては、[(金属換算のバナジウムのモル数+金属換算の白金モル数)/ハイドロキシアパタイトの重量]換算で、0.4~1.4mmol/gであることが好ましく、0.5~1.2mmol/gであることがより好ましい。
【0042】
具体的に本発明方法において、白金とバナジウムを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させる方法は特に限定されないが、例えば、ハイドロキシアパタイトと、白金化合物およびバナジウム化合物を含有する溶媒混合液とを混合して、白金とバナジウムを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させる方法や、ハイドロキシアパタイトと、白金化合物を含有する溶媒液と、バナジウム化合物を含有する溶媒液とを何れかの順序で混合して、白金とバナジウムを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させる方法が挙げられる。
【0043】
本発明方法に用いられる白金化合物は、特に限定されないが、好ましくは乾燥した際にハイドロキシアパタイト上で白金粒子となるものである。このような白金化合物としては、例えば、白金アセチルアセトナト(Pt(acac)2)、テトラアンミン白金(II)酢酸塩、ジニトロジアンミン白金(II)、ヘキサアンミン白金(IV)炭酸塩、ビス(ジベンザルアセトン)白金(0)等の白金錯体塩、塩化白金、硝酸白金、テトラクロロ白金酸カリウム等の塩が挙げられ、特にPt(acac)2が好ましい。
【0044】
また、本発明方法に用いられるバナジウム化合物は、特に限定されないが、好ましくは乾燥した際にハイドロキシアパタイト上でバナジウム酸化物を生じるものである。このようなバナジウム化合物としては、例えば、バナジルアセチルアセトナト(VO(acac)2)、ビス(タルトラト)ビス[オキソバナジウム(IV)]酸テトラメチルアンモニウム等のバナジウム錯体塩、バナジン(V)酸アンモニウム、ナフテン酸バナジウム等の塩が挙げられ、特にVO(acac)2が好ましい。
【0045】
本発明方法に用いられる白金化合物およびバナジウム化合物を含有する溶媒混合液は、上記白金化合物およびバナジウム化合物を、溶媒に懸濁させたものである。この溶媒混合液における白金化合物とバナジウム化合物はモル比で1:0.1~10、好ましくは1:0.5~5、更に好ましくは1:1である。また、溶媒としては、例えば、水や、アルコール、アセトン等の有機溶媒が挙げられ、水であればコスト、安全性共に優れているため好ましい。これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせてもよい。なお、溶媒の温度は特に限定されないが、例えば、0~100℃、好ましくは10~50℃である。
【0046】
上記のようにして調製した溶媒混合液は、次に、ハイドロキシアパタイトと混合すればよい。上記溶媒混合液と、ハイドロキシアパタイトを混合する方法は特に限定されないが、各成分が十分に分散する量があればよく、金属換算の白金0.1mmolに対してハイドロキシアパタイト0.1~100g、好ましくは1~10gの量で撹拌しながら行う。混合後は0.5~12時間、好ましくは1~6時間撹拌を続ける。
【0047】
また、本発明方法に用いられる白金化合物を含有する溶媒液と、バナジウム化合物を含有する溶媒液は、上記白金化合物およびバナジウム化合物を、それぞれ溶媒に懸濁させたものである。これらの溶媒液における各化合物の含有量は、これら溶媒液を混合した際に上記白金化合物およびバナジウム化合物を含有する溶媒混合液と同じになる量にすればよい。また、これらに使用する溶媒や溶媒の温度は上記溶媒混合液と同様にすればよい。
【0048】
上記のようにして調製された白金化合物を含有する溶媒液と、バナジウム化合物を含有する溶媒液は、次に、ハイドロキシアパタイトと、白金化合物を含有する溶媒液と、バナジウム化合物を含有する溶媒液とを何れかの順序で混合すればよい。ハイドロキシアパタイトと白金化合物を含有する溶媒液を混合した後にバナジウム化合物を含有する溶媒液の順序で混合すると白金化合物の上に遷移金属が担持される傾向があるためよく、白金化合物を後に混合すると高価な白金のロスが少なくなる場合があるためよい。また、上記溶媒液と、ハイドロキシアパタイトを混合する方法は、上記溶媒混合液を用いる場合と同様にすればよい。
【0049】
以上のようにして溶媒混合液とハイドロキシアパタイトを混合あるいは各溶媒液とハイドロキシアパタイトを混合して、溶媒中で、白金とバナジウムをハイドロキシアパタイトに担持させた後は乾燥させればよい。乾燥の前には、洗浄、ろ過、濃縮等の前処理をして溶媒を除去させることが好ましい。乾燥の条件は特に限定されないが、例えば、80~200℃で1~56時間乾燥させる。乾燥後は、例えば、マッフル炉等を使用して250~700℃で1~12時間焼成等することが好ましく、更に、粉砕等を行ってもよい。
【0050】
なお、本発明方法において溶媒として水を使用する場合、白金化合物としては、例えば、ヘキサクロロ白金(IV)酸(H2PtCl6)、テトラクロロ白金(II)酸塩(K2PtCl4等)等の白金塩が挙げられる。これらの中でもテトラクロロ白金(II)酸カリウム(K2PtCl4)が好ましい。また、バナジウム化合物としては、例えば、塩化バナジウム(VCl3)等のバナジウム塩や、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)、オルトバナジン(V)酸ナトリウム(Na3VO4)、メタバナジン酸カリウム(KVO3)、メタバナジン酸アンモウム(NH4VO3)等のバナジン酸塩が挙げられる。これらの中でも塩化バナジウムが好ましい。
【0051】
また、本発明方法において溶媒として水を使用する際、上記化合物が溶媒に溶解しにくい場合は、触媒性能に問題がない範囲で、pH調整剤やバインダー等を用いたり、超音波をかけたり温度を調整してもよい。pH調整剤としては水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、アンモニア、酢酸、クエン酸、炭酸、乳酸等が挙げられる。また、バインダーとしてはポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の有機化合物やシリカ等の無機化合物等が挙げられる。
【0052】
本発明の触媒は、白金とバナジウム(以下、単に「白金等」という)がハイドロキシアパタイト粒子中に均一に担持されていてもよく、ハイドロキシアパタイトの表面側に偏在して担持していてもよい。このような白金等の担持位置については、特に白金等のように高価な成分を有効に利用しようとする場合にはハイドロキシアパタイトの表面側に偏在担持させることが望ましい。ハイドロキシアパタイト表面に偏在担持させることで、反応基質と白金等とが接触する機会が増し、触媒の活性向上が期待できる。
【0053】
このようなハイドロキシアパタイト表面に白金等を偏在担持させる方法は特に限定されるものではなく、使用する触媒材料に応じて公知の手法の中から適宜選択することができる。具体的な例としては、上記白金化合物やバナジウム化合物を含有する溶媒混合液、あるいは、白金化合物を含有する溶媒液、バナジウム化合物を含有する溶媒液のpHを調整する手法、ハイドロキシアパタイト上で白金等を非水溶化(沈殿)させるために、ハイドロキシアパタイトと上記溶媒混合液や上記溶媒液を混合する前または後に、アルカリ水溶液等の非水溶化に使用する水溶液で処理して白金等を固定化する手法、上記ハイドロキシアパタイトと上記溶媒混合液や上記溶媒液を混合した後、温度や静置時間を管理し、熟成をさせる手法、本発明の触媒製造後に、更に焼成工程を追加する手法等が挙げられる。なお、上記手法においては、適宜、洗浄、乾燥等を行ってもよい。
【0054】
上記溶媒混合液や溶媒液のpHを調整する手法においては、上記したpH調整剤を用いることができ、これらを用いて溶媒混合液や溶媒液のpHをハイドロキシアパタイトへの担持がしやすいように調整すればよく、酸性よりにしても良いし、アルカリ性よりにしても良いし、中性よりにしてもよい。
【0055】
上記ハイドロキシアパタイトと溶媒混合液や溶媒液を混合する前または後に、アルカリ水溶液等の非水溶化に使用する水溶液で処理する手法においては、アルカリ性化合物を水等に溶解させたアルカリ水溶液が用いられる。アルカリ性化合物としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属の重炭酸塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のケイ酸塩、アンモニア等が挙げられる。また、この際のpHは特に限定されないが、7~14、好ましくは8~13である。
【0056】
上記非水溶化の処理に用いるアルカリ水溶液の使用量は、白金化合物やバナジウム化合物を固定化することを目的とすることから、被還元対象に対してやや過剰なアルカリ量、例えば、1.05~1.2倍になるように濃度を調整して使用することが好ましい。
【0057】
上記熟成をさせる手法において、上記ハイドロキシアパタイトと溶媒混合液や溶媒液を混合した後の温度や静置時間は適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、10~100℃で1~72時間、好ましくは30~70℃で2~24時間熟成させればよい。
【0058】
上記本発明の触媒製造後に、更に焼成工程を追加する手法においては、製造された本発明の触媒を、水素を含むガス雰囲気中で加熱還元処理を施しながら焼成すればよい。このような焼成を気相還元や水素還元ともいう。気相還元であれば還元時に介在する溶媒がなく被還元成分の移動が困難であり、白金等の粒子が凝集しづらく、白金等を小さな粒子の状態で担持させることができる。
【0059】
この焼成工程がある場合、焼成後に白金等が酸化されてしまうことがある。このような場合は還元処理を施すことが好ましい。このような還元処理には気相還元と液相還元が採用できる。気相還元は100~500℃に加熱した触媒に還元性の気体を供給して還元処理を施すものである。このような還元性の気体としては前述のような水素の他、一酸化炭素や低分子の炭化水素を使用してもよい。低分子の炭化水素としてはメタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン等も使用できる。また、気相還元の場合、気体の組成は還元成分のみからなるガスを使用してもよいが、窒素等、還元時に不活性なガスと混合して使用してもよい。
【0060】
また、液相還元は還元性の液体と触媒を混合し、80~150℃で加熱することで酸化された触媒成分を還元するものである。使用される還元成分は特に限定されるものではなく、還元条件に応じて適宜選択すればよく、例えばギ酸、ギ酸ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられる。
【0061】
斯くして得られる本発明の触媒は、白金とバナジウムがハイドロキシアパタイトに担持され、白金表面がバナジウムに15~80%覆われたものとなる。
【0062】
なお、本発明の触媒が製造できたことは、例えば、TEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)、FE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope;電界放射型走査電子顕微鏡)、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;エネルギー分散型X線分光法)等で白金とバナジウムがハイドロキシアパタイトに担持されていることを確認し、更に、表面被覆率を、上記方法で求め、上記範囲内に入っていることを確認すればよい。
【0063】
(アミド化合物の水素化)
本発明の触媒は、アミド化合物の水素添加反応用である。そのため、本発明の触媒は、アミド化合物に接触させれば、水素添加(還元)してアミン化合物を製造することができる。
【0064】
アミド化合物としては、アミド結合を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物、ラクタムまたは3級アミドにおいてN原子に結合しているカルボニルを含まない置換基の2つがお互いに連結していて環状構造を取るアミド化合物等が好ましく、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物がより好ましい。なお、本発明におけるアミド化合物にはイミド化合物を含む。
【0065】
アミド化合物に、本発明の触媒を接触させて水素添加する方法は特に限定されず、適宜選択すればよい。具体的には、オートクレーブ等の耐圧性の容器中、液相で本発明の触媒と、アミド化合物と、水素ガスを接触させることによりアミド化合物の水素添加を行えばよい。また、水素添加の際には、水を除去して反応を進行させるために、モレキュラーシーブ等を容器中に入れておいてもよい。更に、本発明の触媒は、水素添加前に還元処理を予め行っておいてもよい。
【0066】
液相は有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤は、1種単独または2種以上の混液でもよいが、1種単独が好ましい。上記で用いられる有機溶剤は、特に限定されないが、例えば、ドデカン、シクロヘキサン等の炭素原子数5~20の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の炭素原子数7~9の芳香族炭化水素、イソプロピルエーテル、プロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、オキセタン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラヒドロフラン(MeTHF)、テトラヒロドピラン(THP)、フラン、ジベンゾフラン、フラン等の鎖状構造または環状構造を有するエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル等が挙げられる。これらの中でもイソプロピルエーテル、および/またはDMEが好ましく、イソプロピルエーテルが特に好ましい。
【0067】
有機溶剤の使用量は、例えば、上記アミド化合物の濃度が0.5~2.0質量%程度となる範囲内が好ましい。また、本発明の触媒の使用量は、例えば、触媒中の白金の量を基準としてアミド化合物に対して0.0001~50モル%程度であり、0.01~20モル%程度が好ましく、0.1~5モル%程度がより好ましい。
【0068】
本発明の触媒は、温和な条件でも、円滑に水素添加反応を進行させることができる。反応温度としては、基質の種類や目的生成物の種類等に応じて適宜調整することができ、例えば、150℃以下、好ましくは10~100℃、より好ましくは20~80℃程度、特に好ましくは30~70℃程度である。反応時の圧力は、5MPa以下、好ましくは常圧~4MPa、より好ましくは2~3.5MPaである。反応時間は、反応温度および圧力に応じて適宜調整することができ、例えば10分~144時間程度、好ましくは20分~48時間程度、特に好ましくは40分~30時間程度である。
【0069】
上記した方法によりアミド化合物を水素添加してアミン化合物が得られるが、通常のクロスカップリング反応等で製造することが難しいようなアミン化合物でも本発明の方法では製造できる。具体的に、C-Nカップリングの代表例であるBuchwald-Hartwig反応では、ハロゲン化アリールと1・2級アミンをPd触媒存在下で反応させて、当該アミンのN原子に直接アリール基を結合させることができるが、N原子と芳香環の間にひとつ以上の炭素原子またはメチレン鎖を介在させることはできない。しかしながら、上記した方法では、アミンのN原子をアシル化することによって得たアミド化合物を水素化することで、結果として元のアミンのN原子にひとつ以上の炭素原子またはメチレン鎖を介在させたC-N結合を生成させることができる。このような例としては、モルホリン→4-シクロヘキシルカルボニルモルホリン→4-シクロヘキシルメチルモルホリン、ピペリジン→1-フェニルアセチルピペリジン→1-フェネチルピペリジン、ベンジルメチルアミン→ベンジルメチルフェニルアセチルアミド→ベンジルメチルフェネチルアミン等が挙げられる。
【0070】
上記した本発明の触媒を用いた、アミド化合物の水素化の好ましい態様としては、有機溶剤としてイソプロピルエーテルを用い、モレキュラーシーブ等を容器中に入れて、反応時の圧力は、4MPa以下、反応時間は10分~48時間程度、反応温度は10~150℃である。
【0071】
(触媒の再利用)
本発明の触媒は活性成分である白金がハイドロキシアパタイトに担持されているため、反応中においても担持された白金が大きな粒子になりにくい。また、本発明の触媒は、例えば、水素添加後に反応液から濾過、遠心分離等の物理的な分離手法により容易に回収することができる。回収された本発明の触媒はそのまま、あるいは、必要により、洗浄、乾燥、焼成等を施した後、再利用することができる。洗浄、乾燥、焼成等は本発明の触媒の製造の際と同様に行えばよい。
【0072】
回収された本発明の触媒は、未使用の本発明の触媒と比べ、ほぼ同等の触媒能を示すことができ、使用-再生を複数回繰り返しても、その触媒能の低下を著しく抑制することができる。そのため、本発明によれば、通常、水素添加の費用の多くの割合を占める触媒を回収し、繰り返し利用することができるため、アミド化合物の水素添加のコストを大幅に削減することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の触媒、並びに本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で広く応用が可能なものである。なお、以下の実施例において、表面被覆率はEDSライン分析で求めた粒子径、あるいは、上記した流通式化学吸着測定装置を用いて測定された、同じ量のPtを担持したPt/HAPとPt-V/HAPにおけるPtナノ粒子の活性表面積、粒子径を、上記した(式1)あるいは(式3)に代入して求めた。
【0074】
製 造 例 1
Pt-V/HAPの調製:
アセトン90mLにエヌ・イー ケムキャット社製Pt(acac)2 0.4mmolとシグマアルドリッチ社のVO(acac)2を0.4mmol加え室温で30分撹拌した。更に和光純薬社のHAP(商品名「リン酸三カルシウム」)1.0gを加えて室温で4時間撹拌した。得られた混合物から溶媒をロータリーエバポレータで除去し、淡緑色の粉末を得た。得られた粉末を110℃で終夜乾燥した。更に、乾燥した粉末をメノウ鉢で粉砕し、大気中で、2時間、300℃で焼成し、濃灰色の粉末(Pt-V/HAP)が得られた。
【0075】
上記で得られたPt-V/HAPについて種々の解析を行った。Pt-V/HAPのTEM像を
図1に、ADF-STEM画像を
図2に、Caの元素マッピング画像を
図3に、Vの元素マッピング画像を
図4に、Ptの元素マッピング画像を
図5に、Ca・V・Ptの元素マッピング画像を重ねたものを
図6に示した。これらの結果から、本発明の触媒は、白金粒子がハイドロキシアパタイトに担持され、酸化バナジウム(V
2O
5)が白金粒子の近傍または上に存在し、金属としての白金(Pt):金属としてのバナジウム(V)のモル数のモル数換算で、モル比[Pt:V]=6:7、また金属としての白金量は5.8wt%であることが分かった。また、Pt-V/HAPのEDSライン分析の結果(
図7)から、白金粒子の粒子径は2.2nmであった。また、表面被覆率は46%であった。
【0076】
実 施 例 1
製造例1で得られた触媒を、それぞれ表1の触媒量と、有機溶剤である1,2-ジメトキシエタン(DME)5mL、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.1g、そして基質であるN-アセチルモルホリン0.5mmolを50mLのステンレス製オートクレーブに加えて表1の条件で水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて2の収率を測定した。結果を表1に記した。
【0077】
【0078】
【0079】
実 施 例 2
製造例1で得られたPt-V/HAPを、それぞれ表2の触媒量と基質0.5mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.1gを50mLのステンレス製オートクレーブに加え、有機溶剤である1,2-ジメトキシエタン(DME)5mLを加えて、反応温度70℃、水素圧3MPaの下で水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて4の収率を測定した。結果を表2に記した。
【0080】
【0081】
【0082】
Pt-V/HAPは、基質が変わってもアミド化合物の水素添加反応を温和な条件下で収率よく行えることが分かった。
【0083】
実 施 例 3
触媒の再利用:
実施例1の反応後、使用したPt-V/HAPを遠心分離により分離し、有機溶剤である1,2-ジメトキシエタン(DME)で洗浄して反応系から回収した。この回収したPt-V/HAPを、再度同じ反応に使用した。結果を表3に示した。
【0084】
【0085】
Pt-V/HAPは、性能の劣化なく再利用できることがわかった。
【0086】
実 施 例 4
製造例1で得られたPt-V/HAPを、それぞれ触媒0.1gと基質0.5mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.1gを50mLのステンレス製オートクレーブに加え、有機溶剤である1,2-ジメトキシエタン(DME)5mLを加えて、表4に記載の反応温度および水素圧の下で水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて4の収率を測定した。結果を表4に記した。
【0087】
【0088】
Pt-V/HAPは、基質や水素圧や反応温度が変わってもアミド化合物の水素添加反応を温和な条件下で収率よく行えることが分かった。
【0089】
製 造 例 2
Pt量一定でV量が異なるPt-V/HAPの調製:
製造例1のVO(acac)2を0.025、0.05、0.1、0.2、0.6、0.8、1.0mmolにした以外は同様にして各バナジウム量のPt-V/HAPを得た。これらの触媒の表面被覆率を流通式化学吸着測定装置を用いて求めた。それらを表5に示した。
【0090】
【0091】
製 造 例 3
Pt:V比一定でPtとVの総量が異なるPt-V/HAPの調製:
製造例1のPt(acac)2とVO(acac)2の比率を1:1に固定し、白金とバナジウムをそれぞれ0.1、0.2、0.6、0.8、1.0mmolの同量にした以外は同様にして各金属量のPt-V/HAPを得た。これらの触媒の表面被覆率を流通式化学吸着測定装置を用いて求めた。それらを表6に示した。
【0092】
【0093】
製 造 例 4
Pt/HAPとV/HAPの混合物の調製:
(1)Pt/HAPの調製
VO(acac)2を使用しない以外は、製造例1と同様にしてPt/HAPを得た。
【0094】
(2)V/HAPの調製
Pt(acac)2を使用しない以外は、製造例1と同様にしてV/HAPを得た。
【0095】
(3)Pt/HAPとV/HAPの混合物の調製
(1)で調製したPt/HAPと(2)で調製したV/HAPを0.05または0.2mmolの等量で混合して、Pt/HAPとV/HAPの混合物を得た。これらの触媒の表面被覆率を流通式化学吸着測定装置を用いて求めた。それらを表7に示した。
【0096】
【0097】
実 施 例 5
製造例1、2で得られた各触媒について、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Åを0.1g使用し、基質に対する白金量3mol%、水素圧3MPa、温度70℃で30分間水素化反応を行った他、実施例1と同様にして反応後、ガスクロマトグラフを用いて2の収率を測定した。結果を表8に示した。また、表面被覆率と収率の関係を
図8に示した。
【0098】
【0099】
【0100】
実 施 例 6
製造例1、3、4で得られた各触媒について、実施例5と同様にして水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて2の収率を測定した。結果を表9に示した。また、表面被覆率と収率の関係を
図9に示した。
【0101】
【0102】
表8、
図8からは各金属量は異なるものの、バナジウムによる白金の被覆率には最適な範囲があることが分かった。一方、表9、
図9からは総金属量(担持濃度)は異なるものの、この場合にもバナジウムによる白金の被覆率には最適な範囲があることが分かった。
【0103】
また、白金などの触媒活性種の濃度が高い触媒は、活性種の濃度が低い触媒に比べてハイドロキシアパタイトにおける活性種の分散性が悪くなる傾向がある。活性種の分散性の悪い触媒は、活性種量が同じであっても触媒活性に劣る傾向がある。表9においては、製造例1の[PT:V=0.4:0.4]触媒に対する製造例3の[PT:V=1.0:1.0]触媒は活性種の濃度がネガティブな要素となり収率が低下している懸念がある。
【0104】
そこで、製造例1の[PT:V=0.4:0.4]触媒に対する製造例3の[PT:V=1.0:1.0]触媒について、ハイドロキシアパタイトも含めたトータルの触媒重量を同じくして、実施例5と同じ条件で収率を測定した。結果を表10に示した。
【0105】
【0106】
製造例3の触媒を使用した水素化反応では、触媒中の活性種である白金とバナジウムの量が倍以上に増えており、同じ触媒を使用した表9における評価の時に比べて収率は向上している。しかし、白金が多いにも関わらず製造例1の触媒に比べて収率が低下していることが分かった。
【0107】
実 施 例 7
製造例1で得られた触媒を0.1g、基質としてN-アセチルモルホリン0.5mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.1gを使用し、有機溶剤として表11に記載のものを使用し、基質に対する白金量6mol%、水素圧3MPa、温度70℃で、1時間水素反応を実施例1と同様にして行った。反応後にガスクロマトグラフを用いて2の収率を測定した。結果を表11に記した。
【0108】
【0109】
【0110】
この結果から、本発明の触媒を使用したアミド化合物の水素化では、有機溶剤としてイソプロピルエーテルを使用することで、アミン化合物の収率が著しく向上することが確認された。
【0111】
実 施 例 8
製造例1で得られた触媒を0.15g、有機溶剤としてイソプロピルエーテル5mL、そして基質として表12に記載のアミド化合物を0.25mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.2gを50mLのステンレス製オートクレーブに加え、基質に対する白金量18mol%、水素圧0.1MPa、表12に記載の温度で、48時間水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いてアミン化合物の収率を測定した。結果を表12に示した。
【0112】
【0113】
【0114】
この結果から、本発明の触媒を使用した水素化反応では、有機溶剤としてイソプロピルエーテルを使用することで、水素ガスの圧力が0.1MPaという大気圧と同等の低い圧力下においても高い収率でアミン化合物を得られることが確認された。
【0115】
実 施 例 9
水素ガスの圧力、反応温度、反応時間を表13に記載のものに変えた他は実施例8と同様にしてイミドの水素化を行った。反応後、アミン化合物の収率をガスクロマトグラフを用いて測定した。結果を表13に示した。
【0116】
【0117】
【0118】
この結果から、有機溶剤としてイソプロピルエーテルを使用することで、本発明の触媒はイミド化合物の水素化においても優れた転化率、収率を実現できる事が分かった。通常、イミド化合物の水素化には10MPaを超える水素ガス圧力が必要とされているが、本発明の触媒がこの様に低い圧力下でイミド化合物の水素化を促進できることが分かった。
【0119】
実 施 例 10
製造例1で得られた触媒を0.15g、基質としてN-アセチルモルホリン0.25mmol、水素圧を0.1MPa、反応温度を室温、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.2gを使用し、有機溶剤をDMEまたはイソプロピルエーテルに変更した他は実施例1と同様にして、室温で水素化反応を行った。反応時間0~48時間におけるアミ
ン化合物の収率をガスクロマトグラフを用いて測定した。結果を
図10に示した。
【0120】
この結果から、有機溶剤としてイソプロピルエーテルを使用することで、高い収率でアミン化合物を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の触媒は、種々の医薬、農薬、その他種々の工業分野において有用なアミノ化合物を温和な条件で安全に製造するのに有用である。また、本発明の触媒は、安価で安全に製造できる。
以 上