(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-15
(45)【発行日】2024-05-23
(54)【発明の名称】電池の負極材料とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240516BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240516BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240516BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240516BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240516BHJP
C25D 11/26 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/66 A
C25D11/26 302
(21)【出願番号】P 2020038639
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】呉 松竹
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190039(JP,A)
【文献】特開2000-243445(JP,A)
【文献】特開2000-243454(JP,A)
【文献】特表2001-522133(JP,A)
【文献】特開2010-114086(JP,A)
【文献】特開昭63-166149(JP,A)
【文献】ZHANG, Jing et al.,Molybdenum-Doped Titanium Dioxide and Its Superior Lithium Storage Performance,The Journal of Physical Chemistry C,米国,2014年10月14日,Vol. 118,pp. 25300-25309
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C25D 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti基板と、前記Ti基板の表面を被覆した、TiO
2及びTiNを含む多孔質複合膜と、を備え、前記複合膜の細孔中にMo化合物が含まれることを特徴とする電池の負極材料。
【請求項2】
前記Mo化合物はさらに前記複合膜上に被覆されたことを特徴とする請求項1に記載の電池の負極材料。
【請求項3】
前記Mo化合物はMoO
2とMoO
3の複合体を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電池の負極材料。
【請求項4】
前記Mo化合物は、Mo窒化物を含むことを特徴とする請求項1~3
の何れか1項に記載の電池の負極材料。
【請求項5】
前記負極材料はLIB電極材料、NIB電極材料又は硫化物イオン電池の電極材料のそれぞれの負極材料であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の電池の負極材料。
【請求項6】
Ti基板を硝酸系溶液中でアノード酸化するアノード酸化工程と、モリブデン酸アンモニウムを含む水系電解液を用いてカソード電析する電気めっき工程と、を備え、前記Ti基板表面を、TiO
2及びTiNを含む多孔質複合膜であって、前記複合膜の細孔中および膜上にMo化合物が含まれる複合膜によってめっきすることを特徴とする電池の負極材料の製造方法。
【請求項7】
前記Mo化合物は、MoO
2とMoO
3の複合体を含むことを特徴とする請求項6に記載の電池の負極材料の製造方法。
【請求項8】
前記Mo化合物は、Mo窒化物を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の電池の負極材料
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の負極材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Tiアノード酸化によって形成させたナノポーラスTiO2皮膜は大きいな表面積を持ち、例えばLiに対して1.75vs.という高い作動電位があるため、例えば次世代型高安全性LIBの負極活物質材料として期待されている。
発明者らは硝酸系電解液中でアノード酸化により、Ti板上にTiO2-TiN複合アノード酸化皮膜を作製し、バインダーと導電助剤なしのLIB負極として利用できることを明らかにしている。しかし、TiO2の理論容量は170~330mAh/gと報告され、現行の炭素系材料(理論容量372mAh/g)よりも低いため、高いエネルギー密度の例えばLIBに不向きである。
一方、現行の炭素系負極材料は、例えばLi金属との電位が僅か0.2Vであるので、充放電の際にLi金属の析出により安全性に重大の問題が存在する。ここで、Li金属に対して、TiO2の作動電位は約1.75V、MoO3は1.2Vであって、Mo酸化物の理論容量は大きい(MoO2は838mAh/g、MoO3は1117mAh/gである)。しかし、酸化物であるTiO2とMoO3は導電性に劣るので、単独で電極材料として利用できない課題がある。一方、MoO2は導電率1.1×104Ω-1m-1、窒化モリブデン(例えば)は導電率3~9×105Ω-1m-1であり、金属に匹敵する高い導電性を有するが、いずれも窒素などの還元雰囲気中に高温焼結などの方法で合成されて、低温かつ湿式法で製造することが報告されていない。また、Mo酸化物は電気めっき法で作製するのが極めて困難であって、特に、Ti材料表面にめっきはほぼ不可能であった。
特許文献1には、二酸化モリブデンに、Al、B、Nb、Ti、及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加元素を含有させたことを特徴とする活物質及びこれを用いた非水電解質二次電池が記載されている。また、特許文献2には、平均厚みが0.3mm以上の活物質層である正極及び負極を備え、負極活物質の主成分は、チタンを含む酸化物、酸化モリブデン等である蓄電装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-99522号広報
【文献】特再公表W016/1259528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
めっきがほぼ不可能であったTi材料表面に、TiO2とTiN、Mo酸化物(特にMoO2とMoO3複合化物)とMo窒化物(特にMo2N)を含んだ複合膜を被覆することにより、電池の活物質層と導電成分を一体となる複合膜の導電性を改善し、安全性と放電容量を同時に向上させて、長寿命の高温型の例えばLIB負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)Ti基板と、前記Ti基板の表面を被覆した、TiO2及びTiNを含む多孔質複合膜と、を備え、前記複合膜の細孔中および膜表面にMo化合物が含まれることを特徴とする電池の負極材料である。
(2)前記Mo化合物はさらに前記複合膜上に被覆されたことを特徴とする(1)に記載の電池の負極材料である。
(3)前記Mo化合物はMoO2とMoO3の複合体を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の電池の負極材料である。
(4)前記Mo化合物は、Mo窒化物を含むことを特徴とする(1)~(3)に記載の電池の負極材料である。
Mo窒化物としてはMo2N等がある。
(5)前記負極材料はLIB電極材料、NIB電極材料又は硫化物イオン電池の電極材料のそれぞれの負極材料であることを特徴とする(1)~(4)の何れか1つに記載の電池の負極材料である。
なお、LIBとはリチウムイオン二次電池、NIBとはNaイオン二次電池のことである。
(6)Ti基板を硝酸系溶液中でアノード酸化するアノード酸化工程と、モリブデン酸アンモニウムを含む水系電解液を用いてカソード電析するめっき工程と、を備え、前記Ti基板表面を、TiO2及びTiNを含む多孔質複合膜であって、前記複合膜の細孔中および膜上にMo化合物が含まれる複合膜によってめっきすることを特徴とする電池の負極材料の製造方法である。
(7)前記Mo化合物は、MoO2とMoO3の複合体を含むことを特徴とする(6)に記載の電池の負極材料の製造方法である。
(8)前記Mo化合物は、Mo窒化物を含むことを特徴とする(6)又は(7)に記載の電池の負極材料である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電池の活物質層としての複合膜の導電性を改善し、安全性と放電容量を同時に向上させて、長寿命の高温型の例えばLIB電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)本発明に係る、Ti基材の表面がTiO
2-TiN/M
OO
X複合膜により被覆された電池の負極材料の断面の模式図、(b)において、TiO
2-TiN複合膜がMo化合物を有さない場合の断面の模式図を、それぞれ示した図である。
【
図2】(a)~(c)Ti基材の表面をTiO
2-TiN/M
OO
X複合膜により被覆する作製プロセスを示した図である。
【
図3】チタニアアノード酸化皮膜の表面形態に対するFE-SEM測定であって、(a)(b)アノード酸化を硝酸と硝酸アンモニウム溶液で行ったもの(作製例1)、(c)(d)アノード酸化を純硝酸溶液で行ったもの(作製例2-比較例1)を、それぞれ示した図である。
【
図4】チタニアアノード酸化皮膜化学結合状態帯に対するXPS測定であって、(a)(b)アノード酸化を硝酸と硝酸アンモニウム溶液で行ったもの(作製例1)、(c)(d)アノード酸化を純硝酸溶液で行ったもの(作製例2-比較例1)を、それぞれ示した図である。
【
図5】Mo電析直後(実施例1)の複合膜の表面形態に対するFE-SEMによる観察結果であって、(a)緻密な複合膜の亀裂部分、(b)緻密膜の下の中央のフレーム部分の拡大像、それぞれ示したFE-SEM画像である。
【
図6】Mo電析後(実施例1)の表面形態に対するFE-SEM観察ならびにEDS測定であって、(a)低倍率の全体画像、(b)(a)の中心部(フレームに参照)を拡大した画像、(c)(a)の全面EDS分析のスペクトルを、それぞれ示した図である。
【
図7】Mo電析後の表面形態に対するFE-SEM観察であって、(a)実施例1(加熱前のもの)、(b)実施例2(加熱後のもの)を、それぞれ示した図である。
【
図8】Mo電析後の表面形態に対するFE-SEM観察であって、(a)実施例1(加熱前)、(b)実施例2(加熱後)、(c)実施例3(加熱前)、(d)実施例4(加熱後)を、それぞれ示した表面FE-SEM写真である。
【
図9】加熱150℃のときのMoめっき膜(実施例5)について、(a)めっき膜の大きな凝集粒子を示すために×20000、(b)めっき膜における微細の結晶粒子を示すために×50000を、それぞれ示した表面FE-SEM写真である。
【
図10】加熱250℃のときのMoめっき膜(実施例6)について、(a)×20000、(b)×50000を、それぞれ示した破断面のFE-SEM写真である。
【
図11】加熱250℃のときのTiO
2-TiN/Mo酸化物複合皮膜(実施例7)について、(a)×20000、(b)×50000を、それぞれ示した表面のFE-SEM写真である。
【
図12】実施例7に対して電析後のTiO
2-TiN/Mo酸化物複合皮膜の化学結合状態についてのXPS測定であって、(a)Mo3dのスペクトル、(b)Ti2pのスペクトルを、それぞれ示した図である。
【
図13】実施例1に対して電析後のTiO
2-TiN/Mo酸化物複合皮膜および市販の窒化モリブデン(Mo
2N)の化学結合状態についてのXPS測定であって、それぞれ、アルゴンイオン(Ar
+)スパッタリング15minおよび30sec後の(a)Mo3dのスペクトル、(b)N1sのスペクトルを、それぞれ示した図である。
【
図14】実施例1のTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜に対して膜の深さ方向の元素分析結果を示すGD-OES測定結果を示した図である。
【
図15】実施例6の250℃で加熱したTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜に対するサイクリックボルタンメトリー(CV)測定であって、掃引速度が0.1mV/sで測定した結果を示した図である。
【
図16】実施例6の250℃で加熱したTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜に対して、10μA/cm
2で定電流充放電試験における充放電曲線を示した図である。
【
図17】実施例6の250℃で加熱したTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜に対して、10μA/cm
2での充電容量および放電容量のサイクル特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
図1(a)には、Ti基板(板)2と、Ti基板2の表面を被覆した、TiO
2及びTiNを含む複合膜(以下、「TiO
2-TiN複合膜」)と言う場合がある)3と、を備え、TiO
2-TiN複合膜3が有する細孔6中に、Mo化合物(M
OO
XとMo
2N)4が含まれた電池の負極材料1の断面模式図を示した。
Mo化合物4を含むTiO
2-TiN複合膜3を、「TiO
2-TiN/M
OO
X複合膜」5と言う場合がある(「M
OO
X複合膜」すなわちMo酸化物複合膜とは、M
OO
Xを含み、さらにMo
2Nを含みうる)。Mo化合物はさらにTiO
2-TiN複合膜3上に被覆されたMo化合物(M
OO
X複合膜)4´を含んでもよい。また、TiO
2-TiN複合膜3上には緻密な膜状のM
OO
X複合膜7が覆われてもよい。
同(b)には(a)において、Mo電析前の多孔質TiO
2-TiN複合膜3がMo化合物を充填していない場合の負極材料8の断面の模式図を示した。
図2に示すように、試験片としてTi箔(Ti純度99.5%、厚0.2mm、20×50mm)を用い、(a)前処理工程、(b)アノード酸化工程によりTi箔上にTiO
2-TiN皮膜が形成された負極材料8、その後に(c)カソード電析工程によりTiO
2-TiN皮膜の細孔中と膜表面にM
OO
X複合酸化物を形成して作製したTiO
2-TiN/M
OO
X複合膜の負極材料1を作製した(TiO
2-TiN皮膜はTiO
2-TiN複合膜と同じ意味である)。
工程(a)では、前処理として、脱脂処理にアセトンで洗浄を行い、酸化膜除去に例えば30vol%硝酸溶液に10分間浸漬した。工程(b)では、例えば5℃の第1の電解液(0.12~0.24M HNO
3溶液)中で電流約0.1~0.5A、90分間のアノード酸化を行った。工程(c)では、例えば5℃の第2の電解液(0.01~1.0M (NH
4)
6Mo
7O
24水溶液)中で電流密度0.1~0.5A、電解時間5~10分間のモリブデン電析(カソード電析)を行った。なお、工程(b)と(c)にはいずれも対極にはグラファイト板を用いた。
【実施例】
【0009】
(チタンのアノード酸化)
図3は、チタニアアノード酸化皮膜の表面形態に対するFE-SEM観察であって、アノード酸化に使用した処理液が、同(a)、(b)では硝酸と硝酸アンモニウム溶液で行ったものであり(作製例1)、その条件は0.24M硝酸と0.24M硝酸アンモニウの混合水溶液であった。同(c)、(d)では処理液が純硝酸溶液で行ったものであり(作製例2-比較例1)、その条件は0.24M硝酸水溶液であった。
(a)、(b)では崩れたナノポーラスやひび割れた隆起物が観察された。(c)、(d)では表面にナノポーラスや内部に縦方向に成長する細孔が確認された。したがって、電解液によってアノード酸化皮膜の多孔質構造が変わることが分かった。
図4は、チタニアアノード酸化皮膜化学結合状態帯に対するXPS測定であって、同(a)、(b)には、アノード酸化を硝酸と硝酸アンモニウム溶液で行ったものすなわち作製例1、同(c)(d)には、アノード酸化を純硝酸溶液で行ったものすなわち作製例2(比較例1)を、それぞれ示した。(a)、(c)に示したように、Ti2pについて皮膜全体にTiO
2のピーク、皮膜内部にはTiNの肩ピークが観察され、一方、(b)、(d)に示したように、N1sについて被膜内部に窒化物(TiN)のピークが観察された。その結果、被膜内部へのTiO
2とTiNが同時に生成されたことが分かった。
(モリブデン電析)
作製例2のTiO
2-TiN複合膜を備えたTi基板に対して、モリブデン電析の条件及びモリブデン電析後の乾燥条件を次のようにして、TiO
2-TiN/M
OO
X複合膜を備えた負極材料を作製した(実施例1~7)。モリブデン電析の条件は電流密度、電解時間、第2の電解液の温度であり、乾燥は加熱することにより行い、その加熱時間は1時間であった。また、加熱前とは室温で乾燥したことを意味する。
電流密度0.2A/dm
2、電解時間10min、第2の電解液の温度20℃、加熱前(実施例1)、電流密度0.2A/dm
2、電解時間10min、第2の電解液の温度20℃、加熱150℃(実施例2)、電流密度0.2A/dm
2、電解時間5min、第2の電解液の温度20℃、加熱前(実施例3)、電流密度0.2A/dm
2、電解時間5min、第2の電解液の温度20℃、加熱250℃(実施例4)、電流密度0.5A/dm
2、電解時間5min、第2の電解液の温度20℃、加熱150℃(実施例5)、電流密度0.5A/dm
2、電解時間5min、第2の電解液の温度20℃、加熱250℃(実施例6)、電流密度0.5A/dm
2、電解時間2min、第2の電解液の温度20℃、加熱前(実施例7)。また、作製例2のTi基板上形成されたTiO
2-TiN複合膜は、モリブデン電析前の負極材料2として、充放電試験の比較例1とした。
(FE-SEM観察)
図5は、Mo電析直後(実施例1)の複合膜の表面形態に対するFE-SEMによる観察結果であって、(a)緻密な複合膜の亀裂部分、(b)緻密膜の下の中央のフレーム部分の拡大像、それぞれ示したFE-SEM画像である。Moの層のひびの部分の下の層にポーラス膜9の存在を確認することができた。また、ポーラス膜9に形成された細孔10の細孔径は、約30~80nmであった。
図6は、Mo電析後(実施例1)の表面形態に対するFE-SEM観察ならびにEDS測定であって、(a)低倍率の全体画像、(b)(a)の中心部(フレームに参照)を拡大した画像、(c)(a)の全面EDS分析のスペクトルを、それぞれ示した図である。(c)Moの層にはひび11が入り、皮膜表面全体に粒子状のMo系物質(Mo酸化物)12が析出し層を形成していることが分かった。
(FE-SEM(EDS)測定)
図7は、Mo電析後の表面形態に対するFE-SEM観察であって、(a)実施例1(加熱前のもの)、(b)実施例2(加熱後のもの)を、それぞれ示した図である。それぞれの複合膜に対するEDS測定から、O、Ti及びMoが検出され、それぞれの膜の化学組成に関して半定量分析を行い、質量%、質量%の変動範囲(σ)、原子数濃度%を求め、実施例1については表1に、実施例2については表2にまとめた。加熱の結果、酸素の原子数濃度が少し減少したが分析場所による誤差範囲になり、電析後加熱前にもTiとMoは全て酸化物として存在していたことが分かった。
なお、FE-SEM(EDS)の測定条件は次のようであった。機器名:日本電子(JSM-7800F)、3~7keV、測定領域はx1000の倍率で全領域に対する測定することにした。
【0010】
【0011】
【0012】
図8は、Mo電析後の表面形態に対するFE-SEM観察であって、(a)実施例1(加熱前)、(b)実施例2(加熱後)、(c)実施例3(加熱前)、(d)実施例4(加熱後)を、それぞれ示した表面FE-SEM写真である。
(a)、(b)、(c)又は(d)から、Mo系物質(Mo酸化物)の粒径の直径は、それぞれ5~9μm、2~5μm、1~3μm又は0.3~1μmであり、加熱後に複合のひび割れが細かくなることが分かった。これは加熱中にTi金属基板と複合酸化膜との熱膨張係数の差によるものと思われる。
図9は、加熱150℃のときのMoめっき膜(実施例5)について、(a)めっき膜の大きな凝集粒子を示すために×20000、(b)めっき膜における微細の結晶粒子を示すために×50000を、それぞれ示した表面FE-SEM写真である。(b)に示したように、M
OO
Xめっき膜に微細な結晶粒子を観察することができた。
図10は、加熱250℃のときのMoめっき膜(実施例6)について、(a)×20000、(b)×50000を、それぞれ示した破断面のFE-SEM写真である。(a)に示したように、Ti基板上に多孔質TiO
2-TiN複合膜にM
OO
X充填した部分およびその上に細孔から溢れた緻密なM
OO
X酸化膜を形成したことが観察された。
図11には、加熱250℃のときのTiO
2-TiN/Mo酸化物複合皮膜(実施例7)について、(a)×20000、(b)×50000を、それぞれ示した表面のFE-SEM写真である。(a)(b)から、電析時の電流密度と電析時間を調整することにより、ナノポーラスTiO
2-TiN皮膜に、ひび割れがない連続なMoOxめっき膜の形成が可能であることが分かった。
図12は、実施例7に対して電析後のTiO
2-TiN/Mo酸化物複合皮膜の化学結合状態についてのXPS測定であって、(a)Mo3dのスペクトル、(b)Ti2pのスペクトルを、それぞれ示した図である。(a)から、TiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜の最表面にMoO
3、内部にMoO
2とMoO
3複合化物がそれぞれ同時に存在していることが確認できた。また、(b)から、TiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜の表面と内部にもTiO
2が検出され、Ti酸化物とMo酸化物が共存していることが確認できた。
また、
図13は、実施例1に対して電析後のTiO
2-TiN/Mo酸化物複合皮膜および市販の窒化モリブデン(Mo
2N)の化学結合状態についてのXPS測定であって、それぞれ、Ar
+スパッタリング15minおよび30sec後の(a)Mo3dのスペクトル、(b)N1sのスペクトルを、それぞれ示した図である。(a)から、Mo酸化物複合皮膜の内部にはMoO
2のほかに、Mo窒化物であるMo
2Nも含まれる可能性があると示唆された。また、(b)から、Mo酸化物複合皮膜の内部にMo
2Nが生成したことが明らかになった。
図14には、実施例1のTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜に対して膜の深さ方向の元素分析結果を示すGD-OES測定結果を示した図である。その膜の深さ方向の元素分布プロファイルから、表面付近部分は主にモリブデンMoと酸素Oが検出されたので、TiO
2-TiN皮膜の細孔から溢れたMo酸化物層に当たる推察される。またスパッタ時間に進めると、MoとO、Tiが検出されたため、TiO
2-TiN皮膜内部にもMo酸化物の析出が明らかになった。
なお、GD-OESの測定条件は次のようであった。機種名:グロー放電発光表面分析装置(GD-OES、堀場GD-profiler 2-MN),測定面積:直径8mm.ガスフロー:窒素ガスであった。
(電気化学的特性評価)
LIB電極材料としての特性を評価するために、前述の加熱後のTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜を作用極とし,対極にLi箔、電解液に1M LiPF
6/EC+EMC+DMC(1:1:1vol%)を用いて半電池セルを組立て,サイクリックボルタンメトリー(CV)、電気化学インピーダンス測定および定電流充放電試験を行った。
図15は、実施例6の250℃で加熱したTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜に対するサイクリックボルタンメトリー(CV)測定であって、掃引速度が0.1mV/secで測定した結果を示した図である。そのCV測定試験は次のようにして行った。IVIUM TECHNOLOGIES COMPACTSTAT.h BB32190を用いて室温下25℃、0.1V~3Vまでの範囲で測定した。
【0013】
そのCV曲線から、[1]、[2]と[3]に示す反応ピークが現れた。ピーク[1]は下記の反応式(1)に示すように、MoO
2へのLi
+挿入・脱挿入によるコンバージョン反応、ピーク[2]は反応式(2)に示すようにTiO
2へのLi
+挿入・脱挿入反応、ピーク[3]は反応式(3)に示すようにMoO
3へのLi
+挿入・脱挿入によるコンバージョン反応に寄与するものである。すなわち、複合膜におけるTiO
2とMoO
2,MoO
3は全てリチウムイオン電池の活物質として作用することがわかった。また、複合酸化膜には導電助剤なしでもCV測定できることは、複合膜に導電性成分が含まれていることに示唆される。ここでは、MoO
2は1.1×10
4Ω
-1m
-1の高い導電率を持つため、導電性成分として働いたと考えられる。
【0014】
(定電流充放電試験、サイクル特性)
図16には、実施例6の250℃で加熱したTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜(負極材料1)に対して、10μA/cm
2で定電流充放電試験における充放電曲線を示した図である。
充放電試験は北斗電工製充放電装置を利用し、測定電流密度10A/cm
2、0.1~3.01Vで15サイクル行った。
初期での放電容量は約1127μAh/cm
2であり、15サイクル後でも約1000μAh/cm
2の高い放電容量を示し、約90%の容量保持率が得られた。これに対して,Mo電析前のTiO
2-TiN複合アノード酸化皮膜(作製例2-比較例1;負極材料2)は、初期の放電容量がわずか約225μAh/cm
2であり、15サイクル後の放電容量は約127μAh/cm
2となり、容量保持率は約56%であった。すなわち、理論容量の高いMo系酸化物をTiO
2-TiN複合皮膜への導入することにより、放電容量を約900μAh/cm
2増加し、放電容量が大幅に向上するとともに、サイクル特性も顕著に改善された。
図17には、実施例6の250℃で加熱したTiO
2-TiN/Mo酸化物複合膜に対して、10μA/cm
2で充放電試験におけるサイクルごとでまとめた充電容量および放電容量を示した図である。
また、サイクルごとの充電容量(μAhcm
-2)、放電容量(μAhcm
-2)及電流効率(%)を求めて表3に示した。表3から次のことが分かった。1サイクル~7サイクルまで電流効率は90%を超えていた。また、TiO
2-TiN/MoOxの最大容量は1218.6μAhcm
-2であることから、高い充電容量でありかつ高い電流効率であることが分かった。
【0015】
【0016】
上記のような性能を有するTiO2-TiN/MOOX複合膜、特にMOOXがMoO2とMoO3複合化物である場合には、MoO2とMoO3はいずれ高い理論容量を有し、MoO2が金属材料に匹敵する高い導電率を持つため、電気を貯蔵する活物質と電気を伝導する導電材料を一体化になり、従来の負極材料には必須となる導電助剤や接着剤などが不要なので、高エネルギー密度のLIB電極材料の負極材料として利用することができる。また、単にLiイオンだけではなく、Naイオンとも反応することから、NIB(Naイオン二次電池)電極材料の負極材料として利用することができる。さらに、MOと硫黄(S)とを反応しやすく、固体潤滑剤である二硫化モリブデン(MoS2)を生成することから、硫化物イオン電池の電極材料の負極材料として利用することも可能できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の比率がさらに高まると予想され、非常時用の大型蓄電池、車載用および航空機用の二次電池の高性能化、高安全性と長寿命化を実現しうる例えばLIB負極構造として本発明のニーズは高い。
【符号の説明】
【0018】
1:負極材料1
2:Ti基板(板)
3:TiO2-TiN複合膜
4、4´:粒子状のMo酸化物(MOOX)
5:TiO2-TiN/MOOX複合膜
6:細孔
7:緻密膜状のMo酸化物
8:負極材料2
9:緻密なMo酸化物膜下のTiO2-TiN皮膜
10:多孔質TiO2-TiN複合膜の細孔部分
11:緻密なMo酸化物膜のひび割れ部分
12:凝集粒子状のMo系物質(Mo酸化物)